説明

ガス容器の製造方法およびガス容器

【課題】溶着時の不具合を生ずることなく、ライナ構成部材同士を適切に接合することができ、生産性を向上することができるガス容器の製造方法およびガス容器を課題とする。
【解決手段】少なくとも一端側が略円筒状のライナ構成部材21,22同士を接合して構成される中空内部の樹脂ライナ11を有するガス容器1の製造方法であって、ライナ構成部材21,22同士の接合部分を予備加熱した後で、レーザ溶着により接合した。仮接合状態の樹脂ライナ11を回転させて、ヒータ90により予備加熱を行うと共に、ヒータ90の下流側のレーザトーチによりレーザ照射を行い、ライナ構成部材21,22同士を周方向に亘って接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素などのガスを貯留するガス容器に関し、特に、内殻となる樹脂ライナが複数のライナ構成部材を接合して構成されるガス容器の製造方法およびガス容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、水素やCNG(圧縮天然ガス)を貯留するガス容器として、軽量化等の観点から、内殻を樹脂ライナで構成し、樹脂ライナの外周面をFRPなどの補強層(外殻)で補強したものが開発されている。この種の樹脂ライナとして、例えばお碗状(略円筒状部材)の一対のライナ構成部材をポリエチレンなどの熱可塑性樹脂で形成しておき、この一対のライナ構成部材の端部同士を熱板溶着することで接合したものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2004−211783号公報(第2図および第5頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、非常に薄いライナ構成部材同士を熱板溶着した場合には、溶融バリの発生のほか、表面焼けや樹脂の溶融の過不足が生じるおそれがあった。また、熱板溶着法では、樹脂ライナを製造するのに時間やコストが多くかかっていた。
【0004】
本発明は、溶着時の不具合を生ずることなく、ライナ構成部材同士を適切に接合することができ、生産性を向上することができるガス容器の製造方法およびガス容器を提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のガス容器の製造方法は、少なくとも一部が中空円筒状のライナ構成部材を、複数個接合して構成される樹脂ライナを有するガス容器の製造方法であって、複数のライナ構成部材同士の接合部分は、予備加熱されている途中でまたは予備加熱された後で、レーザを照射されることによりレーザ溶着で接合されたものである。
【0006】
この構成によれば、複数のライナ構成部材同士の接合にレーザ溶着を用いているため、短時間且つ低コストで樹脂ライナを構成することができ、ガス容器の生産性を高めることができる。また、レーザ溶着によれば、接合部分を局所的に加熱することができるため、ライナ構成部材に対し熱的影響箇所を最小限にすることができ、溶融バリなどの発生を抑制し得る。さらに、レーザ溶着に先行して接合部分が予備加熱されているため、レーザ溶着時の接合部分の表面焼けを抑制することができ、ライナ構成部材同士を適切に且つ良好に接合することができる。また、接合部分が予備加熱された状態でレーザ溶着となる分、レーザ溶着に要する時間を短縮することもできるし、レーザの出力を必要以上に高くしなくて済む。
【0007】
ここで、「少なくとも一部(一端側)が中空円筒状のライナ構成部材」には、ライナ構成部材が全体として円筒状、環状、お碗状、ドーム状等の形状を有することが含まれる。例えば、一対の(半割りの)ライナ構成部材により樹脂ライナが構成される場合には、各ライナ構成部材は、全体としてお碗状に形成される。また、三以上のライナ構成部材により樹脂ライナが構成される場合には、樹脂ライナの両端のライナ構成部材はそれぞれ全体としてお碗状に形成され、この間に位置するライナ構成部材は全体として中空の円筒状または環状に形成される。
【0008】
本発明の他のガス容器の製造方法は、少なくとも一部が中空円筒状のライナ構成部材を、複数個接合して構成される樹脂ライナを有するガス容器の製造方法であって、互いに接合されるべき二つのライナ構成部材の少なくとも一方を予備加熱する予備加熱工程と、予備加熱工程の途中でまたは予備加熱工程の後で、レーザを照射することにより、接合対象となる接触状態のライナ構成部材同士をレーザ溶着で互いに接合するレーザ照射工程と、を有するものである。
【0009】
この構成によれば、上記の発明と同様に、レーザ溶着を用いているためガス容器の生産性を高めることができると共に、ライナ構成部材への熱的影響箇所を最小限にすることができる。また、レーザ溶着に先行して予備加熱を行っているため、レーザ溶着時に表面焼けを抑制することができる。予備加熱された状態でレーザが照射される分、レーザ溶着に要する時間を短縮することもできるし、レーザの出力を必要以上に高くしなくて済む。
【0010】
ここで、予備加熱をする直接の対象は、接合対象の両方のライナ構成部材であってもよいが、ライナ構成部材の一方のみであってもよい。後者としてもよい理由は、レーザ溶着の際にライナ構成部材同士を接触状態としているため、予備加熱されたライナ構成部材からの熱伝達により、予備加熱されていないライナ構成部材についても、レーザ溶着時には予め加熱された状態になり得るからである。
【0011】
この場合、予備加熱工程は、互いに接合されるべき一方のライナ構成部材の接合部と、他方のライナ構成部材の接合部との少なくとも一方を予備加熱することで行われ、レーザ照射工程は、接触状態の接合部同士をレーザ溶着で互いに接合することで行われることが、好ましい。
【0012】
この構成によれば、レーザ溶着の対象となる接合部の局所的な予備加熱となるため、ライナ構成部材の全体を予備加熱する場合に比べて、予備加熱工程において、ライナ構成部材全体の熱変形などの熱的影響を好適に抑制することができると共に、必要な熱量を少なくすることが可能となる。
【0013】
この場合、予備加熱工程は、接触状態の接合部同士を予備加熱することで行われることが、好ましい。
【0014】
この構成によれば、非接触状態の接合部同士を予備加熱する場合に比べて、接合部同士の熱伝達を促進することができるため、予備加熱を効率よく行うことができる。
【0015】
この場合、予備加熱工程は、接触状態のライナ構成部材同士の内側および外側の少なくとも一方から、接触状態の接合部同士を加熱することで行われることが、好ましい。
【0016】
この場合、予備加熱工程は、熱源を有する予備加熱装置に対し、接触状態のライナ構成部材同士を相対的に回転させながら、接触状態の接合部同士を周方向に亘って予備加熱することで行われることが、好ましい。
【0017】
