カーボン・ナノチューブを繊維上に含んで構成された複合材料
複合材料の組成物には、カーボン・ナノチューブ(CNT)の浸出した繊維が、マトリックス材に分散した状態で複数含まれる。組成物中のカーボン・ナノチューブの量は、複合材料の約0.1重量%から約60重量%の範囲である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、一般にカーボン・ナノチューブ(CNTs)に関し、より具体的には、複合材料に組み込まれたCNTsに関する。
【0002】
(関連出願の参照)
本願は、2009年11月23日出願の米国仮特許出願第61/263,807号、及び2009年2月17日出願の米国仮特許出願第61/153,143号に基づいて優先権を主張するものであり、これらは参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
(連邦政府の資金提供による研究開発の記載)
適用なし。
【背景技術】
【0004】
カーボン・ナノチューブ(CNTs)は、ヤング率で表わされるように、高炭素鋼の約80倍の強度、かつ6倍のじん性を示し、また、6分の1の密度を示す。これらの好ましい機械的性質により、CNTsは、複合材料中の補強要素として用いられている。CNTsをベースとする複合材料は、多くの金属よりも低密度である一方、強度や耐腐食性の向上をもたらす。また、CNTsは、熱的及び電気的な適用にも好ましい性質を示す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
CNTsベースの複合材料を生成する殆どの処理には、遊離した(loose)CNTs、又は束状(bundled)CNTsをベースとするヤーン(yarn)を、発生期の(nascent)複合材料のマトリックス材に対して直接混入することが含まれる。標準的な樹脂タイプのマトリックス材において、この方法で、CNTsを用いる場合には、得られる複合材料は、通常、完成した複合材料中、カーボン・ナノチューブが最大で約3重量%に制限される。このように制限される理由は、マトリックスの粘性が増大し、その結果複合材料への含浸力が低下するためである。
【0006】
また、CNTsは、2、3又はそれ以上の異なる補強要素が複合材料内に組み込まれたハイブリッド複合材料(hybrid composite)に用いられる。ナノスケールの強化材を組み込むハイブリッド複合材料システムは、CNTsなどのナノ粒子を適切に分散させるために追加の処理工程を必要とする。マトリックス材へのCNTの組み込みには、処理の複雑さを増大させるCNT配向性の制御という別の課題がある。さらに、粘性の著しい増加などの様々な要因によるCNT担持量の制限はハイブリッド複合材料にも観察される。
【0007】
ハイブリッド複合材料の製造処理は、複合材料構造体のうち異なる部位に様々なCNT担持量又は異なる種類のCNTが必要とされる場合、さらに複雑になる。CNT複合材料及び調整されたハイブリッド複合材料の製造の複雑さを軽減し、CNT担持限度容量(CNT loading capacity)を向上させる一方、CNTの配向性も制御した複合材料製品を提供できれば、有益である。本願発明は、これらの必要性を満たし、関連する利点も提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ある態様において、本明細書に開示された実施形態は、マトリックス材に分散するカーボン・ナノチューブ(CNT)浸出繊維を複数含む複合材料の組成物に関する。組成物中のカーボン・ナノチューブの量は、複合材料の約0.1重量%から約60重量%の範囲である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】連続CVD処理を介してAS4炭素繊維上に成長する多層CNT(MWNT)の透過型電子顕微鏡(TEM)画像。
【図2】連続CVD処理を介してAS4炭素繊維上に成長する2層CNT(DWNT)のTEM画像。
【図3】CNT形成ナノ粒子触媒が機械的に炭素繊維材料の表面に浸出するバリア・コーティング(barrier coating)内部から成長するCNTsの走査型電子顕微鏡(SEM)画像。
【図4】炭素繊維材料上で目標長さ約40ミクロンの20%以内まで成長したCNTsの長さ分布の一貫性を明示するSEM画像。
【図5】CNT成長におけるバリア・コーティングの効果を明示するSEM画像。バリア・コーティングが適用される(applied)部位では、高密度かつ良好な配列のCNTsが成長し、バリア・コーティングがない部位には成長しなかった。
【図6】繊維全域で約10%以内のCNT密度の均一性を明示する炭素繊維上のCNTsの低倍率SEM画像。
【図7】本願発明の例示的な実施形態によるCNT浸出炭素繊維材料の生成処理を示すフローチャート。
【図8】連続処理において炭素繊維材料をCNTsで浸出して熱的及び電気的伝導性を向上させる方法を示すフローチャート。
【図9】「逆(reverse)」バリア・コーティング処理を用いた連続処理において炭素繊維材料をCNTsで浸出して機械的性質、特にせん断強度などの界面特性を向上させる方法を示すフローチャート。
【図10】「ハイブリッド(hybrid)」バリア・コーティングを用いた別の連続処理において炭素繊維材料をCNTsで浸出して機械的性質、特にせん断強度や層間破壊じん性などの界面特性を向上させる方法を示すフローチャート。
【図11】層間破壊じん性について、IM7炭素繊維に浸出したCNTsの効果を示す説明図。基準材料は、サイジングされていない(unsized)IM7炭素繊維である一方、CNT浸出材料は、長さ15ミクロンのCNTsを備えたサイジングされていない炭素繊維である。
【図12】複合材料構造体のうち異なる部位に2種類のCNT浸出繊維を用いて調整された繊維強化複合材料の構造を示す説明図。上層は、下層のCNTsより相対的に短い長さのCNTsを示している。
【図13】複合材料構造体のうち異なる部位に2種類のCNT浸出繊維を用いて調整された繊維強化複合材料の構造を示す説明図。上層は、繊維軸に対して概して垂直なCNTsを示す一方、低層は、繊維軸に概して平行なCNTsを示している。
【図14】複合材料構造体のうち異なる部位に2種類のCNT浸出繊維を用いて調整された繊維強化複合材料の構造を示す説明図。上層は、低層のCNTsより相対的に低い密度のCNTsを示している。
【図15】複合材料構造体のうち異なる部位にCNT浸出繊維の配向性を用いて調整された繊維強化複合材料の構造を示す説明図。最上層は、横断面に平行なCNT浸出繊維を示す一方、真下の別の層は、横断面に対して垂直なCNT浸出繊維を示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本願発明は、1つには、マトリックス材及びカーボン・ナノチューブ(CNT)浸出繊維材料を含む複合材料を対象とするものである。複合材料にCNTで機能化(functionalized)された繊維材料を混入することにより、従来は、CNT担持量の増大に伴い粘性も増加するために制限されていた、マトリックス材内のCNT担持量の増大が可能となる。可能な限り大きなCNT担持量は、相対的なCNT配向性の高度な制御と相まって、複合材料全体に付与されるCNT性質の影響を増大させる。CNT浸出繊維材料が複合材料のマトリックス材内にどのように配設されるかを制御することにより、例えば、機械的性質、電気的性質及び熱的性質の向上など、目的とする特定の要求に容易に合うように調整された高性能のハイブリッド複合材料への手段がもたらされる。
【0011】
複合材料中のCNTの配向性は、1つには、CNTsが浸出する繊維材料の足場により制御される。後述するように、繊維材料の個々の繊維の軸に対して浸出したCNTsには、基本的な2つの配向性がある。ある実施形態において、CNTsは、繊維軸の周囲から放射状に広がる。このような実施形態において、CNTsは、繊維軸から概して垂直に成長する。他の実施形態において、CNT浸出繊維は更なる処理を経て、CNTsを繊維軸に対して概して平行に配向させる。繊維材料上で固定されるこれらのCNTsの配向性は、複合材料構造体の全体においてCNTsの予測可能な配向性をもたらす。
【0012】
また、本願発明の複合材料構造体には、複合材料全体のうち異なる部位に異なる種類のCNTを有するCNT浸出繊維材料が組み込まれる。例えば、短いCNTsは、複合材料構造体の一部に組み込まれて、機械的性質を高めることができる。長いCNTsは、同一の複合材料構造体の他部に組み込まれて、電気的又は熱的性質を高めることができる。異なる種類のCNT浸出繊維材料を複合材料構造体に組み込んだものが、図12に例示される。図12は、マトリックス材1210及びCNT浸出繊維材料1220を含む複合材料構造体1200を示している。この例示的な構造体において、複合材料構造体の第1の層1230は、この部位の複合材料構造体1200に機械的強度をもたらすのに効果的な短いCNTsを有する。第2の層1240は、CNTの長さが相対的に長いCNT浸出繊維材料を組み込んでいる。図に示されるように、CNTは、複合材料構造体1200の第2の層1240において、有益な電気的及び/又は熱的伝導性の発現に有用となり得るパーコレーション(percolation)経路を発生させるのに十分な長さである。ある実施形態において、本願発明の複合材料構造体は、浸出CNTsのない繊維材料強化材の断面も含み得る。
【0013】
本願発明の繊維強化複合材料構造体は、その性質が、図12に例示されるように一定の要求を満たすように調整されているため有益である。さらなる実施例として、特定の層の積層順序を用いて曲げ剛性に関して複合材料はりを最適化したり、別の順序を用いて、ねじれ剛性に関して最適化することができる。2以上の異なる種類の強化繊維を用いたハイブリッド複合材料にとって、機械的、熱的あるいは電気的であるかどうかという複合材料全体の性質に対する各繊維の積極的な貢献は有益である。
【0014】
本明細書に開示された処理によりCNT浸出繊維を備えて構成される複合材料構造体には、層間及び面内せん断などの機械的性質の向上が見られる。加えて、これらの複合材料構造体では、1つには、好ましいCNTの担持量及び好ましいCNT配向性の制御に基づいて、電気的及び熱的伝導性が向上する。本明細書に開示されるCNT浸出繊維は、様々な配向性及び様々な位置で複合材料構造体に用いられて、現在の繊維強化複合材料では得られない性質を含む特別に調整された性質をもたらす。例えば、本願発明の処理により、中心平面において高せん断荷重に対処するための複合材料構造体が生成されるが、厚さ方向には電気的に絶縁される。CNT浸出繊維は、調整された複合材料の中心層に用いられて最大せん断強度特性を向上させる。未改質のガラス繊維は、表面層に用いられて電気絶縁性を与える。
【0015】
また更なる例示的な実施形態において、調整された複合材料には、様々な状況で、CNT浸出繊維の向上した電気的性質が利用される。例えば、凍結状態にさらされる複合材料翼は、CNT浸出繊維を備えて構成される層を有し、これにより電位を印加したときに大規模回路が形成される。この層は、凍結状態を加熱し、除去し、又は防止する大規模な抵抗加熱器として機能する。これにより外部加熱の必要がなくなり、また、用いられる繊維が2種類のみであるので、複合材料は均一性を保持する。異なるCNTの種類を含む第2の繊維種(又は同繊維種)は、複合材料製造の処理工程を増加させることなく強化するために同一の複合材料内に使用される。CNT浸出繊維とあらゆる未改質繊維との適合性により、他の加熱素子の熱膨張係数、大きさ(size)及び剛性変動における不整合に基づいて、複合材料の積層中に致命的な欠陥が発生する可能性が低減される。
【0016】
同様に、複合材料の構成要素は様々な荷重に対処するように設計される。例えば、1つの構成要素は、別の部分が圧縮荷重を支持している間に、せん断荷重を伝達する接合部(joint)を備えている。せん断を受けてはく離破壊しやすい一部は、CNTsを高担持したCNT浸出繊維を備えて構成され、せん断に対する補強効果を増大させる。引張荷重を支持する部分の一部は、CNTの被覆率が低い繊維を用いて、付随して高くなる繊維に基づいて強度を向上させる。繊維上におけるCNT浸出の制御は、複合材料形成前に容易に調整されるので、複合材料の生成処理が簡素化される。
【0017】
さらに、本明細書に記載されるCNT浸出繊維は、CNT担持量、CNT長さ及びCNT配向性を厳密に制御しながら連続的に生成される。ナノスケールの強化材を組み込む他のハイブリッド複合材料システムでは、マトリックス材にナノチューブのナノ粒子を適切に分散させる更なる処理工程を必要とする。担体(carrier)としての繊維材料にCNTsを浸出させることにより、CNTsの分布、配向性及び種類が制御される。また、本願発明の方法により、ユーザーは、本明細書で後述するCNT浸出処理で制御されるような、隣層とは異なる特定のCNT担持量を含んだ層を形成することが可能となる。
【0018】
CNT浸出繊維は、例えば、CNTの配向や多層複合材料における部分的な積層(sectional layering)を含む余分な処理工程を必要とすることなく、未処理のガラス・フィラメント(filament)及び未処理の炭素フィラメントに用いられるのと同一の製造技術を用いて複合材料に組み込まれる。さらに、CNTsは繊維担体に浸出するので、CNTsの均質な組み込み、CNTの束化などに付随する問題も軽減される。CNT浸出繊維により、樹脂ベースの複合材料構造体にとって、複合材料のマトリックス材に直接CNTsを混入することで達成可能なCNT担持量よりも大量のCNT担持量が可能となる。
【0019】
現在製造されている複合材料では、通常、40容量%のマトリックス材に対して60容量%の繊維材料を有するが、繊維材料に浸出したCNTsである第3の要素の導入により、この比率を変化させることが可能となる。例えば、最大約25容量%のCNTsの添加により、マトリックス材の範囲が約15容量%〜約85容量%へと変化するのに従って、繊維部分は、約10容量%〜約75容量%の範囲内で変化することが可能となる。様々な比率により、1以上の所望の特性を対象として調整可能な複合材料全体の性質を変化させることができる。CNTsの性質は、CNTsによって強化される繊維材料に加えられる。これらの強化繊維が、調整された複合材料に用いられていると、繊維の割合は増大するが、調整された複合材料の性質は、当該技術分野で知られている複合材料と比較して、さらに著しく変化させることができる。
【0020】
本明細書では、用語「繊維材料」とは、基本的な構成要素として繊維又はフィラメントを有するいかなる材料も指す。繊維は、織物(fabric)及び他の織物構造の基本的な要素を形成する、自然物あるいは人造物のいずれか一方の一単位である。フィラメントは、無限長さの単繊維であり、自然物あるいは人造物のいずれか一方である。本明細書では、用語「繊維」及び「フィラメント」は同じ意味で用いられる。用語「繊維材料」には、繊維、フィラメント、ヤーン、トウ(tow)、テープ、リボン(ribbon)、織物及び不織布、パイル(pile)、マット(mat)、3次元織物構造体などが包含される。
【0021】
本明細書では、用語「巻き取り可能な寸法」とは、繊維材料をスプール(spool)又はマンドレル(mandrel)に巻き取っておくことが可能な、長さの限定されない、繊維材料の有する少なくとも1つの寸法をいう。「巻き取り可能な寸法」の繊維材料は、本明細書に記載されるように、CNT浸出のための1回分の処理又は連続処理のいずれかの使用を示す少なくとも1つの寸法を有する。市販の巻き取り可能な寸法の例示的な繊維材料の1つの例としては、800テックス(1テックス=1g/1,000m)又は620ヤード/ポンドの寸法を有するAS4 12k炭素繊維のトウ(Grafil, Inc., Sacramento, CA)が挙げられる。特に、工業用の炭素繊維のトウは、例えば、5、10、20、50及び100ポンド(高重量のスプール用で、通常、3k/12Kのトウ)のスプールで入手されるが、より大きなスプールには特注を必要とする。本願発明の処理は、5〜20ポンドのスプールで容易に行われるが、より大きなスプールの使用も可能である。さらに、例えば、100ポンドまたはそれよりも大きい極めて長大な巻き取り長を、取り扱いが容易な寸法、例えば、50ポンドのスプール2つに分割する前処理工程を組み込むこともできる。
【0022】
本明細書では、用語「カーボン・ナノチューブ」(単数ではCNT、複数ではCNTs)とは、単層カーボン・ナノチューブ(SWNTs)、二層カーボン・ナノチューブ(DWNTs)、多層カーボン・ナノチューブ(MWNTs)を含むフラーレン群からなる多数の円筒形状の炭素同素体のうちのすべてをいう。CNTsは、フラーレン様構造により閉塞されるか、又は開口端を有していてもよい。CNTsには、他の物質を封入するものが含まれる。また、CNTsには、当該技術分野において知られているように、化学構造の機能化(functionalization chemistry)で生じるものが含まれる。限定するものではないが、例として、例えば硝酸などの酸化性酸によるCNTのフッ素化及び酸化が含まれる。このような化学構造の機能化は繊維材料上においてCNTsが成長した後に行われる。当業者であれば、繊維材料自体に対するあらゆる化学構造の機能化が互換性を有していることを認識するであろう。
【0023】
本明細書で、「長さが均一」という場合、反応器において繊維上で成長するCNTsの長さについて言及するものである。「均一な長さ」は、約1ミクロンから約500ミクロンの範囲内にあるCNT長さに関して、CNTsが、CNTの全長の±約20%またはそれ未満の許容誤差を伴う長さを有するということを意味する。極めて短い長さ、例えば、1〜4ミクロンなどでは、この誤差は、CNTの全長の±約20%から±約1ミクロンまでの範囲内、すなわち、CNTの全長の約20%よりも若干大きくなる。
【0024】
本明細書で、「分布が均一」とは、繊維材料におけるCNTの密度が不変であることをいう。「均一な分布」は、繊維材料におけるCNTsの密度が、±10%の許容誤差範囲にあることを意味するが、この場合、CNTsの密度とは、CNTsで被覆される繊維の表面積として定義される。これは、直径8nmの5層CNTでは、1平方マイクロメートル当たり±1500のCNTsに相当する。この形状ではCNTsの内部空間を充填可能と仮定している。
【0025】
本明細書では、用語「浸出する」とは結合されることを意味し、用語「浸出」とは結合処理を意味する。このような結合には、直接共有結合、イオン結合、π−π相互作用、及び/又はファンデルワールス力の介在による物理吸着などが含まれ得る。例えば、ある実施形態において、CNTsは、炭素繊維材料に直接結合される。結合は、例えば、CNTが、バリア・コーティング及び/又はCNTs及び炭素繊維材料間にはさまれて配置された遷移金属ナノ粒子を介して繊維材料へ浸出するなど、間接的であってもよい。本明細書に開示されたCNT浸出繊維材料において、カーボン・ナノチューブは、前述のように、直接的又は間接的に繊維材料に「浸出」することが可能である。CNTを繊維材料に浸出させる具体的な方法は、「結合モチーフ(bonding motif)」と呼ばれる。
【0026】
本明細書では、用語「遷移金属」とは、周期表のdブロックにおけるあらゆる元素又はその合金をいう。また、用語「遷移金属」には、卑遷移金属元素の塩形態(例えば、酸化物、炭化物、窒化物など)も含まれる。
【0027】
本明細書では、用語「ナノ粒子」若しくはNP(複数ではNPs)、又はその文法的な同等物とは、NPsは球形である必要はないが、球の等価直径が約0.1から約100μmの間のサイズの粒子をいう。遷移金属NPsは、特に、繊維材料上におけるCNTを成長させる触媒として機能する。
【0028】
本明細書では、用語「サイジング剤(sizing agent)」、「繊維サイジング剤(fiber sizing agent)」、又は単に「サイジング(sizing)」とは、繊維を完全な状態で保護し、複合材料における繊維及びマトリックス材間の界面相互作用を向上させ、及び/又は、繊維の特定の物理的性質を変更及び/又は高めるためのコーティングとして繊維の製造において用いられる材料を総称するものである。ある実施形態では、繊維材料に浸出するCNTsが、サイジング剤として作用する。
【0029】
本明細書では、用語「マトリックス材」とは、サイジングされた(sized)CNT浸出繊維材料をランダム配向などの特定の配向性で構成する機能を果たすバルク材をいう。CNT浸出繊維材料は、通常、CNTsを組織化するので、例えば、CNT浸出繊維材料のチョップド・ストランド(chopped strand)を用いることにより、このようなランダム配向が得られる。マトリックス材に対して、CNT浸出繊維材料の有する物理的及び/又は化学的性質のある部分が付与されることにより、マトリックス材にとってCNT浸出繊維材料の存在は有益となる。
【0030】
本明細書では、用語「材料滞留時間」とは、巻き取り可能な寸法の繊維材料に沿った各ポイントが、本明細書に記載されるCNT浸出処理の間、CNTの成長状態にさらされる時間をいう。この定義には、多層CNTの成長チャンバーを用いる場合の材料残留時間が含まれる。
【0031】
本明細書では、用語「ラインスピード」とは、本明細書に記載されるCNT浸出処理により、巻き取り可能な寸法の繊維材料を送り込むことができるスピードをいい、この場合、ラインスピードは、CNTの(1つの又は複数の)チャンバー長を材料残留時間で除して算出される速度である。
【0032】
ある実施形態において、本願発明は、マトリックス材に分散された複数のカーボン・ナノチューブ(CNT)浸出繊維を含む複合材料の組成物を提供する。組成物におけるカーボン・ナノチューブの量は、組成物の約5重量%〜約60重量%の範囲である。複合材料におけるCNTsの高担持量は、マトリックス材の種類とは無関係である。すなわち、例えば、粘性の増大により、通常CNTの担持量が低い樹脂マトリックス材であっても、CNTを高担持量で組み込むことができる。ある実施形態では、CNTの担持量を、例えば、65%、70%若しくは75%、又はこれらの間のあらゆる量など、さらに高くする。ある実施形態では、担持量は、0.1%、0.25%、0.5%、1%、2%、3%、4%及び5%など、並びに、これらの中間のあらゆる量など、5%以下にされる。
【0033】
また、複合材料の組成物では、カーボン・ナノチューブの量が、組成物の約0.1重量%〜約重量5%、複合材料の約10重量%〜約60重量%、複合材料の約15重量%〜約60重量%、複合材料の約20重量%〜約60重量%、複合材料の約25重量%〜約60重量%、複合材料の約10重量%〜約50重要%、複合材料の約20重量%〜約40重量%、複合材料の約5重量%〜約10重量%、複合材料の約10重量%〜約20重量%、複合材料の約20重量%〜約30重量%、複合材料の約30重量%〜約40重量%、複合材料の約40重量%〜約50重量%、複合材料の約50重量%〜約60重量%及び複合材料の約40重量%〜約60重量%の範囲、並びに、これらの範囲内のいかなる範囲などにある。当業者であれば、どの範囲を選択するかは、複合材料の最終用途により影響を受けるということを認識するであろう。例えば、プリプレグ(pre-preg)は、マトリックス材と比較して相対的にCNT浸出繊維を多く含み、複合材料全体において高効果なCNTの重量割合となる。また、CNTsの量は、複合材料の最終用途が、熱的、電気的若しくは機械的用途、又はこれら用途の組み合わせであるのかどうかによる。
【0034】
ある実施形態では、複合材料の組成物は、その中に、複合材料の約5重量%のカーボン・ナノチューブ量を含むが、他の実施形態では、複合材料の約15重量%、また更なる実施形態では、複合材料の約20重量%、また更なる実施形態では、複合材料の約25重量%、また更なる実施形態では、複合材料の約30重量%、及び他の実施形態では、複合材料の約35重量%のカーボン・ナノチューブ量を含む。最終的な複合材料中のCNTs量は、約0.1%〜約75%で求められるあらゆる量及びこれらの間の値又は割合である。
【0035】
本願発明の実施に有用な繊維材料には、多種多様のあらゆる化学構造が含まれ、これには、限定するものではないが、炭素繊維、グラファイト繊維、金属繊維(例えば、鋼、アルミニウム、モリブデン、タンタル、チタン、タングステンなど)、炭化タングステン、セラミック繊維、玄武岩繊維、金属−セラミック繊維(例えば、アルミニウム・シリカ(aluminum silica)など)、ガラス繊維(Eガラス、Sガラス、Dガラス)、セルロース系繊維、ポリアミド(Kevlar(登録商標)29及びKevlar(登録商標)49などの、芳香族ポリアミド、アラミド)、ポリエステル、石英、炭化ケイ素などがある。以下に詳述される方法は、いかなる種類の繊維基材に対してもカーボン・ナノチューブが成長するように適合される。CNT浸出ガラス繊維材料は、本願発明の調整された複合材料の組成物における強化材として用いられる繊維種の実施例である。CNT浸出繊維は、繊維トウ、複数のロービング(roving)若しくは織物の形態、又は本明細書に記載されるように、他の多数の形態をとり得る。
【0036】
繊維種と同様に、マトリックス材は、セラミック、金属、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などのあらゆる種類であってもよい。当業者であれば、複合材料製品の最終用途により、繊維種とマトリックス材との適切な組み合わせを選択できるということを認識するであろう。繊維種とマトリックス材との組み合わせの例としては、例えば、炭素繊維とエポキシ、ガラス繊維とエポキシ、炭素、ガラス、セラミック及び/又はアラミド繊維と様々な熱硬化性樹脂マトリックス材(エポキシ、ポリエステル及びマレイミドを含む)、炭素、ガラス、セラミック及びアラミド繊維とセラミック・マトリックス材(炭化シリコン及びアルミナを含む)、炭素繊維とエポキシ、ガラス繊維とエポキシ、炭素、ガラス、セラミック及び/又はアラミド繊維と様々な熱可塑樹脂(ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミド、PMMA、PEEK、PEI、PANなどを含む)、ガラス、炭素及びセラミック繊維と金属(アルミニウム及びタングステンを含む)が含まれる。
【0037】
CNT浸出繊維材料は、当該技術分野で知られている方法(例えば、射出成形、圧縮成形、真空浸出(vacuum infusion)、引き抜き成形、押し出し成形、ハンドレイアップ(開放成形)、樹脂トランスファー成形、真空支援型樹脂トランスファー成形など)を用いてマトリックス材に組み込まれる。用いられる方法次第で様々な複合材料構造体の構成が得られる。
【0038】
ある実施形態において、CNT浸出繊維はマトリックス材全体にわたって均一に分布する。このような実施形態では、マトリックス材全体にわたってCNTsの長さが略同様で、その結果、複合材料構造体全体にわたって等しくCNTsが規則的に配列されることで、CNT浸出繊維は略均一に分布されるとともに等しく配列される。
【0039】
ある実施形態において、本願発明の複合材料構造体は、複合材料構造体内の少なくとも2つの部位で異なるCNT長さを有する。再び図12を参照すると、層1230は、層1240よりも短い長さのCNTsを有するCNT浸出繊維材料1220で形成される。このような実施形態では、短いCNTsを備えた第1の層1230が、機械的性質を向上させる機能を果たす一方、第2の層1240は、例えば、EMI遮蔽などの電気的及び熱的性質を向上させる機能を果たす。このような用途のためのCNTs長さは、本明細書で更に後述される。当業者であれば、本明細書で提供される教示及び指針を前提として、CNT長さが、2以上の層(3層、4層、5層、6層など複合材料全体で何層でも)において変化し得ることを認識するであろう。このような複合材料内の各層は、機械的、電気的及び/又は熱的性質のために選択可能であり、その場合、いかなる順番であってもよい。
【0040】
さらに、当業者であれば、CNTの長さは、量子化された階段状で存在する必要がなく、むしろ複合材料全体にわたって連続的かつ徐々に変化し得るということを認識するであろう。このような実施形態では、CNT長さの勾配は、複合材料の頂部から底部にかけて連続的に増加する。ある実施形態において、CNT長さの勾配は、頂部から底部にかけて連続的に減少する。また更なる実施形態において、CNT長さは、複合材料構造体の全体にわたって、連続的に増加してから周期的に減少する。
【0041】
連続的か量子化かいずれか一方の複合材料構造体は、複合材料構造体内でのCNT浸出繊維材料を積層する位置を予め定めておくことにより、いかなる複合材料の製造処理を介しても容易に得られる。当業者であれば、構造体のどの領域が機械的、電気的及び/又は熱的条件を目的とするのかを知った上で、巻き取り可能な長さの繊維材料に沿って、目的のCNT長さに従ったCNTsを繊維材料に合成させることができる。
【0042】
ある実施形態において、量子化又は連続的なCNT長さについて、多数に分かれた巻き取り可能な長さの繊維材料でも同一の効果が得られる。このような実施形態では、巻き取り可能な繊維材料を異なる材料から作ることができる。したがって、例えば、複合材料内の第1の層は、機械的強度向上のためにCNT長さが短いCNT浸出ガラス繊維材料を組み込む一方、第2の層は、電気的及び/又は熱的用途のためにCNT浸出炭素繊維を組み込むことができる。
【0043】
CNT浸出繊維材料上のCNTsは一定のパターンで容易に配向される。例えば、ある実施形態では、浸出CNTは、繊維軸の周囲から放射状に配置される一方、他の実施形態では、浸出CNTは、繊維軸に対して平行に配置される。繊維材料の周囲に放射状に成長するCNTsは、本明細書で後述されるCNT成長方法により実現される。繊維軸に対して放射状の配向が求められる場合、CNT成長の後処理は必要とされない。ある実施形態の場合、繊維軸に沿って並ぶCNTsを有することが好ましい。このような実施形態では、CNTの成長後、CNT浸出繊維材料は、浸出CNTsの「化学的」な配向のために様々な溶液で処理される。また、機械的若しくは電気的手段、又は前述の方法のあらゆる組み合わせ(これらは全て当該技術分野において周知であり、本明細書で後述される)により、CNTsの方向を繊維軸に沿って変えることもできる。
【0044】
電気機械的手段−成長処理中、繊維に対して平行に調整された電界又は磁界を用いて、CNTsは、印加された力場を介した整列の促進により成長しながら配列される。
【0045】
機械的手段−押し出し成形、引き抜き成形、ガス圧支援金型(gas pressure aided die)、標準的金型(conventional die)、マンドレル(mandrel)などの様々な機械的技術が用いられ、整列を促進するために繊維の方向にせん断力を印加する。
【0046】
化学的手段−溶液、界面活性剤及びマイクロ・エマルション(micro-emulsion)などの化学薬品が用いられ、材料をこれらの化学薬品から引き出すときに観察される繊維方向の被覆効果を用いて整列を促進する。
【0047】
ある実施形態において、繊維材料の繊維軸に沿って並ぶCNTsの方向は、複合材料の製造処理中に変更可能である。したがって、例えば、複合材料構造体内でCNT浸出繊維材料を積層している間、機械的手段を採用することにより、巻き取り可能な長さのCNT浸出繊維材料のいかなる部分にも繊維軸に平行に並ぶCNTsを与えることができる。これにより、構造体全体にわたって様々なCNT配向性を有する複合材料構造体の提供が可能となる。ある実施形態において、CNTの配列は、複合材料構造体のうち少なくとも2つの部位で異なる。CNTsは、浸出CNTsが、前述のように、繊維軸に略平行、繊維軸に略垂直、又は、これらの組み合わせとなるように、複合材料構造体内で配向される。ここで図13を参照すると、複合材料構造体1300には、マトリックス材1310と、繊維軸の周囲に放射状に配向されたCNTs1335を有する第1の層1330、及び、繊維軸に沿って配向されたCNTs1345を有する第1の層に隣接する第2の層1340において用いられるCNT浸出繊維材料1320と、が含まれる。CNT長さが様々な場合のように、繊維材料に対してCNTの配向性が異なる部分が、単一の巻き取り可能な長さの繊維材料、又は、2以上の巻き取り可能な長さの繊維材料に沿って現われてもよく、その場合、夫々の繊維は同一又は混合種(例えば、炭素、ガラス、セラミック、金属又はアラミド繊維材料など)である。複合材料構造体1300において、第1の層1330におけるCNTs1325の配向性は、層間特性(例えば、せん断強度又はせん断じん性など)を向上させるために用いられる。これは、構造体が相互に接合されるラップジョイント(lap joint)又は領域で有益となり得る。繊維軸に平行な方向に配向されたCNTs1345を有する第2の層1340は、引張特性を向上させる用途に用いられる。
【0048】
ある実施形態において、本願発明の複合材料構造体は、複合材料構造体のうち少なくとも2つの部位で異なるCNT密度を有する。したがって、例えば、複合材料全体におけるCNTsには、マトリックス材の一部の全域にわたって濃度勾配が存在する。このように、ある実施形態では、巻き取り可能な長さのCNT浸出繊維は、巻き取り可能な長さの繊維に沿って密度を異ならせて製造される。これは、後述されるように、連続的なインライン処理(in-line process)であるCNT成長処理により制御される。複合材料構造体におけるCNTsの位置及び密度は、あらゆる幾何学的なパラメータの調整など、CNT浸出繊維がマトリックス材においてどのように積層するかについて予め知った上で設計される。ここで図14を参照すると、CNT浸出繊維材料1420を組み込んだマトリックス材1410を含む複合材料構造体1400が示されている。CNT浸出繊維材料1420は、複合材料構造体1400において第1の層1430と第2の層1440で積層するが、この場合、第1の層1430は、その全体にわたって第1のCNTs密度を有し、第2の層1440は、その全体にわたって第2のCNTs密度を有する。複合材料構造体1400において、低密度を有する第1の層1430は、機械的性質を向上させるために用いられる。さらに、パーコレーション限界(percolation threshold)に近い構成により、複合材料構造体1400内の損傷検出に使用可能な、ひずみに対する高感度な電気的応答がもたらされる。第2の層1440のより高いCNT密度は、機械的性質、熱的性質、及び電気的性質のあらゆる組み合わせのために用いられる。例えば、より高い密度は、熱輸送特性の向上に有益である。
【0049】
当業者であれば、本明細書で提供される教示及び指針を前提として、CNT密度もまた、2以上の層(3層、4層、5層、6層など複合材料全体で何層でも)において変化し得ることを認識するであろう。このような複合材料内の各層は、機械的、電気的及び/又は熱的性質のために選択可能であり、その場合、いかなる順番で配列されてもよい。
【0050】
さらに、当業者であれば、CNTの密度は、図14に示されるように、量子化された階段状で存在する必要がなく、むしろ複合材料全体にわたって連続的かつ徐々に変化するということを認識するであろう。このような実施形態では、CNT密度の勾配は、複合材料の頂部から底部にかけて連続的に増加する。ある実施形態において、CNT密度の勾配は、頂部から底部にかけて連続的に減少する。また更なる実施形態において、CNT密度は、複合材料構造体の全体にわたって、連続的に増加してから周期的に減少する。
【0051】
様々なCNT密度を有する連続的か量子的かいずれか一方の複合材料構造体は、複合材料構造体内でのCNT浸出繊維材料を積層する位置を予め定めておくことにより、いかなる複合材料の製造処理を介しても容易に得られる。当業者であれば、構造体のどの領域が目的とする機械的、電気的及び/又は熱的条件を有しているのかを知った上で、巻き取り可能な長さの繊維材料に沿って、目的の性質に従ったCNTsを繊維材料に合成させることができる。
【0052】
ある実施形態において、量子的又は連続的なCNT長さについて、多数に分離された巻き取り可能な長さの繊維材料でも同一の効果が実現される。このような実施形態では、巻き取り可能な繊維材料を異なる材料から作ることができる。したがって、例えば、複合材料内の第1の層は、機械的強度向上のために、あるCNT密度を有するCNT浸出ガラス繊維材料を組み込む一方、第2の層は、電気的及び/又は熱的用途のためにCNT浸出炭素繊維を組み込むことができる。
【0053】
ある実施形態において、CNT浸出繊維は、複合材料構造体の略表面付近にのみ分布される。このような実施形態では、CNT浸出繊維は、CNTsの欠けた広範な繊維部分も含む。したがって、表面にはCNTsが現れるが、複合材料構造体の残部には、CNTsの欠けた強化繊維材料が分布する。
【0054】
複合材料構造体の第1及び第2の層における繊維材料自体は、0度(すなわち、平行)〜90度(すなわち、垂直)にこれらの中間角度及び中間割合を含めた、あらゆる相対的な配向性をとり得る。したがって、第1の層は、繊維軸の周囲に放射状に配向されたCNTsで形成され、第2の層は、繊維軸に対して同一のCNT配向性を有するが、第1及び第2の層におけるCNT浸出繊維材料は、0度〜90度にこれらの中間角度及び中間割合を含めたあらゆる相対的な角度で、非平行な配列に配置される。例示的な構成として、図15には、CNT浸出繊維材料1520が配置されたマトリックス材1510を有する複合材料構造体1500が示されている。CNT浸出繊維材料1520は、繊維が互いに略垂直に配列された、第1の層1530及び第2の層1540を形成する方法で、マトリックス材内に配置される。このような配列は、織物構造又は個別の層によって実現される。ある実施形態では、第1の層1530及び第2の層1540は、同種の繊維で作られる。他の実施形態では、第1の層1530及び第2の層1540は、異種の繊維で作られる。複合材料構造体1500では垂直層が交互に現れるが、構造体がいかなる順序でも層状可能であることを、当業者であれば認識するであろう。例えば、第1の層1530の繊維配向性を有する2以上の層が、相互に隣接して配置可能である。同様に、第2の層1540の繊維配向性を有する2以上の層が、相互に隣接して配置可能である。
