説明

ガラス製品の製造方法

【課題】セリウム系研磨剤を用いてガラスを研磨する工程の後に、ガラスに付着した該セリウム系研磨剤を、熱濃硫酸を用いることなく、且つ洗浄に対する高度の要求を満たすように洗浄する工程を含むガラスの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】ランタンを含むセリウム系研磨剤でガラスを研磨する研磨工程とその後に洗浄液で該ガラスを洗浄する洗浄工程とを含むガラス製品の製造方法であって、該ランタンを含むセリウム系研磨剤がLaOF結晶を含まないセリウム系研磨剤であり、かつ該洗浄液がアスコルビン酸およびエリソルビン酸の少なくとも一方を含む洗浄液であるガラス製品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガラス製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク用ガラス基板、フォトマスクおよびディスプレイなど、高精度な平坦性を要求されるガラス製品において、酸化セリウムを主成分とする研磨砥粒(以下、セリウム系研磨剤)を用いてガラスを研磨した場合、研磨面へのセリウム系研磨剤の残りが問題となっている。一般的には、セリウム系研磨剤にて研磨した後に、コロイダルシリカを用いて仕上げ研磨を実施する場合が多く、研磨面に残るセリウム系研磨剤は仕上げ研磨により除去される。
【0003】
しかしながら、ガラス端部に付着したセリウム系研磨剤が、仕上げ研磨以降の洗浄工程により研磨面に再付着することがハードディスク用ガラス基板において、問題視されている。ハードディスクにおいては、高記録密度化に伴い、磁気ヘッドと磁気ディスクの間隔を狭める必要性から、ガラス上に存在する異物が問題となっており、この異物としてセリウム系研磨剤が指摘されている。この為、フッ酸などフッ素を含む洗浄剤を用いた洗浄方法が提案されている。(たとえば特許文献1および2)。
【0004】
特許文献1に記載の方法は、フッ酸及びフッ化ナトリウムを原料とするフッ素イオンを含む水溶液を用いて、ガラスをエッチングしながらガラスに付着した研磨剤を除去する方法である。しかしながら、フッ酸及びフッ化ナトリウムを原料とするフッ素イオンを含む水溶液を用いて、ガラスをエッチングしながらガラスに付着した研磨剤を除去する特許文献1の方法では、ガラスの表面に微小な凹凸を発生させることが問題であった。
【0005】
特許文献2には、アスコルビン酸、フッ素イオンおよび硫酸を含有する洗浄液によりセリウム系研磨剤を溶解除去する方法が記載されている。しかし、アスコルビン酸に溶解するのは純粋なセリア(酸化セリウム、CeO)であるが、実際に研磨で使用されるセリウム系研磨剤は純粋なものではなく、La酸化物と少量のフッ素を含む。このうちLa酸化物は酸に溶解しやすいので、アスコルビン酸の他に無機酸を含有する洗浄液を用いればよいと考えられる。
【0006】
しかし、アスコルビン酸の他に無機酸を含有する洗浄液を用いるとセリウム系研磨剤中のLaとFとが結合して難溶性のフッ化ランタンが生成し、依然として洗浄後に異物が残る問題があった。そこで、特許文献3ではアスコルビン酸の他に無機酸、塩化アルミニウムを含有する洗浄液が提案されている。特許文献3に記載の技術は、フッ化ランタンを塩化アルミニウムによって溶解しようとするものである。特許文献3に記載の技術によればフッ化ランタンの発生は抑制できるが、無機酸及び塩素の影響により、アスコルビン酸によるセリアの還元効果が抑制され、その結果洗浄性が不十分になる場合がある問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−99847号公報
【特許文献2】特開2009−245467号公報
【特許文献3】特開2009−215093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、研磨後の洗浄に対する要求は年々高まっており、特に磁気ディスクガラス基板やフォトマスク基板の分野ではそのような要求の高まりは顕著で、アスコルビン酸を用いた洗浄には限界があるという認識が大方であり、アスコルビン酸に比べて取り扱いに注意を要する熱濃硫酸が洗浄液として使われるのが通常であった。
