説明

カーボンナノチューブ配向集合体の製造装置

【課題】カーボンナノチューブ配向集合体を連続的に製造する装置において、排気管からの排気流量を所定の範囲内に制御することによって、CNT配向集合体の連続製造を安定的に保つことを可能にする。
【解決手段】炉内のガスを排気する排気管14aを備えるカーボンナノチューブ配向集合体の製造装置100において、
排気管14a内の排気流量を測定する排気流量測定手段14と、排気流量測定手段14が測定した結果に基づいて、排気管14a内の排気流量を可変する排気流量可変手段15とを備える排気流量安定化部20を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上にカーボンナノチューブ配向集合体を連続的に製造する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(以下、CNTともいう)は、炭素原子が平面的に六角形状に配置されて構成された炭素シートが円筒状に閉じた構造を有する炭素構造体である。このCNTには、多層のもの及び単層のものがあるが、いずれもその力学的強度、光学特性、電気特性、熱特性、分子吸着機能等の面から、電子デバイス材料、光学素子材料、導電性材料等の機能性材料としての展開が期待されている。
【0003】
CNTの中でも単層CNTは、電気的特性(極めて高い電流密度)、熱的特性(ダイヤモンドに匹敵する熱伝導度)、光学特性(光通信帯波長域での発光)、水素貯蔵能、及び金属触媒担持能などの各種特性に優れている上、半導体と金属との両特性を備えているため、ナノ電子デバイス、ナノ光学素子、及びエネルギー貯蔵体などの材料として注目されている。
【0004】
これらの用途にCNTを有効利用する場合、複数本のCNTが特定の方向に配向して集まった束状、膜状、あるいは塊状の集合体をなし、そのCNT集合体が、電気・電子的、及び光学的などの機能性を発揮することが望ましい。また、CNT集合体は、その長さ(高さ)がより一層大きいことが望ましい。このような配向したCNT集合体が創製されれば、CNTの応用分野が飛躍的に拡大するものと予測される。
【0005】
このCNTの製造方法の一つに、化学気相成長法(以下、CVD法とも称する)が知られている(特許文献1などを参照されたい)。この方法は、約500℃〜1000℃の高温雰囲気下で炭素を含むガス(以下、原料ガスと称す)を触媒の金属微粒子と接触させることを特徴としており、触媒の種類及び配置、あるいは炭素化合物の種類及び反応条件といった態様を様々に変化させた中でのCNTの製造が可能であり、CNTを大量に製造するのに適したものとして注目されている。またこのCVD法は、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)と多層カーボンナノチューブ(MWCNT)とのいずれも製造可能である上、触媒を担持した基板を用いることで、基板面に垂直に配向した多数のCNTを製造することができる、という利点を備えている。
【0006】
CVD法におけるCNT合成工程はフォーメーション工程と成長工程の2つの工程に分けて行われることもある。その場合、フォーメーション工程にて基板に担持された金属触媒は高温の水素ガス(以下、還元ガスと称す)に曝されることで還元され、その後の成長工程にて触媒賦活物質を含む原料ガスを触媒に接触させることでCNTを成長させる。
【0007】
通常のCVD法では、CNTの合成過程で発生する炭素系不純物が触媒微粒子を被覆し、触媒が容易に失活し、CNTが効率良く成長できない。そのため、CVD時の原料ガスの体積分率を0.1〜1%程度に抑えた低炭素濃度雰囲気で合成を行うのが一般的である。原料ガスの供給量とCNTの製造量は比例するため、できるだけ高い炭素濃度雰囲気で合成を行うことが製造効率の向上に直結する。
【0008】
近年になって、CVD法において、原料ガスと共に水などの触媒賦活物質を触媒に接触させることにより、触媒の活性及び寿命を著しく増大させた技術(以下、スーパーグロース法と称す。特許文献7、非特許文献1を参照されたい)が提案されている。触媒賦活物質は触媒微粒子を覆った炭素系不純物を取り除いて触媒の地肌を清浄化する効果があると考えられおり、それによって、著しく触媒の活性が向上すると共に寿命が延びると考えられている。そのため、通常では触媒が失活してしまうような高炭素濃度環境(CVD時の原料ガスの体積分率を2〜20%程度)でも触媒活性が失われず、CNTの製造効率を著しく向上することに成功している。触媒を担持した基板にスーパーグロース法を適用することで合成されるCNTは、比表面積が高く、一本一本のCNTが規則的な方向に配向して集まった集合体を形成していて、かつ嵩密度が低いという特徴を持っている(以下、CNT配向集合体と称す)。
【0009】
従来、CNT集合体は、非常にアスペクト比が高い一次元の細長い柔軟性がある物質であり、かつ強いファン・デア・ワールス力のために、無秩序・無配向でかつ比表面積の小さい集合体を構成し易い。そしていったん無秩序・無配向となった集合体の配向性を再構築することは、極めて困難であるため、成形加工性を有する高比表面積の配向性を持つCNT集合体の製造は困難であった。しかし、スーパーグロース法によって、比表面積が高く、配向性を持ち、かつ様々な形態・形状への成形加工性を持つCNT配向集合体の製造ができるようになり、物質・エネルギー貯蔵材料として、スーパーキャパシターの電極及び指向性を持つ伝熱・放熱材料などの様々な用途に応用できると考えられている。
【0010】
従来、CVD法によるCNTの連続製造を実現させるための製造装置として、様々な提案がなされており、例えば、ベルトコンベア、ターンテーブル等の搬送手段を用いて、連続搬送方式もしくは連続バッチ方式でCNTを連続製造する装置が提案されている(特許文献2〜6を参照されたい)。しかしながら、スーパーグロース法を用いて、CNT配向集合体を連続製造する場合、従来の合成法ではみられなかった高炭素環境下及び/又は触媒賦活物質を使用することに由来する特有の技術課題が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−171108号公報(2003年6月17日公開)
【特許文献2】特開2004−332093号公報(2004年11月25日公開)
【特許文献3】特開2006−117527号公報(2006年5月11日公開)
【特許文献4】特開2007−91556号公報(2007年4月12日公開)
【特許文献5】特開2007−92152号公報(2007年4月12日公開)
【特許文献6】特開2008−63196号公報(2008年3月21日公開)
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Kenji Hata et. al., Water−Assisted Highly Efficient Synthesis of Impurity−Free Single−Walled Carbon Nanotubes, SCIENCE, 2004.11.19, VOl.306, p.1362−1364
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
CNT配向集合体の製造においては、触媒に供給される原料ガスと触媒賦活物質の量を適正な範囲に制御する必要がある。そのためには原料ガス及び/又は触媒賦活物質の基材上での濃度分布及び流速分布を、CNTの製造に適した範囲内で均一に制御することが必要である。特に、CNTの製造に適した触媒賦活物質の濃度範囲は極微量であるため精密な制御が要求される。
【0014】
また、炉内におけるガスの乱流及び滞留もCNT配向集合体の製造に影響を及ぼすことが経験的に知られている。成長炉内のガスの流れをできるだけ乱さずに、速やかに排気するようなガスの流れパターンに制御することも要求される。
【0015】
CNT配向集合体の製造で発生する排気中には炭化水素環化物等のCNT以外の炭素系副生物(以下、炭素固形物)が含まれている。従来知られているCNT製造法よりも原ガス環境が高炭素濃度環境で行われるため炭素固形物はより大量に発生し、連続製造時にはこれら炭素固形物が排気管中に付着することで排気の詰りを生じてしまう。結果、排気量を一定に保つことが非常に難しい問題であった。特に、排気管が複数本あって、それらが製造炉を介して空間的に繋がっている場合、各排気管からの排気流量は微妙なバランスの上に成り立っているため、各排気管からの排気流量の経時的変化はより複雑なものになる。排気管ごとに炭素固形物の付着具合が異なることも、各排気管からの排気流量変化が複雑になる要因となる。
【0016】
排気流量の変化は炉内ガスの乱流及び滞留の原因になり、CNT配向集合体の製造に悪影響を及ぼす。特に、各排気管からの排気流量バランスが崩れることは、原料ガス及び/又は触媒賦活物質の基材上での濃度分布及び流速分布の不均一、ガス流れパターン変化などの原因になり、CNT配向集合体の製造に多大な悪影響を及ぼす。
【0017】
連続製造時においては、排気管内を掃除した後であってもおよそ数時間で排気管が詰り製品不良が発生してしまっていた。ひとたび製品不良が発生すると、各排気管の排気流量を調整する作業が数日程度必要になり、CNT配向集合体の製造効率を著しく損なっていた。
