説明

クラスター単離装置、クラスター単離方法、金属内包フラーレン又はフラーレン、ピーポッド構造、ピーポッド製造装置、ピーポッド製造方法及びN型半導体素子

【課題】異なる種類のフラーレンが混在するクラスターを用いたものでありながら、一つの装置にて、効率良く単離すると共に、単離された金属内包フラーレン又はフラーレンのみが挿入されたピーポッドを用いた半導体素子の提供。
【解決手段】金属内包フラーレンと空のフラーレンとが混在するクラスターを充填したオーブン11と、オーブン11内で加熱昇華されたクラスターが噴出される再昇華円筒12と、再昇華円筒12を加熱してオーブン11から噴出されたクラスターを再昇華する加熱装置13と、再昇華円筒12内に存在する単離状態の空のフラーレン及び金属内包フラーレンを正負別々のイオンとする電子ビーム照射装置と、カーボンナノチューブが塗布された一対の堆積基板15,16と、一対の堆積基板15,16の各々に正負別々のバイアスを印加する電源装置17,18と、を備えた装置を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一つの装置内で金属内包フラーレンと空のフラーレンとが混在するクラスターを効率良く単離させると共に、その単離された金属内包フラーレンのみ又は空のフラーレンのみをカーボンナノチューブ内に選択的に挿入することができるクラスター単離装置、クラスター単離方法、金属内包フラーレン又はフラーレン、ピーポッド構造、ピーポッド製造装置、ピーポッド製造方法及びN型半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、カーボンナノチューブ(以下、単に「CNT」と称する)は、内部に空隙構造を持つことから、その内部に各種分子を内包することが可能であることが知られている。
【0003】
また、カーボンナノチューブ(CNT)の内部にフラーレン(C60等)を内包した単層カーボンナノチューブ(SWNT)が1998年に発見され、ピーポッドとも称されている。
【0004】
さらに、金属内包フラーレンM@CxxをCNT内に挿入した構造により人工的にピーポッドを合成し、これを電界効果型トランジスタ(以下、「FET」と称する)のチャネルとして用いた技術が開発されている(非特許文献1参照)。
【0005】
そもそも、半導体素子にはP型・N型が存在するが、上述したCNTを利用した半導体素子にあっては、N型の半導体素子を製造することが困難であるという問題が生じていた。
【0006】
即ち、CNTに空のフラーレン(以下、単に「C60」と称する)を挿入することによってホールリッチとすることができ、P型の特性を示すことができる。
【0007】
一方、CNTに電子を供給することで電子リッチとなって、チャネルができ、N型を示すことができることは自明である。
【0008】
しかしながら、現状ではCNTを用いたN型の半導体を製造すること、即ち、CNTの内部に電子を供給する正オンになり易いフラーレンを挿入させることが困難であった。
【0009】
そこで、本発明者等は、CNTに挿入するフラーレンに窒素ヘテロフラーレン(以下、単に「C59N」と称する)又は金属内包フラーレン(以下、単に「X@C60」と称する)を用いることによって、N型の半導体素子を供給することができないかと思索したところ、C59Nは空のC60に対して電子を出し易い、即ち、電子ドナー性を示していることが理論的に示され、CNTに電子を与えてN型とすることができるのではないかとの考えに至った。
【0010】
また、X@C60のなかでも、アルカリ金属(特に、リチウム(Li))を与えると、電子が余剰の状態となり、電子を出し易くすることができるため、電子ドナー性になるのではないかとの考えに至った。
【0011】
ここで、CNTにフラーレンを挿入してピーポッドを形成する技術は色々あるが、その基本的な原理としては、単純にCNTとフラーレンとを一つの試験管内に入れ、この試験管を熱することによってフラーレンの昇華並びに毛管現象とによってCNT内にフラーレンを挿入することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】T.Shimada et al, Applied Physics Letters Vol.81, No.21 p4067 (2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、このような技術では、フラーレンとして、例えば、C60、C59N、リチウム内包フラーレン(以下、単に「Li@C60」と称する)、等が同じような条件でCNTに混在して挿入されてしまい、結果的には、P型やN型の特性を示さないピーポッドができてしまうという問題が生じていた。