この構成によれば、予備加熱装置に対してライナ構成部材同士を相対回転させているため、接合部同士の全周を予備加熱することができる。
ここで、「相対的に回転」には、ライナ構成部材同士を回転させること、予備加熱装置のみを回転させること、これら両者を互いに同方向にまたは逆方向に回転させること、が含まれる。
【0018】
この場合、レーザ照射工程は、レーザを照射するレーザ照射装置に対し、接触状態のライナ構成部材同士を相対的に回転させながら、接触状態の接合部同士を周方向に亘って予備加熱することで行われることが、好ましい。
【0019】
この構成によれば、予備加熱の場合と同様に、レーザ照射装置に対してライナ構成部材同士を相対回転させているため、接合部同士の全周をレーザによりライン溶接することができ、樹脂ライナの気密性を適切に確保することが可能となる。
ここで、「相対的に回転」には、ライナ構成部材同士を回転させること、レーザ照射装置のみを回転させること、これら両者を互いに同方向にまたは逆方向に回転させること、が含まれる。もっとも、予備加熱装置およびレーザ照射装置の両方を回転させるよりも、ライナ構成部材同士を回転させた方が装置の構成上や制御上、煩雑せず簡易となり得る。
【0020】
この場合、予備加熱装置は、接触状態のライナ構成部材同士の回転方向において、レーザ照射装置の上流側に位置していることが、好ましい。
【0021】
この構成によれば、ライナ構成部材同士が回転すると、接合部同士が予備加熱装置に臨んでこれによって予備加熱され、その予備加熱された部分がレーザ照射装置に臨んでこれによってレーザ溶着される。これにより、接合部同士の予備加熱温度の低下を最小限に抑制した状態で、接合部同士をレーザ溶着することができる。
【0022】
これらの場合、予備加熱工程を実行する予備加熱装置は、ヒータ、熱風装置、高周波誘導加熱装置及びレーザ照射装置の少なくとも一つであることが、好ましい。
【0023】
この構成によれば、例えば高周波誘導加熱装置によれば、予備加熱を短時間で行うことができる。また、予備加熱工程及びレーザ照射工程において、同一のレーザ照射装置を用いれば、製造装置全体の構成を単純化できる。なお、同一のレーザ照射装置を用いる場合には、予備加熱工程では、レーザ溶着しない程度の低出力でレーザを照射すればよい。
【0024】
これらの場合、予備加熱工程に先立ち、互いに接合されるべき一方のライナ構成部材の接合部と、他方のライナ構成部材の接合部との少なくとも一方に発熱性材料を設ける工程を、更に有することが、好ましい。
【0025】
この構成によれば、発熱性材料により接合部同士の予備加熱を促進することができると共に、レーザ溶着の際の接合部同士の溶融を促進することができる。これにより、接合部同士の溶着不良を抑制して、より一層良好に接合することができる。なお、発熱性材料を塗布することで接合部に設けてもよいし、発熱性材料を練入したシートを貼付することで接合部に設けてもよい。
【0026】
この場合、発熱性材料は、セラミックス、黒鉛、樹脂および金属の少なくも一つであることが、好ましい。
【0027】
これらの場合、予備加熱工程に先立ち、互いに接合されるべき一方のライナ構成部材の接合部をレーザ透過性の部材で構成すると共に、他方のライナ構成部材の接合部をレーザ吸収性の部材で構成する工程を、更に有し、レーザ照射工程は、レーザ透過性の部材からなる接合部側からレーザを照射することで行われることが、好ましい。
【0028】
この構成によれば、レーザ透過性の接合部側からレーザを照射すると、レーザ吸収性の接合部が加熱溶融すると共に、その接合部からの熱伝達によりレーザ透過性の接合部が加熱溶融する。このように、レーザに対する透過性または吸収性の特性を接合部に持たせておくことで、接合部同士を適切に接合することができる。なお、この種のレーザに対する特性を接合部のみに持たせてもよいが、接合部を含むライナ構成部材の全体に持たせる方が、ライナ構成部材を簡易に製造し得る。
【0029】
これらの場合、予備加熱工程では、ライナ構成部材の接合部の水分を測定する水分測定装置の測定結果に応じて予備加熱することが、好ましい。
【0030】
レーザ溶着時に接合部の水分率が高いと、レーザ溶着に悪影響を及ぼすおそれがあるが、上記構成のように予備加熱を水分測定装置の測定結果に応じて実行することで、溶着不良を防止することができるようになる。
【0031】
本発明のガス容器は、少なくとも一部が中空円筒状のライナ構成部材を、複数個接合して構成される樹脂ライナと、樹脂ライナの外周に配置された補強層と、を有するガス容器であって、一のライナ構成部材の接合部と他のライナ構成部材の接合部とが接合された接合部分は、この接合部同士をレーザ溶着により互いに接合したレーザ溶着部と、レーザ溶着部と一体的にまたはその近傍に設けられた発熱性材料と、を有しているものである。
【0032】
この構成によれば、一のライナ構成部材の接合部と他のライナ構成部材の接合部とをレーザ溶着により接合しているため、短時間且つ低コストで樹脂ライナを構成することができる。よって、ガス容器の生産性を高めることができる。また、レーザ溶着を用いることで、低温でしかも接合部同士を局所的に加熱することができるため、ライナ構成部材に対し熱的影響箇所を最小限にすることができ、溶融バリなどを生じさせなくて済む。さらに、発熱性材料によりレーザ溶着の際の接合部同士の溶融を促進することができるため、接合部同士の溶着不良を抑制して、より一層良好に接合することができる。
【0033】
ここで、レーザ溶着部は、接合部同士または少なくとも一方の接合部が溶融して形成されるものである。また、発熱性材料は、樹脂ライナの製造前(レーザ溶着前)では、少なくとも一方の接合部に設けられるものである。レーザ溶着部と一体的に設けられた発熱性材料とは、樹脂ライナの製造後(レーザ溶着後)において、例えば、レーザ溶着により溶融した接合部の樹脂に発熱性材料が含まれ得る状態にあることをいう。一方、レーザ溶着部の近傍に設けられた発熱性材料とは、樹脂ライナの製造後(レーザ溶着後)において、例えば、レーザ溶着により溶融した接合部の樹脂には含まれず、この溶融して固化した樹脂の近傍にある状態をいう。
【発明の効果】
【0034】
本発明のガス容器の製造方法によれば、ライナ構成部材同士の接合をレーザ溶着で行うと共に、そのレーザ溶着に先立って予備加熱がなされている。したがって、レーザ溶着時の不具合を生ずることなく、ライナ構成部材同士を適切に接合することができ、生産性を向上することができる。
【0035】
