説明

クラッチ装置のレリーズベアリング支持構造

【課題】ベアリングリテーナを廃止してレリーズベアリングを小型化し、クラッチ操作力を低減できるクラッチ装置のレリーズベアリング支持構造を提供する。
【解決手段】レリーズベアリング13の内輪13aを被駆動軸8の外周部に所定の半径方向隙間δをもって挿通し、内輪13aの一端部にダイヤフラムスプリング12の内周部側面に対して線接触可能な当接部13a1 を設ける。レリーズヨーク14を揺動させると、レリーズヨーク14の操作部14bがレリーズベアリング13の外輪13b,13dの背後を押圧し、レリーズベアリング13を被駆動軸8に沿って軸方向に移動させ、ダイヤフラムスプリング12を反転させる。このとき、内輪13aがダイヤフラムスプリング12と追随回転することで自動調心されて被駆動軸8から浮き上がるため、内輪13aと被駆動軸8との間に摺動抵抗が発生しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクラッチ装置のレリーズベアリング支持構造、特にクラッチを解放するためにダイヤフラムスプリングを押圧するためのレリーズベアリングの支持構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、手動変速機の乾式単板クラッチとして、特許文献1に示すように、ミッションケースを構成するフロントカバーから一体に形成した円筒状のベアリングリテーナの上に、調芯型のレリーズベアリングを支持したものが一般的に知られている。すなわち、レリーズベアリングの外輪とカバーとの間にバネが介装され、合成樹脂製のレリーズハブがベアリングリテーナの上に摺動自在に配置されている。クラッチペダルを踏み込むと、レリーズヨークが揺動してレリーズベアリングをベアリングリテーナに沿って軸方向に押し、これによってダイヤフラムスプリングのプレッシャプレートへの押圧力が解除され、クラッチが解放される。
【0003】
ところが、この構造の場合には、フロントカバーにベアリングリテーナを一体に形成する必要があり、しかもレリーズベアリングにベアリングリテーナ上を摺動自在なレリーズハブを設ける必要がある。このような部品はレリーズベアリングの内径側に配置されるので、レリーズベアリングの半径方向の寸法が増大するという問題がある。半径方向の寸法増大は、レリーズベアリングの大型化を招くだけでなく、レリーズベアリングとダイヤフラムスプリングとの接触点の径が大きくなるため、クラッチカバーの摩耗やクラッチカバーの振動伝達が大きくなる等の問題を招く。また、フロントカバーに一体形成されるベアリングリテーナは、軸方向に長く突出した構造であるため、ダイキャスト成形が難しく、鋳巣不良が発生しやすい。その結果、製造コストの上昇を招く欠点がある。さらに、クラッチ係合時、レリーズベアリングによって調芯されるとは言え、ベアリングリテーナとレリーズベアリングとの間にコゼが生じやすく、クラッチ操作力が増大するとともに、ベアリングリテーナの摩耗等が発生しやすい。
【0004】
特許文献2には、調芯型のレリーズベアリングを被駆動軸上に摺動自在に配置した構造のクラッチ装置が提案されている。このクラッチ装置では、レリーズベアリングの内径側に被駆動軸に対して摺動自在なレリーズハブ(筒状部材)が設けられ、レリーズハブに側板と呼ばれる板金部材が一体に固定され、この側板の軸方向一方側でかつレリーズハブの外周にレリーズベアリングが嵌合され、レリーズハブとレリーズベアリングとの間に調心用バネが介装されている。
【0005】
この構造の場合には、フロントカバーにベアリングリテーナを設ける必要がなくなるが、レリーズベアリングの内径側に配置されるレリーズハブのために、半径方向の寸法をさほど短縮できない。さらに、回転する被駆動軸上をレリーズハブが摺動するため、ベアリングリテーナ上をレリーズハブが摺動する場合に比べて、レリーズハブの摩耗がさらに増大し、被駆動軸とレリーズハブとの摩擦抵抗によりクラッチ操作力が増大し、操作感が悪化するという欠点がある。
【特許文献1】特開2006−125484号公報
