説明

ガラス光学素子の製造方法

【課題】 Tgが530℃以上の光学ガラスを用い、内部歪が除去され、かつ外観が良好で、光学性能の高いガラス光学素子を、精密モールドプレス成形により効率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】 (A)表面に炭素含有膜を有する、ガラス転移点(Tg)530℃以上の光学ガラスからなる予備成形体を、加熱により軟化した状態にて成形型でプレス成形する工程、(B)プレス成形後、冷却して前記成形型より成形体を取り出し、加熱処理して表面の炭素含有膜を除去する工程、および(C)炭素含有膜が除去された成形体を、前記(B)工程における加熱処理温度よりも高い温度にてアニール処理する工程を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス光学素子の製造方法の改良に関する。さらに詳しくは、本発明は、精密モールドプレスにより、内部歪が除去され、かつ外観が良好で、光学性能の高いガラス光学素子を効率よく製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
得ようとする光学素子形状をもとに形状加工を施した成形型を用い、精密モールドプレスによって、ガラス光学素子を成形する方法が知られている。この方法は、研磨などの後加工を必要としないため、非球面などの形状を有する光学素子が生産性高く得られる利点がある。成形型内で荷重の印加によりプレス成形された成形体は、一般に転移点付近の所定温度に冷却したのちに、離型され、取り出される。この際、急冷するとガラス成形体内部に歪が残留し、光学性能を損なうことがある。しかしながら、型内の成形体を時間をかけて徐冷すると、成形サイクルタイムが長くなり、生産性を著しく阻害する。
【0003】
内部歪が除去された光学素子を製造する方法として、例えば光学素子材料を変形可能な温度まで加熱し軟化させ、一対の型により加圧することにより型の面形状を光学素子材料に転写した後、光学素子を熱変形して離型させる方法とともに、離型後に光学素子の内部歪を取り除くためにアニール処理する方法(例えば、特許文献1参照)、成形後に金型間で成形した光学素子を成形金型から取り出し、その光学素子を少なくとも1個以上まとめてアニールして内部歪のない光学素子を製造する方法(例えば、特許文献2参照)が知られている。
【0004】
一方、カメラ、ビデオ、携帯端末等、小型撮像機器の高画素化、軽薄短小化に伴い、高屈折率を有する光学素材の必要性が増している。従来、高屈折率硝材としては、高分散のものが主であったが、上記のような小型撮像機器には、高屈折でありかつ分散があまり高くないものが必要である。しかも、非球面レンズが生産性高く製造できるためには、上記硝材であって、精密モールドプレスに適用可能な硝材が求められていた。
【0005】
精密モールド用の硝材としては、用いる成形型やその離型膜の耐久性を考慮し、ガラス転移点(Tg)が低い方が好ましい。しかしながら、必要な光学恒数を満足させ、かつガラスとしての安定性を得るためには、Tgが高めになる場合も避けられない。
【0006】
本発明者らは、先に高屈折率であり、かつ中分散領域の精密モールド用硝材を提案した。例えば、屈折率ndが1.70〜1.90、アッベ数νdが35〜65のものなどである。この硝材では、上記光学恒数を満足し、結晶化しやすくなる傾向を防止する組成を選択するため、主としてTgが530℃以上の光学ガラスである(特許文献3〜5参照)。
【0007】
このような光学ガラスを所定体積、所定形状に予備成形したガラス素材を用い、精密モールドプレスを行ってレンズを成形し、離型後にアニール処理を行ったところ、レンズ表面にクモリ、白濁といった外観不良が発生した。
【0008】
【特許文献1】特開平10−7423号公報
【特許文献2】特開2003−183039号公報
【特許文献3】特開2003−267748号公報
【特許文献4】特開2002−249337号公報
【特許文献5】特開2003−201143号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