本発明のガス容器によれば、上記同様にライナ構成部材同士を適切に接合して生産性を向上することができると共に、接合部分に発熱性材料を設けているためにレーザ溶着時の溶融を促進することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。本実施形態のガス容器は、複数のライナ構成部材がレーザ溶着により接合された樹脂ライナを有するものである。以下では、先ずガス容器の構造について説明し、その後、ガス容器の製造方法について説明する。また、第2〜第5実施形態及び第7実施形態では、主として製造方法の変形例について説明し、第6実施形態では、主としてガス容器の他の構造について説明する。第2実施形態以降では、第1実施形態と共通する部分については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0037】
<第1実施形態>
図1に示すように、ガス容器1は、全体として密閉円筒状の容器本体2と、容器本体2の長手方向の両端部に取り付けられた口金3,3と、を具備している。容器本体2の内部は、各種のガスを貯留する貯留空間5となっている。ガス容器1は、常圧のガスを充填することもできるし、常圧に比して圧力が高められたガスを充填することもできる。すなわち、本発明のガス容器1は、高圧ガス容器として機能することができる。
【0038】
例えば、燃料電池システムでは、高圧の状態で用意された燃料ガスを減圧して、燃料電池の発電に供している。本発明のガス容器1は、高圧の燃料ガスを貯留するのに適用することができ、燃料ガスとしての水素や、圧縮天然ガス(CNGガス)などを貯留することができる。ガス容器1に充填される水素の圧力としては、例えば35MPaあるいは70MPaであり、CNGガスの圧力としては、例えば20MPaである。以下は、高圧水素ガス容器1を例に説明する。
【0039】
容器本体2は、ガスバリア性を有する内側の樹脂ライナ11(内殻)と、樹脂ライナ11の外周に配置された補強層12(外殻)と、の二層構造を有している。補強層12は、例えば炭素繊維とエポキシ樹脂を含むFRPからなり、樹脂ライナ11の外表面を被覆するようにこれを巻きつけている。
【0040】
口金3は、例えばステンレスなどの金属で形成され、容器本体2の半球面状をした端壁部の中心に設けられている。口金3の開口部の内周面には、めねじが刻設されており、配管やバルブアッセンブリ14(バルブボデー)などの機能部品が、このめねじを介して口金3にねじ込み接続可能となっている。なお、図1では、口金3,3の一方にのみバルブアッセンブリ14を設けた例を二点鎖線で示した。
【0041】
例えば、燃料電池システム上のガス容器1は、バルブや継手等の配管要素を一体的に組み込んだバルブアッセンブリ14を介して、貯留空間5と図示省略した外部のガス流路との間が接続され、貯留空間5に水素が充填されると共に貯留空間5から水素が放出される。なお、ガス容器1の両端部に口金3,3を設けたが、もちろん片方の端部にのみ口金3を設けてもよい。
【0042】
樹脂ライナ11は、長手方向の中央で二分割された一対の略同形状からなるライナ構成部材21,22(割体)を、レーザ溶着により接合して構成されている。すなわち、半割り中空体のライナ構成部材21,22同士をレーザ溶着により接合することで、中空内部の樹脂ライナ11が構成されている。
【0043】
一対のライナ構成部材21,22は、樹脂ライナ11の軸方向に所定の長さ延在する胴部31,41をそれぞれ有している。各胴部31,41の軸方向の両端側は、開口している。
【0044】
一方のライナ構成部材21は、胴部31の一端側の縮径された端部に形成された返し部32と、返し部32の中央部に開口した連通部33と、胴部31の他端側の略円筒状の端部に形成された接合部34と、を有している。同様に、他方のライナ構成部材22は、胴部41の一端側の縮径された端部に形成された返し部42と、返し部42の中央部に開口した連通部43と、胴部41の他端側の略円筒状の端部に形成された接合部44と、を有している。
【0045】
各返し部32,42は、各ライナ構成部材21,22の強度を確保するのに機能する。各返し部32,42の外周面と補強層12の端部との間に口金3,3が位置しており、各口金3,3は、各連通部33,43に嵌合している。なお、口金3が片方の端部にのみ設けられる場合には、一対のライナ構成部材21,22の一方については、返し部32,42および連通部33,43が形成されず、胴部31および胴部41の一方については一端側が閉塞端で形成される。
【0046】
ここで、本明細書では、ライナ構成部材21,22とは、分割構造の樹脂ライナ11を構成する部材をいい、上述のように、少なくとも一端側(一部)が中空円筒状の形状を有するものをいう。したがって、ライナ構成部材21,22の形状には、その全体の形状が円筒状、環状、お碗状、ドーム状等であることが含まれる。
【0047】
図2は、接合部34,44まわりを拡大して示す断面図である。なお、図2において補強層12は省略している。
一方の接合部34は、所定の角度傾斜した接合端面51を有している。接合端面51は、ライナ構成部材21の端部が内側に向かって面取りされるように(逆テーパ状となるように)、ライナ構成部材21の端部に周方向に亘って形成されている。
【0048】
同様に、他方の接合部44は、所定の角度傾斜した接合端面61を有している。接合端面61は、ライナ構成部材の端部が外側に向かって面取りされるように(テーパ状となるように)、ライナ構成部材22の端部に周方向に亘って形成されている。
【0049】
一方の接合部34と他方の接合部44とは、ライナ構成部材21,22同士を突き合わせた状態では、両者の接合端面51,61同士が整合し、接合端面51,61同士が樹脂ライナ11の周方向に亘って接触する。
【0050】
なお、両者の接合端面51,61の角度は、任意であるが、レーザトーチ100(レーザ照射装置)からのレーザを透過または受光可能な角度であればよい。また、接合端面51,61同士には、樹脂ライナ11の製造過程において、後述する予備加熱装置としてのヒータ90が臨むようになっている。
【0051】
本実施形態では、接合部34を有するライナ構成部材21は、レーザ透過性の熱可塑性樹脂で形成されている。一方、接合部44を有するライナ構成部材22は、レーザ吸収性の熱可塑性樹脂で形成されている。
【0052】
レーザ透過性の熱可塑性樹脂は、レーザ溶着に必要なエネルギーをレーザ吸収性側の接合部44の接合端面61に到達させる程度に、レーザに対する透過性を有していればよい。したがって、レーザ透過性の熱可塑性樹脂であっても、レーザ吸収性の特性を僅かに有していてもよい。
レーザ透過性の熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン66などを挙げることができるが、これらにガラス繊維などの補強繊維や着色剤を添加したものであってもよい。例えば、レーザ透過性のライナ構成部材21は、白色、半透明または透明に形成される。
【0053】
