説明

キセノン吸着剤、キセノン濃縮方法、キセノン濃縮装置および空気液化分離装置

【課題】イニシャルコストおよび運転コストを低減することができるキセノン吸着剤、キセノンの濃縮方法及び濃縮装置を提供することを目的とする。
【解決手段】キセノン吸着剤として、銀イオン交換ZSM5ゼオライトからなり加熱して活性化されたもの用いる。銀イオン交換量が30%以上であることが好ましい。この銀イオン交換ZSM5ゼオライトを吸着筒1a、1bに充填し、交互にキセノンを含み一酸化炭素を含まない常温の原料ガスを流す。キセノンの脱着はヒータ2a、2bにより吸着剤を50〜200℃に加熱することで行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キセノンの濃縮に好適に用いられるキセノン吸着剤ならびにこのキセノン吸着剤を用いて空気液化分離装置の複式精留塔の低圧塔下部からの液体酸素中に含まれるキセノンを濃縮するためのキセノン濃縮方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
キセノンは大気中に0.086ppmしか含まれていないことから、希少で高価なガスである。キセノンの用途には、従来の電球封入ガスの他に、液晶バックライト用、X線CTの造影剤、麻酔などへの応用が具体化してきており、生産コストの低減が望まれている。
【0003】
空気中のキセノンは、空気液化分離装置の複精留塔低圧塔下部の液体酸素中に濃縮されるため、工業的にはこの液体酸素を原料として濃縮精製されて生産される。
この液体酸素中にはキセノンの他にクリプトン、アルゴン、メタンを主とする炭化水素類およびCFやSFなどのフッ化物が含まれる。キセノンとクリプトンあるいはキセノンのみを濃縮・精製する方法としては、蒸留法、吸着法、冷却面への固化による回収法などがある。
【0004】
吸着法によりキセノンを精製する例として、特許文献1、特許文献2に開示された方法がある。これらの方法は、原料となるガス化した液体酸素を、キセノンが液化しない程度の低い温度の吸着筒へ導入し、キセノンを選択的に吸着するシリカゲル等の吸着剤にキセノンを吸着させ濃縮する方法である。同時に炭化水素類が濃縮されるので、これらを触媒塔で燃焼除去し、生成した水分および二酸化炭素を吸着除去後、再度同様の操作により、高純度に濃縮する。
ここで使用されるキセノンを選択的に吸着する吸着剤は、シリカゲルの他に活性炭あるいはゼオライトなどがあるが、いずれも物理吸着であり、十分な吸着量を得るために100K程度の低温にすることが必要であった。
【0005】
吸着法による別の例として特許文献3に開示された方法がある。この例でも特許文献1、2に開示された方法と同様に、液体酸素をガス化し、キセノンが液化しない程度の低い温度(90〜100K)の吸着筒に導入し、LiXゼオライトをAgイオン交換したAgLiXでキセノンおよびクリプトンを吸着後、徐々に吸着筒の温度を上昇して脱着させ、脱着温度の差を利用してそれぞれの成分を回収する。これらの吸着剤はNOやオレフィンを強く吸着するため、原料ガスを吸着筒に導入する前にガード吸着器による低温吸着除去を行う必要があるとされる。
【0006】
以上のように、従来の吸着法によるキセノン濃縮にあっては、吸着時には100K程度の低温が必要であり、脱着時には少なくとも270K程度まで昇温することが必要とされためエネルギーコストが大きく、また吸着剤を均一に冷却、昇温するためには吸着筒内に巻き管などの熱媒体ラインを配置する必要があるなど、吸着筒構造が複雑でコストアップの原因となっていた。
【特許文献1】特開昭62−297206号公報
【特許文献2】特開平1−51311号公報
【特許文献3】特開2003−221212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情を考慮してなされたものであり、イニシャルコストおよび運転コストを低減することができるキセノン吸着剤、キセノンの濃縮方法及び濃縮装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するため、
請求項1にかかる発明は、キセノンを含み、一酸化炭素を含まない常温の原料ガスからキセノンを吸着する吸着剤であって、銀イオン交換ZSM5ゼオライトからなるキセノン吸着剤である。
