説明

クロムめっき製品の表面改質方法

【課題】耐熱性の低い基材を有するクロムめっき製品を変形させることなく、該クロムめっき製品のクロムめっき膜に、短時間で、耐腐食性に優れた不動態皮膜を形成することができるクロムめっき製品の表面改質方法を提供すること。
【解決手段】樹脂材料からなる基材11の表面にクロムめっき膜15が形成されてなるクロムめっき製品1の表面改質方法である。クロムめっき製品1にオゾンを供給し、このオゾンによってクロムめっき膜15の表面を酸化させる。これにより、クロムめっき膜15の表面にクロムの酸化皮膜155を形成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂材料からなる基材の表面にクロムめっき膜が形成されてなるクロムめっき製品の表面改質方法に関する。
【0002】
本発明は、基材の表面に、クロムめっき膜とクロムの酸化皮膜との複合皮膜が形成されたクロムめっき製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
自動車の外装意匠部品等においては、金属又は樹脂等の素材の表面に、クロムめっき膜が施されたクロムめっき製品が用いられている。このようなクロムめっき製品は、クロムめっき膜特有の白銀色を示し、美的装飾性に優れている。特に、樹脂からなる素材の表面にクロムめっき膜が形成されたクロムめっき製品は、金属素材のものに比べて低コストで製造することができるため、その需要が高い。
クロムめっき膜の形成方法としては、下地として、半光沢ニッケルめっき、光沢ニッケルめっき、及びジュールニッケルめっきを、この順序で素材上に施した後に、ジュールニッケルめっきの表面に0.1μm〜0.3μmの厚さで施す方法が一般的である。具体的な材料の構成例としては、例えばJIS H 8630「プラスチック上の装飾用電気めっき」等に記載されている。
【0004】
図9には、金属または樹脂からなる素材91上にクロムめっき膜95が形成されたクロムめっき製品9の表面部分の断面図が示される。同図に示すごとく、クロムめっき製品9においては、表面のクロムめっき膜95が形成されるまでに複数の金属層92、93が下地として形成されている。例えば、素材91表面の上には、表面平滑性の向上等のために、下地銅めっき層92が形成される。さらに下地銅めっき層92上には、半光沢ニッケルめっき層931と光沢ニッケルめっき層932とからなるニッケルめっき層93が形成される。そのニッケルめっき層93の表面に、クロムめっき膜95が形成される。このように、素材91上には、銅めっき層92、ニッケルめっき層93、及びクロムめっき膜95が積層形成され、クロムめっき膜95の白銀色を活かした自動車の外装意匠部品(ラジエータグリル、ドアハンドル、マーク等)等のクロムめっき製品9が提供される。
【0005】
クロムめっき製品9は、例えば自動車等においては、ラジエータグリル、ドアハンドル、マーク等の外気と直接接触する外装意匠部品等に用いられる。そのため、クロムめっき膜95や下地金属層92、93の耐食性が問題となる。
図9に示すごとく、クロムめっき製品9において、クロムめっき膜95や下地金属層92、93の金属層構造は、クロムめっきの美的外観維持のため、多数の防食構造をとっている。例えばクロムめっき膜95とニッケルめっき層93とでは、ニッケルめっき層93の方が電気化学的に腐食し易い。クロムめっき膜95は、自己不動態化能力により、その表面に水和オキシ水酸化クロムからなる酸化皮膜(不動態皮膜)955を自然形成することができ、この酸化皮膜955はニッケルめっき層93よりも耐食性が高いからである。その結果、腐食の際には、まず、ニッケルめっき層93が腐食し、さらに下層の銅めっき層92まで腐食が及ぶと、めっき層全体にふくれが発生するため、ニッケルめっき層93においては、下層の半光沢ニッケルめっき層931と光沢ニッケルめっき層932とに分け、より腐食し易い光沢ニッケルめっき層932が横方向に優先腐食して下層方向への腐食を防止する構造をとるのが一般的である。
