説明

クロック生成回路、およびそれを搭載した電子機器

【課題】 音声帯域内の周波数に対応する周期で送信されてくる情報を利用して、送信側で利用されているクロックを再生するとき、音質を低下させる場合がある。
【解決手段】 第1分周器110は、所定の伝送規格にしたがい受信したビデオクロックを同様に受信した比率情報を用いて分周し、基準クロックを生成する。位相比較器120は、基準クロックと本クロック生成回路100の出力を起点とする帰還クロックとを比較し、それらの誤差を打ち消すための制御信号を出力する。電圧制御発振器140は、制御信号に応じた発振周波数でクロックを出力する。第2分周器150は、電圧制御発振器140の出力クロックを比率情報を用いて分周し、分周したクロックを位相比較器120に入力する。位相比較器120の基準クロックは、音声帯域外の周波数に設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PLL(Phase Locked Loop)機構を備えるクロック生成回路、それを用いた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
衛星放送、地上波デジタルテレビ放送、DVDなどの大容量記録媒体が普及してきている。また、それらのデジタルデータを再生する高解像度薄型大画面液晶テレビ、プラズマテレビおよびプロジェクタなども普及してきている。これにより、本格的なデジタルホームシアターを手軽に実現できるようになってきている。このようなデジタルホームシアター向けの高速デジタルインタフェースとして、DVI(Digital Visual Interface)やHDMI(High-Definition Multimedia Interface)が規格化されている。
【0003】
HDMIは、DVIを基礎に、下位互換を保ちながら家電向けに音声やコンテンツ保護機能を追加した規格である。一本のケーブルで映像・音声・制御信号を合わせて送受信することができるため、DVIと比較してコネクタやケーブルを簡素にすることができる。
【0004】
HDMI伝送やDVI伝送では、量子化されたデジタル情報としてオーディオ情報を送信する際にオーディオ用のクロックを送信せず、送信されるビデオクロックとの比率情報を受信側に伝送することができる(例えば、特許文献1参照)。受信側は、この比率情報に基づいて送信側と等しいと想定されるオーディオクロックを再生する。HDMI伝送では、この比率情報は1ms程度の周期で伝送され、その周期自体がクロック再生に利用するPLLの基準クロックと近似するため、以下のような事態が発生し得る。
【特許文献1】特開2005−065093号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
HDMI規格で定められたクロック再生で利用するPLLの基準クロックが音声帯域の中央付近に位置しているため、そのままではPLLの特性を低下させる可能性がある。すなわち、追跡応答特性およびフラッターなどに起因する歪みが音声帯域に現れ、音質を低下させる可能性がある。このPLLの特性低下を抑制するためにPLL内に急峻なフィルタを設けると、電気的特性の低下およびコスト上昇につながる。また、上記比率情報の周期を短くすると、音声伝送のための帯域幅を狭めてしまう。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、音声帯域内の周波数に対応する周期で送信されてくる情報を利用して、送信側で利用されているクロックを再生するとき、音質への影響を抑制しながらクロックを生成することができるクロック生成回路、それを用いた電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のクロック生成回路は、第1クロックおよびそのクロックとの比率情報を所定の伝送規格にしたがい受信して、送信側で利用されている第2クロックを受信側で再生するクロック生成回路であって、第1クロックを比率情報を利用して分周し、基準クロックを生成する第1分周器と、基準クロックと、本クロック生成回路の出力を起点とする帰還クロックとを比較し、それらの誤差を打ち消すための制御信号を出力する位相比較器と、制御信号に応じた発振周波数でクロックを出力する電圧制御発振器と、電圧制御発振器の出力クロックを比率情報を利用して分周し、分周したクロックを帰還クロックとして位相比較器に入力する第2分周器と、を備え、基準クロックの周波数は、音声帯域外に設定される。第1クロックはビデオクロックでもよく、第2クロックはオーディオクロックでもよい。所定の伝送規格は、HDMI規格であってもよい。
