説明

ガラス体を製造する方法及びEUVリソグラフィ用の光学部材を製造する方法

【課題】より均一な濃度分布を有する金属ドーパントを含有する石英ガラス体を製造する方法を提供する。
【解決手段】ケイ素化合物と、ドーパントとなる金属を含む化合物と、をバーナーの火炎中で加水分解してガラス微粒子を生成し、生成したガラス微粒子を基材に堆積、成長させる工程を含むガラス体を製造する方法であって、ケイ素化合物のガス、ドーパントとなる金属を含む化合物のガス、並びに、可燃性ガス及び支燃性ガスのうちの一方を含む、原料混合ガスをバーナーの中央に位置する中央ノズル(A)に供給し、可燃性ガス及び支燃性ガスのうちの他方のガスを、バーナーの中央ノズルとは異なるノズル(B)に供給し、さらにノズル(A)、(B)とは異なるノズルに、任意に可燃性ガス又は支燃性ガスを供給することからなり、原料混合ガスの流速は、中央ノズル(A)以外のノズルから供給される可燃性ガス又は支燃性ガスのうち、最大の流速のものの50%以上90%以下であることを特徴とする、ガラス体を製造する方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス体を製造する方法及びEUVリソグラフィ用の光学部材を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス材料を製造する方法及びEUVリソグラフィ用の光学部材を製造する方法に関するいくつかの技術が開示されている。
【0003】
例えば、特開2008−115054号公報(特許文献1)には、半導体・液晶等の製造工程において、超紫外光リソグラフィ(EUVリソグラフィ)のフォトマスクやミラー材等の光学用部材として使用されるチタニア−シリカガラスの製造方法が、開示されている。
【0004】
具体的には、特許文献1には、同心円状多重管バーナの多重管の中心である第1導入管と、該第1導入管の外周に接する第2導入管と、該第2導入管の外周に接する第3導入管のいずれかから、シリカ源の液体原料を気化させたガスまたはチタニア源の液体原料を気化させたガスを別個に供給して、バーナの酸水素火炎中で加水分解し、ターゲット上にガラス微粒子を堆積させた後、加熱透明化処理することを特徴とするチタニア−シリカガラスの製造方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献1には、前記第1導入管からシリカ源の液体原料を気化させたガスを供給し、酸素導入管と水素導入管との間に挟まれた第3導入管からチタニア源の液体原料を気化させたガスを供給すること、且つ、前記第2導入管から水素を供給し、前記第3導入管の外周に接する第4導入管から酸素を供給することが、開示されている。
【0006】
ここで、例えば特許文献1に開示されるような、従来のチタニア−シリカガラスの製造方法においては、シリカ源の液体原料を気化させたガスの流速及びチタニア源の液体原料を気化させたガスの流速は、通常、水素ガスの流速及び酸素ガスの流速よりも大きい値に設定される。これにより、水素ガス及び酸素ガスによるシリカ源の液体原料を気化させたガス及びチタニア源の液体原料を気化させたガスの拡散が低減される。その結果、チタニア−シリカガラスの収率を向上させることが可能になると考えられる。
【0007】
しかしながら、従来のチタニア−シリカガラスの製造方法によって製造されたチタニア−シリカガラスについては、チタニア−シリカガラスにおけるチタンの濃度分布の均一性が低いことがあった。
【0008】
また、チタニア−シリカガラスにおけるチタンの濃度分布は、チタニア−シリカガラスの熱膨張係数の分布と相関する。このため、従来のチタニア−シリカガラスの製造方法によって製造されたチタニア−シリカガラスの熱膨張係数の分布の均一性が低いことがあった。
【0009】
一方、チタニア−シリカガラスをEUVリソグラフィの光学用部材のガラス基板として使用するときには、チタニア−シリカガラスの熱膨張係数の分布は、より高い均一性を有することが要求される。このため、チタニア−シリカガラスをEUVリソグラフィの光学用部材のガラス基板として使用するときには、従来のチタニア−シリカガラスの製造方法によって製造されたチタニア−シリカガラスの熱膨張係数の分布の均一性は、不十分なことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−115054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の一つの目的は、より均一な濃度分布を有する金属ドーパントを含有する石英ガラス体を製造する方法を提供することである。
【0012】
本発明の別の目的は、より均一な熱膨張係数を有するガラス基板を含むEUVリソグラフィ用の光学部材を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、ケイ素化合物と、ドーパントとなる金属を含む化合物と、をバーナーの火炎中で加水分解してガラス微粒子を生成し、生成したガラス微粒子を基材に堆積、成長させる工程を含むガラス体を製造する方法であって、
ケイ素化合物のガス、ドーパントとなる金属を含む化合物のガス、並びに、可燃性ガス及び支燃性ガスのうちの一方を含む、原料混合ガスを前記バーナーの中央に位置する中央ノズル(A)に供給し、
前記可燃性ガス及び前記支燃性ガスのうちの他方のガスを、前記バーナーの前記中央ノズルとは異なるノズル(B)に供給し、
さらにノズル(A)、(B)とは異なるノズルに、任意に可燃性ガス又は支燃性ガスを供給することからなり、
前記原料混合ガスの流速は、前記中央ノズル(A)以外のノズルから供給される可燃性ガス又は支燃性ガスのうち、最大の流速のものの50%以上90%以下である
ことを特徴とする、ガラス体を製造する方法、である。
【0014】
本発明は、また、上記のガラス体を製造する方法にて製造されたガラス体を用いて、EUVリソグラフィ用の光学部材を製造する方法、である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一つの態様によれば、より均一な金属ドーパント濃度分布を有する石英ガラス体が得られる。
【0016】
本発明の別の態様によれば、より均一な熱膨張係数を有するガラス基板を含むEUVリソグラフィ用の光学部材を製造する方法を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明における多孔質ガラス体の製造方法及び多孔質ガラス体からガラス材料を製造する方法の全体を概略的に説明する図である。