【0006】
ところが、これら通常型の腐食とは別に、特に自動車の外装意匠部品等に用いられるクロムめっき製品9においては、クロムめっき膜95が下地のニッケルめっき層93よりも優先的に腐食する場合がある。これは、特に冬季に道路に散布される凍結防止剤が泥等と共に、クロムめっき製品9に固着した状態で発生しやすい。凍結防止剤中には、クロムめっき膜95の腐食を促進させる塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム等の融雪塩が含まれているためである。
即ち、融雪塩は、塩化物イオンを生成し、この塩化物イオンがすきま腐食を誘発し、不動態皮膜955が充分に強固でない場合にはこれを破壊する。表面の不動態皮膜955が破壊されると、クロムめっき膜95が溶出してニッケルめっき層93よりも優先的に腐食するので、短期間でクロムめっき製品の見栄えが悪くなってしまう。そのため、より耐腐食性に優れた不動態皮膜955を形成することが望まれている。
【0007】
不動態皮膜955は、上記クロムめっき膜95を有するクロムめっき製品9を大気中に放置して形成させることができる。しかし、この場合には、不動態皮膜955の形成までに長時間を要してしまう。また、充分な不動態皮膜955を形成することができず、クロムめっき製品9の耐腐食性が不十分となり、その結果、短時間でクロムめっき膜95に腐食が発生してしまうおそれがあった。
【0008】
そこで、短時間で耐腐食性に優れた不動態皮膜を形成させる技術が開発されてきた。具体的には、例えば、温度100〜300℃の大気中で加熱処理を行うことにより不動態皮膜を形成する方法がある(特許文献1参照)。
【0009】
しかしながら、加熱処理を行って不動態皮膜を形成する方法においては、100〜300℃という高温で加熱を行う必要がある。そのため、例えば樹脂等の耐熱性の低い素材上に形成したクロムめっき膜に適用すると、素材が軟化し、変形してしまうおそれがあった。したがって、樹脂材料からなる素材を有するクロムめっき製品には適用することができなかった。
【0010】
【特許文献1】特許第2687014号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたものであって、耐熱性の低い基材を有するクロムめっき製品を変形させることなく、該クロムめっき製品のクロムめっき膜に、短時間で、耐腐食性に優れた不動態皮膜を形成することができるクロムめっき製品の表面改質方法にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、樹脂材料からなる基材の表面にクロムめっき膜が形成されてなるクロムめっき製品の表面改質方法であって、
上記クロムめっき製品にオゾンを供給し、該オゾンによって上記クロムめっき膜の表面を酸化させることにより、上記クロムめっき膜の表面にクロムの酸化皮膜を形成させることを特徴とするクロムめっき製品の表面改質方法にある(請求項1)。
【0013】
本発明の表面改質方法においては、上記クロムめっき製品に、高い酸化力を有する上記オゾンを供給している。そのため、短時間で上記クロムめっき膜の表面を充分に酸化させることができる。それ故、上記クロムめっき膜の表面に、短時間で耐腐食性に優れた上記酸化皮膜(不動態皮膜)を形成することができる。
また、本発明においては、例えば100℃以上という高温での加熱を行うことなく、上記酸化皮膜を形成させることができる。そのため、上記表面改質方法は、比較的耐熱性が低い上記樹脂材料を基材とするクロムめっき製品に適用することができる。
【0014】
オゾン処理によって不動態皮膜の生成が促進されるメカニズムは明確ではないが、次のように推察される。
即ち、オゾンを供給すると、オゾン、酸素原子、OHラジカル等の活性酸素種が発生し、これらの活性酸素種によって、上記クロムめっき製品の上記クロムめっき膜が酸化されると考えられる。上記活性酸素種は、酸素分子よりも高い酸化力を有しているため、上記クロムめっき製品を大気中に放置した場合に比べて、水和オキシ水酸化クロム(CrOOH)等からなる上記酸化皮膜(不動態皮膜)の生成が著しく促進されると考えられる。