請求項2にかかる発明は、前記銀イオン交換ZSM5ゼオライトのシリカ対アルミナ比が5〜50であり、銀イオン交換量が30%以上である請求項1記載のキセノン吸着剤である。
【0009】
請求項3にかかる発明は、キセノンを含み、一酸化炭素を含まない常温の原料ガスを、銀イオン交換ZSM5ゼオライトが充填された吸着筒に流通させる吸着工程と、減圧および/または加熱によりキセノンを脱着する脱着工程を有し、これら2つの工程を交互に繰り返すキセノンの濃縮方法である。
請求項4にかかる発明は、前記原料ガスが、酸素、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトンからなる群から選ばれる1つ以上を含む請求項3記載のキセノンの濃縮方法である。
請求項5にかかる発明は、前記原料ガスが、空気液化分離装置の複式精留塔の低圧塔下部から導出されたクリプトンを含む液体酸素を気化した酸素ガスである請求項3記載のキセノンの濃縮方法である。
請求項6にかかる発明は、空気液化分離装置の複式精留塔の低圧塔下部から導出されたクリプトンを含む液体酸素を気化し、得られた酸素ガスを加熱して触媒反応筒へ導入し、含有されている炭化水素類を燃焼させ、ついで前記触媒反応筒から導出した酸素ガス中の水と二酸化炭素とを吸着除去して得られたガスを原料ガスとして用いる請求項5記載のキセノンの濃縮方法である。
【0010】
請求項7にかかる発明は、銀イオン交換ZSM5ゼオライトが充填された吸着筒を備え、圧力温度スイング吸着法によって原料ガスからキセノンを濃縮するキセノン濃縮装置である。
請求項8にかかる発明は、前記吸着筒を加熱するヒータと、前記吸着筒にキセノンと酸素を含む原料ガスを送り込む原料ガス管路と、前記吸着筒から脱着したキセノンガスを導出する製品キセノン管路と、前記吸着筒からキセノンを吸着した後の残余のガスを排出する排出管路と、吸着筒にパージ用ガスを送り込むパージガス管路を備えた請求項7記載のキセノン濃縮装置である。
【0011】
請求項9にかかる発明は、複式精留塔と、この複式精留塔の低圧塔下部から、キセノンを含み一酸化炭素を含まない液体酸素を導出するための配管と、この配管により導出した液体酸素を気化して酸素ガスを得るための気化器と、この気化器からの酸素ガスを触媒反応させる温度まで加熱するための加熱器と、この加熱器からの酸素ガス中の炭化水素を水と二酸化炭素に分解するための触媒反応筒と、この触媒反応筒からの酸素ガスの温度を常温まで下げる熱交換器と、この熱交換器によって冷却された酸素ガス中の水と二酸化炭素を除去する水・二酸化炭素除去装置と、この水・二酸化炭素除去装置からの酸素ガス中のキセノンを濃縮するためのキセノン濃縮装置とを有し、
このキセノン濃縮装置が、請求項8記載のキセノン濃縮装置であって、このキセノン濃縮装置の原料ガス管路が前記水・二酸化炭素除去装置に接続されている空気液化分離装置である。
【0012】
なお、本発明において、「一酸化炭素を含まない原料ガス」とは、原料ガス中の一酸化炭素濃度が本発明の効果に影響を与えない程度まで低減されていることを意味し、極少量の一酸化炭素を含む原料ガスを除外するものではない。
また、本発明における「常温」とは、−5〜40℃の範囲を言うものとする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のキセノン吸着剤にあっては、高温での特別な初期活性化を行わずとも、通常の再生と同等の温度でキセノン吸着能力を発現することができる。
また、常温でキセノンを選択的に吸着する性質を有しているので、吸着操作を低温下で行わなくともよく、常温で運転できるキセノン濃縮装置を構成することができる。このため、装置の設備コスト、運転コストを低減することができる。
【0014】
さらに、本発明のキセノン濃縮方法および濃縮装置によれば、常温の原料ガスから、圧力温度スイング吸着法によってキセノンを濃縮することができる。
また、空気液化分離装置の複式精留塔の低圧塔下部からの液体酸素を原料として用い、液体酸素中のキセノンを濃縮することができる。この場合も、常温で運転できるので装置の設備コスト、運転コストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
