説明

ガスバリアフィルムの製造方法

【課題】ガスバリア膜を破壊することなく、長尺なガスバリアフィルムを切断して、カットシート状のガスバリアフィルムを製造する。
【解決手段】長尺なガスバリアフィルムを幅方向に切断して、その後、幅方向両端部の切断を行うと共に、切断を、切断線と直交方向の一方のガスバリアフィルムを保持することなく行い、あるいは、点接触の切断手段を用いることにより、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺なガスバリアフィルムを切断して、カットシート状のガスバリアフィルムを製造する、ガスバリアフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学素子、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示装置、半導体装置、薄膜太陽電池等の各種の装置における防湿性を要求される部位や部品、食品、衣料品、電子部品等の包装に用いられる包装材料に、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等のプラスチックフィルム(支持体)に、ガスバリア性を発現する膜(ガスバリア膜)を形成(成膜)してなる、ガスバリアフィルムが利用されている。
【0003】
ガスバリアフィルムに成膜されるガスバリア膜としては、窒化ケイ素、酸化ケイ素、酸化アルミニウム等の各種の無機化合物(無機物)からなる膜が知られている。
ここで、特許文献1にも記載されるように、これらのガスバリア膜は、強度が低く、接触によって容易に破壊されてしまう。また、ガスバリア膜は、300nmを超えると硬くなり、割れ等を生じやすくなってしまうため、一般的に、ガスバリア膜は薄い膜である。
【0004】
ところで、このようなガスバリアフィルムを良好な生産効率で製造できる方法として、長尺な支持体(ウェブ状の支持体(基板/基材))をロール状に巻回してなる供給ロールを用い、供給ロールから送り出した支持体に成膜を行い、成膜済の支持体を、再度、ロール状に巻回する、いわゆるロール・ツー・ロール(Roll to Roll)が知られている。
このロール・ツー・ロールによる成膜では、支持体に成膜を行なう成膜室を通過する所定の経路で、供給ロールから巻取りロールまで長尺な支持体を通紙(挿通)し、供給ロールからの支持体の送り出しと、巻取りロールによる成膜済支持体の巻取りとを同期して行いつつ、成膜室において、搬送される支持体に連続的に成膜を行なう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−108531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ガスバリアフィルムは、多くの場合、所定サイズのカットシートとして使用される。従って、ロール・ツー・ロールによってガスバリア膜を形成したガスバリアフィルムは、所定サイズのカットシートに切断(裁断加工)する必要が有る。
長尺なシート状物を所定サイズのカットシートにする方法としては、1工程で所望サイズ/形状のカットシートが得られる等の点で、切断するシートと同形状の枠状の刃を用いる、いわゆる打ち抜き(型抜き)が好適に利用される。
【0007】
ここで、前述のように、ガスバリア膜は、無機化合物からなる膜であるので、比較的、硬く、脆い膜である。また、特許文献1にも記載されるように、ガスバリア膜は、厚くなると柔軟性を失い、より割れ易くなってしまう。
さらに、ある程度の厚さになると、それ以上、ガスバリア膜を厚くしても、ガスバリア性能の向上は見込めない。なぜならば、ガスバリア膜は、膜を形成する分子の緻密さでガスバリアバリア性能が決まるからである。従って、ある一定以上の膜形成をした後は、厚み方向での性質は変わらない。但し、ガスバリア膜が厚くなると、成膜時に混在する異物のような外乱に対しての無機物質の包埋性も向上する。しかし、この場合、割れ易さの方が支配的になるので、結果的に性能は落ちる。そのため、前述のように、ガスバリアフィルムに形成されるガスバリア膜は、一般的に、薄い膜である。
【0008】
このようなガスバリア膜を有する長尺なガスバリアフィルムを、打ち抜き等によって所定形状のカットシートに切断すると、切断によって掛かる力によって、ガスバリア膜にひびや割れを生じて、ガスバリア膜が破壊されてしまい、ガスバリア性能が著しく低下してしまう。
しかも、このガスバリア膜の破壊は、直接、ダイ・押さえが触れる周辺部のみならず、切断部から十分に離れた、ダイには接触していない部位においても、力が振動のように伝播し、バリア膜の破壊による欠陥が発生するという問題であることが明らかになった。
【0009】
また、特許文献1にも記載されるように、切断が完了してカットシート状とするまでの各種の工程において、ガスバリア膜に接触すると、容易にガスバリア膜が破壊されてしまい、やはり、ガスバリア性能が著しく低下してしまう。
【0010】
本発明の目的は、前記従来技術の問題点を解決することにあり、支持体の上にガスバリア膜を形成してなる長尺なガスバリアフィルムを切断して、所定サイズ/形状のカットシート状のガスバリアフィルムを製造する製造方法であって、切断や接触に起因するガスバリア膜の破壊を抑制して、所望のガスバリア性を有するカットシート状のガスバリアフィルムを、安定して製造することを可能にするガスバリアフィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を有する達成するために、本発明のガスバリアフィルムの製造方法は、支持体の上にガスバリア膜を形成してなる長尺なガスバリアフィルムをロール状に巻回してなるフィルムロールから、前記長尺なガスバリアフィルムを引き出して切断し、所定サイズのカットシート状のガスバリアフィルムを製造するに際し、前記長尺なガスバリアフィルムを長手方向と直交する幅方向に切断し、その後、前記幅方向の両端部を前記長尺なガスバリアフィルムの長手方向に切断することにより、前記所定サイズのカットシート状のガスバリアフィルムとするものであり、さらに、前記ガスバリアフィルムの切断は、切断線に対して垂直方向の一方のガスバリアフィルムを保持することなく行い、もしくは、ガスバリアフィルムに点接触する切断手段によって行うことを特徴とするガスバリアフィルムの製造方法を提供する。
