説明

カーボン繊維含有基材上への触媒粒子の電気化学的堆積方法およびそのための装置

本発明は、微細な触媒粒子を、補償層("微細層")を有するカーボン繊維含有基材上へ電気化学的に堆積するための方法および装置について記載する。該方法は、イオノマー、カーボンブラック、および金属イオンを含有する前駆体懸濁液の調製を含む。この懸濁液を基材に適用し、そしてその後乾燥させる。カーボン繊維含有基材上への触媒粒子の堆積を、水性電解質中でのパルス電気化学法によって実施する。該方法によって製造される貴金属含有触媒粒子は、ナノメートル領域の粒径を有する。該触媒被覆基材は、電気化学素子、例えば燃料電池(メンブレン型燃料電池、PEMFC、DMFCなど)、電解槽または電気化学センサーのための電極、ガス拡散電極、およびメンブレン電極ユニットの製造に使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の詳細な説明
本発明は、カーボン繊維含有基材上への触媒粒子の電気化学的堆積方法およびそのための装置について記載する。触媒粒子で被覆された基材は、例えば電気化学的装置、例えば燃料電池、メンブレン型燃料電池、電解槽または電気化学センサーのための電極の製造に使用される。特に、それらは高分子電解質メンブレン型燃料電池("PEMFC")および直接メタノール型燃料電池("DMFC")のためのガス拡散電極("GDE")、およびメンブレン電極ユニット("MEU")の製造に使用される。
【0002】
燃料電池は、燃料と酸化剤とを互いに分離した位置にある2つの電極で電流、熱および水に変換する。水素、高水素ガスまたはメタノールは燃料としてはたらき、且つ、酸素または空気は酸化剤としてはたらくことができる。燃料電池におけるエネルギー変換工程は、特に高い効率によって特徴付けられる。この理由のため、燃料電池は、移動用、定置用および携帯用の用途に対して重要さを増してきつつある。
【0003】
燃料電池スタックとは、燃料電池ユニットの積層状の配置("スタック")である。燃料電池ユニットは以下で単に燃料電池としても示される。それぞれの場合において、それはセパレーター板とも呼ばれ且つガス供給および電流の伝導を提供するためのいわゆる双極板の間に配置されるメンブレン電極ユニットを含む。
【0004】
メンブレン型燃料電池の中心はメンブレン電極ユニット("MEU")である。メンブレン電極ユニットはサンドイッチ状の構造を有しており、且つ通常5層で構成される。この5層メンブレン電極ユニットの製造のために、サンドイッチのように、表面のアノードのガス拡散層(アノード"GDL")、表面の触媒層、裏面のカソードのガス拡散層および裏面の触媒層と、中心のイオノマーメンブレンとの接合あるいはラミネーションを実施する。
【0005】
適した封止材を用いて封止を実施できる。
【0006】
PEMFCの場合、高分子電解質メンブレンはプロトン伝導性高分子材料からなる。それらの材料は以下で単にイオノマーとしても示される。好ましくは酸性の官能基、特にスルホン酸基を有するテトラフルオロエチレン−フルオロビニルエーテルコポリマーが使用される。かかる材料は、例えばNafion(登録商標)(E.I.DuPont)またはFlemion(登録商標)(旭硝子株式会社)の商品名で販売されている。しかしながら、無フッ素イオノマー材料、例えばスルホン化ポリエーテルケトンまたはアリールケトンまたはポリベンズイミダゾール以外に、セラミック材料も使用できる。
【0007】
MEUの製造の場合、通常は触媒層を最初にガス拡散層に適用する。そのように製造されたガス拡散電極("GDE"、以下で単に"電極"としても示す)をその後、イオノマーメンブレンの表面と裏面とに接合する。適切であれば、封止材をその後、端部に適用する。しかしながら、触媒層を最初にメンブレンに適用する方法も公知である。
【0008】
通常は、ガス拡散層を触媒で被覆することによってガス拡散電極を製造する。適したカーボンブラック担持貴金属触媒(例えばPt/Cタイプ)をガス拡散層表面に適用する。通常、(総質量に対して)20〜80質量%の貴金属装填を有する市販のPt/C担持触媒またはPt/Ru/C担持触媒を、この目的のために使用する。そのように製造された2つのガス拡散電極をその後、イオノマーメンブレンの表面および裏面に(例えばラミネーションによって)接合する。該触媒粒子は、メンブレン表面に押し込まれる。それによる欠点は、触媒の使用度が低いことである。30%までの高価なPt粒子が、いわゆる三相領域中に存在しないので、無効なままである。触媒活性は、(a)イオン伝導相、即ち、プロトンを連行するイオノマーメンブレンと、(b)電子伝導相、即ち、ガス拡散層と電気的に接触した電気触媒と、(c)水素/メタノールあるいは酸素を供給するための、および生成した水を除去するための気相または液相とが交わる場合にのみ引き起こされる。触媒の使用度が低いせいで、この方法によって製造されたほとんどのメンブレン電極ユニットは高い触媒装填量、およびそれゆえに高い貴金属消費量を有する。
