説明

カーナビゲーション装置

【目的】高マップマッチング精度と優れた慣性航法システムの学習機能を備えるカーナビゲーション装置を提供する。
【構成】カーナビゲーション装置10は、地図データベース16の道路情報につき、車が道路上から外れるオフロード状態が有り得ない道路か否かの道路識別情報B5を得る道路識別手段と、この道路識別情報B5に基づく推測経路へのマップマッチング時に、所定時間以上衛星測位システム2が連続非測位であり、慣性航法システム1により自車が移動していると判断され、自車位置近傍にオフロード状態が有り得ない道路があると判断された場合、又は、前の自車位置のマッチング率が予め設定の設定値より高く、且つ、自車が地図データベース16のオフロード状態が有り得ない道路上にあると検出された場合には、自車位置をその道路上へ強制的にマップマッチングすると共に、慣性航法システム1の学習強度を強くする強制マップマッチング手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーナビゲーション装置の技術分野に属し、より詳細には、衛星測位システム及び慣性航法システムから得られた自車の推定位置と地図データベースとのマップマッチングの精度を高めるとともに慣性航法システムの学習精度を高める技術に関する。
【背景技術】
【0002】
図3のブロック図に示されるように、一般的なカーナビゲーション装置20では、方位センサの地磁気センサやジャイロと車速パルスなどのセンサ3を利用して車両の相対方位と距離の走行軌跡を求めて自車の相対位置を推測する慣性航法システム1と、GPS(Global Positioning System)衛星からの電波を受信して自車の絶対位置(緯度,経度)を求める衛星測位システム(衛星航法システム)2を併用し、これらから得られた角度情報、速度情報及び衛星測位情報に基づいて位置算出部5にて自車の推定位置A1を算出し、マップマッチング部7で前記推定位置A1と地図データベース6の道路情報A2とのマップマッチングにより自車位置VPの推定を行っている。
【0003】
また、前記衛星測位システム2及び慣性航法システム1から得られた自車の推定位置A1と地図データベース6のマップマッチングの結果(マッチング度A3)を補正値学習部8にフィードバックして前記センサ3に対する補正値の学習を行い、補正値A4を調整して前記慣性航法システム1の精度を高める学習機能を備えているものがある。
【0004】
図3のカーナビゲーション装置20における前記位置算出部5は、前記センサ3からの角度情報、速度情報及び衛星測位情報に基づいて自車の推定位置A1を算出する部位である。前記地図データベース6は、法定速度、車線幅、車線数などの道路情報が記録されているディスクなどの記憶媒体である。前記マップマッチング部7は、前記地図データベース6から推定位置A1付近の道路情報A2を読み出してマッチング処理を行って自車位置の推定を行う部位であり、そのマッチング度A3は補正値学習部8へ送られる。前記補正値学習部8は、衛星測位情報とセンサ情報とマップマッチングの結果であるマッチング度A3からセンサ3に対する補正値の学習を行い、補正値A4を調整する部位である。
【0005】
上記慣性航法システムの精度を高める学習機能に関する公知文献として、下記[特許文献1]では、前記慣性航法システムの学習に上記と同様に地図データベースとのマップマッチングの結果が利用されているが、その学習の特徴は、慣性航法システムのセンサ誤差要因(温度、温度変化など)を測定するための新たなセンサを用いて、それらの値とマップマッチング処理の結果をニューラルネットに入力し、慣性航法システムのセンサの補正値を求めることで学習を行っている点にある。
【0006】
また、下記[特許文献2]では、慣性航法システムのセンサであるジャイロの感度係数の学習を、旋回しているときの角度履歴を利用して行っている。例えば、旋回した後の方位が反時計周り方向に90度変化したとき、反時計周りで90度の旋回を行ったのか、時計回りで270度の旋回を行ったのかを角度履歴を用いて判断して、ジャイロの感度係数の学習を行うことを特徴としている。
【0007】
【特許文献1】特開平05−066713号公報
【0008】
【特許文献2】特開平09−152341号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
カーナビゲーション装置では、上記のように慣性航法システムの学習(センサの誤差補正を行って精度を高める処理)を行っているものがあるが、以下のような難点がある。
【0010】
(1)誤ったマップマッチングをすると、慣性航法システムの学習精度が下がり、学習精度が低いと誤ったマップマッチングをし易くなって、結果的に学習速度が下がる。
