説明

クロロベンゼンの製造方法

【課題】 ベンゼンのクロロ化反応によるパラジクロロベンゼンを製造する際に副生する、利用価値の低いポリクロロ化芳香族化合物の効率的な利用技術を提供するものであり、具体的にはポリクロロ化芳香族化合物とベンゼンを原料に、有用なクロロベンゼンを製造する技術を提供する。
【解決手段】ポリクロロ化芳香族化合物とベンゼンの反応からクロロベンゼンを製造する方法において、周期表第11族の金属を単体または化合物として含む触媒、あるいは周期表第11族の金属とテルルを単体または化合物として含む触媒を用いてクロロベンゼンを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリクロロ化芳香族化合物とベンゼンとの反応からクロロベンゼンを製造する方法に関する。詳しくは、周期表第11族の金属を単体または化合物として含む触媒、あるいは周期表第11族の金属とテルルを単体または化合物として含む触媒の存在下に、利用価値の低いポリクロロ化芳香族化合物をベンゼンと反応させてクロロベンゼンに変換することによるクロロベンゼンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パラジクロロベンゼンはPPS(ポリフェニレンスルフィド)樹脂等の原料として、利用価値の高いポリクロロ化芳香族化合物である。近年、PPS樹脂需要の伸長に伴い、パラジクロロベンゼン製造量の増加が望まれている。しかし、ベンゼン及び/又はクロロベンゼンの塩素化によるパラジクロロベンゼンの製造においては、オルトジクロロベンゼンやトリクロロベンゼンが大量に副生し、これらの利用価値の低いポリクロロ化芳香族化合物の処理が大きな問題になっていた。
【0003】
また、ポリ塩化ビフェニル(PCB)などのポリクロロ化芳香族化合物は、猛毒性を有することから、化学的利用が行えず、保管を余儀なくされている問題もあった。
【0004】
このような利用価値の低いポリクロロ化芳香族化合物をベンゼンとの反応からクロロベンゼンに転換する技術(以下、トランス塩素化と称する)は、少ないながら公知である(例えば、特許文献1〜5、非特許文献1および2参照)。ここで、クロロベンゼンは、それ自体、医薬・農薬の原料となる他、前記のパラジクロロベンゼン製造時の中間原料として利用価値の高い化合物である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−311032号公報(第1頁)
【特許文献2】特開平4−312539号公報(第1頁)
【特許文献3】特開平6−065119号公報(第1頁)
【特許文献4】特開平10−218806号公報(第1頁)
【特許文献5】特開平10−218807号公報(第1頁)
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ケミストリーレターズ(Chemistry Letters)、1987年、2051ページ、
【非特許文献2】日本化学会誌、1989年、No.12、1999ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1、非特許文献1および2に記載の方法は、トランス塩素化反応の際に、塩化パラジウムを活性炭に担持した触媒が提案されている。しかし、塩化パラジウムのみでは触媒活性が十分ではなく、活性を得るためには多量の助触媒を必要とする問題があった。また、塩化パラジウムは融点が低いため、揮散しやすく触媒の安定性の面で問題があった。このために、高価なパラジウムを損失するため、経済性の面でも問題を有していた。
【0008】
特許文献2に記載の方法は、トランス塩素化反応の際に、ルテニウムを単体または化合物の形で含有する触媒が提案されている。しかしながら、この触媒系は触媒活性が十分でなく、活性を得るためには高価なルテニウムを多量に用いなければならないという問題があった。また、ルテニウムのみでは触媒活性が十分ではなく、活性を得るには多量の助触媒を必要とするという問題もあった。
【0009】
