説明

ガスケット用フッ素樹脂シート、ガスケット用フッ素樹脂シートの製造方法およびシートガスケット

【課題】シール特性が良好で高温における応力緩和率の良好な無機充填材入りガスケット用フッ素樹脂シートを提供する。
【解決手段】フッ素樹脂と無機充填材と加工助剤とを含む混合物をシート化してシート状物を作製した後、該シート状物を乾燥し、次いで、圧縮し、焼成することにより得られる、フッ素樹脂と無機充填材とを含有してなり、フッ素樹脂の含有割合が60容量%未満で、空隙率が13%以下であるガスケット用フッ素樹脂シートである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石油化学プラント、各種工業用機械装置、自動車、家電などの広範囲な分野で使用されるガスケットの基材として用いられるフッ素樹脂シートと、フッ素樹脂シートの製造方法およびシートガスケットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ガスケット用フッ素樹脂シートは、フッ素樹脂に無機充填材を配合してシート状に加工したものであり、フッ素樹脂、無機充填材、石油系炭化水素溶剤等の有機化合物からなる加工助剤をミキサーで混合・予備成形し、ロール間隔を調整した2軸ロールに複数回通すことで圧延して得られるシートを乾燥、焼成すること等により製造されている。
【0003】
このガスケット用フッ素樹脂シートは、フッ素樹脂の有する耐薬品性、耐熱性、非粘着性に加えて、無機充填材を含有することにより、フッ素樹脂の弱点である耐クリープ性が改善されているため、このフッ素樹脂シートを打抜き加工して得られたシートガスケットは、石油精製・石油化学プラントの配管や機器用のシール材として広く用いられている。
【0004】
近年、石綿ジョイントシートの使用が原則として禁止されたことを受けて、上記シートガスケットを石綿ジョイントシートに代替して使用することが検討されているが、このためには、高温下における応力緩和特性やシール特性を改良する必要があった。
【0005】
このようなシートガスケットとしては、フッ素樹脂と、シリカを20重量%以上含有する無機充填材と、分留温度が120℃以下である石油系炭化水素溶剤を30質量%以上含む加工助剤とを含有するシート形成用樹脂組成物を、ロール温度40〜80℃で圧延することにより得られた、充填材入りフッ素樹脂シートを加工してなるものが知られている(特許文献1(特開2008―7607号公報)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008―7607号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者等が検討したところでは、特許文献1記載のフッ素樹脂シートも、応力緩和特性およびシール特性については未だ十分であるとは言えないことが判明した。
【0008】
このような状況下、本発明は、シール特性が良好で高温における応力緩和特性の良好な無機充填材入りガスケット用フッ素樹脂シート、ガスケット用フッ素樹脂シートの製造方法およびシートガスケットを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記技術課題を解決するために本発明者等が検討したところ、無機充填材入りフッ素樹脂シートからなるシートガスケットは、シート中の無機充填材の存在割合が増加するほど応力緩和特性は良好となるが、シール特性が低下する傾向にあった。そして、このシール特性の低下について本発明者等が検討したところ、フッ素樹脂シート中の無機充填材の存在割合が増加すると(フッ素樹脂シート中のフッ素樹脂の存在割合が低下すると)、シートの作製工程において加工助剤が充填材に吸着され、圧延直後のシート中に加工助剤が多量に残存すること、圧延後に乾燥処理してこの加工助剤が消失すると加工助剤が存在していた部分が空隙となってシール特性が悪化すること、無機充填材の粒径が小さい場合には、特に加工助剤の吸着量が多くなるために空隙が増加してシール特性が顕著に低下することを見出した。
【0010】
上記知見に基づき、本発明者等がさらに検討したところ、フッ素樹脂と無機充填材とを含有してなり、フッ素樹脂の含有割合が60容量%未満で、空隙率が13%以下であるガスケット用フッ素樹脂シートにより上記技術課題を解決し得ることを見出し、本知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1)フッ素樹脂と無機充填材とを含有してなり、フッ素樹脂の含有割合が60容量%未満で、空隙率が13%以下であることを特徴とするガスケット用フッ素樹脂シート、
