クランクシャフトの製造装置、及び、クランクシャフトの製造方法
【課題】多気筒のクランクシャフトの製造工程に冷間鍛造を用いて、コンパクトな装置構成でジャーナル部に対するピン部の偏芯量を確保することができ、かつ、作業効率及び生産性を向上させることが可能となる、クランクシャフトの製造装置、及び、クランクシャフトの製造方法を提供する。
【解決手段】クランクシャフトの製造装置100は、可動型20及びジャーナル型30を固定型10と平行な状態のままで固定型10に近接させることにより棒状素材Wを軸方向に圧縮し、ジャーナル型シリンダ31・31・・・に対して固定孔10aを中心とした周方向の位相をずらした第一ピン型シリンダ41・41及び第二ピン型シリンダ51・51が駆動して、第一ピン型40及び第二ピン型50が棒状素材Wのピン部を軸方向と垂直な偏芯方向に押圧することにより、ピン部をジャーナル部である棒状素材Wの軸心から偏芯させて、クランクシャフトを成形する。
【解決手段】クランクシャフトの製造装置100は、可動型20及びジャーナル型30を固定型10と平行な状態のままで固定型10に近接させることにより棒状素材Wを軸方向に圧縮し、ジャーナル型シリンダ31・31・・・に対して固定孔10aを中心とした周方向の位相をずらした第一ピン型シリンダ41・41及び第二ピン型シリンダ51・51が駆動して、第一ピン型40及び第二ピン型50が棒状素材Wのピン部を軸方向と垂直な偏芯方向に押圧することにより、ピン部をジャーナル部である棒状素材Wの軸心から偏芯させて、クランクシャフトを成形する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランクシャフトの製造装置、及び、クランクシャフトの製造方法に関し、詳しくは、多気筒のクランクシャフトを冷間鍛造で成形する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、クランクシャフトの製造工程において、棒状素材に対する軸方向の荷重を利用して鍛造を行い、ピン部をジャーナル部に対して偏芯させる、いわゆる偏芯据え込み方法による成形技術が用いられている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−155275号公報
【特許文献2】特開平3−60837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記従来技術では、高周波で部分的に加熱を行う熱間鍛造を用いた成形が行われている。熱間鍛造による成形では熱ひずみが発生するため、後工程で機械加工を行う必要が生じることから、コストが増大するという問題があった。
【0005】
一方、冷間鍛造によるクランクシャフトの成形においては、クランクシャフトを座屈させることによってピン部を偏芯させる技術も存在する。しかし、前記技術はクランクシャフトにおける一気筒分の成形に適しており、多気筒のクランクシャフトを同時に成形する場合は全てのピン部において適切な偏芯量を確保することが困難であった。
【0006】
また、ピン部の偏芯量を確保するために、ピン部を挟持する型(ピン型)に対して偏芯方向に押圧する力を、装置の外部に配設したシリンダ等から得る技術も存在する。しかし、偏芯させるピン部の数だけシリンダを配設する必要があるため、多気筒のクランクシャフトを成形する場合には、成形終期においてそれぞれのシリンダが干渉するという問題があった。
【0007】
さらに、多気筒のクランクシャフトのうち一気筒毎にピン部を偏芯させる構成の場合においては、ピン型を割型で構成し、クランクシャフトのピン部毎に挟持したピン型をリング等の拘束部材に嵌挿させた状態で、順にピン部を偏芯させていく技術も存在する。
前記技術においては、全てのピン部を同時に偏芯させてクランクシャフトを成形できないため、生産性に劣る。また、成形後のクランクシャフトを脱型する際に、多数あるピン部毎にピン型のリングをピン型から取外し、さらにピン型をクランクシャフトから取外すという作業を行う必要がある。このため、クランクシャフトを型から取外す作業に時間がかかり、さらに生産性が悪化するという問題があった。
【0008】
そこで本発明は、上記現状に鑑み、多気筒のクランクシャフトの製造工程に冷間鍛造を用いて、コンパクトな装置構成でジャーナル部に対するピン部の偏芯量を確保することができ、かつ、作業効率及び生産性を向上させることが可能となる、クランクシャフトの製造装置、及び、クランクシャフトの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0010】
即ち、請求項1においては、成形対象となる棒状素材の一端を固定する固定部を有する固定型と、前記固定型に対して近接離間可能に配設され、前記棒状素材の他端を固定する固定部を有する可動型と、前記固定型と前記可動型との間に、前記固定型に対して近接可能に配設された少なくとも1個のジャーナル型と、前記可動型が前記固定型に対して近接離間する方向と直交する方向に、前記ジャーナル型を型締めする型締め手段と、前記可動型、前記ジャーナル型、及び、前記固定型のそれぞれの間隙に1個ずつ、前記固定型に対して近接可能に、かつ、前記可動型が前記固定型に対して近接離間する方向と直交する方向にスライド可能に、配設されたピン型と、前記固定型の固定部を中心とした周方向の位相が前記型締め手段に対してずれて配置され、前記可動型が前記固定型に対して近接離間する方向と直交する方向に前記ピン型を押圧して前記ピン型をスライドさせる押圧付与手段と、を備える、クランクシャフトの製造装置であって、前記棒状素材の両端部のそれぞれを、前記固定型と前記可動型とで保持し、前記型締め手段で前記ジャーナル型を型締めすることにより、前記棒状素材のジャーナル部を前記ジャーナル型で挟持し、かつ、前記押圧付与手段で前記ピン型を押圧することにより、前記棒状素材のピン部を前記ピン型で挟持した状態で、前記可動型、前記ジャーナル型、及び、前記ピン型を前記固定型に近接させることにより、前記棒状素材を軸方向に圧縮すると同時に、前記押圧付与手段で前記棒状素材の軸方向と垂直な偏芯方向に前記ピン型を押圧して、前記ピン型が前記ピン部を前記偏芯方向に押圧することにより、前記ピン部をジャーナル部である前記棒状素材の軸心から偏芯させるものである。
【0011】
請求項2においては、前記押圧付与手段は、前記偏芯方向に第一押圧力で前記ピン型を押圧する第一押圧付与手段と、前記偏芯方向と反対の方向に第一押圧力よりも小さい第二押圧力で前記ピン型を押圧する第二押圧付与手段と、で構成され、前記第一押圧付与手段及び前記第二押圧付与手段は、それぞれが独立して前記第一押圧力及び前記第二押圧力を付与可能に構成され、前記第一押圧力と前記第二押圧力との大きさの差を調整することによって、前記押圧付与手段が前記ピン型に対して付与する押圧力の大きさを決定するものである。
【0012】
請求項3においては、成形対象となる棒状素材の一端を固定する固定部を有する固定型と、前記固定型に対して近接離間可能に配設され、前記棒状素材の他端を固定する固定部を有する可動型と、前記固定型と前記可動型との間に、前記固定型に対して近接可能に配設された少なくとも1個のジャーナル型と、前記可動型が前記固定型に対して近接離間する方向と直交する方向に、前記ジャーナル型を型締めする型締め手段と、前記可動型、前記ジャーナル型、及び、前記固定型のそれぞれの間隙に1個ずつ、前記固定型に対して近接可能に、かつ、前記可動型が前記固定型に対して近接離間する方向と直交する方向にスライド可能に、配設されたピン型と、前記固定型の固定部を中心とした周方向の位相が前記型締め手段に対してずれて配置され、前記可動型が前記固定型に対して近接離間する方向と直交する方向に前記ピン型を押圧して前記ピン型をスライドさせる押圧付与手段と、を備えるクランクシャフトの製造装置で行う、クランクシャフトの製造方法であって、前記棒状素材の両端部のそれぞれを、前記固定型と前記可動型とで保持し、前記型締め手段で前記ジャーナル型を型締めすることにより、前記棒状素材のジャーナル部を前記ジャーナル型で挟持し、かつ、前記押圧付与手段で前記ピン型を押圧することにより、前記棒状素材のピン部を前記ピン型で挟持した状態で、前記可動型、前記ジャーナル型、及び、前記ピン型を前記固定型に近接させることにより、前記棒状素材を軸方向に圧縮すると同時に、前記押圧付与手段で前記棒状素材の軸方向と垂直な偏芯方向に前記ピン型を押圧して、前記ピン型が前記ピン部を前記偏芯方向に押圧することにより、前記ピン部をジャーナル部である前記棒状素材の軸心から偏芯させるものである。
【0013】
請求項4においては、前記押圧付与手段は、前記偏芯方向に第一押圧力で前記ピン型を押圧する第一押圧付与手段と、前記偏芯方向と反対の方向に第一押圧力よりも小さい第二押圧力で前記ピン型を押圧する第二押圧付与手段と、で構成され、前記第一押圧付与手段及び前記第二押圧付与手段は、それぞれが独立して前記第一押圧力及び前記第二押圧力を付与可能に構成され、前記第一押圧力と前記第二押圧力との大きさの差を調整することによって、前記押圧付与手段が前記ピン型に対して付与する押圧力の大きさを決定するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0015】