【0009】
しかしながら、特に移動用の分野における燃料電池技術の商品化のためには、連続生産に適した経済的な手段によって製造され、低い貴金属消費且つ高電力を有する部品(例えば電極、メンブレン電極ユニットまたはスタック)が必要とされる。
【0010】
US5084144号およびUS6080504号は、ガス拡散電極製造のための電気化学的方法を開示し、そこでは電気的に伝導性のある基材および対向電極を、金属イオンを含有する電解浴と接触させる。触媒活性な金属の堆積は短いカソード電流パルスによって実施される。
【0011】
WO00/56453号は、同様に、触媒活性材料を含有する電解質からの触媒の電気化学的堆積方法について記載している。
【0012】
上述の方法の欠点は、高価な貴金属を含有する電解浴が必要とされることである。電解浴は原則として非選択性であり、電解浴中に溶解している貴金属の使用は非常に限定的である。さらには、貴金属の損失がそれらの後処理の間に生じる。
【0013】
DE19720688号C1は、電極/固体電解質ユニットの製造方法を提案しており、そこでは貴金属塩を電極と固体電解質(即ちイオノマーメンブレン)との間に導入し、そして貴金属がその後、電気化学的に三相領域中で堆積する。電解浴は使用されない。しかしながら、この方法の欠点は、固体電解質がイオン塩の残滓によって汚染され得ることである。さらには、工程の間、該メンブレンを連続的に水で加湿して、伝導性を維持しなければならない。その水が水溶性の貴金属塩を前駆体層から部分的に洗い流し、従って望ましくない貴金属の損失が生じ、それがこの方法をより高価にすることが判明した。
【0014】
EP1307939号B1は、メンブレン電極ユニットを触媒で被覆する方法およびそのための装置を開示している。この方法では、触媒前駆体としての金属化合物を含有する層("前駆体層"としても示される)をイオノマーメンブレンに適用し、そして該触媒粒子をその後、電気化学的にその上に堆積させ、該メンブレンは電着の間、水蒸気含有雰囲気中に存在する。この方法の欠点は、ここでもまた、メンブレンは固体電解質として使用され、且つ前記のメンブレンが工程の間に水溶性の前駆体化合物で汚染され得ることである。該方法は、さらに、不便且つ高価である。なぜなら、該メンブレンを常に水蒸気含有雰囲気中で保たなければならないからである。
【0015】
M.S.Loeffler、B.Gross、H.Natter、R.Hempelmann、Th.KrajewskiおよびJ.Divisekは、Phys.Chem.Chem.Phys.,2001,3,pages333〜336において、前駆体懸濁液からのPtナノ粒子の電気化学的堆積について報告している。該堆積はガラス状カーボンを含むディスク上で実施される。この基材は模型基材としてはたらき、且つ、ガス透過性おおよび多孔性の欠如のせいで、燃料電池技術には使用できない。
【0016】
従って本発明の課題は、触媒粒子の導電性、多孔性基材上への電気化学的堆積方法において、経済的且つ安価であり、且つ固体電解質としてのメンブレンの使用を不要にした方法を提供することであった。それはナノメーターの範囲の非常に微細な触媒粒子の堆積を可能にし、且つ連続生産に適しているべきである。さらには、該方法を実施するための装置を提供することが本発明の課題であった。
【0017】
それらの課題は、本発明によれば、請求項1による方法、および請求項16による該目的のために必要とされる装置を提供することによって解決される。本発明による好ましい実施態様は、それぞれの従属請求項に記載される。
【0018】
本発明は、カーボン繊維含有基材上への触媒粒子の電気化学的堆積方法において、
a) イオノマー、粉末カーボン材料および少なくとも1つの金属化合物を含む前駆体懸濁液を、カーボン繊維含有基材上に適用する工程と、
b) 前記前駆体懸濁液を乾燥させる工程と、
c) 水性電解質中で、触媒粒子をカーボン繊維含有基材上に電気化学的に堆積する工程とを含み、カーボン繊維含有基材が補償層を含む方法に関する。
【0019】
本方法はさらには、金属粒子の堆積並びに乾燥工程の後、イオン不純物を除去するための浄化工程を含む。
【0020】
本発明はさらには、触媒粒子をカーボン繊維含有基材上に電気化学的に堆積するための装置において、
a) 前駆体懸濁液で被覆されたカーボン繊維含有基材(1)に対する封止部(7)を有するホルダー(6)、