【0009】
本発明は、かかる問題点を鑑みてなされたものであり、セリウム系研磨剤を用いてガラスを研磨する工程の後に、ガラスに付着した該セリウム系研磨剤を、熱濃硫酸を用いることなく、且つ洗浄に対する高度の要求を満たすように洗浄する工程を含むガラスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、熱濃硫酸を用いないで、かつ洗浄に対する高度の要求を満たすことができるセリウム系研磨剤の洗浄方法を開発するために通常のセリウム系研磨剤に対するアスコルビン酸の洗浄能力が限定的である原因を研究した。すなわち、種々のセリア砥粒に対するアスコルビン酸の洗浄効果を調べたところ、磁気ディスクガラス基板の研磨に従来使用しているセリア砥粒と比べて、アスコルビン酸による顕著な洗浄効果を示すセリウム系研磨剤が存在することがわかった。
【0011】
そこで、従来使用しているセリウム系研磨剤とアスコルビン酸による洗浄効果が顕著なセリウム系研磨剤についてX線回折法で結晶相を調べたところ、前者においてはホタル石型構造結晶(CeLa1−x2−y)の結晶ピークとオキシフッ化物(LaOF)の結晶ピークとが認められたのに対し、後者においてはオキシフッ化物の結晶ピークは認められずホタル石型構造結晶の結晶ピークのみが認められた。
【0012】
このことから、セリウム系研磨剤に単にLa酸化物と少量のフッ素が含まれていることが問題ではなく、セリウム系研磨剤にどのような結晶相としてLaおよびFが存在するかが問題であり、LaおよびFがオキシフッ化物としてではなくホタル石構造結晶としてのみ存在するセリウム系研磨剤を用いてガラスを研磨すれば、その後にアスコルビン酸を用いてガラスを洗浄しても十分に洗浄することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
なお、セリウム系研磨剤中のLaとFとが結合して生じる難溶性のフッ化ランタンは、セリウム系研磨剤中にオキシフッ化物と酸とが存在するときに生成し、LaおよびFがホタル石型構造結晶として存在する場合には酸が存在してもフッ化ランタンが生じないことも確認している。さらに、アスコルビン酸だけでなく、アスコルビン酸の光学異性体であるエリソルビン酸も、LaおよびFがホタル石型構造結晶として存在するセリウム系研磨剤に対する洗浄効果が高いことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明の要旨は以下である。
1.ランタンを含むセリウム系研磨剤でガラスを研磨する研磨工程とその後に洗浄液で該ガラスを洗浄する洗浄工程とを含むガラス製品の製造方法であって、該ランタンを含むセリウム系研磨剤がLaOF結晶を含まないセリウム系研磨剤であり、かつ該洗浄液がアスコルビン酸およびエリソルビン酸の少なくとも一方を含む洗浄液であるガラス製品の製造方法。
2.前記セリウム系研磨剤がホタル石型構造のCeLa1−x2−y(xは0.5以上1未満、yは1.7〜2)を含む前項1に記載のガラス製品の製造方法。
3.前記セリウム系研磨剤がフッ素を含む前項1または2に記載のガラス製品の製造方法。
4.前記洗浄液中のアスコルビン酸およびエリソルビン酸の含有量が合計で0.1〜1質量%である前項1〜3のいずれか1に記載のガラス製品の製造方法。
5.洗浄液がさらにクエン酸またはクエン酸塩を含む前項1〜4のいずれか1に記載のガラス製品の製造方法。
6.前記洗浄液中のクエン酸およびクエン酸塩の含有量が合計で0.05〜1質量%である前項5に記載のガラス製品の製造方法。
7.前記洗浄液が無機酸を含まない前項1〜6のいずれか1に記載のガラス製品の製造方法。
8.前記洗浄液がフッ素を含まない前項1〜7のいずれか1に記載のガラス製品の製造方法。
9.前記洗浄液のpHが2以上7以下である前項1〜8のいずれか1に記載のガラス製品の製造方法。
10.研磨工程におけるセリウム系研磨剤がLaとしてランタンを20〜40質量%含有する前項1〜9のいずれか1に記載のガラス製品の製造方法。
11.セリウム系研磨剤の平均粒子径が0.5μm以下であることを特徴とする前項1〜10のいずれか1に記載のガラス製品の製造方法。
