説明

ガラス板の接合構造およびその接合方法

【課題】ガラス板に貫通孔をあけ、ボルト・ナット等で締め付けた際、割れの問題が発生することがなく、締め付けた後の温度変化によるボルト軸方向またはネジ軸方向の力の変化が少なく、締め付け後の温度変化に対しても安定した接合強度を有するガラス板の接合構造および接合方法を提供する。
【解決手段】貫通孔6を擁するガラス板Gと接合部材2を重ね、貫通孔6に挿通させた一対の締め付け部材の締め付けにより生じる力でガラス板Gと接合部材2を接合したガラス板Gの接合構造であって、ヤング率が6.70×10MPa以上、7.30×10MPa以下で、線膨張係数がガラス板Gおよび一対の締め付け部材の線膨張係数よりも大きく、内径がガラス板Gの貫通孔6の直径よりも1.0mm以上大きい平座金1をガラス板Gと接合部材2との間に挟んでなることを特徴とするガラス板の接合構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貫通孔を擁するガラス板と接合部材を重ね、または貫通孔を擁するガラス板同士を重ね、貫通孔に挿通させた一対の締め付け部材の締め付けにより生じる力でガラス板と接合部材またはガラス板同士を接合するガラス板の接合構造およびその接合方法である。
【0002】
本発明のガラス板の接合構造およびその接合方法は、ガラス板を使用した建築物、家具またはガラス物品等に広く使用される。
【背景技術】
【0003】
ガラス板と他の構造部材とを接合するためにガラス板に添接させた、あるいはガラス板とガラス板に掛け渡しした金属板等の接合部材の間に接着シートを挟みこみ、ガラス板と接合部材を接着し接合強度を得、加えてガラス板と接合部材に設けた貫通孔に、一対の締め付け部材である接合用ネジ部材を貫通させて締め込み、ガラス板と接合部材を固定し留める方法が、特許文献1〜3にて開示されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、ガラス板と接合部材との間に、未硬化の接着剤を含浸させてある繊維材からなるシートを挟んで、ガラス板と接合部材とに形成した貫通孔に挿通したネジ部材で締め付け固定するガラスパネルの接合方法が開示されている。接合後のガラスパネルと板材との相対変位の発生を抑制するために、ガラス板と接合部材との間に未硬化の接着剤を含浸させてある繊維材からなるシートを挟んで締め付け接合しておくことにより、その接着剤が硬化するとシートがガラスパネルと板材の双方の表面に沿った形状に固まり、シートと一体に硬化した強固な接着層を介して、ガラスパネルと板材とを接着接合できると開示されている。
【0005】
さらに、特許文献2には、特許文献1よりも接合部の耐久力を高めるため、接着材を含浸させてある繊維材からなるシートに含浸させた接着剤が未硬化の状態で締め付け、接着材硬化後に、所定の軸力に再度締め付けて接合する脆性部材の接合方法が開示されている。
【0006】
さらに、特許文献3には、上記の接着による接合方法において、雄ネジ部材と雌ネジ部
材等の締め付け具にてガラス板と接合部材を締め付ける際に、貫通孔に充填剤を介在させて各締め付け具の外周面とガラス板側貫通孔の内周面との間に隙間が生じない状態で締め付けることによって、ガラス板と接合部材との間にわたって応力が作用した際に、複数のガラス板側貫通孔に作用する応力が均一化されるようにして、特定のガラス板側貫通孔に応力が集中するのを回避してガラス板の損傷を抑制するガラス板の接合方法が開示されている。
【0007】
特許文献1〜3に記載のガラス板の接合方法は、ガラス板と接合部を接着して接合強度を得る方法である。ガラス板の割れの発生を懸念して接合用のネジ部材による締め付けは程々にし、接合強度はガラス板と接合部材の接着に依存している。このように、特許文献1〜3に記載のガラス板と接合部材を接着する接合方法においては、ガラス板の接合部をネジ部材で留めてはいるものの、接合強度はガラス板と接合部材としての板材の間に挟みこんだ接着シートによる接着に頼っていた。接着材シートにより接着するため、接合後の解体が困難である。
【0008】
また、本出願人による特許文献4には、孔をあけた強化ガラスを高力ボルトで強く締め付けることにより接合することで、例えば、リブガラススクリーンのリブガラスを作製した際、リブガラスとして採用するに充分な強さの強化ガラス板の接合方法が開示されている。詳しくは、その接合部は強化ガラス板を両側から接合板で摩擦部材を介して挟み、強化ガラス板と接合板とに高力ボルト挿入用の孔をあけ貫通させたボルトおよびナットにて締め付けることにより生じる摩擦力で接合板を介して強化ガラス板同士を接合する、または強化ガラスと接合板を接合する強化ガラス板の接合方法が開示されている。
【0009】
特許文献4に記載の強化ガラス板の接合方法において、リブガラススクリーン等の大型の建築物を建設するために、橋梁、鉄塔の建設において金属部材を強く締め付け接合することに使用される高力ボルト摩擦接合の高力ボルト・ナットを用いて、大きく厚手の強化ガラス板を強く締め付けることで、リブガラススクリーン等の大型ガラス建造物となす。
【特許文献1】特開2000−87924号公報
【特許文献2】特開2002−155909号公報
【特許文献3】特開2003−327453号公報
【特許文献4】特開2006−250345号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来のガラス板の接合方法において、ガラス板の貫通孔に挿通した一対の締め付け部材、例えば、ボルト・ナットまたはネジ・ナット等でガラス板を締め付け過ぎると、ガラス板の貫通孔の端部から破損しやすいという問題があった。
【0011】
従来のガラス板の接合方法では、一対の締め付け部材であるボルト・ナットまたはネジ・ナット等でガラス板を締め付けた際、締め付け後の日較差、季節の移り変わりによる気温の変化にともない、ガラス板や締め付け部材の温度が変化することによって、ボルト・ナットまたはネジ・ナットが熱膨張あるいは熱収縮し、締め付けによるボルト軸方向またはネジ軸方向の力が変化するという問題があった。
【0012】
本発明は、ガラス板に貫通孔をあけ、ボルト・ナットまたはネジ・ナット等で締め付けた際、上述の割れの問題が発生することがなく、一対の締め付け部材であるボルト・ナットまたはネジ・ナット等でガラス板を締め付けた後の温度変化による、ボルト・ナットの締め付けによるボルト軸方向またはネジ軸方向の力の変化が少なく、締め付け後の温度変化に対しても安定した接合強度を有するガラス板の接合構造および接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のガラス板の接合構造およびその接合方法により、ガラス板の貫通孔の端部には、一対の締め付け部材の締め付けによる力、例えば、ボルト・ナットおよびネジ・ナットの締め付けによる軸方向の力を加えないで、貫通孔の端部を避けて、ボルト・ナットおよびネジ・ナットの締め付けによる軸方向の力をガラス板に加え、ガラス板と接合部材、またはガラス板同士を強固に接合するもので、接合部がずれることのない耐久性の高いガラス板と接合部材との接合、またはガラス板同士の接合を提供された。