【0008】
この態様によると、位相比較器にて帰還クロックと比較対象となる基準クロックの周波数を音声帯域外に設定したことにより、第2クロックの再生による音質への影響を抑制することができる。
【0009】
位相比較器の出力する制御信号に含まれるノイズ成分を低減し、電圧制御発振器に出力するループフィルタをさらに備えてもよい。電圧制御発振器に入力される制御信号のノイズ成分を低減することができ、精度の高いクロックを生成することができる。音声帯域外までノイズシェイピングされた信号を扱うことにより、簡素なフィルタでノイズ成分を低減することができる。
【0010】
所定の伝送規格は、音声帯域内の周波数に対応する周期で比率情報を受信側に伝送する規格であり、第1分周器および第2分周器は、基準クロックの周波数が音声帯域外に設定されるよう、比率情報を所定値で除算した値を分周比として用いて、入力されるクロックを分周してもよい。所定値は、2(nは自然数)であり、基準クロックの周波数が音声帯域外を満たす最小の2で比率情報が除算されてもよい。比率情報は、所定ビット数のデジタルデータで記述され、デジタルデータの最下位ビットからn(nは自然数)ビット分のデータが取り除かれることにより、2(nは自然数)で除算されてもよい。比率情報を除算した値を容易に取得することができる。
【0011】
第1分周器および第2分周器は、最下位ビットからnビット分のデータが取り除かれたビットデータが設定され、そのビットデータを、入力されるクロックに対応してカウントダウンするカウンタと、最下位ビットからnビット分のデータを積算していく積算回路と、参照値として1を保持する参照レジスタと、カウンタの値と参照レジスタの値とを比較し、一致したときアクティブ信号を出力する比較回路と、を有し、積算回路は、取り除かれるnビット分のビット数に対応した積算レジスタを含み、最下位ビットからnビット分のデータの積算値が積算レジスタをオーバーフローしたとき、参照レジスタの参照値を一時的に0に設定してもよい。アクティブ信号は、位相比較器に入力されるとともに、nビット分のデータが取り除かれたビットデータをカウンタにロードするタイミング、および最下位ビットからnビット分のデータを積算回路に積算するタイミングを規定してもよい。
【0012】
この態様によれば、比率情報を除算するさいに取り除かれる余りに相当する下位ビットデータを、分周比に反映させることができる。
【0013】
比率情報は、伝送規格により推奨される固定値、および送信側で利用されている第2クロックを固定値で分周した周期で、第1クロックをカウントした測定値を含み、第1分周器は、測定値を用いて分周し、第2分周器は、固定値を用いて分周してもよい。
【0014】
本発明のさらに別の態様は、電子機器である。この電子機器は、クロック生成回路と、クロック生成回路により生成したクロックを利用して、オーディオデータを再生する再生回路と、を備える。
【0015】
この態様によると、オーディオクロックの再生による音質への影響が抑制された電子機器を実現することができる。
【0016】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を装置、方法、システムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、音声帯域内の周波数に対応する周期で送信されてくる情報を利用して、送信側で利用されているクロックを再生するとき、音質への影響を抑制しながらクロックを生成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、本発明の実施形態におけるクロック生成回路100の構成を示す図である。本実施形態におけるクロック生成回路100は、HDMI受信デバイスなどに搭載される。上述したようにHDMI伝送では、オーディオクロックを送信せず、ビデオクロックとそのクロックとの比率情報を受信側に伝送する。この伝送方法は、伝送中の不正コピーを防止することにも資する。本実施形態におけるクロック生成回路100は、HDMI伝送のビデオクロックとオーディオクロックのように、第1クロックおよびそのクロックとの比率情報をもとに、第1クロックと周波数の異なる第2クロックを生成する。
【0019】
