説明

クランク軸用軸受装置及びその組立方法

【課題】2分割型転がり軸受を用いたクランク軸用軸受装置に発生する偏摩擦力に起因した過摩耗部分の発生を防止して、軸受装置の耐久性を向上させる。
【解決手段】上部クランクケース32bの上部ジャーナル支持壁34に凹部38を設け、凹部38に低炭素鋼からなる軸受支持体12を嵌合し、ボルト26で締付け固定する。次に軸受支持体12に円筒状の保持面17を穿設し、軸受支持体12を取り外す。次に保持面17を浸炭処理した後、軸受支持体12を自然割り加工で2分割し、軸受台14とジャーナルキャップ16とを形成する。軸受台14の凹面14aとジャーナルキャップ16の凹面16aとを対接配置して形成した円筒状の保持面17にニードルベアリング20を収容する。次に、ボルト26で軸受台14とジャーナル部36を上部ジャーナル支持壁34に締付け固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等に装備された内燃機関(エンジン)のクランク軸を転がり軸受を用いて支持するクランク軸用軸受装置及びその組立方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両等に搭載された内燃機関のクランク軸は、クランクアームやバランスウェイトが径方向外側に張り出し、端部にはフライホィール等の大径部が装着されている。このため、クランク軸を支持する軸受は、これらの張出部や大径部を通過させて内側軸受部やジャーナル部に装着できないため、2分割されてクランク軸に装着される。
【0003】
従来、かかるクランク軸の軸受にはすべり軸受が用いられていた。しかし、すべり軸受は、回転時の摩擦抵抗が大きく、かつ境界面に油膜を形成する必要があり、始動時にこの油膜形成に時間がかかる等の問題があった。
そこで、最近では、摩擦抵抗が少なく、始動のための準備時間を要しない転がり軸受を用い、これによって、車両の低燃費化を図ることが提案されている。
【0004】
特許文献1(特開2008−232279号公報)に、内燃機関のクランク軸を回転可能に支持する軸受装置として、2分割されたニードルベアリングを用いた例が開示されている。この軸受装置を図7により説明する。図7において、ニードルベアリング108は、シリンダブロック102の固定部104及びその固定部104に対応するジャーナルキャップ106と、クランク軸100のジャーナル部100aとの間に介装される。クランク軸100は、クランクピン100bやカウンターウェイト100c等を備えている。
【0005】
ニードルベアリング108は、周方向に2分割されて半筒状をなす一対の分割片110a及び110bで形成される2分割型のアウターレース110と、該アウターレース110の内周面を軌道面とする複数のころ(ニードル)112と、複数のころ112を周方向に所定間隔で保持すると共に、周方向に分離されて半環状をなす一対の分離片114a及び114bで形成される保持器114とを備えている。保持器114には、半径方向の内外に貫通する複数のポケット部Pが周方向に沿って等間隔で設けられ、この各ポケット部P内にころ112が収容されている。ころ112は、アウターレース110の内周面及びジャーナル部100aの外周面に夫々形成された軌道面間で転動する。
【0006】
ニードルベアリング108は、固定部104に設けられた半筒状を呈する凹面104aと、ジャーナルキャップ106に設けられた半筒状を呈する凹面106aとが対面配置して形成される円筒状保持面に保持される。即ち、一対の分割片110a、110bで構成されるアウターレース110が固定部104及びキャップ106に一体的に固定され、ジャーナル部100aが内輪として相対回転可能に連結される。固定部104にボルト116に対応する雌ネジ穴104hが形成されており、ジャーナルキャップ106に形成された挿通孔106hを介してボルト116が締結される。
【0007】
特許文献2(特開2003−214442号公報)には、ニードルベアリングを用いた2分割型クランク軸用軸受装置が開示されている。転がり軸受の中でも、ニードルベアリングは、断面高さが小さいので、軸受スペースを節約でき、クランク室の小形軽量化を可能すると共に、負荷容量や最大許容荷重等が大きい等の長所をもっている。
【0008】
