説明

ガス導入機構を備えたキャンロールおよびこれを用いた長尺基板の処理装置ならびに処理方法

【課題】 真空チャンバー内へのガス漏れを抑制しつつキャンロールの外周面と長尺基板との間に形成される隙間にガスを導入する方法及び装置を提供する。
【解決手段】 冷媒循環部11と、周方向に略均等な間隔をあけて全周に亘って配設された複数のガス導入路14と、これら複数のガス導入路14の各々に真空チャンバー51外部のガスを供給するロータリージョイント20とを備え、搬送される長尺基板Fを外周面に部分的に巻き付けて冷却するキャンロール56であって、各ガス導入路14は、キャンロール56の回転軸方向に沿って外周面側に開口する複数のガス放出孔15を有しており、ロータリージョイント20は、各ガス導入路14に対して長尺基板Fを巻き付ける角度範囲内に位置しているか否かに応じて当該ガス導入路14にガスを供給するか否か制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリング等の熱負荷のかかる処理が施される長尺基板の冷却を効果的に行うべく、キャンロールの外周面とそこに巻き付けられる長尺基板との間に形成されるギャップ部にキャンロール側からガスを導入する機構を備えたキャンロール、およびそれを用いた長尺基板の処理装置ならびに処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶パネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話等には、耐熱性樹脂フィルムの上に金属膜を被覆して得られる多種類のフレキシブル配線基板が用いられている。このフレキシブル配線基板の材料には、耐熱性樹脂フィルムの片面若しくは両面に金属膜を成膜した金属膜付耐熱性樹脂フィルムが用いられており、この金属膜付耐熱性樹脂フィルムにフォトリソグラフィーやエッチング等の薄膜技術を適用することにより所定の配線パターンを有するフレキシブル配線基板を得ることができる。フレキシブル配線基板の配線パターンは近年ますます微細化、高密度化しており、従って金属膜付耐熱性樹脂フィルムは平坦でシワのないことがより一層重要になってきている。
【0003】
この種の金属膜付耐熱性樹脂フィルムの製造方法としては、従来から金属箔を接着剤により耐熱性樹脂フィルムに貼り付けて製造する方法(3層基板の製造方法)、金属箔に耐熱性樹脂溶液をコーティングした後、乾燥させて製造する方法(キャスティング法)、あるいは耐熱性樹脂フィルムに真空成膜法により、もしくは真空成膜法と湿式めっき法との組み合わせにより金属膜を成膜して製造する方法(メタライジング法)等が知られている。また、メタライジング法における真空成膜法には、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームスパッタリング法等がある。
【0004】
メタライジング法については、特許文献1に、ポリイミド絶縁層上にクロムをスパッタリングした後、銅をスパッタリングしてポリイミド絶縁層上に導体層を形成する方法が開示されている。また、特許文献2に、銅ニッケル合金をターゲットとするスパッタリングにより形成された第一の金属薄膜と、銅をターゲットとするスパッタリングにより形成された第二の金属薄膜とを、この順でポリイミドフィルム上に積層することによって得られるフレキシブル回路基板用材料が開示されている。なお、基板にポリイミドフィルムの様な耐熱性樹脂フィルムを用い、これに真空成膜を行う場合はスパッタリングウェブコータを用いることが一般的である。
【0005】
ところで、上述した真空成膜法において、一般にスパッタリング法は密着力に優れる反面、真空蒸着法に比べて耐熱性樹脂フィルムに与える熱負荷が大きいといわれている。そして、成膜の際に耐熱性樹脂フィルムに大きな熱負荷がかかると、フィルムにシワが発生し易くなることも知られている。このシワの発生を防ぐため、金属膜付耐熱性樹脂フィルムの製造装置であるスパッタリングウェブコータでは冷却機能を備えたキャンロールを搭載し、これを回転駆動してその外周面に画定される搬送経路にロールツーロールで搬送される耐熱性樹脂フィルムを巻き付けることによってスパッタリング処理中の耐熱性樹脂フィルムをその裏面側から冷却する方式が採用されている。
【0006】
例えば特許文献3には、スパッタリングウェブコータの一例である巻出巻取式(ロールツーロール方式)真空スパッタリング装置が開示されている。この巻出巻取式真空スパッタリング装置には上記キャンロールの役割を担うクーリングロールが具備されており、さらにクーリングロールの少なくともフィルム送入れ側若しくは送出し側に設けたサブロールによってフィルムをクーリングロールに密着する制御が行われている。
【0007】
しかしながら、非特許文献1に記載されているように、キャンロールの外周面はミクロ的に見て平坦ではないため、キャンロールとその外周面に密着して搬送されるフィルムとの間には真空空間を介して離間するギャップ部(間隙)が存在している。このため、スパッタリングや蒸着の際に生じるフィルムの熱は、実際にはフィルムからキャンロールに効率よく伝熱されているとはいえず、これがフィルムのシワ発生の原因となっていた。この問題を解決するため、上記キャンロール外周面とフィルムとの間のギャップ部にキャンロール側からガスを導入して、当該ギャップ部の熱伝導率を真空に比べて高くする技術が提案されている。
【0008】
例えば特許文献4には、上記ギャップ部にキャンロール側からガスを導入する具体的な方法として、キャンロールの外周面にガスの放出口となる多数の微細な孔を設ける技術が開示されている。また、特許文献5には、キャンロールの外周面にガスの放出口となる溝を設ける技術が開示されている。さらに、キャンロール自体を多孔質体で構成し、その多孔質体自身の微細孔をガス放出口とする方法も知られている。
【0009】
しかし、これらいずれにおいても、キャンロールの外周面においてフィルムが巻き付けられていない領域はフィルムが巻き付けられている領域に比べて、ガス放出口での抵抗が低くなるため、キャンロールに供給されるガスが容易にこのフィルムの巻き付けられていない領域のガス放出口を経て真空チャンバーの空間に放出されてしまう。その結果、キャンロールの外周面とそこに巻き付けられているフィルムとの間のギャップ部に本来導入されるべき量のガスが供給されず、よって熱伝導率を高める効果が得られなくなることがあった。
