グラム陽性菌の増菌、分離、および検出のための方法および手段
本発明は、エンドリシンまたは別の細胞壁溶解酵素の酵素的に非活性な細胞壁結合ドメイン、およびSEQ ID NO: 1に記載の配列またはその誘導体を含むポリペプチドであって、細胞壁結合ドメインのほかに、エンドリシンの別のドメインを含まないポリペプチドに関する。該ポリペプチドを調製するための手段も開示される。本発明はさらに、細菌、特にグラム陽性菌を結合、増菌、試料から分離、捕捉、および/または検出するための方法にも関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンドリシンまたは別の細胞壁溶解酵素の酵素的に非活性な細胞壁結合ドメイン、およびSEQ ID NO: 1に記載の配列またはその誘導体を含むポリペプチドであって、細胞壁結合ドメインのほかに、エンドリシンまたは別の細胞壁溶解酵素の別のドメインを含まないポリペプチド、ならびにそれらの調製のための手段に関する。本発明はさらに、細菌、特にグラム陽性菌を結合、増菌、試料から分離、捕獲、および/または検出するための方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
グラム陽性菌は、自然環境で野生で分布している。これらは、土壌、水、植物材料、糞便のような試料中に存在し得るが、ヒトおよび動物中にも存在し得る。例えば、リステリア(listeria)、バチルス(bacillus)、クロストリジウム(clostridium)、ブドウ球菌(staphylococcus)、連鎖球菌(streptococcus)、腸球菌(enterococcus)、ミクロコッカス(micrococcus)、またはマイコバクテリア(mycobacteria)の種の病原微生物の系列全体が、食物分野、ならびにヒトおよび動物における感染症の予防、診断学、および療法に特に関連する。
【0003】
セレウス菌(Bacillus cereus)群の細菌は、経済的かつ医学的に目立って重要であり、バイオテロリズム分野に顕著な関連がある微生物である。これらの細菌は、群内で互いに密接に関連しており、それらの多くの量が配列決定されている(Rasko et al, FEMS Microbiol. Reviews, 2005, 29, 303-329(非特許文献1))。これらは自然界で野生で分布しており、主に植物起源の様々な種類の食物中に存在している。これらは好気性で活発な移動性の桿状グラム陽性菌である。抵抗性の内生胞子の寄与により、これらは、例えば乾燥または加熱のような、食物を保存処理するために使用される様々な方法に耐えて生き残ることができる。しばしば汚染される食物は、主に、デンプンを含む食物、穀類、コメ、香辛料、野菜、およびインスタント製品である。肉は、汚染された香辛料を用いることによって汚染される場合がある。胞子は低温殺菌に耐えて生き残り、続いて非制限的な増殖が起こり得るため、乳製品はしばしば汚染される。セレウス菌の群は、6つの密接に関連した種からなり、食物微生物セレウス菌のほかに、バイオテロリズム分野に大いに関連している極めて危険なヒト病原微生物炭疽菌(Bacillus anthracis)、昆虫病原菌バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)(B.チューリンゲンシス(thuringiensis)に基づいた微生物学的殺虫剤によって広範囲に分布する)、根様のバチルス・ミコイデス(Bacillus mycoides)、ならびにバチルス・シュードミコイデス(Bacillus pseudomycoides)およびバチルス・ウェイヘンステファネンシス(Bacillus weihenstephanensis)が含まれる。
【0004】
リステリアは、ヒトおよび動物の病原細菌であり、食物、特に魚、肉、および乳製品中にしばしば存在する。リステリア属は、6つの異なる種を含み、16種の異なる血清型を有する。食物関連の疾患のごく一部しかリステリアによって引き起こされないが(米国で約1%)、食物病原菌に起因する毎年の致死的疾患のほぼ30%は、この微生物が原因である。主に免疫が抑制された人々、例えば、高齢者、糖尿病患者、癌患者、および/またはエイズ患者が影響を受ける。妊婦およびその胎児は、リステリア症患者の全症例の25%に相当する。
【0005】
ブドウ球菌および腸球菌は、多耐性微生物(例えば、MRSA -多耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)およびVRE-バンコマイシン耐性腸球菌)を次第に発達させて、劇的な発達、すなわち、不良な疾患予後、ならびに主に定常的な健康管理における費用の急激な増加をもたらすため、現在、感染症に関連した最も問題のある病原菌である。
【0006】
潜在的な病原菌は、感染状態では食物領域にごく少数の細胞数でしばしば存在し、干渉的なバックグラウンドの細菌叢をさらに伴う。一方では、グラム陽性微生物を効率的に分離するための方法が必要とされており、その一方で、例えば、感度の高い検出を実現するために、これらの微生物を選択的に増菌するための方法が必要とされている。
【0007】
優れた検出方法の判定基準は、感度、迅速性、信頼性、ならびに単純かつ費用効率の高い適用である。
【0008】
まず、基本的には常に、検出すべき生物を富化する。一般に、これは、従来の方法によって多段階プロセスで実行される。第1の富化は、主に、非選択的または低選択的な液状栄養培地を用いて行う。続いて、選択的な第2の富化を行い、それに続いて、選択的寒天上でしばしば実施される第1の単離を行う。単一コロニーを継代培養で再び富化し、続いて、種々の検出方法を用いて検出する。これらの従来の方法では、微生物が陽性と検出されるまで非常に長い時間がかかる。リステリアの標準的な検出時間は、ISO 11290-1:1996/FDAM 1:2004(E)によれば4〜7日を超え、FDAおよびUSDA/FSISによれば4〜7日である。セレウス菌群の細菌の増菌は、標準的な方法(USFDA-方法、第14章; ISO_7932:2004)によれば1.5〜2.5日かかり、その後の検出に2日間、かつセレウス菌群内のより詳細な区別にさらに2〜3日かかる。
【0009】
