説明

ガラス組成物

【課題】高い放射線遮蔽性能を有すると同時に一定の耐酸性、耐洗剤性を有するガラス組成物を提供すること。
【解決手段】ISO−9689に規定する耐洗剤性試験を行った場合、クラスが3以下となる性質を有し、かつ、ISO−8424に規定する耐酸性試験を行った場合、クラスが5以下となる性質を有するガラス組成物。ヤング率が70GPa以上である請求項1に記載のガラス組成物。SiO及びBのうちいずれか一方又は両方を含有し、酸化物基準のmol%で、Ln(Lnは、La、Y、Gd、Dy、Yb、Luからなる群より選択される1種以上を示す)を0.5〜50%含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス組成物に関し、さらに詳しくは、X線やγ線等の放射線を遮蔽する能力を有するガラス組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
X線、γ線等の放射線を取り扱う施設において、仕事をしやすくするため、及び業務に携わる人々を放射線から守るために、放射線遮蔽ガラスが使用されている。このようなガラスとしては、可視域に高い透明性と、放射線に対して優れた遮蔽能力(吸収能力)が要求される。遮蔽能力はガラスの質量吸収係数と密度に比例するので、昔から密度の大きい鉛ガラスが使われている。
【0003】
しかし、鉛成分は有害物質であるため、鉛成分を多量に含む放射線遮蔽ガラスは、その製造、加工、及び廃棄をする際に環境対策上の措置を講ずる必要がある。その結果、コストが高くなりやすいという問題を有していた。また、鉛成分を多量に含む放射線遮蔽ガラスは、化学耐久性が低いため、ガラス表面の汚れを落とす際に接触する水や洗剤と反応しやく、このため、ガラス表面に「ヤケ」が発生しやすく、この「ヤケ」により、ガラスの透明性が著しく低下することも問題となっていた。
【0004】
また、表面硬度が低く、研磨や切断等の加工工程において、表面にキズがつきやすく、キズを原因としてガラスが割れることがあった。従って放射線を扱う機器の窓ガラスに使用された場合、その取り扱いは慎重に行う必要があった。
【0005】
このため、鉛成分を含まない放射線遮蔽ガラスが要求されており、下記の特許文献1には、本質的に鉛成分を含有せず、SiO−BaO系のガラスであって、密度が3.01g/cm以上である放射線遮蔽ガラスが開示されている。また、下記の特許文献2には、本質的には、鉛成分を含有せず、SiO成分とAl成分を含有し、100kVのX線に対する鉛当量が、0.03mmPb/mm以上である放射線遮蔽ガラスが開示されている。
【特許文献1】特開平6−127973号公報
【特許文献2】特開2003−315489号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2の放射線遮蔽ガラスは、遮蔽能力が鉛ガラスに比べてかなり低いため、主にエネルギーの低い放射線を取り扱う場所にのみ使用が限定されていた。
【0007】
また、これらの放射線遮蔽ガラスにおいても、鉛を主成分とするものと同様に化学耐久性が悪く、洗浄等を行う場合ヤケが生じ、放射線遮蔽ガラスの透明性が保てなくなるという問題があった。また、ヤング率が低く、たわみや変形が生じやすいという問題もあった。放射線遮蔽ガラスは放射線を扱う装置の窓ガラスとして使用されることが多いため、このように化学的耐久性やヤング率が低いと、実用上、あまり有利ではない。
【0008】
本発明は以上のような課題に鑑みてなされたものであり、Ln成分(Lnは、La、Y、Gd、Dy、Yb、Luからなる群より選択される1種以上を示す)を主成分としたガラス系を用いて、高い放射線遮蔽性能を有すると同時に、実用上有利な化学的耐久性と機械的強度を兼ね備えるガラス組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、従来よりも耐洗剤性、耐酸性が高く、さらに放射線遮蔽能力をまでも高いガラスを得ることができた。特にその好ましい組成は、SiO及びBの各成分のいずれか及びLnを含有させ、さらにSiO成分とB成分との合計量との比を所定の範囲に限定することにより、鉛ガラスと比べても遜色ない放射線遮蔽能力を示し、かつ実用上有利な化学的耐久性を有するとともに、高い機械的強度をも有しうることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0010】
