キシロースイソメラーゼ及びその利用
【課題】新規キシロースイソメラーゼ及びキシロース資化能を有する真核細胞の利用方法を提供する。
【解決手段】シロアリ原生生物由来のキシロースイソメラーゼをコードするDNAを用いて酵母等の真核細胞を形質転換することで、キシロース資化能を有する新規な真核細胞、および、該真核細胞を用いたエタノール、乳酸、酢酸、1,3−プロパン−ジオール、プロパノール、ブタノール、コハク酸、エチレン、グリセロール、ファルネソール、ゲラニルゲラニオール及びスクアレン等の生産方法。
【解決手段】シロアリ原生生物由来のキシロースイソメラーゼをコードするDNAを用いて酵母等の真核細胞を形質転換することで、キシロース資化能を有する新規な真核細胞、および、該真核細胞を用いたエタノール、乳酸、酢酸、1,3−プロパン−ジオール、プロパノール、ブタノール、コハク酸、エチレン、グリセロール、ファルネソール、ゲラニルゲラニオール及びスクアレン等の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なキシロースイソメラーゼ及び当該キシロースイソメラーゼを用いてキシロースを炭素源として用いて有用物質を生産する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油資源に替わり再生可能なバイオマスを有用物質に変換してエネルギー源や工業原料として用いる技術が検討されるようになってきている。バイオマスを原料として微生物の発酵により生産されるエタノールなどの有用物質は、石油資源の消費を抑え、大気中の二酸化炭素の増加を抑制するという観点から代替原料として期待されている。バイオマスには、各種存在するが、なかでも、食糧とは競合しない原料として、リグノセルロースを主体とする草本類や木本類などの利用が考えられている。
【0003】
リグノセルロースに含まれる主要な糖は、セルロースを構成するグルコースと、ヘミセルロースを構成するキシロースである。リグノセルロースを化学的あるいは酵素的に分解するとこうした単糖を主として含む糖化組成物が得られる。リグノセルロースから有用物質を工業的に製造するためには、こうした糖化組成物中に含まれる糖を効率的に利用し、高収量、高生産性で発酵できる微生物が求められる。
【0004】
サッカロマイセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)等のエタノール発酵能力の高い酵母は、一般に、グルコース、マンノース、ガラクトースを利用することができるが、キシロースを利用できない。したがって、リグノセルロースを原料として高効率に発酵するためには、こうした酵母がキシロースを利用可能となるように改変することが求められている。酵母等がキシロースを利用するためには、キシロースからキシルロースへの異性化酵素であるキシロースイソメラーゼ(XI)を用いることが報告されている(特許文献1、2)。
【0005】
現在までに酵母で十分な活性を発現可能であることが報告されているXIは、嫌気性のカビであるピロマイセス(Piromyces)sp. E2種由来のXI(特許文献1)、嫌気性カビであるシラマイセス・アベレンシス(Cyllamyces aberensi)由来のXI、バクテリアであるバクテロイデス・セタイオタミクロン(Bacteroides thetaiotaomicron)由来のXI(特許文献2)、バクテリアであるクロストリディウム・ファイトファーメンタス由来のXI(非特許文献1)である。一方、これまでに上記以外の多種の生物由来XI遺伝子が酵母に導入されたが、十分な活性を発現することはできなかった(非特許文献1、2、3、4)。キシロースイソメラーゼには共通の保存領域があることが明らかとなっており(非特許文献5)、酵母で活性型で発現しうるXIと活性を発現しないXIは、いずれも上記の保存領域を保持していることから、保存領域をもつことはXIが酵母で活性型で発現することの十分条件とは言えない。さらに、これまでに酵母で活性を発現するために必要な配列的特徴についても全く解明されていない。
【0006】
また、酵母において有効に機能するキシロースイソメラーゼの酵素学的特徴もわずかな検討がされているのみである(非特許文献1、6及び7)。
【0007】
木質成分であるセルロースをエネルギー源としているシロアリなどの木質分解性の昆虫はセルロース分解酵素であるセルラーゼによってセルロースを分解している。こうした昆虫由来のセルラーゼは極めて高いセルロース分解能力を有していることが知られている。シロアリの腸内でセルロースに作用するセルラーゼは、シロアリ自身のものとその腸内に共生する原生生物などの微生物のものと2種類に大別される。下等シロアリの後腸内に共生する原生生物は、セルロース分解の主要な役割を担っているが、この原生生物は難培養性であるため、研究があまり進められていなかった。現在までのところ、シロアリ原生生物のセルラーゼ及び遺伝子が開示されている(特許文献3、4)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2005−514951号公報
【特許文献2】特表2006−525029号公報
【特許文献3】特開2003−7047号公報
【特許文献4】国際公開第WO2008/108116号パンフレット
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Brat D, Boles E, Wiedemann、B., Appl Environ Microbiol. 2009; 75(8):2304-11
【非特許文献2】Ga.rdonyi, M. and Hahn-Hagerdahl, B. (2003) Enzym. Microb. Technol. 32, 252-259.
【非特許文献3】Walfridsson, M.,Bao, X., Anderlund, M., Lilius, G., Bulow, L., Hahn-Hagerdal, B. (1996) Appl Environ Microbiol 62: 4648-51.
【非特許文献4】Ho, N. W. Y., P. Stevis, S. Rosenfeld, J. J. Huang, and G. T. Tsao. (1983) Biotechnol. Bioeng. Symp. 13:245-250.
【非特許文献5】Harhangi, H. R., A. S. Akhmanova, R. Emmens, C. van der Drift, W. T. de Laat, J. P. van Dijken, M. S. Jetten, J. T. Pronk, and H. J. Op den Camp. 2003. Arch Microbiol 180:134-41.
【非特許文献6】Hanes, CS., Biochemical Journal1932; 26 (5): 1406-1421
【非特許文献7】Ozcan, S., Johnston M., Microbiol Mol Biol Rev 1999; 63: 554-569
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、シロアリ原生生物のキシロースイソメラーゼに関しては、全く見出されておらず、知られてもいなかった。また、シロアリ原生生物由来のキシロースイソメラーゼが見出されたとしても、前述の通り、酵母等で活性型で発現するために必要なアミノ酸配列の特徴は解明されておらず、保存領域を持っていても活性が発現するかどうかはわからないことから、酵母等の異種の微生物で発現させたときに本来のXI活性を発揮するかどうかを予測することは極めて困難であった。加えて、シロアリ原生生物は、培養が困難であることから当該生物由来のセルラーゼですら研究があまり進んでおらず、シロアリ原生生物は進化的に酵母と遠い関係にあり酵母への適合性は低いと考えられていた。
【0011】
本明細書の開示は、酵母で有効に機能する新規なキシロースイソメラーゼ及びその利用を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、酵母には適合性が低いと考えられたシロアリの原生生物のタンパク質につきキシロースイソメラーゼを探索し、キシロースイソメラーゼを新たに見出すとともに、当該キシロースイソメラーゼを酵母に導入したところ、酵母細胞での発現に適したキシロースイソメラーゼを見出した。本明細書の開示によれば、以下の手段が提供される。
【0013】
本明細書の開示によれば、以下のいずれかに記載のキシロースイソメラーゼ(XI活性を有するタンパク質)が提供される。
(A)配列番号2、4、6、8、10、12及び14のいずれかで表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(B)配列番号2、4、6、8、10、12及び14のいずれかで表されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有し、XI活性を有するタンパク質
(C)配列番号2、4、6、8、10、12及び14のいずれかで表されるアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、XI活性を有するタンパク質
(D)配列番号1、3、5、7、9、11及び13のいずれかで表される塩基配列からなるDNAと相補的なDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAによってコードされ、XI活性を有するタンパク質
(E)配列番号1、3、5、7、9、11及び13のいずれかで表される塩基配列に対して70%以上の同一性を有する塩基配列からなるDNAによってコードされ、XI活性を有するタンパク質
【0014】
前記(A)〜(E)は、以下のとおりであってもよい。
(A)配列番号2、4、6及び8のいずれかで表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(B)配列番号2、4、6及び8のいずれかで表されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有し、XI活性を有するタンパク質
(C)配列番号2、4、6及び8のいずれかで表されるアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、XI活性を有するタンパク質
(D)配列番号1、3、5及び7のいずれかで表される塩基配列からなるDNAと相補的なDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、XI活性を有するタンパク質
(E)配列番号1、3、5及び7のいずれかで表される塩基配列に対して70%以上の同一性を有する塩基配列からなり、XI活性を有するタンパク質
【0015】
前記(A)〜(E)は、以下のとおりであってもよい。
(A)配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(B)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有し、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質
(C)配列番号2で表されるアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質
(D)配列番号1で表される塩基配列からなるDNAと相補的なDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAによってコードされ、かつ、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質
(E)配列番号1で表される塩基配列に対して70%以上の同一性を有する塩基配列からなるDNAによってコードされ、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質
【0016】
本明細書の開示によれば、以下のいずれかのDNAが提供される。
(a)配列番号1、3、5、7、9、11及び13のいずれかで表される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号1、3、5、7、9、11及び13のいずれかで表される塩基配列からなるDNAと相補的なDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、キシロースイソメラーゼ活性(XI活性)を有するタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号1、3、5、7、9、11及び13のいずれかで表される塩基配列に対して70%以上の同一性を有する塩基配列からなり、XI活性を有するタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号2、4、6、8、10、12及び14のいずれかで表されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA
(e)配列番号2、4、6、8、10、12及び14のいずれかで表されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有し、XI活性を有するタンパク質をコードするDNA
(f)配列番号2、4、6、8、10、12及び14のいずれかで表されるアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、XI活性を有するタンパク質をコードするDNA
【0017】
前記(a)〜(f)は、以下のとおりであってもよい。
(a)配列番号1、3、5及び7のいずれかの塩基配列からなるDNA
(b)配列番号1、3、5及び7のいずれかの塩基配列からなるDNAと相補的なDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号1、3、5及び7のいずれかの塩基配列に対して70%以上の同一性を有する塩基配列からなり、XI活性を有するタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号2、4、6及び8のいずれかで表されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA
(e)配列番号2、4、6及び8のいずれかで表されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有し、XI活性を有するタンパク質をコードするDNA
(f)配列番号2、4、6及び8のいずれかで表されるアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、XI活性を有するタンパク質をコードするDNA
【0018】
前記(a)〜(f)は、以下のとおりであってもよい。
(a)配列番号1の塩基配列からなるDNA
(b)配列番号1の塩基配列からなるDNAと相補的なDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号1の塩基配列に対して70%以上の同一性を有する塩基配列からなり、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA
(e)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有し、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(f)配列番号2で表されるアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
【0019】
本明細書の開示によれば、上記いずれかのDNAを含むDNA構築物で形質転換されてキシロースイソメラーゼを発現する真核細胞も提供される。前記真核細胞は、酵母であることが好ましく、より好ましくは、前記酵母は、Saccharomyces、Kluyveromyces、Candida、Pichia、Schizosaccharomyces、Hancenula、Klocckera、Schwanniomyces、Yarrowia、及びissatchenkiaからなる群から選択されるいずれかに属する。前記真核細胞は、セルラーゼを分泌生産するものであってもよい。前記真核細胞は、エタノール、乳酸、酢酸、1,3−プロパン−ジオール、プロパノール、ブタノール、コハク酸、エチレン、グリセロール、ファルネソール、ゲラニルゲラニオール及びスクアレンからなる群から選択されるいずれかを生産する外因性又は内因性の遺伝子を備えていることが好ましい。
【0020】
本明細書の開示によれば、上記いずれかのDNAを含む、酵母等の真核細胞の発現ベクターが提供される。
【0021】
本明細書の開示によれば、キシロース利用性が付与ないし向上された形質転換真核細胞の作製方法であって、上記いずれかのDNAを真核細胞に導入して形質転換する工程を備える、作製方法が提供される。
【0022】
本明細書の開示によれば、有用物質を生産する方法であって、キシロースの存在下、本明細書に開示される形質転換真核細胞を培養する工程を備える、生産方法が提供される。前記有用物質は、エタノール、乳酸、酢酸、1,3−プロパン−ジオール、プロパノール、ブタノール、コハク酸、エチレン及びグリセロールからなる群から選択されるいずれかとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】キシロース代謝経路の概要を示す図である。
【図2】ヤマトシロアリcDNAライブラリからのキシロースイソメラーゼ遺伝子の取得手順を示す図である。
【図3】pRS436GAPベクターを示す図である。
【図4】取得した遺伝子の酵母導入用ベクターを示す図である。
【図5】ムカシシロアリcDNAライブラリからのキシロースイソメラーゼ遺伝子の取得手順を示す図である。
【図6】取得した遺伝子の酵母導入用ベクターを示す図である。
【図7】公知のXI遺伝子の酵母導入用ベクターを示す図である。
【図8】ペントースリン酸経路酵素遺伝子の酵母導入用ベクターを示す図である。
【図9】酵母抽出液のXI活性測定結果を示す図である。
【図10】キシロースを炭素源とした増殖試験結果を示す図である。
【図11】コドンを最適化したキシロースイソメラーゼ遺伝子(RsXI C1-O、CpXI-O、PiXI-O)を導入した形質転換酵母によるキシロースを炭素源とした増殖試験結果を示す図である。
【図12】コドンを最適化したキシロースイソメラーゼ遺伝子(RsXI-C1-O、PiXI-O、CpXI-O)を導入して形質転換酵母によるグルコース・キシロースを炭素源とした発酵試験結果を示す図である。(A)は、コドン最適化RsXI-C1導入酵母、(B)は、コドン最適化PiXI導入酵母、(C)は、コドン最適化CpXI導入酵母の各発酵試験結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本明細書の開示は、上記(a)〜(f)のいずれかのDNA及びその利用に関する。上記(a)のDNAは、いずれもシロアリの腸内原生生物に由来している。配列番号1、3、5及び7で表される塩基配列は、ヤマトシロアリ(Reticulitermes speratus)の腸内原生生物に由来し、配列番号9、11及び13で表される塩基配列は、ムカシシロアリ(Mastotermes darwiniensis)の腸内原生生物に由来している。これらの塩基配列からなるDNAは、いずれも、キシロースイソメラーゼをコードしている。配列番号1、3、5及び7で表される塩基配列がコードするアミノ酸配列は、特許文献1に開示されるPiromycessp.E2のキシロースイソメラーゼ遺伝子がコードするアミノ酸配列との同一性がそれぞれ51%、50%、52%及び52%であった。また、配列番号9、11及び13で表される塩基配列がコードするアミノ酸配列と特許文献1に開示されるPiromycessp.E2のキシロースイソメラーゼ遺伝子がコードするアミノ酸配列との同一性は、それぞれ75%、74%及び72%であった。
【0025】
すなわち、これらの塩基配列からなるDNA及び当該DNAがコードするアミノ酸配列は、従来のキシロースイソメラーゼ遺伝子配列およびアミノ酸配列とは大きく異なっている。しかしながら、これらのDNAによれば、酵母などの真核細胞に導入することで真核細胞にキシロース資化能力を付与できる。
【0026】
酵母などの真核細胞がキシロースを利用するには、キシロース代謝経路が必要である。キシロース代謝経路としては、図1に示すように、キシロースレダクターゼ(XR)およびキシリトールデヒドロゲナーゼ(XDH)を用いた経路(図1上段)と、キシロースイソメラーゼ(XI)を用いた経路(図1下段)が考えられる。図1に示すように、XI経路は補酵素などを必要とせず、1ステップでキシロースをキシルロースに変換することから、生産物収率などの面で優れていると考えられる。本発明の新規XI遺伝子を導入した酵母において、菌体内抽出物にXI活性が見られたことから、新規XI遺伝子が酵母などの真核細胞で発現し、生じたXIが細胞内で機能していることが確認された。以下、本発明の各種実施形態について説明する。
【0027】
(キシロースイソメラーゼをコードするDNA)
本明細書に開示される配列番号1、3、5、7、9、11及び13のいずれかで表される塩基配列からなるDNAは、いずれも、本発明者らが始めて見出した新規な塩基配列からなり、かつキシロースイソメラーゼをコードするDNAである。
【0028】
本明細書の開示においては、上記特定の塩基配列から選択されるいずれかの塩基配列からなるDNA以外においても、XI活性を有する限りにおいて他の態様のDNAも用いられる。すなわち、上記塩基配列のいずれかと一定の関係を有してXI活性を有するタンパク質をコードするDNAであってもよい。こうした一態様としては、配列番号1、3、5、7、9、11及び13のいずれかで表される塩基配列からなるDNAと相補的なDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、XI活性を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。
【0029】
「XI活性」とは、キシロースをキシルロースに異性化する活性である。XI活性は、この異性化反応の基質であるキシロースの減少量又は生成物であるキシルロースの生成量等として公知の方法で測定することができる。また、「XI活性を有する」とは、XI活性を有してれば足りる。好ましくは、ハイブリダイズ対象である相補的DNAの基礎となる配列番号1等の塩基配列からなるDNAがそれぞれコードする配列番号2等で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と同等程度あるいはそれ以上のXI活性を有している。XI活性が同等あるいはそれ以上であるかどうかは、例えば、配列番号1で表される塩基配列からDNAの相補鎖とハイブリダイズするDNAの場合には、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質を酵母などの真核細胞で発現したときの当該細胞抽出物又は当該タンパク質の有するXI活性の70%以上であることが好ましく、より好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは90%以上であり、もっとも好ましくは100%以上である。
【0030】
XI活性は、好ましくは、こうしたDNAを当該DNAがコードするタンパク質を発現させるように形質転換した酵母などの真核細胞の抽出液などXI含有画分につき測定される。このような測定によるXI活性であれば、真核細胞にキシロース資化活性を付与するのに好ましく用いることのできるXIをコードするDNAを確実に提供できる。また、XI活性の有無は、キシロースのみを炭素源として、こうしたDNAを用いて形質転換した真核細胞を培養して増殖するかどうかによって評価してもよい。
【0031】
ストリンジェントな条件とは、例えば、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、塩基配列の同一性が高い核酸、すなわち配列番号1、3、5、7、9、11及び13のいずれかで表される塩基配列と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましく95%以上の同一性を有する塩基配列からなるDNAの相補鎖がハイブリダイズし、それより相同性が低い核酸の相補鎖がハイブリダイズしない条件が挙げられる。より具体的には、ナトリウム塩濃度が15〜750mM、好ましくは50〜750mM、より好ましくは300〜750mM、温度が25〜70℃、好ましくは50〜70℃、より好ましくは55〜65℃、ホルムアミド濃度が0〜50%、好ましくは20〜50%、より好ましくは35〜45%での条件をいう。さらに、ストリンジェントな条件では、ハイブリダイゼーション後のフィルターの洗浄条件が、通常はナトリウム塩濃度が15〜600mM、好ましくは50〜600mM、より好ましくは300〜600mM、温度が50〜70℃、好ましくは55〜70℃、より好ましくは60〜65℃である。
【0032】
また、さらなる他の一態様として、配列番号1、3、5、7、9、11及び13のいずれかで表される塩基配列に対して70%以上の同一性を有する塩基配列からなり、XI活性を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。すなわち、配列番号1、3、5、7、9、11及び13のいずれかで表される塩基配列に対して70%以上、好ましくは、80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましく95%以上の同一性を有する塩基配列を有し、XI活性を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。
【0033】
