説明

クロメン化合物

【課題】中間色に発色するフォトクロミック化合物であって、単位量あたりの発色濃度が高いクロメン化合物の提供。
【解決手段】下記式で表されるクロメン化合物。


式中、Aは縮合環、RおよびRは、水素原子或いはヒドロキシル基等である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なクロメン化合物、および該クロメン化合物の用途に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトクロミズムとは、ある化合物に太陽光あるいは水銀灯の光のような紫外線を含む光を照射すると速やかに色が変わり、光の照射をやめて暗所におくと元の色に戻る可逆作用のことである。この性質を有する化合物はフォトクロミック化合物と呼ばれ、フォトクロミックプラスチックレンズの材料として使用されている。
このような用途に使用されるフォトクロミック化合物においては、下記のような特性が求められている。
(1)紫外線を照射する前の可視光領域での着色度(初期着色)が低い。
(2)紫外線を照射した時の着色度(発色濃度)が高い。
(3)紫外線を照射し始めてから発色濃度が飽和に達するまでの速度が速い(発色感度が高い)。
(4)紫外線の照射を止めてから元の状態に戻るまでの速度(退色速度)が速い。
(5)この可逆作用の繰り返し耐久性がよい。
(6)使用されるホスト材料への分散性が高い(即ち、硬化後にホスト材料となるモノマー組成物に高濃度で溶解する)。
また、フォトクロミックプラスチックレンズにおいては、発色状態の色調としてブラウン、アンバーといった中間色が好まれているため、当然のことながら、どのような色に発色するかは、フォトクロミック化合物にとってきわめて重要なファクターとなっている。
【0003】
複数のフォトクロミック化合物を混合することにより色調を調整しようとする場合、それぞれのフォトクロミック化合物の特性の違いにより退色時の色調変化(色ずれ)や、耐久性の違いにより劣化時の色調変化を引き起こす。このような問題を解決するために、単独化合物として中間色に発色するフォトクロミック化合物は重要である。
【0004】
単一化合物で中間色に発色するフォトクロミック化合物としては、下記式(A)で示されるクロメン化合物(特許文献1参照)や下記式(B)で示されるクロメン化合物(特許文献2参照)などが知られている。
【化4】

【化5】

【0005】
これらフォトクロミック化合物をラジカル重合性単量体中に溶解させた硬化性組成物を熱ラジカル重合により硬化させて成型する(注型重合する)ことにより、良好なフォトクロミック特性を有するフォトクロミックプラスチックレンズが得られている(特許文献1、2参照)。
【0006】
上記特許文献で採用されている注型重合によりフォトクロミックプラスチックレンズを製造する方法(インマス“in mass”法或いは練りこみ法とも呼ばれる)は、代表的なフォトクロミックプラスチックレンズ製造方法の一つであるが、良好なフォトクロミック特性を得るために使用できる重合性単量体が限定されるという制約がある。近年、このような制約のない、フォトクロミックプラスチックレンズの製造方法として、コーティング法が注目されている(特許文献3参照)。コーティング法では、フォトクロミック化合物を含有する重合硬化性組成物からなるコーティング剤をレンズ基材の表面に塗布し、塗膜を硬化させてフォトクロミックコート層を形成することによりレンズ基材にフォトクロミック性を付与するので、良好な塗膜密着性が得られれば原理的に基材レンズに対する制約はない。
【0007】
【特許文献1】国際公開第WO00/15628号パンフレット
【特許文献2】米国特許第7048876号公報
【特許文献3】国際公開第WO2003/011967号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
コーティング法は、このような優れた特徴を有しているが、薄い層(フォトクロミックコート層)によりフォトクロミック性を付与するため、コーティング法で使用されるフォトクロミック化合物には、インマス法(練りこみ法)で要求されるよりも高いレベルのフォトクロミック性が要求される。フォトクロミックプラスチックレンズの特性として、紫外線を照射した時の発色濃度は最も重要なフォトクロミック特性の一つであるが、コーティング法において高い発色濃度を得ることは必ずしも容易ではない。フォトクロミックコート層に含まれるフォトクロミック化合物の濃度を高くすることによりある程度まで発色濃度を高くすることができるが、フォトクロミック化合物濃度がある程度より高くなると発色濃度は飽和してしまう。このため、コーティング法により高い発色濃度を得るためには、フォトクロミック化合物自体が高い発色濃度を有する必要がある。別言すれば、単位量当たり(例えば1モル当たり、或いは単位質量当たり)の発色濃度が高いフォトクロミック化合物が求められている。
【0009】
前記式(A)および(B)で示されるフォトクロミック化合物は、中間色に発色するという点においては優れているが、単位量あたりの発色濃度は低いため、これらの化合物を用い、コーティング法により発色濃度の高いフォトクロミックプラスチックレンズを作成することは困難であった。
【0010】
従って本発明の目的は、中間色に発色し、しかも単位量あたりの発色濃度が高いフォトクロミック化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、下記式(1)で示されるクロメン化合物が提供される。
【化6】

