説明

ガスの処理方法及びその装置

【課題】製鉄所の転炉等から排出される副生ガスの熱量を増加させるガス処理方法及びその装置を提供する。
【解決手段】
製鉄所にて発生する転炉ガス等の副生ガス、転炉ダスト等のダスト及び水を混合し、副生ガス中の二酸化炭素を水に溶解させて炭酸を生成し、該炭酸とダスト中の鉄とを反応させて水素を発生させて、副生ガス中の二酸化炭素を水素に変えることにより、副生ガスの熱量を増加させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガスの処理方法及びその装置に関し、特に、製鉄所において、例えば転炉にて発生する副生ガスの熱量を増加させるガスの処理方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製鉄所においては、コークス炉、高炉及び転炉などの設備から副生ガスと呼ばれるガスが発生し、このガスには、水素、一酸化炭素及びメタンといった、燃料として利用可能な成分のほかに、窒素や二酸化炭素が含有されている。この副生ガスは、その大部分が発電所や加熱炉などにおいて燃焼によって発生する熱を利用する用途に使用されているが、前述のように、副生ガス中には窒素や二酸化炭素といった不活性成分が含まれるために、体積当たりの熱量は700〜4500kcal/Nmであり、一般的な燃料ガスであるプロパンガスや天然ガスに比べて低いのが特徴である。例えば、高炉から排出された副生ガスである高炉ガスの組成は、一酸化炭素:21.1〜26.2体積%、二酸化炭素:19.3〜23.2体積%、水素:2.9〜5.3体積%、窒素:52.5〜59.2体積%であり、熱量は800kcal/Nm程度、また、転炉から排出された副生ガスである転炉ガスについては、一酸化炭素:50〜80体積%、二酸化炭素:10〜20体積%(残りのほとんどは窒素)であり、熱量は1500〜2000kcal/Nmと低い(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
そこで、こうした副生ガスの熱量を高める様々な技術が提案されてきた。例えば、特許文献1には、高炉ガスから二酸化炭素を分離除去することにより、高炉ガスの熱量を900kcal/Nm以上まで高める技術について記載されている。
また、特許文献2には、転炉から排出された副生ガスと、水素を多量に含有するコークス炉ガスとを混合し、転炉ガス中の二酸化炭素と水素とを反応させて一酸化炭素を生成させることにより、転炉ガスの熱量を高める技術について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−309067号公報
【特許文献2】特開2003−166013号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】鉄鋼便覧第4版、No.1、第2巻、表42−5・7、pp.117
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、高炉ガスから二酸化炭素を分離して除去するため、該処理後ガスの単位体積当たりの熱量は、二酸化炭素が除去された分だけ増加するものの、高炉の炉頂から排出された高炉ガス自体の単位体積当たりの熱量が増加するわけではなく、単位時間当たりに得られる副生ガスの熱量は変化しない。
また、特許文献2に記載の方法は、コークス炉ガス等のガスが転炉ガスに新たに追加されるため、転炉における排ガス吸引路を通過するガスの体積が増加し、排ガス吸引ファンへの負荷が増大し、実際的な手法ではなかった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、上記課題を鑑みてなされたものであり、製鉄所における転炉や高炉等から排出される副生ガスの単位時間当たりの熱量を増加させる方途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、上記課題を解決するための方途について鋭意検討したところ、例えば転炉において副生ガスとともに発生する転炉ダストには、十分な鉄が含まれていることに着目し、これを転炉ガスの熱量増加に寄与させる手法を模索したところ、転炉ガスと転炉ダストと水とを混合し、転炉ガスに含まれる二酸化炭素を水に溶解して炭酸を生成し、該炭酸と転炉ダストに含まれる鉄とを反応させて水素を発生させ、不活性ガスである二酸化炭素を可燃性ガスである水素に変えることが可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明の副生ガスの処理方法は、製鉄所にて発生する副生ガス、ダスト及び水を混合し、前記副生ガス中の二酸化炭素を前記水中に溶解させて炭酸を生成し、該炭酸と前記ダスト中