説明

クラッチ装置の異常検出装置

【課題】係合部材同士を接触させて摩擦力を利用して動力を伝達し、弾性部材でそれら係合部材を離すクラッチ装置の異常の有無を診断することが可能な異常検出装置を提供する。
【解決手段】係合機構21と駆動機構22とが共通の軸線の回りに相対回転可能に配置され、所定の係合条件が成立した場合は電磁コイル30にて係合機構21の第2クラッチ板24を係合位置に移動させて駆動機構22と接触させ、所定の解放条件が成立した場合は電磁コイル30を停止させてリターンスプリング28にて第2クラッチ板24を駆動機構22から離れる解放位置に移動させるロック装置20に適用される異常検出装置において、駆動機構22の摩擦部31の温度を検出する温度センサ31を備え、所定の解放条件が成立して電磁コイル30が停止した時期からの所定期間中に温度センサ31が検出した温度の変化に基づいてリターンスプリング28の異常の有無を診断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、係合部材同士を接触させて摩擦力を利用して動力を伝達し、弾性部材にてそれら係合部材を離すクラッチ装置の異常検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ブレーキライニングの温度を検出し、その温度が所定値以上である場合にブレーキに不具合が発生していると判定してその旨を報知するブレーキ装置が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−197894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
クラッチ装置として、一対の係合部材を接触させ、摩擦力を利用して動力を伝達し、これら係合部材を離して動力の伝達を阻止するものが知られている。また、このようなクラッチ装置において、バネ等の弾性部材の弾性力を利用して係合部材同士を離すものが知られている。このクラッチ装置では、経時劣化などによりバネの弾性力が弱くなると係合部材同士を離す際に係合部材同士が接触しつつ異なる回転数で回転する、いわゆる半クラッチの期間が長くなる。この場合、摩擦損失が大きくなり、エネルギが無駄に消費される。そのため、車両に搭載した場合には、燃費が悪化するおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、係合部材同士を接触させて摩擦力を利用して動力を伝達し、弾性部材でそれら係合部材を離すクラッチ装置の異常の有無を診断することが可能な異常検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のクラッチ装置の異常検出装置は、第1係合部材と第2係合部材とが共通の軸線の回りに相対回転可能に配置され、前記第1係合部材は、前記第1係合部材と前記第2係合部材との間で動力伝達が可能なように前記第2係合部材と接触する係合位置と前記第2係合部材と離れる解放位置との間で移動可能なクラッチ部材を有し、前記クラッチ部材を前記第2係合部材から離れる方向に付勢する弾性部材と、前記クラッチ部材を前記解放位置から前記係合位置に前記弾性部材に抗して駆動可能な駆動手段と、所定の係合条件が成立した場合は前記クラッチ部材が前記係合位置に移動するように前記駆動手段を動作させ、所定の解放条件が成立した場合は前記クラッチ部材が前記弾性部材の弾性力にて前記解放位置に移動するように前記駆動手段を停止させる制御手段と、を備えたクラッチ装置に適用され、前記クラッチ部材のうち前記第2係合部材と接触する部分の温度及び前記第2係合部材のうち前記クラッチ部材と接触する部分の温度の少なくともいずれか一方の温度を取得する温度取得手段と、前記所定の解放条件が成立して前記制御手段が前記駆動手段を停止させた時期からの所定期間中に前記温度取得手段が取得した温度の変化に基づいて前記弾性部材の異常の有無を診断する診断手段と、を備えている(請求項1)。
【0007】
弾性部材に異常が生じて弾性力が弱くなると、弾性部材が正常の場合と比較して係合部材同士を離す際にこれらが離れるまでに要する時間が長くなり、またクラッチ装置が半クラッチの状態になる期間が長くなる。周知のように半クラッチの状態では、摩擦熱により各係合部材のうち相手方と接触している部分の温度が高くなる。そのため、弾性部材に異常があると、クラッチ装置の解放時においてクラッチ部材のうち第2係合部材と接触する部分の温度及び第2係合部材のうちクラッチ部材と接触する部分の温度が、弾性部材が正常な場合とは異なる変化を示す。そのため、これらの部分の少なくともいずれか一方の温度変化に基づいて弾性部材に異常が有るか否か診断することができる。
