ガス検知装置
【課題】 水素検知におけるメタンとの弁別性の向上を図り、高精度なメタン検知を可能とするガス検知装置を提供する。
【解決手段】 金属酸化物半導体を主成分とするメタン及び水素に感応するセンサ素子を備えたセンサ部3と、センサ素子の温度が高温状態と低温状態間を周期的に遷移するように加熱制御を行う加熱制御部5と、センサ素子のセンサ抵抗を検出する抵抗検出部6aと、抵抗検出部6aの検出したセンサ抵抗に基づいて、メタンと水素の存在を各別に判定するガス判定部6bを備える。抵抗検出部6aが、センサ素子が高温状態にあるときの第1センサ抵抗を検出し、センサ素子が高温状態と低温状態の間を遷移している中間状態にあるときの第2センサ抵抗を検出する。ガス判定部6bが、第1センサ抵抗に基づいてメタンの存在判定を行い、第2センサ抵抗と第1センサ抵抗を比較した比較結果値に基づいて水素の存在判定を行う。
【解決手段】 金属酸化物半導体を主成分とするメタン及び水素に感応するセンサ素子を備えたセンサ部3と、センサ素子の温度が高温状態と低温状態間を周期的に遷移するように加熱制御を行う加熱制御部5と、センサ素子のセンサ抵抗を検出する抵抗検出部6aと、抵抗検出部6aの検出したセンサ抵抗に基づいて、メタンと水素の存在を各別に判定するガス判定部6bを備える。抵抗検出部6aが、センサ素子が高温状態にあるときの第1センサ抵抗を検出し、センサ素子が高温状態と低温状態の間を遷移している中間状態にあるときの第2センサ抵抗を検出する。ガス判定部6bが、第1センサ抵抗に基づいてメタンの存在判定を行い、第2センサ抵抗と第1センサ抵抗を比較した比較結果値に基づいて水素の存在判定を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物半導体を主成分とするセンサ素子の電気抵抗の変化によりメタンを検知するガス検知装置に関し、より具体的には、水素等の雑ガスの干渉を排除することによるメタン検知精度の向上技術に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物半導体を主成分とする1つのセンサ素子で、検知対象のメタンとメタン検知を干渉する雑ガスとなる水素を弁別して検知可能なガス検知装置として、例えば、下記の特許文献1〜5等に開示された装置がある。センサ素子は、例えば、図11に示すように、センサ素子21の温度調節用の加熱コイル22とセンサ出力用の電極23を金属酸化物半導体24中に埋め込んで加熱コイルと一体化した構成のものがある。加熱コイル22の一端を接地し、加熱コイル22の他端に印加する加熱電圧VHEATの電圧値を周期的に変化させ、センサ素子の温度が低温状態(約80℃)と高温状態(約400℃)の間を周期的に遷移するようにセンサ素子を加熱制御する。センサ素子21の電極23に負荷抵抗25を設けることで、電極23にはセンサ抵抗(電極23と加熱コイル22間の金属酸化物半導体の電気抵抗値)に応じた電圧がセンサ出力として出力される。センサ抵抗はセンサ出力の電圧値から換算可能である。図12に示すように、加熱電圧VHEATの周期的変化に追従してセンサ素子の温度が周期的に変化する。尚、負荷抵抗25の抵抗値は、センサ素子の温度状態に応じて最適値となるように切替制御される。
【0003】
従来のガス検知装置では、上記低温状態(図12中のC点)におけるセンサ出力より一酸化炭素を選択的に検出し、センサ抵抗に換算可能な高温状態(図12中のA点)におけるセンサ出力よりメタンを選択的に検出し、センサ抵抗に換算可能な高温状態から低温状態へ遷移する中間状態(図12中のB点)におけるセンサ出力より水素を検出する構成となっている。SnO2等の金属酸化物半導体を主成分とするセンサ素子は、検知対象ガス種のメタンと一酸化炭素、及び、検知対象ガスの検知を干渉する雑ガスとなる水素に対して、図13に示すような感度特性を示す。図13では、センサ素子の感度つまり検知能は、清浄空気中でのセンサ抵抗と各ガス雰囲気でのセンサ抵抗の比(RAIR/RGAS)で表される。図13より明らかなように、メタンの検知能は高温状態で高く、逆に、一酸化炭素の検知能は低温状態で高く、水素の検知能は高温状態と低温状態の中間状態で高くなる。しかし、水素の検知能は低温及び高温状態でも一定の感度を有するため、メタン及び一酸化炭素の検知を干渉する雑ガスとして働き、水素雰囲気中においてメタン或いは一酸化炭素が存在すると誤検知する場合がある。従って、従来のガス検知装置では、上記中間状態におけるセンサ出力よりセンサ抵抗を求め、水素の存在を判定し、その判定結果に基づいてメタン及び一酸化炭素の感度を補正していた。例えば、メタン濃度3000ppm時の高温状態でのセンサ抵抗を閾値として高温状態でのセンサ抵抗を大小比較して3000ppmメタン濃度を検出して警報を出力する場合に、水素の存在を検知した場合には、同じメタン濃度3000ppmでもセンサ抵抗が下がるために、閾値を低めに補正することで、メタン濃度3000ppm未満の状態での誤警報を防止できる。
【0004】
【特許文献1】特開2003−185610号公報
【特許文献2】特開2001−208711号公報
【特許文献3】特開2002−82083号公報
【特許文献4】特開平07−198644号公報
【特許文献5】特開昭62−238452号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のガス検知装置で行っていた中間状態でのセンサ抵抗による水素検知では、図13に示すように、中間状態においてもメタン感度が存在するため、メタン雰囲気中において水素を誤検知する虞があった。図14に、横軸に高温状態でのセンサ抵抗RHをメタン濃度3000ppm時の高温状態でのセンサ抵抗RH−CH4(定数)で正規化した高温正規化抵抗(RH/RH−CH4)を取り、縦軸に中間状態でのセンサ抵抗RMをメタン濃度3000ppm時の高温状態でのセンサ抵抗RH−CH4(定数)で正規化した中間正規化抵抗(RM/RH−CH4)を取った2次元直交座標空間内に、センサ素子の周囲温度及び相対湿度が20℃、65%時における、190個の測定サンプルに対するメタン濃度が1000ppm、3000ppm、6000ppm、10000ppm時の座標点、及び、水素濃度が500ppmと3000ppm時の座標点を夫々プロットしたものを示す。図14より、縦軸方向に水素の座標点とメタンの座標点が重複していることが分かる。つまり、水素の検知を中間状態でのセンサ抵抗RMで判断すると、メタン雰囲気を水素雰囲気と誤検知する可能性がある。また、メタン濃度3000ppm時にメタン検知の警報を出力するとすれば、図14の横軸の高温正規化抵抗(RH/RH−CH4)が1以下の領域が警報出力領域となるが、当該領域内に水素の座標点が存在するため、正しく水素検知ができなければ、水素雰囲気をメタン雰囲気と誤検知する可能性がある。
【0006】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、水素の検知におけるメタンとの弁別性の向上を図り、高精度なメタン検知を可能とするガス検知装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係るガス検知装置は、金属酸化物半導体を主成分とする少なくともメタンと水素に感応して電気抵抗が変化するセンサ素子と、前記センサ素子の温度が高温状態と低温状態間を周期的に遷移するように加熱制御を行う加熱制御部と、前記センサ素子の電気抵抗値または当該電気抵抗値に換算可能な電気抵抗相当値で表されるセンサ抵抗を検出する抵抗検出部と、前記抵抗検出部の検出した前記センサ抵抗に基づいて、メタンと水素の存在を各別に判定するガス判定部と、を備えてなるガス検知装置であって、前記抵抗検出部が、前記加熱制御部による加熱制御により前記センサ素子が前記高温状態にあるときの前記センサ抵抗を第1センサ抵抗として検出し、前記加熱制御部による加熱制御により前記センサ素子が前記高温状態と前記低温状態の間を遷移している中間状態にあるときの前記センサ抵抗を第2センサ抵抗として検出し、前記ガス判定部が、前記第1センサ抵抗に基づいてメタンの存在判定を行い、前記第2センサ抵抗と前記第1センサ抵抗を比較した比較結果値に基づいて水素の存在判定を行うことを第1の特徴とする。
【0008】
上記第1の特徴のガス検知装置によれば、ガス判定部が第2センサ抵抗と第1センサ抵抗を比較した比較結果値に基づいて水素の存在判定を行うため、従来の第2センサ抵抗、つまり中間状態での電気抵抗値(センサ抵抗)で水素の存在判定を行う場合(図14参照)に比べて、図15に示すように、メタンとの弁別性が向上し、より高精度に水素の存在判定を行うことができ、結果として高精度のメタンの存在判定が可能となる。これは、高温状態及び中間状態の何れにおいても、水素及びメタンの感度が存在することから、メタン感度が顕著な高温状態と水素感度が顕著な中間状態の各センサ抵抗を比較することで、水素とメタンの弁別性を向上できるという本願発明者の新知見によるものである。尚、図15は、図14に示す分布図の縦軸を、高温正規化抵抗(RH/RH−CH4)から、第2センサ抵抗を第1センサ抵抗で除した比較結果値(RM/RH)に置き換えて表示し直した同じ実験サンプルに基づく分布図である。
【0009】
更に、本発明に係るガス検知装置は、上記第1の特徴に加えて、前記ガス判定部が、前記比較結果値に基づいて前記第1センサ抵抗または前記第1センサ抵抗に対する閾値判定に使用する閾値の補正を行い、前記メタンの存在判定を行うことを第2の特徴とする。
【0010】
上記第2の特徴のガス検知装置によれば、比較結果値によって水素とメタンの弁別性の向上が図られているため、水素雰囲気中においてメタン検知用の閾値を適正に補正することができ、水素雰囲気中におけるメタンの誤検知を防止できる。
【0011】
更に、本発明に係るガス検知装置は、上記第1または第2の特徴に加えて、前記ガス判定部が、前記比較結果値に基づいて水素がメタンと共存せずに単独で存在するか否かを判定し、当該判定結果に基づいて前記第1センサ抵抗または前記第1センサ抵抗に対する閾値判定に使用する閾値の補正を行い、前記メタンの存在判定を行うことを第3の特徴とする。
【0012】
上記第3の特徴のガス検知装置によれば、比較結果値によって水素とメタンの弁別性の向上が図られているため、水素とメタン混合水素の弁別性も向上することから水素の単独検知が可能となり、水素単独検知時とメタン混合水素検知時を区別した閾値のより適正な補正が可能となり、高精度なメタン検知が可能となる。
【0013】
更に、本発明に係るガス検知装置は、上記第2または第3の特徴に加えて、前記センサ素子の周囲温度を測定する温度センサを備え、前記ガス判定部が、前記第1センサ抵抗または前記第1センサ抵抗に対する前記閾値判定に使用する閾値を、前記温度センサで測定した前記周囲温度に基づいて補正することを第4の特徴とする。
【0014】
上記第4の特徴のガス検知装置によれば、第2センサ抵抗の周囲温度に対する温度特性により、同じ水素濃度であっても周囲温度により第2センサ抵抗が変化して、水素の存在判定に用いる比較結果値も周囲温度より変化するため、周囲温度に基づいて前記第1センサ抵抗または前記第1センサ抵抗に対する閾値判定に使用する閾値を補正することにより、第2センサ抵抗の周囲温度に対する温度特性を考慮した高精度なメタン検知が可能となる。
【0015】
更に、本発明に係るガス検知装置は、上記何れかの特徴に加えて、前記センサ素子の前記金属酸化物半導体が、更に、一酸化炭素に感応して電気抵抗が変化し、前記抵抗検出部が、前記加熱制御部による加熱制御により前記センサ素子が前記低温状態にあるときの前記センサ抵抗を第3センサ抵抗として検出し、前記ガス判定部が、前記第3センサ抵抗に基づいて一酸化炭素の存在判定を行う場合に、前記比較結果値に基づいて前記第3センサ抵抗または前記第3センサ抵抗に対する閾値判定に使用する閾値の補正を行うことを第5の特徴とする。
【0016】
上記第5の特徴のガス検知装置によれば、水素が一酸化炭素の存在判定においても雑ガスとなるところ、比較結果値によって水素の検知精度が向上しているため、水素雰囲気中において一酸化炭素検知用の閾値を適正に補正することができ、水素雰囲気中における一酸化炭素の誤検知を防止できる。
【0017】
更に、本発明に係るガス検知装置は、上記第5の特徴に加えて、前記センサ素子の周囲温度を測定する温度センサを備え、前記ガス判定部が、前記第3センサ抵抗または前記第3センサ抵抗に対する前記閾値判定に使用する閾値を、前記温度センサで測定した前記周囲温度に基づいて補正することを第6の特徴とする。
【0018】
上記第6の特徴のガス検知装置によれば、第2センサ抵抗の周囲温度に対する温度特性により、同じ水素濃度であっても周囲温度により第2センサ抵抗が変化して、水素の存在判定に用いる比較結果値も周囲温度より変化するため、周囲温度に基づいて前記第3センサ抵抗または前記第3センサ抵抗に対する閾値判定に使用する閾値を補正することにより、第2センサ抵抗の周囲温度に対する温度特性を考慮した高精度な一酸化炭素検知が可能となる。
【0019】