レーザ吸収性の熱可塑性樹脂は、レーザに対する吸収性を有していればよく、吸収したレーザにより発熱して溶融するものであればよい。レーザ吸収性の熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン66などを挙げることができるが、これらにガラス繊維などの補強繊維や着色剤を添加したものであってもよい。
例えば、レーザ吸収性の熱可塑性樹脂は、レーザ透過性の熱可塑性樹脂と同一の樹脂で形成した場合には、レーザ透過性の熱可塑性樹脂よりもカーボンを多く添加することで形成される。したがって、レーザ吸収性のライナ構成部材22は、例えば黒色に形成される。
【0054】
レーザ透過性の接合部34とレーザ吸収性の接合部44とは、接合端面51,61同士がレーザ溶着により接合されている。レーザ溶着は、接合部34の外側からレーザトーチ100によりレーザを照射し、レーザ吸収性の接合端面61の樹脂を加熱溶融すると共に、この接合端面61からの熱伝達によりレーザ透過性の接合端面51の樹脂を加熱溶融することで行われる。
【0055】
したがって、接合部34,44同士が接合された接合部分にあるレーザ溶着部70は、接合端面61および接合端面51の両方が溶融した部位であり、レーザ吸収性およびレーザ透過性の両方の樹脂が入り絡まった状態となっている。本実施形形態では、接合端面51,61同士を樹脂ライナ11の軸方向に対して直交させるのではなく傾斜させたことで、接合端面51,61同士の接触面積が大きくなり、接合部分の大きさが適切に確保されている。
【0056】
なお、ライナ構成部材21,22の全体をレーザ透過性やレーザ吸収性の樹脂とするのでなく、接合部34,44のみをレーザ透過性やレーザ吸収性の樹脂で構成するなど、ライナ構成部材21,22が部分的にレーザ透過性やレーザ吸収性の特性を有していてもよい。
【0057】
例えば、一対のライナ構成部材21,22を両方ともレーザ透過性の樹脂で形成しておき、そのうちの一方のライナ構成部材21(または22)の接合部34(または44)の接合端面51(または61)に、レーザ吸収性を有する吸収剤を塗布したり、この種の吸収剤を練入したシートを貼付したりしてもよい。
【0058】
ここで、図3および図4を参照して、ガス容器1の製造方法について説明する。
先ず、一対のライナ構成部材21,22および二つの口金3,3を成形する(S1)。このとき例えば、予め成形した一の口金3を金型内に配置し、この金型内にレーザ透過性の熱可塑性樹脂を射出して、ライナ構成部材21および口金3を一体成形する(インサート成形する。)。
【0059】
また同様の手順により、レーザ吸収性の熱可塑性樹脂を射出して、ライナ構成部材22および口金3を一体成形する。このように、射出成形を用いることで各ライナ構成部材21,22を成形精度良く成形することができる。なお、射出成形に代えて、回転成形やブロー成形を用いてもよい。また、各ライナ構成部材21,22と各口金3,3とを一体成形しなくてもよく、後述するレーザ溶着工程(S5)の後などで、各ライナ構成部材21,22に各口金3,3を取り付けてもよい。
【0060】
次に、口金3付きの各ライナ構成部材21,22を製造設備内に例えば横向き姿勢で配置し、ライナ構成部材21,22同士を突き合わせる。そして、接合部34,44同士を接触させて、接合端面51,61同士を周方向に亘って接触させる(S2)。
【0061】
これにより、ライナ構成部材21,22同士が仮接合(暫定接合)した状態の樹脂ライナ11となる。なお、この後で、各ライナ構成部材21,22の各口金3,3に図示省略した栓をねじ込み接続することなどにより、仮接合状態の樹脂ライナ11の内部を略密閉状態として、この密閉空間に不純物が入り込まないようにしてもよい。
【0062】
次の工程として、樹脂ライナ11の仮接合状態を維持しつつ、図示省略した回転装置を駆動して樹脂ライナ11をその軸回りに回転させながら、ヒータ90を駆動して接触状態の接合部34,44同士を予備加熱する(S3)。ヒータ90は、樹脂ライナ11の外側に位置して、接合部34,44同士の周方向の一部に(ライナ構成部材21,22同士の接合境界の一部に)非接触で臨んでいる。
【0063】
また、ヒータ90は、両接合端面51,61の軸方向の長さに相当する長さだけ、樹脂ライナ11の軸方向に延在する加熱領域91を有している(図2参照)。したがって、樹脂ライナ11を一回転させることで、接触状態の接合端面51の全面および接合端面61の全面がヒータ90により予備加熱される。なお、接合端面51,61同士を接触させているため、予備加熱時の熱伝達が促進される。
【0064】
なお、ヒータ90の軸方向の長さを両接合端面51,61の軸方向の長さよりも短く設定してもよいが、ヒータ90の加熱領域91が両接合端面51,61を軸方向に超えて位置するようにしてもよい。また、ヒータ90を樹脂ライナ11の外側に位置させたが、ヒータ90を樹脂ライナ11の内側に位置させて、接触状態の接合部34,44同士をその内面側から(樹脂ライナ11の内部から)予備加熱するようにしてもよい。
【0065】
さらに、樹脂ライナ11に対して非接触式のヒータ90としたが、接触式の予備加熱装置を構成して、これを接合部34,44同士のある接合境界の内面または外面に接触させてもよい。例えば、ヒータを内蔵したローラで接触式の予備加熱装置を構成した場合には、加温されたローラの周面を接合境界の内面または外面に接触させればよい。
【0066】
また、ヒータ90により接触状態のライナ構成部材21,22同士を全体的に予備加熱してもよいが、レーザ溶着の対象となる接合部34,44同士を局所的に予備加熱した方が、ライナ構成部材21(22)全体の熱変形などの熱的影響を好適に抑制することができると共に、必要な熱量を少なくすることが可能となる。
【0067】
次に、予備加熱された接合部34,44同士に対して、レーザが照射される(S4)。レーザの照射は、樹脂ライナ11の外側に位置するレーザトーチ100を駆動することで行われる。レーザトーチ100は、レーザ透過性の接合部34の外側から、接触状態の接合端面51,61同士にレーザを照射する。照射されたレーザは、接合端面61の樹脂およびその熱伝達により接合端面51の樹脂を加熱溶融する。そして、これらの溶融された樹脂が冷却固化することで、接合部34,44同士を互いに一体的に接合するレーザ溶着部70が形成される。
【0068】
ここで、レーザの照射も予備加熱と同様に、仮接合状態の樹脂ライナ11を軸回りに回転させることで行われる。このため、レーザ溶着部70は、樹脂ライナ11の周方向に亘って形成されることになる。
【0069】
本実施形態では、レーザトーチ100は、仮接合状態の樹脂ライナ11の軸回りの回転方向において、ヒータ90の下流側に設けられている。これにより、ヒータ90に臨んだ接合部34,44同士の予備加熱された部分に対して、レーザトーチ100からのレーザが随時照射されることになる。したがって、樹脂ライナ11を少なくとも一回転させることで、接合部34,44同士が周方向に亘って予備加熱およびレーザ照射される。