特許文献2には、背景技術として、「分割型転がり軸受は、クランク軸等の被装着部材に組み付けた状態で軌道面の真円度が低下したり、軌道面の分割線部分に微小な段差が生じることがある。これによって、転動体が強く擦り付けられる部分が軌道面に生じ、長期間に亘って使用することにより、軌道面及び転動体の転動面がうろこ状に剥離するフレーキング現象が発生しやすくなって、軸受の耐久性が著しく低下してしまう。軌道面の真円度が低下したり、軌道面の分割線部分に微小な段差が生じる原因は、軌道面の硬度を向上させるために熱処理を行なったときの残留応力が分割時に開放され、分割された軌道輪半部の形状が僅かに歪むためと考えられる。」と記述されている。
【0009】
そこで特許文献2に開示された軸受は、軌道輪を夫々半円筒形状の分割体に2分割し、クランク軸への装着時に2個の軌道輪半部の合わせ面に段差部を形成し、この段差部を利用して軌道輪半部を互いに嵌合させ位置決めさせることにより、ころ軌道面の真円度を確保し、分割部分を段差のない滑らかな面に形成できるようにしている。以下、図8により、特許文献2に開示された軸受のアウターレースの合わせ面の構成を説明する。
【0010】
図8において、アウターレース120を構成する一対の分割片120a及び120bの合わせ面122は、アウターレース120の内周面124から径方向外側へ延びる第1の分割面126a及び126bと、この第1の分割面126a、126bの先端から周方向へ延びる第2の分割面128a及び128bと、この第2の分割面128a、128bの先端から径方向外側へ延びる第3の分割面130a及び130bとで形成されている。
【0011】
分割片120a及び120bをクランク軸のジャーナル部100aに組み付けた状態で、第1の分割面126a、126bは、互いに押圧し合うように形成されている。第2の分割面128a及び128bは、前記組み付け状態で互いに接触し、径方向に対する分割片120aと分割片120bとの相対的な移動を規制している。第3の分割面130a及び130bは、隙間sを隔てて対向しており、分割片120a、120bの周方向への相対的な移動を許容するように形成されている。
【0012】
このように、第3の分割面130a、130b間に隙間sを形成することによって、分割片120a、120bを互いに嵌合させたときに、第1の分割面126a、126b同士を確実に対接できるようにすると共に、前記組み付け状態で、分割片120a、120b間に生じる押圧力を第1の分割面126a、126bのみに作用させるようにしている。
【0013】
かかる構成によって、実際にクランク軸に組み付けていない仮組付けの状態でも、合わせ面122を周方向と径方向の両方向で位置決めできるので、クランク軸に組み付けた状態と同一の状態に位置決めできる。このため、仮組付けの状態で軌道面に熱処理や研磨などを施してアウターレース120の内周面を最終仕上げ形成した後、軌道輪半部を互いに分離させて被装着部材に装着する。これによって、ころ軌道面の真円度を確保し、分割部分を段差のない滑らかな面に形成できるので、クランク軸が回転するときの抵抗を軽減し、クランク軸の高速回転を可能にしている。なお、転がり軸受を構成するアウターレースは、一般に、アルミ製のシリンダブロックに対して高い硬度を有する鋼製とすることにより、転がり軸受の強度を確保している。
【0014】
アウターレースを構成する分割片の加工は、自然割り加工と機械割り加工とがある。このうち自然割り加工は、焼入れ、焼鈍しされた部材の片面又は両面にノッチ部を形成し、該ノッチ部にくさびの打ち込み等で集中応力を発生させ、破断させるものである。機械割り加工は、ワイヤーカット等を用いて切断する加工である。自然割り加工は、破断面に結晶粒の境界に沿う微細な凹凸が形成されるので、破断された分割片の合わせ面の位置決めが容易になるという利点がある。自然割り加工は、例えば特許文献3(実公昭63−46725号公報)及び特許文献4(特開平10−184674号公報)に開示されている。
【0015】
クランク軸用軸受装置では、シリンダブロック102の固定部104に設けられる半筒状の凹面104aと、ジャーナルキャップ106に設けられる半筒状の凹面106aが形成する円筒形状の保持面の真円度を維持するために、ジャーナルキャップ106をボルト116でシリンダブロック102に締付け固定した状態で、該凹面104a及び106aを加工する方法が採用されている。また、破断後の分割片の合わせ面の位置決めを容易にするため、アウターレース110を自然割り加工で2分割している。
【0016】