【0015】
このように本発明の表面改質方法によれば、耐熱性の低い基材を有するクロムめっき製品を変形させることなく、該クロムめっき製品のクロムめっき膜に、短時間で、耐腐食性に優れた不動態皮膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
上記オゾンによる上記クロムめっき膜の表面の酸化は、上記クロムめっき製品にオゾン濃度10体積%〜40体積%のオゾン含有ガスを供給することにより行うことができる(請求項2)。
上記オゾン含有ガスのオゾン濃度が10体積%未満の場合には、上記クロムめっき膜の表面に充分な上記酸化皮膜を形成することが困難になり、上記クロムめっき製品に対する耐腐食性向上効果を充分に発揮させることが困難になるおそれがある。一方、40体積%を越える場合には、酸化力が強くなりすぎて、例えば上記基材が後述のジュールニッケルめっき等を有する場合に、該ジュールニッケルめっきを腐食させてしまうおそれがある。より好ましくは、オゾン濃度は、20体積%〜30体積%がよい。
【0017】
また、上記のごとく、オゾン含有ガスを上記クロムめっき製品に供給することにより、クロムめっき膜の表面の酸化を行う場合には、オゾン含有ガスと上記クロムめっき膜とを反応させる時間(オゾン処理時間)は、10分〜120分がよい。
オゾン処理時間が10分未満の場合には、上記クロムめっき膜の表面に充分な上記酸化皮膜を形成することができず、長期間腐食の発生を防止することができないおそれがある。一方、120分を越えて反応させても、腐食の防止効果はほとんど向上せず、処理時間に見合った向上効果が得られなくなるおそれがある。より好ましくは、オゾン処理時間は、60分〜90分がよい。
【0018】
また、上記クロムめっき製品に上記オゾン含有ガスを供給する場合には、上記オゾン含有ガスを上記クロムめっき製品に連続的に供給し続けながら上記クロムめっき膜の表面の酸化を行うことが好ましい(請求項3)。
この場合には、一定濃度のオゾンを上記クロムめっき製品に供給し続けることができるため、上記クロムめっき膜の酸化をより促進させることができる。これに対し、例えば密閉容器内にオゾン含有ガスを封入して放置させることによっても上記クロムめっき膜の酸化を行うこともできるが、この場合には容器内のオゾン濃度が次第に低下し、クロムめっき膜の酸化効率、即ち、上記酸化皮膜の生成速度が徐々に低下するおそれがある。
【0019】
オゾンは、オゾン発生器により、大気や酸素ガスから生成させることができる。オゾン発生器としては、放電方式、水電解方式等の装置を用いることができる。
【0020】
また、上記オゾンによる上記クロムめっき膜の表面の酸化は、オゾンを溶存するオゾン水に、上記クロムめっき製品を浸漬させることにより行うことが好ましい(請求項4)。
この場合には、OHラジカルの生成量が多い上記オゾン水を用いて上記クロムめっき膜の表面を酸化させることができる。即ち、上記オゾン水の優れた酸化力を利用して上記クロムめっき膜の酸化を行うことができるため、上記酸化皮膜の生成効率を向上させ、充分な酸化皮膜をより短時間で形成させることができる。
【0021】
また、上記オゾン水は、例えば水に濃度10〜40体積%のオゾンガスを供給して作製することができる。
水に供給するオゾンガスの濃度が10体積%未満の場合には、上記オゾン水の酸化力を充分に高めることが困難になるおそれがある。一方、40体積%を越える濃度のオゾンガスを用いた場合には、上記オゾン水の酸化力が強くなりすぎてしまうおそれがある。より好ましくは、オゾンガスの濃度は20体積%〜30体積%がよい。
【0022】
また、上記オゾン水中のオゾン濃度は30〜120mg/Lであることが好ましい(請求項5)。