【0070】
このように、接合端面51,61同士の予備加熱された部位が順次レーザ照射されて、接合端面51,61同士がレーザ溶着により接合されるため、接合部34,44同士の予備加熱温度の低下を最小限に抑制した状態で、接合部34,44同士をレーザ溶着することができる。
【0071】
また、予備加熱された状態でレーザが照射されるため、レーザが照射される樹脂ライナ11の部位の焼け焦げなどを抑制することができ、樹脂ライナ11の接合不良や強度低下を抑制することができる。
【0072】
また、予備加熱していて接合端面51,61同士が温まっている分、レーザ溶着に要する時間を短縮することができる。さらに、予備加熱しているため、仮にレーザ透過側の接合部34をレーザ透過性の低い樹脂で形成したり肉厚に形成したりしても、レーザの出力を必要以上に高くしなくて済む。
【0073】
なお、レーザトーチ100が出射するレーザは、半導体レーザなどを用いることができるが、これに限定されるものではなく、レーザの種類は、レーザ透過性のライナ構成部材21の樹脂の肉厚を含む性状などを考慮して適宜選択される。また、ヒータ90の出力(加熱温度、加熱量、加熱時間)、レーザの出力(照射量、照射時間)、および樹脂ライナ11の回転速度などの諸条件は、各ライナ構成部材21,22や各接合部34,44の性状に応じて適宜設定すればよい。この場合、接合部34,44同士の予備加熱温度については、レーザにより加熱されて溶融し始める本加熱温度よりも低く設定すればよい。
【0074】
なおまた、上記のように予備加熱工程(S3)の実行中に、レーザの照射を実行してレーザ溶着工程(S4)を行うようにしているが、もちろん、接合部34,44同士について周方向に亘って予備加熱を完了した後で、レーザの照射を開始するようにしてもよい。なお、上記説明では、樹脂ライナ11の外側から接合部34,44同士にレーザを照射しているが、レーザトーチ100を樹脂ライナ11の内側に配置して、樹脂ライナ11の内側から接合部34,44同士にレーザを照射してもよい。
【0075】
また、樹脂ライナ11を直接的に回転させる構成ではなく、ヒータ90やレーザトーチ100を樹脂ライナ11の周囲で直接的に回転させるようにしてもよい。これに代えて、樹脂ライナ11、ヒータ90およびレーザトーチ100をともに、同方向にまたは逆方向に回転させるようにしてもよい。もっとも、上記のように、樹脂ライナ11のみを回転させた方が、ヒータ90およびレーザトーチ100を関連付けて回転させる場合に比べて、装置構成上、簡易となり得る。
【0076】
レーザ溶着の完了により、樹脂ライナ11は、仮接合状態から本接合状態(すなわち、完全に接合された状態。)となって、中空内部に上記の貯留空間5が構成される。そして、レーザ溶着完了後の工程として、フィラメントワインディング法等により樹脂ライナ11の外表面に補強層12を形成する工程(S5)が実行されることで、ガス容器1が製造される。
【0077】
以上のように、本実施形態のガス容器1の製造方法によれば、レーザ溶着を用いたため、短時間且つ低コストで樹脂ライナ11を製造することができ、ガス容器1の生産性を高めることができる。また上記したように、レーザ溶着に先行して、レーザ溶着の対象となる接合部34,44同士を予備加熱しているため、レーザ照射時に樹脂ライナ11の部位の焼け焦げなどを抑制することができ、良好な接合精度で且つ短時間でライナ構成部材21,22同士を接合することができる。
【0078】
<第2実施形態>
次に、図5を参照して、第2実施形態に係るガス容器1の製造方法ついて相違点を中心に説明する。第1実施形態との相違点は、予備加熱装置としてのヒータ110の形状をコイル状としたことである。
【0079】
本実施形態のヒータ110は、樹脂ライナ11の外側から接合部34,44同士を予備加熱する環状ヒータ部111を有している。環状ヒータ部111は、樹脂ライナ11の周方向にほぼ亘って、接触状態の接合部34,44同士の接合境界に非接触で臨んでいる。このため、樹脂ライナ11をヒータ110に対して相対回転させなくとも、環状ヒータ部111により接合部34,44同士を周方向にほぼ亘って予備加熱することが可能となる。環状ヒータ部111は、上記ヒータ90と同様に、例えば、両接合端面51,61の軸方向の長さに相当する長さだけ、樹脂ライナ11の軸方向に延在する加熱領域を有している。
【0080】
本実施形態によっても、ヒータ110によって予備加熱された接合部34,44同士に対してレーザを照射することで、焼け焦げなどの不具合を抑制して、接合部34,44同士を適切にレーザ溶着で接合することができる。
【0081】
なお、本実施形態においても上記実施形態と同様にさまざまな変形例を適用することができ、例えば、ヒータ110の発熱中に(すなわち予備加熱中に)、樹脂ライナ11の軸回りの回転を開始しつつ、これに同期してレーザの照射を開始するようにしてもよい。また、樹脂ライナ11を回転させるのではなくて、レーザトーチ100を樹脂ライナ11の周りを回転させるようにしてもよい。
【0082】
<第3実施形態>
次に、図6を参照して、第3実施形態に係るガス容器1の製造方法ついて相違点を中心に説明する。第1実施形態との相違点は、ヒータ90に代わる予備加熱装置として、熱風装置120を用いた点である。
【0083】
熱風装置120は、例えば、図示省略した熱源と、熱源を通過したエアや不活性ガス等の熱風を送風する図示省略したブロワと、ブロワからの熱風を仮接合状態の樹脂ライナ11の内部に導入するダクト121と、を具備している。ダクト121は、樹脂ライナ11の一方の口金3に例えばねじ込み接続されている。
【0084】
この場合、ダクト121の下流端は、樹脂ライナ11の内部から接合部34,44同士の接合境界に又はその近傍に熱風を吹き付けるように、樹脂ライナ11の内部で延在している。もっとも、ダクト121の下流端を口金3や樹脂ライナ11の内部の中央部などに位置させて、樹脂ライナ11の内部を全体的に熱風で予備加熱するようにしてもよい。この全体予備加熱の場合には、樹脂ライナ11のダクト121が接続された口金3とは反対側の口金3に栓をしておくことで、樹脂ライナ11の内部から外部に熱を極力逃がさなくて済む。
【0085】
以上のように本実施形態によっても、熱風装置120によって予備加熱された接合部34,44同士に対してレーザを照射することができる。これにより、焼け焦げなどの不具合を抑制して、接合部34,44同士を適切にレーザ溶着で接合することができる。特に、熱風として、加熱された不活性ガスを用いた場合には、レーザ溶着の際に、接合部34,44同士の酸化を抑制することも可能となる。
【0086】