(2)前記無機充填材として酸化アルミニウムを含む上記(1)に記載のガスケット用フッ素樹脂シート、
(3)フッ素樹脂と無機充填材と加工助剤とを含む混合物をシート化してシート状物を作製した後、該シート状物を乾燥し、次いで、圧縮し、焼成することを特徴とするガスケット用フッ素樹脂シートの製造方法、
(4)上記(1)に記載のガスケット用フッ素樹脂シートを加工して得られることを特徴とするシートガスケット、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、製造工程において、得られるフッ素樹脂シートの空隙率を13%以下に制御しているので、フッ素樹脂の含有割合が60容量%未満と少なくても(無機充填材の相対的な含有割合が多くても)、高温下においても応力緩和特性に優れ十分なシール特性を発揮するガスケット用フッ素樹脂シートおよびガスケット用フッ素樹脂シートの製造方法を提供することができるとともに、上記フッ素樹脂シートを加工して得られるシートガスケットを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
先ず、本発明のガスケット用フッ素樹脂シートについて説明する。
本発明のガスケット用フッ素樹脂シートは、フッ素樹脂と無機充填材とを含有してなり、フッ素樹脂の含有割合が60容量%未満で、空隙率が13%以下であることを特徴とするものである。
【0014】
本発明のフッ素樹脂シートにおいて、フッ素樹脂としては、公知のフッ素樹脂を採用することができ、例えば、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、変性PTFE、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTEF)、ポリふっ化ビニリデン(PVDF)、ポリふっ化ビニル(PVF)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)などを挙げることができる。また、フッ素樹脂の少なくとも一部が、PTFEまたはPTFEよりも低い融点を有する熱可塑性フッ素樹脂のいずれか一方であるか、PTFEおよびPTFEよりも低い融点を有する熱可塑性フッ素樹脂であることが好ましい。
【0015】
PTFEまたは変性PTFEとしては、具体的には、三井デュポンフロロケミカル株式会社製800−J、810−J、6−J、62−J、7−J、7A−J、70−J、170−J等を挙げることができる。
【0016】
また、PTFEの融点は、通常、327℃±5℃程度であることから、PTFEよりも低い融点を有する熱可塑性フッ素樹脂としては、上記温度よりも低い融点を有する、FEP、PFA、変性PTFE、ETFE等のフッ素樹脂が挙げられる。
【0017】
PTFEやPTFEよりも低い融点を有する熱可塑性フッ素樹脂の融点は、JIS K 6891四フッ化エチレン樹脂成形粉試験方法により測定することができる。
【0018】
フッ素樹脂として、PTFEより低い融点を有する熱可塑性フッ素樹脂を用いることにより、より少ないフッ素樹脂量で応力緩和特性をさらに向上させることができる。これは、PTFEの融点よりも低い融点を有する熱可塑性フッ素樹脂は、焼成時に樹脂の粘度が低下して流動性を向上させるため、より緻密なシートを得やすくなるためと推測される。
【0019】
本発明のフッ素樹脂シートにおいて、フッ素樹脂の含有割合は、60容量%未満であり、55容量%以下であることが好ましく、54容量%以下であることがさらに好ましく、52容量%以下であることが特に好ましい。
また、本発明のフッ素樹脂シートにおいて、フッ素樹脂の含有割合は、43容量%以上であることが適当であり、45容量%以上であることがより適当であり、48容量%以上であることがさらに適当である。
【0020】
本発明のフッ素樹脂シートにおいて、無機充填材は、応力緩和特性を向上させるために使用される。
【0021】
無機充填材としては、ケイ素およびアルミニウムを主体とし、マグネシウム、鉄、アルカリ土類金属、アルカリ金属などを含むケイ酸塩鉱物(粘土)や、珪石、ワラストナイトなどの天然鉱物や、シリカ、酸化アルミニウム、ガラス、ジルコン、酸化チタン、酸化鉄などの酸化物や、硼化ジルコン、二硫化モリブデンなどの含硫黄化合物や、硫酸バリウム、カーボン等から選ばれる一種以上が挙げられる。本発明のフッ素樹脂シートは、無機充填材として、酸化アルミニウムまたは珪石の何れか一方を含むか、酸化アルミニウムおよび珪石の両者を含むことが適当であり、酸化アルミニウムを含むことがより適当である。