上記オゾン水中のオゾン濃度が30mg/L未満の場合には、上記オゾン水が充分な酸化力を発揮するこができず、上記クロムめっき膜の表面に充分な上記酸化皮膜を形成させることが困難になるおそれがある。一方、120mg/Lを越える場合には、酸化力が強くなりすぎて、例えば上記基材が後述のジュールニッケルめっき等を有する場合に、該ジュールニッケルめっきを腐食させてしまうおそれがある。より好ましくは、オゾン水中のオゾン濃度は50〜100mg/Lであることがよい。
【0023】
また、上記のごとく、上記クロムめっき製品をオゾン水に浸漬することにより、クロムめっき膜の表面の酸化を行う場合には、オゾン水と上記クロムめっき膜とを反応させる時間(オゾン処理時間)は、10分〜120分がよい。オゾン処理時間が10分未満の場合には、上記クロムめっき膜の表面に充分な上記酸化皮膜を形成することができず、長期間腐食の発生を防止することができないおそれがある。一方、120分を越えて反応させても、腐食の防止効果はほとんご向上せず、処理時間に見合った向上効果が得られないおそれがある。より好ましくは、オゾン処理時間は、60分〜90分がよい。
【0024】
次に、上記オゾンによる上記クロムめっき膜の表面の酸化は、温度30〜80℃で行うことが好ましい(請求項6)。
温度30℃未満の場合には、短時間で上記クロムめっき膜の表面に充分な上記酸化皮膜を形成することが困難になるおそれがある。一方、80℃を越える場合には、樹脂材料からなる上記基材が熱により軟化し、変形してしまうおそれがある。より好ましい温度範囲は、60〜70℃がよい。
【0025】
上記樹脂材料は、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)樹脂、ポリプロプレン(PP)樹脂、及びポリカーボネート(PC)樹脂から選ばれる1種以上からなることが好ましい(請求項7)。
この場合には、例えば100℃以上という高温に加熱することなく、上記クロムめっき製品の表面の改質を充分に行うことができるという上述の本発明の作用効果がより顕著になる。
【0026】
上記クロムめっき製品は、基材の表面にクロムめっき膜が形成されてなる。本発明において、上記クロムめっき製品としては、上記基材にクロムめっき膜が形成されているのもでれば様々なものを用いることができる。
上記クロムめっき膜の厚みは、0.05μm〜5.0μmであることが好ましい。
クロムめっき膜の厚みが0.05μm未満の場合には、クロム特有の白銀色の美的外観を充分に発揮できなくなるおそれがある。また、耐傷付き性の確保が困難になるおそれがある。一方、5.0μmを越える場合にも、均一な光沢という美的外観を損ねてしまうおそれがある。また、この場合には、クロムめっき膜にクラックが生じ易く、さらにそれが目立ち易くなる。
【0027】
また、上記クロムめっき製品としては、上記基材と上記クロムめっき膜との間に、耐腐食性の異なる2層のニッケルめっき層が形成されたものを用いることができる。
この場合には、上記クロムめっき製品の表面の美的外観をより長期間維持させることができる。
即ち、上記クロムめっき膜と上記ニッケルめっき層とでは、上記ニッケルめっき層の方が電気化学的に腐食し易い。そのため、腐食が起こるときには、上記クロムめっき膜の下地となる上記ニッケルめっき層の腐食が優先的に起こる。それ故、上記クロムめっき膜特有の白銀色の美的装飾性をより長期間維持させることができる。
上記ニッケルめっき層は、例えば電気メッキ法等によって、厚さ約5μm〜40μmで形成することができる。
【0028】
また、上記ニッケルめっき層は、上記クロムめっき膜側に形成された光沢ニッケルめっき層と、上記素材側に形成された半光沢ニッケルめっき層とからなることが好ましい。
この場合には、上記クロムめっき製品の耐食性をより一層向上させることができる。
即ち、上記光沢ニッケルめっき層と上記半光沢ニッケルめっき層とを比較すると、上記半光沢ニッケルめっき層の方が貴電位である。この電位差によって、腐食の進行は、光沢ニッケルめっき層内で横方向に進行し、半光沢ニッケルめっき層への腐食の進展を抑制することができる。
