説明

ガスバリア性組成物前駆体、組成物、およびガスバリア性フィルム

【課題】 高湿度下でも優れたガスバリア性を有するガスバリア性組成物を提供する。
【解決手段】 第1級または第2級アミノ基を有する高分子化合物(A)と、少なくとも2組の酸無水物構造を形成しうる4つのカルボキシル基を有する化合物(B)よりなり、AとBの質量比(A/B)が75/25〜30/70であることを特徴とするガスバリア性組成物前駆体。また、前記高分子化合物(A)を含む溶液と、前記化合物(B)を含む溶液とを、熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片方の面に、いずれかの溶液を塗布し、次いで他方の溶液を塗布することによって、AとBの質量比(A/B)が75/25〜30/70になるように重ね塗りし、その後160℃以上の温度で熱処理することを特徴とするガスバリア性フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高湿度下でも優れたガスバリア性を有するガスバリア性フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド、ポリエステル等の熱可塑性樹脂フィルムは強度、透明性、成形性、ガスバリア性に優れていることから、包装材料として幅広い用途に使用されている。しかしながら、レトルト処理食品等の長期間の保存性が求められる用途に用いる場合には、さらに高度なガスバリア性が要求される。
【0003】
ガスバリア性を改良するために、これらの熱可塑性樹脂フィルムの表面にポリ塩化ビニリデン(PVDC)を積層したフィルムが食品包装等に幅広く使用されてきたが、PVDCは焼却時に酸性ガス等の有機物質を発生するため、近年環境への関心が高まるとともに他材料への移行が強く望まれている。
【0004】
本出願人は先に、ポリビニルアルコールと1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸からなるガスバリア性コート剤、このコート剤を熱可塑性樹脂の少なくとも片面に塗布、乾燥、熱処理してなるガスバリア性フィルムを提案した(特許文献1)。この発明におけるポリビニルアルコールと1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸の架橋反応は200℃以上で比較的短時間で起こり、生産性に優れている。さらに、この発明のガスバリア性フィルムは、20℃、85%の高湿度下における酸素透過係数が2000ml/m2・day・MPa以下であり、非常に優れたガスバリア性を有している。
【0005】
ところで、これらガスバリア性材料としてポリビニルアルコールの架橋に用いられてきたカルボキシル基含有化合物、特に酸無水物構造を形成しうる化合物は、アミノ基を有する化合物と反応することはよく知られている。例えば第1級および第2級アミノ基を有する高分子化合物の架橋剤として、カルボキシル基含有化合物は古くから用いられてきた。そのような例としてはポリエチレンイミンおよび/またはポリエチレンイミン誘導体を酸無水物で架橋してなる半透性複合膜(特許文献2)等が挙げられる。
【0006】
また、カルボキシル基含有化合物は、高温下におけるアミノ基を有する高分子の着色を防止する働きがあることから、アミノ基を有する高分子と複合して用いられてきた。例えばポリビニルアルコールとポリエチレンイミンからなる水溶性圧感接着剤にクエン酸、酒石酸などを添加したもの(特許文献3)や、アミノ基を有する高分子とオキシ酸を必須成分として含む押出しラミネーション用のアンカーコート剤(特許文献4)などである。
【0007】
しかしながら、これらのアミノ基含有高分子とカルボキシル基含有化合物からなる組成物がガスバリア性材料として用いられたことはなく、実際、上記に例示された材料の組成や製造方法ではガスバリア性を発現させることは困難であった。
【0008】
【特許文献1】国際公開第02/48265号パンフレット
【特許文献2】特公昭61−50642号公報
【特許文献3】特公昭42−12359号公報
【特許文献4】特許第3013678号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、上記のような状況を鑑み、生産性を向上させた反応性の高いバリア性コート剤を提供し、該コート剤を塗布することで、高湿度下でも高いガスバリア性を有し、透明性が高いバリア性フィルムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究の結果、特定の組成物を含有する2種類以上のコート剤を重ね塗りし、該樹脂組成物からなる層を形成させることにより、上記の課題が解決できることを見出し本発明に到達した。
【0011】
すなわち本発明の要旨は、次のとおりである。