図9に、前記凹面104a及び106aを加工した後、ニードルベアリング108をクランク軸のジャーナル部100aに装着した状態を示す。図9において、ジャーナルキャップ106とシリンダブロックの固定部104との接触面117a〜bは、水平面H上に位置し、分割片110a〜bが互いに当接する合わせ面118a〜bは、水平面Hから周方向にずらした位置に配置されている。即ち、該合わせ面及び中心Oを通る平面Cは、クランク軸のジャーナル部100aの中心Oを中心として水平面Hから時計方向に角度α(例えば5〜10°)だけ傾けた位置にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2008−232279号公報(図4)
【特許文献2】特開2003−214442号公報
【特許文献3】実公昭63−46725号公報
【特許文献4】特開平10−184674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
図10は、ニードルベアリング108をボルト116でシリンダブロックに締付け固定する前後の凹面104a及び106aの形状変化を示す。図10中、Pは中心Oを通る垂線であり、Dは締付け固定前、Eは締付け固定後の凹面104a、106aの形状を示す。図示のように、締付け固定前の凹面形状Dは、上下方向に伸びた瓢箪形をし、その後、ボルト116による締付けにより、上下方向から締付け力(図11中の力F)が付加されることにより、締付け固定後の凹面形状Eは、凹面104a、106aの真円度が戻る形状となる。このように、凹面104a、106aは、軸受108を締付け固定した後真円となるように加工してあるため、締付け固定前は、瓢箪形となる。
【0019】
そのため、締付け固定前に分割片110a〜bを凹面104a、106aに装着しようとすると、該分割片に水平方向両側から挟み込む力が加わる。この挟み込み力が分割片110a〜bに作用する影響を避けるため、アウターレース110の合わせ面118a〜bは、接触面117a〜bから角度αだけずらした位置に配置している。
【0020】
合わせ面118a〜bを水平面Hより時計方向に角度αだけずらしてあるため、分割片110aの一方の端部110aが分割片110b側に先に進入する。このとき、凹面104a、106aの挟み込み力の影響及び分割片自体の残留応力により、該端部110aが浮き上がり、分割片110bの端面との間でズレGを生じる(図12参照)。このズレGにより、他方の合わせ面118bでもズレが発生する。合わせ面118a〜bのズレ量は、通常5〜40μm(0.005mm〜0.04mm)(合わせ面118a及び118bにおけるズレ量Gの合計値)程度になる。
【0021】
ニードルベアリング108をシリンダブロックに締付け固定した後、上下方向から凹面104a、106aに締付け力Fが付加されて、凹面104a、106aの真円度が戻るが、合わせ面118a〜bのズレが小さくならない場合がある。合わせ面118a〜b間にズレを生じたまま軸受108がジャーナル部100aに装着されると、軸受108に摩擦部分が発生する。そのため、ころ112等に過摩耗部分が発生し、これによって、軸受108が損傷したり、その耐久性が低下するおそれが出てくる。
【0022】
特許文献2に開示されたアウターレース分割片の合わせ面は、3つの分割面で構成された複雑な形状をしているため、隙間sの形成など精密な加工を要する。そのため、加工に時間と手間がかかり、高コストとなる。また、合わせ面に段差部を設けるため、合わせ面にズレが生じたときに、ズレの方向によっては該段差部が障害となってズレの解消が困難になる虞がある。
【0023】
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑み、クランク軸を支承する軸受に2分割型の転がり軸受を用いた場合、アウターレースを構成する分割片の合わせ面のズレを少なくすることによって、締付け固定の該合わせ面のズレをなくし、これによって、軸受に発生する偏摩擦力に起因した過摩耗部分の発生を防止して、軸受の耐久性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
かかる目的を達成するため、本発明のクランク軸用軸受装置は、
内燃機関のクランク軸を回転可能に支持する分割型転がり軸受を備え、該分割型転がり軸受をシリンダブロックに固定してなるクランク軸用軸受装置において、
前記シリンダブロックに刻設された凹部に嵌合固定され、前記分割型転がり軸受が収容される円筒状の保持面を有する軸受支持体を備え、