更に、本発明に係るガス検知装置は、上記何れかの特徴に加えて、前記ガス判定部が、前記第1センサ抵抗の増減方向と前記比較結果値の増減方向で規定される2次元直交座標空間内において、前記第1センサ抵抗と前記比較結果値で定まる座標点が当該2次元直交座標空間内の所定領域内に存在する場合に、水素の存在を判定することを第7の特徴とする。
【0020】
上記第7の特徴のガス検知装置によれば、水素に加えてエタノールやジメチルエーテル等の複数種の雑ガスを同時に検知することができる。この結果、メタン等の検知対象ガスの選択性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係るガス検知装置(以下、適宜「本発明装置」と略称する)の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0022】
〈第1実施形態〉
図1に、本発明装置1の回路構成を示す。図1に示すように、本発明装置1は、金属酸化物半導体を主成分とするメタンと一酸化炭素(CO)の2種類の検出対象ガス、及び、検出対象ガスの検知を干渉する水素等の雑ガスに感応して電気抵抗が変化するセンサ素子を備えて構成されるセンサ部3と、不揮発性記憶手段4と、センサ部3に対しセンサ素子の温度が高温状態と低温状態間を周期的に遷移するように加熱制御を行う加熱制御部5、センサ部3から出力されるセンサ出力に基づいて警報を出力するか否かを判定する判定部6、判定部6の警報出力判定に基づいて警報を出力する警報出力部7、本発明装置1の各部に所定の電力を供給する電源部8、及び、判定部6の警報出力判定処理における温度補正のための温度検出を行うサーミスタ等の温度センサ9を備えたガス警報器として構成される。また、後述するように、加熱制御部5の一部、判定部6、及び、警報出力部7の一部はマイクロプロセッサ2内に構成される。
【0023】
センサ部3は、図2に示すように、メタンと一酸化炭素の2種類の検出対象ガスをヒータ(加熱コイル)10の駆動制御により選択的に検出可能な半導体式ガスセンサからなるセンサ素子11による検出対象ガスの検出状態を電気的信号として出力可能に構成され、より具体的には、ヒータ10と一体化して形成されたSiO2等の金属酸化物半導体を主成分とする半導体式ガスセンサからなるセンサ素子11のセンサ出力端子12と電源電圧Vccとの間に2つの異なる負荷抵抗R1とR2を並列に設けて構成される。但し、負荷抵抗R2は、スイッチングトランジスタTと直列回路を形成して、センサ出力端子12と電源電圧Vccの間に設けられている。かかる構成により、スイッチングトランジスタTのオン・オフ操作により、検出対象ガスがメタンの場合と一酸化炭素の場合のヒータ10の温度制御の違いによる検出対象ガスの検出/非検出のセンサ出力の振幅を適正に調整することが可能となる。負荷抵抗R1とR2は、本実施形態では固定抵抗で、その抵抗値は、例えば、100kΩと10kΩ等が一例として使用される。尚、センサ出力端子12上に現れるセンサ出力は、ヒータ10の温度制御が100℃前後においては、一酸化炭素の有無によりセンサ出力端子12とヒータ10の接地端子側の間のセンサ素子11の電気抵抗が顕著に変化することで変化し、更に、ヒータ10の温度制御が400〜500℃においては、メタンの有無により上記電気抵抗が顕著に変化することで変化する。スイッチングトランジスタTは、後述するようにヒータ10の駆動制御のタイミングに合わせて本体部1の加熱制御部5からの制御信号によってオン・オフ制御される。
【0024】
本実施形態では、センサ素子11のヒータ10の温度制御は、一定電圧(例えば3.3V)の電圧をPWM(パルス幅変調)制御で、つまり、ヒータ10に印加する電圧パルスのオン(電圧印加状態)とオフ(電圧非印加状態)の時間比(デューティー比)を制御して印加することで、実効的な印加電圧の調整を行い、センサ素子11に掛かる温度を制御する。ヒータ10のPWM制御による印加電圧波形と実効的な印加電圧波形の一例を図3に示す。図3に示す例では、実効的な印加電圧は、5秒間の高温駆動時に0.9V、10秒間の低温駆動時に0.2VとなるようにPWM制御される。また、図3に、当該印加電圧波形での加熱制御によるセンサ素子11に掛かる温度変化を印加電圧波形の下側に併記する。
【0025】
不揮発性記憶手段4は、電気的に情報の読み出し・書き込み・消去が可能なEEPROM等の不揮発性半導体メモリからなり、本発明装置1に関する各種情報を記憶する。不揮発性記憶手段4に記憶される情報としては、例えば、本発明装置1の製造年月日、製造番号、メーカ名、製品コード、警報出力設定値、センサ部3の検出特性のバラツキを調整するための調整パラメータ、後述する水素等の雑ガス検知用の各種パラメータ、温度補正用のパラメータ、加熱制御部5がセンサ部3に対する加熱制御用の制御パラメータ、判定部6がセンサ部3から出力されるセンサ出力に基づいて警報出力判定を行う際の判定基準値等が挙げられる。
【0026】
加熱制御部5は、センサ素子11のヒータ10に印加する電圧パルスを駆動するセンサ駆動部5aとセンサ駆動部5aが駆動する電圧パルスの駆動タイミングと電圧パルスのデューティー比を制御するパルス制御部5bとを備えて構成される。加熱制御部5のパルス制御部5bは、マイクロプロセッサ2内に構成され、制御パラメータを不揮発性記憶手段4から読み出し、当該制御パラメータの各電圧パルス印加の開始タイミング、終了タイミング、そのデューティー比で、対応する電圧パルスの駆動タイミングとデューティー比を制御し、当該制御に従って、センサ駆動部5aがセンサ部3内のヒータ10を、図3に示す温度制御パターンとなるように駆動する。マイクロプロセッサ2は、プログラム格納用のROMやRAMを内蔵したマイクロコンピュータを含み、当該ROMやRAMを内蔵するか外付けで備えるかは問わない。
【0027】
判定部6は、抵抗検出部6aとガス判定部6bを備えて構成される。抵抗検出部6aは、不揮発性記憶手段4に記憶されている制御パラメータの内のメタン検出用のセンサ出力の検出タイミング(図3中のtH点)と、水素検出用のセンサ出力の検出タイミング(図3中のtM点)と、一酸化炭素検出用のセンサ出力の検出タイミング(図3中のtL点)で、夫々のセンサ出力を読み込み、読み込まれた各センサ出力から、メタン検出タイミング(tH)におけるセンサ抵抗を第1センサ抵抗RHとして、水素検出タイミング(tM)におけるセンサ抵抗を第2センサ抵抗RMとして、CO検出タイミング(tL)におけるセンサ抵抗を第3センサ抵抗RLとして、夫々算出する。図3に示すように、高温駆動開始後5秒時点のメタン検出タイミング(tH)ではセンサ素子11の温度は高温状態にあり、高温駆動開始後5.6秒(低温駆動開始後0.6秒)時点の水素検出タイミング(tM)ではセンサ素子11の温度は高温状態と低温状態の中間状態にあり、高温駆動開始後15秒(低温駆動開始後10秒)時点のCO検出タイミング(tL)ではセンサ素子11の温度は低温状態にある。尚、各検出タイミング(tH,tM,tL)におけるセンサ出力は、各検出タイミング(tH,tM,tL)に至る手前から数m秒(例えば8m秒)間隔で所定回(例えば16回)読み込み、それらの平均値を算出して使用する。
【0028】
ここで、センサ出力を適切な分解能が得られる電圧範囲内で読む込むために、負荷抵抗R1とR2の切替制御が加熱制御部5により行われる。加熱制御部5は、センサ素子11のスイッチングトランジスタTのオン・オフ制御を、図3に示す温度制御パターンの加熱制御に同期して行う。具体的には、高温駆動時の中間(開始後約2.5秒)から低温駆動時の中間(開始後約5秒)までのメタン検出タイミング(tH)と水素検出タイミング(tM)を含む期間中にスイッチングトランジスタTをオフし、低温駆動時の中間(開始後約5秒)から高温駆動時の中間(開始後約2.5秒)までのCO検出タイミング(tL)含む期間中にスイッチングトランジスタTをオンさせる。つまり、メタン及び水素検出時の負荷抵抗RLHMはR1となり、一酸化炭素検出時の負荷抵抗RLLはR3(=R1・R2/(R1+R2))となる。
【0029】
ガス判定部6bは、抵抗検出部6aで検出された第1センサ抵抗RHに基づいてメタンの存在(濃度が検出規定濃度以上か否か)を判定し、抵抗検出部6aで検出された第3センサ抵抗RLに基づいて一酸化炭素の存在(濃度が検出規定濃度以上か否か)を判定する。また、ガス判定部6bは、温度センサ9が検出した周囲温度からメタン判定及び一酸化炭素判定に用いられる第1センサ抵抗RHと第3センサ抵抗RLに対する各温度補正係数を算出して温度補正を行う。更に、ガス判定部6bは、抵抗検出部6aで検出された第1センサ抵抗RHと第2センサ抵抗RMの後述する比較結果値に基づいて水素の存在を判定し、水素の存在が判定された場合は、第1センサ抵抗RHと第3センサ抵抗RLを夫々補正する。ガス判定部6bは、メタンの濃度がメタンの検出規定濃度以上の場合は、内蔵レジスタ内のメタン検知ビットを「1」にセットし、ガス漏れが発生していると判定してガス漏れ判定信号を出力する。また、ガス判定部6bは、一酸化炭素の濃度が検出規定濃度以上の場合は、内蔵レジスタ内のCO検知ビットを「1」にセットし、不完全燃焼状態であると判定して不完全燃焼判定信号を出力する。更に、ガス判定部6bは、比較結果値に基づいて水素の存在を判定すると、内蔵レジスタ内の水素検知ビットを「1」にセットし、水素検出信号を出力する。
【0030】
判定部6は、本体部1に設けられたマイクロプロセッサ2内に構成され、センサ出力(アナログ値)は、マイクロプロセッサ2の所定のアナログポートから入力され、マイクロプロセッサ2内のA/D変換部でサンプリングされ、ディジタル化される。この時のサンプリングタイミングが、制御パラメータの内の各検出対象ガスのセンサ出力の検出タイミングで規定される。また、温度センサ9の温度検出出力(アナログ値)もマイクロプロセッサ2の所定のアナログポートから入力され、マイクロプロセッサ2内のA/D変換部でサンプリングされ、ディジタル化される。
【0031】
警報出力部7は、3色(緑、赤、黄)のLED14aを有するLED表示回路からなる光警報出力部14、音声回路15aとスピーカ15bからなる音声警報出力部15、判定部6の警報出力判定情報を外部に電圧レベルによって出力する外部出力回路16、判定部6の警報出力判定に基づいて光警報出力部14、音声警報出力部15、及び、外部出力回路16に対して所定の制御信号を出力する警報出力制御部17を備えて構成される。ここで、警報出力制御部17は、本体部1に設けられたマイクロプロセッサ2内に構成される。警報出力制御部17は、判定部6の警報出力判定(ガス漏れ判定信号、不完全燃焼判定信号、水素検出信号)に基づいて、警報を出力すべき状態においては、光警報出力部14、音声警報出力部15、及び、外部出力回路16に対して所定の制御信号を出力し、光警報出力部14、音声警報出力部15、及び、外部出力回路16が所定の警報を出力できるように制御する。
【0032】
電源部8は、電源トランス、平滑回路、及び、定電圧回路等を備えて構成され、例えば、家庭用の商用交流電圧100Vから直流低電圧(例えば、5V、3.3V)を生成する。
【0033】
次に、図1に示す本発明装置1の判定部6のメタン検知処理、水素検知処理、及び、CO検知処理の各動作について、図4乃至図6に示すフローチャートに基づいて説明する。尚、加熱制御部5はセンサ素子11に対して上述の加熱制御及びスイッチングトランジスタTのオン・オフ制御を別途並行して実行している。尚、メタン検知処理、水素検知処理、及び、CO検知処理は、マイクロプロセッサ2内でCPUが各処理手順を記述したプログラムを実行することより実現される。
【0034】
先ず、メタン検知処理(図4参照)を開始し、判定部6は前回までのメタン検知処理、及び、水素検知処理において判定した判定結果(メタン検知ビット、水素検知ビット)に基づいて、継続してガス漏れ判定信号及び水素検出信号を出力する(ステップ#1)。
【0035】
次に、抵抗検出部6aが、メタン検出タイミング(tH)におけるセンサ出力VHと水素検出タイミング(tM)におけるセンサ出力VMを読み込む(ステップ#2)。
【0036】
次に、ガス判定部6bは、メタン検出タイミング(tH)直近の高温駆動時において、温度センサ9が検出した周囲温度を一定間隔(例えば0.1秒間隔)で所定回(例えば16回)読み込み、それらの平均値を算出して周囲温度Tとする(ステップ#3)。
【0037】
次に、抵抗検出部6aは、センサ出力VHとメタン検知時の負荷抵抗RLHM(=R1)と電源電圧Vccより、下記の数1に示す算出式より、第1センサ抵抗RHを算出する(ステップ#4)。
【0038】
(数1)
RH=VH×RLHM/(Vcc−VH)
【0039】
次に、ガス判定部6bは、周囲温度Tからメタン検知時の温度補正係数KHを算出する(ステップ#5)。具体的には、不揮発性記憶手段4に記憶されている周囲温度が−10℃、0℃、20℃、50℃における各温度補正係数KHを補間処理して周囲温度Tにおける温度補正係数KHを算出する。
【0040】
次に、ガス判定部6bは、第1センサ抵抗RHとメタン濃度3000ppm時のメタン検出タイミング(tH)におけるセンサ抵抗RH−CH4(定数)と温度補正係数KHより、メタン濃度が3000ppm以上か否かを、下記の数2に示す判定式により判定する(ステップ#6)。数2に示す判定式が成立するとメタン判定(メタン濃度が3000ppm以上)となる。
