説明

クレーンの制御方法

【課題】スプレッダを巻下ろしてコンテナに接近させる際に、スプレッダとコンテナの衝突を防止し、且つ、短時間でスプレッダとコンテナの接触を実現したクレーンの制御方法を提供する。
【解決手段】主巻ワイヤロープに吊られたスプレッダと、スプレッダと海上用輸送コンテナの間の距離を計測する距離計測センサを有するクレーン1の制御方法において、センサでスプレッダとコンテナ間の距離Lxを計測する距離計測ステップと、距離Lx及びスプレッダのブレーキ時の加速度から上限速度Vxを算出する算出ステップと、スプレッダ7の移動速度を上限速度Vxに制御する減速ステップを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海上用輸送コンテナを荷役する岸壁クレーン及び門型クレーン等による荷役の際に、コンテナとスプレッダの衝突を防止するクレーンの制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
港湾や内陸地等のコンテナターミナルでは、岸壁クレーンや門型クレーンによって船舶及びトレーラ間のコンテナの積み下ろしが行われている。
【0003】
図3に岸壁クレーンの荷役時の概略を示す。岸壁クレーン1は岸壁2に走行可能に設置され、コンテナ船3からコンテナ4を荷下ろしする。この荷役作業は、ガーダ5上を移動する横行トロリ6が、コンテナ4上方に移動し、スプレッダ7を下ろしてコンテナ4を把持し、コンテナ4を吊り上げて、陸側のトレーラ8に運搬して行われる。また、スプレッダ7は機械室9のドラムから繰り出される主巻ワイヤロープ10で吊られているが、この主巻ワイヤロープ10は、複数のカテナリトロリ11により支えられている。
【0004】
なお、運転室12は地上から40〜60mの位置にある。また、横行トロリ6の移動速度は200〜300m/min、主巻ワイヤロープ10の巻上速度は空荷で120〜180m/min、フルロードで60〜90m/minであり、巻下ろし速度は空荷で120〜180m/minとなっている。
【0005】
次に、荷役作業におけるオペレータのクレーン操作について説明する。図4に、横行トロリ6とスプレッダ7の概略図を示す。オペレータは、まず、横行トロリ6をコンテナ船3内のコンテナ4の上方に移動させる。オペレータは、運転室12から肉眼又はカメラ等で、コンテナ4の位置を確認しながら、スプレッダ7を降下させる(図4左参照)。スプレッダ7とコンテナ4をツイストロックで連結した後、コンテナ4を巻上げる(図4右参照)。以上を繰り返し、オペレータは、コンテナ4の荷役作業を行う。
【0006】
ここで、運転室12からコンテナ4までの距離は、50〜70m程度となる場合があり、オペレータによるコンテナ4の位置確認は困難となる。そのため、スプレッダ7が高速でコンテナ4に衝突し、着床する事故が多発する。この衝突を緩和するために、スプレッダ7下面のツイストロックに、油圧ダンパを設置した構成が開示されている(例えば特許文献1参照)。この油圧ダンパにより、スプレッダ7とコンテナ4の衝突による破損等を抑制することができる。
【0007】
また、コンテナ4とスプレッダ7の衝突を防止するために、スプレッダ7にセンサを設置する構成が開示されている(例えば特許文献2参照)。このセンサにより、オペレータは、コンテナ4の種類(20ftコンテナ又は40ftコンテナ等)を識別することができる。このコンテナの識別により、スプレッダがコンテナと接触することを防止している。
【0008】
しかしながら、上記のクレーンは、いくつかの問題点を有している。第1に、油圧ダンパ等の設置により、スプレッダとコンテナの衝突を緩和したとしても、ワイヤロープ10が余分に繰り出されてしまう(図4左参照)という問題を有している。このたるみは、コンテナを巻上げワイヤロープ10にコンテナ4の荷重がかかる瞬間、ワイヤロープ10が跳ね上がり、ガーダ等に衝突して破壊する危険性を含んでいる。
【0009】
第2に、センサにより20ft及び40ftコンテナ等を識別する構成では、荷役効率の更なる向上が困難であるという問題を有している。つまり、コンテナの種類の違いにより発生する衝突事故は防止できるが、この識別作業のために、スプレッダがコンテナ上方で待機する時間が必要となり、荷役効率の向上が困難となる。
【0010】
以上より、スプレッダ7を高速でコンテナ4上に着床させるような荷役を行うと、衝突が発生し、この衝突によりコンテナ4及びスプレッダ7が致命的な損傷を受け、コンテナターミナル全体の作業を停止してしまう問題を有している。また、この衝突の問題を回避するためにスプレッダ7の巻下げ速度を遅くすると、荷役のスピードが落ち、荷役効率を低下させることになる。つまり、衝突回避と荷役効率(荷役速度)の上昇は、一方が良好となると他方が悪化するというトレードオフの関係にあり、両方を同時に良好とすることは非常に難しいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平09−315753号公報