【0055】
図15は、第1の層1530及び第2の層1540が、CNT浸出繊維材料1520の周囲におけるCNTsの配向性が同一の放射状であることを示しているが、当業者であれば、CNTsの配向性が変化して、繊維軸に対して平行な配向性も含むということを認識するであろう。
【0056】
さらに、当業者であれば、本明細書で提供される教示及び指針を前提として、複合材料構造体が、CNT長さ、CNT密度、CNT配列、及び複合材料構造体の少なくとも2つの部位において繊維材料の配列のいかなる組み合わせも可能であることを認識するであろう。あらゆる異なる性質も、単一の巻き取り可能な長さの繊維に設計されるか、あるいは、別々の巻き取り可能な長さの繊維から形成される。ある実施形態では、混合の繊維種も用いられる。これらは、複合材料構造体の様々な部位に目的とする機械的、電気的及び/又は熱的性質を与えて、これにより、ナノ材料強化材の精巧な制御による高度に調整された複合材料構造体となる。
【0057】
CNT浸出処理において、繊維材料は改質されて、繊維上にCNT開始触媒ナノ粒子の層(通常は単一層よりも多い)をもたらす。触媒含有繊維は、その後、CNTsをインラインで連続的に成長させるために用いられるCVDをベースとする処理にさらされる。成長したCNTsは、繊維材料に浸出する。得られたCNT浸出繊維材料は、それ自体、複合材料の構造である。
【0058】
ある実施形態において、CNT浸出処理には、工程として、1)サイジング剤が存在する場合の繊維材料からのサイジング剤の除去、2)繊維材料へのナノチューブ形成触媒の適用(applying)、3)ナノチューブ合成温度への繊維材料の加熱、及び4)触媒含有母繊維への反応性炭素の導入(directing)、が含まれる。
【0059】
適切なCNT形成触媒には、通常、遷移金属を主としたナノメートル・サイズの粒子(例えば、直径10ナノメートルなど)からなるコロイド溶液が含まれる。適切なコロイド溶液には、a)鉄ナノ粒子、b)酸化鉄、c)硝酸鉄、d)コバルト、e)酸化コバルト、f)硝酸コバルト、g)ニッケル、h)酸化ニッケル、i)銅、j)酸化銅、k)金属塩溶液、l)項目a)〜k)の金属の混合物及び合金、の溶液が含まれる。コロイド溶液は、水、又は、限定するものではないが、アセトン、ヘキサン、イソプロピルアルコール、トルエン、及びエタノールなどの溶媒から形成される。ある実施形態において、遷移金属である触媒は、フェロ流体、有機金属、金属塩、又は、気相輸送を促進する他の組成物の形式の前駆体として、プラズマ原料ガスに添加される。他の実施形態では、遷移金属触媒を、蒸着技術、電解析出技術、懸濁液ディッピング(suspension dipping)技術、及び当業者に知られた他の方法を用いて、母繊維に析出させる。触媒は、周囲環境の中、室温で適用される(真空及び不活性雰囲気のいずれも必要としない)。ある実施形態では、ナノ粒子CNT触媒は、当該技術分野で知られているように、ナノ粒子の島を形成することにより、繊維材料上の原位置に生成される。
【0060】
ある実施形態において、浸出カーボン・ナノチューブは、単層カーボン・ナノチューブである。ある実施形態では、浸出カーボン・ナノチューブは、2層カーボン・ナノチューブである。ある実施形態では、浸出カーボン・ナノチューブは、多層ナノチューブである。ある実施形態では、浸出カーボン・ナノチューブは、単層、2層及び多層ナノチューブの組み合わせである。単層、2層及び多層ナノチューブの特徴的な性質には、繊維材料の最終用途のために、ナノチューブのどれか一つの種類の合成を決定付ける相違がある。例えば、単層ナノチューブは、半導体として設計されるのに対し、多層ナノチューブは、導体である。合成されたカーボン・ナノチューブの直径は、その成長に用いられた金属ナノ粒子触媒の大きさに関係する。
【0061】
所望のCNT担持量は、母繊維上に(より大きな間隔を空けて)相対的に長いCNTsを相対的に低密度で、及び/又は、母繊維上に(互いにより近いCNTsに隣接して)相対的に短いCNTsを相対的に高密度で、成長させることにより得られる。また、CNT担持量は、長いCNTsを高密度で及び/又は短いCNTsをまばらに成長させることによっても制御される。担持量は、CNT長さ及び密度の一性質である。CNT長さ及び/又は密度による担持量の達成は、例えば、複合材料の所望の性質など、様々な要因に応じて決定される。例えば、相対的に長いCNTsを備えた繊維を有する複合材料により、良好なEMI吸収性及び太陽放射からの保護がもたらされる。所望のCNT密度は、1つには、触媒の適用(繊維上の触媒粒子の量/大きさ)に応じて達成され、CNT長さは、CNT合成反応器における成長時間の関数である。CNT直径及び種類(例えば、単層対多層)などのCNTsの他の特徴は、例えば、触媒の粒子径により制御可能である。
【0062】
カーボン・ナノチューブの合成は、CNT成長反応器内で生じる。ある実施形態において、合成処理は、炭素プラズマが触媒を含む繊維上にスプレー(spray)されるプラズマベース処理(例えば、プラズマ助長化学蒸着など)である。ある実施形態では、熱CVD処理が、カーボン・ナノチューブ合成に用いられる。
【0063】
カーボン・ナノチューブの成長は高温(触媒にもよるが、通常は約500℃から1000℃の範囲)で発生するので、触媒を含む繊維は任意に予熱される。浸出処理に関して、繊維の種類にもよるが、繊維は、それが軟化するまで加熱されてもよい。繊維を加熱するためには、限定するものではないが、例えば、赤外線ヒーター、マッフル炉など、様々な発熱素子のいずれも使用可能である。
【0064】
繊維材料の予熱後、繊維は反応性炭素原料を受ける状態になっている。ある実施形態において、これは炭素プラズマである。炭素プラズマは、例えば、炭素を含むガス(例えば、アセチレン、エチレン、エタノールなど)を、ガスのイオン化が可能な電界中に通すことにより発生する。この低温炭素プラズマは、スプレーノズルを介して、繊維に導入される。繊維は、プラズマを受けるために、例えば、スプレーノズルから約1センチメートル以内にある。ある実施形態において、加熱器は、繊維の上側のプラズマ・スプレーに配設され、繊維を高温に維持する。炭素プラズマに触媒をさらした結果、CNTsは繊維上で成長する。
【0065】
ある実施形態において、反応性炭素原料は、熱CVD処理により提供される。この場合、炭素原料及び/又はキャリアガス(例えば、アルゴン又は窒素などの不活性キャリア)は、任意に予熱され、遷移金属で媒介されるCNT成長の反応性炭素の核を生成する。この処理は本明細書でさらに後述する。
【0066】
連続製造処理に関して、CNT浸出繊維は、繊維巻き取り式スプーリング・ステーション(fiber take-up spooling station)で巻き取られる。その後、CNT浸出繊維は、限定するものではないが、複合材料の強化材としての使用など様々な用途のいずれにも使用可能な状態となる。全体の処理は、通常、自動化されコンピュータで制御される。CNTsの成長量は、一本の巻き取り可能な繊維の長さに沿って様々である。したがって、例えば、より長いCNTsが求められる場合、繊維材料は、単一のCNT成長チャンバー内において長い成長時間にさらされるか、又は、多数の直列成長チャンバーにさらされる。例えば、キャリア及び炭素原料の流量、温度、ラインスピードなどのパラメータは、全てコンピュータにより修正・制御され、繊維材料のあらゆる部位にわたって、CNTが目標とする長さを有し、いずれの密度も可能である、巻き取り可能な長さの繊維材料を生成する。前述のように、繊維上におけるCNT合成に対して行われる制御、及びCNT浸出繊維材料が最終製品においてどのように積層するかの予見により、ユーザーは、構造体全体で、及び複合材料構造体の特定の領域で、複合材料のどの性質が強化されるかを決定することが可能となる。
【0067】
複合材料の組成物及び完成した複合材料を形成するために、CNT浸出繊維は更なる工程を受ける。ある実施形態において、CNT浸出繊維は樹脂槽に送られる。樹脂槽には、CNT浸出繊維及び樹脂を含む複合材料の生成する樹脂が収容されている。例えば、汎用のポリエステル(例えば、オルソフタル酸ポリエステルなど)、改良ポリエステル(例えば、イソフタル酸ポリエステルなど)、エポキシ、及びビニルエステルなどの様々な樹脂のいずれも、この目的に用いられ得る。
【0068】
CNT浸出繊維材料を用いることにより、60重量%ものCNT担持量を有する複合材料の組成物が実証されている。樹脂槽は、例えば、ドクター・ブレード(doctor blade)のローラー槽、浸漬槽、又は当業者に知られた他のあらゆる方法など、様々な方法で実現可能である。樹脂でぬれたCNT浸出繊維は、所望により、例えば、フィラメント・ワインディング(winding)処理などにより更に処理される。当然のことながら、複合材料の組成物は、例えば、CNT浸出繊維から形成されたトウ、CNT浸出繊維から形成されたロービング、CNT浸出繊維から形成された織物など、CNT浸出繊維材料を含んでいる。
【0069】
CNT浸出繊維材料は、繊維表面における特定の種類のCNTsで調整されて、これにより様々な性質を得る。例えば、電気的性質は、様々な種類、直径、長さ及び密度のCNTsを繊維上に適用することにより改良可能である。固有のCNTからCNTへ架橋させることができる長さのCNTsを用いて、複合材料の伝導性を向上させるパーコレーション経路を形成する。繊維の間隔は、通常、一繊維の直径に等しいか、それよりも大きく、約5〜約50ミクロンであるので、CNTsは、効果的な電気経路を得るため、少なくともこの長さである。ある実施形態において、電気経路に必要とされるCNTs量は、パーコレーション限界のために約0.1%よりも多いあらゆる量の担持量により制御される。短いCNTsは構造的性質の向上に用いられる。
【0070】
ある実施形態において、CNT浸出繊維材料は、同一の繊維材料の異なる部位に様々な長さのCNTsを含む。このような多機能のCNT浸出繊維は、調整された複合材料強化材として用いられた場合、それらが組み込まれる複合材料の1以上の性質を向上させる。
【0071】
ある実施形態において、第1の量のカーボン・ナノチューブは繊維材料に浸出する。この量は、カーボン・ナノチューブ浸出繊維材料の引張強度、ヤング率、せん断強度、せん断弾性係数、硬度(toughness)、圧縮強度、密度、EM吸収率・反射率、音響透過率、電気伝導度、及び熱伝導度からなる群より選択される少なくとも1つの値が、繊維材料自体が有する同一の性質の値と異なるように選択される。得られたCNT浸出繊維材料のこれらの性質は、最終的な複合材料に付与される。
【0072】
引張強度には、3つの異なる測定値、すなわち、1)材料のひずみが弾性変形から塑性変形(その結果、材料の不可逆的な変形が生じる)に変化する応力を評価する降伏強度、2)引張荷重、圧縮荷重又はせん断荷重を受けたとき、材料が耐え得る最大応力を評価する終局強度、及び3)破断点における応力−ひずみ線図上での応力の座標を評価する破壊強度、が含まれる。複合材料のせん断強度は、繊維方向に対して垂直に荷重がかけられた場合に材料が破壊する応力を評価する。圧縮強度は、圧縮荷重がかけられた場合に材料が破壊する応力を評価する。
【0073】
多層カーボン・ナノチューブは、特に、63GPaの引張強度を達成しており、今までに測定された材料の中で最も高い引張強度を有する。さらに、理論計算によれば、CNTsには約300GPaの引張強度も可能であることが示されている。したがって、CNT浸出繊維材料は、母繊維材料と比較して大幅に上回る終局強度を有することが見込まれる。前述のように、引張強度の向上は、用いられるCNTsの正確な性質に加え、繊維材料におけるCNTsの密度及び分布によって決まる。CNT浸出繊維材料では、例えば、引張特性において2〜3倍増加することが示されている。例示的なCNT浸出繊維材料は、機能化されていない母繊維材料の3倍のせん断強度と、2.5倍の圧縮強度を有する。強化繊維材料のこのような強度増加は、CNT浸出繊維が組み込まれた複合材料の強度増加となる。
【0074】
ヤング率は等方性弾性材料の剛性の1つの尺度である。それは、フックの法則が有効な応力範囲において、1軸ひずみに対する1軸応力の比率として定義される。これは、経験的に、材料サンプルについて行われる引張試験中に形成される応力−ひずみ線図の傾きから決定される。
【0075】
電気伝導度又は特定の伝導性は、電流を伝導する材料の性能についての1つの尺度である。CNTのキラリティに関連している、例えば、撚度(degree of twist)などの特定の構造的なパラメータを有するCNTsは、伝導性が高く、したがって金属特性を示す。CNTのキラリティに関して、広く認められている命名方式(M.S.Dresselhaus, et al.Science of Fullerences and Carbon Nanotubes, Academic Press, San Diego, CA pp.750-760, (1996))が、当業者により形式化され承認されている。このように、例えば、CNTsは、2つのインデックス(n,m)で相互に識別される(ここで、nとmは、六方晶のグラファイトが円筒の表面上で巻かれて端部同士を接合した場合にチューブとなるように、六方晶のグラファイトの切断及び巻き方を表す整数である)。2つのインデックスが同じである場合(m=n)、得られるチューブは、「アームチェア」(又はn−n)型であるといわれているが、これは、チューブがCNT軸に対して垂直に切断されたときに、六角形の辺のみが露出し、そのチューブ端部の周辺に沿ったパターンが、n回繰り返されるアームチェアのアームと座部に似ているからである。アームチェアCNTs、特にSWNTsは、金属的であり、非常に高い電気的及び熱的伝導性を有している。さらに、このようなSWNTsは非常に高い引張強度を有している。
【0076】
撚度に加えて、CNTの直径もまた電気的伝導性に影響を与える。前述のように、CNTの直径は、サイズ制御されたCNT形成触媒ナノ粒子の使用により制御可能である。また、CNTsは、半導体材料としても形成される。多層CNTs(MWNTs)における伝導性はより複雑である。MWNTs内の層間反応は、個々のチューブ一面に、電流を不均一に再分布させる。対照的に、金属的な単層ナノチューブ(SWNTs)の様々な部位においては電流に変化はない。また、カーボン・ナノチューブは、ダイヤモンド結晶及び面内の(in-plane)グラファイトシートと比較して、非常に高い熱伝導性を有する。
【0077】
本開示は、1つには、複合材料構造体に組み込まれたカーボン・ナノチューブ(「CNT浸出」)繊維材料に対してなされるものである。繊維材料に対するCNTsの浸出は、例えば、水分(moisture)、酸化、磨耗及び圧縮によるダメージから保護するサイジング剤としてなど、多くの機能を果たす。また、CNTベースのサイジング剤は、複合材料における繊維材料とマトリックス材間の接点(interface)としても機能する。また、CNTsは、繊維材料をコーティング(coating)するいくつかのサイジング剤の1つとしても機能する。
【0078】
さらに、繊維材料に浸出したCNTsは、例えば、熱的及び/又は電気的伝導性、及び/又は引張強度など、繊維材料の様々な性質を変化させる。CNT浸出繊維材料を構成するために用いられる処理は、略均一な長さ及び分布のCNTsをもたらし、これにより改質される繊維材料にわたって均一に有用な性質が与えられる。また、本明細書に開示された処理は、巻き取り可能な寸法のCNT浸出繊維材料の生成に適している。
【0079】
また、本開示は、1つには、CNT浸出繊維材料を構成するための処理に対してもなされる。本明細書に開示された処理は、繊維材料に対して標準的なサイジング溶液を適用する前に、又はその代わりに、新たに生成される発生期の繊維材料に適用される。あるいは、本明細書に開示された処理は、工業用の繊維材料、例えば、既に表面にサイジング剤が適用された炭素トウ又はガラス・トウを利用することができる。このような実施形態においては、以下で更に説明されるように、バリア・コーティング及び/又は遷移金属粒子は、間接的な浸出をもたらす中間層として機能するが、サイジング剤は、炭素繊維又はガラス繊維材料と合成されたCNTsとを直接接触させるために除去される。追加のサイジング剤は、CNTの合成後、所望により繊維材料に適用される。
【0080】
本明細書に開示された処理により、トウ、テープ、織物及び他の3次元織物構造体の巻き取り可能な長さに沿って、長さ及び分布が均一なカーボン・ナノチューブの連続的な生成が可能となる。様々なマット、織物及び不織布などは、本願発明の処理により機能化されるが、これに加え元となるトウ、ヤーンなどからも高規則構造を生み出すことも、これら母材をCNTで機能化した後で可能である。例えば、CNTが浸出したガラス織布は、CNT浸出ガラス繊維トウから作り出すことができる。
【0081】
ある実施形態において、本願発明は、カーボン・ナノチューブ(CNT)が浸出した繊維材料を含む組成物を提供する。CNT浸出繊維材料には、巻き取り可能な寸法の繊維材料、繊維材料の周囲に等角的に配置された任意のバリア・コーティング、及び繊維材料に浸出するカーボン・ナノチューブ(CNTs)が含まれる。繊維材料へのCNTsの浸出には、繊維材料に対する個々のCNTsの直接結合、又は、遷移金属NP、任意のバリア・コーティング、若しくはその両方による間接結合の結合モチーフが含まれる。ある実施形態では、バリア・コーティングは不要である。用いられる繊維の種類は、バリア・コーティングが用いられるかどうかで決定する。例えば、炭素繊維、金属繊維及び有機繊維には、更に後述されるように、触媒−触媒間及び/又は触媒−基材間の相互作用を回避するため、バリア・コーティングが採用される。他の種類の繊維にとっても、バリア・コーティングの存在は有益であるが、その使用は任意である。
【0082】
理論に拘束されるものではないが、CNT形成触媒として機能する遷移金属NPsは、CNT成長の核構造を形成することにより、CNT成長に触媒作用を及ぼす。一つの実施形態において、CNT形成触媒は、バリア・コーティング(使用時)に固定されて、繊維材料の基部に留まって、繊維材料の表面に浸出する。このような場合、当該技術分野でよく観察されるように、遷移金属ナノ粒子触媒により当初形成された核構造は、触媒をCNT成長の前縁(leading edge)に沿って移動させなくても、触媒によらない連続的なCNTの核成長には十分である。このような場合、NPsは、繊維材料にCNTを付加するポイントとして機能する。また、バリア・コーティングの存在により、更なる間接的な結合モチーフとなる。例えば、CNT形成触媒はバリア・コーティング内に固定されるが、繊維材料とは表面で接触しない。このような場合、バリア・コーティングがCNT形成触媒と繊維材料間に配置されて積層構造となる。いずれにしても、形成されるCNTsは、繊維材料に浸出する。ある実施形態において、バリア・コーティングの中には、CNT形成触媒が、成長するナノチューブの前縁に従っていくことをなおも可能とするものもあるであろう。このような場合には、その結果として、繊維材料、又は、任意的に、バリア・コーティングに対するCNTsの直接結合となる。カーボン・ナノチューブと繊維材料間に形成される実際の結合の種類にかかわらず、浸出したCNTは強固であり、これによりCNT浸出繊維材料がカーボン・ナノチューブの性質及び/又は特徴を示すことが可能となる。
【0083】
かさねて理論に拘束されるものではないが、CNTsが繊維材料上に成長するとき、反応チャンバー内に存在する高温及び/又は残留酸素及び/又は水分は、特定の繊維材料にダメージを与える。さらに、繊維材料自体は、CNT形成触媒自体との反応によりダメージを受ける。例えば、炭素ベースの繊維材料は、CNT合成のために用いられる反応温度で触媒に対する炭素原料として作用する。このような過量の炭素は、炭素原料ガスの管理導入を阻害するとともに、炭素を過度に担持させることにより触媒を被毒化する働きさえする。本願発明で用いられるバリア・コーティングは、このような炭素に富む繊維材料上のCNT合成を容易にするために設けられる。理論に拘束されるものではないが、コーティングは、熱分解に対する遮熱層を提供したり、繊維材料を高温環境にさらすことを抑制する物理的障壁となる。選択的に、又は追加的に、コーティングは、CNT形成触媒と繊維材料間の接触表面積を最小化したり、CNT成長温度で繊維材料をCNT形成触媒にさらすことを抑制する。
【0084】
CNT浸出繊維材料を有する組成物はCNTsが略均一な長さで提供される。本明細書に記載された連続処理の場合、CNT成長チャンバーにおける繊維材料の残留時間は調節されて、CNTの成長、及び最終的にはCNTの長さを制御する。これにより、成長するCNTsの特定の性質を制御する手段が提供される。また、CNTの長さは、炭素原料ガス及びキャリアガスの流量並びに反応温度の調節を介しても制御される。CNTの性質は、例えば、CNTsを作るために用いられる触媒のサイズを制御することにより、更なる制御が可能となる。例えば、1nmの遷移金属ナノ粒子触媒は、特にSWNTsを提供するために用いられる。より大きな触媒は、主にMWNTsを作るために用いられる。
【0085】
さらに、用いられるCNT成長処理は、前もって形成されたCNTsを溶媒溶液中に懸濁又は拡散して繊維材料に手作業で塗布する処理において発生し得るCNTsの束化及び/又は凝集を回避しつつ、繊維材料に均一に分布したCNT浸出繊維材料を提供する上で有用である。このように凝集したCNTsは、繊維材料に弱く結合する傾向にあり、CNT特有の性質は、仮に結合したとしても、かすかにしか現れない。ある実施形態において、被覆率、すなわち被覆される繊維の表面積の百分率として表される最大分布密度は、直径約8nmの5層CNTsを想定すると、約55%もの高率となる。この被覆率は、CNTsの内部空間を「充填可能な(fillable)」空間とみなして算出される。分布/密度の値は、表面における触媒の拡散を変化させるとともにガス組成及び処理速度を制御することにより、様々な値とすることができる。一定のパラメータに関しては、概して、全繊維表面で約10%以内の被覆率が達成される。密度が高くなりCNTsが短くなると、機械的性質の向上にとって有用となるのに対し、密度の増大が好ましいことに変わりはないが、密度が低くなりCNTsが長くなると、熱的性質及び電気的性質の向上にとって有用となる。密度が低くなるのは、より長いCNTsが成長したときであるが、これは、触媒の粒子収量を低下させる高温かつ急速な成長によるものである。
【0086】
CNT浸出繊維材料を有する本願発明の組成物には、例えば、フィラメント、繊維ヤーン、繊維トウ、テープ、繊維ブレード(fiber braid)、織物、不織繊維マット、繊維プライ(fiber ply)、及び他の3次元織物構造体が含まれる。フィラメントには、約1ミクロンから約100ミクロンまでの直径を有する高アスペクト比の繊維が含まれる。繊維トウは、一般的にフィラメントを密に結合した束であり、通常は撚り合わされてヤーンとなる。
【0087】
ヤーンには、撚り合わされたフィラメントを密に結合した束が含まれる。ヤーンにおける各フィラメントの直径は、比較的均一である。ヤーンは、1000リニアメーターのグラム重量として示される「テックス(tex)」、又は10,000ヤードのポンド重量として示されるデニール(denier)により、通常は、約200テックスから約2000テックスまでの標準的なテックス範囲で表される様々な重量を有する。
【0088】
トウには、撚り合わされていないフィラメントを緩く結合した束が含まれる。ヤーンと同様に、トウにおけるフィラメントの直径は、概して均一である。また、トウも様々な重量を有し、テックス範囲は、通常、200テックスから2000テックスの間となる。それらは、しばしば、例えば、12Kトウ、24Kトウ、48Kトウなどのトウ内にある数千のフィラメントで特徴付けられる。
【0089】
テープは、織物組織として組まれるか、又は、不織の扁平なトウを示す材料である。テープは、様々な幅をもち、通常リボンに類似する両面構造である。本願発明の処理では、テープの一面又は両面におけるCNTの浸出が両立可能である。CNT浸出テープは、平らな基材表面上の「カーペット(carpet)」あるいは「樹木林(forest)」に似ている。さらに、本願発明の処理は、テープの巻き取りを機能させるために、連続的なモードで実施できる。
【0090】
繊維ブレードは、繊維が高密度に詰め込まれたロープ状構造を示す。このような構造は、例えば、ヤーンから組まれる。編み上げ構造は中空部分を含んでもよく、あるいは、別のコア材料の周囲に組まれてもよい。
【0091】
ある実施形態において、多数の一次繊維材料の構造体は、織物又はシート状構造体に組織化される。これらには、前述のテープに加えて、例えば、織物、不織繊維マット及び繊維プライが含まれる。このような高い規則構造は、元となるトウ、ヤーン、フィラメントなどから、その母繊維にCNTsを既に浸出させて組まれる。あるいは、このような構造体は、本明細書に記載されたCNT浸出処理のための基材として機能する。
【0092】
炭素繊維には、繊維の発生に用いられる前駆体(そのいずれもが本願発明に使用可能)、すなわち、レーヨン、ポリアクリロニトリル(PAN)及びピッチ(pitch)に基づいて3種類に分類される。セルロース系材料であるレーヨン前駆体から作られる炭素繊維は、炭素含有量が比較的低い約20%であり、繊維が低強度かつ低剛性の傾向にある。ポリアクリロニトリル(PAN)前駆体は、約55%の炭素含有量をもつ炭素繊維を提供する。PAN前駆体に基づく炭素繊維は、表面欠陥が最小であるため、他の炭素繊維前駆体に基づく炭素繊維よりも概して高い引張強度を有する。
【0093】
石油アスファルト、コールタール及びポリ塩化ビニルに基づくピッチ前駆体もまた、炭素繊維を生成するために用いられる。ピッチは、比較的低コストで炭素収率が高いが、既知のバッチ処理における不均一性という問題がある。
【0094】
ガラス繊維材料に用いられるガラスの種類は、例えば、Eガラス、Aガラス、E−CRガラス、Cガラス、Dガラス、Rガラス、及びSガラスなどの、いかなる種類であってもよい。Eガラスは、1重量%未満のアルカリ酸化物を有するアルミノホウケイ酸塩ガラスを含有し、主としてガラス強化プラスチックに用いられる。Aガラスは、酸化ボロンが殆どないか、又は皆無の、アルカリ石灰ガラスを含有する。E−CRガラスは、1重量%未満のアルカリ酸化物を有する石灰アルミノケイ酸塩(alumino-lime silicate)を含有し、高い耐酸性を有する。Cガラスは、高含有量の酸化ボロンを有するアルカリ石灰ガラスを含有し、例えば、ガラス・ステープル・ファイバー(glass staple fiber)に用いられる。Dガラスは、ホウケイ酸塩ガラスを含有し、高い絶縁定数を有する。Rガラスは、MgO及びCaoを含まないアルミノケイ酸塩ガラスを含有し、高い機械的強度を有する。Sガラスは、Caoは含まないがMgOの含有量が高いアルミノケイ酸塩ガラスを含有し、高い引張強度を有する。これら1以上の種類のガラスが処理されて前述のガラス繊維材料になる。特定の実施形態において、ガラスはEガラスである。他の実施形態において、ガラスはSガラスである。
【0095】
セラミック繊維材料に用いられるセラミックの種類は、いかなる種類のものであってもよく、例えば、酸化物(アルミナ及びジルコニアなど)、炭化物(炭化ホウ素、炭化ケイ素及び炭化タングステンなど)、並びに、窒化物(窒化ホウ素及び窒化ケイ素など)などがある。他の繊維材料には、例えば、ホウ化物及びケイ化物が含まれる。セラミック繊維材料は他の繊維種を備えた複合材料として発生する。例えば、ガラス繊維を組み込む織物状のセラミック繊維材料が一般的である。
【0096】
金属繊維材料には、例えば、dブロック金属、ランタノイド、アクチノイド、主族金属(main group metal)など、ゼロ価の酸化状態におけるあらゆる金属が含まれる。また、これらの金属のいずれも、例えば、金属酸化物、金属窒化物など、ゼロ価ではない酸化状態でも用いられる。例示的なdブロック金属には、例えば、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金及び金などが含まれる。例示的な主族金属には、例えば、アルミニウム、ガリウム、インジウム、錫、タリウム、鉛及びビスマスが含まれる。例示的な金属には、例えば、本願発明に有用な塩が含まれる。
【0097】
アラミド繊維材料は、ナイロン(登録商標)族に属し、デュポン社により製造される周知の製品KEVLAR(登録商標)により例示される芳香族ポリアミド構造体である。アラミド繊維材料には、例えば、KEVLAR(登録商標)、TECHNORA(登録商標)、TWARON(登録商標)などの市販製品を含む、パラ系アラミドが含まれる。本願発明に有用な他のアラミド繊維には、例えば、市販のNOMEX(登録商標)、TEIJINCONEX(登録商標)、KERMEL(登録商標)、X−FIPER及びCONEX/NEW STARなどのメタ系アラミドが含まれる。別の有用なアラミドは、SULFRON(登録商標)である。また、本願発明に有用なアラミドは、混合物として形成されてもよく、例えば、NOMEX(登録商標)とKEVLAR(登録商標)の混合物は、耐火服の生産に用いられる。
【0098】
CNTsは、例えば、機械的強度、低〜中程度の電気抵抗率、高熱伝導性などの特有の性質を、CNT浸出繊維材料に与える。例えば、ある実施形態では、カーボン・ナノチューブ浸出炭素繊維材料の電気抵抗率は、母材の炭素繊維材料の電気抵抗率よりも低い。より一般的に言えば、得られたCNT浸出繊維がこれらの特徴を示す程度は、カーボン・ナノチューブによる繊維被覆の範囲及び密度の関数となる。直径8nmの5層MWNTを想定すると、0〜55%の繊維のあらゆる繊維表面積が被覆される(この場合も、この計算はCNTsの内部空間を充填可能とみなしている)。この数字は、CNTsの直径が小さくなると低くなり、CNTsの直径が大きくなると高くなる。55%の表面積被覆率は、1μm2当たり約15,000のCNTsに相当する。さらに、CNTの性質は、前述のように、CNTの長さに依存する形で繊維材料に付与される。浸出したCNTsの長さは、約1ミクロンから約500ミクロンの範囲(1ミクロン、2ミクロン、3ミクロン、4ミクロン、5ミクロン、6ミクロン、7ミクロン、8ミクロン、9ミクロン、10ミクロン、15ミクロン、20ミクロン、25ミクロン、30ミクロン、35ミクロン、40ミクロン、45ミクロン、50ミクロン、60ミクロン、70ミクロン、80ミクロン、90ミクロン、100ミクロン、150ミクロン、200ミクロン、250ミクロン、300ミクロン、350ミクロン、400ミクロン、450ミクロン、500ミクロン、及びこれらの中間の全ての値など)において様々である。また、CNTsは、例えば、約0.5ミクロンなど、長さを約1ミクロン未満にすることもできる。また、CNTsは、例えば、510ミクロン、520ミクロン、550ミクロン、600ミクロン、700ミクロン及びこれらの中間の全ての値など、500ミクロンよりも長くすることもできる。
【0099】
本願発明の組成物は、約1ミクロンから約10ミクロンまでの長さを有するCNTsを組み込むことができる。このようなCNTの長さはせん断強度を向上する用途に有用である。CNTsは、約5ミクロンから約70ミクロンの長さを有してもよい。このようなCNT長さは、CNTsが繊維芳方向に配列されている場合には、引張強度を向上する用途に有用である。CNTsは、約10ミクロンから約100ミクロンの長さを有してもよい。このようなCNTの長さは電気的/熱的性質に加え機械的性質を向上するのに有用である。また、本願発明に用いられる処理は、約100ミクロンから約500ミクロンの長さを有するCNTsを提供できるが、電気的及び熱的性質の向上にも有益である。このようなCNT長さの制御は、様々なラインスピード及び成長温度と相まって、炭素原料ガス及び不活性ガスの流量を変化させることで容易に達成される。
【0100】
ある実施形態において、巻き取り可能な長さのCNT浸出繊維材料を含有する組成物には、CNTsの長さが異なる様々な均一領域がある。例えば、せん断強度特性を高めるためには、CNT浸出炭素繊維材料のうちの均一に短いCNT長を備えた第1の領域を、そして、電気的又は熱的性質を高めるために、同一の巻き取り可能な材料のうちの均一に長いCNT長を備えた第2の領域を有することが好ましい。
【0101】
繊維材料にCNTを浸出させるための本願発明の処理により、CNTの長さを均一に、かつ、連続処理で制御することが可能となり、これによって、巻き取り可能な炭素繊維材料は、CNTsを用いて高速の機能化が可能なる。CNT成長チャンバーにおける5秒から300秒の材料滞留時間で、長さ3フィートのシステムの連続処理におけるラインスピードを、毎分約0.5フィートから毎分約36フィート以上のあらゆる範囲とすることが可能である。選択されるラインスピードは、以下でさらに説明されるように、様々なパラメータによる。
【0102】
ある実施形態において、約5秒から約30秒の材料残留時間により、約1ミクロンから約10ミクロンの長さを有するCNTsが生成される。また、ある実施形態では、約30秒から約180秒の材料残留時間により、約10ミクロンから約100ミクロンの長さを有するCNTsが生成される。また更なる実施形態では、約180秒から約300秒の材料残留時間により、約100ミクロンから約500ミクロンの長さを有するCNTsが製造される。当業者であれば、これらの範囲がおおよそのものであり、また、CNTの長さが、反応温度、並びに、キャリア及び炭素原料の濃度及び流量により調節可能であることを認識できるであろう。
【0103】
本願発明のCNT浸出繊維材料には、任意にバリア・コーティングが含まれる。バリア・コーティングには、例えば、アルコキシシラン、メチルシロキサン、アルモキサン、アルミナナノ粒子、スピンオンガラス(spin on glass)、ガラスナノ粒子が含まれる。後述されるように、CNT形成触媒は、未硬化のバリア・コーティング材に加えられて、その後、共に繊維材料に適用される。他の実施形態において、バリア・コーティング材は、CNT形成触媒の配置前に繊維材料に加えられる。バリア・コーティング材は、この後のCVD成長での炭素原料にCNT形成触媒をさらすのに十分な薄さである。ある実施形態では、その厚さは、CNT形成触媒の有効径未満か、それとほぼ等しい。ある実施形態では、バリア・コーティングの厚さは、約10nmから約100nmの範囲である。また、バリア・コーティングは、10nm未満であり、1nm、2nm、3nm、4nm、5nm、6nm、7nm、8nm、9nm、10nm及びこれらの中間の値などが含まれる。
【0104】
理論に拘束されるものではないが、バリア・コーティングは、繊維材料とCNTsの中間層として機能し、CNTsを繊維材料に機械的に浸出させる働きをする。このような機械的な浸出は、繊維材料にCNTsの性質をなお付与しつつ、繊維材料がCNTsを組織化するための基盤として機能する強固な機構をさらに提供する。また、バリア・コーティングを含むことの利点は、水分にさらされることからくる化学的ダメージ、及び/又は、CNT成長を促進するために用いられる温度で繊維材料を加熱することからくるあらゆる熱的ダメージから、繊維材料を直接保護するという点にある。
【0105】
本明細書に開示された浸出CNTsは従来繊維の「サイジング剤(sizing)」の代替品として効果的に機能する。浸出CNTsは、従来のサイジング剤よりも一層強固であり、複合材料中の繊維−マトリックス間界面を改善し、より一般的には、繊維−繊維間界面を改善することができる。実際には、CNT浸出繊維材料の性質が、繊維材料の性質に加えて浸出CNTsの性質を組み合わせたものであるという点で、本明細書に開示されたCNT浸出繊維材料は、それ自体が複合材料である。したがって、本願発明の実施形態は、繊維材料に所望の性質を与える手段を提供するが、その手段によらなければ、繊維材料には、このような性質が欠如するか、又は不十分である。繊維材料は、特定用途の必要性を満たすために調整又は設計される。サイジング剤として作用するCNTsは、疎水性のCNT構造により水分の吸収から繊維材料を保護する。また、疎水性のマトリックス材は、以下でさらに例示されるように、疎水性のCNTsと良好に相互作用して繊維−マトリックス間の相互作用を向上させる。
【0106】
前述の浸出CNTsを有する繊維材料が有益な性質を付与されるにもかかわらず、本願発明の組成物は「従来の」サイジング剤を更に含むことができる。このようなサイジング剤には、多様な種類及び機能があり、例えば、界面活性剤、静電気防止剤、潤滑剤、シロキサン、アルコキシシラン、アミノシラン、シラン、シラノール、ポリビニルアルコール、でんぷん、及びこれらの組み合わせが含まれる。このようなサイジング剤は、CNTs自体を保護するために、又は浸出CNTsの存在により繊維へ付与することができない更なる性質を提供するために、補助的に用いることができる。
【0107】
本願発明の組成物には、CNT浸出繊維材料で複合材料を形成するためのマトリックス材が更に含まれる。このようなマトリックス材には、例えば、エポキシ、ポリエステル、ビニルエステル、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンケトン、ポリフタルアミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、フェノールホルムアルデヒド、及びビスマレイミドが含まれる。本願発明に有用なマトリックス材には、既知のマトリックス材のいかなるものも含まれる(Mel M.Schwartz, Composite Materials Handbook (2d ed. 1992)参照)。さらに一般的には、マトリックス材には、樹脂(ポリマー)、熱硬化性及び熱可塑性の両プラスチック、金属、セラミック、並びにセメントが含まれる。
【0108】
