説明

クッション材の製造方法

【課題】圧縮反発力、体圧分散に加えて、臀部とマット間のせん断によって生じるずれ力が低く、吸湿性があり蒸れ防止の優れたクッション材を提供することを課題とする。
【解決手段】平均官能基数が2〜8、EO/POモル比が40/60〜90/10、かつ水酸基価が5〜110mgKOH/gのポリオキシエチレンポリオキシプロピレンポリオールである活性水素成分ポリエーテルポリオール(A)及び有機ポリイソシアネート(B)を混合し、その混合物を加熱してゲル化させることを特徴とする製造方法により、目的とするクッション材を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寝具、自動車シート、椅子、座布団等のクッション材の製造方法に関する。特に、体圧分散が要求される褥瘡予防用車椅子等に適用されるクッション材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
老齢化社会を迎え、歩行が困難、車椅子生活という人が増加しつつある。このような場合は、長時間座る事が強いられるので、場合によっては褥瘡が発症する事態となっている。従って、時代とともに椅子、座布団等のクッション材はクッション性能もより高いものが要求されるようになってきている。近年、褥瘡の外的要因は、体圧(圧縮力)だけでなくずれ力(せん断力)が重要な要因のひとつになってきている。例えば、姿勢の悪化、自分で体位変換できない人にとっては、長時間座っている間にせん断力が働くようになる。
【0003】
クッション材としてはエアークッション、ウレタン発泡体クッション、ゲルクッションに大別される。ゲルクッションにはポリシスイソプレン、スチレンイソプレンスチレンブロックポリマー等の合成ゴム系ゲル、ポリウレタン系ゲル、シリコーン系ゲル等がある。エアークッションは体圧分散性に優れるものの、フラフラして体位保持性がなく、設備が大掛かりで高価であるという問題を有し、また、ゲルクッションも蒸れるという欠点に加えて冷たい、重いという問題があった。従ってバランスのとれたウレタン発泡体クッションが主流であった。
【0004】
従来のウレタン発泡体クッション材は、特にせん断力に対して良くないという欠点がある。活性水素成分と有機ポリイソシアネートとを、水からなる発泡剤、ウレタン化触媒、及び整泡剤の存在下で反応させて得た軟質ポリウレタンフォームについて開示がある(特許文献1)。該ポリウレタンフォームを用いたクッションは、経日安定性、耐湿物性が良く、特に車両用座席のクッションとして著しい有用性を発揮することが開示されている。しかし、特にせん断力に対して優れた効果を発揮するとはいえない。
一方、ゲルクッション材は蒸れる、重たい、冷たい、取り扱いにくいという問題は有すものの、ずれ力は優れている事が確認された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-2788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来の圧縮反発力、体圧分散に加えて、臀部とマット間のせん断によって生じるずれ力が低く、吸湿性があり蒸れ防止の優れたクッション材に用いるためのゲル組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、クッション材のためのゲル組成物に対して活性水素成分ポリエーテルポリオール(A)及び有機ポリイソシアネート(B)が優れた材料であることに着目し、これらの適切な配合比を見出すことに成功し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は以下よりなる。
1.平均官能基数が2〜8、EO/POモル比が40/60〜90/10、かつ水酸基価が5〜110mgKOH/gのポリオキシエチレンポリオキシプロピレンポリオールである活性水素成分ポリエーテルポリオール(A)及び有機ポリイソシアネート(B)を混合し、その混合物を加熱してゲル化させることを特徴とするクッション材の製造方法。
2.活性水素成分ポリエーテルポリオール(A)と有機ポリイソシアネート(B)の配合比はイソシアネートインデックス0.3〜1.1である前項1に記載のクッション材の製造方法。
3.有機ポリイソシアネート(B)が、平均官能基数が2〜8であり、EO/POモル比が40/60〜90/10であり、かつ水酸基価が5〜110mgKOH/gであるポリオキシエチレンポリオキシプロピレンポリオール及び有機ポリイソシアネートを重合させてなるポリイソシアネートプレポリマーである、前項1または2に記載のクッション材の製造方法。
4.可塑剤を5〜30重量%になるように添加して混合物を得ることを特徴とする前項1〜3のいずれか一に記載のクッション材の製造方法。
5.混合物をウレタンフィルムで被覆して加熱することを特徴とする前項1〜4のいずれか一に記載のクッション材の製造方法。