本発明のフッ素樹脂シートが無機充填材として酸化アルミニウムを含む場合、酸化アルミニウムの含有割合は、無機充填材全体の15〜100容量%であることが好ましく、50〜100容量%であることがより好ましく、100容量%であることがさらに好ましい。
本発明のフッ素樹脂シートが無機充填材として酸化アルミニウムを含む場合、フッ素樹脂シートの作製時にフッ素樹脂の繊維化が促進され、シート内部が緻密化することから、フッ素樹脂シートの引張強さを向上することができるとともに、無機充填材が繊維間に均一に存在してシートの応力緩和特性を高めることができる。
【0022】
酸化アルミニウムは、通常、Alを90%以上含むものを意味し、α型、β型、γ型の酸化アルミニウムが使用できるが、α型が化学的に安定である点で好ましい。また、酸化アルミニウムには、その形状が、繊維状、球状、板状、不定形状のものがあり、繊維状のものは空隙を生じやすいので適当でないが、球状、板状、不定形状のものはフッ素樹脂シート中に密に充填し得るため、好ましく用いることができる。酸化アルミニウムは、耐アルカリ性に優れるうえに、シール性と引張り強度を向上させるため、無機充填材として好ましく採用することができる。
【0023】
また、珪石は、通常、SiOを90%以上含むものを意味し、例えば、その組成が、SiO 96.85%、Al 1.55%、Fe0.1%、TiO 0.08%、CaO 0.03%、MgO 0.01以下、NaO 0.06%、KO 1.04%、その他0.15%であるものが挙げられる。
【0024】
無機充填材の粒径は特に限定されないが、例えば平均粒径が2〜30 μmであることが好ましく、2〜20μmであることがより好ましく、3〜15μmであることがさらに好ましい。
なお、無機充填材の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定することができる。
【0025】
本発明のフッ素樹脂シートにおいて、無機充填材の含有割合は、40容量%以上であることが好ましく、45容量%以上であることがより好ましく、46容量%以上であることがさらに好ましく、48容量%以上であることが特に好ましい。
また、本発明のフッ素樹脂シートにおいて、無機充填材の含有割合は、57容量%以下であることが好ましく、55容量%以下であることがより好ましく、52容量%以下であることがさらに好ましい。
本発明のフッ素樹脂シートにおいて、無機充填材の含有割合を重量%でなく容量%で表記するのは、無機充填材の含有割合を重量%で表記した場合、無機充填材の密度によって含有割合が大きく異なってしまうためであり、また、本発明のフッ素樹脂シートは、無機充填材間の隙間にフッ素樹脂が充填されることにより、緻密なシートを形成すると考えられ、重量よりも物理的なサイズ(容量)が寄与する程度が高いと考えられるためである。
【0026】
本発明のフッ素樹脂シートは、フッ素樹脂と無機充填材以外の成分として、例えば有機充填材、無機繊維、有機繊維等を含んでもよい。
本発明のフッ素樹脂シートがフッ素樹脂と無機充填材以外の成分を含む場合、その含有割合は合計でシート構成成分全体の50容量%以下であることが好ましく、本発明のフッ素樹脂シートは、フッ素樹脂と無機充填材以外の成分を含まない(フッ素樹脂と無機充填材のみからなる)ことがより好ましい。
【0027】
本発明のフッ素樹脂シートの厚みは、特に制限されないが、例えば0.4〜10mm程度であり、通常は1〜3mm程度である。
【0028】
本発明のフッ素樹脂シートは、空隙率が13%以下であり、10%以下であることがより好ましく、8%以下であることがより好ましく、6%以下であることがさらに好ましい。本発明のフッ素樹脂シートは、空隙率が13%以下であることにより、優れたシール特性を発揮することができる。また、空隙率は低ければ低いほど好ましい。
また、シール特性を重視する場合や、応力緩和特性とシール特性とのバランスを重視する場合には、空隙率は2〜10%が適当であり、4〜8%がより適当である。
なお、本出願において、空隙率は、フッ素樹脂シート中に形成される隙間の存在割合を示す指標となるものであり、この隙間は本発明のフッ素樹脂シートを構成する成分には該当しないことから、上記フッ素樹脂や無機充填材の含有割合(容積%)を算出するにあたっては、上記隙間の存在割合は考慮されないものとする。
【0029】