本発明により、多気筒のクランクシャフトの製造工程に冷間鍛造を用いて、コンパクトな装置構成でジャーナル部に対するピン部の偏芯量を確保することができ、かつ、作業効率及び生産性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第一実施形態に係るクランクシャフトの製造装置における成形前の状態を示した断面図。
【図2】図1におけるA−A線断面図。
【図3】図1のB−B線断面において、ジャーナル型で棒状素材Wを挟持する前の状態を示した図。
【図4】同じくB−B線断面において、ジャーナル型で棒状素材Wを挟持した状態を示した図。
【図5】図1のC−C線断面において、第一ピン型で棒状素材Wを挟持する前の状態を示した図。
【図6】同じくC−C線断面において、第一ピン型で棒状素材Wを挟持した状態を示した図。
【図7】第一実施形態に係るクランクシャフトの製造装置における成形途中の状態を示した断面図。
【図8】第一実施形態に係るクランクシャフトの製造装置における成形後の状態を示した断面図。
【図9】(a)から(c)はそれぞれ第一実施例から第三実施例に係る押圧力を示した図。
【図10】(a)、(b)はそれぞれ第二実施形態に係るピン型における棒状素材Wの挟持前、挟持後の状態を示した図。
【図11】(a)、(b)は同じくジャーナル型の挟持前、挟持後の状態を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、発明の実施の形態を説明する。
なお、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではなく、本明細書及び図面に記載した事項から明らかになる本発明が真に意図する技術的思想の範囲全体に、広く及ぶものである。
【0018】
[第一実施形態]
まず始めに、本発明の第一実施形態に係るクランクシャフトの製造装置100の概略について、図1及び図2を用いて説明する。なお、本明細書においては説明の便宜上、図1における上側を上方、下側を下方とし、同じく紙面手前側を前方、紙面奥側を後方、同じく右側を右側方、左側を左側方として説明する。
【0019】
図1は本実施形態に係るクランクシャフトの製造装置100において、前後方向に向けた軸線に対して垂直となる平面で、クランクシャフトの製造装置100における前後方向の略中央部分で切断した際に後方に現れる断面図を示している。図2は図1におけるA−A線断面図である。
【0020】
本実施形態に係るクランクシャフトの製造装置100は、固定型10と、該固定型10に対して近接離間可能に配置された可動型20と、を備えている。
具体的には、固定型10は基台101の上面に固設されており、固定型10の上面の略中央部には棒状素材Wの下端部の固定部である固定孔10aが開口されている。また、固定型10の上面には、上下両端部が開口する略円筒形状に形成されたケース102が上下に軸心方向を向けて配設されている。該ケース102の側面には、合計十個のスリット102a・102b・102c・・・が上下方向に形成されている。
詳細には、ケース102の左右両端部分に1箇所ずつ、ケース102の側面を半径方向に向けて貫通する合計2個のスリット102a・102aが形成されている。また、ケース102の右前部分・左前部分・右後部分・左後部分に1箇所ずつ、ケース102の側面を半径方向に向けて貫通する合計4個のスリット102b・102b・・・が形成されている。換言すれば、各スリット102b・102b・・・は、ケース102の周方向における位相をスリット102a・102aから前後に45度ずらして形成されているのである。
さらに、それぞれのスリット102aとスリット102bとの間に、平面視でスリット102aと平行となる方向に側面を貫通する、合計4個のスリット102c・102c・・・が形成されている。
【0021】
また、固定型10の上方には図示しないプレスラムが基台101及び固定型10に対して上下方向に近接離間可能に配設され、該プレスラムの下面には可動型20が固設されている。つまり、可動型20はプレスラムの上下動にあわせて固定型10に対して近接離間するのである。可動型20の下面の略中央部には棒状素材Wの上端部の固定部である固定孔20aが開口されている。
【0022】
さらに、クランクシャフトの製造装置100には、可動型20と固定型10との間に、固定型10に対して近接可能に構成されるジャーナル型30が配設されている。加えて、クランクシャフトの製造装置100には、可動型20が固定型10に対して近接離間する方向と直交する方向である水平方向にジャーナル型30を型締めする型締め手段であるジャーナル型シリンダ31・31・・・が配設されている。
【0023】
具体的には、ジャーナル型30は平面視で円形状に形成されており、中心角が90度に形成された扇形状のジャーナル型ブロック30a・30a・・・が同一の中心に4個集まって構成されている(図3、図4参照)。
また、ケース102における4個のスリット102b・102b・・・のそれぞれの外側には、上下方向にスライド可能に構成されたジャーナル型シリンダ31・31・・・が1個ずつ配設されている。そして、ジャーナル型シリンダ31・31・・・から、スリット102b・102b・・・に挿通され、ケース102の中心方向に伸縮するロッド32・32・・・がケース102の内部に延出されている。さらに、ロッド32・32・・・の先端部32a・32a・・・に、ジャーナル型ブロック30a・30a・・・の弧部が締結されるのである。
【0024】
さらに詳しくは図3及び図4に示す如く、ジャーナル型シリンダ31・31・・・は、シリンダケース34・34・・・からケース102の中心方向にロッド32・32・・・を伸縮可能に延出して構成されている。そして、シリンダケース34・34・・・はそれぞれ、上下方向に駆動する2個のガイド33・33・・・、及び、それぞれのガイド33・33・・・を支持する図示しない支持部材で、スリット102b・102b・・・に沿って上下に摺動可能に支持されている。
【0025】
このような状態で、ガイド33・33・・・をケース102におけるスリット102b・102b・・・に沿って上下動させることにより、ジャーナル型シリンダ31・31・・・及びジャーナル型30を上下方向にスライド可能に構成しているのである。さらに、図4に示す如く、ジャーナル型シリンダ31・31・・・でロッド32・32・・・を伸長させることにより、ジャーナル型ブロック30a・30a・・・をケース102の中心方向に移動させ、加えてジャーナル型30で棒状素材Wを水平方向に型締め可能に構成しているのである。
【0026】
また、クランクシャフトの製造装置100には、可動型20、ジャーナル型30、及び、固定型10のそれぞれの間隙に1個ずつ、固定型10に対して近接可能かつ可動型20が固定型10に対して近接離間する上下方向に対して直交する左右方向にスライド可能に構成される第一ピン型40、及び、第二ピン型50が上から順に配置されている。加えて、クランクシャフトの製造装置100には、可動型20が固定型10に対して近接離間する方向と直交する方向である左右方向に第一ピン型40、及び、第二ピン型50を押圧してスライドさせる押圧手段である第一ピン型シリンダ41・41(右側第一ピン型シリンダ41R及び左側第一ピン型シリンダ41L)、及び、第二ピン型シリンダ51・51(右側第二ピン型シリンダ51R及び左側第二ピン型シリンダ51L)が上から順に配設されている。
【0027】
具体的には、第一ピン型40は平面視で八角形状に形成されており、該八角形が左右に分割された六角形状の第一ピン型ブロック40a・40aが2個集まって構成されている(図5、図6参照)。
また、ケース102における2個のスリット102a・102aのそれぞれの外側には、上下方向にスライド可能に構成された第一ピン型シリンダ41・41が1個ずつ配設されている。そして、第一ピン型シリンダ41・41から、スリット102a・102aに挿通され、ケース102の中心方向に伸縮するロッド42・42がケース102の内部に延出されている。さらに、ロッド42・42の先端部42a・42aに、第一ピン型ブロック40a・40aの一端が締結されるのである。
【0028】
さらに詳しくは図5及び図6に示す如く、第一ピン型シリンダ41・41は、シリンダケース44・44からケース102の中心方向にロッド42・42・・・を伸縮可能に延出して構成されている。
一方、基台101の上面における固定型10の周囲には、上方に延出する4本の支持柱105・105・・・が、固定型10の左右に2本ずつ立設されている。そして、スライドガイド46の左右両端に開口された孔46a・46aに前側の2本の支持柱105・105が挿入され、スライドガイド46がケース102のスリット102c・102cに挿通されることにより、スライドガイド46が支持柱105・105の間に架設される。同様に、後側の支持柱105・105の間にも、スライドガイド46がスリット102c・102cに挿通されて架設される。そして、前側のスライドガイド46と後側のスライドガイド46とは、それぞれの左右両端部が連結部材48・48で連結される。このように、2本のスライドガイド46・46が一体として支持柱105・105・・・に対して上下方向に、スリット102c・102c・・・の内部を摺動可能に構成されている。