(1) ISO−9689に規定する耐洗剤性試験を行った場合、クラスが3以下となる性質を有し、かつ、ISO−8424に規定する耐酸性試験を行った場合、クラスが5以下となる性質を有するガラス組成物。
【0011】
(2) ヤング率が70GPa以上である(1)のガラス組成物。
【0012】
(3) SiO及びBのうちいずれか一方又は両方を含有し、酸化物基準のmol%で、Ln(Lnは、La、Y、Gd、Dy、Yb、Luからなる群より選択される1種以上を示す)を0.5〜50%含有する(1)又は(2)のガラス組成物。
【0013】
(4)酸化物基準のmol%で、Ln/(SiO+B)の値が0.1〜0.8の範囲である(1)から(3)のいずれかのガラス組成物。
【0014】
(5)酸化物基準のmol%で、Gdを10〜40%含有する(1)から(4)のいずれかのガラス組成物。
【0015】
(6)RO(RはZn、Ba、Sr、Ca、Mgからなる群より選択される1種以上を示す)成分を40%以下含有し、かつRnO(Rnは、Li、Na、K、Csからなる群より選択される1種以上を示す)成分を40%以下含有する請求項1〜6のいずれかに記載のガラス組成物。
【0016】
(7)酸化物基準のmol%で、
SiO 0〜75%、及び/又は
0〜75%、及び/又は
0〜10%、及び/又は
Al 0〜35%、及び/又は
Ga 0〜35%、及び/又は
In 0〜35%、及び/又は
ZnO 0〜40%、及び/又は
BaO 0〜40%、及び/又は
SrO 0〜40%、及び/又は
CaO 0〜40%、及び/又は
MgO 0〜40%、及び/又は
LiO 0〜40%、及び/又は
NaO 0〜40%、及び/又は
O 0〜40%、及び/又は
CsO 0〜40%、及び/又は
Nb 0〜25%、及び/又は
Ta 0〜25%、及び/又は
WO 0〜20%及び/又は
TiO 0〜10%、及び/又は
GeO 0〜10%、及び/又は
CeO 0〜5%、及び/又は
ZrO 0〜15%、及び/又は
SnOを0〜15%、及び/又は
Sb 0〜5%、及び/又は
As 0〜5%、
の各成分を含有することを特徴とする(1)から(6)のいずれかのガラス組成物。
【0017】
(8)酸化物基準のmol%で、
SiO+Bを30〜75%、及び/又は
Al+Ga+In を0〜35%、及び/又は
RO(RはZn、Ba、Sr、Ca、Mgからなる群より選択される1種以上を示す)及びRnO(Rnは、Li、Na、K、Csからなる群より選択される1種以上を示す)の合計量が0〜40%、及び/又は
Nb+Taを0〜25%、及び/又は
ZrO+SnOを0〜15%、及び/又は
GeO+TiOを0〜10%及び/又は
Sb+As を0〜5%
の各成分を含有することを特徴とする(1)から(7)のいずれかのガラス組成物。
【0018】
(9)酸化物基準のmol%で、
SiO+Bを35〜70%及び/又は
Alを1〜30%及び/又は
並びに
ZnOを0〜15%及び/又は
Nb+Taを0〜25%及び/又は
WOを0〜15%及び/又は
ZrOを0〜13%及び/又は
GeO+TiOを0〜10%及び/又は
CeOを0〜5%及び/又は
Sbを0〜1%
の各成分を含有することを特徴とする(1)から(8)のいずれかのガラス組成物。
【0019】
(10)(1)から(9)のいずれかに記載のガラス組成物からなり、鉛当量が0.1mmPb/mm以上である放射線遮蔽ガラス。
【0020】
(11) 厚みが10mmの前記ガラス組成物において、400nmの波長における透過率が40%以上、550nmの波長における透過率が80%以上である(10)の放射線遮蔽ガラス。
【発明の効果】
【0021】