【0010】
この問題に対しては、キャンロールの外周面から出没するバルブをガス放出口に設け、このバルブをフィルム面で押さえつけることによってガス放出口を開放する方法(特許文献5)や、キャンロールの外周面のうちフィルムを送り出してから送り入れるまでに該当するフィルムの巻き付けられない領域にカバーを取り付けて、この領域からチャンバーにガスが放出されるのを防止してキャンロール外周面とフィルム表面とのギャップ部に良好にガスを導入する方法(特許文献6)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平2−98994号公報
【特許文献2】特許第3447070号公報
【特許文献3】特開昭62−247073号公報
【特許文献4】国際公開第2005/001157号パンフレット
【特許文献5】米国特許第3414048号明細書
【特許文献6】国際公開第2002/070778号パンフレット
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】"Vacuum Heat Transfer Models for Web Substrates: Review of Theory and Experimental Heat Transfer Data," 2000 Society of Vacuum Coaters, 43rd. Annual Technical Conference Proceeding, Denver, April 15-20, 2000, p.335
【非特許文献2】"Improvement of Web Condition by the Deposition Drum Design," 2000 Society of Vacuum Coaters, 50th. Annual Technical Conference Proceeding (2007), p.749
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献5に示すようなフィルム面でバルブを押さえつけてガス放出口を開放させる方法は、バルブの接触によりフィルム面に僅かなキズや凹みを生じさせるおそれがあり、高い品質が要求される電子機器のフレキシブル配線基板の製造に採用することは難しかった。また。特許文献6に示すようなカバーを用いてフィルムが巻き付けられない領域のガス放出口を封鎖する方法は、高い真空度で成膜処理を行う処理装置ではカバーとキャンロール外周面との隙間からのガス漏れを防ぐことができなかった。
【0014】
本発明はこのような従来の問題点に着目してなされたものであり、その課題とするところは、ロールツーロールで搬送される長尺基板(フィルム)を、キャンロールの外周面に部分的に巻き付けて冷却しながら当該長尺基板にスパッタリング成膜などの熱負荷の掛かる処理を施す場合において、キャンロール外周面のうちのフィルムが巻き付けられない領域からの真空チャンバー内へのガス漏れを抑制しつつキャンロールの外周面と長尺基板との間に形成されるギャップ部(隙間)に良好にガスを導入することが可能な装置および方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明者は、減圧下にある真空チャンバー内においてロールツーロールで長尺基板を搬送し、内部に冷媒が循環するキャンロールの外周面に部分的に長尺基板を巻き付けて冷却しながら当該長尺基板に熱負荷の掛かる処理を施す装置において、熱伝導率を向上させて熱負荷による長尺基板のシワ発生を確実に低減させるべくキャンロール外周面とそこに巻き付けられる長尺基板との間に形成されるギャップ部にキャンロール側からガスを導入するガス導入機構を備えたキャンロールについて鋭意研究を重ねた結果、複数のガス導入路をキャンロールの全周に周方向に略均等な間隔をあけて配設し、各ガス導入管に外周面側に開口する複数のガス放出孔を均等な間隔をあけて設けるとともに、キャンロールに対して同心軸状に設けたロータリージョイントを利用して各ガス導入路へのガスの供給を制御することにより、キャンロール外周面のうちの長尺基板が巻き付いていない領域からのガスの放出を抑えて効果的にギャップ部にガスを導入し得ることを見出し本発明に至った。
【0016】
すなわち、本発明が提供するキャンロールは、冷媒が循環する冷媒循環部と、周方向に略均等な間隔をあけて全周に亘って配設された複数のガス導入路と、これら複数のガス導入路の各々に真空チャンバー外部のガスを供給するロータリージョイントとを備え、真空チャンバー内においてロールツーロールで搬送される長尺基板を外周面に部分的に巻き付けて冷却するキャンロールであって、前記複数のガス導入路の各々は、キャンロールの回転軸方向に沿って略均等な間隔をあけて外周面側に開口する複数のガス放出孔を有しており、前記ロータリージョイントは、各ガス導入路に対して長尺基板を巻き付ける範囲内に位置しているか否かに応じて当該ガス導入路にガスを供給するか否か制御することを特徴としている。
【0017】
また、本発明が提供する長尺基板の処理装置は、真空チャンバーと、該真空チャンバー内においてロールツーロールで長尺基板を搬送する搬送機構と、長尺基板に対して熱負荷の掛かる処理を施す処理手段と、周方向に略均等な間隔をあけて全周に亘って配設された複数のガス導入路及びそれら複数のガス導入路の各々に真空チャンバー外部のガスを供給するロータリージョイントを有し、循環する冷媒で冷却された外周面に長尺基板を部分的に巻き付けて冷却するキャンロールとを備えた長尺基板処理装置であって、前記複数のガス導入路の各々はキャンロールの回転軸方向に沿って略均等な間隔をあけて外周面側に開口する複数のガス放出孔を有しており、前記ロータリージョイントは、長尺基板を巻き付ける角度範囲内に位置しているガス導入路にはガスを供給し、長尺基板を巻き付ける角度範囲外に位置しているガス導入路にはガスを供給しない構造を有していることを特徴としている。
【0018】