離型後のアニール処理は、除歪、及び/又は屈折率の調整を目的とするものであるが、Tg付近又はTg未満の適切な温度範囲にて行う。Tgが比較的高い硝材であれば、アニール温度も高めに設定される。例えば、(Tg−50℃)〜(Tg+20℃)である。温度域としては、例えば500〜600℃の付近となる。このようなアニールによって、ガラス成形体表面にクモリ、又は汚染の生じる原因について、本発明者らは検討した。
【0010】
ガラス素材として、プレス成形時の成形型への融着防止を主目的として、表面に炭素含有膜を設けたものを用いる場合があるが、通常、この炭素含有膜はプレス成形後の光学素子には不要であり、むしろ光学素子の性能を損なったり、光学素子に付す機能性膜の成膜性を阻害するため炭素含有膜は除去される。例えば光学素子のアニール処理を、酸化能力のある雰囲気で行うことにより、炭素含有膜は主としてCOとなって消失する。しかしながら、アニール温度が高い場合、炭素含有膜を消失する反応とともに、膜成分とガラス成分との反応が同時進行し、ガラス表面に反応物を付着させることが、クモリ、又は汚染の原因となることが本発明者らによって見出された。
【0011】
例えば、ガラス成分中に含まれるリチウムは、炭素含有膜の成分と高温で反応し、炭酸リチウムを生成してガラス表面に付着する。この付着物を熱分解するために更に高温で熱処理を行えば、ガラスの適切なアニール温度域を超え、ガラスの成形形状が損なわれる。
【0012】
本発明は、このような事情のもとでなされたものであり、Tgが530℃以上の光学ガラスを用い、内部歪が除去され、かつ外観が良好で、光学性能の高いガラス光学素子を、精密モールドプレス成形により効率よく製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、表面に炭素含有膜を有するTgが530℃以上の光学ガラスからなる予備成形体を、軟化した状態で成形型によりプレス成形したのち、成形体を取り出し、加熱処理して、その表面の炭素含有膜を除去し、次いで、前記の加熱処理温度よりも高い温度でアニール処理することにより、その目的を達成し得ることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、
(1) (A)表面に炭素含有膜を有する、ガラス転移点(Tg)530℃以上の光学ガラスからなる予備成形体を、加熱により軟化した状態にて成形型でプレス成形する工程、(B)プレス成形後、冷却して前記成形型より成形体を取り出し、加熱処理して表面の炭素含有膜を除去する工程、および(C)炭素含有膜が除去された成形体を、前記(B)工程における加熱処理温度よりも高い温度にてアニール処理する工程、を含むことを特徴とするガラス光学素子の製造方法、
(2) (B)炭素含有膜除去工程における加熱処理温度が200〜500℃である、上記(1)項に記載のガラス光学素子の製造方法、
(3) (C)アニール処理工程におけるアニール処理温度が、光学ガラスのTg−50℃ないしTg+20℃の範囲である、上記(1)または(2)項に記載のガラス光学素子の製造方法、
(4) (B)炭素含有膜除去工程に連続して(C)アニール処理工程を同一の加熱炉内で行う、上記(1)ないし(3)項のいずれか1項に記載のガラス光学素子の製造方法、
(5) 光学ガラスが、ガラス成分としてアルカリ金属を含む、上記(1)ないしまたは(4)項のいずれか1項に記載のガラス光学素子の製造方法、
(6) 光学ガラスが、ガラス成分としてリチウムを0.5〜25モル%含む、上記(5)項に記載のガラス光学素子の製造方法、
(7) 光学ガラスが、屈折率(nd)1.6〜1.9およびアッベ数(νd)35〜65である、上記(1)ないし(6)項のいずれか1項に記載のガラス光学素子の製造方法、
(8) 光学ガラスが、モル%表示でB:20〜60%、SiO:0〜25%、ZnO:2〜35%、LiO:0.5〜15%、CaO:0〜10%、La:5〜20%、Gd:0〜15%、ZrO:0〜10%、Ta:0〜10%、Nb:0〜5%、WO:0〜15%、Y:0〜8%、Yb:0〜8%を含み、かつこれらの成分を合計で92モル%より多く含む、上記(6)または(7)項に記載のガラス光学素子の製造方法、
(9) 光学ガラスが、モル%表示でB:25〜55%、SiO:0〜25%、ZnO:4〜35%、LiO:1〜15%、CaO:0〜10%、La:4〜20%、Gd:0〜15%、ZrO:0〜10%、TiO:0〜15%、Nb:1〜10%、WO:0〜14%を含み、かつこれらの成分を合計で95モル%より多く含む、上記(6)または(7)項に記載のガラス光学素子の製造方法、および