本明細書において同一性又は類似性とは、当該技術分野で知られているとおり、配列を比較することにより決定される、2以上のタンパク質あるいは2以上のポリヌクレオチドの間の関係である。当該技術で“同一性”とは、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間のアラインメントによって、あるいは場合によっては、一続きのそのような配列間のアラインメントによって決定されるような、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間の配列不変性の程度を意味する。また、類似性とは、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間のアラインメントによって、あるいは場合によっては、一続きの部分的な配列間のアラインメントによって決定されるような、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間の相関性の程度を意味する。より具体的には、配列の同一性と保存性(配列中の特定アミノ酸又は配列における物理化学特性を維持する置換)によって決定される。なお、類似性は、後述するBLASTの配列相同性検索結果においてSimilarity と称される。同一性及び類似性を決定する方法は、対比する配列間で最も長くアラインメントするように設計される方法であることが好ましい。同一性及び類似性を決定するための方法は、公衆に利用可能なプログラムとして提供されている。例えば、AltschulらによるBLAST (Basic Local Alignment Search Tool) プログラム(たとえば、Altschul SF, Gish W, Miller W, Myers EW, Lipman DJ., J. Mol. Biol., 215: p403-410 (1990), Altschyl SF, Madden TL, Schaffer AA, Zhang J, Miller W, Lipman DJ., Nucleic Acids Res. 25: p3389-3402 (1997))を利用し決定することができる。BLASTのようなソフトウェアを用いる場合の条件は、特に限定するものではないが、デフォルト値を用いるのが好ましい。
【0034】
また、他の一態様として、配列番号2、4、6、8、10、12及び14で表されるアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、X1活性を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。配列番号2等のいずれかで表されるアミノ酸配列に対するアミノ酸の変異は、すなわち、欠失、置換若しくは付加は、いずれか1種類であってもよいし、2種類以上が組み合わされていてもよい。また、これらの変異の総数は、特に限定されないが、好ましくは、30個以下、より好ましくは、1個以上10個以下程度である。さらに好ましくは、1個以上5個以下である。なかでも、配列番号2で表されるアミノ酸配列又は配列番号10で表されるアミノ酸配列に対して上記のような変異を有し、XI活性を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。
【0035】
アミノ酸置換の例としては、保存的置換が好ましく、具体的には以下のカッコ内のグループ内での置換が挙げられる。例えば、(グリシン、アラニン)(バリン、イソロイシン、ロイシン)(アスパラギン酸、グルタミン酸)(アスパラギン、グルタミン)(セリン、トレオニン)(リジン、アルギニン)(フェニルアラニン、チロシン)である。
【0036】
他の一態様としては、配列番号2、4、6、8、10、12及び14のいずれかで表されるアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつXI活性を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。同一性は好ましくは80%以上であり、より好ましくは85%以上であり、さらに好ましくは、90%以上であり、もっとも好ましくは95%以上である。なかでも、配列番号2で表されるアミノ酸配列に対して70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、一層好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有しかつXI活性を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。なお、配列番号4で表されるアミノ酸配列及び配列番号6で表されるアミノ酸配列は、それぞれ、配列番号2で表されるアミノ酸配列との同一性が87%及び91%である。また、別に、配列番号14で表されるアミノ酸配列に対して70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、一層好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有しかつXI活性を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。なお、配列番号10で表されるアミノ酸配列及び配列番号12で表されるアミノ酸配列はそれぞれ配列番号14で表されるアミノ酸配列との同一性はそれぞれ85%及び86%である。
【0037】
なお、配列番号2等で表されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と上記のように一定の関連性のあるアミノ酸配列をコードする塩基配列は、遺伝暗号の縮重に従い、タンパク質のアミノ酸配列を変えることなく所定のアミノ酸配列をコードする塩基配列の少なくとも1つの塩基を他の種類の塩基に置換することができる。従って、本明細書の開示のDNAは、遺伝暗号の縮重に基づく置換によって変換された塩基配列をコードするDNAも包含している。
【0038】
上記各種態様のDNAは、例えば、配列番号1等の配列に基づいて設計したプライマーを用いて、シロアリ原生生物等から抽出したDNA、各種cDNAライブラリ又はゲノムDNAライブラリ等由来の核酸を鋳型としたPCR増幅を行うことにより、核酸断片として得ることができる。また、上記ライブラリ等由来の核酸を鋳型とし、XI遺伝子の一部であるDNA断片をプローブとしてハイブリダイゼーションを行うことにより、核酸断片として得ることができる。あるいはXI遺伝子は、化学合成法等の当技術分野で公知の各種の核酸配列合成法によって、核酸断片として合成してもよい。
【0039】
また、上記各種態様のDNAは、例えば、配列番号2等で表されるアミノ酸の配列をコードするDNA(たとえば、配列番号1で表される塩基配列からなる)を、慣用の突然変異誘発法、部位特異的変異法、エラープローンPCRを用いた分子進化的手法等によって改変することによって取得することができる。このような手法としては、Kunkel法又は Gapped duplex法等の公知手法又はこれに準ずる方法が挙げられ、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant-K(TAKARA社製)やMutant-G(TAKARA社製))などを用いて、あるいは、TAKARA社のLA PCR in vitro Mutagenesis シリーズキットを用いて変異が導入される。
【0040】
そのほか、当業者であれば、Molecular Cloning(Sambrook, J. et al., Molecular Cloning :a Laboratory Manual 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 10 Skyline Drive Plainview, NY (1989))等を参照することにより、例えば、配列番号1又は2等の公知配列に基づいて、各種態様のDNAを取得することができる。
【0041】
(キシロースイソメラーゼ)
本明細書の開示によれば、新規なキシロースイソメラーゼが提供される。本明細書に開示されるキシロースイソメラーゼは、以下のいずれかの態様を採ることができる。
(A)配列番号2、4、6、8、10、12及び14のいずれかで表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(B)配列番号2、4、6、8、10、12及び14のいずれかで表されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有し、XI活性を有するタンパク質
(C)配列番号2、4、6、8、10、12及び14のいずれかで表されるアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、XI活性を有するタンパク質
(D)配列番号1、3、5、7、9、11及び13のいずれかで表される塩基配列からなるDNAと相補的なDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAによってコードされ、XI活性を有するタンパク質
(E)配列番号1、3、5、7、9、11及び13のいずれかで表される塩基配列に対して70%以上の同一性を有する塩基配列からなるDNAによってコードされ、XI活性を有するタンパク質
【0042】
なかでも、配列番号2で表されるアミノ酸配列に対して70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、一層好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有しかつXI活性を有するタンパク質が挙げられる。また、別に、配列番号14で表されるアミノ酸配列に対して70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、一層好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有しかつXI活性を有するタンパク質が挙げられる。
また、配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有し、XI活性を有するタンパク質が挙げられる。また別に、配列番号14で表されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有し、XI活性を有するタンパク質が挙げられる。
【0043】
上記(B)におけるアミノ酸の置換、欠失または付加は、異性化酵素としての触媒ドメイン、および基質結合ドメインその他の酵素活性に重要な部分以外の領域に導入されることが好ましい。そのようなドメインは、既知のキシロースイソメラーゼ等の異性化酵素との相同性解析から当業者が容易に決定することができる。
【0044】
キシロースイソメラーゼのKm値は、本発明者らによれば、30mM以下程度であると推定される。後述する実施例によれば、RsXIC1は13mM程度であり、公知のPiXIの40mMと対比すると、相当程度小さく、こうしたKm値が、酵母の細胞内キシロース濃度に適合し、キシロース資化性を高めているものと考えられる。Km値は好ましくは30mM以下であり、より好ましくは25mM以下であり、さらに好ましくは20mM以下であり、一層好ましくは15mM以下である。なお、Km値は、公知の方法で測定し、非特許文献6に開示の方法など公知の計算方法で算出することができる。
【0045】
アミノ酸の置換、欠失または付加は、常用される技術、例えば、既に説明したように、部位特異的突然変異誘発法等により、当該アミノ酸配列をコードする塩基配列を改変することにより導入することができる。
【0046】
本明細書に開示されるキシロースイソメラーゼは、当該キシロースイソメラーゼをコードするDNAを含むDNA構築物によって真核細胞等の適当な宿主を形質転換し、形質転換宿主細胞を、当業者に公知の通常の方法に従って培養し、当該培養細胞または培地から本明細書に開示されるキシロースイソメラーゼを回収することによって得られる。培養細胞から、当該細胞の破砕後、遠心分離等の分離操作により可溶性画分を得、この画分からポリペプチドを回収することができる。本明細書に開示されるキシロースイソメラーゼは、慣用の精製技術を組み合わせて単離することができる。そのような技術には、硫安分画、有機溶媒処理、遠心分離、限外濾過、各種クロマトグラフィー(例えば、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー等)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、電気泳動等が包含される。
【0047】
(形質転換体〕
本明細書に開示される形質転換体は、上記DNAを含むDNA構築物で形質転換された真核細胞である。
【0048】
(宿主)
本明細書に開示される形質転換体の宿主は、真核細胞であればよく、特に限定されない。物質生産等を考慮すると、麹菌などのカビや酵母が挙げられる。麹菌としては、アスペルギルス・アキュリータス(Aspergillus aculeatus)、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus orizae)等のアスペルギルス属が挙げられる。また、酵母としては、公知の各種酵母を利用できるが、サッカロマイセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)等のサッカロマイセス属の酵母、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等のシゾサッカロマイセス属の酵母、キャンディダ・シェハーテ(Candida shehatae)等のキャンディダ属の酵母、ピキア・スティピティス(Pichia stipitis)等のピキア属の酵母、ハンセヌラ(Hansenula)属の酵母、クロッケラ属(Klocckera)の酵母、スワニオマイセス属(Schwanniomyces)の酵母及びヤロイア属(Yarrowia)の酵母、トリコスポロン(Trichosporon)属の酵母、ブレタノマイセス(Brettanomyces)属の酵母、パチソレン(Pachysolen)属の酵母、ヤマダジマ(Yamadazyma)属の酵母、クルイベロマイセス・マーキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)、クルイベロマイセス・ラクティス(Kluveromyces lactis)等のクルイベロマイセス属の酵母、イサトケンキア・オリエンタリス(Issatchenkia orientalis)等のイサトケンキア属の酵母が挙げられる。なかでも、工業的利用性等の観点からサッカロマイセス属酵母が好ましい。なかでも、サッカロマイセス・セレビジエが好ましい。
【0049】
宿主に保持される本明細書に開示されるDNAは、発現可能に保持されている。すなわち、適当なプロモーターの制御下に連結され、さらに、ターミネーター、エンハンサー、複製開始点(ori)、マーカー等も併せて備えられていてもよい。プロモーターは、誘導的であっても構成的であってもよい。例えば、酵母における構成的プロモーターとしては、3−ホスホグリセレートキナーゼ(PGK)プロモーター、グリセルアルデヒド−3−ホスフェートデヒドロゲナーゼ(GAPDH)プロモーター、アルコールデヒドロゲナーゼ1(ADH1)プロモーター、ヒスチジン栄養性機能遺伝子(HIS3)プロモーター、チトクロームbc1コンプレックス(CYC1)プロモーター及び高浸透圧応答7遺伝子(HOR7)プロモーター及びこれらの改変体が挙げられる。
【0050】
本明細書に開示される形質転換体は、DNA構築物によって形質転換されて、キシロースイソメラーゼを発現していることが好ましい。すなわち、DNA構築物による形質転換によりキシロースをキシルロースに変換する能力が付与されていることが好ましい。XI活性が付与されていることにより、キシロースを炭素源として増殖でき、発酵することができる。
【0051】
本明細書に開示されるDNAは、宿主細胞の染色体外において保持されていてもよいが、好ましくは染色体上に保持されている。また、高いキシロース資化能力を発揮するために、例えば、複数コピー保持されていることが好ましい。
【0052】
本明細書に開示される形質転換体は、セルラーゼやヘミセルラーゼを細胞表層あるいは細胞外に分泌発現するものであってもよい。例えば、エンドグルカナーゼ、セロビオヒドロラーゼ、β−グルコシダーゼなどの各種セルラーゼのほか、ヘミセルラーゼ等のその他のバイオマス分解酵素も挙げられる。こうしたタンパク質を発現させることで、リグノセルロースに由来するリグニン以外の糖類を効果的に利用できるようになる。また、本明細書に開示される形質転換体は、このほか、必要に応じて外来遺伝子の導入、内在性遺伝子の破壊などの遺伝子工学的な改変がなされたものであってもよい。
【0053】
本明細書に開示される形質転換体は、アラビノースを代謝するための酵素群に属する1種又は2種以上の酵素を発現するものであっても良い。例えば、バクテリアの有するアラビノース代謝経路の酵素群(国際公開パンフレット第WO2006096130号パンフレット、同第WO2009011591パンフレット)、L-アラビノースイソメラーゼ(EC5. 3.1.4)、L-リブロキナーゼ(EC2.7.1.16)およびL-リブロース−5−リン酸−4−エピメラーゼ(EC5.1.3.4)やカビの有するアラビノース代謝経路の酵素群(特表2004‐532008号公報)、アルドースレダクターゼ(EC1.1.1.21)、L−アラビニトール−4−デヒドロゲナーゼ(EC5.1.3.4)、L−キシルロースレダクターゼ(EC5.1.3.4)、およびD−キシルロースレダクターゼ(EC1.1.1.9)が挙げられる。こうしたタンパク質を発現させることで、アラビノースを利用できる形質転換体が提供される。
【0054】
本明細書に開示される形質転換体は、アルコールデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子、フォスフォフルクトキナーゼをコードする遺伝子、グルコキナーゼをコードする遺伝子及びヘキソキナーゼをコードする遺伝子からなる群から選択される1種又は2種以上の遺伝子の発現が増強されていることが好ましい。特に酵母においてこうした遺伝子の発現が増強されていることが好ましい。前記アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子はアルコールデヒドロゲナーゼ1遺伝子であってもよく、前記フォスフォフルクトキナーゼ遺伝子はフォスフォフルクトキナーゼ2遺伝子であってもよく、前記グルコキナーゼ遺伝子は、グルコキナーゼ1遺伝子であってもよく、さらに、前記ヘキソキナーゼ遺伝子は、ヘキソキナーゼ2遺伝子であってもよい。これらの酵素は、いずれも解糖系における酵素である。これらの酵素をコードする遺伝子の発現を増強することにより、これらの酵素の生産量及び/又は活性が向上し、結果として、これらの酵素活性の高い酵母等の真核細胞を得ることができる。これらの遺伝子の発現の増強により、キシロースなどの非発酵性糖又はこれらの混合物である糖原料の利用能力が向上され発酵能力の高い酵母等の真核細胞の形質転換体が提供される。
【0055】
こうした酵素をコードする遺伝子は、酵母等の真核細胞において内因性であってもよいし、外因性であってもよい。また、公知のこれらの酵素をコードする遺伝子を適宜利用できる。遺伝子としては、解糖系を増強できるものである限り、由来を問わないで利用できる。すなわち、遺伝子は、宿主となる酵母以外の他の種の酵母、他の属の酵母に由来するものであってもよいし、動物、植物、真菌(カビ等)、細菌などいずれ酵母以外の生物に由来するものであってもよい。こうした遺伝子に関する情報は、当業者であれば、NCBI(National Center for Biotechnology Information;http://www.ncbi.nlm.nih.gov)等のHPにアクセスすることにより適宜入手できる。例えば、S. cerevisiaeのHXK1遺伝子(アクセッション番号:NC_001138又はD50617)、GLK1遺伝子(アクセッション番号:NC_001135又はM24077)、PFK2遺伝子(アクセッション番号:NC_001145又はZ48755)及びADH1遺伝子(アクセッション番号:NC_001147又はZ74828)の塩基配列及びアミノ酸配列は、NCBIやS. cerevisiaeゲノムデータベース(SGD: http://www.yeastgenome.org/)より取得することができる。なお、遺伝子としては、ゲノムDNAのほか、cDNA等であってもよい。
【0056】
なお、本発明で用いるこれらの遺伝子は、各酵素活性を有する限りにおいて、データベース等において開示される配列情報と一定の関係を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。こうした一態様としては、開示されたアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、本発明で増強しようとする酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。開示されるアミノ酸配列に対するアミノ酸の変異は、すなわち、欠失、置換若しくは付加は、いずれか1種類であってもよいし、2種類以上が組み合わされていてもよい。また、これらの変異の総数は、特に限定されないが、好ましくは、30個以下程度であり、より好ましくは1個以上10個以下程度である。さらに好ましくは、1個以上5個以下である。アミノ酸置換の例としては、保存的置換が好ましい。
【0057】
他の一態様としては、本発明で用いる遺伝子は、開示されるアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ増強しようとする酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。同一性は好ましくは80%以上であり、より好ましくは85%以上であり、さらに好ましくは、90%以上であり、もっとも好ましくは95%以上である。
【0058】
また、酵母にキシロース資化性を付与するにあたっては、キシルロースをペントースリン酸経路(PPP)の非酸化過程で代謝する経路を構成する酵素群(Xylu−PPP資化酵素群)から選択される酵素をコードする遺伝子(Xylu−PPP遺伝子)の発現が増強されていることが好ましい。Xylu−PPP資化酵素群は、キシルロースからペントースリン酸経路の最終化合物であるグリセルアルデヒド−3−リン酸とフルクトース−6−リン酸に至る経路に関与する一連の酵素を含んでいる。かかる酵素群に含まれるのは、キシルロキナーゼ、リブロース5−リン酸エピメラーゼ、リボース5−リン酸イソメラーゼ、トランスアルドラーゼ及びトランスケトラーゼが挙げられる。Xylu−PPP遺伝子としては、これらをコードする遺伝子であればよく、こうした遺伝子を1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。より好ましくは3種以上であり、さらに好ましくは4種類であり、一層好ましくは全種(5種類)である。
【0059】
Xylu−PPP遺伝子のうち、キシルロキナーゼ(XK)遺伝子は、キシルロースを資化する細菌や酵母など多くの微生物が保持している。XK遺伝子は、特に由来生物を限定せずに用いることができる。また、XK遺伝子に関する情報は、NCBIのHP等の検索により適宜入手できる。好ましくは、酵母、乳酸菌、大腸菌、植物などに由来するXK遺伝子が挙げられる。XK遺伝子としては、例えば、S. cerevisiae S288C 株由来のXK遺伝子であるXKS1(GenBank:Z72979)(CDSのコード領域の塩基配列及びアミノ酸配列)が挙げられる。
【0060】
トランスアルドラーゼ(TAL)遺伝子、トランスケトラーゼ(TAK)遺伝子、リブロース5リン酸エピメラーゼ(RPE)遺伝子、リボース5リン酸ケトイソメラーゼ(RKI)遺伝子は、ペントースリン酸経路を備える多くの生物であれば保持している。例えば、S.cerevisiaeなど汎用酵母もこれらの遺伝子を保持している。これらの遺伝子は、特に由来生物を限定せずに用いることができ、これらの遺伝子に関する情報は、NCBI等のHPにアクセスすることにより適宜入手できる。好ましくは、真核細胞又は酵母等、宿主真核細胞と同一の属、さらに好ましくは宿主真核細胞と同一種に由来の各遺伝子が挙げられる。TAL遺伝子としては、TAL1遺伝子、TKL遺伝子としては、TKL1遺伝子、TKL2遺伝子、RPE遺伝子としては、RPE1遺伝子、RKI遺伝子としてはRKI1遺伝子を好ましく用いることができる。例えば、これら遺伝子としては、S. cerevisiae S288 株由来のTAL1遺伝子であるTAL1遺伝子(GenBank:U19102)、(CDSのコード領域の塩基配列(相補鎖)及びアミノ酸配列)、S. cerevisiae S288 株由来のTKL1遺伝子(GenBank:X73224)(CDSのコード領域の塩基配列及びアミノ酸配列)、S. cerevisiae S288 株由来のRPE1遺伝子(Genbank:X83571)(CDSのコード領域の塩基配列及びアミノ酸配列:)、S. cerevisiae S288 株由来のRKI1遺伝子(GenBank:Z75003)(CDSのコード領域の塩基配列(相補鎖)及びアミノ酸配列)が挙げられる。
【0061】
本明細書に開示される形質転換体は、後段で説明するように発酵により所望の有用物質を生産可能であってもよい。有用物質を生産可能な真核細胞は、有用物質生産に関する内因性遺伝子及び/又は外因性遺伝子を備えることができる。また、所定の内在性遺伝子が破壊されていてもよい。酵母は通常嫌気性発酵によりエタノールを生産するが、適宜遺伝子工学的な改変等により他の有用物質を生産可能に形質転換された宿主であってもよい。有用物質としては、エタノールのほか、乳酸、酢酸、1,3−プロパン−ジオール、プロパノール、ブタノール、コハク酸、エチレン及びグリセロールが挙げられる。これらのうち1種又は2種以上を有用物質として生産可能であるこことが好ましい。本明細書に開示される形質転換体の宿主は、例えば、乳酸などの有機酸を生産する酵母(特開2003−259878号公報、特開2006−006271号公報、特開2006−20602号公報、特開2006−75133号公報、特開2006−2966377号公報、特開2007−89466号公報に記載)等における遺伝的改変等を備えることができる。
