説明

ガラス組成物及びセラミック基板

【課題】 低損失で気孔率の小さいガラス組成物及び低温焼成セラミックを得ることを目的とする。
【解決手段】 構成する各成分をモル%表示で、X%((1−α)SiO−α×GeO)−Y%B−Z%Al−A%CaO−B%MgO−C%TiOと表せ、上記式で前記Xが52〜58、Yが12〜15、Zが6〜12、Aが8〜11、Bが8〜15、Cが0〜5、αが0.1〜0.5であり、各成分の合計が100%となる組成を有するガラス組成物を原料としてセラミック基板を作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、主として通信分野用途のセラミック多層基板材料である、ガラス組成及び低温焼成セラミックに関するものである。
【背景技術】
【0002】
高度な情報通信を支える技術として、低温焼成セラミック多層基板が実用化されている。低温焼成セラミックのグリーンシートに導体ペーストで回路パターンを形成し、積層一体化した後に焼成した、回路配線内蔵のセラッミック多層基板である。セラミックと導体を同時に焼成しているので、同時焼成基板とも呼ばれている。
【0003】
低温焼成セラミック基板材料は、一般的に、ガラス成分とアルミナ等の結晶性の無機化合物との混合物であり、“低温”とは概ね1000℃以下の温度を指している。ガラスの軟化に伴う速やかな緻密化が焼結過程の主要因であり、軟化点が1000℃以下のガラスを選択することで低温焼成を可能にしている。通信分野用途のセラミック多層基板には、近年、製品の高性能化を目指すユーザから、マイクロ波、ミリ波帯での低損失化が求められている。高周波損失に大きく寄与する材料特性は、セラミック基板材料の誘電特性と導体パターン材料の電気伝導度である。両者の中でもセラミック基板材料の誘電特性は重要であり、高い周波数になるほどその寄与率は高くなる。このため、高周波損失の低減の観点から、誘電特性が優れる(比誘電率及び誘電正接が低い)セラミック基板材料の産業上の価値は高いものの、所望の誘電特性と低温焼成とを両立させることは難しい。
【0004】
低温焼成セラミック基板材料は、例えば、アルミナ12〜57重量%、ホウケイ酸系ガラスかアルミノケイ酸塩系ガラス18〜70重量%、アノーサイト1〜40重量%、セルシアン1〜5重量%、総量100%になるように構成される。この材料を使用すれば焼成雰囲気を選ばず低温焼成が可能で、誘電正接が低く、かつ機械的強度に優れる多層基板を製造できる(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、高周波帯で低損失なアルミノケイ酸塩系ガラス組成が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平6−305770号公報
【特許文献2】特開平11−292567号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の低温焼成セラミック基板は、以上のようなガラス組成物をもとに作製されていたので、ノイズ発生を抑えた低損失でかつ気孔率の低い製品を得るのは困難であるという課題があった。
【0008】
また、特許文献1における実施の形態にはマイクロ波、ミリ波帯での損失は示されておらず、低温焼成と低損失化を両立させる方法は明示されていない。実際に、特許文献1の低温焼成セラミック基板の誘電特性は、従来材料であるアルミナ基板に比べて損失が大きく、ミリ波帯用として十分とは言えない性能である。一般的にはホウケイ酸系やアルミノケイ酸塩系ガラスに比べてアルミナは低損失であるから、定性的には特許文献1の低温焼成セラミック組成を高アルミナ配合にすることで、ある程度低損失化が達成できると思われる。しかし、吸湿性や強度不足の問題を生じうることから、新たに低損失なガラス組成を探索して用いることが望ましい。
【0009】
一方、特許文献2には、低損失なアルミノケイ酸塩系ガラス組成が示されている。但し、特許文献2のガラス組成はガラス繊維用途であり、低温焼成セラミック基板用途は示されていない。
【0010】