【0029】
そして、シリンダケース44・44は、それぞれ上下方向に駆動する2個のガイド43・43・・・、及び、連結部材48・48で、スリット102a・102aに沿って上下に摺動可能に支持されている。さらに、それぞれのスライドガイド46・46には、互いに対向する面に沿ってガイドレール46b・46bが配設されており、ガイドレール46b・46bにはガイドブロック47・47・・・が摺動可能に係合されている。そして、左右それぞれの側で対向するガイドブロック47・47の間に左右それぞれの第一ピン型ブロック40a・40aが架設されている。即ち、第一ピン型ブロック40a・40aはスライドガイド46・46の間を左右方向に摺動可能に配設されているのである。
【0030】
このような状態で、ガイド43・43・・・をケース102におけるスリット102a・102aに沿って上下動させることにより、スライドガイド46・46、第一ピン型シリンダ41・41、及び、第一ピン型40を上下方向にスライド可能に構成しているのである。さらに、図6に示す如く、第一ピン型シリンダ41・41でロッド42・42を伸縮させることにより、第一ピン型ブロック40a・40a・・・をスライドガイド46・46に沿ってケース102の中心方向に移動させ、加えて右方向(後述する棒状素材Wの偏芯方向)に第一ピン型40を押圧可能に構成しているのである。
【0031】
詳細には、クランクシャフト成形時における第一ピン型シリンダ41・41では、左側第一ピン型シリンダ41Lが第一ピン型40を押圧する第一押圧力は、右側第一ピン型シリンダ41Rが第一ピン型40を押圧する第二押圧力よりも大きくなるように構成されている。また、左側第一ピン型シリンダ41L及び右側第一ピン型シリンダ41Rはそれぞれが独立して前記第一押圧力及び前記第二押圧力を付与可能に構成されている。そして、左側第一ピン型シリンダ41Lによる第一押圧力と、右側第一ピン型シリンダ41Rによる第二押圧力との差を調整することによって、第一ピン型シリンダ41・41が第一ピン型40に対して右方向(後述する棒状素材Wの偏芯方向)に押圧力を付与するのである。
【0032】
なお、第二ピン型50は偏心方向が左方向となり、第一ピン型40とは逆となる。即ち、クランクシャフト成形時における第二ピン型シリンダ51・51では、右側第二ピン型シリンダ51Rが第二ピン型50を押圧する第一押圧力が、左側第二ピン型シリンダ51Lが第二ピン型50を押圧する第二押圧力よりも大きいのである。そして、右側第二ピン型シリンダ51Rによる第一押圧力と、左側第二ピン型シリンダ51Lによる第二押圧力との差を調整することによって、第二ピン型シリンダ51・51が第二ピン型50に対して左方向に押圧力を付与するのである。
第二ピン型50において、偏心方向以外の構成については第一ピン型40の構成と略同一であるため、説明を省略する。
【0033】
本実施形態においては、前記ジャーナル型30及び第一ピン型40・第二ピン型50の個数はそれぞれ1個及び2個で構成したが、それぞれの個数は限定されるものではなく、成形対象であるクランクシャフトの形状によって変更することができる。例えば、直列4気筒型エンジンに用いられるクランクシャフトの場合では、ジャーナル型を3個、ピン型を4個として構成することも可能である。
【0034】
また、本実施形態に係るクランクシャフトの製造装置100においては図2に示す如く、ジャーナル型シリンダ31・31・・・が摺動するスリット102b・102b・・・は、第一ピン型シリンダ41・41及び第二ピン型シリンダ51・51が摺動するスリット102a・102aからそれぞれ45度離れた位置に形成されている。即ち、押圧手段である第一ピン型シリンダ41・41及び第二ピン型シリンダ51・51は、固定型10における固定部である固定孔10aを中心とした周方向の位相が、型締め手段であるジャーナル型シリンダ31・31・・・に対してずれて配置されている。換言すれば、第一ピン型シリンダ41・41及び第二ピン型シリンダ51・51は、ジャーナル型シリンダ31・31・・・に対して、固定孔10aを中心とした周方向の位相(略円筒形状に形成されたケース102の周方向の位相)をずらして配置されているのである。
【0035】
なお、本実施形態においてはジャーナル型シリンダ31・31・・・を4個配設する構成としたが、その個数及び配置形状は上記の如く第一ピン型シリンダ41・41及び第二ピン型シリンダ51・51の位相をずらして配置できるものであれば良い。即ち、ピン型シリンダと位相がずれていれば、ジャーナル型シリンダを2個、3個、又は5個以上として配設することも可能であり、さらに相互の間隔が均等でなくても差し支えない。
【0036】
そして、クランクシャフトの製造装置100は成形前において、図1に示す如く、成形対象である棒状素材Wの上端部を可動型20における固定孔20aで保持すると同時に、下端部を固定型10における固定孔10aで保持する構成としている。そして、前記棒状素材Wのジャーナル部を図1及び図4に示す如くジャーナル型30で挟持し、さらに棒状素材Wのピン部を図1及び図6に示す如く第一ピン型40及び第二ピン型50で挟持するのである。
【0037】
クランクシャフトの製造装置100でクランクシャフトを成形するときは、上記の状態でプレスラムを下降させる。そして、可動型20及びジャーナル型30を固定型10と平行な状態のままで固定型10に近接させることにより、棒状素材Wを軸方向に圧縮するのである。それと同時に、第一ピン型40及び第二ピン型50が棒状素材Wのピン部を軸方向と垂直な偏芯方向に押圧することにより、ピン部をジャーナル部である棒状素材Wの軸心から偏芯させるのである(図7及び図8参照)。本実施形態においては、図7及び図8に示す如く、第一ピン型40が棒状素材Wのピン部を右側方に、第二ピン型50が棒状素材Wのピン部を左側方に偏心させる構成としている。
【0038】
本実施形態に係るクランクシャフトの製造装置100においては上記の如く、多気筒のクランクシャフトの製造工程において冷間鍛造を用いることにより、後工程で機械加工を行う必要がないため、コストを低減させることができる。
また、多気筒のクランクシャフトを成形する際に、第一ピン型シリンダ41・41及び第二ピン型シリンダ51・51を駆動させることによって第一ピン型40及び第二ピン型50を押圧し、棒状素材Wの複数のピン部を同時に偏心させることができ、加えてそれぞれのピン部における適切な偏芯量を確保することができる。
【0039】
さらに、本実施形態においては押圧手段である第一ピン型シリンダ41・41及び第二ピン型シリンダ51・51について、固定孔10aを中心とした周方向の位相を型締め手段であるジャーナル型シリンダ31・31・・・に対してずらして配置している。このため、図8に示す如く、クランクシャフトの成形終期においてもそれぞれのシリンダが干渉することがないのである。
【0040】
また、棒状素材Wの型締めに際して拘束部材等の他の部品を必要としないため、それぞれのシリンダを駆動させるだけで、成形後のクランクシャフトを脱型することができる。即ち、多数あるピン部毎にピン型のリングをピン型から取外し、さらにピン型をクランクシャフトから取外すという作業を行う必要がないのである。このため、クランクシャフトを型から取外す作業に時間がかからず、生産性を向上させるとともに、装置構成をコンパクトにすることができるのである。
【0041】
次に、クランクシャフト成形時における第一ピン型シリンダ41・41による押圧付与方法について、図9を用いて説明する。なお、第二ピン型シリンダ51・51による押圧付与方法は、第一ピン型シリンダ41・41による押圧付与方法と、押圧力を付与する方向(偏心方向)以外については略同一であるため、説明を省略する。
【0042】
図9(a)から(c)はそれぞれ第一実施例から第三実施例に係る押圧力を示した図である。即ち、各図におけるグラフF1は左側第一ピン型シリンダ41Lが第一ピン型40を押圧する第一押圧力F1を、グラフF2は右側第一ピン型シリンダ41Rが第一ピン型40を押圧する第二押圧力F2を示している。
本実施形態においては上記の如く、クランクシャフト成形時における第一押圧力F1は第二押圧力F2よりも大きくなるように構成されており、第一押圧力F1と第二押圧力F2との差を調整することによって、第一ピン型シリンダ41・41が第一ピン型40に対して押圧力を付与する構成としている。
【0043】
図9(a)は第一実施例に係る押圧付与方法について示しており、第一押圧力F1及び第二押圧力F2を一定の大きさで制御するものである。本実施例においては、第一ピン型シリンダ41・41が第一ピン型40に対して付与する押圧力(第一押圧力F1と第二押圧力F2との差)は一定の大きさとなる。本実施例に係る押圧付与方法は最も単純な制御で行われるものであるため、例えば、成形荷重が小さく、成形割れの可能性が低い(成形性の良好な)小排気量のクランクシャフトを成形する場合に好適である。
【0044】