(1) 第1級または第2級アミノ基を有する高分子化合物(A)と、少なくとも2組の酸無水物構造を形成しうる4つのカルボキシル基を有する化合物(B)よりなり、AとBの質量比(A/B)が実質的に75/25〜30/70であることを特徴とするガスバリア性組成物前駆体。
(2) 第1級または第2級アミノ基を有する高分子化合物(A)が、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミンのうちの少なくとも一つであることを特徴とする(1)記載のガスバリア性組成物前駆体。
(3) 少なくとも2組の酸無水物構造を形成しうる4つのカルボキシル基を有する化合物(B)が、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸であることを特徴とする(1)または(2)記載のガスバリア性組成物前駆体。
(4) (1)〜(3)記載のガスバリア性組成物前駆体における化合物(A)および(B)が架橋構造を形成してなるガスバリア性組成物。
(5) 熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片方の面に、(4)記載のガスバリア性組成物を積層してなり、20℃、90%RHにおける酸素透過係数が2000ml・μm/m2・day・MPa以下であることを特徴とするガスバリア性フィルム。
(6) 熱可塑性樹脂がナイロンまたはポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする(5)記載のガスバリア性フィルム。
(7) 第1級または第2級アミノ基を有する高分子化合物(A)を含む溶液と、少なくとも2組の酸無水物構造を形成しうる4つのカルボキシル基を有する化合物(B)を含む溶液とを、熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片方の面に、いずれかの溶液を塗布し、次いで他方の溶液を塗布することによって、AとBの質量比(A/B)が75/25〜30/70になるように重ね塗りし、その後160℃以上の温度で熱処理することを特徴とするガスバリア性フィルムの製造方法。
(8) 第1級または第2級アミノ基を有する高分子化合物(A)が、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミンのうちの少なくとも一つであることを特徴とする(7)記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
(9) 少なくとも2組の酸無水物構造を形成しうる4つのカルボキシル基を有する化合物(B)が、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸であることを特徴とする(7)または(8)記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高湿度下においても優れた、透明性の高いガスバリア性フィルムを、簡便な工程により得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
本発明における第1級または第2級アミノ基を有する高分子化合物(A)としては、カルボキシル基と反応できるアミノ基を有する高分子化合物であればどのようなものでも用いることができる。このような高分子化合物としては、高分子としての性質を示す程度の分子量を有していればよく、沸点上昇法、または粘度法等によって測定された分子量が200〜200,000程度の化合物であればよい。特に分子量は500〜150,000が好ましく、1,000〜150,000がより好ましく、1,500〜100,000がさらに好ましい。分子量が200より小さいと、目的とするガスバリア性を発現することが困難であり、分子量が200,000を越えると、溶液とした時の粘度が非常に高く、取り扱いが困難となるために好ましくない。
【0015】
本発明における第1級または第2級アミノ基を有する高分子化合物(A)は、第1級または第2級アミノ基のうち少なくとも1種のアミノ基を有していればよく、両方を有していても全く問題がない。これらアミノ基は反応性が高く、少なくとも2組の酸無水物構造を形成しうる4つのカルボキシル基を有する化合物(B)と容易に架橋構造を形成することにより、目的とする高いガスバリア性を有するガスバリア性組成物がとなる。
【0016】
ここで、化合物(A)および(B)が架橋構造を有していることは、例えば赤外分光法によって確認することができる。化合物(A)および(B)が架橋することによりアミド結合が生成されるが、架橋物の赤外スペクトルにおいて、1630〜1645cm-1付近にアミド結合に特有のピークを観察することができる。これにより、化合物(A)と(B)がアミド結合により架橋したことが確認できる。
【0017】