本出願において、空隙率は、下記(1)式により算出した理論シート密度と別途実測したシート密度(実測シート密度)を用いて、下記(2)式により求めることができる。
【0030】
理論シート密度=(フッ素樹脂の重量+無機充填材の重量)/{(フッ素樹脂の重量/フッ素樹脂の密度)+(無機充填材の重量/無機充填材の密度)} (1)
【0031】
空隙率(%)={(理論シート密度−実測シート密度)/理論シート密度}×100 (2)
【0032】
本発明のフッ素樹脂シートは、実測シート密度が、2.18〜3.21g/cmであることが適当であり、2.20〜3.15g/cmであることがより適当である。上記実測シート密度の好適な範囲は、用いる無機充填材によって変動し、例えば、無機充填材として酸化アルミニウムを採用する場合には、フッ素樹脂シートの実測シート密度は2.62〜3.11g/cmであることが好ましく、2.70〜2.85g/cmであることがより好ましく、無機充填材として珪石を採用する場合には、フッ素樹脂シートの実測シート密度は2.22〜2.29g/cmであることが好ましく、2.24〜2.28g/cmであることがより好ましく、無機充填材としてクレーを採用する場合には、フッ素樹脂シートの実測シート密度は2.18〜2.24g/cmであることが好ましく、2.20〜2.23g/cmであることがより好ましく、硫酸バリウムを採用する場合には、フッ素樹脂シートの実測シート密度は2.93〜3.21g/cmであることが好ましく、3.01〜3.15g/cmであることがより好ましい。
【0033】
本出願書類において、フッ素樹脂シートの実測シート密度は、JIS K7112に規定されているプラスチック−非発泡プラスチックの密度および比重の測定方法のA法(水中置換法)に準じて測定することができる。
【0034】
本発明のフッ素樹脂シートは、応力緩和特性を重視する場合や、応力緩和特性とシール特性とのバランスを重視する場合には、引張強さが、6〜10MPaであることが好ましく、7〜9MPaであることがより好ましい。また、シール特性を重視する場合、引張強さが、7〜11MPaであることが好ましく、8〜10MPaであることがより好ましい。
【0035】
本出願書類において、フッ素樹脂シートの引張強さは、JIS K 7127に規定されているプラスチック−引張特性の試験方法に準じて、試験片タイプ5により測定することができる。また、フッ素樹脂シートの応力緩和率は、JIS R 3453に規定されているジョイントシートの応力緩和率の測定方法に準じて測定することができる。
【0036】
本発明のガスケット用フッ素樹脂シートは、本発明の製造方法により、好適に製造することができる。
【0037】
本発明によれば、フッ素樹脂の含有割合が60容量%未満と少なくても(無機充填材の相対的な含有割合が多くても)、高温下において応力緩和特性に優れるとともに十分なシール特性を発揮するガスケット用フッ素樹脂シートを提供することができる。
【0038】
次に、本発明のガスケット用フッ素樹脂シートの製造方法について説明する。
本発明のガスケット用フッ素樹脂シートの製造方法は、フッ素樹脂と無機充填材と加工助剤とを含む混合物をシート化してシート状物を作製した後、該シート状物を乾燥し、次いで、圧縮し、焼成することを特徴とするものである。
【0039】
本発明のフッ素樹脂シートの製造方法において、フッ素樹脂としては、本発明のフッ素樹脂シートの説明で挙げたものと同様のものを挙げることができる。
【0040】
本発明のフッ素樹脂シートの製造方法において、フッ素樹脂の使用割合は、使用するフッ素樹脂と無機充填材の総量を100容量%とした場合に、60容量%未満であることが好ましく、55容量%以下であることがより好ましく、54容量%以下であることがさらに好ましく、52容量%以下であることが特に好ましい。
また、フッ素樹脂の使用割合は、使用するフッ素樹脂と無機充填材の総量を100容量%とした場合に、43容量%以上であることが適当であり、45容量%以上であることがより適当であり、48容量%以上であることがさらに適当である。
【0041】
本発明のフッ素樹脂シートの製造方法において、無機充填材は、応力緩和特性を向上させるために使用される。無機充填材としては、本発明のフッ素樹脂シートの説明で挙げたものと同様のものを挙げることができる。
本発明のフッ素樹脂シートの製造方法において、無機充填材として酸化アルミニウムを使用する場合、酸化アルミニウムの含有割合は、無機充填材全体の15〜100容量%であることが好ましく、50〜100容量%であることがより好ましく、100容量%であることがさらに好ましい。