以下、HDMI伝送を例に説明する。HDMI伝送の送信側は、TMDS(Transition Minimized Differential Signaling)というシリアル転送方式を利用して、ビデオクロックおよびACR(Audio Clock Regeneration)パケットを受信側に送信する。ACRパケットには、分周比率情報として測定値CTS(Compliance Test Requirement)、HDMI規格により推奨される固定値Nが含まれる。測定値CTSは、送信側のオーディオクロックを固定値Nで分周した周期でビデオクロックを計数した値であり、ビデオクロックの周波数を観測した値である。固定値Nは、送信側のMPU(Micro Processing Unit)コアにより設定されてもよい。計数値CTSおよび固定値Nは、それぞれ20ビットのデジタルデータで伝送される。
【0020】
S/PDIF(Sony Philips Digital Interface)規格でオーディオ信号を伝送する場合、オーディオ信号をサンプリングするための基準周波数は128Fsを用いる。HDMI伝送の送信側で、128FsをN分周するときの固定値Nは、ビデオクロックの測定周期が約1ms程度になるような値が選択される。HDMI伝送の送信側は、128Fsを測定基準周波数として約1ms周期で、ビデオクロックの周波数測定を行う。当該測定値CTSは、HDMI伝送の受信側に測定周期毎に通知される。この場合、HDMI伝送の受信側は、伝送されてきたビデオクロックと上記測定値をもとに128Fsを再生する。
【0021】
以上を前提に本実施形態におけるクロック生成回路100の詳細について説明する。本クロック生成回路100は、第1分周器110、位相比較器120、ループフィルタ130、電圧制御発振器140および第2分周器150を備える。少なくとも第1分周器110、位相比較器120および第2分周器150は、ひとつの半導体基板上に一体集積化されてもよい。第1分周器110は、伝送されたきたビデオクロックおよび測定値CTSを利用して、位相比較器120に供給すべき基準クロックを生成する。具体的には、当該ビデオクロックを、当該測定値CTSを2(nは自然数)で除算した値で分周する。この測定値CTSを2で除算する処理の詳細は後述する。
【0022】
位相比較器120は、第1分周器110から入力される基準クロックの周波数と、後述する第2分周器150から入力される帰還クロックの周波数とを比較し、それらの差分を打ち消すための制御電圧を出力する。ループフィルタ130は、位相比較器120の出力した制御電圧に含まれる高周波成分や雑音を取り除く。また、ループフィルタ130は、その時定数などによりPLLの応答性を決定する。ループフィルタ130には、ローパスフィルタを使用することができる。ローパスフィルタは、抵抗と容量で構成されるパッシブフィルタでもよいし、さらにオペアンプを使用したアクティブフィルタを用いてもよい。
【0023】
電圧制御発振器(VCO;Voltage Controlled Oscillator)140は、上記制御電圧に応じて、発振周波数が変化する発振器である。電圧制御発振器140は、上記制御電圧に応じて、上記基準クロックの周波数と上記固定値Nとの積算値に近づくように、発振周波数が制御される。PLL機構により当該制御が繰り返されて、上記積算値の周波数に最終的にロックする。電圧制御発振器140の出力クロックは、本クロック生成回路100の出力信号として外部に出力されるとともに、第2分周器150に帰還される。
【0024】
第2分周器150は、電圧制御発振器140の出力クロックおよび伝送されてきた固定値Nを利用して、位相比較器120に出力する帰還クロックを生成する。具体的には、電圧制御発振器140の出力クロックを、当該固定値Nを2(nは自然数)で除算した値で分周する。この固定値Nを2で除算する処理の詳細は後述する。
【0025】
このようなPLL機構を備えるクロック生成回路100の出力クロックの周波数をfo、ビデオクロックの周波数をfv、第1分周器110の分周比をN1、および第2分周器150の分周比をN2とすると、以下の式1が成り立つ。
fo=fv÷N1×N2 ・・・(式1)
したがって、第1分周器110の分周比および第2分周器150の分周比を同じ値で除算しても、出力クロックの周波数は変化しない。
【0026】
このようなPLL機構を備えるクロック生成回路100にて、位相比較器120に入力されるべき基準クロックの周波数(fv÷N1)は、音声帯域外に設定されることが好ましい。上述したように、HDMI伝送では上記測定値CTSが約1msごとに送信されてくる。よって、ビデオクロックを当該測定値CTSでそのまま分周すると、当該基準クロックの周波数が音声帯域の中央付近に設定されてしまう。
