説明

ガスセンサ材料、その製造方法及びガスセンサ

【課題】ホルムアルデヒドガスよりアセトアルデヒドガスを優先的に検知する特性を有するガスセンサ材料、該材料を製造する方法及び該材料を含むガスセンサ等を提供する。
【解決手段】層状構造を持つ無機化合物の層間に、ポリナフチルアミン又はその誘導体、或いは、ポリアミノアントラセン又はその誘導体を主成分とする有機高分子を挿入することによって、その化学センサ特性としてホルムアルデヒドガスよりアセトアルデヒドガスを優先的に検知する特性を有する有機無機ハイブリッド材料からなるガスセンサ材料、導電性有機無機ハイブリッド材料、それらの製造方法、導電性部材及び化学センサ部材。
【効果】該ガスセンサ材料と、従来のアセトアルデヒドよりホルムアルデヒドを優先的に検知するガスセンサ材料を同時利用することで、ホルムアルデヒドとアセトアルデヒドのそれぞれの濃度を判定することが可能な化学センサデバイスを提供することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機無機ハイブリッド材料、ガスセンサ材料、その製造方法及びガスセンサに関するものであり、更に詳しくは、特定の有機無機ハイブリッド材料を化学センサ素子として用いたことを特徴とするガスセンサであって、抵抗値の変化によりガスを検知する作用を有し、長期安定性に優れ、100℃以下の温度において、ホルムアルデヒドよりアセトアルデヒドに対して強く応答する特性を有する新規ガスセンサ材料、その製造方法及びガスセンサに関するものである。
【0002】
本発明は、有機化合物と無機化合物をナノレベルで複合化した高機能性有機無機ハイブリッド材料を用いたガスセンサの技術分野において、従来の有機無機ハイブリッド材料では、揮発性有機化合物(VOC)の一種であるアルデヒド系のガスに対して選択的に応答するものの、何れもアセトアルデヒドよりホルムアルデヒドに対して強く応答するため、このガスセンサのみではホルムアルデヒドとアセトアルデヒドの識別が難しいという問題があることを踏まえて開発されたものである。
【0003】
本発明は、有機化合物と無機化合物を複合化した高機能性有機無機ハイブリッド材料において、ポリナフチルアミン又はその誘導体、或いは、ポリアミノアントラセン又はその誘導体を有機化合物として使用することで、ホルムアルデヒドよりアセトアルデヒドに対して強く応答する有機無機ハイブリッド材料からなる化学センサ素子を作製し、提供することを可能とするものである。
【0004】
即ち、本発明は、例えば、有機化合物として、ポリナフチルアミン又はその誘導体、或いは、ポリアミノアントラセン又はその誘導体を主成分とする化合物と、無機化合物として、酸化モリブデンを主成分とする化合物をナノレベルで複合化した導電性有機無機ハイブリッド材料、該材料からなる化学センサ素子に関する新技術・新製品を提供するものである。更に、本発明は、本発明の有機無機ハイブリッド材料と従来の有機無機ハイブリッド材料によるガスセンサを同時利用することで、ホルムアルデヒドガスとアセトアルデヒドガスそれぞれの濃度の判定を可能とする技術を提供するものである。
【背景技術】
【0005】
近年、住宅の高気密化や化学物質を放散する建材・内装等の利用で生じるVOCによる汚染が原因とされるシックハウス症候群と呼ばれる健康被害が問題視されており、室内のVOC濃度をモニタリングするための化学センサの開発が期待されている。VOCの成分は多岐に渡っており、それぞれの成分によって有害性、許容濃度が異なることから、VOCを常時モニタリングするための化学センサとしては、それぞれの成分を特定して検出するガス選択性が求められている。
【0006】
従来から利用されているVOCガス濃度の測定法としては、主に、検知管法による分析、ガスクロマトグラフィーによる分析が挙げられる。しかし、検知管法による分析は、瞬時の測定が可能である反面、色の変化を目視によって判定する測定法の性質上、正確な濃度の判定が難しいだけでなく、一回の使用で消耗するため、経済的に効率が悪い。また、ガスクロマトグラフィーによる分析は、精密な濃度の測定が可能である反面、分析機器の性質上、瞬時の測定は不可能であり、分析機器自体も高価である。
