説明

カーボン凝結体成形品の製造方法及びカーボン凝結体成形品

【課題】カーボン粉粒と熱硬化性樹脂との混合物からなる炊飯釜などの成形品を、加温した金型で圧縮成形する際の脱型を円滑に行う、カーボン凝結体成形品の製造方法及びカーボン凝結体成形品を提供する。
【解決手段】金型に易分解性の繊維状物質から成る伸縮性を備えた不織布を金型に配設した状態で、カーボン粉粒と熱硬化性高炭素含有化合物が主体の混合物である成形材料を該金型に供給し、加圧成形するカーボン凝結体成形品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボン凝結体から成る電磁誘導加熱が可能な炊飯釜などの調理器に関するもので、更に詳しくは熱硬化性樹脂を結合材に用いたカーボン粉粒との混合物が主体の圧縮成形における成形用金型からの成形品の脱型方法(カーボン凝結体成形品の製造方法)と、それによって得られるカーボン凝結体成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁誘導加熱調理器であるコンロや炊飯器は、高周波磁場発生装置である誘導加熱コイルが発生する渦電流によって磁性体金属である鉄やステンレスなどが発熱する電磁誘導加熱を調理器として利用したものであり、食品の速やかで均一加熱を達成するためにアルミニウムや銅などを積層したクラッド材を鍋状の成形品を調理器として用いていた。しかし、クラッド材は鍋や釜などに絞り加工するものであり、形状の自由度に制限を伴い、さらに平滑な表面を備えることから、フッ素樹脂などの耐熱樹脂塗装面との接着面が剥離し易いという不具合もあった。
【0003】
このため、従来の鉄やステンレスなどに代わる電磁誘導加熱調理器の素材として、優れた導電性と誘電性と高い熱伝導度を有しているカーボン凝結体の使用が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、棒柱状に加圧して凝縮させたカーボン圧縮体の切削加工物が提案されており、カーボン素材が高温での調理器具として有効であることが述べられている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
上述の調理器具の製造方法によれば、コークスなどのカーボン粉粒にフェノールやピッチなどの高炭素含有物である結合材を主体とする混合物を成形し、これを無酸素雰囲気下の1000〜3000℃で加熱してカーボン凝結体を得た後、任意の形状に切削加工するものである。しかし、カーボン焼結体を切削加工して任意の形状に加工することは、切削の大半を占める容器の凹状を成す中空部分にある素材の廃棄が多く、加工工数も大きい、という課題があった。また、カーボン圧縮体に内在する気孔などの欠陥を事前に検知することが困難で、切削によって露出して意匠および強度などの諸特性に悪影響を及ぼすことになる。
【0006】
これらの課題を解決する手段として、カーボン粉粒とフェノール樹脂の原料液やタールピッチなどの結合材との混合物である成形材料を金型内に注入して加圧して賦型した後、得られた成形品を焼成処理することにより、鍋状に成形されたカーボン凝結体を得る手段が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
この方法によれば、金型に注入したカーボンなどの混合物から成る成形材料の最終充填部が金型の合わせ面として金型内ガスを当該部位から円滑に排出しながら、金型内の狭い空隙を流動して充填させることによって、均質な物性を有する成形品を得る。成形材料が高い流動性を具備することが重要で、前記成形材料の凝集回避と低粘度化を促すために、結合材の混入量を多くするように調整することになる。
【0008】
しかし、上述のカーボン粉粒と結合材のフェノール樹脂を混合した成形材料は、金型底部に配設して金型と密着してせん断応力を受けながら流動する際に壁面と並行に配向するうえ、熱硬化性樹脂の含有量が多いことから該成形材料の硬化収縮が大きくなり、金型との嵌合力を向上させて脱型が困難になるという課題があった。