【0027】
そこで、本実施形態では当該基準クロックの周波数をHDMI規格の基準周波数の32倍、すなわち音声帯域外を満たす2のべき乗の最小値に設定する。なお、音声帯域外という条件を満たせば、2のべき乗の最小値に限らず64倍などでもよい。また、同条件を満たせば、2のべき乗以外の値で乗算して、上記基準クロックの周波数を高くしてもよい。以下、第1分周器110および第2分周器150を比較的簡素に設計することができる上記基準クロックの周波数を32倍にする例を説明する。
【0028】
上記基準クロックの周波数を32倍にするため、第1分周器110は上記測定値CTSを32で割った値で上記ビデオクロックを分周する。すなわち、分周比を測定値CTS/32に設定する。上記測定値CTSは送信側から20ビットのデジタルデータで送信されてくるため、第1分周器110は下位5ビット分のデータを取り除き、上位15ビット分のデータを分周比に設定する。すなわち、当該20ビットのデジタルデータを下位方向に5ビット分シフトした状況を作り出す。
【0029】
図2は、本実施形態における第1分周器110の詳細な構成を示す図である。第1分周器110は、バッファ12、プログラマブルカウンタ14、積算回路16、積算レジスタ17、比較回路18および参照レジスタ20を備える。HDMI規格で伝送されてきた20ビットの上記測定値CTSは、上位15ビット分のデータがバッファ12を介してプログラマブルカウンタ14に入力され、下位5ビット分のデータが積算回路16に入力される。
【0030】
プログラマブルカウンタ14は、設定された上記測定値CTSの上位15ビットのデータをビデオクロックにしたがいカウントダウンしていく。参照レジスタ20は、プログラマブルカウンタ14の値と比較すべき参照値を保持するレジスタである。0または1のいずれかを保持するレジスタであってもよいし、複数ビットを保持するレジスタであってもよい。この場合、最下位ビットの値を参照値として使用することができる。参照レジスタ20は、初期値として1に設定される。比較回路18は、プログラマブルカウンタ14の値と参照レジスタ20の値とを比較し、一致したときアクティブ信号を位相比較器120に出力する。例えば、両方の値が不一致のときローレベルの信号を出力し、一致したときハイレベルの信号を出力する。通常、プログラマブルカウンタ14に設定された値が1までカウントダウンされると、アクティブ信号を出力することになり、上記ビデオクロックを当該設定値で分周したことになる。
【0031】
積算回路16は、積算レジスタ17を含み、上記測定値CTSの下位5ビット分のデータを積算レジスタ17に積算していく。積算レジスタ17は、上記測定値CTSから取り除かれる下位ビット数に対応しており、本実施形態では5ビットのレジスタである。積算レジスタ17は、積算値がオーバーフローすると参照レジスタ20に一時的に0を設定するためのキャリー信号を出力する。ここでは、積算値が32以上になるとキャリー信号を出力する。
【0032】
参照レジスタ20の値またはその最下位ビットの値が0になると、比較回路18はプログラマブルカウンタ14の値が0までカウントダウンされたとき、アクティブ信号を出力することになる。すなわち、プログラマブルカウンタ14が0をカウントする分、設定値に1を足した値で分周することになる。本実施形態では、(測定値CTS/32)+1の値で分周することになる。
【0033】
比較回路18の出力するアクティブ信号は、バッファ12からプログラマブルカウンタ14へのロードタイミングおよび積算回路16の積算タイミングを規定する。バッファ12は、保持している上記測定値CTSの上位15ビット分のデータを上記アクティブ信号の入力タイミングに応じて、プログラマブルカウンタ14に設定する。積算回路16は、上記アクティブ信号の入力タイミングに応じて、上記測定値CTSの下位5ビット分のデータを積算する。参照レジスタ20は、比較回路18が上記アクティブ信号を出力した後、0を保持する場合、1に再設定される。最下位ビットを参照値にしている場合、最下位ビットが1に再設定される。
【0034】
図2の構成では、上記CTS値の下位5ビット分のデータを、パルススワロー方式のPLL機構で使用されるパルススワローカウンタの役割に類似した働きをさせている。すなわち、測定値CTS/32と(測定値CTS/32)+1との切り替え制御をするときの基準情報として、上記下位5ビットを使用する。