図9(b)は第二実施例に係る押圧付与方法について示しており、第一押圧力F1及び第二押圧力F2を、それぞれの差を一定に保ちつつ漸増させていくものである。本実施例においても、第一ピン型シリンダ41・41が第一ピン型40に対して付与する押圧力(第一押圧力F1と第二押圧力F2との差)は一定の大きさとなる。本実施例に係る押圧付与方法は成形初期における第一押圧力F1及び第二押圧力F2を低減することにより、初期の成形荷重を低減させることができる。本実施例は例えば、偏心量は小さいがウェッブ剛性の高い中排気量のクランクシャフトを成形する場合に好適である。
【0045】
図9(c)は第三実施例に係る押圧付与方法について示しており、第一押圧力F1及び第二押圧力F2をそれぞれ漸増させていくものである。本実施例においては、第一ピン型シリンダ41・41が第一ピン型40に対して付与する押圧力(第一押圧力F1と第二押圧力F2との差)は漸増する。本実施例に係る押圧付与方法は偏心力である押圧力を徐々に増大させることができる。本実施例は例えば、成形性が悪く、大きく急激なせん断荷重によって割れが発生するような、偏心量が大きくウェッブ剛性が高いロングストローククランクシャフトを成形する場合に好適である。
【0046】
上記の如く、本実施形態においては、第一押圧付与手段である左側第一ピン型シリンダ41Lによる第一押圧力F1と、第二押圧付与手段である右側第一ピン型シリンダ41Rによる第二押圧力F2と、の差を調整することによって、第一ピン型シリンダ41・41が第一ピン型40に対して付与する押圧力の大きさを決定する構成としている。これにより、第一押圧力F1と第二押圧力F2とを制御することにより、成形するクランクシャフトの条件に応じて成形条件を変更することが可能となるのである。換言すれば、クランクシャフトの形状や素材の剛性によって、棒状素材Wに加える偏心力である押圧力を一定にしたり、あるいは漸増させたりすることができるため、最適な成形条件を選択することができるのである。
【0047】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態に係るクランクシャフトの製造装置について、図10及び図11を用いて説明する。なお、以下の実施形態において説明するクランクシャフトの製造装置において、前記第一実施形態と共通する部分については、同符号を付してその説明を省略する。
【0048】
図10(a)及び(b)に示す如く、本実施形態に係るピン型240は、左右のピン型ブロック240a・240aをボルト63・63で締結することで型締めされ、片側のピン型シリンダ41のみで押圧される構成としている。このため、本実施形態に係るケース202の上部には、ボルト63・63を締結する際にドライバを挿入するための孔部202d・202dが開口されている。
【0049】
また、本実施形態に係るピン型240には電磁石61・61・・・が内蔵される。そして、それぞれのピン型ブロック240a・240aが棒状素材Wを挟持する際には電磁石61・61・・・が互いに引きあう方向に電流を流して型を一体化するのである。一方、それぞれの型を棒状素材Wから取外す際には電磁石61・61・・・が互いに反発しあう方向に電流を流して型を分割するのである。
【0050】
また、図11(a)及び(b)に示す如く、本実施形態に係るジャーナル型230は、左右のジャーナル型ブロック230a・230aをボルト73・73で締結することで型締めされ、ケース202との間に介挿されるストッパー75・75・・・により棒状素材Wの偏心時における座屈が防止される。このため、本実施形態に係るケース202の上部には、ストッパー75・75・・・を挿入するための孔部202e・202e・・・が開口されている。
【0051】
また、本実施形態に係るジャーナル型230にも電磁石71・71・・・が内蔵される。そして、それぞれのジャーナル型ブロック230a・230aが棒状素材Wを挟持する際には電磁石71・71・・・が互いに引きあう方向に電流を流して型を一体化するのである。一方、それぞれの型を棒状素材Wから取外す際には電磁石71・71・・・が互いに反発しあう方向に電流を流して型を分割するのである。
【0052】
本実施形態においては上記の如く構成することにより、それぞれの型におけるシリンダの本数を削減し、シンプルな構成とすることができる。これにより、各シリンダの制御を同期させる必要がなくなり、クランクシャフトの成形におけるロバスト性を確保することが可能となるのである。また、型開きの際に電磁石を用いてそれぞれの型を分割する構成としているため、クランクシャフトを型から取外す作業に時間がかからず、生産性を向上させるとともに、装置構成をコンパクトにすることができるのである。
【符号の説明】
【0053】
10 固定型
20 可動型
30 ジャーナル型
40 第一ピン型
41 第一ピン型シリンダ
50 第二ピン型
51 第二ピン型シリンダ
100 クランクシャフトの製造装置
W 棒状素材
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランクシャフトの製造装置、及び、クランクシャフトの製造方法に関し、詳しくは、多気筒のクランクシャフトを冷間鍛造で成形する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、クランクシャフトの製造工程において、棒状素材に対する軸方向の荷重を利用して鍛造を行い、ピン部をジャーナル部に対して偏芯させる、いわゆる偏芯据え込み方法による成形技術が用いられている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−155275号公報
【特許文献2】特開平3−60837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記従来技術では、高周波で部分的に加熱を行う熱間鍛造を用いた成形が行われている。熱間鍛造による成形では熱ひずみが発生するため、後工程で機械加工を行う必要が生じることから、コストが増大するという問題があった。
【0005】
一方、冷間鍛造によるクランクシャフトの成形においては、クランクシャフトを座屈させることによってピン部を偏芯させる技術も存在する。しかし、前記技術はクランクシャフトにおける一気筒分の成形に適しており、多気筒のクランクシャフトを同時に成形する場合は全てのピン部において適切な偏芯量を確保することが困難であった。
【0006】
また、ピン部の偏芯量を確保するために、ピン部を挟持する型(ピン型)に対して偏芯方向に押圧する力を、装置の外部に配設したシリンダ等から得る技術も存在する。しかし、偏芯させるピン部の数だけシリンダを配設する必要があるため、多気筒のクランクシャフトを成形する場合には、成形終期においてそれぞれのシリンダが干渉するという問題があった。
【0007】
さらに、多気筒のクランクシャフトのうち一気筒毎にピン部を偏芯させる構成の場合においては、ピン型を割型で構成し、クランクシャフトのピン部毎に挟持したピン型をリング等の拘束部材に嵌挿させた状態で、順にピン部を偏芯させていく技術も存在する。
前記技術においては、全てのピン部を同時に偏芯させてクランクシャフトを成形できないため、生産性に劣る。また、成形後のクランクシャフトを脱型する際に、多数あるピン部毎にピン型のリングをピン型から取外し、さらにピン型をクランクシャフトから取外すという作業を行う必要がある。このため、クランクシャフトを型から取外す作業に時間がかかり、さらに生産性が悪化するという問題があった。
【0008】
そこで本発明は、上記現状に鑑み、多気筒のクランクシャフトの製造工程に冷間鍛造を用いて、コンパクトな装置構成でジャーナル部に対するピン部の偏芯量を確保することができ、かつ、作業効率及び生産性を向上させることが可能となる、クランクシャフトの製造装置、及び、クランクシャフトの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0010】
即ち、請求項1においては、成形対象となる棒状素材の一端を固定する固定部を有する固定型と、前記固定型に対して近接離間可能に配設され、前記棒状素材の他端を固定する固定部を有する可動型と、前記固定型と前記可動型との間に、前記固定型に対して近接可能に配設された少なくとも1個のジャーナル型と、前記可動型が前記固定型に対して近接離間する方向と直交する方向に、前記ジャーナル型を型締めする型締め手段と、前記可動型、前記ジャーナル型、及び、前記固定型のそれぞれの間隙に1個ずつ、前記固定型に対して近接可能に、かつ、前記可動型が前記固定型に対して近接離間する方向と直交する方向にスライド可能に、配設されたピン型と、前記固定型の固定部を中心とした周方向の位相が前記型締め手段に対してずれて配置され、前記可動型が前記固定型に対して近接離間する方向と直交する方向に前記ピン型を押圧して前記ピン型をスライドさせる押圧付与手段と、を備える、クランクシャフトの製造装置であって、前記棒状素材の両端部のそれぞれを、前記固定型と前記可動型とで保持し、前記型締め手段で前記ジャーナル型を型締めすることにより、前記棒状素材のジャーナル部を前記ジャーナル型で挟持し、かつ、前記押圧付与手段で前記ピン型を押圧することにより、前記棒状素材のピン部を前記ピン型で挟持した状態で、前記可動型、前記ジャーナル型、及び、前記ピン型を前記固定型に近接させることにより、前記棒状素材を軸方向に圧縮すると同時に、前記押圧付与手段で前記棒状素材の軸方向と垂直な偏芯方向に前記ピン型を押圧して、前記ピン型が前記ピン部を前記偏芯方向に押圧することにより、前記ピン部をジャーナル部である前記棒状素材の軸心から偏芯させるものである。