b) 該ホルダーに導入される、基材上部の水性電解質(2)用の容器、
c) 被覆されたカーボン繊維含有基材内で電界を発生させるための電気的コンタクト(3)、(4)および(5)、および
d) 水性電解質を供給および除去する手段(2a)
を含む装置を含む。
【0021】
該装置をさらに、リボン状カーボン繊維含有基材の連続的な被覆に適するように設計できる。さらに、基材の材料の浄化および/または乾燥のための機構、および随意にそれらの取り扱いおよび輸送のための機構を有する。さらには、電気化学的堆積を実施するための測定および制御機構、特に例えばガルバノスタット、ポテンシオメーター等を含んでもよい。
【0022】
本発明による電気化学的方法においては、触媒粒子を前駆体懸濁液からカーボン繊維含有基材上に堆積させる。該前駆体懸濁液は、成分としてイオノマー調製物、粉末状カーボン材料、および少なくとも1つの金属化合物を含む。
【0023】
導電性カーボンブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、導電性カーボン繊維、グラファイト、活性炭、または大きな表面積を有するそれらの混合物を、粉末カーボン材料として使用できる。例は、Ketjenblack EC(Akzo社製)、またはVulcan XC72(Cabot社製)である。
【0024】
前記のイオノマー調製物を、水性イオノマー懸濁液またはイオノマーのアルコール溶液として使用でき、且つ、様々な製造元から入手可能である。酸性の官能基、特にスルホン酸基を有するテトラフルオロエチレン/フルオロビニルエーテルコポリマーが好ましくは使用される。例は、10質量%のNafion(登録商標)の水性分散液(米国、DuPont製)、または5質量%のNafion(登録商標)のイソプロパノール/水溶液(Aldrich Chemicals製)である。しかしながら、他に、特に無フッ素イオノマー材料、例えばスルホン化ポリエーテルケトンまたはアリールケトンまたはポリベンズイミダゾールおよびそれらの組み合わせも、懸濁液または溶液として使用できる。
【0025】
使用される貴金属塩は、Pt、Ru、Ag、Au、Pd、Rh、Os、Irおよびそれらの混合物からなる群から選択される貴金属の水溶性塩、特に塩化物、硝酸塩、硫酸塩、または酢酸塩である。Ptの例は、ヘキサクロロ白金(IV)酸(H2PtCl6)、テトラクロロ白金(II)酸(H2PtCl4)、塩化白金(II)、テトラミン硝酸白金、硝酸白金(II)(Pt(NO32))またはテトラヒドロキソPt(IV)塩である。ルテニウムの例は、塩化ルテニウム(III)(RuCl3)、酢酸ルテニウム(III)、硝酸ニトロシルルテニウム(III)である。元素周期律表の遷移金属の水溶性化合物、例えば、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ti、V、Cr、W、Moおよびそれらの混合物からなる群から選択される金属の水溶性塩が、さらに金属塩として使用される。例はCoCl2、Cr(NO32、NiCl2またはCu(NO32である。
【0026】
ここで記載される電気化学的方法を用いて、貴金属含有合金、例えばPtRu、PtNi、PtCr、PtCoまたはPt3Coを、多数の金属塩を含有する前駆体懸濁液から堆積できる。
【0027】
該懸濁液は、さらなる添加剤、例えば湿潤剤、分散剤、結合剤、増粘剤、安定剤または酸化防止剤を有してよく、且つ、それぞれの適用方法に合わせて製造されたものであってよい。スクリーン印刷による適用のための懸濁液は、例えば、ペーストの形態である。該懸濁液の調製のために、成分を完全に混合する。従来の分散方法(例えば超音波による攪拌、溶解機、攪拌機、ロールミル、ビードミルなど)がこの目的に適している。
【0028】
該前駆体懸濁液を、好ましくは導電性のカーボン繊維含有基材に適用する。適した材料は、東レ(日本)、Textron(米国)、ETEK(米国)またはSGL−Carbon(ドイツ)社から市販のカーボン繊維ペーパーまたはカーボン繊維フリース(いわゆる"不織材料")である。該カーボン繊維含有基材をさらにグラファイト化あるいは炭化してもよい。該カーボン繊維含有基材("ガス拡散層"としても示す)を疎水化してもよく、且つ、さらには部分的な不織布を有してもよい。それを単一のシートとして、または連続法に好適なロールとして使用できる。
【0029】