式中、
Aは縮合環を意味し、
およびRは、それぞれ、水素原子、ヒドロキシル基、アルキル基、
シクロアルキル基、アルコキシ基、アラルキル基、アラルコキシ基または
アリール基であり、RとRは互いに連結して環を形成していてもよく、
さらに、RとRとが一緒になってこれらの基が結合している炭素原子と
ともにカルボニル基を形成していてもよく、
、R、RおよびRは、それぞれ、ヒドロキシル基、アルキル基、
シクロアルキル基、アルコキシ基、アラルキル基、アラルコキシ基、アリ
ール基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、ハロゲノアルキ
ル基、ハロゲノアルコキシ基、または窒素原子をヘテロ原子として有し且
つ該窒素原子を結合手として結合している複素環基であり、Rが複数存
在する場合には、2個のRが結合して環を形成していてもよく、
aおよびbは、それぞれ、0〜4の整数であり、
cおよびdは、それぞれ、0〜5の整数である。
【0012】
本発明によれば、また、
(1)前記クロメン化合物と、重合性単量体とを含有するフォトクロミック硬化性組成物;
(2)内部に前記クロメン化合物が分散した高分子成形体を構成部材として有するフォトクロミック光学物品;
(3)少なくとも一部が高分子膜で被覆された面を有する光学基材を構成部品として備えた光学物品であって、該高分子膜には、前記クロメン化合物が分散していることを特徴とする光学物品;
が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明のクロメン化合物は、単一化合物で中間色に発色するため、複数のフォトクロミック化合物を混合することにより色調調整する必要がなく、退色時の色調変化や、劣化時の色調変化が起こり難い。また、該クロメン化合物は、耐久性に優れ、フォトクロミック可逆反応が繰り返された場合にもフォトクロミック特性の劣化が小さく、さらに、単位量あたりの発色濃度が高いため、コーティング法を採用した場合であっても発色濃度の高いフォトクロミックレンズを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のクロメン化合物は、下記式(1):
【化7】

で表される。
【0015】
(縮合環A)
上記の式(1)において、Aは縮合環、即ち、基R及び基Rが結合している7員環に縮合する縮合環を意味する。縮合環Aの構造は特に限定されるものではないが、繰り返し耐久性が向上するという理由から、(I)芳香族炭化水素環、
(II)脂環式炭化水素環、又は(III)複素環であるのが好ましい。
【0016】
(I)芳香族炭化水素環としては、環を形成する炭素数が6〜10であるもの、例えばベンゼン環、ナフタレン環等が好ましい。該芳香族炭化水素環は、置換基を有してもよく、このような置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基等のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基等のアルコキシ基;を挙げることができる。これらの置換基の中でもメチル基やメトキシ基が特に好ましい。また、該置換基が芳香族炭化水素環に結合している位置および数については特に限定はされない。
【0017】
(II)脂環式炭化水素環としては、環を形成する炭素数が4〜12であるもの、例えば、シクロプロパン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロオクタン環等が挙げられる。該脂環式炭化水素は、前記芳香族炭化水素環と同様、置換基を有してもよい。かかる置換基としては、芳香族炭化水素環(I)の項で例示したものを挙げることができ、これらの中でもメチル基やメトキシ基が特に好ましい。また、該置換基が脂環式炭化水素環に置換する位置および数については特に限定はされない。
【0018】
(III)複素環としては、環を構成する原子の中に酸素、硫黄、窒素等のヘテロ原子を少なくとも1つ以上含み、環を形成する原子数が4〜10であるものが好ましい。好適な複素環としては、フラン環、チオフェン環、ピロール環、ピリジン環、ピロリジン環、ピペリジン環、モルホリン環、インドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、キノリン環、イソキノリン環、インドリン環、クロマン環等が挙げられる。また、ヘテロ原子が窒素原子であり、かつ該窒素原子に水素原子が結合しているときには、該水素原子をメチル基に置換してもよい。
【0019】
本発明のクロメン化合物においては、上述した縮合環Aの中でも、発色濃度が向上するという理由から、(I)芳香族炭化水素環が最も好ましい。
【0020】
(基R及びR
前記式(1)において、R及びRは、それぞれ、水素原子、ヒドロキシル基、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アラルキル基、アラルコキシ基、又はアリール基であり、また、RとRは一緒になって環を形成していてもよい。
【0021】
ここで、アルキル基としては、特に限定はされないが、一般的には炭素数1〜9のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基等が好ましい。
【0022】
シクロアルキル基としては、特に限定はされないが、一般的には炭素数3〜12のもの、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が好適である。
【0023】
アルコキシ基としては特に限定されないが、一般的には炭素数1〜5のもの、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基等が好適である。
また、アルコキシ基のうち、置換基としてアルコキシ基を有する置換アルコキシ基、例えば下記一般式;
−O−R−O−R
式中、Rは、メチレン基、エチレン基またはプロピレン基であり、
はメチル基、エチル基、プロピル基である、
で示される置換アルコキシ基も好適に用いることができる。かかる置換アルコキシ基の中では、メトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基、エトキシエトキシ基等が最も好適である。
【0024】
アラルキル基としては特に制限されないが、一般的には炭素数7〜11のもの、具体的には、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基等を挙げることができる。
【0025】
アラルコキシ基としては、特に限定されないが炭素数6〜10のもの、例えば、フェノキシ基、ナフトキシ基等を挙げることができる。
【0026】
アリール基としては、特に限定されないが、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基、もしくは環を形成する原子数が4〜12の芳香族複素環基が好ましい。このようなアリール基の具体例としては、フェニル基、ナフチル基、チエニル基、フリル基、ピロリニル基、ピリジル基、ベンゾチエニル基、ベンゾフラニル基、ベンゾピロリニル基等を挙げることができる。また、これらアリール基の1もしくは2以上の水素原子が、上述と同様のアルキル基、アルコキシ基、アラルキル基、アラルコキシ基等の置換基で置換された置換アリール基も好適である。
【0027】
また、基Rと基Rとが互いに連結して形成する環としては、環を形成する元素の数が3〜10である環が好ましい。このような環としては脂肪族炭化水素環や酸素原子、窒素原子、硫黄原子などのヘテロ原子を含むヘテロ環が挙げられる。また、かかる脂肪族炭化水素環やヘテロ環は、炭素数1〜5のアルキル基やアルコキシ基を置換基として有していてもよく(置換基の数および置換する位置に関しては特に制限はない)、さらにベンゼン、ナフタレンなどの芳香族炭化水素環がさらに縮環していてもよい。このような基Rと基Rとにより形成される環の具体例としては、以下のものを例示することができる。なお、下記に示す環において、最も下に位置する2つの結合手を有する炭素原子(スピロ炭素原子)が、基R及び基Rが結合している7員環中の炭素原子に相当する。
【0028】
【化8】