【0011】
請求項2においては、前記押圧付与手段は、前記偏芯方向に第一押圧力で前記ピン型を押圧する第一押圧付与手段と、前記偏芯方向と反対の方向に第一押圧力よりも小さい第二押圧力で前記ピン型を押圧する第二押圧付与手段と、で構成され、前記第一押圧付与手段及び前記第二押圧付与手段は、それぞれが独立して前記第一押圧力及び前記第二押圧力を付与可能に構成され、前記第一押圧力と前記第二押圧力との大きさの差を調整することによって、前記押圧付与手段が前記ピン型に対して付与する押圧力の大きさを決定するものである。
【0012】
請求項3においては、成形対象となる棒状素材の一端を固定する固定部を有する固定型と、前記固定型に対して近接離間可能に配設され、前記棒状素材の他端を固定する固定部を有する可動型と、前記固定型と前記可動型との間に、前記固定型に対して近接可能に配設された少なくとも1個のジャーナル型と、前記可動型が前記固定型に対して近接離間する方向と直交する方向に、前記ジャーナル型を型締めする型締め手段と、前記可動型、前記ジャーナル型、及び、前記固定型のそれぞれの間隙に1個ずつ、前記固定型に対して近接可能に、かつ、前記可動型が前記固定型に対して近接離間する方向と直交する方向にスライド可能に、配設されたピン型と、前記固定型の固定部を中心とした周方向の位相が前記型締め手段に対してずれて配置され、前記可動型が前記固定型に対して近接離間する方向と直交する方向に前記ピン型を押圧して前記ピン型をスライドさせる押圧付与手段と、を備えるクランクシャフトの製造装置で行う、クランクシャフトの製造方法であって、前記棒状素材の両端部のそれぞれを、前記固定型と前記可動型とで保持し、前記型締め手段で前記ジャーナル型を型締めすることにより、前記棒状素材のジャーナル部を前記ジャーナル型で挟持し、かつ、前記押圧付与手段で前記ピン型を押圧することにより、前記棒状素材のピン部を前記ピン型で挟持した状態で、前記可動型、前記ジャーナル型、及び、前記ピン型を前記固定型に近接させることにより、前記棒状素材を軸方向に圧縮すると同時に、前記押圧付与手段で前記棒状素材の軸方向と垂直な偏芯方向に前記ピン型を押圧して、前記ピン型が前記ピン部を前記偏芯方向に押圧することにより、前記ピン部をジャーナル部である前記棒状素材の軸心から偏芯させるものである。
【0013】
請求項4においては、前記押圧付与手段は、前記偏芯方向に第一押圧力で前記ピン型を押圧する第一押圧付与手段と、前記偏芯方向と反対の方向に第一押圧力よりも小さい第二押圧力で前記ピン型を押圧する第二押圧付与手段と、で構成され、前記第一押圧付与手段及び前記第二押圧付与手段は、それぞれが独立して前記第一押圧力及び前記第二押圧力を付与可能に構成され、前記第一押圧力と前記第二押圧力との大きさの差を調整することによって、前記押圧付与手段が前記ピン型に対して付与する押圧力の大きさを決定するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0015】
本発明により、多気筒のクランクシャフトの製造工程に冷間鍛造を用いて、コンパクトな装置構成でジャーナル部に対するピン部の偏芯量を確保することができ、かつ、作業効率及び生産性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第一実施形態に係るクランクシャフトの製造装置における成形前の状態を示した断面図。
【図2】図1におけるA−A線断面図。
【図3】図1のB−B線断面において、ジャーナル型で棒状素材Wを挟持する前の状態を示した図。
【図4】同じくB−B線断面において、ジャーナル型で棒状素材Wを挟持した状態を示した図。
【図5】図1のC−C線断面において、第一ピン型で棒状素材Wを挟持する前の状態を示した図。
【図6】同じくC−C線断面において、第一ピン型で棒状素材Wを挟持した状態を示した図。
【図7】第一実施形態に係るクランクシャフトの製造装置における成形途中の状態を示した断面図。
【図8】第一実施形態に係るクランクシャフトの製造装置における成形後の状態を示した断面図。
【図9】(a)から(c)はそれぞれ第一実施例から第三実施例に係る押圧力を示した図。
【図10】(a)、(b)はそれぞれ第二実施形態に係るピン型における棒状素材Wの挟持前、挟持後の状態を示した図。
【図11】(a)、(b)は同じくジャーナル型の挟持前、挟持後の状態を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、発明の実施の形態を説明する。
なお、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではなく、本明細書及び図面に記載した事項から明らかになる本発明が真に意図する技術的思想の範囲全体に、広く及ぶものである。
【0018】
[第一実施形態]
まず始めに、本発明の第一実施形態に係るクランクシャフトの製造装置100の概略について、図1及び図2を用いて説明する。なお、本明細書においては説明の便宜上、図1における上側を上方、下側を下方とし、同じく紙面手前側を前方、紙面奥側を後方、同じく右側を右側方、左側を左側方として説明する。
【0019】
図1は本実施形態に係るクランクシャフトの製造装置100において、前後方向に向けた軸線に対して垂直となる平面で、クランクシャフトの製造装置100における前後方向の略中央部分で切断した際に後方に現れる断面図を示している。図2は図1におけるA−A線断面図である。
【0020】
本実施形態に係るクランクシャフトの製造装置100は、固定型10と、該固定型10に対して近接離間可能に配置された可動型20と、を備えている。
具体的には、固定型10は基台101の上面に固設されており、固定型10の上面の略中央部には棒状素材Wの下端部の固定部である固定孔10aが開口されている。また、固定型10の上面には、上下両端部が開口する略円筒形状に形成されたケース102が上下に軸心方向を向けて配設されている。該ケース102の側面には、合計十個のスリット102a・102b・102c・・・が上下方向に形成されている。
詳細には、ケース102の左右両端部分に1箇所ずつ、ケース102の側面を半径方向に向けて貫通する合計2個のスリット102a・102aが形成されている。また、ケース102の右前部分・左前部分・右後部分・左後部分に1箇所ずつ、ケース102の側面を半径方向に向けて貫通する合計4個のスリット102b・102b・・・が形成されている。換言すれば、各スリット102b・102b・・・は、ケース102の周方向における位相をスリット102a・102aから前後に45度ずらして形成されているのである。
さらに、それぞれのスリット102aとスリット102bとの間に、平面視でスリット102aと平行となる方向に側面を貫通する、合計4個のスリット102c・102c・・・が形成されている。
【0021】
また、固定型10の上方には図示しないプレスラムが基台101及び固定型10に対して上下方向に近接離間可能に配設され、該プレスラムの下面には可動型20が固設されている。つまり、可動型20はプレスラムの上下動にあわせて固定型10に対して近接離間するのである。可動型20の下面の略中央部には棒状素材Wの上端部の固定部である固定孔20aが開口されている。
【0022】
さらに、クランクシャフトの製造装置100には、可動型20と固定型10との間に、固定型10に対して近接可能に構成されるジャーナル型30が配設されている。加えて、クランクシャフトの製造装置100には、可動型20が固定型10に対して近接離間する方向と直交する方向である水平方向にジャーナル型30を型締めする型締め手段であるジャーナル型シリンダ31・31・・・が配設されている。
【0023】
具体的には、ジャーナル型30は平面視で円形状に形成されており、中心角が90度に形成された扇形状のジャーナル型ブロック30a・30a・・・が同一の中心に4個集まって構成されている(図3、図4参照)。
また、ケース102における4個のスリット102b・102b・・・のそれぞれの外側には、上下方向にスライド可能に構成されたジャーナル型シリンダ31・31・・・が1個ずつ配設されている。そして、ジャーナル型シリンダ31・31・・・から、スリット102b・102b・・・に挿通され、ケース102の中心方向に伸縮するロッド32・32・・・がケース102の内部に延出されている。さらに、ロッド32・32・・・の先端部32a・32a・・・に、ジャーナル型ブロック30a・30a・・・の弧部が締結されるのである。
【0024】
