説明

キャブおよび作業機械

【課題】骨格柱体による死角を小さくすることで視界を広げることができるキャブを提供する。
【解決手段】骨格柱体31は、異形チューブの全長にわたってチューブ後面側の外側角部に、ドア枠体54と嵌合するための凹部61を形成し、また、異形チューブの全長にわたってチューブ前面側にV形溝部62を形成する。このV形溝部62内に、キャブ前面左右側部に位置する斜面ガラス36の端辺部を接着材63により接着する。異形チューブの全長にわたってV形溝部62に隣接するチューブ前面側からチューブ外面側にかけて円弧状断面の円弧状凸面部64を膨出形成する。ドア枠体54およびシール部材58を、ドア閉じ状態で凹部61内に嵌入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨格柱体とドア枠体の組合せに特徴を有するキャブおよびこのキャブを搭載した作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
作業機械は、機体に、キャブと、このキャブの前方に位置する作業装置とが設置され、キャブは、作業装置などに対する視界を確保するために枠体と窓ガラスとを組合わせて構成されている。枠体は、死角をなくす上では細く形成することが望ましいが、強度を確保する上で必要な大きさがあり、さらには、ドア枠体との関係で骨格柱体を後方へずらすことができないので、骨格柱体が視界を妨げるおそれが大きい(例えば特許文献1参照)。
【0003】
例えば、図5に示されるように、ホイールローダ1は、後部車輪2を有する後部車両3に対し、前部車輪4を有する前部車両5が、アーティキュレート軸(図示せず)を支点に、左右方向揺動自在に連結され、後部車両3と前部車両5との間に設けられたアーティキュレート用シリンダ(図示せず)により屈曲作動される。
【0004】
後部車両3上には、オペレータの運転席を囲むようにキャブ6が設置され、前部車両5にはバケット作業などに用いる作業装置7が設置されている。
【0005】
この種のアーティキュレート構造のホイールローダ1のキャブ6は、図6に示されるように前部車両5の屈曲動作に対応する斜面ガラス8を、前面ガラス9の左右両側部に用いている。
【0006】
斜面ガラス8は、図7に示されるようにキャブ6の骨格柱体11の斜面状凹部12に接着部13で固定されるものが考えられている。一方、この骨格柱体11に対し開閉されるドア枠体14が、骨格柱体11の後側に配置され、このドア枠体14から前方へ突出されたシール取付板部15にシール部材16が取付けられ、このシール部材16が、骨格柱体11の後部外側角部に形成された外角溝部17にドア閉じ状態で密着されている。ドア枠体14にはドアガラス18が取付けられている。なお、図7に示された骨格柱体11は、チューブ内側かつ前側のアール加工部r1を始点に8つのアール加工部r1,r2,r3,r4,r5,r6,r7,r8を加工する必要がある。
【特許文献1】特開平9−150756号公報(第2頁、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような枠体構造物は、前側の骨格柱体11と、この骨格柱体11の後側に位置するドア枠体14との組合せ構造により、骨格柱体11による死角が大きくなってしまい、斜面ガラス8の視界を狭めているため、作業性が低下する一因となっている。
【0008】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、骨格柱体による死角を小さくすることで視界を広げることができるキャブおよびそのキャブを用いた作業機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載された発明は、外側角部に凹部が形成された断面形状を有する骨格柱体と、骨格柱体の凹部とドア閉じ状態で嵌合するドア枠体と、ドア枠体と骨格柱体との対向面に設けられたシール部材とを具備したキャブである。
【0010】
請求項2に記載された発明は、請求項1記載のキャブにおける骨格柱体が、キャブ前側に位置する前側ピラー部と、前側ピラー部の上部から後方へ連続的に彎曲形成された円弧状部と、円弧状部に連続形成されてキャブ天板を支持する天板支持枠部とを具備したものである。
【0011】
請求項3に記載された発明は、請求項1または2記載のキャブにおける骨格柱体が、角形断面の異形チューブにより成形されたものである。