【0062】
(形質転換体の作製)
本明細書に開示される形質転換体を得るには、本明細書に開示されるDNAを発現可能に保持する組換えベクターなどのDNA構築物を用いて宿主細胞を形質転換する。DNA構築物は、典型的には、本明細書に開示されるDNAによってコードされるキシロースイソメラーゼの発現を目的とした組換えベクターとして各種形態を採ることができる。
【0063】
DNA構築物は、例えば、これら遺伝子など所望の遺伝子組み換えのためのDNA断片を適当な発現ベクター中の上記したような適切なプロモーターの下流に連結することにより製造することができる。プロモーターとしては、既に説明したほか、GALプロモーター等の誘導的プロモーターが挙げられる。このほか、組換えベクターは、ターミネーター、エンハンサー、複製開始点(ori)、マーカー等を備えることができ、これらの要素が必要に応じ適宜選択される。また、組換えベクターが、遺伝子置換、遺伝子破壊等、染色体への所望のDNA断片の組み込みを意図する場合は、染色体上の所定の領域との相同領域を有している。相同領域は、所望のDNA断片を組み込む領域に応じて適宜選択される。本明細書に開示されるDNA構築物の材料としては、商業的に入手可能な酵母発現ベクターから適宜選択して用いることができる。
【0064】
なお、こうした組換えベクターの作製、組換え体宿主としての酵母等の取り扱いに必要な一般的な操作は、当業者間で通常行われているものであり、たとえば、T.Maniatis,J. Sambrookらの実験書(Molecular Cloning, A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory、1982,1989、2001)等を適宜参照することにより当業者であれば実施することができる。
【0065】
DNA構築物の宿主への導入方法としては、従来公知の各種方法、例えば、リン酸カルシウム法、トランスフォーメーション法や、トランスフェクション法、接合法、プロトプラスト法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、酢酸リチウム法または他の方法が挙げられる。このような手法は、上記した実験書等に記載される。ベクターを導入した酵母につき、マーカー遺伝子を用いた選抜及び活性発現による選抜により本明細書に開示される形質転換体を得ることができる。
【0066】
(有用物質を生産する方法)
本明細書に開示される有用物質の生産方法は、キシロースの存在下、本明細書に開示される形質転換体を培養する工程を備えることができる。本明細書に開示される生産方法によると、本明細書に開示される形質転換体はキシロース資化能力を有しているため、炭素源としてキシロースを含んでいれば、それを有効利用して、有用物質に変換することができる。したがって、キシロースを含有するリグノセルロースの糖化物を培地に含む場合であっても、こうしたバイオマス炭素源を有効利用して、有用物質に変換できる。リグノセルロースの透過物には、キシロースほか、グルコースを含んでいてもよく、さらにヘミセルロースの分解物を含んでいてもよい。
【0067】
キシロースは、アラビノキシラン、グルクロノキシランなどのキシランに含まれる。これらのポリマーは、天然には、ヘミセルロースの一成分を構成しており、リグノセルロースなどのバイオマス等に存在している。キシランを、エンドキシラナーゼ、キシロシダーゼ等により分解すると、キシロースを得ることができる。
【0068】
有用物質としては特に限定しないが、酵母が通常グルコースを利用して生産可能なものであればよい。有用物質は、酵母におけるグルコースからの代謝系の1種又は2種以上の酵素を遺伝子組換えにより置換、追加等して本来の代謝物でない化合物であってもよい。具体的には、エタノールなどの低級アルコール、乳酸、酢酸などの有機酸の他、1,3−プロパン−ジオール、プロパノール、ブタノール、コハク酸、エチレン及びグリセロールのほか、イソプレノド合成経路の追加によるテルペノイド系のファルネソール、ゲラニルゲラニオール、スクアレン、さらには、ファインケミカル(コエンザイムQ10、ビタミン及びその原料等)、解糖系の改変によるグリセリン、プラスチック・化成品原料など、バイオリファイナリー技術が対象とする材料が挙げられる。酵母は、アルコール発酵能が高いため、本形質転換体は、キシロース含有炭素源を培地に用いてエタノールを効率的に生産することができる。また、アルコール発酵能力が高い酵母は、その解糖系を改変して他の有機酸等の有用物質を生産する場合にも、当該有用物質の生産能力も高いと考えられる。
【0069】
培養工程では、炭素源として、キシロースを含有する培地を用いることができる。培地は、さらに、グルコースを含むことができ、好ましくは、炭素源は、リグノセルロースなどのバイオマスに由来している。なお、酵母が、各種セルラーゼを発現するものであってセルロース資化能力を有する場合には、培地中にセルロース又はその部分分解物を含んでいてもよい。
【0070】
培養工程では、形質転換体の宿主に一般的に適用される培養条件を適宜選択して用いることができる。典型的には、発酵のための培養は、静置培養、振とう培養または通気攪拌培養等を用いることができる。通気条件は、嫌気条件下、微好気条件下及び好気条件等、適宜選択することができる。培養温度も、特に限定しないが、25℃〜55℃等の範囲とすることができる。また、培養時間も必要に応じて設定されるが、数時間〜150時間程度とすることができる。また、pHの調整は、無機あるいは有機酸、アルカリ溶液等を用いて行うことができる。培養中は、必要に応じてアンピシリン、テトラサイクリンなどの抗生物質を培地に添加することができる。
【0071】
こうした培養工程の実施により、用いた本発明の形質転換体が有している有用物質生産能力に応じて有用物質が生産される。例えば、本発明の形質転換体がエタノール生産能力を有している場合には、エタノールであり、乳酸を生産可能に改変されている場合には、乳酸等となる。発酵終了後、培養液から有用物質含有画分を回収する工程、さらにこれを精製又は濃縮する工程を実施することもできる。回収工程や精製等の工程は有用物質の種類等に応じて適宜選択される。
【0072】
そのほか、形質転換体の発酵には、酵母に一般的に適用される培養条件を適宜選択して用いることができる。典型的には、発酵のための培養は、静置培養、振とう培養または通気攪拌培養等を用いることができる。通気条件は、嫌気条件下、微好気条件下及び好気条件等、適宜選択することができる。培養温度も、特に限定しないが、25℃〜55℃等の範囲とすることができる。また、培養時間も必要に応じて設定されるが、数時間〜150時間程度とすることができる。また、pHの調整は、無機あるいは有機酸、アルカリ溶液等を用いて行うことができる。培養中は、必要に応じてアンピシリン、テトラサイクリンなどの抗生物質を培地に添加することができる。
【0073】
発酵終了後、培養液から有用物質含有画分を回収する工程、さらにこれを精製又は濃縮する工程を実施することもできる。回収工程や精製等の工程は有用物質の種類等に応じて適宜選択される。
【0074】
以上の実施形態で説明したことから、本明細書の開示によれば、以下の手段も提供される。
(1)配列番号14で表されるアミノ酸配列に対して70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、一層好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有しかつXI活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(2)配列番号14で表されるアミノ酸配列に対して70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、一層好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有しかつXI活性を有するタンパク質。
(3)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有し、XI活性を有するタンパク質。
(4)配列番号14で表されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有し、XI活性を有するタンパク質。
(5)配列番号45で表される塩基配列を有するDNA。
(6)配列番号46で表される塩基配列を有するDNA。
(7)配列番号47で表される塩基配列を有するDNA。
【実施例】
【0075】
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下に述べる遺伝子組換え操作はMolecular Cloning: A Laboratory Manual (T. Maniatis, et al., Cold Spring Harbor Laboratory) に従い行った。
【実施例1】
【0076】
(ヤマトシロアリ(Reticulitermes speratus)腸内原生生物cDNAライブラリからの遺伝子取得)
ヤマトシロアリ腸内原生生物のメタcDNAライブラリからキシロースイソメラーゼ様遺伝子の取得を行なった。実験の流れを図2に示す。以下、図2に示す手順i)〜vi)に沿って説明する。
【0077】
i) 特願2007‐053122に記載のヤマトシロアリ腸内原生生物のメタcDNAライブラリを鋳型として、プライマーLib-FおよびLib-Rを用いてライブラリベクターに挿入されたcDNA全長をPCRにより増幅して増幅cDNAライブラリを作製した。なお、PCRはPrimeSTAR HS DNA Polymerase(タカラバイオ)を使用し、[98℃10秒、55℃15秒、72℃2分]×30サイクルの条件で反応を行なった。使用したプライマーを以下に示す。
Lib-F:5'-taaacacacataaacaaacaaacccctcgagttaattaaattaatccccc-3'(配列番号15)
Lib-R:5'-ttactcctcgagggccacataggccgagctctttttttttttttttt-3'(配列番号16)
【0078】
ii) 得られたPCR産物を鋳型に、キシロースイソメラーゼの保存領域を増幅する縮重プライマーmXI-F1およびmXI-R1を用いてPCRを行なった。なお、以降のPCRはExTaq HS DNA Polymerase(タカラバイオ)を使用し、[98℃10秒、55℃30秒、72℃1分]×30サイクルの条件で反応を行なった。使用したプライマーの配列を以下に示す。
mXI-F1:5'-tggggnggnmgngarggntay-3'(配列番号17)
mXI-R1:5'-nggraaytgrtcngtrtccca-3'(配列番号18)
なお、縮重プライマーにおいては、n = a or t or g or c、m = a or c、r = a or g、y = c or tを示す。得られた0.4kbpのDNA断片をTOPO-TA Cloning kit (Invitrogen)を用いてpCR2.1-TOPOベクターにクローニングした。得られた0.4kbpのDNA配列を含むプラスミドを鋳型とし、プライマーM13-FおよびM13-Rを用いてベクターに挿入されたDNA断片の配列を解析した。使用したプライマーの配列を以下に示す。
M13-F:5'-gtaaaacgacggccagt-3'(配列番号19)
M13-R:5'-caggaaacagctatgaccat-3'(配列番号20)
【0079】
解析の結果、キシロースイソメラーゼの保存領域と相同性の高い新規な配列が複数得られた。さらに、明らかとなった配列情報を元にプライマーを4種類作製した。作製したプライマーの配列を以下に示す。
C1-R:5'-tcgcttcaatattcagtttgaaatc-3'(配列番号21)
C2-F:5'-atcatgcaactttggctggtcatac-3'(配列番号22)
D1-R:5'-tcgcttcaatattcagtttaaaatc-3'(配列番号23)
F-R:5'-accaatactccgaccataagtaacagctagtttc-3'(配列番号24)
【0080】
iii) ii)に記載のプライマーC1-R、D1-R、F-Rと、i)に記載のプライマーLib-Fとの各プライマーセットおよびii)に記載のプライマーC2-Fとi)に記載のプライマーLib-Rとのプライマーセットを用いて、i)に記載の増幅cDNAライブラリを鋳型にPCRを行い、5'フランキング領域および3'フランキング領域の増幅を行なった。得られた5'フランキング領域に対応する約0.9kbpのDNA断片(C1-R、D1-R、F-R)および3'フランキング領域に対応する約0.6kbpのDNA断片(C2-F)をTOPO-TA Cloning kitを用いてpCR2.1-TOPOベクターにクローニングし、プライマーM13-FおよびM13-Rを用いてベクターに挿入されたDNA断片の配列を解析した。得られた5'フランキング領域および3'フランキング領域の配列情報を元に、5'側の開始コドンを含むプライマーおよび3'側の終止コドンを含むプライマーを作製した。以下に作製したプライマーの配列を記す。
C1-F:5'-ataaacaaacaaaccgcggaaaatgagtcagatattcaaagatattcctgtgatcaaatatgaaggtcctgc-3'(配列番号25)
C2-R:5'-tgatgcggccctcgagctactgaaacaaaatctggttaaatatactctcaagaaactcttgacggc-3'(配列番号26)
D1-F:5'-ataaacaaacaaaccgcggaaaatgagtcaggaaatattcaaaaacattccccaaatcaaatatgagggtcc-3'(
配列番号27)
F-F:5'-actcttgctggccacacatttc-3'(配列番号28)
【0081】
iv) iii)に記載のプライマーC1-F、D1-F、F-Fと、i)に記載のプライマーLib-Rとの各プライマーセットおよびiii)に記載のプライマーC2-Rとi)に記載のプライマーLib-Fとのプライマーセットを用いて、i)に記載の増幅cDNAライブラリを鋳型にPCRを行い、5'フランキング領域および3'フランキング領域の増幅を行なった。得られた約1.4kbpのDNA断片をTOPO-TA Cloning kitを用いてpCR2.1-TOPOベクターにクローニングし、プライマーM13-FおよびM13-Rを用いてベクターに挿入されたDNA断片の配列を解析した。以上により得られた5'および3'フランキング領域の配列を元に、開始コドンから終止コドンまでの全長配列取得用のプライマーを作製した。配列を以下に示す。
C1-IF-F:5'-ataaacaaacaaaccgcggaaaatgagtcagatattcaaagatattcctgtg-3'(配列番号29)
C1-IF-R:5'-tgatgcggccctcgagctactgaaacagaatctggtttataatgctttc-3'(配列番号30)
C2-IF-F:5'-ataaacaaacaaaccgcggaaaatgagtgccatatttccaagtgttcccgag-3'(配列番号31)
C2-IF-R:5'-tgatgcggccctcgagctactgaaacaaaatctggttaaatatactctc-3'(配列番号32)
D1-IF-F:5'-ataaacaaacaaaccgcggaaaatgagtcaggaaatattcaaaaacattccc-3'(配列番号33)
D1-IF-R:5'-tgatgcggccctcgagtcactgaaacagtacctggttcacaatactttc-3'(配列番号34)
F-IF-F:5'-ataaacaaacaaaccgcggaaaatgtccaccgaaatattcccaggaatcaagcaaattc-3'(配列番号35)
F-IF-R:5'-tgatgcggccctcgagttactgaaacagaatttgattaaacacactttcgagatactcc-3'(配列番号36)
【0082】
v) iv)に記載の各プライマーセットを用いて、i)に記載の増幅cDNAライブラリを鋳型にPCRを行なった。なお、PCRはPrimeSTAR HS DNA Polymerase(タカラバイオ)を使用し、[98℃10秒、55℃15秒、72℃2分]×30サイクルの条件で反応を行なった。得られた1.4kbpのDNA断片4種類をRsXI-C1、RsXI-C2、RsXI-D1およびRsXI-Fと命名し、これらを、In-Fusion AdvantageTM PCR Cloning kit(タカラバイオ)を用いて、制限酵素SacIIおよびXhoIで消化したpRS436GAPべクター(DDBJ accession : AB304862)(図3)に挿入した。プライマーTDH3-180FおよびCYC1t−100Rを用いて、pRS436GAPに挿入されたDNA断片の配列を解析した。使用したプライマーの配列を以下に示す。
TDH3-180F:5'-ccagttccctgaaattattccc-3'(配列番号37)
CYC1t−100R:5'-cctagacttcaggttgtctaac-3'(配列番号38)
【0083】
解析の結果明らかとなった4種類の遺伝子RsXI-C1、RsXI-C2、RsXI-D1およびRsXI-Fの塩基配列を配列番号1、3、5及び7に示し、それらのアミノ酸配列を、配列番号2、4、6及び8にそれぞれ示す。またこれらの配列以外にも、上記に記載の手法と同様の方法を用いてさらに4種類の遺伝子、RsXI-A、RsXI-B、RsXI-D2、RsXI-Eを取得した。
【0084】
これら計8種類の遺伝子配列から変換されたアミノ酸配列と、Piromyces sp. E2由来のキシロースイソメラーゼ遺伝子(Genebank accession : AJ249909)から変換されたアミノ酸配列との相同性を表1に示す。なお、アミノ酸配列の相同性はBLAST(Basic Local Alignment Search Tool(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi))のprotein blast(Scoring parametersはデフォルトの設定)を解析プログラムとして用いて同定した。
【0085】
【表1】
【0086】
なお、各遺伝子断片を用いて作製した酵母導入用ベクターを、それぞれpRS436GAP-RsXI-A、-B、-C1、-C2、-D1、-D2、-E、-Fと命名した(図4)。このベクターには挿入した遺伝子の5’側にSaccharomyces cerevisiae由来のTDH3プロモーター、3’側にS. cerevisiae由来のCYC1ターミネーターが付加された遺伝子配列、酵母自律複製因子の2μ oriの遺伝子配列、および栄養要求性マーカーとしてURA3の遺伝子配列が含まれる。
【実施例2】
【0087】
(ムカシシロアリ(Mastotermes darwiniensis)腸内原生生物からの遺伝子取得)
ムカシシロアリ腸内原生生物からのキシロースイソメラーゼ様遺伝子の取得を行なった。実験の流れを図5に示す。以下、図5に示す手順i)〜iii)に沿って説明する。
【0088】
i)特願2007‐053122に記載のムカシシロアリ腸内原生生物cDNAライブラリの部分配列によるホモロジー解析の結果、キシロースイソメラーゼに相当する3種類の遺伝子が確認されている。しかし、各遺伝子は部分配列しか明らかでなく、各遺伝子の全長配列を解析する必要があった。そこで該当する遺伝子の全長を搭載するプラスミド、pGEM-3Zf-Md06BA12、pGEM-3Zf-Md63A19およびpGEM-3Zf-Md63A93を鋳型とし、プライマーM13-F(配列番号19)およびM13-R(配列番号20)を用いて配列解析を行った。
【0089】
解析の結果明らかとなった3種類の遺伝子、MdXI12、MdXI19およびMdXI93の塩基配列を配列番号9、11及び13に示し、これらのアミノ酸配列を配列番号10、12及び14にそれぞれ示す。なお、これらの遺伝子配列から変換されたアミノ酸配列と、Piromyces sp. E2由来のキシロースイソメラーゼ遺伝子配列から変換されたアミノ酸配列との相同性を表1に示す。なお、アミノ酸配列の相同性はBLAST(Basic Local Alignment Search Tool(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi))のprotein blast(Scoring parametersはデフォルトの設定)を解析プログラムとして用いて同定した。
【0090】
明らかとなった配列情報をもとに、各遺伝子の全長を増幅するためのプライマーを作製した。作製したプライマーの配列を以下に記す。
MdXI12-IF-F:5'-ataaacaaacaaaccgcggaaaatgtctcacgaatactttccagg-3'(配列番号39)
MdXI12-IF-R:5'-tgatgcggccctcgagttattggaacatcgtcactatc-3'(配列番号40)
MdXI19-IF-F:5'-ataaacaaacaaaccgcggaaaatgtctggcgaatactttccagg-3'(配列番号41)
MdXI19-IF-R:5'-tgatgcggccctcgagtcattggaacgtcgtcactatg-3'(配列番号42)
MdXI93-IF-F:5'-ataaacaaacaaaccgcggaaaatgtctcgcgaatactttccagg-3'(配列番号43)
MdXI93-IF-R:5'-tgatgcggccctcgagtcactggtacattgttacgattag-3'(配列番号44)
【0091】
ii)pGEM-3Zf-Md06BA12、pGEM-3Zf-Md63A19およびpGEM-3Zf-Md63A93を鋳型に、i)に記載のプライマーセット、MdXI12-IF-FおよびMdXI12-IF-R、MdXI19-IF-FおよびMdXI19-IF-R、MdXI93-IF-FおよびMdXI93-IF-Rを用いてPCRにより各遺伝子の全長を増幅した。なお、PCRはPrimeSTAR HS DNA Polymerase(タカラバイオ)を使用し、[98℃10秒、55℃15秒、72℃2分]×30サイクルの条件で反応を行なった。
【0092】
iii)得られた1.4kbpのDNA断片3種類を、In-Fusion AdvantageTM PCR Cloning kit(タカラバイオ)を用いて、制限酵素SacIIおよびXhoIで消化したpRS436GAP(DDBJ accession : AB304862)(図2)に挿入した。次に、プライマーTDH3-180F(配列番号37)およびCYC1t−100R(配列番号38)を用いて、pRS436GAPに遺伝子が正しく挿入されていることを確認した。作製した酵母導入用ベクターをそれぞれpRS436GAP-MdXI12、-MdXI19、-MdXI93と命名した(図7)。このベクターには挿入した遺伝子の5’側にTDH3プロモーター、3’側にCYC1ターミネーターが付加された遺伝子配列、酵母自律複製因子の2μ oriの遺伝子配列、および栄養要求性マーカーとしてURA3の遺伝子配列が含まれる。
【実施例3】
【0093】
(形質転換酵母の作製)
(公知キシロースイソメラーゼ遺伝子の酵母導入用ベクターの作製)
Piromyces sp. E2由来キシロースイソメラーゼの遺伝子(PiXI)および、PiXIとのアミノ酸配列相同性が73%のParabacteroides distasonis ATCC 8503由来キシロースイソメラーゼ(protein ID: YP_001302175)の遺伝子(PdXI)、64%のLeeuwenhoekiella blandensis MED217由来キシロースイソメラーゼ(protein ID:EAQ50619)の遺伝子(LbXI)の酵母導入用ベクター、pRS436GAP-PiXI、-PdXI、-LbXIを作製した(図7)。このベクターには、5’側にTDH3プロモーター、3’側にCYC1ターミネーターが付加された、PiXI遺伝子を含む遺伝子配列、酵母自律複製因子の2μ oriの遺伝子配列、および栄養要求性マーカーとしてURA3の遺伝子配列が含まれる。
【0094】
(ペントースリン酸経路強化酵母の作製)
以下に説明する各べクターpXhisHph-HOR7p-ScXK 、pXAd3H-HOR7p-ScTAL1-ScTKL1およびpXGr3L-HOR7p-ScRPE1-ScRKI1を用いて、XKS1、TAL1、TKL1、RPE1およびRKI1遺伝子を過剰発現し、GRE3遺伝子の破壊された酵母株を作製した。これらのベクターを併せて図8に示す。また、以下の実施例で用いる培地を表2にまとめて示す。
【0095】
(1)XK遺伝子導入用ベクター
酵母S. cerevisiae由来のキシルロキナーゼ(XK)遺伝子の酵母導入用ベクター、pXhisHph-HOR7p-ScXKを作製した(図8)。このベクターには、5’側にHOR7プロモーター、3’側にTDH3ターミネーターが付加された、S. cerevisiae NBRC304 株由来のXK遺伝子であるXKS1(genebank:X61377)をふくむ遺伝子配列、酵母ゲノム上への相同組換え領域として、ヒスチジン合成酵素(HIS3)遺伝子の上流約500bpの領域の遺伝子配列(HIS3U)、及びその下流の約500bpの領域の遺伝子配列(HIS3D)、並びにマーカーとして、5’側にTDH2プロモーター、3’側にCYC1tターミネーターが付加された、ハイグロマイシンフォスフォトランスフェラーゼ(hph)遺伝子を含む遺伝子配列が含まれるように構築した。
【0096】
(2)TAL1、TKL1遺伝子導入用ベクター
S. cerevisiae由来のトランスアルドラーゼ1(TAL1)遺伝子およびトランスケトラーゼ1(TKL1)遺伝子の酵母導入用ベクター、pXAd3H-HOR7p-ScTAL1-ScTKL1を作製した(図8)。このベクターに、5’側にHOR7プロモーター、3’側にTDH3ターミネーターが付加された、S. cerevisiae S288 株由来のTAL1遺伝子であるTAL1(Genbank:U19102)をふくむ遺伝子配列、および5’側にHOR7プロモーター、3’側にTDH3ターミネーターが付加された、S. cerevisiae S288 株由来のTKL1遺伝子であるTKL1(Genbank:X73224)をふくむ遺伝子配列、酵母ゲノム上への相同組換え領域として、アルコールデヒドロゲナーゼ3(ADH3)遺伝子の上流約500bpの領域の遺伝子配列(ADH3U)、及びその下流約500bpの領域の遺伝子配列(ADH3D)、並びにマーカーとして、ヒスチジン合成酵素(HIS3)遺伝子を含む遺伝子配列(HIS3 marker)が含まれるように構築した。