【0007】
これらのことから、何れの手法も、VOC濃度の常時モニタリング可能なデバイスとしての普及には適さない。その他、金属酸化物によるn型半導体による化学センサも従来から利用されているが、これは、VOC濃度の常時モニタリングに適する抵抗値の変化によりガスを検知する手法であるものの、その性質上、ガス選択性を寄与させることが難しい。以上の観点から、新規材料による化学センサの開発が検討されてきた。
【0008】
有機無機ハイブリッド材料による化学センサは、有機化合物と無機化合物をナノレベルで複合化することにより、エレクトロデバイス材料への応用に必要な信号変換機能とガス選択性に必要な分子認識機能を、それぞれ層状無機化合物とその層間の有機化合物に分担させることで、高いガス選択性を有した新しい化学センサ材料への応用に有効であることが報告されている。
【0009】
具体的な事例として、層状構造を持つ酸化モリブデン(MoO)を主成分とし、酸化モリブデン層間に有機化合物を挿入したインターカレーション型有機無機ハイブリッド材料において、当該材料が、ベンゼン、トルエンに対してほとんど応答しないのに対し、アルデヒド、アルコール、塩素系のガスに対して選択的に応答する優れたガス選択性を有する化学センサ素子の提案がなされている(特許文献1、特許文献2、非特許文献1)。
【0010】
また、上記ハイブリッド材料の素子化への応用のための薄膜化技術(特許文献3、非特許文献2)、有機無機ハイブリッド材料による薄膜を安価なシリコン基板上へ作製する技術(特許文献4)、が報告されている。更に、上記有機無機ハイブリッド材料による薄膜の、粒子のナノサイズ化、多孔質化技術によるセンサ感度の向上(特許文献5)を実現することで、50ppm以下の濃度領域ではアルデヒド系ガスに対して選択的に応答することを見出している。
【0011】
酸化モリブデンと有機化合物による有機無機ハイブリッド材料は、アルデヒド系のガスに対する新規化学センサ材料としての応用が期待されている。しかしながら、上記の有機無機ハイブリッド材料は、何れもホルムアルデヒドとアセトアルデヒドを共に検出し、かつ、アセトアルデヒドよりホルムアルデヒドに強く応答するものであり、当技術分野では、ホルムアルデヒドとアセトアルデヒドそれぞれの濃度を判定するためにホルムアルデヒドよりアセトアルデヒドに強く応答する有機無機ハイブリッド材料の開発が急務の課題となっている。
【0012】
【特許文献1】特開2004−271482号公報
【特許文献2】特開2005−321326号公報
【特許文献3】特開2005−179115号公報
【特許文献4】特開2006−315933号公報
【特許文献5】特開2005−321327号公報
【非特許文献1】Bull.Chem.Soc.Jpn.,Vol.77,1231(2004)
【非特許文献2】Chem.Mater.,Vol.17,349(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、ホルムアルデヒドよりアセトアルデヒドに強く応答する有機無機ハイブリッド材料による、抵抗値の変化によりガスを検知する化学センサを開発することを目標として鋭意研究を重ねた結果、酸化モリブデンの層間に、ポリナフチルアミン又はその誘導体、或いは、ポリアミノアントラセン又はその誘導体を主成分とする化合物を挿入した有機無機ハイブリッド材料では、ホルムアルデヒドよりアセトアルデヒドに強く応答することを見出し、更に研究を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明は、ホルムアルデヒドよりアセトアルデヒドに強く応答する導電性の有機無機ハイブリッド材料による化学センサを製造することを可能とする導電性有機無機ハイブリッド材料、化学センサ素子、導電性材料、それらの製造方法、及びその製品、特に、導電性部材、高感度化学センサ部材をそれぞれ提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)層状構造を持つ無機化合物の層間に有機高分子が挿入された有機無機ハイブリッド材料であって、該層状構造を持つ無機化合物が酸化モリブデンを主成分とし、有機高分子がポリナフチルアミン又はその誘導体、或いは、ポリアミノアントラセン又はその誘導体を主成分とすることを特徴とする有機無機ハイブリッド材料。