(10) 光学ガラスが、モル%表示でB:30〜60%、SiO:0〜20%、ZnO:0〜20%、LiO:0.5〜25%、CaO:2〜30%、MgO:0〜12%、SrO:0〜12%、BaO:0〜10%、La:2〜18%、Gd:0〜10%、Y:0〜10%、ZrO:0〜8%、Ta:0〜8%、Nb:0〜3%、WO:0〜5%を含む、上記(6)または(7)項に記載のガラス光学素子の製造方法、
を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、精密モールドプレスにより、内部歪が除去され、かつ外観が良好で、光学性能の高いガラス光学素子を効率よく製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のガラス光学素子の製造方法は、表面に炭素含有膜を有する光学ガラスからなる予備形成体を、精密モールドプレスにより成形し、ガラス光学素子を製造する方法である。
【0017】
本発明において用いられる光学ガラスは、ガラス転移点(Tg)が530℃以上、好ましくは550℃以上、特に好ましくは580℃以上のものである。このようなTgをもつ光学ガラスに対し、本発明の効果が顕著に発揮される。
【0018】
当該光学ガラスは、ガラス成分としてアルカリ金属を含むものが好ましく、特にリチウムを含む場合に、本発明の効果が顕著に認められる。上記リチウムの含有量は、0.5〜25モル%程度が好ましく、より好ましくは0.5〜15モル%である。
【0019】
当該光学ガラスは、屈折率(nd)が、好ましくは1.6〜1.9、より好ましくは1.67〜1.87であり、アッベ数(νd)が、好ましくは35〜65、より好ましくは38〜52の光学ガラスが望ましい。
【0020】
具体的には、以下に示すガラス組成の光学ガラスA〜Cを挙げることができる。
光学ガラスA:
モル%表示でB:20〜60%、SiO:0〜25%、ZnO:2〜35%、LiO:0.5〜15%、CaO:0〜10%、La:5〜20%、Gd:0〜15%、ZrO:0〜10%、Ta:0〜10%、Nb:0〜5%、WO:0〜15%、Y:0〜8%、Yb:0〜8%を含み、かつこれらの成分を合計で92モル%より多く含むものであって、屈折率(nd)が1.75〜1.87で、アッベ数(νd)が38〜52の範囲にある光学恒数を有する光学ガラスである。
【0021】
光学ガラスB:
モル%表示でB:25〜55%、SiO:0〜25%、ZnO:4〜35%、LiO:1〜15%、CaO:0〜10%、La:4〜20%、Gd:0〜15%、ZrO:0〜10%、TiO:0〜15%、Nb:1〜10%、WO:0〜14%を含み、かつこれらの成分を合計で95モル%より多く含むものであって、屈折率(nd)が1.75〜1.87で、アッベ数(νd)が28〜45の範囲にある光学恒数を有する光学ガラスである。
【0022】
光学ガラスC:
モル%表示でB:30〜60%、SiO:0〜20%、ZnO:0〜20%、LiO:0.5〜25%、CaO:2〜30%、MgO:0〜12%、SrO:0〜12%、BaO:0〜10%、La:2〜18%、Gd:0〜10%、Y:0〜10%、ZrO:0〜8%、Ta:0〜8%、Nb:0〜3%、WO:0〜5%を含み、かつ屈折率(nd)が1.67〜1.80で、アッベ数(νd)が45〜60の範囲にある光学恒数を有する光学ガラスである。
【0023】
本発明で用いる予備形成体は、上記光学ガラスに冷間で切断・研磨等の加工を施すことによって、又は溶融状態で受け型に滴下、又は流下して熱間で成形することによって得られたものである。好ましくは、熱間成形により、球形、両凸曲面形状などにすると、欠陥のない表面が、効率よく得られる。
【0024】
本発明においては、この予備成形体の表面に炭素含有膜を形成したものを用いる。この炭素含有膜は、プレス成形時における予備成形体表面と成形型との融着を防止し、かつ予備成形体表面の滑り性を向上させることによって、成形面上での予備成形体の位置決めを容易にするものである。
【0025】