本発明者は当初、特許文献2のガラス組成物とアルミナ粉末を用いて、異なる配合比で低温焼成セラミックの試料を作製し、気孔率とマイクロ波帯での誘電特性を評価した。また、比較試料として、特許文献1の低温焼成セラミックも作製し、同様の評価を行なった。その結果、特許文献2のガラス組成物で作製した試料は、特許文献1のものに比べてガラス組成物の誘電特性を反映して、概ね低損失であった。
【0011】
しかし、特許文献1を含めた一般的な低温焼成セラミックにおけるガラス配合率は、体積率にして40〜70%程度であり、その時の気孔率は概ね2%である。それに対して、同様のガラス配合率で作製した特許文献2のガラス組成物を用いた試料の気孔率は約20%と大きい。このため、特許文献2のガラス組成では、吸湿性が高くなり、多層基板として製品に要求される耐環境性を満たさないものと考えられる。
【0012】
このように気孔率が大きくなる要因として、特許文献2のガラス組成では、軟化した後の粘性が高いものと推定した。緻密なセラミックとなるためには、軟化したガラスがアルミナ粉末間の間隙に流動する過程が必要であるが、ガラスの粘性が高い場合には実用的な時間内でこの過程を終了させることが出来ないものと考えられる。
【0013】
ガラスの粘性はその組成によって変化するものであり、一般的にはアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物やホウ酸の配合で粘性を低くすることが出来る。本発明者はこの方針で特性改善を試みたが、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の配合量を大きくすると、今度は誘電損失が高くなる傾向を示した。また、ホウ酸の配合量を大きくした場合には、ガラスが吸湿性を持つ等の化学的な不安定性が発現することが明らかになった。
【0014】
アルカリ金属とアルカリ土類金属については、化学的に卑であるので、ガラス中に存在する分子レベルの網目中に、イオンに近い状態として存在し、ガラスを修飾してガラス骨格を切断するため、粘度が低下する。しかし、分子レベルの網目中では、結合エネルギーのポテンシャルがガラス骨格の位置に比べてなだらかなため、誘電緩和が大きくなり誘電損失を大きくする方向に寄与するものと推定した。
【0015】
一方、ホウ素については、ガラス骨格中に存在し、ガラス骨格の主成分であるケイ素とは化学的な結合手の数が異なるため、ガラス骨格を切断して粘度が低下する。しかし、粘度低下の効果が十分に発現する高配合比では、ホウ酸に類似する酸素配位を生じるため、ガラスが化学的に不安定化すると推定した。
【0016】
以上より、本発明にとって有効な成分とは、ガラス骨格に入って骨格の結合を弱くすることで、高温で骨格を切断し、速やかにガラスの粘度を低下させ、かつ固化した後に化学的に不安定な配位を取り難い成分であると考えた。
【0017】
この発明は上記のような課題を解消するためになされたもので、低損失で気孔率の小さいガラス組成物及びセラミック基板を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この発明に関わるガラス組成物は、構成する各成分をモル%表示で、X%((1−α)SiO−α×GeO)−Y%BO3−Z%Al−A%CaO−B%MgO−C%TiOと表せ、上記式で前記Xが52〜58、Yが12〜15、Zが6〜12、Aが8〜11、Bが8〜15、Cが0〜5、αが0.1〜0.5であり、各成分の合計が100%となる組成を有する。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、ガラス組成として酸化ゲルマニウムを添加することにより、誘電損失と気孔率が共に低い低温焼成セラミック基板を得られる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1について説明する。図1は、実施の形態1に係るガラス試料の組成をモル%表示した図である。各成分に対してモル%表示で、
X%((1−α)SiO−α×GeO)−Y%B−Z%Al
−A%CaO−B%MgO−C%TiO