本発明のガラス組成物によれば、一定の耐洗剤性及び耐酸性を有することにより、洗浄等を行ってもヤケが生じることを防止できるようになった。また、ヤング率が高いため、たわみや変形が生じにくくなった。これにより、本発明のガラス組成物は、放射線遮蔽ガラスとして、実用上、種々の用途に用いることができるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明のガラス組成物は、ISO−9689に規定する耐洗剤性試験を行った場合、クラスが3以下となる性質を有し、かつ、ISO−8424に規定する耐酸性試験を行った場合、クラスが5以下となる性質を有し、さらに、ヤング率が70GPa以上であることを特徴とする。
【0023】
以下、本発明のガラス組成物の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0024】
[ガラス成分]
本発明のガラス組成物を構成する各成分の組成範囲を以下に述べる。本明細書中において、各成分の含有率は特に断りがない場合は全て酸化物基準のmol%で表示されるものとする。「酸化物基準」とは、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、炭酸塩、硝酸塩等が、溶融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定し、生成酸化物の総モル分率を100mol%とした場合にガラス中に含有される各成分の含有量を表記した組成である。
【0025】
また、本明細書中において「実質的に含まない」とは、原料組成として含有しない、すなわち意識的に含有させるものではないということを意味するものであり、不純物として混入してしまうものを除外するものではない。
【0026】
<必須成分、任意成分について>
成分は、Ln等の希土類酸化物を多量に含む本発明のガラス組成物において、失透がなく透明性の高いガラスを得るのに有用な成分である。しかし、その量が多すぎると放射線遮蔽能力が減じやすくなるため、上限は75%であることが好ましく、65%であることより好ましく、60%であることが最も好ましい。なお必ずしもB自体が含まれなくともガラス形成は可能であるが、失透に対しより安定したガラスを得るためには下限が好ましくは5%、より好ましくは10%、最も好ましくは15%を下限として含有される。
【0027】
SiO成分は、ガラス形成酸化物で、失透に対する安定性を向上させ、ガラスの化学的耐久性及び表面硬度を改善する効果を有する成分である。しかしその量が多すぎると放射線遮蔽能力が減じやすくなるため、上限は75%であることが好ましく、65%であることがより好ましく、60%であることが最も好ましい。なお必ずしもSiO自体が含まれなくともガラス形成は可能であるが、失透に対しより安定したガラスを得るためには下限が5%であることが好ましく、10%であることがより好ましく、15%であることが最も好ましい。
【0028】
前述のように、B成分及びSiO成分は、いずれもガラス形成酸化物として重要な成分である。従って、B単独又はSiO単独でガラス中に導入しても本発明の目的を達成することができるが、B及びSiOの少なくとも一方は、必ず含有させることが好ましい。さらにB及びSiO成分を同時に使用することにより、ガラスの溶融性、安定性及び化学的耐久性が顕著に向上する。このため、B成分とSiO成分の合計量の下限は30%であることが好ましく、35%であることがより好ましく、45%であることが最も好ましい。また、上限は75%であることが好ましく、70%であることがより好ましく、60%であることが最も好ましい。
【0029】
Ln成分(LnはLa、Y、Gd、Dy、Yb、Luからなる群より選択される1種以上を示す。)は、ガラスの密度を大きくし、ガラスに高い放射線遮蔽能力を付与するため、本発明の目的を達成するのに特に有用な成分である。また、化学的耐久性や表面硬度を向上させる効果を有する。特に、耐酸性、耐洗剤性の向上という面ではGdを少なくとも0%を超えて含有させることが好ましい。Ln成分の量が少なすぎるとガラスの放射線遮蔽能力や化学的耐久性が不十分となりやすく、逆にその量が多すぎると耐失透性が悪くなりガラスの安定性が損なわれやすい。従って、その下限は0.5%であることが好ましく、1%であることがより好ましく、5%であることが最も好ましい。上限は50%であることが好ましく、45%であることがより好ましく、40%であることが最も好ましい。
