説明

キシリトール製造方法、キシリトール含有飲料の製造方法、キシリトール含有食品の製造方法およびそれらに用いる種菌

【課題】エネルギー効率に優れ、製造工程が簡略な、炭素源からキシリトールを生成する技術を提供する。
【解決手段】ヒダナシタケ目の菌類を用いて炭素源からキシリトールを生成することを特徴とするキシリトール製造方法を提供する。このヒダナシタケ目の菌類は、ミミナミハタケ種の菌類を含んでもよい。この炭素源は、キシロースを含んでもよい。このミミナミハタケは、この炭素源の発酵を好気的条件において行ってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キシリトール製造方法、キシリトール含有飲料の製造方法、キシリトール含有食品の製造方法およびそれらに用いる種菌に関する。
【背景技術】
【0002】
キシリトールは、天然に存在するキシロースに由来する糖アルコールであり、スクロースと同程度の甘味を呈するが、スクロースと比較して代謝されにくい。このため、キシリトールは、臨床的に、例えば糖尿病および肝疾患患者において、従来のスクロースに代わる低カロリーの甘味料として用いられている。
【0003】
キシリトールはまた、虫歯の原因となりにくいという特徴を有する。このような特徴により、例えば、チューインガム、ソフトドリンク、アイスクリームなどの食品分野での使用が増大している。
【0004】
特に、近年、キシリトールが食品添加物として認可されたことにより、食品分野での使用(例えば、低カロリー食品)がより一層期待される。
【0005】
従来の化学反応を用いて炭素源からキシロースおよびキシリトールを生成する方法としては、例えば特許文献1に記載されたものがある。同文献に記載された方法では、油を搾った後のアブラヤシ果実の搾りかす、果実を分離した後のアブラヤシ房、およびアブラヤシの幹から選ばれる一種または二種以上からなる原料を、硫酸または塩酸の存在下で、酸濃度0.1〜0.5重量%、温度60〜100℃で0.5〜3時間加熱処理する。
【0006】
また、従来の化学反応を用いて炭素源からキシリトールを生成する方法としては、例えば特許文献2に記載されたものがある。同文献に記載された方法では、アラビノキシシラン含有材料を加水分解し、そして得られた加水分解物からキシロースおよびアラビノースを分離する。その後、キシロースをキシリトールに還元し、そして該キシリトールを回収する。
【0007】
また、従来の菌類を用いて炭素源からキシリトールを生成する方法としては、例えば特許文献3に記載されたものもある。同文献に記載された方法では、キシリトール生産能を有する微生物を、キシロースの存在下において、微好気性条件下(0.1〜1ppmの溶存酸素濃度)で培養を行う工程を包含する方法によって、キシロースからキシリトールを生産する。この際、溶存酸素濃度はファジー制御される。
【0008】
また、従来の菌類を用いて炭素源からキシリトールを生成する方法としては、例えば非特許文献1に記載されたものもある。同文献に記載された方法では、Rhizopus属およびMucor属のカビにおけるエタノール生産について開示されており、キシロースからのエタノールならびにキシリトール生産についても検討されている。
【0009】
また、従来の菌類を用いて炭素源からキシリトールを生成する方法としては、例えば非特許文献2に記載されたものもある。同文献に記載された方法では、Penicillium crustosumをはじめとする各種糸状菌によりキシロースからキシリトールを生産できることが開示されている。
【0010】
また、従来の菌類を用いて炭素源からキシリトールを生成する方法としては、例えば非特許文献3に記載されたものもある。同文献に記載された方法では、Petromyces albertensisなどの菌類によりキシロースからキシリトールを生産できることが開示されている。
【特許文献1】特開平10−192000号公報
【特許文献2】特開2000−157300号公報
【特許文献3】特開平11−192095号公報
【非特許文献1】Ria Millati, Lars Edebo and Mohammad J. Taherzadeh, "Performance of Rhizopus, Rhizomucor, and Mucor in ethanol production from glucose, xylose, and wood hydrolyzates", Enzyme and Microbial Technology, Volume 36, Issues 2-3 , 1 February 2005, Pages 294-300
