説明

グラファイトフィルム及びグラファイト複合フィルム

【課題】電子機器、精密機器などの放熱を解決できる優れた熱拡散性と、屈曲部分への使用に耐えうる耐屈曲性を合わせ持つグラファイトフィルムおよびグラファイト複合フィルムを提供する。
【解決手段】MIT耐屈曲試験において、幅15mmの短冊型試験片を使用し、折り曲げクランプの曲率半径Rが2mm、左右の折り曲げ角度135度、折り曲げ速度90回/分、荷重0.98Nの条件で測定した切断するまでの往復折り曲げ回数が10000回以上であるグラファイトフィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器、精密機器などの放熱フィルムおよびヒートスプレッダ材料として使用されるグラファイトフィルムに関し、特に耐屈曲性、熱拡散性の優れたグラファイトフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
コンピューターなどの各種の電子・電気機器に搭載されている半導体素子や、その他の発熱部品などの冷却の問題が注目されている。このような冷却すべき部品の冷却方法としては、それが搭載される機器筐体にファンを取り付け、その機器筐体を冷却する方法や、その冷却する部品にヒートパイプやヒートスプレッダ、ヒートシンクやフィンなどの熱伝導体を取り付け、その素子からの熱を外部に運ぶことで冷却する方法等が一般的である。
冷却すべき部品に取り付ける熱伝導材料としては、アルミニウム板や銅板などが挙げられる。そして、この場合、アルミニウムや銅板の一部、またはヒートパイプに発熱部品を取り付け、更に、その板の他の部分をフィンやファンを用いて外部に放熱する。
【0003】
ところで、近年は半導体素子等の発熱部品が搭載される各機器が小型化され、また、その部材の発熱量が大きくなる傾向がある。しかし筐体が小型化するため、フィンやヒートシンク及びファンなどの部品を挿入するスペースが制限されてきている。
【0004】
そこで近年は、熱伝導体(ヒートコンダクタ)として、熱拡散性に優れるグラファイトフィルムが有力視されている。グラファイトフィルムはカーボンが層状構造をとっており、グラファイトフィルムの面内の熱伝導率が非常に高く、かつ密度が1〜2g/cm3程度と軽い上に、高い電気伝導性を持つ材料である。また、シートの厚さを薄くでき、フレキシブルなために狭い場所や、隙間をぬって取り回す必要のある場所のヒートコンダクタ材やヒートスプレッダ材として期待されている。
【0005】
現在、一般に入手できるグラファイトフィルムとして、高分子熱分解法またはエキスパンド法により製造されたグラファイトフィルムがある。
【0006】
高分子熱分解法は特許文献1、2のように、ポリオキサジアゾール、ポリイミド、ポリフェニレンビニレン、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリチアゾール、またはポリアミド等の高分子フィルムをアルゴン、ヘリウム等の不活性雰囲気下や減圧下で熱処理してグラファイトフィルムを得る方法である。一方、エキスパンド法によるグラファイトは、粉状、燐片状の天然黒鉛を原料として、これを酸に浸漬し、その後、加熱によりグラファイト層間を拡げることによって得られる。さらに粘結材とともに高圧プレス加工し、フィルム状のグラファイトが得られる。
【特許文献1】特開昭61−275116号公報
【特許文献2】特開平2−103478号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現在の電子機器の構造は複雑化が進む一方で大きさは小型化が進んでおり、いかに狭いスペースで、効率的に熱を逃がすかが重要な課題となっている。このような、省スペース部に可撓性を有することが特徴であるグラファイトフィルムを折り曲げて使用しようという試みいくつかがある。例えば、折りたたみ式の携帯電話あるいはノートパソコンの発熱部分の熱を、折り曲げ部分を介して液晶側に逃がすなどのアイデアが考案されている。
【0008】
しかしながら、グラファイトフィルムは材質的に脆く、特に極率半径が小さな曲げの場合や曲げ角度が大きい場合、その曲げ部分で割れが発生してしまうことが多かった。特に、エキスパンド法により得られたグラファイトフィルムは、粉状、燐片状の天然黒鉛を原料とするために、柔軟性は有するものの、グラファイト結晶子が小さく結晶性が劣るために、高分子熱分解法により得られたグラファイトに比べ熱拡散性に劣り、またフィルムの強度も弱く脆いものであった。また、高分子分解法(特許文献1〜2)により得られるグラファイトフィルムもある程度の耐屈曲性、熱拡散性を有するものの、小型化、複雑化が進んだ近年の電子機器の放熱材料としては十分でなかった。
【0009】
そこで、特許文献3に、単結晶グラファイトと同様の物性を呈し、高品質で柔軟性、強靱性に富み熱拡散性に優れたグラファイトシートの製造方法が提案されている。この製造方法は、ポリイミドフィルムを原料として、不活性ガス中で上限温度1000℃〜1600℃の範囲で熱処理を行う第1の熱処理工程と、さらに上限温度が2500℃〜3100℃の範囲で熱処理を行う第2の熱処理工程とを有することを基本的な特徴とし、さらに昇温速度や一定温度などの熱処理条件を制御することにより適当な特性を有するグラファイトシートの製造方法であり、さらに圧延処理を施すことにより柔軟性を発現する方法である。さらに、特許文献3の請求項7記載のように、グラファイトシートの密度は0.3〜0.7g/ccの範囲にあるか、グラファイトシートの膜厚は原料フィルムの膜厚の2倍から10倍の範囲にあると、後処理の圧延処理を施すと柔軟性、強靭性が優れたグラファイトシートが得られ、特許文献3の請求項8記載のように、圧延処理により得られるグラファイトシートの密度が0.7〜1.5g/ccの範囲にあると得られるグラフィトシートの柔軟性、強靭性が優れるといったグラファイトフィルムの製造方法が開示されている。しかしながら、特許文献3に記載の製造方法で作製されるグラファイトフィルムでも、極率半径が小さな曲げの場合や曲げ角度が大きい場合、フィルムが切断しやすく、近年の小型電子機器へ導入するには十分な耐屈曲性を示すことができない場合があった。
【特許文献3】特開2000−178016号公報
【0010】
また、「耐屈曲性」と「熱拡散性」は、相反する特性である。特許文献3に記載したように、フィルム内部に折り曲げ時にグラファイト層が移動できる空間を黒鉛化過程で作製し、耐屈曲性を向上させることができるものの、この空間により熱の移動が阻害され熱拡散性は低下する。特許文献3の製造方法で作製されるグラファイトフィルムも、耐屈曲性を追求したために、熱の拡散性が悪く、近年の電子機器の発熱量の増加に対応できなかった。
【0011】
また、グラファイトフィルムの片面または両面に補強材を設けて、機械的強度を高める技術が提案されている。例えば、特許文献4には、膨張黒鉛シートの両面にプラスチックフィルムを重ね合わせ、これらの重合面において、プラスチックフィルムの少なくとも一部が膨張黒鉛シートに溶着接合されている膨張黒鉛ラミネートシートが開示されている。
【0012】
また、特許文献5には、グラファイトフィルムの少なくとも片面にプラスチックテープを熱融着することで接続される熱伝導シートが開示されている。また、特許文献6のように、グラファイトフィルムよりも剛性の低い高分子材料層が設け、グラファイトフィルムに曲げなどの応力が生じても、隣接する高分子材料層がずれによりその応力を吸収してグラファイトフィルムの応力が軽減され、グラファイトフィルムを破損することなく変形が可能になるといった放熱シートが開示されている。しかしながら、強度不足をプラスチックテープ等の支持部材で補っても、特許文献1〜6に記載したようなグラファイトフィルムでは、極率半径が小さな曲げの場合や曲げ角度が大きい場合、支持体自体は破壊されないもののグラファイトフィルムのみが破壊されることがあり、近年の電子機器への使用には十分な耐屈曲性を示すことができなかった。
【特許文献4】特開平6−134917号公報
【特許文献5】特開平11−58591号公報
【特許文献6】特開2003−168882公報
【0013】
このように、グラファイトフィルムの耐屈曲性を改善する試みはいくつかなされているものの、近年の電子機器へ搭載するために十分な特性を達成できておらず、熱拡散性が高く耐屈曲性に優れたグラファイトフィルムの開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち本願発明の第一は、MIT耐屈曲試験において、幅15mmの短冊型試験片を使用し、折り曲げクランプの曲率半径Rが2mm、左右の折り曲げ角度135度、折り曲げ速度90回/分、荷重0.98Nの条件で測定した切断するまでの往復折り曲げ回数が10000回以上であることを特徴とするグラファイトフィルムであって、高分子フィルムおよび/または炭素化した高分子フィルムからなる原料フィルムを2000℃以上の温度で熱処理して得られるグラファイトフィルムであって、該グラファイトフィルムの倍率400倍での表面のSEM画像を、閾値160で白黒に2値化し、さらに2値化された該画像の白色領域を細線化した画像の白色領域の面積が1%以上8.5%以下であることを特徴とするグラファイトフィルムに関する。
【0015】
さらには、MIT耐屈曲試験において、幅15mmの短冊型試験片を使用し、折り曲げクランプの曲率半径Rが1mm、左右の折り曲げ角度135度、折り曲げ速度90回/分、荷重0.98Nの条件で測定した切断するまでの往復折り曲げ回数が10000回以上であることを特徴とす前記グラファイトフィルムであり、前記グラファイトフィルムの面方向の熱拡散率が8.0×10-42/s以上であることが好ましい。
また、本発明の第二は、前記いずれかに記載のグラファイトフィルムの一部に、プラスチックフィルムが粘着材を介して形成されていることを特徴とするグラファイト複合フィルムに関するものである。
【発明の効果】
【0016】
耐屈曲性、熱拡散性に優れたグラファイトフィルム及びグラファイト複合フィルムを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】発泡グラファイトフィルムの断面模式図
【図2】圧縮グラファイトフィルムの断面模式図
【図3】発泡グラファイトフィルム(発泡の程度大、ドメイン小)のSEM写真
【図4】発泡グラファイトフィルム(発泡の程度小、ドメイン大)のSEM写真
【図5】圧縮グラファイトフィルム(発泡の程度大、ドメイン小)のSEM写真
【図6】圧縮グラファイトフィルム(発泡の程度小、ドメイン大)のSEM写真
【図7】エッジ効果の説明図
【図8】境界線で区切られた領域の説明図
【図9】画像処理説明図
【図10】ポリイミドフィルム及びくさび形シート。
【図11】くさび形シートの斜視図
【図12】PETテープとの複合体
【図13】フレキシブルプリント配線板との複合体
【図14】ハゼ折り後の冷却性能評価方法
【図15】原料フィルムの容器Aへの保持方法
【図16】容器Aへ容器Bへの保持方法と通電方法
【図17】実施例1の画像処理後の表面SEM写真
【図18】実施例2の画像処理後の表面SEM写真
【図19】実施例3の画像処理後の表面SEM写真
【図20】実施例4の画像処理後の表面SEM写真
【図21】実施例5の画像処理後の表面SEM写真
【図22】実施例6の画像処理後の表面SEM写真
【図23】比較例1の画像処理後の表面SEM写真
【図24】比較例2の画像処理後の表面SEM写真
【図25】比較例3の画像処理後の表面SEM写真
【図26】比較例4の画像処理後の表面SEM写真
【図27】比較例5の画像処理後の表面SEM写真
【図28】参考例1の画像処理後の表面SEM写真
【図29】参考例2の画像処理後の表面SEM写真
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の第1は、MIT耐屈曲試験において、幅15mmの短冊型試験片を使用し、折り曲げクランプの曲率半径Rが2mm、左右の折り曲げ角度135度、折り曲げ速度90回/分、荷重0.98Nの条件で測定した切断するまでの往復折り曲げ回数が10000回以上であることを特徴とするグラファイトフィルムである。
【0019】
また、本発明の第2は、MIT耐屈曲試験において、幅15mmの短冊型試験片を使用し、折り曲げクランプの曲率半径Rが1mm、左右の折り曲げ角度135度、折り曲げ速度90回/分、荷重0.98Nの条件で測定した切断するまでの往復折り曲げ回数が10000回以上であることを特徴とするグラファイトフィルムである。
【0020】
<グラファイトフィルム>
近年の電子機器の発熱密度増加に対する対策として熱拡散性の非常に優れたグラファイトフィルムが注目を集めている。現在、一般に入手できるグラファイトフィルムとして、高分子熱分解法またはエキスパンド法により製造されたグラファイトフィルムがある。
【0021】
<本発明のグラファイトフィルムの製造方法>
本発明のグラファイトフィルムの製造方法は、高分子フィルムおよび/または炭素化した高分子フィルムからなる原料フィルムを2000℃以上の温度で熱処理して得られるグラファイトフィルムである。一般的に、原料フィルムをアルゴン、ヘリウム等の不活性雰囲気下や減圧下で熱処理する高分子熱分解法で得られるグラファイトフィルムは耐屈曲性、熱拡散性に優れていることが知られている。
