説明

ガスタンク及びガスタンクの製造方法

【課題】口金及びエンドボスの強度を確保しつつ、ガスタンクの軽量化を図る。
【解決手段】高圧ガスタンク2は、樹脂ライナ20と当該樹脂ライナ20を覆うFRP層21を有するタンク本体10と、タンク本体10のタンク軸方向の一方の端部に設けられた口金11と、タンク本体10の他方の端部に設けられた樹脂製のエンドボス12と、を有する。樹脂ライナ20の他方側の端部は、閉鎖されており、エンドボス12は、樹脂ライナ20の他方側の端部の外側に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタンク及びガスタンクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車等に搭載される燃料電池システムには、燃料ガスの供給源として高圧ガスタンクが用いられている。一般的に高圧ガスタンクの本体は、内壁層であるライナと、当該ライナに繊維を巻き付けて形成された強化繊維層(外壁層)により形成されている。当該タンク本体の軸方向の一端部には、バルブが接続される口金が形成され、他端部には、当該他端部を閉鎖するエンドボスが形成されている。当該エンドボスは、従来より口金と同じ金属製に成形されている。
【0003】
【特許文献1】特開平09−96399号公報
【特許文献2】特開2003−287193号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、自動車の燃費やガスタンクの運搬性等の観点から、高圧ガスタンクは軽い方が望ましい。しかしながら、口金とエンドボスが金属製であり、これにより高圧ガスタンクは重くなっている。その一方で口金やエンドボスは、内圧に対する強度や耐久性が要求される。また、口金は、バルブが接続されるので、バルブに対する強度も要求される。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、口金及びエンドボスの強度を確保しつつ、ガスタンクの軽量化を図ることをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明は、ガスタンクであって、内壁層と当該内壁層を覆う外壁層を有するタンク本体と、前記タンク本体のタンク軸方向の一方の端部に設けられた口金と、前記タンク本体の他方の端部に設けられた樹脂製のエンドボスと、を有し、前記内壁層の前記他方側の端部は、閉鎖されており、前記エンドボスは、前記内壁層の前記他方側の端部の外側に設けられていることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、エンドボスが樹脂製であるので、ガスタンクの重さを低減できる。また、タンク本体の内壁層のエンドボス側の端部を閉鎖し、その外側にエンドボスを設けるので、ガスタンクの内圧が直接エンドボスにかかることがなく、エンドボスの強度も確保できる。また、エンドボスのみ樹脂製にするので、口金の強度は確保できる。したがって、口金及びエンドボスの強度を確保しつつ、ガスタンクの軽量化を図ることができる。
【0008】
前記内壁層の前記他方側の端部には、閉鎖面が形成され、前記外壁層の前記他方側の端部には、開口部が形成され、当該開口部と前記閉鎖面により前記タンク本体の他方の端部に凹部が形成されており、前記エンドボスは、前記凹部に設置されていてもよい。
【0009】
前記外壁層の開口部を形成する先端部と、その内側の内壁層との間には、隙間が形成され、前記エンドボスは、前記隙間に入り込むように、タンク軸に直交する径方向に突出する突出部を有していてもよい。かかる場合、エンドボスが内壁層と外壁層の隙間に係止されるので、例えば内圧上昇時などにエンドボスが押されてタンク本体から抜けることを防止できる。
【0010】
前記内壁層の前記他方側の端部は、前記タンク本体の内側に凹む凹状に形成され、当該内壁層の凹状部分の径が前記外壁層の開口部より大きく形成されていてもよい。かかる場合、上記外壁層と内壁層との間の隙間が適切に形成される。
【0011】
前記エンドボスは、フィラメントワイディング法により外壁層を形成する際に前記タンク本体の他方の端部に装着されていた金属製のエンドボスが除去され、それによって形成された凹部に溶融樹脂を流し込み硬化させることによって形成されたものであってもよい。
【0012】