【0097】
(3)RPE1、RKI1遺伝子導入用ベクター
S. cerevisiae由来のリブロースリン酸エピメラーゼ1(RPE1)遺伝子およびリボースリン酸ケトイソメラーゼ(RKI1)遺伝子の酵母導入用ベクター、pXGr3L-HOR7p-ScRPE1-ScRKI1を作製した(図8)。このベクターに、5’側にHOR7プロモーター、3’側にTDH3ターミネーターが付加された、S. cerevisiae S288 株由来のRPE1遺伝子であるRPE1(Genbank:X83571)をふくむ遺伝子配列、および5’側にHOR7プロモーター、3’側にTDH3ターミネーターが付加された、S. cerevisiae S288 株由来のRKI1遺伝子(Genbank:Z75003)をふくむ遺伝子配列、酵母ゲノム上への相同組換えおよびアルドースレダクターゼ3(GRE3)遺伝子を破壊するための領域として、GRE3遺伝子の上流約1000bpの遺伝子配列(GRE3U)、GRE3遺伝子の3’領域約500bpを含む約800bpの領域の遺伝子配列(GRE3D)、並びにマーカーとして、ロイシン合成酵素(LEU2)遺伝子を含む遺伝子配列(LEU2 marker)が含まれるように構築した。
【0098】
【表2】
【0099】
酵母の形質転換はFrozen-EZ Yeast Transformation II(ZYMO RESEARCH)を用い、添付のプロトコルに従って行った。まず、pXhisHph-HOR7p-ScXKベクターを制限酵素Sse8387Iで消化した断片を用いて、宿主である酵母S. cerevisiae MT8-1株の形質転換を行い、YPD+HYG寒天培地に塗布し、生育したコロニーを新たなYPD+HYG寒天培地に画線培養してコロニーを純化した。純化された選択株をPP100株と命名した。つぎに、pXAd3H-HOR7p-ScTAL1-ScTKL1ベクターを制限酵素Sse8387Iで消化した断片を用いて、PP100株の形質転換を行い、SD-H寒天培地に塗布し、生育したコロニーを新たなSD-H寒天培地に画線培養してコロニーを純化した。純化された選択株をPP300株と命名した。
つぎに、pXGr3L-HOR7p-ScRPE1-ScRKI1ベクターを制限酵素Sse8387Iで消化した断片を用いて、PP300株の形質転換を行い、SD-HL寒天培地に塗布し、生育したコロニーを新たなSD-HL寒天培地に画線培養してコロニーを純化した。純化された選択株をPP600株と命名した。
【0100】
(酵母への遺伝子導入)
作製した各種遺伝子の酵母導入用ベクターを用いてPP600株の形質転換を行い、SD-HLU寒天培地(表2)に塗布し、生育したコロニーを新たなSD-HLU寒天培地に画線培養してコロニーを純化した。純化された選択株の名前と導入遺伝子および使用したベクターを表3に示す。
【0101】
【表3】
【0102】
(形質転換酵母のXI活性測定)
作製した各種遺伝子導入株をSD-HLU液体培地(表2)で24時間培養し、菌体を回収して滅菌水で2回洗浄した後、100mMリン酸緩衝液(pH7.0)で2回洗浄した。洗浄後の菌体ペレットにガラスビーズ(acid washed φ=425‐600μm:SIGMA)および100mMリン酸緩衝液(pH7.0)を加え、Micromixier E-36(TAITEC)を用いて4℃で15分間撹拌し、酵母菌体を破砕した。つぎに4℃、12000rpmで5分間遠心し、上清を菌体粗抽出液として回収した。菌体粗抽出液の全タンパク質濃度をQuick Startプロテインアッセイキット(BIO-RAD)を用いて測定した。
【0103】
次に、特開2008-79564に記載のXI活性測定法を参考に、酵母粗抽出液のXI活性を測定した。具体的には、 50mMマレイン酸緩衝液(pH6.85)、10mM MgSO4、1mM CoCl2、1mM MnCl2、10mM キシロースを含む反応液中に酵母粗抽出液を添加し、30℃で30分間反応させた後、システイン−カルバゾール−硫酸法(Zacharias Dische andEllen Borenfreund J. Biol. Chem. 192:583-587(1951))によりキシルロースを定量して、XI活性を測定した。システイン−カルバゾール−硫酸法は、上記反応後に、システイン−カルバゾール−硫酸溶液を加えて30℃で30分間呈色させ、波長540nmでの吸光度を測定して行った。図9にXI活性測定の結果を示す。活性の定義は1分間に1μmolのキシルロースを生成する活性を1Uとし、これを酵母粗抽出液のタンパク質濃度で割った値(U/mg-protein)とした。
【0104】
図9に示すように、XI遺伝子が導入されていないIX700mc株や、公知のXI遺伝子であるPdXI、LbXIを導入した株ではXIの活性が見られず、またRsXI-A、-B、-D2、Eを導入した株においてもXIの活性は見られなかった。一方、PiXI遺伝子を導入したIX700m株ではXIの活性が確認され、またRsXI-C1、-C2、-D1、-FおよびMdXI93を導入した株ではそれぞれXIの活性が確認された。中でもRsXI-C1遺伝子を導入したPP600/pRS436GAP-RsXI-C1株のXIの活性はPiXI遺伝子を導入したIX700m株と同程度の活性を示した。このことから、RsXI-C1、-C2、-D1、-FおよびMdXI93の遺伝子を元に酵母菌体内で生産されるタンパク質はXIの活性を有することを確認した。
【0105】
(形質転換酵母のキシロースを炭素源とした増殖試験)
各種形質転換酵母のキシロース資化能力を評価するため、キシロースを炭素源とした培地での増殖試験を行った。IX700m株、IX700mc株、PP600/pRS436GAP-RsXI-C1株、PP600/pRS436GAP-RsXI-C2株、PP600/pRS436GAP-RsXI-D1株、PP600/pRS436GAP-RsXI-F株、PP600/pRS436GAP-MdXI12株、PP600/pRS436GAP-MdXI19株およびPP600/pRS436GAP-MdXI93株をSD-HLU液体培地で24時間培養し、菌体を回収して滅菌水で2回洗浄した後、L字型試験管に調製したSX-HLU液体培地(表1)に菌体を加え、増殖試験を開始した。増殖試験はバイオフォトレコーダーTVS062CA(ADVANTEC)を用い、培養条件は30℃、70 rpmで、20分間隔で培養液のOD(660nm)を測定した。増殖試験の結果を図10に示す。
【0106】
図10Aにおいて、XIが導入されていないIX700mc株では20時間目以降では培地ODの増加が見られなかったが、PP600/pRS436GAP-RsXI-C1株、PP600/pRS436GAP-RsXI-C2株、PP600/pRS436GAP-RsXI-D1株、PP600/pRS436GAP-RsXI-F株、およびPiXI遺伝子を導入したIX700m株は共に20時間目以降も培地ODの増加が見られ、菌体が増殖していることを確認した。このことから、RsXI-C1、RsXI-C2、RsXI-D1および RsXI-F遺伝子を酵母に導入することで、キシロースを炭素源とする増殖が可能となることが明らかとなった。また、40時間目以降の増殖速度は、IX700m株では0.096 OD660/h、PP600/pRS436GAP-RsXI-C1株では0.126 OD660/hとなり、PP600/pRS436GAP-RsXI-C1株の増殖速度はIX700m株と比べて約1.3倍速いことを確認した。
【0107】
さらに、図10Bにおいても同様に、XIの遺伝子が導入されていないIX700mc株では20時間目以降では培地ODの増加が見られなかったが、PP600/ pRS436GAP-MdXI12、-MdXI19、-MdXI93株およびPiXI遺伝子を導入したIX700m株は共に20時間目以降も培地ODの増加が見られ、菌体が増殖していることを確認した。このことから、MdXI12、MdXI19およびMdXI93遺伝子を酵母に導入することで、キシロースを炭素源とする増殖が可能となることが明らかとなった。このことは、同時に、これらの遺伝子によってコードされるタンパク質は、酵母などの真核細胞においてXI活性を有することを示している。
【0108】
以上の結果から酵母でキシロースイソメラーゼ活性が確認された7種類の遺伝子について、それらをアミノ酸配列に変換して互いの配列相同性を比較した結果を表4に示す。なお、アミノ酸配列の相同性は遺伝子解析ソフトウェアGENETIX(ゼネティックス)のホモロジー検索機能(program : fastp(Protein-Protein)、parameterはデフォルトの設定)を用いて同定した。
【0109】
【表4】
【0110】
表4に示すように、相同性比較の結果、RsXI-C1、RsXI-C2、RsXI-D1、RsXI-Fの互いの相同性は高く(82%以上)、またMdXI12、MdXI19およびMdXI93も互いの相同性が高かった(85%以上)。しかしRsXIのグループとMdXIのグループでは互いの相同性は低く(52%以下)、またそれぞれのグループは由来となる原生生物のcDNAライブラリが異なることから、別系統のXIであることが示唆された。
【実施例4】
【0111】
(1)酵母発現に適したキシロースイソメラーゼ遺伝子の合成と酵母導入用ベクター作製
RsXI-C1、PiXI、および酵母での活性が報告されている(非特許文献1)Clostridium phytofermentans由来キシロースイソメラーゼ(protein ID: YP_001558336)の遺伝子(CpXI)について、酵母での発現用にコドンを適合させた合成遺伝子を作製した。各遺伝子はGenscript Corporation(www. Genscript.com)およびLife Technologies Corporation(www.lifetechnologies.com)により合成され、合成された遺伝子をそれぞれRsXIC1-O(配列番号45)、PiXI-O(配列番号46)、およびCpXI-O(配列番号47)と命名した。
【0112】
つぎに、RsXIC1-O、PiXI-OおよびCpXI-OをPCR増幅した。使用したプライマーの配列を以下に示す。
RsXIC1-O-IF-F:5'- ataaacaaacaaaccgcggaaaatgtctcaaatttttaaggatatccc -3'(配列番号48)
RsXIC1-O-IF-R:5'-tgatgcggccctcgagttattgaaacaaaatttggttaataatactttc-3'(配列番号49)
PiXI-O-IF-F:5'-ataaacaaacaaaccgcggaaaatggctaaggaatacttcc-3'(配列番号50)
PiXI -O-IF-R:5'-tgatgcggccctcgagttattggtacatagcaacaattgcttc-3'(配列番号51)
CpXI-O-IF-F:5'-ataaacaaacaaaccgcggaaaatgaagaattacttcccaaatgtccc-3'(配列番号52)
CpXI -O-IF-R:5'-tgatgcggccctcgagtcatctaaacaagatgttattgacaatagtctc-3'(配列番号53)
PCR増幅した遺伝子断片を、制限酵素SacIIおよびXhoIで消化したpRS436GAPに挿入し、作製した各遺伝子の酵母導入用ベクターを、それぞれpRS436GAP-RsXIC1-O、pRS436GAP-PiXI-O、pRS436GAP-CpXI-Oと命名した。
【0113】
(2)コドン最適化キシロースイソメラーゼ遺伝子の酵母への導入
最適化XIの酵母導入用ベクターを用いてキシロースを資化することができる酵母株を作製した。酵母の形質転換はFrozen-EZ Yeast Transformation II(ZYMO RESEARCH)を用い、添付のプロトコルに従って行った。
【0114】
まず、S. cerevisiae S288株由来のゲノムDNAをテンプレートとしてTRP1遺伝子(Gene ID: 851570)およびその近傍領域をPCR増幅した。得られた増幅産物を用いて特願2010−063703に記載の、XKS1、TAL1、TKL1、RPE1およびRKI1遺伝子を過剰発現し、GRE3遺伝子が破壊されたW600株へ形質転換を行い、SD+U寒天培地(ウラシルを20mg/L含有するSD寒天培地)に塗布し、生育したコロニーを新たなSD+U寒天培地に画線培養してコロニーを純化した。純化された選択株をW600W株と命名した。TRP1遺伝子およびその近傍領域のPCR増幅には以下に示すプライマーを用いた。
TRP1M-F:5'- aacgacattactatatatataatatagg -3'(配列番号54)
TRP1M-R:5'- caagtgcacaaacaatac -3'(配列番号55)
つぎに、pRS436GAP-RsXIC1-O、pRS436GAP-PiXI-O、pRS436GAP-CpXI-Oをそれぞれ用いてW600W株の形質転換を行い、SD寒天培地に塗布し、生育したコロニーを新たなSD寒天培地に画線培養してコロニーを純化した。純化された選択株をそれぞれW600W/pRS436GAP-RsXIC1-O、W600W/pRS436GAP-PiXI-O、W600W/pRS436GAP-CpXI-O株と命名した。またコントロールとしてpRS436GAPを同様の手法でW600W株に導入し、得られた形質転換株をW600W/pRS436GAP株と命名した。
【0115】
(3)形質転換酵母のキシロースを炭素源とした増殖試験
各形質転換酵母のキシロース資化能力を評価するため、キシロースを炭素源とした培地での増殖試験を行った。W600W/pRS436GAP-RsXIC1-O、W600W/pRS436GAP-PiXI-O、W600W/pRS436GAP-CpXI-O株およびW600W/pRS436GAP株をSD液体培地で24時間培養し、菌体を回収して滅菌水で2回洗浄した後、L字型試験管に調製したSX液体培地に菌体を加え、増殖試験を開始した。
【0116】
増殖試験の結果を図11に示す。XIが導入されていないW600W/pRS436GAP株では培地ODの増加が見られなかったが、各XI遺伝子を導入した株では培地ODの増加が見られ、菌体が増殖していることを確認した。また、培地OD660が0.1〜0.5の期間における比増殖速度は、W600W/pRS436GAP-RsXIC1-O株がW600W/pRS436GAP-PiXI-O株およびW600W/pRS436GAP-CpXI-O株と比べて1.2倍程度高いことを確認した(表5)。
【0117】
【表5】
【0118】
(4)グルコースとキシロースの混合培地中での発酵能力比較
各形質転換酵母株を50mlのSD液体培地に接種して3日間培養したものを全培養液とした。次に500mlのSD液体培地に全培養液全量を加えて24時間培養し、菌体を回収して滅菌水で2回洗浄した。
【0119】
発酵試験にはフタの部分に逆止弁付の排気ラインを取り付けた100 mlのねじ口瓶を用いた。発酵培地の最終OD600が10となるように酵母懸濁液を加えたSDX培地(6.7 g/l Yeast Nitrogen Base without amino acids and nucleic acids、30 g/l D-Glucose、20 g/l Xylose)を50 ml調製し、30℃、100 rpmで発酵を行った。任意の時間に培養液を分取し、液体クロマトグラフィーにより基質(グルコースおよびキシロース)および生産物(エタノール、グリセロール、キシリトール)の分析を行なった。液体クロマトグラフィーのカラムはHPX-87Hカラム(BIO-RAD)を60℃で使用し、検出器は示唆屈折率検出器RID-10A(島津製作所)を用いた。移動相には0.05%硫酸溶液を用い、流速0.6ml/minで送液した。図12に各形質転換株の発酵培地中の基質濃度、生産物濃度の経時変化を示す。なお、発酵試験は2回以上実施し、その平均値を記載している。
【0120】
図12に示すように、各形質転換株共に、発酵開始初期は主にグルコースが消費され、キシロースはグルコースが枯渇すると共に減少を始めた。また、各発酵において副産物であるキシリトールの蓄積はほとんど見られなかった。キシロースの消費に関して、W600W/pRS436GAP-PiXI-O株(図12(B))およびW600W/pRS436GAP-CpXI-O株(図12(C))では発酵開始72時間目でも10μg/l以上のキシロースが残存していたが、W600W/pRS436GAP-RsXIC1-O株(図12(A))は他の形質転換株とくらべて2倍程度キシロース消費速度が速く、72時間目でほぼ全てのキシロースを消費した。以上の結果から、RsXIC1-Oは既存のキシロースイソメラーゼであるPiXI-OやCpXI-Oと比べて、酵母でのキシロースの資化に対してより効果的であることが明らかとなった。
【0121】
(5)キシロースイソメラーゼの速度論的解析
W600W/pRS436GAP-RsXIC1-O株、W600W/pRS436GAP-PiXI-O株をSD液体培地で24時間培養し、菌体を回収して滅菌水で2回洗浄した後、100mMリン酸緩衝液(pH7.0)で2回洗浄した。洗浄後の菌体ペレットにガラスビーズ(φ=0.3mm:安井器械)および100mMリン酸緩衝液(pH7.0)を加え、マルチビーズショッカー(安井器械)を用いて4℃で2500 rpm、7分間運転して酵母菌体を破砕した。得られた菌体破砕液を4℃、12000rpmで5分間遠心し、上清を菌体粗抽出液として回収した。菌体粗抽出液の全タンパク質濃度をQuick Startプロテインアッセイキット(BIO-RAD)を用いて測定した。
【0122】
つぎに、非特許文献1に記載のキシロースイソメラーゼ活性測定法を参考に、酵母粗抽出液中のキシロースイソメラーゼ活性を測定した。具体的には、 菌体粗抽出液、0.15mM NADH、10mM MgCl2、2U ソルビトールデヒドロゲナーゼ(SDH)、100 mM Tris-HCl(pH7.5)を含む反応液にキシロースを添加して反応を開始し、SDHによるキシルロースからキシリトールへの変換によって起こるNADHの酸化を測定した。反応は30℃で行い、NADHの吸光度変化は分光光度計Ubest-55(日本分光)を用いて波長340 nmで測定した。なお、反応速度パラメータの算出のため、キシロースの終濃度をそれぞれ250 mM、150 mM、100 mM、50 mM、25 mM、5 mMとして反応を行ない、各濃度でのキシロースイソメラーゼ活性を測定した。表6に各酵母株粗抽出液におけるキシロースイソメラーゼの反応速度パラメータを示す。なお反応速度パラメータは、各キシロース濃度におけるキシロースイソメラーゼ活性をもとに、Hanes-Woolfプロット(非特許文献6)を用いて算出した。
【0123】
【表6】
【0124】
表6に示すように、反応速度VmaxではPiXI-Oの値がRsXIC1-Oの値に比べて1.5倍程度高くなったが、Km値では RsXIC1-Oの値はPiXI-Oの値の1/3以下であり、RsXIC1-Oの基質に対する親和性はPiXI−Oに比べて高いことが明らかとなった。なお、非特許文献1において、酵母で発現したPiXIとCpXIのKm値が報告されており、その値はPiXIで49.85±2.82mM、CpXIで66.01±1.00mMであった。このことから、RsXIC1-OのKm値はCpXI-OのKm値と比べても低いことが推察される。
【0125】
酵母S. cerevisiaeにはキシロースに特異的なトランスポーターが無く、キシロースの細胞内への取り込みはヘキソーストランスポーターによる非特異的な取り込みにより行われる。トランスポーターのキシロースに対するKm値(100 mM-190 mM)はグルコースに対するKm値(1−20 mM)と比べて非常に高く(非特許文献7)、酵母細胞内のキシロース濃度は低いことが予想される。このことから。RsXIC1-Oを導入した酵母株のキシロース資化性が他のXIを導入した酵母株よりも高くなる理由の一つとして、RsXIC1-Oのキシロースに対する親和性がより高く、酵母細胞内の低キシロース濃度下において他のXIと比べてより速く反応が進んだことが考えられる。
【配列表フリーテキスト】
【0126】
配列番号15〜44、48〜53:プライマー
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なキシロースイソメラーゼ及び当該キシロースイソメラーゼを用いてキシロースを炭素源として用いて有用物質を生産する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油資源に替わり再生可能なバイオマスを有用物質に変換してエネルギー源や工業原料として用いる技術が検討されるようになってきている。バイオマスを原料として微生物の発酵により生産されるエタノールなどの有用物質は、石油資源の消費を抑え、大気中の二酸化炭素の増加を抑制するという観点から代替原料として期待されている。バイオマスには、各種存在するが、なかでも、食糧とは競合しない原料として、リグノセルロースを主体とする草本類や木本類などの利用が考えられている。
【0003】
リグノセルロースに含まれる主要な糖は、セルロースを構成するグルコースと、ヘミセルロースを構成するキシロースである。リグノセルロースを化学的あるいは酵素的に分解するとこうした単糖を主として含む糖化組成物が得られる。リグノセルロースから有用物質を工業的に製造するためには、こうした糖化組成物中に含まれる糖を効率的に利用し、高収量、高生産性で発酵できる微生物が求められる。
【0004】
サッカロマイセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)等のエタノール発酵能力の高い酵母は、一般に、グルコース、マンノース、ガラクトースを利用することができるが、キシロースを利用できない。したがって、リグノセルロースを原料として高効率に発酵するためには、こうした酵母がキシロースを利用可能となるように改変することが求められている。酵母等がキシロースを利用するためには、キシロースからキシルロースへの異性化酵素であるキシロースイソメラーゼ(XI)を用いることが報告されている(特許文献1、2)。
【0005】
現在までに酵母で十分な活性を発現可能であることが報告されているXIは、嫌気性のカビであるピロマイセス(Piromyces)sp. E2種由来のXI(特許文献1)、嫌気性カビであるシラマイセス・アベレンシス(Cyllamyces aberensi)由来のXI、バクテリアであるバクテロイデス・セタイオタミクロン(Bacteroides thetaiotaomicron)由来のXI(特許文献2)、バクテリアであるクロストリディウム・ファイトファーメンタス由来のXI(非特許文献1)である。一方、これまでに上記以外の多種の生物由来XI遺伝子が酵母に導入されたが、十分な活性を発現することはできなかった(非特許文献1、2、3、4)。キシロースイソメラーゼには共通の保存領域があることが明らかとなっており(非特許文献5)、酵母で活性型で発現しうるXIと活性を発現しないXIは、いずれも上記の保存領域を保持していることから、保存領域をもつことはXIが酵母で活性型で発現することの十分条件とは言えない。さらに、これまでに酵母で活性を発現するために必要な配列的特徴についても全く解明されていない。
【0006】
また、酵母において有効に機能するキシロースイソメラーゼの酵素学的特徴もわずかな検討がされているのみである(非特許文献1、6及び7)。
【0007】
木質成分であるセルロースをエネルギー源としているシロアリなどの木質分解性の昆虫はセルロース分解酵素であるセルラーゼによってセルロースを分解している。こうした昆虫由来のセルラーゼは極めて高いセルロース分解能力を有していることが知られている。シロアリの腸内でセルロースに作用するセルラーゼは、シロアリ自身のものとその腸内に共生する原生生物などの微生物のものと2種類に大別される。下等シロアリの後腸内に共生する原生生物は、セルロース分解の主要な役割を担っているが、この原生生物は難培養性であるため、研究があまり進められていなかった。現在までのところ、シロアリ原生生物のセルラーゼ及び遺伝子が開示されている(特許文献3、4)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2005−514951号公報
【特許文献2】特表2006−525029号公報
【特許文献3】特開2003−7047号公報
【特許文献4】国際公開第WO2008/108116号パンフレット
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Brat D, Boles E, Wiedemann、B., Appl Environ Microbiol. 2009; 75(8):2304-11
【非特許文献2】Ga.rdonyi, M. and Hahn-Hagerdahl, B. (2003) Enzym. Microb. Technol. 32, 252-259.
【非特許文献3】Walfridsson, M.,Bao, X., Anderlund, M., Lilius, G., Bulow, L., Hahn-Hagerdal, B. (1996) Appl Environ Microbiol 62: 4648-51.
【非特許文献4】Ho, N. W. Y., P. Stevis, S. Rosenfeld, J. J. Huang, and G. T. Tsao. (1983) Biotechnol. Bioeng. Symp. 13:245-250.
【非特許文献5】Harhangi, H. R., A. S. Akhmanova, R. Emmens, C. van der Drift, W. T. de Laat, J. P. van Dijken, M. S. Jetten, J. T. Pronk, and H. J. Op den Camp. 2003. Arch Microbiol 180:134-41.
