説明

ガラスチョップドストランドマット、その製造方法及びそれを用いた自動車成形天井材

【課題】GFRP成形品に必要な剛性を確保し、ひけと呼ばれる欠点の発生を十分に抑制することができ、かつマットロールから引き出す際に損傷を防止することができるガラスチョップドストランドマットと、その製造方法及びそのマットを使用する自動車成形天井材を提供する。
【解決手段】本発明のガラスチョップドストランドマット19は、結合剤Pにポリエチレン樹脂を5質量%以上含有していることを特徴とする。また本発明のガラスチョップドストランドマット19の製造方法は、上記の結合剤Pを散布することを特徴とする。また本発明の自動車成形天井材は、上記の結合剤Pを付着したガラスチョップドストランドマット19が、発泡樹脂シートの表皮側に接着されてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス繊維強化プラスチック(以下、GFRPという)の補強材や自動車成形天井材等の発泡ポリウレタンシートの補強材として使用されるガラスチョップドストランドマット、その製造方法及びそれを用いた自動車成形天井材に関する。
【0002】
ガラスチョップドストランドマットは、各種の調整された集束剤を多数本のガラスフィラメントの表面に0.1〜2質量%程度の付着量となるように塗布して集束することによってガラス長繊維のガラスストランドとし、これを所定長となるように切断装置で切断し、得られたガラスチョップドストランドの多数本を、均等無秩序にシート状に堆積した後、その上から結合剤として粉末ポリエステル樹脂を適量散布し、次いでこの粉末ポリエステル樹脂を加熱溶融した後にプレス成形して冷却固化するか、あるいはシート状堆積物に乳化した樹脂のエマルジョンを塗布し、その後に乾燥することによって製造されている。
【0003】
このガラスチョップドストランドマットの製造について具体的に説明すると、例えば単繊維直径11μm、ストランド番手が35tex(あるいはテックスとも記述し、テックスは長さ1000m当たりのグラム単位での重量)のガラスストランドをその寸法が約50mmの長さになるようにカッターで切断する。次いで目付が300〜900g/m2となるように均等無秩序に堆積し、粉末ポリエステル樹脂付着量が1〜6質量%となるように散布して加熱溶融後に冷却固化するか、あるいは樹脂乳化エマルジョン付着量が1〜6質量%となるように塗布した後、乾燥して各ガラスストランド同士を接着する方法が採用される。
【0004】
このように製造されたガラスチョップドストランドマットは、例えば浴槽、浄化槽等のGFRP成形品の補強材等として種々の用途で用いられ、主にハンドレイアップ法と一般に呼ばれる不飽和ポリエステル樹脂を含浸して成形する方法に多用されてきた。そして近年これまで段ボールやフェルト等で成形されていた自動車成形天井材の代替としても、発泡ポリウレタンシートの両表面にガラスチョップドストランドマットを接着することによって、その剛性や寸法安定性を向上させたものが開発されている。
【0005】
ガラスチョップドストランドマットを自動車成形天井材の代替材料として利用する場合、その性能として剛性、寸法安定性、断熱性、あるいは遮音性等の特性に加えて、自動車全体の重量を軽減することを目的とし、使用される材料は単位面積当たりの重量を小さくすることが要求される。またガラスチョップドストランドマットを発泡ポリウレタンシートなどの発泡樹脂シートと接着する場合に、フェノール、メラミン、あるいはイソシアネート樹脂等の接着剤を使用することとなるが、この種の接着剤はガラスチョップドストランドマットの裏面まで浸透しないと、成形された自動車成形天井材の剛性が不足するという問題や、接着後に、マットと発泡樹脂シートや表皮との間で剥離が生じるという問題があるため、必ずマット裏面にまで接着剤を充分に浸透させる必要がある。
【0006】
自動車成形天井材の成形天井材重量を軽減し、かつ接着剤のマットへの浸透性を向上させるためには、ガラスチョップドストランドマットの目付を小さくすれば良いが、目付が小さくなるほど、ガラスチョップドストランドマットのストランド分布が不均質な状態となり、マットの引張強度が低下したものとなる。その結果、マットを巻き芯に巻き取った後、その外層からマットを引っ張って解き出す途中でマットの破断の発生率が高くなり、マットの破断等に注意して作業することとなるため作業性が大幅に低下するという問題がある。
【0007】
