説明

ガス吹込みノズル

【課題】溶融金属にガスを吹込むためのガス吹込みノズルの耐用寿命を長くする。
【解決手段】ガス吹込みノズル10は、溶融金属にガスを吹込むためのガス導入用金属管11と、ガス導入用金属管11を外囲する炭素含有耐火物12と、を含む。ガス導入用金属管11は、外表面にアルミニウムを含有する合金層14を有する。アルミニウム含有合金層14は、カロライズ処理で形成されることが好ましく、また50〜200μmの厚さに形成されることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融金属にガスを吹込むためのガス導入用金属管を炭素含有耐火物で外囲して形成されるガス吹込みノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
金属精錬では、窒素ガス、アルゴンガス、一酸化炭素ガスまたは二酸化炭素ガスなどを溶融金属に吹込んで撹拌し、溶融金属とガスや造滓剤との反応を促進することで、精錬効果を高めることが行われている。金属の一種である鋼の製造では、電気炉および転炉などの製鋼炉または取鍋に、ガスを吹込むためのガス吹込みノズルが設けられ、脱炭または脱硫などに用いられている。
【0003】
以下、ガス吹込みノズルが電気炉に設けられる場合について例示する。図4は、従来のガス吹込みノズルを備える電気炉1の概略的な構成を示す。電気炉1は、鋼製の殻体2に耐火物を内張りして形成される耐火壁3と、不図示の電極などを含む。電気炉1は、炉中に入れたスクラップなどの溶解原料を溶解して溶鋼原料になる溶銑4とする。ガス吹込みノズル5は、炉底の殻体2および耐火壁3に形成される孔を充填するように設けられる。
【0004】
ガス吹込みノズル5は、溶銑4にガスを吹込むためのガス導入用金属管6と、ガス導入用金属管6を外囲する炭素含有耐火物7と、吹込み前のガスを一旦プールしてサージタンクの役目をする風箱8と、を含む。ガス吹込みノズル5は、耐熱スポーリング性、耐摩耗性および耐食性が要求されるので、ガス導入用金属管6を外囲し、高温の溶銑4に接する部分に上記特性に優れる炭素含有耐火物7が用いられている。炭素含有耐火物7としては、たとえばMgO−Cレンガなどが挙げられる。
【0005】
ガス吹込みノズル5を用いて溶銑4中へガス9を吹込む使用時には、炭素含有耐火物7およびガス導入用金属管6の温度が上昇する。この昇温により、炭素含有耐火物7からガス導入用金属管6へ炭素が浸透する浸炭現象が発生する。浸炭によって炭素濃度が高くなるガス導入用金属管6は、その融点が低下して溶融する。ガス導入用金属管6が溶融すると、吹込まれるガス9によって生じる溶融金属流で、溶融したガス導入用金属管周辺の炭素含有耐火物7が損耗する。このような損耗でガス吹込みノズル5の耐用寿命が短くなるという問題がある。
【0006】
このような問題に対応する先行技術として、炭素を含まないキャスタブル耐火物でガス導入用金属管を被覆すること(特許文献1参照)、ガス導入用金属管の外周にMgO質コーティング材をコーティングすること(特許文献2参照)、ガス導入用金属管と炭素含有耐火物との間に耐火性焼結体を配設すること(特許文献3参照)、またガス導入用金属管にアルミナまたはマグネシアを溶射すること(特許文献4参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開平2−61950号公報
【特許文献2】特開平10−265829号公報
【特許文献3】特開2003−231912号公報
【特許文献4】特開2000−212634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に開示されるガス吹込みノズルは、炭素を含まないキャスタブル耐火物が耐熱スポーリング性および耐食性に劣るので、キャスタブル耐火物が寿命律速となり、耐用寿命を長くすることができないという問題がある。特許文献2に開示されるガス吹込みノズルは、MgO質コーティング層が炭素含有耐火物のノズル本体へ内設する際に剥離し易く、剥離部分で浸炭が生ずるので、耐用寿命を長くすることができないという問題がある。特許文献3に開示されるガス吹込みノズルは、ガス導入用金属管と耐火性焼結体との間等に充填するモルタルが耐摩耗性および耐食性に乏しく寿命律速となるので、耐用寿命を長くすることができないという問題がある。特許文献4に開示されるガス吹込みノズルは、ガス導入用金属管と溶射層の線膨張係数が例えばガス導入用金属管としてSUS304鋼、溶射材としてアルミナを用いた場合、それぞれ次の表1に示すように、18.7×10−6(1/K)、8.8×10−6(1/K)と大きく異なるため、加熱と冷却を繰り返し受けることにより、ガス導入用金属管と溶射層が剥離し易く、剥離部分で浸炭が生ずるので、耐用寿命を長くすることができないという問題がある。
【0009】
【表1】

【0010】
本発明の目的は、耐用寿命を長くすることができるガス吹込みノズルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、溶融金属にガスを吹込むためのガス導入用金属管を炭素含有耐火物で外囲して形成されるガス吹込みノズルにおいて、