【図2】図2は、本発明における多孔質ガラス体の製造方法におけるガスの流れを概略的に説明する図である。
【図3】図3は、本発明における多孔質ガラス体の製造方法の作用及び効果を概略的に説明するための図である。
【図4】図4は、本発明における多孔質ガラス体の製造方法を概略的に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のガラス体の製造方法を説明する。本発明は、ケイ素化合物と、ドーパントとなる金属を含む化合物と、をバーナーの火炎中で加水分解してガラス微粒子を生成し、生成したガラス微粒子を基材に堆積、成長させる工程を含むガラス体を製造する方法である。
このような方法としては、ケイ素化合物と、ドーパントとなる金属を含む化合物と、をバーナーの火炎中で加水分解してガラス微粒子を生成し、生成したガラス微粒子をさらに、透明ガラス化温度以上の温度で加熱しながら、基材に堆積、成長させて、透明ガラスを製造する方法がある(直接法)。
また、ケイ素化合物と、ドーパントとなる金属を含む化合物と、をバーナーの火炎中で加水分解してガラス微粒子を生成し、生成したガラス微粒子を、基材に堆積、成長させて多孔質ガラス体を製造した後、当該多孔質ガラス体を、透明ガラス化温度以上の温度で加熱して透明ガラスを製造する方法がある。多孔質ガラス体を加熱する際に、緻密化温度以上に加熱して緻密化体を得た後、さらに透明ガラス化温度に加熱して、透明ガラス体を得てもよい(スート法)。
以下、後者の方法について詳細に説明するが本発明はこれに限定されない。
【0019】
図1は、本発明における多孔質ガラス体の製造方法及び多孔質ガラス体からガラス材料を製造する方法の全体を概略的に説明する図である。
【0020】
図1に示すような本発明の多孔質ガラス体を製造する方法は、一般的にスート法と呼ばれる方法に従ったものである。
【0021】
まず、図1(a)に示すように、例えば、多重管バーナー11からケイ素化合物のガス、ドーパントとなる金属化合物のガス、など金属ドーパントを含有する石英ガラス体の原料となるガス(以下、原料ガスともいう)と、支燃性ガスと、可燃性ガス(以下、支燃性ガス、可燃性ガスをあわせて反応ガスともいう)などが供給される。また、さらに任意に不燃性ガスが供給される。
【0022】
本発明においては、ケイ素化合物のガス、ドーパントとなる金属化合物のガス、並びに、可燃性ガス及び支燃性ガスのうちの一方を含む、原料混合ガスを前記バーナーの中央に位置する中央ノズル(A)に供給する。これらのガスについて説明する。
【0023】
ケイ素化合物としては、加水分解してSiOを生成しうる化合物(以下、SiO前駆体ともいう)が使用できる。SiO前駆体としては、例えば、塩化ケイ素化合物、フッ化ケイ素化合物、臭化ケイ素化合物、及び、ヨウ化ケイ素化合物のようなハロゲン化ケイ素化合物、並びに、RSi(OR)4−n(ここで、Rは、炭素数1以上4以下のアルキル基、nは、0以上3以下の整数である。なお、複数のRは、互いに同一の又は異なるものである。)によって表されたアルコキシシランが挙げられる。
【0024】
塩化ケイ素化合物としては、例えば、テトラクロロシラン(SiCl)、トリクロロシラン(SiHCl)、ジクロロシラン(SiHCl)、及びモノクロロシラン(SiHCl)が挙げられる。フッ化ケイ素化合物としては、例えば、テトラフルオロシラン(SiF)、トリフルオロシラン(SiHF)、及びジフルオロシラン(SiH)が挙げられる。臭化ケイ素化合物としては、例えば、テトラブロモシラン(SiBr)及びトリブロモシラン(SiHBr)が挙げられる。ヨウ化ケイ素化合物としては、例えば、テトラヨードシラン(SiI)が挙げられる。
【0025】
原料混合ガス全体におけるSiO前駆体ガスの含有率は、好ましくは、7mol%以上27mol%以下、より好ましくは、12mol%以上22mol%以下、及びさらに好ましくは16mol%以上18mol%以下である。
【0026】
ドーパントとなる金属としては、チタンが好ましい。以下、金属ドーパントとしてTiOを含む場合について説明するが本発明はこれに限定されない。ドーパントとなる金属としてTiを含む化合物としては、加水分解してTiOを生成しうる化合物(以下、TiO前駆体ともいう)が使用できる。TiO前駆体としては、例えば、四塩化チタン(TiCl)及び四臭化チタン(TiBr)のようなチタンのハロゲン化物並びにRTi(OR)4−n(ここで、Rは、炭素数1以上4以下のアルキル基。nは、0以上3以下の整数である。なお、複数のRは、互いに同一の又は異なるものである。)によって表されたアルコキシチタンが挙げられる。
【0027】
原料混合ガス全体におけるTiO前駆体ガスの含有率は、好ましくは、0.2mol%以上1mol%以下である。
【0028】
また、原料混合ガス中のSiO前駆体ガス及びTiO前駆体ガスの量の比を調整することによってガラス体(TiO−SiOガラス体)中のTiOの濃度を調節することが可能になる。多孔質ガラス体(多孔質TiO−SiOガラス体)を製造する場合は多孔質ガラス体中のTiOの濃度を調節することが可能になる。
【0029】
可燃性ガスとは、支燃性ガスの存在下、燃焼することができるガスをいい、例えば、水素(H)ガス、並びに、メタン、エタン、プロパン、及びブタンのような炭化水素ガスが挙げられる。水素(H)ガスが好ましい。
【0030】
支燃性ガスとは、可燃性ガスが炎を形成して燃焼するのに必要なガスであり、例えば、酸素(O)ガス、並びに、空気のような窒素(N)ガス及び酸素(O)ガスの混合物が挙げられ、酸素(O)ガスが好ましい。
【0031】
原料混合ガスには、可燃性ガス又は支燃性ガスのいずれかが含まれるが、可燃性ガスが含まれることが特に好ましい。
【0032】
原料混合ガスにおける可燃性ガス又は支燃性ガスの含有率は、好ましくは、10mol%以上90mol%、より好ましくは30mol%以上80mol%以下、及びさらに好ましくは45mol%以上70mol%以下である。
【0033】
また、バーナーに供給される原料ガス、支燃性ガス、可燃性ガス、及びその他のガスからなる全てのガス全体における可燃性ガスの総量に対する支燃性ガスの総量の比は、好ましくは、0.50以上である。この場合には、可燃性ガスを十分に消費することが可能になる。好ましくは、0.55以上1.00以下、より好ましくは0.55以上0.85以下、及びさらに好ましくは0.55以上0.78以下である。
【0034】