【0030】
Ln成分の中でも、Gd成分は、ガラスの密度を大きくし、ガラスに高い放射線遮蔽能力を付与する成分であり、さらに、耐酸性や耐洗剤性等の化学的耐久性や表面硬度を向上させる効果が大きく、重要な成分である。従って、その下限は10%であることが好ましく、12%であることがより好ましく、15%であることが最も好ましい。しかし、その含有量が多すぎると、ガラスの安定性を損ない、ガラス化が困難になりやすい。従って、その上限は40%が好ましく35%がより好ましく、30%が最も好ましい。ただし、10%以下であっても差し支えない。
【0031】
Lnの他の成分は、適宜に添加することができる。すなわち、La、Y、Dy、Yb、Lu成分のそれぞれは、上限が50%であることが好ましく、45%であることがより好ましく、40%であることが最も好ましい。また下限についてはLn成分総量で0.5%以上であれば、それぞれについては含有しなくても差し支えない。
【0032】
放射線遮蔽能力だけでなく、実用上、窓ガラスやゴーグル等の使用に耐えるだけの耐酸性、耐洗剤性、ヤング率をも向上させたガラスを提供するためには、Ln成分とネットワークフォーマー、すなわちSiO成分+B成分との関係を、所定の範囲に厳格に制限することが好ましい。具体的にはLn成分の含有量/(SiO成分+B成分の含有量)の値が0.1〜0.8の範囲内となるように各成分の組成範囲を構成させることが好ましく、0.15〜0.75の範囲内となるようにすることがより好ましく、0.2〜0.7の範囲内となるようにすることが最も好ましい。
【0033】
成分は、ガラス形成酸化物であり、失透がなく透明性の高いガラスを得るのに特に有用であるため、場合によってはB又はSiO成分の一部を置換することができる任意成分である。しかし、その量が多すぎるとガラスの放射線遮蔽能力が低下しやすくなる。従って、その上限は10%であることが好ましく、8%であることがより好ましく、6%であることが最も好ましい。
【0034】
Al成分は、ガラスの溶融性、安定性、化学耐久性、表面硬度を改善する効果のある任意成分である。しかしその量が多すぎるとガラスの安定性が悪くなりやすい。従って、その上限は35%であることが好ましく、30%であることがより好ましく、20%であることが最も好ましい。Al成分の含有量は0%でも実用上差し支えないが、その含有量を1%以上とすることにより、窓ガラスとして使用する場合、特に有利である。
【0035】
Ga成分は、ガラスの溶融性、安定性、化学耐久性、表面硬度を改善する効果のある任意成分である。しかしその量が多すぎるとガラスの安定性が悪くなりやすい。従って、その上限は35%であることが好ましく、30%であることがより好ましく、25%であることが最も好ましい。
【0036】
In成分は、ガラスの溶融性、安定性、化学耐久性、表面硬度を改善する効果のある任意成分である。しかしその量が多すぎるとガラスの安定性が悪くなりやすい。従って、その上限は35%であることが好ましく、30%であることがより好ましく、25%であることが最も好ましい。
【0037】
Al、Ga及びIn成分は、前述のとおりガラスの溶融性、安定性及び化学耐久性及び表面硬度の向上に寄与する成分である。しかし、その量が多すぎるとガラスの安定性が悪くなりやすい。従って、その上限は35%であることが好ましく、30%であることがより好ましく、25%であることが最も好ましい。
【0038】
RO成分(RはZn、Ba、Sr、Ca、Mgからなる群より選択される1種以上を示す。)は、ガラスの溶融性と安定性の向上に効果がある任意成分である。しかし、その量が多すぎるとガラスの安定性を低下させやすくする。従って、その上限は40%であることが好ましく、38%であることがより好ましく、35%であることが最も好ましい。
【0039】