特許文献3に記載の方法は、トランス塩素化反応の際に、触媒の存在下に塩化水素などのハロゲン化水素を存在させることを特徴とし、触媒寿命の延長が開示されている。この方法によれば、確かに触媒寿命の延長は示唆されているが、ハロゲン化水素の存在は反応系に用いる材質(例えば、炭素鋼やステンレス等)の腐食につながるため、腐食防止の対策を施すという問題があった。
【0010】
特許文献4および5には、トランス塩素化工程を含むパラジクロロベンゼン製造方法が提案されており、トランス塩素化工程には、シリカ・アルミナ、結晶性アルミノシリケートおよび活性アルミナ等の固体酸触媒や活性炭に担持した塩化パラジウム触媒等が開示されている。しかし、固体酸触媒は必ずしも触媒活性が十分でなく、また活性炭に担持した塩化パラジウム触媒は前記の通り、触媒の安定性や経済的な問題があった。
【0011】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的はポリクロロ化芳香族化合物とベンゼンを原料に、有用なクロロベンゼンを製造する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意検討を行った結果、ポリクロロ化芳香族
化合物とベンゼンとの反応からクロロベンゼンを製造する方法において、特定の金属を単体または化合物、あるいは該金属を組合せた触媒を用いる新規なクロロベンゼンの製造方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、ポリクロロ化芳香族化合物とベンゼンとの反応からクロロベンゼンを製造する方法において、周期表第11族の金属を単体または化合物として含む触媒、あるいは周期表第11族の金属とテルルを単体または化合物として含む触媒を使用することを特徴とするクロロベンゼンの製造方法である。
【0014】
本発明のポリクロロ化芳香族化合物は、該化合物が芳香族部位と塩素を含む化合物であり、含まれる炭素原子の個数が少なくとも4個以上でありかつ少なくとも塩素原子の個数が2個以上である化合物が好ましい。この範疇にある化合物であれば、特に限定されるものではないが、より具体的には、2,3−ジクロロフラン、2,4−ジクロロフラン、2,5−ジクロロフラン、トリクロロフランの異性体、テトラクロロフラン、2,3−ジクロロピロール、2,4−ジクロロピロール、2,5−ジクロロピロール、2,3−ジクロロチオフェン、2,4−ジクロロチオフェン、2,5−ジクロロチオフェン、2,3−ジクロロピリジン、2,4−ジクロロピリジン、2,5−ジクロロピリジン、2,6−ジクロロピリジン、トリクロロピリジンの異性体、テトラクロロピリジンの異性体、ペンタクロロピリジン、オルトジクロロベンゼン、メタジクロロベンゼン、パラジクロロベンゼン、1,2,3−トリクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,3,5−トリクロロベンゼン、1,2,3,4−テトラクロロベンゼン、1,2,4,5−テトラクロロベンゼン、ペンタクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、2,3−ジクロロトルエン、2,4−ジクロロトルエン、2,5−ジクロロトルエン、2,6−ジクロロトルエン、2,3−ジクロロアニソール、2,4−ジクロロアニソール、2,5−ジクロロアニソール、2,6−ジクロロアニソール、2−クロロベンジルクロリド、3−クロロベンジルクロリド、4−クロロベンジルクロリド、5−クロロベンジルクロリド、6−クロロベンジルクロリド、2,2’−ジクロロビフェニル、2,3’−ジクロロビフェニル、2,4’−ジクロロビフェニル、2,5’−ジクロロビフェニル、2,6’−ジクロロビフェニル、2,6−ジクロロビフェニル、2,5−ジクロロビフェニル、2,4−ジクロロビフェニル、2,3−ジクロロビフェニル、トリクロロビフェニルの異性体、テトラクロロビフェニルの異性体、ペンタクロロビフェニルの異性体、ヘキサクロロビフェニルの異性体、