別の観点による本発明は、ガスタンクの製造方法であって、タンク本体の内壁層の軸方向の一方の端部に口金を形成し、他方の端部に金属製のエンドボスを形成する工程と、前記タンク本体の内壁層を軸周りに回転させ、当該内壁層の外周に繊維を巻いて外壁層を形成する工程と、前記金属製のエンドボスを除去して、前記タンク本体の他方の端部に凹部を形成する工程と、前記凹部に溶融樹脂を流し込み硬化させて、前記タンク本体の他方の端部に樹脂製のエンドボスを形成する工程と、を有することを特徴とする。
【0013】
外壁層を形成する際には、エンドボスを保持して内壁層を回転させるため、エンドボスの強度が必要になる。本発明によれば、外壁層を形成する際に強度のある金属製のエンドボスを用いることができるので、外壁層の形成工程を適正に行うことができる。また、金属製のエンドボスを除去し、それによってできた凹部に溶融樹脂を流し込んで樹脂製のエンドボスを形成するので、最終的に樹脂製のエンドボスを有するガスタンクを適正に製造できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、口金及びエンドボスの強度を確保しつつ、ガスタンクの軽量化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態について説明する。図1は、本実施の形態に係るガスタンクを搭載した燃料電池自動車1の模式図である。
【0016】
燃料電池自動車1には、例えば3つの高圧ガスタンク2が車体のリア部に搭載されている。高圧ガスタンク2は、燃料電池システム3の一部を構成し、ガス供給ライン4を通じて各高圧ガスタンク2から燃料電池5に燃料ガスが供給可能になっている。高圧ガスタンク2に貯留される燃料ガスは、可燃性の高圧ガスであり、例えば水素ガスである。なお、高圧ガスタンク2は、燃料電池自動車1のみならず、電気自動車、ハイブリッド自動車などの車両のほか、各種移動体(例えば、船舶や飛行機、ロボットなど)や定置設備(住宅、ビル)にも適用できる。
【0017】
図2は、高圧ガスタンク2の構成の概略を示す縦断面図である。高圧ガスタンク2は、例えば略楕円体のタンク本体10と、当該タンク本体10のタンク軸方向の一方(図2の左側)の端部に設けられた口金11と、他方(図2の右側)の端部に設けられたエンドボス12を有している。
【0018】
タンク本体10は、例えば二層構造を有し、内側の内壁層としての樹脂ライナ20とその樹脂ライナ20の外面を覆う外壁層としてのFRP(Fiber Reinforced Plastics)層21を有している。
【0019】
樹脂ライナ20は、タンク本体10とほぼ同じ略楕円体形状を有している。樹脂ライナ20は、例えばナイロン6、ナイロン6,6などのポリアミド系樹脂により成形されている。FRP層21は、樹脂を含有する繊維により成形されている。FRP層21の樹脂として、例えばエポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、又は不飽和ポリエステル樹脂などが用いられている。また、繊維としては、例えば炭素繊維、金属繊維などが用いられている。
【0020】
樹脂ライナ20一方の端部は開口し、当該開口部に口金11が取り付けられている。口金11は、略円筒形状を有し、例えばアルミや鉄などにより成形されている。図2及び図3に示すように樹脂ライナ20の他方の端部は、閉鎖されており、タンク本体10の内側に凹む凹状部分20aが形成されている。凹状部分20aの底面は、タンク軸に直交する閉鎖平坦面20bになっている。
【0021】
FRP層21の他方の端部には、エンドボス12が通る開口部21aが形成されている。樹脂ライナ20の凹状部分20aの径は、FRP層21の開口部21aの径より大きく形成されており、これによって、FRP層21の開口部21aを形成する先端部と、その内側の樹脂ライナ20との間に隙間Dが形成されている。樹脂ライナ20の凹状部分20aとFRP層21の開口部21aにより、タンク本体10の他方の端部に凹部22が形成され、当該凹部22にエンドボス12が設置されている。エンドボス12は、凹部22に適合する略円柱状を有し、ポリアミド系樹脂などの樹脂により成形されている。また、エンドボス12は、FRP層21と樹脂ライナ20の隙間Dに入り込むように、タンク軸と直交する径方向に突出する環状の突出部12aを有している。
【0022】
次に、以上のように構成される高圧ガスタンク2の製造方法について説明する。図4は、かかる製造方法の主な工程の一例を示すフローチャートである。
【0023】