【0014】
本発明のガラス板の接合構造およびその接合方法において、一対の締め付け部材であるボルト・ナットまたはネジ・ナット等の締め付けにより生じる力を、ガラス板と接合部材の間に挟んだ平座金を介して伝達する際、平座金の内径をガラス板の貫通孔の直径より大きくし同心になるように配置することで、割れが発生しやすいガラス板の貫通孔の端部およびその周囲を避けて力を伝えること、またガラス板に圧接させた平座金を介し、ガラス板に直に小面積で力を伝えることが可能となった。
【0015】
詳しくは、ボルト・ナットまたはネジ・ナットを締め付けた際に割れを生じさせないためには、板ガラスに形成した貫通孔の直径より、平座金の内径を1.0mm以上、好ましくは4.0mm以上大きくする。言い換えれば、板ガラスの貫通孔の端部から平座金までの間隔を0.5mm以上、好ましくは2.0mm以上とする。平座金の内径が板ガラスの貫通孔の直径に対し1.0mm未満、板ガラスの貫通孔の端部から平座金までの間隔が0.5mm未満では、板ガラスの貫通孔の端部および周囲に割れが生じる恐れがある。実用上、板ガラスの貫通孔の直径に対して、平座金の内径を30.0mmを超えて大きくする必要はない。平座金の内径とガラス板の貫通孔の直径の差異は1.0mm以上、30.0mm以下であり、好ましくは、4.0mm以上、20.0mm以下である。
【0016】
この際、ガラス板が強化ガラスであれば、ボルト・ナット等で強く締め付けることが可能であるが、平座金に硬い鋼(はがね)、ステンレス鋼等を用いた場合、特に平座金の仕上げ精度が悪く変形がある場合は、製造後、何ら強化処理がされていない生板ガラスであるとボルト・ナット等で締め付けると、生板ガラスと平座金の界面で局所的な力が加わり破損し易い。ところが、ガラスとヤング率が近いアルミニウム製またはアルミニウム合金製の平座金を用いれば、平座金が適度に変形する、言い換えれば、適度に馴染んで緩衝作用が生じ、生板ガラスと平座金の界面で局所的な力が加わり破損することが抑制される。平座金が適度に変形する、言い換えれば、適度に馴染んで緩衝作用が生じることは、ガラス板が強化ガラスであっても当てはまり、平座金をガラス板に圧接させた際、局所的な力が生じ難い。
【0017】
通常、建築用途等の汎用用途に用いられるソーダライムシリケートガラスのヤング率は7.16×10MPaである。よって、前述の緩衝作用を得るには、平座金のヤング率が6.70×10MPa以上、7.30×10MPa以下であることが好ましい。平座金のヤング率が6.70×10MPaより小さければ、板ガラスの接合部に、強い接合強度が得られない。好ましくは6.80×10MPa以上である。平座金のヤング率が7.30×10MPaより大きければ、板ガラスと平座金の界面で局所的な力が加わり、板ガラスが生板ガラスであれば破損の可能性が生じる。好ましくは7.20×10MPa以下である。
【0018】
ヤング率が6.80×10MPa以上、7.20×10MPa以下に該当する金属材料には、アルミニウムおよびアルミニウム合金が挙げられ、ソーダライムシリケートガラスのヤング率に近い。
【0019】
表1に、板ガラスとアルミニウムの物性表を示す。(セントラル硝子総合カタログ/板ガラス・関連商品 191ページ、理科年表平成19年机上版 物33(379)による。)
【0020】
【表1】

【0021】
アルミニウムのヤング率は6.86×10MPaであり、本発明のガラスの接合構造およびその接合方法に使用する平座金の材料として好ましい材料である。尚、ステンレス鋼のヤング率は19.5×10MPaであり、軟鋼のヤング率は20.6×10MPaであり、前述の緩衝作用は得られ難い。銅のヤング率は10.30×10MPaと比較的ガラスに近い材料であるが、アルミニウムの方がよりガラスとヤング率が近く、アルミニウムが本発明のガラスの接合構造および接合構造に使用する平座金の材料として特に好ましい材料である。
【0022】
また、ガラスとアルミニウムはヤング率以外に、ポアソン比、比重も近い値をとる。尚、ヤング率(縦弾性係数)は、弾性範囲で応力に対する歪の値をきめる定数であり、フックの法則 [歪ε]= [応力σ] / [ヤング率E] より、 E=σ/εで表される。ポアソン比は、弾性限界内における引張りを加えた時に荷重方向の伸びと荷重に直角方向の寸法の縮み比である。
【0023】
一方、本発明のガラス板の接合構造およびその接合方法において、平座金の温度変化に対する線膨張係数も重要である。
【0024】
表2に、ボルト・ナット・座金・接合部材である貫通孔をあけた金属板の材料として用いられる各種金属の線膨張係数を示した。
【0025】
【表2】

【0026】
ガラスの線膨張係数は、常温〜350℃下において、8.5×10−6〜9.0×10−6/℃である。
【0027】
表2に示すように、一対の締め付け部材であるボルト・ナットまたはネジ・ナット、および平座金、あるいは接合部材である貫通孔をあけた金属板の材料として用いられる各種金属の線膨張係数は、鋼(SS400)が、0〜100℃下において、12×10−6/℃であり、ステンレス鋼であるSUS304が17×10−6/℃であり、SUS410が10.4×10−6/℃であり、炭素鋼(S45C)が11×10−6/℃である。
【0028】
線膨張係数がガラス板より大きい材料を、一対の締め付け部材であるボルト、ナット等に用いた場合、締め付け後に温度が上がると、ガラス板よりもボルトの方が大きく膨張することで、ボルト・ナット間の間隔が広がり、ボルトの軸方向の力が減少する。一方、締め付け後に温度が下がると、ガラス板よりもボルトの方が大きく収縮することでボルト・ナット間の間隔が狭くなり、ボルト軸方向の力が増加する。つまり、締め付け後の温度変化により、ボルトの軸方向の力が変化し、ボルト軸方向の力の安定性に懸念がある。
【0029】