第1級または第2級アミノ基を有する高分子化合物(A)としては、たとえばポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリビニルアミンおよびこれらの共重合体などの合成高分子や、ポリオルニチン、ポリリジンなどのポリアミノ酸類が挙げられるが、これらに限られたものではない。本発明ではこれら第1級または第2級アミノ基を有する高分子化合物単独、あるいはこれらの混合物を用いることができる。これら第1級または第2級アミノ基を有する高分子化合物のなかでも、安全性、経済性を考えるとポリエチレンイミン、およびポリアリルアミンが好ましく、特にポリエチレンイミンが好ましい。
【0018】
本発明において、少なくとも2組の酸無水物構造を形成しうる4つのカルボキシル基を有する化合物(B)は、低分子化合物、オリゴマー、高分子化合物のいずれも用いることができる。このような酸無水物構造を形成しうる化合物は、第1級または第2級アミノ基を有する高分子化合物(A)との反応性が高いために好ましく、さらに、そのような酸無水物構造が少なくとも2組あることで、容易に架橋構造を形成することが可能となる。このような化合物としては、たとえば1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、ビフェニルテトラカルボン酸などの低分子化合物、およびこれらの無水物が挙げられる。また、これら化合物と水酸基を有する化合物からなるエステル化合物、あるいはこれら化合物とアミノ基を有する化合物からなるアミド化合物なども挙げられる。さらに、ポリマレイン酸、ポリフマル酸、ポリイタコン酸、およびこれらを含む共重合体などの高分子化合物も挙げることができる。このような共重合体としてはエチレン−マレイン酸(交互)共重合体、メチルビニルエーテル−マレイン酸(交互)共重合体、イソブチレン−マレイン酸(交互)共重合体、アクリル酸−マレイン酸(交互)共重合体、アクリル酸−イタコン酸(交互)共重合体、およびこれらの酸無水物などが挙げられる。
【0019】
本発明においては、これらの化合物の中でも、経済性、反応性を考慮すると1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸が好ましい。なお、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸中のカルボキシル基は、乾燥状態では隣接カルボキシル基が脱水環化した酸無水物構造となりやすく、湿潤時や水溶液中では開環してカルボン酸構造となるが、本発明ではこれら閉環、開環を区別せず1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸として記述する。
【0020】
本発明において、第1級または第2級アミノ基を有する高分子化合物(A)と、少なくとも2組の酸無水物構造を形成しうる4つのカルボキシル基を有する化合物(B)の質量比(A/B)は75/25〜30/70、好ましくは、65/45〜35/65、より好ましくは、60/40〜40/60の範囲であることが必要である。上記の質量比の範囲から外れた場合には、特に高湿度雰囲気下においてガスバリア性を発現させるために有効な架橋密度が得られず、本発明の目的とするガスバリア性組成物を得ることができない。
【0021】
なお、化合物(A)の溶液、化合物(B)を含む溶液のいずれかの溶液を塗布し、次いで他方の溶液を重ね塗りするような場合には、得られるガスバリア性組成物において、化合物(A)、(B)の質量比が上記の範囲となるように適宜調整すればよい。
【0022】
本発明のガスバリア性樹脂組成物前駆体およびガスバリア性組成物には、その特性を大きく損わない限りにおいて、熱安定剤、酸化防止剤、強化材、顔料、劣化防止剤、耐候剤、難燃剤、可塑剤、離型剤、滑剤などが添加されていてもよい。
【0023】
熱安定剤、酸化防止剤及び劣化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン類、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物あるいはこれらの混合物が挙げられる。
【0024】
強化材としては、例えばクレー、タルク、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、珪酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、ゼオライト、モンモリロナイト、ハイドロタルサイト、フッ素雲母、金属繊維、金属ウィスカー、セラミックウィスカー、チタン酸カリウムウィスカー、窒化ホウ素、グラファイト、ガラス繊維、炭素繊維、フラーレン(C60、C70など)、カーボンナノチューブなどが挙げられる。
【0025】
本発明において、ガスバリア性組成物前駆体に架橋剤成分をさらに少量添加することによって、得られる成形体のガスバリア性をさらに向上させることができる。架橋剤としては、イソシアネート化合物、メラミン化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、ジルコニウム塩化合物などが挙げられる。