そして変形例としては、上記実施形態と同様に、レーザ溶着の際に、熱風装置120の駆動を停止してもよいし、その駆動を続けて予備加熱を続行してもよい。また、熱風装置120を駆動する予備加熱の際に樹脂ライナ11を回転させてもよいが、ダクト121からの熱風が接合部34,44同士の接合境界において又はその近傍において周方向に亘って吹き付けられる場合には、予備加熱の際に樹脂ライナ11を回転させなくてもよい。
【0087】
<第4実施形態>
次に、図7を参照して、第4実施形態に係るガス容器1およびその製造方法について相違点を中心に説明する。第1実施形態との相違点は、ガス容器1の構造として、接合部34,44同士の界面に発熱性材料130を設けたことである。なお、図7は、ガス容器1の接合部分を拡大して示す図2と同様の断面図である。
【0088】
発熱性材料130は、レーザ吸収性のライナ構成部材22の接合端面61の全面に設けられている。もっとも、発熱性材料130を接合端面61に部分的に設けてもよい。また、この構成に代えて、発熱性材料130をレーザ吸収性の接合端面51の全面に設けてもよいし、両方の接合端面51,61に設けてもよい。
【0089】
発熱性材料130は、接合端面61の樹脂よりも発熱性の高い材料であればよい。例えば、発熱性材料130は、セラミックス、黒鉛、樹脂および金属のいずれかで構成することもできるし、これらを混合して構成することもできる。発熱性材料130を接合端面61に設ける場合には、発熱性の微粒子を揮発性溶媒と混合させて接合端面61の全面に塗布してもよいし、発熱性材料130を練入したシートを接合端面61の全面に貼付してもよい。
【0090】
本実施形態のガス容器1を製造する際には、ライナ構成部材21,22同士を突き合わせて仮接合する前に、塗布等により接合端面61に発熱性材料130を設けている。すなわち、本実施形態のガス容器1の製造工程は、第1実施形態で説明した図4に示すS1の工程とS2の工程との間に、接合端面61に発熱性材料130を設ける工程を具備している。
【0091】
この発熱性材料130を設ける工程の後、樹脂ライナ11を仮接合して、接触状態の接合部34,44同士を予備加熱すると共にレーザ溶着で接合する。予備加熱は、例えば第1〜第3実施形態の予備加熱装置(90,110,120)を用いて行われる。レーザ溶着の完了により、接合部34と接合部44とが一体的に接合された樹脂ライナ11の接合部分は、レーザ溶着部70の近傍に発熱性材料130を有した構成となる(図7(b)参照)。
【0092】
本実施形態が上記各実施形態に対して有用となる点は、第一に、予備加熱時に接合端面51,61同士の発熱が発熱性材料130により助長されることである。このため、短時間で予備加熱することができる。第二に、同様にレーザ照射時に接合端面51,61同士の溶融が発熱性材料130により助長されることである。このため、接合部34,44同士の溶着不良を抑制して、より一層良好に接合することができる。
【0093】
なお、レーザ溶着によって、レーザ溶着部70と一体的に発熱性材料130が設けられる場合もある。例えば、レーザの照射によって接合端面61の樹脂が溶融する際に、これに発熱性材料130が混入している場合には、この溶融した固化した樹脂(すなわちレーザ溶着部70)に発熱性材料130が含まれることがある。
【0094】
なお、本実施形態においては、発熱性材料130が導電性セラミックスである場合など、発熱性材料130が導電性を有している場合には、上記の第1〜第3実施形態の予備加熱装置に代えて、予備加熱装置を兼ねる高周波誘導加熱装置を用いるとよい。
【0095】
高周波誘導加熱装置を用いて、ガス容器1を製造する方法について簡単に説明する。その製造過程においては、先ず、図4に示すS2の工程の際に、仮接合状態の樹脂ライナ11を高周波誘導加熱装置の高周波炉内に設置すると共に、この高周波炉内にレーザトーチ100を所定の位置に設置する。高周波誘導加熱装置を駆動すると、高周波による誘導加熱で発熱性材料130に発熱がおこり、接合端面51,61同士が予備加熱された状態となる。この高周波誘導加熱装置の駆動中にレーザトーチ100を駆動して、接合端面51,61同士をレーザ溶着により接合する。
【0096】
このように、接合端面61に導電性の発熱性材料130が設けられている場合に高周波誘導加熱装置を用いることで、接合端面51,61同士をより一層短時間で予備加熱することができると共に、接合端面51,61同士の溶融を促進することができる。したがって、接合部34,44同士の溶着不良を抑制して、より一層良好に接合することができる。
【0097】
また、レーザ溶着中においては、高周波による誘導加熱によってレーザ溶着部70を所定の温度に保つことができる。このため、樹脂ライナ11の品質を安定化させることができる。さらに、高周波による誘導加熱によって樹脂ライナ11自体にアニール処理と同様の効果を得ることができる。
【0098】
<第5実施形態>
次に、図8を参照して、第5実施形態に係るガス容器1の製造方法について相違点を説明する。第4実施形態との相違点は、高周波誘導加熱装置140の高周波炉141内に加圧治具150を設置したことである。
【0099】
加圧治具150は、例えば、仮接合状態の樹脂ライナ11をその両端側から内側に向かって圧着するように、接合部34,44同士を挟んで対向して設けられた一対の治具で構成されている。一対の加圧治具150,150は、樹脂ライナ11の軸方向の内側に圧着力を印加して、接合端面51,61同士を強密着させる。一対の加圧治具150,150は、駆動源となるシリンダなどのアクチュエータを有していてもよいし、アクチュエータを具備しない構成であってもよい。
【0100】
本実施形態によれば、一対の加圧治具150,150により接合端面51,61同士の密着力を高めた状態で、高周波による誘導加熱およびレーザ溶着を行うことができる。これにより、レーザ溶着された接合端面51,61同士の接合性を高めることができ、樹脂ライナ11の接合強度や気密性をより一層確保することができる。
【0101】
なお、一対の加圧治具150,150による機械的圧着力に代えて、摩擦圧接などの他の構造により、仮接合状態の接合端面51,61同士を強密着させるようにしてもよい。
【0102】
<第6実施形態>
次に、図9を参照して、第6実施形態に係るガス容器1について相違点を中心に説明する。第1実施形態との相違点は、ガス容器1の樹脂ライナ11を三つのライナ構成部材201,202,203より構成したことである。なお、図9では、補強層12については省略している。
【0103】
樹脂ライナ11は、長手方向において三分割された三つのライナ構成部材201,202,203を、レーザ溶着により接合して構成されている。両端に位置する二つのライナ構成部材201,202は、全体の形状がお碗状に形成されている。中央に位置するライナ構成部材203は、全体の形状が円筒状または環状に形成されている。両端の二つのライナ構成部材201,202は、それぞれ、例えば射出成形により口金3と一体成形される。中央のライナ構成部材203は、例えば射出成形により形成される。