【0018】
本発明は、このような従来技術の不都合を解消すべく案出されたものであり、その主な目的は、カーボンナノチューブ配向集合体を連続的に製造する装置において、排気管からの排気流量を所定の範囲内に制御することによって、CNT配向集合体の連続製造を安定的に保つことを可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
このような目的を達成するために本発明の例示的側面としてのカーボンナノチューブ配向集合体の製造装置は、炉内のガスを排気する排気管を備えるカーボンナノチューブ配向集合体の製造装置において、前記排気管内の排気流量を測定する排気流量測定手段と、前記排気流量測定手段が測定した結果に基づいて、前記排気管内の排気流量を可変する排気流量可変手段とを備える排気流量安定化部を備えていることを特徴とする。
【0020】
さらに、前記排気管は、表面に触媒を担持した基材上にカーボンナノチューブ配向集合体を成長させる成長炉内のガスを排気するものであってもよい。
【0021】
さらに、前記排気流量可変手段は、前記排気流量測定手段が測定した前記排気管内の排気流量が、予め設定された制御範囲の上限を上回った場合は、前記排気流量を下げるように制御し、前記排気流量測定手段が測定した前記排気管内の排気流量が、予め設定された制御範囲の下限を下回った場合は、前記排気流量を上げるように制御する、排気流量制御手段を備えていてもよい。
【0022】
さらに、前記排気流量測定手段は、前記排気管内の離れた少なくとも2箇所の圧力差を測定することで前記排気管内の排気流量を測定するものであってもよい。
【0023】
さらに、前記排気流量安定化部は、前記排気流量測定手段によって圧力差が測定される区間の排気管を高温に加熱及び/又は保温することで、前記区間の排気管内に炭素固形物が付着することを防止する炭素固形物付着防止手段を備えていてもよい。
【0024】
さらに、前記炭素固形物付着防止手段は、前記区間の排気管内のガスが150℃以上700℃以下になるように、前記区間の排気管を加熱及び/又は保温するものであってもよい。
【0025】
本発明の更なる目的又はその他の特徴は、以下添付図面を参照して説明される好ましい実施の形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0026】
本発明のカーボンナノチューブ配向集合体の製造装置は、炉内のガスを排気する排気管を備えるカーボンナノチューブ配向集合体の製造装置において、前記排気管内の排気流量を測定する排気流量測定手段と、前記排気流量測定手段が測定した結果に基づいて、前記排気管内の排気流量を可変する排気流量可変手段とを備える排気流量安定化部を備えている。
【0027】
これによって、カーボンナノチューブ配向集合体の連続製造時において、排気管内側に炭素固形物が付着することによって、排気流量が経時的に変化しても、排気流量安定化部が、排気管からの排気流量を安定化することによって、CNT配向集合体の連続製造を安定的に保つことが可能になる。
【0028】
また、前記排気流量測定手段は、前記排気管内の離れた少なくとも2箇所の圧力差を測定することで前記排気管内の排気流量を測定するものであってもよい。さらに、前記排気流量安定化部は、前記排気流量測定手段によって圧力差が測定される区間の排気管を高温に加熱及び/又は保温することで、前記区間の排気管内に炭素固形物が付着することを防止する炭素固形物付着防止手段を備えていてもよい。
【0029】
これによって、前記区間の排気管内に付着する炭素固形物が減少するので、長時間に亘って正確な排気流量の測定が可能になる。よって、CNT配向集合体の連続製造をより長時間に亘って安定的に保つことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】(a)は、本発明に係るカーボンナノチューブ配向集合体の製造装置における排気流量安定化部の一実施例の構造を模式的に示す図であり、(b)は、図1の(a)に示す排気流量安定化部における圧力損失部(オリフィスプレート)の上面図である。
【図2】本発明に係るカーボンナノチューブ配向集合体の製造装置における排気流量安定化部の他の実施例の構造を模式的に示す図である。
【図3】本発明に係るカーボンナノチューブ配向集合体の製造装置の一実施形態の構造を模式的に示す図である。
【図4】本発明に係るカーボンナノチューブ配向集合体の製造装置の他の実施形態の構造を模式的に示す図である。
【図5】本発明における排気流量安定化部の一実施例において、排気組成が体積比で窒素:水素=10:0の場合における排気流量と圧力差との関係を示すグラフである。
【図6】本発明における排気流量安定化部の一実施例において、排気組成が体積比で窒素:水素=4:6の場合における排気流量と圧力差との関係を示すグラフである。
【図7】本発明における排気流量安定化部の他の実施例において、排気温度と炭素固形物の付着速度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0032】
(CNT配向集合体)
本発明において製造されるカーボンナノチューブ配向集合体(以下、「CNT配向集合体」ということもある。)とは、基材から成長した多数のCNTが特定の方向に配向した構造体をいう。CNT配向集合体の好ましい比表面積は、CNTが主として未開口のものにあっては、600m/g以上であり、CNTが主として開口したものにあっては、1300m/g以上である。比表面積が600m/g以上の未開口のもの、若しくは1300m/g以上の開口したものは、金属などの不純物、若しくは炭素不純物を重量の数十パーセント(40%程度)より低く抑えることができるので好ましい。
【0033】
重量密度は0.002g/cm〜0.2g/cmであることが好ましい。重量密度が0.2g/cm以下であれば、CNT配向集合体を構成するCNT同士の結びつきが弱くなるので、CNT配向集合体を溶媒などに攪拌した際に、均質に分散させることが容易になる。つまり、重量密度が0.2g/cm以下とすることで、均質な分散液を得ることが容易となる。また重量密度が0.002g/cm以上であれば、CNT配向集合体の一体性を向上させ、バラけることを抑制できるため取扱いが容易になる。
【0034】
特定方向に配向したCNT配向集合体は高い配向度を有していることが好ましい。高い配向度とは、
1.CNTの長手方向に平行な第1方向と、第1方向に直交する第2方向とからX線を入射してX線回折強度を測定(θ−2θ法)した場合に、第2方向からの反射強度が、第1方向からの反射強度より大きくなるθ角と反射方位とが存在し、且つ第1方向からの反射強度が、第2方向からの反射強度より大きくなるθ角と反射方位とが存在すること。
【0035】
2.CNTの長手方向に直交する方向からX線を入射して得られた2次元回折パターン像でX線回折強度を測定(ラウエ法)した場合に、異方性の存在を示す回折ピークパターンが出現すること。
【0036】
3.ヘルマンの配向係数が、θ−2θ法又はラウエ法で得られたX線回折強度を用いると0より大きく1より小さいこと。より好ましくは0.25以上、1以下であること。
【0037】
以上の1.から3.の少なくともいずれか1つの方法によって評価することができる。また、前述のX線回折法において、単層CNT間のパッキングに起因する(CP)回折ピーク、(002)ピークの回折強度及び単層CNTを構成する炭素六員環構造に起因する(100)、(110)ピークの平行と垂直との入射方向の回折ピーク強度の度合いが互いに異なるという特徴も有している。
【0038】
CNT配向集合体が配向性、及び高比表面積を示すためには、CNT配向集合体の高さ(長さ)は10μm以上、10cm以下の範囲にあることが好ましい。高さが10μm以上であると、配向性が向上する。また高さが10cm以下であると、生成を短時間で行なえるため炭素系不純物の付着を抑制でき、比表面積を向上できる。
【0039】
(基材)
基材はその表面にカーボンナノチューブの触媒を担持することのできる部材であればよく、400℃以上の高温でも形状を維持できるものが好ましい。CNTの製造に実績のある材質としては、例えば、鉄、ニッケル、クロム、モリブデン、タングステン、チタン、アルミニウム、マンガン、コバルト、銅、銀、金、白金、ニオブ、タンタル、鉛、亜鉛、ガリウム、インジウム、ガリウム、ゲルマニウム、砒素、インジウム、燐、及びアンチモンなどの金属、並びにこれらの金属を含む合金及び酸化物、又はシリコン、石英、ガラス、マイカ、グラファイト、及びダイヤモンドなどの非金属、並びにセラミックなどが挙げられる。金属材料はシリコン及びセラミックと比較して、低コストであるから好ましく、特に、Fe−Cr(鉄−クロム)合金、Fe−Ni(鉄−ニッケル)合金、Fe−Cr−Ni(鉄−クロム−ニッケル)合金などは好適である。
【0040】
基材の態様としては、平板状以外に、薄膜状、ブロック状、あるいは粉末状などでもよいが、特に体積の割に表面積を大きくとれる態様が大量に製造する場合において有利である。
【0041】
(浸炭防止層)