前記炭素含有膜としては、炭素を主成分とするものが好ましく、炭化水素膜など他成分を含有するものでもよい。成膜方法としては、炭素原料を用いた真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング法、プラズマ処理、イオンガン処理など、公知の成膜方法を用いて行うことができる。また、炭化水素等、炭素含有物の熱分解によって成膜してもよく、更には、有機物を原料の溶液又は気体に予備成形体を接触させることで自己組織化膜を形成する方法によってもよい。
【0026】
この炭素含有膜の厚さは、通常1〜20nm程度、好ましくは1〜10nm、さらに好ましくは2〜5nmである。
【0027】
本発明においては、このようにして得られた表面に炭素含有膜を有する光学ガラスからなる予備成形体を、加熱により軟化した状態にて成形型でプレス成形する[(A)工程]。このプレス成形の方法に特に制限はなく、従来公知の方法を採用することができる。
【0028】
例えば、成形型としては、超硬合金や、セラミクス(Si、SiCなど)といった、耐熱性と強度のあるものを、得ようとする光学素子の形状をもとに精密に加工したものを用意する。成形面には、融着を防止し、離型を促す目的で、離型膜(貴金属を主成分とするもの、炭素を主成分とするものなど、いずれでもよい)を設けることが好ましい。
【0029】
上記のように用意した一対の成形型に、前記予備成形体を供給して加熱により軟化し、あるいは、加熱により軟化した予備成形体を成形型に供給し、所定の荷重をかけることにより、成形面形状を転写させる。この際、予備成形体の表面に設けられた炭素含有膜が消失しないように、雰囲気は非酸化性とすることが好ましい。例えば、不活性ガス(窒素、アルゴンなど)又は、これらに還元性のガス(水素など)を混入させてもよい。
【0030】
本発明においては、このようにして予備成形体を形成したのち、ガラス成形体を型内に保持したまま、Tg付近の温度まで冷却して、前記成形型より取り出し、加熱処理して表面の炭素含有膜を除去する[(B)工程]。離型温度は、好ましくはガラス粘度で1013〜1014dPa・sの範囲である。
冷却は、成形サイクルタイムを不要に長くしない観点から、50〜300℃/分(成形温度から離型温度までの平均値で)とすることができる。
【0031】
ガラス成形体の加熱処理における雰囲気は少なくとも炭素含有膜除去の過程では、酸素を含有することが好ましく、酸素濃度は0.01〜100vol%とするのがよい。0.01vol%未満では炭素含有膜の除去効果が不十分である。酸素濃度が高いほどカーボンの除去に要する時間は短くなるが、炉体を構成する金属等の酸化やそれに起因するレンズ汚染など、他の反応の誘発を避けるため、好ましくは0.01〜10vol%である。
【0032】
加熱処理に際しては、成形体を導入した炉内を昇温するが、昇温速度は、不要にサイクルタイムを長くしない範囲で選択すればよく、例えば60〜300℃/hr、より好ましくは100〜300℃/hrで昇温して所定温度(膜除去温度)とする。所定温度とは、成形体表面の炭素含有膜が雰囲気中の酸化、消失するような温度範囲内である。例えば、200〜500℃とすれば、炭素含有膜はCOの発生を伴って消失する。より好ましくは、300〜500℃である。このような温度で、1時間以上保持することが好ましい。保持温度が長すぎると効果は上がらず、生産効率が下がり、より好ましくは、2〜4時間である。
【0033】
本発明においては、このようにして炭素含有膜が除去された成形体をアニール処理する[(C)工程]。
前記(B)工程を施さずに、表面に炭素含有膜を有する成形体をアニール処理する場合、前記の温度域では低すぎてアニール処理効果が発揮されにくいが、該温度域を超えて高温とすると、炭素含有膜は酸化によって消失とともに、炭素含有膜の成分とガラス成分との反応が同時進行し、生成物がガラス表面に付着することからクモリや表面汚染が生成する。例えば、炭素含有膜の酸化時に生成したCOがガラス中のリチウム等アルカリ成分と反応して、炭酸塩を析出させるなどの反応により、光学素子の光透過性が阻害される。
【0034】