該軸受支持体は低炭素鋼からなり、夫々半筒状の凹面を有した2個の分割片から構成され、該凹面が対面配置されて円筒状の保持面を形成し、
前記分割型転がり軸受はアウターレースがなく、転動体が該保持面に直接接触し、該保持面を該転動体の軌道面としたものである。
【0025】
最近、内燃機関のシリンダブロックには、熱伝導性や、軽量という点で鋳鉄より優れているAlが使用されている。しかし、Alでは強度や硬度が鋳鉄に比べて劣る。そのため、クランク軸用軸受装置に用いられる転がり軸受は、シリンダブロックに代わって強度や硬度を保持するために、鋼製のアウターレースを必要としていた。
【0026】
本発明の軸受装置では、低炭素鋼、例えば0.1〜0.25重量%のCを含有する低炭素鋼からなる軸受支持体で転がり軸受を支持するようにしたものである。そして、転がり軸受のアウターレースをなくし、軸受支持体に形成された保持面に転がり軸受の転動体を直接接触させ、該保持面を転動体の軌道面としている。これによって、アウターレースが不要となり、2分割型アウターレースを用いた場合の前記問題を解消することができる。
【0027】
従って、転がり軸受の構成部品に偏摩擦力が発生せず、過摩耗部分が発生しないので、転がり軸受の損傷をなくし、軸受の耐久性を維持することができる。また、アウターレースをなくすことで、転がり軸受の構成を簡素化できると共に、保持面への組み付けが容易になるという利点がある。
【0028】
なお、本発明の軸受装置に使用できる低炭素鋼として、例えば、低炭素鋼にクロム、モリブデン等を添加したクロムモリブデン鋼(SCM)等がある。
好ましくは、前記保持面を浸炭処理するとよい。これによって、該保持面の強度及び硬度をさらに増大でき、転動体の軌道面として耐久性を保持できるようになる。
【0029】
本発明の軸受装置において、2個の分割片が互いに当接する合わせ面に軸方向に沿って互いに嵌合する凹凸面を形成させるとよい。これによって、2個の分割片の再組付け時に、該凹凸面により分割片の軸方向の位置決めが容易になり、分割片の軸方向の位置ズレをなくすことができる。
【0030】
本発明の軸受装置において、2個の分割片が互いに当接する合わせ面の互いに対面する位置にノックピン挿入穴を穿設し、該ノックピン挿入穴にノックピンを装着し、該ノックピンにより両分割片の軸方向位置決めを行なうようにするとよい。これによって、ノックピンを用いた簡単な構成で、2個の分割片の再組付け時に、分割片の軸方向の位置決めが容易になると共に、分割片の軸方向のズレをなくすことができる。
【0031】
また、本発明のクランク軸用軸受装置の組立方法は、
内燃機関のクランク軸を分割型転がり軸受で回転可能に支持させ、該分割型転がり軸受をシリンダブロックに固定するクランク軸用軸受装置の組立方法において、
前記シリンダブロックに刻設された凹部に低炭素鋼からなる軸受支持体を嵌合し、該軸受支持体をシリンダブロックに固定する第1工程と、
該軸受支持体に前記分割型転がり軸受を収容する円筒状の保持面を穿設した後、該軸受支持体を取り外す第2工程と、
取り外した軸受支持体の保持面を浸炭処理し、その後軸受支持体を2分割し、各分割片に半筒状の凹面を形成する第3工程と、
クランク軸の周囲に前記分割型転がり軸受を配置し、該分割片を組み合わせて軸受支持体を形成し、該分割型転がり軸受を前記保持面に収容した状態で、軸受支持体をシリンダブロックに固定する第4工程と、からなり、
該分割型転がり軸受からアウターレースをなくし、該保持面に該分割型転がり軸受の転動体を直接接触させ、該保持面を該転動体の軌道面とするものである。
【0032】
本発明方法では、炭素鋼からなり、転がり軸受を収容する保持面を浸炭処理した高強度及び高硬度の軸受支持体で転がり軸受を支持するようにしたものである。これによって、アウターレースが不要となり、2分割型アウターレースを用いた場合の前記問題を解消することができる。
【0033】
また、本発明方法では、軸受支持体を実際にシリンダブロックに組み付けた状態で保持面の加工を行なっているので、内燃機関の運転状態での該保持面の真円度の精度を確保できる。さらに、従来の既存のシリンダブロックを若干改造するだけで、本発明に適用可能になる。
【0034】
本発明方法において、前記第3工程で軸受支持体を自然割り加工で2分割するとよい。これによって、分割面に生じた結晶粒に沿う微細な凹凸が生じるので、前記第4工程で軸受装置を組み立てる際に、両分割片の位置決めを容易にすると共に、この微細凹凸により合わせ面のズレを抑制する作用を生む利点がある。