ZnO、BaO、SrO、CaO、MgOの各成分については、RO成分の合計含有量が前述の範囲であれば、特にその含有量は制限されない。すなわち上限は40%であることが好ましく、38%であることがより好ましく、35%であることが最も好ましい。ただし、ZnOについては上限を15%以下とすることにより、特に安定性に寄与する。
【0040】
RnO成分(RnはLi、Na、K、Csからなる群より選択される1種以上を示す。)は、ガラスの溶融性と安定性の向上に効果があるとともに、放射線照射による着色の防止にも効果がある任意成分である。しかし、その量が多すぎると、ガラスの安定性を損ないやすく、放射線遮蔽能力も大きく低下しやすい。従って、合計量の上限は40%であることが好ましく、38%であることがより好ましく、35%であることが最も好ましい。また、RnO成分を2種以上組合せると、放射線照射による着色の防止により大きな効果が得やすい。
【0041】
LiO、NaO、KO、CsOの各成分については、RnO成分の合計含有量が前述の範囲であれば、特にその含有量は制限されない。すなわち上限は40%であることが好ましく、38%であることがより好ましく、35%であることが最も好ましい。
【0042】
RO成分及びRnO成分は、前述のとおり、いずれもガラスの溶融性と安定性の向上に効果がある成分である。しかしその合計量が多すぎると、ガラスの安定性を損ないやすく、放射線遮蔽能力も大きく低下しやすい。従って、合計量の上限は40%であることが好ましく、38%であることがより好ましく、35%であることが最も好ましい。
【0043】
Nb成分は、放射線の遮蔽能力の向上に効果がある任意成分である。しかし、その量が多すぎるとガラスの安定性が低下しやすい。従って、その上限は25%であることが好ましく、23%であることがより好ましく、20%であることが最も好ましい。
【0044】
Ta成分は、放射線の遮蔽能力の向上に効果がある任意成分である。しかし、その量が多すぎるとガラスの安定性が低下しやすい。従って、その上限は25%であることが好ましく、23%であることがより好ましく、20%であることが最も好ましい。
【0045】
Nb成分及びTa成分は、前述のとおり、いずれも放射線の遮蔽能力の向上に効果がある任意成分である。しかし、その合計量が多すぎるとガラスの安定性が低下しやすい。従って、その上限は25%であることが好ましく、23%であることがより好ましく、20%であることが最も好ましい。
【0046】
WO成分は、放射線の遮蔽能力の向上に効果がある任意成分である。しかし、その量が多すぎるとガラスの安定性が低下しやすい。従って、その上限は20%であることが好ましく、15%であることがより好ましく、5%であることが最も好ましい。
【0047】
TiO成分は、ガラスの安定性と表面の硬さの向上に効果がある任意成分であるが、その量が多すぎるとガラスの安定性が低くなりやすいばかりでなく、ガラスが着色しやすくなるという不利益がある。従って、その上限は10%であることが好ましく、8%であることがより好ましく、5%であることが最も好ましい。
【0048】
GeO成分は、ガラス形成酸化物となり、失透がなく透明性の高いガラスを得るのに特に有用である任意成分であるが、その量が多すぎるとガラスの放射線遮蔽能力が低下しやすいばかりでなく、コストが高くなりすぎる。従って、その上限は10%であることが好ましく、8%であることがより好ましく、5%であることが最も好ましい。
【0049】
GeO成分及びTiO成分は、前述のような効果を奏する成分である。しかし、その量が多すぎるとガラスの安定性が低くなりやすいばかりでなく、ガラスが着色しやすくなるという不利益がある。従って、GeO成分及びTiO成分の合計含有量の上限は10%であることが好ましく、8%であることがより好ましく、5%であることが最も好ましい。
【0050】
ZrO成分は、放射線の遮蔽能力とガラスの表面の硬さの向上に効果がある任意成分であるが、その量が多すぎるとガラスの安定性を低下させやすくする。従って、その上限は15%であることが好ましく、8%であることがより好ましく、5%であることが最も好ましい。
【0051】