(2)ポリナフチルアミン誘導体が、ポリ(5,6,7,8−テトラヒドロ−1−ナフチルアミン)である、前記(1)に記載の材料。
(3)層状構造を持つ無機化合物の層間に有機高分子が挿入された有機無機ハイブリッド材料による成型体からなる、前記(1)に記載の材料。
(4)薄膜、配向膜、厚膜、又はペレット成型体からなる、前記(3)に記載の材料。
(5)前記(1)から(4)のいずれかに記載の有機無機ハイブリッド材料からなるガスセンサ材料であって、抵抗値の変化により、ホルムアルデヒドガスよりアセトアルデヒドガスを優先的に検知する特性を有することを特徴とするガスセンサ材料。
(6)前記(1)から(4)のいずれかに記載の有機無機ハイブリッド材料からなることを特徴とする導電性材料。
(7)層状構造を持つ無機化合物の層間に有機高分子を挿入して、抵抗値の変化により、ホルムアルデヒドガスよりアセトアルデヒドガスを優先的に検知する特性を有する有機無機ハイブリッド材料からなるガスセンサ材料を作製する方法であって、該層状構造を持つ無機化合物として酸化モリブデンを主成分とする化合物を、また、有機高分子としてポリナフチルアミン又はその誘導体、或いは、ポリアミノアントラセン又はその誘導体を用いることを特徴とするガスセンサ材料の製造方法。
(8)層状構造を持つ無機化合物の層間に、有機高分子を挿入して有機無機ハイブリッド材料からなる導電性材料を作製する方法であって、該層状構造を持つ無機化合物として酸化モリブデンを主成分とする化合物を、また、有機高分子としてポリナフチルアミン又はその誘導体、或いは、ポリアミノアントラセン又はその誘導体を用いることを特徴とする導電性材料の製造方法。
(9)有機無機ハイブリッド材料を成型して、成型体とする、前記(7)又は(8)に記載のガスセンサ材料又は導電性材料の製造方法。
(10)有機無機ハイブリッド材料を成型して、薄膜、配向膜、厚膜、又はペレットとする、前記(9)に記載のガスセンサ材料又は導電性材料の製造方法。
(11)前記(6)に記載の導電性材料を構成要素として含むことを特徴とする導電性部材。
(12)前記(5)に記載のガスセンサ材料からなるセンサ素子を含むことを特徴とする化学センサ部材。
【0016】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、層状構造を持つ無機化合物の層間に有機高分子が挿入された有機無機ハイブリッド材料をガスセンサ材料として使用することで、その抵抗値の変化により、ホルムアルデヒドガスよりアセトアルデヒドガスを優先的に検知する特性を有するガスセンサ材料としたこと、に特徴を有するものである。本発明では、層状構造を持つ無機化合物と、有機高分子を適切に組み合わせることで、ホルムアルデヒドガスよりアセトアルデヒドガスを優先的に検知するガスセンサ材料とすることが可能となる。
【0017】
また、本発明では、上記層状構造を持つ無機化合物として、酸化モリブデンを主成分とする化合物が使用されるが、これによって、有機無機ハイブリッド材料に信号変換機能を持たせることが可能となる。また、本発明では、上記有機高分子として、ポリナフチルアミン又はその誘導体、或いは、ポリアミノアントラセン又はその誘導体を主成分とする分子が使用されるが、これによって、有機無機ハイブリッド材料が分子認識機能を有し、かつ、ホルムアルデヒドガスよりアセトアルデヒドガスを優先的に検知する機能を与えることが出来る。
【0018】