【非特許文献2】Fabio Coelho Sampaio et. al, "Screening of filamentous fungi for production of xylitol from D-xylose", Brazillian Journal of Microbiology, 2003, Vol.34, Pages 325-328
【非特許文献3】Dahiya, J.S., Can. J. Microbiol., 1991, Vol.37, Pages 14-18
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献1および特許文献2記載の従来技術は、加水分解処理または還元処理などのために加熱を行うので、炭素源からのキシリトールの生産に大量のエネルギーを用いる。そのため、これらの技術は、エネルギー効率の面でさらなる改善の余地を有していた。
【0012】
また、上記特許文献3記載の従来技術は、製造工程の簡略さの面でさらなる改善の余地を有していた。特に、溶存酸素濃度をファジー制御するためには、複雑な装置または複雑なプログラムなどを用いるため、製造工程が複雑になる場合があった。
【0013】
また、上記非特許文献1および2記載の従来技術は、キシリトールの生産効率の面でさらなる改善の余地を有していた。
【0014】
また、上記非特許文献3記載の従来技術は、発ガン性を有するマイコトキシン(オクラトキシン)を生成する可能性のあるPetromyces albertensisなどの菌類を用いるため、安全性の面でさらなる改善の余地を有していた。
【0015】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、安全性が高く、生産効率およびエネルギー効率に優れ、製造工程が簡略な、炭素源からキシリトールを生成する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によれば、ヒダナシタケ目の菌類を用いて炭素源からアルコールを生成することを特徴とするアルコール製造方法が提供される。
【0017】
この方法によれば、室温近傍で培養することにより炭素源からキシリトールを効率よく生成する安全なヒダナシタケ目の菌類を用いるため、キシリトール製造工程の安全性、生産効率およびエネルギー効率を向上し、製造工程を簡略化することができる。
【0018】
また、本発明によれば、キシリトールを含有する液体を含むアルコール含有飲料の製造方法であって、ヒダナシタケ目の菌類を用いて炭素源からキシリトールを含有するこの液体を生成することを特徴とするキシリトール含有飲料の製造方法が提供される。
【0019】
この方法によれば、室温近傍で培養することにより炭素源からキシリトールを効率よく生成する安全なヒダナシタケ目の菌類を用いるため、キシリトール含有飲料の製造方法の安全性、生産効率およびエネルギー効率を向上し、製造工程を簡略化することができる。
【0020】
また、本発明によれば、キシリトールを含有する組成物を含むキシリトール含有食品の製造方法であって、ヒダナシタケ目の菌類を用いて炭素源からキシリトールを含有するこの組成物を生成することを特徴とするキシリトール含有食品の製造方法が提供される。
【0021】
この方法によれば、室温近傍で培養することにより炭素源からキシリトールを効率よく生成する安全なヒダナシタケ目の菌類を用いるため、キシリトール含有食品の製造方法の安全性、生産効率およびエネルギー効率を向上し、製造工程を簡略化することができる。
【0022】
また、本発明によれば、菌類を用いて炭素源からキシリトールを生成するための種菌であって、ヒダナシタケ目の菌類の菌糸と、この菌糸を担持する担体と、を備えることを特徴とする種菌が提供される。
【0023】
この構成によれば、室温近傍で培養することにより炭素源からキシリトールを効率よく生成する安全なヒダナシタケ目の菌類の菌糸を担体に担持させているため、菌類を用いて炭素源からキシリトールを生成するための種菌として好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、ヒダナシタケ目の菌類を用いるため、キシリトール製造工程の安全性、生産効率およびエネルギー効率を向上し、製造工程を簡略化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0026】
未利用バイオマスからキシリトールを生産し、チューインガムを始めとする食品材料としての利用が各国で推進されている。キシリトールの製造工程は大きく分けて加水分解工程と還元工程の2つに分けられるが、一般的に前者は酸による化学的処理、後者も化学反応による還元処理が用いられているのが現状である。
【0027】