さらに詳しくは図3及び図4に示す如く、ジャーナル型シリンダ31・31・・・は、シリンダケース34・34・・・からケース102の中心方向にロッド32・32・・・を伸縮可能に延出して構成されている。そして、シリンダケース34・34・・・はそれぞれ、上下方向に駆動する2個のガイド33・33・・・、及び、それぞれのガイド33・33・・・を支持する図示しない支持部材で、スリット102b・102b・・・に沿って上下に摺動可能に支持されている。
【0025】
このような状態で、ガイド33・33・・・をケース102におけるスリット102b・102b・・・に沿って上下動させることにより、ジャーナル型シリンダ31・31・・・及びジャーナル型30を上下方向にスライド可能に構成しているのである。さらに、図4に示す如く、ジャーナル型シリンダ31・31・・・でロッド32・32・・・を伸長させることにより、ジャーナル型ブロック30a・30a・・・をケース102の中心方向に移動させ、加えてジャーナル型30で棒状素材Wを水平方向に型締め可能に構成しているのである。
【0026】
また、クランクシャフトの製造装置100には、可動型20、ジャーナル型30、及び、固定型10のそれぞれの間隙に1個ずつ、固定型10に対して近接可能かつ可動型20が固定型10に対して近接離間する上下方向に対して直交する左右方向にスライド可能に構成される第一ピン型40、及び、第二ピン型50が上から順に配置されている。加えて、クランクシャフトの製造装置100には、可動型20が固定型10に対して近接離間する方向と直交する方向である左右方向に第一ピン型40、及び、第二ピン型50を押圧してスライドさせる押圧手段である第一ピン型シリンダ41・41(右側第一ピン型シリンダ41R及び左側第一ピン型シリンダ41L)、及び、第二ピン型シリンダ51・51(右側第二ピン型シリンダ51R及び左側第二ピン型シリンダ51L)が上から順に配設されている。
【0027】
具体的には、第一ピン型40は平面視で八角形状に形成されており、該八角形が左右に分割された六角形状の第一ピン型ブロック40a・40aが2個集まって構成されている(図5、図6参照)。
また、ケース102における2個のスリット102a・102aのそれぞれの外側には、上下方向にスライド可能に構成された第一ピン型シリンダ41・41が1個ずつ配設されている。そして、第一ピン型シリンダ41・41から、スリット102a・102aに挿通され、ケース102の中心方向に伸縮するロッド42・42がケース102の内部に延出されている。さらに、ロッド42・42の先端部42a・42aに、第一ピン型ブロック40a・40aの一端が締結されるのである。
【0028】
さらに詳しくは図5及び図6に示す如く、第一ピン型シリンダ41・41は、シリンダケース44・44からケース102の中心方向にロッド42・42・・・を伸縮可能に延出して構成されている。
一方、基台101の上面における固定型10の周囲には、上方に延出する4本の支持柱105・105・・・が、固定型10の左右に2本ずつ立設されている。そして、スライドガイド46の左右両端に開口された孔46a・46aに前側の2本の支持柱105・105が挿入され、スライドガイド46がケース102のスリット102c・102cに挿通されることにより、スライドガイド46が支持柱105・105の間に架設される。同様に、後側の支持柱105・105の間にも、スライドガイド46がスリット102c・102cに挿通されて架設される。そして、前側のスライドガイド46と後側のスライドガイド46とは、それぞれの左右両端部が連結部材48・48で連結される。このように、2本のスライドガイド46・46が一体として支持柱105・105・・・に対して上下方向に、スリット102c・102c・・・の内部を摺動可能に構成されている。
【0029】
そして、シリンダケース44・44は、それぞれ上下方向に駆動する2個のガイド43・43・・・、及び、連結部材48・48で、スリット102a・102aに沿って上下に摺動可能に支持されている。さらに、それぞれのスライドガイド46・46には、互いに対向する面に沿ってガイドレール46b・46bが配設されており、ガイドレール46b・46bにはガイドブロック47・47・・・が摺動可能に係合されている。そして、左右それぞれの側で対向するガイドブロック47・47の間に左右それぞれの第一ピン型ブロック40a・40aが架設されている。即ち、第一ピン型ブロック40a・40aはスライドガイド46・46の間を左右方向に摺動可能に配設されているのである。
【0030】
このような状態で、ガイド43・43・・・をケース102におけるスリット102a・102aに沿って上下動させることにより、スライドガイド46・46、第一ピン型シリンダ41・41、及び、第一ピン型40を上下方向にスライド可能に構成しているのである。さらに、図6に示す如く、第一ピン型シリンダ41・41でロッド42・42を伸縮させることにより、第一ピン型ブロック40a・40a・・・をスライドガイド46・46に沿ってケース102の中心方向に移動させ、加えて右方向(後述する棒状素材Wの偏芯方向)に第一ピン型40を押圧可能に構成しているのである。
【0031】
詳細には、クランクシャフト成形時における第一ピン型シリンダ41・41では、左側第一ピン型シリンダ41Lが第一ピン型40を押圧する第一押圧力は、右側第一ピン型シリンダ41Rが第一ピン型40を押圧する第二押圧力よりも大きくなるように構成されている。また、左側第一ピン型シリンダ41L及び右側第一ピン型シリンダ41Rはそれぞれが独立して前記第一押圧力及び前記第二押圧力を付与可能に構成されている。そして、左側第一ピン型シリンダ41Lによる第一押圧力と、右側第一ピン型シリンダ41Rによる第二押圧力との差を調整することによって、第一ピン型シリンダ41・41が第一ピン型40に対して右方向(後述する棒状素材Wの偏芯方向)に押圧力を付与するのである。
【0032】
なお、第二ピン型50は偏心方向が左方向となり、第一ピン型40とは逆となる。即ち、クランクシャフト成形時における第二ピン型シリンダ51・51では、右側第二ピン型シリンダ51Rが第二ピン型50を押圧する第一押圧力が、左側第二ピン型シリンダ51Lが第二ピン型50を押圧する第二押圧力よりも大きいのである。そして、右側第二ピン型シリンダ51Rによる第一押圧力と、左側第二ピン型シリンダ51Lによる第二押圧力との差を調整することによって、第二ピン型シリンダ51・51が第二ピン型50に対して左方向に押圧力を付与するのである。
第二ピン型50において、偏心方向以外の構成については第一ピン型40の構成と略同一であるため、説明を省略する。
【0033】
本実施形態においては、前記ジャーナル型30及び第一ピン型40・第二ピン型50の個数はそれぞれ1個及び2個で構成したが、それぞれの個数は限定されるものではなく、成形対象であるクランクシャフトの形状によって変更することができる。例えば、直列4気筒型エンジンに用いられるクランクシャフトの場合では、ジャーナル型を3個、ピン型を4個として構成することも可能である。
【0034】
また、本実施形態に係るクランクシャフトの製造装置100においては図2に示す如く、ジャーナル型シリンダ31・31・・・が摺動するスリット102b・102b・・・は、第一ピン型シリンダ41・41及び第二ピン型シリンダ51・51が摺動するスリット102a・102aからそれぞれ45度離れた位置に形成されている。即ち、押圧手段である第一ピン型シリンダ41・41及び第二ピン型シリンダ51・51は、固定型10における固定部である固定孔10aを中心とした周方向の位相が、型締め手段であるジャーナル型シリンダ31・31・・・に対してずれて配置されている。換言すれば、第一ピン型シリンダ41・41及び第二ピン型シリンダ51・51は、ジャーナル型シリンダ31・31・・・に対して、固定孔10aを中心とした周方向の位相(略円筒形状に形成されたケース102の周方向の位相)をずらして配置されているのである。
【0035】
なお、本実施形態においてはジャーナル型シリンダ31・31・・・を4個配設する構成としたが、その個数及び配置形状は上記の如く第一ピン型シリンダ41・41及び第二ピン型シリンダ51・51の位相をずらして配置できるものであれば良い。即ち、ピン型シリンダと位相がずれていれば、ジャーナル型シリンダを2個、3個、又は5個以上として配設することも可能であり、さらに相互の間隔が均等でなくても差し支えない。
【0036】
そして、クランクシャフトの製造装置100は成形前において、図1に示す如く、成形対象である棒状素材Wの上端部を可動型20における固定孔20aで保持すると同時に、下端部を固定型10における固定孔10aで保持する構成としている。そして、前記棒状素材Wのジャーナル部を図1及び図4に示す如くジャーナル型30で挟持し、さらに棒状素材Wのピン部を図1及び図6に示す如く第一ピン型40及び第二ピン型50で挟持するのである。
【0037】
クランクシャフトの製造装置100でクランクシャフトを成形するときは、上記の状態でプレスラムを下降させる。そして、可動型20及びジャーナル型30を固定型10と平行な状態のままで固定型10に近接させることにより、棒状素材Wを軸方向に圧縮するのである。それと同時に、第一ピン型40及び第二ピン型50が棒状素材Wのピン部を軸方向と垂直な偏芯方向に押圧することにより、ピン部をジャーナル部である棒状素材Wの軸心から偏芯させるのである(図7及び図8参照)。本実施形態においては、図7及び図8に示す如く、第一ピン型40が棒状素材Wのピン部を右側方に、第二ピン型50が棒状素材Wのピン部を左側方に偏心させる構成としている。