食品産業において、検出時間は、いくつかの種類の食物の短い貯蔵寿命、および試料が汚染されていないことが確認されるまで必要である多くの費用を要する貯蔵を考慮すると、重要な分野である。さらに、汚染された商品が、管理(control)結果の受領に先んじてスケジュールより前に配達される場合、多くの費用を要する製品回収を常に目にすることになり得る。また、健康管理上、長い検出時間は問題がある。これは、病原微生物が同定されて初めて、安全な基本原理に基づいた適切な特定の治療方法も実施することができるためである。
【0010】
従来の増菌方法および検出方法と比べて速い代替手段として、抗体に基づいた方法がしばしば使用された(例えば、US 6,699,679(特許文献1)、US 2004/0197833(特許文献2)、UA 2006/0211061(特許文献3)、Fluit et al., 1993, Appl Environ Microbiol., 59, 1289-1293(非特許文献2)、Jung et al., 2003, J Food Prot., 66, 1283-1287(非特許文献3)、Hawkes et al., 2004, Biosens. Bioelectron., 19, 1021-1028(非特許文献4))。また、細菌表面の炭水化物部分に対する受容体として糖結合レクチンを応用することも検討された。しかしながら、これらは、大部分は非特異的すぎるため混合培養物から特定の細菌を選択することができず、しばしば、多量体結合特性に基づいて凝集における問題を示す。また、抗体に基づいた方法を用いた場合、細菌の回収率も比較的低く、この比率は5%〜25%の範囲であった。低い回収率に加えて、免疫磁気分離方法(IMS)のその他の不都合な点は、低汚染率での不十分な感度、他の細胞との交差反応、およびしばしば、抗体でコーティングしたビーズに伴う凝集における問題である。さらに、完全な細菌に対する抗体を得ることは比較的難しい。これらの方法は、純粋培養物の場合は非常に有望であるが、混合培養物または食物のような複雑なマトリックスの場合は、顕著な問題を示す。
【0011】
抗体の代替物として、グラム陽性菌結合のためにバクテリオファージペプチドグリカン加水分解酵素に由来する細胞壁結合ドメイン(CBD)を使用することが、最新技術において公知である(Loessner et al., 2002, Mol. Microbiol., 44, 335-349(非特許文献5))。EP 1147419(特許文献4)およびWO2004/088321(特許文献5)では、細胞の検出のためにCBDを使用し、その際、CBDは固相に結合され、一般にマーカーを有する。
【0012】
EP 1399551(特許文献6)では、バクテリオファージカプシドタンパク質またはバクテリオファージ尾部タンパク質を用いた、グラム陰性菌細胞または細胞断片の選択的精製のための方法を説明している。この場合、細菌は2段階方法で結合され、最初に、標的細胞への結合分子の結合が行われ、続いて、その複合体が固形担体に固定化される。固定化は、hisタグ、ビオチン、またはstrepタグの助けを借りて、バクテリオファージ尾部タンパク質を固形担体の官能化表面に結合させることによって行う。特にこの2段階方法の場合、特に標的細胞を固形担体と共に試料から分離する場合には、官能化担体への結合タンパク質-標的細胞複合体の効率的で迅速な非共有結合が、非常に重要な関連性を有する。
【0013】
US 5,252,466(特許文献7)では、インビボでのビオチン化用のタグを含み、したがって精製が容易である融合タンパク質を調製するための方法を開示している。この場合、ビオチン化ドメインは、例えば、プロピオニバクテリウム・シャーマニイ(Propionibacterium shermanii)のトランスカルボキシラーゼの1.3Sサブユニット、トマト-ビオチン-タンパク質、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)オキサル酢酸デカルボキシラーゼのα-サブユニット、または大腸菌(Escherichia coli)ビオチンカルボキシルキャリアータンパク質であり、プラスミドのビオチンリガーゼと共に同じリーディングフレーム中で発現され、したがって、インビボでビオチン化される。ファージディスプレイ系の助けを借りて、各融合タンパク質を精製および検出するのに適した、クレブシエラのオキサル酢酸デカルボキシラーゼのビオチン化ドメインのタンパク質分解に対してより安定な最小型が開発された(Stolz et al., 1998, FEBS-Lett. 440, 213-217(非特許文献6))。また、US 5,874,239(特許文献8)は、融合タンパク質のビオチン化のための方法を主張し、長さがアミノ酸13〜50個、好ましくはアミノ酸約20個であり、クレブシエラのオキサル酢酸デカルボキシラーゼのビオチン化ドメインより短い、いくつかのタグ、いわゆる「Aviタグ」を提案する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】US 6,699,679
【特許文献2】US 2004/0197833
【特許文献3】UA 2006/0211061
【特許文献4】EP 1147419
【特許文献5】WO2004/088321
【特許文献6】EP 1399551
【特許文献7】US 5,252,466
【特許文献8】US 5,874,239
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Rasko et al, FEMS Microbiol. Reviews, 2005, 29, 303-329
【非特許文献2】Fluit et al., 1993, Appl Environ Microbiol., 59, 1289-1293
【非特許文献3】Jung et al., 2003, J Food Prot., 66, 1283-1287
【非特許文献4】Hawkes et al., 2004, Biosens. Bioelectron., 19, 1021-1028
【非特許文献5】Loessner et al., 2002, Mol. Microbiol., 44, 335-349
【非特許文献6】Stolz et al., 1998, FEBS-Lett. 440, 213-217
【発明の概要】
【0016】
したがって、本発明の根底にある課題は、迅速、単純、かつ効率的にグラム陽性菌を結合、増菌、分離、捕獲、および検出するための、より効率的で生産力の高い方法および該方法を実施するための手段を提供することである。