【0041】
(数2)
RH/(RH−CH4×KH)<1
【0042】
ステップ#6においてメタン判定の場合(YES)は、水素検知処理(図5参照)に移行する。メタン判定でない場合(NO)は、水素検知処理(図5参照)に移行せずに、メタン検知ビットを「0」にリセットする(ステップ#7)。ここで、メタン検知ビットが「1」であった場合は、ガス漏れ警報が解除される。更に、ステップ#7に引き続き、水素検知処理を行わずに水素の非存在を仮定して、水素検知ビットを「0」にリセットして(ステップ#8)、CO検知処理(図6参照)に移行する。
【0043】
次に、水素検知処理(図5参照)について説明する。メタン検知処理(図4参照)のステップ#6においてメタン判定の場合(YES)、抵抗検出部6aは、センサ出力VMとメタン検知時の負荷抵抗RLHM(=R1)と電源電圧Vccより、下記の数3に示す算出式より、第2センサ抵抗RMを算出する(ステップ#11)。
【0044】
(数3)
RM=VM×RLHM/(Vcc−VM)
【0045】
次に、ガス判定部6bは、周囲温度Tから水素検知時における閾値Sの温度補正係数KSを算出する(ステップ#12)。具体的には、不揮発性記憶手段4に記憶されている周囲温度が−10℃、0℃、20℃、50℃における各温度補正係数KSを補間処理して周囲温度Tにおける温度補正係数KSを算出する。
【0046】
次に、ガス判定部6bは、第2センサ抵抗RMを第1センサ抵抗RHで除した比較結果値と閾値Sに温度補正係数KSを乗じた温度補正後の閾値(S×KS)を、下記の数4に示す判定式により大小比較して、水素単独雰囲気または水素含有メタン雰囲気であるか否かを判定する(ステップ#13)。数4に示す判定式が成立すると水素判定(水素単独雰囲気または水素含有メタン雰囲気)となる。
【0047】
(数4)
RM/RH<S×KS
【0048】
尚、数4に示す判定式での閾値Sは、所定の基準温度及び基準相対湿度(例えば、20℃、65%)における水素を含まない各種メタン濃度におけるメタン雰囲気中で複数のサンプルから求めた複数のRM/RHの分布範囲の下限値より僅かに低めに設定される。例えば、図7に示すように、各種メタン濃度におけるメタン雰囲気に対して水素が1000ppm含有されると、RM/RHの分布範囲は下に移動することが分かる。これより、数4に示す判定式により、水素単独雰囲気または水素含有メタン雰囲気を検知できることが分かる。
【0049】
ステップ#13において水素判定でない場合(NO)は、メタン検知ビットを「1」にセットして、ガス漏れ判定信号を出力し(ステップ#14)、水素検知ビットを「0」にリセットして、CO検知処理(図6参照)に移行する(ステップ#15)。
【0050】
ステップ#13において水素判定の場合(YES)は、水素検知ビットを「1」にセットして、水素検知信号を出力する(ステップ#16)。
【0051】
引き続き、メタン検知処理のステップ#6で行ったメタン判定を補正するために、ガス判定部6bは、周囲温度Tから第1センサ抵抗RHに対する水素検知時における補正係数Fの温度補正係数KFを算出する(ステップ#17)。具体的には、不揮発性記憶手段4に記憶されている周囲温度が−10℃、0℃、20℃、50℃における各温度補正係数KFを補間処理して周囲温度Tにおける温度補正係数KFを算出する。尚、補正係数Fは不揮発性記憶手段4に記憶されている値を読み出して使用する。
【0052】
次に、ガス判定部6bは、第1センサ抵抗RHとメタン濃度3000ppm時のメタン検出タイミング(tH)におけるセンサ抵抗RH−CH4(定数)、温度補正係数KH、補正係数F、及び、温度補正係数KFより、水素検知時においてメタン濃度が3000ppm以上か否かを、下記の数5に示す判定式により判定する(ステップ#18)。数5に示す判定式が成立するとメタン判定(メタン濃度が3000ppm以上)となる。
【0053】
(数5)
RH/(RH−CH4×KH×F×KF)<1
【0054】
図7に示すように、水素含有メタン雰囲気では、同じメタン濃度であっても、RH/RH−CH4が僅かに低めにシフトすることから、補正係数Fと温度補正係数KFによる水素検知時の補正がない場合は、メタン濃度が3000ppm未満でも、メタン濃度3000ppm以上と誤判定される虞がある。補正係数Fと温度補正係数KFは当該RH/RH−CH4の水素含有によるシフトを補正するものである。
【0055】
ステップ#16においてメタン判定の場合(YES)は、メタン検知ビットを「1」にセットして、ガス漏れ判定信号を出力し、CO検知処理(図6参照)に移行する(ステップ#19)。メタン判定でない場合(NO)は、メタン検知ビットを「0」にリセットして、CO検知処理(図6参照)に移行する(ステップ#20)。ここで、メタン検知ビットが「1」であった場合は、ガス漏れ警報が解除される。
【0056】
次に、CO検知処理(図6参照)について説明する。メタン検知処理(図4参照)または水素検知処理(図5参照)からCO検知処理に移行すると、先ず、判定部6は前回までのCO検知処理において判定した判定結果(CO検知ビット、水素検知ビット)に基づいて、継続して不完全燃焼判定信号及び水素検出信号を出力する(ステップ#21)。
【0057】
次に、抵抗検出部6aが、CO検出タイミング(tL)におけるセンサ出力VLを読み込む(ステップ#22)。
【0058】
次に、ガス判定部6bは、CO検出タイミング(tL)直近の低温駆動時において、温度センサ9が検出した周囲温度を一定間隔(例えば0.1秒間隔)で所定回(例えば16回)読み込み、それらの平均値を算出して周囲温度Tとする(ステップ#23)。
【0059】
次に、抵抗検出部6aは、センサ出力VLと一酸化炭素検知時の負荷抵抗RLL(=R3)と電源電圧Vccより、下記の数6に示す算出式より、第3センサ抵抗RLを算出する(ステップ#24)。
【0060】
(数6)
RL=VL×RLL/(Vcc−VL)
【0061】
次に、ガス判定部6bは、周囲温度Tから一酸化炭素検知時の温度補正係数KLを算出する(ステップ#25)。具体的には、不揮発性記憶手段4に記憶されている周囲温度が−10℃、0℃、20℃、50℃における各温度補正係数KLを補間処理して周囲温度Tにおける温度補正係数KLを算出する。
【0062】
次に、水素検知ビットが「1」の場合に、ガス判定部6bは、周囲温度Tから第3センサ抵抗RLに対する水素検知時における補正係数Gの温度補正係数KGを算出する(ステップ#26)。具体的には、不揮発性記憶手段4に記憶されている周囲温度が−10℃、0℃、20℃、50℃における各温度補正係数KGを補間処理して周囲温度Tにおける温度補正係数KGを算出する。尚、補正係数Gは不揮発性記憶手段4に記憶されている値を読み出して使用する。水素検知ビットが「0」の場合は、ステップ#26は実行せず次ステップ(ステップ#27)に移行する。
【0063】
次に、ガス判定部6bは、水素検知ビットが「0」の場合は、第3センサ抵抗RLと一酸化炭素濃度300ppm時のCO検出タイミング(tH)におけるセンサ抵抗RL−CO(定数)と温度補正係数KLより、一酸化炭素濃度が300ppm以上か否かを、下記の数7に示す判定式により判定する(ステップ#27)。水素検知ビットが「1」の場合は、水素の存在によって第3センサ抵抗RLが干渉を受けるため、温度補正係数KLによる補正に加えて、補正係数Gによる補正も行う。従って、水素検知時において一酸化炭素濃度が300ppm以上か否かを、第3センサ抵抗RL、センサ抵抗RL−CO(定数)、温度補正係数KL、補正係数G、及び、温度補正係数KGに基づき、下記の数8に示す判定式により判定する(ステップ#27)。数7または数8に示す判定式が成立するとCO判定(一酸化炭素濃度が300ppm以上)となる。
【0064】
(数7)
RL/(RL−CO×KL)<1
【0065】
(数8)
RL/(RL−CO×KL×G×KG)<1
【0066】
ステップ#27においてCO判定の場合(YES)は、CO検知ビットを「1」にセットして、不完全燃焼判定信号を出力し、メタン検知処理(図4参照)に戻る(ステップ#28)。CO判定でない場合(NO)は、CO検知ビットを「0」にリセットして、メタン検知処理(図4参照)に戻る(ステップ#29)。ここで、CO検知ビットが「1」であった場合は、不完全燃焼警報が解除される。
【0067】
〈第2実施形態〉
次に、本発明装置1の別実施形態(第2実施形態)について、図面に基づいて説明する。
【0068】
第2実施形態に係る本発明装置1の回路構成は、第1実施形態の場合と全く同じである。第2実施形態に係る本発明装置1は、判定部6のガス判定部6bによる水素検知処理の処理アルゴリズムにおいて、第1実施形態と相違し、他の構成要素及び判定部6によるメタン検知処理及びCO検知処理の処理手順は第1実施形態と同じである。従って、第1実施形態と重複する説明は割愛し、第2実施形態における水素検知処理について説明する。
【0069】
第2実施形態では、水素以外のジメチルエーテル(DME)やエタノール等もメタン及び一酸化炭素の検知において雑ガスとなることから、水素以外の雑ガスの影響も排除して正確なメタン検知処理及びCO検知処理を行うために、DME及びエタノールの検知も水素検知処理で同時に実行する。
【0070】
図8に、横軸に第1センサ抵抗をメタン濃度3000ppm時の高温状態でのセンサ抵抗RH−CH4(定数)で正規化した高温正規化抵抗(RH/RH−CH4)を取り、縦軸に第2センサ抵抗RMと第1センサ抵抗RHの比較結果値(RM/RH)を取った2次元直交座標空間内に、センサ素子の周囲温度及び相対湿度が20℃、65%時における、190個の測定サンプルに対するメタン濃度が1000ppm、3000ppm、6000ppm、10000ppm時の座標点、水素濃度が500ppmと3000ppm時の座標点、DME濃度が1000ppm時の座標点、及び、エタノール濃度が1000ppm時の座標点を夫々プロットしたものを示す。
【0071】
第1実施形態では、水素検知処理(図5参照)のステップ#13において、数4に示す判定式を用いることで、水素単独雰囲気または水素含有メタン雰囲気を検知できた。しかし、図8に示すように、第2センサ抵抗RMと第1センサ抵抗RHの比較結果値(RM/RH)は、メタン雰囲気と水素雰囲気でその分布範囲が有意に分離するが、DME及びエタノールについては、メタン雰囲気と分布範囲が重複するため、数4に示す判定式では、DME及びエタノールの存在をメタンと区別して検知できない。
【0072】
従って、第2実施形態では、水素検知処理(図5参照)のステップ#13で使用した数4に示す判定式を用いずに、高温正規化抵抗(RH/RH−CH4)の増減方向と比較結果値(RM/RH)の増減方向規定される2次元直交座標空間内において、高温正規化抵抗(RH/RH−CH4)と比較結果値(RM/RH)で定まる水素検知用座標点が当該2次元直交座標空間内の所定領域内に存在するか否かによって、水素、DME及びエタノールの雑ガスの検知を行う。以下、第2実施形態において、「水素検知」は「雑ガス検知」と同義である。
【0073】
具体的には、図9に示すように、上記2次元直交座標空間内を数点の基準座標点(例えば、A,B,C,Dの4点)を通る折れ線(境界線)Lで2つの領域に区分して、折れ線Lの右側及び下側に水素、DME及びエタノールの座標点が収まるように、基準座標点の座標(RH/RH−CH4,RM/RH)を規定する。尚、折れ線Lは、基準座標点Aから基準座標点Bと反対側には縦軸に平行に下側に延伸し、基準座標点Dから基準座標点Cと反対側には横軸に平行に右側に延伸するように規定される。従って、折れ線Lは2次元直交座標空間を雑ガス判定領域と雑ガス非判定領域に区分する境界線となる。基準座標点の座標値は、予め異なる周囲温度、例えば、−10℃、0℃、20℃、50℃で設定しておき、不揮発性記憶手段4に記憶する。水素検知用座標点が折れ線Lの右側及び下側に位置する場合は、水素等の雑ガスが存在すると判定(水素判定)され、水素検知ビットを「1」にセットして、水素検知信号を出力する。
【0074】
以下、図10を参照して、第2実施形態における水素検知処理の処理手順を説明する。メタン検知処理(図4参照)のステップ#6においてメタン判定の場合(YES)、抵抗検出部6aは、センサ出力VMとメタン検知時の負荷抵抗RLHM(=R1)と電源電圧Vccより、上記の数3に示す算出式より、第2センサ抵抗RMを算出する(ステップ#31)。
【0075】
次に、ガス判定部6bは、周囲温度Tから、2次元直交座標空間内の折れ線Lを規定する基準座標点A〜Dの各座標値を算出する(ステップ#32)。具体的には、周囲温度が−10℃、0℃、20℃、50℃における基準座標点A〜Dの各座標値を基に補間処理を行い、周囲温度Tでの基準座標点A〜Dの各座標値(Xi,Yi)(i=A〜D)を算出する。例えば、周囲温度Tが30℃の場合は、周囲温度が20℃と50℃における基準座標点A〜Dの各座標値を基に補間処理を行う。ここで、X座標は横軸の高温正規化抵抗(RH/RH−CH4)とし、Y座標は縦軸の比較結果値(RM/RH)とする。
【0076】