【0029】
また、上述した基Rと基Rとは、一緒になって、これらの基が結合している炭素原子とともにカルボニル基を形成していてもよい。即ち、このカルボニル基(>C=O)中の炭素原子が7員環中の炭素原子であり、カルボニル基中の酸素原子を、基Rと基Rとが一緒になって示すものである。
【0030】
(基R〜基R
前記式(1)において、基R、R、RおよびRは、それぞれ、ヒドロキシル基、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アラルキル基、アラルコキシ基、アリール基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、ハロゲノアルキル基、ハロゲノアルコキシ基、または複素環基である。
【0031】
ここで、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アラルキル基、アラルコキシ基、アリール基は前述の基Rおよび基Rにおいて説明した基と同様な置換基が好適な例として挙げられる。
【0032】
またアミノ基は、一級アミノ基に限定されず、置換基を有する2級アミノ基や3級アミノ基であってもよい。かかるアミノ基が有する置換基としては、特に限定されないが、アルキル基またはアリール基が代表的である。このような置換アミノ基(2級アミノ基或いは3級アミノ基)の好適な例としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基等のアルキルアミノ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基;フェニルアミノ基等のアリールアミノ基;ジフェニルアミノ基等のジアリールアミノ基;などを挙げることできる。
【0033】
ハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子を挙げることができる。
【0034】
ハロゲノアルキル基としては、前述した基R及びRに関して示したアルキル基の1または2以上の水素原子がフッ素原子、塩素原子あるいは臭素原子で置換されたものが挙げられる。これらの中でもフッ素原子で置換されたもの、例えばフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基等が好適である。
【0035】
ハロゲノアルコシ基としては、前述したアルコキシ基の1または2以上の水素原子がフッ素原子、塩素原子、あるいは臭素原子で置換されたものを挙げることができる。特に好適なハロゲノアルコキシ基は、フルオロアルコキシ基、例えばフルオロメトキシ基、ジフルオロメトキシ基、トリフルオロメトキシ基等である。
【0036】
また、複素環基は、窒素原子をヘテロ原子として有し該窒素原子が結合手として結合するものであり、このような複素環基は、特にクロメン化合物のモノマー成分に対する溶解性を向上させる効果が高く、ホスト材料へのクロメン化合物の分散性を高めるという点で特に好適である。このような複素環基として代表的なものは、モルホリノ基、ピペリジノ基等を挙げることができる。さらに、該複素環基は、メチル基等のアルキル基を置換基として有していてもよい。このような置換基を有する複素環基としては、2,6−ジメチルモルホリノ基、2,6−ジメチルピペリジノ基、2,2,6,6−テトラメチルピペリジノ基等が挙げられる。
【0037】
本発明において、上述した基R、R、RおよびRとしては、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、及び複素環基が好適である。
【0038】
(a〜d)
前記式(1)において、a、b、c、dは、それぞれ基R、R、R、R数を表すものであるが、aおよびbは、それぞれ、0〜4の整数であり、c、dは、それぞれ、0〜5の整数である。クロメン化合物が中間色の色調に発色するという観点から、aは0〜2であることが好ましく、b、c及びdの少なくとも1つの数は0〜2であることが好ましい。また、b、c及びdの数の少なくとも1つが2であるとき、2個の基R、RまたはRの結合位置は、下記式(4)〜(6)に示す位置であるのが好ましい。
尚、下記式(4)〜(6)において、基R及び基Rは、2個の基Rを示し、基R10及び基R11は、2個の基Rを示し、基R12及び基R13は、2個の基
を示している。
【0039】
【化9】

【0040】
【化10】

【0041】
【化11】

【0042】
また、本発明において、基Rが複数存在する場合、複数の基Rが結合して環を形成していてもよい。例えば、前記式(4)において、基Rおよび基Rが結合し、下記式(7)で示されるような環Bを形成することができる。
【0043】
【化12】

【0044】
前記式(7)における環Bとしては、環を形成する元素数が5〜7の脂肪族環、芳香族環及び複素環を例示することができ、かかる環Bには、メチル基等のアルキル基を置換基として有していてもよい。また、複素環としては、酸素原子、窒素原子または硫黄原子などのヘテロ原子を1〜2つ含むものを挙げることができる。このような環Bとして好適なものの例は、以下の通りである。
【0045】
【化13】

【0046】
(クロメン化合物の具体例)
本発明において、特に好適なクロメン化合物は、下記式(2)で示すことができる。式(2)中、基Rは前述の基Rと同義であり、eは基Rの数を示し、0から4の整数である。
【0047】
【化14】

【0048】
更に、前記式(2)で示されるクロメン化合物において、基Rの結合位置は、下記式(3)で示す位置であることが好ましい。
【0049】
【化15】

【0050】
前記式(3)で示されるクロメン化合物の具体例としては、以下の化合物を挙げることができる。
【0051】
【化16】

【0052】
【化17】

【0053】
【化18】

【0054】
本発明のクロメン化合物は、一般に常温常圧で無色、あるいは淡黄色の固体または粘稠な液体として存在し、次の(a)〜(c)のような手段で確認できる。
【0055】
(a) プロトン核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR)を測定することにより、δ5.0〜9.0ppm付近にアロマティックなプロトン及びアルケンのプロトンに基づくピーク、δ1.0〜4.0ppm付近にアルキル基及びアルキレン基のプロトンに基づくピークが現れる。また、それぞれのスペクトル強度を相対的に比較することにより、それぞれの結合基のプロトンの個数を知ることができる。
【0056】
(b) 元素分析によって相当する生成物の組成を決定することができる。
【0057】
(c) 13C−核磁気共鳴スペクトル(13C−NMR)を測定することにより、δ110〜160ppm付近に芳香族炭化水素基の炭素に基づくピーク、δ80〜140ppm付近にアルケン及びアルキンの炭素に基づくピーク、δ20〜80ppm付近にアルキル基及びアルキレン基の炭素に基づくピークが現われる。
【0058】
(クロメン化合物の製造)
本発明の式(1)で示されるクロメン化合物は、例えば以下の方法で製造することができる。
【0059】
即ち、下記式(i);
【化19】