この基材の表面又は裏面の少なくともいずれか一方には、浸炭防止層が形成されてもよい。もちろん、表面及び裏面の両面に浸炭防止層が形成されていることが望ましい。この浸炭防止層は、カーボンナノチューブの生成工程において、基材が浸炭されて変形してしまうのを防止するための保護層である。
【0042】
浸炭防止層は、金属又はセラミック材料によって構成されることが好ましく、特に浸炭防止効果の高いセラミック材料であることが好ましい。金属としては、銅及びアルミニウムなどが挙げられる。セラミック材料としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、シリカアルミナ、酸化クロム、酸化ホウ素、酸化カルシウム、酸化亜鉛などの酸化物、窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの窒化物が挙げられ、なかでも浸炭防止効果が高いことから、酸化アルミニウム、酸化ケイ素が好ましい。
【0043】
(触媒)
基材、若しくは浸炭防止層上には、触媒が担持されている。触媒としては、例えば、CNTの製造に実績のあるものを適宜用いてもよく、具体的には鉄、ニッケル、コバルト、モリブデン、並びに、これらの塩化物及び合金、またこれらが、さらにアルミニウム、アルミナ、チタニア、窒化チタン、酸化シリコンと複合化、また層状になっていてもよい。例えば、鉄−モリブデン薄膜、アルミナ−鉄薄膜、アルミナ−コバルト薄膜、及びアルミナ−鉄−モリブデン薄膜、アルミニウム−鉄薄膜、アルミニウム−鉄−モリブデン薄膜などを例示することができる。触媒の存在量としては、例えば、これまでのCNTの製造に実績のある範囲で使用してもよく、鉄を用いる場合、製膜厚さは、0.1nm以上100nm以下が好ましく、0.5nm以上5nm以下がさらに好ましく、0.8nm以上2nm以下が特に好ましい。
【0044】
基材表面への触媒の形成は、ウェットプロセス又はドライプロセスのいずれを適用してもよい。具体的には、スパッタリング蒸着法、金属微粒子を適宜な溶媒に分散させた液体の塗布・焼成法などを適用することができる。また周知のフォトリソグラフィー又はナノインプリンティングなどを適用したパターニングを併用して触媒を任意の形状とすることもできる。
【0045】
本発明の製造装置を用いた製造方法においては、基材上に成膜する触媒のパターニング及びCNTの成長時間により、薄膜状、円柱状、角柱状、及びその他の複雑な形状をしたものなど、CNT配向集合体の形状を任意に制御することができる。特に薄膜状のCNT配向集合体は、その長さ及び幅寸法に比較して厚さ(高さ)寸法が極端に小さいが、長さ及び幅寸法は、触媒のパターニングによって任意に制御可能であり、厚さ寸法は、CNT配向集合体を構成する各CNTの成長時間によって任意に制御可能である。
【0046】
(還元ガス)
還元ガスは、一般的には、触媒の還元、触媒のCNTの成長に適合した状態の微粒子化促進、触媒の活性向上の少なくとも一つの効果を持つ、成長温度において気体状のガスである。還元ガスとしては、例えば、これまでのCNTの製造に実績のあるものを用いてもよく、典型的には還元性を有したガスであり、例えば水素ガス、アンモニア、水蒸気及びそれらの混合ガスを適用することができる。また、水素ガスをヘリウムガス、アルゴンガス、窒素ガスなどの不活性ガスと混合した混合ガスでもよい。還元ガスは、一般的には、フォーメーション工程で用いるが、適宜成長工程に用いてもよい。
【0047】
(原料ガス)
本発明においてCNTの生成に用いる原料としては、例えば、これまでのCNTの製造に実績のあるものを適宜用いてもよく、一般的には、成長温度において原料炭素源を有するガスである。なかでもメタン、エタン、エチレン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンプロピレン、及びアセチレンなどの炭化水素が好適である。この他にも、メタノール、エタノールなどの低級アルコール、及び、アセトン、一酸化炭素などの低炭素数の含酸素化合物でもよい。これらの混合物も使用可能である。またこの原料ガスは、不活性ガスで希釈されていてもよい。
【0048】
(不活性ガス)
不活性ガスとしては、CNTが成長する温度で不活性であり、触媒の活性を低下させず、且つ成長するCNTと反応しないガスであればよく、例えば、これまでのCNTの製造に実績のあるものを適宜用いてもよく、ヘリウム、アルゴン、窒素、ネオン、クリプトン、水素、及び塩素など、並びにこれらの混合ガスを例示でき、特に窒素、ヘリウム、アルゴン、及びこれらの混合ガスが好適である。原料ガスの種類によっては水素と化学反応を生じる場合がある。その場合にはCNTの成長が阻害されない程度に水素量を低減する必要が生じる。例えば、原料ガスとしてエチレンを用いる場合、水素濃度は1%以下が好ましい。
【0049】
(触媒賦活物質)
CNTの成長工程において、触媒賦活物質を添加してもよい。触媒賦活物質の添加によって、カーボンナノチューブの製造効率及び純度をより一層改善することができる。ここで用いる触媒賦活物質としては、例えば酸素を含む物質であり、成長温度でCNTに多大なダメージを与えない物質が好ましく、水の他に、例えば、硫化水素、酸素、オゾン、酸性ガス、酸化窒素、一酸化炭素、及び二酸化炭素などの低炭素数の含酸素化合物、あるいはエタノール、メタノールなどのアルコール類、テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトンなどのケトン類、アルデヒドロ類、エステル類、酸化窒素、並びにこれらの混合物が、より有効である。この中でも、水、酸素、二酸化炭素、及び一酸化炭素、あるいはテトラヒドロフランなどのエーテル類が好ましく、特に水が好適である。
【0050】
触媒賦活物質の添加量に格別な制限はないが、微量でよく、水の場合には、例えば10ppm以上10000ppm以下、好ましくは50ppm以上1000ppm以下、さらに好ましくは100ppm以上700ppm以下の範囲とするとよい。
【0051】
触媒賦活物質の機能のメカニズムは、現時点では以下のように推測される。CNTの成長過程において、副次的に発生したアモルファスカーボン、グラファイトなどが触媒に付着すると触媒は失活してしまいCNTの成長が阻害される。しかし、触媒賦活物質が存在すると、アモルファスカーボン、グラファイトなどを一酸化炭素、二酸化炭素などに酸化させることでガス化するため、触媒が清浄化され、触媒の活性を高めかつ活性寿命を延長させる作用(触媒賦活作用)が発現すると考えられている。
【0052】
この触媒賦活物質の添加により、触媒の活性が高められかつ寿命が延長する。添加しない場合は高々2分間程度で終了したCNTの成長が添加することによって数十分間継続する上、成長速度は100倍以上、さらには1000倍にも増大する。この結果、その高さが著しく増大したCNT配向集合体が得られることになる。
【0053】
(高炭素濃度環境)
高炭素濃度環境とは、全流量に対する原料ガスの割合が2〜20%程度の成長雰囲気のことをいう。触媒賦活物質を用いない化学気相成長法では、炭素濃度を高くするとCNTの合成過程で発生する炭素系不純物が触媒微粒子を被覆し、触媒が容易に失活し、CNTが効率良く成長できないので、全流量に対する原料ガスの割合が0.1〜1%程度の成長雰囲気(低炭素濃度環境)で合成を行う。
【0054】
触媒賦活物質存在下においては、触媒活性が著しく向上するため、高炭素濃度環境化においても、触媒は活性を失わず、長時間のCNTの成長が可能となると共に、成長速度が著しく向上する。しかしながら、高炭素濃度環境では低炭素濃度環境に比べ、炉壁などに炭素汚れが大量に付着する。
【0055】
(炉内圧力)
炉内圧力としては10Pa以上、10Pa(100気圧)以下が好ましく、10Pa以上、3×10Pa(3大気圧)以下がさらに好ましい。
【0056】
(反応温度)
CNTを成長させる反応温度は、金属触媒、原料炭素源、及び反応圧力などを考慮して適宜に定められるが、触媒失活の原因となる副次生成物を排除するために触媒賦活物質を添加する工程を含む場合は、その効果が十分に発現する温度範囲に設定することが望ましい。つまり、最も望ましい温度範囲としては、アモルファスカーボン、グラファイトなどの副次生成物を触媒賦活物質が除去し得る温度を下限値とし、主生成物であるCNTが触媒賦活物質によって酸化されない温度を上限値とすることである。
【0057】
具体的には、触媒賦活物質として水を用いる場合は、好ましくは400℃〜1000℃とすることである。400℃以上で触媒賦活物質の効果が良好に発現され、1000℃以下では、触媒賦活物質がCNTと反応することを抑制できる。
【0058】
また触媒賦活物質として二酸化炭素を用いる場合は、400℃〜1100℃以下とすることがより好ましい。400℃以上で触媒賦活物質の効果が良好に発現され、1100℃以下では、触媒賦活物質がCNTと反応することを抑制できる。
【0059】
(フォーメーション工程)