本発明においては、原料混合ガスが、SiO前駆体ガス、TiO前駆体ガス、及び可燃性ガスを含むことが好ましい。この場合には、SiO前駆体ガス及びTiO前駆体ガスが存在する領域における支燃性ガスの量に対する可燃性ガスの量の比が高くなる傾向がある。それに応じて、SiO前駆体ガス及びTiO前駆体ガスの熱酸化反応と比較して、SiO前駆体ガス及びTiO前駆体ガスの加水分解反応が優位になる傾向がある。その結果、SiO前駆体ガス及びTiO前駆体ガスから生成する粒子の大きさを増加させることが可能になる。また、多孔質ガラス体(多孔質TiO−SiOガラス体)を製造する場合は、その嵩密度を増加させることが可能となる。
【0035】
本発明において、原料混合ガスが不燃性ガスをさらに含むことが好ましい。
【0036】
不燃性ガスは、原料混合ガス、可燃性ガス及び支燃性ガスを反応させるときに燃焼しない(酸化されない)材料(不燃性の材料)のガスである。
【0037】
不燃性ガスとしては、例えば、ヘリウム、ネオン、及びアルゴンのような希ガス、窒素(N)ガス、二酸化炭素のガス、水蒸気、並びに、フッ化水素のガス、塩化水素のガス、及び臭化水素のガスのようなハロゲン化水素のガスが挙げられる。不燃性ガスのコストの低減の観点から、不燃性ガスは、好ましくは、アルゴン、窒素ガス、又は二酸化炭素のガスである。また、多重管バーナー11から発生する火炎13の温度のより容易な制御の観点から、不燃性ガスは、好ましくは、窒素ガス又は二酸化炭素のガスのような(単原子分子の比熱と比べてより高い比熱を有する)多原子分子のガスである。窒素ガスが特に好ましい。
【0038】
原料混合ガスが不燃性ガスを含む場合には、原料混合ガスに含まれる不燃性ガスの割合を調整することによって、原料混合ガス、可燃性ガス、及び支燃性ガスを反応させる温度、すなわち、原料ガスが存在する領域における多重管バーナー11から発生する火炎13の温度を、より容易に制御することが可能になる。
【0039】
それによって、得られるガラス体のTiOの濃度分布の均一性をより容易に向上させることが可能になる。多孔質ガラス体(多孔質TiO−SiOガラス体)を製造する場合は、多孔質ガラス体に含有されるTiOの濃度分布の均一性をより容易に向上させることが可能になるので、最終的に得られるTiOを含有する石英ガラス体におけるTiOを含有する結晶の析出を低減する又は予防できる。
加えて、原料混合ガスの流速の制御が容易になるため、SiO前駆体ガス及びTiO前駆体ガスの反応の効率を向上させることが可能になる。
【0040】
原料混合ガスに含まれる不燃性ガスの割合は、好ましくは、5mol%以上70mol%以下、より好ましくは10mol%以上50mol%以下、及びさらに好ましくは15mol%以上35mol%以下である。原料混合ガスに含まれる不燃性ガスの割合が、5mol%以上70mol%以下であるときには、多重管バーナー11から発生する火炎13の好適な温度をより容易に実現することが可能になる。
その結果、ガラス体(TiO−SiOガラス体)に含有されるTiOの濃度分布の均一性をより容易に向上させることが可能になる。多孔質ガラス体(多孔質TiO−SiOガラス体)を製造する場合は多孔質ガラス体に含有されるTiOの濃度分布の均一性をより容易に向上させることが可能になるので、最終的に得られるTiOを含有する石英ガラス体におけるTiOを含有する結晶の析出を低減する又は予防できる。
【0041】
原料混合ガスは、SiO前駆体ガス、TiO前駆体ガス、及び可燃性ガス又は支燃性ガス(並びに不燃性ガス)を予め混合器によって混合して調製してもよい。この場合には、原料混合ガスにおけるSiO前駆体ガス、TiO前駆体ガス、及び可燃性ガス又は支燃性ガス(並びに不燃性ガス)の割合を均一にでき、製造されるTiOを含む石英ガラス体のTiOの濃度分布の均一性をより容易に向上できる。混合器としては、例えば、予混合タンク、スタティック・ミキサー、フィルターのハウジング、及びジェット噴流を発生させる細い配管が挙げられる。
【0042】
また上記ガスは、好ましくは、75℃以上の温度で、より好ましくは、150℃以上の温度で、及びさらに好ましくは180℃以上の温度で、混合される。この場合には、原料ガスに含まれるSiO前駆体ガス及びTiO前駆体ガスの液化を低減する又は防止することが可能になる。また上記ガスは、好ましくは、250℃以下の温度で混合される。
【0043】
図1は本発明の方法で多孔質ガラス体を製造した場合の図である。図1(a)に示すように、多重管バーナー11から供給される原料混合ガス、反応ガスおよび不燃性ガスからなるガスは、回転する種棒12に方向付けられる。種棒12としては、例えば、特公昭63−24937号公報に記載されるような“多孔質石英ガラス母材製造用種棒”が挙げられる。多重管のバーナー11の中心軸は、種棒12の中心軸から外れていることが好ましい。
【0044】
また、多重管バーナー11から種棒12へ向かって供給される原料混合ガス及び反応ガス中の可燃性ガス及び支燃性ガスを反応させることによって火炎13を形成すると共に、火炎13中で可燃性ガス又は支燃性ガスから生じる水によって、SiO前駆体ガス及びTiO前駆体ガスを加水分解させる。そして、これらの反応によって形成されるSiO微粒子、TiOの微粒子が、種棒12に堆積する。その結果、種棒12にTiO−SiOからなる多孔質の母材14aが形成される。
【0045】
次に、図1(b)に示すように、得られた多孔質の母材14aから種棒12を除去した後、多孔質の母材14aの緻密化温度まで加熱することによって、緻密化されたガラス母材14bを得る。真空中又は不活性ガスの雰囲気中で行うことが好ましい。このとき1250〜1550℃で加熱することが好ましい。
【0046】
次に、図1(c)に示すように、得られた緻密化された母材14bを緻密化された母材14bの透明ガラス化温度まで加熱することによって、透明ガラス体14cを得る。このとき1350〜1800℃で加熱することが好ましい。
【0047】
次に、図1(d)に示すように、得られた透明ガラス体14cを、透明ガラス体14cの軟化点以上の温度まで加熱すると共に成形することによって、所望の形状を有する成形されたガラス体を得る。成形されたガラス体は、冷却することによって、TiOを含有する石英ガラス14dが得られる。このとき1500〜1800℃で加熱することが好ましい。
【0048】
最後に、図1(e)に示すように、得られたTiOを含有する石英ガラスを板の形状に切り出すことによって、ガラス基板15を得る。
【0049】