ガス導入用金属管は、外表面にアルミニウムを含有する合金層を有することを特徴とするガス吹込みノズルである。
【0012】
また本発明で、前記合金層の厚さは50〜200μmであることを特徴とする。
【0013】
また本発明で、前記合金層はカロライズ処理で形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ガス導入用金属管外表面のアルミニウムを含有する合金層は、炭素含有耐火物からの炭素の浸透を抑制することができる。したがって、ガス導入用金属管は、浸炭に伴う融点低下が生じないので、溶融が防止される。さらに、ガス導入用金属管の溶融が防止されることで、ガス導入用金属管周辺の炭素含有耐火物の損耗が抑制され、ガス吹込みノズルの耐用寿命を長くすることができる。
【0015】
また本発明によれば、合金層は、厚さが50〜200μmに形成されるので、十分な耐浸炭性を発揮するとともに、脆化による損耗を生じることがない。耐浸炭性に優れ堅牢な合金層は、ガス導入用金属管の溶融を防止し、ガス吹込みノズルの耐用寿命延長に寄与することができる。
【0016】
また本発明によれば、合金層は、カロライズ処理で形成され、素地とコーティング層が合金化されているため、ガス導入用金属管の金属素地との密着性および耐摩耗性に優れる。したがって、合金層は、剥離や損耗を生じにくく、耐浸炭性を長く保持することができるので、ガス吹込みノズルの耐用寿命延長に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の実施の形態であるガス吹込みノズル10を示す正面断面図である。
【図2】図2は、図1に示すガス吹込みノズル10のガス導入用金属管11の部分を拡大して示す断面図である。
【図3】図3は、実施例として用いたガス吹込みノズル10を示す平面図である。
【図4】図4は、従来のガス吹込みノズルを備える電気炉1の概略的な構成を示す正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明の実施の形態であるガス吹込みノズル10を示す。ガス吹込みノズル10は、溶融金属にガスを吹込むためのガス導入用金属管11と、ガス導入用金属管11を外囲する炭素含有耐火物12と、風箱13と、を含み、ガス導入用金属管11が外表面にアルミニウムを含有する合金層14を有することを特徴とする。ガス吹込みノズル10は、風箱13の天井部にガス導入用金属管11が接続され、ガス導入用金属管11を外囲するように炭素含有耐火物12が配設される。風箱13の底部には、ガス供給源から配管されるガス供給管15が接続される。風箱13は、その周囲がキャスタブル耐火物16で覆われる。
【0019】
図2は、図1に示すガス吹込みノズル10のガス導入用金属管11の部分を拡大して示す。ガス導入用金属管11には、ステンレス鋼、普通鋼、耐熱鋼などの管を用いることができる。ガス導入用金属管11の寸法は、内径が1〜4mm、肉厚が1〜2mm程度であることが好ましい。内径が1mm未満であると、溶融金属の撹拌に十分なガスの供給が困難になる。内径が4mmを超えると、ガス導入用金属管11に溶融金属が流入して閉塞を生じるおそれがある。ガス導入用金属管11は、1本または複数本が設けられる。複数本を設ける場合、ガス導入用金属管同士の中心間距離を10〜70mm程度にすることが好ましい。
【0020】
本実施形態のガス導入用金属管11では、管の外表面にのみアルミニウムを含有する合金層14を有する。しかし、これに限定されることなく、合金層が管の外表面だけでなく内表面に形成されていても問題がない。また、管の外表面の合金層は、ガス導入用金属管の全長に形成されてもよく、また溶融金属に接する側から管長の途中までの一部に形成されるようにしてもよい。
【0021】
アルミニウムを含有する合金層14の厚さは、50〜200μmであることが好ましく、さらに好ましくは100〜200μmである。以下合金層の厚さの範囲を限定する理由について説明する。厚さが50μm未満では、炭素含有耐火物12からガス導入用金属管11への浸炭を十分に抑制することができない。厚さが200μmを超えると、機械的衝撃に対して脆くなり、炭素含有耐火物12への取付け時等に合金層14に亀裂が生じるおそれがある。
【0022】
また、合金層14のアルミニウム濃度は、最表層部でおおよそ30〜40重量%であることが好ましい。合金層14は、アルミニウム濃度が厚さ方向に減少する濃度勾配を有する。合金層14の厚さは、アルミニウム濃度が高い表面から、ガス導入用金属管11の素管のアルミニウム濃度に対して濃度上昇が認められる深さまでをいう。このような合金層14の厚さは、ガス導入用金属管11の断面を、たとえばX線マイクロアナライザーなどでライン分析することで測定することができる。
【0023】
ガス導入用金属管11のアルミニウムを含有する合金層14は、カロライズ処理で形成されることが好ましい。カロライズ処理には、公知の方法を用いることができる。たとえば、Fe−Al合金粉およびNHCl粉などの調合剤で素管を覆うようにして容器へ入れ、炉で900〜1050℃に加熱することによって、合金層14が形成される。カロライズ処理で形成される合金層14は、ガス導入用金属管11の素地との密着性および耐摩耗性に優れるので、剥離や損耗を生じにくい。