なお、一般に、上記光沢ニッケルめっき層は、例えば0.05wt%以上のSを含有するニッケルめっき層のことであり、上記半光沢ニッケルめっき層は、Sを含有しないニッケルめっき層やSの含有量が例えば0.05wt%未満のニッケルめっき層のことである。上記光沢ニッケルめっき層と上記半光沢めっき層との硫黄の含有量の違いは、例えば硫黄を含む光沢剤等の含有量の違いによって生じる。
【0029】
また、上記ニッケルめっき層においては、上記光沢ニッケルめっき層の上記クロムめっき膜側に、さらにジュールニッケルめっき層を形成することができる。ジュールニッケルめっき層は、非電導性微粒子を含有するニッケルめっき層である。上記ジュールニッケルめっき層が形成された基材に上記クロムめっき膜を形成すると、上記ジュールニッケル層において上記非電導性微粒子が分散されている部分は、上層のクロムめっきが形成されない。即ち、この場合には、上記めっき工程において上記非電導性微粒子が抜け落ち、上記クロムめっき膜に多数の微細孔(マイクロポーラス)を形成させることができる。
また、上記のごとく、上記クロムめっき膜に多数の微細孔が形成されている場合には、該微細孔によって腐食電流が分散され、上記ニッケルめっき層の局部腐食を抑制することができる。そのため、上記クロムめっき製品の耐食性をより一層向上させることができる。
【0030】
また、上記クロムめっき製品においては、上記基材の表面に銅めっき層が形成され、かつ該銅めっき層の表面に上記ニッケルめっき層が形成されていることが好ましい。
この場合には、上記銅メッキ層が上記素材の表面平滑性を向上させることができる。
上記銅メッキ層は、例えば電気メッキ法等よって、厚さ5μm〜40μmで形成することができる。
【実施例】
【0031】
(実施例1)
次に、本発明の実施例につき、図1〜図3及び図8を用いて説明する。
本例は、図1及び図2に示すごとく、クロムめっき製品1の表面改質方法である。クロムめっき製品1は、基材11の表面にクロムめっき膜15が形成されてなる。このクロムめっき製品1にオゾンを供給し、オゾンによってクロムめっき膜15の表面を酸化させる。これにより、図2に示すごとく、クロムめっき膜15の表面にクロムの酸化皮膜155を形成させる。
【0032】
図1及び図2に示すごとく、本例において、クロムめっき製品1としては、ABS樹脂からなる板状の基材11の表面に、銅めっき層12と、その上に積層形成されたニッケルめっき層13と、さらにその上に積層形成されたクロムめっき膜15とを有するものを用いる。ニッケルめっき層13は、半光沢ニッケルめっき層131と、その上に形成された光沢ニッケルめっき層132と、さらにその上に形成されたジュールニッケルめっき層(図示略)とからなる。
【0033】
このようなクロムめっき製品は次のようにして作製することができる。
即ち、まず、基材の表面に電気メッキ法により銅めっきを施して、銅めっき層12を形成する。次いで、銅メッキ層12の表面に電気メッキ法により、半光沢ニッケルめっき層131を形成し、その上に光沢ニッケルめっき層132を形成し、さらにその上にジュールニッケルめっき層(図示略)を形成する。
【0034】
次に、銅メッキ層12と、三層からなるニッケルめっき層13とを形成してなる基材11の表面に、電気メッキ法によりクロムめっきを施して、クロムめっき膜15を形成することにより、クロムめっき製品を得ることができる。このようにして、およそ縦100mm、横50mm、厚さ3mmのクロムめっき製品を準備した。
【0035】
次に、クロムめっき製品にオゾン処理を施してクロムめっき製品表面の改質を行う。
本例においては、図3に示すごとく表面改質装置2を用いて改質を行う。
本例の表面改質装置2は、クロムめっき製品1と水(純水)とを収容するテフロン(登録商標)製の容器21と、容器21内にオゾンガス(オゾン含有ガス)19を供給するためのテフロン(登録商標)製の供給パイプ22と、オゾンを発生するオゾン発生器23と、このオゾン発生器23によって生成されるオゾン含有ガスを濃縮するオゾン濃縮装置24とを有する。また、容器21には、供給された余剰のオゾン含有ガス19を排出するためのテフロン(登録商標)製の排出パイプ25が設けられている。