【0008】
本発明の異常検出装置の一形態において、前記診断手段は、前記所定期間中に前記温度取得手段が取得した温度が所定の判定温度より高くなった場合に前記弾性部材に異常が有ると診断してもよい(請求項2)。上述したように半クラッチの状態では、第2係合部材及びクラッチ部材の相手方と接触する部分の温度が上昇する。そのため、弾性部材に異常が生じて半クラッチの状態の期間が長くなると、クラッチ装置を解放する際に弾性部材が正常の場合よりも第2係合部材及びクラッチ部材の相手方と接触する部分の温度が高くなる。従って、判定温度を適切に設定することにより、クラッチ装置の解放時にこれらの部分の温度が判定温度より高くなった場合に弾性部材に異常が有ると診断できる。
【0009】
本発明の異常検出装置の一形態において、前記クラッチ部材は磁性材料で構成され、前記駆動手段として、通電時に前記クラッチ部材を前記解放位置から前記係合位置に駆動可能な磁力を発生する電磁コイルが前記第2係合部材に設けられてもよい(請求項3)。このクラッチ装置では、電磁コイルに通電されるとクラッチ部材が第2係合部材に磁力で吸引され、これにより係合部材同士が係合される。一方、クラッチ装置を解放する場合は電磁コイルの通電が停止される。この際に弾性部材は、クラッチ部材を解放位置に付勢するので、解放時にクラッチ部材を第2係合部材から速やかに離すことができる。そのため、解放時の引き摺り損失を低減できる。
【0010】
本発明の異常検出装置の一形態において、前記クラッチ装置は、動力伝達経路に電動機が配置された車両用駆動装置に設けられ、前記第1係合部材は、前記電動機と一体回転可能に接続され、前記第2係合部材は、所定の固定部材に回転不能に固定され、前記制御手段は、前記所定の係合条件が成立した場合に前記クラッチ部材を前記係合位置に移動させて前記電動機をロックし、前記所定の解放条件が成立した場合に前記クラッチ部材を前記解放位置に移動させて前記電動機のロックを解除してもよい(請求項4)。このように第2係合部材を固定部材に固定することにより、クラッチ装置にて電動機をロックしたりそのロックを解除したりすることができる。
【0011】
本発明の異常検出装置の一形態において、前記第1係合部材は、前記解放位置から前記係合位置への移動後に前記第1係合部材に生じる所定方向のトルクを利用して前記クラッチ部材を前記第2係合部材に押し付ける方向の力を発生させる係合補助手段を備えてもよい(請求項5)。この場合、第1係合部材と第2係合部材とを接触させ続けるために外部から与えるべきエネルギを低減できる。
【0012】
この形態において、係合補助手段としては適宜の構成を採用できる。例えば、前記第1係合部材は、前記クラッチ部材と対向するように同軸上に配置されて動力が伝達される回転部材と、前記回転部材と前記クラッチ部材との間に介在する介在部材と、をさらに備え、前記係合補助手段は、前記介在部材が前記クラッチ部材及び前記回転部材のそれぞれの対向面に形成されて回転方向に関して深さが徐々に浅くなる溝部に保持されることにより構成されてもよい(請求項6)。
【発明の効果】
【0013】
以上に説明したように、弾性部材に異常が生じて弾性力が弱くなると、クラッチ装置の解放時におけるクラッチ部材及び第2係合部材の相手方と接触する部分の温度は、弾性部材が正常なときとは異なる変化を示す。本発明の異常検出装置によれば、温度取得手段によってこれらの部分の少なくともいずれか一方の温度を取得できるので、診断手段によって弾性部材に異常が有るか否か診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一形態に係る異常検出装置が搭載された車両の全体構成を概略的に示す図。
【図2】図1のロック装置の詳細を示した図であって、解放状態におけるロック装置を示す図。
【図3】図1のロック装置の詳細を示した図であって、係合状態におけるロック装置を示す図。
【図4】軸線方向から見た第1クラッチ板を示す図。
【図5】各クラッチ板を半径方向から見た状態を示した図であって、各クラッチ板の位相が一致している状態を示した図。
【図6】各クラッチ板を半径方向から見た状態を示した図であって、各クラッチ板の位相がずれている状態を示した図。