[キセノン吸着剤]
はじめに、本発明のキセノン吸着剤について説明する。
本発明のキセノン吸着剤は、銀イオン交換ZSM5ゼオライトからなるもので後述するように活性化されたものを言う。銀イオン交換ZSM5ゼオライトとは、陽イオン交換性のH型ZSM5(H−ZSM5)ゼオライトの水素イオンを銀イオンに交換したものである。この銀イオン交換ZSM5ゼオライトはそのシリカ対アルミナ比が5〜50であることが好ましく、また銀イオン交換量が30%以上であることが好ましい。シリカ対アルミナ比が5未満のゼオライトは製造が困難であり、50を越えると銀イオン交換容量が少なくなる。銀イオン交換量が30%未満ではキセノン吸着能力が発揮されない。
【0016】
このキセノン吸着剤は、例えば、以下のようにして製造することができる。
シリカ/アルミナ比が5〜50のH−ZSM5ゼオライト成形体を硝酸銀水溶液(0.02〜0.2mol/L)に浸し、暗室、室温下で12〜36時間攪拌し、ついで吸引濾過後、同様のイオン交換操作を数回繰り返して実施し、さらに120〜150℃で乾燥後、200〜600℃で活性化することによりキセノン吸着能が発現する。このときの昇温速度は30〜80℃/hとする。
このキセノン吸着剤から吸着されているキセノンを脱着するためには、これを加熱することで可能であり、その加熱温度は50〜200℃、好ましくは100〜150℃とされる。また、キセノンの吸着を200kPa〜400kPaで行い、脱着を5kPa〜20kPaで行うこともできる。
【0017】
なお、使用されるH−ZSM5ゼオライトは、特に限定されないが、イオン交換量が多い方が良い。ゼオライトのイオン交換サイトの数は含まれるアルミナの量に比例するため、イオン交換量を増やすにはできるだけアルミナ量が多いことが望ましい。
したがって、シリカ/アルミナ比は比較的小さい値であることが望ましく、具体的には、5〜50であることが望ましい。
【0018】
一般的にゼオライトのイオン交換において、高いイオン交換率を得るためには、イオン交換を繰り返し行うことが必要になるため、製造コストと吸着性能の兼ね合いにより、適正な交換率が決まってくる。工業的な生産における経済性を考慮すれば、銀イオン交換率が30〜80%であることが好ましい。しかし、本発明の吸着剤は、銀イオン交換率が高い方が望ましいので、イオン交換率が100%のものを用いても良い。ここで、上記銀イオン交換率の上限値は、理論値は100%である。
【0019】
このようなキセノン吸着剤にあっては、常温においてキセノンを選択的にかつ効率よく吸着する。このため、実使用に際して、100K程度にまで冷却しなければならない従来のキセノン吸着剤に比較して、エネルギーコストが大幅に軽減される。また、活性化温度が比較的低くてすむ。さらに、吸着再生を繰り返してもキセノン吸着量の低下が少ないという特長があり、長寿命となる。
【0020】
[キセノン濃縮方法および濃縮装置]
本発明のキセノンの濃縮方法は、圧力温度スイング吸着法(PTSA)によるキセノンの濃縮方法であって、キセノンを含み、一酸化炭素を含まない常温の原料ガスを、活性化した銀交換ZSM5ゼオライトが充填された吸着筒に流通させる吸着工程と、減圧および/または加熱によりキセノンを脱着する脱着工程とを有し、これら2つの工程を交互に繰り返すことによってキセノンを濃縮する方法である。
原料ガスに一酸化炭素が含まれていると、前記銀交換ZSM5ゼオライトからなる吸着剤が一酸化炭素を吸着する性質を有していることから、キセノンの吸着に支障を来す。
【0021】
図1は、本発明のキセノン濃縮装置の一例を示すものである。この例の濃縮装置は、温度スイング吸着装置であって、2基の吸着筒1a、1bが設けられている。これらの吸着筒1a、1bには上述の活性化された銀交換ZSM5ゼオライトが充填されている。吸着筒1a、1bには吸着剤を加熱して吸着されているキセノンを脱着し、吸着剤を再生するためのヒータ2a、2bがそれぞれ設けられている。
【0022】
温度−5〜40℃の原料ガスが管3から一方の吸着筒1aに送り込まれ、原料ガス中のキセノンが選択的に吸着剤に吸着され、残余のガスが排ガスとして管4から排出される。吸着筒1aでの吸着工程が終了すると、原料ガスは他方の吸着筒1bに送り込まれる。