【非特許文献6】Hanes, CS., Biochemical Journal1932; 26 (5): 1406-1421
【非特許文献7】Ozcan, S., Johnston M., Microbiol Mol Biol Rev 1999; 63: 554-569
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、シロアリ原生生物のキシロースイソメラーゼに関しては、全く見出されておらず、知られてもいなかった。また、シロアリ原生生物由来のキシロースイソメラーゼが見出されたとしても、前述の通り、酵母等で活性型で発現するために必要なアミノ酸配列の特徴は解明されておらず、保存領域を持っていても活性が発現するかどうかはわからないことから、酵母等の異種の微生物で発現させたときに本来のXI活性を発揮するかどうかを予測することは極めて困難であった。加えて、シロアリ原生生物は、培養が困難であることから当該生物由来のセルラーゼですら研究があまり進んでおらず、シロアリ原生生物は進化的に酵母と遠い関係にあり酵母への適合性は低いと考えられていた。
【0011】
本明細書の開示は、酵母で有効に機能する新規なキシロースイソメラーゼ及びその利用を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、酵母には適合性が低いと考えられたシロアリの原生生物のタンパク質につきキシロースイソメラーゼを探索し、キシロースイソメラーゼを新たに見出すとともに、当該キシロースイソメラーゼを酵母に導入したところ、酵母細胞での発現に適したキシロースイソメラーゼを見出した。本明細書の開示によれば、以下の手段が提供される。
【0013】
本明細書の開示によれば、以下のいずれかに記載のキシロースイソメラーゼ(XI活性を有するタンパク質)が提供される。
(A)配列番号2、4、6、8、10、12及び14のいずれかで表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(B)配列番号2、4、6、8、10、12及び14のいずれかで表されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有し、XI活性を有するタンパク質
(C)配列番号2、4、6、8、10、12及び14のいずれかで表されるアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、XI活性を有するタンパク質
(D)配列番号1、3、5、7、9、11及び13のいずれかで表される塩基配列からなるDNAと相補的なDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAによってコードされ、XI活性を有するタンパク質
(E)配列番号1、3、5、7、9、11及び13のいずれかで表される塩基配列に対して70%以上の同一性を有する塩基配列からなるDNAによってコードされ、XI活性を有するタンパク質
【0014】
前記(A)〜(E)は、以下のとおりであってもよい。
(A)配列番号2、4、6及び8のいずれかで表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(B)配列番号2、4、6及び8のいずれかで表されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有し、XI活性を有するタンパク質
(C)配列番号2、4、6及び8のいずれかで表されるアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、XI活性を有するタンパク質
(D)配列番号1、3、5及び7のいずれかで表される塩基配列からなるDNAと相補的なDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、XI活性を有するタンパク質
(E)配列番号1、3、5及び7のいずれかで表される塩基配列に対して70%以上の同一性を有する塩基配列からなり、XI活性を有するタンパク質
【0015】
前記(A)〜(E)は、以下のとおりであってもよい。
(A)配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(B)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有し、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質
(C)配列番号2で表されるアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質
(D)配列番号1で表される塩基配列からなるDNAと相補的なDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAによってコードされ、かつ、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質
(E)配列番号1で表される塩基配列に対して70%以上の同一性を有する塩基配列からなるDNAによってコードされ、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質
【0016】
本明細書の開示によれば、以下のいずれかのDNAが提供される。
(a)配列番号1、3、5、7、9、11及び13のいずれかで表される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号1、3、5、7、9、11及び13のいずれかで表される塩基配列からなるDNAと相補的なDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、キシロースイソメラーゼ活性(XI活性)を有するタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号1、3、5、7、9、11及び13のいずれかで表される塩基配列に対して70%以上の同一性を有する塩基配列からなり、XI活性を有するタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号2、4、6、8、10、12及び14のいずれかで表されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA
(e)配列番号2、4、6、8、10、12及び14のいずれかで表されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有し、XI活性を有するタンパク質をコードするDNA
(f)配列番号2、4、6、8、10、12及び14のいずれかで表されるアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、XI活性を有するタンパク質をコードするDNA
【0017】
前記(a)〜(f)は、以下のとおりであってもよい。
(a)配列番号1、3、5及び7のいずれかの塩基配列からなるDNA
(b)配列番号1、3、5及び7のいずれかの塩基配列からなるDNAと相補的なDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号1、3、5及び7のいずれかの塩基配列に対して70%以上の同一性を有する塩基配列からなり、XI活性を有するタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号2、4、6及び8のいずれかで表されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA
(e)配列番号2、4、6及び8のいずれかで表されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有し、XI活性を有するタンパク質をコードするDNA
(f)配列番号2、4、6及び8のいずれかで表されるアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、XI活性を有するタンパク質をコードするDNA
【0018】
前記(a)〜(f)は、以下のとおりであってもよい。
(a)配列番号1の塩基配列からなるDNA
(b)配列番号1の塩基配列からなるDNAと相補的なDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号1の塩基配列に対して70%以上の同一性を有する塩基配列からなり、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA
(e)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有し、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(f)配列番号2で表されるアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
【0019】
本明細書の開示によれば、上記いずれかのDNAを含むDNA構築物で形質転換されてキシロースイソメラーゼを発現する真核細胞も提供される。前記真核細胞は、酵母であることが好ましく、より好ましくは、前記酵母は、Saccharomyces、Kluyveromyces、Candida、Pichia、Schizosaccharomyces、Hancenula、Klocckera、Schwanniomyces、Yarrowia、及びissatchenkiaからなる群から選択されるいずれかに属する。前記真核細胞は、セルラーゼを分泌生産するものであってもよい。前記真核細胞は、エタノール、乳酸、酢酸、1,3−プロパン−ジオール、プロパノール、ブタノール、コハク酸、エチレン、グリセロール、ファルネソール、ゲラニルゲラニオール及びスクアレンからなる群から選択されるいずれかを生産する外因性又は内因性の遺伝子を備えていることが好ましい。
【0020】
本明細書の開示によれば、上記いずれかのDNAを含む、酵母等の真核細胞の発現ベクターが提供される。
【0021】
本明細書の開示によれば、キシロース利用性が付与ないし向上された形質転換真核細胞の作製方法であって、上記いずれかのDNAを真核細胞に導入して形質転換する工程を備える、作製方法が提供される。
【0022】
本明細書の開示によれば、有用物質を生産する方法であって、キシロースの存在下、本明細書に開示される形質転換真核細胞を培養する工程を備える、生産方法が提供される。前記有用物質は、エタノール、乳酸、酢酸、1,3−プロパン−ジオール、プロパノール、ブタノール、コハク酸、エチレン及びグリセロールからなる群から選択されるいずれかとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】キシロース代謝経路の概要を示す図である。
【図2】ヤマトシロアリcDNAライブラリからのキシロースイソメラーゼ遺伝子の取得手順を示す図である。
【図3】pRS436GAPベクターを示す図である。
【図4】取得した遺伝子の酵母導入用ベクターを示す図である。
【図5】ムカシシロアリcDNAライブラリからのキシロースイソメラーゼ遺伝子の取得手順を示す図である。
【図6】取得した遺伝子の酵母導入用ベクターを示す図である。
【図7】公知のXI遺伝子の酵母導入用ベクターを示す図である。
【図8】ペントースリン酸経路酵素遺伝子の酵母導入用ベクターを示す図である。
【図9】酵母抽出液のXI活性測定結果を示す図である。
【図10】キシロースを炭素源とした増殖試験結果を示す図である。
【図11】コドンを最適化したキシロースイソメラーゼ遺伝子(RsXI C1-O、CpXI-O、PiXI-O)を導入した形質転換酵母によるキシロースを炭素源とした増殖試験結果を示す図である。
【図12】コドンを最適化したキシロースイソメラーゼ遺伝子(RsXI-C1-O、PiXI-O、CpXI-O)を導入して形質転換酵母によるグルコース・キシロースを炭素源とした発酵試験結果を示す図である。(A)は、コドン最適化RsXI-C1導入酵母、(B)は、コドン最適化PiXI導入酵母、(C)は、コドン最適化CpXI導入酵母の各発酵試験結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本明細書の開示は、上記(a)〜(f)のいずれかのDNA及びその利用に関する。上記(a)のDNAは、いずれもシロアリの腸内原生生物に由来している。配列番号1、3、5及び7で表される塩基配列は、ヤマトシロアリ(Reticulitermes speratus)の腸内原生生物に由来し、配列番号9、11及び13で表される塩基配列は、ムカシシロアリ(Mastotermes darwiniensis)の腸内原生生物に由来している。これらの塩基配列からなるDNAは、いずれも、キシロースイソメラーゼをコードしている。配列番号1、3、5及び7で表される塩基配列がコードするアミノ酸配列は、特許文献1に開示されるPiromycessp.E2のキシロースイソメラーゼ遺伝子がコードするアミノ酸配列との同一性がそれぞれ51%、50%、52%及び52%であった。また、配列番号9、11及び13で表される塩基配列がコードするアミノ酸配列と特許文献1に開示されるPiromycessp.E2のキシロースイソメラーゼ遺伝子がコードするアミノ酸配列との同一性は、それぞれ75%、74%及び72%であった。
【0025】
すなわち、これらの塩基配列からなるDNA及び当該DNAがコードするアミノ酸配列は、従来のキシロースイソメラーゼ遺伝子配列およびアミノ酸配列とは大きく異なっている。しかしながら、これらのDNAによれば、酵母などの真核細胞に導入することで真核細胞にキシロース資化能力を付与できる。
【0026】
酵母などの真核細胞がキシロースを利用するには、キシロース代謝経路が必要である。キシロース代謝経路としては、図1に示すように、キシロースレダクターゼ(XR)およびキシリトールデヒドロゲナーゼ(XDH)を用いた経路(図1上段)と、キシロースイソメラーゼ(XI)を用いた経路(図1下段)が考えられる。図1に示すように、XI経路は補酵素などを必要とせず、1ステップでキシロースをキシルロースに変換することから、生産物収率などの面で優れていると考えられる。本発明の新規XI遺伝子を導入した酵母において、菌体内抽出物にXI活性が見られたことから、新規XI遺伝子が酵母などの真核細胞で発現し、生じたXIが細胞内で機能していることが確認された。以下、本発明の各種実施形態について説明する。
【0027】
(キシロースイソメラーゼをコードするDNA)
本明細書に開示される配列番号1、3、5、7、9、11及び13のいずれかで表される塩基配列からなるDNAは、いずれも、本発明者らが始めて見出した新規な塩基配列からなり、かつキシロースイソメラーゼをコードするDNAである。
【0028】
本明細書の開示においては、上記特定の塩基配列から選択されるいずれかの塩基配列からなるDNA以外においても、XI活性を有する限りにおいて他の態様のDNAも用いられる。すなわち、上記塩基配列のいずれかと一定の関係を有してXI活性を有するタンパク質をコードするDNAであってもよい。こうした一態様としては、配列番号1、3、5、7、9、11及び13のいずれかで表される塩基配列からなるDNAと相補的なDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、XI活性を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。
【0029】
「XI活性」とは、キシロースをキシルロースに異性化する活性である。XI活性は、この異性化反応の基質であるキシロースの減少量又は生成物であるキシルロースの生成量等として公知の方法で測定することができる。また、「XI活性を有する」とは、XI活性を有してれば足りる。好ましくは、ハイブリダイズ対象である相補的DNAの基礎となる配列番号1等の塩基配列からなるDNAがそれぞれコードする配列番号2等で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と同等程度あるいはそれ以上のXI活性を有している。XI活性が同等あるいはそれ以上であるかどうかは、例えば、配列番号1で表される塩基配列からDNAの相補鎖とハイブリダイズするDNAの場合には、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質を酵母などの真核細胞で発現したときの当該細胞抽出物又は当該タンパク質の有するXI活性の70%以上であることが好ましく、より好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは90%以上であり、もっとも好ましくは100%以上である。
【0030】
XI活性は、好ましくは、こうしたDNAを当該DNAがコードするタンパク質を発現させるように形質転換した酵母などの真核細胞の抽出液などXI含有画分につき測定される。このような測定によるXI活性であれば、真核細胞にキシロース資化活性を付与するのに好ましく用いることのできるXIをコードするDNAを確実に提供できる。また、XI活性の有無は、キシロースのみを炭素源として、こうしたDNAを用いて形質転換した真核細胞を培養して増殖するかどうかによって評価してもよい。
【0031】
ストリンジェントな条件とは、例えば、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、塩基配列の同一性が高い核酸、すなわち配列番号1、3、5、7、9、11及び13のいずれかで表される塩基配列と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましく95%以上の同一性を有する塩基配列からなるDNAの相補鎖がハイブリダイズし、それより相同性が低い核酸の相補鎖がハイブリダイズしない条件が挙げられる。より具体的には、ナトリウム塩濃度が15〜750mM、好ましくは50〜750mM、より好ましくは300〜750mM、温度が25〜70℃、好ましくは50〜70℃、より好ましくは55〜65℃、ホルムアミド濃度が0〜50%、好ましくは20〜50%、より好ましくは35〜45%での条件をいう。さらに、ストリンジェントな条件では、ハイブリダイゼーション後のフィルターの洗浄条件が、通常はナトリウム塩濃度が15〜600mM、好ましくは50〜600mM、より好ましくは300〜600mM、温度が50〜70℃、好ましくは55〜70℃、より好ましくは60〜65℃である。
【0032】
また、さらなる他の一態様として、配列番号1、3、5、7、9、11及び13のいずれかで表される塩基配列に対して70%以上の同一性を有する塩基配列からなり、XI活性を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。すなわち、配列番号1、3、5、7、9、11及び13のいずれかで表される塩基配列に対して70%以上、好ましくは、80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましく95%以上の同一性を有する塩基配列を有し、XI活性を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。
【0033】
本明細書において同一性又は類似性とは、当該技術分野で知られているとおり、配列を比較することにより決定される、2以上のタンパク質あるいは2以上のポリヌクレオチドの間の関係である。当該技術で“同一性”とは、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間のアラインメントによって、あるいは場合によっては、一続きのそのような配列間のアラインメントによって決定されるような、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間の配列不変性の程度を意味する。また、類似性とは、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間のアラインメントによって、あるいは場合によっては、一続きの部分的な配列間のアラインメントによって決定されるような、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間の相関性の程度を意味する。より具体的には、配列の同一性と保存性(配列中の特定アミノ酸又は配列における物理化学特性を維持する置換)によって決定される。なお、類似性は、後述するBLASTの配列相同性検索結果においてSimilarity と称される。同一性及び類似性を決定する方法は、対比する配列間で最も長くアラインメントするように設計される方法であることが好ましい。同一性及び類似性を決定するための方法は、公衆に利用可能なプログラムとして提供されている。例えば、AltschulらによるBLAST (Basic Local Alignment Search Tool) プログラム(たとえば、Altschul SF, Gish W, Miller W, Myers EW, Lipman DJ., J. Mol. Biol., 215: p403-410 (1990), Altschyl SF, Madden TL, Schaffer AA, Zhang J, Miller W, Lipman DJ., Nucleic Acids Res. 25: p3389-3402 (1997))を利用し決定することができる。BLASTのようなソフトウェアを用いる場合の条件は、特に限定するものではないが、デフォルト値を用いるのが好ましい。
【0034】
また、他の一態様として、配列番号2、4、6、8、10、12及び14で表されるアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、X1活性を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。配列番号2等のいずれかで表されるアミノ酸配列に対するアミノ酸の変異は、すなわち、欠失、置換若しくは付加は、いずれか1種類であってもよいし、2種類以上が組み合わされていてもよい。また、これらの変異の総数は、特に限定されないが、好ましくは、30個以下、より好ましくは、1個以上10個以下程度である。さらに好ましくは、1個以上5個以下である。なかでも、配列番号2で表されるアミノ酸配列又は配列番号10で表されるアミノ酸配列に対して上記のような変異を有し、XI活性を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。
【0035】
アミノ酸置換の例としては、保存的置換が好ましく、具体的には以下のカッコ内のグループ内での置換が挙げられる。例えば、(グリシン、アラニン)(バリン、イソロイシン、ロイシン)(アスパラギン酸、グルタミン酸)(アスパラギン、グルタミン)(セリン、トレオニン)(リジン、アルギニン)(フェニルアラニン、チロシン)である。
【0036】
他の一態様としては、配列番号2、4、6、8、10、12及び14のいずれかで表されるアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつXI活性を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。同一性は好ましくは80%以上であり、より好ましくは85%以上であり、さらに好ましくは、90%以上であり、もっとも好ましくは95%以上である。なかでも、配列番号2で表されるアミノ酸配列に対して70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、一層好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有しかつXI活性を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。なお、配列番号4で表されるアミノ酸配列及び配列番号6で表されるアミノ酸配列は、それぞれ、配列番号2で表されるアミノ酸配列との同一性が87%及び91%である。また、別に、配列番号14で表されるアミノ酸配列に対して70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、一層好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有しかつXI活性を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。なお、配列番号10で表されるアミノ酸配列及び配列番号12で表されるアミノ酸配列はそれぞれ配列番号14で表されるアミノ酸配列との同一性はそれぞれ85%及び86%である。
【0037】
なお、配列番号2等で表されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と上記のように一定の関連性のあるアミノ酸配列をコードする塩基配列は、遺伝暗号の縮重に従い、タンパク質のアミノ酸配列を変えることなく所定のアミノ酸配列をコードする塩基配列の少なくとも1つの塩基を他の種類の塩基に置換することができる。従って、本明細書の開示のDNAは、遺伝暗号の縮重に基づく置換によって変換された塩基配列をコードするDNAも包含している。
【0038】
上記各種態様のDNAは、例えば、配列番号1等の配列に基づいて設計したプライマーを用いて、シロアリ原生生物等から抽出したDNA、各種cDNAライブラリ又はゲノムDNAライブラリ等由来の核酸を鋳型としたPCR増幅を行うことにより、核酸断片として得ることができる。また、上記ライブラリ等由来の核酸を鋳型とし、XI遺伝子の一部であるDNA断片をプローブとしてハイブリダイゼーションを行うことにより、核酸断片として得ることができる。あるいはXI遺伝子は、化学合成法等の当技術分野で公知の各種の核酸配列合成法によって、核酸断片として合成してもよい。
【0039】
また、上記各種態様のDNAは、例えば、配列番号2等で表されるアミノ酸の配列をコードするDNA(たとえば、配列番号1で表される塩基配列からなる)を、慣用の突然変異誘発法、部位特異的変異法、エラープローンPCRを用いた分子進化的手法等によって改変することによって取得することができる。このような手法としては、Kunkel法又は Gapped duplex法等の公知手法又はこれに準ずる方法が挙げられ、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant-K(TAKARA社製)やMutant-G(TAKARA社製))などを用いて、あるいは、TAKARA社のLA PCR in vitro Mutagenesis シリーズキットを用いて変異が導入される。
【0040】
そのほか、当業者であれば、Molecular Cloning(Sambrook, J. et al., Molecular Cloning :a Laboratory Manual 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 10 Skyline Drive Plainview, NY (1989))等を参照することにより、例えば、配列番号1又は2等の公知配列に基づいて、各種態様のDNAを取得することができる。
【0041】
(キシロースイソメラーゼ)
本明細書の開示によれば、新規なキシロースイソメラーゼが提供される。本明細書に開示されるキシロースイソメラーゼは、以下のいずれかの態様を採ることができる。
(A)配列番号2、4、6、8、10、12及び14のいずれかで表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(B)配列番号2、4、6、8、10、12及び14のいずれかで表されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有し、XI活性を有するタンパク質
(C)配列番号2、4、6、8、10、12及び14のいずれかで表されるアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、XI活性を有するタンパク質
(D)配列番号1、3、5、7、9、11及び13のいずれかで表される塩基配列からなるDNAと相補的なDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAによってコードされ、XI活性を有するタンパク質