【0022】
一方、エキスパンド法により得られたグラファイトフィルムは、粉状、燐片状の天然黒鉛を押し固めて作製されるために、柔軟性は有するものの、グラファイト結晶子が小さく結晶性が劣るために、高分子熱分解法により得られたグラファイトに比べ熱拡散性に劣り、またフィルムの強度も弱く脆いものが多い。
【0023】
<グラファイトフィルムの耐屈曲性>
本発明のグラファイトフィルムのMIT耐屈曲試験おける折り曲げ回数(Rが2mm、左右の折り曲げ角度135°)は、10000回以上、好ましくは50000回以上、更に好ましくは100000回以上がよい。10000回以上になると、耐屈曲性に優れているため屈曲部分に使用しても破壊されにくくなる。具体的には、携帯電話のヒンジや小型電子機器の折り曲げ部分で使用する場合でも、機能を落とすことなく使用することが可能となる。また、耐屈曲性に優れているため、電子機器への取り付け時などのハンドリング性も向上する。一方、10000回未満になると、耐屈曲性が劣るために、屈曲部分での使用中にフィルムが破壊されやすい。また取り扱い時のハンドリング性も悪くなる。特に折り曲げ角度が大きい場合、折り曲げ半径が小さい場合フィルムが劣化しやすい。
【0024】
また、本発明のグラファイトフィルムのMIT耐屈曲試験おける折り曲げ回数(Rが1mm、左右の折り曲げ角度135°)は、10000回以上、好ましくは50000回以上、更に好ましくは100000回以上がよい。10000回以上になると、耐屈曲性に優れているため屈曲部分に使用しても破壊されにくくなる。具体的には、携帯電話のヒンジや小型電子機器の折り曲げ部分で使用する場合でも、機能を落とすことなく使用することが可能となる。また、耐屈曲性に優れているため、電子機器への取り付け時などのハンドリング性も向上する。一方、10000回未満になると、耐屈曲性が劣るために、屈曲
部分での使用中にフィルムが破壊されやすい。また取り扱い時のハンドリング性も悪くなる。特に折り曲げ角度が大きい場合、折り曲げ半径が小さい場合フィルムが劣化しやすい。
【0025】
<MIT耐屈曲試験の曲げ半径、曲げ角度>
グラファイトフィルムのMIT耐屈曲試験は、東洋精機(株)製のMIT耐揉疲労試験機型式Dなどを用いて測定することができる。測定では、折り曲げ半径R、折り曲げ角度を選択することが可能であり、Rが2mm、1mm等が選択することができる。通常、折り曲げ半径Rが小さいほど、折り曲げ角度が大きいほど、厳しい試験となる。特に、携帯電話、ゲーム機、液晶テレビ、PDP等のスペース小さい電子機器においては、小さな折り曲げ半径と大きな折り曲げ角度での折り曲げ性が優れることは、機器の省スペース設計が可能となり、非常に重要である。なお、MIT試験方法の詳細は実施例の欄に記載した。
【0026】
<耐屈曲性の優れたグラファイトフィルム作製のメカニズム>
耐屈曲性の優れたグラファイトフィルムは、ポリイミドフィルムなどの高分子フィルムを2600℃以上まで昇温することで得られる。黒鉛化の最終段階(2600℃以上)でN2などの内部ガス発生によりグラファイト層が持ち上げられフィルムが発泡する(図1のように表面に発泡の凹凸が確認される)。発泡したグラファイトフィルムをプレス処理あるいは圧延処理することで耐屈曲性の優れたグラファイトフィルムとなる。発泡させたグラファイトフィルムの耐屈曲性が優れている理由は、グラファイトの層間に空気層が存在するために、折り曲げ時にかかるグラファイト層の歪を逃がすことができるためである。
【0027】
<発泡の程度と耐屈曲性>
しかしながら、発泡させたグラファイトフィルムがすべて耐屈曲性に優れているわけではない。黒鉛化の条件により、グラファイトフィルムの厚み方向の発泡の大きさ(以下、発泡の程度と記載)が異なっており、この発泡の程度が耐屈曲性の優劣を決める一要因となっている。発泡の程度が小さすぎるとグラファイト層間に存在する空気層の量が足りず、折り曲げ時にグラファイト層の歪みを逃がすことができなくなるため硬く、耐屈曲性の劣るフィルムとなる。また、発泡の程度が大き過ぎても、グラファイト層を破壊して発泡しているため、折り曲げ時に表面からのグラファイト層の剥離が発生しやすく、耐屈曲性の劣るグラファイトフィルムとなる。なお、図1にグラファイトフィルムの断面の模式図に発泡の程度がどの部分を指すのか示した。
【0028】
<ドメインのサイズと耐屈曲性>
また、黒鉛化の条件により、発泡状態のグラファイト表面に確認される1つ1つの凹凸の平面方向のサイズ(ドメインのサイズ)も異なっており、このドメインのサイズも耐屈曲性の優劣を決める一要因となっている。ドメインがサイズ大きすぎると折り曲げに対応出来ないため耐屈曲性は悪く、硬いフィルムとなる。またドメインのサイズが小さすぎると折り曲げ時に1つ1つのドメインが剥がれやすくなり耐屈曲性の悪いグラファイトフィルムとなる。
【0029】
以上のように、高耐屈曲性のグラファイトとなるためには、黒鉛化条件を最適化し適度な発泡状態を作製する必要がある。
【0030】
<圧縮後のグラファイトフィルムの表面の境界線>
前述したように、発泡後のグラファイトフィルムの表面は、図1のように凹凸が確認できる。プレス処理あるいは圧延処理などの圧縮処理を実施すると、これらの凹凸が潰れ、凹凸の境界でグラファイト層が重なり、図2の模式図のような境界線が発生する。
【0031】
<グラファイトフィルムの発泡状態と表面の境界線の関係>
発泡の程度が大きいものや発泡ドメインのサイズが小さいものは、圧縮処理後、表面に境界線が多く発生する。一方、発泡の程度が小さいものや発泡のドメインのサイズが大きいものは、圧縮処理後、表面に境界線が発生しにくい。したがって、圧縮処理後のグラファイトフィルムの表面の境界線の量を確認することでグラファイトフィルムの発泡状態を知ることができ、そこから耐屈曲性の優劣が予測できる。
【0032】
例として図3、4に異なった発泡状態のグラファイトフィルムのSEM写真を示す。図3の方が、発泡の程度が大きく、ドメインのサイズが小さい。図3、4のグラファイトフィルムを圧縮すると発泡の凹凸が潰されるため図5、6のように表面に境界線が発生する。図5の方が発泡の程度が大きく、ドメインのサイズが小さいグラファイトフィルムを圧縮したために、境界線の発生量は多く、図6は発泡の程度が小さく、ドメインのサイズが大きいため境界線の発生量は少ない。
【0033】
<SEM観察でのグラファイト表面の境界線の観察>
グラファイトフィルムの表面の境界線はSEM観察で確認することができる。グラファイト表面のSEM観察をおこなうと図5、6のように境界線の部分が明るく観測される。
【0034】
境界線の部分が明るく観測される原理はエッジ効果と呼ばれるもので、図7に示すように、試料表面の角や突起物の先端から二次電子が多量に放出され,二次電子像においてその部分が他の部位に比べて極端に明るくなる。
【0035】
<グラファイトフィルム表面SEM観察の詳細>
グラファイトフィルムの表面観察は、走査型電子顕微鏡(SEM)(製品名:日立製S−4500型)を用い、加速電圧5kVで観察した。各種グラファイトフィルムを5mm×5mmにカットし、直径15mmのアルミ製の試料台に導電性のテープで固定した。試料台の高さは36mm調節し、セットする。加速電圧は5eVに調節し、高倍率モードで400倍での観察を実施した。ワーキングディスタンスは8mmに調節し、明るさ、コントラスト、フォーカスを調節し、グラファイトフィルムの表面のシワが観察できるように撮影をおこなった。画像の取込みは640×480で取り込んだ。
【0036】
<本発明のグラファイトフィルムの境界線で区切られる領域の大きさ>
本発明のグラファイトフィルムの境界線で区切られる領域の面積の平均が25μm2以上10000μm2以下、好ましくは100μm2以上6400μm2以下、さらに好ましくは200μm2以上3600μm2以下である。面積が25μm2より小さい場合は、折り曲げ時にグラファイト層の剥離が発生しやすく耐屈曲性が悪い。また、面積が10000μm2より大きい場合は、折り曲げ時にグラファイト層の歪みを逃がすことが出来ないために耐屈曲性が悪く、硬いフィルムとなる。一方、25μm2以上10000μm2以下であると、耐屈曲性の優れたグラファイトフィルムとなる。なお、境界線で区切られた領域は、図8のように周囲の75%以上を区切られた領域は、区切られているものと判断することとした。
【0037】
<グラファイトフィルムの表面SEM観察画像の画像処理>
グラファイトフィルムの表面SEM観察画像の画像処理は、ナノシステム株式会社から入手できる、汎用画像処理ソフト(製品名:NANO HUNTER NS2K−PRO/LT)を使用して実施した。画像処理の詳細は、まず初めに、前記画像処理プログラムにSEM画像を取込み、濃度計測を実施した。濃度計測で計測された最大値(最大255)、最小値(0)を確認し、次式により2値化の閾値を決定した。
【0038】
閾値=(最大値−最小値)×0.62 …(1)
次に、前式により決定した閾値でSEM画像を2値化した。2値化とは、ある閾値より明るい領域を白色化し、ある閾値より暗い領域を黒色化する処理である。
【0039】
続いて2値化した画像を、細線化した。細線化は、2値化された上記画像の白色部分を線幅1に変換する処理である。
【0040】
以上のような処理により得られた画像の白色領域の面積を計測した。例として、図9にSEM写真と画像処理後の画像を示した。
【0041】
<本発明のグラファイトフィルムの表面状態>
本発明のグラファイトフィルムの倍率400倍でのSEM観察後の上記画像処理後における白色領域の面積は1.0%以上8.5%以下、好ましくは1.2以上6.5%以下、さらに好ましくは1.4%以上4.2%以下である。白色領域の面積が1.0%より小さいときは、グラファイトフィルム表面の境界線の量が少なく、耐屈曲性の悪いグラファイトフィルムであることを意味する。また、白色領域の面積が8.5%より大きい場合は、境界線の量が多すぎで、折り曲げ運動により、グラファイト表面からグラファイト層が剥がれ落ちやすく、耐屈曲性が悪いグラファイトフィルムであることを意味する。一方、白色領域の面積が1.0%以上8.5%以下であると、境界線で区切られた1つ1つの領域がある程度大きいため、耐屈曲性の優れたグラファイトフィルムであることを意味する。
【0042】
<本発明のグラファイトフィルムの製造方法について>
本発明によるグラファイトフィルムは、フィルム内部に折り曲げ時にグラファイト層が移動できる適度な空間を黒鉛化過程で作製する。具体的には、2400℃以上に原料フィルムを熱処理し、原料中に残存している窒素ガスの発生を利用して、グラファイト層間を発泡させる。
【0043】
上述したように、グラファイトフィルムの耐屈曲性、熱拡散性を決める一要因である、この発泡状態を最適化することが重要である。上述のように、グラファイトフィルム表面の境界線を観察することで、グラファイトフィルムの耐屈曲性、熱拡散性が予測できる。
【0044】
グラファイトフィルムの発泡状態(発泡の程度、ドメインの大きさ)を制御するファクターとして、
(1)黒鉛化加熱方法、
(2)黒鉛化最高温度、
(3)原料フィルムの積層枚数、
(4)黒鉛化時にかかるフィルムへの圧力、
(5)原料フィルムの分子配向、
などがあるが、以下にその内容を説明する。発泡状態の最適化には、それぞれのファクターのバランスが重要であり、上記の5つの条件は適宜変更しなければならない。上記の5つのファクターをバランスよく組み合わせて、上述したような発泡の程度、ドメインのサイズなどが作製できれば、非常に耐屈曲性、熱拡散性の優れたグラファイトフィルムとなる。
【0045】
<炭素化工程と黒鉛化工程>
本発明の黒鉛化工程は、炭素化工程により炭素化した高分子フィルムを一度炭素化工程用の炉から取り出した後、黒鉛化用の炉に移し変えてからおこなっても良いし、炭素化工程、及び黒鉛化工程を連続的に同一の炉でおこなっても良い。
【0046】
<黒鉛化加熱方法>
従来、黒鉛化工程は、減圧下もしくは不活性ガス中でおこなわれる雰囲気加熱が知られている。雰囲気加熱法では黒鉛製のヒーターに電圧を印加し加熱する。ヒーターから発生した熱が、輻射および不活性ガスの対流によりサンプルに熱が伝えたれる。雰囲気加熱法で用いられる不活性ガスとしてはアルゴン、ヘリウムが適当である。
【0047】
また、高品質のグラファイトフィルムを作製する方法として通電加熱法が知られている。通電加熱法では処理したいサンプルあるいはサンプルを詰めた容器自体に電圧を印加し、直接加熱する方法である。
【0048】
<雰囲気加熱法>
従来の通常の雰囲気及び減圧下での熱処理では、加熱は、雰囲気ガスの熱伝導及び/またはヒーターからの輻射熱、あるいはヒーターと接触している部分からの熱伝導により行われるため、フィルムの加熱は基本的にフィルム表面から内部への熱伝導により進行することとなり不均一であり、グラファイト層の成長に部分的にバラツキがでたり、黒鉛化中に発生する分解ガスによる悪影響がでたり、結晶の再配列中に部分的な欠陥が発生しやすかったりした。そのため、ドメインが大きさや発泡の程度が不均一なグラファイトフィルムが得られた。従って、耐屈曲性、熱拡散性の劣るグラファイトフィルムが得られる場合が多かった。
【0049】