また一般の軽量ガラス繊維補強材としては、直径が15μmから24μm程度のガラスフィラメント(単繊維)を50本から100本程度束ね、連続繊維状態で堆積させたガラスコンティニアスストランドマットや、直径が6μmから13μmのガラスフィラメントを数十本から数百本程度束ね、長さ3mmから25mmに切断したガラスチョップドストランドを白水中でモノフィラメントに分散して、抄紙したガラスペーパーが一般に知られている。しかしガラスコンティニアスストランドマットは、その製造効率が低く、そのため高価であるという問題があり、またガラスペーパーは、ガラス繊維がモノフィラメント状態であるため、補強効果が小さく、自動車成形天井材としては剛性が不足するという問題がある。
【0008】
このためチョップドストランドマットの強度を向上しようという試みは、これまでにも種々行われてきており、例えば特許文献1には、ニードルパンチング処理に適応可能な圧縮強度と曲げ強度を合わせ持つ繊維複合体についての発明が開示されている。また特許文献2では、ガラスチョップドストランドの形態を規定することによって、搬送コンベヤからの崩落を防ぐだけの強度を実現できるとする発明が行われている。さらに特許文献3では、強熱減量値を大きくすることによって引張強度を150kgf以上に大きくできるという発明が開示されている。また上記以外にも本発明者はガラス目や痘痕等と呼ばれる成形天井材の欠点を減少させるため、目付や強度との因果関係についての研究を行っている。
【特許文献1】特開平5−24781号公報
【特許文献2】特開平6−93546号公報
【特許文献3】特開2003−175777号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、これまでに公開された発明だけでは安定した品位と性能を有するガラスチョップドストランドマットを提供するには充分ではない。例えば発泡ポリウレタンシートの両表面にチョップドストランドマットが接着された構造を有する自動車用天井材では、少なくともその一方の表面に目付が50g/m2から250g/m2の範囲のチョップドストランドマットが使用されるようになっている。このガラスチョップドストランドは、単繊維直径が10μmから14μmのもので、ストランド平均番手18テックスから30texのガラスストランドを約50mmの長さに切断し、目付が50g/m2から250g/m2の範囲となるように均等無秩序に堆積し、粉末ポリエステル樹脂を、付着量8質量%から14質量%の範囲となるように散布し、次いで加熱溶融して冷却固化するか、あるいは樹脂を乳化したエマルジョンを、付着量が6質量%から10質量%の範囲となるよう塗布して乾燥し、各ガラスチョップドストランド同士を互いに接着して得られる。
【0010】
このようなマットでは、ガラスチョップドストランドマットにフェノール、メラミン、あるいはイソシアネート等の接着剤を塗布する際に、ガラスチョップドストランドの分散状態に問題がある等の原因のため、マットが部分的に断裂しやすくなる虞がある。そしてこのような状態で接着剤を塗布したチョップドストランドマットを表皮(自動車の室内側)、ガラスチョップドストランドマット、発泡樹脂シート、ガラスチョップドストランドマット及び保護シート(自動車の天井側)の順に重ねるため、ロールからマットを引き出す際にマットが断裂する、即ち、ちぎれる虞があるという問題点がある。
【0011】
また、前記の自動車成形天井材を作製する際には、ガラスチョップドストランドマットにフェノール、メラミン、あるいはイソシアネート樹脂等の接着剤を含浸させて、表皮(自動車の室内側)、ガラスチョップドストランドマット、発泡樹脂シート、ガラスチョップドストランドマット及び保護シート(自動車の天井側)の順に重ね、成形天井の形状にプレス成形した際、成形天井材のシェードなどの開口部やアシストグリップなどの深絞り部のコーナー部にひけと呼ばれる表皮のしわが発生する場合がある。そしてこのようなひけ不良の発生率は、特にコストダウンを目的として表皮に目付け50g/m2以下の薄い不織布が使用されたり、デザイン性を重視し、起毛のないニット素材の表皮が使用されるようになり、近年顕著になっている。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、GFRP成形品となった後の必要な剛性を確保した上で、ロールから引き出した際にマットが部分的に損傷する問題を防止することができ、かつ成形品にひけと呼ばれる欠点の発生を十分に抑制できるガラスチョップドストランドマットと、その製造方法及びそのマットを使用する自動車成形天井材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のガラスチョップドストランドマットは、シート状に堆積したガラスチョップドストランドを結合剤により互いに結合したガラスチョップドストランドマットであって、前記結合剤に、ポリエチレン樹脂を5質量%以上含有していることを特徴とする。