無機充填材として酸化アルミニウムを使用した場合、フッ素樹脂シートの作製時にフッ素樹脂の繊維化が促進され、シート内部が緻密化し、得られるフッ素樹脂シートの引張強さを向上することができるとともに、無機充填材が繊維間に均一に存在してシートの応力緩和特性を高めることができる。
【0042】
無機充填材の粒径は特に限定されないが、例えば平均粒径が2〜30 μmであることが好ましく、2〜20μmであることがより好ましく、 3〜15μmであることがさらに好ましい。
本発明のフッ素樹脂シートの製造方法においては、原料の混合物をシート化した後、焼成する前に圧縮していることから、特に平均粒径が小さい無機充填材を用いたときに生じやすい空隙の存在割合を調整することが可能となるため、種々の粒径範囲を有する無機充填材を使用することができる。
【0043】
なお、無機充填材の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定することができる。
【0044】
本発明のフッ素樹脂シートの製造方法において、無機充填材の使用割合は、使用するフッ素樹脂と無機充填材の総量を100容量%とした場合に、40容量%以上であることが好ましく、45容量%以上であることがより好ましく、46容量%以上であることがさらに好ましく、48容量%以上であることが特に好ましい。
また、本発明のフッ素樹脂シートの製造方法において、無機充填材の使用割合は、使用するフッ素樹脂と無機充填材の総量を100容量%とした場合に、57容量%以下であることが好ましく、55容量%以下であることがより好ましく、52容量%以下であることがさらに好ましい。
【0045】
本発明のフッ素樹脂シートの製造方法においては、加工助剤(成形助剤)が使用される。
【0046】
加工助剤としては、特に制限されないが、例えば、パラフィン系溶剤等の炭化水素系有機溶剤を挙げることができ、具体的には、エクソンモービル有限会社製のアイソパーE、アイソパーG、アイソパーH、アイソパーL、アイソパーMを挙げることができる。
【0047】
これらの加工助剤は、単独または複数を混合して使用することができるが、引火点が低いものは、安全面に不安がある上に原料混合物をシート化する際に溶剤含有率が変動し易いので好ましくなく、また、引火点が高すぎるものも乾燥が遅くなるので望ましくなく、このため、引火点が40〜60℃であるアイソパーG、アイソパーHを使用することが好ましい。
【0048】
本発明のフッ素樹脂シートの製造方法において、加工助剤の使用量は、その容量が、使用するフッ素樹脂と無機充填材の総容量の1〜100倍であることが好ましく、1〜10倍程度であることがより好ましく、3〜7倍程度であることがさらに好ましい。
【0049】
本発明のフッ素樹脂シートの製造方法においては、フッ素樹脂と無機充填材と加工助剤とを含む混合物をシート化した後、得られたシート状物を乾燥する。
【0050】
処理材料となる混合物は、フッ素樹脂、無機充填材及び加工助剤をミキサー内で攪拌混合すること等によって作製することができ、混合後に余分な加工助剤をろ過等により除去してもよい。
【0051】
上記混合物のシート化は、上記混合物を圧延処理したり、押出成形処理したり、プレス成形機でプレス処理することにより行うことができ、これ等の処理を複数組み合わせることによっても行うことができる。
【0052】
圧延処理は、上記混合物を、ロール間隙を変えながら2軸ロール間に複数回通過させ、シート状に成形することにより行うことができる。圧延処理時におけるロール間隙は、0.2〜10mm程度が適当である。上記混合物をロール間で複数回圧延処理することにより、フッ素樹脂の繊維化が促進され、シート内部が緻密化し、引張強さを向上することができる。フッ素樹脂の繊維化は、無機充填材として酸化アルミニウムを使用した場合に好適に行うことができ、引張り強さを更に高めることができる。また、無機充填材が繊維間に均一に存在してシートの応力緩和特性を高めることができる。圧延処理時のロール温度は、常温、すなわち10〜30℃の室温下でよく、この圧延処理においても加工助剤を完全に揮発させる必要はない。
【0053】
また、プレス成形機等により、上記混合物の一部を加圧して圧延した後、得られた圧延物上に上記混合物の一部を積層し、再度加圧して圧延することを繰り返すことによって圧延処理を行ってもよく、この場合も、引張強さの大きい良好なシート状物を得ることができる。
【0054】