【0011】
(2)従来技術(前記[特許文献1]、[特許文献2]に記載の技術を含む。)では、トンネルや地下道など、オフロードになることが有り得ない道路であっても一般道と区別することなく通常のマップマッチングが行われている。
【0012】
したがって、車両がトンネルや地下道などを走行していても、その時のシステムの学習精度などによって誤ったマップマッチングを行い、トンネルや地下道では絶対に存在しないオフロード状態になることがある。
【0013】
(3)前記[特許文献1]では、慣性航法システムのセンサの誤差要因を測定するための別のセンサが必要でありシステムが複雑になっている。
【0014】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、主としてカーナビゲーション装置における慣性航法システムの学習速度、学習精度を上げることが可能な慣性航法システムの学習手段を備えるカーナビゲーション装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、衛星測位システム2及び慣性航法システム1から得られた自車の推定位置B1と地図データベース16とのマップマッチングの結果から前記慣性航法システム1の精度を高める学習機能を備えるカーナビゲーション装置10において、
前記地図データベース16中の道路情報につき、車両が道路上から外れるオフロード状態が有り得ない道路か有り得る道路なのかの道路識別情報B5を得る道路識別手段と、
前記道路識別手段にて得られた前記道路識別情報B5に基づく推測経路へのマップマッチング時に、設定された所定時間以上前記衛星測位システム2が連続非測位であり、且つ、前記慣性航法システム1により自車が移動していると判断され、且つ、自車位置近傍にオフロード状態が有り得ない道路があると検出された場合、または、前の自車位置の前記地図データベース16ヘのマッチング率が予め設定された設定値より高く、且つ、自車位置が前記地図データベース16のオフロード状態が有り得ない道路上にあると検出された場合には、自車位置を前記オフロード状態が有り得ない道路ヘ強制的にマップマッチングするとともに、前記慣性航法システム1の学習強度をセンサ3に対する補正値B4についての変動率の許容範囲を大きくして強くする強制マップマッチング手段と、
を備えることを特徴とするカーナビゲーション装置10を提供することにより、上記課題を解決する。
【0016】
ここに、上記マッチング率とは、自車位置の軌跡が地図データベース16の道路情報と一致している割合をいう。また、上記学習強度とは、慣性航法システム1のセンサ3に対する補正値B4についての変動率の許容範囲の広狭を意味し、学習強度(補正値B4への反映度)を強くすることは一度に行える補正の幅が大きいことを意味し、それだけ学習速度も速くなる。また、上記オフロード状態が有り得ない道路とは、地下道やトンネル内の道などが該当する。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るカーナビゲーション装置は、上記のように構成されているため、
(1)慣性航法システムの学習精度、延いては自車位置精度を上げることができる。
(2)慣性航法システムの学習速度を向上させることができる(特に学習レベルが低いとき。)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明に係るカーナビゲーション装置の実施の形態について図面に基づいて説明する。なお、従来技術を説明する図面の図3におけるものと同等部については同符号にて表し、且つ、従来技術と同等であるナビゲーションのマップ表示手段、音声ガイド手段、システム制御手段などの基本的説明、図の表示は省略し、専らマップマッチングと慣性航法システムの学習について述べる。
【0019】
図1は本発明に係るカーナビゲーション装置におけるマップマッチングと慣性航法システムの学習を説明するためのブロック図である。図2は本発明に係るカーナビゲーション装置における慣性航法システムの学習のフローチャートである。
【0020】