【0012】
このような本発明のガスバリアフィルムの製造方法において、前記点接触する切断手段を用いない場合において、前記幅方向の切断は、切断線よりも、前記長尺なガスバリアフィルムの引き出し方向の下流側のガスバリアフィルムを保持しないで行うのが好ましく、また、前記点接触する切断手段を用いない場合において、前記幅方向の両端部の切断は、前記カットシート状のガスバリアフィルムとなる領域を保持しないで行うのが好ましい。
【0013】
また、前記幅方向の切断を、前記長尺なガスバリアフィルムを長手方向に搬送しつつ行うのが好ましい。
この際において、前記幅方向の切断を、前記幅方向に延在する回転軸を有する回転体と、この回転体の回転における周面に固定される、前記幅方向に延在する切断刃とを有する切断手段を用いて、前記回転体の回転と前記長尺なガスバリアフィルムの搬送とを同期させて行うのが好ましい。
【0014】
また、前記フィルムロールと前記幅方向の切断手段との間に配置される、前記長尺なガスバリアフィルムの搬送手段は、前記支持体に対して前記ガスバリア膜側においては、前記幅方向両端部の切断される部分のみに当接するものであるのが好ましい。
この際において、前記搬送手段は、前記長尺なガスバリアフィルムを挟持搬送するローラ対であり、前記ガスバリア膜側のローラが、前記切断される部分との当接部に比して、それ以外の部分が小径である段付きローラであるのが好ましい。
【0015】
また、前記幅方向の端部の切断を、2枚の円形の回転刃によってガスバリアフィルムを厚み方向に同時に挟み込んで裁断するスリッタ、もしくは、1枚の円形の回転刃と刃受けとによってガスバリアフィルムを厚み方向に同時に挟み込んで裁断するスリッタによって行うのが好ましい。
もしくは、前記幅方向の端部の切断を、前記カットシート状のガスバリアフィルムとなる領域を保持しないで、ギロチンカッタによって片方の端部ずつ行うのが好ましい。
【0016】
さらに、前記幅方向の両端部の切断が終了するまでは、前記支持体に対して前記ガスバリア膜側においては、前記ガスバリアフィルムの幅方向両端部の切断される部分のみに接触するのが好ましい。
この際において、前記幅方向の切断を行う装置への長尺なガスバリアフィルムの通紙を、後に切断される幅方向端部領域に接触して行うのが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
上記構成を有する本発明のガスバリアフィルムの製造方法においては、ガスバリアフィルムを切断(切断加工)して所定サイズのカットシート状にする際に、切断線に対して直交する方向の一方のガスバリアフィルム(切断線を挟むガスバリアフィルムの一方側)を保持することなく(すなわち、フリーの状態(開放状態)にして)、ガスバリアフィルムを切断する。あるいは、円形の回転刃を用いるスリッタのように、切断部に点で接触する切断手段で、ガスバリアフィルムを切断する。
そのため、本発明の製造方法においては、切断時にガスバリア膜に余分な力が加わることを防止でき、切断に起因するガスバリア膜の破壊を、好適に抑制できる。
【0018】
また、ガスバリアフィルムにおいては、前述のような切断時のみならず、ガスバリア膜に搬送ローラ等の各種の部材や、作業員の手などが接触すると、やはり、ガスバリア膜にヒビや割れ等を生じ、破壊されてしまう場合が多い。
ここで、一般的に、長尺なガスバリアフィルムの幅方向(長手方向と直交する方向)の端部近傍は、適正にガスバリア膜が形成されていない場合が多い。そのため、この端部領域は製品にはせずに、切断してしまうのが好ましい。また、長尺なガスバリアフィルムの幅が、目的とするカットシートの一方向のサイズに一致しない場合には、短尺にする切断のみならず、所定サイズにするために端部も切断する必要が有る。
【0019】
これに対して、本発明の製造方法においては、まず、長尺なガスバリアフィルムを幅方向に切断して、短尺なガスバリアフィルムとした後に、幅方向の両端部(ガスバリアフィルムが長尺だった状態における幅方向の両端部)を切断する。
そのため、本発明によれば、所定サイズのカットシートとするまでは、幅方向の端部の製品とならない部分を利用して、搬送ローラによるガスバリアフィルムの搬送や、成膜装置への通紙などの操作やハンドリング等を行うことができ、ガスバリアフィルムの製品領域への接触を避けることができる。
すなわち、本発明の製造方法によれば、各種の部材の接触や作業員の接触に起因するガスバリア膜の損傷も、好適に防止できる。
【0020】
従って、本発明の製造方法によれば、ガスバリア膜の損傷に起因するガスバリア性の低下を抑制した、所望のガスバリア性を有するカットシート状のガスバリアフィルムを、安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(A)〜(C)は、本発明のガスバリアフィルムの製造方法に利用可能なガスバリアフィルムの一例を概念的に示す図である。
【図2】(A)および(B)は、本発明のガスバリアフィルムの製造方法を説明するための概念図である。
【図3】(A)および(B)は、本発明のガスバリアフィルムの製造方法を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明のガスバリア膜の製造方法について、添付の図面に示される好適実施例を基に、詳細に説明する。
