説明

ギヤの衝撃試験機

【課題】 歯車の噛合部に、回転時のような接線方向の剪断荷重を作用させて試験できるギヤの衝撃試験機を提供すること。
【解決手段】 試験機本体1に、鋼球Bの落下方向の移動を許容されて取付けられた移動板9と、移動を禁止されて取付けられた固定板3と、移動板9,10に取付けられ、これと一体行動するラック5,6と、ラック5,6に噛合して、固定板3に回転可能に取付けられたピニオンギヤ4とから構成した試験体Tを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はギヤの衝撃試験機に関し、特にギヤの回転時に噛合部にかかる剪断方向の耐荷重試験を行うのに好適なギヤの衝撃試験機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の衝撃試験機としては、特許文献1に記載される技術が知られている。すなわち、鋼球(ウェイト)を落下させて試験体に衝突させ、試験体の変形具合から試験体の耐衝撃性を測定するものである。
【0003】
ところが、従来の衝撃試験機は、単純に試験体に鋼球を落下方向に衝突させるため、ギヤ(歯車)の回転方向(接線方向)の耐荷重試験や耐衝撃試験を行うには適したものでなかった。
【特許文献1】特開2005−233910号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の通り、実際にギヤを使用する場合に、ギヤが垂直な圧力で潰れてしまうような破壊や変形を問題とすることはほとんど無い。
【0005】
しかしながら、プリンタの用紙カッターに噛み込みが生じて駆動機構のギヤに衝撃的な負荷が掛かる場合や、プラテンローラーで用紙のフィードとバックフィードを繰り返す場合等、駆動部のギヤに衝撃的な荷重がかかり、噛合部に損傷が発生することは考え得ることである。
【0006】
このような状態を再現するのに、従来は実際にプリンタを稼働させて繰り返し印字をさせて装置全体の耐久性を試験していた。
このため、試験に長い時間と電力や消耗品および労力が必要だった。
【0007】
本発明は上記従来技術による課題を解決するためになされたもので、本発明は実際のギヤの使用状態に近い条件、すなわち、回転時、他のギアとの噛合時に歯部にかかる接線方向の剪断荷重を加えて試験できるギヤの衝撃試験機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明が採用する構成は、落下させた鋼球を試験体に衝突させて試験体の耐衝撃特性を測定するギヤの衝撃試験機であって、前記試験体は、試験機本体に移動を禁止して設けた固定部および支持軸と、前記支持軸に回転可能に支持されたピニオンギヤと、前記ピニオンギヤに噛合する第一、第二のラックと、前記試験機本体および第一のラックに取付けられ、前記鋼球の落下方向の移動を許容された第一の移動部と、前記試験機本体および第二のラックに取付けられ、前記ピニオンギヤの回転と第二のラックを介して駆動される方向の移動を許容された第二の移動部と、前記固定部と第二の移動部の間に設けられた圧力センサとからなる。
【0009】
この場合、前記圧力センサを用いて、第二の移動部により付勢された圧力変動を時間経過と共に記録するのが好ましい。
【0010】
また、前記ラックはピニオンギヤよりも強靭な材料から構成するのが好ましい。
【0011】
上記構成によれば、鋼球を落とす高さと回数を調整することにより、ラックとピニオンギヤとの噛合部に、接線方向の剪断荷重を段階的に繰り返し与えることができ、ギヤに破壊が起こる条件を定量的に計測できる。
【0012】
特に、圧力センサを用いて第二の移動部により付勢された圧力変動を時間経過と共に記録すると、ギヤの変形に用いられたエネルギーも測定できる。
【0013】
そして、例えばラックは金属材料、ピニオンギヤはプラスチック材料のように、ラックをピニオンギヤよりも強靭な材料から構成することで、変形や破壊が起こるのはピニオンギヤの側となるよう条件を固定できる。
こうして、プラスチックの射出成型条件を策定したり、強度設計に役立てることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の衝撃試験機によれば、鋼球を所定の高さから試験体に落下させることにより、ギヤの所定部位(噛合部)に接線方向であり、かつ、剪断方向に定量的な衝撃を繰り返し与えることができる。
【0015】
そして、従来の耐久試験のように、ギヤを組み込んだ機械を稼働させることなく、電力や消耗品が節約でき、試験時間も短縮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この形態によりこの発明が限定されるものではなく、また、以下に示す形態の構成要素には、当業者が置換可能且つ容易なもの、或いは実質的同一のものが含まれるものとする。
【0017】
図1は本発明の実施の形態にかかるギヤの衝撃試験機を示す側断面図、図2は図1中の矢示II-II方向断面図、図3は使用方法の一例を示す機能説明図である。
【0018】
この衝撃試験機1は、鋼球(ウェイト)Bを試験体Tに衝突させることにより、試験体Tの耐衝撃特性を測定する試験機である。
この衝撃試験機1は、試験機本体2と、該試験機本体2の一端側に設けられた試験体Tから構成され、前記試験機本体2は、図示の如く一の幅方向に伸張する長板状の部材からなり、鋼球Bの落下の衝撃等に対し撓みや変形が生じないよう、ステンレススチール等の材料から頑丈に形成されている。
【0019】
前記試験体Tは、以下に述べる固定板3、移動板9,10、ラック5,6、ピニオンギヤ4、およびガイド部材7,8とから大略構成される。
