説明

クリヤ塗装ステンレス鋼板及びその製造方法

【課題】 環境に対応したクリヤ塗膜ステンレス鋼板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 化成処理塗膜がアミノシラン系、エポキシシラン系の1種類または2種類でその付着量が2〜50mg/m2であり、クリヤ塗膜が架橋性官能基を有するガラス転移点が30〜90℃、数平均分子量3000〜50000のアクリル樹脂を主成分として該アクリル樹脂を架橋硬化させるためのブロックイソシアネート樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物であり、クリヤ塗膜厚さが1〜10μmであることを特徴とするクリヤ塗装ステンレス鋼板である。クリヤ塗膜は、熱硬化性樹脂組成物の固形物100質量部あたり、ポリオレフィン系ワックスを固形分量で0.25〜5質量部含有することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化成処理がノンクロム処理であり、無公害で、かつ付着性、プレス性、耐候性、雨筋汚染性、耐洗剤性、耐薬品性に優れた家電、建材、自動車等の部品に利用されるクリヤ潤滑塗装ステンレス鋼板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼板などの板材をプレス成形加工する際には、潤滑油を塗布してから成形を行い、成形加工後に溶剤やアルカリ脱脂を使用して潤滑油を落としていた。これら潤滑剤の使用はプレス環境を劣悪にするとともに、脱脂溶剤として使用されていたフロンや有機溶剤がオゾン層を破壊することから、それら脱脂溶剤の規制が強化され使用が禁止されるに至った。このように潤滑油の使用は、さらに廃液処理や作業環境の問題もあり、無塗油でプレス成形でき、脱脂が省略できる地球環境にやさしいクリヤ潤滑ステンレス鋼板が求められている。一方、ステンレスクリヤ潤滑鋼板が、家電製品等に使用される場合には、シックハウス症候群などの問題からクロメートフリーのクリヤ潤滑ステンレス鋼板が求められている。更に、建材製品に関しては、耐候性に優れ、雨筋汚染性、耐酸性雨性に優れたクリヤ潤滑ステンレス鋼板が求められている。
【0003】
しかしながら、プレス成形性に優れるステンレスクリヤ潤滑鋼板として、例えば特許文献1のように塗布型クロメート処理を行い、エポキシ変性ポリエステル樹脂やビスフェノール型骨格、エステル骨格およびカルボキシル基を有する、エーテル、エステル型ウレタン樹脂、アクリル樹脂などをメラミン樹脂などで熱硬化させ、ポリオレフィンワックスを塗膜中に分散させることでプレス性に優れるステンレスクリヤ潤滑鋼板が使用されているが、ビスフェノール型骨格を含むため耐候性は劣り、用途が制限されるとともに、クロメート処理で僅かであるが6価クロムを含むため、シックハウス症候群などの問題を生じている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−149860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、クロメートフリーであり、かつクリヤ性、耐候性、雨筋汚染性、耐疵付き性、耐洗剤性、耐薬品性に優れた環境対応型クリヤ塗装ステンレス鋼板およびその製造方法を確立することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決する手段を鋭意検討した結果、熱硬化系樹脂の特性、ワックス、化成処理剤および塗装条件を検討し、環境対応型クリヤ潤滑ステンレス鋼板およびその製造方法を確立した。
【0007】
即ち、本発明の要旨とするところは以下のとおりである。
(1)上層がクリヤ塗膜と下層が化成処理塗膜で形成されるクリヤ塗装ステンレス鋼板において、化成処理塗膜がアミノシラン系、エポキシシラン系の1種類または2種類より実質的になり、化成処理塗膜付着量が2〜50mg/m2であり、クリヤ塗膜が架橋性官能基を有するガラス転移点が30〜90℃、数平均分子量3000〜50000のアクリル樹脂を主成分として該アクリル樹脂を架橋硬化させるためのブロックイソシアネート樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物であり、クリヤ塗膜厚さが1〜10μmであることを特徴とするクリヤ塗装ステンレス鋼板。
(2)クリヤ塗膜は、熱硬化性樹脂組成物の固形物100質量部あたり、融点が70〜160℃であって粒径が0.1〜7.0μmであるポリオレフィン系ワックスを固形分量で0.25〜5質量部含有することを特徴とする上記(1)に記載のクリヤ塗装ステンレス鋼板。