担子菌は、高温または高圧などの条件を要する化学的処理に比べ、少ないエネルギーで各種の生化学反応を行うことができ、また木質バイオマスの分解および糖の還元を同時に行うことができるため、その応用が期待される。本実施形態では、担子菌(キノコ)のうちでも、本発明者が見出した優れたヒダナシタケ目の菌類(ミミナミハタケ)の糖質代謝能を利用したキシリトール生産について説明する。
【0028】
図1は、実施の形態に係るミミナミハタケの分類学的系統を模式的に示した系統樹である。菌類には、真菌類および粘菌類が含まれる。真菌類には、子嚢菌類と、藻菌類と、担子菌類(真正担子菌綱)と、不完全菌類とが含まれる。担子菌類(きのこ)には、半担子菌亜門と、同担子菌亜門(帽菌亜綱)と、異担子菌亜門とが含まれる。同担子菌亜門には、ヒダナシタケ目と、ハラタケ目と、フクキン目とが含まれる。
【0029】
ヒダナシタケ目には、ミミナミハタケ科が含まれる。ミミナミハタケ科には、ミミナミハタケ属が含まれる。ミミナミハタケ属には、ミミナミハタケ種と、イタチナミハタケ種とが含まれる。
【0030】
ハラタケ目には、ハラタケ科と、シメジ科とが含まれる。ハラタケ科には、ハラタケ属が含まれる。ハラタケ属には、ヒメマツタケ種(アガリクスタケ)が含まれる。シメジ科には、キシメジ属と、ヒラタケ属と、エノキタケ属とが含まれる。キシメジ属には、マツタケ種が含まれる。ヒラタケ属には、ヒラタケ種が含まれる。エノキタケ属には、エノキタケ種が含まれる。
【0031】
生物分類学の最新の研究成果(本郷次雄 監修・解説、伊沢正名 写真、「山渓フィールドブックス 10 きのこ 第4版」、山と渓谷社、2002年6月10日発行を参照)によると、従来は、スエヒロタケ科と、ミミナミハタケ科とは、ハラタケ目に分類されていたが、現在では、ヒダナシタケ目に分類されている。
【0032】
図2は、実施の形態に係るミミナミハタケの形態を示した写真である。「山渓フィールドブックス 10 きのこ 第4版」によれば、和名ミミナミハタケ(Lentinellus cochleatus)は、夏〜秋、広葉樹の切株または倒木などに発生する小〜中型の菌である。傘はへら形〜不整なろうと形、表面は無毛平滑、赤褐色〜淡黄土色である。ひだは柄に垂生し密、帯白色で肉色を帯び、ひだの縁は鋸歯状である。柄は中心生〜偏心生、傘と同色〜暗色、表面に深い溝があり基部で癒着する。肉はウイキョウに似た、またはアニス種子様の匂いがあり無味である。本州東部〜北海道に分布する温帯種である。ドイツの図鑑によれば可食である。
【0033】
図3は、実施の形態に係るミミナミハタケにより炭素源からキシリトールを生成する方法を説明するためのフローチャートである。実施の形態に係るキシリトール製造方法では、ヒダナシタケ目の菌類を用いて炭素源からキシリトールを生成する。
【0034】
なお、後述するように、ミミナミハタケはキシロース還元酵素活性を有することを、本発明者は見出している。また、後述するように、ミミナミハタケは、室温近傍で培養することにより優れたキシリトール生産能を発揮することを、本発明者は見出している。さらに、後述するように、ミミナミハタケは、特に複雑な製造工程の制御なしに優れたキシリトール生産能を発揮することを、本発明者は見出している。
【0035】
具体的には、図3(a)に示すように、まず、ミミナミハタケの種菌を木質バイオマスまたは各種の糖などを含む炭素源に接種する(S102)。次いで、ミミナミハタケの種菌を接種された炭素源を室温近傍(0℃〜50℃の範囲内)で培養する(S104)。そして、ミミナミハタケにより炭素源から生成されたキシリトールを含む液体を濾過などの手法により回収する(S106)。
【0036】
上記の炭素源が木質バイオマスを含む場合には、上記の培養工程において、図3(b)に示すように、ミミナミハタケにより炭素源を分解する(S108)。そして、分解された炭素源に含まれるキシロースをミミナミハタケにより還元してキシリトールを生成する(S110)。
【0037】
なお、上述の還元工程は、嫌気的条件であってもよく、好気的条件であってもよい。後述するように、ミミナミハタケは、嫌気的条件でも、好気的条件でもキシリトールを生成できることを、本発明者は見出している。もっとも、ミミナミハタケは、好気的条件において、より優れたキシリトールの生産性を発揮する。
【0038】
また、上述の炭素源は、キシロースを含んでいてもよい。さらに、上述の炭素源は、キシロースにくわえて、グルコースを含んでいてもよい。ミミナミハタケは、グルコースが加えられた培地を用いてもキシリトール生産能が抑制されない。
【0039】
あるいは、上述の炭素源は、木質材料を含んでいてもよい。また、上述の炭素源は、木材、おがくず、紙および藁からなる群より選ばれる一種以上の木質材料を含んでもよい。後述するように、ミミナミハタケは、濾紙、倒木をはじめとする木質材料の分解能を有していることを、本発明者は見出している。
【0040】