さらに、本発明が提供する長尺基板の処理方法は、真空チャンバー内においてロールツーロールで搬送される長尺基板を、循環する冷媒で冷却したキャンロールの外周面に部分的に巻き付けるとともに、キャンロールの回転軸方向に略均等な間隔をあけて外周面に開口する複数のガス放出孔から外周面と長尺基板との間にガスを導入して長尺基板を冷却し、同時に長尺基板の表面に熱負荷の掛かる処理を行う長尺基板の処理方法であって、前記複数のガス放出孔に連通している周方向に略均等な間隔をあけて全周に亘って配設された複数のガス導入路の各々には、ロータリージョイントを介して真空チャンバーの外部のガスを供給し、このロータリージョイントによって、各ガス導入路に対して長尺基板を巻き付ける角度範囲内に位置しているか否かに応じて当該ガス導入路にガスを供給するか否か制御させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、真空チャンバー内へのガスのリークなどの問題を生じることなく、キャンロール外周面のうちの長尺基板が巻き付けられている領域だけに確実にガスを導入させることができる。よって、真空チャンバー内の圧力制御を正確に行うことが可能となる。また、ガス導入部分のガス圧力を安定させることができ、常に一定量のガスをキャンロールの外周面とそこに巻き付けられる長尺基板との間のギャップ部に導入することができる。その結果、効率よく長尺基板の冷却を行うことができ、シワのない高品質の金属膜付耐熱性樹脂フィルムを高い歩留まりで作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のキャンロールが好適に使用されるロールツーロール方式の長尺基板処理装置の一具体例を示す模式図である。
【図2】本発明に係るキャンロールの一具体例を示す斜視図である。
【図3】図2に示すキャンロールをその回転中心軸を含む面で切断したときの切断図である。
【図4】図2に示すキャンロールの平面図である。
【図5】図2に示すキャンロールが具備するロータリージョイントの分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明のキャンロールおよびこれを搭載した長尺基板処理装置の一具体例について図面を参照しながら詳細に説明する。先ず、図1を参照しながら、長尺基板処理装置の一例である長尺基板真空成膜装置について説明する。なお、長尺基板には、一例として長尺耐熱性樹脂フィルムを用いる場合について説明する。また、長尺基板に対して施される熱負荷の掛かる処理として、スパッタリング処理を例にとって説明する。この図1に示す長尺耐熱性樹脂フィルムの成膜装置50はスパッタリングウェブコータと称される装置であり、ロールツーロール方式で搬送される長尺状耐熱樹脂フィルムの表面に連続的に効率よく成膜処理を施す場合に好適に用いられる。
【0022】
具体的に説明すると、ロールツーロール方式で搬送される長尺耐熱性樹脂フィルムの成膜装置(スパッタリングウェブコータ)50は、真空チャンバー51内に設けられており、巻き出しロール52から巻き出された長尺耐熱性樹脂フィルムFに対して所定の成膜処理を行った後、巻き取りロール64で巻き取るようになっている。これら巻き出しロール52から巻き取りロール64までの搬送経路の途中に、モータで回転駆動されるキャンロール56が配置されている。このキャンロール56の内部には、真空チャンバー51の外部で温調された冷媒が循環している。このキャンロール56の構造については後に詳細に説明する。
【0023】
真空チャンバー51内では、スパッタリング成膜のため、到達圧力10−4Pa程度までの減圧と、その後のスパッタリングガスの導入による0.1〜10Pa程度の圧力調整が行われる。スパッタリングガスにはアルゴンなど公知のガスが使用され、目的に応じてさらに酸素などのガスが添加される。真空チャンバー51の形状や材質は、このような減圧状態に耐え得るものであれば特に限定はなく、種々のものを使用することができる。上記したように真空チャンバー51内を減圧してその状態を維持するため、真空チャンバー51には図示しないドライポンプ、ターボ分子ポンプ、クライオコイル等の種々の装置が具備されている。
【0024】
巻き出しロール52からキャンロール56までの搬送経路には、長尺耐熱性樹脂フィルムFを案内するフリーロール53と、長尺耐熱性樹脂フィルムFの張力の測定を行う張力センサロール54とがこの順で配置されている。また、張力センサロール54から送り出されてキャンロール56に向かう長尺耐熱性樹脂フィルムFは、キャンロール56の近傍に設けられたモータ駆動のフィードロール55によって、キャンロール56の周速度に対する調整が行われる。これによりキャンロール56の外周面に長尺耐熱性樹脂フィルムFを密着させることができる。
【0025】
キャンロール56から巻き取りロール64までの搬送経路も、上記同様に、キャンロール56の周速度に対する調整を行うモータ駆動のフィードロール61、長尺耐熱性樹脂フィルムFの張力の測定を行う張力センサロール62、および長尺耐熱性樹脂フィルムFを案内するフリーロール63がこの順に配置されている。
【0026】
上記巻き出しロール52及び巻き取りロール64では、パウダークラッチ等によるトルク制御によって長尺耐熱性樹脂フィルムFの張力バランスが保たれている。また、キャンロール56の回転とこれに連動して回転するモータ駆動のフィードロール55、61により、巻き出しロール52から長尺耐熱性樹脂フィルムFが巻き出されて巻き取りロール64に巻き取られるようになっている。
【0027】
キャンロール56の近傍には、キャンロール56の外周面で画定される搬送経路(すなわち、図1の角度Aの範囲に該当する、キャンロール56の外周面のうちの長尺耐熱性樹脂フィルムFを巻き付ける領域)に対向する位置に、成膜手段としてのマグネトロンスパッタリングカソード57、58、59および60が設けられている。なお、上記した角度範囲Aのことを長尺耐熱性樹脂フィルムFの抱き角と称することもある。
【0028】
金属膜のスパッタリング成膜の場合は、図1に示すように板状のターゲットを使用することができるが、板状ターゲットを用いた場合、ターゲット上にノジュール(異物の成長)が発生することがある。これが問題になる場合は、ノジュールの発生がなく、ターゲットの使用効率も高い円筒形のロータリーターゲットを使用することが好ましい。
【0029】
また、この図1の長尺耐熱性樹脂フィルムFの成膜装置50は、熱負荷の掛かる処理としてスパッタリング処理を想定したものであるため、マグネトロンスパッタリングカソードが図示されているが、熱負荷の掛かる処理がCVD(化学蒸着)や蒸着処理などの他のものである場合は、板状ターゲットに代えて他の真空成膜手段が設けられる。
【0030】