表2に示すように、アルミニウムまたはアルミニウム合金の線熱膨張係数は、−50℃〜200℃下において、18×10−6/℃以上、26×10−6/℃以下である。アルミニウムまたはアルミニウム合金の線熱膨張係数は、ガラス、および一対の締め付け部材であるボルト・ナット等、座金および接合部材としての貫通孔を擁する金属板を形成する、表2に示したSS400、SUS304、SUS410またはS45C等の鉄を主成分、または主要な成分として含有する金属より大きい。よって、アルミニウムまたはアルミニウム合金製の平座金を、ボルト・ナット間に挿入することで、ボルト・ナット等で締め付け後の温度変化に対して、ボルト・ナット等の締め付けによるボルト軸方向の力の変化が少なくなる。このように、アルミニウムまたはアルミニウム合金製の平座金を、ボルト・ナット間に挿入することは、締め付け後の温度変化に対して安定した接合力を発揮する効果がある。
【0030】
即ち、本発明は、貫通孔を擁するガラス板と接合部材を重ね、貫通孔に挿通させた一対の締め付け部材の締め付けにより生じる力でガラス板と接合部材を接合したガラス板の接合構造であって、ヤング率が6.70×10MPa以上、7.30×10MPa以下で、線膨張係数がガラス板および一対の締め付け部材の線膨張係数よりも大きく、内径がガラス板の貫通孔の直径よりも1.0mm以上大きい平座金をガラス板と接合部材との間に挟んでなることを特徴とするガラス板の接合構造である。
【0031】
さらに、本発明は、貫通孔を擁するガラス板同士を重ね、貫通孔に挿通させた一対の締め付け部材の締め付けにより生じる力でガラス板同士を接合したガラス板の接合構造であって、ヤング率が6.70×10MPa以上、7.30×10MPa以下で、線膨張係数が、ガラス板および一対の締め付け部材の線膨張係数よりも大きく、内径がガラス板の貫通孔の直径よりも1.0mm以上大きい平座金をガラス板に圧接および/またはガラス板間に挟んでなることを特徴とするガラス板の接合構造である。
【0032】
具体的には、前記平座金の線膨張係数は、一対の締め付け部材であるボルト・ナットの材料の中で線膨張係数が大きいステンレス鋼であるSUS304の線膨張係数17×10−6/℃より大きく、アルミニウムまたはアルミニウム合金の線熱膨張係数の下限である18×10−6/℃以上(−50℃〜200℃)で、アルミニウムまたはアルミニウム合金の線熱膨張係数の上限である26×10−6/℃以下(−50℃〜200℃)であることが好ましい。線膨張係数が26×10−6/℃より大きいと、温度の上昇または低下に対する平座金の寸法変化が大き過ぎ、接合構造の部材としては不向きである。
【0033】
さらに、本発明は、前記平座金がアルミニウム製またはアルミニウム合金製であることを特徴とする上記のガラスの接合構造である。
【0034】
さらに、本発明は、平座金をガラス板の貫通孔に対して同心に配置したことを特徴とする上記のガラス板の接合構造である。
【0035】
また、本発明は、貫通孔を擁するガラス板と接合部材を重ね、貫通孔に挿通させた一対の締め付け部材の締め付けにより生じる力でガラス板と接合部材を接合したガラス板の接合方法であって、ヤング率が6.70×10MPa以上、7.30×10MPa以下で、線膨張係数がガラス板および一対の締め付け部材の線膨張係数よりも大きく、内径がガラス板の貫通孔の直径よりも1.0mm以上大きい平座金をガラス板と接合部材との間に挟むことを特徴とするガラス板の接合方法である。
【0036】
さらに、本発明は、貫通孔を擁するガラス板同士を重ね、貫通孔に挿通させた一対の締め付け部材の締め付けにより生じる力でガラス板同士を接合したガラス板の接合方法であって、ヤング率が6.70×10MPa以上、7.30×10MPa以下で、線膨張係数がガラス板および一対の締め付け部材の線膨張係数よりも大きく、内径がガラス板の貫通孔の直径よりも1.0mm以上大きい平座金をガラス板に圧接させるおよび/またはガラス板間に挟むことを特徴とするガラス板の接合方法である。
【発明の効果】
【0037】
一対の締め付け部材、例えば、ネジ・ナットまたはボルト・ナットの締め付けによる力で、各々貫通孔を有するガラス板と接合部材またはガラス板同士を接合する際、本発明のガラス板の接合構造およびその接合方法においては、ガラス板と金属板間またはガラス板間に平座金を挟持するとともに、ガラス板に平座金を直接圧接させる。その際、平座金の内径をガラス板の貫通孔の直径より大きくし同心になるように配置することで、割れが発生しやすいガラス板の貫通孔の端部およびその周囲を避けて力を伝えられる。
【0038】
さらに、平座金に、ヤング率がソーダライムシリケートガラスに近いアルミニウム製またはアルミニウム合金製の平座金を用いたことで、平座金が適度に変形する、言い換えれば、適度に馴染んで緩衝作用を奏し、ソーダライムシリケートガラスと平座金の界面で局所的な力が加わり破損することが抑制された。
【0039】
さらに、線膨張係数がガラス板、一対の締め付け部材の線膨張係数より大きいことにおいても、アルミニウム製またはアルミニウム合金製の平座金を用いることが好ましい。
【0040】
一対の締め付け部材である、例えば、ボルト・ナットを締め付けた場合、締め付け時より高温下では、ガラス板よりもボルト・ナットおよび接合部材の方が膨張するが、アルミニウム製、または、アルミニウム合金製の平座金はさらに膨張し、ガラス板とボルト・ナットとの間に生じる隙間を埋める働きをするため、ボルトの軸方向の力の変動が小さくなる。
【0041】
また、締め付け時より低温下では、ガラス板よりもボルト・ナットおよび接合部材の方がより縮むため、ガラス板に作用するボルト軸方向の力が強くなるが、アルミニウム製、または、アルミニウム合金製の平座金はさらに収縮し、ボルト軸方向の力の増加を低減させる働きをするため、ボルトの軸方向の力の変動が小さくなる。
【0042】
このように、ガラスおよびボルト・ナットおよび接合部材の材料である鋼およびステンレス鋼より、線膨張係数が大きいアルミニウム製、または、アルミニウム合金製の平座金を用いることで、ボルト・ナット等を締め付け後の温度変化に対して、ボルト軸方向の力の変化が少ない安定した接合力が得られた。
【0043】
また、接合構造を解体するときはボルト・ナットを弛めればよいので、解体が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
本発明のガラス板の接合構造および接合方法は、一対の締め付け部材である例えばボルト・ナットまたはネジ・ナットの締め付けによる力を、ガラス板と接合部材である金属板との間に挟んだ平座金を介して伝え、接合するものである。
【0045】
本発明のガラス板の接合構造および接合方法について、図を用いて説明する。
【0046】
最初にガラス板と金属板を接合した本発明のガラス板の接合構造および接合方法によるガラス板の接合部について説明する。
【0047】
図1の(A)は、本発明のガラス板の接合構造および接合方法によるガラス板と金属板の接合部の一例の拡大側面図である。ボルト3・ナット4以外は接合部における断面で示している。図1の(B)は平座金を当接させた板ガラス貫通孔部の上面図である。