【0035】
基準クロックの周波数を32倍にするため切り捨てられた上記下位5ビットを、小数点が5ビット目に位置する場合の小数部と想定すれば、分周比は(測定値CTS/32)+0と(測定値CTS/32)+1との間にあることになる。32回繰り返す分周のうち、この小数部の値に対応して(測定値CTS/32)+1で分周すれば、所期の分周比に一致することが分かる。
【0036】
図2では、第1分周器110の構成を示したが、第2分周器150も同様の構成である。上記測定値CTSの代わりに上記固定値Nが使用され、その固定値Nの上位15ビット分のデータがプログラマブルカウンタ14に設定され、下位5ビット分のデータが積算回路16に設定される。プログラマブルカウンタ14は、設定された上記固定値Nの上位15ビット分のデータを、位相比較器120の出力クロックにしたがいカウントダウンしていく。その他は第1分周器110の説明と同様である。
【0037】
図3は、第1分周器110の動作例を示す図である。上記測定値CTSとして6152が送信されてきた例で説明する。上記測定値CTSは、20ビットのデジタルデータ"00000001100000001000"で送信されてくる。このデジタルデータは、上位15ビット"000000011000000"と下位5ビット"01000"とに分離され、上位15ビット"000000011000000"はプログラマブルカウンタ14に設定される。下位5ビット"01000"は、積算回路16に入力される。6152を32で割ると、192余り8となる。この192に相当する上位15ビット"000000011000000"を分周比として使用すると、再生したオーディオクロックに余りが反映されないことになる。本実施形態では、この余りを分周比に反映させる機構を備える。
【0038】
図3にて、ACRパケットにて伝送されてくる測定値CTSは、プログラマブルカウンタ14にその上位15ビット"000000011000000"が設定され、積算レジスタ17に下位5ビット"01000"が累積される。参照レジスタ20は1を保持している。プログラマブルカウンタ14がカウントダウンしていき、1に到達すると、次の測定値CTSのロードサイクルに入る。次のACRパケットにて伝送されてくるCTS値も、プログラマブルカウンタ14にその上位15ビット"000000011000000"が設定されて、積算レジスタ17に下位5ビット"01000"が累積される。積算レジスタ17は、積算の結果、"10000"を保持することになる。参照レジスタ20は1を保持している。
【0039】
同様に、次のロードサイクルで積算レジスタ17は"11000"となり、さらに次のロードサイクルで"00000"となりオーバーフローする。これに応じて、参照レジスタ20は0に遷移する。このロードサイクルでは、プログラマブルカウンタ14は0までカウントダウンすることになり、分周比が193となる。次のロードサイクルで、積算レジスタ17は"01000"となり、参照レジスタ20は1に復帰する。以下の同様の処理が繰り返される。
【0040】
なお、積算レジスタ17がオーバーフローしたときデータが残っている場合、そのデータはそのまま生かされる。例えば、"11000"が2回積算されると、オーバーフローするが積算レジスタ17には"10000"が残る。そして、次に積算されると、再度オーバーフローして"01000"が残る。このように、取り除かれた値はすべて分周比に反映される。
【0041】
測定値CTSと測定値CTS+1とで、または固定値Nと固定値N+1とで分周比を切り替える制御方式は、後段のループフィルタ130でのリップル除去率に大きく影響を及ぼす。図2および3では、誤差パルスを分散させて、リップルを抑制している。よって、測定値CTSおよび固定値Nを含むACRパケットの到着時刻にバラツキが生じても、オーディオクロックの周波数の追跡誤差を最小化するのに有効である。
【0042】
以上説明したように本実施形態によれば、位相比較器の出力には32kHz前後の周波数の位相差パルスが出現する。このように、PLLの基準クロックの周波数を音声帯域外まで、オーバーサンプル手法を用いて持ち上げたことにより、すなわち、ノイズシェイパーを行うことにより、PLL機構を備えたクロック発生回路の特性低下の要因を大きく改善することができる。すなわち、簡単なループフィルタにより高特性のクロック源を低コストで構築することができる。したがって、クロック源から音質への悪影響を低減することができ、フィルタ設計も容易になる。32kHz前後の周波数は、HDMI規格の1kHz周期のクロックと比較し、一般的なRCパッシブフィルタを用いて容易に平滑化することが可能である。