次に、本発明に係るガス導入機構付キャンロールの一具体例について図2及び図3を参照しながら説明する。この図2及び図3に示すキャンロール56は、図示しない駆動装置により回転中心軸を中心として回転駆動される円筒部材10で構成されている。この円筒部材10の外表面に長尺耐熱性樹脂フィルムFを巻き付けながら搬送する搬送経路が画定される。円筒部材10の内表面側には、冷却水などの冷媒が流通する冷媒循環部11が例えばジャケット構造で形成されている。
【0031】
円筒部材10の回転中心軸部分に位置する回転軸12は二重配管構造になっており、この回転軸12を介して真空チャンバー51の外部に設けられた図示しない冷媒冷却装置と冷媒循環部11との間で冷媒が循環するようになっており、これによりキャンロール外周面の温度調節が可能となっている。
【0032】
すなわち、冷媒冷却装置で冷却された冷媒は、内側配管12aの内側を経て冷媒循環部11に送られ、ここで長尺耐熱性樹脂フィルムFの熱を受け取って昇温した後、内側配管12aと外側配管12bとの間の空間を経て再び冷媒冷却装置に戻される。なお、外側配管12bの外側には回転するキャンロール56を支持するベアリング13が設けられている。
【0033】
このキャンロール56の円筒部材10には、周方向に略均等な間隔をあけて全周に亘って複数のガス導入路14が配設されている。これら複数のガス導入路14の各々は、キャンロール56の回転中心線56a方向に沿って延在するように円筒部材10の肉厚部内に穿設されている。なお、図2には、12本のガス導入路14が均等な間隔をあけて全周に亘って配設されている例が示されている。
【0034】
各ガス導入路14は、円筒部材10の外表面側(すなわち、キャンロール56の外周面側)に開口する複数のガス放出孔15を有している。これら複数のガス放出孔15は、キャンロール56の回転中心線56a方向に沿って略均等な間隔をあけて穿設されている。各ガス導入路14は後述するロータリージョイントを介して真空チャンバー51の外部からガスが供給されるようになっており、これによりキャンロール56の外周面とそこに巻き付けられる長尺耐熱性樹脂フィルムFとの間に形成されるギャップ部(間隙)にガスを導入することが可能となる。
【0035】
図2では、一例としてキャンロール56の回転中心線に沿って配設された10個のガス放出孔15が示されている。各ガス放出孔15の内径は、キャンロール56の外周面とそこに巻き付けられる長尺耐熱性樹脂フィルムFとの間に形成されるギャップ部(隙間)に良好にガスを導入できる大きさであれば特に限定されず、例えば内径30μm〜1000μm程度にすることができる。また、これらガス導入路14の本数や、各ガス導入路14が有するガス放出孔15の個数は、キャンロール56の外周面で画定される領域のうちの長尺耐熱性樹脂フィルムFが巻き付けられる領域の面積、ガスの放出量、排気ポンプの能力等により適宜定められる。
【0036】
一般的には、キャンロール外周面の搬送経路部分に、全体に亘ってできるだけ極小の内径のガス放出孔15を狭ピッチにして多数設けた方が熱伝導性を均一化できるという点において好ましい。しかしながら、極小内径の孔を狭ピッチで多数設ける加工技術は困難を伴うので、内径150〜500μm程度の小孔を5〜10mmピッチでキャンロール56の外周面に設けるのが現実的である。
【0037】
これら複数のガス導入路14は、ロータリージョイント20を介して真空チャンバー51の外部からガスが供給されるようになっており、特にロータリージョイント20はキャンロール56の回転によって回転するガス導入路14に対して、長尺耐熱性樹脂フィルムFをキャンロール56の外周面に巻き付ける角度範囲内(すなわち、図1の角度Aの範囲内であって、具体的には、フィードロール55から送られてきた長尺耐熱性樹脂フィルムFがキャンロール56の外周面に接触し始める角度位置から、キャンロール56に巻き付いている長尺耐熱性樹脂フィルムFがフィードロール61に送り出されるために離れる角度位置までの範囲に該当する)に位置しているガス導入路14にはガスの供給を行い、長尺耐熱性樹脂フィルムFが当該外周面に巻き付けられない領域(すなわち、図1の角度Bの範囲内)に位置しているガス導入路14にはガスの供給を行わないように制御できる構造になっている。
【0038】
これにより、長尺耐熱性樹脂フィルムFが巻き付いていないことにより抵抗が低くなっている角度Bの領域から真空チャンバー51内にガスが漏れることを防ぐことができると共に、キャンロール56の外周面と長尺耐熱性樹脂フィルムFによって形成される隙間に良好にガスを導入することができる。その結果、長尺耐熱性樹脂フィルムFとキャンロール56の外周面によって形成される隙間における熱伝導効率を向上させることができ、長尺耐熱性樹脂フィルムFを効果的に冷却することが可能となる。
【0039】
次に、図4及び図5をも参照しながらかかるロータリージョイント20について詳細に説明する。ロータリージョイント20は、前述したようにキャンロール56の回転によって回転する複数のガス導入路14の各々に対して、図1の角度Aの範囲内に位置している時は真空チャンバー51の外部から供給されるガスを供給し、図1の角度Bの範囲内に位置している時は真空チャンバー51の外部から供給されるガスを供給しないように制御することができる。
【0040】
この構造を具体的に説明すると、ロータリージョイント20は1対の回転リングユニット21と固定リングユニット22とから構成されている。回転リングユニット21は、キャンロール51を構成する円筒部材10に取り付けられており、キャンロール56と共に回転するようになっている。一方、固定リングユニット22は、真空チャンバー51の外部から供給されるガスの供給配管26に接続されており、且つ支持部材等で動かないように支持されている。
【0041】
これら回転リングユニット21及び固定リングユニット22は、互いに対向する部分にそれぞれ摺接面21a、22aを有しており、回転リングユニット21がキャンロール56と共に回転する際、これら摺接面21a、22a同士で摺接(摺動)するようになっている。
【0042】
回転リングユニット21には、ガス導入路14の本数と同じ本数のガス供給路23が周方向に均等な間隔をあけて全周に亘って形成されている。これら複数のガス供給路23の各々は、回転リングユニット21の内部で放射状に及び/又は回転リングユニット21の回転軸方向に平行に形成されており、その一端部が当該ガス供給路23と略同じ角度位置にあるガス導入路14に連結配管25を介して連通している。そして、このガス導入路14と接続する一端部とは反対側の他端部は、回転リングユニット21の摺接面21aで開口している。