次に、ガス判定部6bは、ステップ#31で算出した第2センサ抵抗RMと、メタン検知処理(図4参照)のステップ#4で算出した第1センサ抵抗RHから、水素検知用座標点の座標値(X0,Y0)を求める(ステップ#33)。
【0077】
次に、ガス判定部6bは、水素検知用座標点の座標値(X0,Y0)が、ステップ#32で算出した基準座標点A〜Dの各座標値(Xi,Yi)(i=A〜D)で規定される折れ線Lの雑ガス領域側(右側及び下側)に存在するか否かを判定する(ステップ#34)。具体的には、水素検知用座標点のX座標X0と、基準座標点A〜Dの各X座標との大小比較、及び、水素検知用座標点のY座標Y0と、基準座標点A〜Dの各Y座標との大小比較により、水素検知用座標点が基準座標点A〜Dに対して横軸方向及び縦軸方向のどの位置にあるかを判定する。
【0078】
水素検知用座標点が基準座標点Aの左側(X0<XA)にあれば、水素判定されない。また、水素検知用座標点が基準座標点Aの上側(Y0>YD)にあれば、水素判定されない。それ以外の場合は、以下の要領で判定を行う。
【0079】
水素検知用座標点が基準座標点AとBの中間(XA≦X0<XB)にある場合は、水素検知用座標点のY座標Y0が、基準座標点AとBを結ぶ線分上のX座標がX0におけるY座標YAB(X0)より下側(Y0≦YAB(X0))にあれば、水素判定となる。水素検知用座標点が基準座標点BとCの中間(XB≦X0<XC)にある場合は、水素検知用座標点のY座標Y0が、基準座標点BとCを結ぶ線分上のX座標がX0におけるY座標YBC(X0)より下側(Y0≦YBC(X0))にあれば、水素判定となる。水素検知用座標点が基準座標点CとDの中間(XC≦X0<XD)にある場合は、水素検知用座標点のY座標Y0が、基準座標点CとDを結ぶ線分上のX座標がX0におけるY座標YCD(X0)より下側(Y0≦YCD(X0))にあれば、水素判定となる。水素検知用座標点が基準座標点Dより右側(XD≦X0)にある場合は、水素検知用座標点のY座標Y0が、基準座標点DのY座標YDより下側(Y0≦YD)にあれば、水素判定となる。
【0080】
ステップ#34において水素判定でない場合(NO)は、メタン検知ビットを「1」にセットして、ガス漏れ判定信号を出力し(ステップ#35)、水素検知ビットを「0」にリセットして、CO検知処理(図6参照)に移行する(ステップ#36)。また、ステップ#34において水素判定の場合は、ステップ#37以降の各処理を行う。尚、ステップ#37以降の各処理は、第1実施形態における水素検知処理(図5参照)のステップ#16以降の処理と同じであるので、重複する説明は省略する。
【0081】
次に、本発明装置の別実施形態について説明する。
【0082】
〈1〉上記第1実施形態の水素検知処理(図5参照)において、数4に示す判定式により、水素単独雰囲気または水素含有メタン雰囲気であるか否かを判定する(ステップ#13)場合を説明したが、閾値Sを2通り用意することにより、水素含有メタン雰囲気ではなく、水素単独雰囲気だけを選択的に判定することも可能である。従って、ステップ#13において水素判定となる場合に、更に、閾値Sより小さい第2の閾値S’を用いて水素単独雰囲気の検知を行い、水素単独雰囲気である場合には、ステップ#18でのメタン濃度が3000ppm以上か否かの判定において、水素検知時における補正係数Fと温度補正係数KFに代えて第2の補正係数F’とその温度補正係数KF’を使用するようにしても構わない。補正係数Fは1より小さい正数であるが、第2の補正係数F’は1以下で補正係数Fより大きい値とする。第2の補正係数F’及び温度補正係数KFが1の場合は、数5に示す判定式は、数2に示す判定式と同じになる。つまり、水素単独雰囲気の場合には、水素検知時における補正を行わないか、或いは、その補正の程度を弱くする。これにより、メタン検知感度が緩和されず、メタン判定となり易くなる。
【0083】
同様に、水素単独雰囲気である場合には、CO検知処理(図6参照)のステップ#27における一酸化炭素濃度が300ppm以上か否かの判定において、水素検知時における補正係数Gと温度補正係数KGに代えて第2の補正係数G’とその温度補正係数KG’を使用するようにしても構わない。
【0084】
〈2〉上記各実施形態において、水素検知処理に使用する第2センサ抵抗RMと第1センサ抵抗RHを比較した比較結果値として、第2センサ抵抗RMを第1センサ抵抗RHで除した比較結果値を使用したが、当該比較結果値として、例えば、第2センサ抵抗RMと第1センサ抵抗RHの差をメタン濃度3000ppm時のメタン検出タイミング(tH)におけるセンサ抵抗RH−CH4(定数)で除して正規化した値を使用しても構わない。上記各実施形態と同様に、水素検知時のメタンとの弁別性が向上し、より高精度に水素の存在判定を行うことができる。
【0085】
〈3〉上記各実施形態において、第1センサ抵抗RH、第2センサ抵抗RM、第3センサ抵抗RLとして、夫々、数1、数3及び数6に示す算出式によりセンサ素子の電気抵抗値として算出したが、各センサ抵抗は、必ずしも電気抵抗値として算出されなくても構わない。各センサ抵抗は、例えば、夫々の電気抵抗値と比例関係にあって、当該電気抵抗値に一義的に換算可能な値であっても構わない。例えば、夫々の電気抵抗値を清浄空気雰囲気中での電気抵抗値(定数)で正規化したもの(電気抵抗相当値)であっても構わない。
【0086】
〈4〉上記各実施形態におけるメタン検知処理、水素検知処理、及び、CO検知処理は、上記各実施形態に例示した処理手順に限定されるものではない。本発明の趣旨に沿って適宜変更可能である。例えば、上記第1実施形態では、メタン検知処理後に、水素検知処理を行ったが、水素検知処理の水素の存在を判定するまでの処理をメタン検知処理の前に行っても構わない。
【0087】
〈5〉上記各実施形態では、メタンと一酸化炭素の2種類の検知対象ガスを1つのセンサ素子を用いて検知する場合を説明したが、検知対象ガスはメタンだけあっても構わない。
【0088】
〈6〉上記各実施形態では、センサ素子11のヒータ10の温度制御の一例として、ヒータ10に一定電圧をPWM制御により印加する場合を説明したが、ヒータ10に直接、5秒間の高温駆動時に0.9V、10秒間の低温駆動時に0.2Vの電圧を印加するようにしても構わない。
【0089】
〈7〉上記各実施形態において例示した各電圧値やタイミング、或いは、ガス濃度等は、一例であり上記各実施形態において例示した値に限定されるものではなく、適宜変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明に係るガス検知装置は、ガス漏れや不完全燃焼を検知するガス警報器等のガス検知装置に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明に係るガス検知装置の回路構成例を示す回路ブロック図
【図2】本発明に係るガス検知装置におけるメタンと一酸化炭素の2種類の検出対象ガスに対する検出能を有するセンサ部の回路構成例を示す回路図
【図3】図2に示すセンサ部のヒータを加熱制御する場合の印加電圧波形、実効的な印加電圧、温度変化、及び、センサ出力の検出タイミングを示すタイミング波形図
【図4】本発明に係るガス検知装置によるメタン検知処理の処理手順の一例を示すフローチャート
【図5】本発明に係るガス検知装置による水素検知処理の処理手順の一例を示すフローチャート
【図6】本発明に係るガス検知装置によるCO検知処理の処理手順の一例を示すフローチャート
【図7】横軸を高温正規化抵抗(RH/RH−CH4)とし、縦軸を比較結果値(RM/RH)とする2次元直交座標空間内に、各種メタン濃度のメタン雰囲気と各種メタン濃度と水素濃度1000ppmの水素含有メタン雰囲気の座標点をプロットした分布図
【図8】横軸を高温正規化抵抗(RH/RH−CH4)とし、縦軸を比較結果値(RM/RH)とする2次元直交座標空間内に、メタン濃度が1000ppm、3000ppm、6000ppm、10000ppm時の座標点、水素濃度が500ppmと3000ppm時の座標点、DME濃度が1000ppm時の座標点、及び、エタノール濃度が1000ppm時の座標点を夫々プロットした分布図
【図9】図8に示す分布図上に雑ガス判定用の折れ線(境界線)とそれを規定する基準座標点を示す図
【図10】本発明に係るガス検知装置による水素検知処理の処理手順の他の一例を示すフローチャート
【図11】金属酸化物半導体を主成分とするセンサ素子の一構成例を示す図
【図12】図11に示すセンサ素子に印加する加熱電圧波形と温度変化を示すタイミング波形図
【図13】図11に示すセンサ素子のメタンと一酸化炭素と水素に対する感度特性を模式的に示す感度特性図
【図14】横軸を高温正規化抵抗(RH/RH−CH4)とし、縦軸を中間正規化抵抗(RM/RH−CH4)とする2次元直交座標空間内に、センサ素子の周囲温度及び相対湿度が20℃、65%時おける、メタン濃度が1000ppm、3000ppm、6000ppm、10000ppm時の座標点、及び、水素濃度が500ppmと3000ppm時の座標点を夫々プロットした分布図
【図15】横軸を高温正規化抵抗(RH/RH−CH4)とし、縦軸を比較結果値(RM/RH)とする2次元直交座標空間内に、センサ素子の周囲温度及び相対湿度が20℃、65%時おける、メタン濃度が1000ppm、3000ppm、6000ppm、10000ppm時の座標点、及び、水素濃度が500ppmと3000ppm時の座標点を夫々プロットした分布図
【符号の説明】
【0092】
1: 本発明に係るガス検知装置
2: マイクロプロセッサ
3: センサ部
4: 不揮発性記憶手段
5: 加熱制御部
5a: センサ駆動部
5b: パルス制御部
6: 判定部
6a: 抵抗検出部
6b: ガス判定部
7: 警報出力部
8: 電源部
9: 温度センサ
10: ヒータ(加熱コイル)
11: センサ素子
12: センサ出力端子
13: 電源プラグ
14: 光警報出力部(光報知信号出力部)
14a: LED
15: 音声警報出力部
15a: 音声回路
15b: スピーカ
16: 外部出力回路
17: 警報出力制御部
18: 光報知信号制御部
21: センサ素子
22: 加熱コイル
23: 電極
24: 金属酸化物半導体
25: 負荷抵抗
R1,R2: 負荷抵抗
T: スイッチングトランジスタ
Vcc: 電源電圧
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物半導体を主成分とするセンサ素子の電気抵抗の変化によりメタンを検知するガス検知装置に関し、より具体的には、水素等の雑ガスの干渉を排除することによるメタン検知精度の向上技術に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物半導体を主成分とする1つのセンサ素子で、検知対象のメタンとメタン検知を干渉する雑ガスとなる水素を弁別して検知可能なガス検知装置として、例えば、下記の特許文献1〜5等に開示された装置がある。センサ素子は、例えば、図11に示すように、センサ素子21の温度調節用の加熱コイル22とセンサ出力用の電極23を金属酸化物半導体24中に埋め込んで加熱コイルと一体化した構成のものがある。加熱コイル22の一端を接地し、加熱コイル22の他端に印加する加熱電圧VHEATの電圧値を周期的に変化させ、センサ素子の温度が低温状態(約80℃)と高温状態(約400℃)の間を周期的に遷移するようにセンサ素子を加熱制御する。センサ素子21の電極23に負荷抵抗25を設けることで、電極23にはセンサ抵抗(電極23と加熱コイル22間の金属酸化物半導体の電気抵抗値)に応じた電圧がセンサ出力として出力される。センサ抵抗はセンサ出力の電圧値から換算可能である。図12に示すように、加熱電圧VHEATの周期的変化に追従してセンサ素子の温度が周期的に変化する。尚、負荷抵抗25の抵抗値は、センサ素子の温度状態に応じて最適値となるように切替制御される。
【0003】
従来のガス検知装置では、上記低温状態(図12中のC点)におけるセンサ出力より一酸化炭素を選択的に検出し、センサ抵抗に換算可能な高温状態(図12中のA点)におけるセンサ出力よりメタンを選択的に検出し、センサ抵抗に換算可能な高温状態から低温状態へ遷移する中間状態(図12中のB点)におけるセンサ出力より水素を検出する構成となっている。SnO2等の金属酸化物半導体を主成分とするセンサ素子は、検知対象ガス種のメタンと一酸化炭素、及び、検知対象ガスの検知を干渉する雑ガスとなる水素に対して、図13に示すような感度特性を示す。図13では、センサ素子の感度つまり検知能は、清浄空気中でのセンサ抵抗と各ガス雰囲気でのセンサ抵抗の比(RAIR/RGAS)で表される。図13より明らかなように、メタンの検知能は高温状態で高く、逆に、一酸化炭素の検知能は低温状態で高く、水素の検知能は高温状態と低温状態の中間状態で高くなる。しかし、水素の検知能は低温及び高温状態でも一定の感度を有するため、メタン及び一酸化炭素の検知を干渉する雑ガスとして働き、水素雰囲気中においてメタン或いは一酸化炭素が存在すると誤検知する場合がある。従って、従来のガス検知装置では、上記中間状態におけるセンサ出力よりセンサ抵抗を求め、水素の存在を判定し、その判定結果に基づいてメタン及び一酸化炭素の感度を補正していた。例えば、メタン濃度3000ppm時の高温状態でのセンサ抵抗を閾値として高温状態でのセンサ抵抗を大小比較して3000ppmメタン濃度を検出して警報を出力する場合に、水素の存在を検知した場合には、同じメタン濃度3000ppmでもセンサ抵抗が下がるために、閾値を低めに補正することで、メタン濃度3000ppm未満の状態での誤警報を防止できる。
