説明

クライオポンプ/トラップシステム、及び、これを搭載した真空処理装置

【課題】それぞれのクライオポンプ/トラップの消費電力を把握、及び、表示することを可能としたクライオポンプ/トラップシステム、また、そのシステムを搭載する真空処理装置を提供することにある。
【解決手段】コンプレッサから各クライオポンプに供給されるヘリウムガスの流量として、膨張空間容積と、膨張空間の絶対温度の逆数と、冷凍サイクルの実行速度との積を算出し、積の値の合計値を求め、合計値に対する各クライオポンプについての割合を算出して、コンプレッサの消費電力を前記排気システムの消費電力と等価とみなして、その割合から各クライオポンプについて消費電力を算出して表示することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クライオポンプ及びクライオトラップシステム、並びに、クライオポンプ及びクライオトラップシステムを搭載した真空処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クライオポンプ/トラップシステムは、極低温を発生させる冷凍機ユニットを搭載したクライオポンプ本体と、その冷凍機ユニットに高圧のヘリウムガスを供給するコンプレッサとを有し、クライオポンプ本体の極低温面に気体を凝固または吸着させることで真空排気を行っている。
ここで、クライオポンプとは、それと同じ原理で動作するクライオトラップも含まれるものとし、以下、クライオポンプ/トラップともいう。
【0003】
半導体製造装置に代表されるような真空を利用する機器においては、システムのコスト低減と省エネルギーを図るため、1台のコンプレッサで複数のクライオポンプにヘリウムガスを供給するいわゆるマルチ運転システムが多く採用されている。
【0004】
近年では、特開2004−003792号公報(特許文献1)に記載されているように、まず、クライオポンプ/トラップ本体に搭載される冷凍機に対し、冷凍機に取り付けられた温度センサの出力から、冷凍機の冷却サイクルを司るモータの駆動周波数を可変させることで冷凍機の温度を一定に維持させる。
そして、必要以上に冷却しないことで、冷凍機のヘリウムガス消費量を必要最小限とするクライオポンプ/トラップと、ヘリウムガスを供給する高圧ラインに設けられた圧力センサの出力と、クライオポンプ/トラップ内の冷凍機から排出されるヘリウムガスを回収する低圧ラインに設けられた圧力センサの出力により、高低圧ラインの圧力差を一定に制御するようコンプレッサ本体の駆動周波数を制御するインバータとコントローラを備えたコンプレッサ(以降、差圧調整型コンプレッサ)とを組み合わせる。
その結果、クライオポンプが消費したヘリウムガス量のみコンプレッサから供給するようなシステムが可能となり、コンプレッサの消費電力を抑制する方法として提案されている。
【0005】
クライオポンプ/トラップシステムが多く搭載されている半導体や電子部品製造用の真空処理装置においては、その消費電力のうちクライオポンプ/トラップシステムが占める割合は高く、特に、真空を維持しつつ次のプロセスまで待機しているような場合には、消費電力の過半をクライオポンプ/トラップシステムが占めることもある。
近年では、上記のような省エネルギー型のクライオポンプ/トラップシステムを採用したり、真空処理装置の運用面でのさまざまな改善をおこなったりすることで、装置全体の省エネルギー化が図られている。例えば、省エネルギー型のクライオポンプ/トラップシステムとして、特開2008−292103号公報(特許文献2)などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−003792号公報
【特許文献2】特開2008−292103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
クライオポンプ/トラップ本体では、冷凍サイクルを実行するのに必要なバルブの開閉やディースプレーサと呼ばれる部品を往復運動させるのにモータが駆動されているが、クライオポンプ/トラップシステムとしては、電力の9割以上がヘリウムガスを圧縮しているコンプレッサで消費されている。