特に微細な触媒粒子が本発明による方法によって製造されることが判明した。それらの特に微細な触媒粒子(即ち、≦10nm、好ましくは≦5nmの平均直径を有する粒子)の堆積のために、微細な繊維構造を有する基材、例えばカーボン繊維フリースまたはカーボン繊維ペーパー(即ち"不織材料")が有用であることが証明されている。それらの基材におけるカーボン繊維の厚さは、0.5〜50μmの範囲、好ましくは0.5〜20μmの範囲である。それらのカーボン繊維基材の微細な繊維が、繊維の末端、先端、および縁部で、非常に高い電流密度の領域を生成する。該前駆体懸濁液の適用後、それらの領域を前駆体層内で金属化合物と接触させる。原則的に、堆積される粒子の粒径は電流密度の増加に伴って減少するので、このやり方で非常に小さい触媒粒子を堆積させることが可能である。さらには、粒子の凝集物の形成が避けられる。
【0030】
特に微細な触媒粒子(即ち、≦10nm、好ましくは≦5nmの粒子)の製造のために、いわゆる補償層("微細層"または"微細多孔層")を含むカーボン繊維含有基材の使用がさらに有用であることが証明されている。この補償層は微細な多孔質、電気伝導性であり、且つ典型的には導電性のカーボンブラックと疎水ポリマー、例えばPTFEとの混合物を含有する。通常、それを基材の片側(即ち、組み立ての後、メンブレンに面する側)に適用し、且つ非常に微細な孔構造を有する。非常に小さい粒子の堆積をみちびく非常に高い電流密度の領域が、補償層の微細な孔に形成される。
【0031】
空気透過率(ガーレーによる)を、基材の孔構造の尺度として使用できる。最も適したカーボン繊維含有基材は、<20cm3/(cm2秒)、好ましくは<10cm3/(cm2秒)、および特に好ましくは<5cm3/(cm2秒)の空気透過率(ガーレーによる)を有している(例えばISO5636〜5によって、標準的なガーレー透気度試験機;例えば4118または4340型を使用して測定)。20cm3/(cm2秒)を上回る空気透過率値を有する基材は、一般に、補償層を有さず、および/またはそれらの粗い孔構造のために適していない。
【0032】
補償層の層厚は5〜100μmの範囲、好ましくは10〜50μmの範囲であるべきである。最良の結果は、約20μmの厚さの補償層を有する基材で得られる。
【0033】
特に適した基材の例は、タイプ"C"のSigracet GDL基材(例えばGDL30BC、またはGDL31BC(SGL Technologies GmbH、マイティンゲン、ドイツ))、あるいは基材ETEK LT 1200−N(PEMEAS Fuel Cell Technologies、ニュージャージー州サマセット、米国)である。
【0034】
該前駆体懸濁液を、カーボン繊維含有基材の補償層に適用した場合、カーボン繊維含有基材の開孔構造内への該懸濁液の過度に深い透過が防止される。従って、触媒粒子は、基材表面の狭く、限定された領域内で堆積される。
【0035】
カーボン繊維含有基材の補償層への前駆体懸濁液の適用を、公知の方法、例えば噴霧、浸漬、ドクターブレード、ブラシ、オフセット印刷、スクリーン印刷またはステンシル印刷によって実施できる。好ましくは"エアブラシ"法が使用され、懸濁液の粘度は適度に低く調節されている。より良好な安定性のために、基材を枠内で固定し、且つ、適用をゆっくり且つ均一に実施して、該層を噴霧工程の間に自然に半硬化乾燥させる。強く疎水性の基材の場合、該懸濁液を複数の段階で適用し、該噴霧工程の間に中間乾燥を実施する。該懸濁液は、適用後、わずかに補償層内に浸透する。その結果、基材表面への前駆体懸濁液の付着が改善される。
【0036】
電着の前に、適用された前駆体懸濁液を乾燥させる。その結果、前駆体層が形成される。これを従来の乾燥方法、例えば乾燥オーブン内で、真空によって、空気循環または赤外線によって、随意に連続的な方法において実施できる。該乾燥工程を、不活性ガス雰囲気(例えば窒素、アルゴン、あるいは真空)下、室温または高温(最高130℃まで)で実施でき、且つ、乾燥時間は数分から数時間の間であり、手段に依存する。該前駆体層の層厚あるいは前駆体懸濁液の量を、1cm2あたり0.01〜5mgの金属、好ましくは1cm2あたり0.1〜4mgの金属が堆積されるように選択するべきである。乾燥後の前駆体層の厚さは、典型的には5〜100μmの範囲、好ましくは5〜50μmの範囲である。
【0037】
乾燥後、乾燥した前駆体懸濁液中の金属イオンは還元している。この目的のために、被覆された導電性基材を、基材のためのホルダーを有し、且つホルダー内に導入された基材上部に電解質液を供給し且つ調節するための手段を有する装置内に導入する。該電解質は基材上部の容器内に存在し、該容器はTeflonのフレームおよび随意に封止部によって形成されている。触媒粒子の電気化学的堆積のための装置の概略図を図1に示す。
【0038】