【特許文献2】特開2003−222163号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、ベアリングリテーナを廃止してレリーズベアリングを小型化でき、かつクラッチ操作力を低減できるクラッチ装置のレリーズベアリング支持構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、レリーズヨークの揺動によってレリーズベアリングを被駆動軸に沿って軸方向に移動させ、駆動軸に連結されたダイヤフラムスプリングを反転させることによって、上記駆動軸から上記被駆動軸への動力の断接を行なうクラッチ装置において、上記レリーズベアリングの内輪は上記被駆動軸の外周部に所定の半径方向隙間をもって挿通されており、上記ダイヤフラムスプリングの内周部側面は上記被駆動軸の軸心に対して対称形状に形成されており、上記内輪の一端部に上記ダイヤフラムスプリングの内周部側面に対して線接触可能な円環状の当接部が設けられ、上記レリーズベアリングの外輪を上記レリーズヨークが押圧可能とされていることを特徴とするクラッチ装置のレリーズベアリング支持構造を提供する。
【0008】
本発明では、ベアリングリテーナおよびレリーズハブを廃止し、レリーズベアリングの内輪を被駆動軸に対して所定の半径方向隙間をもって挿通してある。内輪と被駆動軸との間には隙間があるので、エンジンが停止している状態ではレリーズベアリングが被駆動軸の上に乗っている、換言すればレリーズベアリングが被駆動軸に対して偏心している可能性があるが、一旦クラッチペダルを踏み込むと、レリーズヨークが揺動してレリーズベアリングを軸方向に押し、内輪がダイヤフラムスプリングと接触するので、内輪はダイヤフラムスプリングと追随回転する。ダイヤフラムスプリングの内周部は被駆動軸の軸心に対して対称形状であるため、追随回転する内輪は自動的に調心される。つまり、レリーズベアリングは被駆動軸に対して浮き上がった状態となり、その状態で軸方向に移動する。そのため、内輪と被駆動軸との間に摩擦抵抗が働かず、クラッチ操作力を低減できるとともに、操作感を改善できる。なお、上記の場合にはレリーズベアリングの内輪が被駆動軸と接離することになるが、内輪はダイヤフラムスプリングと一体回転するので、摩耗の懸念はない。また、上記のようにレリーズベアリングをダイヤフラムスプリングに押し付けた際に自動的に調心されるので、従来のような調心型のレリーズベアリングを用いる必要がない。
【0009】
好ましい実施形態によれば、上記レリーズベアリングを軸方向に押圧して、上記内輪の当接部を上記ダイヤフラムスプリングの内周部側面に常時押し付ける押圧手段が設けられ、少なくともクラッチ締結時において、上記内輪の当接部と当接する上記ダイヤフラムスプリングの内周部側面は上記内輪の当接部に向かって傾斜しているのがよい。すなわち、内輪の当接部をダイヤフラムスプリングの内周部側面に常時当接させておき、ダイヤフラムスプリングの内周部側面を内輪の当接部に向かって傾斜させることで、エンジンの停止状態においてもレリーズベアリングを被駆動軸に対して浮き上がった状態(調心状態)で保持することが可能になる。そのため、内輪が被駆動軸と接離することがなくなる。なお、押圧手段によって内輪をダイヤフラムスプリングの内周部側面に常時押し付ける場合には、エンジンの停止時にレリーズベアリングを被駆動軸に対して調心状態で保持できなくても、エンジンを始動すると同時(クラッチペダルを踏み込む前)にレリーズベアリングを調心することが可能である。どの段階で調心するかは、押圧手段のばね力の設定による。
【0010】
好ましい実施形態によれば、上記レリーズベアリングの外輪には、平行な一対のガイド部と両側方へ突出する一対の係止片とを有するカバー部材が固定されており、上記レリーズヨークには、上記カバー部材が嵌合される窓穴が形成され、上記窓穴には、上記カバー部材のガイド部をレリーズヨークの長さ方向にスライド自在にガイドする平行なガイド面と、上記カバー部材の係止片を挿通する一対の切欠部とが形成され、上記カバー部材の係止片を切欠部に挿通した後、上記カバー部材を窓穴のガイド面にそってスライドさせることにより、カバー部材をレリーズヨークに対して抜け止めした構造とするのがよい。特許文献2のような構造の場合、レリーズヨークをレリーズヨークに対して保持するためのクリップや側板が必要になり、構造が複雑になるが、上述のような係止構造を採用することで、部品点数を削減でき、レリーズヨークに対してレリーズベアリングを一体的に作動させることができる。