【0014】
そこで、例えば、C60とLi@C60とが混在するクラスターを用い、一つの装置内でクラスターを加熱昇華させた際に、何れか一方のみを選択的にCNTに挿入することができれば、同時に、P型半導体特性のピーポッド(C60)とN型半導体特性のピーポッド(Li@C60)とを製造することができるとの考えに至り、本発明者等は、一つの装置内そのようなP型半導体特性のピーポッド(C60)とN型半導体特性のピーポッド(Li@C60)とを選択的にCNTの内部に挿入することができる装置並びに方法を見出した。
【0015】
この際、本発明者等は、単に熱でC60を昇華させて毛管現象を利用しただけは、上述した正または負イオンになりやすい特性を備えたフラーレンを選択的にCNTの内部に挿入することは困難であることから、プラズマを用いてC60とLi@C60とを正負別々のイオンとすることによってC60並びにLi@C60をCNTの内部に挿入するプラズマ照射法を用い、各種実験の結果、良好なP型及びN型の半導体素子に適用しうるCNTを製造することができた。
【0016】
そこで、本発明は、上記事情を考慮し、異なる種類のフラーレンが混在するクラスターを用いたものでありながら、一つの装置にて、効率良く単離することができるクラスター単離装置、その装置を用いたクラスター単離方法、その装置によって単離された金属内包フラーレン又はフラーレン、その単離されたフラーレンから金属内包フラーレン又はフラーレンのみが挿入されたピーポッド構造、そのピーポッドを製造する一つの製造装置、その製造装置を用いたピーポッド製造方法及び金属内包フラーレンのみを挿入したピーポッドを用いたN型半導体素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のクラスター単離装置は、金属内包フラーレンと空のフラーレンとが混在するクラスターを充填したオーブンと、該オーブンを加熱してクラスターを昇華する加熱装置と、前記オーブンで加熱昇華しつつ充填されたクラスターが噴出される再昇華円筒と、該再昇華円筒を加熱して前記オーブンから噴出されたクラスターを再昇華する加熱装置と、を備えていることを特徴とする。
【0018】
これにより、異なる種類のフラーレンが混在するクラスターを用いたものでありながら、一つの装置にて、効率良く単離する装置を構成することができる。
【0019】
本発明のクラスター単離方法は、金属内包フラーレンと空のフラーレンとが混在するクラスターをオーブンに充填する充填工程と、前記オーブンを加熱昇華しつつ充填されたクラスターを再昇華円筒内に噴出する昇華工程と、前記再昇華円筒内を加熱してクラスターを加熱再昇華させる再昇華工程と、を備えていることを特徴とする。
【0020】
これにより、異なる種類のフラーレンが混在するクラスターを用いたものでありながら、一つの装置にて、効率良く単離することができる。
【0021】
本発明の金属内包フラーレン又はフラーレンは、請求項1に記載の装置を用い請求項2に記載の方法により単離されたことを特徴とする。
【0022】
これにより、異なるフラーレンが混在したクラスターを金属内包フラーレンとフラーレンとに効率良く単離される。
【0023】
この際、金属内包フラーレンは、前記金属内包フラーレンがアルカリ金属内包フラーレンであることを特徴とする。
【0024】
また、金属内包フラーレンがリチウム内包フラーレンであることを特徴とする。
【0025】
本発明のピーポッド構造は、カーボンナノチューブと、該カーボンナノチューブの内部に一つ以上挿入された空のフラーレン又は金属内包フラーレンと、を有するピーポッド構造であって、前記空のフラーレンは負に帯電され且つ前記金属内包フラーレンは正に帯電されると共に、前記カーボンナノチューブの内部には負又は正に帯電された何れか一方のみが選択的に挿入されていることを特徴とするピーポッド構造。
【0026】
本発明のピーポッド製造装置は、カーボンナノチューブの内部に空のフラーレン又は金属内包フラーレンの何れか一方のみが挿入されたピーポッドを提供することができる。
【0027】