【0009】
上記課題には金型と成形品の離型性を促して密着を回避する手段があり、例えば、金型にナノレベルの離型膜として表面エネルギーを制御した撥水撥油性のフッ化炭素系化学吸着単分子膜を配する方法が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0010】
また、金型との間に柔軟性に富むエラストマーフィルムから成るインフレーション膜を配して離型させる方法も提案されている(例えば、特許文献5参照)。
【0011】
さらに、密閉した金型内に粉体離型剤を導入するとともに供給路と対面にある排出路から排気して金型表面に塗布する手段が提案されている(例えば、特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平9−75211号公報
【特許文献2】特開平9−70352号公報
【特許文献3】特開2007−044257号公報
【特許文献4】特開2005−280020号公報
【特許文献5】特開平06−55546号公報
【特許文献6】特開2001−170748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、これらの上記特許文献4〜6の手段は、成形材料が樹脂層を形成しながら流動する際に離型剤が剥離したり、移行したりするので、成形品表面に離型剤が残留し難く、金型との密着増加に伴ったノックアウトピンなどによる脱型時に受ける局部的な応力負荷による成形品の取り出しに、変形に伴う損傷軽減に対する有効な手段に至らない。
【0014】
しかも、無酸素雰囲気の高温で焼成処理を施す際の凝結体成形品表面には熱硬化性樹脂の炭化に伴って微細な気孔が生成されるが、該凝結体成形品表面に施す各種塗装が前記気孔に充分な塗料の含浸が行われないことから、アンカー効果による塗膜密着が不十分となり、剥離しやすいという課題を負うことになる。
【0015】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、成形品の脱型に要する応力の負荷を軽減して円滑に行うことができるカーボン凝結体成形品の製造方法及びカーボン凝結体成形品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この発明に係るカーボン凝結体成形品の製造方法は、カーボン粉粒と熱硬化性高炭素含有化合物が主体の混合物である成形材料を用いる圧縮成形の金型に、易分解性の繊維状物質から成る伸縮性を備えた不織布を配設した状態で、加圧する成形工程を備えて成るものである。
【発明の効果】
【0017】
この発明に係るカーボン凝結体成形品の製造方法は、カーボン粉粒と熱硬化性高炭素含有化合物が主体の混合物である成形材料を用いる圧縮成形の金型に、易分解性の繊維状物質から成る伸縮性を備えた不織布を配設した状態で、加圧する成形工程を備えるので、成形品の脱型に要する応力の負荷を軽減して円滑に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施の形態2を示す図で、塗膜の剥離強さの測定結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
実施の形態1.
先ず、本実施の形態の概要を説明する。本実施の形態は、カーボン粉粒と結合材であるフェノール樹脂などの高炭素含有高分子の混合物を、加温した金型に投入して圧縮成形して得た圧縮成形品を無酸素状態で炭化して得るカーボン凝結体成形品から成る炊飯釜の製造に係る圧縮成形における金型との脱型方法に関する。
【0020】
カーボン粉粒と結合材である熱硬化性樹脂との混合物を加温した金型に投入して圧縮成形する炊飯釜などの場合、金型の抜き勾配が極めて小さいうえ、成形品が硬化収縮に伴って金型面との嵌合力が強くなって脱型が困難になる。
【0021】
本実施の形態は、金型の表面を伸縮性のある不織布で上型を覆って圧縮成形に供することにより、金型から成形品を容易に脱型するようにしたものである。