図1において、カーナビゲーション装置10は、衛星測位システム2及び慣性航法システム1から得られた自車の推定位置B1と地図データベース16とのマップマッチングの結果から前記慣性航法システム1の精度を高める学習機能を備える構成であり、特に、前記地図データベース16中の道路情報につき、車両が道路上から外れるオフロード状態が有り得ない道路か有り得る道路なのかの道路識別情報B5を得る識別手段と、前記道路識別情報B5に基づく推測経路へのマップマッチング時に、設定された所定時間以上前記衛星測位システム2が連続非測位であり、且つ、前記慣性航法システム1により自車が移動していると判断され、且つ、自車位置VP近傍にオフロード状態が有り得ない地下道やトンネルがあると検出された場合、または、前の自車位置VPの前記地図データベース16ヘのマッチング率が予め設定された設定値より高く、且つ、自車位置VPが前記地図データベース16のオフロード状態が有り得ない道路(地下道上或いはトンネル)上にあると検出された場合には、自車位置VPを前記オフロード状態が有り得ない道路(地下道或いはトンネルなど)ヘ強制的にマップマッチングするとともに、前記慣性航法システム1の学習強度をセンサ3に対する補正値についての変動率の許容範囲を大きくして強くする強制マップマッチング手段を備える構成となっている。
【0021】
上記地図データベース16には、法定速度、車線幅、車線数などの道路情報に加えて、オフロード状態が有り得ない道(トンネルや地下道など、車両が道から外れることができない道)なのか、有り得る道なのか(前記以外の道、通常は一般道。例えば道路脇に駐車場などがある道)の道路識別情報B5が追加された道路情報B2が記録されている。
【0022】
前記識別手段が得る前記道路識別情報B5は、既存の地図データベースにおけるトンネルと地下道などのオフロード状態が有り得ない道の既存データに新たに付加してもよく、また、付加情報なしに、オフロード状態が有り得ない道路種別を予めトンネルや地下道などに特定しておき、マップマッチング時に上記特定の道路がマッチング対象になった場合はオフロード状態が有り得ない道路と一義的に識別する手段でもよい。
【0023】
また、マップマッチング部17では、前記地図データベース16から推定位置B1付近の道路情報B2を読み出してマッチング処理を行って自車位置VPの推定を行う。さらに、そのマッチング度B3が補正値学習部18へ送られる。且つ、オフロード状態が有り得る道路か有り得ない道路にマッチングされたかの識別情報B5が補正値学習部18ヘ送られる。
【0024】
前記補正値学習部18では、センサ3の角度情報及び速度情報とマップマッチングのマッチング度B3の結果から前記センサ3に対する補正値の学習を行い、補正値B4を調整する。前記識別情報B5により、オフロード状態が有り得ない道路にマッチングされた場合は学習強度(補正値B4への反映度)を強制的に変更する。
【0025】
以上から判るように本発明の第1の特徴は、地図データベース16の中の道路情報(法定速度、車線幅、車線数など)に、オフロード状態が有り得ない道路(トンネルや地下道など、車両が道から外れることができない道)なのか、有り得る道路なのか(前記以外の道、通常は一般道。例えば道路脇に駐車場などがある道)の道路識別情報B5を追加しておき、マップマッチングの時に、この情報を元に推測経路へのマップマッチングの強度を変化させる点にある。
【0026】
例えば、以下の条件になったとき、自車位置VP近傍の地下道またはトンネルヘの強制マップマッチングを行う。これにより、地下道やトンネルで実際にはあり得ないオフロード状態になることがなくなり、自車位置VPの精度と慣性航法システム1の学習精度を上げることができる。
(1)設定された時間以上(例えば10秒以上)、衛星測位システム2が連続非測位で、慣性航法システム1で自車位置VPは移動していると判断し、自車位置VP近傍(例えば50m以内)に地下道かトンネルがある場合。
(2)前の自車位置VP´の地図データベース16ヘのマッチング率(VP´の軌跡が地図データベース16の道路情報と一致している割合)が予め設定された設定値(例えば90%)より高く、自車位置VPが地図データベース16の地下道またはトンネル上にある場合。
【0027】
また、第2の特徴として、マップマッチングの結果から慣性航法システム1のセンサ3の補正値に関する学習強度を強くする。これにより、前記慣性航法システム1の学習速度も上がることになる。
【0028】
例えば、前記[特許文献1]のようにマップマッチングの結果をニューラルネットに入力して学習を行っているシステムの場合、ニューラルネットの学習強度を設定するための信号(マップマッチング対象としてオフロード状態が有り得ない道路の場合は、学習強度を強制的に強にする)もニューラルネットに入力することで、学習速度を向上させることができる。
【0029】
次に、本カーナビゲーション装置10の制御部(コンピュータによるシステムのソフト制御)が実行する慣性航法システム1の学習機能は例えば図2のフローチャートのようになる。
【0030】
ステップcl:前回までのマップマッチング率が閾値S1より高ければ、オフロード状態が有り得るか、有り得ないかを判定処理するためのマッチング処理ルーチンc4に移行する。
【0031】