本発明のピーポッド製造装置は、金属内包フラーレンと空のフラーレンとが混在するクラスターを充填したオーブンと、該オーブン内で加熱昇華されたクラスターが噴出される再昇華円筒と、該再昇華円筒を加熱して前記オーブンから噴出されたクラスターを再昇華する加熱装置と、前記再昇華円筒内に存在する単離状態の空のフラーレン及び金属内包フラーレンを正負別々のイオンとする電子ビーム照射装置と、カーボンナノチューブが塗布された一対の堆積基板と、該一対の堆積基板の各々に正負別々のバイアスを印加する電源装置と、を備えていることを特徴とする。
【0028】
これにより、異なる種類のフラーレンが混在するクラスターを用いたものでありながら、一つの装置にて単離された金属内包フラーレン又はフラーレンの一方のみが選択的に挿入されたピーポッドを製造することができる。
【0029】
この際、前記電源装置は、一方の前記堆積基板に20V付近の正バイアスを印加し、他方の前記堆積基板には−20V付近の負バイアスを印加することにより、効率良く金属内包フラーレン又はフラーレンの一方のみを選択的に挿入することができる。
【0030】
本発明のピーポッド製造方法は、カーボンナノチューブを一対の堆積基板に塗布する塗布工程と、金属内包フラーレンと空のフラーレンとが混在するクラスターをオーブン内に充填する充填工程と、前記オーブンを加熱してクラスターを昇華する昇華工程と、前記オーブンで加熱昇華しつつ充填されたクラスターを再昇華円筒内に噴出する噴出工程と、加熱装置によって前記再昇華円筒を加熱して前記オーブンから噴出されたクラスターを再昇華する再昇華工程と、電子ビーム照射装置によって前記再昇華円筒内に存在する単離状態の空のフラーレン及び金属内包フラーレンを正負別々のイオンとするイオン化工程と、前記一対の堆積基板の各々に正負別々のバイアスを印加して正に帯電された前記堆積基板に塗布されたカーボンナノチューブ内に負イオン化された空のフラーレンを挿入させ且つ負に帯電された前記堆積基板に塗布されたカーボンナノチューブ内に正イオン化された金属内包フラーレンを挿入させて正又は負に帯電した何れか一方のみのフラーレンを内包したピーポッドを製造するピーポッド製造工程と、を備えていることを特徴とする。
【0031】
これにより、一度の製造工程にて選択的に正又は負に帯電した何れか一方のみのフラーレンを挿入(内包)したピーポッドを製造することができる。
【0032】
また、カーボンナノチューブを一対の堆積基板に塗布する塗布工程と、金属内包フラーレンと空のフラーレンとが混在するクラスターをオーブン内に充填する充填工程と、前記オーブンを加熱してクラスターを昇華する昇華工程と、前記オーブンで加熱昇華しつつ充填されたクラスターを再昇華円筒内に噴出する噴出工程と、加熱装置によって前記再昇華円筒を加熱して前記オーブンから噴出されたクラスターを再昇華する再昇華工程と、電子ビーム照射装置によって前記再昇華円筒内に存在する単離状態の空のフラーレン及び金属内包フラーレンを正負別々のイオンとするイオン化工程と、前記一対の堆積基板の各々に正負別々のバイアスを交互に印加して正に帯電されている際の前記堆積基板に塗布されたカーボンナノチューブ内に負イオン化された空のフラーレンを挿入させ且つ負に帯電されている際の前記堆積基板に塗布されたカーボンナノチューブ内に正イオン化された金属内包フラーレンを挿入させて正又は負に帯電した何れか一方のみのフラーレンを内包したピーポッドを製造するピーポッド製造工程と、を備えていることを特徴とする。
【0033】
これにより、一度の製造工程にて選択的に正又は負に帯電した何れか一方のみのフラーレンを挿入(内包)したピーポッドを製造することができる。
【0034】
この際、前記堆積基板には、20V付近の正バイアスと−20V付近の負バイアスとが印加されることを特徴とする。
【0035】
これにより、効率良く堆積基板に正イオンのフラーレンと負イオンのフラーレンとを選択的に堆積させることができる。
【0036】
本発明のN型半導体素子は、請求項7又は請求項8に記載のピーポッド製造装置を用い、請求項9又は請求項11に記載のピーポッド製造方法によって製造された正イオン化された金属内包フラーレンのみが挿入されたピーポッドをソース−ドレイン間のチャネルとして用いていることを特徴とする。
【0037】
