説明

カルボン酸の合成方法

【課題】 高純度で所望の化合物を得ることができ、使用する溶媒を適切に選択することで、後処理も容易な生産適性の高いカルボン酸の合成方法を提供すること。
【解決手段】 下記一般式(I)に表されるカルボン酸の合成方法において、対応するフェノール類またはチオフェノール類、4−ブチロラクトン、反応溶媒及び塩基を反応容器に順次加え、100℃以上150℃未満の反応温度で反応させることを特徴とするカルボン酸の合成方法。
【化1】


(一般式(I)において、Rは水素原子または置換基を表す。nは1から5の整数を表す。AはOまたはSを表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボン酸の合成方法、より具体的にはγ−フェノキシまたはγ−チオフェノキシ酪酸の合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルボン酸化合物、特にフェノール類と4−ブチロラクトンから得られるカルボン酸は、合成中間体や写真用カプラーの原材料として広く用いられている。一般的にこれらの合成法は塩基存在下で4−ブチロラクトンの開環を伴う求核置換反応であり、古くから公知である。
【0003】
その中で最も一般的なのは塩基存在下での溶媒存在下、または無溶媒での反応であり、工業的にも利用されている。溶媒存在下での反応は1,2−ジクロロベンゼンを用いた反応(例えば、非特許文献1参照。)の場合、反応温度が150℃以上と高く、また使用するフェノールの性質及び生成するカルボン酸の塩の性質如何によって、基質が溶媒から分離し反応率が低くなるなどの問題があった。更にこれらの溶媒は高沸点で親水性が極めて低いため、後処理時の除去が難しく工程適性上問題があった。
【0004】
また親水性の溶媒、特に直鎖アルコール類を用いた場合(例えば、特許文献1参照。)などは、160℃以上の高温を要する必要があり、大量に生産する場合などには工程適性上問題があった。
【0005】
更に無溶媒の反応(例えば、特許文献2及び非特許文献2参照。)においては、190℃もの高温、長時間を要する場合があり、使用するフェノールの性質及び生成するカルボン酸の塩の性質如何によって、反応生成物が固化し、攪拌が不可能になるなど工程適性上の問題が存在していた。
【0006】
更に反応系内にDMFを共存させる方法(例えば、非特許文献3参照。)が記載されている。しかしながら、この場合も依然として反応温度が150〜155℃と高く、基質如何によっては反応率が不充分であり、また反応終了時のハンドリング及び生成物の着色性等の問題が存在していた。
【0007】
以上のような問題点から、汎用性の高いカルボン酸の合成方法が望まれているのが現状であった。
【特許文献1】米国特許第2,866,816号明細書
【特許文献2】米国特許第2,772,162号明細書
【非特許文献1】Med.Chem.Lett.;14;10;2004;2451〜2458
【非特許文献2】J.Org.Chem.;64;10;1999;3783〜3786
【非特許文献3】J.Org.Chem.USSR;6;1970;2274〜2276
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、高純度で所望の化合物を得ることができ、使用する溶媒を適切に選択することで、後処理も容易な生産適性の高いカルボン酸の合成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記課題は、下記構成により達成された。
【0010】
(請求項1)
下記一般式(I)に表されるカルボン酸の合成方法において、対応するフェノール類またはチオフェノール類、4−ブチロラクトン、反応溶媒及び塩基を反応容器に順次加え、100℃以上150℃未満の反応温度で反応させることを特徴とするカルボン酸の合成方法。
【0011】
【化1】

【0012】
(一般式(I)において、Rは水素原子または置換基を表す。nは1から5の整数を表す。AはOまたはSを表す。)
(請求項2)
前記塩基がナトリウムメトキシドであり、メタノールを留去しながら反応させることを特徴とする請求項1に記載のカルボン酸の合成方法。
【0013】
(請求項3)
前記反応溶媒の水に対する溶解性が10質量%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のカルボン酸の合成方法。
【0014】
(請求項4)
前記反応溶媒の沸点が100℃以上200℃未満であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のカルボン酸の合成方法。
【0015】
(請求項5)
前記反応溶媒がエチレングリコールモノエチルエーテルまたはエチレングリコールモノブチルエーテルであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のカルボン酸の合成方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によって、高純度で所望の化合物を得ることができ、使用する溶媒を適切に選択することで、後処理も容易な生産適性の高いカルボン酸の合成方法を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の内容を詳細に説明する。
【0018】
前記一般式(I)のカルボン酸は、下記のスキームで合成される。
【0019】
【化2】