ドメインが大きさや発泡の程度が不均一なグラファイトフィルムが得られる原因の一つは、出発原料に含まれる炭素以外の元素がガス化して抜ける際、グラファイト層間を浮かせることでおこるが、これが減圧雰囲気でおこなわれた場合、減圧のため、ガスがフィルムから急激に発生し、グラファイトの層が引き剥がされ、グラファイトの剥離が生じ、外観の悪化を引き起こす場合があった。また、このことにより、面方向のグラファイトの結合が破壊され、耐屈曲性や熱伝導率の低下を引き起こす場合があった。
【0050】
<通電加熱法>
一方、通電加熱法においては、高分子フィルムおよび/または炭素化した高分子フィルムを直接通電可能な容器(直接通電容器)内に接触して保持し、該容器に交流電圧および/又は直流電圧を印加し通電しながら黒鉛化する(通電加熱)方式とすることが好ましく、容器自体を発熱させると同時に、結果として原料フィルムに電圧を印加し通電して加熱する方式となるため、原料フィルムそのものの発熱が寄与する。つまり、通電方式により黒鉛化工程を実施する場合、フィルムは発熱した容器からの直接熱伝導、及びフィルムの自己発熱の2つの手段で加熱されるので、フィルムの内部と表面で均一に加熱され、またフィルム周辺からも十分均一に加熱が行なわれるため、結果として表面及び内部で均一な黒鉛化が進行するため適度な発泡状態となりよい。
【0051】
また、通電加熱方式による黒鉛化工程を経て得られるグラファイトフィルムは、グラファイト層が面内で均一に成長するので、密度、熱拡散率に優れ、圧延処理や加圧処理を施しても、表面の傷、皺、凹みがなく平坦な、また、従来よりも耐屈曲性、熱拡散性に優れたグラファイトフィルムとなり易い。
【0052】
<通電加熱の処理方法>
本発明に係る通電加熱による黒鉛化工程は、例えば、黒鉛製容器内に原料フィルムを保持しこの黒鉛製容器自体に電圧を印加し通電する方法、黒鉛製容器内に原料フィルムを保持しこの黒鉛製容器の外部周辺をカーボン粉末で覆い(充填し)カーボン粉末を介し、黒鉛製容器自体に電圧を印加し通電する方法、黒鉛製容器内にカーボン粉末で覆った原料フィルムを保持し(黒鉛製容器と原料フィルムとの間に、カーボン粉末が充填されている状態で、保持し)この黒鉛製容器自体に電圧を印加し通電する方法、及び黒鉛製容器内に、カーボン粉末で覆った原料フィルムを保持し(黒鉛製容器と原料フィルムとの間に、カーボン粉末が充填されている状態で、保持し)さらに該黒鉛製容器をカーボン粉末で覆い(黒鉛製容器の外部周辺にカーボン粉末が充填されている状態で)カーボン粉末を介して黒鉛製容器自体に電圧を印加し通電する方法等が考えられる。
【0053】
<黒鉛化最高温度>
黒鉛化最高温度が低いと、黒鉛化の進行度が小さく、発泡の程度も小さく、ドメインの成長度も小さい。本発明のグラファイトフィルムの製造方法においてその熱処理温度としては、最低でも2000℃以上が必要で、最終的には2800℃以上、より好ましくは、2900℃以上さらに好ましくは3000℃以上である。このような熱処理温度にすることグラファイト層が面方向へ成長し、ドメインのサイズが大きく成長し、耐屈曲性、熱拡散性の優れたグラファイトフィルムとなる。一方、黒鉛化最高温度が2800℃より低い場合は、フィルムの一部に黒鉛化の進行が十分でない場合がある。黒鉛化が十分に進行していないと、発泡の程度が十分でないために非常硬くなり、耐屈曲性、熱拡散性が劣るグラファイトフィルムとなる。
【0054】
熱処理温度が高いほど良質のグラファイトへの転化が可能であるが、経済性の観点からはできるだけ低温である方が好ましい。本発明のグラファイトフィルムの製造方法においてその熱処理温度としては、最高で3500℃以下、より好ましくは、3200℃以下さらに好ましくは3100℃以下である。なお、現状一般に入手可能な工業的炉において、熱処理可能な最高温度は3000℃が限界である。
【0055】
<原料フィルムの積層枚数>
上述のように、通電加熱ではフィルムの内部と表面で均一に加熱され、またフィルム周辺からも十分均一に加熱が行なわれるため、結果として表面及び内部で均一な黒鉛化が進行するため適度な発泡状態となりよい。しかしながら、原料フィルムを均一に加熱し過ぎると、発泡の程度が非常に小さく、ドメインが大きすぎるグラファイトフィルムが得られる場合がある。このようなグラファイトフィルムは、面方向にグラファイト層が非常に高度に配向しているために熱伝導性は高いものの、折り曲げ時に発生するグラファイト層の歪に対応できないため、耐屈曲性の非常に劣るグラファイトフィルムとなりやすい。
【0056】
また、上述のように、通電加熱では、熱処理中、原料フィルムおよび/または黒鉛容器は、前述したカーボン粒子に覆われており、熱処理中に、カーボン粒子、黒鉛容器、外部から侵入する金属のような不純物や外部からのガスによって、黒鉛化時のフィルムの発泡が抑制される場合がある。発泡が抑えられたフィルムは、面方向にグラファイト層が非常に高度に配向しているために熱伝導性は高いものの、折り曲げ時に発生するグラファイト層の歪に対応できないため、耐屈曲性の非常に悪いグラファイトフィルムとなりやすい。
【0057】
以上のような問題を解決するために、本発明に係る黒鉛化工程においては、原料フィルムを積層した状態で黒鉛化を実施した。その積層枚数は、10枚以上、好ましくは30枚以上、さらに好ましくは50枚以上である。
【0058】
原料フィルムを積層したことによって、1枚単体の原料フィルムを用いた場合に比べて、容器に占める原料フィルムの割合が増えるために、黒鉛化の進行に若干の不均一性が生じる。この不均一性により、適度な発泡の程度と適度なドメインの大きさを有するグラファイトフィルムが得られる。このようなグラファイトフィルムの耐屈曲性、熱拡散性は非常に優れている。
【0059】
また、通電加熱においては、熱処理中、原料フィルムおよび/または黒鉛容器は、前述したカーボン粒子に覆われており、熱処理中に、カーボン粒子、黒鉛容器、外部から侵入する金属のような不純物や外部からのガスによって、侵食、劣化を受ける場合がある。
本発明のように、原料フィルムとして、原料フィルムを複数枚積層した原料フィルム積層体を使用した場合には、原料フィルムが密着した状態であり、外部から侵入する不純物の影響を受け難くなり耐屈曲性、熱拡散性に優れたグラファイトフィルムを大量に作製することが可能となる。
【0060】
また、本発明のように、原料フィルムとして、原料フィルムを複数枚積層した原料フィルム積層体を使用した場合には、原料フィルムが密着した状態であり、ガスが抜けにくい状態となっており、グラファイト層が発達した温度領域までガスが発生させるタイミングを遅らすことが可能になる。その結果、グラファイト層が損なわれることなく、平面状態に発達した状態で発泡するため、適度な発泡の程度と適度なドメインの大きさを有するグラファイトフィルムが得られる。一方、従来のように出発原料として、原料フィルムを積層していない単体フィルムを用いた場合には、フィルムの両面からガスが抜けやすい状態であるため、グラファイト層が形成される前にガスが抜けやすく、グラファイト層間を拡大させることが困難な場合があった。
【0061】
本発明のように、原料フィルムとして、原料フィルムを複数枚積層した原料フィルム積層体を使用した場合には、気体が抜ける際に、原料フィルムが緩衝材として働き、加熱中の変形により、原料フィルムに加わる力を低減することが可能となり、グラファイト層の結合が破損されず、その結果、優れた耐屈曲性、熱拡散性を発現することが可能になる。
【0062】
一方、従来のように原料フィルムとして、原料フィルムを積層していない単体フィルムを使用した場合には、原料フィルムをグラファイト板、グラファイトフィルム、カーボン板、カーボンフィルム等のスペーサで挟む必要がある。その場合スペーサで押さえつけられるため発生気体の抜けが妨げられたり、グラファイト層の結合が破損されたりし、耐屈曲性、熱拡散性の低下を引き起こす場合があった。
【0063】
このように原料フィルムを積層させて黒鉛化を実施することで、耐屈曲性、熱拡散性の優れたグラファイトフィルムが得られる。しかしながら、ここに示した原料フィルムの積層枚数は、あくまでも一例であり、前述した黒鉛化の加熱方法、黒鉛化最高温度、後述する黒鉛化時にかかるフィルムへの圧力、原料フィルムの配向性によって適宜決定されるものでこれらに限定されるものではない。
<黒鉛化時にかかるフィルムへの圧力>
黒鉛化時にかかるフィルムへの加圧が大きいと、加圧によりグラファイト層が物理的に面方向に配向させられるため、発泡程度が小さく、ドメインのサイズが大きなグラファイトフィルムとなりやすい。一方、黒鉛化時にかかるフィルムへの加圧が小さいと、発泡の程度の大きく、ドメインのサイズが小さく不均一なグラファイトフィルムが得られやすい。
【0064】
本発明における、原料フィルムの厚み方向への圧力は5.0g/cm2以上、100g/cm2以下であることが好ましい。原料フィルムがグラファイト化する際には、原料フィルムのサイズが膨張および/または収縮する過程を経る。該圧力が5.0g/cm2未満の状態でグラファイト化すると、原料フィルムのグラファイト化に伴う不均一なフィルムの膨張および/または収縮が生じ、フィルム面内で均一なグラファイト化が達成されず、発泡の程度が大きく、ドメインのサイズも不均一な耐屈曲性の悪いグラファイトフィルムとなる。
【0065】
一方で、該圧力が、5.0g/cm2以上、100g/cm2以下であれば、特に原料フィルムに後述のようなポリイミドフィルムおよび/または炭素化したポリイミドフィルムを用いた場合、熱伝導性に優れたグラファイトフィルムを得ることができた。これは、グラファイト化工程において、原料フィルムの厚み方向に圧力を加えた状態でグラファイト化したために、グラファイト化に伴うフィルム面方向でのグラファイト結晶構造の発達を助長したためと推定される。
【0066】
また、該圧力が100g/cm2より高くなると、面方向でのグラファイト結晶構造の発達を助長しすぎてしまい、発泡の程度が非常に小さく、ドメインのサイズが非常に大きな硬いグラファイトが得られる。なお、前記圧力は、熱処理して得られたグラファイトフィルムの面積に対して算出している。
【0067】
グラファイト化工程にて、原料フィルムのフィルム厚み方向への圧力の加え方としては、フィルムを保持するために用いた冶具による自重、フィルムを保持する容器に蓋を用いた場合には該蓋から受ける圧力、また加熱によるフィルム周囲の容器の膨張、およびフィルムを保持するために用いた冶具の膨張による圧力によって達成されるが、これらに限定されるものではない。
【0068】
また、黒鉛化時にフィルムへかける適切な圧力についても、前述した黒鉛化の加熱方法、黒鉛化最高温度、原料フィルムの積層枚数、後述する原料フィルムの配向性によって適宜決定されるものであり、これらに限定されるものではない。例えば、積層枚数が多い場合は、上述のように不均一な加熱となり発泡の程度が大きくなりやすい傾向となるため、加える圧力を大きくして発泡の程度を抑える必要がある。一方、積層枚数が少ない場合は、加える圧力は小さくてもよい。
【0069】
<原料フィルム>
本発明で用いることができる原料フィルムは、高分子フィルムまたは炭素化した高分子フィルムである。
【0070】
<高分子フィルム>
本発明で用いることができる高分子フィルムは、特に限定はされないが、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、ポリオキサジアゾール(POD)、ポリベンゾオキサゾール(PBO)、ポリベンゾビスオキサザール(PBBO)、ポリチアゾール(PT)、ポリベンゾチアゾール(PBT)、ポリベンゾビスチアゾール(PBBT)、ポリパラフェニレンビニレン(PPV)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリベンゾビスイミダゾール(PBBI)が挙げられ、これらのうちから選ばれる少なくとも1種を含む耐熱芳香族性高分子フィルムであることが、最終的に得られるグラファイトの耐屈曲性、熱拡散性が大きくなることから好ましい。これらのフィルムは、公知の製造方法で製造すればよい。この中でもポリイミドは、原料モノマーを種々選択することによって様々な構造および特性を有するものを得ることができるために好ましい。また、ポリイミドフィルムは、他の有機材料を原料とする高分子フィルムよりもフィルムの炭化、黒鉛化が進行しやすいため結晶性がよく耐屈曲性、熱拡散性に優れたグラファイトとなりやすい。
【0071】
<炭素化した高分子フィルム>
本発明で用いられる炭素化した高分子フィルムとしては、出発物質である高分子フィルムを減圧下もしくは不活性ガス中で予備加熱処理して得られるものが好ましい。この予備加熱は通常1000℃程度の温度で行い、例えば10℃/分の速度で昇温した場合には1000℃の温度領域で30分程度の温度保持を行うことが望ましい。より具体的には、高分子フィルムを炭素化する炭化温度は、600℃以上、2000℃未満であるとよい。つまり、本発明に係る原料フィルムの例として用いられる炭素化した高分子フィルムとしては、高分子フィルムを600〜1800℃の温度で熱処理して得られる炭素化高分子フィルムが好ましい。熱処理温度は好ましくは1000℃以上、より好ましくは1100℃以上、さらに好ましくは1200℃以上、特に好ましくは1400℃以上である。炭化温度が2000℃未満であると良い理由は、黒鉛化が後述するような通電加熱によってなされるためである。炭化温度が600℃以上であるとよい理由は、積層して黒鉛化した場合、熱処理中に原料フィルム同士が密着しにくくなるためであり、また、原料フィルムの分解ガス、変形による黒鉛化工程中の位置ずれが防止できるためであり、結果として得られるグラファイトフィルムの皺、割れを防止できる。つまり、炭素化工程においてフィルムは厚み方向、面方向に収縮がおこり、黒鉛化工程において、フィルムは厚み方向に収縮がおこり、面方向に膨張がおこるので、原料フィルムを高分子フィルムとした場合には、厚み方向に圧力を加えると、フィルムの面方向の収縮が抑制されるので、フィルムに皺や割れが入る場合がある。