本発明において、中央ノズル(A)から供給される原料混合ガスが可燃性ガスを含む場合には、中央ノズル(A)とは異なる少なくとも1つのノズル(B)から支燃性ガスを供給する。また、原料混合ガスが支燃性ガスを含む場合には、中央ノズル(A)とは異なる少なくとも1つのノズル(B)から可燃性ガスを供給する。いずれの場合においても、(A)、(B)とは異なる1つ以上のノズルからさらに可燃性ガス又は支燃性ガスを供給してもよい。可燃性ガス又は支燃性ガスが供給される中央ノズル(A)以外のノズルの数は特に限定されないが、1〜10程度であることが考えられる。
【0050】
本発明においては、前記原料混合ガスの流速は、前記中央ノズル(A)以外のノズルから供給される可燃性ガス又は支燃性ガスのうち、最大の流速のものの50%以上90%以下であることを特徴とする。
【0051】
なお、可燃性ガスまたは可燃性ガスを含む混合ガスと、支燃性ガス又は支燃性ガスを含む混合ガスとは、隣接するノズルから供給することは好ましくない。それぞれのガスを供給するノズルとノズルとの間に、不燃性ガスを供給するノズルが設けられることが好ましい。これにより、可燃性ガスを含むガスの流れと支燃性ガスを含むガスの流れを分離することができ、バーナーのノズルにおける逆火の発生及びバーナーのノズルの損傷を低減する又は予防することが可能になる。
【0052】
本発明において、多重管構造を有するバーナーを用いることが好ましい。以下に図2を用いて、多重管構造を有するバーナーについて説明する。図2は、本発明の方法で多孔質ガラス体を製造した場合の多孔質ガラス体を製造するためのガスの流れを概略的に説明する図である。
【0053】
図2に示す多重管バーナー21は、図1に示す多重管バーナー11の先端の拡大図である。本発明の第一の実施形態において、多重管バーナーは、複数の管で構成されたバーナーであって、バーナーを構成する中央の管の内側の空間及びバーナーの複数の管の間における空間が、バーナーのノズルを形成するバーナーである。また、図2に示す多重管バーナー21は、実質的に同軸の(同心円状の)五つの管21a、21b、21c、21d、21eで構成される五重管バーナーである。ここで、多重管バーナー21の中央の管21aは、中央ノズルを形成する。また、多重管バーナー21の中央の管21a及び多重管バーナー21の四つの外周の管21b、21c、21d、21eの間における空間は、外周のノズルを形成する。すなわち、中央の管21aと中央の管21aの周囲に設けられた第一の外周の管21bとの間における空間は、第一の外周のノズルを形成する。第一の外周の管21bと第一の外周の管21bの周囲に設けられた第二の外周の管21cとの間における空間は、第二の外周のノズルを形成する。第二の外周の管21cと第二の外周の管21cの周囲に設けられた第三の外周の管21dとの間における空間は、第三の外周のノズルを形成する。第三の外周の管21dと第三の外周の管21dの周囲に設けられた第四の外周の管21eとの間における空間は、第四の外周のノズルを形成する。
【0054】
なお、図2においては、多重管バーナー21を示したが、多孔質ガラス体を製造するためのガスを供給する手段は、多重管バーナーに限定されるものではなく、複数のノズルを有する他のタイプのバーナーを用いることも可能である。また多重管を構成するバーナーは5重管には限られない。
【0055】
本発明においては、図2に示すように、好ましくは、多重管バーナー21の中央ノズルに原料混合ガス22を供給すると共に多重管バーナー21の外周のノズル(第一の外周のノズル、第二の外周ノズル、第三の外周のノズル、及び第四の外周のノズル)に反応ガスや不燃性ガス23を供給する。この場合には、SiO前駆体ガス及びTiO前駆体ガスの火炎加水分解によって得られる微粒子を種棒12により均一に堆積させることが可能になる。
【0056】
ここで、原料混合ガス22は、SiO前駆体ガスとしてのSiCl、TiO前駆体ガスとしてのTiCl、可燃性ガスとしてのHガス、及び不燃性ガスとしてのNガスを含む。
【0057】
一方、多重管バーナー21の第一の外周のノズルから可燃性ガスとしてのHガスが供給され、多重管バーナー21の第三の外周のノズルから支燃性ガスとしての第一のOガスが供給され、かつ、多重管のバーナー21の第四の外周のノズルから支燃性ガスとしての第二のOガスが供給される。
【0058】
このように、外周ノズルから可燃性ガスと支燃性ガスの両方が供給される場合は、多重管バーナー21の別個のノズルから供給される。この場合は、多重管バーナー21のノズル付近における可燃性ガス及び支燃性ガスの燃焼を低減する又は予防することが可能になる。その結果、多重管バーナー21のノズルにおける逆火の発生及び多重管バーナー21のノズルの損傷を低減する又は予防することが可能になる。
【0059】
また、多重管バーナー21の第二の外周のノズルから不燃性ガスとしてのNガスを供給する。すなわち、Hガスを供給する第一の外周ノズルと第一のOガスを供給する第三の外周ノズルとの間に設けられた、多重管バーナー21の第二の外周ノズルに不燃性ガスとしてのNガスが供給される。
【0060】
そして、多重管バーナー21から供給される原料混合ガス22及び反応ガスが反応する。より詳しくは、原料混合ガス22に含まれるHガス、外周ノズルから供給されるHガス、並びに、第一のOガス及び第二のOガスの反応によって火炎(酸水素火炎)が発生する。そして、原料混合ガス22に含まれるSiCl及びTiClが、原料混合ガス22に含まれるHガス、外周ノズルから供給されるHガス、並びに、外周ノズルから供給される第一のOガス及び第二のOガスによって加水分解反応を起こすと考えられる。その結果、SiO微粒子、TiO微粒子が形成され、図1(a)に示すように種棒12に堆積すると共に多孔質の母材14aを生成する。
【0061】
本発明のガラス体を製造する方法においては、中央ノズルから供給される原料混合ガスの流速は、中央ノズル以外のノズルから供給される可燃性ガス又は支燃性ガスのうち、最大の流速のものの50%以上90%以下であることを特徴とする。好ましくは、原料混合ガスの流速は、中央ノズル以外のノズルから供給される可燃性ガス又は支燃性ガスのうち、最大の流速の60%以上80%以下である。
【0062】
例えば、図2に示すような、多重管バーナー21から供給されるガスの流速については、外周ノズルから供給されるHガスの流速は、第一のOガスの流速よりも大きく、第一のOガスの流速は、第二のOのガスの流速よりも大きい。すなわち、外周ノズルから供給される反応ガスの流速のうちHガスの流速が最大の流速である。そして、原料混合ガス22の流速は、このHガスの流速の50%以上90%以下となる。