吸着工程が終了した吸着筒1aには、管5からパージ用ガスとしての窒素または酸素が送り込まれ、吸着筒1a内に残存するキセノン以外のガス、クリプトン、CF、SFなどの不純物ガスがパージされ、これら不純物ガスは管6から排出される。
【0023】
このパージ工程の際、吸着筒1a内の空隙に残存するキセノンも不純物ガスとともに流出するので、これを回収するため、前記不純物ガスを再生済みの吸着筒1bに一定時間導入することができる。
パージ工程が終了した後、ヒータ2aを作動し、吸着筒1a内の吸着剤を50〜200℃に加熱する。これにより吸着剤からキセノンが脱着し、このキセノンは管7を通り、液体窒素で冷却されたキセノン捕集器(図示せず)により固化、回収される。
あるいは、パージ工程が終了した後、吸着筒1a内にパージ用ガスが残り、これが回収したキセノンに混入する恐れがあるので、吸着筒1a内を減圧としてパージ用ガスを除去したのちに、吸着筒1a内の吸着剤を加熱することもできる。
吸着剤は、キセノンの脱着により再生され、ついで管5から冷却用ガスとして窒素または酸素を吸着筒1aに送り込み吸着筒1aを冷却する。吸着筒1aを常温にまで冷却後、昇圧を行い待機状態となる。
【0024】
他方の吸着筒1bについても同様の操作が行われ、これら操作を交互に繰り返すことで、原料ガスから連続的にキセノンを濃縮することができる。
原料ガスには、酸素、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトンが含まれていても良く、これらが含まれていても吸着剤のキセノン吸着が阻害されることはない。しかし、一酸化炭素はほとんど含まれていないことが必要である。
【0025】
なお、原料ガスの流通経路及びパージ用ガスの流通経路の設定方法、並びに2つの吸着筒1a、1bにおける各ガスの流通経路の切り替え方法としては、温度スイング吸着法において従来から使用されている手法が使用可能であり、本発明では特に限定されない。
【0026】
また、圧力スイング吸着法によっても、同様にキセノンを濃縮することができる。この場合、図1におけるヒータ2a、2bが不要となり、キセノンの脱着を減圧下で行うための真空ポンプを設けて吸着筒1a、1b内を減圧とすればよい。原料ガスの吸着時の圧力は200kPa〜400kpa(絶対圧)とし、キセノンの脱着時の圧力は5kPa〜20kP(絶対圧)とする。
【0027】
図2は、本発明の空気液化分離装置の例を示すもので、従来の空気液化分離装置と本発明のキセノン濃縮装置を組み合わせたもので、複式精留塔を有する空気液化分離装置と結合させることで、空気液化分離装置からの液体酸素中から、効率よくキセノンを濃縮することが可能となる。
【0028】
複式精留塔11の低圧塔下部11aから、一酸化炭素が1ppb未満であって、クリプトンが100〜1000ppm、キセノンが10〜100ppm含まれる液体酸素を、配管11bを通して取り出し、気化器12によりガス化する。ガス化した酸素は熱交換器13、加熱器14で約300℃に加熱し、触媒反応器15で不純物の炭化水素を燃焼し、水と炭酸ガスにする。次に、このガスを熱交換器13で冷却した後、吸着器16で水と炭酸ガスを除去して、次段のキセノン濃縮装置17の原料ガスとする。
【0029】
この原料ガスを、温度−5〜40℃でキセノン濃縮装置17の吸着筒17aへ導入する。吸着筒17aでは、常温でキセノンのみが吸着され、筒上部からはクリプトンやCF、SFといったフッ化物を含む酸素ガスが排ガスとして排出される。
キセノンの吸着工程が終了後、管19よりパージ用ガスとして窒素または酸素を導入して吸着筒17aをパージすることにより、吸着筒17aに残存するKr,CF,SFなどの不純物ガスを排出する。
【0030】
このとき、吸着筒17a内部の空隙に残存するキセノンを回収するため、再生済みの吸着筒17bに一定時間パージガスを導入し、キセノンを回収しても良い。パージが完了したら、ヒーター(図示略)により内部の吸着剤を50〜200℃に加熱することにより、吸着されたキセノンが脱着される。脱着されたキセノンは吸着筒17aから流出し、管18を通って液体窒素で冷却されたキセノン捕集器により固化・回収される。
この段階で得られるガス中のキセノン濃度は、特に限定されないが、例えば約99.99%以上である。
【0031】