【0043】
つまり、各ガス供給路23が回転リングユニット21の摺接面21aで開口している開口部(以降、この開口部を回転開口部23aと称する)の角度位置は、当該ガス供給路23が連通しているガス導入路14の角度位置と略同じ位置関係にある。なお、連結配管25を介さずにガス供給路23とガス導入路14とを直接連通させてもよい。
【0044】
一方、固定リングユニット22には1つのガス分配路24が形成されており、このガス分配路24は真空チャンバー51外部から供給されるガスの供給配管26に一端部が連通している。この供給配管26と接続する一端部とは反対側の他端部は、固定リングユニット22の摺接面22aで開口している。このガス分配路24が固定リングユニット22の摺接面22aで開口している開口部(以降、この開口部を固定開口部24aと称する)は、長尺耐熱性樹脂フィルムFを巻き付ける角度範囲内に位置しているガス導入路14に連通するガス供給路23の回転開口部23aには対向し、長尺耐熱性樹脂フィルムFを巻き付ける角度範囲内に位置していないガス導入路14に連通するガス供給路23の回転開口部23aには対向しないように形成されている。
【0045】
つまり、固定開口部24aは、回転開口部23aが対向しうる固定リングユニット22の摺接面22a上の領域のうち、長尺耐熱性樹脂フィルムFを巻き付ける角度範囲内(すなわち、図1の角度Aの範囲内)で開口している。よって、このガス分配路24の固定開口部24aの形状は、摺接面22aに垂直な方向から見たとき、ドーナツ状ではなく略C字状となる。
【0046】
なお、上記した本発明の一具体例のキャンロール56が具備するロータリージョイント20は、回転リングユニット21及び固定リングユニット22の形状が中心軸方向から見てほぼ同一であり、それらの摺接面21a、22aは中心軸に対して垂直に形成されていたが、長尺耐熱性樹脂フィルムFが巻き付いていない領域からのガスの放出を抑えて効果的にギャップ部にガスを導入し得るものであればかかる形状に限定されるものではない。
【0047】
例えば、回転リングユニット21の内径と固定リングユニット22の外径とをほぼ同じ大きさにして回転リングユニット21の内側に固定リングユニット22が嵌めこまれるようにしてもよい。この場合は、回転リングユニット21の内周部と固定リングユニット22の外周部とが互いに摺接(摺動)する摺接面となり、ここに各開口部が設けられることになる。なお、ロータリージョイント20の摺動部分からのガスのリークを防ぐため、公知のガスシール手段を設けることが好ましい。
【0048】
以上説明した構成により、キャンロール56の回転によって各ガス導入路14は図1の角度Aの範囲内と角度Bの範囲内とに交互に位置することになり、角度Aの範囲内に位置する時は、当該ガス導入路14が連通する回転リングユニット21内に設けられたガス供給路23の摺接面21aにおける回転開口部23aと、固定リングユニット22内に設けられたガス分配路24の摺接面22aにおける固定開口部24aとが対向するので当該ガス供給路23とガス分配路24とが連通し、よって真空チャンバー51の外部から供給されるガスは、これら供給配管26、ガス分配路24、ガス供給路23、連絡配管25、及びガス導入路14を経てガス放出孔15から放出される。
【0049】
この角度Aの範囲は、キャンロール56の外周面に長尺耐熱性樹脂フィルムFが巻き付けられる領域なので、キャンロール56の外周面と長尺耐熱性樹脂フィルムFとによって形成される隙間にガスが導入される。その結果、この隙間の熱伝導率が向上して長尺耐熱性樹脂フィルムFの熱を効率よくキャンロール56の外周面に伝熱することが可能となる。なお、ガス分配路24の固定開口部24aの形状を変更することにより、キャンロール56外周面上のガスを放出しない領域を適宜設定することが可能となる。
【0050】
一方、ガス導入路14が角度Bの範囲内に位置する時は、当該ガス導入路14が連通する回転リングユニット21内に設けられたガス供給路23の摺接面21aにおける回転開口部23aは、固定リングユニット22の摺接面22aのうちガス分配路24の固定開口部24aが設けられていない部分に対向することになる。すなわち、供給路23とガス分配路24とは互いに切り離された状態となり、真空チャンバー51の外部から供給されるガスは、このガス供給路23には供給されなくなる。その結果、この角度Bの範囲内に位置するガス導入路14に連通するガス放出孔15からはガスが放出されない。
【0051】
この角度Bの範囲は、キャンロール56の外周面に長尺耐熱性樹脂フィルムFが巻き付けられない領域であるが、前述したように、この角度Bに範囲内に位置しているガス導入路14へはガスの供給が遮断されているので、この領域のガス放出孔15からガスが真空チャンバー51に放出されることはない。よって、真空チャンバー51内の圧力制御への悪影響を抑えることができるとともに、導入ガスのガス圧を所定の圧力に安定的に維持することが可能となる。
【0052】
このように、本発明のキャンロールの構造によれば、真空チャンバー内へのガスのリークなどの問題を生じることなく、キャンロールの外周面のうちの長尺基板が巻き付けられない領域でのガスの導入を確実に停止することができる。また、ガス導入を停止する際に電磁バルブや圧空バルブを使用しないので、回転するキャンロール56の内部に複雑な配線や配管を設ける必要がなく、複雑な制御装置も不要となる。すなわち、製作、運用およびメンテナンス性に優れている。
【0053】
ところで、上記した本発明の一具体例のロータリージョイント20では、ガス放出路14の数とガス供給路23の数を一致させてキャンロール56の周方向において同じ角度位置でそれぞれ連通させる場合について説明したが、スペースや配管の関係で、複数本のガス放出路14に対して1つのガス供給路23を連通させることが望ましい場合がある。この場合は、例えば互いに隣接する複数のガス導入路14に連結する1つの分岐管を設け、この分岐管をガス供給路23に接続すればよい。あるいは、回転リングユニット21内において1本のガス供給路23を複数のガス供給路23に分岐させてもよい。
【0054】