【0048】
本発明は、図1の(A)に示すように、貫通孔を擁するガラス板Gと接合部材である金属板2を重ね、貫通孔に挿通させた一対の締め付け部材であるボルト3・ナット4の締め付けにより生じる力でガラス板Gと接合部材である金属板2を接合したガラス板Gの接合構造であって、ヤング率が6.70×10MPa以上、7.30×10MPa以下であり、線膨張係数がガラス板および一対の締め付け部材の線膨張係数よりも大きく、内径がガラス板Gの貫通孔の直径よりも1.0mm以上大きい平座金1をガラス板Gと接合部材である金属板2との間に挟んでなることを特徴とするガラス板の接合構造である。
【0049】
詳しくは、図1の(A)に示すように、平座金1と貫通孔を設けたガラス板Gと金属板2にボルト3を通し平座金1をガラス板Gと金属板2の間に挟み、ボルト3にナット4を羅合させて、一対の締め付け部材であるボルト3・ナット4を締め付けることによって生じるボルト軸方向の力で接合一体化させる。尚、図1の(A)のワッシャ5は、ボルト3・ナット4を締め付け易いように用いた。
【0050】
本発明の板ガラスの接合構造は、図1の(B)に示すように、ガラス板Gの貫通孔の端部6避けるために、内径がガラス板の貫通孔の直径よりも大きい平座金1を用い、図1の(A)に示すように、同心となるように圧接させた。
【0051】
図2は、本発明のガラス板の接合構造および接合方法によるガラス板同士の接合部の一例の拡大側面図である。ボルト3・ナット4以外は接合部における断面で示している。
【0052】
本発明は、図2の(A)に示すように、貫通孔を擁するガラス板G1、G2を重ね、貫通孔に挿通させた一対の締め付け部材であるボルト3・ナット4の締め付けにより生じる力でガラス板同士、即ち、ガラス板G1、G2を接合したガラス板の接合構造であって、ヤング率が6.70×10MPa以上、7.30×10MPa以下であり、線膨張係数がガラス板および一対の締め付け部材の線膨張係数よりも大きく、内径がガラス板G1、G2の貫通孔の直径よりも1.0mm以上大きい平座金1をガラス板G1、G2に圧接およびガラス板G1、G2間に挟んでなることを特徴とするガラス板の接合構造である。
【0053】
詳しくは、平座金1と貫通孔を設けたガラス板G1、G2とにボルト3を通し平座金1をガラス板G1、G2に圧接させ、平座金1をガラス板G1、G2の間に挟み、ボルト3にナット4を羅合させて、一対の締め付け部材であるボルト3・ナット4を締め付けることによって生じるボルト軸方向の力で一体化させる。尚、ワッシャ5は、ボルト3・ナット4を締め付け易いように用いた。
【0054】
本発明のガラス板の接合構造および接合方法において、ボルト3・ナット4またはネジ・ナットを締め付けた際に割れを生じさせないためには、板ガラスG、G1、G2の貫通孔の直径より、平座金1の内径を1.0mm以上、好ましくは4.0mm以上大きくする。言い換えれば、板ガラスG、G1、G2の貫通孔の端部6から平座金1までの間隔を0.5mm以上、好ましくは2.0mm以上とする。
【0055】
板ガラスG、G1、G2が強化ガラス板であれば、平座金1に硬い鋼(はがね)、ステンレス鋼を用い、ボルト3・ナット4で強く締め付けることが可能であるが、平座金1の仕上げ精度が悪く変形がある場合等は、ガラス板G、G1、G2が、強化処理がされていない生板ガラスであると、締め付けた際に平座金1とガラス板G、G1、G2の界面で局所的な力が加わり破損し易い。
【0056】
ソーダライムシリケートガラスとヤング率が近い平座金1を用いれば、平座金1が適度に変形する、言い換えれば、適度に馴染んで緩衝作用が生じ、ガラス板G、G1、G2と平座金の界面で局所的な力が加わり破損することが抑制される。このことは、ガラス板G、G1、G2が強化ガラス板であっても当てはまる。ソーダライムシリケートガラスとヤング率が近い平座金1を用いれば、ガラス板G、G1、G2に圧接させた際、局所的な力が生じない。このように、ガラス板G、G1、G2と平座金1のヤング率が近い値であれば、平座金1が適度に変形する、言い換えれば、適度に馴染んで緩衝作用を奏し、ガラス板G、G1、G2と平座金1の界面で局所的な力が加わり破損することを抑制できる。
【0057】
通常、建築用途等の汎用用途に用いられるソーダライムシリケートガラスのヤング率は7.16×10MPaである。よって、ヤング率が6.70×10MPa以上、7.30×10MPa以下の材料からなる平座金1を用いることが好ましい。好ましくは、6.80×10MPa以上、7.20×10MPa以下である。
【0058】
該当する金属材料には、ヤング率が6.86×10MPaであるアルミニウム、またはアルミニウムを主成分とするアルミニウム合金が挙げられ、本発明のガラス板の接合構造および接合方法に使用するに好ましい平座金1の材料である。アルミニウム合金の中で、合金番号、5052、5454,7075等のアルミニウム合金が入手し易く、本発明の板ガラスの接合構造及びその接合方法に用いる平座金1の好ましい材料である。
【0059】
さらに、ガラスG、G1、G2および金属板2、ボルト3・ナット4の材料である鋼およびステンレス鋼より、線膨張係数が大きいアルミニウム製またはアルミニウム合金製の平座金1を用いることで、ボルト3・ナット4を締め付け後の温度変化に対して、ボルト軸方向の力の変化が少ない安定した接合力が得られる。
【0060】
平座金1の線膨張係数は、一対の締め付け部材であるボルト3・ナット4の材料の中で、線膨張係数が大きいステンレス鋼であるSUS304の線膨張係数17×10−6/℃より大きいことが好ましく、線膨張係数が18×10−6/℃以上、26×10−6/℃以下(−50℃〜200℃)であるアルミニウムまたはアルミニウム合金が平座金1の好ましい材料である。
【0061】
また、アルミニウム製またはアルミニウム合金製の平座金1と鋼、またはステンレス製の平座金1を重ねて使っても構わない。その際、ガラス板に圧接する側には、アルミニウム製またはアルミニウム合金製の平座金1を用いることが好ましい。
【0062】
図3は、本発明のガラス板の接合構造および接合方法により接合した板ガラスの一例の上面図である。
【0063】
図3に示すように、接合部材である金属板2を介して、ガラス板G1、G2、G3を連結した。この際、金属板2をL字状にしてガラス板を直角方向に連結させる等、ガラス板に異なった角度を持たせれば、ガラス板を使用した建築、家具および物品等の製造において、本発明のガラス板の接合構造およびその接合方法は広く使用される。
【0064】