6.ウレタンフィルムの厚みは20〜50μmである前項5に記載のクッション材の製造方法。
7.80℃で20時間加熱することを特徴とする前項1〜6のいずれか一に記載のクッション材の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のゲル組成物を含むクッション材は体圧分散がよく、ずれ応力に対して緩和効果があり、座位保持性に優れ、特に車椅子等の長時間使用時の褥瘡予防に効果が認められる。また、クッション材に含まれるゲル組成物のポリエーテルポリオールのエチレンオキサイド(EO)/プロピレンオキサイド(PO)比がEO側であり、吸湿性が高く蒸れを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のクッション材のためのゲル組成物は、活性水素成分ポリエーテルポリオール(A)及び有機ポリイソシアネート(B)を主成分として構成される。
【0011】
本発明において、活性水素成分ポリエーテルポリオール(A)は、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンポリオールである。具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等の多価アルコール類を開始剤とし、これにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイドのアルキレンオキサイドの付加重合反応により製造されたものである。これらの共重合体の構成はランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよい。さらに、このポリオールの中には他のポリオキシアルキレン、例えばポリオキシテトラメチレン骨格を共重合させたものでもよい。但し、オキシエチレン基、オキシプロピレン基の割合は全分子量の80〜90%を占めることが必要である。
【0012】
これらのポリオールは1種類のみの使用であってもよいし、また2種以上を併用してもよい。ポリオールの分子量として、分子量500〜3000のものが好適である。上述のポリオール成分以外に、他のポリオール、例えばポリオキシテトラメチレングリコールやブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオールといったポリオールを一部使用することもできる。
【0013】
本発明に用いられる活性水素成分ポリエーテルポリオール(A)は、平均官能基数が2以上、8以下であることが好ましい。平均官能基数が2未満では、非常に柔らかくなりすぎる傾向にあり、8より大きいと非常に脆く、硬くなる傾向にある。また、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンポリオールのEO/POモル比が40/60〜90/10であり、かつ水酸基価が5〜110mgKOH/gであることが望ましい。EO/POモル比が40/60〜90/10である場合に、適度な吸湿性が得られる。EO/POモル比が40/60よりPO側であると吸湿性が乏しく90/10よりEO側であると製造的に取り扱いにくくなる。
【0014】
本発明において、有機ポリイソシアネート(B)は、従来からポリウレタンフォームに使用されている自体公知のものを使用することができる。
例えば、有機ポリイソシアネートの例として、芳香族ポリイソシアネート及びこれらのイソシアネートの粗製物等を挙げることができる。具体的には、2,4-及び2,6-トリレンジイソシアネート(TDI)、粗製TDI、2,4'-及び4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート(粗製MDI)が挙げられ、脂肪族ポリイソシアネートとして、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、脂環式ポリイソシアネートとしては、イソホロンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、4,4-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が例示される。これらのポリイソシアネートは、単独で用いてもよく、又は2種以上を混合して用いることもできる。これらのポリイソシアネートのなかで特に望ましいポリイソシアネートは2,4-及び2,6-トリレンジイソシアネート(TDI)、粗製TDI、2,4'-及び4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート(粗製MDI)である。ポリイソシアネートは環境衛生面からイソシアネート蒸気圧の低いポリイソシアネートプレポリマーを使用することが好ましい。
【0015】