SnO成分は、放射線の遮蔽能力の向上に効果がある任意成分である。しかし、その量が多すぎるとガラスの安定性を低下させやすい。従って、その上限は15%であることが好ましく、13%であることがより好ましく、10%であることが最も好ましい。
【0052】
ZrO成分及びSnO成分の合計含有量は、ガラスの安定性を低下させないためには、好ましくは15%、より好ましくは13%、最も好ましくは10%を上限とする。
【0053】
CeO成分は、放射線の照射による着色を防ぐ効果がある任意成分であるが、その量が多すぎると、ガラスの吸収端が長波長側にシフトし、可視域での透明性の低下を招くことがある。従って、その上限は5%であることが好ましく、4%であることがより好ましく、3%であることが最も好ましい。
【0054】
Sb、As成分は、ガラス溶融の脱泡のために任意に添加することができる成分である。Sb及びAsの合計量で、5%以下で十分に効果を有する。また、Asは、ガラスを製造、加工、及び廃棄をする際に環境対策上の措置を講ずる必要があるため、使用量は少ない方がよい。従って、Sb及びAsの合計量の上限は5%であることが好ましく、4%であることがより好ましく、1%であることが最も好ましい。また、それぞれの単独の含有量も、上限は5%であることが好ましく、4%であることがより好ましく、1%であることが最も好ましい。
【0055】
<含有させるべきでない成分について>
他の成分を本発明のガラス組成物の特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加することができる。ただし、Tiを除くV、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag及びMo等の各遷移金属成分は、それぞれを単独又は複合して少量含有した場合においても、ガラスが着色し、可視域の特定の波長に吸収を生じさせる。従って、本発明のガラス組成物においては、実質的に含まないことが好ましい。
【0056】
Pb、Th、Cd、Tl、Osの各成分は、近年有害な化学物資として使用を控える傾向にあるため、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。従って、環境上の影響を重視する場合には実質的に含まないことが好ましい。
【0057】
F(フッ素)成分は、ガラス溶融の際に揮発する問題があり、さらに脈理発生の原因となりやすいため、実質的に含まないことが好ましい。
【0058】
<本発明のガラス組成物の物性について>
以上の組成を含有する本発明のガラス組成物は、ISO−9689に規定する耐洗剤性試験を行った場合、クラスが好ましくは3以下、より好ましくは2以下、最も好ましくは1となる性質を有する。さらに、ISO−8424に規定する耐酸性試験を行った場合、クラスが好ましくは5以下、より好ましくは4以下となる性質を有する。このため、本発明のガラス組成物は、洗浄等を行ってもヤケ等が起こることを防止することができる。
【0059】
また、本発明のガラス組成物は、前述のように窓ガラスやゴーグルに使用されることが想定されるため、一定の機械的強度が要求されることとなる。具体的にはヤング率が70GPa以上であることが好ましく、より好ましくは75GPa以上であり、最も好ましくは80GPa以上である。このように、本発明のガラス組成物が所定の機械的強度を有することにより、たわみや変形を防止することができる。またポアソン比も同様に機械的強度の指標となるものであり、好ましくは0.25を超え、より好ましくは0.255以上、最も好ましくは0.26以上である。
【0060】
本発明のガラス組成物は、密度を4.0g/cm以上とすることにより、従来にない特性を得やすくなる。より好ましくは4.2g/cm以上であり、最も好ましくは4.5g/cm以上である。
【0061】
前述のように、本発明のガラス組成物は、窓ガラスやゴーグルに使用されることが想定されるため、可視域での透明性が高い方が実用上有利である。具体的には、厚み10mmのガラス片において400nmの波長を有する光線の透過率が40%以上であることが好ましく、45%以上であることがより好ましく、50%以上であることが最も好ましい。さらに550nmにおける透過率が80%以上であることが好ましく、82%以上であることがより好ましく、85%以上であることが最も好ましい。なお、本明細書中で「透過率」とは、反射損失を含む分光透過率を意味する。