【0004】
【特許文献1】特開2003−185610号公報
【特許文献2】特開2001−208711号公報
【特許文献3】特開2002−82083号公報
【特許文献4】特開平07−198644号公報
【特許文献5】特開昭62−238452号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のガス検知装置で行っていた中間状態でのセンサ抵抗による水素検知では、図13に示すように、中間状態においてもメタン感度が存在するため、メタン雰囲気中において水素を誤検知する虞があった。図14に、横軸に高温状態でのセンサ抵抗RHをメタン濃度3000ppm時の高温状態でのセンサ抵抗RH−CH4(定数)で正規化した高温正規化抵抗(RH/RH−CH4)を取り、縦軸に中間状態でのセンサ抵抗RMをメタン濃度3000ppm時の高温状態でのセンサ抵抗RH−CH4(定数)で正規化した中間正規化抵抗(RM/RH−CH4)を取った2次元直交座標空間内に、センサ素子の周囲温度及び相対湿度が20℃、65%時における、190個の測定サンプルに対するメタン濃度が1000ppm、3000ppm、6000ppm、10000ppm時の座標点、及び、水素濃度が500ppmと3000ppm時の座標点を夫々プロットしたものを示す。図14より、縦軸方向に水素の座標点とメタンの座標点が重複していることが分かる。つまり、水素の検知を中間状態でのセンサ抵抗RMで判断すると、メタン雰囲気を水素雰囲気と誤検知する可能性がある。また、メタン濃度3000ppm時にメタン検知の警報を出力するとすれば、図14の横軸の高温正規化抵抗(RH/RH−CH4)が1以下の領域が警報出力領域となるが、当該領域内に水素の座標点が存在するため、正しく水素検知ができなければ、水素雰囲気をメタン雰囲気と誤検知する可能性がある。
【0006】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、水素の検知におけるメタンとの弁別性の向上を図り、高精度なメタン検知を可能とするガス検知装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係るガス検知装置は、金属酸化物半導体を主成分とする少なくともメタンと水素に感応して電気抵抗が変化するセンサ素子と、前記センサ素子の温度が高温状態と低温状態間を周期的に遷移するように加熱制御を行う加熱制御部と、前記センサ素子の電気抵抗値または当該電気抵抗値に換算可能な電気抵抗相当値で表されるセンサ抵抗を検出する抵抗検出部と、前記抵抗検出部の検出した前記センサ抵抗に基づいて、メタンと水素の存在を各別に判定するガス判定部と、を備えてなるガス検知装置であって、前記抵抗検出部が、前記加熱制御部による加熱制御により前記センサ素子が前記高温状態にあるときの前記センサ抵抗を第1センサ抵抗として検出し、前記加熱制御部による加熱制御により前記センサ素子が前記高温状態と前記低温状態の間を遷移している中間状態にあるときの前記センサ抵抗を第2センサ抵抗として検出し、前記ガス判定部が、前記第1センサ抵抗に基づいてメタンの存在判定を行い、前記第2センサ抵抗と前記第1センサ抵抗を比較した比較結果値に基づいて水素の存在判定を行うことを第1の特徴とする。
【0008】
上記第1の特徴のガス検知装置によれば、ガス判定部が第2センサ抵抗と第1センサ抵抗を比較した比較結果値に基づいて水素の存在判定を行うため、従来の第2センサ抵抗、つまり中間状態での電気抵抗値(センサ抵抗)で水素の存在判定を行う場合(図14参照)に比べて、図15に示すように、メタンとの弁別性が向上し、より高精度に水素の存在判定を行うことができ、結果として高精度のメタンの存在判定が可能となる。これは、高温状態及び中間状態の何れにおいても、水素及びメタンの感度が存在することから、メタン感度が顕著な高温状態と水素感度が顕著な中間状態の各センサ抵抗を比較することで、水素とメタンの弁別性を向上できるという本願発明者の新知見によるものである。尚、図15は、図14に示す分布図の縦軸を、高温正規化抵抗(RH/RH−CH4)から、第2センサ抵抗を第1センサ抵抗で除した比較結果値(RM/RH)に置き換えて表示し直した同じ実験サンプルに基づく分布図である。
【0009】
更に、本発明に係るガス検知装置は、上記第1の特徴に加えて、前記ガス判定部が、前記比較結果値に基づいて前記第1センサ抵抗または前記第1センサ抵抗に対する閾値判定に使用する閾値の補正を行い、前記メタンの存在判定を行うことを第2の特徴とする。
【0010】
上記第2の特徴のガス検知装置によれば、比較結果値によって水素とメタンの弁別性の向上が図られているため、水素雰囲気中においてメタン検知用の閾値を適正に補正することができ、水素雰囲気中におけるメタンの誤検知を防止できる。
【0011】
更に、本発明に係るガス検知装置は、上記第1または第2の特徴に加えて、前記ガス判定部が、前記比較結果値に基づいて水素がメタンと共存せずに単独で存在するか否かを判定し、当該判定結果に基づいて前記第1センサ抵抗または前記第1センサ抵抗に対する閾値判定に使用する閾値の補正を行い、前記メタンの存在判定を行うことを第3の特徴とする。
【0012】
上記第3の特徴のガス検知装置によれば、比較結果値によって水素とメタンの弁別性の向上が図られているため、水素とメタン混合水素の弁別性も向上することから水素の単独検知が可能となり、水素単独検知時とメタン混合水素検知時を区別した閾値のより適正な補正が可能となり、高精度なメタン検知が可能となる。
【0013】
更に、本発明に係るガス検知装置は、上記第2または第3の特徴に加えて、前記センサ素子の周囲温度を測定する温度センサを備え、前記ガス判定部が、前記第1センサ抵抗または前記第1センサ抵抗に対する前記閾値判定に使用する閾値を、前記温度センサで測定した前記周囲温度に基づいて補正することを第4の特徴とする。
【0014】
上記第4の特徴のガス検知装置によれば、第2センサ抵抗の周囲温度に対する温度特性により、同じ水素濃度であっても周囲温度により第2センサ抵抗が変化して、水素の存在判定に用いる比較結果値も周囲温度より変化するため、周囲温度に基づいて前記第1センサ抵抗または前記第1センサ抵抗に対する閾値判定に使用する閾値を補正することにより、第2センサ抵抗の周囲温度に対する温度特性を考慮した高精度なメタン検知が可能となる。
【0015】
更に、本発明に係るガス検知装置は、上記何れかの特徴に加えて、前記センサ素子の前記金属酸化物半導体が、更に、一酸化炭素に感応して電気抵抗が変化し、前記抵抗検出部が、前記加熱制御部による加熱制御により前記センサ素子が前記低温状態にあるときの前記センサ抵抗を第3センサ抵抗として検出し、前記ガス判定部が、前記第3センサ抵抗に基づいて一酸化炭素の存在判定を行う場合に、前記比較結果値に基づいて前記第3センサ抵抗または前記第3センサ抵抗に対する閾値判定に使用する閾値の補正を行うことを第5の特徴とする。
【0016】
上記第5の特徴のガス検知装置によれば、水素が一酸化炭素の存在判定においても雑ガスとなるところ、比較結果値によって水素の検知精度が向上しているため、水素雰囲気中において一酸化炭素検知用の閾値を適正に補正することができ、水素雰囲気中における一酸化炭素の誤検知を防止できる。
【0017】
更に、本発明に係るガス検知装置は、上記第5の特徴に加えて、前記センサ素子の周囲温度を測定する温度センサを備え、前記ガス判定部が、前記第3センサ抵抗または前記第3センサ抵抗に対する前記閾値判定に使用する閾値を、前記温度センサで測定した前記周囲温度に基づいて補正することを第6の特徴とする。
【0018】
上記第6の特徴のガス検知装置によれば、第2センサ抵抗の周囲温度に対する温度特性により、同じ水素濃度であっても周囲温度により第2センサ抵抗が変化して、水素の存在判定に用いる比較結果値も周囲温度より変化するため、周囲温度に基づいて前記第3センサ抵抗または前記第3センサ抵抗に対する閾値判定に使用する閾値を補正することにより、第2センサ抵抗の周囲温度に対する温度特性を考慮した高精度な一酸化炭素検知が可能となる。
【0019】
更に、本発明に係るガス検知装置は、上記何れかの特徴に加えて、前記ガス判定部が、前記第1センサ抵抗の増減方向と前記比較結果値の増減方向で規定される2次元直交座標空間内において、前記第1センサ抵抗と前記比較結果値で定まる座標点が当該2次元直交座標空間内の所定領域内に存在する場合に、水素の存在を判定することを第7の特徴とする。
【0020】
上記第7の特徴のガス検知装置によれば、水素に加えてエタノールやジメチルエーテル等の複数種の雑ガスを同時に検知することができる。この結果、メタン等の検知対象ガスの選択性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係るガス検知装置(以下、適宜「本発明装置」と略称する)の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0022】
〈第1実施形態〉
図1に、本発明装置1の回路構成を示す。図1に示すように、本発明装置1は、金属酸化物半導体を主成分とするメタンと一酸化炭素(CO)の2種類の検出対象ガス、及び、検出対象ガスの検知を干渉する水素等の雑ガスに感応して電気抵抗が変化するセンサ素子を備えて構成されるセンサ部3と、不揮発性記憶手段4と、センサ部3に対しセンサ素子の温度が高温状態と低温状態間を周期的に遷移するように加熱制御を行う加熱制御部5、センサ部3から出力されるセンサ出力に基づいて警報を出力するか否かを判定する判定部6、判定部6の警報出力判定に基づいて警報を出力する警報出力部7、本発明装置1の各部に所定の電力を供給する電源部8、及び、判定部6の警報出力判定処理における温度補正のための温度検出を行うサーミスタ等の温度センサ9を備えたガス警報器として構成される。また、後述するように、加熱制御部5の一部、判定部6、及び、警報出力部7の一部はマイクロプロセッサ2内に構成される。
【0023】
センサ部3は、図2に示すように、メタンと一酸化炭素の2種類の検出対象ガスをヒータ(加熱コイル)10の駆動制御により選択的に検出可能な半導体式ガスセンサからなるセンサ素子11による検出対象ガスの検出状態を電気的信号として出力可能に構成され、より具体的には、ヒータ10と一体化して形成されたSiO2等の金属酸化物半導体を主成分とする半導体式ガスセンサからなるセンサ素子11のセンサ出力端子12と電源電圧Vccとの間に2つの異なる負荷抵抗R1とR2を並列に設けて構成される。但し、負荷抵抗R2は、スイッチングトランジスタTと直列回路を形成して、センサ出力端子12と電源電圧Vccの間に設けられている。かかる構成により、スイッチングトランジスタTのオン・オフ操作により、検出対象ガスがメタンの場合と一酸化炭素の場合のヒータ10の温度制御の違いによる検出対象ガスの検出/非検出のセンサ出力の振幅を適正に調整することが可能となる。負荷抵抗R1とR2は、本実施形態では固定抵抗で、その抵抗値は、例えば、100kΩと10kΩ等が一例として使用される。尚、センサ出力端子12上に現れるセンサ出力は、ヒータ10の温度制御が100℃前後においては、一酸化炭素の有無によりセンサ出力端子12とヒータ10の接地端子側の間のセンサ素子11の電気抵抗が顕著に変化することで変化し、更に、ヒータ10の温度制御が400〜500℃においては、メタンの有無により上記電気抵抗が顕著に変化することで変化する。スイッチングトランジスタTは、後述するようにヒータ10の駆動制御のタイミングに合わせて本体部1の加熱制御部5からの制御信号によってオン・オフ制御される。
【0024】
本実施形態では、センサ素子11のヒータ10の温度制御は、一定電圧(例えば3.3V)の電圧をPWM(パルス幅変調)制御で、つまり、ヒータ10に印加する電圧パルスのオン(電圧印加状態)とオフ(電圧非印加状態)の時間比(デューティー比)を制御して印加することで、実効的な印加電圧の調整を行い、センサ素子11に掛かる温度を制御する。ヒータ10のPWM制御による印加電圧波形と実効的な印加電圧波形の一例を図3に示す。図3に示す例では、実効的な印加電圧は、5秒間の高温駆動時に0.9V、10秒間の低温駆動時に0.2VとなるようにPWM制御される。また、図3に、当該印加電圧波形での加熱制御によるセンサ素子11に掛かる温度変化を印加電圧波形の下側に併記する。
【0025】
不揮発性記憶手段4は、電気的に情報の読み出し・書き込み・消去が可能なEEPROM等の不揮発性半導体メモリからなり、本発明装置1に関する各種情報を記憶する。不揮発性記憶手段4に記憶される情報としては、例えば、本発明装置1の製造年月日、製造番号、メーカ名、製品コード、警報出力設定値、センサ部3の検出特性のバラツキを調整するための調整パラメータ、後述する水素等の雑ガス検知用の各種パラメータ、温度補正用のパラメータ、加熱制御部5がセンサ部3に対する加熱制御用の制御パラメータ、判定部6がセンサ部3から出力されるセンサ出力に基づいて警報出力判定を行う際の判定基準値等が挙げられる。