式中、縮合環A、R〜R、aおよびbは、前記式(1)における定義と同
義である、
で示されるナフトール誘導体を出発原料とし、このナフトール誘導体を酸触媒存在下でプロパルギルアルコール誘導体と反応させることにより、本発明のクロメン化合物を製造することができる。
【0060】
尚、上記式(i)で表されるナフトール誘導体は、以下に示す3段階での反応を含む工程で製造することができる。(下記の反応工程で、縮合環A、R〜R、aおよびbは、全て式(1)で示した通りである。)
【0061】
【化20】

【0062】
【化21】

【0063】
【化22】

【0064】
前記1段目の反応では、ナフトール誘導体(i-1)と環Aを有するボロン酸誘導体を反応させることで、ナフトール誘導体(i-2)を合成する。かかる反応は、パラジウム触媒および塩基の存在下で行われる。パラジウム触媒としてはテトラキストリフェニルフォスフィンパラジウムが用いられ、塩基としては炭酸ナトリウムや炭酸カリウムが用いられる。ナフトール誘導体(i-1)とボロン酸誘導体の反応比率は1:1〜1:4(モル比)の範囲から選択される。また、パラジウム触媒の添加量はナフトール誘導体(i-1)に対して0.1〜5.0モル%の範囲が好ましく、塩基の添加量はナフトール誘導体(i-1)に対して1〜3モル倍の範囲が好ましい。反応温度は40〜100℃が好ましく、溶媒としてはテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、トルエン等が使用される。
【0065】
前記2段目の反応では、1段目の反応で得られたナフトール誘導体(i-2)にグリニャール試薬を反応させることで、ナフトール誘導体(i-3)を合成する。該反応工程におけるナフトール誘導体(i-2)とグリニャール試薬の反応比率は1:2〜1:10(モル比)の範囲から選択される。反応温度は−78〜0℃が好ましく、溶媒としてはテトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、トルエン等が使用される。
【0066】
前記3段目の反応では、2段目の反応で得られたナフトール誘導体(i-3)を酸触媒存在下で反応させることにより目的とするナフトール誘導体(i)を合成する。
該反応に使用される酸触媒としては、硫酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等が使用される。酸触媒の使用量はナフトール誘導体(i-3)に対して4〜10モル倍の範囲から選択される。反応温度は70〜140℃が好ましく、溶媒としてはテトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、プロパノール、ブタノール等が使用される。
【0067】
このような工程により得られたナフトール誘導体(i)は、単離精製された後にプロパルギルアルコール誘導体との反応に供される。このとき、精製方法としては、シリカゲルカラム精製を行った後にさらに再結晶する方法が好適に採用される。
【0068】
また、上記のナフトール誘導体と反応させるプロパルギルアルコール誘導体は、下記式(ii)で表される。
【化23】