(3)上層がクリヤ塗膜と下層が化成処理塗膜で形成されるステンレス鋼板の製造方法であって、アミノシラン系、エポキシシラン系の1種類または2種類よりなる化成処理塗膜を付着量が2〜50mg/m2となるように塗布し、その後クリヤ塗膜として架橋性官能基を有するガラス転移点が30〜90℃、数平均分子量3000〜50000のアクリル樹脂を主成分として該アクリル樹脂を架橋硬化させるためのブロックイソシアネート樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物をクリヤ塗膜厚さが1〜10μmとなるように塗布することを特徴とするクリヤ塗装ステンレス鋼板の製造方法。
(4)熱硬化性樹脂組成物は、その固形物100質量部あたり、融点が70〜160℃であって粒径が0.1〜7.0μmであるポリオレフィン系ワックスを固形分量で0.25〜5質量部含有することを特徴とする上記(3)に記載のクリヤ塗装ステンレス鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によればクロメートフリーであり、無公害で、かつクリヤ性、耐候性、雨筋汚染性、耐疵付き性、耐洗剤性、耐薬品性に優れた環境対応型ステンレスクリヤ潤滑鋼板を得ることができる。従って家電製品、建材内装材だけでなく、建材外装用としても最適なステンレスクリヤ潤滑鋼板を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のクリヤ塗装ステンレス鋼板は、化成処理塗膜がアミノシラン系、エポキシシラン系の1種類または2種類よりなり、化成処理塗膜付着量が2〜50mg/m2であり、クリヤ塗膜が架橋性官能基を有するガラス転移点が30〜90℃、数平均分子量3000〜50000のアクリル樹脂を主成分として該アクリル樹脂を架橋硬化させるためのブロックイソシアネート樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物であり、クリヤ塗膜厚さが1〜10μmであることを特徴とする。
【0010】
また本発明のクリヤ塗装ステンレス鋼板の製造方法は、アミノシラン系、エポキシシラン系の1種類または2種類よりなる化成処理塗膜を付着量が2〜50mg/m2となるように塗布し、その後クリヤ塗膜として架橋性官能基を有するガラス転移点が30〜90℃、数平均分子量3000〜50000のアクリル樹脂を主成分として該アクリル樹脂を架橋硬化させるためのブロックイソシアネート樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物をクリヤ塗膜厚さが1〜10μmとなるように塗布することを特徴とする。
【0011】
本発明は上記構成とすることにより、クロメートフリーであり、無公害で、かつクリヤ性、耐候性、雨筋汚染性、耐疵付き性、耐洗剤性、耐薬品性に優れた環境対応型ステンレスクリヤ潤滑鋼板を得ることができる。なお、上記本発明において、耐疵付き性はクリヤ塗装鋼板表面の硬さを簡易的に指標とした。
【0012】
本発明における化成処理塗膜は、アミノシラン系、エポキシシラン系の1種類又は2種類よりなり、付着量が2〜50mg/m2になるように塗布し、ステンレス鋼板素材の表面温度(MT)が60〜140℃で焼付け乾燥される。化成処理塗膜の付着量が2mg/m2未満では光沢が劣化するとともに、耐食性も劣化する。付着量が50mg/m2を超えると化成処理の水可溶な成分が増加し、沸騰水試験後の塗膜表面にブリスタ−を生じる。好ましくは上限は30mg/m2で、さらに好ましくは2〜10mg/m2である。化成処理塗膜の付着量については、蛍光X線にてSiO2量を測定することによって定めることができる。
【0013】
アミノシラン系カップリング剤としては、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシランが挙げられ、エポキシ系シランカップリング剤としては、2−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等のシランカップリング剤が挙げられ、これらの1種または2種類より実質的になり、さらにポリエチレンワックスやシリカ系骨材を混入することができる。
【0014】
処理液の塗布は、スプレー、ロールコーター、カーテンフローコート、静電塗布等の方法を用いて行うことができる。
【0015】
乾燥は、水分を蒸発させれば良く、その温度は60〜140℃が適当である。この処理に際し、必要に応じてアルカリ脱脂や酸、アルカリによるエッチング等の公知の前処理を施しても構わない。
【0016】