また、本発明のガラス板の接合構造およびその接合方法において、橋やビル等の鋼構造物の接合方法として用いられる、高力ボルト摩擦接合で使用されるボルト3・ナット4の締め付けによる60kN以上のボルト軸方向の力、言い換えれば、一対の応力部材の締め付けにより生じる60kN以上の力で、ガラス板を締め付けても、ガラス板が破損せず、強い接合強度が得られた。なお、一対の応力部材の締め付けにより生じる力が300kNより大きいと、ガラス板本来の高い剛性をもってしても破損の恐れがある。上記のボルト軸方向の力で締め付ければ、例えばリブガラススクリーンのリブガラスの接合等、建築用途での使用が可能となる。
【0065】
この際、ボルト3の頭部、ナット4の外径よりも応力発生部材である平座金1の貫通孔の直径を小さくすることで、例えば、ボルト3頭部・ナット4の外径よりも応力発生部材としての平座金1の内径を小さくすることで、60kN以上のボルト軸方向の力が平座金1を介してガラス板に確実に伝達され、ガラス板と接続部材としての金属板とが強固に接合される。通常、六角ボルト・ナットにおいては、ボルト3頭部、ナット4の最大の外径を対角距離と呼ぶ。強い締め付けトルクを伝えるには六角ボルト・ナットを使用することが好ましく、中でも建築用で使用される摩擦接合用高力ボルト・ナットが好適に使用される。ボルト1・ナット2の締め付けによるボルト軸方向の60kN以上、300kN以下の強い力を得るためには、高力六角ボルト・ナット、言い換えると、機械的性質による等級がF8T以上の高力六角ボルト・ナット、または、強度区分が、8.8、10.9、12.9の六角ボルト・ナット、または、トルシア形高力ボルトを使用することが好ましく、中でも建築で使用される摩擦接合用高力ボルト・ナット、言い換えると、機械的性質による等級がF8T以上の高力六角ボルト・ナットが好適に使用される。高力六角ボルト・ナット・座金の機械的性質による等級については、JIS B1186−1995「摩擦接合用高力六角ボルト六角ナット、平座金のセット」に準拠する。
【0066】
また、本発明のガラス板の接合構造およびその方法において、平座金1を介して、一対の締め付け部材で締め付けるガラス板Gとしては、フロート法で製造したガラス板、強化ガラス、倍強度ガラス、熱線吸収ガラス、熱線反射ガラス、各種表面処理を施してあるガラス板、また、これらのガラスを用いた合わせガラス等が挙げられる。合わせガラスの場合は、中間膜を避け、合わせガラスを構成する1枚のガラス板に対して、本発明のガラス板の接合方法を適用し、接合に介しない他のガラス板には平座金の外径より大きい直径の貫通孔をあけ、平座金1のための座繰り孔加工をすることが好ましい。
【0067】
また、本発明のガラス板の接合構造およびその接合方法において使用する接合部材としては、加工し易く、硬く、高剛性の金属板2から選ばれ、鉄鋼製の板材、好ましくは、JIS G 3101−2004「一般構造用圧延鋼材」に準拠するSS400等が好適に使用される。また、屋外の建築用途に使用することを考えれば、錆び難く経時劣化が少ないステンレス鋼製の板材を用いることが好ましい。
【0068】
尚、本発明において孔径とは貫通孔の最大径であり、貫通孔が円形の場合その直径をさす。本発明において、孔端部よりクラックを発生させないためには、ガラス板G、応力発生部材の貫通孔の形状は、ガラス板の一点に力を集中させない円形であることが好ましい。アルミニウム製またはアルミニウム合金製の平座金1は、市販の円形のものが好適に使用される。
【実施例】
【0069】
以下、本発明の実施例を示す。
【0070】
(ボルト軸方向の力の温度依存性測定)
先ず、平座金1に、アルミニウム合金を用いた場合のボルト軸方向の力の温度依存性について測定した。
【0071】
図4は、ボルト軸方向の力の温度依存性測定用試験片の測面図である。ボルト3・ナット4以外は断面図で示している。
【0072】
中心に径24mmの貫通孔をあけた板厚、19mm、大きさ、300mm×300mm角の強化ガラス板Gを用意した。強化ガラス板Gは、軟化点付近まで加熱後、風冷、言い換えれば、空気を吹きつけることで急冷し表面に圧縮応力を与える風冷強化処理を行っている。
【0073】
図4に示すように、強化ガラス板Gと接合部材としての金属板2とを接合する際に、一対の締め付け部材であるボルト3・ナット4と接合部材としての金属板2との間にワッシャ5を挟んだ。ワッシャ5には、炭素鋼S45C製の、呼び径、M20、厚み、4.5mm、外径、40mm、内径、21mm、機械的性質による等級はF35、線膨張係数が11×10−6/℃のものを用いた。
【0074】
また、強化ガラスGと金属板2との間に、平座金1を、ガラス板Gの貫通孔の端部6に、ボルト3・ナット4の締め付けによるボルト軸方向の力を加えないように挟み込んだ。平座金1には、アルミニウム合金製(合金番号5052)の、呼び径、M30の平座金、厚み4.0mm、外径、58mm、内径、40mm、ヤング率が7.03×10MPa、線膨張係数が23.8×10−6/℃のものを用いた。
【0075】
これら呼び径、M20のワッシャ5と、M30の平座金1の間に、厚さ10mm、ボルト3挿通用の径24mmの孔を有する、SS400製で線膨張係数が12×10−6/℃の金属板2を挟みこんだ。
【0076】
また、ナット4側の、ワッシャ5と平座金1との間の金属板2の間に、ボルト軸方向の力を測定するためのロードワッシャ7を挟んだ。尚、ボルト軸方向の力は、KISLER製の水晶圧電式ロードワッシャ7(形式:9041A)、および、図示しないKISLER製のチャージメーター(型式:5015A10)を用いて測定した。
【0077】
次いで、上記の強化ガラス板Gと金属板2を、強化ガラス板Gに貫通させたボルト3にナット4をねじ込み、トルクレンチを用いて150N・mのトルクで一次締めした後、そこからナット4を120度回転させて、ナット回転法に従い、3体の試験片を締め付けたが、3体とも強化ガラスGは破損しなかった。尚、このときの室温は20℃で、ボルト3・ナット4の締め付けにより発生するボルト軸方向の力は平均で201kNであった。
【0078】
201kNのボルト軸方向の力で締め付けて、ガラス板Gが破損しなかったのは、割れが生じ易いガラス板Gの貫通孔の端部6に、ボルト軸方向の力を直接作用させないようにしたことに加え、ガラス板Gの圧縮部位において、圧縮応力によりクラック発生および伝播が抑制され、ガラス板Gの見掛の強度が増加したこと、さらに、ガラスとヤング率が近いアルミニウム合金製の平座金1を用いたことで、平座金1が適度に変形し、言い換えれば、適度に馴染んで緩衝作用が生じ、強化ガラス板Gと平座金1の界面で局所的な力が加わらなかったためと思われる。
【0079】
ボルト3・ナット4には、株式会社NSボルテン製の摩擦接合用高力六角ボルト・ナット座金のセットを使用した。ボルト3は呼び径、M20、首下長さ、120mm、対角距離、37mm、機械的性質による等級はF10Tである。ナット4は呼び径、M20、対角距離、37mm、機械的性質による等級はF10である。
【0080】
次いで、これら3体の試験片を槽内が20℃に調温された恒温恒湿槽内に入れた後、0.5℃/秒のスピードで120分かけて80℃まで昇温し、80℃の環境下で60分間試験片を保持した後、再度、ボルト軸方向の力を測定した。このときのボルト軸方向の力の平均値は191kNであった。
【0081】
次いで、これら3体の試験片を0.5℃/秒のスピードで200分かけて−20℃まで降温し、−20℃の環境下で60分間試験片を保持した後、再々度、ボルト軸方向の力を測定した。このときのボルト軸方向の力の平均値は203kNであった。
【0082】
比較のため、平座金1をS45C炭素鋼製の、呼び径、M30、厚み、5.5mm、外径、60mm、内径、31mm、機械的性質による等級はF35、ヤング率が210×10MPa、線膨張係数が11×10−6/℃のものに置き換えて、3体の試験片を作製し同様に測定を行ったところ、ボルト軸方向の力の平均値は、20℃で205kN、80℃で189kN、−20℃で209kNであった。
【0083】
表3に、以上の各温度におけるボルト軸方向の力の測定結果を示す。さらに、−20℃と80℃におけるボルト軸方向の力を、20℃の際のボルト軸方向の力を基準とする百分率で示した変化率で比較した。
【0084】
【表3】

【0085】
S45C製の平座金1を用いた場合に比べ、線膨張係数の大きいアルミニウム合金(合金番号5052)製の平座金1を用いた方が、ボルト3・ナット4の締め付け時の温度である20℃の際のボルト軸方向の力に対する、環境温度を−20℃に下降または80℃に上昇させた際のボルト軸方方向の力の変化率が小さくなった。具体的には、アルミニウム合金(合金番号5052)製の平座金1を用いた際の、−20℃における変化率の増加は+1%、80℃における変化率の減少は−5%であり、S45C製の平座金1を用いた際の、−20℃における変化率の増加は+2%、80℃における変化率の減少は−8%であった。
【0086】
このことは、平座金1に、線膨張係数がガラス板Gおよびボルト3に比較して大きい、アルミニウム合金(合金番号5052)製の平座金1を用いることで、ボルト3・ナット4で、20℃(常温)下で締め付けた際に比較して、−20℃(低温)下ではガラス板Gよりもボルト3の方がより縮むため、ボルト3・ナット4間の間隔が狭まるが、ボルト3より線膨張係数が大きいアルミニウム合金(合金番号5052)製の平座金1が、厚みが薄くなる形状変化をすることで、該間隔の狭まりを埋めるように働き、ガラス板Gに作用するボルト軸方向の力が強まることを抑制したことによる。
【0087】
ボルト3・ナット4で、20℃(常温)下で締め付けた際に比較して、80℃(高温)下ではガラス板Gよりもボルト3の方がより伸びるため、ボルト3・ナット4間の間隔が広がるが、ボルト3より線膨張係数が大きいアルミニウム合金(合金番号5052)製の平座金1が厚みを増す形状変化をすることで、該間隔の広がりを埋めるように働き、ガラス板Gに作用するボルト軸方向の力が弱まるのを抑制したことによる。
【0088】
アルミニウム合金(合金番号5052)製の平座金1を用いることで、ボルト3・ナット4を締め付け後の温度変化に対して、ボルト軸方向の力の変化が少ない安定した接合が得られた。
(万能材料試験機による引っ張りせん断試験による接合力の測定)
次いで、本発明の板ガラスの接合構造における1箇所当たりの接合力を測定するために、万能材料試験機にて引っ張りせん断試験を実施した。
【0089】
図5は万能材料試験機にて引っ張りせん断試験をする際の正面図である。
図6は万能材料試験機にて引っ張りせん断試験をした際の側面図であり、(A)がボルト引っ張り金具の側面図、(B)がガラス引っ張り金具の側面図である。
【0090】
万能材料試験機(株式会社オリエンテック製、型式UCT−10T)を用い、図5および図6の(A)、(B)に示すように、作製した接合力評価用試験片としての強化ガラス板Gと接合部材としての金属製のL字型部材8とを接合する際に、一対の締め付け部材であるボルト3・ナット4と金属製のL字型部材8との間にワッシャ5を挟んだ。ワッシャ5は、S45C炭素鋼製で、呼び径、M20、厚み、4.5mm、外径、40mm、内径、21mm、機械的性質による等級はF35のものを用いた。
【0091】
また、強化ガラス板Gと金属製L字型部材8との間に、応力発生部材として、強化ガラス板Gの貫通孔の端部6に、ボルト3・ナット4の締め付けによるボルト軸方向の力を加えないために挟み込む平座金1には、呼び径、M30のアルミニウム合金(合金番号5052)製、厚み4.0mm、外径、58mm、内径、30mmのものを用いた。この、アルミニウム合金製(合金番号5052)の平座金1のヤング率は7.03×10MPaであり、線膨張係数は23.8×10−6/℃(20〜100℃)である。
【0092】
これら呼び径、M20のワッシャ5と、M30の平座金1との間に、厚さ15mm、ボルト挿通用の24mmφの孔を有する、SS400製のL字型部材8を挟みこんだ。
【0093】
次いで、上記の強化ガラス板GとL字型部材8をボルト3・ナット4で締め付けた。
【0094】
ボルト3・ナット4には、株式会社NSボルテン製の摩擦接合用高力六角ボルト・ナット座金のセットを使用した。ボルト3は呼び径、M20、首下長さ、100mm、対角距離、37mm、機械的性質による等級はF10Tである。ナット4は呼び径、M20、対角距離、37mm、機械的性質による等級はF10である。
【0095】
強化ガラス板Gに貫通させたボルト3にナット4をねじ込み、トルクレンチを用いて150N・mのトルクで一次締めした後、そこからナット4を120度回転させて、ナット回転法に従い締め付けたが、強化ガラス板Gは破損しなかった。尚、このときのボルト3・ナット4の締め付けによる、ボルト3に発生するボルト軸方向の力は平均201kNであった。
【0096】
次いで、図5および図6の(A)に示すように、平座金1を介して、高力六角ボルト3とナット4を用いて、平均201kNのボルト軸方向の力で強化ガラス板Gと接合した一対のL字型部材8を、ボルト引っ張り金具9とをボルト10にて接合した後、図示しない万能材料試験機ロードセルに連結し、図6の(B)に示すようにガラス引っ張り金具11に強化ガラス板Gを挟み込んでボルト12で固定し、ガラス引っ張り金具11を、図示しない万能材料試験機固定金具に連結した。万能材料試験機により、ボルト引っ張り金具9およびガラス引っ張り金具11を、図5および図6の(A)および(B)の矢印に示すように、上下方向に引っ張り、平座金1、ボルト3・ナット4が、滑り動き始めたときの荷重を、本接合1箇所当たりの接合力として測定した。接合力の測定は3個の試験片に対して行い、測定結果は、52kN、65kN、58kNであり、平均値は58kNであった。