式中、R、R、cおよびdは、前記式(1)における定義と同義である。
【0069】
上記の式(ii)で示されるプロパルギルアルコール誘導体は、例えば、前記式(ii)に対応するケトン誘導体とリチウムアセチリド等の金属アセチレン化合物とを反応させることにより合成できる。
【0070】
式(i)で示されるナフトール誘導体と式(ii)で示されるプロパルギルアルコール誘導体との反応は、酸触媒存在下で行われるが、これら2種の化合物の反応比率は、一般には1:10〜10:1(モル比)の範囲から選択される。
【0071】
また、酸触媒としては硫酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、酸性アルミナ等が用いられ、ナフトール誘導体とプロパルギルアルコール誘導体との総質量100質量部に対して0.1〜10質量部の範囲で用いられる。反応温度は、通常0〜200℃が好ましく、溶媒としては、非プロトン性有機溶媒、例えば、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン等が使用される。
【0072】
反応により得られる生成物の精製方法としては特に限定されない。例えば、シリカゲルカラム精製を行い、さらに再結晶により、生成物の精製を行こうことができる。
【0073】
(クロメン化合物の特性及び用途)
このようにして得られる本発明のクロメン化合物は、トルエン、クロロホルム、テトラヒドロフラン等の一般の有機溶媒によく溶ける。このような溶媒に本発明のクロメン化合物を溶かしたとき、一般に溶液はほぼ無色透明であり、太陽光あるいは紫外線を照射すると速やかに発色し、光を遮断すると可逆的に速やかに元の無色にもどる良好なフォトクロミック作用を呈する。
【0074】
本発明のクロメン化合物は、プラスチックレンズのような光学物品の用途に適用できる。例えば、後述する重合性単量体と混合してフォトクロミック硬化性組成物とし、コーティング法やインマス法によってフォトクロミックプラスチックレンズを作製することができる。特に、本発明のクロメン化合物は、他のフォトクロミック化合物と併用せず、それ単独で中間色に発色し、単位量あたりの発色濃度が高いという特性を有しており、このため、コーティング法により作製したフォトクロミックプラスチックレンズでも良好なフォトクロミック特性を示す。
【0075】
本発明のクロメン化合物を用いてコーティング法によりフォトクロミックプラスチックレンズを製造する場合には、従来のコーティング法と同様にして製造することができる。たとえば前述の特許文献3に記載されている方法に従ってフォトクロミックコーティング剤を調製し、それをレンズ表面に塗布し、硬化させることによりフォトクロミックプラスチックレンズを製造することができる。
【0076】
フォトクロミックコーティング剤は、シラノール基または加水分解によりシラノール基を生成する加水分解性基を有するラジカル重合性単量体(シリルモノマーとも言う)と、このようなシラノール基や加水分解性基を含んでいない通常のラジカル重合単量体とからなる単量体組成物にフォトクロミック化合物を溶解することにより調製することができる。このようなコーティング剤中のラジカル重合性単量体(シリルモノマー及び通常のラジカル重合性単量体)の使用量は特に限定されないが、全コーティング剤の総質量を基準として20〜90質量%、特に40〜80質量%とするのが好適である。また、フォトクロミック化合物の配合量は、全コーティング剤の総質量を基準として、0.01〜20質量%、好ましくは0.05〜15質量%、さらに好ましくは0.1〜10質量%の範囲である。フォトクロミック化合物の配合量が0.01質量%以下では発色濃度が低くなることがあり、一方、20質量%以上では重合性単量体に十分に溶解しないため不均一となり、発色濃度のむらが生じることがある。
【0077】
上記フォトクロミックコーティング剤の調製に際して使用されるシリルモノマーとしては、以下のものを例示することができる。
γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、
γ−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、
γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、
(3−アクリロイルオキシプロピル)ジメチルメトキシシラン、
(3−アクリロイルオキシプロピル)メチルジメトキシシラン、
(3−アクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、
(メタクリロイルオキシメチル)ジメチルエトキシシラン、
メタクリロイルオキシメチルトリエトキシシラン、
メタクリロイルオキシメチルトリメトキシシラン、
メタクリロイルオキシプロピルジメチルエトキシシラン、
メタクリロイルオキシプロピルジメチルメトキシシラン等。
【0078】
このようなシリルモノマーの使用量は特に限定されないが全コーティング剤の総質量を基準として0.5〜20質量%、特に1〜10質量%であるのが好適である。
【0079】
また、シリル基や加水分解性基を含まない通常のラジカル重合性単量体としては、以下のものを挙げることができる。
トリメチロールプロパントリメタクリレート、
トリメチロールプロパントリアクリレート、
テトラメチロールメタントリメタクリレート、
テトラメチロールメタントリアクリレート、
トリメチロールプロパントリエチレングリコールトリアクリレート、
ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、
ウレタンオリゴマーテトラアクリレート、
ウレタンオリゴマーヘキサメタクリレート、
ウレタンオリゴマーヘキサアクリレート、
ポリエステルオリゴマーヘキサアクリレート、
ジエチレングリコールジメタクリレート、
トリエチレングリコールジメタクリレート、
テトラエチレングリコールジメタクリレート、
トリプロピレングリコールジメタクリレート、
ビスフェノールAジメタクリレート、
2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、
グリシジルメタクリレート、
平均分子量776の2,2−ビス(4−アクリロイルオキシポリエチレング
リコールフェニル)プロパン、
平均分子量475のメチルエーテルポリエチレングリコールメタアクリレー
ト等。
【0080】
また、これらのラジカル重合性単量体と共に、4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、ビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン、2,2−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、スクシンイミジル−4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート等のマレイミド基を含むラジカル重合性単量体を併用することもできる。
【0081】
フォトクロミック化合物としては、前述した本発明のクロメン化合物が使用される。本発明のクロメン化合物は、他のフォトクロミック化合物と併用せず、それ単独で中間色に発色し、単位量あたりの発色濃度が高いという特徴を有するが、本発明のクロメン化合物をフォトクロミックレンズに使用する場合、所望する色調を得るために、その他のフォトクロミック化合物と合わせて用いることも可能である。
このように本発明のクロメン化合物と合わせて使用されるフォトクロミック化合物としては、ナフトピラン化合物、クロメン化合物、スピロオキサジン化合物、スピロピラン化合物、フルギミド化合物等の公知のフォトクロミック化合物が使用でき、これらの他のフォトクロミック化合物は、単独で本発明のクロメン化合物と併用してもよいし、2種以上を併用してもよい。このようなフォトクロミック化合物を具体的に例示すると次のようなフォトクロミック化合物を挙げることができる。
【0082】
【化24】