【0104】
両端の二つのライナ構成部材201,202の各々は、返し部211,221および連通部212,222のほか、各口金3,3と反対側に接合部213,223を有している。中央のライナ構成部材203は、軸方向の開口した両端側にそれぞれ接合部231,232を有している。
【0105】
これらの接合部(213,223,231,232)は、レーザ透過性またはレーザ吸収性の特性を有している。例えば、両端の二つのライナ構成部材201,202は、レーザ透過性の熱可塑性樹脂で形成され、中央のライナ構成部材203は、レーザ吸収性の熱可塑性樹脂で形成される。もちろん、この逆であってもよいし、各ライナ構成部材201,202,203が、部分的にレーザ透過性またはレーザ吸収性の特性を有していてもよい。樹脂ライナ11は、接合部213,231同士がレーザ溶着により互いに接合され、且つ接合部223,232同士がレーザ溶着により互いに接合されている。
【0106】
本実施形態のガス容器1の製造方法は、上記した各実施形態の製造方法を適用することができる。ここでは、三つのライナ構成部材201,202,203を同時に予備加熱およびレーザ溶着する場合について簡単に説明する。
【0107】
先ず、口金3付きのライナ構成部材(201,202)を含む三つのライナ構成部材201,202,203を成形する。そして、接合部213,231同士および接合部223,232同士を接触させて、仮接合状態の樹脂ライナ11とする。
【0108】
次いで、仮接合状態の樹脂ライナ11をその軸回りに回転させながら、あるいは二つの予備加熱装置(例えばヒータ90,110)および二つのレーザトーチ100を樹脂ライナ11の周囲を回転させる。この回転中に、接合部213,231同士および接合部223,232同士について、予備加熱の途中でまたはその後でレーザ溶着により周方向に亘って接合する。
【0109】
これにより、三つのライナ構成部材201,202,203が一体的に接合され、本接合状態の樹脂ライナ11が製造される。その後、三つのライナ構成部材201,202,203の外周に亘って補強層が巻き付けられて、ガス容器1が製造される。
【0110】
したがって、本実施形態のように三つのライナ構成部材201,202,203で樹脂ライナ11を構成しても、上記実施形態と同様に、レーザ溶着による接合が良好なガス容器1を製造することができる。
【0111】
なお、三つのライナ構成部材201,202,203について、予備加熱やレーザ溶着等の処理を同時に行った例を説明したが、もちろんこれらの処理を別個に行ってもよい。また、ライナ構成部材が三つの場合について説明したが、四つ以上も同様である。すなわち、本発明は、軸方向に並ぶ複数のライナ構成部材を接合した樹脂ライナ11に適用することができる。
【0112】
<第7実施形態>
次に、図10及び図11を参照して、第7実施形態に係るガス容器1の製造方法について相違点を説明する。第1実施形態との相違点は、レーザトーチ100が予備加熱装置を兼ねることと、水分を測定する非接触式の水分測定装置300を設けたことである。
【0113】
水分測定装置300は、ライナ構成部材21,22の水分率を測定するものである。水分測定装置300は、樹脂ライナ11の外側に位置して、接合部34,44同士の周方向の一部に(ライナ構成部材21,22同士の接合境界の一部に)非接触で臨んでいる。それゆえ、水分測定装置300は、接合部34又は接合部44の水分率を測定する。
【0114】
水分測定装置300は、例えば露点計、赤外線分光計など各種公知のものを用いることができ、本実施形態ではマイクロ波水分計が用いられている。図示省略した回転装置により、樹脂ライナ11を軸回りに一回転させることで、水分測定装置300は、接合部34又は接合部34の水分率を周方向に亘って測定することができる。
【0115】
図11は、予熱からレーザ溶着完了までの工程を示すフローチャートであり、これらの工程は、第1実施形態の図3に示す予熱の工程(S3)及びレーザ溶着の工程(S4)に相当するものである。
【0116】
ステップS11では、仮接合状態の樹脂ライナ11を回転装置により回転させながら、レーザトーチ100を駆動し、接触状態の接合部34,44同士を予備加熱する。このとき、レーザトーチ100によるレーザの出力は、接合部34,44同士がレーザ溶着しない程度のものに設定される。すなわち、予備加熱する場合のレーザの出力は、本加熱(レーザ溶着のために加熱)する場合のレーザの出力よりも低く設定される。
【0117】
予備加熱を実行しながら、水分測定装置300によって、ライナ構成部材21,22の水分率を測定する(ステップS12)。ここで、水分率が基準値を超える場合には(ステップS13;No)、レーザトーチ100による予備加熱が続行され、予備加熱による接合部33,34の水分除去が続行される。水分率の基準値は、例えば0.2%に設定される。
【0118】
一方、水分率が基準値以内である場合には(ステップS13;Yes)、レーザトーチ100が予備加熱から本加熱に移行して、接合部34,44同士のレーザ溶着が開始される(ステップS14)。そして、上記実施形態と同様にして、レーザ溶着が完了すると(ステップS15)、樹脂ライナ11は仮接合状態から本接合状態となる。
【0119】
以上のように、本実施形態では、水分測定装置300の測定結果に応じて予備加熱を行い、接合部34,44の水分率を所定の基準値にまで下げることができる。これにより、接合部34,44の水分率が溶着不良が発生しない水分率になったところで、レーザ溶着を開始することができ、ロバスト性の高いレーザ溶着が可能となる。また、製造工程の全体を通じて、ライナ構成部材21,22の湿度管理が容易となる。さらに、レーザトーチ100が予備加熱装置を兼ねているため、製造装置全体の構成を単純化できる。
【0120】
なお、水分測定装置300の測定結果に応じて予備加熱を行うことは、レーザトーチ100以外の予備加熱装置の場合にも有効であり、上記各実施形態に適用することができる。
【0121】
<他の実施形態>
上記した本発明のガス容器1の製造方法では、様々な製造設備を用いて行うことができる。例えば、第1実施形態の仮接合状態の樹脂ライナ11をチャンバー内に配置して、チャンバー内を不活性ガス雰囲気下または真空状態にして、接合部34,44同士を予備加熱およびレーザ溶着するようにしてもよい。こうすることで、大気よりも低酸素雰囲気下でレーザ溶着されるため、各接合部34,44の酸化を抑制することができ、接合精度をより一層を高めることができる。
【0122】
また、レーザ溶着時に樹脂ライナ11の内外に圧力差を付与して、接合端面51,61同士の密着性を高めるようにしてもよい。圧力差の付与は、例えばポンプにより、樹脂ライナ11の口金3を介して樹脂ライナ11の内部を減圧または加圧することで行うことができる。こうすることで、第5実施形態で説明した加圧治具を不要または簡略化しても、接合端面51,61同士の密着力を高めた状態で、これをレーザ溶着により接合することができる。