シート状物の乾燥は、シート状物を加工助剤の沸点以下の温度で10〜48時間加熱することによって行うことができ、この乾燥処理によって加工助剤を除去してシート状乾燥処理物を得ることができる。
【0055】
本発明のフッ素樹脂シートの製造方法においては、上記処理により得られたシート状乾燥処理物を圧縮処理する。圧縮処理は、例えばプレス成型機または2軸ロールによって行うことができる。圧縮処理時にシート状乾燥処理物に付与される面圧は、1〜30MPaであることが適当であり、1〜20MPaであることがより適当であり、1〜10MPaであることがさらに適当である。圧縮処理を2軸ロールにより行う場合、上記面圧は、例えば、圧延処理時におけるロール間隙を0.2〜1.5mm程度とすることにより付与することができる。
本発明のフッ素樹脂シートの製造方法において、上記圧縮処理は、得られるフッ素樹脂シートの空隙率が、13%以下になるように行うことが好ましく、10%以下になるように行うことがより好ましく、8%以下になるように行うことがより好ましく、6%以下になるように行うことがさらに好ましい。上記圧縮処理は、得られるフッ素樹脂シートの空隙率が可能な限り低くなるように行うことが特に好ましい。得られるフッ素樹脂シートの空隙率が13%以下になるように圧縮することにより、優れたシール特性を発揮するフッ素樹脂シートを得ることができる。また、得ようとするフッ素樹脂シートがシール特性を重視するものである場合や、応力緩和特性とシール特性とのバランスを重視するものである場合には、上記圧縮処理は、得られるフッ素樹脂シートの空隙率が2〜10%になるように行うことが適当であり、4〜8%になるように行うことがより適当である。
【0056】
本発明のフッ素樹脂シートの製造方法においては、この圧縮処理時の条件を調整することによって得られるフッ素樹脂シートの空隙率を制御することができる。フッ素樹脂シートの空隙率は、圧縮処理時にプレス成型機または2軸ロールにより付加される荷重を調整したり、プレス成形機を構成する一対の成形型の間隔または2軸ロールを構成する一対のロールの間隔を調整したり、プレス成形型温度またはロール温度を調整することによって、制御することができる。
【0057】
本発明のフッ素樹脂シートの製造方法においては、上記圧縮処理により得られたシート状圧縮処理物を焼成処理する。焼成処理は、シート状圧縮処理物を構成するフッ素樹脂の融点以上の温度で、加熱、焼結することにより行われ、フッ素樹脂の種類にもよるが、340〜370℃で焼成処理することが適当である。また、焼成処理時にはシート状圧縮処理物全体を均一に加熱しつつ焼成処理することが望まれる。
【0058】
本発明の製造方法により得られるフッ素樹脂シートとしては、本発明のガスケット用フッ素樹脂シートの説明で説明したものが挙げられる。
【0059】
本発明の製造方法によれば、フッ素樹脂、無機充填材および加工助剤を含む混合物をシート化した後、焼成処理する前に圧縮処理することによって、得られるフッ素樹脂シートの空隙率を制御することにより、フッ素樹脂の含有割合が例えば60容量%未満と少なくても(無機充填材の相対的な含有割合が多くても)、高温下において応力緩和特性に優れるとともに十分なシール特性を発揮するガスケット用フッ素樹脂シートを簡便に製造することができる。
【0060】
次に、本発明のシートガスケットについて説明する。
本発明のシートガスケットは、本発明のガスケット用フッ素樹脂シートを加工して得られることを特徴とするものである。
【0061】
フッ素樹脂シートの加工法としては、打ち抜き加工法等を挙げることができ、本発明のシートガスケットは、本発明のガスケット用フッ素樹脂シートを打ち抜き加工等してなるものであることにより、任意形状を採ることができる。
【0062】
本発明のシートガスケットの構成成分、厚み、各種の物性(密度、空隙率)等については、本発明のガスケット用フッ素樹脂シートと同様である。
【0063】
本発明のシートガスケットは、例えば、本発明の方法によりフッ素樹脂シートを作製した後、打ち抜き加工等の加工処理を加えることにより作製することができる。
【0064】
本発明のシートガスケットにおいて、シール特性は、Nガスに対するシール性を評価することによって行うことができる。本出願書類において、Nガスに対するシール性は、JIS10K25Aのフランジ規格サイズに打ち抜いたシートを面圧35MPaで締め付け、内圧0.98MPaのNガスを10分間負荷したときの漏れ量を水上置換法で測定したときの値を意味する。
【0065】