【0017】
この課題は、特許請求の範囲に定義する主題によって解決される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
以下の図面は本発明を例示する。
【0019】
【図1】JSタグを有するバクテリオファージ尾部タンパク質。図1A:様々なタグを有するP22様ファージ尾部タンパク質の発現および機能的アセンブリの比較。サルモネラ(Salmonella)由来のP22様ファージ尾部タンパク質のN末端にStrepタグ、Aviタグ、およびJSタグをクローニングし、大腸菌(E. coli) HMS174(DE3)および大腸菌JM83においてそれぞれ発現させた。試料を12%SDSゲルに載せ、クーマシーで染色した。この実験は、実験1で説明する。M:マーカー、P:沈殿物、S:上清、+:誘導有り、-:誘導無し、nb:煮沸無し。矢印は、ファージ尾部タンパク質の単量体および三量体の位置をそれぞれ示す。図1B:JSタグを用いた、サルモネラファージ由来の3種のバクテリオファージ尾部タンパク質のクローニングおよび発現。サルモネラファージ由来の3種の異なるバクテリオファージ尾部タンパク質(Tsp)をJSタグとの融合タンパク質としてクローニングし、大腸菌HMS174(DE3)中で発現させた。細胞溶解物から得た試料を12%SDSゲルに載せ、クーマシーで染色した。レーン1:マーカー(分子量は上から118kDa、85kDa、47kDa、36kDa、26kDa、20kDa)、レーン2:沈殿物(P)、誘導無し、レーン3:上清(S)、誘導無し、レーン4〜12(すべて誘導後)、レーン4:Felix様尾部タンパク質(Felix-Tsp、48kDa)、P、レーン5:Felix-Tsp、S、煮沸、レーン6:Felix-Tsp、煮沸無し、レーン7:P22様尾部タンパク質(P22-Tsp、67kDa)、P、レーン8:P22-Tsp、S、煮沸、レーン9:P22-Tsp、S、煮沸無し、レーン10:ε15様尾部タンパク質(ε15-Tsp、93kDa)、P、レーン11:ε15-Tsp、S、煮沸、レーン12:ε15-Tsp、S、煮沸無し。矢印は、(煮沸無し試料中の)ファージ尾部タンパク質単量体およびSDS耐性三量体の予想される位置を示す。図1C:それぞれAviタグおよびJSタグを用いた、カンピロバクター(campylobacter)ファージ由来尾部タンパク質の比較的なクローニングおよび発現。カンピロバクターファージ尾部タンパク質(カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)の推定上の尾繊維タンパク質H、アクセッション番号ZP01067412)を、それぞれN末端AviタグおよびJSタグ(変異体5b)と共に、プラスミドpET21dにクローニングし、大腸菌HMS174(DE3)および大腸菌BL21(DE3)においてそれぞれ発現させた。この実験は、実験1で説明する。発現および溶解性の試験から得た、様々な試料の9%クーマシーで染色したSDSゲルを示す。P:沈殿物、S:上清、(i):誘導有り、-:煮沸無し、M:マーカー。矢印は、誘導後のファージ尾部タンパク質の(煮沸無しの試料中の)単量体および三量体の位置をそれぞれ示す。
【図2】リステリアCBDは、化学的ビオチン化後に完全に不活性になる。導入されたリステリアのどの部分が、化学的ビオチン化後に結合アッセイ法において引き続き結合されるかを示す。0.5μg/ml、1μg/ml、2μg/ml、および5μg/mlのタンパク質濃度を試験で使用した。NHS-ビオチンとのインキュベーションは、0分、20分、60分、および120分間実施した。Avi-CBDは対照としての機能を果たした。
【図3】1段階方法および2段階方法の比較。図3Aは、1段階方法および2段階方法ならびにISO方法による、カマンベールからのリステリア検出の比較を示す。これらの異なる方法を用いて、非常に低濃度のどのL.モノサイトゲネス(monocytogenes)がカマンベール中で検出され得るかに基づいて、時間依存性を比較的に解析する。5つの一定分量のカマンベール(各25g)を0CFU、2CFU、4CFU、15CFU、および46CFU(colony forming unit)で汚染し、4時間後、6時間後、および24時間後に1段階方法、2段階方法、またはISO(ISO: 11290-1:1996 FDAM1)方法によって濃度を試験した。1段階方法および2段階方法の場合、Strepタグ-GFP-CBD511_f2を特異的リガンドとして使用した。それぞれ4回の実験から値を決定する。(0:プレート上にコロニー無し、X:コロニーが10個未満、XX:コロニーが10〜30個、XXX:コロニーが30個を上回る)。図3Bは、融合タンパク質JS-GFP-CBD511_f2を用いた、モツァレラ中のL.モノサイトゲネス(EGDe株:黒色の棒、およびScottA:網掛けの棒)の検出の1段階方法および2段階方法の濃度依存性を示す。この実験の遂行は、実験3bで説明する。各例において、モツァレラ試料1mlに由来する各株の導入されたリステリア細胞全体の何パーセントが分離されたかを示す。それぞれ2回の実験から値を決定した。
【図4】Aviタグと比較したJSタグ。図4A:JSタグ構築物およびAviタグ構築物の細胞結合能力の比較。様々な構築物の細胞結合能力を、2段階方法に従い、リステリア株ScottAを用いて試験した。次の構築物を使用した:JS-GFP_CBD511_f3(丸)、JS-CBD511_f3(四角)、およびAvi-GFP_CBD511_f3(三角形)。磁性ビーズに結合されたリステリアの比率を、導入した細胞に対するパーセントで与える。実験はすべて2回実施し、平均値を決定した。図4B:Avi-GFP-CBD511_f2およびJS-CBD511_f2の比較的精製。左の写真は、Avi-GFP-CBD511_f2の精製のクーマシー染色ゲルを示し、右は、JS-CBD511_f2の精製の最終産物を示す。この実験は、実験4bで説明する。M:マーカー、L:カラムに添加、F:通過、W:洗浄画分、3〜8:Avi-GFP-CBD511_f2を含む画分。10μg/ml、1μg/ml、0.1μg/ml:添加したJS-CBD511_f2タンパク質濃度。Avi-GFP-CBD511_f2およびJS-CBD511_f2ならびにBirAのバンドの位置を示す。図4C:リステリアの結合の濃度依存性。特異的結合タンパク質のどの濃度において最大の細胞結合が実現されるかを解析した。結合タンパク質として、濃度0μg/ml、0.02μg/ml、0.1μg/ml、0.5μg/ml、1μg/ml、2μg/ml、および3μg/mlのJS-CBD511_f3を導入した。この実験は、実験4bで説明する。