吸着筒17aにおけるキセノンの脱着が終了した後、窒素ガスまたは酸素ガスを管19から冷却用ガスとして導入し、吸着筒17aの冷却を行う。冷却工程で吸着筒1aを常温にまで冷却後、昇圧を行い待機状態となる。
なお、図2に示した例においては、原料ガスの導入方向とキセノンの導出方向が、図1に示した例と逆となっている。このように、本発明のキセノン濃縮装置においては、原料ガスの導入方向とキセノンの導出方向は限定されない。
また、複式精留塔11と組み合わせるキセノン濃縮装置は、圧力スイング吸着によるものであってもよい。
【0032】
濃縮されたキセノンは、更に別の方法で精製・濃縮することができる。例えば、得られたキセノンをゲッターなどの高純度精製器に導入し、極めて高純度のキセノンを得ることも可能である。空気液化分離装置の規模によっては、高純度精製器を設けるのは、経済的に好ましくない場合もある。したがって、離れた地域に設置された、いくつかの空気液化分離装置から、濃縮されたキセノンをキセノン精製工場に運び、まとめて処理することも考えられる。
【0033】
以下、具体例を示す。
(実施例1)
シリカ/アルミナ比が11.9のH−ZSM5ゼオライトを硝酸銀水溶液(0.02mol/L)に浸し、暗室、室温下24時間攪拌した。吸引濾過後、同様のイオン交換操作を1回実施した。150℃で乾燥後、測定セルに充填し、200、400、600℃で真空加熱を行い、活性化した。加熱時の昇温速度は50℃/hとした。
定容式吸着量測定装置を用いて、25℃におけるキセノン吸着量を測定した。キレート滴定法により、Agイオンの含有量を求めたところ、銀イオン交換率は約75%であった。
それぞれの試料のキセノン吸着等温線を図3に示す。銀イオン交換ZSM5ゼオライトは再生温度200℃においても、大きなキセノン吸着量を示すことが分かる。
【0034】
(実施例2)
シリカ/アルミナ比が11.9のH−ZSM5ゼオライトを硝酸銀水溶液(0.02mol/L)に浸し、暗室、室温下6時間および12時間攪拌した。吸引濾過後、同様のイオン交換操作を1回実施した。それぞれ150℃で乾燥後、測定セルに充填し、600℃で真空加熱を行い、活性化を行った。
実施例1と同様にキセノン吸着量を測定した。実施例1の600℃再生試料の結果も合わせ図4に示す。銀イオン交換率は、それぞれ45%、65%であった。図4より、イオン交換率30%以上でキセノン吸着量が発現していることが分かる。
【0035】
(実施例3)
実施例1の400℃で活性化した試料について、25℃における一酸化炭素、酸素、窒素、キセノン、クリプトン、CF、SFの吸着量を測定した。それぞれの吸着等温線を図5に示す。
銀交換ZSM5ゼオライトは、一酸化炭素およびキセノンをよく吸着するが、酸素、窒素、クリプトン、CF、SFをわずかしか吸着しないことが分かる。
一酸化炭素が吸着するとキセノンが吸着されないので、本発明による銀交換ZSM5ゼオライトによるガス精製の場合、原料ガス中には一酸化炭素が含まれていないことが必要である。
【0036】
(実施例4)
実施例4では、本発明のキセノン濃縮装置を用いて、酸素ガス中のキセノンの吸着を行った。
銀交換ZSM5ゼオライトの未活性化試料を、単塔式の吸着塔に充填し、窒素気流下100℃/hで昇温後、300℃で2時間の加熱処理を行って活性化した。
キセノンを50ppm、クリプトンを500ppmを含む酸素ガスを200kPa、25℃の条件下で流通させ、出口ガス中のキセノン濃度およびクリプトン濃度を、熱伝道度型検出器−ガスクロマトグラフィー(TCD−GC)を用いて測定した。結果を図6に示す。クリプトンは全く吸着せずに破過してくるのに対して、キセノンは吸着されることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
以上のように、本発明によれば、キセノンを濃縮する工程において常温の吸着装置を用いることができるため、装置のイニシャルコストおよび運転コストを低減することが可能となり、安価なキセノンの製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明のキセノン濃縮装置の一例を示す図である。
【図2】本発明のキセノン濃縮装置を備えた空気液化分離装置の一例を示す図である。