【0022】
本実施の形態に基づく具体的な成形工程を含むカーボン凝結体成形品の製造方法は、以下の通りである。
(1)成形温度である約150℃に加温した圧縮成形用金型を伸縮性のある不織布で覆う;
(2)下型内に原料混合物を投入して上型を閉塞して成形、釜形状に賦型する;
(3)金型を開放、成形品を取り出す;
(4)圧縮成形した釜を無酸素状態雰囲気下で、約1200℃まで段階的に昇温して有機物を分解、飛散させる。
【0023】
カーボン粉粒の結合剤であるフェノール樹脂などの高炭素含有熱硬化性樹脂が、金型内で相応の硬化に至ったと判断された段階で行う成形品の脱型は、硬化に要する高温状態を維持してガラス転移温度に至らず、十分な強度が発現しないままで成されることが多い。
【0024】
この状態で金型から脱離するための応力を受けた成形品の壁内に亀裂発生を来し、硬化反応の副生成物である水蒸気や未反応の低分子物、さらに結合剤の分解ガスが焼成段階で前記亀裂部分に集中してフクレやクラックの発生を来す。
【0025】
本実施の形態は、結合材の硬化とともに成形品の嵌合力が増加する上金型からの脱型時に発生する応力負荷の軽減を目的に、金型と成形品の密着を抑制するために繊維状の薄膜として不織布を配設するものであり、前記硬化における熱硬化性樹脂の収縮に伴う嵌合力を低減させ、金型との密着部分を抑制して脱型時の滑りを容易とする作用がある。従って、成形品の脱型時に壁面が受ける引張りやせん断応力を低減して、成形品の壁内の亀裂や表面のフクレなどの解消を促す効果を生む。
【0026】
また、金型に配設した不織布に結合材である熱硬化性樹脂が含浸するので、得られた成形品を無酸素雰囲気で焼成処理によって得たカーボン凝結体成形品には、脆弱な引っ掻きや摩耗を来し易い結合材起源のカーボンを多く含む気孔の少ない密な状態を成す表面層を排除し、気孔を多く含んだ層が形成される。これは、具材との密着防止を目的に施すフッ素樹脂などの塗料含浸を促して、アンカー効果による塗膜密着性を向上させる効果を生む。
【0027】
圧縮成形に供する金型に、脱型を容易にする易分解性の繊維状物質であるパルプ繊維を抄造して得た伸縮性を備える不織布を配設し、カーボン粉粒と熱硬化性高炭素含有化合物であるフェノール樹脂の混合物によるパンの成形について、以下に詳述する。
【0028】
まず、成形品の脱型を円滑に行うため、金型形状に近似して伸縮性を備える不織布の製造手段について述べる。1〜30mmの不均一な長さで直径が約10μmの綿状を呈するパルプ繊維を水中で撹拌することによる水のせん断力を受けて解繊し、均一分散したスラリー状の分散液が得られるので、ここにミクロフィブリル化したセルロース繊維をパルプ繊維に対して0.3%を添加して均一に混合する。
【0029】
次に、カチオン性凝集剤を添加してフロックを形成後、アニオン性凝集剤を用いてフロックの凝集性を高めた状態を確保したスラリー液を作成するので、これを80メッシュの金網を金型内面と相似形状を備えるフィルターの内面に均一散布して濾過して脱水、さらに、80℃以下の低温で加熱乾燥をすることによって不織布を得る。
【0030】
凝集剤とは汚濁水中に分散している汚濁のもととなる微細粒子を集合させて、沈降・浮上を促進するために用いられる薬剤のことをいう。凝集剤の働きによってできる微細粒子の集合体をフロックと呼ぶ。
【0031】
得られる不織布は、坪量が30〜50g/mになるよう、金網への散布量を調整することによって、圧縮成形後の不織布厚さを限定する。また、パルプ繊維はミクロフィブリル化セルロースによって相互が結合して成るので、繊維の配向を柔軟に変化して前記不織布を圧縮成形に供する金型嵌合時の伸縮性を維持して密着を容易とすることができた。
【0032】
次に、圧縮成形によるパン状成形品を得る手段に関し、原料であるカーボン粉粒と液状の結合材との混合物を充填する金型から得られる電磁誘導加熱調理器の製造方法について、以下に詳述する。
【0033】
まず、石油コークスを約3000℃の無酸素状態で焼成してグラファイト化した塊状物を粉砕して得た平均粒径が0.3〜1.0mmのカーボン粉粒物70部と、ノボラック型のフェノール樹脂30部と、を混練して成形材料とした。