また、レリーズヨークを揺動させた時、レリーズヨークとレリーズベアリングとの接点が変化するが、その際もレリーズベアリングは窓穴に沿って移動自在であるから、回転モーメントがレリーズベアリングに作用せず、レリーズベアリングは軸方向に円滑に作動できる。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明によれば、レリーズベアリングを被駆動軸に対して所定の半径方向隙間をもって挿通し、その内輪をダイヤフラムスプリングの内周部側面に対して線接触可能としたので、たとえレリーズベアリングが被駆動軸に対して偏心していても、内輪をダイヤフラムスプリングに押し付けると同時に、自動的に調心され、被駆動軸から浮き上がる。そのため、内輪と被駆動軸との間に摩擦抵抗が働かず、クラッチ操作力を低減できるとともに、操作感を改善できる。また、本発明では、フロントカバーにベアリングリテーナを一体形成する必要がなく、レリーズベアリングにレリーズハブを設ける必要もないので、レリーズベアリングを小型化でき、製造コストを低減できる。さらに、レリーズベアリングは非調芯型であっても上記自動調心作用によって調心されるので、さらなる小型化、低コスト化を達成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の実施の形態を、実施例を参照して説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は本発明の一例である自動車用手動変速機のクラッチ装置を示す。トランスミッションケースの一部を構成するフロントカバー1内には乾式単板クラッチ2が収納されている。周知のように、クラッチ2は、フライホイール4、クラッチカバー6、クラッチディスク10、プレッシャプレート11、ダイヤフラムスプリング12、レリーズベアリング13、レリーズヨーク14等で構成されている。
【0014】
フライホイール4はエンジン出力軸(駆動軸)3の後端にボルト5により締結されており、フライホイール4の後面にはクラッチカバー6がボルト7により締結されている。手動変速機の入力軸(被駆動軸)8はエンジン出力軸3と同軸上に配置されており、その前端部がクラッチカバー6の軸心部に挿入されている。入力軸8にはトーショナルダンパ9を介してクラッチディスク10が一体回転可能に取り付けられており、クラッチカバー6内には、プレッシャプレート11とダイヤフラムスプリング12とがクラッチカバー6と一体回転可能に配置されている。ダイヤフラムスプリング12は、その半径方向中間部がクラッチカバー6に設けられた支持部6aに揺動自在に支持されており、この中間部を支点として外周部と内周部とが相反方向に反転することができる。通常時は、ダイヤフラムスプリング12の外周部12aがプレッシャプレート11を前方へ押し、クラッチディスク10をフライホイール4に押し付けている。そして、ダイヤフラムスプリング12の内周部12bはその側面がレリーズベアリング13方向に傾斜し、レリーズベアリング13の内輪13aに接触している。なお、ダイヤフラムスプリング12の内周部12bは入力軸8の軸心に対して回転対称形状とされている。
【0015】
レリーズベアリング13は、図2のように、内輪13aと、外輪13bと、その間に転動自在に配置された球体13cとを備えた非調心型・インナー回転型のベアリングである。内輪13aは入力軸8の外周部に所定の半径方向隙間δをもって挿通されている。隙間δは例えば1mm程度でよい。内輪13aには、前方(エンジン側)に向かって突出する円環状の当接部13a1 が一体に形成されており、この当接部13a1 がダイヤフラムスプリング12の内周部12bの側面に線接触している。当接部13a1 の直径Dはダイヤフラムスプリング12の最内径dより、少なくとも隙間δの2倍分以上大きい。つまり、
D≧d+2δ
とされている。したがって、レリーズベアリング13が自重により入力軸8上に乗った状態(偏心した状態)であっても、当接部13a1 はダイヤフラムスプリング12の内周部12bの側面に確実に接触することができる。
【0016】