【発明の効果】
【0035】
本発明のクランク軸用軸受装置によれば、内燃機関のクランク軸を回転可能に支持する分割型転がり軸受を備え、該分割型転がり軸受をシリンダブロックに固定してなるクランク軸用軸受装置において、シリンダブロックに刻設された凹部に嵌合固定され、前記分割型転がり軸受が収容される円筒状の保持面を有する軸受支持体を備え、該軸受支持体は低炭素鋼からなり、夫々半筒状の凹面を有した2個の分割片から構成され、該凹面が対面配置されて円筒状の保持面を形成し、分割型転がり軸受はアウターレースがなく、転動体が該保持面に直接接触し、該保持面を該転動体の軌道面としたことにより、高強度及び高硬度の分割片で転がり軸受を囲繞することにより、転がり軸受を構成するアウターレースを廃することができる。アウターレースを無くすことで、転がり軸受の構成部品に偏摩擦力が発生せず、過摩耗部分が発生しないので、転がり軸受の損傷をなくし、その耐久性を維持することができる。
【0036】
また、アウターレースをなくすことで、転がり軸受の構成を簡素化できると共に、転がり軸受の組み付けが容易になる。さらに、従来の既存のシリンダブロックを若干改造するだけで、本発明の軸受装置に適用可能になる。
【0037】
また、本発明のクランク軸用軸受装置の組立方法によれば、内燃機関のクランク軸を分割型転がり軸受で回転可能に支持させ、該分割型転がり軸受をシリンダブロックに固定するクランク軸用軸受装置の組立方法において、シリンダブロックに刻設された凹部に低炭素鋼からなる軸受支持体を嵌合し、該軸受支持体をシリンダブロックに固定する第1工程と、該軸受支持体に前記分割型転がり軸受を収容する円筒状の保持面を穿設した後、該軸受支持体を取り外す第2工程と、取り外した軸受支持体の保持面を浸炭処理し、その後軸受支持体を2分割し、各分割片に半筒状の凹面を形成する第3工程と、クランク軸の周囲に前記分割型転がり軸受を配置し、該分割片を組み合わせて軸受支持体を形成し、該分割型転がり軸受を前記保持面に収容した状態で、軸受支持体をシリンダブロックに固定する第4工程と、からなり、該分割型転がり軸受からアウターレースをなくし、該保持面に該分割型転がり軸受の転動体を直接接触させ、該保持面を該転動体の軌道面とすることにより、前記本発明方法と同様の作用効果を得ることができるに加えて、軸受支持体を実際にシリンダブロックに組み付けた状態で保持面の加工を行なっているので、内燃機関の運転状態での該保持面の真円度の精度を確保できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の軸受装置の第1実施形態に係る正面図である。
【図2】前記第1実施形態の軸受支持体12の斜視図である。
【図3】従来のシリンダブロックを示す正面図である。
【図4】従来のシリンダブロックの加工途中を示す正面図である。
【図5】本発明の軸受装置の第2実施形態に係る軸受支持体12を示す斜視図である。
【図6】本発明の軸受装置の第3実施形態に係る軸受支持体12を示す斜視図である。
【図7】従来のクランク軸用軸受装置を展開して示す斜視図である。
【図8】従来のクランク軸用軸受のアウターレースの合わせ面の断面図である。
【図9】従来のクランク軸用軸受装置の正面図である。
【図10】従来のクランク軸用軸受を収容するシリンダブロック側保持面の形状変化を示す説明図である。
【図11】図9の軸受装置のアウターレースの挙動を示す説明図である。
【図12】図11中のB部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではない。
【0040】
(実施形態1)
本発明のクランク軸用軸受装置及びその組立方法の第1実施形態を図1〜図4に基づいて説明する。図1は、本実施形態のクランク軸用軸受装置10をエンジンへの組立時の姿勢で図示している。図3及び図4も同様にエンジンへの組立時の姿勢で図示している。
図1において、シリンダブロック30の一部を形成するクランクケース32は、下部クランクケース32aと上部クランクケース32bとが合わせ面32cで付き合わされて一体に結合され、密封構造をなしている。クランクケース32の内部で、クランク軸のジャーナル部36は、軸受装置10に支持されている。
【0041】