カーボン繊維含有基材(1)を、カソードコンタクト板(4)に適用する。プラスチック、好ましくはTeflonおよび封止部(7)を含むホルダーフレーム(6)を用いて、水性電解質のための容器(2)を基材上部に設置する。該容器は、工程中に水性電解質を移送するための供給ラインまたは排出ライン(2a)を有する。アノードのコンタクトを、電解質上部で板(3)および供給ライン(5)を用いて提供する。アノードのコンタクト("対向電極")のために、ガラス状カーボンに加えて、例えば、白金網を使用することが可能であり、該白金網はその寸法によって導電性基材上の電気化学的活性領域を予め決定する。
【0039】
希釈された酸、好ましくは希硫酸または希釈された過塩素酸を0.5〜2mol/lの濃度で水性電解質として使用できる。電流密度のばらつきを避けるために、2つの電極間の間隔は可能な限り小さく且つ一定であるべきである。その間隔は好ましくは1mm〜20mmの範囲である。電解質の量を可能な限り低く保ち、且つその量を可能な限り一定にすべきである。該装置をさらに、リボン状導電材料の連続的な被覆に適するように設計できる。さらには、該装置は基材の洗浄および/または乾燥のための機構、および随意にそれらの取り扱いおよび輸送のための機構を有する。
【0040】
パルス電着法(PED)を用いた電気化学的堆積方法のパラメータは当業者に公知である。この文脈における詳細は上述のM.S.Loeffler、B.Gross、H.Natter、R.Hempelmenn、Th.KrajewskiおよびJ.Divisekによる出版物内で見られる(Phys.Chem.Chem.Phys.,2001,3,pages333〜336)。好ましくはパルス法を、装置技術に関する理由のために、ガルバノスタットモード(即ち、定電流)で実施する。しかしながら、ポテンシオスタットモード(即ち、定電圧)でも作業できる。
【0041】
下記の設定がガルバノスタットの作業に有利であることが証明されている。パルス電流密度(Ip)は、好ましくは10〜5000mA/cm2の範囲である。電流を維持するため、および粒径を確実にするために、0.1〜20Vの範囲、好ましくは5〜20Vの範囲の電圧が必要である。パルス幅("ton時間")は0.5〜10ミリ秒の範囲であり、且つ、パルス休止("toff時間")は0.1〜10ミリ秒である。パルス周波数は好ましくは500〜1000ヘルツの範囲である。堆積時間は通常、好ましくは室温で1〜20分である。
【0042】
特に、パルス電圧を電解質の導入前に印加することを確実にするべきである。電解質を導入してすぐに、電流回路を閉じ、そしてパルス電着を直ちに開始する。それによって前駆体層外での金属塩の早すぎる溶解が防がれ、従って金属塩が電解質内に拡散し得ないことが判明している。それによって電解質の損傷が防がれ、且つ金属の損失が避けられる。さらには、ナノメーター領域の非常に微細な触媒粒子の堆積が実現する。なぜなら、触媒粒子の形成の間、核形成プロセスが(例えば電解質からの金属堆積による)粒子成長のプロセスよりも優位だからである。
【0043】
パルス堆積後、基材の水性洗浄のために、脱イオン水("DI水")が有用であることが証明されている。暖かい脱イオン水での完全な洗浄によって、電解質残滓、塩残滓、または他の不純物が容易に除去される。浄化効果を随意に超音波による手段で改善できる。
【0044】
洗浄された基板の乾燥を、従来の乾燥装置(例えば乾燥オーブン、空気循環、熱風、IR)内で実施できる。自動化された連続生産の場合、洗浄および乾燥工程を連続プラントに組み込める。
【0045】
本発明によって製造された触媒を被覆された基材を、イオノマーメンブレンと共に公知の方法(例えばラミネーション)で電極(好ましくはガス拡散電極)として加工して多層メンブレン電極ユニットを得ることができる。本発明による方法は、低い貴金属装填を有し、燃料電池スタックにおいて高い電力を生成する電極の生産を可能にし、従って低い貴金属消費の実現を促進する。
【0046】
本方法は、メンブレン電極ユニット(MEU)の連続的な生産に非常に適している。関連装置は単純な設計および継続的な連続生産に対する容易な拡張性によって特徴付けられる。
【0047】
実験
パルス電着法を実施するために、プログラム可能なパルス発生器(HAMEG HM 8130型、Hameg Elektronik製、ドイツ)を、パルス幅とパルス電流密度とを設定して使用する。使用された電圧源はKEPCO Electronic社(米国イリノイ州)製のガルバノスタットである。
【0048】
粒径をTEM(光分解能透過型電子分光法)によって測定する。粒子の結晶性および金属組成を、XRD(X線回折法、粉末試料)によって測定する。
【0049】