本発明によれば、フッ素樹脂シートを構成するフッ素樹脂の含有割合が60容量%未満と少なくても(無機充填材の相対的な含有割合が多くても)、高温下において応力緩和特性に優れるとともに十分なシール特性を発揮するシートガスケットを提供することができる。
【0066】
本発明のシートガスケットは、例えば、石油化学プラント、各種工業用機械装置、自動車、家電などの広範囲な分野において、ガスケットとして使用することができる。
【実施例】
【0067】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明は以下の例により何ら限定されるものではない。
【0068】
(実施例1)
フッ素樹脂として三井・デュポンフロロケミカル株式会社製のPTFE 6−J(融点327℃、密度2.2g/cm)を用いるとともに、無機充填材として昭和電工社製の球状酸化アルミニウム A−42−2(平均粒径5μm、密度3.9g/cm)を用いて、表1に示す配合割合にて合計量が10kgになるように計量した。
【0069】
上記PTFEと酸化アルミニウムの配合物に対して、さらに加工助剤として約5倍容量のエクソンモービル有限会社製アイソパーGを加えてミキサーで5分間混合し、ろ過した後、ハンドプレスで縦約700mm、横700mm、厚さ20mmとなるまで加圧し、次いでロール径610mm、ロール間隔10mmの2軸ロールにロール速度5m/minで通過させて常温下で圧延した。続いてロール間隔を5mm、3mmと順次小さくし、最終的には後述する乾燥後の圧縮代を見込んで、厚みが1.5×{1+(圧縮前の厚さ−圧縮後の厚さ)/圧縮前の厚さ}mmとなるようにロール間隙を調整してシート状物を作製した。
【0070】
このシート状物を室温で24時間以上放置することにより乾燥処理して加工助剤を除去した後、ロール間隙を1.2mmに調整した2軸ロールのロール間にシート状乾燥処理物をロール速度5m/minで通過させて圧縮し、1.5mm厚のシート状圧縮処理物を作製した。このときの圧縮率({(圧縮前の厚さ−圧縮後の厚さ)/圧縮前の厚さ}×100)は4%とした。
【0071】
その後、得られたシート状圧縮処理物を電気炉内で350℃で3時間焼成することにより、表1に示す組成を有する厚さ1.5mmのフッ素樹脂シートを作製した。
【0072】
(実施例2〜実施例12)
PTFEと酸化アルミニウムの配合割合を表1および表2に示すとおり変更するとともに、乾燥処理後の圧縮率を表1に示す通り変更した以外は、実施例1と同様にして表1および表2に示す組成を有する厚さ1.5mmのフッ素樹脂シートを作製した。
【0073】
(実施例13)
無機充填材として、昭和電工社製の酸化アルミニウム A−42−2に代えてマルエス社製の珪石(♯20、密度2.7g/cm)を用い、表3に示す配合割合にて合計量が10kgになるように計量して、PTFEと珪石の配合物を作製し、乾燥処理後の圧縮率を15%に変更した以外は、実施例1と同様にして表3に示す組成を有する厚さ1.5mmのフッ素樹脂シートを作製した。
【0074】
(実施例14)
無機充填材として、昭和電工社製の酸化アルミニウム A−42−2に代えて、昭和ケミカル社製のクレーであるNK300クレー(密度2.6g/cm)を用い、表3に示す配合割合にて合計量が10kgになるように計量して、PTFEとクレーの配合物を作製し、乾燥処理後の圧縮率を15%に変更した以外は、実施例1と同様にして表3に示す組成を有する厚さ1.5mmのフッ素樹脂シートを作製した。
【0075】
(実施例15)
無機充填材として、昭和電工社製の酸化アルミニウム A−42−2に代えて、堺化学工業社製の硫酸バリウム(密度4.5g/cm)を用い、表3に示す配合割合にて合計量が10kgになるように計量して、PTFEと硫酸バリウムの配合物を作製し、乾燥処理後の圧縮率を15%に変更した以外は、実施例1と同様にして表3に示す組成を有する厚さ1.5mmのフッ素樹脂シートを作製した。
【0076】
(実施例16)
フッ素樹脂として三井・デュポンフロロケミカル株式会社製のPTFE 6−J(融点327℃、密度2.2g/cm)とともに三井・デュポンフロロケミカル株式会社製の変性PTFE 62−J(融点325〜326℃、密度2.2g/cm)を用い、フッ素樹脂と酸化アルミニウムの配合割合を表3に示すとおり変更するとともに、乾燥処理後の圧縮率を15%に変更した以外は、実施例1と同様にして表3に示す組成を有する厚さ1.5mmのフッ素樹脂シートを作製した。
【0077】
(実施例17)