【0038】
本実施形態に係るクランクシャフトの製造装置100においては上記の如く、多気筒のクランクシャフトの製造工程において冷間鍛造を用いることにより、後工程で機械加工を行う必要がないため、コストを低減させることができる。
また、多気筒のクランクシャフトを成形する際に、第一ピン型シリンダ41・41及び第二ピン型シリンダ51・51を駆動させることによって第一ピン型40及び第二ピン型50を押圧し、棒状素材Wの複数のピン部を同時に偏心させることができ、加えてそれぞれのピン部における適切な偏芯量を確保することができる。
【0039】
さらに、本実施形態においては押圧手段である第一ピン型シリンダ41・41及び第二ピン型シリンダ51・51について、固定孔10aを中心とした周方向の位相を型締め手段であるジャーナル型シリンダ31・31・・・に対してずらして配置している。このため、図8に示す如く、クランクシャフトの成形終期においてもそれぞれのシリンダが干渉することがないのである。
【0040】
また、棒状素材Wの型締めに際して拘束部材等の他の部品を必要としないため、それぞれのシリンダを駆動させるだけで、成形後のクランクシャフトを脱型することができる。即ち、多数あるピン部毎にピン型のリングをピン型から取外し、さらにピン型をクランクシャフトから取外すという作業を行う必要がないのである。このため、クランクシャフトを型から取外す作業に時間がかからず、生産性を向上させるとともに、装置構成をコンパクトにすることができるのである。
【0041】
次に、クランクシャフト成形時における第一ピン型シリンダ41・41による押圧付与方法について、図9を用いて説明する。なお、第二ピン型シリンダ51・51による押圧付与方法は、第一ピン型シリンダ41・41による押圧付与方法と、押圧力を付与する方向(偏心方向)以外については略同一であるため、説明を省略する。
【0042】
図9(a)から(c)はそれぞれ第一実施例から第三実施例に係る押圧力を示した図である。即ち、各図におけるグラフF1は左側第一ピン型シリンダ41Lが第一ピン型40を押圧する第一押圧力F1を、グラフF2は右側第一ピン型シリンダ41Rが第一ピン型40を押圧する第二押圧力F2を示している。
本実施形態においては上記の如く、クランクシャフト成形時における第一押圧力F1は第二押圧力F2よりも大きくなるように構成されており、第一押圧力F1と第二押圧力F2との差を調整することによって、第一ピン型シリンダ41・41が第一ピン型40に対して押圧力を付与する構成としている。
【0043】
図9(a)は第一実施例に係る押圧付与方法について示しており、第一押圧力F1及び第二押圧力F2を一定の大きさで制御するものである。本実施例においては、第一ピン型シリンダ41・41が第一ピン型40に対して付与する押圧力(第一押圧力F1と第二押圧力F2との差)は一定の大きさとなる。本実施例に係る押圧付与方法は最も単純な制御で行われるものであるため、例えば、成形荷重が小さく、成形割れの可能性が低い(成形性の良好な)小排気量のクランクシャフトを成形する場合に好適である。
【0044】
図9(b)は第二実施例に係る押圧付与方法について示しており、第一押圧力F1及び第二押圧力F2を、それぞれの差を一定に保ちつつ漸増させていくものである。本実施例においても、第一ピン型シリンダ41・41が第一ピン型40に対して付与する押圧力(第一押圧力F1と第二押圧力F2との差)は一定の大きさとなる。本実施例に係る押圧付与方法は成形初期における第一押圧力F1及び第二押圧力F2を低減することにより、初期の成形荷重を低減させることができる。本実施例は例えば、偏心量は小さいがウェッブ剛性の高い中排気量のクランクシャフトを成形する場合に好適である。
【0045】
図9(c)は第三実施例に係る押圧付与方法について示しており、第一押圧力F1及び第二押圧力F2をそれぞれ漸増させていくものである。本実施例においては、第一ピン型シリンダ41・41が第一ピン型40に対して付与する押圧力(第一押圧力F1と第二押圧力F2との差)は漸増する。本実施例に係る押圧付与方法は偏心力である押圧力を徐々に増大させることができる。本実施例は例えば、成形性が悪く、大きく急激なせん断荷重によって割れが発生するような、偏心量が大きくウェッブ剛性が高いロングストローククランクシャフトを成形する場合に好適である。
【0046】
上記の如く、本実施形態においては、第一押圧付与手段である左側第一ピン型シリンダ41Lによる第一押圧力F1と、第二押圧付与手段である右側第一ピン型シリンダ41Rによる第二押圧力F2と、の差を調整することによって、第一ピン型シリンダ41・41が第一ピン型40に対して付与する押圧力の大きさを決定する構成としている。これにより、第一押圧力F1と第二押圧力F2とを制御することにより、成形するクランクシャフトの条件に応じて成形条件を変更することが可能となるのである。換言すれば、クランクシャフトの形状や素材の剛性によって、棒状素材Wに加える偏心力である押圧力を一定にしたり、あるいは漸増させたりすることができるため、最適な成形条件を選択することができるのである。
【0047】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態に係るクランクシャフトの製造装置について、図10及び図11を用いて説明する。なお、以下の実施形態において説明するクランクシャフトの製造装置において、前記第一実施形態と共通する部分については、同符号を付してその説明を省略する。
【0048】
図10(a)及び(b)に示す如く、本実施形態に係るピン型240は、左右のピン型ブロック240a・240aをボルト63・63で締結することで型締めされ、片側のピン型シリンダ41のみで押圧される構成としている。このため、本実施形態に係るケース202の上部には、ボルト63・63を締結する際にドライバを挿入するための孔部202d・202dが開口されている。
【0049】
また、本実施形態に係るピン型240には電磁石61・61・・・が内蔵される。そして、それぞれのピン型ブロック240a・240aが棒状素材Wを挟持する際には電磁石61・61・・・が互いに引きあう方向に電流を流して型を一体化するのである。一方、それぞれの型を棒状素材Wから取外す際には電磁石61・61・・・が互いに反発しあう方向に電流を流して型を分割するのである。
【0050】
また、図11(a)及び(b)に示す如く、本実施形態に係るジャーナル型230は、左右のジャーナル型ブロック230a・230aをボルト73・73で締結することで型締めされ、ケース202との間に介挿されるストッパー75・75・・・により棒状素材Wの偏心時における座屈が防止される。このため、本実施形態に係るケース202の上部には、ストッパー75・75・・・を挿入するための孔部202e・202e・・・が開口されている。
【0051】
また、本実施形態に係るジャーナル型230にも電磁石71・71・・・が内蔵される。そして、それぞれのジャーナル型ブロック230a・230aが棒状素材Wを挟持する際には電磁石71・71・・・が互いに引きあう方向に電流を流して型を一体化するのである。一方、それぞれの型を棒状素材Wから取外す際には電磁石71・71・・・が互いに反発しあう方向に電流を流して型を分割するのである。
【0052】
本実施形態においては上記の如く構成することにより、それぞれの型におけるシリンダの本数を削減し、シンプルな構成とすることができる。これにより、各シリンダの制御を同期させる必要がなくなり、クランクシャフトの成形におけるロバスト性を確保することが可能となるのである。また、型開きの際に電磁石を用いてそれぞれの型を分割する構成としているため、クランクシャフトを型から取外す作業に時間がかからず、生産性を向上させるとともに、装置構成をコンパクトにすることができるのである。
【符号の説明】
【0053】
10 固定型
20 可動型
30 ジャーナル型
40 第一ピン型
41 第一ピン型シリンダ
50 第二ピン型
51 第二ピン型シリンダ
100 クランクシャフトの製造装置
W 棒状素材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形対象となる棒状素材の一端を固定する固定部を有する固定型と、
前記固定型に対して近接離間可能に配設され、前記棒状素材の他端を固定する固定部を有する可動型と、
前記固定型と前記可動型との間に、前記固定型に対して近接可能に配設された少なくとも1個のジャーナル型と、
前記可動型が前記固定型に対して近接離間する方向と直交する方向に、前記ジャーナル型を型締めする型締め手段と、
前記可動型、前記ジャーナル型、及び、前記固定型のそれぞれの間隙に1個ずつ、前記固定型に対して近接可能に、かつ、前記可動型が前記固定型に対して近接離間する方向と直交する方向にスライド可能に、配設されたピン型と、