【0034】
上記成形材料は、約160℃に加温した下金型の底面に均一散布した後、成形品が硬化時の収縮などで密着し易い上型表面に不織布を保持した状態で閉塞、加圧することによって賦型する。
【0035】
投入した成形材料は底面部で溶融後、側壁部を上昇して金型内を充填する。この時、上下金型が当接するパーティング面から金型内に残存する空気と成形材料に残存する低分子物やフェノール樹脂の硬化に伴う副生成物などのガスを排出するが、金型の一部から排気ポンプによって減圧状態を得ると、円滑な充填状態が得られるので、なお良い。
【0036】
金型はフェノール樹脂の硬化が完了する5〜6分後に開放し、成形品を取り出す。得られた成形品の表面には不織布にフェノール樹脂が含浸した状態で密着している。しかし、金型開放に最も抵抗となる側壁では金型との当接面にまで至らず、また、底面部には金型との当接面まで含浸したフェノール樹脂が及んでいるものの、殆ど、密着すること無しに成形品を脱離することが出来た。
【0037】
次に、前記成形品を焼成して有機物の分解および炭素化を行うことによって、電磁誘導加熱が可能な素材を備えたパンとなるように焼成処理を行った。
【0038】
上述の成形品は、窒素雰囲気の電気炉内で加熱するが、成形時に残存した内部応力の解放による膨張挙動と焼成時の分解生成物放散に伴う収縮挙動によるクラックが発生しないように、段階的に温度の上昇を制御することが肝要であった。
【0039】
このため、焼成処理は、300℃までを3〜5℃/hr、600℃までを1〜3℃/hr、950℃までを5〜10℃/hr の昇温速度で焼成した。得られたカーボン凝結体には、表面に密着していた不織布が分解して飛散した痕跡としての微細な凹凸があるため、これをブラスト処理などにより排除して、平滑面を確保した。
【0040】
以上のカーボン凝結体から成る成形品の表面にはフェノール樹脂の分解物が気散して生成する気孔が存在し、さらに耐摩耗性に劣るうえ、調理の際に調理物が密着して調理に不具合を生じるため、カーボン凝結体の表面を保護する塗装を施す必要がある。内面には調理物を付着し難い態様を確保するためにフッ素樹脂の塗装を、外面には耐摩耗性と耐熱性に優れるシリコン樹脂を塗布し、調理器具として用いることになる。
【0041】
従って、該成形品の壁面内にクラックなどが生じていると、その部分が膨れて平滑な調理面を確保できない、という不具合が生じることになる。本実施の形態による大きな粒径のカーボン粉粒を用いた成形品の場合、成形直後の内層部では、大きな粒子が凝集し易い中央部分の強度が脆弱である上、金型温度が伝播しにくいために反応が遅延するうえ、脱型後の製品の温度も高いことから亀裂を発生しやすい。
【0042】
不織布を金型に保持せずに成形した成形品の凝結体では、250℃の雰囲気に投入して急速な昇温によって調理面に5〜20mm程度のフクレを発生したが、本実施の形態による成形品には変形を来すことがなく、また、裁断して壁面内の目視観察によっても亀裂を確認できなかった。
【0043】
実施の形態1をまとめると、以下のようになる。
この実施の形態に係るカーボン凝結体の製造方法は、カーボン粉粒と熱硬化性高炭素含有化合物が主体の混合物である成形材料を用いる圧縮成形の金型に、易分解性の繊維状物質から成る伸縮性を備えた不織布を配設した状態で、加圧する成形工程を備えて成ることを特徴とする。
【0044】
また、易分解性の繊維状物質が、草木繊維であるパルプおよびエステル系樹脂から成ることを特徴とする。
【0045】
また、伸縮性を備えた不織布が、成形品の内面に近似した形状を成すように抄造されて成ることを特徴とする。
【0046】
また、伸縮性を備える不織布の抄造が、ミクロフィブリル化したセルロースを結合材として用いて成ることを特徴とする。
【0047】
また、伸縮性を備えた不織布が、金型に載置した状態で熱硬化性樹脂を含浸させて用いることを特徴とする。
【0048】
実施の形態2.