そして、上述のミミナミハタケにより生成されるキシリトールを用いて、キシリトール含有飲料またはキシリトール含有食品を製造してもよい。これらのキシリトール含有飲料またはキシリトール含有食品には、キシリトール以外にも、ミミナミハタケの生成するエタノールをはじめとする各種成分が含まれていてもよい。また、キシリトール含有食品は、固体であってもよく、液体であってもよく、ゲル状体などであってもよい。
【0041】
図4は、実施の形態に係るミミナミハタケを用いた種菌の構成を模式的に示した概念図である。図4(a)は、おがくずを担体として用いたミミナミハタケの種菌である。この種菌200では、蓋204を備える容器202内に、おがくず208が敷き詰められている。このおがくず中にミミナミハタケの菌糸206a、206bが担持されている。なお、ミミナミハタケの菌糸は、図4(a)のように、きのこを形成している必要はない。
【0042】
図4(b)は、木材チップを担体として用いたミミナミハタケの種菌である。この種菌300では、容器302内に、コルク栓状の形状からなる木材チップ304a、304b、304c、304d、304e、304fが収納されている。これらの木材チップには、ミミナミハタケの菌糸306a、306b、306c、306d、306e、306fが担持されている。なお、ミミナミハタケの菌糸は、図4(b)のように、きのこを形成している必要はない。
【0043】
図4(c)は、液体培地を担体として用いたミミナミハタケの種菌である。この種菌400では、蓋404を備える容器402内に、各種の糖などの炭素源を含む液体培地408が収納されている。これらの液体培地には、ミミナミハタケの菌糸406が担持されている。なお、ミミナミハタケの菌糸は、図4(c)のように、きのこを形成している必要はない。
【0044】
上述の種菌は、菌類を用いて炭素源からアルコールを生成するための種菌であって、ミミナミハタケの菌糸と、この菌糸を担持する担体とを備える。なお、この菌糸は、定常期の菌糸であってもよい。具体的には、この菌糸は、培養開始3週間経過後の菌糸であってもよい。培養開始3週間経過後の定常期のミミナミハタケの菌糸は、種菌として用いた場合の増殖能が優れていることを、本発明者は見出している。
【0045】
図5は、実施の形態に係るミミナミハタケを用いたキシリトール生産の際に機能すると想定される代謝経路の一部を示した代謝経路図である。図5の左の化学式は、D−キシロースの化学構造を示している。図5の右の化学式は、キシリトールの化学構造を示している。図5の中央に示すキシロース還元酵素(キシロースリダクターゼ)は、NADP2H+をエネルギー源として消費してNADPHに変換することにより、D−キシロースをキシリトールに還元する機能を有する。
【0046】
以下、実施の形態に係るアルコール製造方法の作用効果について説明する。
ミミナミハタケは、室温近傍で培養することにより炭素源からキシリトールを効率よく生産する能力を有しているため、化学反応による処理では困難であったキシリトール製造工程の生産効率およびエネルギー効率の向上を実現できる。
【0047】
また、ミミナミハタケは、室温近傍でフラスコなどの容器内で培養することにより炭素源からキシリトールを生産する能力を有しているため、ファジー制御による溶存酸素の調整を行う酵母を用いる方法では困難であった製造工程の簡略化を実現できる。
【0048】
また、ミミナミハタケは、ドイツの図鑑によれば可食であることから、毒性を有さない安全なきのこであるため、キシリトール製造工程の安全性を向上できる。
【0049】
図9は、実施の形態に係るミミナミハタケを用いた未利用バイオマス資源の再利用の方法を説明するための概念図である。このように、実施の形態に係るキシリトール製造方法は、ミミナミハタケが炭素源を分解することによりキシロースなどの糖類を生成する工程と、ミミナミハタケがキシロースを還元することによりキシリトールを生成する工程と、を含むため、従来の酸による加水分解の工程が必要ではなく、一種類の菌類を用いて分解・還元の両工程を行うことができる。このため、未利用バイオマス資源をミミナミハタケによる分解・還元工程により効率よくキシリトールに変換することができる。
【0050】
ここで、木材や古紙などの木質バイオマスを酸糖化して得られる炭素源には、一般的にグルコースにくわえて、キシロースが数%含まれる。酵母は、グルコースを好適に資化するが、キシロースに対する資化性は低い。一方、ミミナミハタケは、酵母により資化することが困難なキシロースに対しても優れた資化性を有するため、酵母による発酵後に残存するキシロースも資化することができる。そのため、木材を糖酸化し、酵母がエタノール生産を行った残存滓(キシロースを高濃度に含む)を用いて、ミミナミハタケによるキシロース生産を行うことにより、資源のリサイクル効率およびキシリトール生産効率を高めることができる。
【0051】