本発明を以下の実施例においてより詳細に説明する。該実施例は単に本発明を説明するために提供され、保護の範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】触媒粒子の電気化学的堆積のための装置の概略図である。
【0051】
実施例
実施例1
触媒粒子での被覆(Pt3Co; 装填量0.3mg/cm2
補償層を有するカーボン繊維基材
100cm2の面積を有するカーボン繊維基材を被覆するために、以下の成分:
2.5mlのNafion(登録商標)分散液(水中で10質量%、DuPont製)
16.0mlのイソプロパノール
10.0mgの導電性カーボンブラック(Ketjenblack EC300J、Akzo製)
90.0mgのヘキサクロロ白金酸(H2PtCl6・H2O;固体、Chempur製)
8.7mgのコバルト塩化物(CoCl2、固体、Chempur製、カールスルーエ)
からなる前駆体懸濁液を調製する。
【0052】
個々の成分を秤量し、そして50mlの容器内で超音波攪拌(35kHz)を使用して10分間、分散させる。その後、該懸濁液をエアブラシ法によってSIGRACET 30 BC型(SGLカーボン製、ドイツ、マイティンゲン)のカーボン繊維基材に適用する。材料:グラファイト化カーボン繊維フリース、5質量%のPTFEで疎水化、厚さ330μm、補償層(厚さ約20μm)あり、ガーレーによる空気透過率:0.5cm3/(cm2秒)。カーボン繊維の厚さは10μmの範囲内である(SEM/TEMによって測定)。
【0053】
エアブラシ法のために、2.5barの噴霧圧力を使用し、且つ窒素を噴霧ガスとして用いる。乾燥を40℃で30分間、乾燥オーブン内、窒素雰囲気下で実施する。前駆体層中の金属イオンをその後、パルス法によって電気化学的に還元する(硫酸電解質、濃度2mol/l; 堆積継続時間15分、室温)。
【0054】
堆積用のパルスのパラメータ
on:1ミリ秒
off:0.5ミリ秒
m:1000mA/cm2
周波数:666.67Hz
電圧(振幅):15V
該基材を、堆積の後でDI水を用いて完全に洗浄し、電解質および塩化物イオンを除去する。乾燥(40℃、循環乾燥オーブン)の後、触媒粒子で被覆され且つ以下の特性を有するカーボン繊維基材が得られる:
触媒装填量:0.3mg/cm2のPt3Co
平均粒径(TEM):2nm
X線構造(XRD):ナノクリスタル合金粒子。
【0055】
実施例2
触媒粒子での被覆(Pt3Co; 装填量1mg/cm2
補償層を有するカーボン繊維基材
100cm2の面積を有するカーボン繊維基材を被覆するために、以下の成分:
2.5mlのNafion(登録商標)溶液(水中で10質量%、DuPont製)
16.0mlのイソプロパノール
10.0mgの導電性カーボンブラック(Ketjenblack EC300J、Akzo製)
180.0mgのヘキサクロロ白金酸(H2PtCl6・H2O;固体、Chempur製)
26.0mgのコバルト塩化物(CoCl2、固体、Chempur製)
からなる前駆体懸濁液を調製する。
【0056】
該懸濁液を実施例1に記載の通りに調製し、そしてSIGRACET 30 BC型(SGLカーボン製、マイティンゲン)のカーボン繊維基材にエアブラシ法によって適用する(特性については実施例1を参照)。電気化学的堆積のためのパルスのパラメータは実施例1に示されている。洗浄および乾燥の後、触媒粒子で被覆され且つ以下の特性を有するカーボン繊維基材が得られる:
触媒装填量:Pt3Co 1mg/cm2
平均粒径(TEM):2nm
X線構造(XRD):ナノクリスタル合金粒子。
【0057】
実施例3
触媒粒子での被覆(Pt; 装填量0.3mg/cm2
補償層を有するカーボン繊維基材
100cm2の面積を有するカーボン繊維基材を被覆するために、以下の成分:
2.5mlのNafion(登録商標)分散液(水中で10質量%、DuPont製)
16.0mlのイソプロパノール
10.0mgの導電性カーボンブラック(Ketjenblack EC300J、Akzo製)
64.0mgのヘキサクロロ白金酸(H2PtCl6・H2O;固体、Chempur製)
からなる前駆体懸濁液を調製する。
【0058】
個々の成分を秤量し、そして50mlの容器内で超音波攪拌を使用して分散させる。該懸濁液を実施例1に記載の通りに、SIGRACET 30 BC型(SGLカーボン製、マイティンゲン、特性については実施例1を参照)のカーボン繊維基材にエアブラシ法によって適用する。乾燥を40℃で30分間、乾燥オーブン内で実施する。前駆体層中の白金をその後、電気化学的に堆積させる(パラメータは実施例1と同様)。該基材の洗浄および乾燥を、実施例1で述べられたように実施する。Pt触媒粒子で被覆され且つ以下の特性を有するカーボン繊維基材が得られる:
触媒装填量:Pt 0.3mg/cm2
平均粒径(TEM):2nm
X線構造(XRD):ナノクリスタル粒子。
【0059】
実施例4
触媒粒子での被覆(Pt3Co; 装填量0.3mg/cm2
補償層を有するカーボン繊維基材
100cm2の面積を有するカーボン繊維基材を被覆するために、実施例1に従って前駆体懸濁液を調製する。
【0060】
該懸濁液を、エアブラシ法によってETEK LT 1200−N型(PEMEAS製、ETEK Division、米国ニュージャージー州サマセット 08873)のカーボン繊維基材に適用する。材料:不織カーボン繊維フリース、撥水性、補償層(厚さ約25μm)あり;ガーレーによる空気透過率:0.5cm3/(cm2秒)。
【0061】
エアブラシ法のために、2.5barの噴霧圧力を使用し、且つ窒素を噴霧ガスとして用いる。乾燥を40℃で30分間、乾燥オーブン内、窒素雰囲気下で実施する。前駆体層中の金属イオンをその後、パルス法によって電気化学的に還元させる(パラメータは実施例1で述べられたものと同様)。洗浄および乾燥(40℃、循環乾燥オーブン)の後、触媒粒子で被覆され且つ以下の特性を有するカーボン繊維基材が得られる:
触媒装填量:Pt3Co 0.3mg/cm2
平均粒径(TEM):2〜5nm
X線構造(XRD):ナノクリスタル合金粒子。
【0062】
比較例(CE1)
触媒粒子での被覆(Pt3Co; 装填量0.3mg/cm2
補償層を有さないカーボン繊維基材
100cm2の面積を有するカーボン繊維基材を被覆するために、実施例1に従って前駆体懸濁液を調製する。その後、懸濁液をエアブラシ法によってSIGRACET 30 BA型(SGLカーボン製、マイティンゲン)のカーボン繊維基材に適用する。カーボン繊維基材は、5質量%のPTFEで疎水化されたグラファイト化カーボン繊維フリースであり、且つ厚さは310μmである。該基材は補償層を有さず、且つガーレーによる空気透過率は40cm3/(cm2秒)である。
【0063】
該懸濁液の乾燥を40℃で30分間、乾燥オーブン内、窒素下で実施する。前駆体層中の金属をその後、電気化学的に堆積させる(パラメータは実施例1と同様)。Pt3Co触媒粒子で被覆され且つ以下の特性を有するカーボン繊維基材が得られる:
触媒装填量:Pt3Co 0.3mgcm2
平均粒径(TEM):20〜30nm
X線構造(XRD):ナノクリスタル合金粒子。
【0064】
この比較例によって示されるように、補償層を有さないカーボン繊維基材は非常に微細な触媒粒子の堆積に適していない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン繊維含有基材上への触媒粒子の電気化学的堆積方法において、
a) イオノマー、微粉のカーボン材料および少なくとも1つの金属化合物を含有する前駆体懸濁液をカーボン繊維含有基材上に適用する工程と、
b) 前記前駆体懸濁液を乾燥させる工程と、
c) 水性電解質中で、触媒粒子をカーボン繊維含有基材上に電気化学的に堆積する工程とを含み、前記カーボン繊維含有基材が補償層を含む方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、カーボン繊維含有基材が不織カーボン繊維材料、例えばカーボン繊維フリースまたはカーボン繊維ペーパーである方法。
【請求項3】
請求項1あるいは2に記載の方法において、前駆体懸濁液が、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、金(Au)およびそれらの混合物からなる群から選択される貴金属の塩を金属化合物として含有する方法。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法において、前駆体懸濁液が、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ti、V、Cr、W、Moおよびそれらの混合物からなる群から選択される金属の金属化合物を含有する方法。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法において、前駆体懸濁液が、添加剤、例えば湿潤剤、分散剤、結合剤、増粘剤、安定剤または酸化防止剤を含有する方法。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法において、イオノマーがプロトン伝導性高分子、例えばスルホン酸基を有するテトラフルオロエチレン/フルオロビニル−エーテルコポリマーを含む方法。