上記化成処理塗膜とするためのノンクロメート系金属表面処理剤は市販されているものであれば、すべてが適用できる。市販されているノンクロメート系金属表面処理剤にはパルコートE305、3750、3751、3753、3756、3757、3970(日本パーカライジング株式会社製)、アルサーフ440(日本ペイント株式会社製)などがある。
【0017】
従来よりある金属表面処理としてのクロメート処理は、僅かであるが6価クロムを含有し、有害であるとともにクロム処理を化成処理とした場合、ステンレス表面が僅かに黄色みを帯びるので好ましくない。本発明のノンクロメートの化成処理塗膜を用いると無色透明であるとともに、本発明の請求項1,2の塗膜を1〜10μm塗布し、ステンレス素材の表面温度(MT)190〜240℃で焼き付けることにより、白色度が高いステンレスクリヤ潤滑鋼板を得ることができると同時に、建材製品として要求される耐候性、雨筋汚染性に優れたステンレスクリヤ潤滑鋼板を得ることができる。耐雨筋汚染性に優れる理由は明確ではないが、化成処理塗膜中の微量な水可溶成分が塗膜表面に配向する一方、塗膜の表面硬度は高いため、排気スス等の汚染物質が付着しても塗膜内部に浸み込むことがほとんど無く、塗膜表面に配向した水可溶成分とともに流されるため雨筋汚染性に優れると考えられる。
【0018】
本発明におけるクリヤ塗膜は、水酸基、カルボキシル基、アルコキシシラン基などから選ばれる1種又は2種以上の架橋性官能基を有するアクリル樹脂を主成分とする熱硬化性樹脂組成物である。アクリル樹脂は、塗料用樹脂として既知の製造方法により得ることができる。
【0019】
アクリル樹脂は、たとえばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル、メタアクリル酸イソプロピル、メタアクリル酸n−ブチル、メタアクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロへキシル、メタクリル酸ラウリル等の脂肪族又は環式アクリートを用いることができる。これらは、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル類。スチレン、a−メチルスチレン等のスチレン類。アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアクリルアミド系単量体等から選ばれる1種、2種以上の非官能性単量体を水酸基、カルボキシル基、アルコキシシラン基等の架橋性官能基を持った重合性単量体の1種または2種以上と反応させることにより得ることができる。
【0020】
1分子中に水酸基及び重合性不飽和二重結合をそれぞれ1つ以上含有する単量体としては、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドキシプロピル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル等のヒドロキシアルキルエステル、プラクセルFM1〜5、FA−1〜5(ダイセル化学工業製)ラクトン変性水酸基含有ビニル重合モノマーを挙げることができる。
【0021】
カルボキシル基を有する重合体単量体は、1分子中にカルボキシル基及び重合性不飽和二重結合をそれぞれ1つ以上含有する化合物であり、例えばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等を挙げることができる。
【0022】
アルコキシシラン基を有する重合体単量体は、1分子中にアルコキシシラン基及び重合性不飽和二重結合をそれぞれ1つ以上含有する化合物であり、例えばビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メタアクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0023】
前述のとおり、アクリル樹脂は、水酸基、カルボキシル基、アルコキシシラン基等の架橋性官能基を有する。ここで、アクリル性樹脂は架橋性官能基を1分子あたり、2個以上有することができる。また、樹脂のガラス転移点は30〜90℃が適しており、好ましくは50〜90℃の範囲内にあるのがより適している。樹脂のガラス転移点が30℃未満の場合は、連続プレス時の摩擦、加工発熱のため鋼板表面の温度が80〜100℃に上昇することにより、塗膜の軟化を生じ、金型に塗膜樹脂が付着する。また、90℃超の場合には、ピンホール、レベリング不足等の塗装時の作業性が悪い。アクリル樹脂の数平均分子量は3000〜50000のアクリル樹脂、特に4000〜10000の範囲にあるのが適している。3000未満では架橋剤との反応性が乏しすぎて塗膜にはならず、50000を超える場合、溶剤での溶解性が不足して樹脂液にならない。アクリル樹脂の数平均分子量は樹脂のガラス転移点に連動しており、分子量を上記範囲内とすることにより、ガラス転移点を上記好適範囲にすることが可能となる。