【0036】
次に、この表面改質装置2を用いた改質方法について、具体的に説明する。
まず、純水を収容した容器21内に、クロムめっき製品1を完全に水に浸漬するように配置させた。次いで、放電方式のオゾン発生器23からオゾン含有ガスを発生させた。このオゾン含有ガスは、オゾン以外に酸素等の大気中の成分を含有する。次に、オゾン濃縮装置24によって、オゾン含有ガスをオゾン濃度27体積%に濃縮した。次いで、濃縮後のオゾン含有ガス19を流速50cc/minで供給パイプ22から容器21内に供給し、水中にオゾンを溶存させた。このとき、オゾン水の濃度を81mg/Lになるように調整した。このオゾン水の溶存オゾンにより、図1及び図2に示すごとく、クロムめっき製品1のクロムめっき膜15の表面を酸化させ、クロムの酸化皮膜155を形成した。
【0037】
本例においては、オゾン含有ガスの容器内への供給の開始から10分後に、酸化皮膜が形成されたクロムめっき製品を取り出した。これを試料E1とする。即ち、試料E1は、クロムめっき膜に10分間オゾン処理を行うことにより、酸化皮膜を形成させたクロムめっき製品である。
【0038】
次に、上記試料E1について、その酸化皮膜が形成されたクロムめっき膜の自然電極電位を測定した。
具体的には、まず、5重量%のNaCl水溶液を準備した。このNaCl水溶液に0.5重量%の炭酸ナトリウムを添加し、pH11に調整したNaCl水溶液(35℃)を作製した。次いで、図8に示すごとく、このNaCl水溶液70中に、基準電極7としてのAg/AgCl電極と、クロムめっき膜15の表面に酸化皮膜155を形成したクロムめっき製品1(試料E1)とを配置し、電位差計75によって、酸化皮膜155が形成されたクロムめっき膜15の自然電極電位を測定した。その結果を表1に示す。
また、比較用として、酸化皮膜を形成していないクロムめっき製品(試料C1)についても、上記試料E1と同様にして、クロムめっき膜の自然電極電位を測定した。その結果を表1に示す。
【0039】
また、本例においては、オゾン含有ガスの容器内への供給を開始してからクロムめっき製品を取り出すまでの時間、即ちオゾン処理の時間をそれぞれ20分、40分、80分、及び120分として、その他は上記試料E1と同様にして、酸化皮膜が形成された4種類のクロムめっき製品(試料E2〜試料E5)をさらに作製した。
試料E2は、オゾン処理を20分間行って作製したクロムめっき製品である。試料E3は、オゾン処理を40分間行って作製したクロムめっき製品である。試料E4は、オゾン処理を80分間行って作製したクロムめっき製品である。試料E5は、オゾン処理を120分間行って作製したクロムめっき製品である。
上記試料E2〜試料E5についても、上記試料E1と同様にして、自然電極電位を測定した。その結果を表1に示す。
【0040】
次に、本例においては、上記試料E1〜試料E5及び試料C1について、下記の腐食試験を行った。
「腐食試験」
まず、カオリン30gと、塩化カルシウム10gと、水50mlとを混合した泥状の腐食促進剤を各試料(試料E1〜試料E5及び試料C1)の酸化皮膜上又はクロムめっき膜上に固着させ、常温で放置した。その後、クロム層(酸化皮膜及びクロムめっき膜)の溶解によって生じる緑色のスポットの有無を目視にて判定した。判定基準は、CASS JIS D 0201の規定に従って、CASS試験のレイティングNo.がNo.9.8以下となったときに、腐食が発生したと判断した。そして、腐食促進剤の固着から腐食発生までの時間を測定し、1週間以上腐食が発生しなかった場合を◎と評価し、24時間以上1週間未満で腐食が発生した場合を○と評価し、24時間未満で腐食が発生した場合を×と評価した。その結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