【図5】BirAの共発現がJSタグ-CBDの結合効率に与える影響。特異的結合タンパク質JS5b-CBD511_f2の導入量に依存する、結合される細菌細胞(リステリアScottA)の比率を例示する。一部のタンパク質に関しては、付加的なプラスミド中でBirAを共発現させ(三角)、他の一部に関しては、BirAとの共発現は行わなかった(菱形)。さらに、2つの実験においてビオチンを付加的に添加したが(塗りつぶした記号)、2つの実験ではこれを実施しないままであった(白抜きの記号)。
【図6】ストレプトアビジンビーズへのJSタグ-CBDの特異的結合とニッケル-NTA-ビーズへのhisタグ-CBDの結合との比較。2段階方法を用い、ニッケル-NTA-磁性ビーズに対するhexa-hisタグまたはストレプトアビジン磁性ビーズに対するJSタグのいずれかを介して、セレウス菌細菌を2つの異なるCBD(CBDBaおよびCBD21)と結合させた。特異的に結合された細菌の比率を、導入された細菌全体(濃度3×103 CFU/ml)と比較して示す。
【図7】様々な培地におけるstrepタグ-CBDおよびJSタグ-CBDそれぞれとの細菌結合。本発明による方法を用いて、様々な培地およびPBST緩衝液から、それぞれリステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)EGDe細胞を濃縮した。この実験は、実験8で説明する。図7A:Avi-CBD511_f2(5μg/ml)を用いてリステリアを濃縮した。図7B:JS-CBD511_f2(5μg/ml)を用いてリステリアを濃縮した。
【図8】ビオチンを含む試料における細菌結合。構築物strepタグ-CBDBaおよびJSタグ-CBDBaを用いたセレウス菌の特異的濃縮を、ビオチン濃度0.01μM、0.1μM、および1μMで比較して解析した。
【図9】様々な条件下でのJSタグ-CBDの長期に渡る安定性。JS-CBD511_f3ならびにストレプトアビジン磁性ビーズを、-20℃〜37℃の温度範囲でインキュベートし、続いて、リステリア・モノサイトゲネスScottAを用いた細胞結合試験に導入した。図9A:リン酸ナトリウム、pH7、2mM EDTA中でのインキュベーション。1日後(黒塗りの(full)丸)、14日後(白抜きの長方形)、60日後(黒塗りの三角形)および126日後(十字形)に、所与のJS-CBD511_f3濃度で結合されたリステリアの比率を与える。図9B:イミダゾール、100mM NaCl、pH7、+30%AS中でのインキュベーション。0日後(丸)、33日後(長方形)、および74日後(三角形)に、指定のJS-CBD511_f3濃度で結合されたリステリアの比率を与える。
【図10】様々な食物からのJS-CBD511構築物を用いたリステリア捕獲。図10A:牛乳およびチーズからのリステリア・モノサイトゲネスScottAの濃度依存性分離。様々な濃度のJS4b-CBD511_f2を結合のために使用した。導入された細菌の何パーセントが各タンパク質濃度で磁性ビーズに結合されたかを示す。図10B:サラミおよびスモークサーモンからのリステリア・イノキュア(Listeria innocua)の分離。
【図11】食物からのリステリア濃縮およびそれに続くNASBA技術による検出。少量のリステリア・モノサイトゲネスScottA(5CFU/25g)で汚染し、LEB-FDA培地中でそれぞれ17時間および20時間プレインキュベーションした後のサラミから、JS5b-CBD511_f2を用いてリステリアを濃縮した。図11Aでは、リステリア特異的プライマーとの酵素反応後に出現する蛍光シグナルを示す。図11Bは、試料に由来する導入された細菌の何パーセントがJS5b-CBD511_f2と結合し得るかを示す。
【図12】細菌混合物からのセレウス菌の特異的結合。特異的JSタグ-CBDBaを用いて、細菌混合物(セレウス菌(DSMZ345)、サルモネラ・テネシー(Salmonella tennessee)、リステリア・モノサイトゲネス(ScottA)、黄色ブドウ球菌、大腸菌HMS174(DE3))からセレウス菌を濃縮する。結合されたセレウス菌細胞の数を、それぞれ、磁性ビーズに結合されるか(黒い棒)、または上清および洗浄画分(網掛けの棒)中の分離された細胞全体と比較したパーセントで与える。一方では、混合培養物由来の他の細胞も維持するために完全培地(CASO、Merck)上にこれらの細胞をプレーティングし、他方では、セレウス菌用の選択プレート(PEMBA)上に細胞をプレーティングした。対照として、磁性ビーズは添加するが結合タンパク質は添加しない実験を実施した。
【図13】食物からのセレウス菌の濃縮。セレウス菌群に由来する病原微生物の出現は、特にインスタント製品または温め直されたコメのような調理済みで炭水化物を多く含む食物に関する問題である。そのため、調理を終えるのに電子レンジで2分間の加熱しか必要としない調理済みのコメを、食物試料として使用した。食物試料を培地で希釈し、ホモジナイズし、セレウス菌細胞を濃度102CFU/ml、103CFU/ml、または104CFU/mlで添加した。TSPB培地を対照として使用した。図13Aは、結合された細胞の数を、ビーズ画分(黒い棒)および上清(網掛けの棒)中の回収された細胞に対するパーセントで示す。図13Bは、結合された細胞を含むビーズ画分がプレーティングされたPEMBAプレートを例示的に示す。セレウス菌コロニーは、それらの花形で広がる増殖によって認識することができる。比較して、図13Cは、細胞を含む上清画分がプレーティングされたPEMBAプレートを示す。
【図14】CBD21および磁性ビーズの助けを借りた、血液からのセレウス菌の濃縮。ヒト血液にセレウス菌(DSMZ345)を濃度103CFU/mlで添加した。クエン酸、EDTA、またはヘパリンを血液試料に前もって添加して、血液凝固を阻害し、PBST緩衝液で1:1希釈した。JSタグ-CBD21(10μg/ml)(黒色の棒)、タンパク質無しの対照(網掛けの棒)。