分岐管を使用する場合は、キャンロール56の外周面のうちの長尺耐熱性樹脂フィルムFが巻き付けられない領域に同時に存在するガス導入路14の本数を各分岐管によって分岐する配管の本数に一致させることが好ましい。例えば、図2に示すキャンロール56では、3本のガス導入路14が、長尺耐熱性樹脂フィルムFが巻き付けられない領域(すなわち、図1の角度Bの範囲内)に同時に存在しているので、各分岐管は3本に分岐する構造を有しているのが好ましい。但し、ガスの導入をよりきめ細かく制御することが望まれる場合は、長尺耐熱性樹脂フィルムFが巻き付けられていない領域に同時に存在するガス導入路14の本数を2もしくは3以上の整数で等分した数に各分岐管によって分岐される配管の本数を一致させることがより好ましい。
【0055】
なお、非特許文献2によれば、導入ガスがアルゴンガスの場合、導入ガス圧力が500Paでギャップ間距離が約40μm以下の時、ギャップ間の熱伝導率は250(W/m・K)となる。本発明の長尺基板の処理装置においても、同様の導入ガス圧力条件を想定した場合、キャンロール56の外周面と長尺耐熱性樹脂フィルムFとの間に形成されるギャップ部の距離は40μmになると考えられるが、この程度のギャップ部の距離であれば、そこからリークするガス量は、長尺基板真空成膜装置が通常備える真空ポンプで排気可能である。
【0056】
さらに、導入ガスをスパッタリング雰囲気のガスと同じものにしておけば、スパッタリング雰囲気を汚染することもない。また、上述の通り、キャンロール56の外周面のうち長尺基板が巻き付けられない領域ではガス導入路14へガスを供給する前にガス供給を遮断するので、ガス漏れのリスクを減らすことができる。
【0057】
以上、長尺基板として耐熱性樹脂フィルムを例にとって本発明の一具体例の長尺基板処理装置の説明を行ったが、本発明の長尺基板処理装置で使用する長尺基板には、他の樹脂フィルムはもちろんのこと、金属箔や金属ストリップなどの金属フィルムを用いることができる。樹脂フィルムの例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムのような比較的耐熱性に劣る樹脂フィルムやポリイミドフィルムのような耐熱性樹脂フィルムを挙げることができる。
【0058】
金属膜付耐熱性樹脂フィルムを作製する場合は、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリテトラフルオロエチレン系フィルム、ポリフェニレンサルファイド系フィルム、ポリエチレンナフタレート系フィルムまたは液晶ポリマー系フィルムから選ばれる耐熱性樹脂フィルムが好適に用いられる。なぜなら、これらを用いて得られる金属膜付耐熱性樹脂フィルムは、金属膜付フレキシブル基板に要求される柔軟性、実用上必要な強度、配線材料として好適な電気絶縁性に優れているからである。
【0059】
金属膜付耐熱性樹脂フィルムの製造は、上述したような長尺基板真空成膜装置に長尺基板として上記の耐熱性樹脂フィルムを用い、その表面に金属膜をスパッタリング成膜すれば得られる。例えば、上述したような成膜装置(スパッタリングウェブコータ)50を用いて耐熱性樹脂フィルムをメタライジング法で処理することにより耐熱性樹脂フィルムの表面にNi系合金等から成る膜とCu膜とが積層された構造体を有する金属膜付長尺耐熱性樹脂フィルムを得ることができる。
【0060】
このような構造体を有する金属膜付耐熱性樹脂フィルムは成膜処理後は別工程に送られ、そこでサブトラクティブ法により所定の配線パターンを有するフレキシブル配線基板に加工される。ここで、サブトラクティブ法とは、レジストで覆われていない金属膜(例えば、上記Cu膜)をエッチングにより除去してフレキシブル配線基板を製造する方法のことである。
【0061】
上記したNi系合金等から成る膜はシード層と呼ばれ、金属膜付耐熱性樹脂フィルムに必要とされる電気絶縁性や耐マイグレーション性等の特性により適宜その組成が選択されるが、一般的にはNi−Cr合金、インコネル、コンスタンタン、モネル等の公知の合金で形成される。なお、金属膜付長尺耐熱性樹脂フィルムの金属膜(Cu膜)をより厚くしたい場合は、湿式めっき法を用いることがある。この場合は、電気めっき処理のみで金属膜を形成する方法か、あるいは一次めっきとしての無電解めっき処理と、二次めっきとしての電解めっき処理等の湿式めっき処理とを組み合わせて行う方法で処理される。この湿式めっき処理には、一般的な湿式めっき条件を採用することができる。
【0062】
上記本発明の具体例では、金属膜付耐熱性樹脂フィルムとして長尺耐熱性樹脂フィルムにNi-Cr合金やCu等の金属膜を積層した構造体を例にとって説明したが、上記金属膜のほか、目的に応じて酸化物膜、窒化物膜、炭化物膜等の成膜に本発明の成膜方法を用いることもできる。
【0063】
また、上記本発明の具体例では、長尺基板真空成膜装置に関して説明してきたが、本発明の長尺基板処理装置には、減圧雰囲気下の真空チャンバー内で長尺基板にスパッタリング等の真空成膜を施す処理以外に、プラズマ処理やイオンビーム処理等の熱負荷の掛かる処理も含まれる。これらプラズマ処理やイオンビーム処理により長尺基板の表面が改質されるが、その際、長尺基板に熱負荷が掛かる。このような場合においても、本発明のキャンロール及びこれを用いた長尺基板の成膜装置を用いることが効果的であり、これにより処理雰囲気に多量の導入ガスをリークさせることなく熱負荷による長尺基板のシワ発生を抑制することができる。
【0064】
ここでプラズマ処理とは、公知のプラズマ処理方法、例えばアルゴンと酸素の混合ガスまたはアルゴンと窒素の混合ガスによる減圧雰囲気下において放電を行うことにより、酸素プラズマまたは窒素プラズマを発生させて長尺基板を処理する方法のことである。また、イオンビーム処理とは、強い磁場を印加した磁場ギャップでプラズマ放電を発生させて、プラズマ中の陽イオンを陽極による電解でイオンビームとして目的物(長尺基板)へ照射する処理である。このイオンビーム処理には、公知のイオンビーム源を用いることができる。なお、これらプラズマ処理やイオンビーム処理は、ともに減圧雰囲気下で行われる。
【実施例】
【0065】
図1に示す成膜装置(スパッタリングウェブコータ)50を用いて金属膜付長尺耐熱性樹脂フィルムを作製した。長尺の耐熱性樹脂フィルム(以下、フィルムFと称する)には、幅500mm、長さ800m、厚さ25μmの宇部興産株式会社製の耐熱性ポリイミドフィルム「ユーピレックス(登録商標)」を使用した。
【0066】
