説明

カーテンエアバッグ装置

【課題】トリム等の内装材に係合するヘッドライニングの端末部の剛性を適度に低下させることでエアバッグ展開時に円滑に係合解除でき、もって、良好なエアバッグの展開性能を実現できるカーテンエアバッグ装置を提供する。
【解決手段】表面側及び裏面側ガラスマット層12,14によりヘッドライニング8に剛性を付与し、このヘッドライニング8の取付孔21の内周縁28をガーニッシュ22のフランジ部22aに対して車室外側から重ねて係合保持し、エアバッグの展開に伴ってヘッドライニング8が車室内側に撓んだときに係合を解除する。取付孔21の内周縁28をウォータジェットにより斜状にカットし、フランジ部22aに対する裏面側ガラスマット層14の重なりを防止して円滑に係合解除する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカーテンエアバッグ装置に係り、詳しくはカーテンエアバッグの展開時に内装材とヘッドライニングの端末部との係合を解除するための構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の側突時やロールオーバー時等、車両に横方向の衝撃が作用した際には、車体の側方への反動力により乗員の頭部がサイドガラスやセンタピラー等に衝突する場合があり、その対策として、乗員の頭部への衝撃を緩和するカーテンエアバッグが実用化されている。このカーテンエアバッグは車両のルーフサイドレールに沿って配設されヘッドライニングの裏側に隠蔽されており、車両側突時等には、インフレータからのガス圧による展開力でヘッドライニングを押し退けて車室内側に展開するように構成されている。
【0003】
カーテンエアバッグの展開は、例えばルーフサイドレールに装着されたトリムとヘッドライニングの端末部との間を開口させて行われる。通常時においてヘッドライニングの端末部はトリムに重なって係合保持されているため、まず、カーテンエアバッグの展開力によりヘッドライニングを車室内側に押し退けることでトリムとの係合を解除し、引き続いてヘッドライニングを車室内側に撓ませながらトリムとの間に開口部を形成して、その開口部からカーテンエアバッグを車室内側に展開させている。
【0004】
ヘッドライニングに対するトリムの係合が過度に強固な場合には、エアバッグの展開が妨げられて所期の展開性能を発揮できない虞があるため、エアバッグの展開力によりヘッドライニングとトリムとの係合が円滑に解除される必要がある。加えて、例えばヘッドライニングの端末部近傍にはアシストグリップやシート格納用フック等が設けられるため、相互の位置関係によっては、十分なヘッドライニングの撓み量(換言すればエアバッグの展開用の開口部)を確保するために、エアバッグの展開時にトリムのみならず、近接位置に配設されたシート格納用フックやアシストグリップの係合も解除されるように設定する場合もある。
【0005】
一方、ヘッドライニングの剛性向上を目的として、高剛性の基材やガラスマットを積層したヘッドライニングが実用化されているが、この種のヘッドライニングでは上記トリム等との係合強度が高まるため、エアバッグの展開時にトリム等との係合を円滑に解除できずに展開性能を損ねる要因になったり、或いは係合解除に伴う無理な力によりトリム等が破損したりする可能性がある。そこで、この種の高剛性のヘッドライニングの使用を想定して、トリム等との円滑な係合解除を目的として種々の対策が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
特許文献1に記載されたカーテンエアバッグ装置では、トリム等が係合されるヘッドライニングの端末部に多数のスリットを形成して剛性を低下させ、エアバッグの展開時にスリットを起点として端末部を短冊状に分離させてトリムとの円滑な係合解除を図っている。
【特許文献1】特開2000−198406号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されたカーテンエアバッグ装置では、ヘッドライニングのスリットを形成する製造上の観点から、以下に述べる問題を抱えている。
例えばヘッドライニングのスリットはカット工程により成形可能であり、この手法では、スリット形状やスリット数等の仕様変更に対して柔軟に対応可能である反面、金型によるヘッドライニングの成形工程とは別にカット工程を実施する必要がある上に、そのカット工程自体も多数のスリットを個別にカットする非常に煩雑な内容となるため、結果としてヘッドライニングの生産性が大幅に低下するという問題を抱えている。