【0026】
加熱制御部5は、センサ素子11のヒータ10に印加する電圧パルスを駆動するセンサ駆動部5aとセンサ駆動部5aが駆動する電圧パルスの駆動タイミングと電圧パルスのデューティー比を制御するパルス制御部5bとを備えて構成される。加熱制御部5のパルス制御部5bは、マイクロプロセッサ2内に構成され、制御パラメータを不揮発性記憶手段4から読み出し、当該制御パラメータの各電圧パルス印加の開始タイミング、終了タイミング、そのデューティー比で、対応する電圧パルスの駆動タイミングとデューティー比を制御し、当該制御に従って、センサ駆動部5aがセンサ部3内のヒータ10を、図3に示す温度制御パターンとなるように駆動する。マイクロプロセッサ2は、プログラム格納用のROMやRAMを内蔵したマイクロコンピュータを含み、当該ROMやRAMを内蔵するか外付けで備えるかは問わない。
【0027】
判定部6は、抵抗検出部6aとガス判定部6bを備えて構成される。抵抗検出部6aは、不揮発性記憶手段4に記憶されている制御パラメータの内のメタン検出用のセンサ出力の検出タイミング(図3中のtH点)と、水素検出用のセンサ出力の検出タイミング(図3中のtM点)と、一酸化炭素検出用のセンサ出力の検出タイミング(図3中のtL点)で、夫々のセンサ出力を読み込み、読み込まれた各センサ出力から、メタン検出タイミング(tH)におけるセンサ抵抗を第1センサ抵抗RHとして、水素検出タイミング(tM)におけるセンサ抵抗を第2センサ抵抗RMとして、CO検出タイミング(tL)におけるセンサ抵抗を第3センサ抵抗RLとして、夫々算出する。図3に示すように、高温駆動開始後5秒時点のメタン検出タイミング(tH)ではセンサ素子11の温度は高温状態にあり、高温駆動開始後5.6秒(低温駆動開始後0.6秒)時点の水素検出タイミング(tM)ではセンサ素子11の温度は高温状態と低温状態の中間状態にあり、高温駆動開始後15秒(低温駆動開始後10秒)時点のCO検出タイミング(tL)ではセンサ素子11の温度は低温状態にある。尚、各検出タイミング(tH,tM,tL)におけるセンサ出力は、各検出タイミング(tH,tM,tL)に至る手前から数m秒(例えば8m秒)間隔で所定回(例えば16回)読み込み、それらの平均値を算出して使用する。
【0028】
ここで、センサ出力を適切な分解能が得られる電圧範囲内で読む込むために、負荷抵抗R1とR2の切替制御が加熱制御部5により行われる。加熱制御部5は、センサ素子11のスイッチングトランジスタTのオン・オフ制御を、図3に示す温度制御パターンの加熱制御に同期して行う。具体的には、高温駆動時の中間(開始後約2.5秒)から低温駆動時の中間(開始後約5秒)までのメタン検出タイミング(tH)と水素検出タイミング(tM)を含む期間中にスイッチングトランジスタTをオフし、低温駆動時の中間(開始後約5秒)から高温駆動時の中間(開始後約2.5秒)までのCO検出タイミング(tL)含む期間中にスイッチングトランジスタTをオンさせる。つまり、メタン及び水素検出時の負荷抵抗RLHMはR1となり、一酸化炭素検出時の負荷抵抗RLLはR3(=R1・R2/(R1+R2))となる。
【0029】
ガス判定部6bは、抵抗検出部6aで検出された第1センサ抵抗RHに基づいてメタンの存在(濃度が検出規定濃度以上か否か)を判定し、抵抗検出部6aで検出された第3センサ抵抗RLに基づいて一酸化炭素の存在(濃度が検出規定濃度以上か否か)を判定する。また、ガス判定部6bは、温度センサ9が検出した周囲温度からメタン判定及び一酸化炭素判定に用いられる第1センサ抵抗RHと第3センサ抵抗RLに対する各温度補正係数を算出して温度補正を行う。更に、ガス判定部6bは、抵抗検出部6aで検出された第1センサ抵抗RHと第2センサ抵抗RMの後述する比較結果値に基づいて水素の存在を判定し、水素の存在が判定された場合は、第1センサ抵抗RHと第3センサ抵抗RLを夫々補正する。ガス判定部6bは、メタンの濃度がメタンの検出規定濃度以上の場合は、内蔵レジスタ内のメタン検知ビットを「1」にセットし、ガス漏れが発生していると判定してガス漏れ判定信号を出力する。また、ガス判定部6bは、一酸化炭素の濃度が検出規定濃度以上の場合は、内蔵レジスタ内のCO検知ビットを「1」にセットし、不完全燃焼状態であると判定して不完全燃焼判定信号を出力する。更に、ガス判定部6bは、比較結果値に基づいて水素の存在を判定すると、内蔵レジスタ内の水素検知ビットを「1」にセットし、水素検出信号を出力する。
【0030】
判定部6は、本体部1に設けられたマイクロプロセッサ2内に構成され、センサ出力(アナログ値)は、マイクロプロセッサ2の所定のアナログポートから入力され、マイクロプロセッサ2内のA/D変換部でサンプリングされ、ディジタル化される。この時のサンプリングタイミングが、制御パラメータの内の各検出対象ガスのセンサ出力の検出タイミングで規定される。また、温度センサ9の温度検出出力(アナログ値)もマイクロプロセッサ2の所定のアナログポートから入力され、マイクロプロセッサ2内のA/D変換部でサンプリングされ、ディジタル化される。
【0031】
警報出力部7は、3色(緑、赤、黄)のLED14aを有するLED表示回路からなる光警報出力部14、音声回路15aとスピーカ15bからなる音声警報出力部15、判定部6の警報出力判定情報を外部に電圧レベルによって出力する外部出力回路16、判定部6の警報出力判定に基づいて光警報出力部14、音声警報出力部15、及び、外部出力回路16に対して所定の制御信号を出力する警報出力制御部17を備えて構成される。ここで、警報出力制御部17は、本体部1に設けられたマイクロプロセッサ2内に構成される。警報出力制御部17は、判定部6の警報出力判定(ガス漏れ判定信号、不完全燃焼判定信号、水素検出信号)に基づいて、警報を出力すべき状態においては、光警報出力部14、音声警報出力部15、及び、外部出力回路16に対して所定の制御信号を出力し、光警報出力部14、音声警報出力部15、及び、外部出力回路16が所定の警報を出力できるように制御する。
【0032】
電源部8は、電源トランス、平滑回路、及び、定電圧回路等を備えて構成され、例えば、家庭用の商用交流電圧100Vから直流低電圧(例えば、5V、3.3V)を生成する。
【0033】
次に、図1に示す本発明装置1の判定部6のメタン検知処理、水素検知処理、及び、CO検知処理の各動作について、図4乃至図6に示すフローチャートに基づいて説明する。尚、加熱制御部5はセンサ素子11に対して上述の加熱制御及びスイッチングトランジスタTのオン・オフ制御を別途並行して実行している。尚、メタン検知処理、水素検知処理、及び、CO検知処理は、マイクロプロセッサ2内でCPUが各処理手順を記述したプログラムを実行することより実現される。
【0034】
先ず、メタン検知処理(図4参照)を開始し、判定部6は前回までのメタン検知処理、及び、水素検知処理において判定した判定結果(メタン検知ビット、水素検知ビット)に基づいて、継続してガス漏れ判定信号及び水素検出信号を出力する(ステップ#1)。
【0035】
次に、抵抗検出部6aが、メタン検出タイミング(tH)におけるセンサ出力VHと水素検出タイミング(tM)におけるセンサ出力VMを読み込む(ステップ#2)。
【0036】
次に、ガス判定部6bは、メタン検出タイミング(tH)直近の高温駆動時において、温度センサ9が検出した周囲温度を一定間隔(例えば0.1秒間隔)で所定回(例えば16回)読み込み、それらの平均値を算出して周囲温度Tとする(ステップ#3)。
【0037】
次に、抵抗検出部6aは、センサ出力VHとメタン検知時の負荷抵抗RLHM(=R1)と電源電圧Vccより、下記の数1に示す算出式より、第1センサ抵抗RHを算出する(ステップ#4)。
【0038】
(数1)
RH=VH×RLHM/(Vcc−VH)
【0039】
次に、ガス判定部6bは、周囲温度Tからメタン検知時の温度補正係数KHを算出する(ステップ#5)。具体的には、不揮発性記憶手段4に記憶されている周囲温度が−10℃、0℃、20℃、50℃における各温度補正係数KHを補間処理して周囲温度Tにおける温度補正係数KHを算出する。
【0040】
次に、ガス判定部6bは、第1センサ抵抗RHとメタン濃度3000ppm時のメタン検出タイミング(tH)におけるセンサ抵抗RH−CH4(定数)と温度補正係数KHより、メタン濃度が3000ppm以上か否かを、下記の数2に示す判定式により判定する(ステップ#6)。数2に示す判定式が成立するとメタン判定(メタン濃度が3000ppm以上)となる。
【0041】
(数2)
RH/(RH−CH4×KH)<1
【0042】
ステップ#6においてメタン判定の場合(YES)は、水素検知処理(図5参照)に移行する。メタン判定でない場合(NO)は、水素検知処理(図5参照)に移行せずに、メタン検知ビットを「0」にリセットする(ステップ#7)。ここで、メタン検知ビットが「1」であった場合は、ガス漏れ警報が解除される。更に、ステップ#7に引き続き、水素検知処理を行わずに水素の非存在を仮定して、水素検知ビットを「0」にリセットして(ステップ#8)、CO検知処理(図6参照)に移行する。
【0043】
次に、水素検知処理(図5参照)について説明する。メタン検知処理(図4参照)のステップ#6においてメタン判定の場合(YES)、抵抗検出部6aは、センサ出力VMとメタン検知時の負荷抵抗RLHM(=R1)と電源電圧Vccより、下記の数3に示す算出式より、第2センサ抵抗RMを算出する(ステップ#11)。
【0044】
(数3)
RM=VM×RLHM/(Vcc−VM)
【0045】
次に、ガス判定部6bは、周囲温度Tから水素検知時における閾値Sの温度補正係数KSを算出する(ステップ#12)。具体的には、不揮発性記憶手段4に記憶されている周囲温度が−10℃、0℃、20℃、50℃における各温度補正係数KSを補間処理して周囲温度Tにおける温度補正係数KSを算出する。
【0046】
次に、ガス判定部6bは、第2センサ抵抗RMを第1センサ抵抗RHで除した比較結果値と閾値Sに温度補正係数KSを乗じた温度補正後の閾値(S×KS)を、下記の数4に示す判定式により大小比較して、水素単独雰囲気または水素含有メタン雰囲気であるか否かを判定する(ステップ#13)。数4に示す判定式が成立すると水素判定(水素単独雰囲気または水素含有メタン雰囲気)となる。
【0047】
(数4)
RM/RH<S×KS
【0048】
尚、数4に示す判定式での閾値Sは、所定の基準温度及び基準相対湿度(例えば、20℃、65%)における水素を含まない各種メタン濃度におけるメタン雰囲気中で複数のサンプルから求めた複数のRM/RHの分布範囲の下限値より僅かに低めに設定される。例えば、図7に示すように、各種メタン濃度におけるメタン雰囲気に対して水素が1000ppm含有されると、RM/RHの分布範囲は下に移動することが分かる。これより、数4に示す判定式により、水素単独雰囲気または水素含有メタン雰囲気を検知できることが分かる。
【0049】
ステップ#13において水素判定でない場合(NO)は、メタン検知ビットを「1」にセットして、ガス漏れ判定信号を出力し(ステップ#14)、水素検知ビットを「0」にリセットして、CO検知処理(図6参照)に移行する(ステップ#15)。
【0050】
ステップ#13において水素判定の場合(YES)は、水素検知ビットを「1」にセットして、水素検知信号を出力する(ステップ#16)。
【0051】
引き続き、メタン検知処理のステップ#6で行ったメタン判定を補正するために、ガス判定部6bは、周囲温度Tから第1センサ抵抗RHに対する水素検知時における補正係数Fの温度補正係数KFを算出する(ステップ#17)。具体的には、不揮発性記憶手段4に記憶されている周囲温度が−10℃、0℃、20℃、50℃における各温度補正係数KFを補間処理して周囲温度Tにおける温度補正係数KFを算出する。尚、補正係数Fは不揮発性記憶手段4に記憶されている値を読み出して使用する。
【0052】
次に、ガス判定部6bは、第1センサ抵抗RHとメタン濃度3000ppm時のメタン検出タイミング(tH)におけるセンサ抵抗RH−CH4(定数)、温度補正係数KH、補正係数F、及び、温度補正係数KFより、水素検知時においてメタン濃度が3000ppm以上か否かを、下記の数5に示す判定式により判定する(ステップ#18)。数5に示す判定式が成立するとメタン判定(メタン濃度が3000ppm以上)となる。
【0053】
(数5)
RH/(RH−CH4×KH×F×KF)<1
【0054】
図7に示すように、水素含有メタン雰囲気では、同じメタン濃度であっても、RH/RH−CH4が僅かに低めにシフトすることから、補正係数Fと温度補正係数KFによる水素検知時の補正がない場合は、メタン濃度が3000ppm未満でも、メタン濃度3000ppm以上と誤判定される虞がある。補正係数Fと温度補正係数KFは当該RH/RH−CH4の水素含有によるシフトを補正するものである。
【0055】