(E)配列番号1、3、5、7、9、11及び13のいずれかで表される塩基配列に対して70%以上の同一性を有する塩基配列からなるDNAによってコードされ、XI活性を有するタンパク質
【0042】
なかでも、配列番号2で表されるアミノ酸配列に対して70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、一層好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有しかつXI活性を有するタンパク質が挙げられる。また、別に、配列番号14で表されるアミノ酸配列に対して70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、一層好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有しかつXI活性を有するタンパク質が挙げられる。
また、配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有し、XI活性を有するタンパク質が挙げられる。また別に、配列番号14で表されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有し、XI活性を有するタンパク質が挙げられる。
【0043】
上記(B)におけるアミノ酸の置換、欠失または付加は、異性化酵素としての触媒ドメイン、および基質結合ドメインその他の酵素活性に重要な部分以外の領域に導入されることが好ましい。そのようなドメインは、既知のキシロースイソメラーゼ等の異性化酵素との相同性解析から当業者が容易に決定することができる。
【0044】
キシロースイソメラーゼのKm値は、本発明者らによれば、30mM以下程度であると推定される。後述する実施例によれば、RsXIC1は13mM程度であり、公知のPiXIの40mMと対比すると、相当程度小さく、こうしたKm値が、酵母の細胞内キシロース濃度に適合し、キシロース資化性を高めているものと考えられる。Km値は好ましくは30mM以下であり、より好ましくは25mM以下であり、さらに好ましくは20mM以下であり、一層好ましくは15mM以下である。なお、Km値は、公知の方法で測定し、非特許文献6に開示の方法など公知の計算方法で算出することができる。
【0045】
アミノ酸の置換、欠失または付加は、常用される技術、例えば、既に説明したように、部位特異的突然変異誘発法等により、当該アミノ酸配列をコードする塩基配列を改変することにより導入することができる。
【0046】
本明細書に開示されるキシロースイソメラーゼは、当該キシロースイソメラーゼをコードするDNAを含むDNA構築物によって真核細胞等の適当な宿主を形質転換し、形質転換宿主細胞を、当業者に公知の通常の方法に従って培養し、当該培養細胞または培地から本明細書に開示されるキシロースイソメラーゼを回収することによって得られる。培養細胞から、当該細胞の破砕後、遠心分離等の分離操作により可溶性画分を得、この画分からポリペプチドを回収することができる。本明細書に開示されるキシロースイソメラーゼは、慣用の精製技術を組み合わせて単離することができる。そのような技術には、硫安分画、有機溶媒処理、遠心分離、限外濾過、各種クロマトグラフィー(例えば、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー等)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、電気泳動等が包含される。
【0047】
(形質転換体〕
本明細書に開示される形質転換体は、上記DNAを含むDNA構築物で形質転換された真核細胞である。
【0048】
(宿主)
本明細書に開示される形質転換体の宿主は、真核細胞であればよく、特に限定されない。物質生産等を考慮すると、麹菌などのカビや酵母が挙げられる。麹菌としては、アスペルギルス・アキュリータス(Aspergillus aculeatus)、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus orizae)等のアスペルギルス属が挙げられる。また、酵母としては、公知の各種酵母を利用できるが、サッカロマイセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)等のサッカロマイセス属の酵母、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等のシゾサッカロマイセス属の酵母、キャンディダ・シェハーテ(Candida shehatae)等のキャンディダ属の酵母、ピキア・スティピティス(Pichia stipitis)等のピキア属の酵母、ハンセヌラ(Hansenula)属の酵母、クロッケラ属(Klocckera)の酵母、スワニオマイセス属(Schwanniomyces)の酵母及びヤロイア属(Yarrowia)の酵母、トリコスポロン(Trichosporon)属の酵母、ブレタノマイセス(Brettanomyces)属の酵母、パチソレン(Pachysolen)属の酵母、ヤマダジマ(Yamadazyma)属の酵母、クルイベロマイセス・マーキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)、クルイベロマイセス・ラクティス(Kluveromyces lactis)等のクルイベロマイセス属の酵母、イサトケンキア・オリエンタリス(Issatchenkia orientalis)等のイサトケンキア属の酵母が挙げられる。なかでも、工業的利用性等の観点からサッカロマイセス属酵母が好ましい。なかでも、サッカロマイセス・セレビジエが好ましい。
【0049】
宿主に保持される本明細書に開示されるDNAは、発現可能に保持されている。すなわち、適当なプロモーターの制御下に連結され、さらに、ターミネーター、エンハンサー、複製開始点(ori)、マーカー等も併せて備えられていてもよい。プロモーターは、誘導的であっても構成的であってもよい。例えば、酵母における構成的プロモーターとしては、3−ホスホグリセレートキナーゼ(PGK)プロモーター、グリセルアルデヒド−3−ホスフェートデヒドロゲナーゼ(GAPDH)プロモーター、アルコールデヒドロゲナーゼ1(ADH1)プロモーター、ヒスチジン栄養性機能遺伝子(HIS3)プロモーター、チトクロームbc1コンプレックス(CYC1)プロモーター及び高浸透圧応答7遺伝子(HOR7)プロモーター及びこれらの改変体が挙げられる。
【0050】
本明細書に開示される形質転換体は、DNA構築物によって形質転換されて、キシロースイソメラーゼを発現していることが好ましい。すなわち、DNA構築物による形質転換によりキシロースをキシルロースに変換する能力が付与されていることが好ましい。XI活性が付与されていることにより、キシロースを炭素源として増殖でき、発酵することができる。
【0051】
本明細書に開示されるDNAは、宿主細胞の染色体外において保持されていてもよいが、好ましくは染色体上に保持されている。また、高いキシロース資化能力を発揮するために、例えば、複数コピー保持されていることが好ましい。
【0052】
本明細書に開示される形質転換体は、セルラーゼやヘミセルラーゼを細胞表層あるいは細胞外に分泌発現するものであってもよい。例えば、エンドグルカナーゼ、セロビオヒドロラーゼ、β−グルコシダーゼなどの各種セルラーゼのほか、ヘミセルラーゼ等のその他のバイオマス分解酵素も挙げられる。こうしたタンパク質を発現させることで、リグノセルロースに由来するリグニン以外の糖類を効果的に利用できるようになる。また、本明細書に開示される形質転換体は、このほか、必要に応じて外来遺伝子の導入、内在性遺伝子の破壊などの遺伝子工学的な改変がなされたものであってもよい。
【0053】
本明細書に開示される形質転換体は、アラビノースを代謝するための酵素群に属する1種又は2種以上の酵素を発現するものであっても良い。例えば、バクテリアの有するアラビノース代謝経路の酵素群(国際公開パンフレット第WO2006096130号パンフレット、同第WO2009011591パンフレット)、L-アラビノースイソメラーゼ(EC5. 3.1.4)、L-リブロキナーゼ(EC2.7.1.16)およびL-リブロース−5−リン酸−4−エピメラーゼ(EC5.1.3.4)やカビの有するアラビノース代謝経路の酵素群(特表2004‐532008号公報)、アルドースレダクターゼ(EC1.1.1.21)、L−アラビニトール−4−デヒドロゲナーゼ(EC5.1.3.4)、L−キシルロースレダクターゼ(EC5.1.3.4)、およびD−キシルロースレダクターゼ(EC1.1.1.9)が挙げられる。こうしたタンパク質を発現させることで、アラビノースを利用できる形質転換体が提供される。
【0054】
本明細書に開示される形質転換体は、アルコールデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子、フォスフォフルクトキナーゼをコードする遺伝子、グルコキナーゼをコードする遺伝子及びヘキソキナーゼをコードする遺伝子からなる群から選択される1種又は2種以上の遺伝子の発現が増強されていることが好ましい。特に酵母においてこうした遺伝子の発現が増強されていることが好ましい。前記アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子はアルコールデヒドロゲナーゼ1遺伝子であってもよく、前記フォスフォフルクトキナーゼ遺伝子はフォスフォフルクトキナーゼ2遺伝子であってもよく、前記グルコキナーゼ遺伝子は、グルコキナーゼ1遺伝子であってもよく、さらに、前記ヘキソキナーゼ遺伝子は、ヘキソキナーゼ2遺伝子であってもよい。これらの酵素は、いずれも解糖系における酵素である。これらの酵素をコードする遺伝子の発現を増強することにより、これらの酵素の生産量及び/又は活性が向上し、結果として、これらの酵素活性の高い酵母等の真核細胞を得ることができる。これらの遺伝子の発現の増強により、キシロースなどの非発酵性糖又はこれらの混合物である糖原料の利用能力が向上され発酵能力の高い酵母等の真核細胞の形質転換体が提供される。
【0055】
こうした酵素をコードする遺伝子は、酵母等の真核細胞において内因性であってもよいし、外因性であってもよい。また、公知のこれらの酵素をコードする遺伝子を適宜利用できる。遺伝子としては、解糖系を増強できるものである限り、由来を問わないで利用できる。すなわち、遺伝子は、宿主となる酵母以外の他の種の酵母、他の属の酵母に由来するものであってもよいし、動物、植物、真菌(カビ等)、細菌などいずれ酵母以外の生物に由来するものであってもよい。こうした遺伝子に関する情報は、当業者であれば、NCBI(National Center for Biotechnology Information;http://www.ncbi.nlm.nih.gov)等のHPにアクセスすることにより適宜入手できる。例えば、S. cerevisiaeのHXK1遺伝子(アクセッション番号:NC_001138又はD50617)、GLK1遺伝子(アクセッション番号:NC_001135又はM24077)、PFK2遺伝子(アクセッション番号:NC_001145又はZ48755)及びADH1遺伝子(アクセッション番号:NC_001147又はZ74828)の塩基配列及びアミノ酸配列は、NCBIやS. cerevisiaeゲノムデータベース(SGD: http://www.yeastgenome.org/)より取得することができる。なお、遺伝子としては、ゲノムDNAのほか、cDNA等であってもよい。
【0056】
なお、本発明で用いるこれらの遺伝子は、各酵素活性を有する限りにおいて、データベース等において開示される配列情報と一定の関係を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。こうした一態様としては、開示されたアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、本発明で増強しようとする酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。開示されるアミノ酸配列に対するアミノ酸の変異は、すなわち、欠失、置換若しくは付加は、いずれか1種類であってもよいし、2種類以上が組み合わされていてもよい。また、これらの変異の総数は、特に限定されないが、好ましくは、30個以下程度であり、より好ましくは1個以上10個以下程度である。さらに好ましくは、1個以上5個以下である。アミノ酸置換の例としては、保存的置換が好ましい。
【0057】
他の一態様としては、本発明で用いる遺伝子は、開示されるアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ増強しようとする酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。同一性は好ましくは80%以上であり、より好ましくは85%以上であり、さらに好ましくは、90%以上であり、もっとも好ましくは95%以上である。
【0058】
また、酵母にキシロース資化性を付与するにあたっては、キシルロースをペントースリン酸経路(PPP)の非酸化過程で代謝する経路を構成する酵素群(Xylu−PPP資化酵素群)から選択される酵素をコードする遺伝子(Xylu−PPP遺伝子)の発現が増強されていることが好ましい。Xylu−PPP資化酵素群は、キシルロースからペントースリン酸経路の最終化合物であるグリセルアルデヒド−3−リン酸とフルクトース−6−リン酸に至る経路に関与する一連の酵素を含んでいる。かかる酵素群に含まれるのは、キシルロキナーゼ、リブロース5−リン酸エピメラーゼ、リボース5−リン酸イソメラーゼ、トランスアルドラーゼ及びトランスケトラーゼが挙げられる。Xylu−PPP遺伝子としては、これらをコードする遺伝子であればよく、こうした遺伝子を1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。より好ましくは3種以上であり、さらに好ましくは4種類であり、一層好ましくは全種(5種類)である。
【0059】
Xylu−PPP遺伝子のうち、キシルロキナーゼ(XK)遺伝子は、キシルロースを資化する細菌や酵母など多くの微生物が保持している。XK遺伝子は、特に由来生物を限定せずに用いることができる。また、XK遺伝子に関する情報は、NCBIのHP等の検索により適宜入手できる。好ましくは、酵母、乳酸菌、大腸菌、植物などに由来するXK遺伝子が挙げられる。XK遺伝子としては、例えば、S. cerevisiae S288C 株由来のXK遺伝子であるXKS1(GenBank:Z72979)(CDSのコード領域の塩基配列及びアミノ酸配列)が挙げられる。
【0060】
トランスアルドラーゼ(TAL)遺伝子、トランスケトラーゼ(TAK)遺伝子、リブロース5リン酸エピメラーゼ(RPE)遺伝子、リボース5リン酸ケトイソメラーゼ(RKI)遺伝子は、ペントースリン酸経路を備える多くの生物であれば保持している。例えば、S.cerevisiaeなど汎用酵母もこれらの遺伝子を保持している。これらの遺伝子は、特に由来生物を限定せずに用いることができ、これらの遺伝子に関する情報は、NCBI等のHPにアクセスすることにより適宜入手できる。好ましくは、真核細胞又は酵母等、宿主真核細胞と同一の属、さらに好ましくは宿主真核細胞と同一種に由来の各遺伝子が挙げられる。TAL遺伝子としては、TAL1遺伝子、TKL遺伝子としては、TKL1遺伝子、TKL2遺伝子、RPE遺伝子としては、RPE1遺伝子、RKI遺伝子としてはRKI1遺伝子を好ましく用いることができる。例えば、これら遺伝子としては、S. cerevisiae S288 株由来のTAL1遺伝子であるTAL1遺伝子(GenBank:U19102)、(CDSのコード領域の塩基配列(相補鎖)及びアミノ酸配列)、S. cerevisiae S288 株由来のTKL1遺伝子(GenBank:X73224)(CDSのコード領域の塩基配列及びアミノ酸配列)、S. cerevisiae S288 株由来のRPE1遺伝子(Genbank:X83571)(CDSのコード領域の塩基配列及びアミノ酸配列:)、S. cerevisiae S288 株由来のRKI1遺伝子(GenBank:Z75003)(CDSのコード領域の塩基配列(相補鎖)及びアミノ酸配列)が挙げられる。
【0061】
本明細書に開示される形質転換体は、後段で説明するように発酵により所望の有用物質を生産可能であってもよい。有用物質を生産可能な真核細胞は、有用物質生産に関する内因性遺伝子及び/又は外因性遺伝子を備えることができる。また、所定の内在性遺伝子が破壊されていてもよい。酵母は通常嫌気性発酵によりエタノールを生産するが、適宜遺伝子工学的な改変等により他の有用物質を生産可能に形質転換された宿主であってもよい。有用物質としては、エタノールのほか、乳酸、酢酸、1,3−プロパン−ジオール、プロパノール、ブタノール、コハク酸、エチレン及びグリセロールが挙げられる。これらのうち1種又は2種以上を有用物質として生産可能であるこことが好ましい。本明細書に開示される形質転換体の宿主は、例えば、乳酸などの有機酸を生産する酵母(特開2003−259878号公報、特開2006−006271号公報、特開2006−20602号公報、特開2006−75133号公報、特開2006−2966377号公報、特開2007−89466号公報に記載)等における遺伝的改変等を備えることができる。
【0062】
(形質転換体の作製)
本明細書に開示される形質転換体を得るには、本明細書に開示されるDNAを発現可能に保持する組換えベクターなどのDNA構築物を用いて宿主細胞を形質転換する。DNA構築物は、典型的には、本明細書に開示されるDNAによってコードされるキシロースイソメラーゼの発現を目的とした組換えベクターとして各種形態を採ることができる。
【0063】
DNA構築物は、例えば、これら遺伝子など所望の遺伝子組み換えのためのDNA断片を適当な発現ベクター中の上記したような適切なプロモーターの下流に連結することにより製造することができる。プロモーターとしては、既に説明したほか、GALプロモーター等の誘導的プロモーターが挙げられる。このほか、組換えベクターは、ターミネーター、エンハンサー、複製開始点(ori)、マーカー等を備えることができ、これらの要素が必要に応じ適宜選択される。また、組換えベクターが、遺伝子置換、遺伝子破壊等、染色体への所望のDNA断片の組み込みを意図する場合は、染色体上の所定の領域との相同領域を有している。相同領域は、所望のDNA断片を組み込む領域に応じて適宜選択される。本明細書に開示されるDNA構築物の材料としては、商業的に入手可能な酵母発現ベクターから適宜選択して用いることができる。
【0064】
なお、こうした組換えベクターの作製、組換え体宿主としての酵母等の取り扱いに必要な一般的な操作は、当業者間で通常行われているものであり、たとえば、T.Maniatis,J. Sambrookらの実験書(Molecular Cloning, A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory、1982,1989、2001)等を適宜参照することにより当業者であれば実施することができる。
【0065】
DNA構築物の宿主への導入方法としては、従来公知の各種方法、例えば、リン酸カルシウム法、トランスフォーメーション法や、トランスフェクション法、接合法、プロトプラスト法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、酢酸リチウム法または他の方法が挙げられる。このような手法は、上記した実験書等に記載される。ベクターを導入した酵母につき、マーカー遺伝子を用いた選抜及び活性発現による選抜により本明細書に開示される形質転換体を得ることができる。
【0066】
(有用物質を生産する方法)
本明細書に開示される有用物質の生産方法は、キシロースの存在下、本明細書に開示される形質転換体を培養する工程を備えることができる。本明細書に開示される生産方法によると、本明細書に開示される形質転換体はキシロース資化能力を有しているため、炭素源としてキシロースを含んでいれば、それを有効利用して、有用物質に変換することができる。したがって、キシロースを含有するリグノセルロースの糖化物を培地に含む場合であっても、こうしたバイオマス炭素源を有効利用して、有用物質に変換できる。リグノセルロースの透過物には、キシロースほか、グルコースを含んでいてもよく、さらにヘミセルロースの分解物を含んでいてもよい。
【0067】
キシロースは、アラビノキシラン、グルクロノキシランなどのキシランに含まれる。これらのポリマーは、天然には、ヘミセルロースの一成分を構成しており、リグノセルロースなどのバイオマス等に存在している。キシランを、エンドキシラナーゼ、キシロシダーゼ等により分解すると、キシロースを得ることができる。
【0068】
有用物質としては特に限定しないが、酵母が通常グルコースを利用して生産可能なものであればよい。有用物質は、酵母におけるグルコースからの代謝系の1種又は2種以上の酵素を遺伝子組換えにより置換、追加等して本来の代謝物でない化合物であってもよい。具体的には、エタノールなどの低級アルコール、乳酸、酢酸などの有機酸の他、1,3−プロパン−ジオール、プロパノール、ブタノール、コハク酸、エチレン及びグリセロールのほか、イソプレノド合成経路の追加によるテルペノイド系のファルネソール、ゲラニルゲラニオール、スクアレン、さらには、ファインケミカル(コエンザイムQ10、ビタミン及びその原料等)、解糖系の改変によるグリセリン、プラスチック・化成品原料など、バイオリファイナリー技術が対象とする材料が挙げられる。酵母は、アルコール発酵能が高いため、本形質転換体は、キシロース含有炭素源を培地に用いてエタノールを効率的に生産することができる。また、アルコール発酵能力が高い酵母は、その解糖系を改変して他の有機酸等の有用物質を生産する場合にも、当該有用物質の生産能力も高いと考えられる。
【0069】
培養工程では、炭素源として、キシロースを含有する培地を用いることができる。培地は、さらに、グルコースを含むことができ、好ましくは、炭素源は、リグノセルロースなどのバイオマスに由来している。なお、酵母が、各種セルラーゼを発現するものであってセルロース資化能力を有する場合には、培地中にセルロース又はその部分分解物を含んでいてもよい。
【0070】
培養工程では、形質転換体の宿主に一般的に適用される培養条件を適宜選択して用いることができる。典型的には、発酵のための培養は、静置培養、振とう培養または通気攪拌培養等を用いることができる。通気条件は、嫌気条件下、微好気条件下及び好気条件等、適宜選択することができる。培養温度も、特に限定しないが、25℃〜55℃等の範囲とすることができる。また、培養時間も必要に応じて設定されるが、数時間〜150時間程度とすることができる。また、pHの調整は、無機あるいは有機酸、アルカリ溶液等を用いて行うことができる。培養中は、必要に応じてアンピシリン、テトラサイクリンなどの抗生物質を培地に添加することができる。
【0071】
こうした培養工程の実施により、用いた本発明の形質転換体が有している有用物質生産能力に応じて有用物質が生産される。例えば、本発明の形質転換体がエタノール生産能力を有している場合には、エタノールであり、乳酸を生産可能に改変されている場合には、乳酸等となる。発酵終了後、培養液から有用物質含有画分を回収する工程、さらにこれを精製又は濃縮する工程を実施することもできる。回収工程や精製等の工程は有用物質の種類等に応じて適宜選択される。
【0072】
そのほか、形質転換体の発酵には、酵母に一般的に適用される培養条件を適宜選択して用いることができる。典型的には、発酵のための培養は、静置培養、振とう培養または通気攪拌培養等を用いることができる。通気条件は、嫌気条件下、微好気条件下及び好気条件等、適宜選択することができる。培養温度も、特に限定しないが、25℃〜55℃等の範囲とすることができる。また、培養時間も必要に応じて設定されるが、数時間〜150時間程度とすることができる。また、pHの調整は、無機あるいは有機酸、アルカリ溶液等を用いて行うことができる。培養中は、必要に応じてアンピシリン、テトラサイクリンなどの抗生物質を培地に添加することができる。
【0073】
発酵終了後、培養液から有用物質含有画分を回収する工程、さらにこれを精製又は濃縮する工程を実施することもできる。回収工程や精製等の工程は有用物質の種類等に応じて適宜選択される。
【0074】
以上の実施形態で説明したことから、本明細書の開示によれば、以下の手段も提供される。
(1)配列番号14で表されるアミノ酸配列に対して70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、一層好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有しかつXI活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(2)配列番号14で表されるアミノ酸配列に対して70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、一層好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有しかつXI活性を有するタンパク質。
(3)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有し、XI活性を有するタンパク質。
(4)配列番号14で表されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有し、XI活性を有するタンパク質。
(5)配列番号45で表される塩基配列を有するDNA。
(6)配列番号46で表される塩基配列を有するDNA。
(7)配列番号47で表される塩基配列を有するDNA。
【実施例】
【0075】
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下に述べる遺伝子組換え操作はMolecular Cloning: A Laboratory Manual (T. Maniatis, et al., Cold Spring Harbor Laboratory) に従い行った。
【実施例1】
【0076】
(ヤマトシロアリ(Reticulitermes speratus)腸内原生生物cDNAライブラリからの遺伝子取得)
ヤマトシロアリ腸内原生生物のメタcDNAライブラリからキシロースイソメラーゼ様遺伝子の取得を行なった。実験の流れを図2に示す。以下、図2に示す手順i)〜vi)に沿って説明する。
【0077】
i) 特願2007‐053122に記載のヤマトシロアリ腸内原生生物のメタcDNAライブラリを鋳型として、プライマーLib-FおよびLib-Rを用いてライブラリベクターに挿入されたcDNA全長をPCRにより増幅して増幅cDNAライブラリを作製した。なお、PCRはPrimeSTAR HS DNA Polymerase(タカラバイオ)を使用し、[98℃10秒、55℃15秒、72℃2分]×30サイクルの条件で反応を行なった。使用したプライマーを以下に示す。
Lib-F:5'-taaacacacataaacaaacaaacccctcgagttaattaaattaatccccc-3'(配列番号15)
Lib-R:5'-ttactcctcgagggccacataggccgagctctttttttttttttttt-3'(配列番号16)
【0078】
ii) 得られたPCR産物を鋳型に、キシロースイソメラーゼの保存領域を増幅する縮重プライマーmXI-F1およびmXI-R1を用いてPCRを行なった。なお、以降のPCRはExTaq HS DNA Polymerase(タカラバイオ)を使用し、[98℃10秒、55℃30秒、72℃1分]×30サイクルの条件で反応を行なった。使用したプライマーの配列を以下に示す。
mXI-F1:5'-tggggnggnmgngarggntay-3'(配列番号17)
mXI-R1:5'-nggraaytgrtcngtrtccca-3'(配列番号18)