上部ジャーナル支持壁34の下面に凹部38が設けられ、この凹部38に互いに別体の軸受台14とジャーナルキャップ16とからなる軸受支持体12が嵌合されている。軸受台14及びジャーナルキャップ16には、夫々互いに対接して円筒状の保持面17を形成する半筒状の凹面14a及び凹面16aが設けられている。凹面16aに半環状の保持器22aが収容され、凹面14aに半環状の保持器22bが収容されている。保持器22aと保持器22bとは、両端で突き合わされて、環状の保持器22を形成している。保持器22a、22bには、夫々小径で細長いニードル形のころ(ニードル)24が複数個回転可能に収容されている。
【0042】
保持器22a、22bところ24とでニードルベアリング20を構成し、ころ24がクランク軸のジャーナル部36に接して、ジャーナル部36を回転可能に支持している。また、保持面17にころ24が直接接触し、保持面17がころ24の軌道面を形成している。前述のように、ニードルベアリングは、断面高さが小さいので、軸受スペースを節約でき、クランク室の小形軽量化を可能すると共に、負荷容量や最大許容荷重等が大きい等の長所をもっている。
【0043】
軸受台14及びジャーナルキャップ16の両側端部には、貫通孔14b及び16bが互いに連通するように穿設されている。また、下部ジャーナル支持壁34に貫通孔14aに連通するネジ穴40が穿設されている。ボルト26を貫通孔16b及び14bを通してネジ穴40に螺合させることにより、軸受台14及びジャーナルキャップ16を上部ジャーナル支持壁34に締付け固定している。
【0044】
上部ジャーナル支持壁34の下方にはシリンダ室42が形成されている。シリンダ室42の周囲の隔壁には、冷却水の通路43,44及び45が形成されて、通路43から冷却水が供給されて、シリンダブロック30を冷却している。
【0045】
図2は、軸受支持体12の斜視図である。図2において、軸受装置10の組立て時、軸受台14とジャーナルキャップ16とが互いに当接する合わせ面18は、軸受支持体12を自然割り加工によって2分割して形成されている。軸受台14及びジャーナルキャップ16の夫々の合わせ面18の互いに対面する位置に、ノックピン挿入穴14c及び16cが穿設されている。そして、ノックピン挿入穴14c及び16cにノックピン28を圧入して、軸受支持体12とジャーナル部36との位置合わせと互いの位置ズレ防止を可能にしている。
【0046】
次に、本実施形態の軸受装置10の組立方法を図3及び図4により説明する。図3は、従来の既存のシリンダブロック30を示す。シリンダブロック30をこれから本実施形態で使用可能なシリンダブロックに加工する。シリンダブロック30の内部に、シリンダブロック30と一体成形された上部ジャーナル支持壁34がある。この上部ジャーナル支持壁34の下面34aにジャーナルキャップ16を嵌合するための凹部46と、ジャーナル部36を支持する転がり軸受を収容するための半筒状の凹面48が設けられている。
本実施形態では、図4に示すように、凹部46と凹面48を加工して、角形状の凹部38と該凹部38の底面に2個のネジ穴40を穿設する。
【0047】
次に、凹部38に、軸受台14とジャーナルキャップ16とに分割される前の軸受支持体12を嵌合する。この軸受支持体12は、0.1〜0.25重量%のCを含有する低炭素鋼からなり、両側端部にボルト貫通孔を穿設してある。この軸受支持体12を凹部38に嵌合した状態でボルト26を該ボルト貫通孔に通すと共に、ネジ穴40に螺合させることにより、軸受支持体12を上部ジャーナル支持壁34に締付け固定する。
この状態で、該軸受支持体12にニードルベアリング20を収容するための円筒状の保持面17を穿設する。
【0048】
次に、ボルト26を外し、軸受支持体12を取り出す。取り出した軸受支持体12の保持面17に浸炭処理を施す。これによって、該保持面17に20〜30μmの浸炭膜を形成する。次に、軸受支持体12を自然割り加工により、軸受台14とジャーナルキャップ16とに分割する。自然割り加工は、軸受支持体12の片面又は両面にノッチ部を形成し、このノッチ部にくさびの打ち込み等で集中応力を発生させ、破断させる。軸受支持体12を2分割したことにより、夫々半筒状の凹面14a、16aを形成した軸受台14とジャーナルキャップ16とが形成される。
【0049】
次に、ジャーナルキャップ12の凹面12aに半環状の保持器22aを収容すると共に、軸受台14の凹面14aに半環状の保持器22bを収容し、ジャーナルキャップ12と軸受台14とでジャーナル部36を挟む。そして、軸受台14とジャーナルキャップ16とを合わせ面18で互いに当接する。この状態の組立体を凹部38に嵌合した後、図1に示すように、ボルト26でジャーナルキャップ12を上部ジャーナル支持壁34に締付け固定する。ころ24でジャーナル部36を回転可能に支持し、保持面17でころ24の軌道面を形成する。