フォーメーション工程とは、基材に担持された触媒の周囲環境を還元ガス環境とすると共に、触媒又は還元ガスの少なくとも一方を加熱する工程である。この工程により、触媒の還元、触媒のCNTの成長に適合した状態の微粒子化促進、触媒の活性向上の少なくとも一つの効果が現れる。例えば、触媒がアルミナ−鉄薄膜である場合、鉄触媒は還元されて微粒子化し、アルミナ層上にナノメートルサイズの鉄微粒子が多数形成される。これにより触媒はCNT配向集合体の製造に好適な触媒に調製される。この工程を省略してもCNTを製造することは可能であるが、この工程を行うことでCNT配向集合体の製造量及び品質を飛躍的に向上させることができる。
【0060】
(成長工程)
成長工程とは、フォーメーション工程によってCNT配向集合体の製造に好適な状態となった触媒の周囲環境を原料ガス環境とすると共に、触媒及び原料ガスの少なくとも一方を加熱することにより、CNT配向集合体を成長させる工程である。
【0061】
(冷却工程)
冷却工程とは、成長工程後にCNT配向集合体、触媒、基材を冷却ガス下に冷却する工程である。成長工程後のCNT配向集合体、触媒、基材は高温状態にあるため、酸素存在環境下に置かれると酸化してしまうおそれがある。それを防ぐために冷却ガス環境下でCNT配向集合体、触媒、基材を例えば400℃以下、さらに好ましくは200℃以下に冷却する。冷却ガスとしては不活性ガスが好ましく、特に安全性、コストなどの点から窒素であることが好ましい。
【0062】
(炭素固形物)
炭素固形物とは、原料ガスを加熱することで発生する炭化水素の環化物のことである。エチレン10%を含む原料ガスを1s程度800℃加熱した場合に発生する炭素固形物は分子量300〜900あたりにピークを持つブロードな分子量分布を持ち、低分子成分としてはナフタレン、ビフェニレン、フルオレン、フェナントレン、アントラセン、ピレンなどを含んでいる。炭素固形物は空気中で700℃以上に加熱することで、ガス化することができる。
【0063】
(製造装置)
図3に本発明に係るCNT配向集合体製造装置の一実施形態を示す。本実施の形態に係る製造装置100は、大略、入口パージ部1、フォーメーションユニット2、成長ユニット3、搬送ユニット6、ガス混入防止手段11、12、13、接続部7、8、9、冷却ユニット4、出口パージ部5、排気流量安定化部20から構成されている。以下、各構成について説明する。
【0064】
(入口パージ部1)
入口パージ部1とは基材入口から製造装置100の有する炉内へ外気が混入することを防止するための装置一式のことである。製造装置100内に搬送された触媒基板10(表面に触媒を担持した基材)の周囲環境をパージガスで置換する機能を有する。具体的には、パージガスを保持するための炉又はチャンバ、パージガスを噴射するための噴射部などが設けられている。パージガスは不活性ガスが好ましく、特に安全性、コストなどの点から窒素であることが好ましい。ベルトコンベア方式など触媒基板10の入口が常時開口している場合は、パージガス噴射部としてパージガスを上下からシャワー状に噴射するガスカーテン装置とし、装置入口から外気が混入することを防止することが好ましい。後述するガス混入防止手段11のみでも炉内への外気混入を防止することは可能であるが、装置の安全性を高めるために入口パージ部1を備えていることが好ましい。
【0065】
(フォーメーションユニット2)
フォーメーションユニット2とは、フォーメーション工程を実現するための装置一式のことであり、触媒基板10の表面に形成された触媒の周囲環境を還元ガス環境とすると共に、触媒と還元ガスとの少なくとも一方を加熱する機能を有する。具体的には、還元ガスを保持するためのフォーメーション炉2a、還元ガスを噴射するための還元ガス噴射部2b、フォーメーション炉2a内のガスを排気するための排気フード2d、触媒及び還元ガスの少なくとも一方を加熱するためのヒーター2cなどが挙げられる。ヒーター2cとしては400℃から1100℃の範囲で加熱することができるものが好ましく、例えば、抵抗加熱ヒーター、赤外線加熱ヒーター、電磁誘導式ヒーターなどが挙げられる。
【0066】
(成長ユニット3)
成長ユニット3とは、成長工程を実現するための装置一式のことであり、フォーメーション工程によってCNT配向集合体の製造に好適な状態となった触媒の周囲環境を原料ガス環境とすると共に、触媒及び原料ガスの少なくとも一方を加熱することでCNT配向集合体を成長させる機能を有する。具体的には、原料ガス環境を保持するための成長炉3a、原料ガスを噴射するための原料ガス噴射部3b、成長炉3a内のガスを排気するための排気フード3d、触媒と原料ガスの少なくとも一方を加熱するためのヒーター3cなどが挙げられる。原料ガス噴射部3b及び排気フード3dはそれぞれ少なくとも1つ以上備えられており、全ての原料ガス噴射部3bから噴射される全ガス流量と、全ての排気フード3dから排気される全ガス流量は、ほぼ同量又は同量であることが好ましい。このようにすることが、原料ガスが成長炉3a外へ流出すること、及び成長炉3a外のガスを成長炉3a内に流入させることを防止する。後で述べるガス混入防止手段12を併用することによって、原料ガス及び/又は触媒賦活物質の触媒基板10上における濃度分布、流速分布、及び成長炉3a内におけるガスの流れパターンは、成長ユニット3の原料ガス噴射部3b及び排気フード3dの設計によって如何様にも制御することが可能になる。よって、CNT配向集合体の連続製造に好適な製造装置を実現できる。ヒーター3cとしては400℃から1100℃の範囲で加熱することができるものが好ましく、例えば、抵抗加熱ヒーター、赤外線加熱ヒーター、電磁誘導式ヒーターなどが挙げられる。さらに成長炉3a内に触媒賦活物質を添加するための触媒賦活物質添加手段を備えているとよい。
【0067】
このように、フォーメーション工程と成長工程を実現するユニットをそれぞれ別々に設けることは、フォーメーション炉2aの内壁に炭素汚れが付着することを防止することになるので、CNT配向集合体の製造にとってより好ましい。
【0068】
(触媒賦活物質添加手段)
触媒賦活物質添加手段(図示せず)は触媒賦活物質を成長炉3a内に添加するものであり、例えば、原料ガス中に添加したり、あるいは成長炉3a内の空間にある触媒の周囲環境に触媒賦活物質を直接添加したりするための装置一式のことである。触媒賦活物質の供給手段としては、特に限定されることはないが、例えば、バブラーによる供給、触媒賦活物質を含有した溶液を気化しての供給、気体そのままでの供給、及び固体触媒賦活物質を液化・気化しての供給などが挙げられ、気化器、混合器、攪拌器、希釈器、噴霧器、ポンプ、及びコンプレッサなどの各種の供給機器を用いた供給システムを構築することができる。触媒賦活物質添加手段は成長ユニット3に設けられており、かかる供給機器を介して成長炉3aと接続されている。また、触媒賦活物質の供給管などに触媒賦活物質濃度の計測装置を設けていてもよい。この出力値を用いてフィードバック制御することにより、経時変化の少ない安定な触媒賦活物質の供給を行うことができる。
【0069】
(搬送ユニット6)
搬送ユニット6とは、少なくともフォーメーションユニット2から成長ユニット3まで触媒基板10を搬送するために必要な装置一式のことである。具体的には、ベルトコンベア方式におけるメッシュベルト6a、減速機付き電動モータを用いたベルト駆動部6bなどが挙げられる。
【0070】
(ガス混入防止手段11、12、13)
ガス混入防止手段11、12、13とは、外気と製造装置100の炉内のガスが相互に混入すること、又は製造装置100内の炉(例えば、フォーメーション炉2a、成長炉3a、冷却炉4a)間でガス同士が相互に混入することを防止する機能を実現するための装置一式のことであり、触媒基板10の搬送のための出入口近傍、又は製造装置100内の空間と空間とを接続する接続部7、8、9に設置される。このガス混入防止手段11、12、13は、各炉における触媒基板10の入口及び出口の開口面に沿ってシールガスを噴出するシールガス噴射部11b、12b、13bと、主に噴射されたシールガス(及びその他近傍のガス)を各炉内に入らないように吸引して製造装置100の外部に排気する排気部11a、12a、13aとを、それぞれ少なくとも1つ以上を備えている。シールガスが炉の開口面に沿って噴射されることで、シールガスが炉の出入り口を塞ぎ、炉外のガスが炉内に混入することを防ぐ。また、当該シールガスを製造装置100外に排気することにより、当該シールガスが炉内に混入することを防ぐ。シールガスは不活性ガスであることが好ましく、特に安全性、コストなどの点から窒素であることが好ましい。シールガス噴射部11b、12b、13bと排気部11a、12a、13aの配置としては、1つのシールガス噴射部に隣接して1つの排気部を配置してもよいし、メッシュベルトを挟んでシールガス噴射部に対面するように排気部を配置してもよいが、ガス混入防止手段の全体の構成が、炉長方向に対称な構造となるようにシールガス噴射部及び排気部を配置することが好ましい。例えば、図3に示すように、1つの排気部の両端にシールガス噴射部を2つ配置し、排気部を中心にして炉長方向に対称な構造とするとよい。また、シールガス噴射部11b、12b、13bから噴射される全ガス流量と排気部から排気される全ガス流量はほぼ同量であることが好ましい。これによって、ガス混入防止手段11、12、13を挟んだ両側の空間からのガスが相互に混入することを防止するとともに、シールガスが両側の空間に流出することも防止することが可能になる。このようなガス混入防止手段12、13を成長炉3aの両端に設置することで、シールガスの流れと成長炉3a内のガスの流れが相互に干渉することを防止できる。よって、原料ガス及び/又は触媒賦活物質の触媒基板10上における濃度分布、流速分布、及び成長炉3a内におけるガスの流れパターンは、成長ユニット3の原料ガス噴射部3b及び排気フード3dの設計によって如何様にも制御することが可能になる。また、シールガスの成長炉3a内流入によるガス流れの乱れも防止されている。よって、CNT配向集合体の連続製造に好適な製造装置100を実現できる。