個々のクライオポンプ/トラップ本体では、真空排気するのに必要な温度を維持するために高圧のヘリウムガスを消費しているので、クライオポンプ/トラップ本体の消費電力を個別に認識するためには、この高圧のヘリウムガスを圧縮するために消費される電力を含める必要がある。
【0008】
しかし、現在、半導体や電子部品製造用の真空処理装置等に搭載されているほとんどのクライオポンプ/トラップシステムは、クライオポンプ/トラップ複数台に対し、1台もしくは複数台のコンプレッサでヘリウムガスを供給するいわゆるマルチシステムである。
現状では、コンプレッサの消費電力値がクライオポンプ/トラップシステム全体の消費電力として、計算上これをクライオポンプ/トラップ本体の台数で割った値がクライオポンプ/トラップ本体個別の消費電力として認識される程度であり、稼動中にクライオポンプ/トラップ本体個別の消費電力値をモニタしたり、それを省エネルギー改善等に有効利用されたりすることはできなかった。
【0009】
現在、採用が拡大しつつある省エネルギー型のクライオポンプ/トラップシステムでは、その特性上クライオポンプ/トラップ本体個別の温度設定、ヘリウムガス圧力の設定、システムの運用等により、消費電力低減が可能であるが、上記の理由からクライオポンプ/トラップ本体個別の改善効果を確認することが難しくなっている。
【0010】
また、使用者においては、稼動中にクライオポンプ/トラップ本体個別の消費電力を認識することができれば、省エネルギーに対する意識も喚起されることもあり、実際上の省エネルギーを実現する方法だけではなく、その効果としての消費電力が的確に認識できるような製品が求められている。
【0011】
本発明の目的は、クライオポンプ/トラップシステムにおいて、それぞれのクライオポンプ/トラップの消費電力を把握することを可能とし、そのシステムを搭載する真空処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するべく本発明の構成は、以下の通りである。
蓄冷型極低温冷凍機を搭載した一以上のクライオポンプと、クライオポンプに供給して圧縮又は膨張されるヘリウムガスを導入するコンプレッサとを有する排気システムを用意する工程と、コンプレッサの消費電力を計測する工程と、冷凍機内の膨張空間容積、膨張空間における絶対温度、及び、冷凍機の冷凍サイクルの実行速度をそれぞれ求める工程と、コンプレッサから各クライオポンプに供給されるヘリウムガスの流量として、膨張空間容積と、膨張空間の絶対温度の逆数と、冷凍サイクルの実行速度との積を算出する工程と、積の値の合計値を算出し、合計値に対する各クライオポンプについての割合を算出する工程と、コンプレッサの消費電力を前記排気システムの消費電力と等価とみなし、割合から各クライオポンプについて消費電力を算出して、これを表示することを特徴とする排気システムである。
【0013】
コンプレッサの消費電力は、その電力ラインに電力計を設置することにより直接測定することが可能であるが、上記にある省エネルギー型のクライオポンプ/トラップシステムでは、コンプレッサ本体を駆動するインバータから信号として出力される電流値から、もしくは図1にあるように高低圧ラインの圧力とコンプレッサ本体の駆動周波数からでも算出可能である。
【0014】
クライオポンプ/トラップ本体に搭載されている蓄冷型極低温冷凍機は、基本的に膨張空間に高圧のヘリウムガスを充填し、これを膨張させて寒冷を得るというタクト的な冷凍サイクルが実行されているため、この膨張空間にどれだけの量のヘリウムガスが充填され、これが単位時間当たり何サイクル実行されるかがわかれば、高圧ヘリウムガスの消費流量を求めることができる。
【0015】
膨張空間に充填されるヘリウムガス量は、膨張空間容積と、膨張空間の絶対温度の逆数、そしてコンプレッサから供給されるヘリウムガス圧の積で求められが、本発明に係るクライオポンプ/トラップシステムの場合は、クライオポンプ/トラップ本体それぞれのヘリウムガス消費流量の割合さえ確定されれば良く、同一のコンプレッサから供給されるヘリウムガス圧は同一であるから、ヘリウムガス圧を考慮する必要はない。
【0016】