【0043】
また、図2および図3のように分周器を構成すれば、分周器自体がデュアル・モジュラス機能を有することになり、HDMI規格のACRパケットによる動的な分周比の再指定に対して容易に対応することができる。この点、デュアルモジュラスプリスケーラを別途に設けるパルススワーロ方式のPLL機構では、プログラマブルカウンタへのリロード時刻までに到着できなかったACRパケットは破棄せざるをえないため、送信側と受信側のオーディオクロックの誤差が累積される可能性がある。
【0044】
さらに、送信側のオーディオクロックの追従処理を、積算レジスタなどのハードウェア資源を用いて行っているため、ソフトウェアの設計負担を軽減することができる。
【0045】
次に、上記実施形態におけるクロック生成回路100を搭載した電子機器200について説明する。図4は、クロック生成回路100を搭載した電子機器200の構成を示す図である。電子機器200は、テレビなどのセット機器が該当し、HDMI伝送により送信されたきたビデオデータおよびオーディオデータを再生する機能を備える。図4では、オーディオデータADATAを再生するブロックのみを描いている。
【0046】
電子機器200は、クロック生成回路100、オーディオデータ再生回路210、オーディオデータ処理ブロック220およびスピーカ230を備える。オーディオデータ再生回路210は、上記実施形態におけるクロック生成回路100により生成されたクロックにしたがい、送信されたきたオーディオデータADATAを再生する。オーディオデータ処理ブロック220は、再生されたオーディオデータADATAに対し、デジタル/アナログ変換や各種エフェクト処理などを施し、スピーカ230に出力する。
【0047】
この電子機器200は上記実施形態におけるクロック生成回路100を搭載しているため、HDMI伝送により送信されてきたビデオクロックおよびそのクロックとの比率情報をもとにオーディオクロックを再生するさい、そのクロック再生による音質の低下を抑制することができる。また、PLL機構に用いられるフィルタも簡素なものでよく、コスト低減および回路面積の縮小を図ることができる。
【0048】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0049】
例えば、上記実施形態では、32kHz程度の基準クロックの周波数を得るために、20ビットの測定値CTSの下位5ビットを取り除いたビット列を分周比として使用した。この点、1mHz程度の基準クロックの周波数を得たい場合、上記測定値CTSの上位10ビットを分周比として使用し、下位10ビットを積算レジスタで累積していってもよい。これによれば、さらに高周波数でPLL機構を制御することができ、ループフィルタの時定数をさらに下げることができる。
【0050】
また、出力クロックの周波数を調整するため、電圧制御発振器の後段に所定の分周比で分周するプリスケーラを設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施形態におけるクロック生成回路100の構成を示す図である。
【図2】本実施形態における第1分周器110の詳細な構成を示す図である。
【図3】第1分周器110の動作例を示す図である。
【図4】クロック生成回路100を搭載した電子機器200の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
12 バッファ、 14 プログラマブルカウンタ、 16 積算回路、 17 積算レジスタ、 18 比較回路、 20 参照レジスタ、 100 クロック生成回路、 110 第1分周器、 120 位相比較器、 130 ループフィルタ、 140 電圧制御発振器、 150 第2分周器、 200 電子機器、 210 オーディオデータ再生回路、 220 オーディオデータ処理ブロック、 230 スピーカ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1クロックおよびそのクロックとの比率情報を所定の伝送規格にしたがい受信して、送信側で利用されている第2クロックを受信側で再生するクロック生成回路であって、
前記第1クロックを前記比率情報を利用して分周し、基準クロックを生成する第1分周器と、