【産業上の利用可能性】
【0123】
ガス容器1について説明したレーザ溶着については、樹脂ライナ11のみならず、自動車部品や配管部品などの各種の樹脂成形品に適用することができる。例えば、インテークマニホールドを複数の樹脂成形材で構成し、この樹脂成形材同士をレーザ溶着で接合する場合にも、レーザ溶着工程に先行する予備加熱や、レーザ溶着部70への発熱性材料130の追加などを適用することで接合精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】第1実施形態に係るガス容器の構成を示す断面図である。
【図2】第1実施形態に係るガス容器の接合部分を拡大して示す断面図である。
【図3】第1実施形態に係るガス容器の製造方法を説明する斜視図である。
【図4】第1実施形態に係るガス容器の製造方法の工程を示すフローチャートである。
【図5】第2実施形態に係るガス容器の製造方法を説明する斜視図である。
【図6】第3実施形態に係るガス容器の製造方法を説明する斜視図である。
【図7】第4実施形態に係るガス容器の製造方法を説明する図であり、(a)接合前の接合部分の拡大断面図、(b)接合後の接合部分の拡大断面図である。
【図8】第5実施形態に係るガス容器の製造方法を説明する側面図である。
【図9】第6実施形態に係るガス容器の構成を示す断面図である。
【図10】第7実施形態に係るガス容器の製造方法を説明する斜視図である。
【図11】第7実施形態に係るガス容器の製造方法の工程を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0125】
1 ガス容器、11 樹脂ライナ、12 補強層、21 ライナ構成部材、22 ライナ構成部材、34 接合部、44 接合部、70 レーザ溶着部、90 ヒータ、100 レーザトーチ、110 ヒータ、120 熱風装置、130 発熱性材料、140 高周波誘導加熱装置、201 ライナ構成部材、202 ライナ構成部材、203 ライナ構成部材、213 接合部、223 接合部、231 接合部、232 接合部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部が中空円筒状のライナ構成部材を、複数個接合して構成される樹脂ライナを有するガス容器の製造方法であって、
前記複数のライナ構成部材同士の接合部分は、予備加熱されている途中でまたは予備加熱された後で、レーザを照射されることによりレーザ溶着で接合されたガス容器の製造方法。
【請求項2】
少なくとも一部が中空円筒状のライナ構成部材を、複数個接合して構成される樹脂ライナを有するガス容器の製造方法であって、
互いに接合されるべき二つのライナ構成部材の少なくとも一方を予備加熱する予備加熱工程と、
前記予備加熱工程の途中でまたは前記予備加熱工程の後で、レーザを照射することにより、接合対象となる接触状態のライナ構成部材同士をレーザ溶着で互いに接合するレーザ照射工程と、
を有するガス容器の製造方法。
【請求項3】
前記予備加熱工程は、互いに接合されるべき一方のライナ構成部材の接合部と、他方のライナ構成部材の接合部との少なくとも一方を予備加熱することで行われ、
前記レーザ照射工程は、接触状態の接合部同士をレーザ溶着で互いに接合することで行われる請求項2に記載のガス容器の製造方法。
【請求項4】
前記予備加熱工程は、接触状態の接合部同士を予備加熱することで行われる請求項3に記載のガス容器の製造方法。
【請求項5】
前記予備加熱工程は、接触状態のライナ構成部材同士の内側および外側の少なくとも一方から、接触状態の接合部同士を加熱することで行われる請求項4に記載のガス容器の製造方法。
【請求項6】
前記予備加熱工程は、熱源を有する予備加熱装置に対し、接触状態のライナ構成部材同士を相対的に回転させながら、接触状態の接合部同士を周方向に亘って予備加熱することで行われる請求項5に記載のガス容器の製造方法。
【請求項7】
前記レーザ照射工程は、レーザを照射するレーザ照射装置に対し、接触状態のライナ構成部材同士を相対的に回転させながら、接触状態の接合部同士を周方向に亘って予備加熱することで行われる請求項6に記載のガス容器の製造方法。
【請求項8】
前記予備加熱装置は、接触状態のライナ構成部材同士の回転方向において、前記レーザ照射装置の上流側に位置している請求項7に記載のガス容器の製造方法。
【請求項9】
前記予備加熱工程を実行する予備加熱装置は、ヒータ、熱風装置、高周波誘導加熱装置及びレーザ照射装置の少なくとも一つである請求項2ないし8のいずれか一項に記載のガス容器の製造方法。
【請求項10】
前記予備加熱工程に先立ち、互いに接合されるべき一方のライナ構成部材の接合部と、他方のライナ構成部材の接合部との少なくとも一方に発熱性材料を設ける工程を、更に有する請求項2ないし9のいずれか一項に記載のガス容器の製造方法。
【請求項11】
前記発熱性材料は、セラミックス、黒鉛、樹脂および金属の少なくも一つである請求項10に記載のガス容器の製造方法。
【請求項12】
前記予備加熱工程に先立ち、互いに接合されるべき一方のライナ構成部材の接合部をレーザ透過性の部材で構成すると共に、他方のライナ構成部材の接合部をレーザ吸収性の部材で構成する工程を、更に有し、
前記レーザ照射工程は、前記レーザ透過性の部材からなる接合部側からレーザを照射することで行われる請求項2ないし11のいずれか一項に記載のガス容器の製造方法。
【請求項13】
前記予備加熱工程は、ライナ構成部材の接合部の水分を測定する水分測定装置の測定結果に応じて、予備加熱することで行われる請求項2ないし12のいずれか一項に記載のガス容器の製造方法。
【請求項14】
少なくとも一部が中空円筒状のライナ構成部材を、複数個接合して構成される樹脂ライナと、
前記樹脂ライナの外周に配置された補強層と、
を有するガス容器であって、
一のライナ構成部材の接合部と他のライナ構成部材の接合部とが接合された接合部分は、
この接合部同士をレーザ溶着により互いに接合したレーザ溶着部と、
前記レーザ溶着部と一体的にまたはその近傍に設けられた発熱性材料と、
を有しているガス容器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−283968(P2006−283968A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−371931(P2005−371931)
【出願日】平成17年12月26日(2005.12.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】