【特許文献2】特開2007−257087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、スプレッダを巻下ろしてコンテナに接近させる際に、スプレッダとコンテナの衝突を防止し、且つ、短時間でスプレッダとコンテナの接触を実現したクレーンの制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するための本発明に係るクレーンの制御方法は、主巻ワイヤロープに吊られたスプレッダと、前記スプレッダと海上用輸送コンテナの間の距離を計測する距離計測センサを有するクレーンの制御方法において、前記センサで前記スプレッダと前記コンテナ間の距離Lxを計測する距離計測ステップと、前記距離Lx及び前記スプレッダのブレーキ時の加速度aから上限速度Vxを算出する算出ステップと、前記スプレッダの移動速度を上限速度Vxに制御する減速ステップを有することを特徴とする。
【0014】
この構成により、スプレッダがコンテナに衝突する事故を防止することができる。また、スプレッダが、必要以上に低速でコンテナに接近し、荷役効率を低下する事態を防止することができる。なお、スプレッダのブレーキ時の加速度aは、クレーン固有の値であり、設計時のブレーキ性能により決定されるものである。
【0015】
上記のクレーンの制御方法において、前記上限速度Vxの算出がVx=√(2×a×Lx)の式によるものであることを特徴とする。この構成により、スプレッダは、最も早い速度でコンテナに接近し、且つ、衝突直前に停止することができる。
【0016】
上記のクレーンの制御方法において、前記計測ステップ、算出ステップ及び減速ステップを、前記スプレッダの移動中、繰り返し行うことを特徴とする。この構成により、荒天等の影響で距離Lxの取得の精度が不十分であっても、スプレッダの減速制御を正確に行うことができる。つまり、制御を繰り返す構成により、制御の精度を向上することができる。また、スプレッダが、例えば海側に移動しながら降下する場合であっても、対象となる新たなコンテナとの距離を測定し、減速制御を行うことが可能となる。
【0017】
上記のクレーンの制御方法において、前記クレーンが、前記主巻ワイヤロープの繰り出された長さを計測するエンコーダを有しており、初期値として、距離L0と主巻ワイヤロ
ープ長さL0の和を求める初期化ステップと、新たに距離L1と主巻ワイヤロープ長さL1を計測する距離計測ステップと、L1+L1からL0+L0を減じ、たるみ長さΔdを算出するたるみ算出ステップと、前記距離L1からたるみ長さΔdを減じ、真の距離Lx1を算出する補正ステップを有することを特徴とする。
【0018】
この構成により、スプレッダの横揺れ等により多く見積もられた距離L1を補正し、正確な距離Lx1を取得することができる。そのため、スプレッダをコンテナと衝突する寸前で正確に停止させることも可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るクレーンの制御方法によれば、スプレッダを巻下ろしてコンテナに接近させる際に、スプレッダとコンテナの衝突を防止し、且つ、短時間でスプレッダとコンテナの接触を実現したクレーンの制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る実施の形態のクレーンの制御を示した図である。
【図2】本発明に係る異なる実施の形態のクレーンの制御を示した図である。
【図3】従来の岸壁クレーンの構成を示した図である。
【図4】従来の横行トロリとスプレッダの構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る実施の形態のクレーンの制御方法について、図面を参照しながら説明する。図1に、本発明に係る実施の形態のクレーンの制御のグラフを示す。図1のグラフは、縦軸を主巻ワイヤロープ10の巻下げ速度の全速に対する割合とし、横軸をスプレッダ7の巻下げの経過時間を示しており、破線が従来の巻下げ制御の様子を示している。従来のスプレッダ7の巻下げ制御は、オペレータが肉眼、センサ、及びカメラ等を頼りに、速度を調整しながらスプレッダ7の巻下げを行う。そして、スプレッダ7が、着床間近の位置まで下がると、急停止が可能な速度まで十分減速し、コンテナ4にリミットスイッチ13(図4参照)が接触して巻下げを終了としていた。
【0022】
これに対して本発明に係る実施の形態のクレーンは、まず、距離センサ15でコンテナ4とスプレッダ7の距離Lxを計測する(距離計測ステップ)。この距離Lxは、図1のグラフでは斜線を付した領域で示すことができる。また、スプレッダのブレーキ性能(加速度a)は、クレーンの性能として予め決まっており、この距離Lxと加速度aを以下の数1に基づいて計算し、その地点におけるスプレッダの上限速度Vxを算出する(算出ステップ)。
(数1)Vx=√(2×a×Lx)
【0023】
次に、スプレッダの降下速度を、上限速度Vx以下とするように制御する。望ましくは、スプレッダの速度を上限速度Vxと同一となるように制御する(減速ステップ)。ここで、距離Lxが十分に大きいときは、上限速度Vxが、スプレッダの全速を超える場合がある。この場合は、スプレッダは全速で降下するように制御される。そのため、図1に示すようにスプレッダは、2秒間全速で巻下げられた後、コンテナと衝突直前に停止するように一気に減速している。その後、スプレッダは全速の10%以下の速度で、コンテナと接触して停止している。なお、距離計測ステップ、算出ステップ及び減速ステップは、繰り返し制御を行うことが望ましい。また、この制御の工程において、オペレータはスプレッダの降下操作のみを行えばよい。更に、距離センサ15は、超音波センサや、反射型レーザ等を使用することができる。特に雨等の環境の変化に影響を受けにくい超音波センサを使用することが望ましい。
【0024】
上記の構成により以下の作用効果を得ることができる。第1に、スプレッダがコンテナ