【0014】
本発明者は、ガラスチョップドストランドマットについての各種研究の中で一般的に結合剤に使用されている不飽和ポリエステル樹脂では、ガラスチョップドストランドを容易に結合するという効果は有するものの、問題点もあることを見いだした。すなわちガラスチョップドストランドマットが硬くなり、ガラスチョップドストランドマットの目付けムラによる目付けの厚い部分の柔軟性がなくなるため、自動車天井材として成形した時にシェードなどの開口部や深絞りのコーナー部にこの部分を施工せねばならない場合、表皮にひけと呼ばれるしわが入る欠陥が発生する場合がある。また、表皮にひけと呼ばれるしわが入るのを防ぐために、結合剤量を少なくしてマットを柔らかくすると、ガラスチョップドストランドマットにフェノール、メラミン、あるいはイソシアネート樹脂等の接着剤を塗布するため、ロールからマットを引き出す際や天井材を成形するために表皮(自動車の室内側)、ガラスチョップドストランドマット、発泡樹脂シート、ガラスチョップドストランドマット及び保護シート(自動車の天井側)の順に重ねるため、接着剤が塗布されたチョップドストランドマットにより形成されたロールからマットを順次引き出す際にチョップドストランドマットの目付けムラにより目付けが薄い部分からマットが断裂する、即ち、ちぎれるといった問題の生じる場合がある。
【0015】
そこで本発明者は、前記したガラスチョップドストランドマットの性能上の問題点を解決するためには、結合剤にポリエチレン樹脂を5質量%以上含有していることが最も好ましい性能を実現できることを見いだし、ここに提示するものである。
【0016】
ここで、結合剤に、ポリエチレン樹脂を5質量%以上含有しているとは、ガラスチョップドストランドを結合するために使用される結合剤として、結合剤の質量を100とした場合に、ポリエチレン樹脂が5質量以上含有するものを使用し、所定長を有するガラスチョップドストランドを互いに結合させて構成されたガラスチョップドストランドマットであることを表している。
【0017】
ポリエチレン樹脂の含有量が5質量%に満たないとポリエチレン樹脂の添加効果、すなわち結合剤量が多い場合でも、ガラスチョップドストランドマットを柔らかくし、自動車天井材として成形した時にシェードなどの開口部や深絞りのコーナー部にこの部分を施工せねばならない場合であっても、表皮にひけと呼ばれるしわが入る欠陥が発生するのを抑止する効果に乏しいものとなるため好ましくない。
【0018】
この結合剤については、ポリエチレン樹脂以外の成分を含有することを妨げるものではない。ただし、ポリエチレン樹脂を含有することによって得られる性能を抑制するような成分が含有されることは好ましくない。
【0019】
また本発明のガラスチョップドストランドマットは、上述に加えポリエチレン樹脂の融点が120℃以下であるならば、チョップドストランドマットを製造するために結合剤を融解させる場合の温度を低くすることができるので好ましい。
【0020】
ポリエチレン樹脂の融点が120℃以上であるならば、チョップドストランドマットを製造するために結合剤を融解させるオーブンの温度を高くすることが必要であり、エネルギーコストが上昇するため好ましくない。
【0021】
このような結合剤としては、他の添加成分を含有することを妨げるものではないが、ポリエチレン樹脂の性能を充分に発揮させるためには、ポリエチレン樹脂以外の主成分は不飽和ポリエステルとすることが好ましい。ここで主成分としたのは、ポリエチレン樹脂と不飽和ポリエステル樹脂とが、結合剤の総質量の5割以上であることを意味している。
【0022】
また本発明のガラスチョップドストランドマットは、上述に加え結合剤の付着量が8質量%から25質量%の範囲であり、平均ストランド番手が10texから30texの範囲にあり、目付が50g/m2から250g/m2の範囲にあるならば、ガラス繊維の紡糸からガラスチョップドストランドマットにした後の使用時までのそれぞれの工程で、優れた品位を実現することのできるものである。
【0023】