【0012】
請求項4に記載された発明は、請求項3記載のキャブにおける骨格柱体の凹部が、異形チューブの全長にわたってチューブ後面側の外側角部に形成され、骨格柱体は、異形チューブの全長にわたってチューブ前面側に形成されキャブ前面左右側部に位置する斜面ガラスの端辺部を接着するV形溝部と、異形チューブの全長にわたってV形溝部に隣接するチューブ前面側からチューブ外面側にかけて円弧状断面に膨出形成された円弧状凸面部とを具備したものである。
【0013】
請求項5に記載された発明は、機体と、この機体に搭載された請求項1乃至4のいずれか記載のキャブと、このキャブの前方にて機体に設置された作業装置とを具備した作業機械である。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載された発明によれば、骨格柱体の凹部をドア枠体に嵌合するので、その分、骨格柱体をドア枠体側にずらして、骨格柱体による死角を小さくすることができ、視界を広げることができる。
【0015】
請求項2に記載された発明によれば、1本の骨格柱体により前側ピラー部に円弧状部を介して天板支持枠部を連続形成するので、これらの加工を容易にできる。
【0016】
請求項3に記載された発明によれば、角形断面の異形チューブは、一連の骨格柱体を容易に成形できるとともに、骨格柱体をコンパクトな断面形状に形成しやすいため、視界の拡大と材料費の削減とを図れる。
【0017】
請求項4に記載された発明によれば、チューブ後面側の外側角部に形成された骨格柱体の凹部をドア枠体に嵌合するように骨格柱体の位置をずらすことで、骨格柱体による死角を小さくすることができ、さらに、チューブ前面側に形成されたV形溝部に斜面ガラスの端辺部を接着するので、斜面ガラスの接着幅が少なくなり、斜面ガラスを透して得られる視界性を向上できるとともに、接着面積は十分に確保できる。また、骨格柱体は、異形チューブのチューブ前面側からチューブ外面側にかけて円弧状断面に膨出形成された円弧状凸面部により曲面を形成することで、骨格柱体の外観デザインを向上できるとともに、凹部および円弧状凸面部により、骨格柱体としての強度、剛性を保ちながら後方への曲げ加工を容易化できる。
【0018】
請求項5に記載された発明によれば、骨格柱体による死角を小さくすることで、キャブ内オペレータの視界を広げて、機体に設置された作業装置による作業の作業性を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を、図1乃至図4に示された一実施の形態を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
図2は、作業機械としてのホイールローダ21を示し、機体22と、この機体22に搭載されたキャブ23と、このキャブ23の前方にて機体22に設置されたバケット作業などに用いる作業装置24とを備えている。
【0021】
機体22は、後部車輪25を有する後部車両26に対し、前部車輪27を有する前部車両28が、アーティキュレート軸(図示せず)を支点に、左右方向揺動自在に連結され、後部車両26と前部車両28との間に設けられたアーティキュレート用シリンダ(図示せず)により屈曲作動される構造である。
【0022】
キャブ23は、後部車両26上にてオペレータの運転席を囲むように設置され、キャブ左側および右側においてキャブ前側から後方へ略逆L形に設けられたそれぞれの骨格柱体31と、これらの骨格柱体31の後端に一体化された門形の中央柱体32と、この中央柱体32の後部に一体化された後部枠体33とを備えたフレーム構造を有し、これらのフレーム構造により支持されたキャブ天板34を備えている。
【0023】
後部車両26と左右の骨格柱体31とキャブ天板34との間のキャブ前部空間には、前面ガラス35と、この前面ガラス35の左右両側部に接着された斜面ガラス36とが設けられ、また、後部車両26と骨格柱体31と中央柱体32との間のキャブ側面空間には、ドア37が後部のヒンジ(図示せず)を支点に開閉自在に設けられ、後部ボディ38と中央柱体32と後部枠体33との間のキャブ後部空間には、後部ガラス39が設けられている。
【0024】