【0020】
一般式(I)のカルボン酸、及び上記合成スキームで表されるフェノール類またはチオフェノール類において、Rは水素原子または置換基を表し、置換基の例としては、直鎖あるいは分岐のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、iso−プロピル基、tert−ブチル基、tert−アミル基、n−ドデシル基、1−ヘキシルノニル基等)、シクロアルキル基(例えば、シクロプロピル基、シクロヘキシル基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル基、アダマンチル基等)、及びアルケニル基(例えば、2−プロピレン基、オレイル基等)、アリール基(例えば、フェニル基、オルト−トリル基、オルト−アニシル基、1−ナフチル基、9−アントラニル基等)、複素環基(例えば、2−テトラヒドロフリル基、2−チオフェニル基、4−イミダゾリル基、2−ピリジル基等)、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等)、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシル基、カルボニル基(例えば、アセチル基、トリフルオロアセチル基、ピバロイル基等のアルキルカルボニル基、ベンゾイル基、ペンタフルオロベンゾイル基、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンゾイル基等のアリールカルボニル基等)、オキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基、シクロヘキシルオキシカルボニル基、n−ドデシルオキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基、2,4−ジ−tert−アミルフェノキシカルボニル基、1−ナフチルオキシカルボニル基等のアリールオキシカルボニル基、2−ピリジルオキシカルボニル基、1−フェニルピラゾリル−5−オキシカルボニル基などの複素環オキシカルボニル基等)、カルバモイル基(例えば、ジメチルカルバモイル基、4−(2,4−ジ−tert−アミルフェノキシ)ブチルアミノカルボニル基等のアルキルカルバモイル基、フェニルカルバモイル基、1−ナフチルカルバモイル基等のアリールカルバモイル基等)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、2−エトキシエトキシ基等)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基、2,4−ジ−tert−アミルフェノキシ基、4−(4−ヒドロキシフェニルスルホニル)フェノキシ基等)、複素環オキシ基(例えば、4−ピリジルオキシ基、2−ヘキサヒドロピラニルオキシ基等)、カルボニルオキシ基(例えば、アセチルオキシ基、トリフルオロアセチルオキシ基、ピバロイルオキシ基等のアルキルカルボニルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、ペンタフルオロベンゾイルオキシ基等のアリールオキシ基等)、ウレタン基(例えば、N,N−ジメチルウレタン基等のアルキルウレタン基、N−フェニルウレタン基、N−(p−シアノフェニル)ウレタン基等のアリールウレタン基等)、スルホニルオキシ基(例えば、メタンスルホニルオキシ基、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基、n−ドデカンスルホニルオキシ基等のアルキルスルホニルオキシ基、ベンゼンスルホニルオキシ基、p−トルエンスルホニルオキシ基等のアリールスルホニルオキシ基等)、アミノ基(例えば、ジメチルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基、n−ドデシルアミノ基等のアルキルアミノ基、アニリノ基、p−tert−オクチルアニリノ基等のアリールアミノ基等)、スルホニルアミノ基(例えば、メタンスルホニルアミノ基、ヘプタフルオロプロパンスルホニルアミノ基、n−ヘキサデシルスルホニルアミノ基等のアルキルスルホニルアミノ基、p−トルエンスルホニルアミノ基、ペンタフルオロベンゼンスルホニルアミノ等のアリールスルホニルアミノ基等)、スルファモイルアミノ基(例えば、N,N−ジメチルスルファモイルアミノ基等のアルキルスルファモイルアミノ基、N−フェニルスルファモイルアミノ基等のアリールスルファモイルアミノ基等)、アシルアミノ基(例えば、アセチルアミノ基、ミリストイルアミノ基等のアルキルカルボニルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等アリールカルボニルアミノ基等)、ウレイド基(例えば、N,N−ジメチルアミノウレイド基等のアルキルウレイド基、N−フェニルウレイド基、N−(p−シアノフェニル)ウレイド基等のアリールウレイド基等)、スルホニル基(例えば、メタンスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基等のアルキルスルホニル基、及びp−トルエンスルホニル基等のアリールスルホニル基等)、スルファモイル基(例えば、ジメチルスルファモイル基、4−(2,4−ジ−tert−アミルフェノキシ)ブチルアミノスルホニル基等のアルキルスルファモイル基、フェニルスルファモイル基等のアリールスルファモイル基等)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基、tert−オクチルチオ基等)、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ基等)、及び複素環チオ基(例えば、1−フェニルテトラゾール−5−チオ基、5−メチル−1,3,4−オキサジアゾール−2−チオ基等)等、アルキニル基(例えば、1−プロピン、2−ブチン、1−ヘキシン等)が挙げられる。
【0021】
nは1から5の整数を表し、複数のRが存在する場合各々は同一でもよく、また異なっていてもよい。更にR同士が結合して5員または6員環を形成してもよい。AはOまたはSを表す。
【0022】
次に本発明のカルボン酸の合成方法について詳細を示す。本発明のカルボン酸の合成方法は、塩基存在下でフェノール類またはチオフェノール類による4−ブチロラクトンの開環を伴う求核置換反応である。
【0023】
本発明のカルボン酸の合成方法に使用するフェノール類は上記で説明されているが、更に具体的にはフェノール、アルキル置換フェノール(例えば、クレゾール類、キシレノール類、p−エチルフェノール、p−オクチルフェノール、p−クミルフェノール、o−ベンジルフェノール、p−tert−アミルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、2−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,4−ジ−tert−ブチルフェノール、3,5−ジ−tert−ブチルフェノール、ドデシルフェノール、p−メトキシエチルフェノール等)、アルコキシ、アリールオキシ置換フェノール(例えば、グアヤコール、4−エトキシフェノール、4−n−ブトキシフェノール、4−n−アミルオキシフェノール、4−ヒドロキシ−3−tert−ブチルアニソール、p−ベンジルオキシフェノール、2,5−ビス(1,1ジメチルブチル)−4−メトキシフェノール、2−クロロ−4−メトキシフェノール、3,5−ジ−tert−ブチル4−メトキシフェノール、4−フェノキシフェノール、4−(トリフルオロメトキシ)フェノール、4−メトキシ−2−ニトロフェノール、2−アセチル−4−メトキシフェノール等)、ハロゲン置換フェノール(例えば、4−クロロフェノール、2,4−ジクロロフェノール、3,4−ジクロロフェノール、2,4,6−トリクロロフェノール、4−クロロ−o−クレゾール、4−クロロ−m−クレゾール、4−クロロ−3,5−ジメチルフェノール、クロロチモール、4−クロロ−3−ニトロフェノール、4,6−ジクロロ−o−クレゾール、4−クロロ−6−ニトロ−m−クレゾール、2−ベンジル−4−クロロフェノール、4−フルオロフェノール、4−ブロモフェノール、4−ブロモ−2−クロロフェノール、4−ブロモ−2−フルオロフェノール、4−ブロモ−2,6−ジメチルフェノール、4−ブロモ−3、5−ジメチルフェノール、4−ブロモ−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、4−ヨードフェノール、3−ヨードフェノール、2,4,6−ヨードフェノール等)、ニトロまたはシアノ置換フェノール(例えば、4−ニトロフェノール、4−ニトロ−m−クレゾール、4−ニトロ−o−クレゾール、3−フルオロ−4−ニトロフェノール、2,4−ジニトロフェノール、2,6−ジメチル−4−ニトロフェノール、2,3−ジメチル−4−ニトロフェノール、4−シアノフェノール等)、アミドもしくはカルバモイル置換フェノール(例えば、N−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンズアミド、N−iso−プロピル−4−ヒドロキシベンズアミド、N−メチル−4−ヒドロキシベンズアミド、N−(4−ヒドロキシフェニル)−2,2−ジメチルプロピオンアミド、N−(4−ヒドロキシフェニル)−イソブチルアミド等)、アルキルチオ基またはアルキルスルホニル基置換フェノール類、スルホンアミド置換フェノール類、アルキルアミノ置換フェノール類、複素環置換フェノール、カテコール類、ナフトール類が挙げられる。
【0024】
本発明のカルボン酸の合成方法に使用するチオフェノール類も上記で説明されているが、更に具体的にはチオフェノール、アルキル置換チオフェノール(例えば、4−tert−ブチルチオフェノール、チオキシレノール類、p−トルエンチオール、5−tert−ブチル−2−メチルチオフェノール、m−トルエンチオール、o−トルエンチオール等)、アルコキシ置換チオフェノール(例えば、4−メトキシベンゼンチオール、3−メトキシベンゼンチオール等)、ハロゲン置換チオフェノール(例えば、3−フルオロベンゼンチオール、4−フルオロベンゼンチオール、ペンタフルオロベンゼンチオール、3−クロロベンゼンチオール、4−クロロベンゼンチオール、3,4−ジクロロベンゼンチオール、2,3−ジクロロベンゼンチオール、2,4−ジクロロベンゼンチオール、2,5−ジクロロベンゼンチオール、2,6−ジクロロベンゼンチオール、3,5−ジクロロベンゼンチオール、2,4,5−トリクロロチオフェノール、ペンタクロロチオフェノール、4−ブロモベンゼンチオール等)、ニトロまたはシアノ置換チオフェノール(例えば、4−ニトロチオフェノール、4−シアノフェノール等)、アミドもしくはカルバモイル置換チオフェノール(例えば、N−tert−ブチル−4−メルカプトベンズアミド、N−iso−プロピル−4−ヒドロキシベンズアミド、N−メチル−4−ヒドロキシベンズアミド、N−(4−メルカプトフェニル)−2,2−ジメチルプロピオンアミド、N−(4−メルカプトフェニル)−イソブチルアミド等)、アルキルチオ基またはアルキルスルホニル基置換チオフェノール、スルホンアミド置換チオフェノール、ジチオール類、アルキルアミノ置換チオフェノール類、複素環置換チオフェノール類、ナナフタレンチオール類、8−メルカプトキノリン類が挙げられる。
【0025】
本発明のカルボン酸の合成方法に使用する塩基に特に制限はないが、無機塩基(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、ナトリウム、カリウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、アンモニア水、ナトリウムアミド等)、有機塩基(例えば、ピリジン、トリエチルアミン、アニリン、N,N−ジメチルアニリン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、グアニジン、テトラメチルグアニジン、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ジイソプロピルアミン、リチウムジイソプロピルアミド、ナトリウム−1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン、リチウム−1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン、カリウム−1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン、メチルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム等)が挙げられる。これらの塩基は市販品もしくは市販品から常法に従い合成することもできる。
【0026】
これらの塩基の中でも好ましいのは、無機塩基では水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムであり、有機塩基の中ではナトリウムメトキシドまたはナトリウムエトキシドである。その中でも最も好ましいのはナトリウムメトキシドである。ナトリウムメトキシドは粉体でもメタノール溶液のどちらでも好ましいが、本発明において好ましい使用形態はメタノール溶液である。
【0027】
使用する塩基の量に関しては特に制限はないが、使用するフェノールの量に対して0.9〜2.0倍モルが好ましく、更に好ましくは0.95〜1.5倍モルであり、特に好ましくは1.0〜1.2倍モルである。
【0028】
本発明のカルボン酸の合成方法における反応温度としては、100℃以上、150℃未満である。当該発明者らの鋭意研究の結果、本発明のカルボン酸の合成方法では、反応温度が100℃を超えると反応が進行し始め、120℃を超えたところで急激に反応が進行することがわかった。従って、好ましい反応温度は120℃以上、150℃未満である。
【0029】
本発明に使用する反応溶媒は沸点が100℃以上であることが好ましく、その理由は前記反応温度による。例えば、沸点が100℃以下の溶媒を用いた場合、反応温度が溶媒の沸点付近までしか上昇せず、そのため反応の進行は極めて遅くなる。反応溶媒の沸点は好ましくは120℃以上、200℃未満である。
【0030】
更に、本発明に使用する反応溶媒は水に対する溶解性が10質量%以上であることが好ましい。反応溶媒の水に対する溶解性が乏しい場合、反応の初期段階で生成するフェノールの塩が分離し、反応の進行を妨げることがある。そのため、反応溶媒には生成するフェノール塩との親和性を保つために親水性基を有するのが好ましい。
【0031】
更に上記反応溶媒の親水性は、カルボン酸誘導体合成時の後処理においても好都合である。例えば、水溶性の反応溶媒を用いた場合、反応終了時に水洗を行えば除去することができ、大量生産において余分な工程を省くことが可能である。好ましい反応溶媒としては、アルコール類、特に多価アルコール誘導体である。以下に、好ましい反応溶媒の例と水に対する溶解性を一般的に使用されている溶媒の例と共に挙げる。
【0032】
【表1】