【0097】
このように、ボルトの呼び径がM20の高力六角ボルト3.ナット4を用い、平均201kNのボルト軸方向の力で本接合方法により接合した場合、平均で58kNのせん断力に耐え得る接合が得られた。接合部に平均で58kN以上のせん断力が作用しなければ、強化ガラス板Gの貫通孔、言い換えれば、ボルト挿通孔にボルト3が接触することがないため、せん断力で接合部が滑りガラス板Gと接触することがない接合強度が高い接合構造が得られた。
(本発明の接合構造の耐荷重試験)
次いで、本発明のガラス板の接合構造およびその接合方法をリブガラスに使用する際に、実用に対して十分な接合強度が得られるかを確認するための耐荷重試験を行った。具体的には本発明のガラス板の接合構造及びその接合方法による強化ガラス板GとL字型部材8の接合部の耐荷重試験を行った。
【0098】
最初に、耐荷重試験に用いたガラス試験片について説明する。耐荷重試験に用いた強化ガラス板Gの寸法は、板厚、19mm、幅500mm、長さ2000mmであり、強化ガラス板Gのガラス固定端側の端部に、強化ガラス板Gの固定端側の角から幅方向に100mm、長さ方向に100mmの位置に、径24mmのボルト貫通孔を設け、さらに、この貫通孔より、強化ガラス板Gの幅方向に300mmの間隔、長さ方向に200mmの間隔で、径、24mmのボルト挿入用の貫通孔を4箇所設けた。
【0099】
図7は、本発明のガラス板の接合構造の耐荷重試験方法を示す説明図であり、(A)は、耐荷重試験装置の側面図であり、(B)は上面図である。
【0100】
図7の(A)、(B)に示すように、強化ガラス板GとL字型部材13との接合部に、ボルトの呼び径がM20のボルト3を用い、強化ガラス板Gの固定端側に幅方向に300mmの間隔、ガラスの長さ方向に200mmの間隔、対角長さ360mmとなるように貫通孔をあけて、接合部を4箇所設けた。
【0101】
本発明のガラス板の接合構造において、図7の(B)に示すようなガラス固定端の反対側端部に加える外力Wに対し、接合部1箇所当たりに働くせん断力Fは数1の式で算出される。
【0102】
【数1】

【0103】
接合部1箇所当たりの接合力は、58kN程度のせん断力に耐えるが、ボルト3の軸方向の力のばらつき、ボルト3の軸方向の力の緩和などにより、接合力にばらつきが生じることが考えられるため、安全を考慮して、接合1カ所当たりの接合力、言い換えれば、本発明の接合1箇所当たりに作用するせん断許容力を50kNとして、耐荷重試験を行った。数1の式において、Fに50kNを代入して、接合構造が保たれる、ガラス固定端の反対側端部の外力Wを算出すると、W=20kNとなる。
【0104】
図7の(A)および(B)に示すように、固定壁14にボルト15で締め付けて固定した、厚さ12mmの一対のSS400製のL字型部材13に、ボルト3・ナット4およびワッシャ5および平座金1を用いて、前記強化ガラス板Gの端部を本発明のガラス板の接合構造となるように固定した。
【0105】
ボルト3には、呼び径、M20、首下長さ120mm、機械的性質による等級、F10Tのものを用い、ナット4には、呼び径、M20、機械的性質による等級、F10Tのものを用い、ワッシャ5には、呼び径、M20、厚み4.5mm、外径、40mm、内径、21mm、機械的性質による等級はF35のものを用いた。
【0106】
また、強化ガラス板Gの貫通穴に、ボルト3・ナット4の締め付けによるボルト軸方向の力を作用させないで強化ガラス板Gに圧接するように、強化ガラス板GとL字型金属板13との間に挟み込む平座金1には、アルミニウム合金製(合金番号5052)の、呼び径、M30の平座金、厚み4.0mm、外径、58mm、内径、40mm、ヤング率が7.03×10MPa、線膨張係数が23.8×10−6/℃のものを用いた。
【0107】
ボルト3にナット4をねじ込み、トルクレンチを用いて150N・mのトルクで一次締めした後、そこからナット4を120度回転させて、ナット回転法に従い締め付けた。なお、このときに発生するボルト3・ナット4の締め付けによるボルト軸方向の力は、平均201kNである。
【0108】
図7に示す耐荷重試験装置において、強化ガラス板Gを固定した反対側の端部に、図7中の矢印の方向へ、図示しない油圧ジャッキを用いて、0〜20kNの荷重Wを負荷した際の、接合部16のボルト3の鉛直方向の変位量、接合部16の真上の強化ガラス板Gの鉛直方向の変位量を計測し、強化ガラス板Gの鉛直方向の変位量からボルトの鉛直方向の変位量を引いたものを強化ガラス板Gのすべり量として計測した。
【0109】
荷重Wが20kNまで負荷をしたが、ボルト3と強化ガラス板Gの変位量はほぼ等しく、すべりが発生しなかった。また、強化ガラス板Gが破損することもなかった。言い換えれば20kNの外力に耐え得るリブガラス構造が得られた。
【0110】
この試験結果を、ガラス板と接合部材を接着する従来のガラスパネルの固定方法と比較すると、例えば、特許文献1の実施例では、強化ガラス板の長さが1719mm、固定端の幅が325mm、先端部(荷重負荷側)の幅が244mm、厚みが19mmで、100mmのピッチで3本の雄ねじ部材を挿通した場合、約9.8kN(1000kgf)でガラスが破壊したと記載されている。接合部から荷重を与える部位までの距離であるモーメント長を加味し、本接合部の耐荷重試験と比較すると、本発明のガラスの接合構造の試験結果では、モーメント長が長く、耐荷重試験として20kNの荷重を加える過酷な試験であるにも拘らず、強化ガラス板Gが滑らなかった。また、強化ガラス板Gが破損することもなかった。
【0111】
本発明のガラス板の接合構造の耐荷重試験の結果、強化ガラス板Gと平座金1と一対のL字型部材13とが、ボルト3・ナット4の締め付けによるボルト軸方向の力により平座金1を介して一体化して、固定端の反対側に荷重が作用しても強化ガラス板Gのすべり変位が生じにくくなり、従来のガラス板と接合部材を接着する接合方法に比較して、より接合部の接合強度が向上していることがわかった。
【0112】
尚、本発明のガラス板の接合構造およびその接合方法において、ガラス板の貫通孔と平座金1の貫通孔とが同心となるように配置する際の位置決めに、図示しないゴムまたは樹脂製のスペーサーを貫通孔の空間部に入れておくと、平座金1の内径とガラス板のボルト挿入孔の外径との間隔を一定に保つことができるため、ゴムまたは樹脂製のスペーサーを入れることが好ましい。また、ガラス板のボルト挿入孔とボルト3の軸部の間に、万一ずれが生じるような外力が作用して、接合部ですべりが生じた際、直接、ガラス板の貫通孔とボルト3の軸部が触れ合うことなく緩衝し破壊が抑制されるので、ゴムまたは樹脂製のスペーサーを入れることが好ましい。