ここで結合剤の付着量が8質量%から25質量%の範囲であり、平均ストランド番手が10texから30texの範囲にあり、目付が50g/m2から250g/m2の範囲にあるとは、ガラスチョップドストランドマットの結合剤の付着量が、JIS R3420(1999)記載の強熱減量の測定方法によって計測したチョップドストランドマットの強熱減量値からチョップドストランドマットの製造に使用したガラスケーキの強熱減量値を差し引くことによって8質量%から25質量%の範囲内となり、かつ長さ寸法が1000mに相当するガラスストランドの質量を表す平均ストランド番手が10texから30texの範囲内にあって、単位面積当たりのガラスチョップドストランドの質量に相当する目付が50g/m2から250g/m2の範囲にあることを表している。
【0024】
結合剤の付着量が8質量%から25質量%の範囲である点については、結合剤の付着量が8%未満では、ガラスチョップドストランドに十分な量の結合剤が付着していないため十分な引張強さが得られず、ガラスチョップドストランドマットにフェノール、メラミン、あるいはイソシアネート樹脂等の接着剤を塗布するため、ロールからマットを引き出す際や天井材を成形するために表皮(自動車の室内側)、ガラスチョップドストランドマット、発泡樹脂シート、ガラスチョップドストランドマット及び保護シート(自動車の天井側)の順に重ねるため、接着剤が塗布されたチョップドストランドマットにより形成されたロールからマットを順次引き出す際にチョップドストランドマットの目付けムラにより目付けが薄い部分からマットが断裂する、即ち、ちぎれるといった問題の生じる場合があるため好ましくない。一方、結合剤の付着量が25質量%を越える値になると、チョップドストランドマットの目付けムラで目付けが厚くなった部分が硬くなり、厚くなった部分が、シェードなどの深絞りを要するコーナー部の施工に使用される場合には、プレス時にチョップドストランドマットが十分に伸びず、ひけと呼ばれる表皮上のしわが生じ、外観上の欠陥となるので好ましくない。
【0025】
また、ガラスチョップドストランドマットの平均ストランド番手が10texから30texの範囲にあれば、生産時及びマットの利用時に問題が発生することがない。すなわち平均ストランド番手が10texより小さいガラスストランドを製造するためには、ストランド1本当たりのガラスフィラメントの集束本数を少なくする必要があり、このようなガラスストランドを製造する場合には、紡糸時に使用するブッシングのホール数を少なくするか、より多くのストランドに分糸することになる。ブッシングのホール数を小さくすると、1ブッシング当たりのガラス繊維の生産量が低下し、材料コストの上昇につながる。また、分糸数を増加すると紡糸時にストランドが切断しやすくなり、これも材料コストの上昇につながることになる。またストランド番手が小さくなるとストランドが軟らかくなり、自動車成形天井材に必要な剛性が得られなくなるという問題も生じる。一方、平均ストランド番手が30texより大きくなると、ストランドの巾が広くなり、ストランドが硬くなって自動車成形天井の表皮にガラス目が発生する場合があるため好ましくない。
【0026】
また目付が50g/m2から250g/m2の範囲にあるならば、ガラスチョップドストランドの分布を均等な状態に維持しつつ、しかも自動車成形天井材のような重量を問題とする用途にも適用できるマットとできる。目付は単位面積当たりのガラスチョップドストランドの質量を表すものであるが、目付が50g/m2より小さいとガラスチョップドストランドマットのストランド分布が不均一な状態となってマットの引張強度が低下し、マットを巻き芯に巻き取った後、その外層から引っ張ってほどき出す操作を行う時にその途中でマットが破断する虞が多くなり、それを避けようとするとマットを解除する作業性が大幅に低下するという問題が生じる。一方で目付が250g/m2より大きいと、自動車成形天井材の重量を軽減し、接着剤の浸透性を向上させるという目的の達成が危ぶまれることになる。
【0027】
本発明のガラスチョップドストランドマットの製造方法は、ガラスチョップドストランドをシート状に堆積してシート状堆積物を形成し、該シート状堆積物に結合剤を散布し、その後結合剤を固化して該シート状堆積物のガラスチョップドストランドを互いに結合するガラスチョップドストランドマットの製造方法であって、上記の結合剤を散布することを特徴とする。
【0028】