繊維状に加工したフェノール樹脂または籾殻繊維を燻蒸した繊維によって脱型を容易にする不織布を作成し、これを圧縮成形に供する金型に配設して、カーボン粉粒とフェノール樹脂の混合物によるパン状成形品の成形と調理器具となる凝結体の製造方法について、以下に詳述する。
【0049】
まず、成形品の脱型を円滑に行うため、金型形状に近似して伸縮性を備える不織布の製造方法について述べる。籾殻を2枚の円板に挟んですり潰すようにして繊維を含む粉末を取り出し、これを水洗しながら粉末を除去して繊維分のみを回収する。前記繊維分は450℃〜800℃、好ましくは600℃の窒素置換した無酸素雰囲気下で加熱する燻蒸処理を行うことによって、SiOまたはSiOを45〜55%含有する籾殻炭化物繊維が得られる。
【0050】
上記籾殻炭化物繊維は水中で撹拌してスラリー状の分散液を得た後、ミクロフィブリル化したセルロース繊維を前記籾殻炭化物繊維に対して0.3%を添加して均一に混合、カチオン性凝集剤を用いてフロックを形成した後、アニオン性凝集剤を用いてフロックの凝集性を高めた状態を確保した第1のスラリー液を作成する。
【0051】
一方、上記第1のスラリー液とは別に、同様手段でポリエステル繊維の分散液にミクロフィブリル化セルロース繊維を前記ポリエステル繊維の0.3%を添加して均一に混合、これにカチオン性凝集剤を添加してフロックを形成後、アニオン性凝集剤を用いてフロックの凝集性を高めた状態を確保した第2のスラリー液を作成する。
【0052】
次に、予め作製した80メッシュの金網を上金型内面と相似形状を備えたフィルターの凹状内面に、第2のスラリー液を均一に散布して濾過、減圧吸引して脱水後、同面上に積層するようにして第2のスラリー液を均一散布して濾過、それを十分に脱水後、80℃以下の低温で加熱乾燥をすることによって不織布を得た。
【0053】
不織布は、第2のスラリー液の坪量が10〜30g/m、第1のスラリー液の坪量が20〜50g/mを成すように金網への散布量を調整し、圧縮成形後の不織布厚さを限定することが肝要である。
【0054】
ここで用いたポリエステル繊維はミクロフィブリル化セルロースによって相互が強固に結合して成るので、繊維の配向を柔軟に変化して前記不織布を圧縮成形に供する金型嵌合時の伸縮性を維持して密着を容易とすることができる。
【0055】
また、籾殻炭化物繊維の長さが0.1〜2mmである短繊維であっても、含有するSiOまたはSiOによってミクロフィブリル化セルロースが吸着しやすい状態を保持して強固なフロックを形成して成るので、下層を成すポリエステル繊維の不織布が減圧吸引によって密と成した繊維間空隙を通過せず、積層して保持された。
【0056】
次に、圧縮成形によってパン状の成形品を得る。まず、石油コークスを約3000℃でグラファイト化した塊状物の粉砕として得た平均粒径が0.3〜1.0mmのカーボン粉粒物70部と、ノボラック型のフェノール樹脂30部と、を混練して成形材料とした。
【0057】
成形品が硬化収縮などで密着し易い上金型面に籾殻炭化物繊維を保持するポリエステル繊維の抄造面を当接するように保持した後、成形材料を加温した下金型の底面に均一散布して閉塞、加圧することによって賦型する。
【0058】
投入した成形材料は底面部で溶融後、側壁部を上昇して金型内を充填するが、この時、上下金型の当接面に設けた溝から、金型内の残存空気と成形材料に残存する低分子物やフェノール樹脂の硬化に伴う副生成物などのガスを、真空ポンプなどによって減圧状態を得ながら排気すると、円滑な充填状態が得られるので、好ましい。
【0059】
金型は約160℃に加温されており、フェノール樹脂の硬化が完了する5〜6分後に開放し、成形品を取り出す。成形品は不織布にフェノール樹脂が含浸して密着しているが、金型当接面まで透過せず、金型開放の成形材料の嵌合による抵抗を緩和する効果を生み出し、密着すること無しに成形品を脱離することが出来た。
【0060】
次に、前記成形品は電磁誘導加熱を可能とするよう、焼成処理を行った。成形品は窒素雰囲気で加熱し、内部応力の解放による膨張と分解物放散による収縮を抑制してクラック発生を防止するため、300℃までを3〜5℃/hr、600℃までを1〜3℃/hr、1350℃までを5〜10℃/hrの段階的な昇温速度とした。