表1より知られるごとく、試料E1〜試料E5は、試料C1に比べて、自然電極電位が貴になっていた。また、腐食試験において、試料E1〜試料E5は、試料C1よりも長期間腐食の発生を防止できることがわかる。
したがって、本例の表面改質方法によれば、10分〜120分という短時間で、基材の表面に、耐腐食性に優れた不動態皮膜を形成できることがわかる。また、本例においては、例えば100℃以上という高温で加熱する必要がないため、基材に変形等の不具合も発生しなかった。
【0043】
(実施例2)
本例は、加熱しながらクロムめっき製品の表面の改質を行う例である。
本例においては、図4に示す表面改質装置を用いてクロムめっき製品の表面改質を行う。
図4に示すごとく、本例の表面改質装置3は、実施例1と同様に、クロムめっき製品1と水(純水)とを収容する容器21と、供給パイプ22と、オゾン発生器23と、オゾン濃縮装置24と、排出パイプ25とを有している。
本例の表面改質装置3においては、容器21は、恒温水槽31に浸漬されている。この恒温水槽31には、ヒータ及び冷却器を内蔵した温度制御装置(図示略)が備えられており、この温度制御装置によって、恒温水槽31内の温度を一定に保つことができる。
【0044】
本例のクロムめっき製品1の表面改質方法にあたっては、まず、実施例1と同様の縦100mm、横50mm、厚さ3mmのクロムめっき製品1(試料C1)を作製した。
このクロムめっき製品1を表面改質装置3の容器21内の水に完全に浸漬させ、その容器21を温度64℃に保持された水(お湯)が注入された恒温水槽31内に浸漬させた。そして、恒温水槽31内の温度64℃に保持されたお湯によって、容器21内の水の温度が64℃になるまで放置した。
【0045】
次に、実施例1と同様に、オゾン発生器23からオゾン含有ガスを発生させ、そのオゾン含有ガスのオゾン濃度をオゾン濃縮装置24によって30体積%に濃縮させた。次いで、流速50cc/minで供給パイプ22から容器21内にオゾン含有ガス19を供給し、温度64℃に保持された容器21内の水(お湯)中にオゾン19を溶存させた。このとき、オゾン水の濃度を90mg/Lになるように調整した。このオゾン水中の溶存オゾンにより、実施例1と同様に、クロムめっき製品1のクロムめっき膜15の表面を酸化させ、クロムの酸化皮膜155を形成させた(図1及び図2参照)。
【0046】
本例においては、オゾン含有ガスの容器内への供給の開始から、10分後、20分後、40分後、80分後、又は120分後に、酸化皮膜が形成されたクロムめっき製品を取り出した。このようにして、クロムめっき膜の表面に酸化皮膜が形成された5種類のクロムめっき製品(試料E6〜試料E10)を作製した。
【0047】
即ち、試料E6は、温度64℃の条件下で、クロムめっき膜に10分間オゾン処理を行うことにより、酸化皮膜を形成させたクロムめっき製品である。また、試料E7は、温度64℃の条件下で、クロムめっき膜に20分間オゾン処理を行うことにより、酸化皮膜を形成させたクロムめっき製品である。試料E8は、温度64℃の条件下で、クロムめっき膜に40分間オゾン処理を行うことにより、酸化皮膜を形成させたクロムめっき製品である。試料E9は、温度64℃の条件下で、クロムめっき膜に80分間オゾン処理を行うことにより、酸化皮膜を形成させたクロムめっき製品である。また、試料E10は、温度64℃の条件下で、クロムめっき膜に120分間オゾン処理を行うことにより、酸化皮膜を形成させたクロムめっき製品である。
【0048】
次に、上記試料E6〜試料E10についても、上記実施例1と同様にして、酸化皮膜が形成されたクロムめっき膜の自然電極電位を測定し、さらに腐食試験を行った。これらの結果を表2に示す。また、表2には、比較用として、試料C1の結果を併記した。
【0049】
【表2】

【0050】
表2より知られるごとく、試料E6〜試料E10は、試料C1に比べて、自然電極電位が貴になっていた。また、腐食試験において、試料E6〜試料E10は、試料C1よりも長期間腐食の発生を防止できることがわかる。