【0024】
アクリル樹脂系熱硬化性樹脂成分のもう一つの構成成分である架橋剤は、ブロックイソシアネート樹脂である。
【0025】
ブロックイソシアネート化合物は、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物であり、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネートなどの脂環族ジイソシアネート、該ポリイソシアネートのビューレットタイプの付加物、イソシアヌル環タイプ付加物等であり、これらのポリイソシアネートをフェノール類、オキシム類、活性メチレン類、ε−カプロラクタム類、トリアゾール類、ピラゾール類等のブロック剤で封鎖したものであり、ジブチルチンジラウリレート等の有機錫触媒がブロック剤の解離促進剤として使用される。市販品としてはデスモジュールBL1100、BL1265MPA/X、VPLS2253、BL3475BS/SN、BL3272MPA、BL3370MPA、BL4265SN、デスモーサム2170、スミジュール3175(以上、住化バイエルウレタン(株)製)デュラネート17B−60PX、TPA−B80X、MF−B60X、MF−K60X(以上、旭化成工業(株)製)バーノックDB−980K、D−550、B3−867、B7−887−60(以上、大日本インキ工業(株)製)、コロネート2515、2507、2513(以上、日本ポリウレタン工業(株)製)などが挙げられ単独もしくは併用して使用してよい。
【0026】
アクリル樹脂系熱硬化性樹脂組成物における樹脂と架橋剤の両成分の構成比率は目的に応じ広い範囲内にわたり変えることができ、アクリル樹脂中の(OH+COOH)基1モルに対して、イソシアネート基が0.1〜2.0モルとすることが良い。好ましくは0.1〜1.0、さらに好ましくは0.2〜0.8モルが良い。なお、基体樹脂の一分子中の末端及び側鎖は、水酸基、カルボキシル基、アルコキシシラン基等から選ぶことができる。アクリル樹脂系熱硬化性樹脂組成物における樹脂と架橋剤の両成分の構成比率は目的に応じ広い範囲内にわたり変えることができる。
【0027】
クリヤ塗膜には、更に添加剤としてレベリング剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、艶消し剤、シランカップリング剤等を混合させ、塗料化しても良いし、顔料又は染料を分散させ、カラークリヤとすることも可能である。また、必要に応じてエポキシ樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂等を含んで良い。
【0028】
本発明のクリヤ塗膜はまた、上記熱硬化性樹脂組成物の固形物100質量部あたり、固形分量でポリオレフィン系ワックスを0.25〜5.0質量部含有することを特徴とする。これにより、油性潤滑剤等を塗布したステンレス鋼板より優れた成形性を有する潤滑性に優れたクリヤ塗装ステンレス鋼板を得ることができる。
【0029】
ポリオレフィン系ワックスとしては、パラフィン、マイクロクロスタリン、ポリエチレン、ポリエチレン−フッ素等の炭化水素系ワックス等が挙げられる。加工時には、素材の加工発熱と摩擦熱により塗膜温度が上昇するためワックスの融点は70〜160℃が適切であり、70℃未満では加工時に軟化溶融して固形潤滑添加物としての優れた特性が発揮できず、160℃を超えるものは、硬い粒子が表面に存在することにより摩擦特性を低下させるので、高度の成形加工性は得られない。
【0030】
ポリオレフィン系ワックスの酸価としては、0〜30が望ましく、30を超えると樹脂との相溶性が良くなり、ワックスが均一に塗膜表面に浮き上がらないため、加工性が不十分となる。
【0031】
これらのワックス粒径は0.1〜7.0μmが適切である。7.0μmを超えるものは、固形化したワックスの分布が不均一となるため好ましくない。また、0.1μm未満の場合は、加工性が不十分である。ポリオレフィン系ワックスの量は熱硬化性樹脂組成物の固形物100質量部あたり0.25〜5.0質量部が適当である。0.25質量部未満では加工性は不十分であり、5.0質量部を超えると塗膜表面にムラが発生して、クリヤ鋼板の外観を損なう。
【0032】