【0023】
本発明のガスバリア膜の製造方法は、長尺なガスバリアフィルム(ウエブ状のガスバリアフィルム)を切断して、所定サイズのカットシート状のガスバリアフィルムを製造するものである。
【0024】
本発明の製造方法において、利用可能な長尺なガスバリアフィルムには、特に限定はなく、図1(A)に概念的に示すように、長尺な支持体Zの表面に、ガスバリア膜12を形成してなる、公知のガスバリアフィルムが、全て、利用可能である。
【0025】
具体的には、支持体Z(ウエブ状の基材(基板))としては、ガスバリアフィルムの支持体として利用される公知の物が、各種、利用可能である。
具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアクリレート、ポリメタクリレートなどの、プラスチック(高分子材料)からなるプラスチックフィルムが、支持体Zの好適な一例として例示される。
また、支持体Zは、前述のようなプラスチックフィルムなどの表面(ガスバリア膜12の形成面)に、保護層、接着層、光反射層、反射防止層、遮光層、平坦化層、緩衝層、応力緩和層等の、各種の機能を得るための層(膜)が形成されているものであってもよい。
【0026】
ガスバリア膜12にも、特に限定はなく、ガスバリア性(水蒸気バリア性)を発現する公知の膜が、各種、利用可能である。
具体的には、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化タンタル、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化インジウムスズ(ITO)などの金属酸化物; 窒化アルミニウムなどの金属窒化物; 炭化アルミニウムなどの金属炭化物; 酸化ケイ素、酸化窒化ケイ素、酸炭化ケイ素、酸化窒化炭化ケイ素などのケイ素酸化物; 窒化ケイ素、窒化炭化ケイ素などのケイ素窒化物; 炭化ケイ素等のケイ素炭化物; これらの水素化物; これら2種以上の混合物; および、これらの水素含有物等の、無機化合物からなる膜が、好適に例示される。
このようなガスバリア膜12は、プラズマCVDやスパッタリング等の公知の方法で成膜されたものでよい。
【0027】
また、本発明において、ガスバリア膜は、図1(A)に示すガスバリア膜12のように、ガスバリア性を発現する無機化合物からなる層の単層膜に限定はされず、各種の層構成を有するガスバリア膜が利用可能である。
一例として、図1(A)に示すガスバリア膜12で例示した、窒化ケイ素、酸化ケイ素、酸化アルミニウム等のガスバリア性を発現する無機層を、複数層、積層した構成であってもよい。また、前述の特許文献1に記載されるような、無機層と、有機化合物からなる層(有機層)とを組み合わせたガスバリア膜も利用可能である。具体的には、図1(B)に示すような、有機層14と無機層16とを、交互に積層したガスバリア膜12bが、好適に例示される。
【0028】
このような有機層14と無機層16とを交互に積層してなるガスバリア膜12bにおいて、有機層14には、特に限定はなく、各種の有機物からなる膜が利用可能である。
具体的には、ポリエステル、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、メタクリル酸−マレイン酸共重合体、ポリスチレン、透明フッ素樹脂、ポリイミド、フッ素化ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、セルロースアシレート、ポリウレタン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、脂環式ポリオレフィン、ポリアリレート、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、フルオレン環変性ポリカーボネート、脂環変性ポリカーボネート、フルオレン環変性ポリエステル、アクリロイル化合物、などの熱可塑性樹脂、あるいはポリシロキサン、その他の有機珪素化合物の膜が好適に例示される。
中でも、ガスバリア性に効く平滑性、耐熱性の観点から、ラジカル重合性化合物および/またはエーテル基を官能基に有するカチオン重合性化合物の重合物から構成された有機層14は、好適であり、特に、アクリレートおよび/またはメタクリレートモノマーの重合体を主成分とするアクリル樹脂あるいはメタクリル樹脂は、好適に例示される。
このような有機層14は、塗布による方法やフラッシュ蒸着などの公知の方法で成膜すればよい。
【0029】
また、本発明の製造方法において、有機層14と無機層16とを交互に形成してなるガスバリア膜は、図1(B)に示すような『有機層14/無機層16/有機層14』の3層構成に限定はされず、有機層と無機層とを1層ずつ有するものであってもよく、あるいは、図1(C)に示す5層構成(『有機層14/無機層16/有機層14/無機層16/有機層14』)のガスバリア膜12cのように、4層以上の層構成を有するガスバリア膜であってもよい。
【0030】
有機層14は、基本的に、ガスバリア性を発現する無機層16の成膜面の平滑化を図り、無機層16が、十分なガスバリア性を発現できるようにするものである。
また、最上層(表面)に有機層14を有する場合には、保護層となる。
【0031】
後に詳述するが、本発明の製造方法は、長尺なガスバリアフィルムを切断(裁断加工)することにより、所定サイズのカットシート状のガスバリアフィルムを製造するものである。本発明においては、後述する所定の方法で切断を行うことにより、切断の際に、ガスバリア膜(有機層14/無機層16の積層型の場合には、ガスバリア性を発現する無機層16)に力が加わって、この力によってガスバリア膜が破壊されることを防止する。
【0032】