【0072】
しかし、原料フィルムを炭素化高分子フィルムとすることにより、厚み方向に圧力を加えても、むしろフィルムの面方向の膨張が助長されることにより品質に優れたグラファイトフィルムとなり易くなるのである。さらに、原料フィルムを炭素化高分子フィルムとすれば高分子フィルムとするよりも、フィルムの変形が小さくなるため、変形によるフィルムの位置ずれを防止でき、その点からも非常に好ましい。また、通電加熱においては、熱処理中、原料フィルムおよび/または黒鉛容器は、後述するカーボン粒子に覆われている。原料フィルムに炭素化高分子フィルムを用いた場合、原料フィルムが緻密になり、耐腐食性が高まり、熱処理中に、カーボン粒子、黒鉛容器、外部から侵入する金属のような不純物や外部からのガスによって、侵食、劣化を受けにくくなり、より耐屈曲性、熱拡散性に優れ、面内(特にフィルム中央部と端部)での品質の差が小さい、グラファイトフィルムを大量に作成することが可能となる。
【0073】
また、原料フィルムとして炭素化高分子フィルムを用いた場合、通電加熱による黒鉛化工程において、電流は表層及び内部の両方に流れるため、発熱は表層及び内部の両方で同時に進行し、均一な黒鉛化が起こり、耐屈曲性、熱拡散性に優れたグラファイトフィルムが得られるため好ましい。
【0074】
<ポリイミドフィルム>
ポリイミドフィルムは、他の有機材料を原料とする原料フィルムよりもフィルムの炭化、黒鉛化が進行しやすいため、フィルムの電気伝導度が低温で均一に高くなりやすく、かつ電気伝導度そのものも高くなりやすい。その結果、後述の電圧を印加し直接通電可能な容器内に、該原料フィルムを保持し、該容器に電圧を印加し通電しながら黒鉛化する場合には、フィルム部分に炭素化の進行に伴って均一に電流が流れ、表面及び内部での均一な発熱が起こり、厚みが薄い場合に加え、厚い場合においても熱拡散性の高いグラファイトとなる。また、出来上がるグラファイトの結晶性が優れ、耐熱性にも優れたものとなるため、電界が集中し局所的な加熱が生じたとしても破損することなく、耐屈曲性、熱拡散性に優れた、品質の高いグラファイトとなる。
【0075】
<ポリイミドフィルムと複屈折>
本発明の高分子フィルムにおける分子の面内配向性に関連する複屈折Δnが、フィルム面内のどの方向に関しても0.08以上、好ましくは0.10以上、さらに好ましくは0.12以上、最も好ましくは0.14である。複屈折0.08以上であると、フィルムの炭化(炭素化)、黒鉛化が進行しやすくなる。その結果、グラファイトの結晶配向性がよくなり耐屈曲性、熱拡散性が顕著に改善される。また、複屈折が高くなるほど、フィルムの炭化(炭素化)、黒鉛化が進行しやすいため、後述のフィルムの電気伝導度が高くなりやすい。その結果、電圧を印加し直接通電可能な容器内に、該原料フィルムを保持し、該容器に電圧を印加し通電しながら黒鉛化する工程では、フィルム部分に炭素化の進行に応じた電気抵抗の変化に応じて均一に電流が流れ、また炭素化の進行に伴いフィルムに流れる電流量が増え、表面及び内部での均一な発熱が起こるため、均一な黒鉛化が進行しやすくなる。またフィルム面内で均一に電気伝導度が高くなるため、フィルム内で部分的な電界集中を起すことなく、局所的な発熱が起こらず、結果として表面及び内部で均一な黒鉛化が進行する。また、低温で炭化(炭素化)及び黒鉛化が進行するために、低温の熱処理中からフィルムの電気伝導度が高くなり、表面及び内部での均一な発熱が起こり、均一な黒鉛化が進行しやすくなる。また、複屈折が高くなるほど、結晶性に優れ、耐熱性にも優れたものとなるため、電界が集中し局所的な加熱が生じたとしても破損することなく、品質の高いグラファイトフィルムとなる。
【0076】
複屈折が高くなると黒鉛化しやすくなる理由は明らかではないが、黒鉛化のためには分子が再配列する必要があり、複屈折の高い分子配向性に優れたポリイミドフィルムでは分子の再配列が最小で済むことから、ポリイミドフィルムの中でも、より配向性に優れたポリイミドフィルムの方が、耐屈曲性、熱拡散性に優れたグラファイトフィルムが得られる。
【0077】
<複屈折>
ここでいう複屈折とは、フィルム面内の任意方向の屈折率と厚み方向の屈折率との差を意味し、フィルム面内の任意方向Xの複屈折Δnxは次式(数式1)で与えられる。
【0078】
【数1】

【0079】
図10と図11において、複屈折の具体的な測定方法が図解されている。図11の平面図において、フィルム1から細いくさび形シート2が測定試料として切り出される。このくさび形シート2は一つの斜辺を有する細長い台形の形状を有しており、その一底角が直角である。このとき、その台形の底辺はX方向と平行な方向に切り出される。図11は、このようにして切り出された測定試料2を斜視図で示している。台形試料2の底辺に対応する切り出し断面に直角にナトリウム光4を照射し、台形試料2の斜辺に対応する切り出し断面側から偏光顕微鏡で観察すれば、干渉縞5が観察される。この干渉縞の数をnとすれば、フィルム面内X方向の複屈折Δnxは、次式(数式2)で表される。
【0080】
【数2】

【0081】
ここで、λはナトリウムD線の波長589nmであり、dは試料2の台形の高さに相当する試料の幅3である。
【0082】
なお、前述の「フィルム面内の任意方向X」とは、例えばフィルム形成時における材料流れの方向を基準として、X方向が面内の0゜方向、45゜方向、90゜方向、135゜方向のどの方向においても、の意味である。サンプル測定個所・測定回数は、好ましくは、下記の通りである。例えば、ロール状の原料フィルム(幅514mm、)からサンプルを切り出す際には、幅方向で10cm間隔に6カ所サンプリングして、各部位で複屈折を測定する。その平均を複屈折とする。
【0083】
<ポリイミドフィルムの熱的性質、機械的性質、物理的性質、化学的性質>
また、本発明に用いられるグラファイトの原料となるポリイミドフィルムは、100〜200℃の範囲において2.5×10-5/℃未満の平均線膨張係数を有しているとよい。線膨張係数が2.5×10-5/℃未満であれば、熱処理中の伸びが小さく、スムースに黒鉛化が進行し、脆くなく、種々の特性に優れたグラファイトを得ることができる。このようなポリイミドフィルムを原料に用いることで、グラファイトへの転化が2400℃から始まり、2700℃で十分結晶性の高いグラファイトに転化が生じ得る。なお、その線膨張係数は、2.0×10-5/℃以下であることがより好ましい。
【0084】
なお、高分子フィルムの線膨張係数は、TMA(熱機械分析装置)を用いて、まず試料を10℃/分の昇温速度で350℃まで昇温させた後に一旦室温まで空冷し、再度10℃/分の昇温速度で350℃まで昇温させ、2回目の昇温時の100℃〜200℃における平均線膨張係数を測定することによって得られる。具体的には、熱機械分析装置(TMA:セイコー電子製SSC/5200H;TMA120C)を用いて、3mm幅×20mm長のサイズのフィルム試料を所定の治具にセットし、引張モードで3gの荷重をかけて窒素雰囲気下で測定が行われる。
【0085】
また、本発明に用いられるポリイミドフィルムは、その弾性率が3.4GPa以上であれば、黒鉛化をより容易に行い得るということから好ましい。すなわち、弾性率が3.4GPa以上であれば、熱処理中のフィルムの収縮によるフィルムの破損を防止することができ、種々の特性に優れたグラファイトを得ることができる。
【0086】
なお、フィルムの弾性率は、ASTM−D−882に準拠して測定することができる。
ポリイミドフィルムのより好ましい弾性率は3.9GPa以上であり、さらに好ましくは4.9GPa以上である。フィルムの弾性率が3.4GPaより小さければ、熱処理中のフィルムの収縮で破損および変形しやすくなり、得られるグラファイトの結晶性は劣り、熱拡散性が劣る傾向にある。
【0087】
フィルムの吸水率は、下記のごとく測定した。フィルムを絶乾するために、100℃で30分乾燥して、25μm厚み10cm角のサンプルを作製した。この重量を測定してA1とする。25μm厚み10cm角のサンプルを蒸留水に23℃で24時間浸漬し、表面の水を拭いて除去し直ちに重量を測定した。この重量をA2とする。下記式より吸水率を求めた。
【0088】
吸水率(%)=(A2−A1)÷A1×100
<ポリイミドフィルムの作製方法>
本発明で用いられるポリイミドフィルムは、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸の有機溶液をイミド化促進剤と混合した後、エンドレスベルトまたはステンレスドラムなどの支持体上に流延し、それを乾燥および焼成してイミド化させることにより製造され得る。
【0089】
本発明に用いられるポリアミド酸の製造方法としては公知の方法を用いることができ、通常は、芳香族酸二無水物の少なくとも1種とジアミンの少なくとも1種が実質的に等モル量で有機溶媒中に溶解させられる。そして、得られた有機溶液は酸二無水物とジアミンの重合が完了するまで制御された温度条件下で攪拌され、これによってポリアミド酸が製造され得る。このようなポリアミド酸溶液は、通常は5〜35wt%、好ましくは10〜30wt%の濃度で得られる。この範囲の濃度である場合に、適当な分子量と溶液粘度を得ることができる。
【0090】
重合方法としてはあらゆる公知の方法を用いることができるが、例えば次のような重合方法(1)−(5)が好ましい。
【0091】
(1) 芳香族ジアミンを有機極性溶媒中に溶解し、これと実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物を反応させて重合する方法。
【0092】
(2) 芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対して過小モル量の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端に酸無水物基を有するプレポリマを得る。
続いて、芳香族テトラカルボン酸二無水物に対して実質的に等モルになるように芳香族ジアミン化合物を用いて重合させる方法。
【0093】
この好ましい1つの態様は、ジアミンと酸二無水物を用いて前記酸二無水物を両末端に有するプレポリマを合成し、前記プレポリマに前記とは異なるジアミンを反応させてポリアミド酸を合成する方法である。
【0094】
(3) 芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対し過剰モル量の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端にアミノ基を有するプレポリマを得る。続いて、このプレポリマに芳香族ジアミン化合物を追加添加後に、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物が実質的に等モルとなるように芳香族テトラカルボン酸二無水物を用いて重合する方法。
【0095】
(4) 芳香族テトラカルボン酸二無水物を有機極性溶媒中に溶解および/または分散させた後に、その酸二無水物に対して実質的に等モルになるように芳香族ジアミン化合物を用いて重合させる方法。
【0096】
(5) 実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンの混合物を有機極性溶媒中で反応させて重合する方法。
【0097】
これらの中でも(2)、(3)に示すプレポリマを経由するシーケンシャル制御(シーケンスコントロール)(ブロックポリマー同士の組み合わせ・ブロックポリマー分子同士の繋がりの制御)をして重合する方法が好ましい。というのは、この方法を用いることで、複屈折が大きく、線膨張係数が小さいポリイミドフィルムが得られやすく、このポリイミドフィルムを熱処理することにより、結晶性が高く、密度および熱拡散性が優れたグラファイトを得やすくなるからである。また、規則正しく、制御されることで、芳香環の重なりが多くなり、低温の熱処理でも黒鉛化が進行しやすくなると推定される。また複屈折を高めるために、イミド基含有量を増やすと、樹脂中の炭素比率が減り、黒鉛処理後の炭素化収率が減るが、シーケンシャル制御をして合成されるポリイミドフィルムは、樹脂中の炭素比率を落とすことなく、複屈折を高めることが出来るために好ましい。炭素比率が高まるために、分解ガスの発生を抑えることができ、外観上優れたグラファイトフィルムが得られやすくなる。また芳香環の再配列を抑えることができ、熱拡散性に優れたグラファイトフィルムを得ることができる。
【0098】
本発明においてポリイミドの合成に用いられ得る酸二無水物は、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、およびそれらの類似物を含み、それらを単独でまたは任意の割合の混合物で用いることができる。