本発明のゲル組成物の原料として、ポリイソシアネートプレポリマーを使用することもできる。該プレポリマーは、活性水素成分ポリエーテルポリオール(A)及び有機ポリイソシアネート(B)を主成分とすることができる。(B)としてTDI及び/又はMDIを主成分とし、(A)としてポリエーテルポリオールの平均官能基数が2〜8であり、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンポリオールのEO/POモル比が40/60〜90/10、かつ水酸基価が5〜110mgKOH/gのものを使用することができ、これらを重合させて合成することができる。
プレポリマーを作製する場合のイソシアネートとポリオールの配合比は、イソシアネートインデックス(NCO基/OH基モル比)R=1.1〜10の範囲が好適である。
【0016】
該ポリイソシアネートプレポリマーの合成に、更に鎖延長剤を使用することができる。鎖延長剤は、自体の公知材料を用いることができ、その例としてエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオールのようなジオール類、エチレンジアミン、トリレンジアミン、イソホロンジアミンといったジアミン類をあげることができる。
【0017】
活性水素成分ポリエーテルポリオール(A)と有機ポリイソシアネート(B)の配合比はイソシアネートインデックスR=0.3〜1.1が好適である。0.3以下であると、ポリオールがブルーミングする、柔らかくなりすぎる、さらには固まらない等の問題が生じ、また、1.1以上とすると、後硬化で水分と反応し、硬くなりすぎるという問題がある。
【0018】
本発明のクッション材に使用されるゲル組成物は、活性水素成分ポリエーテルポリオール(A)と有機ポリイソシアネート(B)を混合し、加温することによりゲル化させて作製することができる。また、上記により得られたプレポリマーを用いて、加温することによりゲル化させて作製してもよい。
【0019】
本発明において、ゲル組成物調製の際、可塑剤としてグリコールジエーテル類、炭酸プロピレン、その他芳香族系炭化水素類を配合することができる。
グリコールジエーテル類の具体例としては、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルグリコールジメチルエーテルメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。
【0020】
可塑剤のゲル組成物中の含有量は、5〜30重量%、好ましくは10〜20重量%とすることができる。可塑剤の含有量が5重量%に満たない場合は可塑効果がなく、30重量%を超えると発泡体がやわらかくなりすぎ、形状を保持しない。
【0021】
上記必須成分の他、ウレタン化触媒、整泡剤、難燃剤及び/又は老化防止剤等を適宜配合することができる。
ウレタン化触媒として、ウレタン化反応を促進する全ての触媒を使用することができる。例えば、トリエチレンジアミン、ビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテル、N,N,N',N'-テトラメチルヘキサメチレンジアミンなどの3級アミン類;酢酸カリウム、2-エチルヘキサン酸カリウム等のカルボン酸金属塩;スタナスオクトエート、ジブチルスズジラウレート等の有機金属化合物が挙げられる。
難燃剤として、リン酸エステル類、ハロゲン化リン酸エステル類等が挙げられる。
【0022】
本発明のクッション材は、所定の型に流してゲル化させ、ゲル組成物を調製した後に袋に封入して作製することができる。本発明のゲル組成物は、そのままではタックがあるため、表面を柔軟なフィルムにより被覆することが必要である。被覆材としては、伸縮性のあるポリウレタンフィルムが好適であり、さらに透湿性の高いものが好適である。該フィルムの厚みは柔軟性、透湿性、強度の観点から20〜50μmが好適である。
【実施例】
【0023】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。
【0024】
以下の各実施例に示すポリイソシアネートプレポリマーは、以下に従い調製した。
(1)ポリイソシアネートプレポリマーA
2,4'及び4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を50部、及び、ポリオール(エチレンオキサイド(EO)/プロピレンオキサイド(PO)=75/25、OH価=56、分子量=3,000)を50部配合し、80℃で攪拌しながら加熱してポリイソシアネートプレポリマーAを調製した。
(2)ポリイソシアネートプレポリマーB
2,4-及び2,6-トリレンジイソシアネート(TDI)を5部、及び、ポリオール(EO/PO=70/30、OH価=7.5、分子量=15,000)を95部配合し、80℃で攪拌しながら加熱してポリイソシアネートプレポリマーBを調製した。
【0025】
(実施例1)