【0008】
また、ヘッドライニングのスリットは金型による成形も可能であり、この手法では、予めヘッドライニングの成形金型にスリット形状を設けることで、ヘッドライニングの成形工程時に同時にスリットを形成できる反面、スリット形状やスリット数の変更時に金型自体を改修する必要があるため、改修に要する費用及び時間を考慮すると、ヘッドライニングの仕様変更に対応し難いという別の問題を抱えている。
【0009】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、ヘッドライニングの高い生産性及び仕様変更への柔軟な対応を可能とした上で、トリム等の内装材に係合するヘッドライニングの端末部の剛性を適度に低下させることでエアバッグ展開時に円滑に係合解除でき、もって、良好なエアバッグの展開性能を実現すると共に、展開時の内装材の破損を未然に防止することができるカーテンエアバッグ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、ルーフサイドレールに沿って配置されるエアバッグ本体と、車室内に設けられる内装材と、内装材に端末部を重ね合わせて係合保持され、エアバッグ本体を車室内側から隠蔽するヘッドライニングとを備え、エアバッグ本体が内装材とヘッドライニングの端末部との係合を解除して車室内に展開するカーテンエアバッグ装置において、ヘッドライニングは、少なくとも発泡材からなる基材と、基材の車室内側に積層されヘッドライニングに剛性を付与する表面側剛性層と、基材の車室外側に積層されヘッドライニングに剛性を付与する裏面側剛性層とを備え、表面側剛性層と裏面側剛性層との何れか一方の剛性層と内装材との重なりを、他方の剛性層と内装材との重なりより短くしたものである。
【0011】
従って、エアバッグは内装材とヘッドライニングの端末部との係合を解除して車室内に展開するが、内装材に対する一方の剛性層の重なりが他方の剛性層の重なりより短いためヘッドライニングの端末部の剛性が低下し、端末部の変形が促進されて内装材との係合が円滑且つ無理なく解除される。その結果、ヘッドライニングによりエアバッグの展開が妨げられる事態が防止されると共に、係合解除時に内装材に加わる力が軽減されて内装材の破損が防止される。
【0012】
そして、このような剛性層に関するヘッドライニングの端末部の処理は、例えば端末部の形成時などに同時に実施可能なものであるため、ヘッドライニングの生産性は低下せず、また、端末部に関する仕様変更、例えば各剛性層と内装材との重なりを変更する場合には、端末部を形成するための加工内容を変更することで容易に対応可能である。
好ましい態様として、内装材に対する表面側剛性層の重なりに比較して裏面側剛性層の重なりを短くすることが望ましい。
【0013】
このように構成した場合、車室内側に位置する表面側剛性層の内装材に対する重なりが十分に確保されるため、良好なヘッドライニングの取付剛性の低下を抑制できる。
別の好ましい態様として、裏面側剛性層を内装材に対して重ならないようにすることが望ましい。
このように構成した場合、ヘッドライニングの端末部の係合が解除される際の剛性がさらに低下するため、エアバッグの展開性能の向上、及び展開時の内装材の破損防止を一層確実に実現できる。
【0014】
請求項2の発明は、請求項1において、内装材が、ヘッドライニングを撓ませてエアバッグ本体が車室内に展開する開口部の近接位置に設けられたガーニッシュであり、ガーニッシュにヘッドライニングの端末部が重なって係合保持されると共に、ヘッドライニングの撓みに伴ってガーニッシュと端末部との係合が解除されるものである。
従って、エアバッグの展開力を受けてヘッドライニングが撓んで開口部が形成され、その開口部からエアバッグが車室内に展開し、このときのヘッドライニングの撓みに伴ってガーニッシュとヘッドライニングの端末部との係合が解除される。そして、ガーニッシュに対する表面側及び裏面側剛性層の重なりの設定により端末部の剛性が低下しているため、端末部の変形が促進されてガーニッシュとの係合が円滑且つ無理なく解除される。
【0015】
請求項3の発明は、請求項1または2において、ヘッドライニングの端末部を斜状にカットしたものである。