【0099】
本発明においてポリイミドの合成に用いられ得るジアミンとしては、4,4'−オキシジアニリン、p−フェニレンジアミン、4,4'−ジアミノジフェニルプロパン、4,4'−ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、3,3'−ジクロロベンジジン、4,4'−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3'−ジアミノジフェニルスルホン、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル(4,4'−オキシジアニリン)、3,3'−ジアミノジフェニルエーテル(3,3'−オキシジアニリン)、3,4'−ジアミノジフェニルエーテル(3,4'−オキシジアニリン)、1,5−ジアミノナフタレン、4,4'−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4'−ジアミノジフェニルシラン、4,4'−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4'−ジアミノジフェニルN−メチルアミン、4,4'−ジアミノジフェニル N−フェニルアミン、1,4−ジアミノベンゼン(p−フェニレンジアミン)、1,3−ジアミノベンゼン、1,2−ジアミノベンゼンおよびそれらの類似物を含み、それらを単独でまたは任意の割合の混合物で用いることができる。
【0100】
特に、線膨張係数を小さくして弾性率を高くかつ複屈折を大きくし得るという観点から、本発明におけるポリイミドフィルムの製造では、下記式(1)で表される酸二無水物を原料に用いることが好ましい。
【0101】
【化1】

【0102】
ここで、R1は、下記の式(2)〜式(14)に含まれる2価の有機基の群から選択されるいずれかであって、
【0103】
【化2】

【0104】
ここで、R2、R3、R4、およびR5の各々は−CH3、−Cl、−Br、−F、または−OCH3の群から選択されるいずれかであり得る。
【0105】
上述の酸二無水物を用いることによって比較的低吸水率のポリイミドフィルムが得られ、このことは黒鉛化過程において水分による発泡を防止し得るという観点からも好ましい。
【0106】
特に、酸二無水物におけるR1として式(2)〜式(14)に示されているようなベンゼン核を含む有機基を使用すれば、得られるポリイミドフィルムの分子配向性が高くなり、線膨張係数が小さく、弾性率が大きく、複屈折が高く、さらには吸水率が低くなるという観点から好ましい。
【0107】
さらに線膨張係数を小さく、弾性率を高く、複屈折を大きく、吸水率を小さくするためには、本発明におけるポリイミドの合成に下記式(15)で表される酸二無水物を原料に用いればよい。
【0108】
【化3】

【0109】
特に、2つ以上のエステル結合でベンゼン環が直線状に結合された構造を有する酸二無水物を原料に用いて得られるポリイミドフィルムは、屈曲鎖を含むけれども全体として非常に直線的なコンフォメーションをとりやすく、比較的剛直な性質を有する。その結果、この原料を用いることによってポリイミドフィルムの線膨張係数を小さくすることができ、例えば1.5×10-5/℃以下にすることができる。また、弾性率は500kgf/mm2(490GPa)以上に大きくすることができ、吸水率は1.5%以下に小さくすることができる。
【0110】
さらに線膨張係数を小さく、弾性率を高く、複屈折を大きくするためには、本発明におけるポリイミドは、p−フェニレンジアミンを原料に用いて合成されることが好ましい。
【0111】
また、本発明においてポリイミドの合成に用いられる最も適当なジアミンは4,4'−オキシジアニリンとp−フェニレンジアミンであり、これらの単独または2者の合計モルが全ジアミンに対して40モル%以上、さらには50モル%以上、さらには70モル%以上、またさらには80モル%以上であることが好ましい。さらに、p−フェニレンジアミンが10モル%以上、さらには20モル%以上、さらには30モル%以上、またさらには40モル%以上を含むことが好ましい。これらのジアミンの含有量がこれらのモル%範囲の下限値未満になれば、得られるポリイミドフィルムの線膨張係数が大きく、弾性率が小さく、複屈折が小さくなる傾向になる。但し、ジアミンの全量をp−フェニレンジアミンにすると、発泡の少ない厚みの厚いポリイミドフィルムを得るのが難しくなるため、4,4'−オキシジアニリンを使用するのが良い。また炭素比率が減り、分解ガスの発生量を減らすことができ、芳香環の再配列の必要が減り、外観、熱拡散性に優れたグラファイトを得ることができる。
【0112】
本発明においてポリイミドフィルムの合成に用いられる最も適当な酸二無水物はピロメリット酸二無水物および/または式(15)で表されるp−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸二無水物)であり、これらの単独または2者の合計モルが全酸二無水物に対して40モル%以上、さらには50モル%以上、さらには70モル%以上、またさらには80モル%以上であることが好ましい。これら酸二無水物の使用量が40モル%未満であれば、得られるポリイミドフィルムの線膨張係数が大きく、弾性率が小さく、複屈折が小さくなる傾向になる。
【0113】
また、ポリイミドフィルム、ポリアミド酸、ポリイミド樹脂に対して、カーボンブラック、グラファイト等の添加剤を添加しても良い。
【0114】
ポリアミド酸を合成するための好ましい溶媒は、アミド系溶媒であるN,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどであり、N,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドが特に好ましく用いられ得る。
【0115】
次に、ポリイミドの製造方法には、前駆体であるポリアミド酸を加熱でイミド転化する熱キュア法、またはポリアミド酸に無水酢酸等の酸無水物に代表される脱水剤やピコリン、キノリン、イソキノリン、ピリジン等の第3級アミン類をイミド化促進剤として用いてイミド転化するケミカルキュア法のいずれを用いてもよい。中でも、イソキノリンのように沸点の高いものほど好ましい。というのは、フィルム作製中の初期段階では蒸発せず、
乾燥の最後の過程まで、触媒効果が発揮されやすいため好ましい。特に、得られるフィルムの線膨張係数が小さく、弾性率が高く、複屈折が大きくなりやすく、また比較的低温で迅速な黒鉛化が可能で、品質のよいグラファイトを得ることができるという観点からケミカルキュアの方が好ましい。特に、脱水剤とイミド化促進剤を併用することは、得られるフィルムの線膨張係数が小さく、弾性率が大きく、複屈折が大きくなり得るので好ましい。また、ケミカルキュア法は、イミド化反応がより速く進行するので加熱処理においてイミド化反応を短時間で完結させることができ、生産性に優れた工業的に有利な方法である。
【0116】
具体的なケミカルキュアによるフィルムの製造においては、まずポリアミド酸溶液に化学量論以上の脱水剤と触媒からなるイミド化促進剤を加えて、支持板、PET等の有機フィルム、ドラム、またはエンドレスベルト等の支持体上に流延または塗布して膜状にし、有機溶媒を蒸発させることによって自己支持性を有する膜を得る。次いで、この自己支持性膜をさらに加熱して乾燥させつつイミド化させてポリイミド膜を得る。この加熱の際の温度は、150℃から550℃の範囲内にあることが好ましい。加熱の際の昇温速度には特に制限はないが、連続的もしくは段階的に、徐々に加熱して最高温度がその所定温度範囲内になるようにするのが好ましい。加熱時間はフィルム厚みや最高温度によって異なるが、一般的には最高温度に達してから10秒から10分の範囲が好ましい。さらに、ポリイミドフィルムの製造工程中に、収縮を防止するためにフィルムを容器に接触させたり固定・保持したり延伸したりする工程を含めば、得られるフィルムの線膨張係数が小さく、弾性率が高く、複屈折が大きくなりやすい傾向にあるので好ましい。
【0117】
<グラファイトフィルムの面方向の熱拡散率>
本発明のグラファイトフィルムの面方向の熱拡散率は、8.0×10-42/s以上、好ましくは8.5×10-42/s以上、さらに好ましくは9.0×10-42/s以上であると良い。8.0×10-42/s以上になると、熱拡散性が高いために、発熱機器から熱を逃がしやすくなり、発熱機器の温度上昇を抑えることが可能となる。一方、8.0×10-42/s未満になると、熱拡散性が劣るために、発熱機器から熱を逃がすことができなくなり、発熱機器の温度上昇を抑えることができない場合がある。
【0118】
通常、高分子分解法で得られるグラファイトフィルムの耐屈曲性と熱拡散性は相反する特性であり、耐屈曲性を求めると熱拡散性が劣化する場合が多い。しかしながら、本発明のグラファイトフィルムは、高い熱拡散性と耐屈曲性を合わせ持っているため、近年、発熱量が増加し小型化が進んでいる電子機器へ使用する場合、非常に優れている。
【0119】
<後面状加圧工程>
本発明に係るグラファイトフィルムの製造方法においては、前記黒鉛化工程を経て黒鉛化した原料フィルム、つまりグラファイトフィルムを、さらに、面状に加圧する(後面状加圧工程)を含むことが好ましく、耐屈曲性、熱拡散率に優れ、表面に傷、凹みがなく、皺のない、平坦性に優れたグラファイトフィルムが得られ、特に耐屈曲性を工場させるためには重要な工程である。このような(後面状加圧工程)は室温でも行うことができる。
このような(後面状加圧工程)においては、前記グラファイトフィルム以外のフィルム状媒質とともに、面状に加圧することが好ましい。前述したSEM画像撮影は、本工程を実施後おこなう。
【0120】
また、前記グラファイトフィルムが複数枚積層され配置された状態で面状に加圧することが好ましく、グラファイトフィルム自体が緩衝材の役割を果たすので、表面に傷が入ることなく、平坦性に優れたグラファイトフィルムを得ることができる。
【0121】
このような(後面状加圧)は、単板プレス、真空プレス等で実施され得るが、面状に一様に加圧可能であることに加え、真空引きを行うため、グラファイトフィルムに含まれる空気層が圧縮され得る点から真空プレスが特に好ましい。
【0122】
より具体的には、グラファイトフィルムをプレス機、ホットプレス機、単板プレス機といった面状に加圧できる装置を用いて加圧する方法やプラスチック板、セラミック板、金属板にグラファイトフィルムを挟みボルトで締め付ける方法が挙げられる。これらの方法を用いることにより、面状に一様に加圧することが可能となり、グラファイト層が破損することなく圧縮され、熱拡散率の低下を引き起こさず、熱拡散率の高い、密度が高く、表面に傷がなく、皺のないグラファイトフィルムを得ることができる。また、より均一に行うため、加圧中に加熱するとよい。
【0123】
また、真空プレスする方法としては、プレス機、ホットプレス機、単板プレス機といったプレス機に真空引き機能が付与された真空プレス機を用いて加圧する方法やプラスック板、セラミック板、金属板にグラファイトフィルムを挟みボルトで締め付けた後全体を真空引きする方法や真空ラバープレスのようにグラファイトフィルムをラバーに挟み、内部を真空引きし内部が減圧されることでフィルムを均一に加圧する方法が挙げられる。これらの方法では、面状に一様に加圧可能であることに加え、真空引きを行うため、グラファイトフィルムに含まれる空気層が圧縮され、グラファイト層が破損することなく圧縮され、熱拡散率の低下を引き起こさず、より熱拡散率の高い、密度が高く、表面に傷がなく、皺のないグラファイトフィルムを得ることができる。また、真空プレスを行う場合、加圧する前に、真空引きをすることが好ましい。加圧処理をまずはじめに施すと、皺が入る場合があるが、減圧処理を先に施すと、グラファイトフィルム全体が均一に加圧され、皺無く、品質に優れたグラファイトフィルムを得ることができる。また、本方法においても、より均一に行うため、加圧中に加熱するとよい。グラファイトフィルムは熱拡散性に優れるため、均一に熱が伝わり、面内で均一な平滑なグラファイトフィルムが得られるため好ましい。
【0124】
面方向への均一な加圧は、圧延処理と比較して、均一に強い加圧が実施できるため、圧延処理と比較して非常に耐屈曲性の優れたグラファイトフィルムとなる。
【0125】
<フィルム状媒質>
前記グラファイトフィルム以外のフィルム状媒質としては、天然黒鉛から得られたグラファイトフィルムや、樹脂フィルムや、金属箔等が例示される。具体的には、天然黒鉛から得られたグラファイトフィルム、緩衝ゴム材、鉄板、テフロン(登録商標)フィルム等が挙げられる。
【0126】
前記「フィルム状媒質とともに」とは、下記のような態様が例示される。例えば、(グラファイトフィルム以外の媒質/1枚の前記グラファイトフィルム/グラファイトフィルム以外の媒質/1枚の前記グラファイトフィルム/グラファイトフィルム以外の媒質/・・・)などのようにサンドイッチ状に挟む場合、(グラファイトフィルム以外の媒質/複数枚の前記グラファイトフィルム/グラファイトフィルム以外の媒質/複数枚の前記グラファイトフィルム/グラファイトフィルム以外の媒質/・・・)などのようにサンドイッチ状で挟む場合、などである。