【0063】
ここで、原料混合ガス22の流速が、外周ノズルから供給される反応ガスの流速のうち最大のもの(この場合、Hガス)の流速の50%以上であるため、Hガスにより、原料混合ガス22に含まれるSiCl及びTiClの拡散を低減することが可能になる。その結果、加水分解反応によって形成されるガラス微粒子を、より効率的に種棒12に堆積させることが可能になる。結果として、多孔質の母材14aの収率を相対的に向上させることが可能になる。
【0064】
一方、原料混合ガス22の流速が、外周ノズルから供給される反応ガスの流速のうち最大のものの流速の90%以下であるため、酸水素火炎におけるSiCl及びTiClの滞留時間が相対的に長くなる。その結果、SiCl及びTiClの加水分解反応のための時間が相対的に長くなる。それに応じて、SiCl及びTiClの加水分解反応をより良好に達成することが可能になる。結果として、より均一な濃度分布を有するチタンを含有する多孔質の母材14aを得ることが可能になる。
原料混合ガス22と外周ノズルから供給される反応ガスの流速をともに低下させて、酸水素火炎におけるSiCl及びTiClの滞留時間を相対的に長くしようとする場合、堆積面に到達する前に可燃性ガスの燃焼が完了するため、堆積面での火炎温度が大きく低下する。そのため、多孔質体の焼き締め効果が低下するため、多孔質体の強度が低下し、合成中に多孔質体が崩壊してしまう。堆積面の焼き締め効果を保ったまま、SiClとTiClの加水分解反応をより良好に達成するためには、原料混合ガスの流速を外周ノズルから供給される反応ガスの流速よりも遅くした方がよい。
【0065】
図3は、本発明の方法で多孔質ガラス体を製造した場合の多孔質ガラス体の製造方法の作用及び効果を概略的に説明するための図である。
【0066】
原料混合ガスの流速が、反応ガスの流速のうち最大の流速(図2においては、Hガスの流速)の90%を超える場合には、酸水素火炎33におけるSiCl及びTiClの滞留時間が相対的に短くなる。
【0067】
図3(a)に示すような、多重管バーナー31の中央ノズルの中心軸付近における多孔質の母材34aの位置Aでは、多重管のバーナー31から多孔質の母材34aの位置Aまでの距離が相対的に短い。このため、図3(a)に示すような、多孔質の母材34aの位置Aでは、SiCl及びTiClの加水分解反応のための時間が不足することがある。一般に、TiClの加水分解反応の速度は、SiClの加水分解反応の速度よりも大きいため、TiClの加水分解反応が、SiClの加水分解反応よりも優先的に起こる。よって、多孔質の母材34aの位置Aでは、TiClの加水分解反応と比較して、SiClの加水分解反応が相対的に十分に進行せず、酸水素火炎33中での未反応のSiClの割合が高くなることがある。その結果、図3(b)に示すように、多孔質の母材34aの位置Aでは、多孔質の母材34aに含まれるTiOの濃度が相対的に高くなる。
【0068】
一方、図3(a)に示すような、多重管バーナー31の中央ノズルの中心軸から離れた多孔質の母材34aの位置Bでは、多重管バーナー31から多孔質の母材34aの位置Bまでの距離が相対的に長い。このため、図3(a)に示すような、多孔質の母材34aの位置Bでは、SiCl及びTiClの加水分解反応のための時間が相対的に長くなる。よって、多孔質の母材34aの位置Bでは、多孔質の母材34aの位置AにおけるよりもSiClの加水分解反応がより進行することになるため、酸水素火炎33中での未反応のSiClの割合が相対的に低くなることがある。その結果、図3(b)に示すように、多孔質の母材34aの位置Bでは、多孔質の母材34aに含まれるTiOの濃度が相対的に低くなる。
【0069】
このようにして、仮に原料混合ガスの流速が、反応ガスの流速のうち最大の流速の90%を超える場合には、図3(b)に示すように、多孔質の母材34aの位置に対する多孔質の母材34aに含有されるTiOの濃度(分布)の変動が相対的に大きくなることがある。
【0070】
これに対して、本発明のガラス体の製造方法においては、原料混合ガスの流速が、反応ガスの流速のうち最大の流速(図2においては、Hガスの流速)の90%以下である。このため、酸水素火炎33におけるSiCl及びTiClの滞留時間が相対的に長くなる。それに応じて、酸水素火炎33中でのSiCl及びTiClの加水分解反応をより良好に達成することが可能になる。すなわち、酸水素火炎33中での未反応のSiClの割合を低減することが可能になる。その結果、図3(a)に示すような、多重管バーナー31の中央ノズルの中心軸付近における多孔質の母材34aの位置A及び多重管バーナー31の中央ノズルの中心軸から離れた多孔質の母材34aの位置Bにおける未反応のSiClの割合の変動が低減される。それに応じて、多孔質の母材34aの位置A及び多孔質の母材34aの位置Bにおける多孔質の母材34aに含まれるチタンの濃度(分布)の変動は、低減されることになる。
【0071】
このようにして、原料混合ガスの流速が、反応ガスの流速のうち最大の流速の90%以下である場合には、図3(c)に示すように、多孔質の母材34aの位置に対する多孔質の母材34aに含有されるTiOの濃度(分布)の変動が低減される。すなわち、より均一な濃度分布を有するTiOを含有する多孔質の母材34aが得られる。
【0072】
また、多孔質の母材34aに含有されるTiOの濃度は、TiOを含有する石英ガラスの熱膨張係数と相関する。本発明の第一の実施形態によれば、より均一な濃度分布を有するチタンを含有する多孔質の母材34aが得られるため、より均一な熱膨張係数を有するTiOを含有する石英ガラスが得られる。
【0073】
以上のように、本発明の第一の実施形態によるガラス材料を製造する方法においては、原料混合ガスの流速は、反応ガスの流速のうち最大の流速の50%以上90%以下であるので、より均一な濃度分布を有する(TiOのような)金属ドーパントを含有するガラス材料を製造することが可能になる。また、より均一な熱膨張係数を有するガラス材料を製造することが可能になる。
【0074】
また、原料混合ガスの流速が、反応ガスの流速のうち最大の流速の60%以上80%以下である場合には、より均一な濃度分布を有する(チタンのような)金属を含有するガラス材料をより容易に製造することが可能になる。また、より均一な熱膨張係数を有するガラス材料をより容易に製造することが可能になる。
【0075】