【0083】
【化25】

【0084】
【化26】

【0085】
【化27】

【0086】
【化28】

【0087】
また、上述のフォトクロミックコーティング剤には、通常、ラジカル重合開始剤が添加される。ラジカル重合開始剤としては、光重合開始剤及び/又は熱重合開始剤(化学重合開始剤)が使用される。これらラジカル重合開始剤の使用量は、重合条件や開始剤の種類、ラジカル重合性単量体の種類や組成によって異なり、一概に限定できないが、一般には、全コーティング剤の総質量を基準として0.01〜10質量%の範囲で用いるのが好適である。
【0088】
なお、好適に使用される重合開始剤の例としては、以下のものを例示することができる。
【0089】
光重合開始剤;
ベンゾイン、
ベンゾインメチルエーテル、
ベンゾインブチルエーテル、
ベンゾフェノール、
アセトフェノン4,4’−ジクロロベンゾフェノン、
ジエトキシアセトフェノン、
2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、
ベンジルメチルケタール、
1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパ
ン−1−オン、
1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、
2−イソプロピルチオオキサントン、
ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペン
チルフォスフィンオキサイド、
ビス(2,4,6―トリメチルベンゾイル)−フェニルフォシフィンオキ
サイド、
2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニル−フォスフィンオキサイド、
2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−
ブタノン−1等。
【0090】
熱重合開始剤;
ベンゾイルパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、デカ
ノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイ
ド等のジアシルパーオキサイド;
t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキ
シジカーボネート、クミルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキ
シベンゾエート等のパーオキシエステル;
ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパー
オキシジカーボネート、ジ−sec−ブチルオキシカーボネート等のパーカ
ーボネート類;
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(4−ジメ
チルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、
1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カーボニトリル)等のアゾ化合
物;
【0091】
さらに、上述のフォトクロミックコーティング剤には、密着性の向上、フォトクロミック化合物の耐久性の向上、発色速度の向上、退色速度の向上や成形性の向上のために、さらに、トリエタノールアミンなどのアミン化合物、γ-アミノプロピルトリエトシキシランなどのシラノール基または加水分解によりシラノール基を生成する基を有するシランカップリング剤(重合性基を有していない点で前述したシリルモノマーとは異なっている)、酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色防止剤、帯電防止剤、蛍光染料、染料、顔料、香料、可塑剤等の添加剤を添加しても良い。また、フォトクロミックコーティング剤を硬化させるために重合開始剤を配合することも極めて好ましい。添加するこれら添加剤としては、公知の化合物が何ら制限なく使用される。
【0092】
本発明のクロメン化合物を含有するフォトクロミックコーティング剤をレンズ基材等に塗布する際の塗布方法は特に限定されず公知の被覆(コーティング)方法がなんら制限なく適用できる。具体的には、該組成物をスピンコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティング、ディップ−スピンコーティング等の方法で塗布する方法が例示される。このような方法により塗布されるコーティング剤層の厚さ(硬化後のコート層の厚さに対応する)は特に限定されない。このとき、レンズ基材には予めアルカリ性溶液による表面処理あるいはプラズマ処理等の表面処理を施してもよく、更に(これら表面処理と併せて又はこれら表面処理を行なわずに)基材とコート膜との密着性を向上させるためにプライマーを施用することもできる。
【0093】
レンズ基材に塗布されたフォトクロミックコーティング剤を硬化させる方法は特に限定されず、用いるラジカル重合性単量体の種類に応じた公知の重合方法を採用することができる。重合開始手段は、種々の過酸化物やアゾ化合物などのラジカル重合開始剤の使用、または紫外線、α線、β線、γ線等の照射あるいは両者の併用によって行うことができる。特に好ましい重合方法は、上記光重合開始剤を配合した本発明の硬化性組成物に対し紫外線を照射し硬化させた後、さらに加熱して重合を完結させる方法である。
【0094】
このような、本発明のクロメン化合物を用いたコーティング法により製造されるフォトクロミックプラスチックレンズは、高い発色濃度で中間色に発色し、しかも発色時や退色時の色ずれが少なく、長期間使用しても発色時の色調が変化し難いという特徴を有する。
【0095】
なお、当然のことながら、本発明のクロメン化合物は、コーティング法によるフォトクロミックレンズの用途にその使用が限定されるものではなく、高分子固体マトリックス中でも同様なフォトクロミック特性を示す。かかる対象となる高分子固体マトリックスとしては、本発明のクロメン化合物が均一に分散するものであればよく、光学的に好ましくは、例えばポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリジメチルシロキサン、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂を挙げることができる。
【0096】
また、その他の高分子固体マトリックスとしては、以下のラジカル重合性多官能単量体を重合してなる熱硬化性樹脂を挙げることができる。
【0097】
多価アクリル酸及び多価メタクリル酸エステル化合物;
エチレングリコールジアクリレート、
ジエチレングリコールジメタクリレート、
トリエチレングリコールジメタクリレート、
テトラエチレングリコールジメタクリレート、
エチレングリコールビスグリシジルメタクリレート、
ビスフェノールAジメタクリレート、
2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、
2,2−ビス(3,5−ジブロモー4ーメタクリロイルオキシエトキシフ
ェニル)プロパン等。
【0098】
多価アリル化合物;
ジアリルフタレート、
ジアリルテレフタレート、
ジアリルイソフタレート、
酒石酸ジアリル、
エポキシこはく酸ジアリル、
ジアリルフマレート、
クロレンド酸ジアリル、
ヘキサフタル酸ジアリル、
ジアリルカーボネート、
アリルジグリコールカーボネート、
トリメチロールプロパントリアリルカーボネート等。
【0099】
多価チオアクリル酸及び多価チオメタクリル酸エステル化合物;
1,2−ビス(メタクリロイルチオ)エタン、
ビス(2−アクリロイルチオエチル)エーテル、
1,4−ビス(メタクリロイルチオメチル)ベンゼン等。
【0100】
アクリル酸エステル化合物及びメタクリル酸エステル化合物;
グリシジルアクリレート、
グリシジルメタクリレート、
β−メチルグリシジルメタクリレート、
ビスフェノールA−モノグリシジルエーテル−メタクリレート、
4−グリシジルオキシメタクリレート、
3−(グリシジル−2−オキシエトキシ)−2−ヒドロキシプロピルメタ
クリレート、
3−(グリシジルオキシ−1−イソプロピルオキシ)−2−ヒドロキシプ
ロピルアクリレート、
3−グリシジルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)−2−ヒドロキ
シプロピルアクリレート等。
【0101】
その他のラジカル重合性多官能単量体;
ジビニルベンゼン等。
【0102】
また、上記のような多官能単量体に、単官能単量体を共重合させた共重合体も、高分子固体マトリックスとして使用することができる。このような単官能単量体としては、以下のものを例示することができる。
【0103】
不飽和カルボン酸;
アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸等。
(メタ)アクリル酸エステル;
アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ベンジル、メタク
リル酸フェニル、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等。
フマル酸エステル;
フマル酸ジエチル、フマル酸ジフェニル等。
チオ(メタ)アクリル酸エステル;
メチルチオアクリレート、ベンジルチオアクリレート、ベンジルチオメタ
クリレート等。
ビニル化合物;
スチレン、クロロスチレン、メチルスチレン、ビニルナフタレン、α−メ
チルスチレンダイマー、ブロモスチレン等。
【0104】
本発明のクロメン化合物は、上述した高分子固体マトリックス中でもフォトクロミック性を発揮できる。従って、上述した高分子固体マトリックスを重合して得る際に、該クロメン化合物を該高分子固体マトリックス中に均一に分散させるインマス“in mass”法に適用することもできるし、熱可塑性樹脂と該クロメン化合物を溶融状態にて混練し、樹脂中に分散させる方法を採用することもできる。
【0105】
前記高分子固体マトリックス中に本発明のクロメン化合物が分散した高分子成形体は、フォトクロミック光学物品の構成部材とすることができる。
また、本発明のクロメン化合物は、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂の表面に該クロメン化合物を染色することにより樹脂中に分散させる方法等によって各種基材にフォトクロミック性を付与することもできる。
【0106】
さらに、本発明のクロメン化合物はフォトクロミックレンズ以外の用途にも適用可能であり、例えば、銀塩感光材に代る各種の記憶材料、複写材料、印刷用感光体、陰極線管用記憶材料、レーザー用感光材料、ホログラフィー用感光材料などの種々の記憶材料として利用できる。その他、本発明のクロメン化合物を用いたフォトクロミック材は、フォトクロミックレンズ材料、光学フィルター材料、ディスプレイ材料、光量計、装飾などの材料としても利用できる。
【実施例】
【0107】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0108】
(実施例1)
ナフトール誘導体及びプロパルギルアルコール誘導体として、以下のものを用意した。
ナフトール誘導体;
【化29】