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法において、粉末状カーボン材料が、高い表面積の導電性カーボンブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、導電性カーボン繊維、グラファイト、活性炭またはそれらの混合物を含む方法。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法において、カーボン繊維含有基材への懸濁液の適用を、例えば噴霧、浸漬、ドクターブレード、ブラシ、オフセット印刷、スクリーン印刷またはステンシル印刷の手段によって実施する方法。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法において、水性電解質が、希硫酸あるいは希釈された過塩素酸あるいはそれらの混合物を含む方法。
【請求項10】
請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法において、電気化学的堆積をパルス法で実施する方法。
【請求項11】
請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法において、パルス法をガルバノスタットモードで実施する方法。
【請求項12】
請求項1から11までのいずれか1項に記載の方法において、パルス法を0.1〜20Vの範囲の電圧で実施する方法。
【請求項13】
請求項1から12までのいずれか1項に記載の方法において、パルス法を10〜5000mA/cm2の範囲のパルス電流密度(Ip)で実施する方法。
【請求項14】
請求項1から13までのいずれか1項に記載の方法において、前駆体懸濁液の乾燥を20〜130℃の範囲の温度で実施する方法。
【請求項15】
請求項1から14までのいずれか1項に記載の方法において、触媒粒子の堆積後、被覆されたカーボン繊維基材をさらに洗浄および/または乾燥する工程を含む方法。
【請求項16】
カーボン繊維含有基材上へ触媒粒子を電気化学的に堆積するための装置において、
a) 前駆体懸濁液で被覆されたカーボン繊維含有基材(1)に対する封止部(7)を有するホルダー(6)、
b) 該ホルダーに導入される基材上部の水性電解質(2)用の容器、
c) 被覆されたカーボン繊維含有基材内で電界を発生させるための電気的コンタクト(3)、(4)および(5)、および
d) 水性電解質を供給および除去する手段(2a)
を含む装置。
【請求項17】
請求項16に記載の装置において、前駆体懸濁液をカーボン繊維含有基材に適用するための機構をさらに含む装置。
【請求項18】
請求項16に記載の装置において、前駆体懸濁液の適用後、被覆されたカーボン繊維含有基材を乾燥させるための機構をさらに含む装置。
【請求項19】
請求項16に記載の装置において、触媒粒子の堆積後、被覆されたカーボン繊維含有基材を洗浄および乾燥させるための機構をさらに含む装置。
【請求項20】
請求項16から19までのいずれか1項に記載の装置において、リボン状基材の材料を用いた連続稼働のための機構をさらに含む装置。
【請求項21】
請求項1から15までのいずれか1項に記載の方法によって製造された触媒被覆基材を、ガス拡散電極として、電気化学素子、例えばメンブレン型燃料電池、PEMFC、DMFC、電解槽または電気化学センサーに用いる使用。
【請求項22】
請求項1から15までのいずれか1項に記載の方法によって製造された触媒被覆基材を、高分子電解質メンブレン型燃料電池用メンブレン電極ユニットの製造に用いる使用。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2010−520954(P2010−520954A)
【公表日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−550669(P2009−550669)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【国際出願番号】PCT/EP2008/001143
【国際公開番号】WO2008/101635
【国際公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
【出願人】(509236715)ソルビコア ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト (1)
【氏名又は名称原語表記】SolviCore GmbH & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Rodenbacher Chaussee 4, D−63457 Hanau−Wolfgang, Germany
【Fターム(参考)】