【0071】
ガス混入防止手段11、12、13によって防止されるガス混入の程度としては、CNT配向集合体の製造を阻害しない程度であることが好ましい。特に、フォーメーション工程を行う場合は、フォーメーション炉2a内還元ガス環境中の炭素原子個数濃度を5×1022個/m以下、より好ましくは1×1022個/m以下に保つように、原料ガスがフォーメーション炉2a内へ混入することを、ガス混入防止手段11、12が防止することが好ましい。
【0072】
なお、本実施の形態におけるガス混入防止手段12、13は、本発明に係る製造装置が備える第1のガス混入防止手段として機能するものであり(つまり、排気部12a、13aが本発明における第1の排気部、シールガス噴射部12b、13bが本発明における第1のシールガス噴射部として機能するものである)、本実施の形態におけるガス混入防止手段11、12は、本発明に係る製造装置が備える第2のガス混入防止手段として機能するものである(つまり、排気部11a、12aが本発明における第2の排気部、シールガス噴射部11b、12bが本発明における第2のシールガス噴射部として機能するものである)。即ち、第1のガス混入防止手段と第2のガス混入防止手段とは同様の構成で実現できるため、一つのガス混入防止手段12が第1のガス混入防止手段及び第2のガス混入防止手段として機能するのである(同様に排気部12a、シールガス噴射部12bは、それぞれ、第1の排気部及び第2の排気部、第1のシールガス噴射部及び第2のシールガス噴射部として機能する)。
【0073】
(炭素原子個数濃度)
原料ガスがフォーメーション炉2a内空間に混入すると、CNTの成長に悪影響を及ぼす。フォーメーション炉2a内還元ガス環境中の炭素原子個数濃度を5×1022個/m以下、より好ましくは1×1022個/m以下に保つように、ガス混入防止手段11、12により原料ガスのフォーメーション炉2a内への混入を防止すると良い。ここで炭素原子個数濃度は、還元ガス環境中の各ガス種(i=1、2、・・・)に対して、濃度(ppmv)をD、D・・・、標準状態での密度(g/m)をρ、ρ・・・、分子量をM、M・・・、ガス分子1つに含まれる炭素原子数をC、C・・・、アボガドロ数をNとして下記数式(1)で計算している。
【0074】
【数1】

【0075】
フォーメーション炉2a内における還元ガス環境中の炭素原子個数濃度を5×1022個/m以下に保つことによって、CNTの製造量及び品質を良好に保つことができる。炭素原子個数濃度が5×1022個/m以上となるとフォーメーション工程において、触媒の還元、触媒のCNTの成長に適合した状態の微粒子化促進、触媒の活性向上の少なくとも一つの効果が阻害され、成長工程におけるCNTの製造量減少、品質の劣化を引き起こす。
【0076】
(接続部7、8、9)
各ユニットの炉内空間を空間的に接続し、触媒基板10がユニットからユニットへ搬送される時に、触媒基板10が外気に曝されることを防ぐための装置一式のことである。具体的には、触媒基板10の周囲環境と外気を遮断し、触媒基板10をユニットからユニットへ通過させることができる炉又はチャンバなどが挙げられる。
【0077】
(冷却ユニット4)
冷却ユニット4とは、CNT配向集合体が成長した触媒基板10を冷却するために必要な装置一式のことである。成長工程後のCNT配向集合体、触媒、基材の酸化防止と冷却とを実現する機能を有する。具体的には、冷却ガスを保持するための冷却炉4a、水冷式の場合は冷却炉内空間を囲むように配置した水冷冷却管4c、空冷式の場合は冷却炉内空間に冷却ガスを噴射する冷却ガス噴射部4bなどが挙げられる。また、水冷方式と空冷方式とを組み合わせてもよい。
【0078】
(出口パージ部5)
出口パージ部5とは触媒基板10の出口から装置炉内へ外気が混入することを防止するための装置一式のことである。触媒基板10の周囲環境をパージガス環境にする機能を有する。具体的には、パージガス環境を保持するための炉又はチャンバ、パージガスを噴射するための噴射部などが挙げられる。パージガスは不活性ガスが好ましく、特に安全性、コストなどの点から窒素であることが好ましい。ベルトコンベア方式など触媒基板10の出口が常時開口している場合は、パージガス噴射部としてパージガスを上下からシャワー状に噴射するガスカーテン装置とし、装置出口から外気が混入することを防止することが好ましい。ガス混入防止手段13のみでも炉内への外気混入を防止することは可能であるが、装置の安全性を高めるために出口パージ部5を備えていることが好ましい。
【0079】
(還元ガス、原料ガス、触媒賦活物質の噴射部)
還元ガス、原料ガス、触媒賦活物質の噴射部として、触媒基板10の触媒形成面を臨む位置に設けられた複数の噴出孔を備えるシャワーヘッドを用いてもよい。臨む位置とは、各噴出孔の、噴射軸線が触媒基板10の法線と成す角が0以上90°未満となるように設けられている。つまりシャワーヘッドに設けられた噴出孔から噴出するガス流の方向が、触媒基板10に概ね直交するようにされている。
【0080】
還元ガスの噴射部としてこのようなシャワーヘッドを用いると、還元ガスを触媒基板10上に均一に散布することができ、効率良く触媒を還元することができる。結果、触媒基板10上に成長するCNT配向集合体の均一性を高めることができ、かつ還元ガスの消費量を削減することもできる。
【0081】
原料ガスの噴射部としてこのようなシャワーヘッドを用いると、原料ガスを触媒基板10上に均一に散布することができ、効率良く原料ガスを消費することができる。結果、触媒基板10上に成長するCNT配向集合体の均一性を高めることができ、かつ原料ガスの消費量を削減することもできる。
【0082】
触媒賦活物質の噴射部としてこのようなシャワーヘッドを用いると、触媒賦活物質を触媒基板10上に均一に散布することができ、触媒の活性が高まると共に寿命が延長するので、配向CNTの成長を長時間継続させることが可能となる。これは触媒賦活物質を原料ガスに添加し、噴射部としてシャワーヘッドを用いた場合でも同様である。
【0083】
(フォーメーション及び成長ユニットの排気フード)
フォーメーションユニット2及び成長ユニット3の排気フード2d、3dとしては、還元ガス、又は原料ガス及び触媒賦活物質を、触媒基板10上から均一に排気することができる構造であることが好ましい。具体的には、炉の両側壁に複数の排気孔を設けて、各排気孔から排気されるガスを1つの排気管へと集約するような排気フードを炉の両側面外側に設置してもよい。その場合、各排気孔から排気されるガス流量が炉長方向に均一になるように、排気フードの構造を設計することが好ましい。これによって、触媒基板10上のガスを均一に且つ速やかに排気することが可能になり、CNT配向集合体の連続製造に好適な製造装置を実現できる。
【0084】
(排気流量安定化部20)
排気流量安定化部20とは、成長炉3aを含む炉内のガスを排気する排気管に備えられ、長時間製造による排気管内への炭素固形物付着が生じたとしても、排気管からの排気流量を経時的に安定化することができる装置のことである。少なくとも、排気管内の排気流量を測定するための排気流量測定手段14と、排気管内の排気流量を可変するための排気流量可変手段15を備えている。また、炭素固形物付着防止手段(図示せず)をさらに備えていてもよい。
【0085】
排気流量安定化部20は、排気流量測定手段14によって測定された排気流量値が、例えば排気管毎に予め設定された好適な排気流量を中心値として相対誤差で±20%以内の範囲、より好ましくは±10%の範囲になるように、排気流量可変手段15によって排気流量を制御する。このような範囲を「制御範囲」ということとする。より具体的には、まず、排気流量測定手段14が、例えば測定された圧力差と排気温度とから換算式に基づいて演算処理を行うことなどによって、排気流量を算出(測定)する。次に、排気流量可変手段15が備える排気流量制御手段が、上記排気流量が予め設定された制御範囲の上限を上回った場合は、例えば排気流量可変手段15の吸引力を下げるなどにより排気流量を下げるように制御し、反対に、上記排気流量が上記制御範囲の下限を下回った場合は、例えば排気流量可変手段15の吸引力を上げるなどにより排気流量を上げるようにフィードバック制御する。なお、このフィードバック制御は排気管ごとに自動又は手動で行なわれてもよい。これによって、各排気管からの排気流量を安定的に制御することが可能になる。
【0086】