【0050】
本実施形態によれば、低炭素鋼からなる軸受支持体12を分割したジャーナルキャップ12と軸受台14とでニードルベアリング20を支持すると共に、ニードルベアリング20を収容する保持面17を浸炭処理して高強度及び高硬度にしているので、ニードルベアリング20にアウターレースを不要とすることができる。これによって、アウターレースの合わせ面に生じたズレによって起こるニードルベアリング構成部品の過摩耗をなくすことができる。そのため、ニードルベアリング20の損傷を無くし、その耐久性を向上できる。
【0051】
また、組立時において、軸受支持体12をボルト26で下部ジャーナル支持壁34に締付け固定した状態で、保持面17を加工しているので、内燃機関の運転中の保持面17の真円度を保持できる。
また、軸受支持体12を自然割り加工で軸受台14とジャーナルキャップ16とに分割しているので、分割面に生じた結晶粒に沿う微細な凹凸が生じ、この微細な凹凸により、組立時に軸受台14とジャーナルキャップ16の位置決めを容易にすると共に、この微細凹凸により、合わせ面18のズレを抑制する作用を生む利点がある。
【0052】
また、合わせ面18にノックピン挿入穴14c、16cを穿設し、このノックピン挿入穴にノックピン28を挿入しているので、軸受台14とジャーナルキャップ16との軸線方向の位置決めが容易になる。
また、ニードルベアリング20のアウターレースをなくしているので、ニードルベアリング20の組み付けが容易になるという利点がある。さらに、既存のシリンダブロックを若干加工するだけで本実施形態のシリンダブロックとして利用可能になる。
【0053】
また、シリンダブロック30に組み付ける前に、保持器22a、22bとジャーナルキャップ12、軸受台14を一旦ジャーナル部36に挟み込み、この状態でこれら部品を位置合わせできるので、これら部品の位置合わせが容易になる。
【0054】
(実施形態2)
次に、本発明の軸受装置の第2実施形態を図5により説明する。図5において、本実施形態の軸受台14は、その底面に長手方向に断面が台形状の凸部50を設けている。そして、上部ジャーナル支持壁34の対向面に、凸部50に嵌合する形状の凹部(図示省略)を設けている。その他の構成は前記第1実施形態と同一である。
【0055】
本実施形態によれば、軸受台14を上部ジャーナル支持壁34に固定するときに、凸部50を上部ジャーナル支持壁34の該凹部に嵌合するので、軸受台14の位置決めが容易になると共に、軸受台14をより安定して据付け固定できる。
従って、前記第1実施形態のように、保持器22a、22bとジャーナルキャップ12、軸受台14を一旦ジャーナル部36に挟み込み、この状態の組立体を凹部38に嵌合するやり方も可能であるが、軸受台14に凸部50を設けたために、軸受台14を凹部38に安定して固定できるため、まず、凹部38に軸受台14を固定した後、保持器22b、ジャーナル部36、保持器22a及びジャーナルキャップ12の順に順々に各部品を組み付けていく方法も可能である。
【0056】
(実施形態3)
次に、本発明の軸受装置の第3実施形態を図6により説明する。図6において、本実施形態は、第1実施形態及び第2実施形態のノックピン挿入穴14c、16c及びノックピン28を廃し、代わりに、軸受台14の上端に形成した合わせ面52を、中央側に向かって上昇する2平面54a及び54bからなり、中央に頂上線54cを有する三角形断面の山形凸面54に形成したものである。ジャーナルキャップ16の合わせ面52は、軸受台14に形成された山形凸面54に嵌合するように、平面56a及び56bと中央の谷線56cとからなる三角形断面の山形凹面56を形成している。その他の構成は、前記第1実施形態と同一である。
【0057】
本実施形態では、軸受台14とジャーナルキャップ16との合わせ面52を凹凸面としたので、軸受台14とジャーナルキャップ16との分割方法は、自然割り加工を採用できず、機械割り加工を行なっている。
本実施形態によれば、軸受台14とジャーナルキャップ16との合わせ面52を山形形状としたので、軸受台14とジャーナルキャップ16との位置決めが容易になると共に、軸受台14とジャーナルキャップ16とを結合を強固にできる利点がある。
【0058】