12.ガラス製品がガラス基板である前項1〜11のいずれか1に記載のガラス製品の製造方法。
13.ガラス基板が磁気ディスク用ガラス基板である前項12に記載のガラス製品の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明のガラス製品の製造方法によれば、LaOF結晶を含まないセリウム系研磨剤でガラスを研磨した後、アスコルビン酸およびエリソルビン酸の少なくとも一方を含む洗浄剤を用いてガラスを洗浄することにより、不要な副生成物を生じることなく、ガラスに付着した該セリウム系研磨剤を短時間で効果的に除去することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(研磨工程)
本発明のガラス製品の製造方法は、ランタンを含むセリウム系研磨剤を用いてガラスを研磨する研磨工程を含む。該セリウム系研磨剤はLaOF結晶を含まない研磨剤である。また、該セリウム系研磨剤はLaOF結晶のLaの一部をCeで置換した結晶を含まない研磨剤であってもよい。
【0017】
LaOF結晶を含まない研磨剤を用いてガラスを研磨することにより、セリウム系研磨剤中にオキシフッ化物と酸とが存在するときに生成する難溶性のフッ化ランタンが生成するのを防ぐことができる。このことにより、セリウム系研磨剤を用いてガラスを研磨した後に、アスコルビン酸およびエリソルビン酸の少なくとも一方を含む洗浄液を用いて、ガラスに付着したセリウム系研磨剤を効果的に洗浄することができる。
【0018】
LaOF結晶を含まないセリウム系研磨剤は、LaOF結晶を含むセリウム系研磨剤と比較して、アスコルビン酸に対し高い溶解性を示す。これは、LaOF結晶を含むセリウム系研磨剤の場合、セリウム系研磨剤に含まれるLaOF結晶がアスコルビン酸に溶けにくいためである。また、セリウム系研磨剤中にLaOF結晶と酸とが存在すると、セリウム系研磨剤をアスコルビン酸で洗浄処理することにより、難溶性のフッ化ランタン(LaF)が生じるためである。
【0019】
したがって、LaOF結晶を含まないセリウム系研磨剤を用いてガラスを研磨した後に、アスコルビン酸およびエリソルビン酸の少なくとも一方を含む洗浄液を用いてガラスを洗浄することにより、不要な副生成物を生じることなく、ガラスに付着したセリウム系研磨剤を効果的に除去することができる。
【0020】
本発明の製造方法に用いるセリウム系研磨剤は、ホタル石型構造のCeLa1−x2−yを含むことが好ましい。ここで、典型的にはxは0.5以上1未満であり、yは1.7〜2である。LaとFとをオキシフッ化物としてではなくホタル石型構造結晶として含有するセリウム系研磨剤を用いてガラスを研磨した後に、アスコルビン酸およびエリソルビン酸の少なくとも一方を含む洗浄液を用いて、ガラスを十分に洗浄することができる。
【0021】
本発明に用いるセリウム系研磨剤は、水等の分散媒に分散させてスラリーとして用いてもよい。スラリーにおけるセリウム系研磨剤の含有量は、1質量%以上20質量%以下が好ましく、3質量%以上15質量%以下がより好ましい。
【0022】
スラリーにおけるセリウム系研磨剤の含有量を1質量%以上とすることにより、充分な研磨レートが得られる。また、20質量%以下とすることで、研磨中にスラリーに混入するガラス成分の影響でスラリー粘度が上昇するのを抑え、研磨レートを向上することができる。
【0023】
スラリーのために用いることができる分散媒としては、例えば、水を挙げることができる。
【0024】
スラリーには分散剤として界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤としては、例えば、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤および両性イオン界面活性剤等、又はそれらの組み合わせを挙げることができる。また、例えば、2リン酸ナトリウムおよびホスホン酸ナトリウムなどのリン酸系の塩、クエン酸ナトリウムなどのカルボン酸塩、並びにリグニンスルフォン酸ナトリウムおよびナフタレンスルフォン酸ナトリウムなどのスルフォン酸塩などのモノマーの塩又はこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0025】