なお、本発明に係るカーボンナノチューブ配向集合体の製造装置が備える炉とは、本実施形態でいえば、製造装置100が有する炉であり、フォーメーション炉2a、成長炉3a、冷却炉4a、およびこれらと通じている接続部7、8、9の内部などを含む。すなわち、排気管としては、フォーメーション炉2a、成長炉3a、冷却炉4a、およびこれらの接続部である接続部7、8、9の内部のうち少なくとも一つの中のガスを排気するものであればよく、例えば、フォーメーションユニット2の排気フード2d、成長ユニット3の排気フード3d、ガス混入防止手段11〜13における排気部11a、12a、13aなどに設けられた各排気ラインが備える排気管が挙げられる。排気流量安定化部20は、これらの各排気ラインにそれぞれ備えられていてもよい。排気流量安定化部20は、特に、成長炉3a内のガスを排気する排気フード3dに設けられた排気ラインに備えられていることが好ましい。図3には、排気部12aに設けられた排気ラインが備える排気流量安定化部20のみを図示し、それ以外の各排気ラインが備える排気流量安定化部については省略している。各排気ラインが備える排気流量安定化部としては、それぞれ同じ構成であってもよいし、異なる構成であってもよい。
【0087】
(排気流量測定手段14)
排気流量測定手段14とは、製造装置100内のガスを排気する排気管に備えられ、排気管から排気されるガスの排気流量を測定するための装置のことである。例えば、排気管内の離れた少なくとも2箇所の圧力差を測定することで、排気管内の排気流量を測定する機能を有していてもよく、排気管内のガス温度を測定する機能をも有していることが好ましい。具体的には、圧力差を測定するための差圧計、ガス温度を測定するための熱電対などが挙げられる。現状市販されている差圧計で精度良く測定できる圧力差は0.1Pa以上、より好ましくは1Pa以上であるため、排気流量の測定範囲で生じる圧力差が0.1Pa以上、より好ましくは1Pa以上になるように、測定する2箇所を十分に離すか、測定可能な圧力損失を生じさせるための圧力損失部を測定区間中に挿入することが必要である。また、流量測定精度を向上させるなどを目的として、圧力測定箇所を3箇所以上に増やしても良い。圧力測定箇所は距離が近すぎると圧力差が正確に測定できない。経験上、圧力測定区間は排気管内径をDとして0.5D以上離して測定することが好ましい。
【0088】
圧力損失部としては、排気管に挿入可能で、管の断面積を減少できるものであれば良く、具体的には、オリフィスプレート、ベンチュリ管、ノズル、多孔板などが挙げられる。通常、市販されているものは定められた規格(JIS Z 8762−1〜4)に準じており、形状及び測定方法などが標準化されている。規格に適合した圧力損失部を使用する場合、その規格に定められた計算式を用いて流量を算出する。ただし、その適用範囲としては、管内径が50mm以上且つレイノルズ数が5000以上という条件がある。レイノルズ数から最低必要流量を見積もるとおよそ数百sLm程度となり、流量測定には大口径の排気管と大量の排気量が条件となる。
【0089】
排気流量測定手段14は、熱流体シミュレーションを用いるものであれば、通常の方法では適用範囲外となる管径及び流量条件でも精度良く排気流量を測定することが可能になるため好ましい。例えば、圧力損失部がオリフィスプレートの場合、損失する圧力差ΔPと流量Fの関係式は
【0090】
【数2】

【0091】
となる。ここでαは排気ガスの温度、密度及び粘度の関数であり、熱流体シミュレーションの結果から導出することで、圧力差と排気流量の換算を精度良く行うことができる。
【0092】
熱流体シミュレーションを用いる場合、圧力損失部の形状は任意でよく、また測定可能な流量範囲にも制限はない。
【0093】
(排気流量可変手段15)
排気流量可変手段15とは、製造装置100内のガスを排気する排気管に備えられ、排気管から排気されるガス流量を可変するための装置のことである。排気流量可変手段15は、排気管ごとに排気される流量を可変できる機能を有している。また、排気流量可変手段15は、排気流量測定手段14が測定した結果に基づいて、排気管14a内の排気流量を可変する。排気流量可変手段15として、具体的には、ガスを吸引するためのブロアー、ポンプ、エジェクターなどのガス吸引装置、ボールバルブ、シリンジバルブ、ゲートバルブなどの流量調整弁等が挙げられる。また、排気流量可変手段15として、ガス(空気、窒素などが好ましい)を駆動流体としたエジェクターを用いて、駆動流体の流量をマスフローコントローラーで制御することでエジェクターの吸引力を制御する方法を用いるものであれば、排気流量の変動が抑えられるため、CNT配向集合体の製造に、より好ましい。
【0094】
排気管ごとに排気流量を可変にするための構成として、排気管毎にガス吸引装置などの排気流量可変手段15を備えてもよいし、複数の排気管をまとめて1つのガス吸引装置で吸引して、各排気管に流量調整弁を備えて、各弁の開度によって排気管からの排気流量を調整する排気流量可変手段15を備えてもよい。
【0095】
(炭素固形物付着防止手段)
炭素固形物付着防止手段とは、排気流量測定手段14によって圧力差が測定される区間における排気管内を高温に加熱及び/又は保温することで、前記区間の排気管内に炭素固形物が付着することを防止するための装置のことである。炭素固形物付着防止手段を備えることによって、前記区間の排気管内に付着する炭素固形物が減少するので、長時間に亘って正確な排気流量の測定が可能になる。よって、CNT配向集合体の連続製造をより長時間に亘って安定的に保つことが可能になる。
【0096】
炭素固形物付着防止手段として、具体的には、排気管を加熱するヒーター、排気管を保温する断熱材などが挙げられる。炭素固形物の付着量は排気ガスの温度が高いほど低減する。具体的には、炭素固形物付着防止手段は、排気ガスの温度を150℃以上、さらには300℃以上に加熱及び/又は保温することがより好ましい。逆に、あまり高温に加熱・保温すると、排気管が浸炭されることによる強度劣化が生じたり、高温ガスに対するガスシール方法が困難になり排気管を全溶接する必要が生じたりするなど問題が発生する。よって、排気ガスの温度は700℃以下が好ましい。
【0097】
次に、製造装置100全体の処理の流れを概説する。
【0098】
まず、メッシュベルト6aに載置された触媒基板10は装置入口から入口パージ部1の炉内へと搬送される。この入口パージ部1はパージガスを上下からシャワー状に噴射することで、入口から製造装置100の炉内へ外気が混入することを防止している。
【0099】
入口パージ部1とフォーメーションユニット2とは接続部7によって空間的に接続され、ガス混入防止手段11が配置されており、シールガス噴射部11bからシールガスを噴射するとともに排気部11aからシールガス及び近傍のガスを排気している。これにより、フォーメーション炉2a内空間へのパージガスの混入及び入口パージ部1側への還元ガスの混入が防止されるとともに、シールガスの入口パージ部1及びフォーメーション炉2aへの流入が防止される。触媒を担持された触媒基板10はメッシュベルト6aで搬送されながら、フォーメーション炉2a内にてフォーメーション工程を施される。
【0100】
フォーメーションユニット2と成長ユニット3とは接続部8によって空間的に接続され、ガス混入防止手段12が配置されており、シールガス噴射部12bからシールガスを噴射するとともに排気部12aからシールガス及び近傍のガスを排気している。これにより、フォーメーション炉2a内空間への原料ガスの混入及び成長炉3a内空間への還元ガスの混入が防止されるとともに、シールガスのフォーメーション炉2a及び成長炉3aへの流入が防止される。触媒を担持された触媒基板10はメッシュベルト6aで搬送されながら、成長炉3a内にて成長工程を施され、CNT配向集合体を成長させる。
【0101】
成長ユニット3と冷却ユニット4とは接続部9によって空間的に接続され、ガス混入防止手段13が配置されており、シールガス噴射部13bからシールガスを噴射するとともに排気部13aからシールガス及び近傍のガスを排気している。これにより、冷却炉4a内空間への原料ガスの混入及び成長炉3a内空間への冷却ガスの混入が防止されるとともに、シールガスの冷却炉4a及び成長炉3aへの流入が防止される。CNT配向集合体を成長させた触媒基板10はメッシュベルト6aで搬送されながら、冷却炉4a内にて200℃以下にまで冷却される。
【0102】
最後に、200℃以下にまで冷却されCNT配向集合体を成長させた触媒基板10はメッシュベルト6aに載置されて製造装置100外へと搬出される。装置出口には入口パージ部1と略同様の構造をした出口パージ部5が設けられており、パージガスを上下からシャワー状に噴射することで、出口から冷却炉4a内へ外気が混入することを防止している。
【0103】
(還元ガス又は原料ガスに曝される装置部品の材質)