なお、縮重プライマーにおいては、n = a or t or g or c、m = a or c、r = a or g、y = c or tを示す。得られた0.4kbpのDNA断片をTOPO-TA Cloning kit (Invitrogen)を用いてpCR2.1-TOPOベクターにクローニングした。得られた0.4kbpのDNA配列を含むプラスミドを鋳型とし、プライマーM13-FおよびM13-Rを用いてベクターに挿入されたDNA断片の配列を解析した。使用したプライマーの配列を以下に示す。
M13-F:5'-gtaaaacgacggccagt-3'(配列番号19)
M13-R:5'-caggaaacagctatgaccat-3'(配列番号20)
【0079】
解析の結果、キシロースイソメラーゼの保存領域と相同性の高い新規な配列が複数得られた。さらに、明らかとなった配列情報を元にプライマーを4種類作製した。作製したプライマーの配列を以下に示す。
C1-R:5'-tcgcttcaatattcagtttgaaatc-3'(配列番号21)
C2-F:5'-atcatgcaactttggctggtcatac-3'(配列番号22)
D1-R:5'-tcgcttcaatattcagtttaaaatc-3'(配列番号23)
F-R:5'-accaatactccgaccataagtaacagctagtttc-3'(配列番号24)
【0080】
iii) ii)に記載のプライマーC1-R、D1-R、F-Rと、i)に記載のプライマーLib-Fとの各プライマーセットおよびii)に記載のプライマーC2-Fとi)に記載のプライマーLib-Rとのプライマーセットを用いて、i)に記載の増幅cDNAライブラリを鋳型にPCRを行い、5'フランキング領域および3'フランキング領域の増幅を行なった。得られた5'フランキング領域に対応する約0.9kbpのDNA断片(C1-R、D1-R、F-R)および3'フランキング領域に対応する約0.6kbpのDNA断片(C2-F)をTOPO-TA Cloning kitを用いてpCR2.1-TOPOベクターにクローニングし、プライマーM13-FおよびM13-Rを用いてベクターに挿入されたDNA断片の配列を解析した。得られた5'フランキング領域および3'フランキング領域の配列情報を元に、5'側の開始コドンを含むプライマーおよび3'側の終止コドンを含むプライマーを作製した。以下に作製したプライマーの配列を記す。
C1-F:5'-ataaacaaacaaaccgcggaaaatgagtcagatattcaaagatattcctgtgatcaaatatgaaggtcctgc-3'(配列番号25)
C2-R:5'-tgatgcggccctcgagctactgaaacaaaatctggttaaatatactctcaagaaactcttgacggc-3'(配列番号26)
D1-F:5'-ataaacaaacaaaccgcggaaaatgagtcaggaaatattcaaaaacattccccaaatcaaatatgagggtcc-3'(
配列番号27)
F-F:5'-actcttgctggccacacatttc-3'(配列番号28)
【0081】
iv) iii)に記載のプライマーC1-F、D1-F、F-Fと、i)に記載のプライマーLib-Rとの各プライマーセットおよびiii)に記載のプライマーC2-Rとi)に記載のプライマーLib-Fとのプライマーセットを用いて、i)に記載の増幅cDNAライブラリを鋳型にPCRを行い、5'フランキング領域および3'フランキング領域の増幅を行なった。得られた約1.4kbpのDNA断片をTOPO-TA Cloning kitを用いてpCR2.1-TOPOベクターにクローニングし、プライマーM13-FおよびM13-Rを用いてベクターに挿入されたDNA断片の配列を解析した。以上により得られた5'および3'フランキング領域の配列を元に、開始コドンから終止コドンまでの全長配列取得用のプライマーを作製した。配列を以下に示す。
C1-IF-F:5'-ataaacaaacaaaccgcggaaaatgagtcagatattcaaagatattcctgtg-3'(配列番号29)
C1-IF-R:5'-tgatgcggccctcgagctactgaaacagaatctggtttataatgctttc-3'(配列番号30)
C2-IF-F:5'-ataaacaaacaaaccgcggaaaatgagtgccatatttccaagtgttcccgag-3'(配列番号31)
C2-IF-R:5'-tgatgcggccctcgagctactgaaacaaaatctggttaaatatactctc-3'(配列番号32)
D1-IF-F:5'-ataaacaaacaaaccgcggaaaatgagtcaggaaatattcaaaaacattccc-3'(配列番号33)
D1-IF-R:5'-tgatgcggccctcgagtcactgaaacagtacctggttcacaatactttc-3'(配列番号34)
F-IF-F:5'-ataaacaaacaaaccgcggaaaatgtccaccgaaatattcccaggaatcaagcaaattc-3'(配列番号35)
F-IF-R:5'-tgatgcggccctcgagttactgaaacagaatttgattaaacacactttcgagatactcc-3'(配列番号36)
【0082】
v) iv)に記載の各プライマーセットを用いて、i)に記載の増幅cDNAライブラリを鋳型にPCRを行なった。なお、PCRはPrimeSTAR HS DNA Polymerase(タカラバイオ)を使用し、[98℃10秒、55℃15秒、72℃2分]×30サイクルの条件で反応を行なった。得られた1.4kbpのDNA断片4種類をRsXI-C1、RsXI-C2、RsXI-D1およびRsXI-Fと命名し、これらを、In-Fusion AdvantageTM PCR Cloning kit(タカラバイオ)を用いて、制限酵素SacIIおよびXhoIで消化したpRS436GAPべクター(DDBJ accession : AB304862)(図3)に挿入した。プライマーTDH3-180FおよびCYC1t−100Rを用いて、pRS436GAPに挿入されたDNA断片の配列を解析した。使用したプライマーの配列を以下に示す。
TDH3-180F:5'-ccagttccctgaaattattccc-3'(配列番号37)
CYC1t−100R:5'-cctagacttcaggttgtctaac-3'(配列番号38)
【0083】
解析の結果明らかとなった4種類の遺伝子RsXI-C1、RsXI-C2、RsXI-D1およびRsXI-Fの塩基配列を配列番号1、3、5及び7に示し、それらのアミノ酸配列を、配列番号2、4、6及び8にそれぞれ示す。またこれらの配列以外にも、上記に記載の手法と同様の方法を用いてさらに4種類の遺伝子、RsXI-A、RsXI-B、RsXI-D2、RsXI-Eを取得した。
【0084】
これら計8種類の遺伝子配列から変換されたアミノ酸配列と、Piromyces sp. E2由来のキシロースイソメラーゼ遺伝子(Genebank accession : AJ249909)から変換されたアミノ酸配列との相同性を表1に示す。なお、アミノ酸配列の相同性はBLAST(Basic Local Alignment Search Tool(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi))のprotein blast(Scoring parametersはデフォルトの設定)を解析プログラムとして用いて同定した。
【0085】
【表1】
【0086】
なお、各遺伝子断片を用いて作製した酵母導入用ベクターを、それぞれpRS436GAP-RsXI-A、-B、-C1、-C2、-D1、-D2、-E、-Fと命名した(図4)。このベクターには挿入した遺伝子の5’側にSaccharomyces cerevisiae由来のTDH3プロモーター、3’側にS. cerevisiae由来のCYC1ターミネーターが付加された遺伝子配列、酵母自律複製因子の2μ oriの遺伝子配列、および栄養要求性マーカーとしてURA3の遺伝子配列が含まれる。
【実施例2】
【0087】
(ムカシシロアリ(Mastotermes darwiniensis)腸内原生生物からの遺伝子取得)
ムカシシロアリ腸内原生生物からのキシロースイソメラーゼ様遺伝子の取得を行なった。実験の流れを図5に示す。以下、図5に示す手順i)〜iii)に沿って説明する。
【0088】
i)特願2007‐053122に記載のムカシシロアリ腸内原生生物cDNAライブラリの部分配列によるホモロジー解析の結果、キシロースイソメラーゼに相当する3種類の遺伝子が確認されている。しかし、各遺伝子は部分配列しか明らかでなく、各遺伝子の全長配列を解析する必要があった。そこで該当する遺伝子の全長を搭載するプラスミド、pGEM-3Zf-Md06BA12、pGEM-3Zf-Md63A19およびpGEM-3Zf-Md63A93を鋳型とし、プライマーM13-F(配列番号19)およびM13-R(配列番号20)を用いて配列解析を行った。
【0089】
解析の結果明らかとなった3種類の遺伝子、MdXI12、MdXI19およびMdXI93の塩基配列を配列番号9、11及び13に示し、これらのアミノ酸配列を配列番号10、12及び14にそれぞれ示す。なお、これらの遺伝子配列から変換されたアミノ酸配列と、Piromyces sp. E2由来のキシロースイソメラーゼ遺伝子配列から変換されたアミノ酸配列との相同性を表1に示す。なお、アミノ酸配列の相同性はBLAST(Basic Local Alignment Search Tool(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi))のprotein blast(Scoring parametersはデフォルトの設定)を解析プログラムとして用いて同定した。
【0090】
明らかとなった配列情報をもとに、各遺伝子の全長を増幅するためのプライマーを作製した。作製したプライマーの配列を以下に記す。
MdXI12-IF-F:5'-ataaacaaacaaaccgcggaaaatgtctcacgaatactttccagg-3'(配列番号39)
MdXI12-IF-R:5'-tgatgcggccctcgagttattggaacatcgtcactatc-3'(配列番号40)
MdXI19-IF-F:5'-ataaacaaacaaaccgcggaaaatgtctggcgaatactttccagg-3'(配列番号41)
MdXI19-IF-R:5'-tgatgcggccctcgagtcattggaacgtcgtcactatg-3'(配列番号42)
MdXI93-IF-F:5'-ataaacaaacaaaccgcggaaaatgtctcgcgaatactttccagg-3'(配列番号43)
MdXI93-IF-R:5'-tgatgcggccctcgagtcactggtacattgttacgattag-3'(配列番号44)
【0091】
ii)pGEM-3Zf-Md06BA12、pGEM-3Zf-Md63A19およびpGEM-3Zf-Md63A93を鋳型に、i)に記載のプライマーセット、MdXI12-IF-FおよびMdXI12-IF-R、MdXI19-IF-FおよびMdXI19-IF-R、MdXI93-IF-FおよびMdXI93-IF-Rを用いてPCRにより各遺伝子の全長を増幅した。なお、PCRはPrimeSTAR HS DNA Polymerase(タカラバイオ)を使用し、[98℃10秒、55℃15秒、72℃2分]×30サイクルの条件で反応を行なった。
【0092】
iii)得られた1.4kbpのDNA断片3種類を、In-Fusion AdvantageTM PCR Cloning kit(タカラバイオ)を用いて、制限酵素SacIIおよびXhoIで消化したpRS436GAP(DDBJ accession : AB304862)(図2)に挿入した。次に、プライマーTDH3-180F(配列番号37)およびCYC1t−100R(配列番号38)を用いて、pRS436GAPに遺伝子が正しく挿入されていることを確認した。作製した酵母導入用ベクターをそれぞれpRS436GAP-MdXI12、-MdXI19、-MdXI93と命名した(図7)。このベクターには挿入した遺伝子の5’側にTDH3プロモーター、3’側にCYC1ターミネーターが付加された遺伝子配列、酵母自律複製因子の2μ oriの遺伝子配列、および栄養要求性マーカーとしてURA3の遺伝子配列が含まれる。
【実施例3】
【0093】
(形質転換酵母の作製)
(公知キシロースイソメラーゼ遺伝子の酵母導入用ベクターの作製)
Piromyces sp. E2由来キシロースイソメラーゼの遺伝子(PiXI)および、PiXIとのアミノ酸配列相同性が73%のParabacteroides distasonis ATCC 8503由来キシロースイソメラーゼ(protein ID: YP_001302175)の遺伝子(PdXI)、64%のLeeuwenhoekiella blandensis MED217由来キシロースイソメラーゼ(protein ID:EAQ50619)の遺伝子(LbXI)の酵母導入用ベクター、pRS436GAP-PiXI、-PdXI、-LbXIを作製した(図7)。このベクターには、5’側にTDH3プロモーター、3’側にCYC1ターミネーターが付加された、PiXI遺伝子を含む遺伝子配列、酵母自律複製因子の2μ oriの遺伝子配列、および栄養要求性マーカーとしてURA3の遺伝子配列が含まれる。
【0094】
(ペントースリン酸経路強化酵母の作製)
以下に説明する各べクターpXhisHph-HOR7p-ScXK 、pXAd3H-HOR7p-ScTAL1-ScTKL1およびpXGr3L-HOR7p-ScRPE1-ScRKI1を用いて、XKS1、TAL1、TKL1、RPE1およびRKI1遺伝子を過剰発現し、GRE3遺伝子の破壊された酵母株を作製した。これらのベクターを併せて図8に示す。また、以下の実施例で用いる培地を表2にまとめて示す。
【0095】
(1)XK遺伝子導入用ベクター
酵母S. cerevisiae由来のキシルロキナーゼ(XK)遺伝子の酵母導入用ベクター、pXhisHph-HOR7p-ScXKを作製した(図8)。このベクターには、5’側にHOR7プロモーター、3’側にTDH3ターミネーターが付加された、S. cerevisiae NBRC304 株由来のXK遺伝子であるXKS1(genebank:X61377)をふくむ遺伝子配列、酵母ゲノム上への相同組換え領域として、ヒスチジン合成酵素(HIS3)遺伝子の上流約500bpの領域の遺伝子配列(HIS3U)、及びその下流の約500bpの領域の遺伝子配列(HIS3D)、並びにマーカーとして、5’側にTDH2プロモーター、3’側にCYC1tターミネーターが付加された、ハイグロマイシンフォスフォトランスフェラーゼ(hph)遺伝子を含む遺伝子配列が含まれるように構築した。
【0096】
(2)TAL1、TKL1遺伝子導入用ベクター
S. cerevisiae由来のトランスアルドラーゼ1(TAL1)遺伝子およびトランスケトラーゼ1(TKL1)遺伝子の酵母導入用ベクター、pXAd3H-HOR7p-ScTAL1-ScTKL1を作製した(図8)。このベクターに、5’側にHOR7プロモーター、3’側にTDH3ターミネーターが付加された、S. cerevisiae S288 株由来のTAL1遺伝子であるTAL1(Genbank:U19102)をふくむ遺伝子配列、および5’側にHOR7プロモーター、3’側にTDH3ターミネーターが付加された、S. cerevisiae S288 株由来のTKL1遺伝子であるTKL1(Genbank:X73224)をふくむ遺伝子配列、酵母ゲノム上への相同組換え領域として、アルコールデヒドロゲナーゼ3(ADH3)遺伝子の上流約500bpの領域の遺伝子配列(ADH3U)、及びその下流約500bpの領域の遺伝子配列(ADH3D)、並びにマーカーとして、ヒスチジン合成酵素(HIS3)遺伝子を含む遺伝子配列(HIS3 marker)が含まれるように構築した。
【0097】
(3)RPE1、RKI1遺伝子導入用ベクター
S. cerevisiae由来のリブロースリン酸エピメラーゼ1(RPE1)遺伝子およびリボースリン酸ケトイソメラーゼ(RKI1)遺伝子の酵母導入用ベクター、pXGr3L-HOR7p-ScRPE1-ScRKI1を作製した(図8)。このベクターに、5’側にHOR7プロモーター、3’側にTDH3ターミネーターが付加された、S. cerevisiae S288 株由来のRPE1遺伝子であるRPE1(Genbank:X83571)をふくむ遺伝子配列、および5’側にHOR7プロモーター、3’側にTDH3ターミネーターが付加された、S. cerevisiae S288 株由来のRKI1遺伝子(Genbank:Z75003)をふくむ遺伝子配列、酵母ゲノム上への相同組換えおよびアルドースレダクターゼ3(GRE3)遺伝子を破壊するための領域として、GRE3遺伝子の上流約1000bpの遺伝子配列(GRE3U)、GRE3遺伝子の3’領域約500bpを含む約800bpの領域の遺伝子配列(GRE3D)、並びにマーカーとして、ロイシン合成酵素(LEU2)遺伝子を含む遺伝子配列(LEU2 marker)が含まれるように構築した。
【0098】
【表2】
【0099】
酵母の形質転換はFrozen-EZ Yeast Transformation II(ZYMO RESEARCH)を用い、添付のプロトコルに従って行った。まず、pXhisHph-HOR7p-ScXKベクターを制限酵素Sse8387Iで消化した断片を用いて、宿主である酵母S. cerevisiae MT8-1株の形質転換を行い、YPD+HYG寒天培地に塗布し、生育したコロニーを新たなYPD+HYG寒天培地に画線培養してコロニーを純化した。純化された選択株をPP100株と命名した。つぎに、pXAd3H-HOR7p-ScTAL1-ScTKL1ベクターを制限酵素Sse8387Iで消化した断片を用いて、PP100株の形質転換を行い、SD-H寒天培地に塗布し、生育したコロニーを新たなSD-H寒天培地に画線培養してコロニーを純化した。純化された選択株をPP300株と命名した。
つぎに、pXGr3L-HOR7p-ScRPE1-ScRKI1ベクターを制限酵素Sse8387Iで消化した断片を用いて、PP300株の形質転換を行い、SD-HL寒天培地に塗布し、生育したコロニーを新たなSD-HL寒天培地に画線培養してコロニーを純化した。純化された選択株をPP600株と命名した。
【0100】
(酵母への遺伝子導入)
作製した各種遺伝子の酵母導入用ベクターを用いてPP600株の形質転換を行い、SD-HLU寒天培地(表2)に塗布し、生育したコロニーを新たなSD-HLU寒天培地に画線培養してコロニーを純化した。純化された選択株の名前と導入遺伝子および使用したベクターを表3に示す。
【0101】
【表3】
【0102】
(形質転換酵母のXI活性測定)
作製した各種遺伝子導入株をSD-HLU液体培地(表2)で24時間培養し、菌体を回収して滅菌水で2回洗浄した後、100mMリン酸緩衝液(pH7.0)で2回洗浄した。洗浄後の菌体ペレットにガラスビーズ(acid washed φ=425‐600μm:SIGMA)および100mMリン酸緩衝液(pH7.0)を加え、Micromixier E-36(TAITEC)を用いて4℃で15分間撹拌し、酵母菌体を破砕した。つぎに4℃、12000rpmで5分間遠心し、上清を菌体粗抽出液として回収した。菌体粗抽出液の全タンパク質濃度をQuick Startプロテインアッセイキット(BIO-RAD)を用いて測定した。
【0103】
次に、特開2008-79564に記載のXI活性測定法を参考に、酵母粗抽出液のXI活性を測定した。具体的には、 50mMマレイン酸緩衝液(pH6.85)、10mM MgSO4、1mM CoCl2、1mM MnCl2、10mM キシロースを含む反応液中に酵母粗抽出液を添加し、30℃で30分間反応させた後、システイン−カルバゾール−硫酸法(Zacharias Dische andEllen Borenfreund J. Biol. Chem. 192:583-587(1951))によりキシルロースを定量して、XI活性を測定した。システイン−カルバゾール−硫酸法は、上記反応後に、システイン−カルバゾール−硫酸溶液を加えて30℃で30分間呈色させ、波長540nmでの吸光度を測定して行った。図9にXI活性測定の結果を示す。活性の定義は1分間に1μmolのキシルロースを生成する活性を1Uとし、これを酵母粗抽出液のタンパク質濃度で割った値(U/mg-protein)とした。
【0104】
図9に示すように、XI遺伝子が導入されていないIX700mc株や、公知のXI遺伝子であるPdXI、LbXIを導入した株ではXIの活性が見られず、またRsXI-A、-B、-D2、Eを導入した株においてもXIの活性は見られなかった。一方、PiXI遺伝子を導入したIX700m株ではXIの活性が確認され、またRsXI-C1、-C2、-D1、-FおよびMdXI93を導入した株ではそれぞれXIの活性が確認された。中でもRsXI-C1遺伝子を導入したPP600/pRS436GAP-RsXI-C1株のXIの活性はPiXI遺伝子を導入したIX700m株と同程度の活性を示した。このことから、RsXI-C1、-C2、-D1、-FおよびMdXI93の遺伝子を元に酵母菌体内で生産されるタンパク質はXIの活性を有することを確認した。
【0105】
(形質転換酵母のキシロースを炭素源とした増殖試験)
各種形質転換酵母のキシロース資化能力を評価するため、キシロースを炭素源とした培地での増殖試験を行った。IX700m株、IX700mc株、PP600/pRS436GAP-RsXI-C1株、PP600/pRS436GAP-RsXI-C2株、PP600/pRS436GAP-RsXI-D1株、PP600/pRS436GAP-RsXI-F株、PP600/pRS436GAP-MdXI12株、PP600/pRS436GAP-MdXI19株およびPP600/pRS436GAP-MdXI93株をSD-HLU液体培地で24時間培養し、菌体を回収して滅菌水で2回洗浄した後、L字型試験管に調製したSX-HLU液体培地(表1)に菌体を加え、増殖試験を開始した。増殖試験はバイオフォトレコーダーTVS062CA(ADVANTEC)を用い、培養条件は30℃、70 rpmで、20分間隔で培養液のOD(660nm)を測定した。増殖試験の結果を図10に示す。
【0106】
図10Aにおいて、XIが導入されていないIX700mc株では20時間目以降では培地ODの増加が見られなかったが、PP600/pRS436GAP-RsXI-C1株、PP600/pRS436GAP-RsXI-C2株、PP600/pRS436GAP-RsXI-D1株、PP600/pRS436GAP-RsXI-F株、およびPiXI遺伝子を導入したIX700m株は共に20時間目以降も培地ODの増加が見られ、菌体が増殖していることを確認した。このことから、RsXI-C1、RsXI-C2、RsXI-D1および RsXI-F遺伝子を酵母に導入することで、キシロースを炭素源とする増殖が可能となることが明らかとなった。また、40時間目以降の増殖速度は、IX700m株では0.096 OD660/h、PP600/pRS436GAP-RsXI-C1株では0.126 OD660/hとなり、PP600/pRS436GAP-RsXI-C1株の増殖速度はIX700m株と比べて約1.3倍速いことを確認した。
【0107】
さらに、図10Bにおいても同様に、XIの遺伝子が導入されていないIX700mc株では20時間目以降では培地ODの増加が見られなかったが、PP600/ pRS436GAP-MdXI12、-MdXI19、-MdXI93株およびPiXI遺伝子を導入したIX700m株は共に20時間目以降も培地ODの増加が見られ、菌体が増殖していることを確認した。このことから、MdXI12、MdXI19およびMdXI93遺伝子を酵母に導入することで、キシロースを炭素源とする増殖が可能となることが明らかとなった。このことは、同時に、これらの遺伝子によってコードされるタンパク質は、酵母などの真核細胞においてXI活性を有することを示している。
【0108】
以上の結果から酵母でキシロースイソメラーゼ活性が確認された7種類の遺伝子について、それらをアミノ酸配列に変換して互いの配列相同性を比較した結果を表4に示す。なお、アミノ酸配列の相同性は遺伝子解析ソフトウェアGENETIX(ゼネティックス)のホモロジー検索機能(program : fastp(Protein-Protein)、parameterはデフォルトの設定)を用いて同定した。
【0109】
【表4】
【0110】
表4に示すように、相同性比較の結果、RsXI-C1、RsXI-C2、RsXI-D1、RsXI-Fの互いの相同性は高く(82%以上)、またMdXI12、MdXI19およびMdXI93も互いの相同性が高かった(85%以上)。しかしRsXIのグループとMdXIのグループでは互いの相同性は低く(52%以下)、またそれぞれのグループは由来となる原生生物のcDNAライブラリが異なることから、別系統のXIであることが示唆された。
【実施例4】
【0111】
(1)酵母発現に適したキシロースイソメラーゼ遺伝子の合成と酵母導入用ベクター作製
RsXI-C1、PiXI、および酵母での活性が報告されている(非特許文献1)Clostridium phytofermentans由来キシロースイソメラーゼ(protein ID: YP_001558336)の遺伝子(CpXI)について、酵母での発現用にコドンを適合させた合成遺伝子を作製した。各遺伝子はGenscript Corporation(www. Genscript.com)およびLife Technologies Corporation(www.lifetechnologies.com)により合成され、合成された遺伝子をそれぞれRsXIC1-O(配列番号45)、PiXI-O(配列番号46)、およびCpXI-O(配列番号47)と命名した。
【0112】
つぎに、RsXIC1-O、PiXI-OおよびCpXI-OをPCR増幅した。使用したプライマーの配列を以下に示す。
RsXIC1-O-IF-F:5'- ataaacaaacaaaccgcggaaaatgtctcaaatttttaaggatatccc -3'(配列番号48)
RsXIC1-O-IF-R:5'-tgatgcggccctcgagttattgaaacaaaatttggttaataatactttc-3'(配列番号49)
PiXI-O-IF-F:5'-ataaacaaacaaaccgcggaaaatggctaaggaatacttcc-3'(配列番号50)
PiXI -O-IF-R:5'-tgatgcggccctcgagttattggtacatagcaacaattgcttc-3'(配列番号51)
CpXI-O-IF-F:5'-ataaacaaacaaaccgcggaaaatgaagaattacttcccaaatgtccc-3'(配列番号52)
CpXI -O-IF-R:5'-tgatgcggccctcgagtcatctaaacaagatgttattgacaatagtctc-3'(配列番号53)
PCR増幅した遺伝子断片を、制限酵素SacIIおよびXhoIで消化したpRS436GAPに挿入し、作製した各遺伝子の酵母導入用ベクターを、それぞれpRS436GAP-RsXIC1-O、pRS436GAP-PiXI-O、pRS436GAP-CpXI-Oと命名した。
【0113】
(2)コドン最適化キシロースイソメラーゼ遺伝子の酵母への導入
最適化XIの酵母導入用ベクターを用いてキシロースを資化することができる酵母株を作製した。酵母の形質転換はFrozen-EZ Yeast Transformation II(ZYMO RESEARCH)を用い、添付のプロトコルに従って行った。
【0114】
まず、S. cerevisiae S288株由来のゲノムDNAをテンプレートとしてTRP1遺伝子(Gene ID: 851570)およびその近傍領域をPCR増幅した。得られた増幅産物を用いて特願2010−063703に記載の、XKS1、TAL1、TKL1、RPE1およびRKI1遺伝子を過剰発現し、GRE3遺伝子が破壊されたW600株へ形質転換を行い、SD+U寒天培地(ウラシルを20mg/L含有するSD寒天培地)に塗布し、生育したコロニーを新たなSD+U寒天培地に画線培養してコロニーを純化した。純化された選択株をW600W株と命名した。TRP1遺伝子およびその近傍領域のPCR増幅には以下に示すプライマーを用いた。