また、表1と表2とを比較して知られるごとく、本例の方が実施例1よりもより短時間の処理時間でより長期間腐食の発生を防止できる酸化皮膜を形成させることができることがわかる。この違いは、実施例1の試料E1〜試料E5においては、オゾン処理を室温(約20℃)で行っているのに対し、本例(実施例2)の試料E6〜試料E10においては、温度64℃に加熱して行っているためであると考えられる。したがって、オゾン処理においては、加熱により、酸化皮膜の形成を促進できることがわかる。
【0051】
なお、本例においては明確に示していないが、オゾンによる上記クロムめっき膜の表面の酸化を温度30〜80℃で行うことにより、酸化皮膜の形成をより促進させ、腐食防止効果をより長期間発揮させられることを確認している。さらに温度60℃〜70℃で行うことにより、酸化皮膜の形成をより一層促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施例1にかかる、クロムめっき製品の表面をオゾンにより改質する様子を示すクロムめっき製品の断面図。
【図2】実施例1にかかる、表面が改質されて酸化皮膜が形成されたクロムめっき製品の断面図。
【図3】実施例1にかかる、表面改質装置の構成を示す説明図。
【図4】実施例2にかかる、表面改質装置の構成を示す説明図。
【図5】実施例1にかかる、自然電極電位の測定方法を示す説明図。
【図6】一般的なクロムめっき製品の表面部分の断面図。
【符号の説明】
【0053】
1 クロムめっき製品
11 基材
15 クロムめっき膜
155 酸化皮膜(不動態膜)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料からなる基材の表面にクロムめっき膜が形成されてなるクロムめっき製品の表面改質方法であって、
上記クロムめっき製品にオゾンを供給し、該オゾンによって上記クロムめっき膜の表面を酸化させることにより、上記クロムめっき膜の表面にクロムの酸化皮膜を形成させることを特徴とするクロムめっき製品の表面改質方法。
【請求項2】
請求項1において、上記オゾンによる上記クロムめっき膜の表面の酸化は、上記クロムめっき製品にオゾン濃度10体積%〜40体積%のオゾン含有ガスを供給することにより行うことを特徴とするクロムめっき製品の表面改質方法。
【請求項3】
請求項2において、上記オゾン含有ガスを上記クロムめっき製品に連続的に供給し続けながら上記クロムめっき膜の表面の酸化を行うことを特徴とするクロムめっき製品の表面改質方法。
【請求項4】
請求項1において、上記オゾンによる上記クロムめっき膜の表面の酸化は、オゾンを溶存するオゾン水に、上記クロムめっき製品を浸漬させることにより行うことを特徴とするクロムめっき製品の表面改質方法。
【請求項5】
請求項4において、上記オゾン水中のオゾン濃度は30〜120mg/Lであることを特徴とするクロムめっき製品の表面改質方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項において、上記オゾンによる上記クロムめっき膜の表面の酸化は、温度30〜80℃で行うことを特徴とするクロムめっき製品の表面改質方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項において、上記樹脂材料は、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)樹脂、ポリプロプレン(PP)樹脂、及びポリカーボネート(PC)樹脂から選ばれる1種以上からなることを特徴とするクロムめっき製品の表面改質方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−275750(P2007−275750A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−104759(P2006−104759)
【出願日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】