【0061】
得られたカーボン凝結体は、脱型時の壁面内層における亀裂発生を確認する250℃まで急速に加温を施しても、フクレの発生を来すことがなく、また、裁断して壁面内の目視観察によっても亀裂を確認できなかった。
【0062】
以上のカーボン凝結体から成る成形品には表面に密着していた不織布が分解して飛散した痕跡である微細な凹凸と耐摩耗性に劣るポリエステル繊維の炭化物があり、これをブラスト処理などで排除し、籾殻炭化物繊維が露出した平滑面を確保した。
【0063】
該凝結体には分解物の飛散痕である気孔が存在するため、調理に不具合を生じないように、内面には調理物を付着し難い態様を確保するフッ素樹脂の塗装を、外面には耐摩耗性と耐熱性に優れるシリコン樹脂を塗布し、調理器具として用いることになる。
【0064】
該成形品は、上金型と嵌合した不織布の金型との反当接面にあって成形品の内面を形成する籾殻炭化物繊維を備えた面は、無酸素状態の高温での焼成処理において、フェノール樹脂などの分解生成物などと反応して強固なSiCを生成して調理面の基材として優れた剛性を備えて、調理時にヘラなどの調理道具による摩擦や圧接などの負荷による損傷への耐性に優れるように改質されるので、好ましい。
【0065】
同様に、基材の強度が向上したことによって、調理具として供するために行う上述の表面塗装において、塗膜の密着性が向上する効果を得た。籾殻炭化物繊維を具備した不織布は、成形材料が含んでカーボン粉粒間の空隙を充填して余る過剰量のフェノール樹脂を含浸して成るが、前記不織布の厚さは、これを透過するに至らない。従って、籾殻炭化物繊維同士が成した多くの空隙を該凝結体は備えて成り、優れた塗料の含浸性を呈する。
【0066】
つまり、塗膜密着性は、耐摩耗性と耐熱性に優れるシリコン樹脂をスプレー塗装の際、塗料がカーボン凝結体の備える気孔内に含浸してアンカー効果により固着して発現する。従って、籾殻炭化物繊維を具備しない不織布を配設した場合、基材への含浸に乏しいうえに脆弱であることから、破壊を伴う塗膜剥離が観察されたのに対し、本実施の形態のカーボン凝結体では、優れた塗料含浸性を呈するうえに基材が強靱であることから高い塗膜密着性を呈する。
【0067】
塗膜の剥離強さの測定は、塗膜のみに1mm間隔で縦横に11本の切れ目を碁盤目状に入れ、該面上にテープを密着させて20回の引き剥しを繰返した後、升目部分の欠損箇所を確認、無欠損の升目の数(a/100)で評価する。その結果を図1に示す。
【0068】
図1に示すように、籾殻炭化物繊維を具備しない不織布を配設したものは78/100であったが、本実施の形態のカーボン凝結体の場合は全く剥離しない100/100の結果であり、優位に優れていることが確認できた。
【0069】
なお、本実施の形態では、易分解性繊維としてポリエステルを用いたが、これに代えて各種パルプを用いても同様の効果が得られる。また、種子草木の外披から成る繊維を主体としたフロックスから成るスラリー液に代えて、カーボン粉粒と、それと易分解性繊維を結合する接着剤の混合物を用いても、同様の効果が得られる。
【0070】
実施の形態2をまとめると、以下のようになる。
この実施の形態に係るカーボン凝結体の製造方法は、カーボン粉粒と熱硬化性高炭素含有化合物の結合材が主体の混合物である成形材料を用いる圧縮成形の金型に、易分解性樹脂繊維と種子草木の外披から成る繊維を含んだ伸縮性を備える不織布を配設した状態で、加圧する成形工程を備えて成ることを特徴とする。
【0071】
また、種子草木の外披から成る繊維が、籾殻繊維を燻蒸したものであることを特徴とする。
【0072】
また、不織布が、成形品の内面形状に近似して抄造されて成ることを特徴とする。
【0073】
また、不織布が、易分解性樹脂繊維と種子草木の外披から成る繊維の固定にミクロフィブリル化したセルロースを用いて抄造したものであることを特徴とする。
【0074】