【0026】
本発明のガスバリア性組成物前駆体は、通常、溶液の状態から高分子フィルムなどにコートされて使用される。このようなガスバリア性組成物前駆体のコート液は、第1級または第2級アミノ基を有する高分子化合物(A)と、少なくとも2組の酸無水物構造を形成しうる4つのカルボキシル基を有する化合物(B)と、溶媒とからなる。しかし、化合物(A)と化合物(B)を溶媒中で混合すると、非常に強い相互作用を及ぼし合って凝集物が生成するため、1液とするためにはこの相互作用を抑制する添加剤を用いることが好ましい。例えばアンモニアやトリエチルアミンなどの低分子アミン化合物を添加することで化合物(B)は中和され、化合物(A)と混和しても凝集物を生成しなくなる。このような低分子アミン化合物としては150℃以下の温度で乾燥除去できるものが好しく用いることができる。
【0027】
凝集物の問題なしに、本発明のガスバリア性組成物前駆体をコートするには、2液にする方法を採ることが好ましい。すなわち第1級または第2級アミノ基を有する高分子化合物(A)と溶媒からなる1種のコート液と、少なくとも2組の酸無水物構造を形成しうる4つのカルボキシル基を有する化合物(B)と溶媒からなる他の1種のコート液の少なくとも2種のコート液を、一方を塗布し、次いで他方を塗布することで重ね塗りし、これより溶剤を除去する方法が挙げられる。
【0028】
ここで、2種のコート液を重ね塗りする際には、化合物(A)のコート液と、化合物(B)のコート液のどちらを先にコートしてもよいが、通常化合物(A)を先にコートした方が重ね塗りをしやすいので好ましい。
【0029】
また、第一のコート液を塗布した後、第二のコート液を塗布する場合には、第一のコート液から溶剤を除去する前に第二のコート液を塗布することはできるが、溶剤を除去した方が重ね塗りをしやすいので好ましい。
【0030】
上記1液および2液タイプのどちらのコート剤においても、溶媒としては極性溶媒が好ましく、水、アルコール類、エステル類、エーテル類、ふっ化水素、およびこれらの混合溶媒などが挙げられるが、経済性、安全性の面から水を使用することが好ましい。もっとも、乾燥工程の短縮などの目的により、水にアルコールなどの有機溶媒を少量添加することもできる。
【0031】
また、コート液の調製方法としては、撹拌機を備えた溶解釜等を用いて公知の方法で行えばよく、撹拌機としては、ホモジナイザー、ボールミル、高圧分散装置など公知の装置を用いることができる。
【0032】
本発明のガスバリア性フィルムは、前記コート液からなるガスバリア性組成物を熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片面に積層することにより得られる。
【0033】
ガスバリア性フィルムに用いられる熱可塑性樹脂フィルムとしては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46等のポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート等の芳香族ポリエステル樹脂、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステル樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン樹脂、またはそれらの混合物よりなるフィルムまたはそれらのフィルムの積層体が挙げられ、未延伸フィルムでも延伸フィルムでもよい。
【0034】
フィルムを製造する方法としては、熱可塑性樹脂を押出機で加熱・溶融してTダイより押し出し、冷却ロールなどにより冷却固化させて未延伸フィルムを得るか、もしくは円形ダイより押し出して水冷あるいは空冷により固化させて未延伸フィルムを得る。
【0035】
延伸フィルムを製造する場合は、未延伸フィルムを一旦巻き取った後、または連続して同時2軸延伸法または逐次2軸延伸法により延伸する方法が好ましい。フィルムの機械的特性や厚み均一性能面からはTダイによるフラット式製膜法とテンター延伸法を組み合わせる方法が好ましい。
【0036】
また、フィルムとコート層の接着性を向上するためにフィルム表面にコロナ放電処理をしてもよく、また、アンカーコートをしてもよい。
【0037】
ガスバリア性フィルムにおいて、熱可塑性樹脂フィルム上にガスバリア性組成物の積層を行う方法としては、ガスバリア性組成物前駆体が積層された熱可塑性樹脂フィルムを熱処理することが挙げられる。熱処理温度は通常160℃以上、より好ましくは180℃以上で行われ、高いほど処理時間が短くても効果が発現するので好ましいが、250℃以上になると材料の熱分解などが起こるためガスバリア性が低下して好ましくない。160℃未満の熱処理温度では、コート層における架橋反応を十分に進行させることができず、十分なガスバリア性を有するフィルムを得ることが困難になる。ガスバリア性発現のためには、熱処理時間は1秒以上、好ましくは3秒以上、さらに好ましくは15秒以上とするのがよい。また、長すぎると熱分解が起こったり、コストアップの要因となるので、5分以下とするのが好ましい。