本発明では、上記有機高分子のポリナフチルアミン又はその誘導体、或いは、ポリアミノアントラセン又はその誘導体として、例えば、ポリナフチルアミン誘導体であるポリ(5,6,7,8−テトラヒドロ−1−ナフチルアミン)(以下、この物質をPTHNAと記載することがある。)を主成分とする有機高分子が例示されるが、これらに制限されるものではなく、ポリナフチルアミン又はその誘導体、或いは、ポリアミノアントラセン又はその誘導体であれば同様に使用することが出来る。
【0019】
また、本発明では、例えば、層状構造を持つ無機化合物の層間に有機高分子が挿入された有機無機ハイブリッド材料は、薄膜、配向膜、厚膜、ペレット等の成型体として用いられる。本発明においては、上記無機化合物と、有機高分子を組み合わせることで、ホルムアルデヒドガスよりアセトアルデヒドガスを優先的に検知するガスセンサ材料とすることが可能となるが、例えば、高配向薄膜とすることで、エレクトロデバイス材料への応用、ガスセンサ材料としての高感度化が実現される。本発明では、上記成形体の形状及び構造は任意に設計することが出来る。
【0020】
また、本発明では、高配向の有機無機ハイブリッド材料による薄膜について、層状構造を持つ無機化合物を酸化モリブデンとすることによって、高配向の有機無機ハイブリッド材料による薄膜による高感度の信号変換機能を付与することが可能となる。また、本発明では、上記高配向の有機無機ハイブリッド材料による薄膜について、有機高分子をポリナフチルアミン又はその誘導体、或いは、ポリアミノアントラセン又はその誘導体とすることによって、高配向の有機無機ハイブリッド材料による薄膜に分子認識機能を与え、かつ、ホルムアルデヒドガスよりアセトアルデヒドガスを優先的に検知する機能を与えることが可能となる。
【0021】
また、本発明では、層状構造を持つ無機化合物の層間に有機高分子を挿入して有機無機ハイブリッド材料とすることで、抵抗値の変化により、ホルムアルデヒドガスよりアセトアルデヒドガスを優先的に検知する特性を有するガスセンサ材料の製造方法を構築することが出来る。これにより、有機無機ハイブリッド材料によるホルムアルデヒドガスよりアセトアルデヒドガスを優先的に検知するガスセンサ材料の作製が可能となる。
【0022】
また、本発明では、層状構造を持つ無機化合物の層間に有機高分子を挿入して高配向の有機無機ハイブリッド材料とすることで、抵抗値の変化により、ホルムアルデヒドガスよりアセトアルデヒドガスを優先的に検知する特性を有するガスセンサ材料の製造方法を構築することが出来る。これにより、基板上に高配向した薄膜とした有機無機ハイブリッド材料によるホルムアルデヒドガスよりアセトアルデヒドガスを優先的に検知するガスセンサ材料の作製及び高機能化が可能となる。
【0023】
また、本発明では、上記の有機無機ハイブリッド材料を構成要素とする導電性部材を構築することが出来、有機無機ハイブリッド材料の抵抗値の変化をモニタリングすることにより、ガス成分を検出する化学センサ素子とすることが可能となる。更に、本発明では、上記の有機無機ハイブリッド材料をセンサ素子とする化学センサ部材(ガスセンサ)を構築することが出来、センサ材料を電極と接続することで、抵抗値変化のモニタリングが可能となり、化学センサ素子として機能させることが出来る。
【0024】
本発明は、上述の通り、ナノサイズの層状構造を持つ酸化モリブデンの層間に、好適には、例えば、PTHNAを挿入することにより、抵抗値の変化によりガスを検知する化学センサとして、ホルムアルデヒドガスよりアセトアルデヒドガスに対して優先的に検知する特性と機能を有する導電性有機無機ハイブリッド材料を製造し、提供することを可能とするものである。
【0025】
導電性有機無機ハイブリッド材料によるVOC濃度測定の化学センサのメカニズムは、次の通りである。有機無機ハイブリッド材料の導電性は、有機化合物と無機化合物の電荷移動により生じる。この有機無機ハイブリッド材料において、VOCガスが有機無機ハイブリッド材料の層間に侵入し、有機化合物と作用することにより電荷移動のバランスが変化することで、有機無機ハイブリッド材料の抵抗値が変動する。即ち、導電性有機無機ハイブリッド材料による化学センサのガス選択性は、層間の有機化合物が寄与している。