【0033】
上記反応溶媒の中で好ましい反応溶媒はエチレングリコール誘導体であるが、その中で最も好ましいのはエチレングリコールモノエチルエーテルまたはエチレングリコールモノブチルエーテルである。
【0034】
本発明に使用する反応溶媒の量としては特に制限はないが、好ましくは使用するフェノール1.0質量部に対し0.15〜10.0質量部、更に好ましくは0.5〜5.0質量部、更に好ましくは0.5〜3.0質量部である。
【0035】
本発明のカルボン酸の合成方法において、使用するフェノール類またはチオフェノール類、溶媒、塩基の添加順、及び過熱方法に関しては特に制限はないが、無機塩基を使用する場合、無溶媒または溶媒存在下フェノールと加熱し、フェノールの塩を生成させてから4−ブチロラクトンと反応させることができる。また、有機塩基を用いる場合は、反応容器にフェノール類またはチオフェノール類、4−ブチロラクトン、反応溶媒及び塩基を順次加え、加熱することもできる。特に塩基としてナトリウムメトキシド(メタノール溶液)を用いる場合、反応容器にフェノール類またはチオフェノール類、4−ブチロラクトン、反応溶媒及び塩基を順次加え、加熱し、メタノールを除去することで内温が上昇し、良好に反応を進行させることができる。
【0036】
以下に本発明に係るカルボン酸を示す。但し、本発明のカルボン酸の合成方法によって得られる化合物はこの限りではない。
【0037】
【化3】