ここで、本発明の製造方法において、ガスバリア膜が有機層14を有する場合には、有機層14は、上記作用に加え、切断によって無機層16にかかる力を緩衝する、緩衝層としての作用も発現する。
従って、無機層16と有機層14とを組み合わせたガスバリア膜、特に、図1(B)や後述する図1(C)に示されるように、有機層14と無機層16とを交互に積層してなるガスバリア膜を有する長尺なガスバリアフィルムを用いることにより、本発明によるガスバリア膜の破壊防止効果と、有機層14が発現する緩衝効果との相乗効果とによって、より好適に、切断によるガスバリア膜(無機層16)の破壊を防止でき、好ましい結果を得ることができる。また、最上層に有機層14を有する場合には、表面の平坦性に優れるため、ニップローラ等の搬送手段との良好な密着性を確保でき、例えば、後述するような段付きローラ等を用いた、ガスバリアフィルム端部の非製品領域のみに当接する搬送を、少ない保持しろで安定的に行うことができる。
【0033】
本発明の製造方法において、長尺なガスバリアフィルムが、有機層14と無機層16とを交互に積層してなるガスバリア膜を有する物である場合、図1(B)および図1(C)に示すように、最下層および最上層(支持体Zの表面に形成される層、および、支持体Zと逆側の層)は、有機層14であるのが好ましい。
また、この際において、最下層の有機層14は、最上層の有機層14以上の厚さで、かつ、最上層の有機層14は、無機層16よりも厚いのが好ましい。さらに、図1(C)に示すように、5層以上の層構成を有するガスバリア膜の場合には、前記の条件に加え、中間の有機層14(最下層および最上層以外の有機層14)は、最下層の有機層14以下の厚さで、かつ、最上層14の有機層14以上の厚さであるのが好ましい。
また、各層の膜厚にも特に限定は無いが、最上層の有機層14の膜厚は80〜1000nm、それ以外の有機層14の膜厚は500〜3000nm、無機層16の膜厚は15〜100nmであるのが好ましい。
【0034】
上記構成を有することにより、より好適なガスバリア性を得られる、ガスバリアフィルムの透明性を確保できる、前述の有機層14を有することによる切断による無機層16の破壊防止効果を好適に得られる等の点で、好ましい結果を得ることができる。
特に、無機層16は、厚くなり過ぎると、切断時における破壊を生じ易くなるので、膜厚を上記範囲とすることにより、より好適に、切断による無機層16の破壊を防止でき、好ましい結果を得ることができる。
【0035】
本発明のガスバリアフィルムの製造方法は、このような長尺なガスバリアフィルムをロール状に巻回してなるフィルムロールから、ガスバリアフィルムを引き出し、切断(裁断加工)して所定サイズのカットシート状のガスバリアフィルムとするものである。
具体的には、長尺なガスバリアフィルムをフィルムロールから引き出して、まず、幅方向(長尺なガスバリアフィルムの長手方向(引き出し方向)と直交する方向)に切断して、製造するカットーシート状のガスバリアフィルムに応じた長さの、短尺なガスバリアフィルムとする。本発明の製造方法においては、その後、この短尺なガスバリアフィルムの幅方向の両端部を長手方向に切断して、幅方向の両端部を切り落とし、所定サイズ(所定形状)のカットシート状のガスバリアフィルムとする。
なお、当然の事であるが、幅方向の切断で短尺なガスバリアフィルムとした後の幅方向両端部の長手方向への切断において、幅方向および長手方向とは、短尺に切断される前の長尺な状態における幅方向および長手方向である(以下、単に『幅方向』および『長手方向』とする)。
【0036】
幅方向の切断の一例を、図2(A)および図2(B)に概念的に示す。
この例では、まず、長尺なガスバリアフィルムL(以下、便宜的に長尺フィルムLとする)をロール状に巻回してなるフィルムロール20から、2つの搬送ローラ対24によって長尺フィルムLを引き出す。
この引き出した長尺フィルムLを、搬送ローラ対24によって図中矢印aで示す長手方向(=引き出し方向)に搬送しつつ、ロータリーカッタ28(図2(B)では省略)によって幅方向に切断して、製造するカットシートの長さに応じた短尺なガスバリアフィルムS(以下、便宜的に、短尺フィルムSとする)とする。
【0037】
図2に示す例において、ロータリーカッタ28の搬送方向の下流(=長尺フィルムLの引き出し方向 以下、単に下流とする)には、切断前の長尺フィルムL(すなわち、切断される短尺フィルムS)に接触する部材は、配置されていない。
そのため、長尺フィルムLを幅方向に切断することによって作製された短尺フィルムSは、滑り台状のガイド30(図2(B)では省略)に案内されて落下して、次の幅方向の両端部の切断に供される。
【0038】
なお、このような幅方向の切断装置への長尺フィルムLの通紙は、後に切断される幅方向端部の非製品領域に接触して行うのが好ましい。
【0039】
図2に示す例において、ロータリーカッタ28は、幅方向と一致する回転軸(中心線)を有する円柱状の回転体28aの周面に、幅方向に延在する刃28bを有する、公知のロータリーカッタである。なお、図2(A)中の符号32は、支持台(下刃/刃受け)である。
ロータリーカッタ28は、公知のロータリーカッタと同様に、長尺フィルムLの搬送と同期(刃28bの先端の回転速度と長尺フィルムLの搬送速度とを一致)して、長尺フィルムLの搬送方向(矢印b方向)に回転することにより、長手方向に搬送される長尺フィルムLを幅方向に切断する。
【0040】
ここで、図2に示す例においては、一例として、長尺なガスバリアフィルムLは、ガスバリア膜を図中上方にして引き出され、搬送される。
前述のように、長尺フィルムLは、2つの搬送ローラ対24によって、フィルムロール20から引き出され、長手方向に搬送されつつ、切断される。搬送ローラ対24において、下側の支持体Zに当接するローラ24bは、通常の円柱状のローラであるが、図中上方のガスバリア膜に当接するローラは、端部(あるいは端部近傍)の直径が、それ以外の領域(中央領域)の直径よりも大径である、いわゆる段付きローラ24aである。