ここで、上記のガラスチョップドストランドマットを製造するとは、所定材質となるように調整した溶融ガラスをブッシングから引き出して紡糸し、得られた所定の直径を有するガラスストランドを所定長に切断してガラスチョップドストランドとした後、上述した結合剤を使用してガラスチョップドストランドを互いに結合させてガラスチョップドストランドマットとすることを意味している。
【0029】
本発明に係るガラスチョップドストランドを互いに結合させるための結合剤としては、ポリエチレン樹脂は、どのような形態のものであってもよく、どのような散布方法を採用するものであってもよい。すなわちその形態としては、粉末に限定されず、顆粒状、繊維状、シート状あるいはフィルム状等の種々の形態が可能である。また結合材の散布状態を調整する具体的な方法としては、マットの上方より所定量の結合剤を供給ノズル等から流量を調整して供給するものが一般的である。いずれにせよ所定の散布方法を採用することによって、最終的な含有量のばらつきを解消することができるものであればよい。また、ポリエチレン樹脂とポリエチレン以外の樹脂を使用する方法は、両者を混合した後塗布しても良いし、あるいは両者を別々に塗布しても良い。
【0030】
本発明の自動車成形天井材は、上記のように結合剤を付着したガラスチョップドストランドマットが、発泡樹脂シートの表皮側に接着されてなることを特徴とする。
【0031】
ここで、上記のガラスチョップドストランドマットが、発泡樹脂シートの表皮側に接着されてなるとは、本発明の成形材を実現するには自動車成形天井材を構成する発泡樹脂シートの少なくとも一方の表面について、本発明のガラスチョップドストランドマットすなわち、結合剤にポリエチレン樹脂を5質量%以上含有することを特徴とするガラスチョップドストランドマット、好ましくは、ポリエチレン樹脂の融点が120℃以下であり、平均ストランド番手が10texから30texの範囲にあり、目付が50g/m2から250g/m2の範囲にあるガラスチョップドストランドマットが、接着された構成とすることを表している。一方の表面のみに採用する場合については、他方の面に他の被覆材を使用するかどうかについては、特に限定するものではない。
【0032】
また、本発明の自動車成形天井材は、発泡樹脂シートの表皮側のみに限らず両表面について上記の結合剤を付着した本発明のガラスチョップドストランドマットが接着された構成とするものであっても当然よい。
【0033】
ガラスチョップドストランドマットと発泡樹脂シートとの接着は公知の方法を採用することができ、フェノール、メラミン、あるいはイソシアネート樹脂等の接着剤を単独あるいは複数併用してガラスチョップドストランドマットに含浸させて使用することができる。
【0034】
また本発明の自動車成形天井材は、上述に加え成形天井の形状にプレス成形した際、成形天井材の曲率半径が10mmより小さい深絞り部であっても、ひけが生じていないものであるので好ましい。
【発明の効果】
【0035】
(1)以上のように、本発明のガラスチョップドストランドマットは、結合剤にポリエチレン樹脂を5質量%以上含有しているものであるため、マットロールからマットを解除する操作の途中で断裂等が発生し難く強度面での不安を解消することができる優れた品位を有するものであり、曲率半径の小さい部位への適用、例えば自動車天井材のシェードやアシストグリップ部などに深絞りのデザインを採用する場合であっても、成形した後にひけと呼ばれる外観上の欠点が発生する危険性が小さい安定した品位を有するものである。
【0036】
(2)また本発明のガラスチョップドストランドマットは、ポリエチレン樹脂の融点が120℃以下であるならば、チョップドストランドマットを製造するために結合剤を溶融させるオーブンの温度を低くすることができるものである。
【0037】
(3)また本発明のガラスチョップドストランドマットは、結合剤の付着量が8質量%から25質量%の範囲であり、平均ストランド番手が10texから30texの範囲にあり、目付が50g/m2から250g/m2の範囲にあるならば、深絞り成形や複雑な形状を有する自動車成形天井材として利用でき、汎用性が高く軽量な構成材料であって、優れた性能を安価に実現することができるものである。
【0038】
(4)本発明のガラスチョップドストランドマットの製造方法は、ガラスチョップドストランドをシート状に堆積してシート状堆積物を形成し、該シート状堆積物に結合剤を散布し、その後結合剤を固化して該シート状堆積物のガラスチョップドストランドを互いに結合するガラスチョップドストランドマットの製造方法であって、上記の結合剤を散布するものであるため、効率のよいマットの成形が可能であって、欠陥を抑止したガラスチョップドストランドマットを迅速に成形することが可能なものである。