セリウム系研磨剤の平均粒子径は、ガラス製品の製造工程におけるガラスの洗浄時間が通常5〜20分であることを考慮すると、0.1μm以上0.5μm以下であることが好ましい。セリウム系研磨剤の平均粒子径はレーザー散乱を用いて測定する。この測定の場合、充分に分散したスラリーでの状態で測定できるように、上記分散剤のいずれかを研磨剤に対して1重量%程度混ぜて測定する。
【0026】
セリウム系研磨剤の平均粒子径を0.1μm以上とすることにより充分な研磨レートを得ることできる。また、セリウム系研磨剤の平均粒子径を0.5μm以下とすることにより、ガラスと接触している面積が小さく、表層が少し溶けるだけでガラスからはがれやすくなるため、洗浄液へのセリウム系研磨剤の溶出量が十分となり、洗浄性を向上することができる。
【0027】
本発明に用いるセリウム系研磨剤はフッ素を含有してもよい。セリウム系研磨剤にフッ素を含有することで、研磨中にガラス表面の水和層にケイフッ化物を形成させて研磨を促進する効果が期待される。セリウム系研磨剤におけるフッ素の含有量は3質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましい。また、典型的には、0.5質量%以上であることが好ましい。
【0028】
セリウム系研磨剤におけるフッ素の含有量を3質量%以下とすることにより、セリウム系研磨剤に含まれるランタンとフッ素が反応してフッ化ランタンを生成するのを防ぐことができる。また、セリウム系研磨剤におけるフッ素の含有量を0.5質量%以上とすることにより、前記の研磨を促進する効果を十分に得ることができる。
【0029】
本発明に用いるセリウム系研磨剤はランタンを含む。セリウム系研磨剤に含まれるランタンは、Laであることが好ましい。セリウム系研磨剤はLaとしてランタンを20〜40質量%含有することが好ましく、30〜40質量%含有することがより好ましい。セリウム系研磨剤におけるLaの含有量をこの範囲とすることで、高い研磨レートが得られる。
【0030】
また、セリウム系研磨剤には界面活性剤および分散剤等を含んでもよい。界面活性剤としては、例えば、アルキレンジオールをはじめとする非泡性の界面活性剤が挙げられる。セリウム系研磨剤における界面活性剤の含有量は0.01〜1質量%であることが好ましい。
【0031】
また、分散剤としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム、2リン酸ナトリウム、ホスホン酸ナトリウムおよびクエン酸ナトリウムが挙げられる。セリウム系研磨剤における分散剤の含有量は砥粒に対して0.5〜2質量%であることが好ましい。
【0032】
本発明における研磨の方法は特に限定されないが、例えば、ガラスと研磨布とを接触させ、セリウム系研磨剤を供給しながら、研磨布とガラスとを相対的に移動させて、ガラスを鏡面状に研磨することが好ましい。研磨布としては、例えば、ウレタン製研磨パッドを用いることができる。
【0033】
(洗浄工程)
本発明のガラス製品の製造方法は、アスコルビン酸およびエリソルビン酸の少なくとも一方を含む洗浄液(以下、本発明に用いる洗浄液ともいう)を用いてガラスに付着したLaOF結晶を含まないセリウム系研磨剤を洗浄する工程を含む。
【0034】
本発明に用いる洗浄液におけるアスコルビン酸およびエリソルビン酸の含有量は合計で、0.1〜1質量%であることが好ましく、0.25〜0.75質量%であることがより好ましい。洗浄液におけるアスコルビン酸およびエリソルビン酸の含有量を合計で0.1質量%以上とすることにより、溶出量を維持しやすい。また、1質量%以下とすることにより、セリウム系研磨剤の分散性を維持しやすい。
【0035】
本発明に用いる洗浄液は、アスコルビン酸およびエリソルビン酸の少なくとも一方を含む水溶液である。また、本発明に用いる洗浄液は他の還元剤である過酸化水素、シュウ酸および蟻酸などは含有しないことが好ましい。これらの他の還元剤が添加されることにより、セリアの溶出量が低下する虞があるためである。
【0036】