【図7】ロック制御装置が実行するロック制御ルーチンを示すフローチャート。
【図8】ロック制御装置が実行する異常診断ルーチンを示すフローチャート。
【図9】ロック装置を係合状態から解放状態に切り替えるときの摩擦部の温度変化の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の一形態に係る異常検出装置が搭載された車両の全体構成を概略的に示している。車両1はいわゆるハイブリッド車両として構成されている。周知のようにハイブリッド車両は、内燃機関を走行用の駆動力源として備えるとともに、電動機を他の走行用の駆動力源として備えた車両である。車両1に搭載されている駆動装置2は、内燃機関3と、電動機としての第1モータ・ジェネレータ4と、内燃機関3及び第1モータ・ジェネレータ4がそれぞれ連結された動力分配機構5と、車両1の駆動輪10に動力を出力するための出力ギア6とを備えている。また、駆動装置2には変速機構7を介して出力ギア6に連結された第2モータ・ジェネレータ8が設けられている。出力ギア6の動力は差動装置9を介して左右の駆動輪10に伝達される。
【0016】
内燃機関3は、火花点火型の多気筒内燃機関として構成されており、その動力は入力軸11を介して動力分配機構5に伝達される。入力軸11と内燃機関3との間にはダンパ12が介在しており、内燃機関3のトルク変動はダンパ12にて吸収される。第1モータ・ジェネレータ4と第2モータ・ジェネレータ8とは同様の構成を持っていて、電動機としての機能と発電機としての機能とを兼ね備えている。第1モータ・ジェネレータ4は、固定部材であるケース13に固定されたステータ4aと、そのステータ4aの内周側に同軸に配置されたロータ4bとを備えている。第2モータ・ジェネレータ8も同様に、ケース13に固定されたステータ8aと、そのステータ8aの内周側に同軸に配置されたロータ8bとを備えている。
【0017】
動力分配機構5は、相互に差動回転可能な3つの要素を持つシングルピニオン型の遊星歯車機構として構成されており、外歯歯車であるサンギアS1と、そのサンギアS1に対して同軸的に配置された内歯歯車であるリングギアR1と、これらのギアS1、R1に噛み合うP1を自転かつ公転自在に保持するキャリアC1とを備えている。この形態では、入力軸11がキャリアC1に、第1モータ・ジェネレータ4が連結部材14を介してサンギアS1に、出力ギア6がリングギアR1にそれぞれ連結されている。連結部材14は中空状に構成されて、かつ入力軸11が挿入された状態で不図示の軸受を介してケース13に支持されている。連結部材14の外周には第1モータ・ジェネレータ4のロータ4bが固定されている。
【0018】
図1に示すように、減速機構7は、第2モータ・ジェネレータ8の回転を減速して出力ギア6に伝達するための機構であり、相互に差動回転可能な3つの要素を持つシングルピニオン型の遊星歯車機構として構成されている。減速機構7は外歯歯車であるサンギアS2と、そのサンギアS2に対して同軸的に配置された内歯歯車であるリングギアR2と、これらのギアS2、R2に噛み合うピニオンP2を自転かつ公転自在に保持するキャリアC2とを備えている。この形態では、サンギアS2が第2モータ・ジェネレータ8に、リングギアR2が出力ギア6にそれぞれ連結されており、キャリアC2はケース13に固定されている。これにより、第2モータ・ジェネレータ8の回転が減速されて出力ギア6に伝達されるとともに、第2モータ・ジェネレータ8の動力が増幅されて出力ギア6に伝達される。
【0019】
駆動装置2には、第1モータ・ジェネレータ4がロックされる係合状態と、そのロックが解除される解放状態とに状態を切り替え可能なクラッチ装置としてのロック装置20が設けられている。図2及び図3はロック装置20の詳細を示した図であり、図2は解放状態を、図3は係合状態をそれぞれ示している。ロック装置20は、第1係合部材としての係合機構21と、第2係合部材としての駆動機構22とを備えている。係合機構21と駆動機構22とは共通の軸線の回りを相対回転可能に配置されている。係合機構21には連結部材14が接続されており、連結部材14を介して第1モータ・ジェネレータ4のトルクが入力される。駆動機構22は係合機構21とケース13との間に介在しており、ケース13に対して固定されている。
【0020】