ヘプタクロロビフェニルの異性体、オクタクロロビフェニルの異性体、ノナクロロビフェニルの異性体、デカクロロビフェニル、1,2−ジクロロナフタレン、1,3−ジクロロナフタレン、1,4−ジクロロナフタレン、1,5−ジクロロナフタレン、1,6−ジクロロナフタレン、1,7−ジクロロナフタレン、1,8−ジクロロナフタレン、トリクロロナフタレンの異性体、テトラクロロナフタレンの異性体、ペンタクロロナフタレンの異性体、ヘキサクロロナフタレンの異性体、ヘプタクロロナフタレンの異性体、オクタクロロナフタレン、ジクロロアントラセンの異性体、テトラクロロアントラセンの異性体、ペンタクロロアントラセンの異性体、ヘキサクロロアントラセンの異性体、ヘプタクロロアントラセンの異性体、オクタクロロアントラセンの異性体、ノナクロロアントラセン、デカクロロアントラセン、1,2−ジクロロキノリン、1,3−ジクロロキノリン、1,4−ジクロロキノリン、1,5−ジクロロキノリン、1,6−ジクロロキノリン、1,7−ジクロロキノリン、トリクロロキノリンの異性体、テトラクロロキノリンの異性体、ペンタクロロキノリンの異性体、ヘキサクロロキノリンの異性体、ヘプタクロロキノリン、1,1−ジクロロインデン、1,2−ジクロロインデン、1,3−ジクロロインデン、1,4−ジクロロインデン、1,5−ジクロロインデン、1,6−ジクロロインデン、1,7−ジクロロインデン、1,2―ジクロロフルオレン、1,3―ジクロロフルオレン、1,4―ジクロロフルオレン、1,5―ジクロロフルオレン、1,6―ジクロロフルオレン、1,7―ジクロロフルオレン、1,8―ジクロロフルオレン、9,9―ジクロロフルオレン、トリクロロフルオレンの異性体、テトラクロロフルオレンの異性体、ペンタクロロフルオレンの異性体、ヘキサクロロフルオレンの異性体、ヘプタクロロフルオレンの異性体、オクタクロロフルオレンの異性体、ノナクロロフルオレンの異性体、デカクロロフルオレン、1,2−ジクロロピレン、1,3−ジクロロピレン、1,4−ジクロロピレン、1,5−ジクロロピレン、1,6−ジクロロピレン、1,7−ジクロロピレン、1,8−ジクロロピレン、1,9−ジクロロピレン、1,10−ジクロロピレン、トリクロロピレンの異性体、テトラクロロピレンの異性体、ペンタクロロピレンの異性体、ヘキサクロロピレンの異性体、ヘプタクロロピレンの異性体、オクタクロロピレンの異性体、ノナクロロピレンの異性体、デカクロロピレン、さらにポリクロロビフェニル(PCB)等のクロロ化された芳香族ポリマーが例示されるが、本発明では、これらを1種あるいは数種混合して用いることが出来る。
【0015】
これらのうち、クロロベンゼンの収率が高いことから、好ましくはメタジクロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン、パラジクロロベンゼンまたはそれらの混合物が用いられる。
【0016】
本発明で用いられる触媒は、周期表第11族の金属を単体または化合物として含む触媒、あるいは周期表第11族の金属とテルルを単体または化合物として含む触媒であることから、高収率でクロロベンゼンを得ることができる。
【0017】
ここで、周期表第11族の金属とは、例えば銅、銀、金またはそれらの混合物である。金属は単体または化合物の状態で触媒として用いることができる。銅化合物としては、例えば、塩化銅(I)、塩化銅(II)、塩化銅(II)二水和物、塩化二カリウム銅(II),塩化二アンモニウム銅(II)二水和物、(クロロフタロシアニナト)銅(II)、ナフテン酸銅、臭化銅(I)、弗化銅(II)、沃化銅(I)、酸化銅(II)、二燐酸銅(II)四水和物、チオシアン酸銅(I)、硝酸銅(II)三水和物、硫酸銅(II)、蟻酸銅(II)四水和物、酢酸銅(II)一水和物、シュウ酸銅(II)0.5水和物、テレフタル酸銅(II)三水和物、ビス(アセチルアセトナト)銅(II)、または、これらの化合物を還元処理して得られる銅金属を用いることができる。