プロパギルアルコール誘導体;
【化30】

【0109】
上記のナフトール誘導体7.3g(20mmol)とプロパギルアルコール誘導体5.9g(22mmol)を、トルエン400mlに溶解し、さらにp−トルエンスルホン酸を0.15g加えて還流温度で30分攪拌した。反応後、溶媒を除去し、シリカゲル上でのクロマトグラフィーにより精製することにより、白色粉末状の生成物を3.5g得た。
【0110】
この生成物の元素分析値は、以下の通りであった。
C:83.65%
H:5.91%
O:10.44%
この分析値は、C4336の計算値(C:83.74%、H:5.88%、O:10.38%)に良く一致した。
【0111】
また、上記の生成物について、プロトン核磁気共鳴スペクトルを測定したところ、δ1.0〜4.0ppm付近にアルキレン基に基づく15Hのピーク、δ5.2〜δ10.0ppm付近にアロマティックなプロトン、およびアルケンのプロトンに基づく21Hのピークを示した。
【0112】
さらに、13C−核磁気共鳴スペクトルを測定したところ、δ110〜160
ppm付近に芳香環の炭素に基づくピーク、δ80〜140ppm付近にアルケンの炭素に基づくピーク、δ20〜60ppmにアルキルの炭素に基づくピークを示した。
【0113】
上記の結果から単離生成物は、下記構造式で示される化合物であることを確認した。
【化31】

【0114】
(実施例2〜21)
実施例1と同様にして表1〜表5に示したクロメン化合物を合成した。
【0115】
【表1】

【0116】
【表2】

【0117】
【表3】

【0118】
【表4】

【0119】
【表5】

【0120】
得られた生成物について、実施例1と同様な構造確認の手段を用いて構造解析し、表中に示す構造式で示される化合物であることを確認した。表6および表7にこれらの化合物の元素分析値および各化合物の構造式から求めた計算値を示した。
【0121】
【表6】

【0122】
【表7】

【0123】
(実施例22)
実施例1で得られたクロメン化合物を、以下のようにして、光重合開始剤を配合した重合性単量体組成物と混合後、レンズ基材表面に塗布し重合した。
【0124】
重合性単量体組成物としては、以下の処方で各ラジカル重合性単量体を混合したものを使用した。
【0125】
2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパ
ン;50質量部
ポリエチレングリコールジアクリレート(平均分子量532);10質量部
トリメチロールプロパントリメタクリレート;10質量部
ポリエステルオリゴマーヘキサアクリレート
(ダイセルユーシービー社、EB−1830);10質量部
グリシジルメタクリレート;10質量部
【0126】
上記の重合性単量体組成物90質量部に対して、実施例1で得られたクロメン化合物1質量部を添加し十分に混合した後に、重合開始剤0.5質量部、安定剤であるビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートを5質量部、シランカップリング剤であるγ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランを7質量部、およびN−メチルジエタノールアミンを3質量部添加し、十分に混合した。
尚、重合開始剤としては、CGI1850と呼ばれる1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンとビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイドの混合物(重量比1:1)を用いた。
【0127】
上記で得られた混合液の約2gをMIKASA製スピンコーター1H−DX2を用いて、レンズ基材(CR39:アリル樹脂プラスチックレンズ;屈折率=
1.50)の表面にスピンコートした。この表面がコートされたレンズを窒素ガス雰囲気中で出力150mW/cmのメタルハライドランプを用いて、2分間照射し、塗膜を硬化させ、フォトクロミック硬化薄膜(膜厚:40μm)を形成させた。
【0128】
上記のようにして得られたフォトクロミックレンズのフォトクロミック特性を、次のようにして評価し、その結果を表8に示した。
【0129】
(1)極大吸収波長(λmax):
(株)大塚電子工業製の分光光度計(瞬間マルチチャンネルフォトディテクターMCPD3000)により求めた発色後の極大吸収波長である。この極大吸収波長は、発色時の色調に関係する。
【0130】
(2) 発色濃度{ε(120)−ε(0)}:
前記極大吸収波長における、120秒間光照射した後の吸光度{ε(120)}と上記ε(0)との差。この値が高いほどフォトクロミック性が優れているといえる。
【0131】
(3)劣化度={(A0−A)/A0}:
光照射による発色の耐久性を評価するために次の劣化促進試験を行い、劣化度を測定した。
すなわち、得られた試料(フォトクロミックレンズ))をスガ試験器(株)製キセノンウェザーメーターX25により50時間促進劣化させた。この劣化の前後で、前記発色濃度の評価を行い、試験前の発色濃度(A0)および試験後の発色濃度(A50)を測定し、劣化度{(A0−A50)/A0}を算出し、発色の耐久性の指標とした。劣化度が低いほど発色の耐久性が高い。
【0132】
(実施例23〜42)
クロメン化合物として実施例2〜21で得られた化合物を用いた以外は上記と同様にしてフォトクロミック硬化薄膜を得、その特性を評価した。その結果をまとめて表8および表9に示した。
【0133】
【表8】