係合機構21は、回転部材としての第1クラッチ板23と、クラッチ部材としての第2クラッチ板24と、これらのクラッチ板23、24の間に介在する介在部材としての球状のカムボール25とを備えている。第1クラッチ板23と第2クラッチ板24とは、同軸上に互いに対向するように配置されている。また、各クラッチ板23、24は、円板状に構成されていて、各クラッチ板23、24の対向面にはカムボール25を保持するV字溝26、27が形成されている。第1クラッチ板23は、連結部材14に固定されている。第2クラッチ板24は、図3に示した駆動機構22と接触する係合位置と、図2に示した駆動機構22から離れる解放位置との間で軸線方向に移動可能なように設けられている。また、第2クラッチ板24は、磁性材料で構成されている。
【0021】
図4は第1クラッチ板23を軸線方向から見た状態を示しており、図5及び図6は各クラッチ板23、24を半径方向から見た状態を示している。図5は各クラッチ板23、24の位相が一致している状態を、図6は各クラッチ板23、24の位相がずれている状態をそれぞれ示している。図4から明らかなように、第1クラッチ板23に設けられたV字溝26は、周方向に等間隔に6個並べられている。第2クラッチ板24に形成された他方のV字溝27も同様に周方向に等間隔に6個並べられている。各V字溝26、27は、第1クラッチ板23の中心線を含む断面で切断した場合には断面半円形をなしている(図2及び図3参照)。また、図4に示すように、第1クラッチ板23の軸線方向から見ると、各V字溝26、27は、第1クラッチ板23の中心寄りの内側縁部と中心から離れた外側縁部とが同心の円弧をなすように湾曲している。更に、図5及び図6に示すように、第1クラッチ板23の半径方向から見ると、各V字溝26、27はV字状に形成されていて、回転方向(図の上又は下方向)に関して深さが徐々に浅くなっている。
【0022】
第2クラッチ板24と駆動機構22との間には、駆動機構22から離れる方向に第2クラッチ板24を付勢する弾性部材としてのリターンスプリング28が設けられている。図2に示すように、第2クラッチ板24が解放位置にある場合、第2クラッチ板24と駆動機構22との間には所定の隙間Gが形成されている。そのため、ロック装置20が解放状態の場合は、第2クラッチ板24が第1クラッチ板23に接近する方向に押し付けられた状態で、第1クラッチ板23と第2クラッチ板24とが供回りする。
【0023】
駆動機構22には、ケース17に固定されたコイルハウジング29と、コイルハウジング29内に組み込まれた駆動手段としての電磁コイル30と、が設けられている。コイルハウジング29には、リターンスプリング28の一端が固定されている。一方、リターンスプリング28の他端は、リターンスプリング28が第2クラッチ板24と共に回転しないようにベアリング28aを介して第2クラッチ板24と接続されている。これによりコイルハウジング29と第2クラッチ板24とは相対回転可能に構成されている。コイルハウジング29のうち係合状態において第2クラッチ板24が接触する部分には、摩擦部31が設けられている。また、コイルハウジング29には、摩擦部31の温度に対応する信号を出力する温度取得手段としての温度センサ32が設けられている。上述したように第2クラッチ板24は磁性材料製であるため、図2の状態で電磁コイル30に通電して励磁すると、電磁コイル30の磁力により第2クラッチ板24はリターンスプリング28の弾性力に抗して係合位置側に移動する。そして、第2クラッチ板24が係合位置に移動してその接触面24aが摩擦部31と接触すると、接触面24aと摩擦部31との間に摩擦力が生じるため、第2クラッチ板24が駆動機構22に対して停止する。つまり、図3に示すように、第1モータ・ジェネレータ4をロックする係合状態へ移行する。
【0024】
第1クラッチ板23にトルクが生じている場合、図6に示すように各クラッチ板23、24の位相がずれることにより、カムボール25がV字溝26、27内の浅い位置に移動して、第2クラッチ板24を駆動機構22に押し付ける力が発生する。そのため、係合状態に移行した後に第1クラッチ板23に同じ方向のトルクが作用している限りにおいてその押し付け力は維持される。このように押し付け力を発生させることにより、係合機構21が本発明の係合補助手段として機能する。
【0025】