【0038】
本発明におけるガスバリア性フィルムのコート層の厚みは、フィルムのガスバリア性を十分高めるためには少なくとも0.1μmより厚くすることが望ましい。上限としては特にないが、あまり厚すぎるとベースフィルムの特性が活かせなくなるので、通常100μm以下、好ましくは50μm以下、より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは5μm以下であることが望ましい。
【0039】
また、コート液をフィルムにコートする際の溶液濃度は、液の粘度や反応性、用いる装置の仕様によって適宜変更されるものであるが、あまりに希薄な溶液ではガスバリア性を発現するのに充分な厚みの層をコートすることが困難となり、また、その後の乾燥工程において長時間を要するという問題を生じやすい。一方、溶液の濃度が高すぎると、保存性などに問題を生じることがある。この様な観点から、本発明のコート液における固形分濃度は5〜60質量%の範囲であることが好ましく、10〜50質量%の範囲であることがより好ましい。
【0040】
コート液をフィルムにコーティングする方法は特に限定されないが、グラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、マイヤーバーコーティング等の通常の方法を用いることができる。延伸に先だってコーティングを行うには、まず未延伸フィルムにコーティングして乾燥した後、テンター式延伸機に供給してフィルムを走行方向と幅方向に同時に延伸(同時2軸延伸)、熱処理するか、あるいは、多段熱ロール等を用いてフィルムの走行方向に延伸を行った後にコーティングし、乾燥後、テンター式延伸機によって幅方向に延伸(逐次2軸延伸)してもよい。また、走行方向の延伸とテンターでの同時2軸延伸を組み合わせることも可能である。
【0041】
また、コートフィルムのコート面にラミネート加工を施してもよい。
【0042】
本発明によって得られるコートフィルムは、ガスバリア性の観点から20℃、90%RHにおける酸素透過係数が2000ml・μm/m2・day・MPa以下であることが好ましく、より好ましくは1000ml・μm/m2・day・MPa以下であり、さらに500ml・μm/m2・day・MPa以下が好ましい。
【0043】
本発明におけるガスバリア性フィルムのコート層自体の酸素透過係数は500ml・μm/m2・day・MPa以下であることが好ましく、より好ましくは200ml・μm/m2・day・MPa以下であり、さらに100ml・μm/m2・day・MPa以下が好ましい。
【実施例】
【0044】
次に、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0045】
各種評価は次のように行った。
(1)酸素バリア性
モコン社製酸素バリア測定器(OX−TRAN 2/20)により20℃、相対湿度90%の雰囲気における酸素透過度を測定した。
【0046】
また、フィルムのガスバリア性は基材フィルムの種類や厚み、およびコート層の厚みにより変化するため、コート層自体の酸素透過係数も下記式より算出した。なお、厚み12μmのPETフィルムの酸素透過度は900ml/m2・day・MPa、厚み15μmのナイロン6フィルムの酸素透過度は400ml/m2・day・MPaであった。
1/QF=1/QB+L/PC
ただし、QF:コートフィルムの酸素透過度(ml/m2・day・MPa)
B:熱可塑性樹脂フィルムの酸素透過度(ml/m2・day・MPa)
C:コート層の酸素透過係数(ml・μm/m2・day・MPa)
L:コート層厚み(μm)
【0047】
(2)赤外スペクトル測定
コートフィルムのコート面の赤外スペクトルをATR法(全反射測定法)によって測定した。測定装置にPerkin Elmer System 2000赤外分光装置を用い、積算回数128回で測定した。ATRプリズムはGeを使用し、赤外光の入射角は60°とした。
【0048】
実施例1
ポリエチレンイミン30質量%水溶液(ナカライテスク株式会社製試薬)を水で希釈して10質量%としたコート液を、2軸延伸ポリエステルフィルム(ユニチカ社製エンブレットPET12、厚み12μm)上に、マイヤーバー#4でコートし、熱風乾燥機中100℃で2分間乾燥し、ポリエチレンイミン被膜を形成したポリエステルフィルムを得た。これとは別に1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸(新日本理化株式会社製、リカシッドBT−W)を水に溶解して調製した10質量%水溶液を、前述のポリエチレンイミン被膜の上に、マイヤーバー#4でコートし、熱風乾燥機中100℃で2分間乾燥して、ポリエチレンイミンと1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸の質量比が50/50のガスバリア性組成物前駆体被膜を形成したポリエステルフィルムを得た。