また、実施の形態に係るキシリトール含有飲料の製造方法によれば、室温近傍で培養することにより炭素源からキシリトールを効率よく生産するミミナミハタケを用いるため、キシリトール含有飲料の製造工程の生産効率およびエネルギー効率を向上し、製造工程を簡略化できる。
【0052】
さらに、実施の形態に係るキシリトール含有食品の製造方法によれば、室温近傍で培養することにより炭素源からキシリトールを効率よく生産するミミナミハタケを用いるため、キシリトール含有食品の製造工程の生産効率およびエネルギー効率を向上し、製造工程を簡略化できる。
【0053】
そして、実施の形態に係る種菌によれば、室温近傍で培養することにより炭素源からキシリトールを効率よく生産するミミナミハタケの菌糸を担体に担持させているため、菌類を用いて炭素源からキシリトールを生成するための種菌として好適に用いることができる。
【0054】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【0055】
例えば、上記実施の形態では、ヒダナシタケ目の菌類として、ミミナミハタケを用いたが、ミミナミハタケと同様に室温近傍で培養することにより炭素源からキシリトールを生産する類縁関係のヒダナシタケ目の菌類であれば、好適に用いることができる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0057】
<使用菌株>
実施例では、菌株として、Lentinellus cochleatus(和名 ミミナミハタケ)を用いた。この菌は、真正担子菌綱、帽菌亜綱、ヒダナシタケ目、ミミナミハタケ科に属し、夏〜秋、広葉樹の切株または倒木などに発生する小〜中型の菌である。また、日本での生息地は北海道〜東北が中心であり、世界的に分布している。さらに、子実体はウイキョウやアニスの匂いがする。国内ではほとんど食される習慣はないキノコだが、独の図鑑によれば可食である。
【0058】
<実験方法>
1)使用培地
使用培地としては、キシロース培地を用いた。下記に、キシロース培地の基本的な組成を示す。
Xylose* 2.0 %(w/w)
Yeast extract 1.0 %(w/w)
KH2PO4 1.0 %(w/w)
(NH42SO4 0.2 %(w/w)
MgSO4・7H2O 0.05%(w/w)
*:Xyloseについては、必要に応じて、他の糖に変更した。
【0059】
2)培養および菌体回収
図6は、実施の形態に係るミミナミハタケの培養および菌体回収の方法を説明するための実験プロトコルである。まず、菌糸懸濁液の調製ステップでは、L. cochleatusの平板培地に、キシロース培地を10ml加え、白金耳で菌糸を懸濁し、133μmメッシュで濾過して菌糸懸濁液を得た。
【0060】
次いで、培養ステップでは、500ml容三角フラスコにキシロース培地を50ml加え、L. cochleatusの菌糸懸濁液を1ml接種し、30℃で静置培養を行った。
【0061】
続いて、培養液の回収ステップでは、液体培養後、次の手順で回収を行った。すなわち、培養液を吸引濾過し、湿菌体を回収して、湿菌体重量測定および冷凍保存を行い、培養濾液については、培養濾液量および培養濾液pHの測定を行ってコーニング管に培養濾液を15ml分注した。そして、培養濾液をHPLC分析、及び活性測定して、その後、冷凍保存した。
【0062】
3)HPLC分析
L. cochleatusの培養濾液をHPLC分析した。分析条件は以下に示した通りである。
【0063】
HPLC分析条件
キャピラリーカラム Shodex KS80
キャピラリーサイズ 8mm×3mm
流量 0.5ml/min
カラム温度 75℃
抽出液 脱気蒸留水
サンプル 10μl
【0064】
4)XyloseにGlucoseを加えた培養
キシロース培地の炭素源であるXyloseに加えて0.5%(w/w)濃度のGlucoseを加えて、その資化性とエタノールおよびキシリトール生産の有無を経時的に確かめた。手順は2)〜3)と同様である。
【0065】
<結果と考察>
1)キシロースからの糖アルコールの生産
図7は、実施の形態に係るミミナミハタケを培養した場合のHPLCのキシリトールに対応するピークを概念的に示したグラフである。
【0066】
Xyloseを糖として含む炭素源を用いて培養を行った結果、図示しないがエタノールの生産が確認された。エタノール生産の最大量とその培養日数はXylose;0.053%(w/w)(培養開始18日目)であった。
【0067】