前記基準クロックと、本クロック生成回路の出力を起点とする帰還クロックとを比較し、それらの誤差を打ち消すための制御信号を出力する位相比較器と、
前記制御信号に応じた発振周波数でクロックを出力する電圧制御発振器と、
前記電圧制御発振器の出力クロックを前記比率情報を利用して分周し、分周したクロックを前記帰還クロックとして前記位相比較器に入力する第2分周器と、を備え、
前記基準クロックの周波数は、音声帯域外に設定されることを特徴とするクロック生成回路。
【請求項2】
前記第1クロックは、ビデオクロックであり、
前記第2クロックは、オーディオクロックであることを特徴とする請求項1に記載のクロック生成回路。
【請求項3】
前記位相比較器の出力する制御信号に含まれるノイズ成分を低減し、前記電圧制御発振器に出力するループフィルタをさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載のクロック生成回路。
【請求項4】
前記所定の伝送規格は、音声帯域内の周波数に対応する周期で前記比率情報を受信側に伝送する規格であり、
前記第1分周器および前記第2分周器は、
前記基準クロックの周波数が音声帯域外に設定されるよう、前記比率情報を所定値で除算した値を分周比として用いて、入力されるクロックを分周することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のクロック生成回路。
【請求項5】
前記所定値は、2(nは自然数)であり、
前記基準クロックの周波数が音声帯域外を満たす最小の2で前記比率情報が除算されることを特徴とする請求項4に記載のクロック生成回路。
【請求項6】
前記比率情報は、所定ビット数のデジタルデータで記述され、前記デジタルデータの最下位ビットからn(nは自然数)ビット分のデータが取り除かれることにより、2(nは自然数)で除算されることを特徴とする請求項4または5に記載のクロック生成回路。
【請求項7】
前記第1分周器および前記第2分周器は、
前記最下位ビットからnビット分のデータが取り除かれたビットデータが設定され、そのビットデータを、入力されるクロックに対応してカウントダウンするカウンタと、
前記最下位ビットからnビット分のデータを積算していく積算回路と、
参照値として1を保持する参照レジスタと、
前記カウンタの値と前記参照レジスタの値とを比較し、一致したときアクティブ信号を出力する比較回路と、を有し、
前記積算回路は、取り除かれるnビット分のビット数に対応した積算レジスタを含み、前記最下位ビットからnビット分のデータの積算値が前記積算レジスタをオーバーフローしたとき、前記参照レジスタの参照値を一時的に0に設定することを特徴とする請求項6に記載のクロック生成回路。
【請求項8】
前記アクティブ信号は、前記位相比較器に入力されるとともに、前記nビット分のデータが取り除かれたビットデータを前記カウンタにロードするタイミング、および前記最下位ビットからnビット分のデータを前記積算回路に積算するタイミングを規定することを特徴とする請求項7に記載のクロック生成回路。
【請求項9】
前記比率情報は、前記伝送規格により推奨される固定値、および送信側で利用されている前記第2クロックを前記固定値で分周した周期で、前記第1クロックをカウントした測定値を含み、
前記第1分周器は、前記測定値を用いて分周し、
前記第2分周器は、前記固定値を用いて分周することを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載のクロック生成回路。
【請求項10】
少なくとも前記第1分周器、前記位相比較器および前記第2分周器は、
ひとつの半導体基板上に一体集積化されたことを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載のクロック生成回路。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかに記載のクロック生成回路と、
前記クロック生成回路により生成したクロックを利用して、オーディオデータを再生する再生回路と、
を備えることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−82001(P2007−82001A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−269075(P2005−269075)
【出願日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】