マトリックス材として有用な熱硬化性樹脂には、フタル酸/マレイン酸型のポリエステル、ビニルエステル、エポキシ、フェノール類、シアン酸塩、ビスマレイミド、及びナディック・エンド・キャップド・ポリイミド(nadic end-capped polyimides)(例えば、PMR−15)が含まれる。熱可塑性樹脂には、ポリスルホン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレン酸化物、ポリ硫化物、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアリレート、及び液晶ポリエステルが含まれる。
【0109】
マトリックス材として有用な金属には、例えば、アルミニウム6061、アルミニウム2024、及び713アルミニウム・ブレーズ(aluminium braze)などのアルミニウム合金が含まれる。マトリックス材として有用なセラミックには、炭素セラミック(例えば、リチウムアルミノケイ酸塩など)、酸化物(例えば、アルミナやムライトなど)、窒化物(例えば、窒化ケイ素など)、及び炭化物(例えば、炭化ケイ素)が含まれる。マトリックス材として有用なセメントには、炭化物ベースのセメント(炭化タングステン、炭化クロム及び炭化チタン)、耐火セメント(タングステントリア(tungsten-thoria)及び炭酸バリウム−ニッケル(barium-carbonate-nickel))、クロム−アルミニナ、ニッケル−マグネシア、及び鉄−炭化ジルコニウムが含まれる。前述のマトリックス材のいかなるものも、単独で、又は組み合わせて用いることができる。
【0110】
図1〜6は、本明細書に記載された処理により作られた炭素繊維材料のTEM及びSEM画像を示す。これらの材料を作るための手順は、以下及び実施例I〜IIIにおいて詳述される。図1及び図2は、夫々、連続処理においてAS4炭素繊維上に作られた多層カーボン・ナノチューブ及び2層カーボン・ナノチューブのTEM画像を示す。図3は、CNT形成ナノ粒子触媒が機械的に炭素繊維材料の表面に浸出した後に、バリア・コーティング内部から成長するCNTsの走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。図4は、炭素繊維材料上で目標長さ約40ミクロンの20%以内まで成長したCNTsの長さ分布の一貫性を明示するSEM画像を示す。図5は、CNT成長におけるバリア・コーティングの効果を明示するSEM画像を示す。バリア・コーティングが適用される部位では、高密度かつ良好な配列のCNTsが成長し、バリア・コーティングがない部位には成長しなかった。図6は、炭素繊維の全域で約10%以内のCNT密度の均一性を明示する炭素繊維上のCNTsの低倍率SEM画像を示す。
【0111】
CNT浸出繊維材料は航空宇宙及び弾道学上の用途において構造要素を強化する。構造体(例えば、ミサイルのノーズコーン、翼端)、主要構造部品(例えば、フラップ及びエアロフォイル(aerofoil)、プロペラ及びエアブレーキ、小型飛行機の胴体、ヘリコプターのシェル(shell)及びローターブレード)、航空機の補助的な構造部品(例えば、フロア、ドア、シート、空調装置)、並びに、補助タンク及び航空機のモーター部品にとって、CNT浸出繊維によりもたらされる構造の強化は有益である。その他の多くの用途においても構造強化がなされるが、これには、例えば、掃海艇の船体、ヘルメット、レードーム(radome)、ロケット・ノズル、担架、及びエンジン構成部品が含まれる。建造物及び建築物において、屋外機能の構造的な強化には、柱、ペディメント(pediments)、ドーム、コーニス(cornices)、及び型枠が含まれる。同様に、建造物の内部構造において、例えば、ブラインド、衛生陶器、窓枠などにとっても、全てCNT浸出炭素繊維材料の使用は有益である。
【0112】
海洋産業において、強化される構造には、ボートの船体、ストリンガー(stringer)及び甲板が含まれる。また、CNT浸出繊維材料は、大規模運輸業において、例えば、トレーラー壁面の大型パネル、鉄道車両の床板、トラックの運転室、車体外部鋳造品(exterior body molding)、バスの車体、及び貨物コンテナにも用いられる。自動車用途において、CNT浸出炭素繊維材料は、トリミング(trimming)、シート、及び計器盤などの内部部品に用いられる。車体パネル、開口部、車体底面部、並びに、フロント及びリアモジュールなどの外部構造全てにとって、CNT浸出繊維材料の使用は有益である。アクスル及びサスペンション、燃料及び排気システム、並びに、電気及び電子部品などの自動車のエンジンルーム及び燃料機械エリアの部品でさえ、全て、CNT浸出繊維材料を利用できる。
【0113】
CNT浸出繊維材料の他の用途には、橋梁構造物、強化コンクリート製品(例えば、ダウエルバー、鉄筋、ポストテンション(post-tensioning)及びプレストレス(pre-stressing)テンドン、定置の骨組み(stay-in-place framework))、電力送電及び配電構造物(例えば、電柱、送電塔及び腕金)、幹線道路の安全装置及び沿道機能(例えば、標識支柱、ガードレール、標柱及び支柱、遮音塀)、並びに、地方自治体における導管や貯蔵タンクなどが含まれる。
【0114】
また、CNT浸出繊維材料は、様々なレジャー用具、例えば、水上及び雪上スキー、カヤック、カヌー及びパドル、スノーボード、ゴルフクラブのシャフト、ゴルフ用手押しカート、釣竿、並びにスイミングプールにも用いられる。他の消費財及び事務機器には、歯車、鍋、住宅、ガス耐圧瓶、家庭用電化製品(例えば、洗濯機、皿洗い機ドラム、ドライヤー、ごみ処理機、空調装置、及び加湿器)の構成要素が含まれる。
【0115】
また、CNT浸出繊維の電気的性質は様々なエネルギー及び電気的用途に影響を与える。例えば、CNT浸出繊維材料は、風力タービンブレード、太陽光利用システム、電子回路の筐体(例えば、ノート型パソコン、携帯電話、コンピューター・キャビネットなどであり、このようなCNT浸出材料は、例えば、EMI遮蔽に利用される)に用いられる。他の用途には、電力線、冷却機、照明用ポール、回路基板、配電盤、ラダーレール(ladder rail)、光ファイバー、建造物に組み込まれた機能(例えば、データ回線、コンピュータ端子箱など)、事務機器(例えば、コピー機、キャッシュレジスター、郵便機器など)が含まれる。
【0116】
ある実施形態において、本願発明はCNT浸出の連続処理を提供するが、この処理には、(a)巻き取り可能な寸法の繊維材料の表面にカーボン・ナノチューブを形成する触媒を配置すること、及び(b)炭素繊維材料上にカーボン・ナノチューブを直接合成して、これにより、カーボン・ナノチューブが浸出した炭素繊維材料を形成すること、が含まれる。長さ9フィートのシステムのために、処理のラインスピードは毎分約1.5フィートから毎分約108フィートの範囲となる。本明細書に記載された処理により達成されるラインスピードは、商業的に適量のCNT浸出繊維材料を短い製造時間で形成可能にする。例えば、毎分36フィートのラインスピードでは、独立した5つのトウ(1トウ当たり20ポンド)を同時に処理するように設計されたシステムにおいて、CNT浸出繊維(繊維上に5重量%超のCNTsが浸出する)の量は、1日の製造量は100ポンド以上に及ぶ。このシステムは、成長ゾーンを繰り返すことにより、一度に、又はより高速に大量のトウを製造するように構成されている。また、CNTsの製造工程には、当該技術分野で知られているように、連続運転モードを阻む極低速なものがある。例えば、当該技術分野で知られている標準的な処理において、CNT形成触媒の低減工程を実施するのに1〜12時間かかる。また、CNT成長自体も時間を浪費しており、例えば、CNT成長に10分を必要とし、本願発明において実現される高速のラインスピードを不可能にしている。本明細書に記載された処理は、このような速度を制限する工程を克服する。
【0117】
本願発明のCNT浸出繊維材料の形成処理は、前もって形成されたカーボン・ナノチューブの懸濁液を繊維材料に適用しようとする場合に生じるCNTの絡み合いを回避できる。すなわち、前もって形成されたCNTsは繊維材料に結合しないため、CNTsは束になって絡みやすくなる。その結果、繊維材料に弱く付着するCNTsが不均一に分布する。しかし、本願発明の処理は、必要に応じて、成長密度を低減することにより、繊維材料の表面で高均一に絡み合ったCNTマットを提供できる。低密度で成長したCNTsは、最初に繊維材料に浸出する。このような実施形態において、繊維は、垂直配列を生じさせるほどには高密度に成長しない。その結果、繊維材料表面で絡み合ったマットとなる。これとは対照的に、前もって形成されたCNTsを手作業で塗布する場合、繊維材料上のCNTマットの分布及び密度を確実に均一にすることはできない。
【0118】
図7は、本願発明の具体例に従って例示的なCNT浸出炭素繊維材料を生成する処理700のフローチャートを示す。この例では炭素繊維材料を使用するが、当業者であれば、微修正により、ガラス繊維、セラミック繊維、金属繊維又は有機繊維など他のいかなる種類の繊維も使用可能であることを認識するであろう。また、繊維生成、触媒配置、バリア・コーティング、CNT成長条件などに関する後述の様々な実施形態は、全て、特定の繊維種に適合させるために容易に変更できる。
【0119】
処理700には、少なくとも以下の工程が含まれる。
【0120】
工程701:炭素繊維材料の機能化。
【0121】
工程702:機能化された炭素繊維材料へのバリア・コーティング及びCNT形成触媒の適用。
【0122】
工程704:カーボン・ナノチューブの合成に十分な温度に達するまでの炭素繊維材料の加熱。
【0123】
工程706:触媒を含んだ炭素繊維におけるCVDを介したCNT成長の促進。
【0124】
工程701において、炭素繊維材料は機能化され、繊維の表面湿潤を促進するとともに、バリア・コーティングの付着を向上させる。
【0125】
炭素繊維材料にカーボン・ナノチューブを浸出させるために、カーボン・ナノチューブは、バリア・コーティングで等角的にコーティングされた炭素繊維材料に合成される。一つの実施形態において、これは、工程702のように、まず炭素繊維材料をバリア・コーティングで等角的にコーティングし、その後、バリア・コーティング上にナノチューブ形成触媒を配置することにより達成される。ある実施形態において、バリア・コーティングは、触媒配置前に、部分的に硬化していてもよい。これにより、CNT形成触媒と炭素繊維材料との表面接触を許容するなど、触媒を受け入れてバリア・コーティング内への組み込みが可能となる表面がもたらされる。このような実施形態では、バリア・コーティングは、触媒を組み込んだ後、十分に硬化する。ある実施形態において、バリア・コーティングは、CNT形成触媒の配置と同時に炭素繊維材料全体にコーティングされる。CNT形成触媒及びバリア・コーティングが適切に配置された時点で、バリア・コーティングは十分に硬化する。
【0126】
ある実施形態において、バリア・コーティングは、触媒の配置前に十分に硬化される。このような実施形態では、十分に硬化したバリア・コーティングを施した繊維材料は、プラズマで処理され、触媒を受容するために表面を調整する。例えば、硬化したバリア・コーティングを有するプラズマ処理された炭素繊維材料は、CNT形成触媒の配置が可能な粗面化した(roughened)表面をもたらす。バリア・コーティングの表面を「粗面化(roughing)」するプラズマ処理は、触媒の配置を容易にする。粗度は、通常、ナノメートルのスケール(scale)である。プラズマ処理工程において、深さ及び直径がナノメートル単位のクレーター(crater)又はくぼみが形成される。このような表面改質は、限定するものではないが、アルゴン、ヘリウム、酸素、窒素及び水素など、種々異なる1以上のガスをプラズマに用いて可能となる。ある実施形態では、プラズマによる粗面化は、炭素繊維材料自体に直接行われる。これにより、炭素繊維に対するバリア・コーティングの付着が容易になる。
【0127】
さらに後述されるように、また図7を併用して、触媒は、遷移金属ナノ粒子を含んで構成されるCNT形成触媒を含有する溶液として調整される。合成されたナノチューブの直径は、前述のように、金属粒子のサイズに関係する。ある実施形態では、CNT形成遷移金属ナノ粒子触媒を含有する工業用の分散液を利用して希釈せずに使用され、他の実施形態では、触媒を含有する工業用の分散液は希釈される。このように溶液を希釈するかどうかは、前述のように、成長するCNTの所望の密度及び長さによる。
【0128】
図7に例示の実施形態に関して、カーボン・ナノチューブの合成は、化学蒸着(CVD)処理に基づいて示されており、高温で生じる。具体的な温度は触媒の選択に応じて変化するが、通常は、約500℃〜約1000℃の範囲である。したがって、工程704には、カーボン・ナノチューブの合成を促進する前記範囲における温度まで炭素繊維材料を加熱することが含まれる。
【0129】
次に、工程706において、触媒を含んだ炭素繊維材料上でCVDにより促進されるナノチューブ成長が実施される。CVD処理は、例えば、炭素含有原料ガス(例えば、アセチレン、エチレン、及び/又はエタノール)により進められる。CNT合成処理では、主要なキャリアガスとして、通常、不活性ガス(窒素、アルゴン、ヘリウム)が用いられる。炭素原料は、混合物全体の約0%から約15%の範囲で供給される。CVD成長のための略不活性環境は、成長チャンバーから水分及び酸素を除去して用意される。
【0130】
CNTの合成処理において、CNTsは、CNT形成遷移金属ナノ粒子触媒の部位で成長する。強プラズマ励起電界が存在することを任意に用いて、ナノチューブの成長に影響を与えることができる。すなわち、成長は、電界方向に従う傾向がある。プラズマ・スプレーの配置及び電界を適切に調節することにより、垂直配列の(すなわち、炭素繊維材料に対して垂直な)CNTsが合成され得る。一定の条件下では、プラズマがない場合であっても、密集したナノチューブは、成長方向を垂直に維持して、カーペット又は樹木林に似た高密度配列のCNTsになる。
【0131】
繊維材料上に触媒を配置する工程は、溶液のスプレー、若しくは溶液の浸漬コーティングにより、又は、例えば、プラズマ処理を用いた気相蒸着により可能である。方法の選択は、あらゆる任意のバリア・コーティングに適用される方法と連係してなされる。このように、ある実施形態では、触媒を溶媒に含んだ溶液を形成した後、触媒は、その溶液を用いて、スプレー若しくは浸漬コーティングすることにより、又はスプレー及び浸漬コーティングの組み合わせにより、バリア・コーティングが施された繊維材料に適用される。単独で、又は組み合わせて用いられるいずれかの方法は、1回、2回、3回、4回、あるいは何回でも使用され、CNT形成触媒で十分均一にコーティングされた繊維材料を提供する。浸漬コーティングが使用される場合、例えば、繊維材料は、第1の浸漬槽において、第1の滞留時間、第1の浸漬槽内に置かれる。第2の浸漬槽を使用する場合、繊維材料は、第2の滞留時間、第2の浸漬槽内に置かれる。例えば、炭素繊維材料は、浸漬の形態及びラインスピードに応じて約3秒から約90秒の間、CNT形成触媒の溶液にさらされる。スプレー又は浸漬コーティングを用いて、CNT形成触媒ナノ粒子が略単分子層である、約5%未満から約80%の表面被覆率の触媒表面密度を備えた繊維材料を処理する。ある実施形態では、繊維材料上におけるCNT形成触媒のコーティング処理は、単分子層だけを生成すべきである。例えば、CNT形成触媒の積層上におけるCNT成長は、CNTの繊維材料への浸出度を損なうことがある。他の実施形態では、蒸着技術、電解析出技術、及び当業者に知られている他の処理(例えば、遷移金属触媒を、有機金属、金属塩又は気相輸送を促進する他の組成物として、プラズマ原料ガスへ添加することなど)を用いて、遷移金属触媒を繊維材料上に配置する。
【0132】
本願発明の処理は連続処理となるように設計されるため、巻き取り可能な繊維材料は、一連の槽で浸漬コーティングを施すことが可能である(この場合、浸漬コーティング槽は空間的に分離されている)。発生期の繊維が新たに生成されている連続処理において、CNT形成触媒の浸漬又はスプレーは、繊維材料にCNT形成触媒を適用して硬化、又は部分的に硬化させた後の第1段階である。バリア・コーティング及びCNT形成触媒の適用は、新たに形成された繊維材料のために、サイジング剤の適用に代えて行われるものである。他の実施形態において、CNT形成触媒は、バリア・コーティングの後、他のサイジング剤の存在下で、新たに形成された繊維に適用される。このようなCNT形成触媒及び他のサイジング剤の同時適用であっても、CNT形成触媒を繊維材料のバリア・コーティングと表面接触させて供給し、CNTの浸出を確実にすることができる。
【0133】
使用される触媒溶液は、遷移金属ナノ粒子であるが、これは、前述したように、dブロックの遷移金属であればいかなるものでもよい。加えて、ナノ粒子には、dブロック金属の入った元素形態又は塩形態の、合金や非合金の混合物、及びそれらの混合物が含まれる。このような塩形態には、限定するものではないが、酸化物、炭化物及び窒化物が含まれる。限定されない例示的な遷移金属NPsには、Ni、Fe、Co、Mo、Cu、Pt、Au及びAg、並びにそれらの塩及び混合物が含まれる。ある実施形態において、バリア・コーティングの配置と同時に、CNT形成触媒を繊維材料に直接適用あるいは直接浸出させることにより、このようなCNT形成触媒は繊維上に配置される。この遷移金属触媒の多くは、例えば、Ferrotec Corporation(Beford, NH)などの様々なサプライヤーから市販されており容易に入手できる。
【0134】
CNT形成触媒の全体にわたる均一な分散を可能とするいかなる共通溶媒にも、繊維材料にCNT形成触媒を適用するために用いられる触媒溶液が含まれる。このような溶媒には、限定するものではないが、水、アセトン、ヘキサン、イソプロピルアルコール、トルエン、エタノール、メタノール、テトラヒドロフラン(THF)、シクロヘキサン、又はCNT形成触媒ナノ粒子の適切な分散系を生成するために制御された極性を有する他のいかなる溶媒、が含まれる。CNT形成触媒の濃度は、触媒対溶媒で、およそ1:1から1:10000の範囲内である。このような濃度は、バリア・コーティング及びCNT形成触媒が同時に適用されるときにも用いられる。
【0135】
ある実施形態において、繊維材料は、CNT形成触媒の配置後、約500℃〜1000℃までの温度で加熱されて、カーボン・ナノチューブを合成する。この温度での加熱は、CNT成長のための炭素原料の導入前に、又は略同時に行われる。
【0136】
ある実施形態において、本願発明により提供される処理には、繊維材料からサイジング剤を除去し、繊維材料全体に等角的にバリア・コーティングを適用し、繊維材料にCNT形成触媒を適用し、繊維材料を少なくとも500℃まで加熱し、そして、繊維材料上にカーボン・ナノチューブを合成する工程が含まれる。ある実施形態において、CNT浸出処理の工程には、繊維材料からのサイジング剤の除去、繊維材料へのバリア・コーティングの適用、繊維材料へのCNT形成触媒の適用、CNT合成温度に向けた繊維材料の加熱、及び触媒含有繊維材料におけるCVD促進のCNT成長が含まれる。したがって、工業用の繊維材料が使用される場合、CNT浸出繊維を構成するための処理には、繊維材料上に任意のバリア・コーティング及び触媒を配置する前に、繊維材料からサイジング剤を除去する個別の工程が含まれる。
【0137】
カーボン・ナノチューブの合成工程には、同時係属の米国特許出願第2004/0245088号に開示され、参照により本明細書に組み込まれるものなど、カーボン・ナノチューブを形成するための多数の技術が含まれる。本願発明の繊維上におけるCNTs成長は、限定するものではないが、微小共振器(micro-cavity)、熱又はプラズマ助長CVD技術、レーザー・アブレーション、アーク放電、高圧一酸化炭素(HiPCO)などの、当該技術分野において知られている技術により可能である。CVDでは、特に、CNT形成触媒が配置され、バリア・コーティングが施された繊維材料が直接用いられる。ある実施形態において、従来のいかなるサイジング剤もCNT合成前に除去可能である。ある実施形態において、アセチレンガスは、イオン化されて、CNT合成のための低温炭素プラズマジェットを形成する。プラズマは触媒を有する繊維材料に導入される。このように、ある実施形態では、繊維材料におけるCNTsの合成には、(a)炭素プラズマを形成すること、及び(b)繊維材料に配置された触媒に炭素プラズマを導入すること、が含まれる。成長するCNTsの直径は、前述のように、CNT形成触媒のサイズにより決定される。ある実施形態において、サイジングされた繊維基材は約550℃〜約800℃に加熱され、CNT合成を容易にする。CNTsの成長を開始するために、プロセスガス(例えば、アルゴン、ヘリウム又は窒素)及び炭素含有ガス(例えば、アセチレン、エチレン、エタノール又はメタン)の2つのガスが反応器(reactor)に流される。CNTsは、CNT形成触媒の部位で成長する。
【0138】
ある実施形態において、CVD成長はプラズマで助長される。プラズマは、成長処理中に電界を与えることにより生成される。この条件下で成長したCNTsは電界の方向に従う。したがって、反応器の配置を調節することにより、垂直配向のカーボン・ナノチューブが、円筒状の繊維の周囲から放射状に成長する。ある実施形態では、繊維の周囲に放射状に成長させるために、プラズマは必要とされない。明確な面を有する繊維材料(例えば、テープ、マット、織物、パイル(pile)など)に対して、触媒は一面又は両面に配置され、それに対応して、CNTsも一面又は両面で成長する。
【0139】
前述のように、CNT合成は、巻き取り可能な繊維材料を機能化する連続処理を行うのに十分な速度で行われる。以下に例示されるように、このような連続的な合成は、多くの装置構成により容易になる。
【0140】
ある実施形態において、CNT浸出繊維材料は、「オール・プラズマ(all plasma)」処理で構成される。オール・プラズマ処理は、前述のように、プラズマで繊維材料を粗面化するところから開始して、繊維表面の湿潤特性を向上させ、より等角的なバリア・コーティング(使用時)をもたらすとともに、アルゴン又はヘリウムをベースとしたプラズマ中の酸素、窒素、水素などの特定の反応ガス種を用いて機能化された繊維材料の使用により、機械的連結あるいは化学的接着を介したコーティングの接着性を向上させる。
【0141】
バリア・コーティングの施された繊維材料は、更なる多数のプラズマ介在工程を通って、最終的なCNT浸出製品を形成する。ある実施形態において、オール・プラズマ処理には、バリア・コーティングが硬化した後の第2の表面改質が含まれる。これは、繊維材料のバリア・コーティング表面を「粗面化」して、触媒の配置を容易にするプラズマ処理である。前述のように、表面改質は、限定するものではないが、アルゴン、ヘリウム、酸素、アンモニア、水素、及び窒素などの種々異なる1以上のガスからなるプラズマを用いて実現できる。
【0142】
表面改質後、バリア・コーティングが施された繊維材料は触媒の適用へと進む。これは、繊維上にCNT形成触媒を配置するためのプラズマ処理である。CNT形成触媒は、前述のように、通常、遷移金属である。遷移金属触媒は、磁性流体、有機金属、金属塩、又は気相輸送を促進する他の組成物の形態で、前駆体としてプラズマ原料ガスに添加される。触媒は、真空及び不活性雰囲気のいずれも必要とせず、周囲環境の室温で適用可能である。ある実施形態では、炭素繊維材料が触媒の適用前に冷却される。
【0143】
オール・プラズマ処理を継続すると、カーボン・ナノチューブの合成がCNT成長反応器で生じる。これは、プラズマ助長化学蒸着を用いることで実現されるが、ここでは、炭素プラズマが、触媒を含む繊維にスプレーされる。カーボン・ナノチューブの成長は高温(触媒にもよるが、通常は約500℃〜1000℃の範囲)で発生するので、触媒を含む繊維は炭素プラズマにさらされる前に加熱される。浸出処理のために、繊維材料は、それが軟化するまで任意に加熱されてもよい。加熱後、繊維材料は炭素プラズマを受ける状態になっている。炭素プラズマは、例えば、炭素を含むガス(例えば、アセチレン、エチレン、エタノールなど)を、ガスのイオン化が可能な電界中に通すことにより発生する。この低温炭素プラズマは、スプレーノズルにより繊維材料に導入される。繊維材料は、プラズマを受けるために、例えば、スプレーノズルから約1センチメートル以内など、スプレーノズルにごく近接している。ある実施形態においては、加熱器は、炭素繊維材料の上側のプラズマ・スプレーに配設され、繊維材料を高温に維持する。
【0144】
連続的なカーボン・ナノチューブ合成の別の構成には、カーボン・ナノチューブを繊維材料で直接合成・成長させるための専用の矩形反応器が含まれる。その反応器は、カーボン・ナノチューブを備えた繊維を生成するための連続的なインライン処理用に設計される。ある実施形態において、CNTsは、化学蒸着(「CVD」)処理により、大気圧かつ約550℃から約800℃の範囲の高温で、マルチゾーン反応器(multi-zone reactor)内で成長する。合成が大気圧で生じるということは、繊維上にCNTを合成するための連続処理ラインに反応器を組み込むことを容易にする一因である。このようなゾーン反応器を用いた連続的なインライン処理と整合する別の利点は、CNTの成長が秒単位で発生するというものであり、当該技術分野で標準的な他の手段及び装置構成における分単位(又はもっと長い)とは対照的である。
【0145】
様々な実施形態によるCNT合成反応器には、以下の特徴が含まれる。
【0146】
(矩形に構成された合成反応器)
当該技術分野で知られている標準的なCNT合成反応器は横断面が円形である。これには、例えば、歴史的理由(研究所では円筒状の反応器がよく用いられる)及び利便性(流体力学は円筒状の反応器にモデル化すると容易であり、また、加熱器システムは円管チューブ(石英など)に容易に対応する)、並びに製造の容易性などの多くの理由がある。本願発明は、従来の円筒形状から脱却して、矩形横断面を有するCNT合成反応器を提供する。脱却の理由は以下の通りである。1.反応器により処理される多数の繊維材料は、例えば、形状が薄いテープやシート状など相対的に平面的であるので、円形横断面では反応器の容積を効率的に使用していない。この非効率性は、円筒状のCNT合成反応器にとって、例えば、以下のa)ないしc)など、いくつかの欠点となる。a)十分なシステムパージの維持;反応器の容積が増大すれば、同レベルのガスパージを維持するためにガス流量の増大が必要になる。これは、開放環境におけるCNTsの大量生産には非効率なシステムとなる。b)炭素原料ガス流の増大;前記a)のように、不活性ガス流を相対的に増大させると、炭素原料ガス流を増大させる必要がある。12Kの炭素繊維トウは、矩形横断面を有する合成反応器の全容積に対して2000分の1の容積であることを考慮されたい。同等の円筒状の成長反応器(すなわち、矩形横断面の反応器と同様に平坦化された繊維材料を収容するための幅を有する円筒状の反応器)では、繊維材料は、チャンバー容積の17,500分の1の容積である。CVDなどのガス蒸着処理(gas deposition processes)は、通常、圧力及び温度だけで制御されるが、容積は蒸着の効率に顕著な影響を与える。矩形反応器の場合、それでもなお過剰な容積が存在する。この過剰容積は無用の反応を促進してしまうが、円筒状反応器は、その容積が約8倍もある。このように競合する反応が発生する機会が増加することにより、所望の反応が有効に生じるには、円筒状反応器チャンバーでは遅くなってしまう。このようなCNT成長の減速は連続処理の開発には問題となる。矩形反応器の構成には、矩形チャンバーの高さが低いことを利用することで、反応器の容積が低減され、これにより容積比を改善して反応をより効率的にできるという1つの利点がある。本願発明のある実施形態において、矩形合成反応器の全容積は、合成反応器を通過中の繊維材料の全容積に対して約3000倍にしかすぎない。またある実施形態では、矩形合成反応器の全容積は、合成反応器を通過中の繊維材料の全容積に対して約4000倍にしかすぎない。また更なる実施形態では、矩形合成反応器の全容積は、合成反応器を通過中の繊維材料の全容積に対して約10,000倍未満である。加えて、円筒状反応器を使用した場合、矩形横断面を有する反応器と比較すると、同じ流量比をもたらすためには、より大量の炭素原料が必要である点に注目されたい。当然のことながら、実施形態の中には、合成反応器が、矩形ではないが比較的矩形に類似する多角形状で表される横断面を有し、円形横断面を有する反応器に対して反応器の容積を同様に低減するものがある。c)問題のある温度分布;相対的に小径の反応器が用いられた場合、チャンバー中心からその壁面までの温度勾配はごく僅かである。しかし、例えば、工業規模の生産に用いられるなど、サイズが増大した場合、温度勾配は増加する。このような温度勾配により、繊維材料基材の全域で製品品質がばらつくことになる(すなわち、製品品質が半径位置の関数として変化する)。この問題は、矩形横断面を有する反応器を用いた場合に殆ど回避される。特に、平面状基材が用いられた場合、反応器の高さを、基材の上方向のスケールサイズとして一定に維持できる。反応器の頂部及び底部間の温度勾配は基本的にごく僅かであるため、生じる熱的な問題や製品品質のばらつきは回避される。2.ガス導入:当該技術分野では、通常、管状炉が使用されるが、一般的なCNT合成反応器は、ガスを一端に導入し、それを反応器に通して他端から引き出す。本明細書に開示された実施形態の中には、ガスが、反応器の中心、又は対象とする成長ゾーン内において、反応器の両側面、又は、反応器の天板及び底板の、いずれかを介して、対称的に導入されるものがある。これにより、流入する原料ガスがシステムの最も高温の部分(CNT成長が最も活発な場所)に連続的に補充されるので、全体のCNT成長速度が向上する。このような一定のガス補充は、矩形のCNT反応器により示される成長速度の向上にとって重要な側面である。
【0147】
(ゾーン分け)
比較的低温のパージゾーンを備えるチャンバーが矩形合成反応器の両端に従属する。出願人は、高温ガスが外部環境(すなわち、反応器の外部)と接触すると、繊維材料の分解が増加すると断定した。低温パージゾーンは、内部システム及び外部環境間の緩衝となるものを提供する。当該技術分野で知られている標準的なCNT合成反応器の構成では、通常、基材を慎重に(かつ緩やかに)冷却することが必要とされる。本矩形CNT成長反応器の出口における低温パージゾーンは、連続的なインライン処理で必要とされるような短時間の冷却を実現する。
【0148】
(非接触、ホットウォール型、金属製反応器)
ある実施形態において、金属製、特にステンレス鋼製のホットウォール型反応器が使用される。このことは、金属、特にステンレス鋼は炭素が析出(すなわち、すす及び副生成物の形成)しやすいため、常識に反するように考えられる。従って、大部分のCNT反応器の構造には、炭素の析出が少なく、また、石英が洗浄しやすく、試料の観察が容易であることから、石英反応器が使用されている。しかしながら、出願人は、ステンレス鋼上におけるすす及び炭素析出物の増加は、より着実で高速に、より効率的に、かつ、より安定的にCNTを成長させるということに気付いた。理論に拘束されるものではないが、大気の影響と連動して、反応器内で生じるCVD処理では拡散が制限されることを示している。すなわち、触媒に「過度に供給される(overfed)」、つまり、過量の炭素が(反応器が不完全真空下で作動している場合よりも)その相対的に高い分圧により反応器システム内で得られる。結果として、開放型システム(特に清浄なもの)では、過量の炭素が触媒粒子に付着してCNTsの合成能力を低下させる。ある実施形態において、反応器が、金属製の反応器ウォールにすすが析出して「汚れて(dirty)」いる場合に、矩形反応器を意図的に作動する。炭素が反応器のウォール上の単分子層に一度析出すると、炭素は、それ自体を覆って容易に析出する。利用可能な炭素には、この機構により「回収される(withdrawn)」ものがあるので、残りの炭素原料(ラジカル型)が、触媒を被毒させない速度で触媒と反応する。既存のシステムが「清浄に」作動しても、連続処理のために開放状態であれば、成長速度が低下してCNTsの生産量はかなり小さくなる。
【0149】
CNT合成を、前述のように「汚れて」いる状態で実施するのは概して有益であるが、それでも、装置のある部位(例えば、ガスマニフォールド及びガス入口)は、すすが閉塞状態を引き起こした場合、CNTの成長処理に悪影響を与える。この問題に対処するために、CNT成長反応チャンバーの当該部位を、例えば、シリカ、アルミナ又はMgOなどのすす抑制コーティングで保護してもよい。実際には、装置のこれらの部位は、すす抑制コーティングで浸漬コーティングが施される。INVAR(商標名)は、高温におけるコーティングの接着性を確実にする同様のCTE(熱膨張係数)を有し、重要なゾーンにおけるすすの著しい堆積を抑制するので、例えば、INVARなどの金属がこれらのコーティングに用いられる。
【0150】
(触媒低減及びCNT合成の組み合わせ)
本明細書に開示されたCNT合成反応器において、触媒低減及びCNT成長のいずれもが反応器内で生じる。低減工程は、個別の工程として実施されると、連続処理に用いるものとして十分タイムリーに行われなくなるため、これは重要である。当該技術分野において知られている標準的な処理において、低減工程の実施には、通常1〜12時間かかる。本願発明によれば、両工程は1つの反応器内で生じるが、これは、少なくとも1つには、円筒状反応器を用いる当該技術分野では標準的となっている反応器の端部ではなく、中心部に炭素原料ガスが導入されることによるものである。低減処理は、繊維が加熱ゾーンに入ったときに行われる;この時点までに、ガスには、触媒と反応して(水素ラジカルの相互作用により)酸化還元を引き起こす前にウォールと反応して冷える時間がある。低減が生じるのは、この移行領域である。システム内で最も高温の等温ゾーンでCNTの成長は起こり、反応器の中心近傍におけるガス入口の近位で最速の成長速度が生じる。
【0151】
ある実施形態において、緩く関連する(loosely affiliated)繊維材料(例えば、炭素トウ)が使用される場合、連続処理には、トウのストランド(strand)及び/又はフィラメントを広げる工程が含まれる。トウは、巻き取られていないときに、例えば、真空ベースの開繊システム(vacuum-based fiber spreading system)を用いて開繊される(spread)。サイジングされた比較的堅い炭素繊維を使用する場合、トウを「軟化」して開繊しやすくするために、更に加熱することができる。個々のフィラメントを含んで構成される開繊繊維(spread fiber)は、バラバラに広げられてフィラメントの全表面積を十分にさらすようにしてもよく、これにより、トウが、次の処理工程でより効率的に反応することを可能にする。このような開繊により、3kトウの直径を約4インチ〜約6インチに近づけることができる。開繊されたトウは、前述のようにプラズマシステムで構成される表面処理工程を経る。バリア・コーティングが適用され粗面化された後、開繊繊維は、CNT形成触媒に浸漬槽を通過する。その結果、繊維表面で放射状に分布した触媒粒子を有する炭素トウ繊維となる。触媒を含んだトウ繊維は、その後、前述のように、例えば、矩形チャンバーなどの適切なCNT成長チャンバーに入るが、ここでは、大気圧CVD又はPE−CVD処理を介した流れが、毎秒数ミクロンの速度でCNTsを合成するために用いられる。トウ繊維は、こうして放射状に配列されたCNTsを備えて、CNT成長反応器を出る。
【0152】
ある実施形態において、CNT浸出繊維材料は、さらに別の処理工程を経ることもできるが、それは、ある実施形態において、CNTsを機能化するために用いられるプラズマ処理である。CNTsのさらなる機能化は、特定の樹脂への接着力を促進するために用いられる。このように、実施形態の中には、本願発明が、機能化されたCNTsを有するCNT浸出繊維材料を提供するものがある。
【0153】
巻き取り可能な繊維材料の連続処理の一部として、最終製品にとって利点となる追加的なサイジング剤を適用するために、CNT浸出炭素繊維材料がサイジング剤の浸漬槽を更に通過してもよい。最終的にウェットワインディング(wet winding)が必要であれば、CNT浸出繊維材料は、樹脂槽を経てマンドレル又はスプールに巻かれる。その結果得られた繊維材料/樹脂の組み合わせは、CNTsを繊維材料上に固着し、これにより、取り扱い及び複合材料の製造をよりたやすくする。ある実施形態において、CNT浸出は、フィラメント・ワインディング(filament winding)を向上させるために用いられる。このように、例えば、炭素トウなどの炭素繊維上に形成されるCNTsは、樹脂槽を経て、樹脂含浸処理されたCNT浸出炭素トウを生成する。樹脂含浸後、炭素トウは、デリバリー・ヘッド(delivery head)により、回転するマンドレルの表面上に位置付けられる。その後、トウは、既知の方法による正確な幾何学的パターンでマンドレルに巻かれる。
【0154】
前述のワインディング処理により、雄型を介して特徴的に製造されるように、パイプ、チューブ、又は他の構造体がもたらされる。しかし、本明細書に開示されるワインディング処理から作られる構造体は、従来のフィラメント・ワインディング処理から作られるものとは異なる。具体的には、本明細書に開示される処理において、その構造体は、CNT浸出トウを含む複合材料から作られる。このため、このような構造体にとって、CNT浸出トウによりもたらされる強度の向上などは有益となるであろう。
【0155】
ある実施形態において、巻き取り可能な繊維材料上においてCNTsを浸出させる連続処理により、毎分約0.5フィート〜毎分約36フィートのラインスピードが可能となる。CNT成長チャンバーが、長さ3フィートで、750℃の成長温度で稼動するこの実施形態において、例えば、長さが約1ミクロン〜約10ミクロンのCNTsを製造するために、毎分約6フィート〜毎分約36フィートのラインスピードで処理が行われる。また、例えば、長さが約10ミクロン〜約100ミクロンのCNTsを製造するために、毎分約1フィート〜毎分約6フィートのラインスピードで処理が行われる。長さが約100ミクロン〜約200ミクロンのCNTsを製造するためには、毎分約0.5フィート〜毎分約1フィートのラインスピードで処理が行われる。CNTの長さは、ラインスピード及び成長温度のみに関係しているだけでなく、炭素原料ガス及び不活性ガスのいずれの流量もまたCNTの長さに影響を与える。例えば、高速のラインスピード(毎分6フィート〜毎分36フィート)で、不活性ガス中の炭素原料が1%未満からなる流量により、長さが1ミクロン〜約5ミクロンのCNTsが得られる。高速のラインスピード(毎分6フィート〜毎分約36フィート)で、不活性ガス中の炭素原料が約1%を上回る流量の場合には、5ミクロン〜約10ミクロンの長さを有するCNTsが得られる。