【0049】
このガスバリア性組成物前駆体被膜を形成したポリエステルフィルムを220℃で30秒間熱処理し、無色透明のコートフィルムを得た。被膜の赤外スペクトル測定において、1630〜1645cm-1にピークが観測され、架橋構造形成が確認された。このフィルムの酸素透過度は40ml/m2・day・MPa、酸素透過係数は524ml・μm/m2・day・MPaと優れたガスバリア性を示した。また、コート層の酸素透過係数は46ml・μm/m2・day・MPaであった。詳細を表1にまとめた。
【0050】
【表1】

【0051】
実施例2〜4
ポリエチレンイミン水溶液と1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸水溶液の濃度を表1の実施例2〜4に示したようにした以外は実施例1と同様にして無色透明のコートフィルムを得た。これらのフィルムの物性を表1にまとめた。いずれのフィルムもガスバリア性に優れていた。
【0052】
実施例5
ポリアリルアミン10質量%水溶液(日清紡株式会社製、PAA-10c)を、2軸延伸ポリエステルフィルム(ユニチカ社製エンブレットPET12、厚み12μm)上に、マイヤーバー#4でコートし、熱風乾燥機中100℃で2分間乾燥し、ポリアリルアミン被膜を形成したポリエステルフィルムを得た。このポリアリルアミン被膜の上から、実施例1で調製した1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸10質量%水溶液をマイヤーバー#4でコートし、熱風乾燥機中100℃で2分間乾燥して、ポリアリルアミンと1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸の質量比が50/50のガスバリア性組成物前駆体被膜を形成したポリエステルフィルムを得た。
【0053】
このガスバリア性組成物前駆体被膜を形成したポリエステルフィルムを220℃で30秒間熱処理し、無色透明のコートフィルムを得た。被膜の赤外スペクトル測定において、1630〜1645cm-1にピークが観測され、架橋構造形成が確認された。このフィルムの酸素透過度は82ml/m2・day・MPa、酸素透過係数は1120ml・μm/m2・day・MPaと優れたガスバリア性を示した。また、コート層の酸素透過係数は153ml・μm/m2・day・MPaであった。詳細を表1にまとめた。
【0054】
実施例6
2軸延伸ポリエステルフィルムの代わりにナイロン6フィルム(ユニチカ社製エンブレムON15、厚み15μm)を用いた以外は実施例5と同様の手順で、ポリアリルアミンと1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸の質量比が50/50のガスバリア性組成物前駆体被膜を形成したナイロンフィルムを得た。
【0055】
このガスバリア性組成物前駆体被膜を形成したナイロンフィルムを200℃で30秒間熱処理し、無色透明のコートフィルムを得た。被膜の赤外スペクトル測定において、1630〜1645cm-1にピークが観測され、架橋構造形成が確認された。このフィルムの酸素透過度は110ml/m2・day・MPa、酸素透過係数は1750ml・μm/m2・day・MPaと優れたガスバリア性を示した。また、コート層の酸素透過係数は137ml・μm/m2・day・MPaであった。詳細を表1にまとめた。
【0056】
比較例1、2
ポリエチレンイミン水溶液と1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸水溶液の濃度を表1の比較例1および2に示したようにした以外は実施例1と同様にして無色透明のコートフィルムを得た。これらのフィルムの物性を表1にまとめた。これらのフィルムのコート層は第1級または第2級アミノ基を有する高分子化合物(A)と、少なくとも2組の酸無水物構造を形成しうる4つのカルボキシル基を有する化合物(B)よりなるが、AとBの質量比(A/B)が本発明の範囲から外れている。このためいずれのフィルムも酸素透過係数が2000ml・μm/m2・day・MPa以上であり、ガスバリア性に劣っていた。また、コート層のみの酸素透過係数も500ml・μm/m2・day・MPa以上であり、ガスバリア性に劣っていた。
【0057】
比較例3