また、段付きローラ24aは、長尺フィルムLの幅方向の両端部の、後の幅方向両端部の切断において切り離される領域のみに当接する。すなわち、段付きローラ24aは、長尺フィルムLの非製品領域のみに当接する。
【0041】
ガスバリアフィルムにおいて、ガスバリア膜12や、積層型のガスバリア膜においてガスバリア性を発現する無機層16は、薄く、かつ、脆い。そのため、搬送ローラ対等の部材が、直接的にガスバリア膜に当接すると、その部分のガスバリア膜(無機層16)にヒビや割れを生じてしまう場合が多い。また、やはり、ガスバリア膜の製品領域に不要に接触するのは、決して好ましい事ではなく、不適性な製品を製造してしまう一因となる。
これに対し、図示例のように、ガスバリア膜に当接するローラを段付きローラ24とし、後に切り離されてしまう非製品領域のみに当接する構成とすることにより、製品領域のガスバリア膜の破壊や損傷等を好適に防止して、適正な製品を安定して製造することが可能になる。
【0042】
前述のように、本発明の製造方法においては、長尺フィルムLを幅方向に切断したら、その後、幅方向両端部の切断を行う。図3(A)および図3(B)に概念的に示す
この例においては、スリッタ40によって、短尺フィルムSの幅方向の両端部を長手方向(矢印a方向)に切断して、所定サイズのカットシート状のガスバリアフィルムC(以下、便宜的に、製品フィルムCとする)とする。
【0043】
スリッタ40は、図3に示すように、図中破線で示す切断位置に配置される、幅方向の回転軸を有する(すなわち、長手方向に回転する)、短尺フィルムSを厚み方向(上下方向)に挟み込む2つの円形(円盤状)の回転刃40a(上刃と下刃)による剪断によって、短尺フィルムSの幅方向の端部を長手方向に切断する、公知のスリッタである。図示例においては、好ましい態様として、短尺フィルムSの幅方向の両端部の切断位置に、それぞれ、長手方向の同位置に位置するスリッタ40を配置して、短尺フィルムSの両端部を同時に切断している。
このスリッタ40による切断は、スリッタ40を移動して行っても、短尺フィルムSを搬送して行っても、両者を相対的に移動して行ってもよい。また、このスリッタ40までの短尺フィルムSの搬送、および、スリッタによって切断するための短尺フィルムSの搬送は、スリッタ40によって切断される幅方向両端部に接触して行うのが好ましい。
【0044】
ここで、本発明の製造方法においては、切断線に対して直交する一方の側のガスバリアフィルム、すなわち、切断線を挟む一方の側のガスバリアフィルムを保持することなく、もしくは、ガスバリアフィルムに点接触する切断手段によって、幅方向および長手方向のガスバリアフィルムの切断を行う。
【0045】
具体的には、長尺フィルムLの幅方向の切断は、切断位置よりも長尺フィルムLの引き出し方向の下流側のガスバリアフィルムを押さえずに切断を行い、もしくは、切断するガスバリアフィルムに点接触する切断手段によって切断を行う。
図示例においては、幅方向に長尺フィルムLを切断する際に、図2(B)に一点鎖線で示す切断位置よりも下流側(図中右側)の切り離されるガスバリアフィルム、すなわち、短尺フィルムSとなる部分を保持することなく、ロータリーカッタ28によって長尺フィルムLを切断して短尺フィルムSとする。言い換えれば、図示例においては、短尺フィルムSとなる部分を自由にした状態(自由端とした状態)で、幅方向の切断を行っている。
【0046】
また、短尺フィルムSの幅方向の両端部の切断は、切断される端部の逆側すなわち製品フィルムCとなる領域を押さえることなく(自由にした状態)で切断を行い、もしくは、切断するガスバリアフィルムに点接触する切断手段によって切断を行う。
図示例においては、短尺フィルムSに点接触する2枚の回転刃40aを有するスリッタ40によって、短尺フィルムSの両端部を長手方向に切断して、所定サイズの製品フィルムCとしている。
【0047】
さらに、本発明においては、長尺フィルムLを幅方向に切断して短尺フィルムSとした後に、短尺フィルムSの幅方向両端部を長手方向に切断して、所定サイズのカットシート状のガスバリアフィルムである製品フィルムCとする。
本発明の製造方法は、このような構成を有することにより、長尺フィルムLを切断して、所定サイズ(所定形状)のカットシート状の製品フィルムCを製造するに際し、ガスバリア膜の破壊を好適に防止して、所定のガスバリア性を発現するガスバリアフィルムを、安定して製造することを可能にしている。
【0048】
長尺なフィルム状物を切断して、4辺を切り出した所定サイズのカットシート状のフィルム状物(以下、単にカットシートとも言う)を製造する際には、1つの工程で所望するサイズおよび形状のカットシートが得られるので、カットシートの4辺に対応する枠状の刃を用いて切断を行う、いわゆる打ち抜き(型抜き)が、一般的に利用される。
ところが、本発明者の検討によれば、支持体Zの表面にガスバリア膜を形成してなるガスバリアフィルムを、打ち抜きによって切断すると、ガスバリア膜(図1(B)や(C)に示すような積層型の場合には、ガスバリア性を発現する無機層16)にヒビや割れを生じて、ガスバリア膜が破壊されてしまう。また、このヒビや割れは、切断部近傍のみならず、カットシート状のガスバリアフィルムの中心付近まで伸びて形成されてしまう。
【0049】
本発明者らは、このガスバリア膜の破壊の原因について、詳細に検討を重ねた。その結果、主たる原因が、切断時にガスバリア膜(無機層16)に力が加わり、かつ、この力が切断方向と直交する方向に伝搬されることにより、ガスバリア膜が破壊されてしまうことを見いだした。