銀化合物としては、例えば、塩化銀、過塩素酸銀、塩素酸銀、硝酸銀、亜硝酸銀、硫酸銀、酢酸銀、シアン化銀、沃素酸銀、沃化銀、臭化銀、炭酸銀、クロム酸銀、ジシアノ銀酸カリウム、チオシアン酸銀、テトラフルオロ硼酸銀、トリフルオロメタンスルホン酸銀、p−トルエンスルホン酸銀、トリフルオロ酢酸銀、または、これらの化合物を還元処理して得られる銀金属を用いることができる。金化合物としては、例えば、テトラクロロ金(III)酸四水和物、シアン化金(I)、テトラクロロ金(III)酸ナトリウム二水和物、シアン化第一金カリウム、テトラシアノ金(III)酸カリウム、または、これらの化合物を還元処理して得られる金金属を用いることができる。
【0018】
また、テルルとしては、単体または化合物の状態で触媒として用いることができ、例えば、塩化テルル(II)、塩化テルル(IV)、酸化テルル(II)、酸化テルル(VI)、テルル酸、テルル酸カリウム、テルル酸ナトリウム、または、これらの化合物を還元処理して得られるテルル金属を用いることができる。また、周期表第11族の金属とテルルとの合金を用いてもよい。テルル量は、テルル/周期表第11族の金属原子比=0.01〜10の範囲であることが好ましい。
【0019】
これらの触媒を使用する際に、金属単体または化合物をそのまま用いても良いが、連続的な工業プロセスにおいて効率的に使用することができることから、触媒を担体に担持させて用いるのが好ましい。担体として用いる物質に特に制限はなく、アルミナ、活性炭、シリカ、シリカアルミナ、チタニア、シリカジルコニア、リン酸ジルコニウム、アセチレンブラック、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、シリコンカーバイド、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、ハイドロタルサイト、モンモリロナイト、サポナイト、シリカチタニア、ジルコニア、マグネシア等、通常用いられる担体でよいが、好ましくはアルミナまたは活性炭が好適である。
【0020】
触媒を担体に担持させる方法に特に制限はなく、例えば、塩化銅(II)二水和物や硝酸銀等の周期表第11族の金属化合物及びテルル酸等のテルル化合物の水溶液を、アルミナや活性炭等の担体に含浸させた後、乾燥させることによって担持触媒を得ることができる。また、これらの担持触媒を、水素、一酸化炭素、ヒドラジン水溶液、アルコール等で還元し、金属状態の担持触媒を得ることもできる。
【0021】
本発明において、反応させるポリクロロ化芳香化合物とベンゼンの割合は、特に限定されないが、モル比で0.01:1〜100:1で行うことが好ましい。
【0022】
本発明において、ポリクロロ化芳香族化合物とベンゼンとの反応からクロロベンゼンを製造する反応形式は特に制限されず、任意の反応形式で行うことが可能であり、例えば、固定床気相流通式、固定床液相流通式、または懸濁床回分式で行うことができる。これらのうち、クロロベンゼンが効率的に得られることから固定床気相流通式、または固定床液相流通式で行うことが好ましい。反応温度は特に制限はされないが、クロロベンゼンへ効率的に変換できることから、好ましくは100℃〜600℃、さらに好ましくは150℃〜550℃である。反応圧力は特に制限されないが、通常、絶対圧で0.01〜50MPaであり、好ましくは0.05〜30MPaである。また、固定床気相流通式反応の際のガス時間空間速度(GHSV)は、クロロベンゼンへ効率的に変換できることから、好ましくは0.2hr−1〜1000hr−1、さらに好ましくは1hr−1〜800hr−1である。ここで、ガス時間空間速度(GHSV)とは、単位触媒体積当たりの単位時間(hr)に対するポリクロロ化芳香族化合物とベンゼンの供給量の合計体積を表すものである。
【0023】
なお、ポリクロロ化芳香族化合物およびベンゼン原料は、そのまま用いても、不活性ガスで希釈して用いても良い。不活性ガスとしては特に制限されるものではないが、例えば窒素、ヘリウムまたはアルゴン等が挙げられ、これらの不活性ガスは単独で使用するのみならず、二種以上を混合して用いることも可能である。