図1に示したように、ロック装置20に設けられた電磁コイル30の動作はコンピュータユニットとして構成されたロック制御装置40にて制御される。ロック制御装置40は、駆動装置2を制御するトランスミッションコントロールユニットなどの他のコンピュータユニットと兼用されてもよいし、ロック装置20の制御のために専用に設けられてもよい。ロック制御装置40には、車両1の車速に応じた信号を出力する車速センサ41と、駆動装置2の負荷(駆動力)に相関するアクセル開度に応じた信号を出力するアクセル開度センサ42とがそれぞれ接続されている。また、このロック制御装置40には、温度センサ32も接続されている。
【0026】
図7は、ロック制御装置40が車両1の走行状態に応じてロック装置20の制御するために車両1の走行中に所定の周期で繰り返し実行するロック制御ルーチンを示している。この制御ルーチンを実行することにより、ロック制御装置40が本発明の制御手段として機能する。図7の制御ルーチンにおいてロック制御装置40は、まずステップS1で車速及びアクセル開度を車両1の走行状態を代表するパラメータとして取得する。次のステップS2においてロック制御装置40は、ロック装置20を係合状態に切り替えるべき所定の係合条件が成立したか否か判断する。係合条件が成立したか否かは、車両1の走行状態に基づいて判定される。例えば予め車両1の走行状態のうち第1モータ・ジェネレータ4をロックすべき運転領域である係合領域を設定しておき、車両1の走行状態がこの係合領域内の場合に係合条件が成立したと判断される。係合条件が成立したと判断した場合はステップS3に進み、ロック制御装置40は電磁コイル30を励磁させてロック装置20を係合状態に切り替える係合制御を実行する。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0027】
一方、係合条件が不成立と判断した場合はステップS4に進み、ロック制御装置40はロック装置20を解放状態に切り替えるべき所定の解放条件が成立したか否か判断する。この解放条件が成立したか否かも車両1の走行状態に基づいて判定され、走行状態が上述した係合領域外の場合に成立したと判断される。解放条件が不成立と判断した場合は、今回の制御ルーチンを終了する。一方、解放条件が成立したと判断した場合はステップS5に進み、ロック制御装置40は電磁コイル30への通電を停止させてロック装置20を解放状態に切り替える解放制御を実行する。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0028】
ロック制御装置40は、この他にもロック装置20に関する種々のルーチンを実行する。図8は、ロック制御装置40が、リターンスプリング28の異常の有無を診断するために実行する異常診断ルーチンを示している。このルーチンを実行することにより、ロック制御装置40が本発明の診断手段として機能する。このルーチンを説明する前に、まず図9を参照してリターンスプリング28の異常の有無を診断する方法について説明する。図9は、ロック装置20を係合状態から解放状態に切り替えるときの摩擦部31の温度変化の一例を示している。なお、図9の線Aがリターンスプリング28が正常なときの温度変化の一例を示し、線Bがリターンスプリング28に異常が有るときの温度変化の一例を示している。リターンスプリング28は、経時劣化などによって異常が生じ、弾性力が弱くなることがある。この場合、ロック装置20を係合状態から解放状態に切り替える際に第2クラッチ板24と摩擦部31とが離れ難くなり、第2クラッチ板24と摩擦部31とが接触しつつ異なる回転数で回転する、いわゆる半クラッチ(半係合と称することもある。)の期間が長くなる。
【0029】
この図では、解放条件が成立して電磁コイル30への通電が停止された時刻を0とする。リターンスプリング28が正常な場合は、時刻0から摩擦部31の温度が上昇し、時刻t1において温度T1となり、その後時刻t2において温度T2となる。一方、リターンスプリング28に異常が有る場合は、第2クラッチ板24と摩擦部31とが離れ難くなるので、時刻t1より遅い時刻t1’において摩擦部31の温度が温度T1になる。また、半係合の期間が長くなるので、時刻t2における摩擦部31の温度は温度T2より高い温度T3になる。そのため、時刻0から摩擦部31の温度Tが温度T1になった時刻までの時間tT1が時刻t1より大きく、かつ時刻t2になったときの摩擦部31の温度Tt2が温度T2より高い場合にリターンスプリング28に異常が有ると判断できる。すなわち、以下の2式の両方が満たされる場合にリターンスプリング28に異常が有ると判断できる。そこで、ロック制御装置40は、ロック装置20を係合状態から解放状態に切り替える際の摩擦部31の温度の変化に基づいてリターンスプリング28の異常の有無を診断する。このように異常の有無を診断することにより、温度T2が本発明の判定温度に相当する。