したがって、本発明においては、前記(B)工程において炭素含有膜を除去したあと、工程(C)において成形体を更に昇温してアニール処理を行う。アニ−ル処理は、前記(B)工程に連続して同一の加熱炉の中で行ってもよいし、あるいはまた、前記(B)工程を経た成形体を加熱炉から取り出して一旦常温まで下げた後に、加熱炉に再投入して所定のアニ−ル温度まで直接昇温して、アニ−ル処理を行ってもよい。前者のように(B)工程と(C)工程を連続して行うと、エネルギーロスが少なく、また段取り替えが不要となり、生産効率が向上する。後者のように(B)工程と(C)工程を不連続で行う場合は、硝種の相違に伴ってアニ−ル温度の異なる成形体に対して個々に適切なアニ−ル温度を設定できるため、より精度の高いアニ−ル処理が可能となる。
【0035】
本発明においてアニール処理とは、熱処理とそれに次ぐ冷却によりガラス内部の残留歪を低減させ、又は、それと共に屈折率を調整する工程であって、温度範囲(アニール温度)としては、(Tg−50℃)〜(Tg+20℃)が好ましい。より好ましくは、(Tg−50℃)〜(Tg−10℃)、更に好ましくは、(Tg−50℃)〜(Tg−20℃)、である。これにより成形体の形状精度が良好に維持される。炭素含有膜除去温度からアニール温度までの昇温は、1時間以上が好ましく、この際の昇温速度は60〜300℃/hr程度である。また、アニール温度での保持は、2〜4時間が好ましい。
【0036】
アニール処理工程での雰囲気は、特に制限はないが、好ましくは酸素濃度0〜5vol%とすることにより、炉の構成物質の酸化や、それに起因するレンズの汚染が避けられる。
【0037】
アニール温度からの降温速度は、得られる光学素子の残留歪が、複屈折で10nm以下となるように選択することが好ましい。より好ましくは1nm以下となるように行う。例えば、60℃/hr以下、より好ましくは20〜60℃/hrである。
【0038】
なお、ガラス温度が十分冷却され、例えばTg−180℃程度に達したら、ガラスが割れない範囲で急冷してもかまわない。例えば、100℃/hr、又はそれ以上の冷却を行うことが可能である。このようにして、室温又は100℃以下程度の温度に達したら炉から取り出すことができる。
【0039】
本発明の方法は、前記のようにTgが比較的高い(すなわち、アニール温度が比較的高い)光学ガラスを用いたモールドプレスレンズに特に有効である。本発明においては、表面に炭素含有膜を成膜した予備成形体を用いてプレス成形を行う際、発生したCOが、部分的に露出したガラス表面でガラス成分と反応し、生成物がガラス表面に付着することを防止する。すなわち、本発明では、炭素含有膜の酸化、消失と、ガラス成分との反応が平行して進行することを防止し、炭素含有膜の消失、気化を先に進行させ、その後に光学ガラス成形体のアニール処理を行う。
【実施例】
【0040】
次に、本発明を実験例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、この実験例により、なんら限定されるものではない。
実験例
表1〜表3に示す組成、表4〜表6に示す光学恒数およびガラス転移点(Tg)を有する光学ガラスを用いて、プレス成形用予備成形体を作製した。すなわち、各光学ガラスをそれぞれ溶融状態から受け型に滴下し、ガスを噴射する受け型中で浮上状態で両凸曲面形状に予備成形してなる予備成形体を作製した。
【0041】
次に、この予備成形体表面に炭素含有膜を形成した。成膜はアセチレンの熱分解による、炭素を主成分とする膜を、以下のようにして行った。
【0042】
具体的には、被処理予備成形体を収容した反応容器(ベルジャ−)内を67Pa以下に排気した後、加熱し480℃に保った。ガス管から窒素ガスを流しながら真空ポンプで排気を行うことにより21kPaに保ち、30分間パ−ジを行った。この後、ガスの導入を止め、67Paまで排気を行った。この後圧力が16kPaになるまで流量65標準状態cm/minにて100分間アセチレンを導入し続けた。所定の圧力に達した後、加熱を止めアセチレンの導入を止め、真空引きを行った。温度が下がった後予備成形体を取り出した。
【0043】
このようにして得られた炭素含有膜を有する予備成形体を用いて、径15mmの凸メニスカスレンズ形状にプレス成形した。すなわち、予備成形体を、型外で650〜750℃に予熱し、軟化した状態で浮上治具を用いて、下型成形面の上に搬送し、浮上皿を分割することによって予備成形体を、下型成形面上に落下供給した。直ちに、2.9kNの荷重によって、上下成形面間で予備成形体をプレスし、押しきった時点で、100℃/分の冷却速度で冷却を行った。ガラスTg以下の温度となった時点で、離型し、成形された成形体を取り出した。予備成形体の予熱、及びプレス成形は、窒素雰囲気で行った。