と表せ、Xが52〜58、Yが12〜15、Zが6〜12、Aが8〜11、Bが8〜15、Cが0〜5、αが0.1〜0.5で、かつ各成分の合計が100%になるようなガラス組成物を得る。上式中X〜Z%で表される成分が主成分であり、A〜C%で表される成分が副成分である。実際に試作したガラス組成を図1の試料1〜21として示す。なお、試料8は特許文献2のガラス組成物であり、試料8〜21は上式の範囲を超えた比較例として作製した試作ガラスを示している。
【0021】
これらのガラス粉末を使用してグリーンシートを以下の手順で作製する。先ず、平均粒径約2マイクロメートル程度まで粉砕したガラス粉末と、概ね同じ粒度を持つ純度99%以上のアルミナ粉末を同重量と、ポリビニルブチラールやアクリル系樹脂などの有機バインダーと可塑剤や分散剤を適量添加して、トルエンとエタノールの混合有機溶媒中で混合、分散したスラリーを調整する。次にそのスラリーからドクターブレード法により、厚み約100マイクロメートルのグリーンシートを作製する。得られたグリーンシートを必要枚数重ねて、温水中で静水圧プレスを行ない一体化する。次にこのグリーンシートを焼成して低温焼成セラミック試料にする。この際の焼成温度は850から900℃の温度範囲で、焼成時間は1時間程度である。焼成温度は、グリーンシートの軟化点温度以上で1000℃未満であればよく、好ましくは、700〜1000℃の温度範囲がよい。
【0022】
図2は、図1のガラス試料をもとに作成したセラミック試料の誘電特性と気孔率を示した図である。なお、図2のセラミック試料番号と図1のガラス試料番号は対応している。例えば、図2のセラミック試料1は図1のガラス試料1から作製した低温焼成セラミック試料であることを示す。得られた低温焼成セラミック試料は、直径約1.33mm、長さ約40mmに加工して、共振周波数が約10GHzのTM010共振器を使用する摂動法によって、マイクロ波帯での誘電特性を測定した。ミリ波帯での特性は示さないが、比較的低損失な常誘電性の素材では、約10GHzでの特性における相対関係をミリ波帯でも概ね示すと言える。即ち、約10GHzで低損失な素材であるほど、ミリ波帯でも低損失であると言える。また、ガラス比重と加工試料の比重から、試料中の気孔率を計算した。
【0023】
図2において、セラミック試料13、15及び20の欄には、誘電特性の測定が不可能であることを示す「測定不可」の記載がある。これらの試料では、焼成後試料の加工が困難で、測定用試料が得られなかったものである。切削加工には冷却剤として水を使用したため、その影響と思われるが、加工中に試料が膨潤して所望形状に削り込むことが出来なかった。これは、得られたセラミック試料が水分に対して不安定であることを示しており、例え誘電特性が優れているとしても、応用は難しく工業的なメリットも低いと考えられる。
【0024】
また、比較例とした試料は概して気孔率が大きく、この点でもセラミック試料の耐湿性が低いと共に、低温焼成セラミックの重要な用途である封止パッケージや回路基板には不向きと考えられる。例えば、セラミック試料8の誘電特性は特許文献2のガラスが低損失であることを反映して、誘電正接及び比誘電率との積は比較的小さいが、実用的な低温焼成セラミックと比べて気孔率が非常に大きい。一方、ガラス成分中のアルカリ土類金属酸化物の配合率を高めたセラミック試料9は、誘電損失は増すものの気孔率が減少し、焼結性は改善しているものと考えられる。しかし、いずれも実用的な低損失の低温焼成セラミックとは言えない。それらに対して、セラミック試料1〜7は本発明の目的を達成しているものと判断できる。
【0025】
図1、2において、試料1、5及び9の比較で示されるように、酸化ゲルマニウムを混合することで、誘電正接と比誘電率の積は小さくなる。即ち、酸化ホウ素、アルミナ、アルカリ土類金属酸化物、酸化チタンの配合率を変えずに、酸化ケイ素の一部を酸化ゲルマニウムに置換することで、損失が低下するものである。同様の傾向は、試料2、3、8の比較からも明らかであるが、この比較では、酸化ゲルマニウムの混合によって気孔率が減少し、元から誘電損失が小さい試料8の利点をそのままに、実用的なセラミック試料2、3が得られたとも理解できる。いずれにしても、この組成範囲では、酸化ゲルマニウム置換が発明者の意図通りの働きをしているものと判断できる。