これにより、金属内包フラーレンのみを挿入したピーポッド用いたN型半導体素子を構成することができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明は、異なる種類のフラーレンが混在するクラスターを用いたものでありながら、一つの装置にて、効率良く単離することができるクラスター単離装置、その装置を用いたクラスター単離方法、その装置によって単離された金属内包フラーレン又はフラーレン、その単離された金属内包フラーレン又はフラーレンのみが挿入されたピーポッド構造、そのピーポッドを製造する一つの製造装置、その製造装置を用いたピーポッド製造方法及び金属内包フラーレンのみを挿入したピーポッドを用いたN型半導体素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施形態に係るクラスター単離装置を兼用したピーポッド製造装置の概念図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るクラスター単離装置及びピーポッド製造装置のオーブン内に充填されるクラスターの説明図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るピーポッド製造装置の説明図である。
【図4】Li@C60とC60からなるプラズマにおいてラングミュアプローブを用いて電流電圧特性を測定したグラフ図である。
【図5】Li@C60とC60からなるプラズマにおける電子ビームを発生させるカソード電極に印加する電圧(Vk)とプローブに流入する電流(Ip)特性のグラフ図である。
【図6】C59とC60からなるプラズマにおいてラングミュアプローブを用いて電流電圧特性を測定したグラフ図である。
【図7】C59とC60からなるプラズマにおける電子ビームを発生させるカソード電極に印加する電圧(Vk)とプローブに流入する電流(Ip)特性のグラフ図である。
【図8】オーブンに充填したクラスター状態でのLi@C60及びC60の質量分析結果のグラフ図である。
【図9】クラスターを単離させてイオン化した後に正バイアスを印加した堆積基板に堆積したLi@C60及びC60の質量分析結果のグラフ図である。
【図10】クラスターを単離させてイオン化した後に負バイアスを印加した堆積基板に堆積したLi@C60及びC60の質量分析結果グラフ図である。
【図11】電子ビームのエネルギーに対する堆積基板でのLi@C60の質量ピークをC60の質量ピークで規格化した強度を示すグラフ図である。
【図12】ソース−ドレイン間のチャネルとして本発明のピーポッドを用いた半導体素子の説明図である。
【図13】C60内包のピーポッドをチャネルとして用いた場合のP型半導体素子の特性を示すグラフ図である。
【図14】Li@C60内包のピーポッドをチャネルとして用いた場合のN型半導体素子の特性を示すグラフ図である。
【図15】C60内包のピーポッドをチャネルとして用いた場合のP型半導体素子の特性を示すグラフ図である。
【図16】C59内包のピーポッドをチャネルとして用いた場合のN型半導体素子の特性を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
次に、本発明のクラスター単離装置、クラスター単離方法、金属内包フラーレン又はフラーレン、ピーポッド構造、ピーポッド製造装置、ピーポッド製造方法及びN型半導体素子に係る一実施形態について、図面を参照して説明する。尚、以下に示す実施形態は本発明のクラスター単離装置、クラスター単離方法、金属内包フラーレン又はフラーレン、ピーポッド構造、ピーポッド製造装置、ピーポッド製造方法及びN型半導体素子における好適な具体例であり、技術的に好ましい種々の限定を付している場合もあるが、本発明の技術範囲は、特に本発明を限定する記載がない限り、これらの態様に限定されるものではない。
【0041】
図1は本発明の一実施形態に係るクラスター単離装置を兼用したピーポッド製造装置の概念図、図2は本発明の一実施形態に係るクラスター単離装置及びピーポッド製造装置のオーブン内に充填されるクラスターの説明図、図3は本発明の一実施形態に係るピーポッド製造装置の説明図である。
【0042】
図1において、ピーポッド製造装置10は、金属内包フラーレンと空のフラーレンとが混在するクラスターを充填したオーブン11と、オーブン11内で加熱昇華されたクラスターが噴出される再昇華円筒12と、再昇華円筒12を加熱してオーブンから噴出されたクラスターを再昇華する加熱装置としての加熱源13と、再昇華円筒12内に存在する単離状態の空のフラーレン及び金属内包フラーレンを正負別々のイオンとする電子ビーム照射装置14と、カーボンナノチューブ(CNT)が塗布された一対の堆積基板15,16と、一対の堆積基板15,16の各々に正負別々のバイアスを印加する電源装置17,18と、を備えている。