また、図示したように、培養濾液をHPLCで分析したところ、HPLC分析によりエタノールとは異なる大きなピークを検出したので、その物質の同定を行った。その結果、リテンションタイム17.4分の位置にピークが観察され、このピークはキシリトール(Xylitol)のピークに対応していた。すなわち、キシリトールを同定できた。また、ピーク高さから、キシリトールの最大収量は、0.618%(w/v)(培養開始15日目)であった。このとき、約1.2%(w/w)のキシロース(Xylose)が消費されたので、理論値に対する収率は、50.8%であった。この収率から、キシリトールは、ミミナミハタケによるキシロース発酵の主な代謝産物であると想定される。
【0068】
以上の結果から、この担子菌はキシロースを代謝することで比較的高い濃度のキシリトールを生産することが分かった。そのキシリトール生産量のピークは炭素源の組成や培養条件によって異なり、キシリトールはある程度蓄積された後、基質が欠乏すると代謝されると考えられる。
【0069】
2)Glucoseの添加による発酵への影響
図8は、実施の形態に係るミミナミハタケの培地の組成を変化させた場合の発酵への影響を示したグラフである。0.5%グルコースをキシロース培地に添加し、静置培養を行い、その発酵性を試験した(以後、この培地を混合培地と呼ぶ)。また同時にcontrolとしてグルコースを含まないキシロース培地の発酵試験も行った。その結果を図8に示す。この二種類の培地での培養において、菌体の生育に違いは見られなかった。混合培地中のグルコースは培養15日目ですべて代謝されていた。基質残存率の違いから、この菌はグルコースをまず優先的に資化し、その後キシロースを資化しはじめたと考えられる。また、グルコースの添加によるその他の発酵への影響は確認できなかった。
【0070】
3)ミミナミハタケと他の菌類とのキシリトール生産能の比較
図10は、実施の形態に係るミミナミハタケと他の菌類とのキシリトール生産能を比較した結果を示したテーブルである。図10に示すように、キシロース5%を含む培地にてカビ類(Rhizopus oryzae, Mucor corticolous, Mucor hiemalis)に関する非特許文献1の培養条件と同様の条件でミミナミハタケを培養した結果、ヒダナシタケ目のミミナミハタケの最大キシリトール生産能(g/g)(キシリトール生産量/キシロース1gあたり)は、3種類のカビ(Rhizopus oryzae, Mucor corticolous, Mucor hiemalis)の場合の2.5倍程度であった。すなわち、ミミナミハタケでは、キシロースから高効率(67%)でキシリトールが生産されていることが判明した。
【0071】
以上、本発明を実施例に基づいて説明した。この実施例はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0072】
例えば、上記の実施例では、炭素源としてキシロース培地を用いているが、他の炭素源も同様に利用可能である。具体的には、木質バイオマスなどを炭素源として用いることもできる。ミミナミハタケは倒木に生育し、濾紙を分解する作用を有することを本発明者は確認しているため、木質バイオマスであっても炭素源として利用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0073】
以上のように、本発明で用いるヒダナシタケ目の菌類は、室温近傍で培養することにより炭素源から安全にキシリトールを生成するため、キシリトール製造工程の安全性、生産効率およびエネルギー効率を向上し、製造工程を簡略化するという効果を有し、キシリトール製造方法、キシリトール含有飲料の製造方法、キシリトール含有食品の製造方法およびそれらに用いる種菌等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】実施の形態に係るミミナミハタケの分類学的系統を模式的に示した系統樹である。
【図2】実施の形態に係るミミナミハタケの形態を示した写真である。
【図3】実施の形態に係るミミナミハタケにより炭素源からキシリトールを生成する方法を説明するためのフローチャートである。
【図4】実施の形態に係るミミナミハタケを用いた種菌の構成を模式的に示した概念図である。
【図5】実施の形態に係るミミナミハタケを用いたアルコール生産の際に機能すると想定される代謝経路の一部を示した代謝経路図である。
【図6】実施の形態に係るミミナミハタケの培養および菌体回収の方法を説明するための実験プロトコルである。
【図7】実施の形態に係るミミナミハタケを培養した場合のHPLCのキシリトールに対応するピークを概念的に示したグラフである。
【図8】実施の形態に係るミミナミハタケの培地の組成を変化させた場合の発酵への影響を示したグラフである。
【図9】実施の形態に係るミミナミハタケを用いた未利用バイオマス資源の再利用の方法を説明するための概念図である。
【図10】実施の形態に係るミミナミハタケと他の菌類とのキシリトール生産能を比較した結果を示したテーブルである。
【符号の説明】