【0026】
しかし、この組成範囲を外れて、試料10のように酸化ゲルマニウムの混合比を大きくした場合、気孔率が再び増加して実用的なセラミックにはならない。試料5と10の粉末X線回折プロフィールを比較すると、試料10では、試料5に対してゲルマニウム含有多成分系酸化物と思われる回折線が非常に強く現れていた。即ち、酸化ゲルマニウムの混合比を大きくしたガラスは、結晶化率が高くなって焼結を阻害しているものと推定する。X線回折プロフィールから、試料12、14、16、17、19も同様の傾向が見られた。一方、試料11と21は、ゲルマニウム含有多成分系酸化物の回折線の他に、酸化ケイ素を含有する多成分系酸化物と思われる回折線が観察され、焼成過程におけるそれらの成長が焼結を阻害したものと推測する。
【0027】
以上のように、この実施の形態1によれば、冒頭組成の範囲内であれば、酸化ゲルマニウム置換ガラスを用いて、実用的で低損失な低温焼成セラミックを得られる効果がある。また、図2のデータから、試料2のガラス組成が誘電損失、気孔率が共に小さく、マイクロ波、ミリ波帯での使用に最適な低温焼成セラミックを得られる効果がある。
【0028】
なお、実施の形態1は、本発明のガラスとアルミナからなる低温焼成セラミックについて詳細を述べているが、ガラスに混合する無機成分はアルミナに限るものではなく、低損失な成分であれば本発明の目的を達せられる。例えば、二酸化ケイ素、二酸化チタン、コージライト、ステアタイトはその候補である。
【0029】
実施の形態2.
以下、この発明の実施の形態2について説明する。実施の形態1に示す低温焼成セラミックは、組成均質な1種類のガラス組成物とアルミナを出発原料にしているが、組成違いで複数種類のガラスを出発原料として使用する製造方法も容易に創出できる。
【0030】
従って発明者は、試料3と試料8のガラスを同重量で混合し、更に、その混合物と同重量のアルミナを混合して、実施の形態1と同様にグリーンシートを作製した。次に、そのグリーンシートを用いた低温焼成セラミック試料の誘電特性を10GHz帯で評価したところ、凡そ試料2に近い特性を得た。このことから、図1に示すガラス間の相溶性は、低温焼成過程で組成均一を達成するのに十分であり、得られるセラミック中にあるガラス組成が実施の形態1の式で表されるガラス組成の範囲内にあることが重要である。
【0031】
以上のように、この実施の形態2によれば、混合するガラス組成物が実施の形態1の式で表されるガラス組成の範囲内にあれば、実施の形態1と同様の低温焼成セラミックを得られる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】この発明の実施の形態1に係るガラス試料の組成をモル%表示した図である。
【図2】図1のガラス試料をもとに作成したセラミック試料の誘電特性と気孔率を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成する各成分をモル%表示で、
X%((1−α)SiO−α×GeO)−Y%B−Z%Al−A%CaO−B%MgO−C%TiO
と表せ、
上記式で前記Xが52〜58、Yが12〜15、Zが6〜12、Aが8〜11、Bが8〜15、Cが0〜5、αが0.1〜0.5であり、
前記各成分の合計が100%となる組成を有することを特徴とするガラス組成物。
【請求項2】
請求項1記載のガラス組成物と、アルミナ、二酸化ケイ素、二酸化チタン、コージライト、ステアタイトのうちの少なくともいずれか1つとを混合し、上記ガラス組成物の軟化点以上、1000℃未満の温度で焼成して得られることを特徴とするセラミック基板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−193386(P2006−193386A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−8020(P2005−8020)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】