【0043】
オーブン11に充填されたクラスターは、図2に例示するように、アルカリ金属内包フラーレン31と、このアルカリ金属内包フラーレン(例えば、リチウム内包フラーレン(Li@C60)31の周囲に付着した空のフラーレン(C60)32とが混在しており、直流電源19による電力印加によって550℃〜600℃に加熱される。
【0044】
これにより、オーブン11に充填されたクラスターの一部が加熱昇華によって単離された状態で再昇華円筒12内に噴出される。
【0045】
再昇華円筒12は、中空の筒状体で、プラズマの軸対称性が保たれるように円筒形をしている。また、再昇華円筒12の一端はマイカなどの絶縁性材料でできた終端板20が取り付けられ、他端は銅等の導電性材料でできた終端板21が取り付けられている。尚、再昇華円筒12の内壁は熱伝導性が良好な銅などの導電性材料でできている。また、再昇華円筒12は、例えば、交流電源等の加熱源13によって600℃付近にまで加熱される。
【0046】
これにより、オーブン11から噴出されて完全に昇華していないクラスターが再昇華円筒12の内部での加熱昇華によって単離される。また、終端板21の中心には、直径5mm前後のビームスポット21aが形成されている。
【0047】
電子ビーム照射装置14は、カソード電極(タングステンフィラメント)22と、接地されたグリッド電極23とを備えていると共に、再昇華円筒12の軸線方向に沿うZ方向に直線一様磁場(図1の太矢印B参照)が印加されている。
【0048】
カソード電極22により放出された熱電子がカソード電極22の前面の電界により加速され、電子ビーム24が形成される。尚、この電子ビーム24のビームエネルギー(0〜300eV)はカソード電極22への印加電圧Vkによって制御することができる。
【0049】
従って、オーブン11によって加熱昇華された状態で噴出された又は再昇華円筒12によって加熱再昇華された単離状態のリチウム内包フラーレン(Li@C60)31と空のフラーレン(C60)32は、図3に示すように、電子ビーム24の衝突電離によりリチウム内包フラーレン(Li@C60)31は正イオンになり、リチウム内包フラーレン(Li@C60)31の電離によって発生した低温度の電子の付着によって空のフラーレン(C60)32は負イオンになり、それぞれLi@C60及びC60が生成される。
【0050】
フラーレンイオンは、ラーマ半径が大きく、有限ラーマ効果によってビームスポット21aの外側に向けた拡散が発生し電子ビーム24の周囲に広がる。
【0051】
これにより、一対の堆積基板15,16には、それぞれカーボンナノチューブが塗布された状態で正負別々のバイアスを印加することにより、正バイアスに印加された堆積基板15に塗布されたカーボンナノチューブ33にはC60が挿入され、負バイアスに印加された堆積基板15に塗布されたカーボンナノチューブ33にはLi@C60が挿入される。
【0052】
以下、本発明の原理並びに実験結果を詳細に説明する。
【0053】
尚、以下の説明においては、アルカリ金属内包フラーレン31としてリチウム内包フラーレン(以下、単に「Li@C60」と称する)とし、このLi@C60を空のフラーレン(以下、単に「C60」と称する)とで別々にカーボンナノチューブ(以下、単に「CNT」と称する)に挿入してピーポッドを製造する場合として説明する。
【0054】
上記の構成において、図2に示したように、Li@C60の周囲に複数のC60が存在する混合物のクラスターがオーブン11内に充填され、このオーブン11を加熱源13によって550℃〜600℃に加熱することでクラスターを加熱昇華しつつ、再昇華円筒12内にクラスターを噴出する。
【0055】
再昇華円筒12の内部に噴出されたクラスターは、その一部は加熱昇華によってLi@C60とC60とに単離されるが、他の一部はクラスターのまま若しくは一部が単離した状態で再昇華円筒12の内壁に付着する。
【0056】
そこで、再昇華円筒12を600℃以上に再加熱することでクラスターを加熱再昇華して単離させる。
【0057】
このように、オーブン11の加熱による一度の昇華では単離し難いクラスターを、再昇華円筒12の内壁に付着させ、オーブン11の加熱温度よりも高い加熱温度で再昇華することにより、再昇華円筒12内にフラーレン(Li@C60及びC60)を充満させた状態で電子ビーム24を衝突させることで、効率良くイオン化させることができ、堆積基板15,16に向けてフラーレンを送り出すことができる。
【0058】