従って、簡単な加工により内装材に対する表面側剛性層及び裏面側剛性層の重なりを相違させることが可能であり、さらにカットの角度を変更するだけで、双方の剛性層の重なりを容易に変更してヘッドライニングの端末部の剛性を調整可能となる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように請求項1,2の発明のカーテンエアバッグ装置によれば、ヘッドライニングの高い生産性及び仕様変更への柔軟な対応を可能とした上で、内装材に係合するヘッドライニングの端末部の剛性を適度に低下させることでエアバッグ展開時に円滑に係合解除でき、もって、良好なエアバッグの展開性能を実現すると共に、展開時の内装材の破損を未然に防止することができる。
【0017】
請求項3の発明のカーテンエアバッグ装置によれば、請求項1または2に加えて、ヘッドライニングの端末部を斜状にカットする簡単な加工により所期の各剛性層の重なりを実現できると共に、カットの角度を変更するだけでヘッドライニングの端末部の剛性を容易に調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を具体化したカーテンエアバッグ装置の一実施形態を説明する。
図1は本実施形態のカーテンエアバッグ装置が適用された車両を車室内側より見た断面図、図2はヘッドライニングの左側縁とトリムとの係合箇所を示す図1のA部詳細図である。図1に破線で示すように、カーテンエアバッグ装置のエアバッグユニット1a,1bは車両左右両側でルーフサイドレール2に沿って前後方向に延設され、それぞれフロント用エアバッグユニット1aとリヤ用エアバッグユニット1bとに分割されている。フロント用エアバッグユニット1aは車両のAピラー3aからCピラー3cまでの領域に対応し、リヤ用エアバッグユニット1bはCピラー3cからDピラー3dまでの領域に対応し、図示はしないが、各エアバッグユニット1a,1bの一端にはインフレータが接続されている。
【0019】
そして、車両の側突時やロールオーバー時には、例えばBピラー3bの下部に設置された図示しないセンサにより側突やロールオーバーが検出され、センサからの信号を受けてインフレータが点火し、図1に示すように、インフレータから噴出された高圧ガスによりフロント用及びリヤ用エアバッグユニット1a,1bからエアバッグ4a,4b(エアバッグ本体)が展開して、サイドガラス(図示せず)や各ピラー3a〜3dに対する乗員の頭部の衝突を防止する。
【0020】
ここで、本発明のカーテンエアバッグ装置はリヤ用エアバッグ1bを対象として適用されているため、以下、リア用エアバッグ周辺の構成を詳述する。なお、以下の説明では、車両左側のリヤ用エアバッグ1bについて例示するが、右側のリヤ用エアバッグ1bも左右対称の同一構成である。
図3は図2のIII−III線断面図、図4は図2のIV−IV線断面図、図5はヘッドライニングの左側縁とトリムとの係合箇所を示す図2のB部詳細図である。
【0021】
車両のルーフは、ルーフパネル6の左右両側に上記ルーフサイドレール2をスポット溶接により接合して構成され、ルーフサイドレール2はアウタパネル2a及びインナパネル2bにより車両前後方向に沿った閉断面構造をなしている。ルーフパネル6及びルーフサイドレール2の下側には図示しないクリップによりヘッドライニング8が固定されている。ヘッドライニング8の左右両側にはルーフサイドレール2に沿って車両前後方向に延びるようにトリム9が配設され、トリム9は図示しないクリップ等によりルーフサイドレール2のインナパネル2b等に対して固定されている。
【0022】
これらのヘッドライニング8とトリム9によりルーフパネル6、ルーフサイドレール2、空調用ダクト10等の部材が車室内側から隠蔽されており、以下、このヘッドライニング8とトリム9より隠蔽された空間を天井裏(車室外)と称する。
図5に示すようにヘッドライニング8は、ウレタン基材11の表面側(車室内側)に高剛性の表面側ガラスマット層12(表面側剛性層)を介して起毛処理を施した不織布からなる表皮13を積層すると共に、ウレタン基材11の裏面側(天井裏側)にも高剛性の裏面側ガラスマット層14(裏面側剛性層)を介して不織布からなる裏材15を積層して構成されている。例えば、この種のヘッドライニング8は、ウレタン基材11、ガラスマット層12,14、表皮13及び裏材15の各素材を所定の配置で積層した上で、プレスにより加圧・過熱して各層を接着することで製造され、2枚のガラスマット層12,14によりヘッドライニング8には高い剛性が付与されている。
【0023】