膨張空間容積は、実用上は設計上の容量で十分であるが、冷凍機内のデッドスペースや、蓄冷材の隙間や、コンダクタンス等の影響も考慮し、実験的にヘリウムガス流量を測定して冷凍機固有の値として求められた数値を使うと、より正確な値が得られる。
上記より求められた個々のクライオポンプ/トラップ本体が消費したヘリウムガス流量の割合を示す値を合算した値で、クライオポンプ/トラップ本体それぞれの高圧ヘリウムガス流量の割合を示す値を割れば、同一のコンプレッサから供給される高圧ヘリウムガスの内、どの程度の割合で個々のクライオポンプ/トラップ本体が高圧ヘリウムガスを消費しているのかがわかる。コンプレッサの消費電力をその割合で分配した数値が、個々のクライオポンプ/トラップ本体が消費した電力となる。
【0017】
上述のとおり、クライオポンプ/トラップ本体でもモータの駆動に僅かながら電力を消費しているので、モータを駆動するインバータから出力される電流値等から電力を算出し、コンプレッサの消費電力から算出された値に加えると、より正確なクライオポンプ/トラップ本体の消費電力となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、クライオポンプ/トラップシステムを構成するクライオポンプ/トラップ個々の消費電力を把握すること可能となり、またクライオポンプ/トラップ本体個別の温度設定、ヘリウムガス圧力の設定、システムの運用等による消費電力低減の効果を評価することができ、より省エネルギー化されたシステムおよび運用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、コンプレッサ本体の駆動周波数、高低圧ラインのヘリウム圧及び消費電力の関係を表すグラフである。
【図2】図2は、本発明の実施形態に基づくクライオポンプ/トラップシステムの接続図である。
【図3】図3は、本発明の実施形態に基づく別のクライオポンプ/トラップシステムの接続図である。
【図4】図4は、差圧調整型コンプレッサ1が2台ある場合の本発明の実施形態に基づくクライオポンプ/トラップシステムの接続図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
図2は、本発明の実施形態に基づくクライオポンプ/トラップシステムの接続図である。
差圧調整型コンプレッサ1、クライオポンプ/トラップ2、クライオポンプ/トラップの制御ユニット3、統合制御ユニット4、電力計5で構成された接続図である。クライオポンプ/トラップ2は3台図示されているが、3台に限定されるものではない。なお、本発明の実施形態に基づくクライオポンプ/トラップシステムは、クライオポンプ及びクライオトラップが混在していてもかまわない。
点線10は、差圧調整型コンプレッサ1から供給されるヘリウムガスラインであり、供給側ラインと回収側ラインがあるが1系統のみ図示している。
差圧調整型コンプレッサ1の消費電力は、その電力ライン(符号6はAC200V電源)に設置した電力計5で直接測定され、統合制御ユニット4に送られる。
【0021】
クライオポンプ/トラップ2は制御ユニット3が測定した温度を元に制御ユニット3内のインバータ(不図示)により運転されており、クライオポンプ/トラップ2の温度データと冷凍サイクルの実行速度データは、制御ユニット3から統合ユニット4に伝えられる。クライオポンプ/トラップ2に搭載されている冷凍機(不図示)内の膨張空間容積のデータは、クライオポンプ/トラップ2設置時に制御ユニット3内に設定入力されており、これも制御ユニット3から統合制御ユニット4に伝えられる。もしくはクライオポンプ/トラップ2設置時に統合制御ユニット4内に設定入力されている。
【0022】
統合制御ユニット4内では、個々のクライオポンプ/トラップ2に搭載されている冷凍機(不図示)内の膨張空間容積と、その膨張空間の温度であるクライオポンプ/トラップ2の温度データの逆数と、制御ユニット3内のインバータ(不図示)の数値から得られる冷凍サイクルの実行速度の積をそれぞれ算出し、そして、それらを合算した値とコンプレッサの消費電力データから、クライオポンプ/トラップ2の個別の消費電力値を算出する。
【0023】