一方、再昇華円筒12の一端側に設けられたカソード電極22を加熱し、グリッド電極23とカソード電極22との間に数十V〜数百Vの電圧を印加することによって電子を加速して形成された電子ビーム24を再昇華円筒12の他端側に向けて照射し、この電子ビーム24を単離されたLi@C60及びC60に衝突させることによってLi@C60及びC60にイオン化する。
負イオン化されたLi@C60及びC60は、再昇華円筒12の他端に形成されたビームスポット21aを通過し、堆積基板15,16へと向う。
【0059】
ところで、上述したイオン化は、例えば、Li@C60に電子ビーム24が衝突すると、中性のLi@C60から電子が一つ電離して、一つの電子とLi@C60とすることができる。
【0060】
この際、電離のためには、例えば、数十〜数百エレクトロンボルト(eV)の大きな電子エネルギーが必要となる。
【0061】
また、C60は電子を付着させる力が強く、数eV以下の低いエネルギーの電子、特に、1eV以下の低いエネルギーの電子がC60に付着することにより、C60とすることができる。
【0062】
そこで、これら電子ビーム24を照射してイオン化されたLi@C60、C60、及び電子は、再昇華円筒12にビーム照射方向と平行方向の磁場を印加することにより、その磁力線の周りに巻き付く。尚、質量の小さい電子の方が良く巻き付き、質量の大きいフラーレンイオンの方は回転半径が大きくなるという性質を持っている。
【0063】
そこで、電子ビーム24はビームスポット径のまま磁力線に沿って進行するが負イオン化されたLi@C60及びC60は回転半径が大きくなって、電子ビーム24の外側に拡散しやすくなる。
【0064】
従って、一対の堆積基板15,16をこの電子ビーム直径よりも外側に配置すると共に、各堆積基板15,16に正負別々のバイアスを印加することにより、正バイアスが印加された堆積基板15にはC60が加速してCNTの内部に挿入されると共にLi@C60が反発(退避)し、負バイアスが印加された堆積基板16にはLiC60が加速してCNTの内部に挿入されると共にC60が反発(退避)することとなり、各堆積基板15,16には、C60のみが挿入されたピーポッドと、Li@C60のみが挿入されたピーポッドと、ができる。
【0065】
図4は、Li@C60とC60とが存在する混合物のクラスターをオーブン11の中に充填し、再昇華円筒12内に噴出させた際に、再昇華円筒12の外側の堆積基板15,16の付近のプローブ25で測定した電流電圧特性のグラフ図である。
【0066】
図に示すように、プローブ25に正又は負のバイアスVpを印加すると、正バイアスを印加した場合にはC60が、負バイアスに印加した場合にはLi@C60がプローブ25に流入することが判明した。
【0067】
尚、C60の質量は720、Li@C60の質量は727で略同じであるため、このグラフで示した電流量は単位時間にプローブ25に入る電荷の量であることから負イオンの質量の平方根に比例する熱速度に比例し、質量が同じであればプローブ25に流入する電流量も同じであることから、ここでできているプラズマはLi@C60及びC60であることが判る。
【0068】
図5は、電子ビーム24を発生させるカソード電極(タングステンフィラメント)22にかける電圧(Vk)で、この電圧が−に深ければ深いほど電子ビームのエネルギー、即ち、フラーレンに衝突する電子ビームのエネルギーが大きくなり、電子ビームの値が大きくなる程、正又は負のイオンの電流が大きくなることを示し、フラーレンが電離して正イオンが又は電離により発生した低エネルギー電子が付着して負イオンが多くできていることを示す。
【0069】
尚、Li@C60に替えて、窒素へテロフラーレン(C59N)の場合の図4乃至図5に相当する実験結果を図6乃至図7に示す。
【0070】
図8は、オーブン11に充填したクラスター状態でのLi@C60及びC60の質量分析結果のグラフ図である。
【0071】
図9及び図10は、そのクラスターを単離させてイオン化した後に堆積基板15,16に堆積したLi@C60及びC60の質量分析結果のグラフ図である。
【0072】
図9に示すように、正バイアスを印加した堆積基板15には質量720付近のC60が多く堆積され、図10に示すように、負バイアスを印加した堆積基板16には質量727付近のLi@C60が多く堆積されていることが実証された。
【0073】