【0039】
(5)本発明の自動車成形天井材は、上記のように結合剤を付着したガラスチョップドストランドマットが、発泡ポリウレタンシートなどの発泡樹脂シートの表皮側に接着されてなるものであるため、多種多様なデザインが要求される各種の自動車成形天井材に容易に適用することができ、複雑な形状を有する天井材の場合であってもひけ等の欠陥が生じにくいものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明のガラスチョップドストランドマット、その製造方法、及び本発明のガラスチョップドストランドを使用した自動車用天井材について詳細に説明する。なお、図1は、ガラスチョップドストランドマットの製造工程を示す説明図である。
【実施例1】
【0041】
まず、ガラスチョップドストランドマットの製造工程について以下に示す。
【0042】
Eガラス材質のガラス繊維が、1200本のノズルを有する白金製ブッシングから直径が11.6μmのガラスフィラメントとして成形される。この際、固形分50質量%のポリ酢酸ビニルエマルジョンが6質量%、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランが0.3質量%、第4級アンモニウム塩が0.5質量%、イオン交換水が93.2質量%となるように調整した集束剤を、付着量が0.4質量%となるように、成形されたガラスフィラメントの表面に塗布する。こうして得られたガラスストランドは、カーボン製のシューによって18分糸して巻き取られ、ガラスケーキ5となる。その後このガラスケーキ5は、所定時間乾燥され、集束剤はガラスフィラメントの表面上に定着される。
【0043】
次いでこの乾燥工程の終了したガラスケーキ5の内層からガラスストランド10を連続的に解舒し、複数のカッターが配設された切断装置12に送り込み、長さ50mmのチョップドストランド10aに切断する。1200本のガラスフィラメントからなるストランドは、18本に分割された状態になる。各切断機12は、カッターローラー12aとゴムローラー12bから構成され、互いに回転するカッターローラー12aとゴムローラー12bの間にガラスストランド10が送り込まれることによってガラスストランド10は連続的に切断される。この切断装置12は、チャンバー11の天井部分に取り付けられており、50mmの寸法に切断されたチョップドストランド10aは、チャンバー11の底部に配設された第一搬送コンベア13上に落下することになる。
【0044】
そして長さ50mmの寸法に切断されたガラスチョップドストランド10aは、第一搬送コンベア13の上で均一になるように分散され、シート状に堆積された状態のシート状堆積物10bとなってから第一搬送コンベア13によってチャンバー11の外へと搬送される。次いでシート状堆積物10bは次の第2の搬送コンベア14上に搬送され、第二搬送コンベア14上で移動するガラスチョップドストランド10aのシート状堆積物10b上に、散布機15によって融点が86℃のポリエチレン樹脂と融点が55℃のビスフェノールAエチレンオキサイド付加物系ポリエステル樹脂を1:1の割合、すなわちそれぞれ質量百分率表示で50%となるように混合した混合樹脂Pが、チョップドストランド10aの結合剤として所定の付着量(13質量%)となるように均一状態に調整して散布される。
【0045】
そしてベルトコンベア14上に均一に分散されたガラスチョップドストランド10aと散布された混合樹脂Pとが互いに分散された状態が維持されたままで第二搬送コンベア14から第三搬送コンベア16へと搬送される。第三搬送コンベア16の途中には、加熱炉17が配置されており、粉末状の混合樹脂Pが散布されたガラスチョップドストランド10aのシート状堆積物10bが、加熱炉17中に移動して所定温度で加熱されることによって、散布された粉末状の混合樹脂Pが加熱されて軟化し、ガラスチョップドストランド10aの表面上で溶融状態となる。次いでこの軟化した混合樹脂Pが付着しているシート状堆積物10bを、加熱炉17の外部に移動させ、水冷ロール18の間を通して冷却、プレスを行う。これにより溶融していた粉末混合樹脂Pが固化されて、その後巻き取り機20によって巻き取られて最終的にガラスチョップドストランドマット19(目付100g/m2)が得られる。
【実施例2】
【0046】