【0030】
tT1>t1 ・・・ (1)
Tt2>T2 ・・・ (2)
【0031】
図8の異常診断ルーチンの説明に戻る。ロック制御装置40は、このルーチンを車両1の走行中に所定の周期で繰り返し実行する。また、このルーチンは、ロック制御装置40が実行する他のルーチンを並行に実行される。なお、このルーチンにおいて図7の制御ルーチンと同一の処理には同一の参照符号を付して説明を省略する。このルーチンにおいてロック制御装置40は、まずステップS1で車両の走行状態を取得し、次のステップS4で所定の解放条件が成立したか否か判断する。解放条件が不成立と判断した場合は、今回のルーチンを終了する。一方、解放条件が成立したと判断した場合はステップS11に進み、ロック制御装置40は電磁コイル30への通電を停止してから経過した時間を計測するためのタイマをリセットし、その後電磁コイル30への通電が停止されると同時にそのタイマのカウントを開始する。
【0032】
続くステップS12においてロック制御装置40は、摩擦部31の温度Tが上述した図9の温度T1か否か判断する。摩擦部31の温度Tが温度T1ではない場合、温度Tが温度T1になるまでこの処理を繰り返し実行する。一方、摩擦部31の温度Tが温度T1であると判断した場合はステップS13に進み、ロック制御装置40は、タイマによってカウントされている経過時間tが上述した図9の時刻t1より大きいか否か判断する。このときの経過時間tは、摩擦部31の温度Tが温度T1になったときの時間であるため、上述した時間tT1である。すなわち、この処理では上述した(1)式が成立するか否か判断している。経過時間tが時刻t1以下と判断した場合は今回のルーチンを終了する。
【0033】
一方、経過時間tが時刻t1より大きいと判断した場合はステップS14に進み、ロック制御装置40は経過時間tが時刻t2か否か判断する。経過時間tが時刻t2ではない場合は、経過時間tが時刻t2になるまでこの処理を繰り返し実行する。一方、経過時間tが時刻t2であると判断した場合はステップS15に進み、ロック制御装置40は摩擦部31の温度Tが温度T2より高いか否か判断する。このときの摩擦部31の温度Tは、時刻t2における摩擦部31の温度であるため、上述した温度Tt2である。すなわち、この処理では上述した(2)式が成立するか否か判断している。摩擦部31の温度Tが温度T2以下と判断した場合は今回のルーチンを終了する。一方、摩擦部31の温度Tが温度T2より高いと判断した場合はステップS16に進み、ロック制御装置40はロック装置20に異常があることを運転者に示すための異常警告処理を実行する。異常警告処理としては、例えば車両1のインパネ内の異常ランプの点灯などが行われる。その後、今回のルーチンを終了する。
【0034】
以上に説明したように、本発明によれば、ロック装置20を係合状態から解放状態に切り替える際の摩擦部31の温度変化に基づいてリターンスプリング28の異常の有無を診断することができる。また、リターンスプリング28に異常が有る場合は運転者にその異常が報知されるので、運転者にリターンスプリング28を修理することを促すことができる。これによりリターンスプリング28に異常が生じている期間を短縮することができるので、ロック装置20の解放時に無駄にエネルギが消費されることを抑制できる。そのため、燃費悪化を抑制できる。
【0035】
本発明は、上述した形態に限定されることなく、種々の形態にて実施することができる。例えば、リターンスプリングの異常の有無を診断する際に使用する温度は摩擦部の温度に限定されない。この第2クラッチ板の接触面の温度も摩擦部の温度と同様に変化すると考えられるので、この接触面の温度変化に基づいてリターンスプリングの異常の有無を診断してもよい。さらにこの接触面及び摩擦部の両方の温度に基づいて異常の有無を診断してもよい。
【0036】
上述した形態では、駆動機構をケースに固定してクラッチ装置を第1モータ・ジェネレータをロックするためのロック装置として機能させたが、このクラッチ装置は回転運動が伝達される種々の動力伝達経路中に設けられてもよい。この場合、係合機構及び駆動機構の両方がそれぞれ異なる回転体に設けられてもよい。
【0037】