【0026】
導電性有機無機ハイブリッド材料による化学センサとしては、その形状を、好適には、例えば、薄膜、配向膜、厚膜、ペレット等に成型して利用することが挙げられるが、これらに制限されるものではなく、これらと同効あるいは類似のものであれば、同様に使用することが出来る。エレクトロデバイス材料への応用、ガスセンサ材料としての高感度化の観点では、電極を有した基板上に高配向した薄膜として作製されることが望ましい。
【0027】
本発明における、化学センサとしてホルムアルデヒドガスよりアセトアルデヒドガスに対して優先的に検知する化学センサ材料は、好適には、例えば、酸化モリブデンとポリナフチルアミン誘導体であるPTHNAによる導電性有機無機ハイブリッド材料(以下、この物質を(PTHNA)MoOと記載する。)である。
【0028】
図1に、(PTHNA)MoOによる層状有機無機ハイブリッド材料の結晶構造の模式図を示す。従来の酸化モリブデンを主成分とした有機無機ハイブリッド材料がアセトアルデヒドよりホルムアルデヒドに対して優先的に検知するのに対し、(PTHNA)MoOがホルムアルデヒドガスよりアセトアルデヒドガスに対して優先的に検知する化学センサ材料であるのは、ポリナフチルアミン又はその誘導体、或いは、ポリアミノアントラセン又はその誘導体を有機化合物として用いたことで実現されたものである。
【0029】
PTHNAは、1−ナフチルアミンの5,6,7,8位に水素をもう一つ有するナフチルアミン誘導体である5,6,7,8−テトラヒドロ−1−ナフチルアミンの重合体である。PTHNAについては、環を2つ有する構造であるため、環を1つ有する単量体が重合した有機高分子と比べて立体的に嵩高くなることから、層状無機化合物層間に挿入したハイブリッド体の層間距離は、環を1つ有する単量体が重合した有機高分子と層状無機化合物とのハイブリッド体より増加する。
【0030】
その結果、ポリナフチルアミン誘導体と層状無機化合物とのハイブリッド体は、環を1つ有する単量体が重合した有機高分子と層状無機化合物とのハイブリッド体と比べて電荷移動のバランスが変化するだけでなく、各種VOCガス成分に対する親和性も変化することから、化学センサとしての応答が異なる。
【0031】
PTHNAと酸化モリブデンのハイブリッドの合成は、2段階の反応により行う。1段階目で、酸化モリブデン層間に水和ナトリウムイオンが挿入された[Na(HO)MoOを合成する。アルゴンガスでバブリングした蒸留水にモリブデン酸(VI)二ナトリウム・二水和物及び次亜硫酸ナトリウムを加え、溶解した後、予め金による櫛形電極を有する基板上に薄膜化した酸化モリブデンを浸漬させ反応させる。浸漬時間は、好ましくは20〜30秒程度である。洗浄、乾燥により[Na(HO)MoOを得る。
【0032】
次に、2段階目で、[Na(HO)MoOの層間に存在する水和ナトリウムイオン(Na(HO))とイオン交換することで、PTHNAを層間に挿入する。アルゴンガス又は窒素ガスでバブリングした蒸留水にポリナフチルアミン又はその誘導体の単量体と濃塩酸を加え、更に、重合開始剤として過硫酸アンモニウムを加えて重合させ、PTHNAとする。重合時間は10分〜5時間、好ましくは2〜3時間程度である。その後、[Na(HO)MoOを浸漬し、水和ナトリウムイオンとPTHNAのイオン交換反応を行う。浸漬時間は、好ましくは20〜30秒程度である。洗浄、乾燥により(PTHNA)MoOを得る。
【0033】
次いで、得られた(PTHNA)MoOの化学センサ特性を評価した。櫛形電極を用いて抵抗値をモニタリングし、指定の濃度のVOCガス雰囲気下とすることで変化する電荷移動のバランスで生じる抵抗値変化をセンサとしての応答とした。従来の有機無機ハイブリッド材料は、何れもアセトアルデヒドよりホルムアルデヒドに強く応答するものであった。しかしながら、本発明の化学センサは、ホルムアルデヒドよりアセトアルデヒドに強く応答し、かつ、アセトアルデヒドに対する応答がホルムアルデヒドに対する応答の約5.8倍という高い選択性を有するものも見られた。
【0034】
本発明では、上記有機無機ハイブリッド材料によるホルムアルデヒドよりアセトアルデヒドに強く応答するガスセンサ材料は、その抵抗値の変化をモニタリングすることにより、ガス成分を検出する化学センサ素子として好適に使用される。このガスセンサ材料を適宜の電極と接続することで、抵抗値の変化のモニタリングが可能となり、化学センサ素子として機能させることが可能となる。
【発明の効果】
【0035】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)有機無機ハイブリッド材料からなるガスセンサ材料で、ホルムアルデヒドよりアセトアルデヒドに対して強く応答する新規ガスセンサ材料を得ることが出来る。
(2)該有機無機ハイブリッド材料と、従来のアセトアルデヒドよりホルムアルデヒドに対して強く応答する有機無機ハイブリッド材料を同時利用することにより、双方の抵抗値変化をモニタリングすることで、ホルムアルデヒドとアセトアルデヒドの濃度を判定することが可能な新しい化学センサデバイスを提供することが出来る。
(3)それにより、ホルムアルデヒドとアセトアルデヒドの濃度を判定する安価な化学センサデバイスを提供することが出来る。
(4)本発明の化学センサデバイスを用いることにより、ホルムアルデヒドとアセトアルデヒドの濃度の常時モニタリングが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら制限されるものではない。
【実施例1】
【0037】
(1)シリコン(Si)基板へのランタンアルミネート(LaAlO)バッファー層の塗布
20mm四方の熱酸化膜付Si基板に、85mmol/LのLaAlO前駆体キシレン溶液を滴下し、500rpmで10秒の条件に続き、3000rpmで30秒の条件でスピンコートした。その後、90℃で約30分間乾燥させ、次いで、1000℃で30分焼成した。以上の工程を経て、熱酸化膜付Si基板に、酸化モリブデンと結晶格子定数の近いLaAlOバッファー層を塗布した。
【0038】
(2)酸化モリブデン(MoO)薄膜の作製
MoO薄膜は、CVD法にて作製した。基板は、LaAlOバッファー層を塗布したSi基板上に、電極幅20μm、電極間距離20μmを有した10mm四方内の金櫛形電極を蒸着したものを用いた。基板は、加熱用ヒーターを持つ試料ホルダーに設置した。ソース室から試料室にかけて酸素ガス50mL/minを流して系内を置換し、試料ホルダーを500℃に、試料室を455℃に、ソース室を40℃に加熱した。
【0039】
温度が安定した後、モリブデンヘキサカルボニル(Mo(CO))0.35gを入れた石英ガラスボートを、ソース室に設置し、真空ポンプにより系内を110Paに減圧した。減圧下で、Mo(CO)が揮発し、MoOが成長した。15分間成膜を行った後、真空ポンプを止めて、系全体を大気圧に戻し、成膜を終了した。図2に、得られたMoO薄膜のCuKα線で測定したX線回折パターンを示す。観測される回折ピークは、基板からのピークと金櫛形電極のピークを除けば、層状構造のMoOの(0k0)に帰属しており、MoO薄膜が基板に対してb軸配向していることを確認した。
【0040】
(3)[Na(HO)MoO薄膜の作製
蒸留水15mLをフラスコ内で攪拌しながら、25分間アルゴンガスでバブリングした後、モリブデン酸(VI)二ナトリウム・二水和物(NaMoO・2HO:6g)を加えて溶解させ、次いで、次亜硫酸ナトリウム(Na:0.4g)を加えた。これを溶解した後、攪拌とアルゴンガスのバブリングを止め、MoO薄膜を20秒間浸漬させた。モリブデンの一部が還元されることで、薄膜が淡青色から青色へ変化した。
【0041】