作業装置24は、前部車両28に設置されたもので、前部車両28と一体に設けられた1対のアーム取付ブラケット41にそれぞれリフトアーム42の基端が回動自在に軸支され、これらのリフトアーム42の先端に連結装置(いわゆるクイックカプラ)43が回動自在に軸支され、この連結装置43を介してバケット(図示せず)などがワンタッチで連結される。
【0025】
作業装置24は、各アーム取付ブラケット41と各リフトアーム42との間にそれぞれ軸連結されたリフトシリンダ44によりリフトアーム42が昇降され、また、前部車両28上に軸支されたチルトシリンダ45により、1対のリフトアーム42間に軸支されたチルトレバー46と、このチルトレバー46の下端に回動自在に軸連結されたロッド47を介して、連結装置43およびバケットがチルト回動される。
【0026】
図3および図4に示されるように、各々の骨格柱体31は、角形断面の異形チューブにより成形され、キャブ前側に位置する前側ピラー部51と、この前側ピラー部51の上部から後方へ連続的に彎曲形成された円弧状部52と、この円弧状部52に連続形成されてキャブ天板34を支持する天板支持枠部53とを備えている。
【0027】
図1に示されるように、ドア37は、角形チューブ状のドア枠体54に取付板55を介してサッシ枠56がボルト/ナットなどで取付けられ、このサッシ枠56にドア窓57が上下方向スライド可能に取付けられている。サッシ枠56およびドア窓57に替えて、ドア枠体54の取付板55にドアガラスを直接、接着しても良い。
【0028】
ドア枠体54のキャブ内面側にはゴムなどの弾力性材で成形されたシール部材58が接着されている。このシール部材58は、小舌片部58aと大舌片部58bとが溝部58cを介して拡大変形し易く形成されている。
【0029】
図1に示されるように、骨格柱体31は、異形チューブの全長にわたってチューブ後面側の外側角部に、ドア枠体54と嵌合するL形溝状の凹部61が形成され、また、異形チューブの全長にわたってチューブ前面側にV形溝部62が形成されている。すなわち、図3および図4に示されるように、凹部61は、前側ピラー部51の後面側から天板支持枠部53の下面側にわたって連続的に設けられ、またV形溝部62は、前側ピラー部51の前面側から天板支持枠部53の上面側にわたって連続的に設けられている。
【0030】
図1に示されるように、骨格柱体31のV形溝部62内に、キャブ前面左右側部に位置する斜面ガラス36の端辺部が接着材63により接着され、また、異形チューブの全長にわたってV形溝部62に隣接するチューブ前面側からチューブ外面側にかけて円弧状断面の円弧状凸面部64が膨出形成されている。
【0031】
V形溝部62は、骨格柱体31のチューブ内側かつ前側のアール加工部R1と連続的に形成されている。骨格柱体31は、このアール加工部R1を始点に7つのアール加工部R1,R2,R3,R4,R5,R6,R7を有するので、図7に示された骨格柱体11のアール加工部r1,r2,r3,r4,r5,r6,r7,r8と比較すれば、アール加工箇所を減らすことができ、製作費の削減を図れる。
【0032】
骨格柱体31の断面形状は、凹部61が、アール加工部R4,R5間の平面部65と、アール加工部R5,R6間の平面部66とにより、凹角状に形成され、平面部66と対向するドア枠体54の対向面にシール部材58が接着され、これらのドア枠体54およびシール部材58が、ドア閉じ状態で凹部61内に嵌入されると、シール部材58は、凹部61の平面部66からアール加工部R6にわたって密着されるように構成されている。
【0033】
骨格柱体31とドア枠体54とを合わせた断面がほぼ矩形、特に正方形になるのが好ましい。
【0034】
次に、この実施の形態の作用効果を説明する。
【0035】
キャブ内オペレータの前方視界は、前面ガラス35および斜面ガラス36を通して確保し、側方視界は、ドア窓57を通して確保し、後方視界は、後部ガラス39を通して確保する。
【0036】
ドア37を閉めると、そのドア枠体54およびシール部材58が凹部61内に嵌入し、シール部材58の小舌片部58aと大舌片部58bが骨格柱体31の凹部61内の平面部66に押圧されて拡大するように変形しながら密着し、シール性能を確保する。
【0037】
このように、骨格柱体31の凹部61をドア枠体54と嵌合するので、その分、骨格柱体31をドア枠体54側にずらして、骨格柱体31による死角を小さくすることができ、前面ガラス35および斜面ガラス36を通した前方視界を広げることができる。
【0038】