【0062】
本発明において、放射線遮蔽能力は鉛当量で表される。鉛当量とはX線の遮蔽能力が等しい鉛板の厚みで表され、この値が大きいほど放射線遮蔽能力が優れることを意味する。本発明のガラス組成物について150kVのX線に対する鉛当量は、JIS Z 4501に準じた方法で測定した鉛当量を厚み1mmに換算して求めた。本発明のガラス組成物の鉛当量は、0.1mmPb/mm以上とすることが好ましく、0.15mmPb/mm以上とすることがより好ましく、0.20mmPb/mm以上とすることが最も好ましい。
【0063】
[製造方法]
本発明のガラス組成物は、通常のガラスを製造する方法であれば、特に限定されないが、例えば、以下の方法により製造することができる。各出発原料(酸化物、炭酸塩、硝酸塩、リン酸塩、硫酸塩、フッ化物塩等)を所定量秤量し、均一に混合する。混合した原料を石英坩堝、アルミナ坩堝、白金坩堝、白金合金坩堝、金坩堝又はイリジウム坩堝に投入し、溶解炉で1100〜1550℃で1〜10時間溶解する。その後、撹拌、均質化した後、適当な温度に下げて金型等に鋳込み、ガラスを製造する。なお、溶解工程を、カレットを作成するカレット溶解と、カレットを再溶解してガラス成形体を得る本溶解との2段階の溶解にする場合は、各工程において使用する坩堝を変えても良い。
【実施例】
【0064】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0065】
[実施例1〜7]
表1に示す実施例1〜7の組成(単位はmol%)で出発原料を秤量し、均一に混合した後、白金坩堝を使って1200〜1450℃で2〜4時間溶解したのち、金型に鋳込み、ガラスを作製した。
【0066】
[比較例1]
比較例1として放射線遮蔽用ガラスとして使われている鉛含有ガラスを以下のようにして作製した。
【0067】
表1に示す比較例1の組成になるように出発原料を秤量し、均一に混合した後、まず石英坩堝を使って1300℃で1時間20分間溶解し、カレットを作製した。その後、カレットを白金坩堝に入れて1320℃で2時間30分間溶解してから、金型に鋳込み、ガラスを作製した。
【0068】
表1に実施例1〜7及び比較例1のISO−8424に規定する耐酸性試験の結果(耐酸性)、ISO−9689に規定する耐洗剤性試験(耐洗剤性)、ヤング率、ポアソン比、550nm及び400nmの光線透過率及び鉛当量を示す。
【0069】
ヤング率は、十分によく徐冷された100×10×10mmの角棒のガラス試料について、室温での縦波及び横波の音速を超音波パルス重畳法(4.5MHz)によって測定した。ヤング率(E)は次式1によって算出した。
【0070】
【数1】

(Gは剛性率、vは縦波の音速、vは横波の音速、nは密度、Kは体積弾性率を表す。)
【0071】
光線透過率は厚み10mmのガラス片において、400nm及び550nmの光線を透過させた際の反射損失を含む分光透過率を測定した。なお、表1においては、T%550nm/T%400nmとして、それぞれ表示した。
【0072】
ポアソン比は、次式2を用いて求めた。
【0073】
【数2】

(Gは剛性率、Eはヤング率を表す。)
【0074】
【表1】

【0075】
表1によると、本発明のガラス組成物の耐洗剤性は全て1.0であり、耐酸性は3.0〜4.0であり、比較例に比べて耐洗剤性及び耐酸性に優れていることがわかる。
【0076】
また、表1によると、本発明のガラス組成物は、ヤング率が全て70GPa以上であり、比較例1の鉛ガラスに比べて機械的強度にも優れていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ISO−9689に規定する耐洗剤性試験を行った場合、クラスが3以下となる性質を有し、かつ、ISO−8424に規定する耐酸性試験を行った場合、クラスが5以下となる性質を有するガラス組成物。