ヘッドライニング8の左側縁8aはトリム9に対して天井裏側より重ねられて係合し、これによりヘッドライニング8とトリム9との間の隙間による美観低下を防止している。そして、後述のように、この箇所の係合を解除することで図3に示すようにヘッドライニング8とトリム9との間に形成される開口部16を介してリヤ用エアバック4bが車室内側に展開されるのであるが、円滑に係合を解除可能とすべく、図5に示すように、ヘッドライニング8の左側縁8aはヘッドライニング8の他の箇所と同様の各層を備えた上で、他の箇所と比較して厚みを大幅に減少設定されている。
【0024】
図1に示すように、リヤ用エアバッグ4bは3列目シート17に着座した乗員に対応して設置されており、図2,3に示すように、ヘッドライニング8の左側縁8aより車幅方向の若干中央寄りの位置には、アシストグリップ18、及び3列目シート17を立ち上げた格納位置で保持するためのフックユニット19が設けられている。なお、図2中の29は室内灯、30はエアコンの吹出口である。
【0025】
図6はヘッドライニング8の取付孔の内周縁とガーニッシュのフランジ部との係合箇所を示す図4のC部詳細図、図7は取付孔の内周縁に形成された斜状カット領域を示す図4のD矢視図である。
図4に示すように、天井裏においてアシストグリップ18の前後の取付部18aと対応してアシストグリップブラケットにより取付座7aが形成され、これらの取付座7aに対してアシストグリップ18の取付部18aはヘッドライニング8を挟んでボルト20により固定されている。なお、通常時のアシストグリップ18は内蔵したばねの付勢力によりヘッドライニング8に沿った姿勢に保持されており、使用時にはばねに抗してアシストグリップ18を起立させて把持可能となる。
【0026】
図3,4,7に示すように、上記フックユニット19はアシストグリップ18の取付部18aの間に配置されている。フックユニット19に対応してヘッドライニング8には四角状の取付孔21が貫設され、この取付孔21にはフックユニット19の合成樹脂製のガーニッシュ22(内装材)が車室内側より嵌め込まれている。ガーニッシュ22は車室内側に向けて開口する四角箱状をなし、その周囲全体に一体形成されたフランジ部22aをヘッドライニング8の表面の取付孔21の内周縁28(端末部)に当接させている。ガーニッシュ22内には軸23(図3に示す)を中心として回動可能にフック24が配設され、軸23は金属製のベース部25に支持されている。
【0027】
フックユニット19に対応して天井裏にはアシストグリップブラケットにより取付座7bが形成され、この取付座7bに溶接固定されたナット26aに対してガーニッシュ22の底壁22b及びベース部25がビス26bにより固定されている。また、ガーニッシュ22の底壁22bにはピン22cが突設され、このピン22cが取付座7bの位置決め孔27に嵌入することにより、取付座7bに対してガーニッシュ22が位置決めされている。ヘッドライニング8の取付孔21の内周縁28を形成する車幅方向外側の一辺には位置決め部28aが形成され、この位置決め部21aに対してフックユニット19のベース部25が当接することによりヘッドライニング8が車幅方向に位置決めされている。
【0028】
上記のようにガーニッシュ22のフランジ部22aはヘッドライニング8の取付孔21の内周縁28に当接しており、リヤカーテンエアバッグ4bの展開に伴ってヘッドライニング8が車室内側に撓むときには、上記ヘッドライニング8の左側縁8aとトリム9との係合が解除されるだけでなく、取付孔21の内周縁28とガーニッシュ22のフランジ部22aとの係合も部分的に解除される。以下、説明の便宜上、図7に示すように、取付孔21の内周縁28における車幅方向外側の辺を外側辺28bと称し、車幅方向中央側の辺を内側辺28cと称し、車両前方の辺を前側辺28dと称し、車両後側の辺を後側辺28eと称する。エアバッグ展開に伴ってガーニッシュ22のフランジ部22aは、取付孔21の外側辺28bから前側辺28d及び後側辺28eにかけて係合を解除され、以下、この領域を係合解除領域E1と称する。
【0029】
そして、この領域E1での係合解除により、より大きなヘッドライニング8の撓み量(換言すれば、より大きなエアバッグの展開用の開口部16)を確保できるのであるが、反面、ガラスマット層12,14を有するヘッドライニング8の高い剛性に起因して、係合解除によりリヤ用エアバッグ4bの展開が妨げられる可能性、及び係合解除時に合成樹脂製のガーニッシュ22のフランジ部22aが破損する可能性があり、本実施形態ではこれらの不具合を防止するための対策を講じており、以下、その構成を説明する。
【0030】