【0020】
3は固定部としての固定板である。該固定板3は断面がL字状であり、前記試験機本体2の一端側に設けられて垂直に突出する突出部3Aと、該突出部3Aの先端から前記試験機本体2に平行に伸張する対向部3Bよりなる。
前記突出部3Aには、試験機本体に対して平行に突出する支持軸11が設けられ、ピニオンギヤ4が回転可能に支持されている。
固定板3は試験機本体2に移動を禁止して設けられ、試験機本体2と強固に一体化している。
また、前記ピニオンギヤ4は、射出成形等で大量安価に製造できるエンジニアリングプラスチック等で構成されている。
【0021】
5,6は前記ピニオンギヤ4に噛合する第一,第二のラックであり、各ラック5,6は前記ピニオンギヤ4よりも強靱な、たとえばステンレス等の金属材料からなり、試験機本体2の一端側と固定板3の突出部3Aとにそれぞれ固定されたガイド部材7,8を介して水平移動可能に設けられている。
【0022】
9,10はそれぞれ前記第一,第二のラックに取り付けられた移動部としての移動板であり、このうち第一の移動板9は前記ガイド部材7に支持されて鋼球Bの落下方向の移動を許容されており、第二の移動板10は第二のラックに取付けられ、ガイド部材8に支持されて前記ピニオンギヤ4の回転を介して固定板3の対向部3A側への移動を許容されている。
11は前記対向部3Aと第二の移動板10の間に設けられた圧力センサである。該圧力センサ11は、圧力の変化を電気信号に変換して図示しない測定機器へと出力し、測定機器は時間の経過とともに圧力値を記録する。
そして、(受けた圧力×時間)の式より求められるグラフ上の面積から、ギヤ4が破壊に至るまでに受けたエネルギーが求められる。
【0023】
なお、前記ピニオンギヤ4は本実施の形態における被験材料となるもので、その外周面には前記ラック5,6と噛合する噛合部4Aを備えている。このようなピニオンギヤ4は、その材質、製造加工方法や構造等が耐久性に及ぼす影響を研究調査する対象として用いられる。
【0024】
なお、12,13は前記試験機本体2の両側面を覆うように設けられたカバー板であり、該カバー板12には鋼球Bを落下させる高さを測定するためのスケール目盛12Aが設けてある。
【0025】
本実施の形態のギヤの衝撃試験機1は以上の構成を有するもので、使用時には垂直に立てた状態とするか、図3に示すように試験機本体2を下側にしてほぼ垂直に近い傾斜状態として固定する。
【0026】
そして、鋼球Bを所定の高さから試験体Tに向け自然落下させるという基本構成においては従来技術のものと格別差異はない。
【0027】
然るに、ギヤの衝撃試験機1によれば、鋼球Bを所定高さから試験体Tに落下させることにより、ピニオンギヤ4とラック5,6との噛合部に、剪断方向で定量的な衝撃を繰り返し与えることができる。
これにより、従来の耐久試験のように、ピニオンギヤを組み込んだ機械を稼働させる必要がなく、電力や消耗品が節約でき、試験時間も労力も大幅に短縮できる。
【0028】
更に、圧力センサ6の出力を記録することにより、(受けた圧力×時間)の式より、破壊に至るまでに受けたエネルギーの定量的なデータの取得も可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明のギヤの衝撃試験機は、プラスチック製ギヤの材質、加工、構造設計、製品評価、保証などに用いることができる。
また、噛合して回転する部材の強度試験に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態にかかるギヤの衝撃試験機を示す横断面図である。
【図2】図1中の矢示II-II方向断面図である。
【図3】ギヤの衝撃試験機の使用方法の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0031】
1…衝撃試験機、2…試験機本体、3…固定板(固定部)、4…ピニオン、5…第一のラック、6…第二のラック、7,8…ガイド部材、9…第一の移動板、10…第二の移動板、11…圧力センサ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
落下させた鋼球を試験体に衝突させて試験体の耐衝撃特性を測定するギヤの衝撃試験機であって、前記試験体は、試験機本体に移動を禁止して設けた固定部および支持軸と、
前記支持軸に回転可能に支持されたピニオンギヤと、
前記ピニオンギヤに噛合する第一、第二のラックと、
前記試験機本体および第一のラックに取付けられ、前記鋼球の落下方向の移動を許容された第一の移動部と、
前記試験機本体および第二のラックに取付けられ、前記ピニオンギヤの回転と第二のラックを介して駆動される方向の移動を許容された第二の移動部と、
前記固定部と第二の移動部の間に設けられた圧力センサとから構成したことを特徴とするギヤの衝撃試験機。
【請求項2】
前記圧力センサを用いて、第二の移動部により付勢された圧力変動を時間経過と共に記録することを特徴とする請求1に記載のギヤの衝撃試験機。
【請求項3】
前記ラックはピニオンギヤよりも強靭な材料からなる請求1または請求項2に記載のギヤの衝撃試験機。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−322129(P2007−322129A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−149254(P2006−149254)
【出願日】平成18年5月30日(2006.5.30)
【出願人】(000130581)株式会社サトー (1,153)
【Fターム(参考)】