本発明の化成処理塗膜には、さらに耐食性を上げるのにリン酸塩類、縮合リン酸、ポリリン酸、メタリン酸、ピロリン酸等のリン酸またはその塩類やアクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、アルキッド樹脂等の水溶性樹脂を併用してもよい。
【0033】
本発明はまた、熱硬化性樹脂組成物が、ブロックイソシアネート樹脂の硬化触媒を含有することとするとさらに好ましい。ブロックイソシアネート樹脂の硬化触媒としては、ジ−n−ブチルチンオキサイド、n−ジブチルチンクロライド、ジ−n−ブチルチンジラウリレート、ジ−n−ブチルチンジアセテート、ジ−n−オクチルチンオキサイド、ジ−n−オクチルチンジラウリレート、テトラ−n−ブチルチン等が挙げられる。
【実施例】
【0034】
以下に、本発明の実施例および比較例について説明する。実施例中、単に部とあるものは質量部を示し、%とあるものは質量%を示す。
【0035】
温度計、還流冷却器、攪拌器、滴下ロート、窒素ガス導入管を備えた4つ口フラスコに表1の通りトルエン、酢酸ブチルを規定量入れ、110℃まで昇温し窒素ガスを吹き込みながら攪拌し、メタアクリル酸メチル、スチレン、メタアクリル酸n−ブチル、メタアクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2ヒドロキシエチル、アクリル酸メチル、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)の混合物を3時間かけて滴下し、滴下終了後さらにAIBNを追加して同温度でさらに3時間反応させて不揮発分50%のアクリル系共重合体を得た。さらに硬化剤であるブロックイソシアネート「デスモジュールVPLS2253」(住化バイエルウレタン株式会社製)を表1のように配合し、クリヤ塗料を得た。
【0036】
上塗り塗料の製造は、表1に示す配合割合に応じてクリヤ塗料を得た。
【0037】
【表1】

【0038】
比較のクリヤ塗料として、高分子ポリエステル/メラミン樹脂塗料「コイルコート475クリヤ」(川上塗料)を用いた。
【0039】
金属板としては、ステンレス鋼板SUS430/No.4研磨仕上げ材を用いた。
【0040】
これらのステンレス鋼板上に本発明の化成処理塗膜処理液をロールコーターにて蛍光X線にてSiO2が2〜50mg/m2になるように塗装し、板温(MT)が100℃になるよう乾燥させた。続いて本発明のクリヤ塗料をバーコーターにて板温(MT)が193℃になるように焼付け、表2に示す発明例No.1〜25のクリヤ塗装ステンレス鋼板を得た。塗装ラインの走行速度は50m/分とした。
【0041】
比較のためにクリヤ塗装が本発明の範囲を外れる塗装ステンレス鋼板、化成処理塗膜が塗布型クロメート処理である塗装ステンレス鋼板、化成処理塗膜の無い塗装ステンレス鋼板を前記の発明例と同様の方法で処理して、表3に示す比較例No.26〜37のステンレス鋼板を得た。
【0042】
これらの供試材について塗膜のクリヤ性、硬さ、雨筋汚染性、耐洗剤性、耐薬品性、耐候性試験、成形性(エリクセン試験)、耐塩水噴霧性を調べた。結果を表2、表3に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

【0045】
塗膜の評価方法は以下の通りである。
(1) 塗膜のクリヤ性
色差計CR−300(ミノルタ社製)にて塗膜の着色状態を、板温193℃で焼き付けた素材とクリヤ塗装した材料の色差Δb値にて測定した。(Δb大→黄大)
【0046】
(2)硬さ
JIS K5600 5−4 引っかき硬度(鉛筆法)に従って評価した。(4以上を合格とした。)
5:6H以上(合格)
4:5H(合格)
3:4H(不合格)
2:3H(不合格)
1:2H以下(不合格)
【0047】
(3) 雨筋汚染性
供試材を天然暴露試験3ヶ月行い、塗膜の雨筋のつき具合を評価した。
5:跡が全く無い (合格)
4:跡が僅かに認められる (合格)
3:跡がやや目立つ (不合格)
2:跡が濃く残る (不合格)
1:剥離する (不合格)
【0048】
(4)耐洗剤性
供試材を40℃で72時間マジックリンにつけ塗膜の状態を観察、評価した。
5:跡が全く無い (合格)
4:跡が僅かに認められる (合格)
3:跡がやや目立つ (不合格)
2:跡が濃く残る (不合格)
1:剥離する (不合格)
【0049】
(5)耐薬品性
5%硫酸と5%NaOHを供試材に2mL滴下し、蓋をしたのち、16時間後の塗膜の状態を観察、評価した。
5:跡が全く無い (合格)
4:跡が僅かに認められる (合格)
3:跡がやや目立つ (不合格)
2:跡が濃く残る (不合格)
1:剥離する (不合格)
【0050】
(6)耐候性