ステップc2:衛星測位システム2の連続非測位時間が閾値S2(例えば10秒)より短ければ、通常処理を行うマッチング処埋ルーチンc4に移行する。
【0032】
ステップc3:車速センサ3から自車が停止している状態か否かを判断して、停止していると判断された場合は、通常処理を行うマッチング処理ルーチンc4に移行する。
【0033】
ステップc4:マップマッチング処理を行い、通常の補正値学習c6を行うためのルーチンヘ移行する。
【0034】
ステップc4′:マップマッチング処理(処理内容は、c4と同じ)を行い、マッチングした道路種別を判断するルーチンc5ヘ移行する。
【0035】
ステップc5:オフロードが有り得ない道路にマッチングされたら、学習強度が強い補正値学習c6′ルーチンヘ移行する。オフロードが有り得る一般の道路にマッチングされた場合は、通常の補正値学習c6ルーチンへ移行する。
【0036】
ステップc6:マッチング処理結果とセンサ情報を元に、通常の補正値の学習、変更を行う。
【0037】
ステップc6′:マッチング処理結果とセンサ情報を元に、学習強度を強制的に強くして補正値の学習、変更を行う。
【0038】
以上の構成によって、本ナビゲーション装置10は、衛星測位システム2で連続非測位時間が閾値S2(例えば10秒)以上の連続非測位状態になって、自車位置VP近傍に地下道またはトンネルがある場合、その地下道やトンネルヘのマップマッチングを強制的に行うので、走行中にオフロード状態と誤判断することがなくなり、マップマッチング精度が向上する。
【0039】
また、慣性航法システム1のセンサの補正値B4に関する学習精度及び学習速度が速くなる。特に学習レベルが低いときは地下道またはトンネルを走行中に学習強度が高いので学習速度は飛躍的に速くなる。
【0040】
なお、上記のナビゲーション装置10の機能は、プログラムによりコンピュータに実現させるようにしてもよい。このプログラムは、記録媒体から読み取られてコンピュータに取り込まれてもよいし、通信ネットワークを介して伝送されてコンピュータに取り込まれてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係るカーナビゲーション装置の構成を説明するためのブロック図である。
【図2】本発明に係るカーナビゲーション装置の学習手段を説明するための処理のフローチャートである。
【図3】公知技術のカーナビゲーション装置の構成を説明するためのブロック図である。
【符号の説明】
【0042】
1 慣性航法システム
2 衛星測位システム(衛星航法システム)
3 センサ
5 位置算出部
6、16 地図データベース
7、17 マップマッチング部
8、18 補正値学習部
10、20 カーナビゲーション装置
A1,B1 推定位置
A2,B2 道路情報
A3,B3 マッチング度
A4,B4 補正値
B5 道路識別情報
S1 マップマッチング率の閾値
S2 連続非測位時間の閾値
VP 自車位置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
衛星測位システム及び慣性航法システムから得られた自車の推定位置と地図データベースとのマップマッチングの結果から前記慣性航法システムの精度を高める学習機能を備えるカーナビゲーション装置において、
前記地図データベース中の道路情報につき、車両が道路上から外れるオフロード状態が有り得ない道路か有り得る道路なのかの道路識別情報を得る道路識別手段と、
前記道路識別手段にて得られた前記道路識別情報に基づく推測経路へのマップマッチング時に、設定された所定時間以上前記衛星測位システムが連続非測位であり、且つ、前記慣性航法システムにより自車が移動していると判断され、且つ、自車位置近傍にオフロード状態が有り得ない道路があると検出された場合、または、前の自車位置の前記地図データベースヘのマッチング率が予め設定された設定値より高く、且つ、自車位置が前記地図データベースのオフロード状態が有り得ない道路上にあると検出された場合には、自車位置を前記オフロード状態が有り得ない道路ヘ強制的にマップマッチングするとともに、前記慣性航法システムの学習強度をセンサに対する補正値についての変動率の許容範囲を大きくして強くする強制マップマッチング手段と、
を備えることを特徴とするカーナビゲーション装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−78286(P2006−78286A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−261501(P2004−261501)
【出願日】平成16年9月8日(2004.9.8)
【出願人】(000004329)日本ビクター株式会社 (3,896)
【Fターム(参考)】