フッ素樹脂として三井・デュポンフロロケミカル株式会社製のPTFE 6−J(融点327℃、密度2.2g/cm)に代えて、三井・デュポンフロロケミカル株式会社製の変性PTFE 62−J(融点325〜326℃、密度2.2g/cm)を用い、フッ素樹脂と酸化アルミニウムの配合割合を表3に示すとおり変更するとともに、乾燥処理後の圧縮率を15%に変更した以外は、実施例1と同様にして表3に示す組成を有する厚さ1.5mmのフッ素樹脂シートを作製した。
【0078】
(比較例1〜比較例3)
PTFEと酸化アルミニウムの配合割合を表4に示すとおり変更するとともに、乾燥処理後に圧縮処理せずにそのまま焼成処理したこと以外は、実施例1と同様にして、表4に示す組成を有する厚さ1.5mmのフッ素樹脂シートを作製した。
【0079】
実施例1〜実施例17および比較例1〜比較例3で得られたフッ素樹脂シートの実測シート密度、空隙率、引張強さ、応力緩和率、シール性を、上述した方法により測定した。結果を表1〜表4に示す。なお、これ等の特性は、フッ素樹脂シートを加工して得られるシートガスケットの特性と同様とみなすことができる。
【0080】
また、実施例1〜実施例17および比較例1〜比較例3で得られたフッ素樹脂シートをJIS10K25Aのフランジ規格サイズに打ち抜くことにより、各シートガスケットを作製した。このシートガスケットのシール特性を上述したNガスに対するシール性を評価することにより測定した。得られた測定結果を、各シールガスケットを構成するフッ素樹脂シートと対応するように表1〜表4に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
【表2】

【0083】
【表3】

【0084】
【表4】

【0085】
表1〜表4に示す結果より、実施例1〜実施例17においては、フッ素樹脂、無機充填材および加工助剤を含む混合物を圧延、乾燥した後、圧縮し、次いで焼成処理することによって、得られるフッ素樹脂シートの空隙率を13%以下に制御することができ、このようにして得られたフッ素樹脂シートは、フッ素樹脂の含有割合が60容量%未満と少なくても(無機充填材の相対的な含有割合が多くても)、応力緩和率が12〜18%であるという優れた応力緩和特性を発揮することができる。
【0086】
これに対して、比較例1〜比較例3においては、上記混合物の圧延、乾燥処理後、圧縮処理することなくそのまま焼成処理していることから、応力緩和率が20〜24%であるという応力緩和特性に劣るフッ素樹脂シートしか得られないことが分かる。
【0087】
また、表1〜表4に示す結果より、実施例1〜実施例17で得られたフッ素樹脂シートから作製されたシートガスケットは、Nガスの漏れ量が0.0〜0.9cm/minとNガスのシール性に優れるものであるのに対して、比較例2および比較例3で得られたフッ素樹脂シートから作製されたシートガスケットは、Nガスの漏れ量が10cm/min以上および2.0cm/minとNガスのシール性に劣るものであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明によれば、フッ素樹脂の含有割合が60容量%未満と少なくても(無機充填材の相対的な含有割合が多くても)、高温下において応力緩和特性に優れるとともに十分なシール特性を発揮するガスケット用フッ素樹脂シートおよびガスケット用フッ素樹脂シートの製造方法を提供するとともに、上記フッ素樹脂シートを加工して得られるシートガスケットを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂と無機充填材とを含有してなり、フッ素樹脂の含有割合が60容量%未満で、空隙率が13%以下であることを特徴とするガスケット用フッ素樹脂シート。
【請求項2】
前記無機充填材として酸化アルミニウムを含む請求項1に記載のガスケット用フッ素樹脂シート。
【請求項3】
フッ素樹脂と無機充填材と加工助剤とを含む混合物をシート化してシート状物を作製した後、該シート状物を乾燥し、次いで、圧縮し、焼成することを特徴とするガスケット用フッ素樹脂シートの製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載のガスケット用フッ素樹脂シートを加工して得られることを特徴とするシートガスケット。

【公開番号】特開2011−157546(P2011−157546A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290053(P2010−290053)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】