さらに、この切断時におけるガスバリア膜の破壊を防止する方法に付いて、検討を重ねた結果、切断時に、切断線に対して直交する一方の側のガスバリアフィルムを押さえることなく、切断を行うことにより、この破壊を防止できることを見いだした。言い換えれば、切断線に対して直交する方向の少なくとも一方の側を自由端(開放端)として、切断を行うことにより、切断によるガスバリア膜の破壊を防止できることを見いだした。また、スリッタ40のように、ガスバリアフィルムに点接触して切断する切断手段を用いても、切断によるガスバリア膜の破壊を防止できることも、見いだした。
【0050】
本発明者は、ガスバリアフィルムの切断加工に関して検討および実験を重ねた結果、切断される際に、切断面だけではなく、更に内側の製品部まで破壊される現象があることを見出した。その理由は、ガスバリア膜を形成する無機膜(無機層16)は、有機膜のような化学結合鎖ではなく、分子ごとに分子間力のみで結合している点に有ると考えられる。すなわち、この無機膜の結合は、有機膜に比べ膜内部での疎密が大きく、一定の力が加わった場合(伝播した場合)、疎の部分を基点として、連続もしくは点線状に伝播破壊し易い。そのため、裁断のように、切断面に非常に大きな力がかかり、フイルムの面内全体に力が及ぼされると、弱い部分を伝いつつ(ひび割れのように)壊れていくと推測される。
本発明者は、このような無機膜の特性を考慮し、このガスバリア膜の破壊を防止するためには、支持体Zの上にガスバリア膜を形成したガスバリアフィルムを裁断する際には、フイルムの製品領域全体への力がかからないようにすることが重要であると考えた。すなわち、切断されるガスバリアフィルムを押さえることなく、一方を自由端として切断を行うことにより、切断の際にガスバリアフィルムに掛かる力、つまり、押されて掛かる応力と、切断時に刃の方向に引き伸ばされる延伸力とを、開放端を設けてフィルム全体が動くことで軽減し、ガスバリア膜に不要な力が掛かることを防止でき、その結果、ガスバリア膜の破壊を防止できると考えられる。
また、点接触の切断手段を用いる場合には、一点に掛かった力が、ガスバリアフィルム全体に分散するので、やはり、切断時にガスバリア膜が破壊するような力が掛かることを防止できるためであると考えられる。
従って、切断線に対して直交する一方の側のガスバリアフィルムを押さえることなく、切断を行う本発明によれば、切断に起因するガスバリア膜の破壊を、好適に防止できる。
【0051】
ここで、このように、長尺なフィルム状物を、幅方向および長手方向に切断して、カットシートにする場合には、ハンドリングや工程の単純化を考慮して、先に、端部の長手方向の切断を行い、その後、幅方向の切断を行うのが、通常である。
すなわち、幅方向の切断を最後に行うことにより、最後まで、フィルム状物を1つの物として扱うことができ、例えば、図2に示される例であれば、搬送ローラ対24の間に図3に示すようなスリッタ40を配置することで、長手方向への幅方向端部の切断と、幅方向の切断を連続して行って、長尺なフィルム状物をカットシートにできる。
【0052】
ところが、支持体の表面にガスバリア膜を形成してなるガスバリアフィルムでは、この順番で切断を行ってカットシート状の製品フィルムCを製造すると、幅方向の両端部を切断した後に、搬送や、幅方向の切断のために、ガスバリアフィルムの製品となる領域に搬送ローラ等の部材が接触する必要が生じてしまう。また、長手方向への幅方向端部の切断と、幅方向の切断との間に、通紙作業や搬送作業等、作業者による作業が必要な場合にも、やはり、製品となる領域に接触する必要が生じてしまう。
前述のように、ガスバリア膜(積層型の場合には無機層16)は、薄く、かつ、脆い。そのため、接触された部分に局所的な力がかかると、ガスバリア膜にヒビや割れを生じて、ガスバリア膜が破壊されてしまう。
【0053】
これに対し、本発明の製造方法においては、先に幅方向の切断を行い、その後、幅方向の両端部の切断を行うことにより、製品フィルムCとなる直前まで、非製品領域を残しておくことができる。
そのため、図2に示すような、段付きローラ等を利用することにより、製品フィルムCとなる直前まで、製品領域に接触することなく、非製品領域に接触して長尺フィルムLの搬送や切断等の操作を行うことができる。そのため、製品領域におけるガスバリア膜の損傷を好適に防止しつつ、長尺フィルムLの搬送や、長尺フィルムLの幅方向の切断等の操作を確実に行うことができる。また、通紙や搬送等のために、作業者がガスバリアフィルムに触る必要が有る場合でも、後に切断される、幅方向両端部の非製品領域に触って作業を行うことができるので、同様に、製品領域におけるガスバリア膜の損傷を防止することができる。
【0054】
そのため、長尺フィルムLを幅方向に切断し、その後、幅方向の両端部を切断すると共に、切断を、ガスバリアフィルムを押さえることなく行い、あるいは、点接触による切断手段で切断する本発明によれば、ガスバリア膜の破壊を大幅に抑制した、所定のガスバリア性を発現する所定サイズ(所定形状)のガスバリアフィルムを、安定して製造することができる。
【0055】
なお、本発明において、幅方向の切断および幅方向両端部の切断は、上記条件を満たせば、それ以外は、通常のガスバリアフィルムの切断(裁断工程)と同様に行えばよい。
また、本発明は、ロータリーカッタ28を用いて幅方向の切断を行い、スリッタ40を用いて幅方向両端部の切断を行うのに限定はされない。また、点接触による切断を行うスリッタは、2枚の回転刃40aを用いる剪断タイプのスリッタ40に限定はされず、上側(ガスバリア膜側)の円形の回転刃と下側の刃受けとを用い、両者で短尺フィルムSを厚み方向に挟み込む、押切りタイプのスリッタも、好適に利用可能である。
【0056】
例えば、切断線よりも下流側を押さえずに、いわゆるギロチンカッタによって、長尺フィルムLの幅方向の切断を行ってもよい。もしくは、長尺フィルムLに点接触する、円盤状の回転刃を用いて、長尺フィルムLの幅方向の切断を行ってもよい。