キャンロール56には、図2に示すようなジャケットロール構造のガス導入機構付きキャンロールを使用した。このキャンロール56の円筒部材10には、直径900mm、幅750mmのアルミ製のものを使用し、その外周面にハードクロムめっきを施した。この円筒部材10の肉厚部内に、キャンロール56の回転軸方向に平行に延在する内径4mmのガス導入路14を周方向に均等な間隔をあけて全周に亘って360本穿設した。なお、ガス導入路14の両端のうち先端側は有底にして円筒部材10を貫通しないようにした。
【0067】
各ガス導入路14には、円筒部材10の外表面側(すなわちキャンロール56の外周面側)に開口する内径0.2mmのガス放出孔15を47個設けた。これら47個のガス放出孔15は、円筒部材10の外表面に画定されるフィルムFの搬送経路の両端部からそれぞれ20mm内側の線の間の領域に、フィルムFの進行方向に対して直交する方向において10mmのピッチで配設した。つまり、キャンロール56の外周面のうち両端部からそれぞれ145mmまでの領域にはガス放出孔15を設けなかった。
【0068】
上記したように、円筒部材10には360本のガス導入路14が全周に亘って周方向に均等に配設されているが、これら360本のガス導入路を直接ガスロータリージョイント20に接続するのは困難なため、ガス導入管14の10本を分岐管に接続した後、回転リングユニット21のガス供給路23端部に接続した。すなわち、ロータリージョイント20の回転リングユニット21には、ガス供給路23を36本形成した。
【0069】
フィルムFに成膜する金属膜としては、シード層であるNi−Cr膜の上にCu膜を成膜するものとし、そのため、マグネトロンスパッタターゲット57にはNi−Crターゲットを用い、マグネトロンスパッタターゲット58、59、60にはCuターゲットを用いた。巻き出しロール52と巻き取りロール64の張力は80Nとした。キャンロール56は水冷により20℃に制御しているが、フィルムFとキャンロール56との熱伝導効率が良好でないと冷却効果は期待できない。
【0070】
この成膜装置50の巻き出しロール52側に、巻回されたフィルムFをセットし、その一端をキャンロール56を経由させて巻き取りロール64に取り付けた。この状態で、真空チャンバー51内の空気を複数台のドライポンプを用いて5Paまで排気した後、更に、複数台のターボ分子ポンプとクライオコイルを用いて3×10−3Paまで排気した。
【0071】
次に回転駆動装置を起動してフィルムFを搬送速度3m/分で搬送させながら、アルゴンガスを300sccmで導入するとともにマグネトロンスパッタカソード57、58、59、60に10kWの電力を印加して電力制御した。更にキャンロール56には1000sccmでアルゴンガスを導入した。このようにしてロールツーロールで搬送されるフィルムFに対してその片面にNi−Cr膜からなるシード層及びその上に成膜されるCu膜を連続して成膜する処理を開始した。
【0072】
この処理を行っている際、成膜中におけるキャンロール56上のフィルムF表面の観察が可能な観察窓から、ガス導入が行われているキャンロール56上のフィルムF表面を観察したところ、マグネトロンスパッタリングカソード57、58、59、60の成膜ゾーンを通過した成膜直後のフィルムFに表れやすい、シワの原因となる進行方向と平行な方向のキャンロール56外周面からのフィルムFの浮きが見られることは無かった。
【0073】
次に、上記成膜処理を開始してからのフィルムFの処理長さが300mになった時点で、キャンロール56へのガス供給のみ停止し、その状態で更にフィルムFを長さ300m処理した。この処理を行っている際も、上記と同様にキャンロール56上のフィルムF表面の観察が可能な観察窓からキャンロール56上のフィルムFを観察したところ、マグネトロンスパッタリングカソード57、58、59、60の成膜ゾーンを通過した成膜直後のフィルムFに、シワの原因となる進行方向と平行な方向のキャンロール56外周面からのフィルムFの浮きが見られることがあった。
【0074】
成膜処理を開始してからのフィルムFの処理長さが合計600mになった時点で、各マグネトロンスパッタカソードへの電力供給を停止し、それぞれのガス導入も停止した。最後に、フィルムFの搬送を停止するとともに各ポンプの運転を停止してから大気ベントを開放し、巻き出しロール52からフィルムFの終端部を外して全てのフィルムFを巻き取りロール64に巻き取ってから取り外した。
【0075】
この取り外されたフィルムFを大気中にて展開してシワの有無を確認したところ、キャンロール56へのガス導入を行った0〜300mまでの間にシワは見つからなかったが、キャンロール56へのガス導入を行わなかった300〜600mまでの間に若干のシワが見つかった。
【符号の説明】
【0076】
10 円筒部材
11 冷媒循環部
12 回転軸
13 ベアリング
14 ガス導入路
15 ガス放出孔
20 ロータリージョイント
21 回転リングユニット
22 固定リングユニット
23 ガス供給路
24 ガス分配路
25 連結配管
26 供給配管
50 成膜装置(スパッタリングウェブコータ)
51 真空チャンバー
52 巻き出しロール
53、63 フリーロール
54、62 張力センサロール
55、61 フィードロール
56 キャンロール
57、58、59、60 マグネトロンスパッタリングカソード
64 巻き取りロール
F 長尺耐熱性樹脂フィルム(長尺基板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒が循環する冷媒循環部と、周方向に略均等な間隔をあけて全周に亘って配設された複数のガス導入路と、これら複数のガス導入路の各々に真空チャンバー外部のガスを供給するロータリージョイントとを備え、真空チャンバー内においてロールツーロールで搬送される長尺基板を外周面に部分的に巻き付けて冷却するキャンロールであって、
前記複数のガス導入路の各々は、キャンロールの回転軸方向に沿って略均等な間隔をあけて外周面側に開口する複数のガス放出孔を有しており、前記ロータリージョイントは、各ガス導入路に対して長尺基板を巻き付ける角度範囲内に位置しているか否かに応じて当該ガス導入路にガスを供給するか否か制御することを特徴とするキャンロール。
【請求項2】