TiOを含有する石英ガラス14dにおけるTiOの濃度分布の変動(ΔTiO)は、好ましくは0.20重量%以下、より好ましくは0.15重量%以下、さらに好ましくは0.13重量%以下、及び最も好ましくは0.10重量%以下である。
【0076】
また、TiOを含有する石英ガラス14dの熱膨張係数の分布の変動(ΔCTE)は、TiOを含有する石英ガラス14dにおける酸化チタンの濃度分布の変動(ΔTiO)に対応して、好ましくは11.5重量ppb/℃以下、より好ましくは8.6重量ppb/℃以下、さらに好ましくは7.5重量ppb/℃以下、及び最も好ましくは5.7重量ppb/℃以下である。
【0077】
上述したように、本発明の第一の実施形態によれば、より均一な熱膨張係数を有するTiOを含有する石英ガラスが得られるため、図1(e)に示すようなガラス基板15の熱膨張係数の分布の均一性もまた高い。このため、ガラス基板15に超紫外(EUV:Extreme Ultra Violet)光を照射するときであっても、ガラス基板15の歪みは、小さいと予想される。このため、ガラス基板15を、EUVリソグラフィ用の露光装置に用いられる光学部材(EUVリソグラフィ用の光学部材)の基板に使用することが可能である。EUVリソグラフィ用の光学部材としては、例えば、EUVリソグラフィ用の露光装置に用いられるミラー、マスク、及びマスクを製造するためのマスクブランクが挙げられる。なお、EUVは、軟X線の波長領域及び真空紫外の波長領域(0.2nm以上100nm以下の波長領域)を意味する。
【0078】
本発明のガラス体の製造方法において、中央ノズル(A)とノズル(B)以外に、、可燃性ガス、支燃性ガス、可燃性ガスを含む混合ガスまたは支燃性ガスを含む混合ガスを供給するノズルが1以上存在し、それらのガスのうち、前記中央ノズル(すなわち、、原料混合ガス)から空間的に最も離れたノズルから供給される反応ガスの流速は、原料混合ガスの流速よりも小さいことが好ましい。さらに、好ましくは95%以下である。
【0079】
例えば、図2に示すように、原料混合ガス22が供給される多重管バーナー21の中央ノズルから空間的に最も離れた第四の外周のノズルから供給される第二のOガスの流速は、原料混合ガス22の流速の30%以上95%以下である。
【0080】
この場合には、原料混合ガス22に含まれるSiO前駆体ガス及びTiO前駆体ガスの拡散を低減することが可能になる。その結果、TiOを含む石英ガラスの収率を向上させることが可能になる。
【0081】
本発明のガラス体の製造方法において、好ましくは、不燃性ガスの流速は、原料混合ガス及び反応ガスの流速よりも小さい。
【0082】
例えば、図2に示すように、多重管バーナー21の第二の外周のノズルから供給されるNガスの流速は、原料混合ガス22、Hガス、第一のOガス、及び第二のOガスの流速よりも小さい。
【0083】
この場合には、原料混合ガス及び反応ガスの反応の効率を向上させることが可能になる。その結果、TiOを含有する石英ガラスの収率を向上させることが可能になる。
【0084】
本発明のガラス体の製造方法において、原料混合ガスの流速は、好ましくは、1m/秒以上5m/秒以下、より好ましくは、2m/秒以上3m/秒以下である。原料混合ガスの流速が、1m/秒以上5m/秒以下であるときには、SiO前駆体ガス及びTiO前駆体ガスをより良好に反応させることが可能になる。また、SiO微粒子、TiO微粒子をより良好に種棒12に堆積させることが可能になる。そのため、TiOを含有するシリカガラスをより安定に製造することが可能になる。
【0085】
本発明のガラス体の製造方法において、例えば、TiOを含有するガラス体の質量が50kg以上の場合に、本発明の効果が顕著である。ただし、50kg未満であっても適用可能である。
多孔質ガラス体を製造した後、透明ガラス化体を製造する場合は、例えば、TiOを含有する多孔質ガラス体の質量は、50kg以上である。この場合には、より均一な濃度分布を有するチタンを含有する50kg以上の(大きいサイズを有する)TiOを含有する石英ガラスを提供することが可能になる。また、より均一な熱膨張係数を有する50kg以上の(大きいサイズを有する)TiOを含有する石英ガラスを提供することが可能になる。
上限は特にないが、TiOを含有するガラス体の質量は、500kg以下、特に200kg以下が好ましい。
【0086】
次に、本発明の第二の実施形態によるガラス材料を製造する方法を説明する。
【0087】
図4は、本発明の第二の実施形態によるガラス材料を製造する方法を概略的に説明する図である。
【0088】
本発明の第二の実施形態によるガラス材料を製造する方法においては、本発明の第一の実施形態によるガラス体の製造方法において用いた五重管のバーナーである多重管バーナー21の代わりに、図4に示すような三重管のバーナーである多重管バーナー41を用いる。
【0089】
図4に示すような多重管バーナー41は、中央ノズル、中央ノズルと同心円状に配置され、中央ノズルに隣接する第一の外周のノズル、及び中央ノズルと同心円状に配置され、第一の外周のノズルと隣接する第二の外周のノズルを含む。そして、多重管バーナー41の中央ノズルから原料混合ガスを供給する。原料混合ガスは、例えば、SiO前駆体ガスとしてのSiCl、TiO前駆体ガスとしてのTiCl、可燃性ガスとしてのH、及び不燃性ガスとしてのNを含む。また、多重管バーナー41の第一の外周のノズルから不燃性ガスとしてのNガスを供給する。さらに、多重管バーナー41の第二の外周のノズルから支燃性ガスとしてのOガスを供給する。
【0090】
ここで、反応ガスは、多重管のバーナー41の第二の外周のノズルから供給される支燃性ガスとしてのOガスのみである。この場合には、反応ガスの流速のうち最大の流速は、支燃性ガスとしてのOガスの流速に該当する。
【0091】
そして、原料混合ガスの流速は、反応ガスの流速のうち最大の流速に該当する支燃性ガスとしてのOガスの流速の50%以上90%以下、及び好ましくは、60%以上80%以下である。
【0092】
次に、本発明の第三の実施形態によるEUVリソグラフィ用の光学部材を製造する方法を説明する。
【0093】
まず、例えば、本発明の上記の製造方法を用いてTiOを含有する石英ガラスのガラス基板を製造する。すなわち、ケイ素化合物と、ドーパントとなる金属を含む化合物と、をバーナーの火炎中で加水分解してガラス微粒子を生成し、生成したガラス微粒子をさらに、透明ガラス化温度以上の温度で加熱しながら、基材に堆積、成長させて、透明ガラス体を製造する。