先ず、樹脂ライナ20が射出成形される。このとき、樹脂ライナ20の一方の端部に開口部が形成され、他方の端部に、閉鎖平坦面20bを有する凹状部分20aが形成される。そして、図5に示すように樹脂ライナ20の一方の端部の開口部に口金11が取り付けられ、他方の端部の凹状部分20aに、アルミ、鉄などの金属製のエンドボス12’が取り付けられる(図4の工程S1)。このエンドボス12’は、最終的に形成されるエンドボス12とほぼ同じ略円柱状を有している。エンドボス12’の外端面には、後述のFRP層21の形成時に回転シャフト51を挿入するための凹部12’aが形成されている。
【0024】
その後、樹脂ライナ20は、図6に示すように繊維巻き付け装置50の回転シャフト51に支持される。樹脂ライナ20は、両端の口金11と、エンドボス12’の凹部12’aに回転シャフト51を差し込むことによって、回転シャフト51に支持される。
【0025】
その後、回転シャフト51が回転され、樹脂ライナ20が回転されて、樹脂繊維Fが樹脂ライナ20の外面に巻き付けられる。樹脂繊維Fは、上流部で熱可塑性の樹脂が含浸され、その後繊維ガイド部52で角度調整されて、樹脂ライナ20に巻き付けられる。こうして、図7に示すように樹脂ライナ20の外周面と口金11とエンドボス12’の外周面の一部に樹脂繊維Fが巻き付けられ、所定の厚みのFRP層21が形成される(図4の工程S2)。その後、高圧ガスタンク2が加熱され、FRP層21が硬化される。
【0026】
FRP層21の硬化後、酸によりエンドボス12’が溶かされ、除去される(図4の工程S3)。これにより、図8に示すようにタンク本体10の他方の端部に、FRP層21の開口部21aと樹脂ライナ20の凹状部分20aにより囲まれた凹部22が形成される。その後、例えば当該凹部22に、溶解樹脂が流し込まれ、硬化されて、図3に示したように凹部22に樹脂製のエンドボス12が形成される(図4の工程S4)。
【0027】
以上の実施の形態によれば、エンドボス12が樹脂製であるので、高圧ガスタンク2の重さを低減できる。また、樹脂ライナ20のエンドボス12側の端部を閉鎖し、その外側にエンドボス12を設けるので、高圧ガスタンク2の内圧が直接エンドボス12にかかることがなく、エンドボス12の強度も確保できる。また、エンドボス12のみ樹脂製にするので、口金11の強度は確保できる。したがって、口金11及びエンドボス12の強度を確保しつつ、高圧ガスタンク2の軽量化を図ることができる。また、エンドボス12が樹脂の場合、樹脂の材質、形状等を変えることによってエンドボス12の耐久性や強度を設定しやすくなる。これにより、例えばタンク本体10より強度や耐久性を低く設定し、タンク本体10が破裂する前にエンドボス12が破損し内部ガスを放出するようにして、タンク本体10の破裂を防止することもできる。
【0028】
タンク本体10の他方の端部に、樹脂ライナ20の閉鎖平坦面20bとFRP層21の開口部21aにより囲まれる凹部22が形成されており、エンドボス12は、その凹部22に設置されている。かかる場合、例えばエンドボス12がタンク本体10にしっかり固定される。
【0029】
FRP層21の開口部21aを形成する先端部と、その内側の樹脂ライナ20との間に隙間Dが形成され、エンドボス12は、隙間Dに入り込むように、径方向の外側に突出する突出部12aを有している。このため、エンドボス12が樹脂ライナ20とFRP層21の隙間Dに係止され、例えば内圧上昇時などにエンドボス12がタンク本体10から抜けることを防止できる。
【0030】
また、樹脂ライナ20の他方の端部に形成された凹状部分12aの径は、FRP層21の開口部21aより大きく形成されたので、上記樹脂ライナ20とFRP層21の隙間Dが適正に形成され、タンク本体10に対するエンドボス12の固定を適正に行うことができる。
【0031】
本実施の形態では、初めタンク本体10の他方の端部に金属製のエンドボス12’を形成し、その後、FW法によりFRP層21を形成した後、エンドボス12’を除去してタンク本体10に凹部22を形成し、当該凹部22に溶融樹脂を流し込み硬化させて、樹脂製のエンドボス12を形成している。FRP層21を形成する際には、エンドボスを保持して回転させるため、エンドボスの強度が必要になるが、本実施の形態では、FRP層21を形成する際に金属製のエンドボス12’を用いるので、FRP層21の形成を適正に行うことができる。また、最終的には、樹脂製のエンドボス12を有する高圧ガスタンク2を適正に製造できる。