の鉄とを反応させて水素を発生させて、前記副生ガス中の二酸化炭素を水素に変えることにより前記副生ガスの熱量を増加させることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の副生ガスの処理方法において、前記副生ガスは転炉ガスであることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の副生ガスの処理方法において、前記ダストは転炉ダストであることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の副生ガスの処理方法において、前記水の温度は40℃以下であることを特徴とするものである。
【0013】
本発明の副生ガスの処理装置は、製鉄所にて発生する副生ガスを導入する副生ガス導入管と、前記副生ガスと前記製鉄所にて発生するダストと水とを混合して水素を発生させる混合器と、前記水素を含む副生ガスを分離するガス分離器とを備え、前記副生ガス中の二酸化炭素を水素に変えることにより前記副生ガスの熱量を増加させることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の副生ガスの処理装置において、前記副生ガスは転炉ガスであることを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明の副生ガスの処理装置において、前記ダストは転炉ダストであることを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明の副生ガスの処理装置において、前記水の温度は40℃以下であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、副生ガスを水と接触させて副生ガスに含まれる二酸化炭素を水に溶解させて炭酸を生成し、該炭酸と、例えば転炉ダストに含まれる鉄とを反応させて水素を発生させることにより、不活性ガスである二酸化炭素を可燃性ガスである水素に変えることができるため、単位時間当たりに得られる副生ガスの熱量を増加させることができる。
また、原料である二酸化炭素、鉄及び水を、転炉から大量に排出される副生ガス、転炉ダスト、及び排水等を使用することができるため、低コストで熱量の高い可燃性ガスを得ることができる。
更に、二酸化炭素を反応させることにより該二酸化炭素の含有量が低減するため、地球温暖化ガスの1つである二酸化炭素の排出量を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態によるガス処理装置が組み込まれた転炉からの排ガス処理システムを示す図である。
【図2】本発明の実施例に使用した模擬転炉ガス処理装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
本発明の副生ガスの処理方法は、製鉄所において、例えば転炉にて発生する副生ガス、ダスト及び水を混合し、以下に詳述するように、副生ガス中の二酸化炭素を水中に溶解させて炭酸を生成し、該炭酸とダスト中の鉄とを反応させて水素を発生させて、副生ガス中の二酸化炭素を水素に変えることにより副生ガスの熱量を増加させるものである。
【0020】
上記の混合において、副生ガスと水とが接触する際、二酸化炭素の水への溶解度(水1mlに溶解するガスの体積(ml))は、副生ガス中に含まれる一酸化炭素やメタン等の可燃性ガスや、窒素等の不活性ガスよりも極めて大きい。例えば、温度25℃の水への副生ガスの各成分ガスの溶解度は、二酸化炭素:1.05350、一酸化炭素:0.02140、水素:0.01750、窒素:0.01470、メタン:0.03150である。そのため、副生ガスと水とが接触すると、二酸化炭素は水に容易に溶けて炭酸を生成する一方、メタン等の可燃性ガスは水にあまり溶解しない。その結果、副生ガスと水とが接触しても可燃性ガスを水に溶解させて失うことなく、二酸化炭素のみを水に溶解させて炭酸を生成し、該炭酸と鉄とを反応させて水素を発生させることにより、副生ガスの熱量を増加させることができるのである。
【0021】
ここで、本発明の副生ガスの処理方法により、副生ガスの熱量が増加する原理について説明する。金属を酸性の水溶液中に投入すると水素が発生する。例えば鉄の場合には、以下の反応が進行して水素が発生する。
【0022】
[化1]
Fe(金属)+2H→Fe2++H↑ (1)
【0023】
また、二酸化炭素は水に溶解して、以下のように酸である炭酸を容易に生成する。
[化2]
CO+HO→HCO→2H+CO2− (2)
式(1)及び(2)から、
[化3]
Fe(金属)+CO+HO→FeCO+H↑ (3)