製造装置100におけるフォーメーション炉2a、還元ガス噴射部2b、フォーメーションユニット2の排気フード2d、成長炉3a、原料ガス噴射部3b、成長ユニット3の排気フード3d、メッシュベルト6a、ガス混入防止手段11、12、13のシールガス噴射部11b、12b、13b及び排気部11a、12a、13a、接続部7、8、9の炉、排気流量安定化部20などの各部品は還元ガス又は原料ガスに曝される。それら部品の材質としては、高温に耐えられ、加工の精度と自由度、コストの点から耐熱合金が好ましい。耐熱合金としては、耐熱鋼、ステンレス鋼、ニッケル基合金などが挙げられる。Feを主成分として他の合金濃度が50%以下のものが耐熱鋼と一般に呼ばれる。また、Feを主成分として他の合金濃度が50%以下であり、Crを約12%以上含有する鋼は一般にステンレス鋼と呼ばれる。また、ニッケル基合金としては、NiにMo、Cr及びFeなどを添加した合金が挙げられる。具体的には、SUS310、インコネル600、インコネル601、インコネル625、インコロイ800、MCアロイ、Haynes230アロイなどが耐熱性、機械的強度、化学的安定性、低コストなどの点から好ましい。
【0104】
耐熱合金を用いる際に、その表面を溶融アルミニウムめっき処理、若しくはその表面が算術平均粗さRa≦2μmとなるように研磨処理すると、高炭素環境下でCNTを成長させたときに壁面などに付着する炭素汚れを低減することができる。これらの処理は、CNT配向集合体の製造にとってより好ましい。
【0105】
以上、本発明の好ましい実施の形態を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、その要旨の範囲内で様々な変形及び変更が可能である。
【0106】
例えば、ガス原料、加熱温度などの製造条件を変更することにより、この製造装置で生産されるカーボンナノチューブを単層のもの又は多層のものに変更することも可能であるし、両者を混在生産させることも可能である。
【0107】
また、本実施の形態の製造装置100においては、製造装置100とは別の成膜装置によって基材表面への触媒の形成を行うものとしたが、フォーメーションユニットの上流側に触媒成膜ユニットを設け、フォーメーションユニットに先立って触媒成膜ユニットを基材が通過するように製造装置100を構成してもよい。
【0108】
また、本実施の形態の製造装置100においては、フォーメーションユニット2、成長ユニット3、冷却ユニット4の順に各ユニットを設けて、接続部7、8、9にて各炉内空間を空間的に接続しているが、フォーメーション工程、成長工程、冷却工程以外の他の工程を実現するユニットをどこかに複数追加して、接続部にて各ユニットの炉内空間を空間的に接続してもよい。
【0109】
また、本実施の形態の製造装置100においては、搬送ユニット6として、ベルトコンベア方式で説明したが、それに制限されるものではなく、例えばロボットアーム方式、ターンテーブル方式、昇降方式などにしてもよい。
【0110】
また、本実施の形態の製造装置100においては、フォーメーションユニット2、成長ユニット3、及び冷却ユニット4の各ユニットの配置について、直線状配置と環状配置の2つの方式で説明したが、それに制限されるものではなく、例えば鉛直方向に順次配置するなどしてもよい。
【実施例】
【0111】
以下に実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。本発明における評価は以下の方法に従って行った。
【0112】
(比表面積測定)
比表面積とは液体窒素の77Kでの吸脱着等温線を測定し、この吸脱着等温曲線からBrunauer,Emmett,Tellerの方法から計測した値のことである。比表面積は、BET比表面積測定装置((株)マウンテック製HM model−1210)を用いて測定した。
【0113】
(G/D比)
G/D比とはCNTの品質を評価するのに一般的に用いられている指標である。ラマン分光装置によって測定されるCNTのラマンスペクトルには、Gバンド(1600cm−1付近)とDバンド(1350cm−1付近)と呼ばれる振動モードが観測される。GバンドはCNTの円筒面であるグラファイトの六方格子構造由来の振動モードであり、Dバンドは結晶欠陥由来の振動モードである。よって、GバンドとDバンドのピーク強度比(G/D比)が高いものほど、欠陥量が少なく品質の高いCNTと評価できる。
【0114】
本実施例においては、顕微レーザラマンシステム(サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製Nicolet Almega XR)を用い、基材中心部付近のCNT配向集合体を一部剥離し、CNT配向集合体の基材から剥離された面にレーザーを当てて、ラマンスペクトルを測定し、G/D比を求めた。
【0115】
[実施例1]
図1の(a)に示す排気流量安定化部20を用いて、排気管を流れるガス流量を制御した。なお、図1の(a)は、成長ユニット3からの排気ガスを排気するための排気ラインに設けられた排気流量安定化部20を示す。
【0116】
排気流量測定手段14は、2本の導圧管14e及び1本の熱電対挿入管14fを備えた内径25mmの排気管14aと、中心に径11mmの穴の開いた板圧0.3mmの円板(オリフィスプレート)からなる圧力損失部14b(図1の(b)に上面図を示す)と、前記導圧管14eに接続された微差圧計14c(Validyne社製圧力トランスデューサーDP103)と、シース型熱電対14dとからなる。圧力損失部14bによって発生する圧力差を排気流量に換算する関係式である上記式(2)におけるαを導出するために、熱流体シミュレーションソフト(CDアダプコ社製STAR−CD Ver.3.26)を用いて、ガス温度20〜400℃の範囲で、排気組成が体積比で窒素:水素=10:0の場合と4:6の場合との2つの場合でシミュレーションを行った。結果を図5のグラフ1(窒素:水素=10:0)及び図6のグラフ2(窒素:水素=4:6)に示す。グラフ1及びグラフ2から、関係式(2)におけるαを以下のように導出した。
窒素:水素=10:0の場合
【0117】
【数3】

【0118】
窒素:水素=4:6の場合
【0119】
【数4】

【0120】
排気流量可変手段15は、エジェクター15a、駆動ガスボンベ15c、駆動ガスの流量を制御するマスフローコントローラー15b(排気流量制御手段)からなる。駆動ガスは窒素とし、マスフローコントローラー15bにて駆動ガス流量を制御することで、エジェクター15aの排気吸引力を調整する。
【0121】
ガスボンベ18を石英管とヒーターとからなる成長ユニット3につなぎ、成長ユニット3と排気流量安定化部20とをマスフローコントローラー17を介して接続し、成長ユニット3からの排気ガスの流量を排気流量測定手段14によって測定しながら、排気流量可変手段15によって流量を10〜30sLmの範囲に制御した。ガスボンベ18内のガス組成が異なる2つの場合、窒素と水素の体積比で10:0と4:6それぞれの場合で流量制御を行い、マスフローコントローラー17によって測定される流量と比較したところ、相対誤差で3%以下の範囲で精度良く制御できていることを確認した。
【0122】
[実施例2]
図2に示すように、実施例1と同様の排気流量安定化部に炭素固形物付着防止手段16を追加した排気流量安定化部20’を用い、石英管とヒーターとからなる成長ユニット3から排気される排気ガスを制御する。そのとき、炭素固形物付着防止手段16によって、排気流量測定手段14の圧力損失部14bに付着する炭素固形物が防止できることを示す。
【0123】
ガスボンベ18は成長ユニット3の上流側に接続され、原料ガス(水分150ppmvを含有した窒素とエチレンの混合ガス(体積比でおよそ9:1))が成長ユニット3の成長炉内へと導入される。成長ユニット3のヒーターは800℃に設定した。成長ユニット3から排気ガスは下流側に接続された排気流量安定化部20’によって流量制御される。
【0124】
排気流量測定手段14と排気流量可変手段15によって、排気ガスの全流量を10〜12sLmの範囲に制御し、炭素固形物付着防止手段16によって、排気ガスの温度を160〜420℃の範囲に制御した。
【0125】
およそ数十時間ほど排気を流通させた後、排気流量測定手段14の圧力損失部14bであるオリフィスプレート表面に付着した炭素固形物の重量を測定した。排気温度と炭素固形物の付着速度との関係を図7のグラフ3に示す。
【0126】
グラフ3に示すように、排気温度が高いほど炭素固形物の付着量は低減される。排気温度160℃で付着する炭素固形物量と比較して、排気温度300℃では炭素固形物量は約1/2、排気温度400℃以上で約1/5以下に低減され、炭素固形物付着防止手段16によって炭素固形物の付着が防止されることが示された。
【0127】
[実施例3]
本実施例の製造装置を図3に示す。製造装置100は入口パージ部1、フォーメーションユニット2、成長ユニット3、冷却ユニット4、出口パージ部5、搬送ユニット6、接続部7〜9、ガス混入防止手段11〜13から構成した。フォーメーション/成長ユニットの炉、噴射部及び排気フード、ガス混入防止手段の排気部及びシールガス噴射部、メッシュベルト、接続部の各材質はSUS310とし、その表面は溶融アルミニウムめっき処理を施した。
【0128】
フォーメーションユニット2の排気フード2d、成長ユニット3の排気フード3d、各ガス混入防止手段11〜13の排気部11a〜13aの各排気ラインに、排気流量測定手段と排気流量可変手段からなる排気流量安定化部を備えた。図3にはガス混入防止手段11〜13の排気部12aの排気ラインに備えた排気流量測定手段14と排気流量可変手段15からなる排気流量安定化部20だけを図示し、それ以外の排気ラインに備えた排気流量安定化部は省略した。各排気ラインに追加した排気流量安定化部は実施例1で用いたものと同じ構成及び形状とした。