尚、図9及び図10には、少なからず逆極性のC60又はLi@C60が堆積しているが、これは、例えば、電子ビーム24をフラーレンに衝突させた際に、理想的にLi@C60だけが正イオンになるというわけではなく、実際にはC60も正イオンになっているものが僅かに存在しているものと想定される。
【0074】
同様に、Li@C60においても、低温の電子であれば付着してしまう可能性があることを示す。若しくは、再昇華円筒12によってC60又はLi@C60のイオン化していないガスがそのまま拡散し、堆積基板15,16に付着してしまったもので、中性であることから正又は負のバイアスに依存せずに堆積してしまうものと想定される。
【0075】
図11は電子ビーム24のエネルギーに対する堆積基板15,16でのLi@C60の質量ピークをC60の質量ピークで規格化した強度を示し、正バイアスに印加した堆積基板15(C60)の場合には(図の上段)ピーク値が150V付近にあり、負バイアスに印加した堆積基板16(Li@C60)の場合には(図の下段)ピーク値が200V付近にあることから、電子ビームのエネルギーが150eVの場合にはC60が、200eVの場合にはLi@C60が効率よくできることを示している。
【0076】
そして、このように製造されたLi@C60のみを内包したカーボンナノチューブ33又はC60のみを内包したカーボンナノチューブ33は、図12に示すように、ソース−ドレイン間のチャネルとしてカーボンナノチューブ33を用いた半導体素子としてのFET40等に適用することができる。
【0077】
この際、図13に示すように、C60内包のカーボンナノチューブ33の場合には、ゲート電圧(VG)を負にするとソース・ドレイン間の電流(IDs)が増加するP型FET40とすることができる。また、図14に示すように、Li@C60内包のカーボンナノチューブ33の場合には、ゲート電圧(VG)を正にするとソース・ドレイン間の電流(IDs)は増加するN型FET40とすることができる。
【0078】
図15及び図16に、Li@C60内包のカーボンナノチューブ33に替えて、窒素へテロフラーレンC59を内包した場合の電気輸送特性を示す。
【0079】
このように、本発明にあっては、異なる種類のフラーレンが混在するクラスターを用いたものでありながら、一つの装置にて、効率良く単離することができるクラスター単離装置、その装置を用いたクラスター単離方法、その装置によって単離された金属内包フラーレン又はフラーレン、その単離されたフラーレンから金属内包フラーレン又はフラーレンのみが挿入されたピーポッド構造、そのピーポッドを製造する一つの製造装置、その製造装置を用いたピーポッド製造方法及び金属内包フラーレンのみを挿入したピーポッドを用いたN型半導体素子を提供することができる。
【符号の説明】
【0080】
10…ピーポッド製造装置
11…オーブン
12…再昇華円筒
13…加熱源(加熱装置)
14…電子ビーム照射装置
15…堆積基板
16…堆積基板
17…電源装置
18…電源装置
19…直流電源
20…終端板
21…終端板
21a…ビームスポット
22…カソード電極
23…グリッド電極
24…電子ビーム
25…プローブ
31…アルカリ金属内包フラーレン(リチウム内包フラーレン)
32…フラーレン
33…カーボンナノチューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属内包フラーレンと空のフラーレンとが混在するクラスターを充填したオーブンと、該オーブンを加熱してクラスターを昇華する加熱装置と、前記オーブンで加熱昇華しつつ充填されたクラスターが噴出される再昇華円筒と、該再昇華円筒を加熱して前記オーブンから噴出されたクラスターを再昇華する加熱装置と、を備えていることを特徴とするクラスター単離装置。
【請求項2】
金属内包フラーレンと空のフラーレンとが混在するクラスターをオーブンに充填する充填工程と、前記オーブンを加熱昇華しつつ充填されたクラスターを再昇華円筒内に噴出する昇華工程と、前記再昇華円筒内を加熱してクラスターを加熱再昇華させる再昇華工程と、を備えていることを特徴とするクラスター単離方法。
【請求項3】
請求項1に記載の装置を用い請求項2に記載の方法により単離されたことを特徴とする金属内包フラーレン又はフラーレン。
【請求項4】
前記金属内包フラーレンがアルカリ金属内包フラーレンであることを特徴とする請求項3に記載の金属内包フラーレン。
【請求項5】
前記金属内包フラーレンがリチウム内包フラーレンであることを特徴とする請求項4に記載の金属内包フラーレン。
【請求項6】