統合制御ユニット4は、この消費電力データを直接搭載装置側にもしくは、制御ユニット3を経由して装置側に出力する。装置側では適宜操作画面に表示させたりそのデータを蓄積したりして利用する。またこの消費電力データは、統合制御ユニット4、もしくは、制御ユニット3に表示させても良いし、省エネランプ等の設置により省エネルギー効果を表出してもよい。
【0024】
図2の構成では、商用電源にてそのままコンプレッサ本体を駆動する通常型のコンプレッサを使用した場合でも構成可能である。
【0025】
図3は、差圧調整型コンプレッサ1内のコンプレッサ本体を駆動するインバータ(不図示)から信号として出力される電流値から、もしくは、高低圧ラインの圧力とコンプレッサ本体の駆動周波数からコンプレッサの消費電力を算出した場合における、本発明に係るクライオポンプ/トラップシステムの接続図である。
【0026】
図4は、差圧調整型コンプレッサ1が2台ある場合における、本発明に係るクライオポンプ/トラップシステムの接続図である。
【0027】
以上、本発明の望ましい実施形態について提示し、詳細に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない限り、さまざまな変更及び修正が可能である。
【符号の説明】
【0028】
1 差圧調整型コンプレッサ
2 クライオポンプ/トラップ本体
3 制御ユニット
4 統合制御ユニット
5 電力計
6 AC200V電源
10 ヘリウムガスライン


【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄冷型極低温冷凍機を搭載した一以上のクライオポンプと、前記クライオポンプに供給して圧縮又は膨張されるヘリウムガスを導入するコンプレッサとを有する排気システムを用意する工程と、
前記コンプレッサの消費電力を計測する工程と、
前記冷凍機内の膨張空間容積、前記膨張空間における絶対温度、及び、前記冷凍機の冷凍サイクルの実行速度をそれぞれ求める工程と、
前記コンプレッサから各前記クライオポンプに供給される前記ヘリウムガスの流量として、前記膨張空間容積と、前記膨張空間の絶対温度の逆数と、前記冷凍サイクルの実行速度との積を算出する工程と、
前記積の値の合計値を算出し、前記合計値に対する各前記クライオポンプについての割合を算出する工程と、
前記コンプレッサの消費電力を前記排気システムの消費電力と等価とみなし、前記割合から各前記クライオポンプについて消費電力を算出して、これを表示することを特徴とする排気システム。
【請求項2】
前記コンプレッサの前記ヘリウムガスの供給側および回収側の配管に設けられた圧力センサの出力値と、該コンプレッサ内で前記ヘリウムガスを圧縮する圧縮機本体の駆動周波数との関係から、前記コンプレッサの消費電力を算出して、各該クライオポンプについて、消費電力を算出してこれを表示することを特徴とする請求項1に記載の排気システム。
【請求項3】
前記コンプレッサ内で前記ヘリウムガスを圧縮している該コンプレッサ本体を駆動するインバータの電流値から、前記コンプレッサの消費電力を算出して、各前記クライオポンプについて、消費電力を算出してこれを表示することを特徴とする請求項1に記載の排気システム。
【請求項4】
前記コンプレッサに設置された電力計により該コンプレッサの消費電力を測定して、各前記クライオポンプについて、消費電力を算出してこれを表示することを特徴とする請求項1に記載の排気システム。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか一項に記載の排気システムを搭載したことを特徴とする真空処理装置。
【請求項6】
請求項1乃至4の何れか一項に記載の排気システムにおいて、前記クライオポンプをクライオトラップに置き換えたことを特徴とする排気システム。
【請求項7】
請求項6に記載の前記排気システムを搭載したことを特徴とする真空処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−174376(P2011−174376A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−36986(P2010−36986)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】