ポリイソシアネートプレポリマーAを12.5部、ポリイソシアネートプレポリマーBを37.5部、及び、ポリエーテルポリオール(ポリオキシエチルポリオキシプロピル化グリセリン)(EO/PO=50/50)(分子量2500)を50部混合し、該混合物を厚さ30μmウレタンフィルム袋に封入し、80℃で約20時間加温しゲル化させた。その後、室温に戻してクッション材(約40cm×約40cm×約3cm)を作製した。
【0026】
(実施例2)
ポリイソシアネートプレポリマーAを14.5部、ポリエーテルポリオール(ポリオキシエチルポリオキシプロピル化グリセリン)(EO/PO=50/50)(分子量2500)を85.5部混合し、該混合物を厚さ30μmウレタンフィルム袋に封入し、80℃で約20時間加温しゲル化させた後、室温に戻してクッション材(約40cm×約40cm×約3cm)を作製した。
【0027】
(実施例3)
ポリイソシアネートプレポリマーAを21.6部、ポリエーテルポリオール(2官能ポリオール)(EO/PO=80/20)(分子量2000)を78.4部混合し、該混合物を厚さ30μmウレタンフィルム袋に封入し、80℃で約20時間加温しゲル化させた後、室温に戻してクッション材(約40cm×約40cm×約3cm)を作製した。
【0028】
(比較例1、2)
比較例として、市販ゲルクッション材である合成ゴム系ゲルクッション材(約40cm×約40cm×約4cm)(比較例1)及びポリウレタン系ゲルクッション材(約40cm×約40cm×約3cm)(比較例2)の2種類を準備した。
【0029】
上記実施例及び比較例について、圧縮力及びずれ力を官能評価したが、いずれも柔らかくクッション材として好適であり、特に差は認められなかった。
一方、吸湿性については中身のゲルを取り出して水に浸漬し、約10分経過後の状態をみた場合、実施例1、2、3はいずれも膨潤したのに対して比較例1,2は変化は認められなかった。以上の結果より、実施例のクッション材は、柔軟性に富み、かつ、吸湿性も優れており、長時間使用しても蒸れを軽減化できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0030】
以上説明したように本発明のゲル組成物によるクッション材は体圧分散がよく、ずれ応力に対して緩和効果があり、座位保持性に優れる上に、吸湿性が高く蒸れを防止することができる。したがって、本発明のゲル組成物によるクッション材は、特に車椅子等の長時間使用時の褥瘡予防に効果が期待できる。また、医療の分野のみならず乗用車等に長時間座すことが必要な場合も、疲労感及び蒸れが軽減化され、快適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均官能基数が2〜8、EO/POモル比が40/60〜90/10、かつ水酸基価が5〜110mgKOH/gのポリオキシエチレンポリオキシプロピレンポリオールである活性水素成分ポリエーテルポリオール(A)及び有機ポリイソシアネート(B)を混合し、その混合物を加熱してゲル化させることを特徴とするクッション材の製造方法。
【請求項2】
活性水素成分ポリエーテルポリオール(A)と有機ポリイソシアネート(B)の配合比はイソシアネートインデックス0.3〜1.1である請求項1に記載のクッション材の製造方法。
【請求項3】
有機ポリイソシアネート(B)が、平均官能基数が2〜8であり、EO/POモル比が40/60〜90/10であり、かつ水酸基価が5〜110mgKOH/gであるポリオキシエチレンポリオキシプロピレンポリオール及び有機ポリイソシアネートを重合させてなるポリイソシアネートプレポリマーである、請求項1または2に記載のクッション材の製造方法。
【請求項4】
可塑剤を5〜30重量%になるように添加して混合物を得ることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一に記載のクッション材の製造方法。
【請求項5】
混合物をウレタンフィルムで被覆して加熱することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一に記載のクッション材の製造方法。
【請求項6】
ウレタンフィルムの厚みは20〜50μmである請求項5に記載のクッション材の製造方法。
【請求項7】
80℃で20時間加熱することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一に記載のクッション材の製造方法。

【公開番号】特開2010−189650(P2010−189650A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77020(P2010−77020)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【分割の表示】特願2005−2573(P2005−2573)の分割
【原出願日】平成17年1月7日(2005.1.7)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】