【0156】
ある実施形態においては、複数の繊維材料は同時に処理過程を通過する。例えば、複数のテープ、トウ、フィラメント、ストランドなどが並行して処理過程を通過する。こうして、既製の繊維スプールは幾らでも並行に処理過程を通過して、処理が終わると再度巻き取られる。並行して通過して巻き取られる繊維材料の数には、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、最大でCNT成長反応チャンバーの幅に合ったいかなる数も含まれる。さらに、複数の繊維材料が処理過程を通過する場合、回収スプール数は、処理開始時のスプール数よりも少なくなり得る。このような実施形態において、ストランド、トウなどは、当該繊維材料をより高い規則構造の炭素繊維材料(例えば、織物など)に結合する更なる処理を経て送り出される。また、連続処理には、例えば、CNT浸出短繊維マットの形成を容易にするチョッパー後処理(post processing chopper)を組み込みこむことができる。
【0157】
ある実施形態において、本願発明の処理により、繊維材料上に第1の量の第1種カーボン・ナノチューブを合成することが可能となるが、この場合、第1種カーボン・ナノチューブは、繊維材料の少なくとも1つの性質(第1性質)を変化させるために選択される。次に、本願発明の処理により、繊維材料上において、第2の量の第2種カーボン・ナノチューブを合成することが可能となるが、この場合、第2種カーボン・ナノチューブは、繊維材料の少なくとも1つの性質(第2性質)を変化させるために選択される。
【0158】
ある実施形態において、CNTsの第1の量及び第2の量は異なる。この場合、CNTの種類の変化を伴うこともあり、伴わないこともある。このように、CNTの種類がたとえ変化しないままであっても、CNTsの密度を変化させて用いることにより、元の繊維材料の性質を変化させることができる。CNTの種類には、例えば、CNTの長さ及び層数が含まれる。ある実施形態において、第1の量及び第2の量は同一である。この場合に、巻き取り可能な材料の2つの異なる長さに沿って異なる性質が求められれば、例えば、CNTの長さなど、CNTの種類を変化させることができる。例えば、より長いCNTsは電気的/熱的な用途に有用であるのに対し、より短いCNTsは機械的強化の用途に有効である。
【0159】
繊維材料の性質の変化に関する前述の考察を踏まえると、第1種カーボン・ナノチューブ及び第2種カーボン・ナノチューブが、ある実施形態においては同一であるのに対し、第1種カーボン・ナノチューブ及び第2種カーボン・ナノチューブは、他の実施形態においては異なるということもあり得る。同様に、第1性質及び第2性質が、ある実施形態では同一となり得る。例えば、EMI遮蔽特性は、第1の量の第1種CNTs、及び第2の量の第2種CNTsにより対処される有益な性質であるが、この性質の変化の割合は、異なる量、及び/又は異なる種類のCNTsが使用された場合、それを反映して異なることもあり得る。最後に、ある実施形態において、第1性質及び第2性質が異なることもある。これもCNTの種類における変化を反映する。例えば、第1性質が、短いCNTsによりもたらされる機械的強度である一方、第2性質が、長いCNTsによりもたらされる電気的/熱的性質である。当業者であれば、異なるCNT密度、異なるCNT長さ、及び異なるCNTsの層数(例えば、単層、2層及び多層など)を利用することで、繊維材料の性質を調整できることを認識するであろう。
【0160】
ある実施形態において、本願発明の処理により、繊維材料上に第1の量のカーボン・ナノチューブが合成され、この第1の量により、カーボンチューブ浸出繊維材料が繊維材料自体の有する第1群の性質とは異なる第2群の性質を示すことが可能となる。すなわち、繊維材料の1以上の性質(例えば、引張強度など)を変化させることができる量の選択である。第1群の性質及び第2群の性質には、繊維材料の向上した性質及び既存の性質を表す同一の性質のうち少なくとも1つが含まれる。ある実施形態においては、CNTの浸出により、繊維材料自体の有する第1群の性質の中には含まれない第2群の性質がカーボン・ナノチューブ浸出繊維に与えられる。
【0161】
前述のように、引張強度には、3つの異なる測定値、すなわち、1)材料のひずみが弾性変形から塑性変形(材料の不可逆的な変形を生じさせる)に変化する応力を評価する降伏強度、2)引張荷重、圧縮荷重又はせん断荷重を受けたとき、材料が耐え得る最大応力を評価する終局強度、及び3)破断点における応力−ひずみ線図上での応力の座標を評価する破壊強度、が含まれる。複合材料のせん断強度は、繊維方向に対して垂直に荷重がかけられた場合に材料が破壊する応力を評価する。圧縮強度は、圧縮荷重がかけられた場合に材料が破壊する応力を評価する。
【0162】
ヤング率は等方性弾性材料の剛性の1つの尺度である。それは、フックの法則が有効な応力範囲において、1軸ひずみに関する1軸応力の比率として定義される。これは、経験的に、材料サンプルについて行われる引張試験中に形成される応力−ひずみ線図の傾きから決定される。
【0163】
電気伝導度又は特定の伝導性は、電流を伝導する材料の性能についての1つの尺度である。CNTのキラリティに関連している、例えば、撚度(degree of twist)などの特定の構造的なパラメータを有するCNTsは、伝導性が高く、したがって金属特性を示す。CNTのキラリティに関して、広く認められている命名方式(M.S.Dresselhaus, et al.Science of Fullerences and Carbon Nanotubes, Academic Press, San Diego, CA pp.750-760, (1996))が、当業者により形式化され承認されている。このように、例えば、CNTsは、2つのインデックス(n,m)で相互に識別される(ここで、nとmは、六方晶のグラファイトが円筒の表面上で巻かれて端部同士を接合した場合にチューブとなるように、六方晶のグラファイトの切断及び巻き方を表す整数である)。2つのインデックスが同じである場合(m=n)、得られるチューブは、「アームチェア」(又はn−n)型であるといわれているが、これは、チューブがCNT軸に対して垂直に切断されたときに、六角形の辺のみが露出し、そのチューブ端部の周辺に沿ったパターンが、n回繰り返されるアームチェアのアームと座部に似ているからである。アームチェアCNTs、特にSWNTsは、金属的であり、非常に高い電気的及び熱的伝導性を有している。さらに、このようなSWNTsは非常に高い引張強度を有している。
【0164】
撚度に加えて、CNTの直径もまた電気的伝導性に影響を与える。前述のように、CNTの直径は、サイズ制御されたCNT形成触媒ナノ粒子の使用により制御可能である。また、CNTsは、半導体材料としても形成される。多層CNTs(MWNTs)における伝導性はより複雑である。MWNTs内の層間反応は、個々のチューブ一面に、電流を不均一に再分布させる。対照的に、金属的な単層ナノチューブ(SWNTs)の様々な部位においては電流に変化はない。また、カーボン・ナノチューブは、ダイヤモンド結晶及び面内の(in-plane)グラファイトシートと比較して、非常に高い熱伝導性を有する。
【0165】
CNT浸出繊維材料にとって、CNTsの存在は前述の性質の点で有益であるだけでなく、本処理でより軽量な材料も提供できる。このように低密度かつ高強度の材料は、換言すれば、強度重量比がより高いということができる。本願発明の様々な実施形態の働きに実質的に影響を与えない変更も、本明細書で提供された本願発明の定義内に含まれることを理解できる。したがって、以下の実施例は、本願発明を例示するものであって限定するものではない。
【実施例1】
【0166】
本実施例は、熱的及び電気的伝導性の向上を目的とする連続処理において、炭素繊維材料に、どのようにしてCNTsを浸出させるかを示す。
【0167】
本実施例では、繊維へのCNTsの担持量を最大にすることが目的である。炭素繊維基材として、テックス値800である34〜700の12k炭素繊維トウ(Grafil Inc., Sacramento, CA)が導入される。この炭素繊維トウにおける個々のフィラメントは、直径が約7μmである。
【0168】
図8は、本願発明の例示的な実施形態によるCNT浸出繊維材料を生成するためのシステム800を表している。システム800には、炭素繊維材料の繰り出し及びテンショナー(tensioner)ステーション805、サイジング剤除去及び繊維開繊器(fiber spreader)ステーション810、プラズマ処理ステーション815、バリア・コーティング適用ステーション820、空気乾燥ステーション825、触媒適用ステーション830、溶媒フラッシュオフ(flash-off)ステーション835、CNT浸出ステーション840、繊維束化ステーション845、及び炭素繊維巻き取りボビン850が、図示のように相互に関連して含まれる。
【0169】
繰り出し及びテンショナーステーション805には、繰り出しボビン806及びテンショナー807が含まれる。繰り出しボビンは、炭素繊維材料860を処理に渡すが、繊維には、テンショナー807により張力がかけられる。本実施例に関して、炭素繊維は毎分2フィートのラインスピードで処理される。
【0170】
繊維材料860は、サイジング剤除去加熱器865及び繊維開繊器870を含むサイジング剤除去及び繊維開繊器ステーション810に送られる。このステーションで、繊維860上のいかなるサイジング剤も除去される。通常、繊維のうちサイジング剤を燃焼させて除去がなされる。この目的のために、例えば、赤外線ヒーター、マッフル炉、及び他の非接触加熱処理など、様々な加熱手段のいかなるものも用いられる。また、サイジング剤の除去は、化学的に達成することもできる。繊維開繊器は繊維を個々のフィラメントに開繊する。開繊繊維には、例えば、水平な均一直径のバー(flat, uniform-bar)の上下で、あるいは、可変の直径のバーの上下で、あるいは、放射状に広がる溝及び混練(kneading)ローラーを備えたバーの上、振動を生じるバーの上などで、繊維を引き出すといった、様々な技術及び装置が用いられる。開繊は、より多くの繊維表面積をさらすことにより、例えば、プラズマの適用、バリア・コーティングの適用、触媒の適用といった下流の工程の効果を高める。
【0171】
多数のサイジング剤除去過熱器865が、段階的、同時的なサイジング除去及び開繊を可能にする繊維開繊器870全体に配置される。繰り出し及びテンショナーステーション805、並びに、サイジング剤除去及び繊維開繊器ステーション810は、繊維産業で一般的に使用されており、当業者であれば、それらの設計及び使用に熟知しているであろう。
【0172】
サイジング剤を燃焼させるために必要な温度及び時間は、(1)サイジング剤、及び(2)炭素繊維材料860の商業的供給源/特性に応じて変化する。炭素繊維材料における従来のサイジング剤は、約650℃で除去される。この温度で、サイジング剤の完全燃焼を確実にするため15分間を要する。温度をこの燃焼温度以上にするとで、燃焼時間を短縮することができる。特定の市販製品のサイジング剤を燃焼させるための最低温度は、熱重量分析を用いて決定される。
【0173】
サイジング剤除去に必要なタイミングによっては、サイジング剤除去の加熱器を、必ずしも、CNT浸出に固有の処理に含めなくてもよく、むしろ、除去は独立して(例えば、並行して)行われる。この方法において、サイジング剤のない炭素繊維材料の在庫が、サイジング剤除去の加熱器を含まないCNT浸出繊維製造ラインで使用するために集積されて巻き取られている。サイジング剤のない繊維は、その後、繰り出し及びテンショナーステーション805で巻き取られる。この製造ラインは、サイジング剤除去を含むものよりも高速に運転される。
【0174】
サイジングされていない繊維880は、プラズマ処理ステーション815へ送られる。本実施例に関して、大気中プラズマ処理が、開繊した炭素繊維材料より1mm離れた距離から「流れに沿った」形で利用される。ガス状の原料はヘリウム100%で構成される。
【0175】
プラズマで改良された繊維885は、バリア・コーティング適用ステーション820へ送られる。例示的な本実施例に関して、シロキサンベースのバリア・コーティング溶液が、浸漬コーティングの構成に用いられる。その溶液は、体積で40倍の希釈率により「Accuglass(登録商標)T-11スピンオンガラス」(Honeywell International Inc., Morristown, NJ)をイソプロピルアルコールで希釈したものである。炭素繊維材料上において得られるバリア・コーティングの厚さは約40nmである。バリア・コーティングは、周囲環境の室温で適用される。
【0176】
バリア・コーティングが施された炭素繊維890は、ナノスケールのバリア・コーティングを硬化させるために、空気乾燥ステーション825に送られる。空気乾燥ステーションは、開繊した炭素繊維全体に加熱した空気の流れを送る。用いられる温度は、100℃〜約500℃の範囲である。
【0177】
空気乾燥後、バリア・コーティングが施された炭素繊維890は、触媒適用ステーション830に送られる。本実施例において、酸化鉄ベースのCNT形成触媒溶液が、浸漬コーティングの構成に用いられる。その溶液は、体積で200倍の希釈率により「EEH−1」(Ferrotec Corporation, Bedford, NH)をヘキサンで希釈したものである。炭素繊維材料上には、触媒コーティングの単分子層が得られる。希釈する前の「EEH−1」は、3〜15容量%の範囲のナノ粒子濃度を有する。酸化鉄ナノ粒子は、Fe2O3とFe3O4の組成物からなり、直径が約8nmである。
【0178】
触媒含有炭素繊維材料895は、溶媒フラッシュオフステーション835へ送られる。溶媒フラッシュオフステーションは、開繊した炭素繊維全体に空気の流れを送る。本実施例では、触媒含有炭素繊維材料に残った全てのヘキサンをフラッシュオフするために、室温の空気が用いられる。
【0179】
溶媒フラッシュオフの後、触媒含有繊維895は、最後にCNT浸出ステーション840に送られる。本実施例では、12インチの成長ゾーンを備えた矩形反応器を用いて、大気圧でのCVD成長を利用する。全ガス流の98.0%は不活性ガス(窒素)であり、その他の2.0%は、炭素原料(アセチレン)である。成長ゾーンは、750℃に保持される。前述の矩形反応器に関して、750℃は、成長速度を考えられる最速のものにする、相対的に高い成長温度である。
【0180】
CNTの浸出後、CNT浸出繊維897は、繊維束化ステーション845で再び束化される。この工程は、ステーション810で行われた開繊工程を実質的に逆転することで、繊維の個々のストランドを再結合する。
【0181】
束化されたCNT浸出繊維897は、貯蔵のために、巻き取り繊維ボビン850の周囲に巻き付けられる。CNT浸出繊維897は、長さ約50μmのCNTsを担持しており、その後、熱的及び電気的伝導性を向上させる複合材料に使用される状態となる。
【0182】
前述の工程には、環境隔離のために、不活性雰囲気あるいは真空中で行われるものがあることに注目されたい。例えば、炭素繊維材料のサイジング剤を燃焼している場合、繊維は環境隔離されて、ガス放出を阻止するとともに、水分からダメージを受けることを抑制する。便宜上、システム800において、環境隔離は、製造ラインの先頭における炭素繊維材料の繰り出し及び張力調整、及び、製造ラインの末端における繊維巻き取りを除いて、全ての工程に提供される。
【実施例2】
【0183】
本実施例は、機械的性質、特に界面特性(例えば、せん断強度など)の向上を目的とする連続処理において、炭素繊維材料に、どのようにしてCNTsを浸出させるかを示す。この場合、繊維上に短いCNTsを担持させることが目的である。本実施例において、炭素繊維基材として、サイジングされていない、テックス値793である34〜700の12k炭素繊維トウ(Grafil Inc., Sacramento, CA)が導入される。この炭素繊維トウにおける個々のフィラメントは、直径が約7μmである。
【0184】
図9は、本願発明の例示的な実施形態によるCNT浸出繊維を生成するためのシステム900を表しており、システム800で説明されたステーション及び処理と同様のものを多く含んでいる。システム900には、炭素繊維材料の繰り出し及びテンショナーステーション902、繊維開繊器ステーション908、プラズマ処理ステーション910、触媒適用ステーション912、溶媒フラッシュオフステーション914、第2の触媒適用ステーション916、第2の溶媒フラッシュオフステーション918、バリア・コーティング適用ステーション920、空気乾燥ステーション922、第2のバリア・コーティング適用ステーション924、第2の空気乾燥ステーション926、CNT浸出ステーション928、繊維束化ステーション930、及び、炭素繊維材料巻き取りボビン932が、図示のように相互に関連して含まれる。
【0185】
炭素繊維材料の繰り出し及びテンショナーステーション902には、繰り出しボビン904とテンショナー906が含まれる。繰り出しボビンは、炭素繊維材料901を処理に渡すが、繊維には、テンショナー906により張力がかけられる。本実施例に関して、炭素繊維は毎分2フィートのラインスピードで処理される。
【0186】
繊維材料901は、繊維開繊器ステーション908に送られる。この繊維は、サイジング剤を備えずに製造されているので、サイジング剤除去処理は、繊維開繊器ステーション908の一部として組み込まれていない。繊維開繊器は、繊維開繊器870で説明した方法と同様に、繊維を個々の要素に開繊する。
【0187】
繊維材料901は、プラズマ処理ステーション910に送られる。この実施例に関して、大気中プラズマ処理が、開繊した炭素繊維材料より12mm離れた距離から「流れに沿った」形で利用される。ガス状の原料は、不活性ガス流全体(ヘリウム)の1.1%の量の酸素を含んでいる。炭素繊維材料の表面における酸素含有量の制御は、後のコーティングの接着性を高める効果的な方法であり、ひいては、炭素繊維複合材料の機械的性質の向上にとって好ましいものである。
【0188】
プラズマで改良された繊維911は、触媒適用ステーション912へ送られる。本実施例において、酸化鉄ベースのCNT形成触媒溶液が、浸漬コーティングの構成に用いられる。その溶液は、体積で200倍の希釈率により「EEH−1」(Ferrotec Corporation, Bedford, NH)をヘキサンで希釈したものである。炭素繊維材料上には、触媒コーティングの単分子層が得られる。希釈する前の「EEH−1」は、3〜15容量%の範囲のナノ粒子濃度を有する。酸化鉄ナノ粒子は、Fe2O3とFe3O4の組成物からなり、直径が約8nmである。
【0189】
触媒含有炭素繊維材料913は、溶媒フラッシュオフステーション914へ送られる。溶媒フラッシュオフステーションは、開繊した炭素繊維全体に空気の流れを送る。本実施例では、触媒含有炭素繊維材料に残った全てのヘキサンをフラッシュオフするために、室温の空気が用いられる。
【0190】
溶媒フラッシュオフの後、触媒含有繊維913は、触媒適用ステーション912と同一の触媒適用ステーション916に送られる。溶液は、体積で800倍の希釈率により「EEH−1」をヘキサンで希釈したものである。本実施例に関して、多数の触媒適用ステーションを含む構成を用いて、プラズマで改良した繊維911における触媒の被覆を最適化する。
【0191】
触媒含有炭素繊維材料917は、溶媒フラッシュオフステーション914と同一の溶媒フラッシュオフステーション918へ送られる。
【0192】
溶媒フラッシュオフの後、触媒含有炭素繊維材料917はバリア・コーティング適用ステーション920に送られる。本実施例において、シロキサンベースのバリア・コーティング溶液が、浸漬コーティングの構成に用いられる。その溶液は、体積で40倍の希釈率により「Accuglass(登録商標)T-11スピンオンガラス」(Honeywell International Inc., Morristown, NJ)をイソプロピルアルコールで希釈したものである。炭素繊維材料上において得られるバリア・コーティングの厚さは約40nmである。バリア・コーティングは、周囲環境の室温で適用される。
【0193】
バリア・コーティングが施された炭素繊維921は、バリア・コーティングを部分的に硬化させるために、空気乾燥ステーション922へ送られる。空気乾燥ステーションは、開繊した炭素繊維全体に加熱した空気の流れを送る。用いられる温度は、100℃〜約500℃の範囲である。
【0194】
空気乾燥後、バリア・コーティングが施された炭素繊維921は、バリア・コーティング適用ステーション920と同一のバリア・コーティング適用ステーション924に送られる。溶液は、体積で120倍の希釈率により「Accuglass(登録商標)T-11スピンオンガラス」をイソプロピルアルコールで希釈したものである。本実施例に関して、多数のバリア・コーティング適用ステーションを含む構成を用いて、触媒含有繊維917におけるバリア・コーティングの被覆率を最適化する。
【0195】
バリア・コーティングを施した炭素繊維925は、バリア・コーティングを部分的に硬化させるために、空気乾燥ステーション922と同一の空気乾燥ステーション926へ送られる。
【0196】
空気乾燥後、バリア・コーティングが施された炭素繊維925は、最後にCNT浸出ステーション928に送られる。本実施例では、12インチの成長ゾーンを備えた矩形反応器を用いて、大気圧でのCVD成長を利用する。全ガス流の97.75%は不活性ガス(窒素)であり、その他の2.25%は、炭素原料(アセチレン)である。成長ゾーンは、650℃に保持される。前述の矩形反応器に関して、650℃は、短いCNTの成長制御を可能にする、相対的に低い成長温度である。
【0197】
CNTの浸出後、CNT浸出繊維929は、繊維束化ステーション930で再び束化される。この工程は、ステーション908で行われた開繊工程を実質的に逆転することで、繊維の個々のストランドを再結合する。
【0198】
束化されたCNT浸出繊維931は、貯蔵のために、巻き取り繊維ボビン932の周囲に巻き付けられる。CNT浸出繊維929は、長さ約5μmのCNTsを担持しており、その後、機械的性質を向上させる複合材料に使用される状態となる。
【0199】
本実施例において、炭素繊維材料は、バリア・コーティング適用ステーション920及び924の前に、触媒適用ステーション912及び916を通過する。このコーティングの順序は、実施例1に図示される順序とは逆になっており、この場合、炭素繊維基材に対するCNTsの固定を向上させることができる。CNT成長処理中、バリア・コーティング層はCNTsにより基材から持ち上げられ、これにより、(触媒NPの接合を介して)炭素繊維材料との直接接触をより多く可能にする。熱的/電気的性質ではなく、機械的性質の向上を目的としているので、順序が逆になるコーティング構成は好ましい。
【0200】
前述の工程には、環境隔離のために、不活性雰囲気あるいは真空中で行われるものがあることに注目されたい。便宜上、システム900において、環境隔離は、製造ラインの先頭における炭素繊維材料の繰り出し及び張力調整、及び、製造ラインの末端における繊維巻き取りを除いて、全ての工程に提供される。
【実施例3】
【0201】
本実施例は、機械的性質、特に界面特性(層間せん断など)の向上を目的とする連続処理において、炭素繊維材料に、どのようにCNTsを浸出させるかを示す。
【0202】
本実施例では、繊維上に短いCNTsの担持させることが目的である。本実施例において、炭素繊維基材として、サイジングされていない、テックス値793である34〜700の12k炭素繊維トウ(Grafil Inc., Sacramento, CA)が導入される。この炭素繊維トウにおける個々のフィラメントは、直径が約7μmである。
【0203】
図10は、本願発明の例示的な実施形態によるCNT浸出繊維を生成するためのシステム1000を表しており、システム800で説明されたステーション及び処理と同様のものを多く含んでいる。システム1000には、炭素繊維材料の繰り出し及びテンショナーステーション1002、繊維開繊器ステーション1008、プラズマ処理ステーション1010、コーティング適用ステーション1012、空気乾燥ステーション1014、第2のコーティング適用ステーション1016、第2の空気乾燥ステーション1018、CNT浸出ステーション1020、繊維束化ステーション1022、炭素繊維材料巻き取りボビン1024が、図示のように相互に関連して含まれる。
【0204】
繰り出し及びテンショナーステーション1002には、繰り出しボビン1004とテンショナー1006が含まれる。繰り出しボビンは、炭素繊維材料1001を処理に渡すが、繊維には、テンショナー906により張力がかけられる。本実施例に関して、炭素繊維は毎分5フィートのラインスピードで処理される。
【0205】
繊維材料1001は、繊維開繊器ステーション1008に送られる。この繊維は、サイジング剤を備えずに製造されているので、サイジング剤除去処理は、繊維開繊器ステーション1008の一部として組み込まれていない。繊維開繊器は、繊維開繊器870で説明した方法と同様に、繊維を個々の要素に開繊する。
【0206】
繊維材料1001は、プラズマ処理ステーション1010に送られる。この実施例に関して、大気中プラズマ処理が、開繊した炭素繊維材料より12mm離れた距離から「流れに沿った」形で利用される。ガス状の原料は、不活性ガス流全体(ヘリウム)の1.1%の量の酸素を含んでいる。炭素繊維材料の表面における酸素含有量の制御は、後のコーティングの接着性を高める効果的な方法であり、ひいては、炭素繊維複合材料の機械的性質の向上にとって好ましいものである。
【0207】
プラズマで改良された繊維1011は、コーティング適用ステーション1012へ送られる。本実施例において、酸化鉄ベースのCNT形成触媒溶液、及びバリア・コーティング材が、単一の「ハイブリッド」溶液中で混合され、浸漬コーティングの構成に用いられる。「ハイブリッド」溶液には、体積比で、1の「EEH−1」、5の「Accuglass(登録商標)T-11スピンオンガラス」、24のヘキサン、24のイソプロピルアルコール、及び146のテトラヒドロフランが含まれる。このような「ハイブリッド」コーティングを採用すると、高温における繊維分解の影響を疎外する点で有益である。理論に拘束されるものではないが、炭素繊維の分解は、(CNTsの成長には不可欠な温度に等しい)高温における触媒NPsの焼結により増大する。このような影響は、各触媒NP自体をバリア・コーティングで覆うことにより制御することができる。熱的/電気的性質ではなく、機械的性質の増大が目的とされているので、炭素繊維ベースの材料を完全な状態で維持することは好ましく、このため、「ハイブリッド」コーティングを採用する。
【0208】
触媒を含有し、バリア・コーティングを施された炭素繊維材料1013は、バリア・コーティングを部分的に硬化させるために、空気乾燥ステーション1014へ送られる。空気乾燥ステーションは、開繊した炭素繊維全体に加熱した空気の流れを送る。用いられる温度は、100℃〜約500℃の範囲である。
【0209】
空気乾燥後、触媒及びバリア・コーティングを含有する炭素繊維1013は、コーティング適用ステーション1012と同一のコーティング適用ステーション1016へ送られる。「ハイブリッド」溶液には同一のものが用いられる(体積比で、1の「EEH−1」、5の「Accuglass(登録商標)T-11スピンオンガラス」、24のヘキサン、24のイソプロピルアルコール、及び146のテトラヒドロフラン)。本実施例に関して、多数のコーティング適用ステーションを含む構成を用いて、プラズマで改良された繊維1011上における「ハイブリッド」コーティングの被覆率を最適化する。
【0210】
触媒及びバリア・コーティングを含有する炭素繊維1017は、バリア・コーティングを部分的に硬化させるために、空気乾燥ステーション1014と同一の空気乾燥ステーション1018に送られる。
【0211】
空気乾燥後、触媒及びバリア・コーティングを含有する炭素繊維1017は、最後にCNT浸出ステーション1020に送られる。本実施例では、12インチの成長ゾーンを備えた矩形反応器を用いて、大気圧でのCVD成長を利用する。全ガス流の98.7%は不活性ガス(窒素)であり、その他の1.3%は、炭素原料(アセチレン)である。成長ゾーンは、675℃に保持される。前述の矩形反応器に関して、675℃は、短いCNTの成長制御を可能にする、相対的に低い成長温度である。
【0212】
CNTの浸出後、CNT浸出繊維1021は、繊維束化ステーション1022で再び束化される。この工程は、ステーション1008で行われた開繊工程を実質的に逆転することで、繊維の個々のストランドを再結合する。
【0213】
束化されたCNT浸出繊維1021は、貯蔵のために、巻き取り繊維ボビン1024の周囲に巻き付けられる。CNT浸出繊維1021は、長さ約2μmのCNTsを担持しており、その後、機械的性質を向上させる複合材料に使用される状態となる。
【0214】
前述の工程には、環境隔離のために、不活性雰囲気あるいは真空中で行われるものがあることに注目されたい。便宜上、システム1000において、環境隔離は、製造ラインの先頭における炭素繊維材料の繰り出し及び張力調整、及び、製造ラインの末端における繊維巻き取りを除いて、全ての工程に提供される。
【0215】
本願発明は、開示された実施形態を参照して説明されたが、当業者であれば、これらが、本願発明の例示にすぎないことを容易に認識するであろう。当然ではあるが、本願発明の精神から逸脱することなく、様々な変形が可能である。
【技術分野】
【0001】
本願発明は、一般にカーボン・ナノチューブ(CNTs)に関し、より具体的には、複合材料に組み込まれたCNTsに関する。
【0002】
(関連出願の参照)
本願は、2009年11月23日出願の米国仮特許出願第61/263,807号、及び2009年2月17日出願の米国仮特許出願第61/153,143号に基づいて優先権を主張するものであり、これらは参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
(連邦政府の資金提供による研究開発の記載)
適用なし。
【背景技術】
【0004】
カーボン・ナノチューブ(CNTs)は、ヤング率で表わされるように、高炭素鋼の約80倍の強度、かつ6倍のじん性を示し、また、6分の1の密度を示す。これらの好ましい機械的性質により、CNTsは、複合材料中の補強要素として用いられている。CNTsをベースとする複合材料は、多くの金属よりも低密度である一方、強度や耐腐食性の向上をもたらす。また、CNTsは、熱的及び電気的な適用にも好ましい性質を示す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
CNTsベースの複合材料を生成する殆どの処理には、遊離した(loose)CNTs、又は束状(bundled)CNTsをベースとするヤーン(yarn)を、発生期の(nascent)複合材料のマトリックス材に対して直接混入することが含まれる。標準的な樹脂タイプのマトリックス材において、この方法で、CNTsを用いる場合には、得られる複合材料は、通常、完成した複合材料中、カーボン・ナノチューブが最大で約3重量%に制限される。このように制限される理由は、マトリックスの粘性が増大し、その結果複合材料への含浸力が低下するためである。
【0006】
また、CNTsは、2、3又はそれ以上の異なる補強要素が複合材料内に組み込まれたハイブリッド複合材料(hybrid composite)に用いられる。ナノスケールの強化材を組み込むハイブリッド複合材料システムは、CNTsなどのナノ粒子を適切に分散させるために追加の処理工程を必要とする。マトリックス材へのCNTの組み込みには、処理の複雑さを増大させるCNT配向性の制御という別の課題がある。さらに、粘性の著しい増加などの様々な要因によるCNT担持量の制限はハイブリッド複合材料にも観察される。
【0007】
ハイブリッド複合材料の製造処理は、複合材料構造体のうち異なる部位に様々なCNT担持量又は異なる種類のCNTが必要とされる場合、さらに複雑になる。CNT複合材料及び調整されたハイブリッド複合材料の製造の複雑さを軽減し、CNT担持限度容量(CNT loading capacity)を向上させる一方、CNTの配向性も制御した複合材料製品を提供できれば、有益である。本願発明は、これらの必要性を満たし、関連する利点も提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ある態様において、本明細書に開示された実施形態は、マトリックス材に分散するカーボン・ナノチューブ(CNT)浸出繊維を複数含む複合材料の組成物に関する。組成物中のカーボン・ナノチューブの量は、複合材料の約0.1重量%から約60重量%の範囲である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】連続CVD処理を介してAS4炭素繊維上に成長する多層CNT(MWNT)の透過型電子顕微鏡(TEM)画像。
【図2】連続CVD処理を介してAS4炭素繊維上に成長する2層CNT(DWNT)のTEM画像。
【図3】CNT形成ナノ粒子触媒が機械的に炭素繊維材料の表面に浸出するバリア・コーティング(barrier coating)内部から成長するCNTsの走査型電子顕微鏡(SEM)画像。
【図4】炭素繊維材料上で目標長さ約40ミクロンの20%以内まで成長したCNTsの長さ分布の一貫性を明示するSEM画像。
【図5】CNT成長におけるバリア・コーティングの効果を明示するSEM画像。バリア・コーティングが適用される(applied)部位では、高密度かつ良好な配列のCNTsが成長し、バリア・コーティングがない部位には成長しなかった。
【図6】繊維全域で約10%以内のCNT密度の均一性を明示する炭素繊維上のCNTsの低倍率SEM画像。
【図7】本願発明の例示的な実施形態によるCNT浸出炭素繊維材料の生成処理を示すフローチャート。
【図8】連続処理において炭素繊維材料をCNTsで浸出して熱的及び電気的伝導性を向上させる方法を示すフローチャート。
【図9】「逆(reverse)」バリア・コーティング処理を用いた連続処理において炭素繊維材料をCNTsで浸出して機械的性質、特にせん断強度などの界面特性を向上させる方法を示すフローチャート。
【図10】「ハイブリッド(hybrid)」バリア・コーティングを用いた別の連続処理において炭素繊維材料をCNTsで浸出して機械的性質、特にせん断強度や層間破壊じん性などの界面特性を向上させる方法を示すフローチャート。
【図11】層間破壊じん性について、IM7炭素繊維に浸出したCNTsの効果を示す説明図。基準材料は、サイジングされていない(unsized)IM7炭素繊維である一方、CNT浸出材料は、長さ15ミクロンのCNTsを備えたサイジングされていない炭素繊維である。
【図12】複合材料構造体のうち異なる部位に2種類のCNT浸出繊維を用いて調整された繊維強化複合材料の構造を示す説明図。上層は、下層のCNTsより相対的に短い長さのCNTsを示している。
【図13】複合材料構造体のうち異なる部位に2種類のCNT浸出繊維を用いて調整された繊維強化複合材料の構造を示す説明図。上層は、繊維軸に対して概して垂直なCNTsを示す一方、低層は、繊維軸に概して平行なCNTsを示している。
【図14】複合材料構造体のうち異なる部位に2種類のCNT浸出繊維を用いて調整された繊維強化複合材料の構造を示す説明図。上層は、低層のCNTsより相対的に低い密度のCNTsを示している。
【図15】複合材料構造体のうち異なる部位にCNT浸出繊維の配向性を用いて調整された繊維強化複合材料の構造を示す説明図。最上層は、横断面に平行なCNT浸出繊維を示す一方、真下の別の層は、横断面に対して垂直なCNT浸出繊維を示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本願発明は、1つには、マトリックス材及びカーボン・ナノチューブ(CNT)浸出繊維材料を含む複合材料を対象とするものである。複合材料にCNTで機能化(functionalized)された繊維材料を混入することにより、従来は、CNT担持量の増大に伴い粘性も増加するために制限されていた、マトリックス材内のCNT担持量の増大が可能となる。可能な限り大きなCNT担持量は、相対的なCNT配向性の高度な制御と相まって、複合材料全体に付与されるCNT性質の影響を増大させる。CNT浸出繊維材料が複合材料のマトリックス材内にどのように配設されるかを制御することにより、例えば、機械的性質、電気的性質及び熱的性質の向上など、目的とする特定の要求に容易に合うように調整された高性能のハイブリッド複合材料への手段がもたらされる。
【0011】
複合材料中のCNTの配向性は、1つには、CNTsが浸出する繊維材料の足場により制御される。後述するように、繊維材料の個々の繊維の軸に対して浸出したCNTsには、基本的な2つの配向性がある。ある実施形態において、CNTsは、繊維軸の周囲から放射状に広がる。このような実施形態において、CNTsは、繊維軸から概して垂直に成長する。他の実施形態において、CNT浸出繊維は更なる処理を経て、CNTsを繊維軸に対して概して平行に配向させる。繊維材料上で固定されるこれらのCNTsの配向性は、複合材料構造体の全体においてCNTsの予測可能な配向性をもたらす。
【0012】