具体的な対策として、ヘッドライニング8の取付孔21の内周縁28の断面形状を工夫している。即ち、図6に示すように、取付孔21の内周縁28は上記左側縁8aとは異なり他の箇所と同等の厚みに設定されると共に、基本的に通常のカット手法と同じくヘッドライニング8の表面に対し直角方向からカットされて直角状の断面をなしているが、部分的にヘッドライニング8の表面に対し所定角度をもってカットされて斜状の断面をなしている。以下、この斜状断面の領域を斜状カット領域E2と称するが、図7に破線で示すように、斜状カット領域E2は外側辺28bの前後両角部から前側辺28d及び後側辺28eにかけて、即ち、係合解除領域E1内の位置決め部28aを除外した領域として設定されている。斜状カット領域E2は、ウォータジェットによりヘッドライニング8の取付孔21をカットする際に、カット角度を変更することにより同時に形成される。但し、これに限ることはなく、取付孔21の形成後の別工程で斜状カット領域E2を形成してもよいし、ウォータジェット以外の手法を用いてもよい。
【0031】
斜状カット領域E2に対するウォータジェットによるカット方向は、図6に矢印WJで示すように、裏面側から表面側に向けてガーニッシュ22の中央部(図中の右方)に接近する方向に傾斜した角度αに設定され、結果として斜状カット領域E2も同方向に角度αでカットされた断面形状をなしている。図6は後側辺28eの斜状カット領域E2の断面形状を示しているが、当然ながら各部位によって角度αの方向は異なり、例えば前側辺28dでは左右対称となる。
【0032】
そして、上記のようにヘッドライニング8の取付孔21の内周縁28は天井裏側からガーニッシュ22のフランジ部22aに当接しているが、斜状カット領域E2では角度αの設定により、必然的に表面側ガラスマット層12に比較して裏面側ガラスマット層14の方がフランジ部22aに対する重なりが短くなる。本実施形態では、フランジ部22aに対して表面側ガラスマット層12は寸法L1だけ重なっているが、裏面側ガラスマット層14は重なることなく寸法L2だけ離間するように設定されている。
【0033】
なお、位置決め部28aを斜状カット領域E2に含めると、位置決め部28aの端部がフックユニット19のベース部25に対して面接触しなくなり位置決め作用が低下する可能性があることから、この点を鑑みて外側辺28bは斜状カット領域E2から除外している。但し、外側辺28b全体も斜状カット領域E2に含めたり、或いは取付孔21の内周縁28全体を斜状カット領域E2として設定したりしてもよい。
【0034】
次に、以上のように構成されたカーテンエアバッグ装置の展開状態を説明する。なお、この説明でも左側のリヤ用エアバッグ4bについて説明するが、右側も同様である。
車両の側突やロールオーバーに伴ってインフレータからの高圧ガスによりフロント用エアバッグ4aと共にリヤ用エアバッグ4bが展開し始めると、その展開力を受けてヘッドライニング8が車室内側に押し退けられ、トリム9に対するヘッドライニング8の左側縁8aの係合が解除されてヘッドライニング8は車室内側に撓み始め、このヘッドライニング8の撓みに伴って、取付孔21の内周縁28の係合解除領域E1が変形しながらガーニッシュ22のフランジ部22aを乗り越えて係合を解除される。これにより、図3に二点鎖線で示すように、ヘッドラインニング8は車室内側に大きく撓みながら左側縁8aとトリム9との間に開口部16を形成し、その開口部16を介してリヤ用エアバッグ4bが車室内側に向けて展開する。
【0035】
ガーニッシュ22のフランジ部22aとヘッドライニング8との係合強度は係合解除領域E1の剛性に応じて決定されるが、斜状カット領域E2では、単純にフランジ部22aに対するウレタン基材11の重なり面積が減少するだけでなく、裏面側ガラスマット層14がフランジ部22aに全く重なっていないため、斜状カット領域E2の剛性が他の箇所より大幅に低下し、結果として斜状カット領域E2を含めた係合解除領域E1全体の剛性も大幅に低下している。従って、係合解除領域E1の変形が促進されてガーニッシュ22のフランジ部22aとの係合が円滑に解除され、ヘッドライニング8によりリヤ用エアバッグ4bの展開が妨げられる事態を防止でき、もって、その展開性能を大幅に向上させることができる。
【0036】
また、斜状カット領域E2ではヘッドライニング8とガーニッシュ22のフランジ部22aとの係合が無理なく解除されるため、係合解除時に合成樹脂製のガーニッシュ22に加わる力も軽減される。係合解除時に作用する力により最も破損し易い部位はフランジ部22aの前後角部、即ち、外側辺28bと前側辺28d及び後側辺28eとの間のそれぞれの角部であるが、これらの箇所を含むように斜状カット領域E2が設定されているため、フランジ部22aの破損を確実に防止することができる。