に衝突する事故を防止することができる。また、スプレッダが、必要以上に低速でコンテナに接近し、荷役効率を低下する事態を防止することができる。特に、スプレッダは、コンテナとの衝突直前に停止できる最大速度で降下することができるため、荷役効率を向上することができる。
【0025】
第2に、上記の制御を繰り返し行う構成により、荒天等の影響で距離Lxの取得の精度が不十分であっても、スプレッダの減速制御を正確に行うことができる。つまり、制御を繰り返す構成により、制御の精度を向上することができる。
【0026】
次に、上記の制御に、エンコーダによる制御を加えた実施例について説明する。エンコーダは、スプレッダの上昇及び下降を制御する主巻ワイヤロープに設置しており、この主巻ワイヤロープから繰り出されたワイヤロープ長さLyを計測する機能を有している。まず、距離センサでスプレッダから荷役対象コンテナまでの距離を計測し、初期値として距離Lx0を取得する。同時に、エンコーダで、初期値として主巻ワイヤロープ長さLy0を取得する(初期化ステップ)。
【0027】
次に、スプレッダの降下を開始した際に、新たに距離Lx1と主巻ワイヤロープ長さLy1を取得する(距離計測ステップ)。このスプレッダが移動している際、距離Lx0と主巻ワイヤロープ長さLy0の合計に対して、距離Lx1と主巻ワイヤロープ長さLy1の合計が長くなる場合がある。これは、高速でワイヤロープを繰り出す際に、ワイヤロープにたるみが発生しているためである。このたるみ長さΔdを算出し(算出ステップ)、距離Lx1からΔdを引き、真の距離Lx’を算出する(補正ステップ)。この補正ステップにより、スプレッダを停止する制御を行った際、スプレッダがたるみ長さΔdだけ余分に降下して、スプレッダとコンテナが接触することを防止することができる。
【0028】
図2に、本発明に係る異なる実施の形態のクレーンの制御のグラフを示す。破線は従来の制御を示している。この破線は、スプレッダの減速を開始する時間が遅れたために、スプレッダが十分に減速する前に、スプレッダがコンテナと接触し、停止した状態を示している。このとき、コンテナ及びスプレッダには、損傷が発生してしまう。また、主巻ワイヤロープの繰り出しを急に停止することができないため、余分なワイヤロープが繰り出され、たるみが発生した状態となっている。
【0029】
これに対して、本発明のクレーンは、前述の制御により、スプレッダがコンテナ上方の予め定めた高さで、十分に減速している。スプレッダは、この高さから一定速度でコンテナに接近し、コンテナと接触して停止している。この制御により、たとえ、距離センサ及びエンコーダに測定誤差が発生した場合であっても、スプレッダとコンテナの衝突事故及び主巻ワイヤロープにおけるたるみの発生を防止することができる。
【0030】
本発明の制御方法により、岸壁クレーン及び門型クレーンをはじめとするクレーンにおいて、スプレッダとコンテナの衝突を防止し、且つ、短時間でスプレッダとコンテナの接触を実現し、荷役効率を向上することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 クレーン
7 スプレッダ
10 主巻ワイヤロープ
Lx、Lx0、Lx1 距離(スプレッダとコンテナの間の距離)
Ly、Ly0、Ly1 主巻ワイヤロープ長さ
a 加速度(ブレーキによる減速時の加速度)
Vx 上限速度
Δd たるみ長さ
Lx’ 真の距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主巻ワイヤロープに吊られたスプレッダと、前記スプレッダと海上用輸送コンテナの間の距離を計測する距離計測センサを有するクレーンの制御方法において、
前記センサで前記スプレッダと前記コンテナ間の距離Lxを計測する距離計測ステップと、
前記距離Lx及び前記スプレッダのブレーキ時の加速度aから上限速度Vxを算出する算出ステップと、
前記スプレッダの移動速度を上限速度Vxに制御する減速ステップを有することを特徴とするクレーンの制御方法。
【請求項2】
前記上限速度Vxの算出がVx=√(2×a×Lx)の式によるものであることを特徴とする請求項1に記載のクレーンの制御方法。
【請求項3】
前記計測ステップ、算出ステップ及び減速ステップを、前記スプレッダの移動中、繰り返し行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のクレーンの制御方法。
【請求項4】
前記クレーンが、前記主巻ワイヤロープの繰り出された長さを計測するエンコーダを有しており、
初期値として、距離L0と主巻ワイヤロープ長さL0の和を求める初期化ステップと、
新たに距離L1と主巻ワイヤロープ長さL1を計測する距離計測ステップと、
L1+L1からL0+L0を減じ、たるみ長さΔdを算出するたるみ算出ステップと、
前記距離L1からたるみ長さΔdを減じ、真の距離Lx1を算出する補正ステップを有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のクレーンの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−206823(P2012−206823A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73367(P2011−73367)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】