本発明の異常検出装置が適用されるクラッチ装置は、上述した形態のクラッチ装置に限定されない。一対の係合部材を接触させて摩擦力を利用して動力を伝達し、これらの係合部材を弾性部材にて離す種々のクラッチ装置に適用してよい。また、係合部材を駆動する駆動手段は電磁コイルに限定されない。モータなどの種々のアクチュエータを使用してよい。
【符号の説明】
【0038】
2 駆動装置
4 第1モータ・ジェネレータ(電動機)
13 ケース(固定部材)
20 ロック装置(クラッチ装置)
21 係合機構(第1係合部材)
22 駆動機構(第2係合部材、係合補助手段)
23 第1クラッチ板(回転部材)
24 第2クラッチ板(クラッチ部材)
25 カムボール(介在部材)
26 V字溝
27 V字溝
28 リターンスプリング(弾性部材)
30 電磁コイル(駆動手段)
32 温度センサ(温度取得手段)
40 ロック制御装置(制御手段、診断手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1係合部材と第2係合部材とが共通の軸線の回りに相対回転可能に配置され、
前記第1係合部材は、前記第1係合部材と前記第2係合部材との間で動力伝達が可能なように前記第2係合部材と接触する係合位置と前記第2係合部材と離れる解放位置との間で移動可能なクラッチ部材を有し、
前記クラッチ部材を前記第2係合部材から離れる方向に付勢する弾性部材と、前記クラッチ部材を前記解放位置から前記係合位置に前記弾性部材に抗して駆動可能な駆動手段と、所定の係合条件が成立した場合は前記クラッチ部材が前記係合位置に移動するように前記駆動手段を動作させ、所定の解放条件が成立した場合は前記クラッチ部材が前記弾性部材の弾性力にて前記解放位置に移動するように前記駆動手段を停止させる制御手段と、を備えたクラッチ装置に適用され、
前記クラッチ部材のうち前記第2係合部材と接触する部分の温度及び前記第2係合部材のうち前記クラッチ部材と接触する部分の温度の少なくともいずれか一方の温度を取得する温度取得手段と、前記所定の解放条件が成立して前記制御手段が前記駆動手段を停止させた時期からの所定期間中に前記温度取得手段が取得した温度の変化に基づいて前記弾性部材の異常の有無を診断する診断手段と、を備えているクラッチ装置の異常検出装置。
【請求項2】
前記診断手段は、前記所定期間中に前記温度取得手段が取得した温度が所定の判定温度より高くなった場合に前記弾性部材に異常が有ると診断する請求項1に記載のクラッチ装置の異常検出装置。
【請求項3】
前記クラッチ部材は磁性材料で構成され、
前記駆動手段として、通電時に前記クラッチ部材を前記解放位置から前記係合位置に駆動可能な磁力を発生する電磁コイルが前記第2係合部材に設けられている請求項1又は2に記載のクラッチ装置の異常検出装置。
【請求項4】
前記クラッチ装置は、動力伝達経路に電動機が配置された車両用駆動装置に設けられ、
前記第1係合部材は、前記電動機と一体回転可能に接続され、
前記第2係合部材は、所定の固定部材に回転不能に固定され、
前記制御手段は、前記所定の係合条件が成立した場合に前記クラッチ部材を前記係合位置に移動させて前記電動機をロックし、前記所定の解放条件が成立した場合に前記クラッチ部材を前記解放位置に移動させて前記電動機のロックを解除する請求項1〜3のいずれか一項に記載のクラッチ装置の異常検出装置。
【請求項5】
前記第1係合部材は、前記解放位置から前記係合位置への移動後に前記第1係合部材に生じる所定方向のトルクを利用して前記クラッチ部材を前記第2係合部材に押し付ける方向の力を発生させる係合補助手段を備えている請求項1〜4のいずれか一項に記載のクラッチ装置の異常検出装置。
【請求項6】
前記第1係合部材は、前記クラッチ部材と対向するように同軸上に配置されて動力が伝達される回転部材と、前記回転部材と前記クラッチ部材との間に介在する介在部材と、をさらに備え、
前記係合補助手段は、前記介在部材が前記クラッチ部材及び前記回転部材のそれぞれの対向面に形成されて回転方向に関して深さが徐々に浅くなる溝部に保持されることにより構成されている請求項5に記載のクラッチ装置の異常検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−47424(P2011−47424A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−194317(P2009−194317)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】