【0044】
取り出した複数の成形体を一括して、室温で加熱炉に導入したのち、加熱炉を昇温し、加熱処理した。加熱炉内の雰囲気は、酸素濃度1vol%の窒素雰囲気とした。
【0045】
前記加熱処理は、下記のスケジュール1(比較例)およびスケジュール2(実施例)に従って行った。
〈スケジュール1〉
(1)スケジュール1−1(Tg−35)
図1は、スケジュール1−1の加熱処理条件の説明図である。図1に示すように、まず、加熱炉を室温からTg−35℃(アニール温度)まで3時間で昇温した。この温度で3時間保持し、次いで降温速度を、−50℃/hrとして、(上記保持温度−150℃)の温度(すなわちTg−185℃)まで冷却した。この後は、−100℃/hrで室温まで急冷した。
(2)スケジュール1−2(Tg−45)
図2は、スケジュール1−2の加熱処理条件の説明図である。図2に示すように、まず、加熱炉を室温からTg−45℃(アニール温度)まで3時間で昇温した。この温度で3時間保持し、次いで降温速度を、−50℃/hrとして、(上記保持温度−150℃)の温度(すなわちTg−195℃)まで冷却した。この後は、−100℃/hrで室温まで急冷した。
〈スケジュール2〉
(1)スケジュール2−1(450/Tg−35)
図3は、スケジュール2−1の加熱処理条件の説明図である。図3に示すように、まず、加熱炉を室温から450℃(膜除去温度)まで2時間で昇温し、この温度で3時間保持した。これが本発明の炭素含有膜除去工程に相当する。さらに昇温を開始し、昇温速度約150℃/hrにて、2時間でTg−35℃(アニール温度)まで加熱した。このアニール温度にて3時間保持したあと、降温速度−50℃/hrで(上記保持温度−150℃)の温度(すなわち、Tg−185℃)まで冷却した。この後は、−100℃/hrで室温まで急冷した。
(2)スケジュール2−2(325/Tg−45)
図4は、スケジュール2−2の加熱処理条件の説明図である。図4に示すように、まず、加熱炉を室温から325℃(膜除去温度)まで2時間で昇温し、この温度で3時間保持した。これが本発明の炭素含有膜除去工程に相当する。さらに昇温を開始し、昇温速度約150℃/hrにて、2時間でTg−45℃(アニール温度)まで加熱した。このアニール温度にて3時間保持したあと、降温速度−50℃/hrで(上記保持温度−150℃)の温度(すなわち、Tg−195℃)まで冷却した。この後は、−100℃/hrで室温まで急冷した。
【0046】
加熱処理後、光学素子を炉から取り出し、外観を確認した。結果を表4〜表6に示す。
なお、表中で外観の基準は、キズ状の汚れまたはクモリのいずれかが目視で認められた場合に×、いずれも認められない場合を○とした。
【0047】
ここで、キズ状の汚れは、レンズ径Dに対して幅30μm以上、D/10を超える長さのキズ状汚れがあること、あるいはレンズ径Dに対して幅30μm以上、D/20〜D/10長さのキズ状汚れが2本以上あることを示す。
【0048】
また、クモリは、60Wの電球の前に目から10cm離した状態でレンズを手でもち、目視でクモリが確認されることを示す。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【0052】
【表4】

【0053】
【表5】

【0054】
【表6】

なお、光学ガラスA−12、およびその中に含有するLiOをZnOに置換した以外は、光学ガラスA−12と同じガラスを用意し、それぞれを容器に入れ、CO雰囲気下で450℃に加熱し、3時間保持した。この結果、ガラスにはいずれも変化がなかった。一方、加熱温度を580℃として、3時間保持したところ、LiOを含有するガラスには表面に顕著なクモリが生じたが、LiOを含有しない方のガラスには、変化が見られなかった。
【0055】
これは、Liが雰囲気のCOと反応して炭酸塩を生成したとみられる。Liのようなアルカリ金属は、炭酸塩の分解温度が高く、光学ガラスのアニール温度程度では分解しないため、ガラス表面にクモリとなって析出する。
【0056】