また、本願発明の複合材料構造体には、複合材料全体のうち異なる部位に異なる種類のCNTを有するCNT浸出繊維材料が組み込まれる。例えば、短いCNTsは、複合材料構造体の一部に組み込まれて、機械的性質を高めることができる。長いCNTsは、同一の複合材料構造体の他部に組み込まれて、電気的又は熱的性質を高めることができる。異なる種類のCNT浸出繊維材料を複合材料構造体に組み込んだものが、図12に例示される。図12は、マトリックス材1210及びCNT浸出繊維材料1220を含む複合材料構造体1200を示している。この例示的な構造体において、複合材料構造体の第1の層1230は、この部位の複合材料構造体1200に機械的強度をもたらすのに効果的な短いCNTsを有する。第2の層1240は、CNTの長さが相対的に長いCNT浸出繊維材料を組み込んでいる。図に示されるように、CNTは、複合材料構造体1200の第2の層1240において、有益な電気的及び/又は熱的伝導性の発現に有用となり得るパーコレーション(percolation)経路を発生させるのに十分な長さである。ある実施形態において、本願発明の複合材料構造体は、浸出CNTsのない繊維材料強化材の断面も含み得る。
【0013】
本願発明の繊維強化複合材料構造体は、その性質が、図12に例示されるように一定の要求を満たすように調整されているため有益である。さらなる実施例として、特定の層の積層順序を用いて曲げ剛性に関して複合材料はりを最適化したり、別の順序を用いて、ねじれ剛性に関して最適化することができる。2以上の異なる種類の強化繊維を用いたハイブリッド複合材料にとって、機械的、熱的あるいは電気的であるかどうかという複合材料全体の性質に対する各繊維の積極的な貢献は有益である。
【0014】
本明細書に開示された処理によりCNT浸出繊維を備えて構成される複合材料構造体には、層間及び面内せん断などの機械的性質の向上が見られる。加えて、これらの複合材料構造体では、1つには、好ましいCNTの担持量及び好ましいCNT配向性の制御に基づいて、電気的及び熱的伝導性が向上する。本明細書に開示されるCNT浸出繊維は、様々な配向性及び様々な位置で複合材料構造体に用いられて、現在の繊維強化複合材料では得られない性質を含む特別に調整された性質をもたらす。例えば、本願発明の処理により、中心平面において高せん断荷重に対処するための複合材料構造体が生成されるが、厚さ方向には電気的に絶縁される。CNT浸出繊維は、調整された複合材料の中心層に用いられて最大せん断強度特性を向上させる。未改質のガラス繊維は、表面層に用いられて電気絶縁性を与える。
【0015】
また更なる例示的な実施形態において、調整された複合材料には、様々な状況で、CNT浸出繊維の向上した電気的性質が利用される。例えば、凍結状態にさらされる複合材料翼は、CNT浸出繊維を備えて構成される層を有し、これにより電位を印加したときに大規模回路が形成される。この層は、凍結状態を加熱し、除去し、又は防止する大規模な抵抗加熱器として機能する。これにより外部加熱の必要がなくなり、また、用いられる繊維が2種類のみであるので、複合材料は均一性を保持する。異なるCNTの種類を含む第2の繊維種(又は同繊維種)は、複合材料製造の処理工程を増加させることなく強化するために同一の複合材料内に使用される。CNT浸出繊維とあらゆる未改質繊維との適合性により、他の加熱素子の熱膨張係数、大きさ(size)及び剛性変動における不整合に基づいて、複合材料の積層中に致命的な欠陥が発生する可能性が低減される。
【0016】
同様に、複合材料の構成要素は様々な荷重に対処するように設計される。例えば、1つの構成要素は、別の部分が圧縮荷重を支持している間に、せん断荷重を伝達する接合部(joint)を備えている。せん断を受けてはく離破壊しやすい一部は、CNTsを高担持したCNT浸出繊維を備えて構成され、せん断に対する補強効果を増大させる。引張荷重を支持する部分の一部は、CNTの被覆率が低い繊維を用いて、付随して高くなる繊維に基づいて強度を向上させる。繊維上におけるCNT浸出の制御は、複合材料形成前に容易に調整されるので、複合材料の生成処理が簡素化される。
【0017】
さらに、本明細書に記載されるCNT浸出繊維は、CNT担持量、CNT長さ及びCNT配向性を厳密に制御しながら連続的に生成される。ナノスケールの強化材を組み込む他のハイブリッド複合材料システムでは、マトリックス材にナノチューブのナノ粒子を適切に分散させる更なる処理工程を必要とする。担体(carrier)としての繊維材料にCNTsを浸出させることにより、CNTsの分布、配向性及び種類が制御される。また、本願発明の方法により、ユーザーは、本明細書で後述するCNT浸出処理で制御されるような、隣層とは異なる特定のCNT担持量を含んだ層を形成することが可能となる。
【0018】
CNT浸出繊維は、例えば、CNTの配向や多層複合材料における部分的な積層(sectional layering)を含む余分な処理工程を必要とすることなく、未処理のガラス・フィラメント(filament)及び未処理の炭素フィラメントに用いられるのと同一の製造技術を用いて複合材料に組み込まれる。さらに、CNTsは繊維担体に浸出するので、CNTsの均質な組み込み、CNTの束化などに付随する問題も軽減される。CNT浸出繊維により、樹脂ベースの複合材料構造体にとって、複合材料のマトリックス材に直接CNTsを混入することで達成可能なCNT担持量よりも大量のCNT担持量が可能となる。
【0019】
現在製造されている複合材料では、通常、40容量%のマトリックス材に対して60容量%の繊維材料を有するが、繊維材料に浸出したCNTsである第3の要素の導入により、この比率を変化させることが可能となる。例えば、最大約25容量%のCNTsの添加により、マトリックス材の範囲が約15容量%〜約85容量%へと変化するのに従って、繊維部分は、約10容量%〜約75容量%の範囲内で変化することが可能となる。様々な比率により、1以上の所望の特性を対象として調整可能な複合材料全体の性質を変化させることができる。CNTsの性質は、CNTsによって強化される繊維材料に加えられる。これらの強化繊維が、調整された複合材料に用いられていると、繊維の割合は増大するが、調整された複合材料の性質は、当該技術分野で知られている複合材料と比較して、さらに著しく変化させることができる。
【0020】
本明細書では、用語「繊維材料」とは、基本的な構成要素として繊維又はフィラメントを有するいかなる材料も指す。繊維は、織物(fabric)及び他の織物構造の基本的な要素を形成する、自然物あるいは人造物のいずれか一方の一単位である。フィラメントは、無限長さの単繊維であり、自然物あるいは人造物のいずれか一方である。本明細書では、用語「繊維」及び「フィラメント」は同じ意味で用いられる。用語「繊維材料」には、繊維、フィラメント、ヤーン、トウ(tow)、テープ、リボン(ribbon)、織物及び不織布、パイル(pile)、マット(mat)、3次元織物構造体などが包含される。
【0021】
本明細書では、用語「巻き取り可能な寸法」とは、繊維材料をスプール(spool)又はマンドレル(mandrel)に巻き取っておくことが可能な、長さの限定されない、繊維材料の有する少なくとも1つの寸法をいう。「巻き取り可能な寸法」の繊維材料は、本明細書に記載されるように、CNT浸出のための1回分の処理又は連続処理のいずれかの使用を示す少なくとも1つの寸法を有する。市販の巻き取り可能な寸法の例示的な繊維材料の1つの例としては、800テックス(1テックス=1g/1,000m)又は620ヤード/ポンドの寸法を有するAS4 12k炭素繊維のトウ(Grafil, Inc., Sacramento, CA)が挙げられる。特に、工業用の炭素繊維のトウは、例えば、5、10、20、50及び100ポンド(高重量のスプール用で、通常、3k/12Kのトウ)のスプールで入手されるが、より大きなスプールには特注を必要とする。本願発明の処理は、5〜20ポンドのスプールで容易に行われるが、より大きなスプールの使用も可能である。さらに、例えば、100ポンドまたはそれよりも大きい極めて長大な巻き取り長を、取り扱いが容易な寸法、例えば、50ポンドのスプール2つに分割する前処理工程を組み込むこともできる。
【0022】
本明細書では、用語「カーボン・ナノチューブ」(単数ではCNT、複数ではCNTs)とは、単層カーボン・ナノチューブ(SWNTs)、二層カーボン・ナノチューブ(DWNTs)、多層カーボン・ナノチューブ(MWNTs)を含むフラーレン群からなる多数の円筒形状の炭素同素体のうちのすべてをいう。CNTsは、フラーレン様構造により閉塞されるか、又は開口端を有していてもよい。CNTsには、他の物質を封入するものが含まれる。また、CNTsには、当該技術分野において知られているように、化学構造の機能化(functionalization chemistry)で生じるものが含まれる。限定するものではないが、例として、例えば硝酸などの酸化性酸によるCNTのフッ素化及び酸化が含まれる。このような化学構造の機能化は繊維材料上においてCNTsが成長した後に行われる。当業者であれば、繊維材料自体に対するあらゆる化学構造の機能化が互換性を有していることを認識するであろう。
【0023】
本明細書で、「長さが均一」という場合、反応器において繊維上で成長するCNTsの長さについて言及するものである。「均一な長さ」は、約1ミクロンから約500ミクロンの範囲内にあるCNT長さに関して、CNTsが、CNTの全長の±約20%またはそれ未満の許容誤差を伴う長さを有するということを意味する。極めて短い長さ、例えば、1〜4ミクロンなどでは、この誤差は、CNTの全長の±約20%から±約1ミクロンまでの範囲内、すなわち、CNTの全長の約20%よりも若干大きくなる。
【0024】
本明細書で、「分布が均一」とは、繊維材料におけるCNTの密度が不変であることをいう。「均一な分布」は、繊維材料におけるCNTsの密度が、±10%の許容誤差範囲にあることを意味するが、この場合、CNTsの密度とは、CNTsで被覆される繊維の表面積として定義される。これは、直径8nmの5層CNTでは、1平方マイクロメートル当たり±1500のCNTsに相当する。この形状ではCNTsの内部空間を充填可能と仮定している。
【0025】
本明細書では、用語「浸出する」とは結合されることを意味し、用語「浸出」とは結合処理を意味する。このような結合には、直接共有結合、イオン結合、π−π相互作用、及び/又はファンデルワールス力の介在による物理吸着などが含まれ得る。例えば、ある実施形態において、CNTsは、炭素繊維材料に直接結合される。結合は、例えば、CNTが、バリア・コーティング及び/又はCNTs及び炭素繊維材料間にはさまれて配置された遷移金属ナノ粒子を介して繊維材料へ浸出するなど、間接的であってもよい。本明細書に開示されたCNT浸出繊維材料において、カーボン・ナノチューブは、前述のように、直接的又は間接的に繊維材料に「浸出」することが可能である。CNTを繊維材料に浸出させる具体的な方法は、「結合モチーフ(bonding motif)」と呼ばれる。
【0026】
本明細書では、用語「遷移金属」とは、周期表のdブロックにおけるあらゆる元素又はその合金をいう。また、用語「遷移金属」には、卑遷移金属元素の塩形態(例えば、酸化物、炭化物、窒化物など)も含まれる。
【0027】
本明細書では、用語「ナノ粒子」若しくはNP(複数ではNPs)、又はその文法的な同等物とは、NPsは球形である必要はないが、球の等価直径が約0.1から約100μmの間のサイズの粒子をいう。遷移金属NPsは、特に、繊維材料上におけるCNTを成長させる触媒として機能する。
【0028】
本明細書では、用語「サイジング剤(sizing agent)」、「繊維サイジング剤(fiber sizing agent)」、又は単に「サイジング(sizing)」とは、繊維を完全な状態で保護し、複合材料における繊維及びマトリックス材間の界面相互作用を向上させ、及び/又は、繊維の特定の物理的性質を変更及び/又は高めるためのコーティングとして繊維の製造において用いられる材料を総称するものである。ある実施形態では、繊維材料に浸出するCNTsが、サイジング剤として作用する。
【0029】
本明細書では、用語「マトリックス材」とは、サイジングされた(sized)CNT浸出繊維材料をランダム配向などの特定の配向性で構成する機能を果たすバルク材をいう。CNT浸出繊維材料は、通常、CNTsを組織化するので、例えば、CNT浸出繊維材料のチョップド・ストランド(chopped strand)を用いることにより、このようなランダム配向が得られる。マトリックス材に対して、CNT浸出繊維材料の有する物理的及び/又は化学的性質のある部分が付与されることにより、マトリックス材にとってCNT浸出繊維材料の存在は有益となる。
【0030】
本明細書では、用語「材料滞留時間」とは、巻き取り可能な寸法の繊維材料に沿った各ポイントが、本明細書に記載されるCNT浸出処理の間、CNTの成長状態にさらされる時間をいう。この定義には、多層CNTの成長チャンバーを用いる場合の材料残留時間が含まれる。
【0031】
本明細書では、用語「ラインスピード」とは、本明細書に記載されるCNT浸出処理により、巻き取り可能な寸法の繊維材料を送り込むことができるスピードをいい、この場合、ラインスピードは、CNTの(1つの又は複数の)チャンバー長を材料残留時間で除して算出される速度である。
【0032】
ある実施形態において、本願発明は、マトリックス材に分散された複数のカーボン・ナノチューブ(CNT)浸出繊維を含む複合材料の組成物を提供する。組成物におけるカーボン・ナノチューブの量は、組成物の約5重量%〜約60重量%の範囲である。複合材料におけるCNTsの高担持量は、マトリックス材の種類とは無関係である。すなわち、例えば、粘性の増大により、通常CNTの担持量が低い樹脂マトリックス材であっても、CNTを高担持量で組み込むことができる。ある実施形態では、CNTの担持量を、例えば、65%、70%若しくは75%、又はこれらの間のあらゆる量など、さらに高くする。ある実施形態では、担持量は、0.1%、0.25%、0.5%、1%、2%、3%、4%及び5%など、並びに、これらの中間のあらゆる量など、5%以下にされる。
【0033】
また、複合材料の組成物では、カーボン・ナノチューブの量が、組成物の約0.1重量%〜約重量5%、複合材料の約10重量%〜約60重量%、複合材料の約15重量%〜約60重量%、複合材料の約20重量%〜約60重量%、複合材料の約25重量%〜約60重量%、複合材料の約10重量%〜約50重要%、複合材料の約20重量%〜約40重量%、複合材料の約5重量%〜約10重量%、複合材料の約10重量%〜約20重量%、複合材料の約20重量%〜約30重量%、複合材料の約30重量%〜約40重量%、複合材料の約40重量%〜約50重量%、複合材料の約50重量%〜約60重量%及び複合材料の約40重量%〜約60重量%の範囲、並びに、これらの範囲内のいかなる範囲などにある。当業者であれば、どの範囲を選択するかは、複合材料の最終用途により影響を受けるということを認識するであろう。例えば、プリプレグ(pre-preg)は、マトリックス材と比較して相対的にCNT浸出繊維を多く含み、複合材料全体において高効果なCNTの重量割合となる。また、CNTsの量は、複合材料の最終用途が、熱的、電気的若しくは機械的用途、又はこれら用途の組み合わせであるのかどうかによる。
【0034】
ある実施形態では、複合材料の組成物は、その中に、複合材料の約5重量%のカーボン・ナノチューブ量を含むが、他の実施形態では、複合材料の約15重量%、また更なる実施形態では、複合材料の約20重量%、また更なる実施形態では、複合材料の約25重量%、また更なる実施形態では、複合材料の約30重量%、及び他の実施形態では、複合材料の約35重量%のカーボン・ナノチューブ量を含む。最終的な複合材料中のCNTs量は、約0.1%〜約75%で求められるあらゆる量及びこれらの間の値又は割合である。
【0035】
本願発明の実施に有用な繊維材料には、多種多様のあらゆる化学構造が含まれ、これには、限定するものではないが、炭素繊維、グラファイト繊維、金属繊維(例えば、鋼、アルミニウム、モリブデン、タンタル、チタン、タングステンなど)、炭化タングステン、セラミック繊維、玄武岩繊維、金属−セラミック繊維(例えば、アルミニウム・シリカ(aluminum silica)など)、ガラス繊維(Eガラス、Sガラス、Dガラス)、セルロース系繊維、ポリアミド(Kevlar(登録商標)29及びKevlar(登録商標)49などの、芳香族ポリアミド、アラミド)、ポリエステル、石英、炭化ケイ素などがある。以下に詳述される方法は、いかなる種類の繊維基材に対してもカーボン・ナノチューブが成長するように適合される。CNT浸出ガラス繊維材料は、本願発明の調整された複合材料の組成物における強化材として用いられる繊維種の実施例である。CNT浸出繊維は、繊維トウ、複数のロービング(roving)若しくは織物の形態、又は本明細書に記載されるように、他の多数の形態をとり得る。
【0036】
繊維種と同様に、マトリックス材は、セラミック、金属、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などのあらゆる種類であってもよい。当業者であれば、複合材料製品の最終用途により、繊維種とマトリックス材との適切な組み合わせを選択できるということを認識するであろう。繊維種とマトリックス材との組み合わせの例としては、例えば、炭素繊維とエポキシ、ガラス繊維とエポキシ、炭素、ガラス、セラミック及び/又はアラミド繊維と様々な熱硬化性樹脂マトリックス材(エポキシ、ポリエステル及びマレイミドを含む)、炭素、ガラス、セラミック及びアラミド繊維とセラミック・マトリックス材(炭化シリコン及びアルミナを含む)、炭素繊維とエポキシ、ガラス繊維とエポキシ、炭素、ガラス、セラミック及び/又はアラミド繊維と様々な熱可塑樹脂(ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミド、PMMA、PEEK、PEI、PANなどを含む)、ガラス、炭素及びセラミック繊維と金属(アルミニウム及びタングステンを含む)が含まれる。
【0037】
CNT浸出繊維材料は、当該技術分野で知られている方法(例えば、射出成形、圧縮成形、真空浸出(vacuum infusion)、引き抜き成形、押し出し成形、ハンドレイアップ(開放成形)、樹脂トランスファー成形、真空支援型樹脂トランスファー成形など)を用いてマトリックス材に組み込まれる。用いられる方法次第で様々な複合材料構造体の構成が得られる。
【0038】
ある実施形態において、CNT浸出繊維はマトリックス材全体にわたって均一に分布する。このような実施形態では、マトリックス材全体にわたってCNTsの長さが略同様で、その結果、複合材料構造体全体にわたって等しくCNTsが規則的に配列されることで、CNT浸出繊維は略均一に分布されるとともに等しく配列される。
【0039】
ある実施形態において、本願発明の複合材料構造体は、複合材料構造体内の少なくとも2つの部位で異なるCNT長さを有する。再び図12を参照すると、層1230は、層1240よりも短い長さのCNTsを有するCNT浸出繊維材料1220で形成される。このような実施形態では、短いCNTsを備えた第1の層1230が、機械的性質を向上させる機能を果たす一方、第2の層1240は、例えば、EMI遮蔽などの電気的及び熱的性質を向上させる機能を果たす。このような用途のためのCNTs長さは、本明細書で更に後述される。当業者であれば、本明細書で提供される教示及び指針を前提として、CNT長さが、2以上の層(3層、4層、5層、6層など複合材料全体で何層でも)において変化し得ることを認識するであろう。このような複合材料内の各層は、機械的、電気的及び/又は熱的性質のために選択可能であり、その場合、いかなる順番であってもよい。
【0040】
さらに、当業者であれば、CNTの長さは、量子化された階段状で存在する必要がなく、むしろ複合材料全体にわたって連続的かつ徐々に変化し得るということを認識するであろう。このような実施形態では、CNT長さの勾配は、複合材料の頂部から底部にかけて連続的に増加する。ある実施形態において、CNT長さの勾配は、頂部から底部にかけて連続的に減少する。また更なる実施形態において、CNT長さは、複合材料構造体の全体にわたって、連続的に増加してから周期的に減少する。
【0041】
連続的か量子化かいずれか一方の複合材料構造体は、複合材料構造体内でのCNT浸出繊維材料を積層する位置を予め定めておくことにより、いかなる複合材料の製造処理を介しても容易に得られる。当業者であれば、構造体のどの領域が機械的、電気的及び/又は熱的条件を目的とするのかを知った上で、巻き取り可能な長さの繊維材料に沿って、目的のCNT長さに従ったCNTsを繊維材料に合成させることができる。
【0042】
ある実施形態において、量子化又は連続的なCNT長さについて、多数に分かれた巻き取り可能な長さの繊維材料でも同一の効果が得られる。このような実施形態では、巻き取り可能な繊維材料を異なる材料から作ることができる。したがって、例えば、複合材料内の第1の層は、機械的強度向上のためにCNT長さが短いCNT浸出ガラス繊維材料を組み込む一方、第2の層は、電気的及び/又は熱的用途のためにCNT浸出炭素繊維を組み込むことができる。
【0043】
CNT浸出繊維材料上のCNTsは一定のパターンで容易に配向される。例えば、ある実施形態では、浸出CNTは、繊維軸の周囲から放射状に配置される一方、他の実施形態では、浸出CNTは、繊維軸に対して平行に配置される。繊維材料の周囲に放射状に成長するCNTsは、本明細書で後述されるCNT成長方法により実現される。繊維軸に対して放射状の配向が求められる場合、CNT成長の後処理は必要とされない。ある実施形態の場合、繊維軸に沿って並ぶCNTsを有することが好ましい。このような実施形態では、CNTの成長後、CNT浸出繊維材料は、浸出CNTsの「化学的」な配向のために様々な溶液で処理される。また、機械的若しくは電気的手段、又は前述の方法のあらゆる組み合わせ(これらは全て当該技術分野において周知であり、本明細書で後述される)により、CNTsの方向を繊維軸に沿って変えることもできる。
【0044】
電気機械的手段−成長処理中、繊維に対して平行に調整された電界又は磁界を用いて、CNTsは、印加された力場を介した整列の促進により成長しながら配列される。
【0045】
機械的手段−押し出し成形、引き抜き成形、ガス圧支援金型(gas pressure aided die)、標準的金型(conventional die)、マンドレル(mandrel)などの様々な機械的技術が用いられ、整列を促進するために繊維の方向にせん断力を印加する。
【0046】
化学的手段−溶液、界面活性剤及びマイクロ・エマルション(micro-emulsion)などの化学薬品が用いられ、材料をこれらの化学薬品から引き出すときに観察される繊維方向の被覆効果を用いて整列を促進する。
【0047】
ある実施形態において、繊維材料の繊維軸に沿って並ぶCNTsの方向は、複合材料の製造処理中に変更可能である。したがって、例えば、複合材料構造体内でCNT浸出繊維材料を積層している間、機械的手段を採用することにより、巻き取り可能な長さのCNT浸出繊維材料のいかなる部分にも繊維軸に平行に並ぶCNTsを与えることができる。これにより、構造体全体にわたって様々なCNT配向性を有する複合材料構造体の提供が可能となる。ある実施形態において、CNTの配列は、複合材料構造体のうち少なくとも2つの部位で異なる。CNTsは、浸出CNTsが、前述のように、繊維軸に略平行、繊維軸に略垂直、又は、これらの組み合わせとなるように、複合材料構造体内で配向される。ここで図13を参照すると、複合材料構造体1300には、マトリックス材1310と、繊維軸の周囲に放射状に配向されたCNTs1335を有する第1の層1330、及び、繊維軸に沿って配向されたCNTs1345を有する第1の層に隣接する第2の層1340において用いられるCNT浸出繊維材料1320と、が含まれる。CNT長さが様々な場合のように、繊維材料に対してCNTの配向性が異なる部分が、単一の巻き取り可能な長さの繊維材料、又は、2以上の巻き取り可能な長さの繊維材料に沿って現われてもよく、その場合、夫々の繊維は同一又は混合種(例えば、炭素、ガラス、セラミック、金属又はアラミド繊維材料など)である。複合材料構造体1300において、第1の層1330におけるCNTs1325の配向性は、層間特性(例えば、せん断強度又はせん断じん性など)を向上させるために用いられる。これは、構造体が相互に接合されるラップジョイント(lap joint)又は領域で有益となり得る。繊維軸に平行な方向に配向されたCNTs1345を有する第2の層1340は、引張特性を向上させる用途に用いられる。
【0048】
ある実施形態において、本願発明の複合材料構造体は、複合材料構造体のうち少なくとも2つの部位で異なるCNT密度を有する。したがって、例えば、複合材料全体におけるCNTsには、マトリックス材の一部の全域にわたって濃度勾配が存在する。このように、ある実施形態では、巻き取り可能な長さのCNT浸出繊維は、巻き取り可能な長さの繊維に沿って密度を異ならせて製造される。これは、後述されるように、連続的なインライン処理(in-line process)であるCNT成長処理により制御される。複合材料構造体におけるCNTsの位置及び密度は、あらゆる幾何学的なパラメータの調整など、CNT浸出繊維がマトリックス材においてどのように積層するかについて予め知った上で設計される。ここで図14を参照すると、CNT浸出繊維材料1420を組み込んだマトリックス材1410を含む複合材料構造体1400が示されている。CNT浸出繊維材料1420は、複合材料構造体1400において第1の層1430と第2の層1440で積層するが、この場合、第1の層1430は、その全体にわたって第1のCNTs密度を有し、第2の層1440は、その全体にわたって第2のCNTs密度を有する。複合材料構造体1400において、低密度を有する第1の層1430は、機械的性質を向上させるために用いられる。さらに、パーコレーション限界(percolation threshold)に近い構成により、複合材料構造体1400内の損傷検出に使用可能な、ひずみに対する高感度な電気的応答がもたらされる。第2の層1440のより高いCNT密度は、機械的性質、熱的性質、及び電気的性質のあらゆる組み合わせのために用いられる。例えば、より高い密度は、熱輸送特性の向上に有益である。
【0049】
当業者であれば、本明細書で提供される教示及び指針を前提として、CNT密度もまた、2以上の層(3層、4層、5層、6層など複合材料全体で何層でも)において変化し得ることを認識するであろう。このような複合材料内の各層は、機械的、電気的及び/又は熱的性質のために選択可能であり、その場合、いかなる順番で配列されてもよい。
【0050】
さらに、当業者であれば、CNTの密度は、図14に示されるように、量子化された階段状で存在する必要がなく、むしろ複合材料全体にわたって連続的かつ徐々に変化するということを認識するであろう。このような実施形態では、CNT密度の勾配は、複合材料の頂部から底部にかけて連続的に増加する。ある実施形態において、CNT密度の勾配は、頂部から底部にかけて連続的に減少する。また更なる実施形態において、CNT密度は、複合材料構造体の全体にわたって、連続的に増加してから周期的に減少する。
【0051】
様々なCNT密度を有する連続的か量子的かいずれか一方の複合材料構造体は、複合材料構造体内でのCNT浸出繊維材料を積層する位置を予め定めておくことにより、いかなる複合材料の製造処理を介しても容易に得られる。当業者であれば、構造体のどの領域が目的とする機械的、電気的及び/又は熱的条件を有しているのかを知った上で、巻き取り可能な長さの繊維材料に沿って、目的の性質に従ったCNTsを繊維材料に合成させることができる。
【0052】
ある実施形態において、量子的又は連続的なCNT長さについて、多数に分離された巻き取り可能な長さの繊維材料でも同一の効果が実現される。このような実施形態では、巻き取り可能な繊維材料を異なる材料から作ることができる。したがって、例えば、複合材料内の第1の層は、機械的強度向上のために、あるCNT密度を有するCNT浸出ガラス繊維材料を組み込む一方、第2の層は、電気的及び/又は熱的用途のためにCNT浸出炭素繊維を組み込むことができる。
【0053】
ある実施形態において、CNT浸出繊維は、複合材料構造体の略表面付近にのみ分布される。このような実施形態では、CNT浸出繊維は、CNTsの欠けた広範な繊維部分も含む。したがって、表面にはCNTsが現れるが、複合材料構造体の残部には、CNTsの欠けた強化繊維材料が分布する。
【0054】
複合材料構造体の第1及び第2の層における繊維材料自体は、0度(すなわち、平行)〜90度(すなわち、垂直)にこれらの中間角度及び中間割合を含めた、あらゆる相対的な配向性をとり得る。したがって、第1の層は、繊維軸の周囲に放射状に配向されたCNTsで形成され、第2の層は、繊維軸に対して同一のCNT配向性を有するが、第1及び第2の層におけるCNT浸出繊維材料は、0度〜90度にこれらの中間角度及び中間割合を含めたあらゆる相対的な角度で、非平行な配列に配置される。例示的な構成として、図15には、CNT浸出繊維材料1520が配置されたマトリックス材1510を有する複合材料構造体1500が示されている。CNT浸出繊維材料1520は、繊維が互いに略垂直に配列された、第1の層1530及び第2の層1540を形成する方法で、マトリックス材内に配置される。このような配列は、織物構造又は個別の層によって実現される。ある実施形態では、第1の層1530及び第2の層1540は、同種の繊維で作られる。他の実施形態では、第1の層1530及び第2の層1540は、異種の繊維で作られる。複合材料構造体1500では垂直層が交互に現れるが、構造体がいかなる順序でも層状可能であることを、当業者であれば認識するであろう。例えば、第1の層1530の繊維配向性を有する2以上の層が、相互に隣接して配置可能である。同様に、第2の層1540の繊維配向性を有する2以上の層が、相互に隣接して配置可能である。
【0055】
図15は、第1の層1530及び第2の層1540が、CNT浸出繊維材料1520の周囲におけるCNTsの配向性が同一の放射状であることを示しているが、当業者であれば、CNTsの配向性が変化して、繊維軸に対して平行な配向性も含むということを認識するであろう。
【0056】
さらに、当業者であれば、本明細書で提供される教示及び指針を前提として、複合材料構造体が、CNT長さ、CNT密度、CNT配列、及び複合材料構造体の少なくとも2つの部位において繊維材料の配列のいかなる組み合わせも可能であることを認識するであろう。あらゆる異なる性質も、単一の巻き取り可能な長さの繊維に設計されるか、あるいは、別々の巻き取り可能な長さの繊維から形成される。ある実施形態では、混合の繊維種も用いられる。これらは、複合材料構造体の様々な部位に目的とする機械的、電気的及び/又は熱的性質を与えて、これにより、ナノ材料強化材の精巧な制御による高度に調整された複合材料構造体となる。
【0057】
CNT浸出処理において、繊維材料は改質されて、繊維上にCNT開始触媒ナノ粒子の層(通常は単一層よりも多い)をもたらす。触媒含有繊維は、その後、CNTsをインラインで連続的に成長させるために用いられるCVDをベースとする処理にさらされる。成長したCNTsは、繊維材料に浸出する。得られたCNT浸出繊維材料は、それ自体、複合材料の構造である。
【0058】
ある実施形態において、CNT浸出処理には、工程として、1)サイジング剤が存在する場合の繊維材料からのサイジング剤の除去、2)繊維材料へのナノチューブ形成触媒の適用(applying)、3)ナノチューブ合成温度への繊維材料の加熱、及び4)触媒含有母繊維への反応性炭素の導入(directing)、が含まれる。
【0059】
適切なCNT形成触媒には、通常、遷移金属を主としたナノメートル・サイズの粒子(例えば、直径10ナノメートルなど)からなるコロイド溶液が含まれる。適切なコロイド溶液には、a)鉄ナノ粒子、b)酸化鉄、c)硝酸鉄、d)コバルト、e)酸化コバルト、f)硝酸コバルト、g)ニッケル、h)酸化ニッケル、i)銅、j)酸化銅、k)金属塩溶液、l)項目a)〜k)の金属の混合物及び合金、の溶液が含まれる。コロイド溶液は、水、又は、限定するものではないが、アセトン、ヘキサン、イソプロピルアルコール、トルエン、及びエタノールなどの溶媒から形成される。ある実施形態において、遷移金属である触媒は、フェロ流体、有機金属、金属塩、又は、気相輸送を促進する他の組成物の形式の前駆体として、プラズマ原料ガスに添加される。他の実施形態では、遷移金属触媒を、蒸着技術、電解析出技術、懸濁液ディッピング(suspension dipping)技術、及び当業者に知られた他の方法を用いて、母繊維に析出させる。触媒は、周囲環境の中、室温で適用される(真空及び不活性雰囲気のいずれも必要としない)。ある実施形態では、ナノ粒子CNT触媒は、当該技術分野で知られているように、ナノ粒子の島を形成することにより、繊維材料上の原位置に生成される。
【0060】
ある実施形態において、浸出カーボン・ナノチューブは、単層カーボン・ナノチューブである。ある実施形態では、浸出カーボン・ナノチューブは、2層カーボン・ナノチューブである。ある実施形態では、浸出カーボン・ナノチューブは、多層ナノチューブである。ある実施形態では、浸出カーボン・ナノチューブは、単層、2層及び多層ナノチューブの組み合わせである。単層、2層及び多層ナノチューブの特徴的な性質には、繊維材料の最終用途のために、ナノチューブのどれか一つの種類の合成を決定付ける相違がある。例えば、単層ナノチューブは、半導体として設計されるのに対し、多層ナノチューブは、導体である。合成されたカーボン・ナノチューブの直径は、その成長に用いられた金属ナノ粒子触媒の大きさに関係する。
【0061】
所望のCNT担持量は、母繊維上に(より大きな間隔を空けて)相対的に長いCNTsを相対的に低密度で、及び/又は、母繊維上に(互いにより近いCNTsに隣接して)相対的に短いCNTsを相対的に高密度で、成長させることにより得られる。また、CNT担持量は、長いCNTsを高密度で及び/又は短いCNTsをまばらに成長させることによっても制御される。担持量は、CNT長さ及び密度の一性質である。CNT長さ及び/又は密度による担持量の達成は、例えば、複合材料の所望の性質など、様々な要因に応じて決定される。例えば、相対的に長いCNTsを備えた繊維を有する複合材料により、良好なEMI吸収性及び太陽放射からの保護がもたらされる。所望のCNT密度は、1つには、触媒の適用(繊維上の触媒粒子の量/大きさ)に応じて達成され、CNT長さは、CNT合成反応器における成長時間の関数である。CNT直径及び種類(例えば、単層対多層)などのCNTsの他の特徴は、例えば、触媒の粒子径により制御可能である。
【0062】
カーボン・ナノチューブの合成は、CNT成長反応器内で生じる。ある実施形態において、合成処理は、炭素プラズマが触媒を含む繊維上にスプレー(spray)されるプラズマベース処理(例えば、プラズマ助長化学蒸着など)である。ある実施形態では、熱CVD処理が、カーボン・ナノチューブ合成に用いられる。
【0063】
カーボン・ナノチューブの成長は高温(触媒にもよるが、通常は約500℃から1000℃の範囲)で発生するので、触媒を含む繊維は任意に予熱される。浸出処理に関して、繊維の種類にもよるが、繊維は、それが軟化するまで加熱されてもよい。繊維を加熱するためには、限定するものではないが、例えば、赤外線ヒーター、マッフル炉など、様々な発熱素子のいずれも使用可能である。
【0064】
繊維材料の予熱後、繊維は反応性炭素原料を受ける状態になっている。ある実施形態において、これは炭素プラズマである。炭素プラズマは、例えば、炭素を含むガス(例えば、アセチレン、エチレン、エタノールなど)を、ガスのイオン化が可能な電界中に通すことにより発生する。この低温炭素プラズマは、スプレーノズルを介して、繊維に導入される。繊維は、プラズマを受けるために、例えば、スプレーノズルから約1センチメートル以内にある。ある実施形態において、加熱器は、繊維の上側のプラズマ・スプレーに配設され、繊維を高温に維持する。炭素プラズマに触媒をさらした結果、CNTsは繊維上で成長する。
【0065】
ある実施形態において、反応性炭素原料は、熱CVD処理により提供される。この場合、炭素原料及び/又はキャリアガス(例えば、アルゴン又は窒素などの不活性キャリア)は、任意に予熱され、遷移金属で媒介されるCNT成長の反応性炭素の核を生成する。この処理は本明細書でさらに後述する。
【0066】
連続製造処理に関して、CNT浸出繊維は、繊維巻き取り式スプーリング・ステーション(fiber take-up spooling station)で巻き取られる。その後、CNT浸出繊維は、限定するものではないが、複合材料の強化材としての使用など様々な用途のいずれにも使用可能な状態となる。全体の処理は、通常、自動化されコンピュータで制御される。CNTsの成長量は、一本の巻き取り可能な繊維の長さに沿って様々である。したがって、例えば、より長いCNTsが求められる場合、繊維材料は、単一のCNT成長チャンバー内において長い成長時間にさらされるか、又は、多数の直列成長チャンバーにさらされる。例えば、キャリア及び炭素原料の流量、温度、ラインスピードなどのパラメータは、全てコンピュータにより修正・制御され、繊維材料のあらゆる部位にわたって、CNTが目標とする長さを有し、いずれの密度も可能である、巻き取り可能な長さの繊維材料を生成する。前述のように、繊維上におけるCNT合成に対して行われる制御、及びCNT浸出繊維材料が最終製品においてどのように積層するかの予見により、ユーザーは、構造体全体で、及び複合材料構造体の特定の領域で、複合材料のどの性質が強化されるかを決定することが可能となる。
【0067】
複合材料の組成物及び完成した複合材料を形成するために、CNT浸出繊維は更なる工程を受ける。ある実施形態において、CNT浸出繊維は樹脂槽に送られる。樹脂槽には、CNT浸出繊維及び樹脂を含む複合材料の生成する樹脂が収容されている。例えば、汎用のポリエステル(例えば、オルソフタル酸ポリエステルなど)、改良ポリエステル(例えば、イソフタル酸ポリエステルなど)、エポキシ、及びビニルエステルなどの様々な樹脂のいずれも、この目的に用いられ得る。
【0068】