前記ロータリージョイントは、前記キャンロールと同心軸状であって、それぞれの摺接面で互いに摺接する回転リングユニットと固定リングユニットとからなり、回転リングユニットは前記複数のガス導入路にそれぞれ連通する複数のガス供給路を有し、これら複数のガス供給路の各々は連通するガス導入路のキャンロール外周面上の角度位置と略同じ角度位置で開口する回転開口部を回転リングユニットの摺接面に有しており、固定リングユニットは前記真空チャンバー外部のガスの供給配管に連通するとともに固定リングユニットの摺接面で開口する固定開口部を有するガス分配路を有し、該固定開口部は、回転開口部が対向する固定リングユニットの摺接面上の領域のうち前記長尺基板を巻き付ける角度範囲内で開口していることを特徴とする、請求項1に記載のキャンロール。
【請求項3】
前記ガス分配路の固定開口部は、前記固定リングユニットの摺接面に略C字状に開口していることを特徴とする請求項2に記載のキャンロール。
【請求項4】
真空チャンバーと、該真空チャンバー内においてロールツーロールで長尺基板を搬送する搬送機構と、長尺基板に対して熱負荷の掛かる処理を施す処理手段と、周方向に略均等な間隔をあけて全周に亘って配設された複数のガス導入路及びそれら複数のガス導入路の各々に真空チャンバー外部のガスを供給するロータリージョイントを有し、循環する冷媒で冷却された外周面に長尺基板を部分的に巻き付けて冷却するキャンロールとを備えた長尺基板処理装置であって、
前記複数のガス導入路の各々はキャンロールの回転軸方向に沿って略均等な間隔をあけて外周面側に開口する複数のガス放出孔を有しており、前記ロータリージョイントは、長尺基板を巻き付ける角度範囲内に位置しているガス導入路にはガスを供給し、長尺基板を巻き付ける角度範囲内に位置していないガス導入路にはガスを供給しない構造を有していることを特徴とする特徴とする長尺基板処理装置。
【請求項5】
前記ロータリージョイントは、前記キャンロールと同心軸状であって、それぞれの摺接面で互いに摺接する回転リングユニットと固定リングユニットとからなり、回転リングユニットは前記複数のガス導入路にそれぞれ連通する複数のガス供給路を有し、これら複数のガス供給路の各々は連通するガス導入路のキャンロール外周面上の角度位置と略同じ角度位置で開口する回転開口部を回転リングユニットの摺接面に有しており、固定リングユニットは前記真空チャンバー外部のガスの供給配管に連通するとともに固定リングユニットの摺接面で開口する固定開口部を有するガス分配路を有し、該固定開口部は、回転開口部が対向する固定リングユニットの摺接面上の領域のうち前記長尺基板を巻き付ける角度範囲内で開口していることを特徴とする、請求項4に記載の長尺基板処理装置。
【請求項6】
前記ガス分配路の固定開口部は、前記固定リングユニットの摺接面に略C字状に開口していることを特徴とする、請求項5に記載の長尺基板処理装置。
【請求項7】
前記熱負荷の掛かる処理が、プラズマ処理またはイオンビーム処理であることを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の長尺基板処理装置。
【請求項8】
プラズマ処理またはイオンビーム処理を行う機構が、前記キャンロールの外周面で画定される搬送経路に対向していることを特徴とする、請求項7に記載の長尺基板処理装置。
【請求項9】
請求項4から7に記載の長尺基板処理装置における前記熱負荷の掛かる処理が真空成膜処理であることを特徴とする長尺基板真空成膜装置。
【請求項10】
前記真空成膜処理が、前記キャンロールの外周面で画定される搬送経路に対向する真空成膜手段による処理であることを特徴とする、請求項9に記載の長尺基板真空成膜装置。
【請求項11】
前記真空成膜手段がマグネトロンスパッタリングであることを特徴とする、請求項10に記載の長尺基板真空成膜装置。
【請求項12】
真空チャンバー内においてロールツーロールで搬送される長尺基板を、循環する冷媒で冷却したキャンロールの外周面に部分的に巻き付けながら、キャンロールの回転軸方向に略均等な間隔をあけて外周面に開口する複数のガス放出孔から外周面と長尺基板との間にガスを導入して長尺基板を冷却し、同時に長尺基板の表面に熱負荷の掛かる処理を行う長尺基板の処理方法であって、
前記複数のガス放出孔に連通している周方向に略均等な間隔をあけてキャンロールの全周に亘って配設された複数のガス導入路の各々には、ロータリージョイントを介して真空チャンバーの外部のガスを供給し、このロータリージョイントによって、各ガス導入路に対して長尺基板を巻き付ける角度範囲内に位置しているか否かに応じて当該ガス導入路にガスを供給するか否か制御させることを特徴とする長尺基板の処理方法。
【請求項13】
前記ロータリージョイントは、前記キャンロールと同心軸状であって、それぞれの摺接面で互いに摺接する回転リングユニットと固定リングユニットとからなり、回転リングユニットは前記複数のガス導入路にそれぞれ連通する複数のガス供給路を有し、これら複数のガス供給路の各々は連通するガス導入路のキャンロール外周面上の角度位置と略同じ角度位置で開口する回転開口部を回転リングユニットの摺接面に有しており、固定リングユニットは前記真空チャンバー外部のガスの供給配管に連通するとともに固定リングユニットの摺接面で開口する固定開口部を有するガス分配路を有し、該固定開口部は、回転開口部が対向する固定リングユニットの摺接面上の領域のうち前記長尺基板を巻き付ける角度範囲内で開口していることを特徴とする、請求項12に記載の長尺基板処理方法。
【請求項14】
前記熱負荷の掛かる処理が、前記キャンロールの外周面に巻き付けられる長尺基板に対して施されるプラズマ処理またはイオンビーム処理であることを特徴とする、請求項12または13に記載の長尺基板処理方法。
【請求項15】
請求項12または13に記載の長尺基板処理方法における前記熱負荷の掛かる処理が、前記キャンロールの外周面に巻き付けられる長尺基板に対して施される真空成膜処理であることを特徴とする長尺基板の成膜方法。
【請求項16】
前記真空成膜処理がスパッタリング処理であることを特徴とする、請求項15に記載の長尺基板の成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−132081(P2012−132081A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287148(P2010−287148)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】