【0038】
【化4】

【0039】
【化5】

【0040】
【化6】

【0041】
【化7】

【0042】
本発明のカルボン酸の合成方法によって得られるカルボン酸は概ね安定であり、更に化学修飾を施すことも可能である。例えば、例示化合物41の場合、更に水素添加によってアミンを生成させた後、ピバリン酸クロリドと反応させて例示化合物45への変換が可能である。更に例示化合物70の場合、過酸化水素の当量と温度を制御することによってスルホキシド誘導体、スルホン誘導体への変換を良好に制御することも可能である。また、これらのカルボン酸はカルボン酸クロリドへと変換することで様々な化合物の誘導体として変換することが可能である。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
実施例1
〔例示化合物12の合成〕
留去塔を付けた1L、4頭フラスコにメカニカルスターラー、攪拌棒、羽根をセットし、4−tert−オクチルフェノール150g(0.7270モル)、ナトリウムメトキシド(28%メタノール溶液)140.24g(0.7270モル)、エチレングリコールモノエチルエーテル75ml、4−ブチロラクトン75.11g(0.8724モル)を順次加え、メカニカルスターラーで攪拌しながら、浴温を140℃まで上昇させる。メタノールが留去し終わると内温が上昇する。HPLCで反応を観察しながら3時間反応。反応終了後浴温を90度に設定し攪拌を継続した。
【0045】
内温が100℃を切ったところで、塩酸水溶液300mlを投入した。内温は70℃まで下降した。ここで加熱をやめ、攪拌しながら徐冷した。内温60℃で酢酸エチル300mlを加え、抽出を行った。その後、水300mlで1回洗浄し、飽和食塩水/水(1/1)300mlで3回洗浄し、水層のpHが4〜5になったところで有機層を集めた。エチレングリコールモノエチルエーテルはこの工程で完全に除去できる。
【0046】
有機層を減圧濃縮する。濃縮中に結晶が析出する(収量222.63g(104.7%))。
【0047】
得られた残さをヘプタン(3倍)で再結晶し、冷却後結晶を濾別、1晩乾燥。収量182.3g(81.9%)で白色結晶を得た。融点85〜87℃。HPLC純度:99.8%。確認は1H−NMRで行った。
【0048】
実施例2
反応溶媒をエチレングリコールモノエチルエーテルからエチレングリコールモノブチルエーテルに変えた以外は実施例1と同様に反応を行った。
【0049】
実施例3〜10
反応溶媒を表2に示す溶媒に変えた以外は実施例1と同様に反応を行った。
【0050】
【表2】