【0129】
触媒基板の製作条件を以下に説明する。基板として90mm角、厚さ0.3mmのFe−Ni−Cr合金YEF426(日立金属社製、Ni42%、Cr6%)を使用した。レーザー顕微鏡を用いて表面粗さを測定したところ、算術平均粗さRa≒2.1μmであった。この基板の表裏両面にスパッタリング装置を用いて厚さ20nmのアルミナ膜を製膜し、次いで表面のみにスパッタリング装置を用いて厚さ1.0nmの鉄膜(触媒金属層)を製膜した。
【0130】
上述のようにして作製した触媒基板をメッシュベルト上に載置し、メッシュベルトの搬送速度を変更しながら、各触媒基板上にCNT配向集合体を製造した。
【0131】
製造装置の入口パージ部、フォーメーションユニット、ガス混入防止手段、成長ユニット、冷却ユニット、出口パージ部の各条件は以下のように設定した。
【0132】
入口パージ部1
・パージガス:窒素60sLm
フォーメーションユニット2
・炉内温度:830℃
・還元ガス:窒素11.2sLm、水素16.8sLm
・処理時間:28分
成長ユニット3
・炉内温度:830℃
・原料ガス:窒素16.04sLm、エチレン1.8sLm、
水蒸気含有窒素0.15〜0.5sLm(水分量16000ppmv)
・処理時間:11分
冷却ユニット4
・冷却水温度:30℃
・不活性ガス:窒素10sLm
・冷却時間:30分
出口パージ部5
・パージガス:窒素50sLm
ガス混入防止手段11
・シールガス噴射部11b:窒素20sLm
ガス混入防止手段12
・シールガス噴射部12b:窒素25sLm
ガス混入防止手段13
・シールガス噴射部13b:窒素20sLm
還元ガス噴射部2b及び原料ガス噴射部3bで噴射するガス量は、炉の体積に比例させてCNT配向集合体の製造に好適なガス量に設定した。また、フォーメーション炉2aと成長炉3aのガスの相互混入を強く防止するため、3つのガス混入防止手段11〜13の中でガス混入防止手段12のシールガス量及び排気量は最も多く設定した。
【0133】
各排気ラインから排気されるガス量は、各排気ラインに備えられた排気流量安定化部20によって安定化した。その際、各排気管から排気されるガス組成について、成長ユニット3の排気フード3dと各ガス混入防止手段11〜13の排気部11a〜13aから排気されるガスについては窒素100%とし、フォーメーションユニット2の排気フード2dから排気されるガスについては窒素:水素=4:6の体積比と仮定して、それぞれの排気ガスについて、実施例1に示した式(3)と式(4)を換算式として使用した。
【0134】
各排気ラインの排気流量(圧力差)と排気ガス温度を次に示す。
【0135】
フォーメーションユニット2
・排気フード2d:25〜31sLm(22〜35Pa)、201℃
成長ユニット3
・排気フード3d:16〜20sLm(16〜25Pa)、205℃
ガス混入防止手段11
・排気部11a:18〜22sLm(16〜24Pa)、97℃
ガス混入防止手段12
・排気部12a:23〜28sLm(31〜46Pa)、173℃
ガス混入防止手段13
・排気部13a:18〜22sLm(16〜24Pa)、108℃
原料ガスに添加する触媒賦活物質(水)の濃度については、CNT配向集合体の製造に好適になるように、およそ100〜500ppmの範囲で適宜調整を行った。
【0136】
本実施例によって製造される、CNT配向集合体の特性の平均値としては、密度:0.03g/cm、平均外径:2.9nm(半値幅:2nm)、炭素純度:99.9%、ヘルマンの配向係数:0.7、収量:2.0mg/cm、G/D比:6.3、BET比表面積:1100m/gであった。
【0137】
本実施例の製造装置100によって、CNT配向集合体の連続製造が数日間可能になった。
[実施例4]
本実施例の製造装置を図4に示す。本実施例の製造装置100’は実施例3と同様の製造装置に、実施例2と同様の排気流量安定化部20’を各排気ラインに追加した製造装置100’である。図4にはガス混入防止手段12の排気部12aの排気ラインに備えた排気流量測定手段14と排気流量可変手段15、及び炭素固形物付着防止手段16からなる排気流量安定化部20’だけを図示し、それ以外の排気ラインに備えた排気流量安定化部は省略した。各排気ラインに備えられた炭素固形物付着防止手段16の設定温度は一律400℃とし、触媒基板の作製条件及び装置操業条件は実施例3と同様とした。
【0138】
各排気ラインに備えられた排気流量測定手段14で測定された排気流量(圧力差)の範囲と排気ガス温度を次に示す。
【0139】
フォーメーションユニット2
・排気フード2d:25〜31sLm(31〜48Pa)、400℃
成長ユニット3
・排気フード3d:16〜20sLm(22〜35Pa)、400℃
ガス混入防止手段11
・排気部11a:18〜22sLm(28〜42Pa)、400℃
ガス混入防止手段12
・排気部12a:23〜28sLm(46〜69Pa)、400℃
ガス混入防止手段13
排気部13a:18〜22sLm(28〜42Pa)、400℃
本実施例によって製造される、CNT配向集合体の特性の平均値としては、密度:0.03g/cm、平均外径:2.9nm(半値幅:2nm)、炭素純度:99.9%、ヘルマンの配向係数:0.7、収量:2.0mg/cm、G/D比:6.3、BET比表面積:1100m/gであった。
【0140】
本実施例の製造装置100’によって、CNT配向集合体の連続製造が約1週間可能になった。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明は、高い製造効率でCNT配向集合体を製造できるので、電子デバイス材料、光学素子材料、導電性材料などの分野に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0142】
2a フォーメーション炉(炉)
3a 成長炉(炉)
4a 冷却炉(炉)
10 触媒基板(表面に触媒を担持した基材)
14 排気流量測定手段
14a 排気管
15 排気流量可変手段
15b マスフローコントローラー(排気流量制御手段)
16 炭素固形物付着防止手段
20、20’ 排気流量安定化部
100、100’ 製造装置(カーボンナノチューブ配向集合体の製造装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉内のガスを排気する排気管を備えるカーボンナノチューブ配向集合体の製造装置において、
前記排気管内の排気流量を測定する排気流量測定手段と、前記排気流量測定手段が測定した結果に基づいて、前記排気管内の排気流量を可変する排気流量可変手段とを備える排気流量安定化部を備えていることを特徴とするカーボンナノチューブ配向集合体の製造装置。
【請求項2】
前記排気管は、表面に触媒を担持した基材上にカーボンナノチューブ配向集合体を成長させる成長炉内のガスを排気するものであることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ配向集合体の製造装置。
【請求項3】
前記排気流量可変手段は、
前記排気流量測定手段が測定した前記排気管内の排気流量が、予め設定された制御範囲の上限を上回った場合は、前記排気流量を下げるように制御し、
前記排気流量測定手段が測定した前記排気管内の排気流量が、予め設定された制御範囲の下限を下回った場合は、前記排気流量を上げるように制御する、排気流量制御手段を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載のカーボンナノチューブ配向集合体の製造装置。
【請求項4】
前記排気流量測定手段は、前記排気管内の離れた少なくとも2箇所の圧力差を測定することで前記排気管内の排気流量を測定するものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ配向集合体の製造装置。
【請求項5】
前記排気流量安定化部は、前記排気流量測定手段によって圧力差が測定される区間の排気管を高温に加熱及び/又は保温することで、前記区間の排気管内に炭素固形物が付着することを防止する炭素固形物付着防止手段を備えていることを特徴とする請求項4に記載のカーボンナノチューブ配向集合体の製造装置。
【請求項6】
前記炭素固形物付着防止手段は、前記区間の排気管内のガスが150℃以上700℃以下になるように、前記区間の排気管を加熱及び/又は保温するものであることを特徴とする請求項5に記載のカーボンナノチューブ配向集合体の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−173745(P2011−173745A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37646(P2010−37646)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「ナノテクノロジープログラム/カーボンナノチューブキャパシタ開発プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】