説明

クラッチ操作装置の脈動ダンパ

【課題】ダイヤフラムの撓みに追従して、シール性を確保することができるクラッチ操作装置の脈動ダンパを提供する。
【解決手段】ダイヤフラム7をシールする環状シール部材8は、環状シール溝3bの外周壁側に配置される基部8aと、該基部8aの内周面ダイヤフラム側から環状シール溝3bの内周壁側に向けて延設されると共に、先端側に向けて漸次ダイヤフラム側に傾斜するダイヤフラム側リップ部8bと、前記基部8aの内周面溝底部側から環状シール溝3bの内周壁側に向けて延設されると共に、先端側に向けて漸次環状シール溝3bの底壁側に傾斜する溝底部側リップ部8cとを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチ操作装置のスレーブシリンダとマスタシリンダとの間の液通路に配置され、該液通路に伝達される脈動を吸収する脈動ダンパに関し、詳しくは、脈動ダンパのダイヤフラムをシールする環状シール部材の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、クラッチ操作装置の脈動ダンパとして、スレーブシリンダに連通する液通路と前記マスタシリンダに連通する液通路とを備えた減衰油室を内部に有するダンパ本体と、該ダンパ本体の開口部に接合されるカバー体と、該カバー体と前記ダンパ本体との間に配置され、前記減衰油室を覆うダイヤフラムとを備え、前記ダンパ本体に形成した環状シール溝に、ダイヤフラムに当接してダイヤフラムをシールする環状シール部材が装着されているものがあった。この環状シール部材は、ダイヤフラムの撓みにより、ダイヤフラムとの間に空隙が発生したり、ダイヤフラムが撓んだ際に、ダイヤフラムとダンパ本体との間に形成される空隙にシール部材の一部が食い込むことがないように、ダイヤフラムに圧接する内外一対の環状のリップ部を設けると共に、各リップ部の外周面を先端に向かって縮径するテーパ状に形成されていた(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平5−79063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述のものでは、ダイヤフラムが反減衰油室側に撓んだ際に、リップ部をダイヤフラムの撓みに確実に追従させることができないことがあった。
【0005】
そこで本発明は、ダイヤフラムの撓みに追従して、シール性を確保することができるクラッチ操作装置の脈動ダンパを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明のクラッチ操作装置の脈動ダンパは、開口部を有するダンパ本体に、該ダンパ本体に接合されて前記開口部を閉塞するダイヤフラムを備え、該ダイヤフラムの前記ダンパ本体側にスレーブシリンダとマスタシリンダとの間の液通路に連通する減衰油室を画成するとともに、前記ダンパ本体の前記ダイヤフラムの外周部に対向するダイヤフラム対向面にダイヤフラム側が開口した環状シール溝を形成し、該環状シール溝に前記ダイヤフラムに当接する環状シール部材を嵌着したクラッチ操作装置の脈動ダンパにおいて、前記環状シール部材は、前記環状シール溝の外周壁側に配置される基部と、該基部の内周面ダイヤフラム側から前記環状シール溝の内周壁側に向けて延設されると共に、先端側に向けて漸次ダイヤフラム側に傾斜するダイヤフラム側リップ部と、前記基部の内周面溝底部側から前記環状シール溝の内周壁側に向けて延設されると共に、先端側に向けて漸次環状シール溝の底壁側に傾斜する溝底部側リップ部とを備えていることを特徴としている。
【0007】
また、前記環状シール部材は、前記基部の外周面に、前記環状シール溝の外周壁に当接する突部が形成されていても良い。さらに、前記環状シール部材は、前記基部の厚さ方向の中心線に対して、前記ダイヤフラム側と前記環状シール溝の底壁側とが対称形状に形成されると好適である。
【発明の効果】
【0008】
本発明のクラッチ操作装置の脈動ダンパによれば、環状シール部材は、ダイヤフラムが反減衰油室側に撓む際に、ダイヤフラム側リップ部がダイヤフラム側に拡開することにより、ダイヤフラムの撓みに良好に追従し、シール性を確保することができる。