【0024】
本発明において、ポリクロロ化芳香族化合物とベンゼンとの反応からクロロベンゼンを製造するプロセスは特に制限されず、任意の形式で行うことが可能である。例えば、ベンゼン及び/又はクロロベンゼンの塩素化によるパラジクロロベンゼンの製造方法においては下記の工程1〜4を経ることによりクロロベンゼンを製造することができる。
【0025】
即ち、(工程1)ベンゼン及び/又はクロロベンゼンの塩素化によりパラジクロロベンゼン、メタジクロロベンゼンおよびオルトジクロロベンゼン等のジクロロベンゼンを製造する工程。(工程2)工程1で得られた生成物よりパラジクロロベンゼンを単離する工程。(工程3)工程2で分離された残留物をポリクロロ化芳香族化合物として用いる前記クロロベンゼンの製造方法によりクロロベンゼンを製造する工程。(工程4)工程3で得られた生成物よりクロロベンゼンを単離するとともに、残留物を工程3のクロロ化芳香族化合物として循環する工程、が挙げられる。工程1のジクロロベンゼンの製造方法としては、特に限定されないが、例えば、ベンゼン及び/又はクロロベンゼンを原料に、塩素により塩素化する方法が挙げられる。この際に、パラジクロロベンゼンの選択率を高めることができることから、塩化鉄や塩化アルミニウム等のルイス酸を触媒として用いることが望ましい。工程1で得られたジクロロベンゼン、通常はパラジクロロベンゼン、メタジクロロベンゼン、およびオルトジクロロベンゼンの異性体からなり、工程2でパラジクロロベンゼンが単離される。工程2のパラジクロロベンゼンの単離方法としては、特に限定されないが、晶析等の方法が挙げられる。工程3のクロロベンゼンの製造方法には、ポリクロロ化芳香族化合物として、工程2で分離されたメタジクロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン及び結晶化しなかったパラジクロロベンゼンなどの残留物が用いられる。工程4のクロロベンゼンの単離は、特に限定されないが、蒸留などの方法により行われ、工程4の残留物は工程3に循環され、ポリクロロ化芳香族化合物として利用される。
【0026】
ここで、生成したクロロベンゼンは医薬・農薬原料として用いてもよいし、前記工程1にリサイクルしてパラジクロロベンゼンの原料として用いてもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明は利用価値の低いポリクロロ化芳香族化合物の効率的な利用技術を提供するものであり、具体的にはポリクロロ化芳香族化合物とベンゼンを原料に、有用なクロロベンゼンを製造する技術を提供することである。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0029】
ガスクロマトグラフィー測定
本反応で得られた生成物は、ガスクロマトグラフィー分析装置(島津製作所製、製品名:GC−14A)で、内部標準物質として2−クロロ−エチルベンゼンを用いて分析した。GC−14Aにキャピラリーカラム(Varian社製、製品名:CP−WAX)を取り付け、キャリアーガスに窒素を使用し、カラム温度を、初期温度80℃で8分保持した後、170℃まで毎分9℃で昇温し分析を行った。
【0030】
実施例1
硝酸銅三水和物4.00gを14mlの水に溶解した。この水溶液を活性炭(武田薬品工業製、商品名:粒状白鷺)20gに含浸させた後、50℃、20hPaで減圧乾燥した。その後、水素気流中400℃で還元し活性炭担持銅触媒を得た。この触媒10mlをステンレス製反応管に充填し、1MPaの圧力下、窒素を毎分10mlで流通しながら、400℃まで昇温した。次に、ベンゼンとオルトジクロロベンゼンをモル比で3:1の割合で混合した原料液を、ポンプにより毎分0.083mlで供給した。反応開始後、1時間目から2時間目までの反応管出口反応液を捕集し、ガスクロマトグラフィーで分析した。反応生成物の転化率、選択率および収率は、ガスクロマトグラフィーの結果をもとに以下の式より計算した。