レリーズベアリング13には、外輪13bの外周を抱き込むように外輪13bに固定されたカバー13dが設けられている。図3に示すように、カバー13dの後部には筒状部13d1 が一体に形成されており、この筒状部13d1 がレリーズヨーク14の中央部に形成された窓穴14aに嵌合されている。レリーズヨーク14の窓穴14aは、両側にレリーズヨーク14の長さ方向に延びる平行なガイド面14a1 を持つ略長方形状の貫通穴である。筒状部13d1 の周面には、窓穴14aのガイド面14a1 に沿ってレリーズヨーク14の長さ方向にスライド自在な一対のガイド部13d2 が形成されており、ガイド部13d2 の後端には一対の係止片13d3 が外向きに折り曲げられている。これら係止片13d3 は、レリーズヨーク14の窓穴14aの内縁に形成された切欠部14a2 に挿入され、レリーズベアリング13を窓穴14aのガイド面14a1 にそってスライドさせることにより、レリーズベアリング13をレリーズヨーク14に対して抜け止めすることができる。レリーズヨーク14の窓穴14aの両側であって、切欠部14a2 より長さ方向に離れた位置に、レリーズベアリング方向に向かって突出した断面円弧状の一対の操作部14bが形成されている。これら操作部14bがレリーズベアリング13のカバー13dの後面13d4 の両側に点接触または線接触することで、レリーズベアリング13を軸方向に押圧することができる。なお、通常使用状態では、係止片13d2 は操作部14bの背後に位置しており、係止片13d2 と操作部14bの背面との間には隙間が存在する。そのため、レリーズヨーク14が揺動した際にレリーズベアリング13との間の相対角度変化が許容される。
【0017】
図3に示すように、レリーズヨーク14は厚肉鋼板を横断面コ字形にプレス成形したものであり、その長さ方向一端部近傍には凹碗型に湾曲した支点部14cが、その先端には溝部14dがそれぞれ形成されている。上記支点部14cはフロントカバー1に固定されたヒンジボルト17の頭部に嵌合され、溝部14dをストッパボルト18に挿通し、ストッパボルト18に挿通したヒンジバネ19によって支点部14cをヒンジボルト17に押し付けることで、支点部14cとヒンジボルト17との嵌合が外れるのを防止している。なお、レリーズヨーク14の支点部14cをヒンジボルト17から脱落防止するための手段は上記構造に限るものではない。レリーズヨーク14の長さ方向他端部にはケーブル連結部14eが形成され、この連結部14eには、図1に示すように、クラッチケーブル20のアウタケーブル20aが押圧バネ21を介して当接している。この押圧バネ21は、レリーズヨーク14を介してレリーズベアリング13を軸方向前方に押圧し、レリーズベアリング13の内輪13aをダイヤフラムスプリング12に常に接触させる押圧手段として機能している。なお、インナケーブル20bの先端はフロントカバー1に設けられた引掛部1aに係止されている。クラッチペダルを踏み込むと、アウタケーブル20aが図1の矢印A方向に押され、押圧バネ21を介してレリーズヨーク14のケーブル連結部14eも矢印A方向に押される。そのため、レリーズヨーク14は支点部14cを支点として右回り方向に揺動し、操作部14bがレリーズベアリング13を軸方向前方(エンジン方向)に向かって押すことができる。
【0018】
上記実施例では、レリーズヨーク14の操作部14bがレリーズベアリング13のカバー13dの後面に当接する例を示したが、レリーズヨーク14とレリーズベアリング13との間の摩擦を低減するため、両者の間にワッシャ等の低摩擦部材を介装してもよい。また、レリーズヨーク14のケーブル連結部14eをクラッチケーブル20のアウタケーブル20aによって操作する例を示したが、これに限るものではなく、例えばクラッチケーブル20のインナケーブル20bによってケーブル連結部14eを操作してもよい。この場合には、クラッチケーブル20の配索方向が図1と逆向きとなる。なお、押圧バネ21は、アウタケーブル20aとケーブル連結部14eとの間に配置する場合のほか、ケース1とレリーズヨーク14との間や、レリーズヨーク14とレリーズベアリング13との間など、いかなる部位に配置してもよい。
【0019】