【0024】
炭素含有耐火物12には、MgO−C系、Al−C系、Al−SiC−C系、MgO−CaO−C系、MgO−Al−C系などの耐火物が用いられる。これらの系以外であっても、耐熱スポーリング性、溶融金属やスラグに対する耐食性、耐摩耗性に優れる炭素含有耐火物を用いることができる。
【0025】
炭素含有耐火物は、たとえば次のようにして製造される。耐火性骨材に炭素質原料を加え、必要に応じて金属粉末やその他公知の添加物を添加し、フェノール樹脂、ピッチ、タール等の炭素結合を形成する結合材を1〜15重量%、好ましくは3〜8重量%を加えて混錬し、成形する。成形後、100〜500℃、好ましくは150〜400℃で熱処理をして不焼成れんがとする。または、成形後、500〜1500℃、好ましくは800〜1300℃の還元雰囲気で焼成する焼成れんがとしてもよい。炭素含有耐火物12の形状は、装着される炉または取鍋などの底部の構造により適宜定められるが、円柱形状、角柱形状、円錐台形状または角柱台形状などが用いられる。
【0026】
ガス導入用金属管11が接続される風箱13は、サージタンクの役目をする金属製の箱である。金属素材には、ステンレス鋼、普通鋼、耐熱鋼などを用いることができる。風箱13を覆うキャスタブル耐火物16は、炭素を含まないものであってもよく、たとえばマグネシア質系の耐火物などを用いることができる。
【実施例】
【0027】
以下本発明の実施例について説明する。
図3は、実施例として用いたガス吹込みノズル10を示す。図3では、実施例のガス吹込みノズル10を溶融金属に接する側から見た状態を示す。ガス導入用金属管11には、カロライズ処理を施した内径が1.5mm、外径が3.5mmのステンレス鋼管を用いた。カロライズ処理で形成されたアルミニウム含有合金層の厚さは、150μmであった。またカロライズ処理で形成された合金層のアルミニウム濃度は30%であった。ガス吹込みノズル10には、7本のガス導入用金属管11を、互いの中心間距離Lが50mmとなるように配設した。炭素含有耐火物12として、炭素分の黒鉛を10重量%含有するMgO−Cれんがを用いた。炭素含有耐火物12の形状は、角柱台形状とし、その長さを890mmとした。
【0028】
比較例として用いたガス吹込みノズルは、外形および炭素含有耐火物が実施例のガス吹込みノズルと同じである。ガス導入用金属管は、寸法および材質が実施例と同じであるが、カロライズ処理が施されることなく、アルミニウム含有合金層を有しない管である。ガス導入用金属管にカロライズ処理を施さない代わりに、ガス導入用金属管と炭素含有耐火物との間に、内径が6mm、外径が10mmの耐火性焼結体を設けた。耐火性焼結体の材質はマグネシア質であり、耐火性焼結体とガス導入用金属管との隙間をマグネシアモルタルで充填して固定した。
【0029】
実施例および比較例のガス吹込みノズルを、容量が150トンの電気炉の炉底に装着し、ガスを吹込みながらステンレス溶銑の精錬を行った。吹込みに使用したガスは窒素ガスであり、その流量は150NL/minである。454チャージ(以下、chで表す)の精錬を行ったのち、実施例および比較例の各ガス吹込みノズルについて、長さ方向の損耗量を測定し、耐用寿命を比較した。
【0030】
損耗量の測定結果を表2に示す。454ch当りの損耗量は、実施例が150mm、比較例が200mmであった。実施例の損耗速度0.33mm/chで、比較例の損耗量200mmに達するには、606chを要することになる。すなわち、比較例のガス吹込みノズルでは、454chで200mm損耗して耐用寿命に達するが、実施例のガス吹込みノズルでは、200mmの損耗に達するまでに、606chのガス吹込み精錬を行うことが可能である。このことから、アルミニウム含有合金層を有するガス導入用金属管を用いることで、30%強の耐用寿命の延長を実現し得ることが判る。
【0031】
【表2】

【符号の説明】
【0032】
5,10 ガス吹込みノズル
6,11 ガス導入用金属管
7,12 炭素含有耐火物
14 合金層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属にガスを吹込むためのガス導入用金属管を炭素含有耐火物で外囲して形成されるガス吹込みノズルにおいて、
ガス導入用金属管は、外表面にアルミニウムを含有する合金層を有することを特徴とするガス吹込みノズル。
【請求項2】
前記合金層の厚さは、50〜200μmであることを特徴とする請求項1記載のガス吹込みノズル。
【請求項3】
前記合金層は、カロライズ処理で形成されることを特徴とする請求項1または2記載のガス吹込みノズル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−26643(P2011−26643A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−171846(P2009−171846)
【出願日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【出願人】(000001971)品川リフラクトリーズ株式会社 (112)
【Fターム(参考)】