【0127】
<グラファイト複合フィルムの形態>
本発明のグラファイト複合フィルムは、耐屈曲性を改善するために、少なくとも片面および/または両面にプラスチックフィルムなどを粘着材、接着剤などを介して形成すると良い。また、プラスチックフィルムを複合することで、導電性を示すグラファイトフィルムに絶縁性を寄与できる。プラスチックフィルムの材料としては、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、エポキシ等が挙げられ、これら材料は、耐熱性に優れ、発熱部品や放熱部品と複合化して使用した場合にも、十分な長期信頼性が得られる。
【0128】
プラスチックフィルムの厚みは、50μm以下、好ましくは35μm以下、さらに好ましくは15μm以下である。厚みが50μmより厚くなると、グラファイトフィルムと複合した際に、グラファイトフィルムが有する優れた熱拡散性を発揮することが困難となる。また、プラスチックフィルムの厚みは、10μm以上であるとよい。10μm未満であると、発熱部品や放熱部品と複合化して使用した場合にも、十分な粘着性を保持することが出来ず、長期信頼性にも劣るものとなる。
【0129】
また、プラスチックフィルムを貼り合わせるための粘着材、接着剤の厚みは50μm以下、好ましくは35μm以下、さらに好ましくは15μm以下である。厚みが50μmより厚くなると、グラファイトフィルムと複合した際に、グラファイトフィルムが有する優れた熱拡散性を発揮することが困難となる。また、粘着材、接着剤の材質としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂系が挙げられる。
【0130】
<用途など>
柔軟性、電気伝導性にも優れるため、この特徴を活かした用途には特に適している。グラファイトフィルムの熱伝導に優れるという特徴は、熱を移動させる、熱を逃がす、熱を広げる、熱を均一にする、熱応答を早くする、早く暖める、早く冷ますといった効果が必要な用途には適している。熱を瞬時に広げることで急激な温度変化を防止緩和したり、局所的な熱の集中を回避したりすることが可能である。またその逆で、急激な変化を起こさせたり、わずかな熱の変化を検知したりする用途に使用することが可能である。熱が緩和されることで高温環境化においても強度、接着性を確保できる。また、均一かつ正確に熱を伝えることにより、高精度、高品位、高画質といった特性改善も可能になる。製造装置に用いた場合には、熱を早く、大量に輸送できる特長を活かし、タクトタイム短縮、加熱・冷却効率改善、乾燥効率改善、高速化、待ち時間短縮といった生産性の向上が可能になる。また、熱の均一化や素早い輸送により、不良低減、保温機能も高めることが可能となる。また、様々な機器に採用することで、省スペース化、薄膜化、軽量化、機構の単純化、設置の自由度改善を可能とし、余計な部品を無くすことで、省電力化、静音化も可能となる。また、熱を逃がすことが可能なため、ヒートサイクル環境試験やアニ−ル処理でも特性劣化なく、半田耐熱、接着層の密着性、耐熱性、信頼性、耐久性が改善でき、また断熱性を高めたり、熱に弱い部品から守ったりすることも可能となる。その結果、メンテナンスレス、コストダウンにつながり、安全性も改善することが可能となる。
【0131】
具体的な用途として、以下のものがあげられる。例えば、サーバー、サーバー用パソコン、デスクトップパソコン、ワードプロセッサ、キーボード、ゲーム等の電子機器、ノートパソコン、電子辞書、PDA、携帯電話、携帯ゲーム機器、ポータブル音楽プレイヤー等の携帯電子機器。液晶ディスプレイ、透過型液晶表示装置、反射型LCDパネル、プラズマディスプレイ、SED、LED、有機EL、無機EL、液晶プロジェクター、リアプロジェクター、液晶パネル、バックライト装置(ばらつき防止、温度ムラ改善)、TFT基板、電子放出素子、電子源基板とフェースプレート(軽量化)、表示パネルフレームとの複合、発光素子、電荷注入型発光素子、時計等の光学・表示機器及びその部品。レーザー、半導体レーザー、発光ダイオード、蛍光灯、白熱電球、発光ドット、発行素子アレー、照明ユニット、平面発光装置、原稿照明装置等の発光・照明装置。インクジェット(熱エネルギーを利用してインクを途出する)用の単体もしくは複数からなる記録ヘッド(ヒーター、断熱材、蓄熱層等)、ラインヘッド、長尺インクヘッド、固体インクジェット装置、インクジェットヘッド用放熱板、インクカートリッジ、インクジェットヘッド用シリコン基板、インクジェット駆動ドライバ、インクジェット記録紙を加熱するための加熱源(ハロゲンランプヒータ)等のインクジェットプリンタ(インクヘッド)装置及びその部品。トナーカートリッジ、レーザー光源を有する装置、走査光学装置(光線出射ユニット、偏向走査ポリゴンミラー、ポリゴンミラー回転駆動モーター、感光体ドラムへ導く光学部品)、露光装置、現像装置(感光ドラム、光受容部材、現像ローラ、現像スリーブ、クリーニング装置)、転写装置(転写ロール、転写ベルト、中間転写ベルト等)、定着装置(定着ロール(芯、外周部材、ハロゲンヒーター等)、サーフヒーター、電磁誘導加熱ヒーター、セラミックヒーター、定着フィルム、フィルム加熱装置、加熱ローラ、加圧ローラ・加熱体、加圧部材、ベルトニップ)、シート冷却装置、シート載置装置、シート排出装置、シート処理装置等からなる電子写真装置・画像形成装置及びその部品。定着装置ではグラファイトフィルムの使用による熱特性の改善効果は顕著であり、幅方向の画質ムラ、画質欠陥、連続通紙における画質バラツキ、立ち上がり・下がり時間、リアルタイム対応、温度の高追従性、通紙部と非通紙部の温度差、皺、強度、省電力、オンデマンド加熱、高温オフセット及び低温オフセット、ヒーター周辺部材の過昇温、ヒーター割れが大幅に改善できる。熱転写式記録装置(リボン)、ドットプリンタ、昇華プリンタ等のその他記録装置。半導体素子、半導体パッケージ、半導体封止ケース、半導体ダイボンディング、液晶表示素子駆動用半導体チップ、CPU、MPU、メモリ、パワートランジスタ、パワートランジスタケース等の半導体関連部品。プリント基板、リジッド配線板、フレキシブル配線板、セラミック配線板、ビルドアップ配線板、実装基板、高密度実装プリント基板、(テープキャリアパッケージ)、TAB、ヒンジ機構、摺動機構、スルーホール、樹脂パッケージング、封止材、多層樹脂成形体、多層基板等の配線基板。CD、DVD(光ピックアップ、レーザー発生装置、レーザー受光装置)、ブルーレイディスク、DRAM、フラッシュメモリ、ハードディスクドライブ、光記録再生装置、磁気記録再生装置、光磁気記録再生装置、情報記録媒体、光記録ディスク、光磁気記録媒体(透光性基板、光干渉層、磁壁移動層、中間層、記録層、保護層、放熱層、情報トラック)、受光素子、光検出素子、光ピックアップ装置、磁気ヘッド、光磁気記録用磁気ヘッド、半導体レーザチップ、レーザダイオード、レーザー駆動IC等の記録装置、記録再生装置及びその部品。デジタルカメラ、アナログカメラ、デジタル一眼レフカメラ、アナログ一眼レフカメラ、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、カメラ一体型VTR用、カメラ一体型VTR用IC、ビデオカメラ用ライト、電子閃光装置、撮像装置、撮像管冷却装置、撮像装置、撮像素子、CCD素子、レンズ鏡筒、イメージセンサ及びそれを用いた情報処理装置、X線吸収体パターン、X線マスク構造体、X線撮影装置、X線露光装置、X線平面検出器、X線デジタル撮影装置、X線エリアセンサー基板、電子顕微鏡用試料冷却ホルダ、電子ビーム描画装置(電子銃、電子銃、電子ビーム描画装置)、放射線検出装置及び放射線撮像システム、スキャナー、画像読取装置、動画用撮像素子と静止画用撮像素子、顕微鏡等の画像記録装置及びその部品。アルカリ電池、マンガン電池等の一次電池、リチウムイオン電池、ニッケル水素、鉛蓄電池等の二次電池、電気二重層キャパシタ、電解コンデンサ、組電池、太陽電池、太陽電池モジュール設置構造体、光電変換基板、光起電力素子アレー、発電素子、燃料電池(発電セル、筐体外部、燃料タンク内部)等のバッテリー機器等の放熱材料。電源(整流ダイオード、トランス)、DC/DCコンバータ、スイッチング電源装置(フォワード型)、電流リ−ド、超電導装置システム等の電源及びその部品。モーター、リニアモーター、平面モーター、振動波モーター、モーターコイル、回転制御駆動用の回路ユニット、モータドライバ、インナーロータモーター、振動波アクチュエーター等のモーター及びその部品。真空処理装置、半導体製造装置、蒸着装置、薄膜単結晶半導体層製造装置、プラズマCVD、マイクロ波プラズマCVD、スパッタリング装置、減圧チャンバー、真空ポンプ、クライオトラップ・クライオポンプ等の真空排気装置、静電チャック、真空バキュームチャック、ピンチャック型ウエハチャック、スパッタリング用ターゲット、半導体露光装置、レンズ保持装置及び投影露光装置、フォトマスク、等の堆積膜製造装置(温度一定、品質安定)及びその部品。抵抗加熱・誘導加熱・赤外線加熱による熱処理装置、乾燥機、アニール装置、ラミネート装置、リフロー装置、加熱接着(圧着)装置、射出成型装置(ノズル・加熱部)、樹脂成形金型、LIM成型、ローラ成型装置改質ガス製造(改質部、触媒部、加熱部等)スタンパ、(フィルム状、ロール状、記録媒体用)、ボンディングツール、触媒反応器、チラー、カラーフィルタ基板の着色装置、レジストの加熱冷却装置、溶接機器、磁気誘導加熱用フィルム、結露防止ガラス、液体残量検知装置、熱交換装置等の種々製造装置及びその部品。断熱材、真空断熱材、輻射断熱材等の断熱装置。各種電子・電気機器、製造装置のシャーシ、筐体、外装カバー。放熱器、開口部、ヒートパイプ、ヒートシンク、フィン、ファン、放熱用コネクタ等の放熱部品。ペルチェ素子、電気熱変換素子、水冷部品等の冷却部品。温度調節装置、温度制御装置、温度検出装置及び部品。サーミスタ、サーモスイッチ、サーモスタット、温度ヒューズ、過電圧防止素子、サーモプロテクタ、セラミックヒーター、フレキシブルヒーター、ヒーターと熱伝導板と断熱材の複合品、ヒーターコネクタ・電極端子部品等の発熱体関連部品。高放射率を有する放射部品、電磁波遮蔽、電磁波吸収体等の電磁シールド部品、アルミ、銅、シリコン等の金属との複合品、窒化ケイ素、窒化ホウ素、アルミナ等のセラミックとの複合品として好適である。
【実施例】
【0132】
以下において、本発明の種々の実施例がいくつかの比較例と共に説明される。
【0133】
<グラファイトフィルムA、B>
[ポリイミドフィルムAの作製方法]
4,4'−オキシジアニリンの1当量を溶解したDMF(ジメチルフォルムアミド)溶液に、ビロメリット酸二無水物の1当量を溶解してポリアミド酸溶液(18.5wt%)を得た。
【0134】
この溶液を冷却しながら、ポリアミド酸に含まれるカルボン酸基に対して、1当量の無水酢酸、1当量のイソキノリン、およびDMFを含むイミド化触媒を添加し脱泡した。次にこの混合溶液が、乾燥後に所定の厚さになるようにアルミ箔上に塗布した。アルミ箔上の混合溶液層を、熱風オーブン、遠赤外線ヒーターを用いて乾燥した。
【0135】
以下に出来上がり厚みが75μmの場合におけるフィルム作製をする場合の乾燥条件を示す。アルミ箔上の混合溶液層は、熱風オーブンで120℃において240秒乾燥して、自己支持性を有するゲルフィルムにした。そのゲルフィルムをアルミ箔から引き剥がし、フレームに固定した。さらに、ゲルフィルムを、熱風オーブンにて120℃で30秒、275℃で40秒、400℃で43秒、450℃で50秒、および遠赤外線ヒーターにて460℃で23秒段階的に加熱して乾燥した。
【0136】
以上のようにして、厚さ75μmのポリイミドフィルムA(弾性率3.1GPa、吸水率2.5%、複屈折0.10、線膨張係数3.0×10-5/℃)を製造した。
【0137】
[ポリイミドフィルムBの作製方法]
出来上がり厚みが厚さ50μmとなるように、アルミ箔上に塗布し、75μmの場合よりも焼成時間を2/3倍に設定した以外は、ポリイミドフィルムAと同様にして、ポリイミドフィルムBを得た。
【0138】
[炭素化フィルムAの作製方法]
厚さ75μmのポリイミドフィルムAを黒鉛板に挟み、電気炉を用いて、1000℃まで昇温して炭化処理(炭素化処理)をおこなった。この炭素化フィルムを炭素化フィルムAとした。
【0139】
[炭素化フィルムBの作製方法]
厚さ50μmのポリイミドフィルムBをセットすること以外は、炭素化フィルムAと同様にして炭素化フィルムBを作製した。

<グラファイトフィルムの密度測定>
グラファイトフィルムの密度は、グラファイトフィルムの重量(g)をグラファイトフィルムの縦、横、厚みの積で算出した体積(cm3)の割り算により算出された。なお、グラファイトフィルムの厚みは、任意の10点で測定した平均値を使用した。
【0140】
<グラファイトフィルムの厚み測定>
グラファイトフィルムの厚みの測定方法としては、50mm×50mmのフィルムを厚みゲージ(ハイデンハイン(株)社製、HEIDENHAIN−CERTO)を用い、室温25℃の恒温室にて、任意の10点を測定し、平均して測定値とした。
【0141】
<光交流法によるフィルム面方向の熱拡散率測定>