【図15】JSタグ-CBD3626を用いた、ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)の特異的結合。スペーサーGFPの緑色蛍光を本明細書においてマーカーとして使用して、クロストリジウム細菌および磁性ビーズに対するJSタグ-GFP-CBD3626の結合をそれぞれ可視化した。図15Aは、ウェルシュ菌細胞へのJSタグ-GFP-CBD3626の結合を例示的に示す。15Bは、磁性粒子へのJSタグ-GFP-CBD3626の結合を例示的に示す。
【図16】細胞結合試験において測定した、本発明によるJSタグ-CBD構築物による様々なブドウ球菌株の特異的細胞結合。本発明によるJSタグ-CBD構築物であるJS-CBDPitti20(灰色の棒)、JS-CBDOpf(白色の棒)およびJS-CBDUSA(黒色の棒)を使用した。導入された細胞の何パーセントが細胞結合試験において特異的に結合されたかを示す。実験20において、この実験の遂行を説明する。与えられた番号は、PROFOS株コレクションに由来する番号である。ブドウ球菌株は、それぞれ、患者からの単離物、ならびにDSMZ株およびATCC株である。図16A:MRSA株および非MRSA株に分けて示した、様々な黄色ブドウ球菌株への細胞結合。図16B:黄色ブドウ球菌ではない様々なブドウ球菌細菌への細胞結合。株:C=スタフィロコッカス・カルノーサス(Staphylococcus carnosus)、D=表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)、E=スタフィロコッカス・エクオルム(Staphylococcus equorum)、F=スタフィロコッカス・ヘモリチカス(Staphylococcus haemolyticus)、G=腐性ブドウ球菌(Staphylococcus saprophyticus)、H=スタフィロコッカス・シウリ(Staphylococcus sciuri)、I=スタフィロコッカス・シミュランス(Staphylococcus simulans)、J=スタフィロコッカス・ワーネリ(Staphylococcus warneri)、K=スタフィロコッカス・キシローサス(Staphylococcus xylosus)。
【図17】ペルオキシダーゼ試験における、本発明によるJSタグ-CBD構築物による様々なブドウ球菌株の特異的細胞結合。ペルオキシダーゼ試験の遂行および原理は、実験21で説明する。図17Aは、2つの異なるブドウ球菌株に対するJSタグ構築物JS-CBDALE-1(網掛けの棒)およびJS-CBDLS(リソスタフィン)(白色の棒)の特異的結合を示す。タンパク質を添加しない緩衝液対照のバックグラウンド吸光度(黒色の棒)もまた示す。次のブドウ球菌株を試験で使用した:S459-黄色ブドウ球菌(S.aureus)(患者試料)、S1546-表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)(DSMZ20044)、S1548-S.ヘモリチカス(S.haemolyticus)(DSMZ20228)、S464-黄色ブドウ球菌(患者試料)、S1501-黄色ブドウ球菌MRSA(患者試料)、S1502-黄色ブドウ球菌MRSA(患者試料)、S27-S.ヘモリチカス。図17Bは、一連のブドウ球菌種ならびに非特異的対照としての大腸菌株に対する、別のブドウ球菌特異的JSタグ構築物の特異的結合を示す。緩衝液対照(黒色の棒)、JS-CBDALE-1(網掛け)、JS-CBDLS(白色)、JS-CBDPitti20(横線)、JS-CBDOpf(灰色)、JS-CBDUSA(縦線)。次の細菌株を試験に導入した:S683-大腸菌(ECOR01)、S1603-ミュータンス菌(Streptococcus mutans)(DSMZ 20523)、S464-黄色ブドウ球菌(患者単離物)、S1513-黄色ブドウ球菌(患者単離物)、S1502-黄色ブドウ球菌MRSA(患者試料)、S1501-黄色ブドウ球菌MRSA(患者試料)、S27-S.ヘモリチカス。
【図18】ペルオキシダーゼ試験における、腸球菌エンドリシン由来の本発明によるポリペプチド構築物による特異的細胞結合。この試験の遂行は、実験22で説明する。本発明による2つのJSタグ-CBD構築物を導入した:JS-CBDEF0355(灰色の棒)およびJS-CBDEF1293(白色の棒)。タンパク質を添加しない緩衝液対照(黒色の棒)もまた示す。与えられた番号は、PROFOS株コレクション由来の株番号である。患者単離物ならびに腸球菌種およびブドウ球菌種のDSMZ株およびATCC株を問題として扱う。図18Aは、様々なフェカリス菌(Enterococcus faecalis)株に対する特異的結合を示す。図18Bは、様々なフェシウム菌(Enterococcus faecium)株ならびに黄色ブドウ球菌株に対する特異的結合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明を以下に説明する。
【0021】
本明細書において使用される「細菌分離」という用語は、試料材料からの細菌の完全または部分的な分離を意味する。
【0022】
本明細書において使用される「細菌の増菌」という用語は、試料中に存在する初期濃度に基づいた細菌の濃縮を意味する。増菌は、一般に、各検出段階が明らかに陽性の結論または明らかに陰性の結論を与えるように実施しなければならない。
【0023】
細菌の「捕獲」という用語は、試料に由来する細菌に「CBD」が特異的に結合する能力の助けを借りて、試料から細菌を抽出および結合する手順を意味する。
【0024】
本明細書において使用される「試料材料」または「試料」という用語は、細菌がその中で検出されるべき溶液または細菌がそれから分離されるべき溶液すべてを含む。適切な試料の例は、次のとおりである:水溶液ならびに水および有機溶媒の混合物、食物、培地、血液、血液製剤、血漿、血清、尿、他の体液、診断用試料、タンパク質溶液、水エタノール混合物、医療器具の汚染を解析するため、または食品加工における洗浄溶液のような処理溶液。さらに、解析または単離されるべき非水性固形物質、例えば、タンパク質、DNA、RNA、糖、塩類、食物、食物-培地ホモジネート、医薬、ワクチン、環境試料、大便、有機化学物質および無機化学物質、例えば、NaCl、MgCl2、プリン、ピリミジンが溶解された溶液もまた、含まれる。
【0025】