【0009】
また、環状シール部材は、基部の外周面に、前記環状シール溝の外周壁に当接する突部が形成されることにより、該突部によってリップ部が変形しても環状シール部材の倒れを防止でき、シール性を確保することができ、また、ダイヤフラムが撓む際に、基部がダイヤフラムと、ダンパ本体との間に食い込むことを防止できる。
【0010】
さらに、環状シール部材は、基部の厚さ方向の中心線に対して、前記ダイヤフラム側と前記環状シール溝の底壁側とが対称形状に形成されることから、環状シール部材の組み付けが容易である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図5のI-I断面図である。
【図2】本発明の一形態例を示す脈動ダンパの要部断面図である。
【図3】同じくダイヤフラムが撓んだ際の脈動ダンパの要部断面図である。
【図4】同じく環状シール溝の断面斜視図である。
【図5】本発明の一形態例を示す脈動ダンパの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1乃至図5は本発明のクラッチ操作装置の脈動ダンパの一形態例を示す図で、クラッチ操作装置の脈動ダンパ1は、マスタシリンダ2の上部に一体に設けられ、上部開口部3aを備えたダンパ本体3と、該ダンパ本体3の上部にOリング4を介してビス5にて接合され、上部開口部3aを閉塞するカバー体6と、カバー体6とダンパ本体3との間に配置されるダイヤフラム7とを備え、該ダイヤフラム7をシールする環状シール部材8とを備えている。
【0013】
ダンパ本体3は、内部に、前記上部開口部3aよりも小さい開口部9aを備えた凹状の減衰油室9と、スレーブシリンダ(図示せず)と減衰油室9とを連通する第1液通路10と、マスタシリンダ2と減衰油室9とを連通する第2液通路11とを備えると共に、ダンパ本体3の、ダイヤフラム7の外周部に対向するダイヤフラム対向面には、ダイヤフラム側が開口した環状シール溝3bが形成され、該環状シール溝3bに前記環状シール部材8が嵌着される。また、環状シール溝3bと、該環状シール溝3bの上部外周側に連続して形成される上部開口部3aとの間に形成される段部3cには、前記ダイヤフラム7が配置される。さらに、ダンパ本体3のカバー体6と対向する上面には、Oリング装着溝3dが形成され、該Oリング装着溝3dに前記Oリング4が嵌着されている。
【0014】
環状シール部材8は、環状シール溝3bの外周壁側に配置される基部8aと、該基部8aの内周面上部(ダイヤフラム側)から環状シール溝3bの内周壁側に向けて延設されると共に、先端側に向けて漸次ダイヤフラム側に傾斜するダイヤフラム側リップ部8bと、基部8aの内周面下部(溝底部側)から環状シール溝3bの内周壁側に向けて延設されると共に、先端側に向けて漸次環状シール溝3bの底壁側に傾斜する溝底部側リップ部8cとを備え、前記基部8aの外周面の上部と下部とには、環状シール溝3bの外周壁3eに当接する突部8d,8dが形成されている。また、環状シール部材8の形状は、基部8aの厚さ方向の中心線CL1に対して、ダイヤフラム側と溝底部側とが対称形状に形成されている。
【0015】
ダイヤフラム7は、金属や樹脂等の可撓性材料で形成される周知のもので、円盤状に形成され、外周側がダンパ本体3に形成した段部3cに載置され、段部3cに載置されたダイヤフラム7の上面には、リング状のダイヤフラム押え部材12が載置されている。
【0016】
ダンパ本体3は、環状シール溝3bに環状シール部材8を、Oリング装着溝3dにOリング4をそれぞれ装着し、段部3cにダイヤフラム7を載置すると共に該ダイヤフラム7の上面にダイヤフラム押え部材12を載置した状態で、その上部にカバー体6が3本のビス5にて接合されることにより、ダイヤフラム7よりも下方に減衰油室9が、ダイヤフラム7よりも上方に空気室13がそれぞれ画成される。このように組み付けられた脈動ダンパ1では、図2に示すように、環状シール部材8はダイヤフラム7及びダイヤフラム押え部材12により、ダイヤフラム側リップ部8bと溝底部側リップ部8cとが互いに近付く方向に圧縮された状態となり、ダイヤフラム側リップ部8bの上面がダイヤフラム7の下面に密着している。