【0037】
そして、以上の作用効果は、ヘッドライニング8の取付孔21の内周縁28に形成した斜状カット領域E2によるものであり、より具体的にはフランジ部22aに対して裏面側ガラスマット層14の重なりを防止した結果であるが、この斜状カット領域E2のような取付孔21の内周縁28の端末処理は、本来、取付孔21の形成時やヘッドライニング8の積層成形時(後述する別例として説明する)に同時に実施可能なものである。
【0038】
例えば、本実施形態で斜状カット領域E2の形成に適用されるウォータジェットは取付孔21の形成に適用されることから、斜状カット領域E2の箇所でウォータジェットのカット方向を角度αに切換えるだけの簡単な処理により斜状カット領域E2を形成でき、ヘッドライニングの生産性を低下させることはない。また、仮に斜状カット領域E2のみを別工程で形成したとしても、ウォータジェットによれば簡単且つ短時間で斜状カット領域E2を形成可能なため生産性はほとんど低下しない。よって、特許文献1に記載されたスリットをカット工程により成形する場合に比較して、良好な生産性をもってヘッドライニング8を製造することができる。
【0039】
一方、斜状カット領域E2に関する仕様変更、例えば取付孔21の内周縁28における斜状カット領域E2の形成部位を変更したり、或いは斜状カット領域E2の角度αを変更したりする場合もあるが、これらの仕様変更は斜状カット領域E2を形成するための加工内容を変更することで対応でき、例えば本実施形態のウォータジェットではプログラム変更により極めて容易に対応できる。よって、例えば特許文献1に記載されたスリットを金型により成形する場合のような、金型自体の改修のための費用や時間を必要とせず、遥かに容易にヘッドライニング8の仕様変更に対応することができる。
【0040】
しかも、上記説明からも明らかなように、斜状カット領域E2の角度αはガーニッシュ22のフランジ部22aに対する表面側及び裏面側ガラスマット層12,14の重なり具合、ひいてはガーニッシュ22のフランジ部22aとヘッドライニング8の斜状カット領域E2との係合強度に大きな影響を及ぼし、係合強度が強すぎる場合にはリヤ用エアバッグ4bの展開性能の低下やガーニッシュ22の破損を引き起こし、逆に係合強度が弱すぎる場合には不用意に係合解除されて車室内の美観を損ねてしまう。よって、ガーニッシュ22のフランジ部22aとヘッドライニング8の斜状カット領域E2との係合強度は、幾度ものエアバッグ試験を経て綿密に調整する必要があるが、本実施形態ではウォータジェットのプログラム変更だけの簡単な操作により斜状カット領域E2の角度αを変更して斜状カット領域E2の剛性を調整可能なため、エアバッグ試験の結果を反映した最適な角度αを容易且つ短時間で確定でき、その開発コストを節減できる利点も得られる。
【0041】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態ではリヤ用エアバッグ4bに適用したが、カーテンエアバッグであればその適用箇所はこれに限定されるものではなく、例えばフロント用エアバッグ4aに適用してもよい。
また、上記実施形態では、リヤ用エアバッグ4bが車室内に展開する開口部16の近接位置に設けられたガーニッシュ22を内装材とし、このガーニッシュ22のフランジ部22aと係合するヘッドライニング8の取付孔21に斜状カット領域E2を形成したが、内装材はこれに限ることはない。例えばトリム9を内装材とし、このトリム9と係合する図5に示すヘッドライニング8の左側縁8aに斜状カット領域E2を形成してもよい。この場合には、左側縁8aとトリム9との係合解除が円滑且つ無理なく行われるため、上記実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0042】
また、上記実施形態では、フランジ部22aに対して裏面側ガラスマット層14を重ねることなく寸法L2だけ離間させたが、表面側ガラスマット12と同様にフランジ部22aに重ねてもよい。この場合でも、フランジ部22aに対する表面側及び儀面側ガラスマット12,14の重なりを相違させれば、何れの重なりが短い場合でも結果としてヘッドライニング8の取付孔21の斜状カット領域E2は剛性が低下することになり、上記実施形態と同様の作用効果を得ることができる。但し、フランジ部22aと直接的に当接する表面側ガラスマット12の重なりを長くした方が、良好なヘッドライニング8の取付剛性を確保できるため望ましい。
【0043】