(1)転化率(%)=(単位時間に反応したオルトジクロロベンゼンのモル数/
単位時間に供給したオルトジクロロベンゼンのモル数)×100
(2)選択率(%)=(単位時間に生成したクロロベンゼンのモル数/2/単位
時間に反応したオルトジクロロベンゼンのモル数)×100
(3)収率(%)=転化率×選択率/100
その結果、転化率、選択率および収率は、それぞれ、50.5%、49.2%および24.8%であった。
【0031】
実施例2
硝酸銅三水和物6.00gを10mlの水に溶解した。この水溶液をアルミナ(住友化学製、商品名:KHD−24)30gに含浸させた後、50℃、20hPaで減圧乾燥した。その後、空気気流中400℃で焼成後、水素気流中400℃で還元しアルミナ担持銅触媒を得た。この触媒10mlを用い実施例1と同じ条件で反応を実施した。その結果、転化率、選択率および収率は、それぞれ、13.0%、93.3%および12.1%であった。
【0032】
実施例3
硝酸銅三水和物20.13gを用いた以外は、実施例2と同様にして触媒を調製し、実施例1と同じ条件で反応を実施した。その結果、転化率、選択率および収率は、それぞれ、24.3%、94.1%および22.9%であった。
【0033】
実施例4
硝酸銅三水和物4.00gを20mlの水に溶解した。この水溶液をシリカ(富士シリシア製、商品名:CARiACT Q−10)20gに含浸させた後、50℃、20hPaで減圧乾燥した。その後、空気気流中400℃で焼成後、水素気流中400℃で還元しシリカ担持銅触媒を得た。この触媒10mlを用い実施例1と同じ条件で反応を実施した。その結果、転化率、選択率および収率は、それぞれ、7.1%、77.1%および5.5%であった。
【0034】
実施例5
塩化銅二水和物4.24gを10mlの水に溶解した。この水溶液をアルミナ(住友化学製、KHD−24)30gに含浸させた後、50℃、20hPaで減圧乾燥した。その後、窒素流通下250℃で5時間乾燥し、アルミナ担持塩化銅触媒を得た。この触媒10mlを用い実施例1と同じ条件で反応を実施した。その結果、転化率、選択率および収率は、それぞれ、10.0%、64.2%および6.4%であった。
【0035】
実施例6
硝酸銀1.66gを用いた以外は、実施例1と同様にして触媒を調製し、実施例1と同じ条件で反応を実施した。その結果、転化率、選択率および収率は、それぞれ、5.6%、45.0%および2.5%であった。
【0036】
実施例7
硝酸銅三水和物6.00gとテルル酸2.85gを10mlの水に溶解した。この水溶液をアルミナ(住友化学製、商品名:KHD−24)30gに含浸させた後、50℃、20hPaで減圧乾燥した。その後、空気気流中400℃で焼成後、水素気流中400℃で還元しアルミナ担持銅−テルル触媒を得た。この触媒10mlを用い実施例1と同じ条件で反応を実施した。その結果、転化率、選択率および収率は、それぞれ、17.6%、89.1%および15.7%であった。
【0037】
実施例8
硝酸銅三水和物6.00gとテルル酸0.58gを用いた以外は、実施例7と同様にして触媒を調製し、実施例1と同じ条件で反応を実施した。その結果、転化率、選択率および収率は、それぞれ、21.4%、90.2%および19.3%であった。
【0038】
実施例9
硝酸銅三水和物12.96gとテルル酸12.32gを用いた以外は、実施例7と同様にして触媒を調製し、実施例1と同じ条件で反応を実施した。その結果、転化率、選択率および収率は、それぞれ、27.7%、91.6%、および25.4%であった。
【0039】
実施例10
硝酸銅三水和物4.23gとテルル酸2.01gを15mlの水に溶解した。この水溶液を活性炭(武田薬品工業製、商品名:粒状白鷺)20gに含浸させた後、50℃、20hPaで減圧乾燥した。その後、水素気流中400℃で還元し活性炭担持銅−テルル触媒を得た。この触媒10mlを用い、実施例1と同じ条件で反応を実施した。その結果、転化率、選択率および収率は、それぞれ、49.7%、65.2%、および32.4%であった。
【0040】
実施例11