本明細書において使用される「エンドリシン」という用語は、本来の機能として、各ファージ増殖サイクルの最後に新しいファージを放出するために働く酵素を意味する。このようなエンドリシンは、例えば、天然にはファージゲノムにコードされてよい。これらのエンドリシンは、少なくとも1つの各酵素活性ドメインおよび各宿主細胞の細胞壁に結合する酵素非活性ドメインからなる。さらに、エンドリシンは、同様な構成を有する自己溶菌酵素も含むと理解されなければならない。これらは、天然には細菌にコードされており、同様に、少なくとも1つの酵素的に活性な細胞壁加水分解ドメインおよび標的細菌の細胞壁に結合する酵素非活性ドメインからなる。ファージにコードされたエンドリシンおよび細菌にコードされた自己溶菌酵素は、しばしば互いに相同であり(Garcia et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85, 914-918)、これらのモジュール(module)は交換可能であり、さらには細菌にコードされた配列およびファージにコードされた配列に由来するキメラ中で互いに組み合わされてもよい(Diaz et al.,1990, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87巻, 8125-8129)。したがって、ファージエンドリシン由来の細胞壁結合ドメインのほかに、他の細胞壁溶解酵素、例えば、自己溶菌酵素、バクテリオシン、またはファージ尾部タンパク質に由来する各非酵素活性細胞壁結合ドメインもまた、本発明によって使用することができる。
【0026】
本明細書において使用される「CBD」という用語は、それぞれ、エンドリシンまたは他の細胞壁溶解酵素に由来し、かつ細菌細胞壁へのエンドリシンまたは他の細胞壁溶解酵素の特異的結合に関与している、ポリペプチドドメインおよびポリペプチド配列を意味する。これらは酵素的に非活性である。
【0027】
本明細書において使用される「本発明によるポリペプチド」という用語は、エンドリシンまたは別の細胞壁溶解酵素の酵素的に非活性な細胞壁結合ドメイン(CBD)、およびSEQ ID NO: 1に記載の配列またはその誘導体を含むポリペプチドであって、細胞壁結合ドメインのほかに、エンドリシンまたは別の細胞壁溶解酵素の別のドメインを含まない、特にエンドリシンの完全な酵素活性ドメイン(EAD)を含まない、ポリペプチドを意味する。
【0028】
本明細書において使用される「JSタグ」という用語は、SEQ ID NO: 1に記載の配列またはその誘導体を含むポリペプチド配列を意味する。JSタグは、肺炎桿菌オキサル酢酸デカルボキシラーゼのαサブユニットのビオチンアクセプタードメインに由来し、コンセンサス配列MKM(Kがビオチン化される)を含み、その結果、ポリペプチドは、タンパク質ビオチンリガーゼによってインビボでビオチン化され得る。肺炎桿菌オキサル酢酸デカルボキシラーゼの完全なαサブユニットと比べて、JSタグは切り詰められている。JSタグの1つの考え得る最小限の配列は、肺炎桿菌オキサル酢酸デカルボキシラーゼのアミノ酸529〜594に対応する66個のアミノ酸を含む(SEQ ID NO: 2)。「JSタグ」という用語はまた、SEQ ID NO: 1に記載の配列の誘導体も含む。本明細書において使用される誘導体には、SEQ ID NO: 1に依然として少なくとも80%相同であるこのような配列が含まれる。このような誘導体の例は、SEQ ID NO: 2〜18に示す。
【0029】
本明細書において使用される「指向的(directed)固定化」という用語は、CBDが、例えば、ストレプトアビジンもしくはアビジンと共に供給される磁性粒子または他の担体を用いて、特異的結合物質としてのビオチンを介して適切な表面に固定化されることを意味する。
【0030】
本明細書において使用される「表面」または「担体」という用語は、CBD分子および本発明によるポリペプチドの結合または付着がそれぞれ直接的または間接的に可能である材料すべて、例えば、ガラス表面、クロマトグラフィー材料(アガロース、セファロース、アクリラートなど)、プラスチック表面(ポリスチレン、ポリエチレン、ポリカルボナート、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリメチルメタクリラートなど)、フィルター材料またはフィルターメンブレン(セルロース、酢酸セルロース、ニトロセルロース、PVDFなど)、ガラス、ラテックス、プラスチック、金属、金属酸化物製の磁性粒子または非磁性粒子を含む。
【0031】
本明細書において使用される「1段階方法」という用語は、特異的結合タンパク質、例えば、本発明によるポリペプチドを、指向的または非指向的に適切な担体または表面に先に固定化した後に、試料を添加する方法を意味する。固定化した結合タンパク質を試料と共にインキュベーションした後、細菌-結合タンパク質-担体複合体を試料から分離し、次いで任意で洗浄する。
【0032】
本明細書において使用される「2段階方法」という用語は、固定化していない特異的結合タンパク質、例えば、本発明によるポリペプチドを試料と接触させ、インキュベートする方法を意味する。続いて、形成された細菌-結合タンパク質複合体を適切な担体または表面と接触させ、その結果、細菌-結合タンパク質複合体を、ビオチン化アフィニティータグの助けを借りて、結合タンパク質を介して担体または表面に結合させる。続いて、細菌-結合タンパク質-担体複合体を試料から分離し、任意で洗浄する。結合タンパク質は、ポリペプチドまたは化学基のそれぞれの結合相手と共に供給される担体または表面に特異的に結合するように、ポリペプチドまたは化学基で修飾される。
【0033】
本明細書において使用される「ポリペプチド」という用語は、少なくとも5個のアミノ酸からなるポリペプチド鎖を意味する。
【0034】
本明細書において使用される「細菌-ポリペプチド複合体」または「ポリペプチド-細菌複合体」という用語は、細菌および本発明によるポリペプチド(複数の本発明によるポリペプチド)が存在する複合体を意味する。
【0035】
本明細書において使用される「担体-ポリペプチド-細菌複合体」という用語は、細菌、本発明によるポリペプチド(複数の本発明によるポリペプチド)、ならびに担体(担体材料)が存在する複合体を意味する。
【0036】
本発明は、
(i)エンドリシンまたは別の細胞壁溶解酵素の酵素非活性な細胞壁結合ドメイン(CBD)、および
(ii)SEQ ID NO: 1に記載の配列またはその誘導体
を含むポリペプチドであって、