本発明に用いる洗浄液は、セリウム系研磨剤の洗浄液への分散性を向上するため、クエン酸またはクエン酸塩を含有してもよい。洗浄液におけるクエン酸およびクエン酸塩の含有量は合計で、0.05〜1質量%とすることが好ましく、0.1〜0.5質量%とすることがより好ましい。また、クエン酸塩として添加してもよい。
【0037】
本発明に用いる洗浄液は無機酸を含まないことが好ましい。本発明において無機酸とは、炭素原子を含まない酸をいう。ただし、炭酸は無機酸に含む。無機酸としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、過酸化水素、炭酸、亜塩素酸、亜硫酸および亜硝酸などが挙げられる。これらの中でも、特に硫酸および硝酸を洗浄液に含まないことが好ましい。
【0038】
一般的に、セリウム系研磨剤に対する洗浄液は硫酸等の無機酸を含有するが(例えば、特開2009−245467号公報)、これは多相のセリウム系研磨剤に含有されるオキシフッ化物の溶解性を高めるためのものである。しかし、本発明に用いるLaOF結晶を含まないセリウム系研磨剤は、オキシフッ化物を含有しないものである。また、LaOF結晶を含まないセリウム系研磨剤を洗浄するための洗浄液に無機酸を含むと、アスコルビン酸やエリソルビン酸が乖離しにくくなり、セリウムに対する還元力を低下させるため、好ましくない。
【0039】
したがって、本発明に用いる洗浄液には、無機酸を含有させないことが好ましい。また、無機酸を洗浄液に含有しないことにより、洗浄液の取り扱いが容易となり、長期安定性が向上するという利点が得られる。
【0040】
また、前記洗浄液はフッ素を含まないことが好ましい。これはセリウム系研磨剤に含まれるランタンがフッ素と結合し、難溶性のフッ化ランタンが生じる虞があるためである。
【0041】
本発明に用いる洗浄液は、pH調整剤を含有してもよい。pH調整剤としては、例えば、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムなどの無機アルカリ、並びにアンモニアおよびエタノールアミンなどの有機アルカリが挙げられる。洗浄液におけるpH調整剤は、洗浄液のpHを2以上7以下にする為に用いられ、添加量としては、100mM以下とすることが好ましい。10mM以上であれば、セリアが洗浄液内で分散できず、洗浄性が低下する虞があり、好ましくない。
【0042】
本発明に用いる洗浄液は、溶媒として水を含むことが好ましい。水としては、例えば、脱イオン水、超純水、電荷イオン水、水素水およびオゾン水などが挙げられる。なお、水は、本発明に用いる洗浄液の流動性を制御する機能を有するので、その含有量は洗浄速度等の目標とする洗浄特性に合わせて適宜設定することができるが、通常55〜98質量%とすることが好ましい。
【0043】
本発明に用いる洗浄液のpHは2以上7以下とすることが好ましい。洗浄液のpHを2以上とすることにより、ガラス表面の腐食を防ぐとともに、またアスコルビン酸またはエリソルビン酸が溶けやすく、操作および安全性の観点からも好ましい。また、pHを7以下とすることにより、セリウム系研磨剤の除去能力を向上することができる。
【0044】
本発明に用いる洗浄液によるセリウム系研磨剤の洗浄は、セリウム系研磨剤中に存在する4価のセリウムを還元剤によって還元し、水の中に溶出させるメカニズムである。pH−電位図より、洗浄液のpHを7以下とすることにより、3価のセリウムイオンとして水の中に安定的に存在させることができる。そのため、洗浄液のpHを7以下とすることにより、セリウム系研磨剤に対する除去能力を向上することができる。
【0045】
本発明に用いる洗浄液には、液の表面張力を下げる目的で、界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤としては、例えば、ポリアクリル酸塩、ポリマレイン酸塩およびポリイタコン酸塩などのカルボン酸塩、並びにアルキルスルフォン酸塩などのスルフォン酸などが挙げられる。洗浄液における界面活性剤の含有量は、特に限定されないが、1質量%以下とすることが好ましい。
【0046】