CNT浸出繊維材料を用いることにより、60重量%ものCNT担持量を有する複合材料の組成物が実証されている。樹脂槽は、例えば、ドクター・ブレード(doctor blade)のローラー槽、浸漬槽、又は当業者に知られた他のあらゆる方法など、様々な方法で実現可能である。樹脂でぬれたCNT浸出繊維は、所望により、例えば、フィラメント・ワインディング(winding)処理などにより更に処理される。当然のことながら、複合材料の組成物は、例えば、CNT浸出繊維から形成されたトウ、CNT浸出繊維から形成されたロービング、CNT浸出繊維から形成された織物など、CNT浸出繊維材料を含んでいる。
【0069】
CNT浸出繊維材料は、繊維表面における特定の種類のCNTsで調整されて、これにより様々な性質を得る。例えば、電気的性質は、様々な種類、直径、長さ及び密度のCNTsを繊維上に適用することにより改良可能である。固有のCNTからCNTへ架橋させることができる長さのCNTsを用いて、複合材料の伝導性を向上させるパーコレーション経路を形成する。繊維の間隔は、通常、一繊維の直径に等しいか、それよりも大きく、約5〜約50ミクロンであるので、CNTsは、効果的な電気経路を得るため、少なくともこの長さである。ある実施形態において、電気経路に必要とされるCNTs量は、パーコレーション限界のために約0.1%よりも多いあらゆる量の担持量により制御される。短いCNTsは構造的性質の向上に用いられる。
【0070】
ある実施形態において、CNT浸出繊維材料は、同一の繊維材料の異なる部位に様々な長さのCNTsを含む。このような多機能のCNT浸出繊維は、調整された複合材料強化材として用いられた場合、それらが組み込まれる複合材料の1以上の性質を向上させる。
【0071】
ある実施形態において、第1の量のカーボン・ナノチューブは繊維材料に浸出する。この量は、カーボン・ナノチューブ浸出繊維材料の引張強度、ヤング率、せん断強度、せん断弾性係数、硬度(toughness)、圧縮強度、密度、EM吸収率・反射率、音響透過率、電気伝導度、及び熱伝導度からなる群より選択される少なくとも1つの値が、繊維材料自体が有する同一の性質の値と異なるように選択される。得られたCNT浸出繊維材料のこれらの性質は、最終的な複合材料に付与される。
【0072】
引張強度には、3つの異なる測定値、すなわち、1)材料のひずみが弾性変形から塑性変形(その結果、材料の不可逆的な変形が生じる)に変化する応力を評価する降伏強度、2)引張荷重、圧縮荷重又はせん断荷重を受けたとき、材料が耐え得る最大応力を評価する終局強度、及び3)破断点における応力−ひずみ線図上での応力の座標を評価する破壊強度、が含まれる。複合材料のせん断強度は、繊維方向に対して垂直に荷重がかけられた場合に材料が破壊する応力を評価する。圧縮強度は、圧縮荷重がかけられた場合に材料が破壊する応力を評価する。
【0073】
多層カーボン・ナノチューブは、特に、63GPaの引張強度を達成しており、今までに測定された材料の中で最も高い引張強度を有する。さらに、理論計算によれば、CNTsには約300GPaの引張強度も可能であることが示されている。したがって、CNT浸出繊維材料は、母繊維材料と比較して大幅に上回る終局強度を有することが見込まれる。前述のように、引張強度の向上は、用いられるCNTsの正確な性質に加え、繊維材料におけるCNTsの密度及び分布によって決まる。CNT浸出繊維材料では、例えば、引張特性において2〜3倍増加することが示されている。例示的なCNT浸出繊維材料は、機能化されていない母繊維材料の3倍のせん断強度と、2.5倍の圧縮強度を有する。強化繊維材料のこのような強度増加は、CNT浸出繊維が組み込まれた複合材料の強度増加となる。
【0074】
ヤング率は等方性弾性材料の剛性の1つの尺度である。それは、フックの法則が有効な応力範囲において、1軸ひずみに対する1軸応力の比率として定義される。これは、経験的に、材料サンプルについて行われる引張試験中に形成される応力−ひずみ線図の傾きから決定される。
【0075】
電気伝導度又は特定の伝導性は、電流を伝導する材料の性能についての1つの尺度である。CNTのキラリティに関連している、例えば、撚度(degree of twist)などの特定の構造的なパラメータを有するCNTsは、伝導性が高く、したがって金属特性を示す。CNTのキラリティに関して、広く認められている命名方式(M.S.Dresselhaus, et al.Science of Fullerences and Carbon Nanotubes, Academic Press, San Diego, CA pp.750-760, (1996))が、当業者により形式化され承認されている。このように、例えば、CNTsは、2つのインデックス(n,m)で相互に識別される(ここで、nとmは、六方晶のグラファイトが円筒の表面上で巻かれて端部同士を接合した場合にチューブとなるように、六方晶のグラファイトの切断及び巻き方を表す整数である)。2つのインデックスが同じである場合(m=n)、得られるチューブは、「アームチェア」(又はn−n)型であるといわれているが、これは、チューブがCNT軸に対して垂直に切断されたときに、六角形の辺のみが露出し、そのチューブ端部の周辺に沿ったパターンが、n回繰り返されるアームチェアのアームと座部に似ているからである。アームチェアCNTs、特にSWNTsは、金属的であり、非常に高い電気的及び熱的伝導性を有している。さらに、このようなSWNTsは非常に高い引張強度を有している。
【0076】
撚度に加えて、CNTの直径もまた電気的伝導性に影響を与える。前述のように、CNTの直径は、サイズ制御されたCNT形成触媒ナノ粒子の使用により制御可能である。また、CNTsは、半導体材料としても形成される。多層CNTs(MWNTs)における伝導性はより複雑である。MWNTs内の層間反応は、個々のチューブ一面に、電流を不均一に再分布させる。対照的に、金属的な単層ナノチューブ(SWNTs)の様々な部位においては電流に変化はない。また、カーボン・ナノチューブは、ダイヤモンド結晶及び面内の(in-plane)グラファイトシートと比較して、非常に高い熱伝導性を有する。
【0077】
本開示は、1つには、複合材料構造体に組み込まれたカーボン・ナノチューブ(「CNT浸出」)繊維材料に対してなされるものである。繊維材料に対するCNTsの浸出は、例えば、水分(moisture)、酸化、磨耗及び圧縮によるダメージから保護するサイジング剤としてなど、多くの機能を果たす。また、CNTベースのサイジング剤は、複合材料における繊維材料とマトリックス材間の接点(interface)としても機能する。また、CNTsは、繊維材料をコーティング(coating)するいくつかのサイジング剤の1つとしても機能する。
【0078】
さらに、繊維材料に浸出したCNTsは、例えば、熱的及び/又は電気的伝導性、及び/又は引張強度など、繊維材料の様々な性質を変化させる。CNT浸出繊維材料を構成するために用いられる処理は、略均一な長さ及び分布のCNTsをもたらし、これにより改質される繊維材料にわたって均一に有用な性質が与えられる。また、本明細書に開示された処理は、巻き取り可能な寸法のCNT浸出繊維材料の生成に適している。
【0079】
また、本開示は、1つには、CNT浸出繊維材料を構成するための処理に対してもなされる。本明細書に開示された処理は、繊維材料に対して標準的なサイジング溶液を適用する前に、又はその代わりに、新たに生成される発生期の繊維材料に適用される。あるいは、本明細書に開示された処理は、工業用の繊維材料、例えば、既に表面にサイジング剤が適用された炭素トウ又はガラス・トウを利用することができる。このような実施形態においては、以下で更に説明されるように、バリア・コーティング及び/又は遷移金属粒子は、間接的な浸出をもたらす中間層として機能するが、サイジング剤は、炭素繊維又はガラス繊維材料と合成されたCNTsとを直接接触させるために除去される。追加のサイジング剤は、CNTの合成後、所望により繊維材料に適用される。
【0080】
本明細書に開示された処理により、トウ、テープ、織物及び他の3次元織物構造体の巻き取り可能な長さに沿って、長さ及び分布が均一なカーボン・ナノチューブの連続的な生成が可能となる。様々なマット、織物及び不織布などは、本願発明の処理により機能化されるが、これに加え元となるトウ、ヤーンなどからも高規則構造を生み出すことも、これら母材をCNTで機能化した後で可能である。例えば、CNTが浸出したガラス織布は、CNT浸出ガラス繊維トウから作り出すことができる。
【0081】
ある実施形態において、本願発明は、カーボン・ナノチューブ(CNT)が浸出した繊維材料を含む組成物を提供する。CNT浸出繊維材料には、巻き取り可能な寸法の繊維材料、繊維材料の周囲に等角的に配置された任意のバリア・コーティング、及び繊維材料に浸出するカーボン・ナノチューブ(CNTs)が含まれる。繊維材料へのCNTsの浸出には、繊維材料に対する個々のCNTsの直接結合、又は、遷移金属NP、任意のバリア・コーティング、若しくはその両方による間接結合の結合モチーフが含まれる。ある実施形態では、バリア・コーティングは不要である。用いられる繊維の種類は、バリア・コーティングが用いられるかどうかで決定する。例えば、炭素繊維、金属繊維及び有機繊維には、更に後述されるように、触媒−触媒間及び/又は触媒−基材間の相互作用を回避するため、バリア・コーティングが採用される。他の種類の繊維にとっても、バリア・コーティングの存在は有益であるが、その使用は任意である。
【0082】
理論に拘束されるものではないが、CNT形成触媒として機能する遷移金属NPsは、CNT成長の核構造を形成することにより、CNT成長に触媒作用を及ぼす。一つの実施形態において、CNT形成触媒は、バリア・コーティング(使用時)に固定されて、繊維材料の基部に留まって、繊維材料の表面に浸出する。このような場合、当該技術分野でよく観察されるように、遷移金属ナノ粒子触媒により当初形成された核構造は、触媒をCNT成長の前縁(leading edge)に沿って移動させなくても、触媒によらない連続的なCNTの核成長には十分である。このような場合、NPsは、繊維材料にCNTを付加するポイントとして機能する。また、バリア・コーティングの存在により、更なる間接的な結合モチーフとなる。例えば、CNT形成触媒はバリア・コーティング内に固定されるが、繊維材料とは表面で接触しない。このような場合、バリア・コーティングがCNT形成触媒と繊維材料間に配置されて積層構造となる。いずれにしても、形成されるCNTsは、繊維材料に浸出する。ある実施形態において、バリア・コーティングの中には、CNT形成触媒が、成長するナノチューブの前縁に従っていくことをなおも可能とするものもあるであろう。このような場合には、その結果として、繊維材料、又は、任意的に、バリア・コーティングに対するCNTsの直接結合となる。カーボン・ナノチューブと繊維材料間に形成される実際の結合の種類にかかわらず、浸出したCNTは強固であり、これによりCNT浸出繊維材料がカーボン・ナノチューブの性質及び/又は特徴を示すことが可能となる。
【0083】
かさねて理論に拘束されるものではないが、CNTsが繊維材料上に成長するとき、反応チャンバー内に存在する高温及び/又は残留酸素及び/又は水分は、特定の繊維材料にダメージを与える。さらに、繊維材料自体は、CNT形成触媒自体との反応によりダメージを受ける。例えば、炭素ベースの繊維材料は、CNT合成のために用いられる反応温度で触媒に対する炭素原料として作用する。このような過量の炭素は、炭素原料ガスの管理導入を阻害するとともに、炭素を過度に担持させることにより触媒を被毒化する働きさえする。本願発明で用いられるバリア・コーティングは、このような炭素に富む繊維材料上のCNT合成を容易にするために設けられる。理論に拘束されるものではないが、コーティングは、熱分解に対する遮熱層を提供したり、繊維材料を高温環境にさらすことを抑制する物理的障壁となる。選択的に、又は追加的に、コーティングは、CNT形成触媒と繊維材料間の接触表面積を最小化したり、CNT成長温度で繊維材料をCNT形成触媒にさらすことを抑制する。
【0084】
CNT浸出繊維材料を有する組成物はCNTsが略均一な長さで提供される。本明細書に記載された連続処理の場合、CNT成長チャンバーにおける繊維材料の残留時間は調節されて、CNTの成長、及び最終的にはCNTの長さを制御する。これにより、成長するCNTsの特定の性質を制御する手段が提供される。また、CNTの長さは、炭素原料ガス及びキャリアガスの流量並びに反応温度の調節を介しても制御される。CNTの性質は、例えば、CNTsを作るために用いられる触媒のサイズを制御することにより、更なる制御が可能となる。例えば、1nmの遷移金属ナノ粒子触媒は、特にSWNTsを提供するために用いられる。より大きな触媒は、主にMWNTsを作るために用いられる。
【0085】
さらに、用いられるCNT成長処理は、前もって形成されたCNTsを溶媒溶液中に懸濁又は拡散して繊維材料に手作業で塗布する処理において発生し得るCNTsの束化及び/又は凝集を回避しつつ、繊維材料に均一に分布したCNT浸出繊維材料を提供する上で有用である。このように凝集したCNTsは、繊維材料に弱く結合する傾向にあり、CNT特有の性質は、仮に結合したとしても、かすかにしか現れない。ある実施形態において、被覆率、すなわち被覆される繊維の表面積の百分率として表される最大分布密度は、直径約8nmの5層CNTsを想定すると、約55%もの高率となる。この被覆率は、CNTsの内部空間を「充填可能な(fillable)」空間とみなして算出される。分布/密度の値は、表面における触媒の拡散を変化させるとともにガス組成及び処理速度を制御することにより、様々な値とすることができる。一定のパラメータに関しては、概して、全繊維表面で約10%以内の被覆率が達成される。密度が高くなりCNTsが短くなると、機械的性質の向上にとって有用となるのに対し、密度の増大が好ましいことに変わりはないが、密度が低くなりCNTsが長くなると、熱的性質及び電気的性質の向上にとって有用となる。密度が低くなるのは、より長いCNTsが成長したときであるが、これは、触媒の粒子収量を低下させる高温かつ急速な成長によるものである。
【0086】
CNT浸出繊維材料を有する本願発明の組成物には、例えば、フィラメント、繊維ヤーン、繊維トウ、テープ、繊維ブレード(fiber braid)、織物、不織繊維マット、繊維プライ(fiber ply)、及び他の3次元織物構造体が含まれる。フィラメントには、約1ミクロンから約100ミクロンまでの直径を有する高アスペクト比の繊維が含まれる。繊維トウは、一般的にフィラメントを密に結合した束であり、通常は撚り合わされてヤーンとなる。
【0087】
ヤーンには、撚り合わされたフィラメントを密に結合した束が含まれる。ヤーンにおける各フィラメントの直径は、比較的均一である。ヤーンは、1000リニアメーターのグラム重量として示される「テックス(tex)」、又は10,000ヤードのポンド重量として示されるデニール(denier)により、通常は、約200テックスから約2000テックスまでの標準的なテックス範囲で表される様々な重量を有する。
【0088】
トウには、撚り合わされていないフィラメントを緩く結合した束が含まれる。ヤーンと同様に、トウにおけるフィラメントの直径は、概して均一である。また、トウも様々な重量を有し、テックス範囲は、通常、200テックスから2000テックスの間となる。それらは、しばしば、例えば、12Kトウ、24Kトウ、48Kトウなどのトウ内にある数千のフィラメントで特徴付けられる。
【0089】
テープは、織物組織として組まれるか、又は、不織の扁平なトウを示す材料である。テープは、様々な幅をもち、通常リボンに類似する両面構造である。本願発明の処理では、テープの一面又は両面におけるCNTの浸出が両立可能である。CNT浸出テープは、平らな基材表面上の「カーペット(carpet)」あるいは「樹木林(forest)」に似ている。さらに、本願発明の処理は、テープの巻き取りを機能させるために、連続的なモードで実施できる。
【0090】
繊維ブレードは、繊維が高密度に詰め込まれたロープ状構造を示す。このような構造は、例えば、ヤーンから組まれる。編み上げ構造は中空部分を含んでもよく、あるいは、別のコア材料の周囲に組まれてもよい。
【0091】
ある実施形態において、多数の一次繊維材料の構造体は、織物又はシート状構造体に組織化される。これらには、前述のテープに加えて、例えば、織物、不織繊維マット及び繊維プライが含まれる。このような高い規則構造は、元となるトウ、ヤーン、フィラメントなどから、その母繊維にCNTsを既に浸出させて組まれる。あるいは、このような構造体は、本明細書に記載されたCNT浸出処理のための基材として機能する。
【0092】
炭素繊維には、繊維の発生に用いられる前駆体(そのいずれもが本願発明に使用可能)、すなわち、レーヨン、ポリアクリロニトリル(PAN)及びピッチ(pitch)に基づいて3種類に分類される。セルロース系材料であるレーヨン前駆体から作られる炭素繊維は、炭素含有量が比較的低い約20%であり、繊維が低強度かつ低剛性の傾向にある。ポリアクリロニトリル(PAN)前駆体は、約55%の炭素含有量をもつ炭素繊維を提供する。PAN前駆体に基づく炭素繊維は、表面欠陥が最小であるため、他の炭素繊維前駆体に基づく炭素繊維よりも概して高い引張強度を有する。
【0093】
石油アスファルト、コールタール及びポリ塩化ビニルに基づくピッチ前駆体もまた、炭素繊維を生成するために用いられる。ピッチは、比較的低コストで炭素収率が高いが、既知のバッチ処理における不均一性という問題がある。
【0094】
ガラス繊維材料に用いられるガラスの種類は、例えば、Eガラス、Aガラス、E−CRガラス、Cガラス、Dガラス、Rガラス、及びSガラスなどの、いかなる種類であってもよい。Eガラスは、1重量%未満のアルカリ酸化物を有するアルミノホウケイ酸塩ガラスを含有し、主としてガラス強化プラスチックに用いられる。Aガラスは、酸化ボロンが殆どないか、又は皆無の、アルカリ石灰ガラスを含有する。E−CRガラスは、1重量%未満のアルカリ酸化物を有する石灰アルミノケイ酸塩(alumino-lime silicate)を含有し、高い耐酸性を有する。Cガラスは、高含有量の酸化ボロンを有するアルカリ石灰ガラスを含有し、例えば、ガラス・ステープル・ファイバー(glass staple fiber)に用いられる。Dガラスは、ホウケイ酸塩ガラスを含有し、高い絶縁定数を有する。Rガラスは、MgO及びCaoを含まないアルミノケイ酸塩ガラスを含有し、高い機械的強度を有する。Sガラスは、Caoは含まないがMgOの含有量が高いアルミノケイ酸塩ガラスを含有し、高い引張強度を有する。これら1以上の種類のガラスが処理されて前述のガラス繊維材料になる。特定の実施形態において、ガラスはEガラスである。他の実施形態において、ガラスはSガラスである。
【0095】
セラミック繊維材料に用いられるセラミックの種類は、いかなる種類のものであってもよく、例えば、酸化物(アルミナ及びジルコニアなど)、炭化物(炭化ホウ素、炭化ケイ素及び炭化タングステンなど)、並びに、窒化物(窒化ホウ素及び窒化ケイ素など)などがある。他の繊維材料には、例えば、ホウ化物及びケイ化物が含まれる。セラミック繊維材料は他の繊維種を備えた複合材料として発生する。例えば、ガラス繊維を組み込む織物状のセラミック繊維材料が一般的である。
【0096】
金属繊維材料には、例えば、dブロック金属、ランタノイド、アクチノイド、主族金属(main group metal)など、ゼロ価の酸化状態におけるあらゆる金属が含まれる。また、これらの金属のいずれも、例えば、金属酸化物、金属窒化物など、ゼロ価ではない酸化状態でも用いられる。例示的なdブロック金属には、例えば、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金及び金などが含まれる。例示的な主族金属には、例えば、アルミニウム、ガリウム、インジウム、錫、タリウム、鉛及びビスマスが含まれる。例示的な金属には、例えば、本願発明に有用な塩が含まれる。
【0097】
アラミド繊維材料は、ナイロン(登録商標)族に属し、デュポン社により製造される周知の製品KEVLAR(登録商標)により例示される芳香族ポリアミド構造体である。アラミド繊維材料には、例えば、KEVLAR(登録商標)、TECHNORA(登録商標)、TWARON(登録商標)などの市販製品を含む、パラ系アラミドが含まれる。本願発明に有用な他のアラミド繊維には、例えば、市販のNOMEX(登録商標)、TEIJINCONEX(登録商標)、KERMEL(登録商標)、X−FIPER及びCONEX/NEW STARなどのメタ系アラミドが含まれる。別の有用なアラミドは、SULFRON(登録商標)である。また、本願発明に有用なアラミドは、混合物として形成されてもよく、例えば、NOMEX(登録商標)とKEVLAR(登録商標)の混合物は、耐火服の生産に用いられる。
【0098】
CNTsは、例えば、機械的強度、低〜中程度の電気抵抗率、高熱伝導性などの特有の性質を、CNT浸出繊維材料に与える。例えば、ある実施形態では、カーボン・ナノチューブ浸出炭素繊維材料の電気抵抗率は、母材の炭素繊維材料の電気抵抗率よりも低い。より一般的に言えば、得られたCNT浸出繊維がこれらの特徴を示す程度は、カーボン・ナノチューブによる繊維被覆の範囲及び密度の関数となる。直径8nmの5層MWNTを想定すると、0〜55%の繊維のあらゆる繊維表面積が被覆される(この場合も、この計算はCNTsの内部空間を充填可能とみなしている)。この数字は、CNTsの直径が小さくなると低くなり、CNTsの直径が大きくなると高くなる。55%の表面積被覆率は、1μm2当たり約15,000のCNTsに相当する。さらに、CNTの性質は、前述のように、CNTの長さに依存する形で繊維材料に付与される。浸出したCNTsの長さは、約1ミクロンから約500ミクロンの範囲(1ミクロン、2ミクロン、3ミクロン、4ミクロン、5ミクロン、6ミクロン、7ミクロン、8ミクロン、9ミクロン、10ミクロン、15ミクロン、20ミクロン、25ミクロン、30ミクロン、35ミクロン、40ミクロン、45ミクロン、50ミクロン、60ミクロン、70ミクロン、80ミクロン、90ミクロン、100ミクロン、150ミクロン、200ミクロン、250ミクロン、300ミクロン、350ミクロン、400ミクロン、450ミクロン、500ミクロン、及びこれらの中間の全ての値など)において様々である。また、CNTsは、例えば、約0.5ミクロンなど、長さを約1ミクロン未満にすることもできる。また、CNTsは、例えば、510ミクロン、520ミクロン、550ミクロン、600ミクロン、700ミクロン及びこれらの中間の全ての値など、500ミクロンよりも長くすることもできる。
【0099】
本願発明の組成物は、約1ミクロンから約10ミクロンまでの長さを有するCNTsを組み込むことができる。このようなCNTの長さはせん断強度を向上する用途に有用である。CNTsは、約5ミクロンから約70ミクロンの長さを有してもよい。このようなCNT長さは、CNTsが繊維芳方向に配列されている場合には、引張強度を向上する用途に有用である。CNTsは、約10ミクロンから約100ミクロンの長さを有してもよい。このようなCNTの長さは電気的/熱的性質に加え機械的性質を向上するのに有用である。また、本願発明に用いられる処理は、約100ミクロンから約500ミクロンの長さを有するCNTsを提供できるが、電気的及び熱的性質の向上にも有益である。このようなCNT長さの制御は、様々なラインスピード及び成長温度と相まって、炭素原料ガス及び不活性ガスの流量を変化させることで容易に達成される。
【0100】
ある実施形態において、巻き取り可能な長さのCNT浸出繊維材料を含有する組成物には、CNTsの長さが異なる様々な均一領域がある。例えば、せん断強度特性を高めるためには、CNT浸出炭素繊維材料のうちの均一に短いCNT長を備えた第1の領域を、そして、電気的又は熱的性質を高めるために、同一の巻き取り可能な材料のうちの均一に長いCNT長を備えた第2の領域を有することが好ましい。
【0101】
繊維材料にCNTを浸出させるための本願発明の処理により、CNTの長さを均一に、かつ、連続処理で制御することが可能となり、これによって、巻き取り可能な炭素繊維材料は、CNTsを用いて高速の機能化が可能なる。CNT成長チャンバーにおける5秒から300秒の材料滞留時間で、長さ3フィートのシステムの連続処理におけるラインスピードを、毎分約0.5フィートから毎分約36フィート以上のあらゆる範囲とすることが可能である。選択されるラインスピードは、以下でさらに説明されるように、様々なパラメータによる。
【0102】
ある実施形態において、約5秒から約30秒の材料残留時間により、約1ミクロンから約10ミクロンの長さを有するCNTsが生成される。また、ある実施形態では、約30秒から約180秒の材料残留時間により、約10ミクロンから約100ミクロンの長さを有するCNTsが生成される。また更なる実施形態では、約180秒から約300秒の材料残留時間により、約100ミクロンから約500ミクロンの長さを有するCNTsが製造される。当業者であれば、これらの範囲がおおよそのものであり、また、CNTの長さが、反応温度、並びに、キャリア及び炭素原料の濃度及び流量により調節可能であることを認識できるであろう。
【0103】
本願発明のCNT浸出繊維材料には、任意にバリア・コーティングが含まれる。バリア・コーティングには、例えば、アルコキシシラン、メチルシロキサン、アルモキサン、アルミナナノ粒子、スピンオンガラス(spin on glass)、ガラスナノ粒子が含まれる。後述されるように、CNT形成触媒は、未硬化のバリア・コーティング材に加えられて、その後、共に繊維材料に適用される。他の実施形態において、バリア・コーティング材は、CNT形成触媒の配置前に繊維材料に加えられる。バリア・コーティング材は、この後のCVD成長での炭素原料にCNT形成触媒をさらすのに十分な薄さである。ある実施形態では、その厚さは、CNT形成触媒の有効径未満か、それとほぼ等しい。ある実施形態では、バリア・コーティングの厚さは、約10nmから約100nmの範囲である。また、バリア・コーティングは、10nm未満であり、1nm、2nm、3nm、4nm、5nm、6nm、7nm、8nm、9nm、10nm及びこれらの中間の値などが含まれる。
【0104】
理論に拘束されるものではないが、バリア・コーティングは、繊維材料とCNTsの中間層として機能し、CNTsを繊維材料に機械的に浸出させる働きをする。このような機械的な浸出は、繊維材料にCNTsの性質をなお付与しつつ、繊維材料がCNTsを組織化するための基盤として機能する強固な機構をさらに提供する。また、バリア・コーティングを含むことの利点は、水分にさらされることからくる化学的ダメージ、及び/又は、CNT成長を促進するために用いられる温度で繊維材料を加熱することからくるあらゆる熱的ダメージから、繊維材料を直接保護するという点にある。
【0105】
本明細書に開示された浸出CNTsは従来繊維の「サイジング剤(sizing)」の代替品として効果的に機能する。浸出CNTsは、従来のサイジング剤よりも一層強固であり、複合材料中の繊維−マトリックス間界面を改善し、より一般的には、繊維−繊維間界面を改善することができる。実際には、CNT浸出繊維材料の性質が、繊維材料の性質に加えて浸出CNTsの性質を組み合わせたものであるという点で、本明細書に開示されたCNT浸出繊維材料は、それ自体が複合材料である。したがって、本願発明の実施形態は、繊維材料に所望の性質を与える手段を提供するが、その手段によらなければ、繊維材料には、このような性質が欠如するか、又は不十分である。繊維材料は、特定用途の必要性を満たすために調整又は設計される。サイジング剤として作用するCNTsは、疎水性のCNT構造により水分の吸収から繊維材料を保護する。また、疎水性のマトリックス材は、以下でさらに例示されるように、疎水性のCNTsと良好に相互作用して繊維−マトリックス間の相互作用を向上させる。
【0106】
前述の浸出CNTsを有する繊維材料が有益な性質を付与されるにもかかわらず、本願発明の組成物は「従来の」サイジング剤を更に含むことができる。このようなサイジング剤には、多様な種類及び機能があり、例えば、界面活性剤、静電気防止剤、潤滑剤、シロキサン、アルコキシシラン、アミノシラン、シラン、シラノール、ポリビニルアルコール、でんぷん、及びこれらの組み合わせが含まれる。このようなサイジング剤は、CNTs自体を保護するために、又は浸出CNTsの存在により繊維へ付与することができない更なる性質を提供するために、補助的に用いることができる。
【0107】
本願発明の組成物には、CNT浸出繊維材料で複合材料を形成するためのマトリックス材が更に含まれる。このようなマトリックス材には、例えば、エポキシ、ポリエステル、ビニルエステル、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンケトン、ポリフタルアミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、フェノールホルムアルデヒド、及びビスマレイミドが含まれる。本願発明に有用なマトリックス材には、既知のマトリックス材のいかなるものも含まれる(Mel M.Schwartz, Composite Materials Handbook (2d ed. 1992)参照)。さらに一般的には、マトリックス材には、樹脂(ポリマー)、熱硬化性及び熱可塑性の両プラスチック、金属、セラミック、並びにセメントが含まれる。
【0108】
マトリックス材として有用な熱硬化性樹脂には、フタル酸/マレイン酸型のポリエステル、ビニルエステル、エポキシ、フェノール類、シアン酸塩、ビスマレイミド、及びナディック・エンド・キャップド・ポリイミド(nadic end-capped polyimides)(例えば、PMR−15)が含まれる。熱可塑性樹脂には、ポリスルホン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレン酸化物、ポリ硫化物、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアリレート、及び液晶ポリエステルが含まれる。
【0109】
マトリックス材として有用な金属には、例えば、アルミニウム6061、アルミニウム2024、及び713アルミニウム・ブレーズ(aluminium braze)などのアルミニウム合金が含まれる。マトリックス材として有用なセラミックには、炭素セラミック(例えば、リチウムアルミノケイ酸塩など)、酸化物(例えば、アルミナやムライトなど)、窒化物(例えば、窒化ケイ素など)、及び炭化物(例えば、炭化ケイ素)が含まれる。マトリックス材として有用なセメントには、炭化物ベースのセメント(炭化タングステン、炭化クロム及び炭化チタン)、耐火セメント(タングステントリア(tungsten-thoria)及び炭酸バリウム−ニッケル(barium-carbonate-nickel))、クロム−アルミニナ、ニッケル−マグネシア、及び鉄−炭化ジルコニウムが含まれる。前述のマトリックス材のいかなるものも、単独で、又は組み合わせて用いることができる。
【0110】
図1〜6は、本明細書に記載された処理により作られた炭素繊維材料のTEM及びSEM画像を示す。これらの材料を作るための手順は、以下及び実施例I〜IIIにおいて詳述される。図1及び図2は、夫々、連続処理においてAS4炭素繊維上に作られた多層カーボン・ナノチューブ及び2層カーボン・ナノチューブのTEM画像を示す。図3は、CNT形成ナノ粒子触媒が機械的に炭素繊維材料の表面に浸出した後に、バリア・コーティング内部から成長するCNTsの走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。図4は、炭素繊維材料上で目標長さ約40ミクロンの20%以内まで成長したCNTsの長さ分布の一貫性を明示するSEM画像を示す。図5は、CNT成長におけるバリア・コーティングの効果を明示するSEM画像を示す。バリア・コーティングが適用される部位では、高密度かつ良好な配列のCNTsが成長し、バリア・コーティングがない部位には成長しなかった。図6は、炭素繊維の全域で約10%以内のCNT密度の均一性を明示する炭素繊維上のCNTsの低倍率SEM画像を示す。
【0111】
CNT浸出繊維材料は航空宇宙及び弾道学上の用途において構造要素を強化する。構造体(例えば、ミサイルのノーズコーン、翼端)、主要構造部品(例えば、フラップ及びエアロフォイル(aerofoil)、プロペラ及びエアブレーキ、小型飛行機の胴体、ヘリコプターのシェル(shell)及びローターブレード)、航空機の補助的な構造部品(例えば、フロア、ドア、シート、空調装置)、並びに、補助タンク及び航空機のモーター部品にとって、CNT浸出繊維によりもたらされる構造の強化は有益である。その他の多くの用途においても構造強化がなされるが、これには、例えば、掃海艇の船体、ヘルメット、レードーム(radome)、ロケット・ノズル、担架、及びエンジン構成部品が含まれる。建造物及び建築物において、屋外機能の構造的な強化には、柱、ペディメント(pediments)、ドーム、コーニス(cornices)、及び型枠が含まれる。同様に、建造物の内部構造において、例えば、ブラインド、衛生陶器、窓枠などにとっても、全てCNT浸出炭素繊維材料の使用は有益である。
【0112】
海洋産業において、強化される構造には、ボートの船体、ストリンガー(stringer)及び甲板が含まれる。また、CNT浸出繊維材料は、大規模運輸業において、例えば、トレーラー壁面の大型パネル、鉄道車両の床板、トラックの運転室、車体外部鋳造品(exterior body molding)、バスの車体、及び貨物コンテナにも用いられる。自動車用途において、CNT浸出炭素繊維材料は、トリミング(trimming)、シート、及び計器盤などの内部部品に用いられる。車体パネル、開口部、車体底面部、並びに、フロント及びリアモジュールなどの外部構造全てにとって、CNT浸出繊維材料の使用は有益である。アクスル及びサスペンション、燃料及び排気システム、並びに、電気及び電子部品などの自動車のエンジンルーム及び燃料機械エリアの部品でさえ、全て、CNT浸出繊維材料を利用できる。
【0113】
CNT浸出繊維材料の他の用途には、橋梁構造物、強化コンクリート製品(例えば、ダウエルバー、鉄筋、ポストテンション(post-tensioning)及びプレストレス(pre-stressing)テンドン、定置の骨組み(stay-in-place framework))、電力送電及び配電構造物(例えば、電柱、送電塔及び腕金)、幹線道路の安全装置及び沿道機能(例えば、標識支柱、ガードレール、標柱及び支柱、遮音塀)、並びに、地方自治体における導管や貯蔵タンクなどが含まれる。
【0114】
また、CNT浸出繊維材料は、様々なレジャー用具、例えば、水上及び雪上スキー、カヤック、カヌー及びパドル、スノーボード、ゴルフクラブのシャフト、ゴルフ用手押しカート、釣竿、並びにスイミングプールにも用いられる。他の消費財及び事務機器には、歯車、鍋、住宅、ガス耐圧瓶、家庭用電化製品(例えば、洗濯機、皿洗い機ドラム、ドライヤー、ごみ処理機、空調装置、及び加湿器)の構成要素が含まれる。
【0115】
また、CNT浸出繊維の電気的性質は様々なエネルギー及び電気的用途に影響を与える。例えば、CNT浸出繊維材料は、風力タービンブレード、太陽光利用システム、電子回路の筐体(例えば、ノート型パソコン、携帯電話、コンピューター・キャビネットなどであり、このようなCNT浸出材料は、例えば、EMI遮蔽に利用される)に用いられる。他の用途には、電力線、冷却機、照明用ポール、回路基板、配電盤、ラダーレール(ladder rail)、光ファイバー、建造物に組み込まれた機能(例えば、データ回線、コンピュータ端子箱など)、事務機器(例えば、コピー機、キャッシュレジスター、郵便機器など)が含まれる。
【0116】
ある実施形態において、本願発明はCNT浸出の連続処理を提供するが、この処理には、(a)巻き取り可能な寸法の繊維材料の表面にカーボン・ナノチューブを形成する触媒を配置すること、及び(b)炭素繊維材料上にカーボン・ナノチューブを直接合成して、これにより、カーボン・ナノチューブが浸出した炭素繊維材料を形成すること、が含まれる。長さ9フィートのシステムのために、処理のラインスピードは毎分約1.5フィートから毎分約108フィートの範囲となる。本明細書に記載された処理により達成されるラインスピードは、商業的に適量のCNT浸出繊維材料を短い製造時間で形成可能にする。例えば、毎分36フィートのラインスピードでは、独立した5つのトウ(1トウ当たり20ポンド)を同時に処理するように設計されたシステムにおいて、CNT浸出繊維(繊維上に5重量%超のCNTsが浸出する)の量は、1日の製造量は100ポンド以上に及ぶ。このシステムは、成長ゾーンを繰り返すことにより、一度に、又はより高速に大量のトウを製造するように構成されている。また、CNTsの製造工程には、当該技術分野で知られているように、連続運転モードを阻む極低速なものがある。例えば、当該技術分野で知られている標準的な処理において、CNT形成触媒の低減工程を実施するのに1〜12時間かかる。また、CNT成長自体も時間を浪費しており、例えば、CNT成長に10分を必要とし、本願発明において実現される高速のラインスピードを不可能にしている。本明細書に記載された処理は、このような速度を制限する工程を克服する。
【0117】
本願発明のCNT浸出繊維材料の形成処理は、前もって形成されたカーボン・ナノチューブの懸濁液を繊維材料に適用しようとする場合に生じるCNTの絡み合いを回避できる。すなわち、前もって形成されたCNTsは繊維材料に結合しないため、CNTsは束になって絡みやすくなる。その結果、繊維材料に弱く付着するCNTsが不均一に分布する。しかし、本願発明の処理は、必要に応じて、成長密度を低減することにより、繊維材料の表面で高均一に絡み合ったCNTマットを提供できる。低密度で成長したCNTsは、最初に繊維材料に浸出する。このような実施形態において、繊維は、垂直配列を生じさせるほどには高密度に成長しない。その結果、繊維材料表面で絡み合ったマットとなる。これとは対照的に、前もって形成されたCNTsを手作業で塗布する場合、繊維材料上のCNTマットの分布及び密度を確実に均一にすることはできない。