1本の骨格柱体31により前側ピラー部51に円弧状部52を介して天板支持枠部53を連続形成するので、これらを溶接付けする場合より加工を容易にできる。
【0039】
角形断面の異形チューブは、一連の骨格柱体31を容易に成形できるとともに、骨格柱体31をコンパクトな断面形状に形成しやすいため、視界の拡大と材料費の削減とを図れる。
【0040】
チューブ後面側の外側角部に形成された骨格柱体31の凹部61をドア枠体54と嵌合するように骨格柱体31の位置をずらすことで、この骨格柱体31による死角を小さくすることができ、さらに、チューブ前面側に形成されたV形溝部62に斜面ガラス36の端辺部を接着材63により接着するので、斜面ガラス36の接着幅が少なくなり、斜面ガラス36を透して得られる視界性を向上できるとともに、接着材63による接着面積は十分に確保できる。
【0041】
骨格柱体31は、異形チューブのチューブ前面側からチューブ外面側にかけて円弧状断面に膨出形成された円弧状凸面部64により曲面を形成することで、骨格柱体31の外観デザインを向上できるとともに、凹部61および円弧状凸面部64により、骨格柱体としての強度、剛性を保ちながら後方への曲げ加工を容易化できる。
【0042】
ホイールローダ21は、骨格柱体31による死角を小さくすることで、キャブ23内のオペレータの前方視界を広げて、機体22に設置された作業装置24による作業の作業性を向上できる。
【0043】
本発明は、ホイールローダ、油圧ショベル、ブルドーザなどのキャブおよび作業機械に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係るキャブの骨格柱体およびドア枠体の一実施の形態を示す断面図である。
【図2】本発明に係る作業機械の一実施の形態を示す斜視図である。
【図3】同上キャブの骨格柱体を示す正面図である。
【図4】同上骨格柱体の側面図である。
【図5】従来の作業機械を示す斜視図である。
【図6】従来のキャブの斜視図である。
【図7】従来のキャブの骨格柱体およびドア枠体を示す断面図である。
【符号の説明】
【0045】
21 作業機械としてのホイールローダ
22 機体
23 キャブ
24 作業装置
31 骨格柱体
34 キャブ天板
36 斜面ガラス
51 前側ピラー部
52 円弧状部
53 天板支持枠部
54 ドア枠体
58 シール部材
61 凹部
62 V形溝部
64 円弧状凸面部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側角部に凹部が形成された断面形状を有する骨格柱体と、
骨格柱体の凹部とドア閉じ状態で嵌合するドア枠体と、
ドア枠体と骨格柱体との対向面に設けられたシール部材と
を具備したことを特徴とするキャブ。
【請求項2】
骨格柱体は、
キャブ前側に位置する前側ピラー部と、
前側ピラー部の上部から後方へ連続的に彎曲形成された円弧状部と、
円弧状部に連続形成されてキャブ天板を支持する天板支持枠部と
を具備したことを特徴とする請求項1記載のキャブ。
【請求項3】
骨格柱体は、
角形断面の異形チューブにより成形された
ことを特徴とする請求項1または2記載のキャブ。
【請求項4】
骨格柱体の凹部は、異形チューブの全長にわたってチューブ後面側の外側角部に形成され、
骨格柱体は、
異形チューブの全長にわたってチューブ前面側に形成されキャブ前面左右側部に位置する斜面ガラスの端辺部を接着するV形溝部と、
異形チューブの全長にわたってV形溝部に隣接するチューブ前面側からチューブ外面側にかけて円弧状断面に膨出形成された円弧状凸面部と
を具備したことを特徴とする請求項3記載のキャブ。
【請求項5】
機体と、
この機体に搭載された請求項1乃至4のいずれか記載のキャブと、
このキャブの前方にて機体に設置された作業装置と
を具備したことを特徴とする作業機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−195346(P2008−195346A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−35288(P2007−35288)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(000190297)新キャタピラー三菱株式会社 (1,189)
【Fターム(参考)】