カーボンナノチューブと、該カーボンナノチューブの内部に一つ以上挿入された空のフラーレン又は金属内包フラーレンと、を有するピーポッド構造であって、
前記空のフラーレンは負に帯電され且つ前記金属内包フラーレンは正に帯電されると共に、前記カーボンナノチューブの内部には負又は正に帯電された何れか一方のみが選択的に挿入されていることを特徴とするピーポッド構造。
【請求項7】
金属内包フラーレンと空のフラーレンとが混在するクラスターを充填したオーブンと、該オーブン内で加熱昇華されたクラスターが噴出される再昇華円筒と、該再昇華円筒を加熱して前記オーブンから噴出されたクラスターを再昇華する加熱装置と、前記再昇華円筒内に存在する単離状態の空のフラーレン及び金属内包フラーレンを正負別々のイオンとする電子ビーム照射装置と、カーボンナノチューブが塗布された一対の堆積基板と、該一対の堆積基板の各々に正負別々のバイアスを印加する電源装置と、を備えていることを特徴とするピーポッド製造装置。
【請求項8】
前記電源装置は、一方の前記堆積基板に20V付近の正バイアスを印加し、他方の前記堆積基板には−20V付近の負バイアスを印加することを特徴とする請求項7に記載のピーポッド製造装置。
【請求項9】
カーボンナノチューブを一対の堆積基板に塗布する塗布工程と、金属内包フラーレンと空のフラーレンとが混在するクラスターをオーブン内に充填する充填工程と、前記オーブンを加熱してクラスターを昇華する昇華工程と、前記オーブンで加熱昇華しつつ充填されたクラスターを再昇華円筒内に噴出する噴出工程と、加熱装置によって前記再昇華円筒を加熱して前記オーブンから噴出されたクラスターを再昇華する再昇華工程と、電子ビーム照射装置によって前記再昇華円筒内に存在する単離状態の空のフラーレン及び金属内包フラーレンを正負別々のイオンとするイオン化工程と、前記一対の堆積基板の各々に正負別々のバイアスを印加して正に帯電された前記堆積基板に塗布されたカーボンナノチューブ内に負イオン化された空のフラーレンを挿入させ且つ負に帯電された前記堆積基板に塗布されたカーボンナノチューブ内に正イオン化された金属内包フラーレンを挿入させて正又は負に帯電した何れか一方のみのフラーレンを内包したピーポッドを製造するピーポッド製造工程と、を備えていることを特徴とするピーポッド製造方法。
【請求項10】
カーボンナノチューブを一対の堆積基板に塗布する塗布工程と、金属内包フラーレンと空のフラーレンとが混在するクラスターをオーブン内に充填する充填工程と、前記オーブンを加熱してクラスターを昇華する昇華工程と、前記オーブンで加熱昇華しつつ充填されたクラスターを再昇華円筒内に噴出する噴出工程と、加熱装置によって前記再昇華円筒を加熱して前記オーブンから噴出されたクラスターを再昇華する再昇華工程と、電子ビーム照射装置によって前記再昇華円筒内に存在する単離状態の空のフラーレン及び金属内包フラーレンを正負別々のイオンとするイオン化工程と、前記一対の堆積基板の各々に正負別々のバイアスを交互に印加して正に帯電されている際の前記堆積基板に塗布されたカーボンナノチューブ内に負イオン化された空のフラーレンを挿入させ且つ負に帯電されている際の前記堆積基板に塗布されたカーボンナノチューブ内に正イオン化された金属内包フラーレンを挿入させて正又は負に帯電した何れか一方のみのフラーレンを内包したピーポッドを製造するピーポッド製造工程と、を備えていることを特徴とするピーポッド製造方法。
【請求項11】
前記堆積基板には、20V付近の正バイアスと−20V付近の負バイアスとが印加されることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載のピーポッド製造方法。
【請求項12】
請求項7又は請求項8に記載のピーポッド製造装置を用い、請求項9又は請求項11に記載のピーポッド製造方法によって製造された正イオン化された金属内包フラーレンのみが挿入されたピーポッドをソース−ドレイン間のチャネルとして用いていることを特徴とするN型半導体素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−202424(P2010−202424A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46857(P2009−46857)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(502344178)株式会社イデアルスター (59)
【Fターム(参考)】