細胞壁結合ドメインのほかに、エンドリシンまたは細胞壁溶解酵素の別のドメインを含まないポリペプチドに関する。
【0037】
本発明は、特に、ビオチン化された本発明によるポリペプチドに関する。特定の態様において、本発明によるポリペプチド内部のエンドリシンまたは別の細胞壁溶解酵素の細胞壁結合ドメイン(CBD)は、グラム陽性菌に特異的に結合する能力を示す。本発明によるポリペプチドは、細菌を結合、増菌、試料から分離、捕獲、および/または検出するのに適している。
【0038】
したがって、本発明は、細菌を結合、増菌、試料から分離、捕獲、および/または検出するための本発明によるポリペプチドの使用に関する。
【0039】
したがって、本発明はさらに、以下の段階を含む、試料から細菌を結合、増菌、分離、捕獲、および/または検出するための方法に関する:
(a)試料を、ビオチン化した本発明によるポリペプチドと接触させる、および/またはインキュベートする段階、
(b)段階(a)で得られたポリペプチド-細菌複合体を、ビオチン結合物質と共に供給される担体と接触させる、および/またはインキュベートする段階、
(c)段階(b)で得られた担体-ポリペプチド-細菌複合体を前記試料から分離する段階、
(d)任意で、前記担体-ポリペプチド-細菌複合体から、非特異的に付着した試料成分を洗浄する段階、
(e)任意で、前記ポリペプチド-細菌複合体から前記担体を分離する段階、および
(f)任意で、前記細菌を検出する段階。
【0040】
本発明による方法において、本発明による各ポリペプチドとの試料のインキュベーション(段階a)および担体材料との細菌-ポリペプチド複合体のインキュベーション(段階b)の継続期間はそれぞれ、各試料に対して調整されなければならず、ある態様では数秒〜約24時間の間で変動してよい。官能化した、すなわちビオチン化した本発明によるポリペプチドが細菌に結合する、本発明による方法の段階(a)は、一般に、ビオチン化したポリペプチド-細菌複合体がビオチン結合担体上で固定化される段階(b)より速い。本発明による方法の段階(a)のために適したインキュベーション時間は、特に、約0.1分〜約10分であり、段階(b)の場合は、特に約10分〜約60分、または必要な場合には、同様に一晩である。本発明による方法の段階(a)では、一般に、添加した本発明によるポリペプチドおよび試料を完全に混合することで十分であるが、担体材料とのインキュベーション(段階(b))の間、例えば、担体材料の添加後、試料容器を横にして回転させて、担体への出来るだけ効率的な結合を実現することが必要な場合がある。
【0041】
出発材料中の細菌濃度が非常に低い場合、効率的な増菌を実現し、それにより、本発明による方法に適した試料を得るためには、適切な栄養培地中でのプレインキュベーション段階がおそらく必要である。食物試料のような固形成分を含む試料は、ホモジナイズした後、本発明による方法において使用することができ、かつ、適切な溶液中に溶解した後、本発明による方法において使用される。
【0042】
本発明による方法において、ビオチン結合物質と共に提供される担体が使用される。すなわち、担体は官能化された。ビオチン結合物質は、高い親和力でビオチンに結合できなくてはならない。担体表面の特に適切な結合相手、すなわちビオチン結合物質は、例えば、ストレプトアビジン、アビジン、およびそれらのビオチン結合変異体、例えば、単量体アビジン、そのアミノ基が部分的にアセチル化されたアビジンまたはそのカルボキシル基が部分的にエステル化されたアビジンである。親水性表面は、一般に、タンパク質を結合するのにより適切であり、かつ凝集する傾向がより低いため、疎水性表面と比べて好ましい。
【0043】
細菌は、試料の他の部分から細菌を分離することによって増菌される。細菌は、クロマトグラフィー法により、またはバッチ法において、例えば磁性に基づいて、説明した方法で増菌され得る。磁性増菌が好ましく、これは、この方法が他の方法と比べて非常に迅速であり、小型化でき、また、自動化もできるためである。しかし、クロマトグラフィー法またはバッチ法もまた、特に、この方法が、その後の細菌検出のために主として使用されるのではなく、例えば、より多量の細菌の単離を目標とし、これらの単離した細菌を用いて作業を継続することを目標としている場合には、使用され得る。
【0044】
磁性に基づいた増菌の実施中、ポリペプチド-細菌複合体は、本発明による方法の段階(b)における担体としての適切な磁性粒子と共にインキュベートされる。特定の態様において、磁性粒子は、約0.1μm〜約100μmの範囲の直径を示してよい。しかしながら、直径が約0.5μm〜約5μmの間であるより小型の粒子が好ましく、直径が約0.8μm〜約2μmである粒子が特に好ましい。これは、より小型の粒子の方が沈降する程度が低く、したがって、より優れた混合物を提供し、かつ大型粒子と比べて比較的大きな表面を提示し、高い回収率を示すためである。適切な磁性粒子の例は、MagPrep-ストレプトアビジン粒子(Merck)、ストレプトアビジン-磁性粒子(Roche)、ストレプトアビジン-ビーズ(Dynal)、ストレプトアビジンを結合させたシリカビーズ(MicroCoat)、ストレプトアビジンを結合させたポリビニルアルコール-ビーズ(PA-ストレプトアビジンビーズ、Microcoat)である。本発明による方法の段階b)の後に、磁界を印加することによって、担体-ポリペプチド-細菌複合体を試料から分離する。適切な磁選機が、例えば、Ambion社、Ademtech社、Bilatec社、BioLabs社、Dynal社、Polysciences社、およびPromega社から入手可能である。
【0045】
バッチ法の助けを借りた増菌の間、細菌を含む試料は、本発明によるポリペプチドと最初にインキュベートされ、続いて、高親和性ビオチンに結合するのに適した担体材料が添加され、混合され、再び一緒にインキュベートされる。続いて、担体-ポリペプチド-細菌複合体を試料から遠心分離するか、沈降させるか、またはろ過することができる。特に細菌濃度が非常に低い場合は、バッチ法による濃縮が好ましい。
【0046】
あるいは、ポリペプチド-細菌複合体は、試料から分離し、かつ、ビオチン結合カラム材料を含むクロマトグラフィーカラムにそれらを適用することによって富化することもできる。
【0047】