こうして得られたガラスチョップドストランドマット19を使用して製造される自動車天井材についてその性能を調べる調査を行った。以下でその内容を説明する。
【0047】
まず表1に示すように、本発明の実施例である試料No.1から試料No.5および比較例である試料No.6、7、計7種類の試料を作製した。すなわち表1のストランド番手となるEガラス材質の所定の寸法を有し、所定のマット目付となるように調整したガラスチョップドストランドマット19にイソシアネート系の接着剤を含浸させた後、表皮(自動車の室内側)、ガラスチョップドストランドマット19、発泡ポリウレタンシート、別のガラスチョップドストランドマット19及び保護シート(自動車の天井側)の順に重ね合わせてゆく。次いで、この積層物をその周囲に超硬刃を取り付けた成形天井の形状をしたプレス型に入れ、その状態でプレス成形を行う。最後に所定の形状にすると同時にその周囲をトリミングして整えた。ここで結合剤については、表1でポリエチレン樹脂の質量(A)及びビスフェノールAエチレンオキサイド付加物系ポリエステル樹脂の質量(B)の合量(A+B)に対するポリエチレン樹脂(A)の百分率比率を(A/(A+B))として表している。ここで試料No.2と3はポリエチレン樹脂(A)のみを含有させたもので、試料No.6、7はビスフェノールAエチレンオキサイド付加物系ポリエステル樹脂(B)のみを結合剤に含有させたものである。
【0048】
なおガラスチョップドストランドマット19中のストランド番手(tex)の測定は、チョップドストランドマット19を620℃で30分間焼却した後、チョップドストランドマット19を構成するストランド50本を抜き取り、その平均長さL(mm)を測定した後、感量が0.1mg以下の秤を用いて50本の総質量W(g)を測定し、数1に示した式により算出することができる。この式は、ストランド長1000mの重量を表すため、単位をmm(ミリメートル)からm(メートル)に換算するものとなっている。
【0049】
【表1】

【0050】
【数1】

【0051】
以上の手順によって作成された各試料をそれぞれ次に示す評価方法によって調査した。
【0052】
ガラスチョップドストランドマットについては、ガラスチョップドストランドマットの結合剤の付着量について、JIS R3420(1999)に記載の方法によって計測したガラスチョップドストランドマットの強熱減量からガラスチョップドストランドの製造に使用したケーキの強熱減量を引くことにより求めた。
【0053】
ポリエチレン樹脂については、ポリエチレン樹脂の融点について、JIS K7121に記載の方法によって測定した。
【0054】
また自動車成形天井材については、1000枚の自動車成形天井材について、その表皮側にひけの発生した数量を目視観察によって熟練者が検査を行った。以上の結果を表1に表す。
【0055】
表1からも明らかなように実施例である試料No.1は、ストランド番手が20texでマット目付が100g/cm2、結合剤としてはポリエチレン樹脂の質量(A)及びビスフェノールAエチレンオキサイド付加物系ポリエステル樹脂の質量(B)の合量(A+B)に対するポリエチレン樹脂の質量(A)の百分率が50%で、その付着量が13%の試料であるが、ロールからマットを引き出す際にマットがちぎれることもなく、ひけによる不良は0.7%であった。
【0056】
また、試料No.2は、ストランド番手が18texでマット目付が135g/cm2、結合剤としてはポリエチレン樹脂の質量のみで、その付着量が15%の試料であるが、ロールからマットを引き出す際にマットがちぎれることもなく、ひけによる不良も試料No.1と同様に全く認められないものであった。
【0057】
さらに試料No.3から試料No.5については、それぞれ試料No.3が、ストランド番手が20texでマット目付が107g/cm2、結合剤としては(A/(A+B))×100の値が100%で、その付着量が15%の試料、試料No.4が、ストランド番手が22texでマット目付が105g/cm2、結合剤としては(A/(A+B))×100の値が75%で、その付着量が13%の試料、試料No.5が、ストランド番手が19texでマット目付が105g/cm2、結合剤としては(A/(A+B))×100の値が25.0%で、その付着量が10%の試料であるが、ひけによる不良は僅かに認められたもののその値は1.5%以下であり、ロールからマットを引き出す際にマットがちぎれることもなかった。
【0058】