【図3】銀イオン交換ZSM5ゼオライトの活性化温度とキセノン吸着量の関係を示す図である。
【図4】銀イオン交換ZSM5ゼオライトの銀イオン交換量とキセノン吸着量の関係を示す図である。
【図5】銀イオン交換ZSM5ゼオライトのキセノン、酸素、窒素、クリプトン、CF4、SF6の吸着等温線である。
【図6】銀イオン交換ZSM5ゼオライトを充填した吸着筒を用いた酸素中のキセノン、クリプトンの破過曲線である。
【符号の説明】
【0039】
1a、1b・・・吸着筒、2a、2b・・・ヒータ、3、4、5、6、7・・・管、11・・・複式精留塔、11a・・・低圧塔下部、12・・・気化器、13・・・熱交換器、14・・・加熱器、15・・・触媒反応器、16・・・吸着器、17・・・キセノン濃縮装置、17a、17b・・・吸着筒、18、19・・・管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キセノンを含み、一酸化炭素を含まない常温の原料ガスからキセノンを吸着する吸着剤であって、銀イオン交換ZSM5ゼオライトからなるキセノン吸着剤。
【請求項2】
前記銀イオン交換ZSM5ゼオライトのシリカ対アルミナ比が5〜50であり、銀イオン交換量が30%以上である請求項1記載のキセノン吸着剤。
【請求項3】
キセノンを含み、一酸化炭素を含まない常温の原料ガスを、銀イオン交換ZSM5ゼオライトが充填された吸着筒に流通させる吸着工程と、減圧および/または加熱によりキセノンを脱着する脱着工程を有し、これら2つの工程を交互に繰り返すキセノンの濃縮方法。
【請求項4】
前記原料ガスが、酸素、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトンからなる群から選ばれる1つ以上を含む請求項3記載のキセノンの濃縮方法。
【請求項5】
前記原料ガスが、空気液化分離装置の複式精留塔の低圧塔下部から導出されたクリプトンを含む液体酸素を気化した酸素ガスである請求項3記載のキセノンの濃縮方法。
【請求項6】
空気液化分離装置の複式精留塔の低圧塔下部から導出されたクリプトンを含む液体酸素を気化し、得られた酸素ガスを加熱して触媒反応筒へ導入し、含有されている炭化水素類を燃焼させ、ついで前記触媒反応筒から導出した酸素ガス中の水と二酸化炭素とを吸着除去して得られたガスを原料ガスとして用いる請求項5記載のキセノンの濃縮方法。
【請求項7】
銀イオン交換ZSM5ゼオライトが充填された吸着筒を備え、圧力温度スイング吸着法によって原料ガスからキセノンを濃縮するキセノン濃縮装置。
【請求項8】
前記吸着筒を加熱するヒータと、前記吸着筒にキセノンと酸素を含む原料ガスを送り込む原料ガス管路と、前記吸着筒から脱着したキセノンガスを導出する製品キセノン管路と、前記吸着筒からキセノンを吸着した後の残余のガスを排出する排出管路と、吸着筒にパージ用ガスを送り込むパージガス管路を備えた請求項7に記載のキセノン濃縮装置。
【請求項9】
複式精留塔と、この複式精留塔の低圧塔下部から、キセノンを含み一酸化炭素を含まない液体酸素を導出するための配管と、この配管により導出した液体酸素を気化して酸素ガスを得るための気化器と、この気化器からの酸素ガスを触媒反応させる温度まで加熱するための加熱器と、この加熱器からの酸素ガス中の炭化水素を水と二酸化炭素に分解するための触媒反応筒と、この触媒反応筒からの酸素ガスの温度を常温まで下げる熱交換器と、この熱交換器によって冷却された酸素ガス中の水と二酸化炭素を除去する水・二酸化炭素除去装置と、この水・二酸化炭素除去装置からの酸素ガス中のキセノンを濃縮するためのキセノン濃縮装置とを有し、
このキセノン濃縮装置が、請求項8記載のキセノン濃縮装置であって、このキセノン濃縮装置の原料ガス管路が前記水・二酸化炭素除去装置に接続されている空気液化分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−42381(P2010−42381A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−209906(P2008−209906)
【出願日】平成20年8月18日(2008.8.18)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】