が得られる。つまり、例えば鉄(粉)を含む転炉ダストと、二酸化炭素を含む転炉ガスと、水とを混合して、転炉ガスに含まれる二酸化炭素が水に溶解して炭酸を生成し、該炭酸と転炉ダストに含まれる鉄(鉄粉)とを反応させて水素を発生させることにより、二酸化炭素を水素に変え、副生ガスの熱量を増加させることが可能となるのである。その際、式(3)から明らかなように、鉄と反応する二酸化炭素と同量の水素が発生する。従って、単位時間当たりの副生ガスの熱量を増加させることができる。
【0024】
以下、本発明のガス処理方法に使用する装置について、転炉の排ガス処理システムに組み込んだものを例に説明するが、これに限定されない。
図1は、本発明の一実施形態のガス処理装置が組み込まれた転炉の排ガス処理システムを示す図である。本発明のガス処理装置は、転炉11から排気された転炉ガス、転炉ダスト及び水を混合して水素を発生させる気固液混合器16を、既存の転炉ガスシステムに新たに付設したものである。
【0025】
既存の転炉の排ガス処理システムにおいては、転炉11から排気された排ガスは、ガス管路12を経由して集塵器13に入り、洗浄水Aが供給されて排ガスからダストが分離される。ダストはスラリーBとしてスラリー排出口14から排出され、ダストが分離された排ガスは、転炉ガスEとして吸引ファン19により排気されていた。
【0026】
以上の既存の転炉の排ガス処理システムに、本発明のガス処理装置を組み込んだ転炉の排ガス処理システム1においては、集塵器13により分離され、スラリー排出口14から排出された転炉ダスト(スラリーB)は、必要に応じてダストの粒径調整や解砕処理を施した後に、水素を発生させるための水とともに原料投入口15から気固液混合器16に供給され、集塵器13により分離された転炉ガスと混合される。気固液混合器16にて転炉ガス中の二酸化炭素と転炉ダスト中の鉄とを反応させて水素を発生させた後、ガス分離器17により、発生した水素を含む転炉ガスとスラリーC(反応後の転炉ダスト及び水)とに分離され、スラリーCはスラリー排出口18から排出されるとともに、吸引ファン19により転炉ガスEが排気される。スラリー排出口18から排出されたスラリーCは、更に、固液分離装置(図示せず)により、炭酸鉄と排水とに分離される。
【0027】
上記の反応に使用するダストとしては、製鉄所で発生するダストであれば特に限定されない。例えば、製鉄所で排出される転炉ダスト、高炉ダスト等を使用できるが、鉄の含有割合が高い転炉ダストが特に好ましい。
使用するダストに含まれる鉄は、炭酸との反応の点から、表面積が大きい粒径の小さなものが好ましいが、上記した製鉄所で排出されるダストであれば、その粒径は数十〜数百μmであり、二酸化炭素を水素に変える上で十分に小さな粒径を有しているので有利である。
【0028】
また、気固液混合器16としては、スタティックミキサー、棚段式等のガス分散型の気液接触装置、スプレー塔などの液分散型の気液接触装置を使用することができる。
【0029】
ガス分離器17としては、サイクロンセパレータ、分離ドラム等を使用することができる。
【0030】
気固液混合器16に供給される水の温度は特に限定されないが、転炉ガス中の二酸化炭素を水に溶解させる量を増やすために、二酸化炭素が水に溶解する際の温度を、好ましくは50℃以下、より好ましくは40℃以下とする。
【0031】
こうして、転炉ガスと転炉ダストと水とを混合し、転炉ガスに含まれる二酸化炭素を水に溶解して炭酸を生成し、該炭酸と転炉ダストに含まれる鉄とを反応させて水素を発生させることにより、単位時間当たりの副生ガスの熱量を増加させることができる。
【0032】
上記の説明においては、気固液混合器16において、原料である転炉ガス、転炉ダスト及び水を同時に混合しているが、同時に混合させる必要はなく、転炉ガスを水に接触させて炭酸を生成した後に転炉ダストを混合することも、水と転炉ダストとを混合した後に転炉ガスを接触させて炭酸を生成させ、該炭酸と転炉ダスト中の鉄とを反応させるように構成することもできる。
【0033】
また、気固液混合器16に温度制御手段を備えて、転炉ガス、転炉ダスト及び水を混合した混合液の温度を上記の温度範囲となるように制御することも、上記混合の際に二酸化炭素が水に溶解する際の温度が上記の温度範囲となるように、予め十分に冷却された水を使用することもできる。
【0034】
尚、排ガス処理システム1は、本発明のガス処理装置を従来の転炉からの排ガス処理システムに組み込んだ一実施形態であるが、集塵器13において転炉ダストと転炉ガスを分離せずに気固液混合器16に直接供給するように構成することもできる。
また、本発明のガス処理装置を独立した装置として設け、例えば転炉11から排出された転炉ガス及び転炉ダストを本発明のガス処理装置に導入し、水を追加して混合させて転炉ガスの熱量を増加させるように構成することができるのは言うまでもない。