SWOM試験1000hr後の光沢保持率(%)にて評価した。
5:光沢保持率80〜100% (合格)
4:光沢保持率60〜80% (合格)
3:光沢保持率40〜60% (不合格)
2:光沢保持率20〜40% (不合格)
1:光沢保持率0〜20% (不合格)
【0051】
(7)エリクセン値
JIS Z2247に従って評価した。(SUS430グラファイトグリースを使用した場合、9.3mmであったため、それ以上を合格とした。)
【0052】
(8)耐塩水噴霧試験
塗膜にクロスカットを施し、JIS Z2371の方法に従い塩水噴霧試験500hr行い、塗膜の剥離状態を目視により評価した。
5:剥離率5%未満 (合格)
4:剥離率5%以上10%未満 (合格)
3:剥離率10%以上15%未満 (不合格)
2:剥離率15%以上20%未満 (不合格)
1:剥離率20%以上 (不合格)
【0053】
本発明によれば、6価クロムの放出が無く、かつクリヤ性、硬さ、雨筋汚染性、耐洗剤性、耐薬品性、耐候性に優れる環境に対応したクリヤ塗装ステンレス鋼板を得ることができる。更に、熱硬化性樹脂の固体物100質量部あたり、ポリオレフィン系ワックスを固形分量で0.25〜5質量部含有することにより、油性潤滑剤等を塗布したステンレス鋼板より優れた成形性を有する潤滑性に優れたクリヤ塗装ステンレス鋼板を得ることができる。
【0054】
一方、比較例では、化成処理無しでは密着性不良、クロメート処理材では表面が黄色みを帯びると共に、6価クロムを含むため、環境に優しくない。更に、従来のポリエステル/メラミン樹脂塗料では、硬さ、雨筋汚染性、耐洗剤性、耐薬品性、耐候性に劣る可能性がある。また、平均分子量やガラス転移点が発明の範囲外のものは、硬さや製造性に劣る等の欠点を有している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上層がクリヤ塗膜と下層が化成処理塗膜で形成されるクリヤ塗装ステンレス鋼板において、化成処理塗膜がアミノシラン系、エポキシシラン系の1種類または2種類より実質的になり、化成処理塗膜付着量が2〜50mg/m2であり、クリヤ塗膜が架橋性官能基を有するガラス転移点が30〜90℃、数平均分子量3000〜50000のアクリル樹脂を主成分として該アクリル樹脂を架橋硬化させるためのブロックイソシアネート樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物であり、クリヤ塗膜厚さが1〜10μmであることを特徴とするクリヤ塗装ステンレス鋼板。
【請求項2】
前記クリヤ塗膜は、熱硬化性樹脂組成物の固形物100質量部あたり、融点が70〜160℃であって粒径が0.1〜7.0μmであるポリオレフィン系ワックスを固形分量で0.25〜5質量部含有することを特徴とする請求項1に記載のクリヤ塗装ステンレス鋼板。
【請求項3】
上層がクリヤ塗膜と下層が化成処理塗膜で形成されるステンレス鋼板の製造方法であって、アミノシラン系、エポキシシラン系の1種類または2種類よりなる化成処理塗膜を付着量が2〜50mg/m2となるように塗布し、その後クリヤ塗膜として架橋性官能基を有するガラス転移点が30〜90℃、数平均分子量3000〜50000のアクリル樹脂を主成分として該アクリル樹脂を架橋硬化させるためのブロックイソシアネート樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物をクリヤ塗膜厚さが1〜10μmとなるように塗布することを特徴とするクリヤ塗装ステンレス鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記熱硬化性樹脂組成物は、その固形物100質量部あたり、融点が70〜160℃であって粒径が0.1〜7.0μmであるポリオレフィン系ワックスを固形分量で0.25〜5質量部含有することを特徴とする請求項3に記載のクリヤ塗装ステンレス鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2011−136565(P2011−136565A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13931(P2011−13931)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【分割の表示】特願2005−98116(P2005−98116)の分割
【原出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(503378420)新日鐵住金ステンレス株式会社 (247)
【Fターム(参考)】