または、ケイ素化合物と、ドーパントとなる金属を含む化合物と、をバーナーの火炎中で加水分解してガラス微粒子を生成し、生成したガラス微粒子を、基材に堆積、成長させて多孔質ガラス体を製造した後、当該多孔質ガラス体を、、緻密化温度以上に加熱して緻密化体を得た後、さらに透明ガラス化温度に加熱して、透明ガラス体を製造する。
このようにして得られた透明ガラス体を軟化点以上の温度で加熱して所望の形状に成形した後、所望の大きさ、形状に切断してガラス基板を製造する。
【0094】
次に、ガラス基板に複数の第一の誘電体の層及び複数の第二の誘電体の層を交互に積層する。ここで、第二の誘電体の層の屈折率は、第一の誘電体の層の屈折率と異なる。例えば、複数の第一の誘電体の層及び複数の第二の誘電体の層は、それぞれ、複数のMoの層及び複数のSiの層である。これにより、ガラス基板に交互に積層された複数の第一の誘電体の層及び複数の第二の誘電体の層からなる積層体を形成する。積層体は、特定の波長のEUV光を反射する反射多層膜を有する。
【0095】
このようにして、EUVリソグラフィ用の露光装置に用いられるミラーやマスク用のガラス基板を製造することが可能になる。すなわち、EUVリソグラフィ用の露光装置に用いられるミラーは、ガラス基板並びにガラス基板に交互に積層された複数の第一の誘電体の層及び複数の第二の誘電体の層からなる積層体を有する。
【0096】
次に、必要により得られた積層体に保護層を設ける。保護層は、交互に積層された複数の第一の誘電体層及び複数の第二の誘電体層からなる積層体をエッチングから保護する。
【0097】
次に、積層体に設けられた保護層に、さらにEUV光を吸収する光吸収層を設ける。光吸収層は、例えば、Taの層又はCrの層であることもある。光吸収層は、特定の波長のEUV光を吸収する。
【0098】
次に、光吸収層にフォトレジスト層を設ける。
【0099】
このようにして、EUVリソグラフィ用の露光装置に用いられるマスクを製造するためのマスクブランクを製造することが可能になる。すなわち、EUVリソグラフィ用の露光装置に用いられるマスクを製造するためのマスクブランクは、ガラス基板並びにガラス基板の上に交互に積層された複数の第一の誘電体層の層及び複数の第二の誘電体の層、保護層、光吸収層、及びフォトレジスト層を含む。
【0100】
次に、フォトレジスト層をパターニングする。すなわち、フォトレジスト層に紫外光を照射することによって、フォトレジスト層に所定のパターンを描画する。次に、パターンが描画されたフォトレジスト層を現像液で現像することによって、フォトレジスト層をパターニングする。これにより、パターニングされたフォトレジスト層を形成する。
【0101】
次に、パターニングされたフォトレジスト層 のパターンに従って、保護層の上に設けられた光吸収層をエッチングする。これにより、保護層の上にエッチングされた光吸収層及びパターニングされたフォトレジスト層を形成する。
【0102】
最後に、溶剤を用いて、パターニングされたフォトレジスト層を溶解させることによって、エッチングされた光吸収層からパターニングされたフォトレジスト層を除去する。
【0103】
このようにして、EUVリソグラフィ用の露光装置に用いられるマスク(又はミラー)を製造することが可能になる。すなわち、EUVリソグラフィ用の露光装置に用いられるマスク(又はミラー)は、ガラス基板並びにガラス基板の上に交互に積層された複数の第一の誘電体層の層及び複数の第二の誘電体の層、保護層、及びパターンニングされた光吸収層を含む。
【0104】
本発明の第三の実施形態によれば、ガラス基板が、本発明の第一の実施形態又は本発明の第二の実施形態によるガラス材料を製造する方法を用いて、製造されるので、より均一な熱膨張係数を有するガラス基板を含むEUVリソグラフィ用の光学部材を製造する方法を提供することが可能になる。
【0105】
[実施例]
次に、本発明の実施例を説明する。
【0106】
(実施例1)
75℃に保たれた予混合タンクの異なる口を通じて13.1mol%のSiClのガス、0.5mol%のTiClのガス、61.4mol%のHガス、及び25mol%のNガスを導入し、これらのガスを、予混合タンク内においてガス濃度が均一になるように拡散及び混合した。その後、配管の温度を徐々に上昇させて、200℃に加熱したガス混合物(原料混合ガス)をアプリオリ社製スタティック・ミキサー、ポール社製ガスフィルターを通じて多重管バーナー(11重管)の中央ノズルに供給した。ガスの流速は2.4m/秒であった。
【0107】
多重管バーナーの中央ノズルに隣接する第一の外周ノズルにはHガスを供給したが、その流速は、多重管バーナーのノズルに供給された全てのガスのうち最も流速が高く、3.4m/秒であった。
【0108】
第一の外周ノズルに隣接する第二の外周ノズルにさらに隣接する第三の外周ノズルと、第三の外周ノズルに隣接する第四の外周ノズルにはOガスを供給したが、その流速は多重管バーナーのノズルに供給された全てのガスのうち二番目と三番目に流速が高く、各々2.0m/秒と、0.9m/秒であった。第二の外周ノズルにはシールガスとしてNガスを供給した。その流速は、0.5m/秒であった。
【0109】
多重管バーナーの中央ノズルに供給される原料混合ガスの流速は、多重管バーナーの中央ノズル以外のノズルから供給される可燃性ガスまたは支燃性ガスのうち最も流速の高いガス(第一の外周ノズルから供給されるHガス)の流速の71%であった。
【0110】
この条件での酸水素火炎におけるSiCl及びTiClの加水分解反応により約300mmの直径及び約500mmの長さを有する質量約10kgのTiO−SiO多孔質ガラス体を製造した。
【0111】
次に、得られた多孔質TiO−SiOガラス体をメタル化炉内で真空条件において1400℃まで昇温してTiO−SiO緻密体を得た(緻密化工程)。
【0112】
得られたTiO−SiO緻密体に1660℃における2時間の熱処理を施して、TiO−SiO透明ガラス体を得た(ガラス化工程)。
【0113】
得られたTiO−SiO透明ガラス体に、さらに1690℃における60時間の熱処理を施して、TiO−SiO透明ガラス体をブロック形状に成形した(成形工程)。
【0114】
成形したTiO−SiOガラス体を1000℃まで降温させ、950℃まで10℃/時及びその後900℃まで5℃/時の降温速度で徐冷し、900℃で70時間保持し、室温まで自然冷却して、TiOを含有する石英ガラス材料を得た(徐冷工程)。
【0115】