洗浄工程では、前記洗浄液をガラスに直接接触させて洗浄することが好ましい。洗浄液をガラスに直接接触させる方法としては、例えば、洗浄液を洗浄槽に満たしてその中にガラスを入れるディップ式洗浄、ノズルからガラスに洗浄液を噴射する方法、およびポリビニルアルコール製のスポンジを用いるスクラブ洗浄などが挙げられる。
【0047】
本発明に用いる洗浄液は、これらのいずれの方法にも適応できるが、より効率的な洗浄ができることから、ディップ式洗浄が好ましい。ディップ式の場合、洗浄液にガラスを浸漬させる時間を2分以上とすることが好ましい。また、接触中に超音波洗浄を併用することがより好ましい。
【0048】
洗浄液の温度は室温でも可能であるが、40〜75℃程度に加温して使用することも可能である。しかしながら、80℃以上になるとアスコルビン酸が熱分解を起こす虞がある為、それ以下で用いることが好ましい。
【0049】
前記洗浄液を用いた洗浄工程の後に、水またはアルカリ洗剤を用いてガラスを洗浄すると、より効果的である。また、前記洗浄液を用いた洗浄工程の前後に、少なくとも一回以上、純水にガラスを浸漬させるか、または流水によりガラスを洗浄することが好ましい。
【0050】
(その他の工程)
本発明の製造方法は、その他の工程として、前記洗浄工程の後に、ガラスの主表面を、コロイダルシリカ砥粒を含むスラリーを用いて研磨する仕上げ研磨工程を含むことが好ましい。仕上げ研磨工程で用いるコロイダルシリカ砥粒の平均粒子径は、10〜50nmであることが好ましい。この範囲とすることで、ハードディスク用ガラスまたはフォトマスク基板で求められる表面粗さを実現できる。コロイダルシリカ砥粒の平均粒子径は動的光散乱法を用いて測定する。
【0051】
また、コロイダルシリカ砥粒を含むスラリーのpHは1〜6であることが好ましい。この範囲とすることで、研磨後のシリカが洗浄しやすくなるので好ましい。
【0052】
本発明の製造方法により製造されるガラス製品としては、例えば、磁気ディスク用ガラス基板、フォトマスク基板およびディスプレイ基板などのガラス基板、並びにその他にCCD向けブルーフィルタガラスおよびカバーガラスなどが挙げられる。本発明の製造方法により製造される磁気ディスク用ガラス基板の主表面に磁気記録層を形成することにより磁気ディスクを製造することができる。
【実施例】
【0053】
以下に本発明の実施例について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0054】
〔予備実験1〕セリウム系研磨剤の組成と洗浄液への溶出量との関係
酸化セリウム濃度、酸化ランタン濃度およびフッ素濃度が異なり、LaOF結晶を不含又は含有の各種セリウム系研磨剤について、アスコルビン酸を含有する洗浄液への溶出量を解析した。
【0055】
(1)セリウム系研磨剤の組成比
セリウム系研磨剤における酸化セリウム濃度、酸化ランタン濃度およびフッ素濃度は、X線蛍光分析(RIGAKU製RIX3000)、結晶相(LaOF結晶の不含又は含有)はX線回折(RIGAKU製RINT2000)にて測定した。その結果を表1および2に示す。X線回折の結果、表1に示すように、実施例1〜3および参考例1のセリウム系研磨剤においては、LaOF結晶のピークが認められず、ホタル石型構造結晶(CeLa1−x2−y)の結晶ピークのみが認められた。また、比較例1〜4のセリウム系研磨剤においては、LaOF結晶のピークとホタル石型構造結晶(CeLa1−x2−y)の結晶ピークが認められた。
【0056】
(2)セリウム系研磨剤の洗浄液への溶出量
アスコルビン酸を含有する洗浄液へのセリウム系研磨剤の溶出量は次のようにして測定した。40ccの0.25質量%アスコルビン酸水溶液(pH3)にセリウム系研磨剤を0.2g添加し、洗浄液温度を40℃まで加温し、超音波を照射してセリウム系研磨剤を洗浄液に溶出させた。超音波照射の時間は、実施例1、2、参考例1、比較例1〜3については60分間とした。また、実施例3および比較例4については、セリウム系研磨剤量を0.02gとした。その後、超遠心分離機(日立工機製CF15−RXII)にて15000rpmにて30分間処理し、上澄み液を廃棄した後、70℃にて2時間乾燥させ、セリウム系研磨剤の残留量を測定した。
【0057】