【0035】
上記の説明は転炉から排出される転炉ガス及び転炉ダストを例に説明したが、副生ガス及びダストとして、高炉から排出される高炉ガス及び高炉ダストに対しても、本発明を同様に適用できる。その際、高炉ガスに含まれる二酸化炭素の割合は転炉ガスに比べて大きいため、二酸化炭素の所定量を二酸化炭素分離器により予め分離除去させた後に、高炉ダスト及び水と混同するように構成することもできる。
更に、本発明のガス処理装置において、製鉄所内の転炉ダスト、高炉ダスト、焼結ダスト等と、転炉ガス、高炉ガス等を組み合わせて使用することもできる。
【実施例】
【0036】
(発明例)
ここで、本発明の実施例について説明する。
図2に模式的に示す模擬転炉ガス処理装置2を使用して、副生ガスとしての模擬転炉ガスの熱量を増加させる処理を施した。以下、実施例の処理手順について説明する。
まず、冷却器21により25℃に制御された水と転炉ダストとを固・液混合器22に供給して混合した。ここで、転炉ダストの供給量は1時間当たり1kgである。次いで、混合して得られたスラリーに模擬転炉ガスを加えて、スタティックミキサー23に供給して混合し、転炉ガスに含まれる鉄と、模擬転炉ガスに含まれる二酸化炭素が水へ溶解して生成された炭酸とを反応させて水素を発生させた。その際、使用した模擬転炉ガスの組成は、二酸化炭素:15体積%、一酸化炭素:60体積%、水素:0.5体積%、窒素:24.5体積%である。また、供給したスラリーは100L/時間、模擬転炉ガスは10L/時間である。続いて、スタティックミキサー23から排出された気固液混合物は、気・固液分離器24により模擬転炉ガスが分離されて排気され、残った残留物は固・液分離器25により炭酸鉄と水とに分離され、炭酸鉄は排出され、水は冷却器21により25℃に冷却された後に再び固・液混合器22に供給した。気・固液分離器24により排気された模擬転炉ガスの熱量を測定したところ、19.54kcal/時間であった。
【0037】
(比較例)
上記の発明例に使用した模擬転炉ガスの処理前の熱量を測定したところ、18.25kcal/時間であった。このように、本発明のガス処理方法により、単位時間当たりの模擬転炉ガスの熱量が増加していることが分かる。
【符号の説明】
【0038】
1 排ガス処理システム
2 模擬転炉ガス処理装置
11 転炉
12 ガス管路
13 集塵器
14,18 スラリー排出口
15 原料投入口
16 気固液混合器
17 ガス分離器
19 吸引ファン
21 冷却器
22 固・液混合器
23 スタティックミキサー
24 気・固液分離器
25 固・液分離器
A 水
B,D スラリー
C スラリー及び水
E 転炉ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製鉄所にて発生する副生ガス、ダスト及び水を混合し、前記副生ガス中の二酸化炭素を前記水中に溶解させて炭酸を生成させ、該炭酸と前記ダスト中の鉄とを反応させて水素を発生させて、前記副生ガス中の二酸化炭素を水素に変えることにより前記副生ガスの熱量を増加させることを特徴とする、副生ガスの処理方法。
【請求項2】
前記副生ガスは転炉ガスであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ダストは転炉ダストであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記水の温度は40℃以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
製鉄所にて発生する副生ガスを導入する副生ガス導入手段と、
前記副生ガスと前記製鉄所にて発生するダストと水とを混合して水素を発生させる混合手段と、
前記水素を含む副生ガスを分離するガス分離器と、
を備えることを特徴とする、副生ガスの処理装置。
【請求項6】
前記副生ガスは転炉ガスであることを特徴とする、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記ダストは転炉ダストであることを特徴とする、請求項5又は6に記載の装置。
【請求項8】
前記水の温度は40℃以下であることを特徴とする、請求項5〜7のいずれか一項に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−47419(P2012−47419A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−191302(P2010−191302)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】