その後、薄膜を蒸留水で洗浄し、空気中にて30分間90℃で乾燥させた。図3に、得られた薄膜のCuKα線で測定したX線回折パターンを示す。観測される回折ピークは、基板からのピークと金櫛形電極のピークを除けば、層状構造の[Na(HO)MoOの(0k0)に帰属している。層間距離は、MoOの層間距離6.9Åより2.5Å増加した9.4Åである。この層間距離の増加は、水和ナトリウムイオン(Na(HO))が層間にインターカレートしたときの増加に相当することから、[Na(HO)MoO薄膜が生成したことが確認出来た。
【0042】
(4)(PTHNA)MoO薄膜の作製
蒸留水5mLに濃塩酸0.5mLを加えた水溶液に、5,6,7,8−テトラヒドロ−1−ナフチルアミン(0.254mL,1.82mmol)を加え、窒素ガスでバブリングを行いながら攪拌した。更に、重合開始剤として、過硫酸アンモニウム((NH:17mg)を含む0.5mLの水溶液を加え、引き続き、窒素ガスでバブリングを行いながら、160分間攪拌した。その後、バブリングと攪拌を止め、孔径0.5μm、直径25mmの親水性PTFEメンブレンフィルターを用いて吸引濾過を行い、得られたPTHNA水溶液に、上記の[Na(HO)MoO薄膜を30秒浸漬した後、蒸留水で洗浄し、空気中にて30分間90℃で乾燥させることで、(PTHNA)MoO薄膜を得た。
【0043】
図4に、(PTHNA)MoOのCuKα線で測定したX線回折パターンを示す。観測される回折ピークは、基板からのピークと金櫛形電極のピークを除けば、層状構造の(PTHNA)MoOの(0k0)に帰属している。層間距離は、[Na(HO)MoOの層間距離9.4Åより4.9Å増加した14.3Åである。この層間距離の増加は、PTHNAが層間にインターカレートしたときの増加に相当することから、(PTHNA)MoO薄膜が生成したことが確認出来た。
【0044】
(5)電気的特性及びセンサ特性の評価
(PTHNA)MoO薄膜による化学センサのホルムアルデヒド及びアセトアルデヒドガスに対するセンサ特性を電気抵抗値の変化で評価した。測定は、金櫛形電極を試料室の電気抵抗測定器と接続し、試料室に清浄窒素を200mL/minで流しながら100℃に加熱し、温度が安定した後、サンプルガスとして、対象VOCガス0.4ppmを含んだ窒素ガスを20分流し、その後、再び清浄窒素を流した。
【0045】
VOCガスに対するセンサ感度は、対象VOCガス0.4ppmを含んだ窒素ガスを導入する直前の電気抵抗値で規格化した電気抵抗値とした。図5に、0.4ppmのホルムアルデヒド、0.4ppmのアセトアルデヒドに対するセンサ特性の測定結果を示す。図5より、(PTHNA)MoO薄膜による化学センサは、アセトアルデヒドに対する感度がホルムアルデヒドに対する感度の約5.8倍であることが示された。有機化合物として、ポリアミノアントラセン又はその誘導体を主成分とした場合にも略同様の結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上詳述したように、本発明は、ガスセンサ材料、その製造方法及びガスセンサに係るものであり、本発明により、有機無機ハイブリッド材料からなるガスセンサ材料において、ホルムアルデヒドよりアセトアルデヒドに対して強く応答する新規ガスセンサ材料を得ることが出来る。該有機無機ハイブリッド材料と、従来のアセトアルデヒドよりホルムアルデヒドに対して強く応答する有機無機ハイブリッド材料を同時利用すること、それにより、双方の抵抗値の変化をモニタリングすることで、ホルムアルデヒドとアセトアルデヒドの濃度を判定することが可能な新しい化学センサデバイスを提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】(PTHNA)MoOの結晶構造の模式図を示す図である。
【図2】実施例に示すMoO薄膜のX線回折パターンを示す図である。
【図3】実施例に示す[Na(HO)MoO薄膜のX線回折パターンを示す図である。
【図4】実施例に示す(PTHNA)MoO薄膜のX線回折パターンを示す図である。