前記固定型の固定部を中心とした周方向の位相が前記型締め手段に対してずれて配置され、前記可動型が前記固定型に対して近接離間する方向と直交する方向に前記ピン型を押圧して前記ピン型をスライドさせる押圧付与手段と、を備える、クランクシャフトの製造装置であって、
前記棒状素材の両端部のそれぞれを、前記固定型と前記可動型とで保持し、前記型締め手段で前記ジャーナル型を型締めすることにより、前記棒状素材のジャーナル部を前記ジャーナル型で挟持し、かつ、前記押圧付与手段で前記ピン型を押圧することにより、前記棒状素材のピン部を前記ピン型で挟持した状態で、
前記可動型、前記ジャーナル型、及び、前記ピン型を前記固定型に近接させることにより、前記棒状素材を軸方向に圧縮すると同時に、前記押圧付与手段で前記棒状素材の軸方向と垂直な偏芯方向に前記ピン型を押圧して、前記ピン型が前記ピン部を前記偏芯方向に押圧することにより、前記ピン部をジャーナル部である前記棒状素材の軸心から偏芯させる、
ことを特徴とする、クランクシャフトの製造装置。
【請求項2】
前記押圧付与手段は、前記偏芯方向に第一押圧力で前記ピン型を押圧する第一押圧付与手段と、前記偏芯方向と反対の方向に第一押圧力よりも小さい第二押圧力で前記ピン型を押圧する第二押圧付与手段と、で構成され、
前記第一押圧付与手段及び前記第二押圧付与手段は、それぞれが独立して前記第一押圧力及び前記第二押圧力を付与可能に構成され、
前記第一押圧力と前記第二押圧力との大きさの差を調整することによって、前記押圧付与手段が前記ピン型に対して付与する押圧力の大きさを決定する、
ことを特徴とする、請求項1に記載のクランクシャフトの製造装置。
【請求項3】
成形対象となる棒状素材の一端を固定する固定部を有する固定型と、前記固定型に対して近接離間可能に配設され、前記棒状素材の他端を固定する固定部を有する可動型と、前記固定型と前記可動型との間に、前記固定型に対して近接可能に配設された少なくとも1個のジャーナル型と、前記可動型が前記固定型に対して近接離間する方向と直交する方向に、前記ジャーナル型を型締めする型締め手段と、前記可動型、前記ジャーナル型、及び、前記固定型のそれぞれの間隙に1個ずつ、前記固定型に対して近接可能に、かつ、前記可動型が前記固定型に対して近接離間する方向と直交する方向にスライド可能に、配設されたピン型と、前記固定型の固定部を中心とした周方向の位相が前記型締め手段に対してずれて配置され、前記可動型が前記固定型に対して近接離間する方向と直交する方向に前記ピン型を押圧して前記ピン型をスライドさせる押圧付与手段と、を備えるクランクシャフトの製造装置で行う、クランクシャフトの製造方法であって、
前記棒状素材の両端部のそれぞれを、前記固定型と前記可動型とで保持し、前記型締め手段で前記ジャーナル型を型締めすることにより、前記棒状素材のジャーナル部を前記ジャーナル型で挟持し、かつ、前記押圧付与手段で前記ピン型を押圧することにより、前記棒状素材のピン部を前記ピン型で挟持した状態で、
前記可動型、前記ジャーナル型、及び、前記ピン型を前記固定型に近接させることにより、前記棒状素材を軸方向に圧縮すると同時に、前記押圧付与手段で前記棒状素材の軸方向と垂直な偏芯方向に前記ピン型を押圧して、前記ピン型が前記ピン部を前記偏芯方向に押圧することにより、前記ピン部をジャーナル部である前記棒状素材の軸心から偏芯させる、
ことを特徴とする、クランクシャフトの製造方法。
【請求項4】
前記押圧付与手段は、前記偏芯方向に第一押圧力で前記ピン型を押圧する第一押圧付与手段と、前記偏芯方向と反対の方向に第一押圧力よりも小さい第二押圧力で前記ピン型を押圧する第二押圧付与手段と、で構成され、
前記第一押圧付与手段及び前記第二押圧付与手段は、それぞれが独立して前記第一押圧力及び前記第二押圧力を付与可能に構成され、
前記第一押圧力と前記第二押圧力との大きさの差を調整することによって、前記押圧付与手段が前記ピン型に対して付与する押圧力の大きさを決定する、
ことを特徴とする、請求項3に記載のクランクシャフトの製造方法。
【請求項1】
成形対象となる棒状素材の一端を固定する固定部を有する固定型と、
前記固定型に対して近接離間可能に配設され、前記棒状素材の他端を固定する固定部を有する可動型と、
前記固定型と前記可動型との間に、前記固定型に対して近接可能に配設された少なくとも1個のジャーナル型と、
前記可動型が前記固定型に対して近接離間する方向と直交する方向に、前記ジャーナル型を型締めする型締め手段と、
前記可動型、前記ジャーナル型、及び、前記固定型のそれぞれの間隙に1個ずつ、前記固定型に対して近接可能に、かつ、前記可動型が前記固定型に対して近接離間する方向と直交する方向にスライド可能に、配設されたピン型と、
前記固定型の固定部を中心とした周方向の位相が前記型締め手段に対してずれて配置され、前記可動型が前記固定型に対して近接離間する方向と直交する方向に前記ピン型を押圧して前記ピン型をスライドさせる押圧付与手段と、を備える、クランクシャフトの製造装置であって、
前記棒状素材の両端部のそれぞれを、前記固定型と前記可動型とで保持し、前記型締め手段で前記ジャーナル型を型締めすることにより、前記棒状素材のジャーナル部を前記ジャーナル型で挟持し、かつ、前記押圧付与手段で前記ピン型を押圧することにより、前記棒状素材のピン部を前記ピン型で挟持した状態で、
前記可動型、前記ジャーナル型、及び、前記ピン型を前記固定型に近接させることにより、前記棒状素材を軸方向に圧縮すると同時に、前記押圧付与手段で前記棒状素材の軸方向と垂直な偏芯方向に前記ピン型を押圧して、前記ピン型が前記ピン部を前記偏芯方向に押圧することにより、前記ピン部をジャーナル部である前記棒状素材の軸心から偏芯させる、
ことを特徴とする、クランクシャフトの製造装置。
【請求項2】
前記押圧付与手段は、前記偏芯方向に第一押圧力で前記ピン型を押圧する第一押圧付与手段と、前記偏芯方向と反対の方向に第一押圧力よりも小さい第二押圧力で前記ピン型を押圧する第二押圧付与手段と、で構成され、
前記第一押圧付与手段及び前記第二押圧付与手段は、それぞれが独立して前記第一押圧力及び前記第二押圧力を付与可能に構成され、
前記第一押圧力と前記第二押圧力との大きさの差を調整することによって、前記押圧付与手段が前記ピン型に対して付与する押圧力の大きさを決定する、
ことを特徴とする、請求項1に記載のクランクシャフトの製造装置。
【請求項3】
成形対象となる棒状素材の一端を固定する固定部を有する固定型と、前記固定型に対して近接離間可能に配設され、前記棒状素材の他端を固定する固定部を有する可動型と、前記固定型と前記可動型との間に、前記固定型に対して近接可能に配設された少なくとも1個のジャーナル型と、前記可動型が前記固定型に対して近接離間する方向と直交する方向に、前記ジャーナル型を型締めする型締め手段と、前記可動型、前記ジャーナル型、及び、前記固定型のそれぞれの間隙に1個ずつ、前記固定型に対して近接可能に、かつ、前記可動型が前記固定型に対して近接離間する方向と直交する方向にスライド可能に、配設されたピン型と、前記固定型の固定部を中心とした周方向の位相が前記型締め手段に対してずれて配置され、前記可動型が前記固定型に対して近接離間する方向と直交する方向に前記ピン型を押圧して前記ピン型をスライドさせる押圧付与手段と、を備えるクランクシャフトの製造装置で行う、クランクシャフトの製造方法であって、
前記棒状素材の両端部のそれぞれを、前記固定型と前記可動型とで保持し、前記型締め手段で前記ジャーナル型を型締めすることにより、前記棒状素材のジャーナル部を前記ジャーナル型で挟持し、かつ、前記押圧付与手段で前記ピン型を押圧することにより、前記棒状素材のピン部を前記ピン型で挟持した状態で、
前記可動型、前記ジャーナル型、及び、前記ピン型を前記固定型に近接させることにより、前記棒状素材を軸方向に圧縮すると同時に、前記押圧付与手段で前記棒状素材の軸方向と垂直な偏芯方向に前記ピン型を押圧して、前記ピン型が前記ピン部を前記偏芯方向に押圧することにより、前記ピン部をジャーナル部である前記棒状素材の軸心から偏芯させる、
ことを特徴とする、クランクシャフトの製造方法。
【請求項4】
前記押圧付与手段は、前記偏芯方向に第一押圧力で前記ピン型を押圧する第一押圧付与手段と、前記偏芯方向と反対の方向に第一押圧力よりも小さい第二押圧力で前記ピン型を押圧する第二押圧付与手段と、で構成され、
前記第一押圧付与手段及び前記第二押圧付与手段は、それぞれが独立して前記第一押圧力及び前記第二押圧力を付与可能に構成され、
前記第一押圧力と前記第二押圧力との大きさの差を調整することによって、前記押圧付与手段が前記ピン型に対して付与する押圧力の大きさを決定する、
ことを特徴とする、請求項3に記載のクランクシャフトの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−161496(P2011−161496A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29095(P2010−29095)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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