セリウム系研磨剤の洗浄剤への溶出量は、アスコルビン酸水溶液へのセリウム系研磨剤の投入量から、残留量を引いた値とし、百分率(%)にて表記した。その結果を表1および2に示す。参考例1の溶出量は研磨剤が凝集して表面積が小さくなったからであると考えられる。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
表1および2に示すように、LaOF結晶を含まない実施例1および実施例2のセリウム系研磨剤は、LaOF結晶を含む比較例1および比較例2のセリウム系研磨剤と比較して、アスコルビン酸水溶液への高い溶出量を示した。また、セリウム系研磨剤の量を低くした場合にも、同様に、LaOF結晶を含まない実施例3のセリウム系研磨剤は、LaOF結晶を含む比較例4のセリウム系研磨剤と比較して、アスコルビン酸水溶液への高い溶出量を示した。
【0061】
なお、比較例1〜4の乾燥後のセリウム系研磨剤に対して、X線回折により構造解析を行ったところ、フッ化ランタンと思われるピークが検出された。
【0062】
〔予備実験2〕セリウム系研磨剤の各種洗浄剤への溶出量の評価
洗浄液は予備実験1と同じものを用いた。また、セリウム系研磨剤は、予備実験1の実施例1と同じものを用いた。40ccの洗浄液にセリウム系研磨剤を0.4g添加し、洗浄液温度を40℃まで加温し、60分間超音波を照射した。その後、超遠心分離機(日立工機製CF15−RXII)にて15000rpmにて30分間処理し、上澄み液を廃棄した後、70℃にて2時間乾燥させた。予備実験1と同様に、投入量から残留量を引いた値を溶出量とした。なお溶出量は百分率にて表記した。なお、酸の効果を調べるため、洗浄液のpHは、全ての例においてpH3とした。
【0063】
【表3】

【0064】
表3に示すように、LaOF結晶を含まないセリウム系研磨剤は、洗浄液におけるアスコルビン酸またはエリソルビン酸の含有量を変化させた実施例4〜9のいずれにおいても洗浄液に対して高い溶出量を示した。また、実施例10に示すように、洗浄液にアスコルビン酸とともにクエン酸を含有させることにより、LaOF結晶を含まないセリウム系研磨剤の洗浄液への溶出量が向上することがわかった。一方、比較例5〜8に示すように、洗浄液にアスコルビン酸とともに無機酸を含有させることにより、洗浄液へのLaOF結晶を含まないセリウム系研磨剤の溶出量が低下することがわかった。
【0065】
〔1〕セリウム系研磨剤の洗浄性評価
アルミノシリケートガラス板からガラス円板を切り出し、内周面および外周面の研削加工、上下面のラッピング、内外周の面取り及び鏡面加工、予備実験1の比較例3で用いたセリウム系研磨剤を含むスラリー(10質量%セリウム系研磨剤、90質量%の純水)と硬質ウレタンパッドによる上下主表面の研磨加工を行った。
【0066】
主表面研磨後、ガラス円板を、予備洗浄として純水での浸漬洗浄、アルカリ洗浄剤での超音波洗浄、純水でのリンスを実施した後、洗浄液(硫酸73.7質量%、過酸化水素水4.3質量%、水22質量%)を用いて80℃、10分浸漬洗浄を行った。その後、純水リンスを行った。
【0067】
洗浄後、予備実験1の実施例1で用いたセリウム系研磨剤を含むスラリー(5質量%セリウム系研磨剤、95質量%の純水)と軟質ウレタンパッド(スエードパッド)による上下主表面の研磨加工を行った。
【0068】
主表面研磨後、ガラス円板を、予備洗浄として純水での浸漬洗浄後、表3に示す洗浄液を用いて、液温40℃にて4分間超音波洗浄を行った。その後、純水リンスを行った。表3において、市販のアルカリ洗剤は、pH10の水酸化カリウムを含有する洗剤(東邦化学製MA5252)を用いた。
【0069】
洗浄後、コロイダルシリカ砥粒を含むスラリーと軟質ウレタンパッド(スエードパッド)を用いての研磨、その後の洗浄及び乾燥を行った。
【0070】
そして、ガラス円板の外周端面をSEM−EDX(装置名:日立製作所社製S4700)を用いて観察し、酸化セリウム砥粒の残渣状況を調べた。即ち、SEMを用いて外周端部の任意の3点を5000倍に拡大表示し、EDXにて全面スキャンを実施した。
【0071】
全面スキャンの結果、得られたピークのうち、カリウムのK線とL線、及びセリウムのL線のピーク強度を足した合計に対するセリウムのL線のピーク強度の割合を算出し、セリウム系研磨剤の除去能を比較した。その結果を表3に示す。