ステップ#16においてメタン判定の場合(YES)は、メタン検知ビットを「1」にセットして、ガス漏れ判定信号を出力し、CO検知処理(図6参照)に移行する(ステップ#19)。メタン判定でない場合(NO)は、メタン検知ビットを「0」にリセットして、CO検知処理(図6参照)に移行する(ステップ#20)。ここで、メタン検知ビットが「1」であった場合は、ガス漏れ警報が解除される。
【0056】
次に、CO検知処理(図6参照)について説明する。メタン検知処理(図4参照)または水素検知処理(図5参照)からCO検知処理に移行すると、先ず、判定部6は前回までのCO検知処理において判定した判定結果(CO検知ビット、水素検知ビット)に基づいて、継続して不完全燃焼判定信号及び水素検出信号を出力する(ステップ#21)。
【0057】
次に、抵抗検出部6aが、CO検出タイミング(tL)におけるセンサ出力VLを読み込む(ステップ#22)。
【0058】
次に、ガス判定部6bは、CO検出タイミング(tL)直近の低温駆動時において、温度センサ9が検出した周囲温度を一定間隔(例えば0.1秒間隔)で所定回(例えば16回)読み込み、それらの平均値を算出して周囲温度Tとする(ステップ#23)。
【0059】
次に、抵抗検出部6aは、センサ出力VLと一酸化炭素検知時の負荷抵抗RLL(=R3)と電源電圧Vccより、下記の数6に示す算出式より、第3センサ抵抗RLを算出する(ステップ#24)。
【0060】
(数6)
RL=VL×RLL/(Vcc−VL)
【0061】
次に、ガス判定部6bは、周囲温度Tから一酸化炭素検知時の温度補正係数KLを算出する(ステップ#25)。具体的には、不揮発性記憶手段4に記憶されている周囲温度が−10℃、0℃、20℃、50℃における各温度補正係数KLを補間処理して周囲温度Tにおける温度補正係数KLを算出する。
【0062】
次に、水素検知ビットが「1」の場合に、ガス判定部6bは、周囲温度Tから第3センサ抵抗RLに対する水素検知時における補正係数Gの温度補正係数KGを算出する(ステップ#26)。具体的には、不揮発性記憶手段4に記憶されている周囲温度が−10℃、0℃、20℃、50℃における各温度補正係数KGを補間処理して周囲温度Tにおける温度補正係数KGを算出する。尚、補正係数Gは不揮発性記憶手段4に記憶されている値を読み出して使用する。水素検知ビットが「0」の場合は、ステップ#26は実行せず次ステップ(ステップ#27)に移行する。
【0063】
次に、ガス判定部6bは、水素検知ビットが「0」の場合は、第3センサ抵抗RLと一酸化炭素濃度300ppm時のCO検出タイミング(tH)におけるセンサ抵抗RL−CO(定数)と温度補正係数KLより、一酸化炭素濃度が300ppm以上か否かを、下記の数7に示す判定式により判定する(ステップ#27)。水素検知ビットが「1」の場合は、水素の存在によって第3センサ抵抗RLが干渉を受けるため、温度補正係数KLによる補正に加えて、補正係数Gによる補正も行う。従って、水素検知時において一酸化炭素濃度が300ppm以上か否かを、第3センサ抵抗RL、センサ抵抗RL−CO(定数)、温度補正係数KL、補正係数G、及び、温度補正係数KGに基づき、下記の数8に示す判定式により判定する(ステップ#27)。数7または数8に示す判定式が成立するとCO判定(一酸化炭素濃度が300ppm以上)となる。
【0064】
(数7)
RL/(RL−CO×KL)<1
【0065】
(数8)
RL/(RL−CO×KL×G×KG)<1
【0066】
ステップ#27においてCO判定の場合(YES)は、CO検知ビットを「1」にセットして、不完全燃焼判定信号を出力し、メタン検知処理(図4参照)に戻る(ステップ#28)。CO判定でない場合(NO)は、CO検知ビットを「0」にリセットして、メタン検知処理(図4参照)に戻る(ステップ#29)。ここで、CO検知ビットが「1」であった場合は、不完全燃焼警報が解除される。
【0067】
〈第2実施形態〉
次に、本発明装置1の別実施形態(第2実施形態)について、図面に基づいて説明する。
【0068】
第2実施形態に係る本発明装置1の回路構成は、第1実施形態の場合と全く同じである。第2実施形態に係る本発明装置1は、判定部6のガス判定部6bによる水素検知処理の処理アルゴリズムにおいて、第1実施形態と相違し、他の構成要素及び判定部6によるメタン検知処理及びCO検知処理の処理手順は第1実施形態と同じである。従って、第1実施形態と重複する説明は割愛し、第2実施形態における水素検知処理について説明する。
【0069】
第2実施形態では、水素以外のジメチルエーテル(DME)やエタノール等もメタン及び一酸化炭素の検知において雑ガスとなることから、水素以外の雑ガスの影響も排除して正確なメタン検知処理及びCO検知処理を行うために、DME及びエタノールの検知も水素検知処理で同時に実行する。
【0070】
図8に、横軸に第1センサ抵抗をメタン濃度3000ppm時の高温状態でのセンサ抵抗RH−CH4(定数)で正規化した高温正規化抵抗(RH/RH−CH4)を取り、縦軸に第2センサ抵抗RMと第1センサ抵抗RHの比較結果値(RM/RH)を取った2次元直交座標空間内に、センサ素子の周囲温度及び相対湿度が20℃、65%時における、190個の測定サンプルに対するメタン濃度が1000ppm、3000ppm、6000ppm、10000ppm時の座標点、水素濃度が500ppmと3000ppm時の座標点、DME濃度が1000ppm時の座標点、及び、エタノール濃度が1000ppm時の座標点を夫々プロットしたものを示す。
【0071】
第1実施形態では、水素検知処理(図5参照)のステップ#13において、数4に示す判定式を用いることで、水素単独雰囲気または水素含有メタン雰囲気を検知できた。しかし、図8に示すように、第2センサ抵抗RMと第1センサ抵抗RHの比較結果値(RM/RH)は、メタン雰囲気と水素雰囲気でその分布範囲が有意に分離するが、DME及びエタノールについては、メタン雰囲気と分布範囲が重複するため、数4に示す判定式では、DME及びエタノールの存在をメタンと区別して検知できない。
【0072】
従って、第2実施形態では、水素検知処理(図5参照)のステップ#13で使用した数4に示す判定式を用いずに、高温正規化抵抗(RH/RH−CH4)の増減方向と比較結果値(RM/RH)の増減方向規定される2次元直交座標空間内において、高温正規化抵抗(RH/RH−CH4)と比較結果値(RM/RH)で定まる水素検知用座標点が当該2次元直交座標空間内の所定領域内に存在するか否かによって、水素、DME及びエタノールの雑ガスの検知を行う。以下、第2実施形態において、「水素検知」は「雑ガス検知」と同義である。
【0073】
具体的には、図9に示すように、上記2次元直交座標空間内を数点の基準座標点(例えば、A,B,C,Dの4点)を通る折れ線(境界線)Lで2つの領域に区分して、折れ線Lの右側及び下側に水素、DME及びエタノールの座標点が収まるように、基準座標点の座標(RH/RH−CH4,RM/RH)を規定する。尚、折れ線Lは、基準座標点Aから基準座標点Bと反対側には縦軸に平行に下側に延伸し、基準座標点Dから基準座標点Cと反対側には横軸に平行に右側に延伸するように規定される。従って、折れ線Lは2次元直交座標空間を雑ガス判定領域と雑ガス非判定領域に区分する境界線となる。基準座標点の座標値は、予め異なる周囲温度、例えば、−10℃、0℃、20℃、50℃で設定しておき、不揮発性記憶手段4に記憶する。水素検知用座標点が折れ線Lの右側及び下側に位置する場合は、水素等の雑ガスが存在すると判定(水素判定)され、水素検知ビットを「1」にセットして、水素検知信号を出力する。
【0074】
以下、図10を参照して、第2実施形態における水素検知処理の処理手順を説明する。メタン検知処理(図4参照)のステップ#6においてメタン判定の場合(YES)、抵抗検出部6aは、センサ出力VMとメタン検知時の負荷抵抗RLHM(=R1)と電源電圧Vccより、上記の数3に示す算出式より、第2センサ抵抗RMを算出する(ステップ#31)。
【0075】
次に、ガス判定部6bは、周囲温度Tから、2次元直交座標空間内の折れ線Lを規定する基準座標点A〜Dの各座標値を算出する(ステップ#32)。具体的には、周囲温度が−10℃、0℃、20℃、50℃における基準座標点A〜Dの各座標値を基に補間処理を行い、周囲温度Tでの基準座標点A〜Dの各座標値(Xi,Yi)(i=A〜D)を算出する。例えば、周囲温度Tが30℃の場合は、周囲温度が20℃と50℃における基準座標点A〜Dの各座標値を基に補間処理を行う。ここで、X座標は横軸の高温正規化抵抗(RH/RH−CH4)とし、Y座標は縦軸の比較結果値(RM/RH)とする。
【0076】
次に、ガス判定部6bは、ステップ#31で算出した第2センサ抵抗RMと、メタン検知処理(図4参照)のステップ#4で算出した第1センサ抵抗RHから、水素検知用座標点の座標値(X0,Y0)を求める(ステップ#33)。
【0077】
次に、ガス判定部6bは、水素検知用座標点の座標値(X0,Y0)が、ステップ#32で算出した基準座標点A〜Dの各座標値(Xi,Yi)(i=A〜D)で規定される折れ線Lの雑ガス領域側(右側及び下側)に存在するか否かを判定する(ステップ#34)。具体的には、水素検知用座標点のX座標X0と、基準座標点A〜Dの各X座標との大小比較、及び、水素検知用座標点のY座標Y0と、基準座標点A〜Dの各Y座標との大小比較により、水素検知用座標点が基準座標点A〜Dに対して横軸方向及び縦軸方向のどの位置にあるかを判定する。
【0078】
水素検知用座標点が基準座標点Aの左側(X0<XA)にあれば、水素判定されない。また、水素検知用座標点が基準座標点Aの上側(Y0>YD)にあれば、水素判定されない。それ以外の場合は、以下の要領で判定を行う。
【0079】
水素検知用座標点が基準座標点AとBの中間(XA≦X0<XB)にある場合は、水素検知用座標点のY座標Y0が、基準座標点AとBを結ぶ線分上のX座標がX0におけるY座標YAB(X0)より下側(Y0≦YAB(X0))にあれば、水素判定となる。水素検知用座標点が基準座標点BとCの中間(XB≦X0<XC)にある場合は、水素検知用座標点のY座標Y0が、基準座標点BとCを結ぶ線分上のX座標がX0におけるY座標YBC(X0)より下側(Y0≦YBC(X0))にあれば、水素判定となる。水素検知用座標点が基準座標点CとDの中間(XC≦X0<XD)にある場合は、水素検知用座標点のY座標Y0が、基準座標点CとDを結ぶ線分上のX座標がX0におけるY座標YCD(X0)より下側(Y0≦YCD(X0))にあれば、水素判定となる。水素検知用座標点が基準座標点Dより右側(XD≦X0)にある場合は、水素検知用座標点のY座標Y0が、基準座標点DのY座標YDより下側(Y0≦YD)にあれば、水素判定となる。
【0080】
ステップ#34において水素判定でない場合(NO)は、メタン検知ビットを「1」にセットして、ガス漏れ判定信号を出力し(ステップ#35)、水素検知ビットを「0」にリセットして、CO検知処理(図6参照)に移行する(ステップ#36)。また、ステップ#34において水素判定の場合は、ステップ#37以降の各処理を行う。尚、ステップ#37以降の各処理は、第1実施形態における水素検知処理(図5参照)のステップ#16以降の処理と同じであるので、重複する説明は省略する。
【0081】
次に、本発明装置の別実施形態について説明する。
【0082】
〈1〉上記第1実施形態の水素検知処理(図5参照)において、数4に示す判定式により、水素単独雰囲気または水素含有メタン雰囲気であるか否かを判定する(ステップ#13)場合を説明したが、閾値Sを2通り用意することにより、水素含有メタン雰囲気ではなく、水素単独雰囲気だけを選択的に判定することも可能である。従って、ステップ#13において水素判定となる場合に、更に、閾値Sより小さい第2の閾値S’を用いて水素単独雰囲気の検知を行い、水素単独雰囲気である場合には、ステップ#18でのメタン濃度が3000ppm以上か否かの判定において、水素検知時における補正係数Fと温度補正係数KFに代えて第2の補正係数F’とその温度補正係数KF’を使用するようにしても構わない。補正係数Fは1より小さい正数であるが、第2の補正係数F’は1以下で補正係数Fより大きい値とする。第2の補正係数F’及び温度補正係数KFが1の場合は、数5に示す判定式は、数2に示す判定式と同じになる。つまり、水素単独雰囲気の場合には、水素検知時における補正を行わないか、或いは、その補正の程度を弱くする。これにより、メタン検知感度が緩和されず、メタン判定となり易くなる。
【0083】
同様に、水素単独雰囲気である場合には、CO検知処理(図6参照)のステップ#27における一酸化炭素濃度が300ppm以上か否かの判定において、水素検知時における補正係数Gと温度補正係数KGに代えて第2の補正係数G’とその温度補正係数KG’を使用するようにしても構わない。
【0084】
〈2〉上記各実施形態において、水素検知処理に使用する第2センサ抵抗RMと第1センサ抵抗RHを比較した比較結果値として、第2センサ抵抗RMを第1センサ抵抗RHで除した比較結果値を使用したが、当該比較結果値として、例えば、第2センサ抵抗RMと第1センサ抵抗RHの差をメタン濃度3000ppm時のメタン検出タイミング(tH)におけるセンサ抵抗RH−CH4(定数)で除して正規化した値を使用しても構わない。上記各実施形態と同様に、水素検知時のメタンとの弁別性が向上し、より高精度に水素の存在判定を行うことができる。