ポリアリルアミン水溶液と1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸水溶液の濃度を表1の比較例3に示したようにした以外は実施例5と同様にして無色透明のコートフィルムを得た。このフィルムの物性を表1にまとめた。このフィルムのコート層は第1級または第2級アミノ基を有する高分子化合物(A)と、少なくとも2組の酸無水物構造を形成しうる4つのカルボキシル基を有する化合物(B)よりなるが、AとBの質量比(A/B)が本発明の範囲から外れている。このためこのフィルムの酸素透過係数は2000ml・μm/m2・day・MPa以上であり、ガスバリア性に劣っていた。また、コート層のみの酸素透過係数も500ml・μm/m2・day・MPa以上であり、ガスバリア性に劣っていた。
【0058】
比較例4
ポリアリルアミン水溶液と1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸水溶液の濃度を表1の比較例4に示したようにした以外は実施例6と同様にして無色透明のコートフィルムを得た。このフィルムの物性を表1にまとめた。このフィルムのコート層は第1級または第2級アミノ基を有する高分子化合物(A)と、少なくとも2組の酸無水物構造を形成しうる4つのカルボキシル基を有する化合物(B)よりなるが、AとBの質量比(A/B)が本発明の範囲から外れている。このためこのフィルムの酸素透過係数は2000ml・μm/m2・day・MPa以上であり、ガスバリア性に劣っていた。また、コート層のみの酸素透過係数も500ml・μm/m2・day・MPa以上であり、ガスバリア性に劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1級または第2級アミノ基を有する高分子化合物(A)と、少なくとも2組の酸無水物構造を形成しうる4つのカルボキシル基を有する化合物(B)よりなり、AとBの質量比(A/B)が75/25〜30/70であることを特徴とするガスバリア性組成物前駆体。
【請求項2】
第1級または第2級アミノ基を有する高分子化合物(A)が、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミンのうちの少なくとも一つであることを特徴とする請求項1記載のガスバリア性組成物前駆体。
【請求項3】
少なくとも2組の酸無水物構造を形成しうる4つのカルボキシル基を有する化合物(B)が、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸であることを特徴とする請求項1または2記載のガスバリア性組成物前駆体。
【請求項4】
請求項1〜3記載いずれかに記載のガスバリア性組成物前駆体における化合物(A)および(B)が架橋構造を形成してなるガスバリア性組成物。
【請求項5】
熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片方の面に、請求項4記載のガスバリア性組成物を積層してなり、20℃、90%RHにおける酸素透過係数が2000ml・μm/m2・day・MPa以下であることを特徴とするガスバリア性フィルム。
【請求項6】
熱可塑性樹脂がナイロンまたはポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項5記載のガスバリア性フィルム。
【請求項7】
第1級または第2級アミノ基を有する高分子化合物(A)を含む溶液と、少なくとも2組の酸無水物構造を形成しうる4つのカルボキシル基を有する化合物(B)を含む溶液とを、熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片方の面に、いずれかの溶液を塗布し、次いで他方の溶液を塗布することによって、AとBの質量比(A/B)が75/25〜30/70になるように重ね塗りし、その後160℃以上の温度で熱処理することを特徴とするガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項8】
第1級または第2級アミノ基を有する高分子化合物(A)が、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミンのうちの少なくとも一つであることを特徴とする請求項7記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項9】
少なくとも2組の酸無水物構造を形成しうる4つのカルボキシル基を有する化合物(B)が、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸であることを特徴とする請求項7または8記載のガスバリア性フィルムの製造方法。


【公開番号】特開2006−77089(P2006−77089A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−261135(P2004−261135)
【出願日】平成16年9月8日(2004.9.8)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】