【0118】
図7は、本願発明の具体例に従って例示的なCNT浸出炭素繊維材料を生成する処理700のフローチャートを示す。この例では炭素繊維材料を使用するが、当業者であれば、微修正により、ガラス繊維、セラミック繊維、金属繊維又は有機繊維など他のいかなる種類の繊維も使用可能であることを認識するであろう。また、繊維生成、触媒配置、バリア・コーティング、CNT成長条件などに関する後述の様々な実施形態は、全て、特定の繊維種に適合させるために容易に変更できる。
【0119】
処理700には、少なくとも以下の工程が含まれる。
【0120】
工程701:炭素繊維材料の機能化。
【0121】
工程702:機能化された炭素繊維材料へのバリア・コーティング及びCNT形成触媒の適用。
【0122】
工程704:カーボン・ナノチューブの合成に十分な温度に達するまでの炭素繊維材料の加熱。
【0123】
工程706:触媒を含んだ炭素繊維におけるCVDを介したCNT成長の促進。
【0124】
工程701において、炭素繊維材料は機能化され、繊維の表面湿潤を促進するとともに、バリア・コーティングの付着を向上させる。
【0125】
炭素繊維材料にカーボン・ナノチューブを浸出させるために、カーボン・ナノチューブは、バリア・コーティングで等角的にコーティングされた炭素繊維材料に合成される。一つの実施形態において、これは、工程702のように、まず炭素繊維材料をバリア・コーティングで等角的にコーティングし、その後、バリア・コーティング上にナノチューブ形成触媒を配置することにより達成される。ある実施形態において、バリア・コーティングは、触媒配置前に、部分的に硬化していてもよい。これにより、CNT形成触媒と炭素繊維材料との表面接触を許容するなど、触媒を受け入れてバリア・コーティング内への組み込みが可能となる表面がもたらされる。このような実施形態では、バリア・コーティングは、触媒を組み込んだ後、十分に硬化する。ある実施形態において、バリア・コーティングは、CNT形成触媒の配置と同時に炭素繊維材料全体にコーティングされる。CNT形成触媒及びバリア・コーティングが適切に配置された時点で、バリア・コーティングは十分に硬化する。
【0126】
ある実施形態において、バリア・コーティングは、触媒の配置前に十分に硬化される。このような実施形態では、十分に硬化したバリア・コーティングを施した繊維材料は、プラズマで処理され、触媒を受容するために表面を調整する。例えば、硬化したバリア・コーティングを有するプラズマ処理された炭素繊維材料は、CNT形成触媒の配置が可能な粗面化した(roughened)表面をもたらす。バリア・コーティングの表面を「粗面化(roughing)」するプラズマ処理は、触媒の配置を容易にする。粗度は、通常、ナノメートルのスケール(scale)である。プラズマ処理工程において、深さ及び直径がナノメートル単位のクレーター(crater)又はくぼみが形成される。このような表面改質は、限定するものではないが、アルゴン、ヘリウム、酸素、窒素及び水素など、種々異なる1以上のガスをプラズマに用いて可能となる。ある実施形態では、プラズマによる粗面化は、炭素繊維材料自体に直接行われる。これにより、炭素繊維に対するバリア・コーティングの付着が容易になる。
【0127】
さらに後述されるように、また図7を併用して、触媒は、遷移金属ナノ粒子を含んで構成されるCNT形成触媒を含有する溶液として調整される。合成されたナノチューブの直径は、前述のように、金属粒子のサイズに関係する。ある実施形態では、CNT形成遷移金属ナノ粒子触媒を含有する工業用の分散液を利用して希釈せずに使用され、他の実施形態では、触媒を含有する工業用の分散液は希釈される。このように溶液を希釈するかどうかは、前述のように、成長するCNTの所望の密度及び長さによる。
【0128】
図7に例示の実施形態に関して、カーボン・ナノチューブの合成は、化学蒸着(CVD)処理に基づいて示されており、高温で生じる。具体的な温度は触媒の選択に応じて変化するが、通常は、約500℃〜約1000℃の範囲である。したがって、工程704には、カーボン・ナノチューブの合成を促進する前記範囲における温度まで炭素繊維材料を加熱することが含まれる。
【0129】
次に、工程706において、触媒を含んだ炭素繊維材料上でCVDにより促進されるナノチューブ成長が実施される。CVD処理は、例えば、炭素含有原料ガス(例えば、アセチレン、エチレン、及び/又はエタノール)により進められる。CNT合成処理では、主要なキャリアガスとして、通常、不活性ガス(窒素、アルゴン、ヘリウム)が用いられる。炭素原料は、混合物全体の約0%から約15%の範囲で供給される。CVD成長のための略不活性環境は、成長チャンバーから水分及び酸素を除去して用意される。
【0130】
CNTの合成処理において、CNTsは、CNT形成遷移金属ナノ粒子触媒の部位で成長する。強プラズマ励起電界が存在することを任意に用いて、ナノチューブの成長に影響を与えることができる。すなわち、成長は、電界方向に従う傾向がある。プラズマ・スプレーの配置及び電界を適切に調節することにより、垂直配列の(すなわち、炭素繊維材料に対して垂直な)CNTsが合成され得る。一定の条件下では、プラズマがない場合であっても、密集したナノチューブは、成長方向を垂直に維持して、カーペット又は樹木林に似た高密度配列のCNTsになる。
【0131】
繊維材料上に触媒を配置する工程は、溶液のスプレー、若しくは溶液の浸漬コーティングにより、又は、例えば、プラズマ処理を用いた気相蒸着により可能である。方法の選択は、あらゆる任意のバリア・コーティングに適用される方法と連係してなされる。このように、ある実施形態では、触媒を溶媒に含んだ溶液を形成した後、触媒は、その溶液を用いて、スプレー若しくは浸漬コーティングすることにより、又はスプレー及び浸漬コーティングの組み合わせにより、バリア・コーティングが施された繊維材料に適用される。単独で、又は組み合わせて用いられるいずれかの方法は、1回、2回、3回、4回、あるいは何回でも使用され、CNT形成触媒で十分均一にコーティングされた繊維材料を提供する。浸漬コーティングが使用される場合、例えば、繊維材料は、第1の浸漬槽において、第1の滞留時間、第1の浸漬槽内に置かれる。第2の浸漬槽を使用する場合、繊維材料は、第2の滞留時間、第2の浸漬槽内に置かれる。例えば、炭素繊維材料は、浸漬の形態及びラインスピードに応じて約3秒から約90秒の間、CNT形成触媒の溶液にさらされる。スプレー又は浸漬コーティングを用いて、CNT形成触媒ナノ粒子が略単分子層である、約5%未満から約80%の表面被覆率の触媒表面密度を備えた繊維材料を処理する。ある実施形態では、繊維材料上におけるCNT形成触媒のコーティング処理は、単分子層だけを生成すべきである。例えば、CNT形成触媒の積層上におけるCNT成長は、CNTの繊維材料への浸出度を損なうことがある。他の実施形態では、蒸着技術、電解析出技術、及び当業者に知られている他の処理(例えば、遷移金属触媒を、有機金属、金属塩又は気相輸送を促進する他の組成物として、プラズマ原料ガスへ添加することなど)を用いて、遷移金属触媒を繊維材料上に配置する。
【0132】
本願発明の処理は連続処理となるように設計されるため、巻き取り可能な繊維材料は、一連の槽で浸漬コーティングを施すことが可能である(この場合、浸漬コーティング槽は空間的に分離されている)。発生期の繊維が新たに生成されている連続処理において、CNT形成触媒の浸漬又はスプレーは、繊維材料にCNT形成触媒を適用して硬化、又は部分的に硬化させた後の第1段階である。バリア・コーティング及びCNT形成触媒の適用は、新たに形成された繊維材料のために、サイジング剤の適用に代えて行われるものである。他の実施形態において、CNT形成触媒は、バリア・コーティングの後、他のサイジング剤の存在下で、新たに形成された繊維に適用される。このようなCNT形成触媒及び他のサイジング剤の同時適用であっても、CNT形成触媒を繊維材料のバリア・コーティングと表面接触させて供給し、CNTの浸出を確実にすることができる。
【0133】
使用される触媒溶液は、遷移金属ナノ粒子であるが、これは、前述したように、dブロックの遷移金属であればいかなるものでもよい。加えて、ナノ粒子には、dブロック金属の入った元素形態又は塩形態の、合金や非合金の混合物、及びそれらの混合物が含まれる。このような塩形態には、限定するものではないが、酸化物、炭化物及び窒化物が含まれる。限定されない例示的な遷移金属NPsには、Ni、Fe、Co、Mo、Cu、Pt、Au及びAg、並びにそれらの塩及び混合物が含まれる。ある実施形態において、バリア・コーティングの配置と同時に、CNT形成触媒を繊維材料に直接適用あるいは直接浸出させることにより、このようなCNT形成触媒は繊維上に配置される。この遷移金属触媒の多くは、例えば、Ferrotec Corporation(Beford, NH)などの様々なサプライヤーから市販されており容易に入手できる。
【0134】
CNT形成触媒の全体にわたる均一な分散を可能とするいかなる共通溶媒にも、繊維材料にCNT形成触媒を適用するために用いられる触媒溶液が含まれる。このような溶媒には、限定するものではないが、水、アセトン、ヘキサン、イソプロピルアルコール、トルエン、エタノール、メタノール、テトラヒドロフラン(THF)、シクロヘキサン、又はCNT形成触媒ナノ粒子の適切な分散系を生成するために制御された極性を有する他のいかなる溶媒、が含まれる。CNT形成触媒の濃度は、触媒対溶媒で、およそ1:1から1:10000の範囲内である。このような濃度は、バリア・コーティング及びCNT形成触媒が同時に適用されるときにも用いられる。
【0135】
ある実施形態において、繊維材料は、CNT形成触媒の配置後、約500℃〜1000℃までの温度で加熱されて、カーボン・ナノチューブを合成する。この温度での加熱は、CNT成長のための炭素原料の導入前に、又は略同時に行われる。
【0136】
ある実施形態において、本願発明により提供される処理には、繊維材料からサイジング剤を除去し、繊維材料全体に等角的にバリア・コーティングを適用し、繊維材料にCNT形成触媒を適用し、繊維材料を少なくとも500℃まで加熱し、そして、繊維材料上にカーボン・ナノチューブを合成する工程が含まれる。ある実施形態において、CNT浸出処理の工程には、繊維材料からのサイジング剤の除去、繊維材料へのバリア・コーティングの適用、繊維材料へのCNT形成触媒の適用、CNT合成温度に向けた繊維材料の加熱、及び触媒含有繊維材料におけるCVD促進のCNT成長が含まれる。したがって、工業用の繊維材料が使用される場合、CNT浸出繊維を構成するための処理には、繊維材料上に任意のバリア・コーティング及び触媒を配置する前に、繊維材料からサイジング剤を除去する個別の工程が含まれる。
【0137】
カーボン・ナノチューブの合成工程には、同時係属の米国特許出願第2004/0245088号に開示され、参照により本明細書に組み込まれるものなど、カーボン・ナノチューブを形成するための多数の技術が含まれる。本願発明の繊維上におけるCNTs成長は、限定するものではないが、微小共振器(micro-cavity)、熱又はプラズマ助長CVD技術、レーザー・アブレーション、アーク放電、高圧一酸化炭素(HiPCO)などの、当該技術分野において知られている技術により可能である。CVDでは、特に、CNT形成触媒が配置され、バリア・コーティングが施された繊維材料が直接用いられる。ある実施形態において、従来のいかなるサイジング剤もCNT合成前に除去可能である。ある実施形態において、アセチレンガスは、イオン化されて、CNT合成のための低温炭素プラズマジェットを形成する。プラズマは触媒を有する繊維材料に導入される。このように、ある実施形態では、繊維材料におけるCNTsの合成には、(a)炭素プラズマを形成すること、及び(b)繊維材料に配置された触媒に炭素プラズマを導入すること、が含まれる。成長するCNTsの直径は、前述のように、CNT形成触媒のサイズにより決定される。ある実施形態において、サイジングされた繊維基材は約550℃〜約800℃に加熱され、CNT合成を容易にする。CNTsの成長を開始するために、プロセスガス(例えば、アルゴン、ヘリウム又は窒素)及び炭素含有ガス(例えば、アセチレン、エチレン、エタノール又はメタン)の2つのガスが反応器(reactor)に流される。CNTsは、CNT形成触媒の部位で成長する。
【0138】
ある実施形態において、CVD成長はプラズマで助長される。プラズマは、成長処理中に電界を与えることにより生成される。この条件下で成長したCNTsは電界の方向に従う。したがって、反応器の配置を調節することにより、垂直配向のカーボン・ナノチューブが、円筒状の繊維の周囲から放射状に成長する。ある実施形態では、繊維の周囲に放射状に成長させるために、プラズマは必要とされない。明確な面を有する繊維材料(例えば、テープ、マット、織物、パイル(pile)など)に対して、触媒は一面又は両面に配置され、それに対応して、CNTsも一面又は両面で成長する。
【0139】
前述のように、CNT合成は、巻き取り可能な繊維材料を機能化する連続処理を行うのに十分な速度で行われる。以下に例示されるように、このような連続的な合成は、多くの装置構成により容易になる。
【0140】
ある実施形態において、CNT浸出繊維材料は、「オール・プラズマ(all plasma)」処理で構成される。オール・プラズマ処理は、前述のように、プラズマで繊維材料を粗面化するところから開始して、繊維表面の湿潤特性を向上させ、より等角的なバリア・コーティング(使用時)をもたらすとともに、アルゴン又はヘリウムをベースとしたプラズマ中の酸素、窒素、水素などの特定の反応ガス種を用いて機能化された繊維材料の使用により、機械的連結あるいは化学的接着を介したコーティングの接着性を向上させる。
【0141】
バリア・コーティングの施された繊維材料は、更なる多数のプラズマ介在工程を通って、最終的なCNT浸出製品を形成する。ある実施形態において、オール・プラズマ処理には、バリア・コーティングが硬化した後の第2の表面改質が含まれる。これは、繊維材料のバリア・コーティング表面を「粗面化」して、触媒の配置を容易にするプラズマ処理である。前述のように、表面改質は、限定するものではないが、アルゴン、ヘリウム、酸素、アンモニア、水素、及び窒素などの種々異なる1以上のガスからなるプラズマを用いて実現できる。
【0142】
表面改質後、バリア・コーティングが施された繊維材料は触媒の適用へと進む。これは、繊維上にCNT形成触媒を配置するためのプラズマ処理である。CNT形成触媒は、前述のように、通常、遷移金属である。遷移金属触媒は、磁性流体、有機金属、金属塩、又は気相輸送を促進する他の組成物の形態で、前駆体としてプラズマ原料ガスに添加される。触媒は、真空及び不活性雰囲気のいずれも必要とせず、周囲環境の室温で適用可能である。ある実施形態では、炭素繊維材料が触媒の適用前に冷却される。
【0143】
オール・プラズマ処理を継続すると、カーボン・ナノチューブの合成がCNT成長反応器で生じる。これは、プラズマ助長化学蒸着を用いることで実現されるが、ここでは、炭素プラズマが、触媒を含む繊維にスプレーされる。カーボン・ナノチューブの成長は高温(触媒にもよるが、通常は約500℃〜1000℃の範囲)で発生するので、触媒を含む繊維は炭素プラズマにさらされる前に加熱される。浸出処理のために、繊維材料は、それが軟化するまで任意に加熱されてもよい。加熱後、繊維材料は炭素プラズマを受ける状態になっている。炭素プラズマは、例えば、炭素を含むガス(例えば、アセチレン、エチレン、エタノールなど)を、ガスのイオン化が可能な電界中に通すことにより発生する。この低温炭素プラズマは、スプレーノズルにより繊維材料に導入される。繊維材料は、プラズマを受けるために、例えば、スプレーノズルから約1センチメートル以内など、スプレーノズルにごく近接している。ある実施形態においては、加熱器は、炭素繊維材料の上側のプラズマ・スプレーに配設され、繊維材料を高温に維持する。
【0144】
連続的なカーボン・ナノチューブ合成の別の構成には、カーボン・ナノチューブを繊維材料で直接合成・成長させるための専用の矩形反応器が含まれる。その反応器は、カーボン・ナノチューブを備えた繊維を生成するための連続的なインライン処理用に設計される。ある実施形態において、CNTsは、化学蒸着(「CVD」)処理により、大気圧かつ約550℃から約800℃の範囲の高温で、マルチゾーン反応器(multi-zone reactor)内で成長する。合成が大気圧で生じるということは、繊維上にCNTを合成するための連続処理ラインに反応器を組み込むことを容易にする一因である。このようなゾーン反応器を用いた連続的なインライン処理と整合する別の利点は、CNTの成長が秒単位で発生するというものであり、当該技術分野で標準的な他の手段及び装置構成における分単位(又はもっと長い)とは対照的である。
【0145】
様々な実施形態によるCNT合成反応器には、以下の特徴が含まれる。
【0146】
(矩形に構成された合成反応器)
当該技術分野で知られている標準的なCNT合成反応器は横断面が円形である。これには、例えば、歴史的理由(研究所では円筒状の反応器がよく用いられる)及び利便性(流体力学は円筒状の反応器にモデル化すると容易であり、また、加熱器システムは円管チューブ(石英など)に容易に対応する)、並びに製造の容易性などの多くの理由がある。本願発明は、従来の円筒形状から脱却して、矩形横断面を有するCNT合成反応器を提供する。脱却の理由は以下の通りである。1.反応器により処理される多数の繊維材料は、例えば、形状が薄いテープやシート状など相対的に平面的であるので、円形横断面では反応器の容積を効率的に使用していない。この非効率性は、円筒状のCNT合成反応器にとって、例えば、以下のa)ないしc)など、いくつかの欠点となる。a)十分なシステムパージの維持;反応器の容積が増大すれば、同レベルのガスパージを維持するためにガス流量の増大が必要になる。これは、開放環境におけるCNTsの大量生産には非効率なシステムとなる。b)炭素原料ガス流の増大;前記a)のように、不活性ガス流を相対的に増大させると、炭素原料ガス流を増大させる必要がある。12Kの炭素繊維トウは、矩形横断面を有する合成反応器の全容積に対して2000分の1の容積であることを考慮されたい。同等の円筒状の成長反応器(すなわち、矩形横断面の反応器と同様に平坦化された繊維材料を収容するための幅を有する円筒状の反応器)では、繊維材料は、チャンバー容積の17,500分の1の容積である。CVDなどのガス蒸着処理(gas deposition processes)は、通常、圧力及び温度だけで制御されるが、容積は蒸着の効率に顕著な影響を与える。矩形反応器の場合、それでもなお過剰な容積が存在する。この過剰容積は無用の反応を促進してしまうが、円筒状反応器は、その容積が約8倍もある。このように競合する反応が発生する機会が増加することにより、所望の反応が有効に生じるには、円筒状反応器チャンバーでは遅くなってしまう。このようなCNT成長の減速は連続処理の開発には問題となる。矩形反応器の構成には、矩形チャンバーの高さが低いことを利用することで、反応器の容積が低減され、これにより容積比を改善して反応をより効率的にできるという1つの利点がある。本願発明のある実施形態において、矩形合成反応器の全容積は、合成反応器を通過中の繊維材料の全容積に対して約3000倍にしかすぎない。またある実施形態では、矩形合成反応器の全容積は、合成反応器を通過中の繊維材料の全容積に対して約4000倍にしかすぎない。また更なる実施形態では、矩形合成反応器の全容積は、合成反応器を通過中の繊維材料の全容積に対して約10,000倍未満である。加えて、円筒状反応器を使用した場合、矩形横断面を有する反応器と比較すると、同じ流量比をもたらすためには、より大量の炭素原料が必要である点に注目されたい。当然のことながら、実施形態の中には、合成反応器が、矩形ではないが比較的矩形に類似する多角形状で表される横断面を有し、円形横断面を有する反応器に対して反応器の容積を同様に低減するものがある。c)問題のある温度分布;相対的に小径の反応器が用いられた場合、チャンバー中心からその壁面までの温度勾配はごく僅かである。しかし、例えば、工業規模の生産に用いられるなど、サイズが増大した場合、温度勾配は増加する。このような温度勾配により、繊維材料基材の全域で製品品質がばらつくことになる(すなわち、製品品質が半径位置の関数として変化する)。この問題は、矩形横断面を有する反応器を用いた場合に殆ど回避される。特に、平面状基材が用いられた場合、反応器の高さを、基材の上方向のスケールサイズとして一定に維持できる。反応器の頂部及び底部間の温度勾配は基本的にごく僅かであるため、生じる熱的な問題や製品品質のばらつきは回避される。2.ガス導入:当該技術分野では、通常、管状炉が使用されるが、一般的なCNT合成反応器は、ガスを一端に導入し、それを反応器に通して他端から引き出す。本明細書に開示された実施形態の中には、ガスが、反応器の中心、又は対象とする成長ゾーン内において、反応器の両側面、又は、反応器の天板及び底板の、いずれかを介して、対称的に導入されるものがある。これにより、流入する原料ガスがシステムの最も高温の部分(CNT成長が最も活発な場所)に連続的に補充されるので、全体のCNT成長速度が向上する。このような一定のガス補充は、矩形のCNT反応器により示される成長速度の向上にとって重要な側面である。
【0147】
(ゾーン分け)
比較的低温のパージゾーンを備えるチャンバーが矩形合成反応器の両端に従属する。出願人は、高温ガスが外部環境(すなわち、反応器の外部)と接触すると、繊維材料の分解が増加すると断定した。低温パージゾーンは、内部システム及び外部環境間の緩衝となるものを提供する。当該技術分野で知られている標準的なCNT合成反応器の構成では、通常、基材を慎重に(かつ緩やかに)冷却することが必要とされる。本矩形CNT成長反応器の出口における低温パージゾーンは、連続的なインライン処理で必要とされるような短時間の冷却を実現する。
【0148】
(非接触、ホットウォール型、金属製反応器)
ある実施形態において、金属製、特にステンレス鋼製のホットウォール型反応器が使用される。このことは、金属、特にステンレス鋼は炭素が析出(すなわち、すす及び副生成物の形成)しやすいため、常識に反するように考えられる。従って、大部分のCNT反応器の構造には、炭素の析出が少なく、また、石英が洗浄しやすく、試料の観察が容易であることから、石英反応器が使用されている。しかしながら、出願人は、ステンレス鋼上におけるすす及び炭素析出物の増加は、より着実で高速に、より効率的に、かつ、より安定的にCNTを成長させるということに気付いた。理論に拘束されるものではないが、大気の影響と連動して、反応器内で生じるCVD処理では拡散が制限されることを示している。すなわち、触媒に「過度に供給される(overfed)」、つまり、過量の炭素が(反応器が不完全真空下で作動している場合よりも)その相対的に高い分圧により反応器システム内で得られる。結果として、開放型システム(特に清浄なもの)では、過量の炭素が触媒粒子に付着してCNTsの合成能力を低下させる。ある実施形態において、反応器が、金属製の反応器ウォールにすすが析出して「汚れて(dirty)」いる場合に、矩形反応器を意図的に作動する。炭素が反応器のウォール上の単分子層に一度析出すると、炭素は、それ自体を覆って容易に析出する。利用可能な炭素には、この機構により「回収される(withdrawn)」ものがあるので、残りの炭素原料(ラジカル型)が、触媒を被毒させない速度で触媒と反応する。既存のシステムが「清浄に」作動しても、連続処理のために開放状態であれば、成長速度が低下してCNTsの生産量はかなり小さくなる。
【0149】
CNT合成を、前述のように「汚れて」いる状態で実施するのは概して有益であるが、それでも、装置のある部位(例えば、ガスマニフォールド及びガス入口)は、すすが閉塞状態を引き起こした場合、CNTの成長処理に悪影響を与える。この問題に対処するために、CNT成長反応チャンバーの当該部位を、例えば、シリカ、アルミナ又はMgOなどのすす抑制コーティングで保護してもよい。実際には、装置のこれらの部位は、すす抑制コーティングで浸漬コーティングが施される。INVAR(商標名)は、高温におけるコーティングの接着性を確実にする同様のCTE(熱膨張係数)を有し、重要なゾーンにおけるすすの著しい堆積を抑制するので、例えば、INVARなどの金属がこれらのコーティングに用いられる。
【0150】
(触媒低減及びCNT合成の組み合わせ)
本明細書に開示されたCNT合成反応器において、触媒低減及びCNT成長のいずれもが反応器内で生じる。低減工程は、個別の工程として実施されると、連続処理に用いるものとして十分タイムリーに行われなくなるため、これは重要である。当該技術分野において知られている標準的な処理において、低減工程の実施には、通常1〜12時間かかる。本願発明によれば、両工程は1つの反応器内で生じるが、これは、少なくとも1つには、円筒状反応器を用いる当該技術分野では標準的となっている反応器の端部ではなく、中心部に炭素原料ガスが導入されることによるものである。低減処理は、繊維が加熱ゾーンに入ったときに行われる;この時点までに、ガスには、触媒と反応して(水素ラジカルの相互作用により)酸化還元を引き起こす前にウォールと反応して冷える時間がある。低減が生じるのは、この移行領域である。システム内で最も高温の等温ゾーンでCNTの成長は起こり、反応器の中心近傍におけるガス入口の近位で最速の成長速度が生じる。
【0151】
ある実施形態において、緩く関連する(loosely affiliated)繊維材料(例えば、炭素トウ)が使用される場合、連続処理には、トウのストランド(strand)及び/又はフィラメントを広げる工程が含まれる。トウは、巻き取られていないときに、例えば、真空ベースの開繊システム(vacuum-based fiber spreading system)を用いて開繊される(spread)。サイジングされた比較的堅い炭素繊維を使用する場合、トウを「軟化」して開繊しやすくするために、更に加熱することができる。個々のフィラメントを含んで構成される開繊繊維(spread fiber)は、バラバラに広げられてフィラメントの全表面積を十分にさらすようにしてもよく、これにより、トウが、次の処理工程でより効率的に反応することを可能にする。このような開繊により、3kトウの直径を約4インチ〜約6インチに近づけることができる。開繊されたトウは、前述のようにプラズマシステムで構成される表面処理工程を経る。バリア・コーティングが適用され粗面化された後、開繊繊維は、CNT形成触媒に浸漬槽を通過する。その結果、繊維表面で放射状に分布した触媒粒子を有する炭素トウ繊維となる。触媒を含んだトウ繊維は、その後、前述のように、例えば、矩形チャンバーなどの適切なCNT成長チャンバーに入るが、ここでは、大気圧CVD又はPE−CVD処理を介した流れが、毎秒数ミクロンの速度でCNTsを合成するために用いられる。トウ繊維は、こうして放射状に配列されたCNTsを備えて、CNT成長反応器を出る。
【0152】
ある実施形態において、CNT浸出繊維材料は、さらに別の処理工程を経ることもできるが、それは、ある実施形態において、CNTsを機能化するために用いられるプラズマ処理である。CNTsのさらなる機能化は、特定の樹脂への接着力を促進するために用いられる。このように、実施形態の中には、本願発明が、機能化されたCNTsを有するCNT浸出繊維材料を提供するものがある。
【0153】
巻き取り可能な繊維材料の連続処理の一部として、最終製品にとって利点となる追加的なサイジング剤を適用するために、CNT浸出炭素繊維材料がサイジング剤の浸漬槽を更に通過してもよい。最終的にウェットワインディング(wet winding)が必要であれば、CNT浸出繊維材料は、樹脂槽を経てマンドレル又はスプールに巻かれる。その結果得られた繊維材料/樹脂の組み合わせは、CNTsを繊維材料上に固着し、これにより、取り扱い及び複合材料の製造をよりたやすくする。ある実施形態において、CNT浸出は、フィラメント・ワインディング(filament winding)を向上させるために用いられる。このように、例えば、炭素トウなどの炭素繊維上に形成されるCNTsは、樹脂槽を経て、樹脂含浸処理されたCNT浸出炭素トウを生成する。樹脂含浸後、炭素トウは、デリバリー・ヘッド(delivery head)により、回転するマンドレルの表面上に位置付けられる。その後、トウは、既知の方法による正確な幾何学的パターンでマンドレルに巻かれる。
【0154】
前述のワインディング処理により、雄型を介して特徴的に製造されるように、パイプ、チューブ、又は他の構造体がもたらされる。しかし、本明細書に開示されるワインディング処理から作られる構造体は、従来のフィラメント・ワインディング処理から作られるものとは異なる。具体的には、本明細書に開示される処理において、その構造体は、CNT浸出トウを含む複合材料から作られる。このため、このような構造体にとって、CNT浸出トウによりもたらされる強度の向上などは有益となるであろう。
【0155】
ある実施形態において、巻き取り可能な繊維材料上においてCNTsを浸出させる連続処理により、毎分約0.5フィート〜毎分約36フィートのラインスピードが可能となる。CNT成長チャンバーが、長さ3フィートで、750℃の成長温度で稼動するこの実施形態において、例えば、長さが約1ミクロン〜約10ミクロンのCNTsを製造するために、毎分約6フィート〜毎分約36フィートのラインスピードで処理が行われる。また、例えば、長さが約10ミクロン〜約100ミクロンのCNTsを製造するために、毎分約1フィート〜毎分約6フィートのラインスピードで処理が行われる。長さが約100ミクロン〜約200ミクロンのCNTsを製造するためには、毎分約0.5フィート〜毎分約1フィートのラインスピードで処理が行われる。CNTの長さは、ラインスピード及び成長温度のみに関係しているだけでなく、炭素原料ガス及び不活性ガスのいずれの流量もまたCNTの長さに影響を与える。例えば、高速のラインスピード(毎分6フィート〜毎分36フィート)で、不活性ガス中の炭素原料が1%未満からなる流量により、長さが1ミクロン〜約5ミクロンのCNTsが得られる。高速のラインスピード(毎分6フィート〜毎分約36フィート)で、不活性ガス中の炭素原料が約1%を上回る流量の場合には、5ミクロン〜約10ミクロンの長さを有するCNTsが得られる。
【0156】
ある実施形態においては、複数の繊維材料は同時に処理過程を通過する。例えば、複数のテープ、トウ、フィラメント、ストランドなどが並行して処理過程を通過する。こうして、既製の繊維スプールは幾らでも並行に処理過程を通過して、処理が終わると再度巻き取られる。並行して通過して巻き取られる繊維材料の数には、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、最大でCNT成長反応チャンバーの幅に合ったいかなる数も含まれる。さらに、複数の繊維材料が処理過程を通過する場合、回収スプール数は、処理開始時のスプール数よりも少なくなり得る。このような実施形態において、ストランド、トウなどは、当該繊維材料をより高い規則構造の炭素繊維材料(例えば、織物など)に結合する更なる処理を経て送り出される。また、連続処理には、例えば、CNT浸出短繊維マットの形成を容易にするチョッパー後処理(post processing chopper)を組み込みこむことができる。
【0157】
ある実施形態において、本願発明の処理により、繊維材料上に第1の量の第1種カーボン・ナノチューブを合成することが可能となるが、この場合、第1種カーボン・ナノチューブは、繊維材料の少なくとも1つの性質(第1性質)を変化させるために選択される。次に、本願発明の処理により、繊維材料上において、第2の量の第2種カーボン・ナノチューブを合成することが可能となるが、この場合、第2種カーボン・ナノチューブは、繊維材料の少なくとも1つの性質(第2性質)を変化させるために選択される。
【0158】
ある実施形態において、CNTsの第1の量及び第2の量は異なる。この場合、CNTの種類の変化を伴うこともあり、伴わないこともある。このように、CNTの種類がたとえ変化しないままであっても、CNTsの密度を変化させて用いることにより、元の繊維材料の性質を変化させることができる。CNTの種類には、例えば、CNTの長さ及び層数が含まれる。ある実施形態において、第1の量及び第2の量は同一である。この場合に、巻き取り可能な材料の2つの異なる長さに沿って異なる性質が求められれば、例えば、CNTの長さなど、CNTの種類を変化させることができる。例えば、より長いCNTsは電気的/熱的な用途に有用であるのに対し、より短いCNTsは機械的強化の用途に有効である。
【0159】
繊維材料の性質の変化に関する前述の考察を踏まえると、第1種カーボン・ナノチューブ及び第2種カーボン・ナノチューブが、ある実施形態においては同一であるのに対し、第1種カーボン・ナノチューブ及び第2種カーボン・ナノチューブは、他の実施形態においては異なるということもあり得る。同様に、第1性質及び第2性質が、ある実施形態では同一となり得る。例えば、EMI遮蔽特性は、第1の量の第1種CNTs、及び第2の量の第2種CNTsにより対処される有益な性質であるが、この性質の変化の割合は、異なる量、及び/又は異なる種類のCNTsが使用された場合、それを反映して異なることもあり得る。最後に、ある実施形態において、第1性質及び第2性質が異なることもある。これもCNTの種類における変化を反映する。例えば、第1性質が、短いCNTsによりもたらされる機械的強度である一方、第2性質が、長いCNTsによりもたらされる電気的/熱的性質である。当業者であれば、異なるCNT密度、異なるCNT長さ、及び異なるCNTsの層数(例えば、単層、2層及び多層など)を利用することで、繊維材料の性質を調整できることを認識するであろう。
【0160】
ある実施形態において、本願発明の処理により、繊維材料上に第1の量のカーボン・ナノチューブが合成され、この第1の量により、カーボンチューブ浸出繊維材料が繊維材料自体の有する第1群の性質とは異なる第2群の性質を示すことが可能となる。すなわち、繊維材料の1以上の性質(例えば、引張強度など)を変化させることができる量の選択である。第1群の性質及び第2群の性質には、繊維材料の向上した性質及び既存の性質を表す同一の性質のうち少なくとも1つが含まれる。ある実施形態においては、CNTの浸出により、繊維材料自体の有する第1群の性質の中には含まれない第2群の性質がカーボン・ナノチューブ浸出繊維に与えられる。
【0161】
前述のように、引張強度には、3つの異なる測定値、すなわち、1)材料のひずみが弾性変形から塑性変形(材料の不可逆的な変形を生じさせる)に変化する応力を評価する降伏強度、2)引張荷重、圧縮荷重又はせん断荷重を受けたとき、材料が耐え得る最大応力を評価する終局強度、及び3)破断点における応力−ひずみ線図上での応力の座標を評価する破壊強度、が含まれる。複合材料のせん断強度は、繊維方向に対して垂直に荷重がかけられた場合に材料が破壊する応力を評価する。圧縮強度は、圧縮荷重がかけられた場合に材料が破壊する応力を評価する。
【0162】
ヤング率は等方性弾性材料の剛性の1つの尺度である。それは、フックの法則が有効な応力範囲において、1軸ひずみに関する1軸応力の比率として定義される。これは、経験的に、材料サンプルについて行われる引張試験中に形成される応力−ひずみ線図の傾きから決定される。
【0163】
電気伝導度又は特定の伝導性は、電流を伝導する材料の性能についての1つの尺度である。CNTのキラリティに関連している、例えば、撚度(degree of twist)などの特定の構造的なパラメータを有するCNTsは、伝導性が高く、したがって金属特性を示す。CNTのキラリティに関して、広く認められている命名方式(M.S.Dresselhaus, et al.Science of Fullerences and Carbon Nanotubes, Academic Press, San Diego, CA pp.750-760, (1996))が、当業者により形式化され承認されている。このように、例えば、CNTsは、2つのインデックス(n,m)で相互に識別される(ここで、nとmは、六方晶のグラファイトが円筒の表面上で巻かれて端部同士を接合した場合にチューブとなるように、六方晶のグラファイトの切断及び巻き方を表す整数である)。2つのインデックスが同じである場合(m=n)、得られるチューブは、「アームチェア」(又はn−n)型であるといわれているが、これは、チューブがCNT軸に対して垂直に切断されたときに、六角形の辺のみが露出し、そのチューブ端部の周辺に沿ったパターンが、n回繰り返されるアームチェアのアームと座部に似ているからである。アームチェアCNTs、特にSWNTsは、金属的であり、非常に高い電気的及び熱的伝導性を有している。さらに、このようなSWNTsは非常に高い引張強度を有している。
【0164】
撚度に加えて、CNTの直径もまた電気的伝導性に影響を与える。前述のように、CNTの直径は、サイズ制御されたCNT形成触媒ナノ粒子の使用により制御可能である。また、CNTsは、半導体材料としても形成される。多層CNTs(MWNTs)における伝導性はより複雑である。MWNTs内の層間反応は、個々のチューブ一面に、電流を不均一に再分布させる。対照的に、金属的な単層ナノチューブ(SWNTs)の様々な部位においては電流に変化はない。また、カーボン・ナノチューブは、ダイヤモンド結晶及び面内の(in-plane)グラファイトシートと比較して、非常に高い熱伝導性を有する。
【0165】
CNT浸出繊維材料にとって、CNTsの存在は前述の性質の点で有益であるだけでなく、本処理でより軽量な材料も提供できる。このように低密度かつ高強度の材料は、換言すれば、強度重量比がより高いということができる。本願発明の様々な実施形態の働きに実質的に影響を与えない変更も、本明細書で提供された本願発明の定義内に含まれることを理解できる。したがって、以下の実施例は、本願発明を例示するものであって限定するものではない。
【実施例1】
【0166】