しかしながら、この場合には、搬送を停止して、長尺フィルムLの切断を行う必要がある。すなわち、長尺フィルムLの搬送を断続的に行う必要が有る。そのため、短尺フィルムSの切断長に誤差が生じ易く、しかも、搬送/停止を繰り返すことで、長尺フィルムL(ガスバリアフィルム)に負担が掛かり、ガスバリアフィルムを損傷する可能性も有る。しかも、断続的な搬送を行うことで、生産効率も大幅に低下する。
そのため、長尺フィルムLの幅方向の切断は、図示例のロータリーカッタ28ように、長尺フィルムLを搬送しつつ切断が可能な切断手段を用いるのが好ましい。
【0057】
また、両端部に対応して長手方向の同位置に配置される2つのスリッタ40を用いて、幅方向の両端を同時に切断するのにも限定はされず、スリッタによって、幅方向の両端部の切断を、一端ずつ、順次、行って、製品フィルムCとしてもよい。この際には、2つのスリッタの配置位置を長手方向にずらして配置して、端部の切断を一端ずつ連続的に行ってもよく、1つのスリッタで、1端ずつ、幅方向端部の切断を行ってもよい。
あるいは、幅方向の両端部の切断を、ギロチンカッタを用いて、一端ずつ、順次、行って、製品フィルムCとしてもよい。また、短尺フィルムSを幅方向に搬送して、ロータリーカッタによって幅方向の端部の切断を、順次、行って、製品フィルムCとしてもよい。さらに、幅方向の両端部の切断において、一端をギロチンカッタで切断、他端をスリッタで切断のように、異なる切断手段を用いてもよい。
この際には、製品となる領域を側を押さえることなく、短尺フィルムSの切断を行う。
すなわち、本発明の製造方法では、どのような場合であっても、製品となるガスバリア膜の破壊を防止するために、短尺フィルムSに作業者あるいは装置が接触する必要がある場合には、製品領域(製品フィルムC)となる領域に接触せず、切断される幅方向端部に接触するようにするのが好ましい。
【0058】
以上、本発明のガスバリアフィルムの製造方法について詳細に説明したが、本発明は、上述の例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良および変更を行ってもよいのは、もちろんである。
【0059】
例えば、図2において、長尺フィルムLの搬送を、段付きローラを用いる搬送ローラ対に変えて、幅方向両端部の切断される部分を把持するクリップを用いて行ってもよい。あるいは、長尺フィルムLにおいて、幅方向両端部の切断される部分にスプロケットホールを形成し、長尺フィルムLの搬送を、このスプロケットホールに係合するスプロケットギアによって行ってもよい。
また、本発明で製造するカットシート状のガスバリアフィルムは、正方形や長方形等の矩形に限定はされず、曲線状の辺を有する形状等、長尺なシート状物を幅方向に切断し、次いで、幅方向両端部を長手方向に切断してなる、各種の形状が利用可能である。
【実施例】
【0060】
以下、本発明の具体的実施例を挙げ、本発明を、より詳細に説明する。
【0061】
[実施例1]
図1(B)に示すような、3層構成のガスバリア膜12bを有する、幅1000mmの長尺フィルムLをロール状に巻回してなる、フィルムロール20を用意した。
【0062】
支持体Zは、厚さ100μmのPETフィルムを用いた。
有機層14は、アクリレート系モノマーと光重合開始剤とを有機溶剤に溶解した塗料を調製し、この塗料をダイコータで塗布して乾燥した後、塗膜を紫外線によって硬化した膜とした。最下層(支持体表面)の有機層14の膜厚は1000nm、最上層の有機層の膜厚は500nmとした。
また、無機層16は、反応性スパッタリングによって成膜した、厚さ50nmの酸化アルミニウム層とした。
【0063】
各層の成膜は、長尺なフィルムをロール状に巻回したロールから送り出し、長手方向に搬送しつつ成膜を行い、成膜済のフィルムを、再度、ロール状に巻回する、ロール・ツー・ロールによって行った。
また、2層の有機層14の成膜は、同じ装置で行った。
【0064】
このようなフィルムロール20を、まず、図2に示すようなロータリーカッタ28を用いる幅方向の切断装置によって切断し、長さが500mm(幅1000mm)の短尺フィルムSとした。
この切断装置には、ロータリーカッタ28による切断位置の下流に、切断前の長尺フィルムL(切断される短尺フィルムC)に接触する部材が無いのは、前述のとおりである。
次いで、この短尺フィルムSの幅方向の両端部を、図3に示すようなスリッタ40によって切断し、500×600mmの矩形のガスバリアフィルムを作製した。
【0065】
[比較例1]
ロータリーカッタ28およびスリッタ40に変えて、500×600mmの枠状の切断刃を用い、打ち抜きによって500×600mmの矩形のガスバリアフィルムを作製した。
【0066】
[比較例2]
図2に示される装置において、スリッタ40を搬送ローラ対24の間に配置し、先に幅方向両端部の切断を行い、その後、ロータリーカッタ28によって幅方向の切断を行って、500×600mmの矩形のガスバリアフィルムを作製した。
なお、下流側の搬送ローラ対24の段付きローラは、幅方向両端部を切断した後の長尺フィルムが適正に搬送できるように、幅方向の大径部の位置を調節した。
【0067】
このようにして作製した3種のカットシート状のガスバリアフィルムについて、カルシウム腐食法(特開2005−283561号公報に記載される方法)によって、水蒸気透過率[g/(m2・day)]を測定した。
【0068】
その結果、実施例1は9.2×10-5で、優れたガスバリア性が得られた。これに対し、比較例1は3.2×10-3、比較例2は1.2×10-3で、共に、実施例1よりもガスバリア性が大幅に低かった。