【0113】
また、ガラス板と接合部材を接着する従来のガラスパネルの固定方法ではガラス板が滑り始める前にガラス板が破損していることから、接合数を増やすことでこれ以上接合強度を増やすことができないが、本発明のガラス板の接合構造およびその接合方法では、接合数を増やすことや、接合のピッチを広げることで容易に接合強度を高めることも可能である。
【0114】
このことより、例えば、ガラススクリーンを建設する際、ガラススクリーンをなす面ガラスの支持に用いる方立てガラスとしてのリブガラスを長くし、その上端部を接合し支持する際、リブガラスの接合に本発明のガラス板の接合構造およびその接合方法を用いる方が、ガラス板と接合部材を接着する従来のガラスパネルの固定方法よりも、接合強度が高く、有利であることがわかった。言い換えれば、リブガラスに本発明のガラス板の接合構造およびその接合方法を用いる方が、接合強度が従来の接合方法と同じであれば、リブガラスの幅を短くすることができる。また、接合数や接合の間隔を広げることで、従来の接合方法よりも接合強度を高くできるため、ガラススクリーンをなす面ガラス支持に用いるリブガラスの設置の間隔を広くすることが可能であり、ガラススクリーンとして視認性が高く、より開放的な空間を作り出すことができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明のガラス板の接合構造および接合方法を使用する、具体的家具としてはガラステーブルおよびカラスキャビネット、建築物品としてはガラス間仕切り、建築物としてはガラススクリーン等が挙げられ、ガラス壁、ガラス屋根、大板ガラスを使用した開口部構成よりなるガラススクリーン等の大型建築物に使用される。例えば、目立つ金属方立の代りに、目立たないガラス方立て(リブガラス)を用いて、正面ガラスを(フェイスプレート)に加わる風荷重を支持する工法であるガラス・スタビライザー工法によるリブガラススクリーンにも使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】図1の(A)は、本発明のガラス板の接合構造および接合方法によるガラス板と金属板の接合部の一例の拡大側面図である。図1の(B)は平座金を当接させた板ガラス貫通孔部の上面図である。
【図2】本発明のガラス板の接合構造および接合方法によるガラス板同士の接合部の一例の拡大側面図である。
【図3】本発明のガラス板の接合構造および接合方法により接合した板ガラスの一例の上面図である。
【図4】ボルト軸方向の力の温度依存性測定用試験片の上面図である
【図5】万能材料試験機にて引っ張りせん断試験をする際の正面図である。
【図6】万能材料試験機にて引っ張りせん断試験をした際の側面図であり、(A)がボルト引っ張り金具の側面図、(B)がガラス引っ張り金具の側面図である。
【図7】本発明のガラス板の接合構造の耐荷重試験方法を示す説明図であり、(A)は、耐荷重試験装置の側面図であり、(B)は上面図である。
【符号の説明】
【0117】
G、G1、G2、G3 ガラス板
1 平座金
2 金属板(接合部材)
3 ボルト
4 ナット
5 ワッシャ平座金
6 貫通孔の端部
7 ロードワッシャ
8 L字型部材
9 ボルト引っ張り金具
10 ボルト
11 ガラス引っ張り金具
12 ボルト
13 L字型部材
14 固定壁
15 ボルト
16 接合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔を擁するガラス板と接合部材を重ね、貫通孔に挿通させた一対の締め付け部材の締め付けにより生じる力でガラス板と接合部材を接合したガラス板の接合構造であって、ヤング率が6.70×10MPa以上、7.30×10MPa以下で、線膨張係数がガラス板および一対の締め付け部材の線膨張係数よりも大きく、内径がガラス板の貫通孔の直径よりも1.0mm以上大きい平座金をガラス板と接合部材との間に挟んでなることを特徴とするガラス板の接合構造。
【請求項2】
貫通孔を擁するガラス板同士を重ね、貫通孔に挿通させた一対の締め付け部材の締め付けにより生じる力でガラス板同士を接合したガラス板の接合構造であって、ヤング率が6.70×10MPa以上、7.30×10MPa以下で、線膨張係数がガラス板および一対の締め付け部材の線膨張係数よりも大きく、内径がガラス板の貫通孔の直径よりも1.0mm以上大きい平座金をガラス板に圧接および/またはガラス板間に挟んでなることを特徴とするガラス板の接合構造。
【請求項3】
前記平座金がアルミニウム製またはアルミニウム合金製であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のガラスの接合構造。
【請求項4】
平座金をガラス板の貫通孔に対して同心に配置したことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のガラス板の接合構造。
【請求項5】
貫通孔を擁するガラス板と接合部材を重ね、貫通孔に挿通させた一対の締め付け部材の締め付けにより生じる力でガラス板と接合部材を接合したガラス板の接合方法であって、ヤング率が6.70×10MPa以上、7.30×10MPa以下で、線膨張係数がガラス板および一対の締め付け部材の線膨張係数よりも大きく、内径がガラス板の貫通孔の直径よりも1.0mm以上大きい平座金をガラス板と接合部材との間に挟むことを特徴とするガラス板の接合方法。
【請求項6】
貫通孔を擁するガラス板同士を重ね、貫通孔に挿通させた一対の締め付け部材の締め付けにより生じる力でガラス板同士を接合したガラス板の接合方法であって、ヤング率が6.70×10MPa以上、7.30×10MPa以下で、線膨張係数がガラス板および一対の締め付け部材の線膨張係数よりも大きく、内径がガラス板の貫通孔の直径よりも1.0mm以上大きい平座金をガラス板に圧接させるおよび/またはガラス板間に挟むことを特徴とするガラス板の接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−74624(P2009−74624A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−244981(P2007−244981)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】