【図5】実施例に示す(PTHNA)MoO薄膜による化学センサの0.4ppmのホルムアルデヒドと0.4ppmのアセトアルデヒドに対するセンサ特性を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
(図1の符号)
1 酸化モリブデン層
2 ポリ(5,6,7,8−テトラヒドロ−1−ナフチルアミン)(PTHNA)層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状構造を持つ無機化合物の層間に有機高分子が挿入された有機無機ハイブリッド材料であって、該層状構造を持つ無機化合物が酸化モリブデンを主成分とし、有機高分子がポリナフチルアミン又はその誘導体、或いは、ポリアミノアントラセン又はその誘導体を主成分とすることを特徴とする有機無機ハイブリッド材料。
【請求項2】
ポリナフチルアミン誘導体が、ポリ(5,6,7,8−テトラヒドロ−1−ナフチルアミン)である、請求項1に記載の材料。
【請求項3】
層状構造を持つ無機化合物の層間に有機高分子が挿入された有機無機ハイブリッド材料による成型体からなる、請求項1に記載の材料。
【請求項4】
薄膜、配向膜、厚膜、又はペレット成型体からなる、請求項3に記載の材料。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の有機無機ハイブリッド材料からなるガスセンサ材料であって、抵抗値の変化により、ホルムアルデヒドガスよりアセトアルデヒドガスを優先的に検知する特性を有することを特徴とするガスセンサ材料。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載の有機無機ハイブリッド材料からなることを特徴とする導電性材料。
【請求項7】
層状構造を持つ無機化合物の層間に有機高分子を挿入して、抵抗値の変化により、ホルムアルデヒドガスよりアセトアルデヒドガスを優先的に検知する特性を有する有機無機ハイブリッド材料からなるガスセンサ材料を作製する方法であって、該層状構造を持つ無機化合物として酸化モリブデンを主成分とする化合物を、また、有機高分子としてポリナフチルアミン又はその誘導体、或いは、ポリアミノアントラセン又はその誘導体を用いることを特徴とするガスセンサ材料の製造方法。
【請求項8】
層状構造を持つ無機化合物の層間に、有機高分子を挿入して有機無機ハイブリッド材料からなる導電性材料を作製する方法であって、該層状構造を持つ無機化合物として酸化モリブデンを主成分とする化合物を、また、有機高分子としてポリナフチルアミン又はその誘導体、或いは、ポリアミノアントラセン又はその誘導体を用いることを特徴とする導電性材料の製造方法。
【請求項9】
有機無機ハイブリッド材料を成型して、成型体とする、請求項7又は8に記載のガスセンサ材料又は導電性材料の製造方法。
【請求項10】
有機無機ハイブリッド材料を成型して、薄膜、配向膜、厚膜、又はペレットとする、請求項9に記載のガスセンサ材料又は導電性材料の製造方法。
【請求項11】
請求項6に記載の導電性材料を構成要素として含むことを特徴とする導電性部材。
【請求項12】
請求項5に記載のガスセンサ材料からなるセンサ素子を含むことを特徴とする化学センサ部材。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【公開番号】特開2009−19934(P2009−19934A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−181530(P2007−181530)
【出願日】平成19年7月10日(2007.7.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「揮発性有機化合物対策用高感度検出器の開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】