比較例1のガスバリアフィルムは、打ち抜きによる切断の際に、前述のようにガスバリア膜12b(無機層16)が破壊され、ガスバリア性が低下したものと思われる。また、比較例2のガスバリアフィルムは、スリッタ40の下流に配置された搬送ローラ対24による搬送時に、幅方向端部のガスバリア膜12bが破壊され、ガスバリア性が低下したものと思われる。
これに対し、本発明の製造方法による実施例1では、切断時や搬送時におけるガスバリア膜の破壊を好適に防止して、ガスバリア膜12bが、本来、有するガスバリア性を発揮したものと考えられる。
以上の結果より、本発明の効果は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0069】
高い生産性を得られるロール・ツー・ロールによって作製されたガスバリアフィルムを、用途に応じた形状のガスバリアフィルムに切断加工する用途に利用される。
【符号の説明】
【0070】
12,12b,12c ガスバリア膜
14 有機層
16 無機層
20 フィルムロール
24 搬送ローラ対
24a 段付きローラ
28 ロータリーカッタ
30 ガイド
32 支持台
40 スリッタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体の上にガスバリア膜を形成してなる長尺なガスバリアフィルムをロール状に巻回してなるフィルムロールから、前記長尺なガスバリアフィルムを引き出して切断し、所定サイズのカットシート状のガスバリアフィルムを製造するに際し、
前記長尺なガスバリアフィルムを長手方向と直交する幅方向に切断し、その後、前記幅方向の両端部を前記長尺なガスバリアフィルムの長手方向に切断することにより、前記所定サイズのカットシート状のガスバリアフィルムとするものであり、さらに、
前記ガスバリアフィルムの切断は、切断線に対して垂直方向の一方のガスバリアフィルムを保持することなく行い、もしくは、ガスバリアフィルムに点接触する切断手段によって行うことを特徴とするガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記点接触する切断手段を用いない場合において、前記幅方向の切断は、切断線よりも、前記長尺なガスバリアフィルムの引き出し方向の下流側のガスバリアフィルムを保持しないで行う請求項1に記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記点接触する切断手段を用いない場合において、前記幅方向の両端部の切断は、前記カットシート状のガスバリアフィルムとなる領域を保持しないで行う請求項1または2に記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記幅方向の切断を、前記長尺なガスバリアフィルムを長手方向に搬送しつつ行う請求項1〜3のいずれかに記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記幅方向の切断を、前記幅方向に延在する回転軸を有する回転体と、この回転体の回転における周面に固定される、前記幅方向に延在する切断刃とを有する切断手段を用いて、前記回転体の回転と前記長尺なガスバリアフィルムの搬送とを同期させて行う請求項4に記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記フィルムロールと前記幅方向の切断手段との間に配置される、前記長尺なガスバリアフィルムの搬送手段は、前記支持体に対して前記ガスバリア膜側においては、前記幅方向両端部の切断される部分のみに当接するものである請求項1〜5のいずれかに記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項7】
前記搬送手段は、前記長尺なガスバリアフィルムを挟持搬送するローラ対であり、前記ガスバリア膜側のローラが、前記切断される部分との当接部に比して、それ以外の部分が小径である段付きローラである請求項6に記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項8】
前記幅方向の端部の切断を、2枚の円形の回転刃によってガスバリアフィルムを厚み方向に同時に挟み込んで裁断するスリッタ、もしくは、1枚の円形の回転刃と刃受けとによってガスバリアフィルムを厚み方向に同時に挟み込んで裁断するスリッタによって行う請求項1〜7のいずれかに記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項9】
前記幅方向の端部の切断を、前記カットシート状のガスバリアフィルムとなる領域を保持しないで、ギロチンカッタによって片方の端部ずつ行う請求項3〜8のいずれかに記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項10】
前記幅方向の両端部の切断が終了するまでは、前記支持体に対して前記ガスバリア膜側においては、前記ガスバリアフィルムの幅方向両端部の切断される部分のみに接触する請求項1〜9のいずれかに記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項11】
前記幅方向の切断を行う装置への長尺なガスバリアフィルムの通紙を、後に切断される幅方向端部領域に接触して行う請求項10に記載のガスバリアフィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−40625(P2012−40625A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181792(P2010−181792)
【出願日】平成22年8月16日(2010.8.16)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】