【0134】
【表9】

【0135】
(比較例1,2)
さらに比較のために、下記式(A)、(B)で表されるクロメン化合物を使用し、前記実施例と同様にしてフォトクロミック硬化薄膜を作製し、その特性を評価した。結果を表10に示した。
【0136】
【化32】

【0137】
【化33】

【0138】
【表10】

【0139】
比較化合物(A)および(B)を用いた場合、コーティング膜を硬化させる際に重合不良が起こり、均一な硬化薄膜を得ることはできなかった。ベンジル位の水素を有するこれら化合物はラジカルに対して不安定であるため、光重合の際に発生したラジカルの一部がこれら化合物との反応(分解)に消費された結果、重合に必要な十分なラジカルが得られなかったことが原因と思われる。
【0140】
実施例1〜21に示す本発明のクロメン化合物は、比較例1および比較例2の化合物に比べて劣化度が低くフォトクロミック特性の繰り返し耐久性が高い。さらに、本発明のクロメン化合物は単位量当たりの発色濃度が高いため、本発明のクロメン化合物を用いてフォトクロミックプラスチックレンズを作製すると、優れたフォトクロミック性を示す。
【0141】
(実施例43、比較例3,4)
次に、インマス法によるフォトクロミック硬化体の評価を次のようにして行った。即ち、下記の処方で、各成分を十分に混合し、フォトクロミック硬化性組成物を調製した。
【0142】
フォトクロミック硬化性組成物
実施例1で得られたクロメン化合物;0.04質量部
テトラエチレングリコールジメタクリレート;13質量部
2,2−ビス[4−(メタクリロキシエトキシ)フェニル]プロパン;48質量部
ポリエチレングリコールモノアリルエーテル;2質量部
トリメチロールプロパントリメタクリレート;20質量部
グリシジルメタクリレート;9質量部
t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサネート(重合開始剤);1質量部
【0143】
次に、得られた組成物をガラス板とエチレン−酢酸ビニル共重合体からなるガスケットで構成された鋳型の中に注入し、注型重合を行った。重合は空気炉を用い、30℃〜90℃で18時間かけ徐々に温度を上げ、90℃で2時間保持した。重合終了後、硬化体を鋳型のガラス型から取り外した。得られた硬化体(厚さ2mm)を試料とし、前述と同様の手法を用いてフォトクロミック特性を評価した。
【0144】
さらに比較のために、実施例1のクロメン化合物に代えて式(A)で示される化合物(比較例3)或いは式(B)で示される化合物(比較例4)を用いて同様にしてフォトクロミック重合体を得、その特性を評価した。その結果を表11に示した。
【0145】
【表11】

【0146】
インマス方式におけるフォトクロミック硬化体の評価においても、本発明のクロメン化合物を用いた実施例43で得られた硬化体(高分子成形体)は、コーティング方式で得られたフォトクロミック硬化体同様に、単位量当たりの発色濃度に優れていることが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示されるクロメン化合物;
【化1】

式中、
Aは縮合環を意味し、
およびRは、それぞれ、水素原子、ヒドロキシル基、アルキル基、
シクロアルキル基、アルコキシ基、アラルキル基、アラルコキシ基または
アリール基であり、RとRは互いに連結して環を形成していてもよく、
さらに、RとRとが一緒になってこれらの基が結合している炭素原子と
ともにカルボニル基を形成していてもよく、
、R、RおよびRは、それぞれ、ヒドロキシル基、アルキル基、
シクロアルキル基、アルコキシ基、アラルキル基、アラルコキシ基、アリ
ール基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、ハロゲノアルキ
ル基、ハロゲノアルコキシ基、または窒素原子をヘテロ原子として有し且
つ該窒素原子を結合手として結合している複素環基であり、Rが複数存
在する場合には、2個のRが結合して環を形成していてもよく、
aおよびbは、それぞれ、0〜4の整数であり、
cおよびdは、それぞれ、0〜5の整数である。
【請求項2】
下記式(2)で示される請求項1に記載のクロメン化合物;
【化2】

式中、
、R、R、R、R、R、a、b、cおよびdは前記式(1)
におけるものと同義であり、
はヒドロキシル基、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、
アラルキル基、アラルコキシ基、アリール基、アミノ基、シアノ基、ニト
ロ基、ハロゲン原子、ハロゲノアルキル基、ハロゲノアルコキシ基であり、
または窒素原子をヘテロ原子として有し且つ該窒素原子を結合手として結
合している複素環基であり、
eは0〜4の整数である。
【請求項3】
下記式(3)で示される請求項2に記載のクロメン化合物;
【化3】

式中、
、R、R、R、R、R、a、b、cおよびdは前記式(1)
におけるものと同義であり、
およびeは、前記式(2)におけるものと同義であり、
およびRは、それぞれ、ヒドロキシル基、アルキル基、シクロアル
キル基、アルコキシ基、アラルキル基、アラルコキシ基、アリール基、ア
ミノ基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、ハロゲノアルキ
ル基、ハロゲノアルコキシ基、または窒素原子をヘテロ原子として有し且
つ該窒素原子を結合手として結合している複素環基であり、
とRが一緒になって環を形成していてもよく、RとRとにより
形成される該環は、元素数が5〜7であり、また該環は、ヘテロ原子とし
て、酸素原子、窒素原子または硫黄原子を1個または2個含んでいてもよ
い。
【請求項4】
請求項1に記載のクロメン化合物と、重合性単量体とを含有するフォトクロミック硬化性組成物。
【請求項5】
内部に請求項1に記載のクロメン化合物が分散した高分子成形体を構成部材として有するフォトクロミック光学物品。
【請求項6】
少なくとも一部が高分子膜で被覆された面を有する光学基材を構成部品として備えた光学物品であって、該高分子膜には、請求項1のクロメン化合物が分散していることを特徴とする光学物品。

【公開番号】特開2009−57300(P2009−57300A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−224235(P2007−224235)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】