【0085】
〈3〉上記各実施形態において、第1センサ抵抗RH、第2センサ抵抗RM、第3センサ抵抗RLとして、夫々、数1、数3及び数6に示す算出式によりセンサ素子の電気抵抗値として算出したが、各センサ抵抗は、必ずしも電気抵抗値として算出されなくても構わない。各センサ抵抗は、例えば、夫々の電気抵抗値と比例関係にあって、当該電気抵抗値に一義的に換算可能な値であっても構わない。例えば、夫々の電気抵抗値を清浄空気雰囲気中での電気抵抗値(定数)で正規化したもの(電気抵抗相当値)であっても構わない。
【0086】
〈4〉上記各実施形態におけるメタン検知処理、水素検知処理、及び、CO検知処理は、上記各実施形態に例示した処理手順に限定されるものではない。本発明の趣旨に沿って適宜変更可能である。例えば、上記第1実施形態では、メタン検知処理後に、水素検知処理を行ったが、水素検知処理の水素の存在を判定するまでの処理をメタン検知処理の前に行っても構わない。
【0087】
〈5〉上記各実施形態では、メタンと一酸化炭素の2種類の検知対象ガスを1つのセンサ素子を用いて検知する場合を説明したが、検知対象ガスはメタンだけあっても構わない。
【0088】
〈6〉上記各実施形態では、センサ素子11のヒータ10の温度制御の一例として、ヒータ10に一定電圧をPWM制御により印加する場合を説明したが、ヒータ10に直接、5秒間の高温駆動時に0.9V、10秒間の低温駆動時に0.2Vの電圧を印加するようにしても構わない。
【0089】
〈7〉上記各実施形態において例示した各電圧値やタイミング、或いは、ガス濃度等は、一例であり上記各実施形態において例示した値に限定されるものではなく、適宜変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明に係るガス検知装置は、ガス漏れや不完全燃焼を検知するガス警報器等のガス検知装置に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明に係るガス検知装置の回路構成例を示す回路ブロック図
【図2】本発明に係るガス検知装置におけるメタンと一酸化炭素の2種類の検出対象ガスに対する検出能を有するセンサ部の回路構成例を示す回路図
【図3】図2に示すセンサ部のヒータを加熱制御する場合の印加電圧波形、実効的な印加電圧、温度変化、及び、センサ出力の検出タイミングを示すタイミング波形図
【図4】本発明に係るガス検知装置によるメタン検知処理の処理手順の一例を示すフローチャート
【図5】本発明に係るガス検知装置による水素検知処理の処理手順の一例を示すフローチャート
【図6】本発明に係るガス検知装置によるCO検知処理の処理手順の一例を示すフローチャート
【図7】横軸を高温正規化抵抗(RH/RH−CH4)とし、縦軸を比較結果値(RM/RH)とする2次元直交座標空間内に、各種メタン濃度のメタン雰囲気と各種メタン濃度と水素濃度1000ppmの水素含有メタン雰囲気の座標点をプロットした分布図
【図8】横軸を高温正規化抵抗(RH/RH−CH4)とし、縦軸を比較結果値(RM/RH)とする2次元直交座標空間内に、メタン濃度が1000ppm、3000ppm、6000ppm、10000ppm時の座標点、水素濃度が500ppmと3000ppm時の座標点、DME濃度が1000ppm時の座標点、及び、エタノール濃度が1000ppm時の座標点を夫々プロットした分布図
【図9】図8に示す分布図上に雑ガス判定用の折れ線(境界線)とそれを規定する基準座標点を示す図
【図10】本発明に係るガス検知装置による水素検知処理の処理手順の他の一例を示すフローチャート
【図11】金属酸化物半導体を主成分とするセンサ素子の一構成例を示す図
【図12】図11に示すセンサ素子に印加する加熱電圧波形と温度変化を示すタイミング波形図
【図13】図11に示すセンサ素子のメタンと一酸化炭素と水素に対する感度特性を模式的に示す感度特性図
【図14】横軸を高温正規化抵抗(RH/RH−CH4)とし、縦軸を中間正規化抵抗(RM/RH−CH4)とする2次元直交座標空間内に、センサ素子の周囲温度及び相対湿度が20℃、65%時おける、メタン濃度が1000ppm、3000ppm、6000ppm、10000ppm時の座標点、及び、水素濃度が500ppmと3000ppm時の座標点を夫々プロットした分布図
【図15】横軸を高温正規化抵抗(RH/RH−CH4)とし、縦軸を比較結果値(RM/RH)とする2次元直交座標空間内に、センサ素子の周囲温度及び相対湿度が20℃、65%時おける、メタン濃度が1000ppm、3000ppm、6000ppm、10000ppm時の座標点、及び、水素濃度が500ppmと3000ppm時の座標点を夫々プロットした分布図
【符号の説明】
【0092】
1: 本発明に係るガス検知装置
2: マイクロプロセッサ
3: センサ部
4: 不揮発性記憶手段
5: 加熱制御部
5a: センサ駆動部
5b: パルス制御部
6: 判定部
6a: 抵抗検出部
6b: ガス判定部
7: 警報出力部
8: 電源部
9: 温度センサ
10: ヒータ(加熱コイル)
11: センサ素子
12: センサ出力端子
13: 電源プラグ
14: 光警報出力部(光報知信号出力部)
14a: LED
15: 音声警報出力部
15a: 音声回路
15b: スピーカ
16: 外部出力回路
17: 警報出力制御部
18: 光報知信号制御部
21: センサ素子
22: 加熱コイル
23: 電極
24: 金属酸化物半導体
25: 負荷抵抗
R1,R2: 負荷抵抗
T: スイッチングトランジスタ
Vcc: 電源電圧
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物半導体を主成分とする少なくともメタンと水素に感応して電気抵抗が変化するセンサ素子と、
前記センサ素子の温度が高温状態と低温状態間を周期的に遷移するように加熱制御を行う加熱制御部と、
前記センサ素子の電気抵抗値または当該電気抵抗値に換算可能な電気抵抗相当値で表されるセンサ抵抗を検出する抵抗検出部と、
前記抵抗検出部の検出した前記センサ抵抗に基づいて、メタンと水素の存在を各別に判定するガス判定部と、を備えてなるガス検知装置であって、
前記抵抗検出部は、前記加熱制御部による加熱制御により前記センサ素子が前記高温状態にあるときの前記センサ抵抗を第1センサ抵抗として検出し、前記加熱制御部による加熱制御により前記センサ素子が前記高温状態と前記低温状態の間を遷移している中間状態にあるときの前記センサ抵抗を第2センサ抵抗として検出し、
前記ガス判定部は、前記第1センサ抵抗に基づいてメタンの存在判定を行い、前記第2センサ抵抗と前記第1センサ抵抗を比較した比較結果値に基づいて水素の存在判定を行うことを特徴とするガス検知装置。
【請求項2】
前記ガス判定部は、前記比較結果値に基づいて前記第1センサ抵抗または前記第1センサ抵抗に対する閾値判定に使用する閾値の補正を行い、前記メタンの存在判定を行うことを特徴とする請求項1に記載のガス検知装置。
【請求項3】
前記ガス判定部は、前記比較結果値に基づいて水素がメタンと共存せずに単独で存在するか否かを判定し、当該判定結果に基づいて前記第1センサ抵抗または前記第1センサ抵抗に対する閾値判定に使用する閾値の補正を行い、前記メタンの存在判定を行うことを特徴とする請求項1または2に記載のガス検知装置。
【請求項4】
前記センサ素子の周囲温度を測定する温度センサを備え、
前記ガス判定部は、前記第1センサ抵抗または前記第1センサ抵抗に対する前記閾値判定に使用する閾値を、前記温度センサで測定した前記周囲温度に基づいて補正することを特徴とする請求項2または3に記載のガス検知装置。
【請求項5】
前記センサ素子の前記金属酸化物半導体は、更に、一酸化炭素に感応して電気抵抗が変化し、
前記抵抗検出部は、前記加熱制御部による加熱制御により前記センサ素子が前記低温状態にあるときの前記センサ抵抗を第3センサ抵抗として検出し、
前記ガス判定部は、前記第3センサ抵抗に基づいて一酸化炭素の存在判定を行う場合に、前記比較結果値に基づいて前記第3センサ抵抗または前記第3センサ抵抗に対する閾値判定に使用する閾値の補正を行うことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のガス検知装置。
【請求項6】
前記センサ素子の周囲温度を測定する温度センサを備え、
前記ガス判定部は、前記第3センサ抵抗または前記第3センサ抵抗に対する前記閾値判定に使用する閾値を、前記温度センサで測定した前記周囲温度に基づいて補正することを特徴とする請求項5に記載のガス検知装置。
【請求項7】
前記ガス判定部は、前記第1センサ抵抗の増減方向と前記比較結果値の増減方向で規定される2次元直交座標空間内において、前記第1センサ抵抗と前記比較結果値で定まる座標点が当該2次元直交座標空間内の所定領域内に存在する場合に、水素の存在を判定することを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載のガス検知装置。
【請求項1】
金属酸化物半導体を主成分とする少なくともメタンと水素に感応して電気抵抗が変化するセンサ素子と、
前記センサ素子の温度が高温状態と低温状態間を周期的に遷移するように加熱制御を行う加熱制御部と、
前記センサ素子の電気抵抗値または当該電気抵抗値に換算可能な電気抵抗相当値で表されるセンサ抵抗を検出する抵抗検出部と、
前記抵抗検出部の検出した前記センサ抵抗に基づいて、メタンと水素の存在を各別に判定するガス判定部と、を備えてなるガス検知装置であって、
前記抵抗検出部は、前記加熱制御部による加熱制御により前記センサ素子が前記高温状態にあるときの前記センサ抵抗を第1センサ抵抗として検出し、前記加熱制御部による加熱制御により前記センサ素子が前記高温状態と前記低温状態の間を遷移している中間状態にあるときの前記センサ抵抗を第2センサ抵抗として検出し、
前記ガス判定部は、前記第1センサ抵抗に基づいてメタンの存在判定を行い、前記第2センサ抵抗と前記第1センサ抵抗を比較した比較結果値に基づいて水素の存在判定を行うことを特徴とするガス検知装置。
【請求項2】
前記ガス判定部は、前記比較結果値に基づいて前記第1センサ抵抗または前記第1センサ抵抗に対する閾値判定に使用する閾値の補正を行い、前記メタンの存在判定を行うことを特徴とする請求項1に記載のガス検知装置。
【請求項3】
前記ガス判定部は、前記比較結果値に基づいて水素がメタンと共存せずに単独で存在するか否かを判定し、当該判定結果に基づいて前記第1センサ抵抗または前記第1センサ抵抗に対する閾値判定に使用する閾値の補正を行い、前記メタンの存在判定を行うことを特徴とする請求項1または2に記載のガス検知装置。
【請求項4】
前記センサ素子の周囲温度を測定する温度センサを備え、
前記ガス判定部は、前記第1センサ抵抗または前記第1センサ抵抗に対する前記閾値判定に使用する閾値を、前記温度センサで測定した前記周囲温度に基づいて補正することを特徴とする請求項2または3に記載のガス検知装置。
【請求項5】
前記センサ素子の前記金属酸化物半導体は、更に、一酸化炭素に感応して電気抵抗が変化し、
前記抵抗検出部は、前記加熱制御部による加熱制御により前記センサ素子が前記低温状態にあるときの前記センサ抵抗を第3センサ抵抗として検出し、
前記ガス判定部は、前記第3センサ抵抗に基づいて一酸化炭素の存在判定を行う場合に、前記比較結果値に基づいて前記第3センサ抵抗または前記第3センサ抵抗に対する閾値判定に使用する閾値の補正を行うことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のガス検知装置。
【請求項6】
前記センサ素子の周囲温度を測定する温度センサを備え、
前記ガス判定部は、前記第3センサ抵抗または前記第3センサ抵抗に対する前記閾値判定に使用する閾値を、前記温度センサで測定した前記周囲温度に基づいて補正することを特徴とする請求項5に記載のガス検知装置。
【請求項7】
前記ガス判定部は、前記第1センサ抵抗の増減方向と前記比較結果値の増減方向で規定される2次元直交座標空間内において、前記第1センサ抵抗と前記比較結果値で定まる座標点が当該2次元直交座標空間内の所定領域内に存在する場合に、水素の存在を判定することを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載のガス検知装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2007−271441(P2007−271441A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−97061(P2006−97061)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】
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