【請求項2】
ヤング率が70GPa以上である請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項3】
SiO及びBのうちいずれか一方又は両方を含有し、酸化物基準のmol%で、Ln(Lnは、La、Y、Gd、Dy、Yb、Luからなる群より選択される1種以上を示す)を0.5〜50%含有する請求項1又は2に記載のガラス組成物。
【請求項4】
酸化物基準のmol%で、Ln/(SiO+B)が0.1〜0.8の範囲である請求項1から3のいずれかに記載のガラス組成物。
【請求項5】
酸化物基準のmol%で、Gdを10〜40%含有する請求項1から4のいずれかに記載のガラス組成物。
【請求項6】
酸化物基準のmol%で、
SiO 0〜75%、及び/又は
0〜75%、及び/又は
0〜10%、及び/又は
Al 0〜35%、及び/又は
Ga 0〜35%、及び/又は
In 0〜35%、及び/又は
ZnO 0〜40%、及び/又は
BaO 0〜40%、及び/又は
SrO 0〜40%、及び/又は
CaO 0〜40%、及び/又は
MgO 0〜40%、及び/又は
LiO 0〜40%、及び/又は
NaO 0〜40%、及び/又は
O 0〜40%、及び/又は
CsO 0〜40%、及び/又は
Nb 0〜25%、及び/又は
Ta 0〜25%、及び/又は
WO 0〜20%及び/又は
TiO 0〜10%、及び/又は
GeO 0〜10%、及び/又は
CeO 0〜5%、及び/又は
ZrO 0〜15%、及び/又は
SnOを0〜15%、及び/又は
Sb 0〜5%、及び/又は
As 0〜5%、
の各成分を含有することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のガラス組成物。
【請求項7】
RO(RはZn、Ba、Sr、Ca、Mgからなる群より選択される1種以上を示す)成分を40%以下含有し、かつRnO(Rnは、Li、Na、K、Csからなる群より選択される1種以上を示す)成分を40%以下含有する請求項1〜6のいずれかに記載のガラス組成物。
【請求項8】
酸化物基準のmol%で、
SiO+Bを30〜75%、及び/又は
Al+Ga+In を0〜35%、及び/又は
RO(RはZn、Ba、Sr、Ca、Mgからなる群より選択される1種以上を示す)及びRnO(Rnは、Li、Na、K、Csからなる群より選択される1種以上を示す)の合計量が0〜40%、及び/又は
Nb+Taを0〜25%、及び/又は
ZrO+SnOを0〜15%、及び/又は
GeO+TiOを0〜10%及び/又は
Sb+As を0〜5%
の各成分を含有することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のガラス組成物。
【請求項9】
酸化物基準のmol%で、
SiO+Bを35〜70%及び/又は
Alを1〜30%及び/又は
並びに
ZnOを0〜15%及び/又は
Nb+Taを0〜25%及び/又は
WOを0〜15%及び/又は
ZrOを0〜13%及び/又は
GeO+TiOを0〜10%及び/又は
CeOを0〜5%及び/又は
Sbを0〜1%
の各成分を含有することを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載のガラス組成物。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載のガラス組成物からなり、鉛当量が0.1mmPb/mm以上である放射線遮蔽ガラス。
【請求項11】
厚みが10mmの前記ガラス組成物において、400nmの波長における透過率が40%以上、550nmの波長における透過率が80%以上である請求項10に記載の放射線遮蔽ガラス。

【公開番号】特開2009−7194(P2009−7194A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−168951(P2007−168951)
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】