黒鉛化の進行状況は、フィルム面方向の熱拡散率を測定することによって判定され、熱拡散率が高いほど、黒鉛化が顕著であることを意味している。熱拡散率は、光交流法による熱拡散率測定装置(アルバック理工(株)社から入手可能な「LaserPit」)を用いて、グラファイトフィルムを4×40mmのサンプル形状に切り取り、20℃の雰囲気下、10Hzにおいて測定された。
【0142】
<グラファイトフィルムのMIT耐屈曲試験>
グラファイトフィルムのMIT耐屈曲試験を行った。グラファイトフィルムを1.5×10cmにカットし、東洋精機(株)製のMIT耐揉疲労試験機型式Dを用いて、試験荷重100gf(0.98N)、速度90回/分、折り曲げクランプの曲率半径Rは1、2mmの2種類でおこなった。折り曲げ角度は左右へ135°の2種について測定した。
【0143】
<グラファイトフィルム表面SEM観察の詳細>
グラファイトフィルムの表面観察は、走査型電子顕微鏡(SEM)(製品名:日立製S−4500型)を用い、加速電圧5kVで観察した。各種グラファイトフィルムを5mm×5mmにカットし、直径15mmのアルミ製の試料台に導電性のテープで固定した。試料台の高さは36mm調節し、セットする。加速電圧は5eVに調節し、高倍率モードで400倍での観察を実施した。ワーキングディスタンスは8mmに調節し、明るさ、コントラスト、フォーカスを調節し、グラファイトフィルムの表面のシワが観察できるように撮影をおこなった。画像の取込みは640×480で取り込んだ。
【0144】
<グラファイトフィルムの表面SEM観察画像の画像処理>
グラファイトフィルムの表面SEM観察画像の画像処理は、ナノシステム株式会社から入手できる、汎用画像処理ソフト(製品名:NANO HUNTER NS2K−PRO/LT)を使用して実施した。画像処理の詳細は、まず初めに、前記画像処理プログラムにSEM画像を取込み、濃度計測を実施した。濃度計測で計測された最大値(最大255)、最小値(0)を確認し、次式により2値化の閾値を決定した。
【0145】
閾値=(最大値−最小値)×0.62 …(1)
次に、前式により決定した閾値でSEM画像を2値化した。2値化とは、ある閾値より明るい領域を白色化し、ある閾値より暗い領域を黒色化する処理である。
【0146】
続いて2値化した画像を、細線化した。細線化は、2値化された上記画像の白色部分を線幅1に変換する処理である。
【0147】
以上のような処理により得られた画像の白色領域の面積を計測した。
【0148】
<グラファイト複合フィルムの作製>
○PETテープとの複合体
グラファイトフィルムの両面にアクリル系の粘着材を介してPETフィルムを形成した。具体的には、図12のように15×100mmのグラファイトフィルムと17×100mmのPETテープ(寺岡製作所製631S♯12)をラミネーターにて貼り合わせた。
その際、グラファイトフィルムの両端からPETテープが1mmはみ出した状態で貼り合わせをおこなった。
○仮想フレキシブルプリント配線板との複合体
フレキシブルプリント配線板に粘着材を介してグラファイトフィルムを複合した。具体的には、図13のように15×100mmのグラファイトフィルムを17×100mmのPETテープ(寺岡製作所製631S♯12)と17×100mmの粘着材(寺岡製作所製707)で閉じこめるように複合し、それを12.5μmのポリイミドフィルム(カネカ製アピカルAH)と35μmの銅箔で構成された仮想フレキ基板にラミネーターにて貼り合わせた。
【0149】
<複合体のMIT耐屈曲試験>
PETテープとグラファイトの複合体およびフレキシブルプリント配線板との複合体の耐屈曲性の評価を、MIT耐屈曲試験機にておこなった。東洋精機(株)製のMIT耐揉疲労試験機型式Dを用いて、試験荷重100gf(0.98N)、速度90回/分、折り曲げクランプの曲率半径Rは1mm、折り曲げ角度は左右へ90°で測定した。50、100、1000、5000、10000、50000、100000、200000回の屈曲後の折り曲げ部分の観察を目視にておこない、折り曲げ部分に変化がないところまでの回数を表に記載した。なお、グラファイト層間から剥離が見られる、PETテープがういている状態などを「変化あり」と判断し、折り曲げ部分に屈曲の跡がついている(変色している)程度の状態は「変化なし」と判断した。
【0150】
<ハゼ折り後の冷却性能評価>
グラファイトのハゼ折り前後の熱拡散性の劣化について評価した。
【0151】
ハゼ折りについて、具体的には、折り曲げ部分のR=1の場合、20×100mmのグラファイトフィルムを作製し、上から20mm部分を折り曲げ、500gの重石をのせた。さらに同じ部分から反対側に折り返し同様に500gの重石をのせ、これをハゼ折り回数1回とカウントした。R=0.5の場合は、折り曲げ部分に直径0.5mmの針金を入れ、同様に折り曲げをおこなった。
【0152】
熱拡散性の評価は、図14に示すように、ハゼ折り前後のグラファイトフィルムに発熱体として1cm角セラミックヒーター(坂口電熱製)を接続した。接続には、ヒートシンクとCPU間の接触などに使用される高熱拡散性シリコーンゴムシート(GELTEC製、6.5W/mK)を使用した。また、室温は22.5±0.5℃に調節し、対流(風)による冷却効果をできるだけ一定とするため、測定領域を発泡スチロールで覆い測定をおこなった。電源のワット数を1Wに保ち測定をおこなった。定常状態(ヒーター温度が±1℃以下)になったところで、ヒーター温度を計測した。ヒーターの測定は、発熱体から発生する赤外線を読み取る放射温度計を用いて測定をおこなった。実際には、(株)NEC三栄社製、サーモトレサTH9100MV/WVを用いヒーター温度の測定をおこなった。ヒーターの温度が高いほどグラファイトの冷却性能が劣化していると言える。
【0153】
今回、発明者・出願人が測定した実施例、比較例で使用したグラファイトフィルムの厚み、表面SEM画像処理後の白色領域の割合、MIT試験回、数熱拡散率、密度などについて表1にまとめた。なお、表1に記載の参考例のグラファイト作製方法は、公知文献によって推定したものである。
【0154】
【表1】

【0155】
(実施例1)
炭素化処理により得られた炭素化フィルムA(400cm2(縦200mm×横200mm)を100枚積層したグラファイト積層体を、縦270mm×横270mm×厚み3mmの板状の平滑なグラファイトで上下から挟み、図15に示す縦300mm×横300mm×厚み60mmの黒鉛容器(容器A)内に保持した。フィルムに30g/cm2の圧力が加わるように、板状のグラファイトを重石として積層体の上にのせ、黒鉛化炉を用いて、3000℃まで昇温して黒鉛化処理をおこなった。該容器Aは、図16に模式的に示すように直接通電可能な容器Bに保持し、該容器Aの外部周辺をカーボン粉末で覆い(容器Aと容器Bの間にカーボン粉末を充填し)保持した。図16に示すように該容器Bの外部周辺をカーボン粉末で覆った状態で、電圧を印加し容器Aの温度が3000℃になるまで通電加熱した。室温まで冷却後、熱処理後のグラファイトを、単板プレスの方法で圧縮することで、グラファイトフィルム1を得た。グラファイトフィルム1を用い、グラファイトフィルム単体および複合体の表1記載の諸物性を測定した。
【0156】
(実施例2)
炭素化フィルムBを原料として使用すること以外はグラファイト1と同様にしてグラファイトフィルム2を作製した。グラファイトフィルム2を用い、グラファイトフィルム単体および複合体の表1記載の諸物性を測定した。
【0157】
(実施例3)
黒鉛化炉を用いて、2900℃まで昇温して黒鉛化処理をおこなったこと以外はグラファイト1と同様にしてグラファイトフィルム3を作製した。グラファイトフィルム3を用い、グラファイトフィルム単体および複合体の表1記載の諸物性を測定した。
【0158】
(実施例4)
黒鉛化炉を用いて、2800℃まで昇温して黒鉛化処理をおこなったこと以外はグラファイト1と同様にしてグラファイトフィルム4を作製した。グラファイトフィルム4を用い、グラファイトフィルム単体および複合体の表1記載の諸物性を測定した。
【0159】
(実施例5)
炭素化処理により得られた炭素化フィルムAを20枚積層したこと以外はグラファイト1と同様にしてグラファイトフィルム5を作製した。グラファイトフィルム5を用い、グラファイトフィルム単体および複合体の表1記載の諸物性を測定した。
【0160】
(実施例6)
抵抗加熱方式のヒーターを使用し、該容器Aをアルゴン気流中で、3000℃まで加熱したこと以外はグラファイト1と同様にしてグラファイトフィルム6を作製した。グラファイトフィルム6を用い、グラファイトフィルム単体および複合体の表1記載の諸物性を測定した。
【0161】
(比較例1)
黒鉛化炉を用いて、2600℃まで昇温して黒鉛化処理をおこなったこと以外はグラファイト1と同様にしてグラファイトフィルム7を作製した。グラファイトフィルム7を用い、グラファイトフィルム単体および複合体の表1記載の諸物性を測定した。
【0162】
(比較例2)
炭素化処理により得られた炭素化フィルムAを積層せずに1枚のみセットしたこと以外はグラファイト1と同様にしてグラファイトフィルム8を作製した。グラファイトフィルム8を用い、グラファイトフィルム単体および複合体の表1記載の諸物性を測定した。
【0163】
(比較例3)
炭素化処理により得られた炭素化フィルムAを5枚積層したこと以外はグラファイト1と同様にしてグラファイトフィルム9を作製した。グラファイトフィルム9を用い、グラファイトフィルム単体および複合体の表1記載の諸物性を測定した。
【0164】
(比較例4)
グラファイト積層体に120g/cm2の圧力が加わるように、板状のグラファイトを重石として積層体の上にのせたこと以外はグラファイト1と同様にしてグラファイトフィルム10を作製した。グラファイトフィルム10を用い、グラファイトフィルム単体および複合体の表1記載の諸物性を測定した。
【0165】
(比較例5)
グラファイト積層体に3g/cm2の圧力が加わるように、板状のグラファイトを重石として積層体の上にのせたこと以外はグラファイト1と同様にしてグラファイトフィルム11を作製した。グラファイトフィルム11を用い、グラファイトフィルム単体および複合体の表1記載の諸物性を測定した。
【0166】
(参考例1)
一般に入手可能な松下電器産業(株)製のPGSグラファイトフィルム「EYGS182310」を用い、グラファイトフィルム単体および複合体の表1記載の諸物性を測定した。
【0167】
(参考例2)
一般に入手可能な松下電器産業(株)製のPGSグラファイトフィルム「EYGS182310」を用い、グラファイトフィルム単体および複合体の表1記載の諸物性を測定した。
【0168】
<グラファイトフィルム単体のMIT耐屈曲試験>
<R=2、135°>
実施例1〜6のMIT試験による折り曲げ回数は10000回以上であり、比較例1〜7および参考例1〜2に比べて非常に高い耐屈曲性を示した。
【0169】
特に、実施例1では100000回以上と非常に高い耐屈曲性を示したが、これは黒鉛化を通電加熱法でおこなった結果、原料フィルムが均一に加熱されたためである。
【0170】
また、3000℃まで昇温した結果、グラファイト層が面方向へ成長し面方向の機械的特性が向上したためである。
【0171】
また、グラファイトの積層枚数を100枚とした結果、過度の均一加熱が防げたこと、発泡状態を作るガスの発生を遅らせたこと、不純物の進入を抑制できたためである。
【0172】
また、原料フィルムの積層枚数に対して加えた加重量のバランスが適切であったので、発泡の程度を抑え、グラファイト層の面方向への成長を促進したためである。
【0173】
また、原料として使用した高分子フィルムが、耐屈曲性に優れたグラファイトを得るために適した分子配向を持っていたことも要因の一つと考えられる。
【0174】
このように耐屈曲性を改善する幾つかのファクターの相乗効果により、実施例1では実施例3〜6、比較例1〜5、参考例1〜2と比較して非常に耐屈曲性に優れたグラファイトフィルムが得られた。
【0175】
実施例2は、実施例1より厚みの薄い原料フィルムを用いたために、厚み25μmグラファイトフィルムが得られた。そのため、フィルムの耐屈曲性は若干ではあるが、実施例1のフィルムより劣っていた。
【0176】
実施例3〜4が実施例1のグラファイトフィルムと比較して耐屈曲性が劣っていた理由は、実施例3、4は2900℃、2800℃までしか昇温しておらず実施例1と比較して、グラファイト層の面方向の成長が足りなかったためである。しかしながら、実施例3〜4は実施例1〜2と比較して多少は劣っていたものの、その他焼成条件が適切であったために、比較例1〜5および参考例1〜2と比較して耐屈曲性に優れたグラファイトフィルムが得られた。
【0177】
実施例5が実施例1のグラファイトフィルムと比較して耐屈曲性が劣っていた理由は、原料フィルムの積層枚数が少なかったため、実施例1と比較して、フィルムが過度に均一加熱されたこと、ガスの発生が遅らせなかったこと、不純物の進入を抑制できなかったことによる。しかしながら、実施例5は実施例1と比較して多少は劣っていたものの、その他焼成条件が適切であったために、比較例1〜5および参考例1〜2と比較して耐屈曲性に優れたグラファイトフィルムが得られた。
【0178】
実施例6が実施例1のグラファイトフィルムと比較して耐屈曲性が劣っていた理由は、実施例6は雰囲気加熱であるために、サンプルが均一に加熱されていなかったためである。しかしながら、実施例6は実施例1と比較して多少は劣っていたものの、その他焼成条件が適切であったために、比較例1〜5および参考例1〜2と比較して耐屈曲性に優れたグラファイトフィルムが得られた。