得られたTiOを含有する石英ガラス材料を6.35mmの厚さを有する152mm四方の板状にスライスした。スライスしたガラス材料の対角線の方向に平行な二辺及び垂直な二辺を有する20mm四方の板状のサンプルを7点切り出し、各々のサンプルに対して蛍光X線分析を実施してTiO濃度を測定した。各々のサンプルに対して測定されたTiO濃度の平均値は、6.7重量%であった。また、各々のサンプルに対して測定されたTiO濃度の最大値及び最小値の差ΔTiO値は、0.13重量%であった。
【0116】
(比較例1)
多重管バーナーの中央ノズルに供給される原料混合ガスの流速を、多重管バーナーの第一の外周ノズル供給されるHガス(多重管バーナーの中央ノズル以外のノズルから供給される可燃性ガスまたは支燃性ガスのうち最も流速の高いガスに相当する)の流速の97%になるように調整した(多重管バーナーの中央ノズルに供給される原料混合ガスの流速を3.3m/秒に調整した)以外は、実施例1と同様にして質量約10kgのTiOを含有する石英ガラス材料を製造し、そのTiO濃度を測定した。TiO濃度の平均値及びΔTiOの値は、それぞれ、7.0重量%及び0.47重量%であった。
【0117】
(比較例2)
実施例1において、多重管バーナーの中央ノズルに供給される原料混合ガスの流速を、多重管バーナーの第一の外周ノズル供給されるHガス(多重管バーナーの中央ノズル以外のノズルから供給される可燃性ガスまたは支燃性ガスのうち最も流速の高いガスに相当する)の流速の41%になるように調整した(多重管バーナーの中央ノズルに供給される原料混合ガスの流速を1.4m/秒に調整した)以外は、実施例1と同様にしてTiO−SiOガラス体を製造しようとした。しかしながら、十分な大きさ及び適切な形状を有するTiO−SiOガラス体を得ることができなかった。また、TiO−SiOガラス体を形成するための種棒を引き上げた際に、得られたTiO−SiOガラス体は、崩壊した。
【0118】
以上、本発明の実施形態及び実施例を具体的に説明してきたが、本発明は、これらの実施形態及び実施例に限定されるものではなく、これら本発明の実施形態及び実施例を、本発明の主旨及び範囲を逸脱することなく、変形又は変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明の実施形態を、ガラス材料を製造する方法及びEUVリソグラフィ用の光学部材を製造する方法に利用することができる可能性がある。
【符号の説明】
【0120】
11,21,31,41 多重管バーナー
12 種棒
13 火炎
14a,34a 多孔質の母材
14b 緻密化された母材
14c 透明ガラス体
14d TiOを含有する石英ガラス
15 ガラス基板
21a 中央の管
21b 第一の外周の管
21c 第二の外周の管
21d 第三の外周の管
21e 第四の外周の管
22 原料混合ガス
23 反応ガス、不燃性ガス
33 酸水素火炎

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素化合物と、ドーパントとなる金属を含む化合物と、をバーナーの火炎中で加水分解してガラス微粒子を生成し、生成したガラス微粒子を基材に堆積、成長させる工程を含むガラス体を製造する方法であって、
ケイ素化合物のガス、ドーパントとなる金属を含む化合物のガス、並びに、可燃性ガス及び支燃性ガスのうちの一方を含む、原料混合ガスを前記バーナーの中央に位置する中央ノズル(A)に供給し、
前記可燃性ガス及び前記支燃性ガスのうちの他方のガスを、前記バーナーの前記中央ノズルとは異なるノズル(B)に供給し、
さらにノズル(A)、(B)とは異なるノズルに、任意に可燃性ガス又は支燃性ガスを供給することからなり、
前記原料混合ガスの流速は、前記中央ノズル(A)以外のノズルから供給される可燃性ガス又は支燃性ガスのうち、最大の流速のものの50%以上90%以下である
ことを特徴とする、ガラス体を製造する方法。
【請求項2】
可燃性ガスまたは可燃性ガスを含む混合ガスを供給するノズルと、支燃性ガスまたは支燃性ガスを含む混合ガスを供給するノズルとの間に、不燃性ガスを供給するノズルを設けることを特徴とする、請求項1に記載のガラス体を製造する方法。
【請求項3】
中央ノズル(A)とノズル(B)以外に、可燃性ガス、支燃性ガス、可燃性ガスを含む混合ガスまたは支燃性ガスを含む混合ガスを供給するノズルが1以上存在し、それらのガスのうち、前記中央ノズルから空間的に最も離れたノズルから供給されるガスの流速が、前記原料混合ガスの流速の95%以下である、請求項1または2に記載のガラス体を製造する方法。
【請求項4】
前記バーナーが多重管構造を有するバーナーである、請求項1〜3のいずれか一項に記載のガラス体を製造する方法。
【請求項5】
前記多重管構造を有するバーナーは、前記中央ノズル、前記中央ノズルを囲む第一の外周のノズル、前記第一の外周のノズルを囲む第二の外周のノズル、及び前記第二の外周のノズルを囲む第三の外周のノズルを含み、
前記原料混合ガスが可燃性ガスを含む混合ガスであり、かつ、当該原料混合ガスを、前記多重管構造を有するバーナーの前記中央ノズルに供給し、
前記第一の外周ノズルに可燃性ガスを供給し、
前記第二の外周ノズルに不燃性ガスを供給し、
前記第三の外周ノズルに支燃性ガスを供給することを特徴とする、
請求項4に記載のガラス体を製造する方法。
【請求項6】
前記多重管構造を有するバーナーは、前記中央ノズル、前記中央ノズルを囲む第一の外周のノズル、及び前記第一の外周のノズルを囲む第二の外周のノズルを含み、
前記原料混合ガスが可燃性ガスを含む混合ガスであり、かつ、前記原料混合ガスを、前記多重管構造を有するバーナーの前記中央ノズルに供給し、
前記第一の外周ノズルに不燃性ガスを供給し、
前記第二の外周ノズルに支燃性ガスを供給することを特徴とする、
請求項4に記載のガラス体を製造する方法。
【請求項7】
前記ドーパントとなる金属がTiである、請求項1〜6のいずれか一項に記載のガラス体を製造する方法。
【請求項8】
前記ガラス体の質量が50kg以上である、請求項1〜7のいずれか一項に記載のガラス体を製造する方法。
【請求項9】
請求項1〜8にいずれか一項に記載のガラス体を製造する方法にて製造されたガラス体を用いて、EUVリソグラフィ用の光学部材を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−31052(P2012−31052A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141832(P2011−141832)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】