【0072】
表4において、市販アルカリ洗剤を用いた場合に比べ、セリウムのL線のピーク強度が低く、洗浄液の酸化セリウム砥粒に対する除去能が高い場合には○、低い場合には×とした。
【0073】
表4において洗浄後の基板表面の粗さを評価する為に、Optiflat(ADE社製)を用いて、基板全面の表面粗さ(Ra)を測定した。その値を示す。
【0074】
【表4】

【0075】
表4に示すように、洗浄液におけるアスコルビン酸の含有量を変化させた実施例11〜13、洗浄液の温度を変化させた実施例14および実施例15、洗浄時間を変化させた実施例16および実施例17のいずれにおいても、市販のアルカリ洗剤を用いた比較例9と比較して、優れた洗浄性を示した。また、実施例11〜17のRaはいずれも比較例9よりも小さいことがわかる。
【0076】
この結果から、LaOF結晶を含まないセリウム系研磨剤を用いてガラスを研磨する工程の後に、アスコルビン酸およびエリソルビン酸の少なくとも一方を含む洗浄液を用いてガラスを洗浄する洗浄工程を含む本発明の方法によれば、ガラスの表面からセリウム系研磨剤を効果的に除去でき、かつガラス主表面を荒らさないことがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランタンを含むセリウム系研磨剤でガラスを研磨する研磨工程とその後に洗浄液で該ガラスを洗浄する洗浄工程とを含むガラス製品の製造方法であって、該ランタンを含むセリウム系研磨剤がLaOF結晶を含まないセリウム系研磨剤であり、かつ該洗浄液がアスコルビン酸およびエリソルビン酸の少なくとも一方を含む洗浄液であるガラス製品の製造方法。
【請求項2】
前記セリウム系研磨剤がホタル石型構造のCeLa1−x2−y(xは0.5以上1未満、yは1.7〜2)を含む請求項1に記載のガラス製品の製造方法。
【請求項3】
前記セリウム系研磨剤がフッ素を含む請求項1または2に記載のガラス製品の製造方法。
【請求項4】
前記洗浄液中のアスコルビン酸およびエリソルビン酸の含有量が合計で0.1〜1質量%である請求項1〜3のいずれか1項に記載のガラス製品の製造方法。
【請求項5】
洗浄液がさらにクエン酸またはクエン酸塩を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載のガラス製品の製造方法。
【請求項6】
前記洗浄液中のクエン酸およびクエン酸塩の含有量が合計で0.05〜1質量%である請求項5に記載のガラス製品の製造方法。
【請求項7】
前記洗浄液が無機酸を含まない請求項1〜6のいずれか1項に記載のガラス製品の製造方法。
【請求項8】
前記洗浄液がフッ素を含まない請求項1〜7のいずれか1項に記載のガラス製品の製造方法。
【請求項9】
前記洗浄液のpHが2以上7以下である請求項1〜8のいずれか1項に記載のガラス製品の製造方法。
【請求項10】
研磨工程におけるセリウム系研磨剤がLaとしてランタンを20〜40質量%含有する請求項1〜9のいずれか1項に記載のガラス製品の製造方法。
【請求項11】
セリウム系研磨剤の平均粒子径が0.5μm以下であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のガラス製品の製造方法。
【請求項12】
ガラス製品がガラス基板である請求項1〜11のいずれか1項に記載のガラス製品の製造方法。
【請求項13】
ガラス基板が磁気ディスク用ガラス基板である請求項12に記載のガラス製品の製造方法。

【公開番号】特開2012−219006(P2012−219006A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89793(P2011−89793)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【特許番号】特許第4954338号(P4954338)
【特許公報発行日】平成24年6月13日(2012.6.13)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】