【0017】
また、マスタシリンダによりスレーブシリンダを作動してクラッチをオフ状態に保持している間、エンジンの回転振動に起因して、第1液通路10に脈動が生じると、この脈動が減衰油室9に伝達され、減衰油室9に伝達された脈動は、ダイヤフラム7が撓むことにより吸収される。これにより、第2液通路11に脈動が伝達されることを防止でき、第2液通路11からマスタシリンダ2に脈動を伝えない。環状シール部材8は、図3に示すように、ダイヤフラム7がカバー体6側(反減衰油室側)に撓んだ際には、ダイヤフラム側リップ部8bが先端側に向けて漸次ダイヤフラム側に傾斜していることにより、ダイヤフラム側に拡開することから、ダイヤフラム7の撓みに良好に追従し、シール性を確保することができる。また、環状シール部材8は、基部8aの外周面に設けた突部8d,8dを環状シール溝3bの外周壁3eに当接させて装着されていることから、ダイヤフラム側リップ部8bが変形しても、環状シール部材8が倒れることを防止できると共に、ダイヤフラム7が撓む際に、基部8aの上面がダイヤフラム7と段部3cとの間に食い込むことを防止できる。さらに、環状シール部材8は、基部8aの厚さ方向の中心線CLに対して、ダイヤフラム側と環状シール溝3bの底壁側とが対称形状に形成されることから、誤組み付けを防止できると共に、組み付けが容易になる。
【0018】
尚、本発明の脈動ダンパは、上述の形態例に限らず、ダンパ本体の開口部や減衰油室の開口部が、下方や側方に向くように配置されるものでも差し支えなく、また、マスタシリンダの上部に一体に形成されるものに限らず、別体に形成することもできる。
【符号の説明】
【0019】
1…脈動ダンパ、2…マスタシリンダ、3…ダンパ本体、3a…上部開口部、3b…環状シール溝、3c…段部、3d…Oリング装着溝、3e…外周壁、4…Oリング、5…ビス、6…カバー体、7…ダイヤフラム、8…環状シール部材、8a…基部、8b…ダイヤフラム側リップ部、8c…溝底部側リップ部、8d…突部、9…減衰油室、9a…開口部、10…第1液通路、11…第2液通路、12…ダイヤフラム押え部材、13…空気室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有するダンパ本体に、該ダンパ本体に接合されて前記開口部を閉塞するダイヤフラムを備え、該ダイヤフラムの前記ダンパ本体側にスレーブシリンダとマスタシリンダとの間の液通路に連通する減衰油室を画成するとともに、前記ダンパ本体の前記ダイヤフラムの外周部に対向するダイヤフラム対向面にダイヤフラム側が開口した環状シール溝を形成し、該環状シール溝に前記ダイヤフラムに当接する環状シール部材を嵌着したクラッチ操作装置の脈動ダンパにおいて、前記環状シール部材は、前記環状シール溝の外周壁側に配置される基部と、該基部の内周面ダイヤフラム側から前記環状シール溝の内周壁側に向けて延設されると共に、先端側に向けて漸次ダイヤフラム側に傾斜するダイヤフラム側リップ部と、前記基部の内周面溝底部側から前記環状シール溝の内周壁側に向けて延設されると共に、先端側に向けて漸次環状シール溝の底壁側に傾斜する溝底部側リップ部とを備えていることを特徴とするクラッチ操作装置の脈動ダンパ。
【請求項2】
前記環状シール部材は、前記基部の外周面に、前記環状シール溝の外周壁に当接する突部が形成されていることを特徴とする請求項1記載の脈動ダンパ。
【請求項3】
前記環状シール部材は、前記基部の厚さ方向の中心線に対して、ダイヤフラム側と溝底部側とが対称形状に形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載のクラッチ操作装置の脈動ダンパ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−256913(P2011−256913A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130617(P2010−130617)
【出願日】平成22年6月8日(2010.6.8)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】