【0032】
以上の実施の形態では、金属製のエンドボス12’を酸により溶解させて除去していたが、他の方法によりエンドボス12’を除去してもよい。例えば図9に示すように予め金属製のエンドボス12’を分割可能に成形しておき、FRP層21を形成した後に、エンドボス12’の各片Pを凹部22から取り出して、エンドボス12’を除去してもよい。
【0033】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に相到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】高圧ガスタンクを搭載した燃料電池自動車の模式図である。
【図2】高圧ガスタンクの構成の概略を示す縦断面図である。
【図3】高圧ガスタンクのエンドボス側の端部の拡大縦断面図である。
【図4】高圧ガスタンクの製造方法の主な工程を示すフローチャートである。
【図5】口金とエンドボスを有する樹脂ライナの構成の概略を示す縦断面図である。
【図6】樹脂ライナに樹脂繊維を巻き付ける様子を示す説明図である。
【図7】樹脂ライナに樹脂繊維が巻き付けられた状態の高圧ガスタンクの縦断面図である。
【図8】金属製のエンドボスが除去されたときの高圧ガスタンクのエンドボス側の端部の拡大断面図である。
【図9】分割可能な金属製のエンドボスの平面図である。
【符号の説明】
【0035】
2 高圧ガスタンク
10 タンク本体
11 口金
12 エンドボス
12’金属製のエンドボス
20 樹脂ライナ
20a 凹状部分
21 FRP層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスタンクであって、
内壁層と当該内壁層を覆う外壁層を有するタンク本体と、
前記タンク本体のタンク軸方向の一方の端部に設けられた口金と、
前記タンク本体の他方の端部に設けられた樹脂製のエンドボスと、を有し、
前記内壁層の前記他方側の端部は、閉鎖されており、
前記エンドボスは、前記内壁層の前記他方側の端部の外側に設けられていることを特徴とする、ガスタンク。
【請求項2】
前記内壁層の前記他方側の端部には、閉鎖面が形成され、前記外壁層の前記他方側の端部には、開口部が形成され、当該開口部と前記閉鎖面により前記タンク本体の他方の端部に凹部が形成されており、
前記エンドボスは、前記凹部に設置されていることを特徴とする、請求項1に記載のガスタンク。
【請求項3】
前記外壁層の開口部を形成する先端部と、その内側の内壁層との間には、隙間が形成され、
前記エンドボスは、前記隙間に入り込むように、タンク軸に直交する径方向に突出する突出部を有していることを特徴とする、請求項2に記載のガスタンク。
【請求項4】
前記内壁層の前記他方側の端部は、前記タンク本体の内側に凹む凹状に形成され、当該内壁層の凹状部分の径が前記外壁層の開口部より大きく形成されていることを特徴とする、請求項3に記載のガスタンク。
【請求項5】
前記エンドボスは、フィラメントワイディング法により外壁層を形成する際に前記タンク本体の他方の端部に装着されていた金属製のエンドボスが除去され、それによって形成された凹部に溶融樹脂を流し込み硬化させることによって形成されたものであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のガスタンク。
【請求項6】
ガスタンクの製造方法であって、
タンク本体の内壁層の軸方向の一方の端部に口金を形成し、他方の端部に金属製のエンドボスを形成する工程と、
前記タンク本体の内壁層を軸周りに回転させ、当該内壁層の外周に繊維を巻いて外壁層を形成する工程と、
前記金属製のエンドボスを除去して、前記タンク本体の他方の端部に凹部を形成する工程と、
前記凹部に溶融樹脂を流し込み硬化させて、前記タンク本体の他方の端部に樹脂製のエンドボスを形成する工程と、を有することを特徴とする、ガスタンクの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−84908(P2010−84908A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−256723(P2008−256723)
【出願日】平成20年10月1日(2008.10.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】