【0179】
一方、比較例1〜6は実施例1〜6と比較して耐屈曲性は大きく劣っていた。
【0180】
比較例1が実施例と比較して耐屈曲性が劣っていた理由は、最高温度が2600℃と低かったため黒鉛化が十分に進行しなかったため、また、内部ガスの発生温度まで昇温されていないため、十分な発泡状態が得られなかったことである。
【0181】
比較例2、3が実施例と比較して耐屈曲性が劣っていた理由は、黒鉛化時のグラファイトフィルムの積層枚数が少なかったためである。これは、積層枚数が少ないため、フィルムが過度に均一加熱されたこと、ガスの発生が遅らせなかったこと、不純物の進入を抑制できなかったことによる。
【0182】
比較例4が実施例と比較して耐屈曲性が劣っていた理由は、黒鉛化時の載せた荷重が重すぎたため、フィルムの厚み方向の発泡が抑制され、グラファイト層が過度に面方向へ成長したためである。
【0183】
比較例5が実施例と比較して耐屈曲性が劣っていた理由は、黒鉛化時の載せた荷重が軽すぎた結果、面方向へのグラファイト層の成長が足りず、発泡の程度が大きくなり過ぎたためである。
【0184】
また参考例1〜2は、実施例1〜4と比較して耐屈曲性は非常に劣っていた。
【0185】
<R=1、135°>
折り曲げ半径R=1の場合、R=2より屈曲回数は小さくなるが傾向は同様であったので省略する。
【0186】
<表面SEM画像処理後の白色領域の割合>
実施例1〜6、比較例1〜5、参考例1〜2の表面SEM写真を上記画像処理方法にて画像処理した画像を図17〜図29に示す。
【0187】
実施例1〜6の表面SEM画像処理後の白色領域の割合は2.3%以上7.9%以下であり、耐屈曲性の優れたグラファイトフィルムに見られる発泡状態であることが確認できた。
【0188】
詳細を見ていくと、実施例1、2は2.5%、2.3%であり非常に適切な発泡状態であるため、耐屈曲性は特に優れていた。これは黒鉛化を通電加熱法でおこなった結果、原料フィルムが均一に加熱されたためである。
【0189】
また、3000℃まで昇温した結果、グラファイト層が面方向へ成長し面方向の機械的特性が向上したためである。
【0190】
また、グラファイトの積層枚数を100枚とした結果、過度の均一加熱が防げたこと、ガスの発生を遅らせたこと、不純物の進入を抑制できたことにより、優れた耐屈曲性を示すグラファイトフィルムが得られたためである。
【0191】
また、原料フィルムの積層枚数に対して加えた加重量のバランスが適切であった結果、発泡の程度を抑え、グラファイト層の面方向への成長を促進したために、耐屈曲性に優れたグラファイトフィルムが得られた。
【0192】
また、原料として使用した高分子フィルムが、耐屈曲性に優れたグラファイトを得るために適した分子配向を持っていたことも要因の一つと考えられる。
【0193】
このように耐屈曲性を改善する幾つかのファクターの相乗効果により、実施例1〜2は実施例3〜6、比較例1〜5、参考例1〜2と比較して非常に適切な発泡状態のグラファイトフィルムが得られた。
【0194】
実施例3、4は実施例1、2と比較して表面SEM画像処理後の白色領域の割合が若干大きくなっていた。これは、実施例1、2と比較して最高温度が低かった結果、グラファイト層の面方向の成長が足りなかったためである。MIT試験結果の回数が実施例1、2と比較して小さかったのもこのためである。
【0195】
実施例5実施例1、2と比較して表面SEM画像処理後の白色領域の割合が若干小さくなっていた。これは、黒鉛化時の積層枚数が少なかったために、実施例1〜2と比較して、フィルムが過度に均一加熱されたこと、ガスの発生が遅らせなかったこと、不純物の進入を抑制できなかったために、発泡の程度が小さく、ドメインの大きくなったためである。MIT試験結果の回数が実施例1、2と比較して小さかったのもこのためである。
【0196】
実施例6実施例1、2と比較して表面SEM画像処理後の白色領域の割合が大きくなった。これは、雰囲気加熱であるために、サンプルが均一に加熱されていなかったため、発泡の程度が大きく、ドメインの小さなグラファイトとなったためである。MIT試験結果の回数が実施例1、2と比較して小さかったのもこのためである。
【0197】
一方、比較例1〜4は実施例1〜6と比較して表面SEM画像処理後の白色領域の割合は小さかった。また、比較例5は実施例1〜6と比較して表面SEM画像処理後の白色領域の割合は大きかった。
【0198】
詳細を見てみると、比較例1が実施例と比較して表面SEM画像処理後の白色領域の割合が小さかった理由は、最高温度が2600℃と低かったため黒鉛化が十分に進行しなかったこと、内部ガスの発生温度まで昇温されていないため発泡しなかったためであり、その結果、柔軟なグラファイトフィルムが得られなかった。
【0199】
比較例2、3が実施例と比較して表面SEM画像処理後の白色領域の割合が小さかった理由は、黒鉛化時のグラファイトフィルムの積層枚数が少なかったためである。これは、積層枚数が少ないため、フィルムが過度に均一加熱されたこと、ガスの発生が遅らせなかったこと、不純物の進入を抑制できなかったことによる。その結果、発泡の程度が小さく、ドメインが大き過ぎる耐屈曲性の劣るグラファイトフィルムが得られた。
【0200】
比較例4が実施例と比較して表面SEM画像処理後の白色領域の割合が小さかった理由は、黒鉛化時の載せた荷重が重すぎたため、フィルムの厚み方向の発泡が抑制されたためである。
【0201】
比較例5が実施例と比較して表面SEM画像処理後の白色領域の割合が大きかった理由は、黒鉛化時の載せた荷重が軽すぎた結果、面方向へのグラファイト層の成長が足りず、発泡の程度が大きくなり過ぎたためである。
【0202】
また参考例1〜2は、実施例1〜5と比較して表面SEM画像処理後の白色領域の割合は非常に大きかった。実施例1〜5と比較して、発泡の程度が大きく、ドメインの小さなグラファイトフィルムであり、そのため耐屈曲性は実施例1〜5と比較して劣っていた。
【0203】
<熱拡散率測定>
実施例1〜5の熱拡散率は8.3×10-42/s以上と高く、また非常に優れた耐屈曲性を有していた。これは、グラファイトフィルムの発泡の程度を積層枚数および重石のバランスで制御し、通電過熱法にて高温まで均一に黒鉛化したためである。
【0204】
実施例6のグラファイトフィルムは、雰囲気加熱法であったため、実施例1〜5と比較して均一な加熱ができなかったため、熱拡散率は若干低くなった。
【0205】
一方、比較例1は2600℃までの昇温であったため、黒鉛化の進行が不十分であったために熱拡散率は3.2×10-42/sと低かった。
【0206】
比較例2、3の熱拡散率は9.8×10-42/s以上と非常に優れていたが、これは黒鉛化時のグラファイトフィルムの積層枚数が少なかったためである。積層枚数が少ないと、フィルムが均一加熱され、不純物の進入を抑制できないために、グラファイトが面方向に非常に高度に成長したグラファイトフィルムが得られる。
【0207】
比較例4の熱拡散率は10.3×10-42/s以上と非常に優れていたが、これは黒鉛化時の載せた荷重が重すぎたため、グラファイト層が面方向に高度に配向したフィルムとなったからである。比較例2、3、4の熱拡散率は非常に高いものの、発泡の程度が小さすぎて、ドメインが大きく成長しているため、硬質で耐屈曲性の劣ったグラファイトフィルムであった。参考例1〜2のグラファイトフィルムの熱拡散率は実施例1〜5と比較して小さかった。
【0208】
<複合体のMIT耐屈曲試験>
PETテープとの複合体とフレキシブルプリント配線板との複合体のMIT試験を実施した。その結果、PETテープの複合体の方がフレキシブルプリント配線板との複合体より耐屈曲性が優れていた。これは、フレキシブルプリント配線板との複合体の方が複合体の厚みが厚く、剛直であり、またグラファイト表裏面のバランスが異なっているために劣化しやすかったと考えられる。しかしながら、PETテープとの複合体とフレキシブルプリント配線板との複合体ともに同様の傾向を示したため、以下にPETテープとの複合体のみの考察を記載する。
【0209】
実施例1〜5は50000回屈曲後の外観も変化がなく、比較例1〜5、参照例1〜2と比較して耐屈曲性に優れていた。これは、グラファイト単体の耐屈曲性が非常に優れているためである。一方、グラファイトフィルム単体で耐屈曲性の悪かった比較例1〜5および参考例1〜2は、PETテープの支持体で補強しても、耐屈曲性は非常に悪かった。
【0210】
<ハゼ折り前後の熱拡散性の劣化>
ハゼ折り後の熱拡散性の劣化について、R=0.5では実施例1〜5および参考例1で1℃以上の熱拡散性の劣化は確認されなかった。一方、比較例1〜5では、ハゼ折り10回後には、屈曲部分から切れてしまい、熱拡散性の評価を実施できなかった。また、参考例2では1.1℃の熱拡散性の劣化が確認された。
【0211】
R=0.0の厳しい条件でのハゼ折り前後では、実施例4〜6および参考例1〜2で1℃以上の熱拡散率の劣化が確認された。また、比較例1〜5では、ハゼ折り10回後には、屈曲部分から切れてしまい、熱拡散性の評価を実施できなかった。一方、実施例1〜3ではR=0.0の厳しい条件でも、熱拡散性の劣化は見られなかった。
【0212】
以上のように、本発明のグラファイトフィルムは、屈曲部分での使用に耐えうる優れた耐屈曲性と発熱部位から熱を速やかに拡散できる優れた熱拡散性を合わせ持っていることがわかる。また本発明のグラファイトフィルムを用いて作製したグラファイト複合フィルムも、優れた耐屈曲性を示すことがわかる。
【符号の説明】
【0213】
11 ドメインのサイズ
12 発泡の程度
13 発泡グラファイトフィルムの断面模式図
21 境界線で囲まれた領域のサイズ
22 境界線
23 圧縮グラファイトフィルムの断面模式図
71 平滑部
72 突起部
73 エッジ部
74 二次電子
75 試料
76 拡散領域
81 境界線で区切られた領域
82 境界線
91 SEM画像
92 2値化後の画像
93 細線化後の画像
1 ポリイミドフィルム
2 くさび形シート
3 くさび形シートの幅
4 ナトリウム光
5 干渉縞
121 PET
122 粘着材
123 グラファイトフィルム
124 1mmはみ出し
125 横図
126 上図
131 PET
132 粘着材
133 ポリイミドフィルム
134 グラファイトフィルム
135 銅箔
141 シリコーンゴムシート
142 ヒーター
143 ハゼ折り部分
144 グラファイトフィルム
151 原料フィルムを保持した容器A
152 原料フィルムを保持するための、平滑な通電可能な平板
161 容器B
162 容器Aと容器Bの間に充填された、カーボン粒子
163 容器Bの外部周辺に充填された、カーボン粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MIT耐屈曲試験において、幅15mmの短冊型試験片を使用し、折り曲げクランプの曲率半径Rが2mm、左右の折り曲げ角度135度、折り曲げ速度90回/分、荷重0.98Nの条件で測定した切断するまでの往復折り曲げ回数が10000回以上であることを特徴とするグラファイトフィルム。
【請求項2】
高分子フィルムおよび/または炭素化した高分子フィルムからなる原料フィルムを2000℃以上の温度で熱処理して得られるグラファイトフィルムであって、該グラファイトフィルムの倍率400倍での表面のSEM画像を、閾値160で白黒に2値化し、さらに2値化された該画像の白色領域を細線化した画像の白色領域の面積が1%以上8.5%以下であることを特徴とする請求項1に記載のグラファイトフィルム。
【請求項3】
MIT耐屈曲試験において、幅15mmの短冊型試験片を使用し、折り曲げクランプの曲率半径Rが1mm、左右の折り曲げ角度135度、折り曲げ速度90回/分、荷重0.98Nの条件で測定した切断するまでの往復折り曲げ回数が10000回以上であることを特徴とする請求項1または請求項2にグラファイトフィルム。
【請求項4】
前記グラファイトフィルムの面方向の熱拡散率が8.0×10-42/s以上であることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれかに記載のグラファイトフィルム。
【請求項5】
請求項1〜請求項4いずれかに記載のグラファイトフィルムの一部に、プラスチックフィルムが粘着材を介して形成されていることを特徴とするグラファイト複合フィルム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate

【図29】
image rotate


【公開番号】特開2010−189267(P2010−189267A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75365(P2010−75365)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【分割の表示】特願2009−515184(P2009−515184)の分割
【原出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】