硝酸銀1.66gとテルル酸1.12gを15mlの水に溶解した。この水溶液を活性炭(武田薬品工業製、商品名:粒状白鷺)20gに含浸させた後、50℃、20hPaで減圧乾燥した。その後、水素気流中400℃で還元し活性炭担持銀−テルル触媒を得た。この触媒10mlを用い、実施例1と同じ条件で反応を実施した。その結果、転化率、選択率および収率は、それぞれ、10.2%、63.8%、および6.5%であった。
【0041】
比較例1
活性炭(武田薬品工業製、商品名:粒状白鷺)をそのまま触媒として用い、実施例1と同じ方法で反応を実施した。その結果、転化率、選択率および収率は、それぞれ、0.3%、61.1%、および0.2%であった。
【0042】
比較例2
アルミナ(住友化学社製、製品名:KHD−24)をそのまま触媒として用い、実施例1と同じ方法で反応を実施した。その結果、転化率、選択率および収率は、それぞれ、0.2%、43.3%、および0.1%であった。
【0043】
比較例3
硝酸銅を用いずテルル酸2.85gを用いた以外は、実施例7と同様にして触媒を調製し、実施例1と同じ条件で反応を実施した。その結果、転化率、選択率および収率は、それぞれ、0.3%、73.5%、および0.2%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリクロロ化芳香族化合物とベンゼンの反応からクロロベンゼンを製造する方法において、ポリクロロ化芳香族化合物がメタジクロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン、パラジクロロベンゼンまたはそれらの混合物であり、周期表第11族の金属とテルルを単体または化合物として含む触媒を使用することを特徴とするクロロベンゼンの製造方法。
【請求項2】
触媒が担体に担持された触媒であることを特徴とする請求項1に記載のクロロベンゼンの製造方法。
【請求項3】
周期表第11族の金属が、銅であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のクロロベンゼンの製造方法。
【請求項4】
少なくとも下記の工程1〜4を経ることを特徴とするクロロベンゼンの製造方法。
工程1;ベンゼン及び/又はクロロベンゼンの塩素化によりジクロロベンゼンを製造する工程。
工程2;工程1で得られた生成物よりパラジクロロベンゼンを単離する工程。
工程3;工程2で分離された残留物をポリクロロ化芳香族化合物として用いる請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の方法によりクロロベンゼンを製造する工程。
工程4;工程3で得られた生成物よりクロロベンゼンを単離するとともに、残留物を工程3のポリクロロ化芳香族化合物として循環する工程。
【請求項5】
工程1で得られたジクロロベンゼンがパラジクロロベンゼン、メタジクロロベンゼンおよびオルトジクロロベンゼンの異性体からなることを特徴とする請求項4に記載のクロロベンゼンの製造方法。
【請求項6】
工程2のパラジクロロベンゼンを単離する方法が晶析であることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のクロロベンゼンの製造方法。
【請求項7】
工程2で分離された残留物がメタジクロロベンゼン、オルトジクロロベンゼンおよび結晶化しなかったパラジクロロベンゼンであることを特徴とする請求項6に記載のクロロベンゼンの製造方法。

【公開番号】特開2010−138178(P2010−138178A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−12910(P2010−12910)
【出願日】平成22年1月25日(2010.1.25)
【分割の表示】特願2004−4321(P2004−4321)の分割
【原出願日】平成16年1月9日(2004.1.9)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】