本実施例は、熱的及び電気的伝導性の向上を目的とする連続処理において、炭素繊維材料に、どのようにしてCNTsを浸出させるかを示す。
【0167】
本実施例では、繊維へのCNTsの担持量を最大にすることが目的である。炭素繊維基材として、テックス値800である34〜700の12k炭素繊維トウ(Grafil Inc., Sacramento, CA)が導入される。この炭素繊維トウにおける個々のフィラメントは、直径が約7μmである。
【0168】
図8は、本願発明の例示的な実施形態によるCNT浸出繊維材料を生成するためのシステム800を表している。システム800には、炭素繊維材料の繰り出し及びテンショナー(tensioner)ステーション805、サイジング剤除去及び繊維開繊器(fiber spreader)ステーション810、プラズマ処理ステーション815、バリア・コーティング適用ステーション820、空気乾燥ステーション825、触媒適用ステーション830、溶媒フラッシュオフ(flash-off)ステーション835、CNT浸出ステーション840、繊維束化ステーション845、及び炭素繊維巻き取りボビン850が、図示のように相互に関連して含まれる。
【0169】
繰り出し及びテンショナーステーション805には、繰り出しボビン806及びテンショナー807が含まれる。繰り出しボビンは、炭素繊維材料860を処理に渡すが、繊維には、テンショナー807により張力がかけられる。本実施例に関して、炭素繊維は毎分2フィートのラインスピードで処理される。
【0170】
繊維材料860は、サイジング剤除去加熱器865及び繊維開繊器870を含むサイジング剤除去及び繊維開繊器ステーション810に送られる。このステーションで、繊維860上のいかなるサイジング剤も除去される。通常、繊維のうちサイジング剤を燃焼させて除去がなされる。この目的のために、例えば、赤外線ヒーター、マッフル炉、及び他の非接触加熱処理など、様々な加熱手段のいかなるものも用いられる。また、サイジング剤の除去は、化学的に達成することもできる。繊維開繊器は繊維を個々のフィラメントに開繊する。開繊繊維には、例えば、水平な均一直径のバー(flat, uniform-bar)の上下で、あるいは、可変の直径のバーの上下で、あるいは、放射状に広がる溝及び混練(kneading)ローラーを備えたバーの上、振動を生じるバーの上などで、繊維を引き出すといった、様々な技術及び装置が用いられる。開繊は、より多くの繊維表面積をさらすことにより、例えば、プラズマの適用、バリア・コーティングの適用、触媒の適用といった下流の工程の効果を高める。
【0171】
多数のサイジング剤除去過熱器865が、段階的、同時的なサイジング除去及び開繊を可能にする繊維開繊器870全体に配置される。繰り出し及びテンショナーステーション805、並びに、サイジング剤除去及び繊維開繊器ステーション810は、繊維産業で一般的に使用されており、当業者であれば、それらの設計及び使用に熟知しているであろう。
【0172】
サイジング剤を燃焼させるために必要な温度及び時間は、(1)サイジング剤、及び(2)炭素繊維材料860の商業的供給源/特性に応じて変化する。炭素繊維材料における従来のサイジング剤は、約650℃で除去される。この温度で、サイジング剤の完全燃焼を確実にするため15分間を要する。温度をこの燃焼温度以上にするとで、燃焼時間を短縮することができる。特定の市販製品のサイジング剤を燃焼させるための最低温度は、熱重量分析を用いて決定される。
【0173】
サイジング剤除去に必要なタイミングによっては、サイジング剤除去の加熱器を、必ずしも、CNT浸出に固有の処理に含めなくてもよく、むしろ、除去は独立して(例えば、並行して)行われる。この方法において、サイジング剤のない炭素繊維材料の在庫が、サイジング剤除去の加熱器を含まないCNT浸出繊維製造ラインで使用するために集積されて巻き取られている。サイジング剤のない繊維は、その後、繰り出し及びテンショナーステーション805で巻き取られる。この製造ラインは、サイジング剤除去を含むものよりも高速に運転される。
【0174】
サイジングされていない繊維880は、プラズマ処理ステーション815へ送られる。本実施例に関して、大気中プラズマ処理が、開繊した炭素繊維材料より1mm離れた距離から「流れに沿った」形で利用される。ガス状の原料はヘリウム100%で構成される。
【0175】
プラズマで改良された繊維885は、バリア・コーティング適用ステーション820へ送られる。例示的な本実施例に関して、シロキサンベースのバリア・コーティング溶液が、浸漬コーティングの構成に用いられる。その溶液は、体積で40倍の希釈率により「Accuglass(登録商標)T-11スピンオンガラス」(Honeywell International Inc., Morristown, NJ)をイソプロピルアルコールで希釈したものである。炭素繊維材料上において得られるバリア・コーティングの厚さは約40nmである。バリア・コーティングは、周囲環境の室温で適用される。
【0176】
バリア・コーティングが施された炭素繊維890は、ナノスケールのバリア・コーティングを硬化させるために、空気乾燥ステーション825に送られる。空気乾燥ステーションは、開繊した炭素繊維全体に加熱した空気の流れを送る。用いられる温度は、100℃〜約500℃の範囲である。
【0177】
空気乾燥後、バリア・コーティングが施された炭素繊維890は、触媒適用ステーション830に送られる。本実施例において、酸化鉄ベースのCNT形成触媒溶液が、浸漬コーティングの構成に用いられる。その溶液は、体積で200倍の希釈率により「EEH−1」(Ferrotec Corporation, Bedford, NH)をヘキサンで希釈したものである。炭素繊維材料上には、触媒コーティングの単分子層が得られる。希釈する前の「EEH−1」は、3〜15容量%の範囲のナノ粒子濃度を有する。酸化鉄ナノ粒子は、Fe2O3とFe3O4の組成物からなり、直径が約8nmである。
【0178】
触媒含有炭素繊維材料895は、溶媒フラッシュオフステーション835へ送られる。溶媒フラッシュオフステーションは、開繊した炭素繊維全体に空気の流れを送る。本実施例では、触媒含有炭素繊維材料に残った全てのヘキサンをフラッシュオフするために、室温の空気が用いられる。
【0179】
溶媒フラッシュオフの後、触媒含有繊維895は、最後にCNT浸出ステーション840に送られる。本実施例では、12インチの成長ゾーンを備えた矩形反応器を用いて、大気圧でのCVD成長を利用する。全ガス流の98.0%は不活性ガス(窒素)であり、その他の2.0%は、炭素原料(アセチレン)である。成長ゾーンは、750℃に保持される。前述の矩形反応器に関して、750℃は、成長速度を考えられる最速のものにする、相対的に高い成長温度である。
【0180】
CNTの浸出後、CNT浸出繊維897は、繊維束化ステーション845で再び束化される。この工程は、ステーション810で行われた開繊工程を実質的に逆転することで、繊維の個々のストランドを再結合する。
【0181】
束化されたCNT浸出繊維897は、貯蔵のために、巻き取り繊維ボビン850の周囲に巻き付けられる。CNT浸出繊維897は、長さ約50μmのCNTsを担持しており、その後、熱的及び電気的伝導性を向上させる複合材料に使用される状態となる。
【0182】
前述の工程には、環境隔離のために、不活性雰囲気あるいは真空中で行われるものがあることに注目されたい。例えば、炭素繊維材料のサイジング剤を燃焼している場合、繊維は環境隔離されて、ガス放出を阻止するとともに、水分からダメージを受けることを抑制する。便宜上、システム800において、環境隔離は、製造ラインの先頭における炭素繊維材料の繰り出し及び張力調整、及び、製造ラインの末端における繊維巻き取りを除いて、全ての工程に提供される。
【実施例2】
【0183】
本実施例は、機械的性質、特に界面特性(例えば、せん断強度など)の向上を目的とする連続処理において、炭素繊維材料に、どのようにしてCNTsを浸出させるかを示す。この場合、繊維上に短いCNTsを担持させることが目的である。本実施例において、炭素繊維基材として、サイジングされていない、テックス値793である34〜700の12k炭素繊維トウ(Grafil Inc., Sacramento, CA)が導入される。この炭素繊維トウにおける個々のフィラメントは、直径が約7μmである。
【0184】
図9は、本願発明の例示的な実施形態によるCNT浸出繊維を生成するためのシステム900を表しており、システム800で説明されたステーション及び処理と同様のものを多く含んでいる。システム900には、炭素繊維材料の繰り出し及びテンショナーステーション902、繊維開繊器ステーション908、プラズマ処理ステーション910、触媒適用ステーション912、溶媒フラッシュオフステーション914、第2の触媒適用ステーション916、第2の溶媒フラッシュオフステーション918、バリア・コーティング適用ステーション920、空気乾燥ステーション922、第2のバリア・コーティング適用ステーション924、第2の空気乾燥ステーション926、CNT浸出ステーション928、繊維束化ステーション930、及び、炭素繊維材料巻き取りボビン932が、図示のように相互に関連して含まれる。
【0185】
炭素繊維材料の繰り出し及びテンショナーステーション902には、繰り出しボビン904とテンショナー906が含まれる。繰り出しボビンは、炭素繊維材料901を処理に渡すが、繊維には、テンショナー906により張力がかけられる。本実施例に関して、炭素繊維は毎分2フィートのラインスピードで処理される。
【0186】
繊維材料901は、繊維開繊器ステーション908に送られる。この繊維は、サイジング剤を備えずに製造されているので、サイジング剤除去処理は、繊維開繊器ステーション908の一部として組み込まれていない。繊維開繊器は、繊維開繊器870で説明した方法と同様に、繊維を個々の要素に開繊する。
【0187】
繊維材料901は、プラズマ処理ステーション910に送られる。この実施例に関して、大気中プラズマ処理が、開繊した炭素繊維材料より12mm離れた距離から「流れに沿った」形で利用される。ガス状の原料は、不活性ガス流全体(ヘリウム)の1.1%の量の酸素を含んでいる。炭素繊維材料の表面における酸素含有量の制御は、後のコーティングの接着性を高める効果的な方法であり、ひいては、炭素繊維複合材料の機械的性質の向上にとって好ましいものである。
【0188】
プラズマで改良された繊維911は、触媒適用ステーション912へ送られる。本実施例において、酸化鉄ベースのCNT形成触媒溶液が、浸漬コーティングの構成に用いられる。その溶液は、体積で200倍の希釈率により「EEH−1」(Ferrotec Corporation, Bedford, NH)をヘキサンで希釈したものである。炭素繊維材料上には、触媒コーティングの単分子層が得られる。希釈する前の「EEH−1」は、3〜15容量%の範囲のナノ粒子濃度を有する。酸化鉄ナノ粒子は、Fe2O3とFe3O4の組成物からなり、直径が約8nmである。
【0189】
触媒含有炭素繊維材料913は、溶媒フラッシュオフステーション914へ送られる。溶媒フラッシュオフステーションは、開繊した炭素繊維全体に空気の流れを送る。本実施例では、触媒含有炭素繊維材料に残った全てのヘキサンをフラッシュオフするために、室温の空気が用いられる。
【0190】
溶媒フラッシュオフの後、触媒含有繊維913は、触媒適用ステーション912と同一の触媒適用ステーション916に送られる。溶液は、体積で800倍の希釈率により「EEH−1」をヘキサンで希釈したものである。本実施例に関して、多数の触媒適用ステーションを含む構成を用いて、プラズマで改良した繊維911における触媒の被覆を最適化する。
【0191】
触媒含有炭素繊維材料917は、溶媒フラッシュオフステーション914と同一の溶媒フラッシュオフステーション918へ送られる。
【0192】
溶媒フラッシュオフの後、触媒含有炭素繊維材料917はバリア・コーティング適用ステーション920に送られる。本実施例において、シロキサンベースのバリア・コーティング溶液が、浸漬コーティングの構成に用いられる。その溶液は、体積で40倍の希釈率により「Accuglass(登録商標)T-11スピンオンガラス」(Honeywell International Inc., Morristown, NJ)をイソプロピルアルコールで希釈したものである。炭素繊維材料上において得られるバリア・コーティングの厚さは約40nmである。バリア・コーティングは、周囲環境の室温で適用される。
【0193】
バリア・コーティングが施された炭素繊維921は、バリア・コーティングを部分的に硬化させるために、空気乾燥ステーション922へ送られる。空気乾燥ステーションは、開繊した炭素繊維全体に加熱した空気の流れを送る。用いられる温度は、100℃〜約500℃の範囲である。
【0194】
空気乾燥後、バリア・コーティングが施された炭素繊維921は、バリア・コーティング適用ステーション920と同一のバリア・コーティング適用ステーション924に送られる。溶液は、体積で120倍の希釈率により「Accuglass(登録商標)T-11スピンオンガラス」をイソプロピルアルコールで希釈したものである。本実施例に関して、多数のバリア・コーティング適用ステーションを含む構成を用いて、触媒含有繊維917におけるバリア・コーティングの被覆率を最適化する。
【0195】
バリア・コーティングを施した炭素繊維925は、バリア・コーティングを部分的に硬化させるために、空気乾燥ステーション922と同一の空気乾燥ステーション926へ送られる。
【0196】
空気乾燥後、バリア・コーティングが施された炭素繊維925は、最後にCNT浸出ステーション928に送られる。本実施例では、12インチの成長ゾーンを備えた矩形反応器を用いて、大気圧でのCVD成長を利用する。全ガス流の97.75%は不活性ガス(窒素)であり、その他の2.25%は、炭素原料(アセチレン)である。成長ゾーンは、650℃に保持される。前述の矩形反応器に関して、650℃は、短いCNTの成長制御を可能にする、相対的に低い成長温度である。
【0197】
CNTの浸出後、CNT浸出繊維929は、繊維束化ステーション930で再び束化される。この工程は、ステーション908で行われた開繊工程を実質的に逆転することで、繊維の個々のストランドを再結合する。
【0198】
束化されたCNT浸出繊維931は、貯蔵のために、巻き取り繊維ボビン932の周囲に巻き付けられる。CNT浸出繊維929は、長さ約5μmのCNTsを担持しており、その後、機械的性質を向上させる複合材料に使用される状態となる。
【0199】
本実施例において、炭素繊維材料は、バリア・コーティング適用ステーション920及び924の前に、触媒適用ステーション912及び916を通過する。このコーティングの順序は、実施例1に図示される順序とは逆になっており、この場合、炭素繊維基材に対するCNTsの固定を向上させることができる。CNT成長処理中、バリア・コーティング層はCNTsにより基材から持ち上げられ、これにより、(触媒NPの接合を介して)炭素繊維材料との直接接触をより多く可能にする。熱的/電気的性質ではなく、機械的性質の向上を目的としているので、順序が逆になるコーティング構成は好ましい。
【0200】
前述の工程には、環境隔離のために、不活性雰囲気あるいは真空中で行われるものがあることに注目されたい。便宜上、システム900において、環境隔離は、製造ラインの先頭における炭素繊維材料の繰り出し及び張力調整、及び、製造ラインの末端における繊維巻き取りを除いて、全ての工程に提供される。
【実施例3】
【0201】
本実施例は、機械的性質、特に界面特性(層間せん断など)の向上を目的とする連続処理において、炭素繊維材料に、どのようにCNTsを浸出させるかを示す。
【0202】
本実施例では、繊維上に短いCNTsの担持させることが目的である。本実施例において、炭素繊維基材として、サイジングされていない、テックス値793である34〜700の12k炭素繊維トウ(Grafil Inc., Sacramento, CA)が導入される。この炭素繊維トウにおける個々のフィラメントは、直径が約7μmである。
【0203】
図10は、本願発明の例示的な実施形態によるCNT浸出繊維を生成するためのシステム1000を表しており、システム800で説明されたステーション及び処理と同様のものを多く含んでいる。システム1000には、炭素繊維材料の繰り出し及びテンショナーステーション1002、繊維開繊器ステーション1008、プラズマ処理ステーション1010、コーティング適用ステーション1012、空気乾燥ステーション1014、第2のコーティング適用ステーション1016、第2の空気乾燥ステーション1018、CNT浸出ステーション1020、繊維束化ステーション1022、炭素繊維材料巻き取りボビン1024が、図示のように相互に関連して含まれる。
【0204】
繰り出し及びテンショナーステーション1002には、繰り出しボビン1004とテンショナー1006が含まれる。繰り出しボビンは、炭素繊維材料1001を処理に渡すが、繊維には、テンショナー906により張力がかけられる。本実施例に関して、炭素繊維は毎分5フィートのラインスピードで処理される。
【0205】
繊維材料1001は、繊維開繊器ステーション1008に送られる。この繊維は、サイジング剤を備えずに製造されているので、サイジング剤除去処理は、繊維開繊器ステーション1008の一部として組み込まれていない。繊維開繊器は、繊維開繊器870で説明した方法と同様に、繊維を個々の要素に開繊する。
【0206】
繊維材料1001は、プラズマ処理ステーション1010に送られる。この実施例に関して、大気中プラズマ処理が、開繊した炭素繊維材料より12mm離れた距離から「流れに沿った」形で利用される。ガス状の原料は、不活性ガス流全体(ヘリウム)の1.1%の量の酸素を含んでいる。炭素繊維材料の表面における酸素含有量の制御は、後のコーティングの接着性を高める効果的な方法であり、ひいては、炭素繊維複合材料の機械的性質の向上にとって好ましいものである。
【0207】
プラズマで改良された繊維1011は、コーティング適用ステーション1012へ送られる。本実施例において、酸化鉄ベースのCNT形成触媒溶液、及びバリア・コーティング材が、単一の「ハイブリッド」溶液中で混合され、浸漬コーティングの構成に用いられる。「ハイブリッド」溶液には、体積比で、1の「EEH−1」、5の「Accuglass(登録商標)T-11スピンオンガラス」、24のヘキサン、24のイソプロピルアルコール、及び146のテトラヒドロフランが含まれる。このような「ハイブリッド」コーティングを採用すると、高温における繊維分解の影響を疎外する点で有益である。理論に拘束されるものではないが、炭素繊維の分解は、(CNTsの成長には不可欠な温度に等しい)高温における触媒NPsの焼結により増大する。このような影響は、各触媒NP自体をバリア・コーティングで覆うことにより制御することができる。熱的/電気的性質ではなく、機械的性質の増大が目的とされているので、炭素繊維ベースの材料を完全な状態で維持することは好ましく、このため、「ハイブリッド」コーティングを採用する。
【0208】
触媒を含有し、バリア・コーティングを施された炭素繊維材料1013は、バリア・コーティングを部分的に硬化させるために、空気乾燥ステーション1014へ送られる。空気乾燥ステーションは、開繊した炭素繊維全体に加熱した空気の流れを送る。用いられる温度は、100℃〜約500℃の範囲である。
【0209】
空気乾燥後、触媒及びバリア・コーティングを含有する炭素繊維1013は、コーティング適用ステーション1012と同一のコーティング適用ステーション1016へ送られる。「ハイブリッド」溶液には同一のものが用いられる(体積比で、1の「EEH−1」、5の「Accuglass(登録商標)T-11スピンオンガラス」、24のヘキサン、24のイソプロピルアルコール、及び146のテトラヒドロフラン)。本実施例に関して、多数のコーティング適用ステーションを含む構成を用いて、プラズマで改良された繊維1011上における「ハイブリッド」コーティングの被覆率を最適化する。
【0210】
触媒及びバリア・コーティングを含有する炭素繊維1017は、バリア・コーティングを部分的に硬化させるために、空気乾燥ステーション1014と同一の空気乾燥ステーション1018に送られる。
【0211】
空気乾燥後、触媒及びバリア・コーティングを含有する炭素繊維1017は、最後にCNT浸出ステーション1020に送られる。本実施例では、12インチの成長ゾーンを備えた矩形反応器を用いて、大気圧でのCVD成長を利用する。全ガス流の98.7%は不活性ガス(窒素)であり、その他の1.3%は、炭素原料(アセチレン)である。成長ゾーンは、675℃に保持される。前述の矩形反応器に関して、675℃は、短いCNTの成長制御を可能にする、相対的に低い成長温度である。
【0212】
CNTの浸出後、CNT浸出繊維1021は、繊維束化ステーション1022で再び束化される。この工程は、ステーション1008で行われた開繊工程を実質的に逆転することで、繊維の個々のストランドを再結合する。
【0213】
束化されたCNT浸出繊維1021は、貯蔵のために、巻き取り繊維ボビン1024の周囲に巻き付けられる。CNT浸出繊維1021は、長さ約2μmのCNTsを担持しており、その後、機械的性質を向上させる複合材料に使用される状態となる。
【0214】
前述の工程には、環境隔離のために、不活性雰囲気あるいは真空中で行われるものがあることに注目されたい。便宜上、システム1000において、環境隔離は、製造ラインの先頭における炭素繊維材料の繰り出し及び張力調整、及び、製造ラインの末端における繊維巻き取りを除いて、全ての工程に提供される。
【0215】
本願発明は、開示された実施形態を参照して説明されたが、当業者であれば、これらが、本願発明の例示にすぎないことを容易に認識するであろう。当然ではあるが、本願発明の精神から逸脱することなく、様々な変形が可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン・ナノチューブが浸出した繊維を、マトリックス材に分散した状態で複数含んで構成される複合材料の組成物であって、
前記組成物中の前記カーボン・ナノチューブの量が、前記複合材料の約0.1重量%から約60重量%の範囲である複合材料の組成物。
【請求項2】
前記組成物中の前記カーボン・ナノチューブの量が、前記複合材料の約10重量%から約60重量%の範囲である請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項3】
前記組成物中の前記カーボン・ナノチューブの量が、前記複合材料の約15重量%から約60重量%の範囲である請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項4】
前記組成物中の前記カーボン・ナノチューブの量が、前記複合材料の約20重量%から約60重量%の範囲である請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項5】
前記組成物中の前記カーボン・ナノチューブの量が、前記複合材料の約25重量%から約60重量%の範囲である請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項6】
前記組成物中の前記カーボン・ナノチューブの量が、前記複合材料の約10重量%から約50重量%の範囲である請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項7】
前記組成物中の前記カーボン・ナノチューブの量が、前記複合材料の約20重量%から約40重量%の範囲である請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項8】
前記組成物中の前記カーボン・ナノチューブの量が、前記複合材料の約5重量%から約10重量%の範囲である請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項9】
前記組成物中の前記カーボン・ナノチューブの量が、前記複合材料の約10重量%から約20重量%の範囲である請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項10】
前記組成物中の前記カーボン・ナノチューブの量が、前記複合材料の約20重量%から約30重量%の範囲である請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項11】
前記組成物中の前記カーボン・ナノチューブの量が、前記複合材料の約30重量%から約40重量%の範囲である請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項12】
前記組成物中の前記カーボン・ナノチューブの量が、前記複合材料の約40重量%から約50重量%の範囲である請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項13】
前記組成物中の前記カーボン・ナノチューブの量が、前記複合材料の約50重量%から約60重量%の範囲である請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項14】
前記組成物中の前記カーボン・ナノチューブの量が、前記複合材料の約40重量%から約60重量%の範囲である請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項15】
前記組成物中の前記カーボン・ナノチューブの量が、前記複合材料の約10重量%である請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項16】
前記組成物中の前記カーボン・ナノチューブの量が、前記複合材料の約15重量%である請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項17】
前記組成物中の前記カーボン・ナノチューブの量が、前記複合材料の約20重量%である請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項18】
前記組成物中の前記カーボン・ナノチューブの量が、前記複合材料の約25重量%である請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項19】
前記組成物中の前記カーボン・ナノチューブの量が、前記複合材料の約30重量%である請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項20】
前記組成物中の前記カーボン・ナノチューブの量が、前記複合材料の約35重量%である請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項21】
前記カーボン・ナノチューブが浸出した繊維が、繊維トウを含んで構成された請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項22】
前記カーボン・ナノチューブが浸出した繊維が、複数のロービングを含んで構成された請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項23】
前記カーボン・ナノチューブが浸出した繊維が、織物を含んで構成された請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項24】
前記カーボン・ナノチューブが浸出した繊維が、前記マトリックス材全体にわたって均一に分布する請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項25】
前記カーボン・ナノチューブが浸出した繊維の前記カーボン・ナノチューブには、前記マトリックス材の一部の全域にわたって濃度勾配が存在する請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項26】
前記カーボン・ナノチューブが浸出した繊維が、前記複合材料の構造体の略表面付近にのみ分布する請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項27】
前記カーボン・ナノチューブが浸出した繊維に浸出した前記カーボン・ナノチューブが、一定のパターンで配向される請求項1に記載の複合材料。
【請求項28】
前記浸出したカーボン・ナノチューブが、前記繊維の軸の周囲に放射状に配設される請求項1に記載の複合材料。
【請求項29】
前記浸出したカーボン・ナノチューブが、前記繊維の軸に平行に配設される請求項1に記載の複合材料。
【請求項30】
前記カーボン・ナノチューブの長さが、前記複合材料の構造体内の少なくとも2つの部位で異なる請求項1に記載の複合材料。
【請求項31】
前記カーボン・ナノチューブの密度が、前記複合材料の構造体の少なくとも2つの部位で異なる請求項1に記載の複合材料。
【請求項32】
前記カーボン・ナノチューブの配列が、前記複合材料の構造体の少なくとも2つの部位で異なる請求項1に記載の複合材料。
【請求項33】
前記カーボン・ナノチューブのうち、長さ、密度及び配列の任意の組み合わせが、前記複合材料の構造体の少なくとも2つの部位で異なる請求項1に記載の複合材料。
【請求項1】
カーボン・ナノチューブが浸出した繊維を、マトリックス材に分散した状態で複数含んで構成される複合材料の組成物であって、
前記組成物中の前記カーボン・ナノチューブの量が、前記複合材料の約0.1重量%から約60重量%の範囲である複合材料の組成物。
【請求項2】
前記組成物中の前記カーボン・ナノチューブの量が、前記複合材料の約10重量%から約60重量%の範囲である請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項3】
前記組成物中の前記カーボン・ナノチューブの量が、前記複合材料の約15重量%から約60重量%の範囲である請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項4】
前記組成物中の前記カーボン・ナノチューブの量が、前記複合材料の約20重量%から約60重量%の範囲である請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項5】
前記組成物中の前記カーボン・ナノチューブの量が、前記複合材料の約25重量%から約60重量%の範囲である請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項6】
前記組成物中の前記カーボン・ナノチューブの量が、前記複合材料の約10重量%から約50重量%の範囲である請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項7】
前記組成物中の前記カーボン・ナノチューブの量が、前記複合材料の約20重量%から約40重量%の範囲である請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項8】
前記組成物中の前記カーボン・ナノチューブの量が、前記複合材料の約5重量%から約10重量%の範囲である請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項9】
前記組成物中の前記カーボン・ナノチューブの量が、前記複合材料の約10重量%から約20重量%の範囲である請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項10】
前記組成物中の前記カーボン・ナノチューブの量が、前記複合材料の約20重量%から約30重量%の範囲である請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項11】
前記組成物中の前記カーボン・ナノチューブの量が、前記複合材料の約30重量%から約40重量%の範囲である請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項12】
前記組成物中の前記カーボン・ナノチューブの量が、前記複合材料の約40重量%から約50重量%の範囲である請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項13】
前記組成物中の前記カーボン・ナノチューブの量が、前記複合材料の約50重量%から約60重量%の範囲である請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項14】
前記組成物中の前記カーボン・ナノチューブの量が、前記複合材料の約40重量%から約60重量%の範囲である請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項15】
前記組成物中の前記カーボン・ナノチューブの量が、前記複合材料の約10重量%である請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項16】
前記組成物中の前記カーボン・ナノチューブの量が、前記複合材料の約15重量%である請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項17】
前記組成物中の前記カーボン・ナノチューブの量が、前記複合材料の約20重量%である請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項18】
前記組成物中の前記カーボン・ナノチューブの量が、前記複合材料の約25重量%である請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項19】
前記組成物中の前記カーボン・ナノチューブの量が、前記複合材料の約30重量%である請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項20】
前記組成物中の前記カーボン・ナノチューブの量が、前記複合材料の約35重量%である請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項21】
前記カーボン・ナノチューブが浸出した繊維が、繊維トウを含んで構成された請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項22】
前記カーボン・ナノチューブが浸出した繊維が、複数のロービングを含んで構成された請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項23】
前記カーボン・ナノチューブが浸出した繊維が、織物を含んで構成された請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項24】
前記カーボン・ナノチューブが浸出した繊維が、前記マトリックス材全体にわたって均一に分布する請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項25】
前記カーボン・ナノチューブが浸出した繊維の前記カーボン・ナノチューブには、前記マトリックス材の一部の全域にわたって濃度勾配が存在する請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項26】
前記カーボン・ナノチューブが浸出した繊維が、前記複合材料の構造体の略表面付近にのみ分布する請求項1に記載の複合材料の組成物。
【請求項27】
前記カーボン・ナノチューブが浸出した繊維に浸出した前記カーボン・ナノチューブが、一定のパターンで配向される請求項1に記載の複合材料。
【請求項28】
前記浸出したカーボン・ナノチューブが、前記繊維の軸の周囲に放射状に配設される請求項1に記載の複合材料。
【請求項29】
前記浸出したカーボン・ナノチューブが、前記繊維の軸に平行に配設される請求項1に記載の複合材料。
【請求項30】
前記カーボン・ナノチューブの長さが、前記複合材料の構造体内の少なくとも2つの部位で異なる請求項1に記載の複合材料。
【請求項31】
前記カーボン・ナノチューブの密度が、前記複合材料の構造体の少なくとも2つの部位で異なる請求項1に記載の複合材料。
【請求項32】
前記カーボン・ナノチューブの配列が、前記複合材料の構造体の少なくとも2つの部位で異なる請求項1に記載の複合材料。
【請求項33】
前記カーボン・ナノチューブのうち、長さ、密度及び配列の任意の組み合わせが、前記複合材料の構造体の少なくとも2つの部位で異なる請求項1に記載の複合材料。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公表番号】特表2012−518076(P2012−518076A)
【公表日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−551193(P2011−551193)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【国際出願番号】PCT/US2010/024490
【国際公開番号】WO2010/144161
【国際公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(511201392)アプライド ナノストラクチャード ソリューションズ リミテッド ライアビリティー カンパニー (31)
【氏名又は名称原語表記】APPLIED NANOSTRUCTURED SOLUTIONS, LLC
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【国際出願番号】PCT/US2010/024490
【国際公開番号】WO2010/144161
【国際公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(511201392)アプライド ナノストラクチャード ソリューションズ リミテッド ライアビリティー カンパニー (31)
【氏名又は名称原語表記】APPLIED NANOSTRUCTURED SOLUTIONS, LLC
【Fターム(参考)】
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