一方比較例である試料No.6は、ストランド番手が18texでマット目付が107g/cm2、結合剤としては(B)のみを含有し、その付着量が10%の試料であるが、ポリエチレンを含有しないビスフェノールAエチレンオキサイド付加物系ポリエステル樹脂のみを含有する結合剤であるため、チョップドストランドマットの引張強さが低下しマットロールの引き出し時にちぎれが発生した。
【0059】
また比較例である試料No.7は、ストランド番手が20texでマット目付が107g/cm2、結合剤としては(B)のみを含有し、その付着量が13%の試料であるが、ポリエチレンを含有しないビスフェノールAエチレンオキサイド付加物系ポリエステル樹脂のみを含有する結合剤であるため、ちぎれは発生しなかったが、ガラスチョップドストランドマットが硬くなり、ガラスチョップドストランドマットの目付けムラによる目付けの厚い部分の柔軟性がなくなり、ひけによる不良の発生率が16%と高い値となった。
【0060】
以上のように、本発明のガラスチョップドストランドマットと自動車成形天井材は、強度不足による問題を生じさせることなく軽量化が可能であり、外観品位についてもひけ不良の発生することのない優れた品位を有するものであることが明瞭になった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のガラスチョップドストランドマットは、その用途としてガラスチョップドストランドマットを使用して成形される自動車成形天井材として利用することが好ましいものであるが、他にも電子工業等の各種精密ハウジング構成体や建築用材料、工業用途の各種構成部材等、種々の利用が可能であって、他の部材等と併用することによって所望の機能を実現することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明のガラスチョップドストランドマットの製造工程を示す説明図。
【符号の説明】
【0063】
5 ガラスケーキ
10 ガラスストランド
10a ガラスチョップドストランド
10b シート状堆積物
11 チャンバー
12 切断装置
12a カッターローラー
12b ゴムローラー
13 第一搬送コンベア
14 第二搬送コンベア
15 散布機
16 第三搬送コンベア
17 加熱炉
18 水冷ロール
19 ガラスチョップドストランドマット
20 巻き取り機
P 混合樹脂(結合剤)
L ガラスチョップドストランドの平均長さ
W ガラスチョップドストランドの50本の総質量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状に堆積したガラスチョップドストランドを結合剤により互いに結合したガラスチョップドストランドマットであって、
前記結合剤に、ポリエチレン樹脂を5質量%以上含有していることを特徴とするガラスチョップドストランドマット。
【請求項2】
ポリエチレン樹脂の融点が120℃以下であることを特徴とする請求項1に記載のガラスチョップドストランドマット。
【請求項3】
結合剤の付着量が8質量%から25質量%の範囲であり、平均ストランド番手が10texから30texの範囲にあり、目付が50g/m2から250g/m2の範囲にあることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のガラスチョップドストランドマット。
【請求項4】
ガラスチョップドストランドをシート状に堆積してシート状堆積物を形成し、該シート状堆積物に結合剤を散布し、その後結合剤を固化して該シート状堆積物のガラスチョップドストランドを互いに結合するガラスチョップドストランドマットの製造方法であって、
請求項1から請求項3の何れかに記載の結合剤を散布することを特徴とするガラスチョップドストランドマットの製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項3の何れかに記載のガラスチョップドストランドマットが、発泡樹脂シートの表皮側に接着されてなることを特徴とする自動車成形天井材。

【図1】
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【公開番号】特開2008−38297(P2008−38297A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−215542(P2006−215542)
【出願日】平成18年8月8日(2006.8.8)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】