次に、上記構成のクラッチ装置の作動を説明する。クラッチペダルを踏み込んでいない時、ダイヤフラムスプリング12の外周部12aがプレッシャプレート11に圧接している。そのため、クラッチディスク10はフライホイール4とプレッシャプレート11との間で圧着され、エンジン出力軸3と変速機の入力軸8とが接続される。なお、押圧バネ21によってレリーズヨーク14は図1の右回り方向に揺動付勢されているので、操作部14bがレリーズベアリング13の後面を押し、レリーズベアリング13の内輪13aの当接部13a1 がダイヤフラムスプリング12の内周部12bの側面に常時当接している。この当接によってダイヤフラムスプリング12の内周部12bは軸方向前方へ押されるが、ダイヤフラムスプリング12が反転することはない。ダイヤフラムスプリング12の内周部12bは後方に向かって傾斜しており、しかも内周部12bは入力軸8の軸心を中心として対称形状であるため、レリーズベアリング13の内輪13aはダイヤフラムスプリング12によって調心され、図2に示すように入力軸8に対して浮き上がった状態に保持することが可能である。なお、この実施例では押圧バネ21によってレリーズベアリング13がダイヤフラムスプリング12に押し付けられ、常時レリーズベアリング13が調心される例を示したが、必ずしも常時調心されなくても作動上支障はない。
【0020】
クラッチペダルを踏み込むと、クラッチケーブル20のアウタケーブル20aによってレリーズヨーク14は図1右回り方向へ揺動し、レリーズヨーク14の操作部14bがレリーズベアリング13の後面13d4 を押す。そのため、レリーズベアリング13の内輪13aの当接部13a1 がダイヤフラムスプリング12の内周部12bを強く押す。ダイヤフラムスプリング12はエンジン出力軸3と一体回転しているので、その回転が内輪13aに伝達され、内輪13aが回転することにより、レリーズベアリング13は調心される。つまり、レリーズベアリング13は入力軸8から確実に浮き上がる。この状態で、レリーズベアリング13はダイヤフラムスプリング12の内周部12bを前方へ押すため、ダイヤフラムスプリング12は中間部を支点として反転し、プレッシャプレート11への押圧力を解除する。その結果、クラッチディスク10はフライホイール4から離れ、エンジン出力軸3と変速機の入力軸8との動力伝達が遮断される。
【0021】
上記のようにレリーズヨーク14の操作部14bがレリーズベアリング13の後面13d4 を押す時、操作部14bが後面13d4 にほぼ点接触しているので、接触長さが短く、摺動抵抗を小さくできる。レリーズヨーク14が揺動することで、操作部14bと後面13d4 との接触点はレリーズヨーク14の長さ方向に移動するが、レリーズベアリング13はレリーズヨーク14の窓穴14aに沿って長さ方向にスライド自在であり、かつ相対角度変化が許容されているため、レリーズベアリング13は調心状態(入力軸8と非接触状態)を保ったまま円滑に軸方向移動できる。そのため、レリーズベアリング13の内輪13aが入力軸8と摺接せず、理想的な調心状態で作動するため、クラッチ操作力を低減でき、クラッチ操作感が改善される。
【0022】
本発明では、非調心型のレリーズベアリング13を使用できるので、小型で安価となる。また、レリーズベアリング13の内径側にベアリングリテーナやレリーズハブが存在しないので、レリーズベアリング13として小径なベアリングを使用できる。このように小径なベアリングを使用すれば、レリーズベアリング13とダイヤフラムスプリング12との接触点の直径Dが小さくなり、クラッチカバー6の摩耗やクラッチカバー6の振動伝達を小さくできる。さらに、レリーズベアリング13の半径方向近傍に出力軸30(図1参照)の端部を支持するベアリング31が配置されている場合において、レリーズベアリング13を小径化できることから、ベアリング31の大きさが制約されず、設計の自由度が増す。さらに、フロントカバー1にベアリングリテーナを設ける必要がないので、フロントカバー1をダイキャスト成形する際に鋳巣不良が発生しにくく、歩留りを向上させることができる。
【0023】
本発明は上記実施例に限定されるものではない。
上記実施例では、押圧手段(例えば押圧バネ21)によってレリーズヨーク14を介してレリーズベアリング13の後面を押圧し、レリーズベアリング13を常時ダイヤフラムスプリング12に当接させた例を示したが、押圧手段を廃止し、レリーズベアリング13とダイヤフラムスプリング12とが常時当接していない構造としてもよい。この場合には、クラッチ締結時においてレリーズベアリング13は入力軸(被駆動軸)8上に非調心状態で乗っていることになるが、一旦クラッチペダルを踏み込めば、レリーズベアリング13がダイヤフラムスプリング12に押し付けられ、自動的に調心される。