また、不織布が、易分解性樹脂繊維を抄造したうえに種子草木の外披から成る繊維を積層した混抄紙であることを特徴とする。
【0075】
また、不織布が、易分解性樹脂の長繊維を抄造したのちに面方向に負荷をかけて繊維間を密な状態にした後、種子草木の外披から成る短繊維を積層することを特徴とする。
【0076】
この実施の形態に係るカーボン凝結体成形品は、内部がカーボン粉粒と熱硬化性高炭素含有樹脂炭化物の混合体で、表面に籾殻繊維燻蒸物と高炭素含有樹脂炭化物の混合体を配し、最表面に籾殻繊維燻蒸物が高炭素含有樹脂炭化物と複合化しない状態で露出して成ることを特徴とする。
【0077】
また、カーボン粉粒が、コークスを無酸素雰囲気の2600℃以上の高温で処理して得た黒鉛であることを特徴とする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン粉粒と熱硬化性高炭素含有化合物が主体の混合物である成形材料を用いる圧縮成形の金型に、易分解性の繊維状物質から成る伸縮性を備えた不織布を配設した状態で、加圧する成形工程を備えて成ることを特徴とするカーボン凝結体成形品の製造方法。
【請求項2】
前記易分解性の繊維状物質が、草木繊維であるパルプおよびエステル系樹脂から成ることを特徴とする請求項1に記載のカーボン凝結体成形品の製造方法。
【請求項3】
前記伸縮性を備えた不織布が、成形品の内面に近似した形状を成すように抄造されて成ることを特徴とする請求項1に記載のカーボン凝結体成形品の製造方法。
【請求項4】
前記伸縮性を備える不織布の抄造が、ミクロフィブリル化したセルロースを結合材として用いて成ることを特徴とする請求項3に記載のカーボン凝結体成形品の製造方法。
【請求項5】
前記伸縮性を備えた不織布が、金型に載置した状態で熱硬化性樹脂を含浸させて用いることを特徴とする請求項1に記載のカーボン凝結体成形品の製造方法。
【請求項6】
カーボン粉粒と熱硬化性高炭素含有化合物の結合材が主体の混合物である成形材料を用いる圧縮成形の金型に、易分解性樹脂繊維と種子草木の外披から成る繊維を含んだ伸縮性を備える不織布を配設した状態で、加圧する成形工程を備えて成ることを特徴とするカーボン凝結体成形品の製造方法。
【請求項7】
前記種子草木の外披から成る繊維が、籾殻繊維を燻蒸したものであることを特徴とする請求項6に記載のカーボン凝結体成形品の製造方法。
【請求項8】
前記不織布が、成形品の内面形状に近似して抄造されて成ることを特徴とする請求項6に記載のカーボン凝結体成形品の製造方法。
【請求項9】
前記不織布が、易分解性樹脂繊維と種子草木の外披から成る繊維の固定にミクロフィブリル化したセルロースを用いて抄造したものであることを特徴とする請求項6に記載のカーボン凝結体成形品の製造方法。
【請求項10】
前記不織布が、易分解性樹脂繊維を抄造したうえに種子草木の外披から成る繊維を積層した混抄紙であることを特徴とする請求項6に記載のカーボン凝結体の製造方法。
【請求項11】
前記不織布が、易分解性樹脂の長繊維を抄造したのちに面方向に負荷をかけて繊維間を密な状態にした後、種子草木の外披から成る短繊維を積層することを特徴とする請求項6に記載のカーボン凝結体成形品の製造方法。
【請求項12】
内部がカーボン粉粒と熱硬化性高炭素含有樹脂炭化物の混合体で、表面に籾殻繊維燻蒸物と高炭素含有樹脂炭化物の混合体を配し、最表面に籾殻繊維燻蒸物が高炭素含有樹脂炭化物と複合化しない状態で露出して成ることを特徴とするカーボン凝結体成形品。
【請求項13】
前記カーボン粉粒が、コークスを無酸素雰囲気の2600℃以上の高温で処理して得た黒鉛であることを特徴とする請求項12に記載のカーボン凝結体成形品。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−201671(P2010−201671A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−47568(P2009−47568)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】