TRP1M-F:5'- aacgacattactatatatataatatagg -3'(配列番号54)
TRP1M-R:5'- caagtgcacaaacaatac -3'(配列番号55)
つぎに、pRS436GAP-RsXIC1-O、pRS436GAP-PiXI-O、pRS436GAP-CpXI-Oをそれぞれ用いてW600W株の形質転換を行い、SD寒天培地に塗布し、生育したコロニーを新たなSD寒天培地に画線培養してコロニーを純化した。純化された選択株をそれぞれW600W/pRS436GAP-RsXIC1-O、W600W/pRS436GAP-PiXI-O、W600W/pRS436GAP-CpXI-O株と命名した。またコントロールとしてpRS436GAPを同様の手法でW600W株に導入し、得られた形質転換株をW600W/pRS436GAP株と命名した。
【0115】
(3)形質転換酵母のキシロースを炭素源とした増殖試験
各形質転換酵母のキシロース資化能力を評価するため、キシロースを炭素源とした培地での増殖試験を行った。W600W/pRS436GAP-RsXIC1-O、W600W/pRS436GAP-PiXI-O、W600W/pRS436GAP-CpXI-O株およびW600W/pRS436GAP株をSD液体培地で24時間培養し、菌体を回収して滅菌水で2回洗浄した後、L字型試験管に調製したSX液体培地に菌体を加え、増殖試験を開始した。
【0116】
増殖試験の結果を図11に示す。XIが導入されていないW600W/pRS436GAP株では培地ODの増加が見られなかったが、各XI遺伝子を導入した株では培地ODの増加が見られ、菌体が増殖していることを確認した。また、培地OD660が0.1〜0.5の期間における比増殖速度は、W600W/pRS436GAP-RsXIC1-O株がW600W/pRS436GAP-PiXI-O株およびW600W/pRS436GAP-CpXI-O株と比べて1.2倍程度高いことを確認した(表5)。
【0117】
【表5】
【0118】
(4)グルコースとキシロースの混合培地中での発酵能力比較
各形質転換酵母株を50mlのSD液体培地に接種して3日間培養したものを全培養液とした。次に500mlのSD液体培地に全培養液全量を加えて24時間培養し、菌体を回収して滅菌水で2回洗浄した。
【0119】
発酵試験にはフタの部分に逆止弁付の排気ラインを取り付けた100 mlのねじ口瓶を用いた。発酵培地の最終OD600が10となるように酵母懸濁液を加えたSDX培地(6.7 g/l Yeast Nitrogen Base without amino acids and nucleic acids、30 g/l D-Glucose、20 g/l Xylose)を50 ml調製し、30℃、100 rpmで発酵を行った。任意の時間に培養液を分取し、液体クロマトグラフィーにより基質(グルコースおよびキシロース)および生産物(エタノール、グリセロール、キシリトール)の分析を行なった。液体クロマトグラフィーのカラムはHPX-87Hカラム(BIO-RAD)を60℃で使用し、検出器は示唆屈折率検出器RID-10A(島津製作所)を用いた。移動相には0.05%硫酸溶液を用い、流速0.6ml/minで送液した。図12に各形質転換株の発酵培地中の基質濃度、生産物濃度の経時変化を示す。なお、発酵試験は2回以上実施し、その平均値を記載している。
【0120】
図12に示すように、各形質転換株共に、発酵開始初期は主にグルコースが消費され、キシロースはグルコースが枯渇すると共に減少を始めた。また、各発酵において副産物であるキシリトールの蓄積はほとんど見られなかった。キシロースの消費に関して、W600W/pRS436GAP-PiXI-O株(図12(B))およびW600W/pRS436GAP-CpXI-O株(図12(C))では発酵開始72時間目でも10μg/l以上のキシロースが残存していたが、W600W/pRS436GAP-RsXIC1-O株(図12(A))は他の形質転換株とくらべて2倍程度キシロース消費速度が速く、72時間目でほぼ全てのキシロースを消費した。以上の結果から、RsXIC1-Oは既存のキシロースイソメラーゼであるPiXI-OやCpXI-Oと比べて、酵母でのキシロースの資化に対してより効果的であることが明らかとなった。
【0121】
(5)キシロースイソメラーゼの速度論的解析
W600W/pRS436GAP-RsXIC1-O株、W600W/pRS436GAP-PiXI-O株をSD液体培地で24時間培養し、菌体を回収して滅菌水で2回洗浄した後、100mMリン酸緩衝液(pH7.0)で2回洗浄した。洗浄後の菌体ペレットにガラスビーズ(φ=0.3mm:安井器械)および100mMリン酸緩衝液(pH7.0)を加え、マルチビーズショッカー(安井器械)を用いて4℃で2500 rpm、7分間運転して酵母菌体を破砕した。得られた菌体破砕液を4℃、12000rpmで5分間遠心し、上清を菌体粗抽出液として回収した。菌体粗抽出液の全タンパク質濃度をQuick Startプロテインアッセイキット(BIO-RAD)を用いて測定した。
【0122】
つぎに、非特許文献1に記載のキシロースイソメラーゼ活性測定法を参考に、酵母粗抽出液中のキシロースイソメラーゼ活性を測定した。具体的には、 菌体粗抽出液、0.15mM NADH、10mM MgCl2、2U ソルビトールデヒドロゲナーゼ(SDH)、100 mM Tris-HCl(pH7.5)を含む反応液にキシロースを添加して反応を開始し、SDHによるキシルロースからキシリトールへの変換によって起こるNADHの酸化を測定した。反応は30℃で行い、NADHの吸光度変化は分光光度計Ubest-55(日本分光)を用いて波長340 nmで測定した。なお、反応速度パラメータの算出のため、キシロースの終濃度をそれぞれ250 mM、150 mM、100 mM、50 mM、25 mM、5 mMとして反応を行ない、各濃度でのキシロースイソメラーゼ活性を測定した。表6に各酵母株粗抽出液におけるキシロースイソメラーゼの反応速度パラメータを示す。なお反応速度パラメータは、各キシロース濃度におけるキシロースイソメラーゼ活性をもとに、Hanes-Woolfプロット(非特許文献6)を用いて算出した。
【0123】
【表6】
【0124】
表6に示すように、反応速度VmaxではPiXI-Oの値がRsXIC1-Oの値に比べて1.5倍程度高くなったが、Km値では RsXIC1-Oの値はPiXI-Oの値の1/3以下であり、RsXIC1-Oの基質に対する親和性はPiXI−Oに比べて高いことが明らかとなった。なお、非特許文献1において、酵母で発現したPiXIとCpXIのKm値が報告されており、その値はPiXIで49.85±2.82mM、CpXIで66.01±1.00mMであった。このことから、RsXIC1-OのKm値はCpXI-OのKm値と比べても低いことが推察される。
【0125】
酵母S. cerevisiaeにはキシロースに特異的なトランスポーターが無く、キシロースの細胞内への取り込みはヘキソーストランスポーターによる非特異的な取り込みにより行われる。トランスポーターのキシロースに対するKm値(100 mM-190 mM)はグルコースに対するKm値(1−20 mM)と比べて非常に高く(非特許文献7)、酵母細胞内のキシロース濃度は低いことが予想される。このことから。RsXIC1-Oを導入した酵母株のキシロース資化性が他のXIを導入した酵母株よりも高くなる理由の一つとして、RsXIC1-Oのキシロースに対する親和性がより高く、酵母細胞内の低キシロース濃度下において他のXIと比べてより速く反応が進んだことが考えられる。
【配列表フリーテキスト】
【0126】
配列番号15〜44、48〜53:プライマー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のいずれかである、キシロースイソメラーゼ。
(A)配列番号2、4、6、8、10、12及び14のいずれかで表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(B)配列番号2、4、6、8、10、12及び14のいずれかで表されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有し、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質
(C)配列番号2、4、6、8、10、12及び14のいずれかで表されるアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質
(D)配列番号1、3、5、7、9、11及び13のいずれかで表される塩基配列からなるDNAと相補的なDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAによってコードされ、かつ、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質
(E)配列番号1、3、5、7、9、11及び13のいずれかで表される塩基配列に対して70%以上の同一性を有する塩基配列からなるDNAによってコードされ、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質
【請求項2】
前記(A)〜(E)は、以下のとおりである、請求項1に記載のキシロースイソメラーゼ。
(A)配列番号2、4、6及び8のいずれかで表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(B)配列番号2、4、6及び8のいずれかで表されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有し、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質
(C)配列番号2、4、6及び8のいずれかで表されるアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質
(D)配列番号1、3、5及び7のいずれかで表される塩基配列からなるDNAと相補的なDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAによってコードされ、かつ、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質
(E)配列番号1、3、5及び7のいずれかで表される塩基配列に対して70%以上の同一性を有する塩基配列からなるDNAによってコードされ、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質
【請求項3】
(追加)
前記(A)〜(E)は、以下のとおりである、請求項1に記載のキシロースイソメラーゼ。
(A)配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(B)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有し、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質
(C)配列番号2で表されるアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質
(D)配列番号1で表される塩基配列からなるDNAと相補的なDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAによってコードされ、かつ、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質
(E)配列番号1で表される塩基配列に対して70%以上の同一性を有する塩基配列からなるDNAによってコードされ、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質
【請求項4】
以下のいずれかである、DNA。
(a)配列番号1、3、5、7、9、11及び13のいずれかで表される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号1、3、5、7、9、11及び13のいずれかで表される塩基配列からなるDNAと相補的なDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号1、3、5、7、9、11及び13のいずれかで表される塩基配列に対して70%以上の同一性を有する塩基配列からなり、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号2、4、6、8、10、12及び14のいずれかで表されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA
(e)配列番号2、4、6、8、10、12及び14のいずれかで表されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有し、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(f)配列番号2、4、6、8、10、12及び14のいずれかで表されるアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
【請求項5】
前記(a)〜(f)は、以下のとおりである、請求項4に記載のDNA。
(a)配列番号1、3、5及び7のいずれかの塩基配列からなるDNA
(b)配列番号1、3、5及び7のいずれかの塩基配列からなるDNAと相補的なDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号1、3、5及び7のいずれかの塩基配列に対して70%以上の同一性を有する塩基配列からなり、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号2、4、6及び8のいずれかで表されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA
(e)配列番号2、4、6及び8のいずれかで表されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有し、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(f)配列番号2、4、6及び8のいずれかで表されるアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
【請求項6】
前記(a)〜(f)は、以下のとおりである、請求項4に記載のDNA。
(a)配列番号1で表される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号1で表される塩基配列からなるDNAと相補的なDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号1で表される塩基配列に対して70%以上の同一性を有する塩基配列からなり、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA
(e)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有し、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(f)配列番号2で表されるアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
【請求項7】
請求項4〜6のいずれかに記載のDNAを含むDNA構築物で形質転換されてキシロースイソメラーゼを発現する真核細胞。
【請求項8】
前記真核細胞は、酵母である、請求項7に記載の真核細胞。
【請求項9】
前記酵母は、Saccharomyces、Kluyveromyces、Candida、Pichia、Schizosaccharomyces、Hancenula、Klocckera、Schwanniomyces、Yarrowia、及びIssatchenkiaからなる群から選択されるいずれかに属する、請求項8に記載の真核細胞。
【請求項10】
前記真核細胞は、セルラーゼを分泌生産する、請求項7〜9のいずれかに記載の真核細胞。
【請求項11】
アラビノース代謝経路の酵素群に含まれる1種又は2種以上の酵素を生産する、請求項7〜10のいずれかに記載の真核細胞。
【請求項12】
前記真核細胞は、エタノール、乳酸、酢酸、1,3−プロパン−ジオール、プロパノール、ブタノール、コハク酸、エチレン、グリセロール、ファルネソール、ゲラニルゲラニオール及びスクアレンからなる群から選択されるいずれかを生産する外因性又は内因性の遺伝子を備える、請求項7〜11のいずれかに記載の真核細胞。
【請求項13】
請求項4〜6のいずれかに記載のDNAを含む、真核細胞の発現ベクター。
【請求項14】
キシロース利用性が付与ないし向上された形質転換真核細胞の作製方法であって、
請求項4〜6のいずれかに記載のDNAを真核細胞に導入して形質転換する工程を備える、作製方法。
【請求項15】
有用物質を生産する方法であって、
キシロースの存在下、請求項7〜12のいずれかに記載の真核細胞を培養する工程を備える、生産方法。
【請求項16】
前記有用物質は、エタノール、乳酸、酢酸、1,3−プロパン−ジオール、プロパノール、ブタノール、コハク酸、エチレン、グリセロール、ファルネソール、ゲラニルゲラニオール及びスクアレンからなる群から選択されるいずれかである、請求項15に記載の生産方法。
【請求項1】
以下のいずれかである、キシロースイソメラーゼ。
(A)配列番号2、4、6、8、10、12及び14のいずれかで表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(B)配列番号2、4、6、8、10、12及び14のいずれかで表されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有し、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質
(C)配列番号2、4、6、8、10、12及び14のいずれかで表されるアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質
(D)配列番号1、3、5、7、9、11及び13のいずれかで表される塩基配列からなるDNAと相補的なDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAによってコードされ、かつ、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質
(E)配列番号1、3、5、7、9、11及び13のいずれかで表される塩基配列に対して70%以上の同一性を有する塩基配列からなるDNAによってコードされ、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質
【請求項2】
前記(A)〜(E)は、以下のとおりである、請求項1に記載のキシロースイソメラーゼ。
(A)配列番号2、4、6及び8のいずれかで表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(B)配列番号2、4、6及び8のいずれかで表されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有し、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質
(C)配列番号2、4、6及び8のいずれかで表されるアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質
(D)配列番号1、3、5及び7のいずれかで表される塩基配列からなるDNAと相補的なDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAによってコードされ、かつ、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質
(E)配列番号1、3、5及び7のいずれかで表される塩基配列に対して70%以上の同一性を有する塩基配列からなるDNAによってコードされ、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質
【請求項3】
(追加)
前記(A)〜(E)は、以下のとおりである、請求項1に記載のキシロースイソメラーゼ。
(A)配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(B)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有し、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質
(C)配列番号2で表されるアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質
(D)配列番号1で表される塩基配列からなるDNAと相補的なDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAによってコードされ、かつ、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質
(E)配列番号1で表される塩基配列に対して70%以上の同一性を有する塩基配列からなるDNAによってコードされ、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質
【請求項4】
以下のいずれかである、DNA。
(a)配列番号1、3、5、7、9、11及び13のいずれかで表される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号1、3、5、7、9、11及び13のいずれかで表される塩基配列からなるDNAと相補的なDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号1、3、5、7、9、11及び13のいずれかで表される塩基配列に対して70%以上の同一性を有する塩基配列からなり、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号2、4、6、8、10、12及び14のいずれかで表されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA
(e)配列番号2、4、6、8、10、12及び14のいずれかで表されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有し、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(f)配列番号2、4、6、8、10、12及び14のいずれかで表されるアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
【請求項5】
前記(a)〜(f)は、以下のとおりである、請求項4に記載のDNA。
(a)配列番号1、3、5及び7のいずれかの塩基配列からなるDNA
(b)配列番号1、3、5及び7のいずれかの塩基配列からなるDNAと相補的なDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号1、3、5及び7のいずれかの塩基配列に対して70%以上の同一性を有する塩基配列からなり、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号2、4、6及び8のいずれかで表されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA
(e)配列番号2、4、6及び8のいずれかで表されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有し、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(f)配列番号2、4、6及び8のいずれかで表されるアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
【請求項6】
前記(a)〜(f)は、以下のとおりである、請求項4に記載のDNA。
(a)配列番号1で表される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号1で表される塩基配列からなるDNAと相補的なDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号1で表される塩基配列に対して70%以上の同一性を有する塩基配列からなり、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA
(e)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有し、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(f)配列番号2で表されるアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
【請求項7】
請求項4〜6のいずれかに記載のDNAを含むDNA構築物で形質転換されてキシロースイソメラーゼを発現する真核細胞。
【請求項8】
前記真核細胞は、酵母である、請求項7に記載の真核細胞。
【請求項9】
前記酵母は、Saccharomyces、Kluyveromyces、Candida、Pichia、Schizosaccharomyces、Hancenula、Klocckera、Schwanniomyces、Yarrowia、及びIssatchenkiaからなる群から選択されるいずれかに属する、請求項8に記載の真核細胞。
【請求項10】
前記真核細胞は、セルラーゼを分泌生産する、請求項7〜9のいずれかに記載の真核細胞。
【請求項11】
アラビノース代謝経路の酵素群に含まれる1種又は2種以上の酵素を生産する、請求項7〜10のいずれかに記載の真核細胞。
【請求項12】
前記真核細胞は、エタノール、乳酸、酢酸、1,3−プロパン−ジオール、プロパノール、ブタノール、コハク酸、エチレン、グリセロール、ファルネソール、ゲラニルゲラニオール及びスクアレンからなる群から選択されるいずれかを生産する外因性又は内因性の遺伝子を備える、請求項7〜11のいずれかに記載の真核細胞。
【請求項13】
請求項4〜6のいずれかに記載のDNAを含む、真核細胞の発現ベクター。
【請求項14】
キシロース利用性が付与ないし向上された形質転換真核細胞の作製方法であって、
請求項4〜6のいずれかに記載のDNAを真核細胞に導入して形質転換する工程を備える、作製方法。
【請求項15】
有用物質を生産する方法であって、
キシロースの存在下、請求項7〜12のいずれかに記載の真核細胞を培養する工程を備える、生産方法。
【請求項16】
前記有用物質は、エタノール、乳酸、酢酸、1,3−プロパン−ジオール、プロパノール、ブタノール、コハク酸、エチレン、グリセロール、ファルネソール、ゲラニルゲラニオール及びスクアレンからなる群から選択されるいずれかである、請求項15に記載の生産方法。
【図4】
【図6】
【図7】
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図6】
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【図3】
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【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−147445(P2011−147445A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−285538(P2010−285538)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】
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