なお、前記第1〜3実施形態は、いずれもシリンダブロック30内に設けられた下部ジャーナル支持壁34の上面にジャーナルキャップ12を装着する例であるが、本発明は、下部ジャーナル支持壁にジャーナルキャップ12を装着した場合にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、内燃機関のクランク軸の軸受として、2分割型転がり軸受を用いた場合に、軸受構成部品の偏摩耗をなくし、該部品の損傷を防止して、軸受の耐久性を向上できると共に、転がり軸受の構成を簡素化できる。
【符号の説明】
【0060】
10 クランク軸用軸受装置
12 軸受支持体
14 軸受台
14a、16a 凹面
16,106 ジャーナルキャップ(キャップ部材)
17 保持面
18,52 合わせ面
20,108 ニードルベアリング
22、22a、22b、114a、114b 保持器
24,112 ころ(転動体)
26,116 ボルト
28 ノックピン
30,102 シリンダブロック
32 クランクケース
32a 下部クランクケース
32b 上部クランクケース
34 上部ジャーナル支持壁
36 ジャーナル部
40 ネジ穴
42 シリンダ室
50 凸部
54 山形凸面
56 山形凹面
100 クランク軸
100a ジャーナル部
110a、110b アウターレース
A 軸線
C 平面
H 水平面
O ジャーナル部中心
G ズレ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランク軸を回転可能に支持する分割型転がり軸受を備え、該分割型転がり軸受をシリンダブロックに固定してなるクランク軸用軸受装置において、
前記シリンダブロックに刻設された凹部と、該凹部に嵌合固定された軸受支持体とを備え、
該軸受支持体は低炭素鋼からなり、夫々半筒状の凹面を有した2個の分割片から構成され、該凹面が対面配置されて円筒状の保持面を形成し、該保持面に前記分割型転がり軸受を収容してなり、
該分割型転がり軸受はアウターレースがなく、転動体が該保持面に直接接触し、該保持面を該転動体の軌道面としたことを特徴とするクランク軸用軸受装置。
【請求項2】
前記保持面に浸炭処理が施されていることを特徴とする請求項1に記載のクランク軸用軸受装置。
【請求項3】
前記2個の分割片が互いに当接する合わせ面に軸方向に沿って互いに嵌合する凹凸面を形成させたことを特徴とする請求項1又は2に記載のクランク軸用軸受装置。
【請求項4】
前記2個の分割片が互いに当接する合わせ面の互いに対面する位置にノックピン挿入穴を穿設し、該ノックピン挿入穴にノックピンを装着し、該ノックピンにより両分割片の軸方向位置決めを行なうようにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載のクランク軸用軸受装置。
【請求項5】
内燃機関のクランク軸を分割型転がり軸受で回転可能に支持させ、該分割型転がり軸受をシリンダブロックに固定するクランク軸用軸受装置の組立方法において、
前記シリンダブロックに刻設された凹部に低炭素鋼からなる軸受支持体を嵌合し、該軸受支持体をシリンダブロックに固定する第1工程と、
該軸受支持体に前記分割型転がり軸受を収容する円筒状の保持面を穿設した後、該軸受支持体を取り外す第2工程と、
取り外した軸受支持体の保持面を浸炭処理し、その後軸受支持体を2分割し、各分割片に半筒状の凹面を形成する第3工程と、
クランク軸の周囲に前記分割型転がり軸受を配置し、該分割片を組み合わせて軸受支持体を形成し、該分割型転がり軸受を前記保持面に収容した状態で、軸受支持体をシリンダブロックに固定する第4工程と、からなり、
該分割型転がり軸受からアウターレースをなくし、該保持面に該分割型転がり軸受の転動体を直接接触させ、該保持面を該転動体の軌道面とすることを特徴とするクランク軸用軸受装置の組立方法。
【請求項6】
前記第3工程で軸受支持体を自然割り加工で2分割することを特徴とする請求項5に記載のクランク軸用軸受装置の組立方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2011−38571(P2011−38571A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185307(P2009−185307)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】