上記実施例では、一端部がヒンジボルト17によって揺動自在に支持され、他端部がクラッチケーブル20と連結され、中間部にレリーズベアリングを操作する操作部14bを有するレリーズヨーク14を用いたが、レリーズヨークの構造はこれに限らず、例えば中間部が揺動自在に支持され、一端側がレリーズベアリングと接触し、他端側がクラッチペダルと連結されたものでもよい。
また、レリーズヨーク14に円弧状の操作部14bを設け、この操作部をレリーズベアリング13に固定されたカバー部材13dの平面部13d4 に当接させたが、これとは逆に、カバー部材13dに凸円弧状の接触部を設け、この接触部をレリーズヨーク14の平面部に当接させてもよい。
上記実施例では、レリーズベアリングとして非調心型のベアリングを使用したが、調心型のベアリングを使用してもよいことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明にかかるレリーズベアリング支持構造を備えたクラッチ装置の断面図である。
【図2】図1の要部の拡大断面図である。
【図3】レリーズヨークとレリーズベアリングの分解斜視図である。
【符号の説明】
【0025】
1 フロントカバー
2 クラッチ装置
3 エンジン出力軸(駆動軸)
8 入力軸(被駆動軸)
12 ダイヤフラムスプリング
13 レリーズベアリング
13a 内輪
13b 外輪
13d カバー
13d1 筒状部
13d2 ガイド部
13d3 係止片
13d4 後面
14 レリーズヨーク
14a 窓穴
14a1 ガイド面
14a2 切欠部
14b 操作部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レリーズヨークの揺動によってレリーズベアリングを被駆動軸に沿って軸方向に移動させ、駆動軸に連結されたダイヤフラムスプリングを反転させることによって、上記駆動軸から上記被駆動軸への動力の断接を行なうクラッチ装置において、
上記レリーズベアリングの内輪は上記被駆動軸の外周部に所定の半径方向隙間をもって挿通されており、
上記ダイヤフラムスプリングの内周部側面は上記被駆動軸の軸心に対して対称形状に形成されており、
上記内輪の一端部に上記ダイヤフラムスプリングの内周部側面に対して線接触可能な円環状の当接部が設けられ、
上記レリーズベアリングの外輪を上記レリーズヨークが押圧可能とされていることを特徴とするクラッチ装置のレリーズベアリング支持構造。
【請求項2】
上記レリーズベアリングを軸方向に押圧して、上記内輪の当接部を上記ダイヤフラムスプリングの内周部側面に常時押し付ける押圧手段が設けられ、
少なくともクラッチ締結時において、上記内輪の当接部と当接する上記ダイヤフラムスプリングの内周部側面は上記内輪の当接部に向かって傾斜していることを特徴とする請求項1に記載のクラッチ装置のレリーズベアリング支持構造。
【請求項3】
上記レリーズベアリングの外輪には、平行な一対のガイド部と両側方へ突出する一対の係止片とを有するカバー部材が固定されており、
上記レリーズヨークには、上記カバー部材が嵌合される窓穴が形成され、
上記窓穴には、上記カバー部材のガイド部をレリーズヨークの長さ方向にスライド自在にガイドする平行なガイド面と、上記カバー部材の係止片を挿通する一対の切欠部とが形成され、
上記カバー部材の係止片を切欠部に挿通した後、上記カバー部材を窓穴のガイド面にそってスライドさせることにより、カバー部材をレリーズヨークに対して抜け止めしてなることを特徴とする請求項1または2に記載のクラッチ装置のレリーズベアリング支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−215599(P2008−215599A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−58128(P2007−58128)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【出願人】(591043260)明石機械工業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】