【0075】
200 種菌
202 容器
204 蓋
206 菌糸
208 おがくず
300 種菌
302 容器
304 木材チップ
306 菌糸
400 種菌
402 容器
404 蓋
406 菌糸
408 液体培地

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒダナシタケ目の菌類を用いて炭素源からキシリトールを生成することを特徴とするキシリトール製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のキシリトール製造方法において、
前記菌類は、ミミナミハタケ科の菌類を含むことを特徴とするキシリトール製造方法。
【請求項3】
請求項2記載のキシリトール製造方法において、
前記菌類は、ミミナミハタケ属の菌類を含むことを特徴とするキシリトール製造方法。
【請求項4】
請求項3記載のキシリトール製造方法において、
前記菌類は、ミミナミハタケ種の菌類を含むことを特徴とするキシリトール製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれかに記載のキシリトール製造方法において、
前記菌類は、キシロース還元酵素活性を有する菌類を含むことを特徴とするキシリトール製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれかに記載のキシリトール製造方法において、
前記菌類が前記炭素源を発酵させることによりキシリトールを生成することを特徴とするキシリトール製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載のキシリトール製造方法において、
前記発酵を好気的条件において行うことを特徴とするキシリトール製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至7いずれかに記載のキシリトール製造方法において、
前記炭素源は、木質材料を加水分解してなる糖含有組成物であることを特徴とするキシリトール製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至8いずれかに記載のキシリトール製造方法において、
前記炭素源は、キシロースを含むことを特徴とするキシリトール製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至5いずれかに記載のキシリトール製造方法において、
前記菌類が前記炭素源を糖化することによりキシロースを生成する工程と、
前記菌類が前記キシロースを還元することによりキシリトールを生成する工程と、
を含むことを特徴とするキシリトール製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至10いずれかに記載のキシリトール製造方法において、
前記炭素源は、木質材料を含むことを特徴とするキシリトール製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載のキシリトール製造方法において、
前記炭素源は、木材、おがくず、紙および藁からなる群より選ばれる一種以上の木質材料を含むことを特徴とするキシリトール製造方法。
【請求項13】
キシリトールを含有する液体を含むキシリトール含有飲料の製造方法であって、
ヒダナシタケ目の菌類を用いて炭素源からキシリトールを含有する前記液体を生成することを特徴とするキシリトール含有飲料の製造方法。
【請求項14】
キシリトールを含有する組成物を含むキシリトール含有食品の製造方法であって、
ヒダナシタケ目の菌類を用いて炭素源からキシリトールを含有する前記組成物を生成することを特徴とするキシリトール含有食品の製造方法。
【請求項15】
菌類を用いて炭素源からキシリトールを生成するための種菌であって、
ヒダナシタケ目の菌類の菌糸と、
前記菌糸を担持する担体と、
を備えることを特徴とする種菌。
【請求項16】
請求項15に記載の種菌において、
前記菌糸は、定常期の菌糸であることを特徴とする種菌。
【請求項17】
請求項15または16に記載の種菌において、
前記菌糸は、培養開始3週間経過後の菌糸であることを特徴とする種菌。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−254721(P2006−254721A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−73299(P2005−73299)
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【出願人】(504150461)国立大学法人鳥取大学 (271)
【Fターム(参考)】