表4〜表6から明らかなとおり、スケジュール2を適用した場合には、加熱処理後の光学素子(レンズ)に外観不良は認められず、良好なものであった。一方、スケジュール1では、いずれの場合も、外観不良が一定以上の基準で認められた。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のガラス光学素子の製造方法は、Tgが530℃以上の光学ガラスを用い、精密モールドプレスにより、内部歪が除去され、かつ外観が良好で、光学性能の高いガラス光学素子を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】実験例におけるスケジュール1−1の加熱処理条件の説明図である。
【図2】実験例におけるスケジュール1−2の加熱処理条件の説明図である。
【図3】実験例におけるスケジュール2−1の加熱処理条件の説明図である。
【図4】実験例におけるスケジュール2−2の加熱処理条件の説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)表面に炭素含有膜を有する、ガラス転移点(Tg)530℃以上の光学ガラスからなる予備成形体を、加熱により軟化した状態にて成形型でプレス成形する工程、(B)プレス成形後、冷却して前記成形型より成形体を取り出し、加熱処理して表面の炭素含有膜を除去する工程、および(C)炭素含有膜が除去された成形体を、前記(B)工程における加熱処理温度よりも高い温度にてアニール処理する工程、を含むことを特徴とするガラス光学素子の製造方法。
【請求項2】
(B)炭素含有膜除去工程における加熱処理温度が200〜500℃である、請求項1に記載のガラス光学素子の製造方法。
【請求項3】
(C)アニール処理工程におけるアニール処理温度が、光学ガラスのTg−50℃ないしTg+20℃の範囲である、請求項1または2に記載のガラス光学素子の製造方法。
【請求項4】
(B)炭素含有膜除去工程に連続して(C)アニール処理工程を同一の加熱炉内で行う、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のガラス光学素子の製造方法。
【請求項5】
光学ガラスが、ガラス成分としてアルカリ金属を含む、請求項1ないし4のいずれか1項に記載のガラス光学素子の製造方法。
【請求項6】
光学ガラスが、ガラス成分としてリチウムを0.5〜25モル%含む、請求項5に記載のガラス光学素子の製造方法。
【請求項7】
光学ガラスが、屈折率(nd)1.6〜1.9およびアッベ数(νd)35〜65である、請求項1ないし6のいずれか1項に記載のガラス光学素子の製造方法。
【請求項8】
光学ガラスが、モル%表示でB:20〜60%、SiO:0〜25%、ZnO:2〜35%、LiO:0.5〜15%、CaO:0〜10%、La:5〜20%、Gd:0〜15%、ZrO:0〜10%、Ta:0〜10%、Nb:0〜5%、WO:0〜15%、Y:0〜8%、Yb:0〜8%を含み、かつこれらの成分を合計で92モル%より多く含む、請求項6または7に記載のガラス光学素子の製造方法。
【請求項9】
光学ガラスが、モル%表示でB:25〜55%、SiO:0〜25%、ZnO:4〜35%、LiO:1〜15%、CaO:0〜10%、La:4〜20%、Gd:0〜15%、ZrO:0〜10%、TiO:0〜15%、Nb:1〜10%、WO:0〜14%を含み、かつこれらの成分を合計で95モル%より多く含む、請求項6または7に記載のガラス光学素子の製造方法。
【請求項10】
光学ガラスが、モル%表示でB:30〜60%、SiO:0〜20%、ZnO:0〜20%、LiO:0.5〜25%、CaO:2〜30%、MgO:0〜12%、SrO:0〜12%、BaO:0〜10%、La:2〜18%、Gd:0〜10%、Y:0〜10%、ZrO:0〜8%、Ta:0〜8%、Nb:0〜3%、WO:0〜5%を含む、請求項6または7に記載のガラス光学素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−16286(P2006−16286A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−198483(P2004−198483)
【出願日】平成16年7月5日(2004.7.5)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】