【0051】
実施例11〜17
使用するフェノールを4−tert−オクチルフェノールから、表3に記載のフェノールに変えた以外は実施例1と同様に反応を行った。
【0052】
【表3】

【0053】
実施例18〜20
反応条件を実施例1から表4のように変えて合成を行った。表4に示す変更点以外は実施例1と同様に反応、後処理、濃縮、再結晶を行った。
【0054】
【表4】

【0055】
比較例1〜6
反応条件を表5に示すように変え、反応を行った。表5に示す変更点以外は実施例1と同様に反応、後処理、濃縮、再結晶を行った。
【0056】
【表5】

【0057】
以上の結果をまとめて表6に示す。
【0058】
1)反応率
反応終了時の反応率(HPLC)を測定した。
【0059】
2)反応の様子
反応の様子を目視で判断し、攪拌が可能であるか評価した(スラリー状、固化等)、また反応時の着色が顕著である場合には、それも併せて記載した。
【0060】
3)溶媒の抜け
後処理、濃縮終了後に使用した溶媒が抜けているか評価した。評価は濃縮液のNMR及びガスクロマトグラフィー測定より判断した。
【0061】
4)収率
再結晶後の収率を記載した。再結晶の方法は実施例1の方法を用いた。
【0062】
5)純度
再結晶後に得られた化合物のHPLC測定を行った。HPLC純度が低い場合、原料のフェノールが含まれていることを示す。
【0063】
6)融点
得られたカルボン酸の融点を示す。融点は柳本融点測定機により測定した。
【0064】
7)外観
得られたカルボン酸の外観を示す。
【0065】
【表6】

【0066】
表6結果から、本発明のカルボン酸の合成方法(実施例1〜20)は、高純度で所望の化合物を得ることができる。加えて使用する溶媒を適切に選択することで、後処理も容易な生産適性の高いカルボン酸の合成方法を提供することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)に表されるカルボン酸の合成方法において、対応するフェノール類またはチオフェノール類、4−ブチロラクトン、反応溶媒及び塩基を反応容器に順次加え、100℃以上150℃未満の反応温度で反応させることを特徴とするカルボン酸の合成方法。
【化1】

(一般式(I)において、Rは水素原子または置換基を表す。nは1から5の整数を表す。AはOまたはSを表す。)
【請求項2】
前記塩基がナトリウムメトキシドであり、メタノールを留去しながら反応させることを特徴とする請求項1に記載のカルボン酸の合成方法。
【請求項3】
前記反応溶媒の水に対する溶解性が10質量%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のカルボン酸の合成方法。
【請求項4】
前記反応溶媒の沸点が100℃以上200℃未満であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のカルボン酸の合成方法。
【請求項5】
前記反応溶媒がエチレングリコールモノエチルエーテルまたはエチレングリコールモノブチルエーテルであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のカルボン酸の合成方法。

【公開番号】特開2006−241092(P2006−241092A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−60368(P2005−60368)
【出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【出願人】(303050159)コニカミノルタフォトイメージング株式会社 (1,066)
【Fターム(参考)】