また、上記実施形態では、ベッドライニング8の斜状カット領域E2を他の箇所と同等の厚みとしたが、例えば図8に示すように斜状カット領域E2の周辺、或いは係合解除領域E1の周辺のみ厚みを増加させてもよい。このような設定では取付孔12の内周縁28を斜状にカットしたときの表面側ガラスマット層12とフランジ部22aとの重なり寸法L1が増加するため、ヘッドライニング8の取付剛性を向上できる上に、ガーニッシュ22とヘッドライニング8との位置誤差を吸収できるという効果が得られる。また、重なり寸法L1をそのままとすれば、裏面側ガラスマット層14とフランジ部22aとの離間寸法L2が増加するため、斜状カット領域E2の剛性を一層低下させることができる。
【0044】
また、上記実施形態では、ウォータジェットを用いて斜状カット領域E2を直線状にカットした断面形状としたが、図9に示すように、裏面側ガラスマット14及び裏材15を取付孔21の端部まで形成せずに中断させた断面形状としてもよい。具体的には、ヘッドライニング8の積層成形時において裏面側ガラスマット14及び裏材15の寸法を若干短く設定してウレタン基材11の端部を裏面側に露出させた状態でヘッドライニング8を積層成形すればよい。このような構成でもフランジ部22aに対する両ガラスマット層12,14の重なりは上記実施形態と相違なく、同様の作用効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】実施形態のカーテンエアバッグ装置が適用された車両を車室内側より見た断面図である。
【図2】ヘッドライニングの左側縁とトリムとの係合箇所を示す図1のA部詳細図である。
【図3】図2のIII−III線断面図である。
【図4】図2のIV−IV線断面図である。
【図5】ヘッドライニングの左側縁とトリムとの係合箇所を示す図2のB部詳細図である。
【図6】ヘッドライニングの取付孔の内周縁とガーニッシュのフランジ部との係合箇所を示す図4のC部詳細図である。
【図7】取付孔の内周縁に形成された斜状カット領域を示す図4のD矢視図である。
【図8】係合解除領域の周辺のみ厚みを増加させた別例を示す図6に対応する断面図である。
【図9】裏面側ガラスマット及び裏材を中断した別例を示す図6に対応する断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1 ルーフサイドレール
4b リヤ用エアバッグ
8 ヘッドライニング
11 ウレタン基材
12 表面側ガラスマット(表面側剛性層)
14 裏面側ガラスマット(裏面側剛性層)
16 開口部
23 ガーニッシュ(内装材)
28 内周縁(端末部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルーフサイドレールに沿って配置されるエアバッグ本体と、車室内に設けられる内装材と、上記内装材に端末部を重ね合わせて係合保持され、上記エアバッグ本体を車室内側から隠蔽するヘッドライニングとを備え、上記エアバッグ本体が上記内装材と上記ヘッドライニングの端末部との係合を解除して車室内に展開するカーテンエアバッグ装置において、
上記ヘッドライニングは、少なくとも発泡材からなる基材と、該基材の車室内側に積層されヘッドライニングに剛性を付与する表面側剛性層と、上記基材の車室外側に積層されヘッドライニングに剛性を付与する裏面側剛性層とを備え、
上記表面側剛性層と裏面側剛性層との何れか一方の剛性層と上記内装材との重なりが、他方の剛性層と上記内装材との重なりより短いことを特徴とするカーテンエアバッグ装置。
【請求項2】
上記内装材は、上記ヘッドライニングを撓ませて上記エアバッグ本体が車室内に展開する開口部の近接位置に設けられたガーニッシュであり、
上記ガーニッシュに上記ヘッドライニングの端末部が重なって係合保持されると共に、上記ヘッドライニングの撓みに伴って上記ガーニッシュと上記端末部との係合が解除されることを特徴とする請求項1記載のカーテンエアバッグ装置。
【請求項3】
上記ヘッドライニングの端末部を斜状にカットしたことを特徴とする請求項1または2記載のカーテンエアバッグ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−155856(P2008−155856A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−349464(P2006−349464)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】