ポリペプチド-細菌複合体は、それぞれ、例えば、適切な量のビオチンを添加することによる置換により、または、約8Mの塩化グアニジウムもしくはpH約1.5などタンパク質を著しく変性させる条件を調整することにより、およびペプチドからビオチンを切断するビオチニダーゼを添加することにより、官能化した担体から分離することができる。また、本発明によるポリペプチドが細菌表面の受容体にもはや結合しない条件を選択することによって、ビオチン化した本発明によるポリペプチドから細菌のみを分離することも可能である。様々な本発明によるポリペプチドが本発明のために使用されるため、したがって、厳密な条件は個々の場合において試験されなければならない。これは、例えば、蛍光を発するマーカーを導入し、先に結合していた細菌が依然として蛍光を発するか(それらの表面が本発明によるポリペプチドで覆われるため)を蛍光顕微鏡下でモニタリングすることによって実施することができる。しかしながら、一般に、非常に高いイオン強度もしくは非常に低いイオン強度へのイオン強度変化、強酸もしくは強塩基へのpH変化、例えば、50mMリン酸ナトリウムおよびpH11で5分間、界面活性剤または化学変性剤、例えば、尿素もしくは塩化グアニジウムの添加、または言及した実行可能な手段の組合せが、CBDと細菌の結合を妨げるのに適しており、これは、この結合が特異的なタンパク質-タンパク質相互作用であるためである。しかしながら、多くの用途、例えば、結合した細菌に由来するコロニーのその後のプレーティングおよび計数のために、細菌から磁性粒子を分離することは全く必要ではない。
【0048】
本発明はさらに、試料中の細菌を検出するための方法に関する。細菌の検出は、前述した方法の増菌のための段階に続いて、さらなる段階を含む。検出すべき細菌の種類に応じて、望まれる結果をもたらす技術一式は当業者には公知である。適切な検出方法の選択は、後述する。例えば、細菌は、担体およびビオチン化した本発明によるポリペプチドと一緒になった複合体中で、または選択的増殖条件、例えば、選択培地プレートにおけるプレーティングおよびインキュベートによって担体材料から遊離させた後に、検出することができる。さらに、細菌の検出は、核酸に基づいた方法、すなわち、細菌の核酸の検出、例えば、PCR、RT-PCR、PCR-RFLP、rep-PCR-フィンガープリント法、NASBA、例えば、特定の毒素または他の病原性因子に関するDNAハイブリダイゼーション法、多座配列分類(MLST)、rRNA比較によって可能である。それぞれ、例えば、エンドリシンの細胞結合ドメインもしくは抗体を用いるか、またはFTIRを用いた、細菌細胞壁およびそれらの成分の検出、ならびに、細菌成分の検出、それぞれ、例えば、ELISAによるタンパク質の検出または活性もしくは多座酵素電気泳動(MEE)を用いた酵素の検出もさらに可能である。また、細菌検出は、例えば、細菌に特異的なバクテリオファージ、例えば、リステリアの場合はA511-luxAを用いた検出による生物発光アッセイ法において、細菌中に含まれるATPを用いても可能である(US 5,824,468を参照されたい)。さらに、細菌は、担体-ポリペプチド-細菌複合体中で、またはマーカーと結合させた別の特異的CBDを用いて担体材料から分離した後に検出することもできる。したがって、一組の例が、EP1147419に示されている。微生物学的検出方法、形態学的検出方法、および/または生化学的検出方法の組合せである従来の検出もまた、可能である。
【0049】
細菌成分、例えば、タンパク質の検出は、好ましくは、ELISAまたは同様の技術(例えばVIDAS)によって実施される。これらの方法を実施するためには、実際の検出の前に細菌を破壊することが必要である。これは、例えば、リゾチームのような溶解タンパク質または細菌特異的エンドリシンを用いて実施することができる。溶解タンパク質は、例えば、以下の群から選択することができる(括弧中の参照番号は、NCBIデータベース用のアクセッション番号(数字と文字の組合せ)または刊行物出典のいずれかである):
-リステリアに対する、Ply511(Q38653)、Ply500(Q37979)、Ply118(Q37976)、PlyPSA(1XOV_A)、EGDe株の自己溶菌酵素(NP_466213)、
-炭疽菌に対する、PlyL(1YB0_A、B、およびC)、PlyG(YP_891193)、PlyPH(Yoong et al., J.Bac. 2006, 188, 2711-2714)、PlyB(2NW0_AおよびB)、
-セレウス菌に対する、PlyBa(CAA72266)、Ply21(CAA72267)、Ply12(CAA72264)、
-ウェルシュ菌に対する、Ply3626(WO 03/066845)およびウェルシュ菌(Cl. perfringens)株13由来のリシン(lysine)(BAB81921)および株SM101由来のリシン(YP_699489)、
-クロストリジウム・チロブチリカム(Clostridium tyrobutyricum)に対する、ΦP1リシン(EP1300082)、
-腸球菌に対するPlyV12(NP_049942)、
-連鎖球菌に対する、PlyC(NP_852017)、PlyGBS(AAR99416)、Cpl-1(P15057)、Cpl-7(P19385)、Cpl-9(P19386)、ファージDp1由来のPalアミダーゼ(P19386)、B30エンドリシン(AAN28166)およびLytA(CAJ34420)、
-ブドウ球菌に対する、Twortアミダーゼ(CAA69021)、ブドウ球菌ファージP68アミダーゼ(NP_817332)、LysK (O`Flaherty et al., J. Bac.,2005, 187,7161-7164)、ΦSA2usaリシン(YP_494080)、Phi11アミダーゼ(NP_803306)および細胞壁加水分解酵素(NP_803302)またはPhi12エンドリシン(NP_803355)、ならびに黄色ブドウ球菌由来の自己溶菌酵素Atl(BAA04185)、表皮ブドウ球菌由来のAtlE(CAI59555)、スタフィロコッカス・キャピティス(Staphylococcus capitis)由来のALE-1(BAA13069)、ならびに黄色ブドウ球菌PS47株由来のペプチドグリカン加水分解酵素(AAA26662)またはスタフィロコッカス・シミュランス由来のリソスタフィン(AAB53783)。
【0050】
細胞溶解は、さらなる様々な添加物、例えば、プロテアーゼ、例えばプロテイナーゼKの添加、および熱の使用、好ましくは約56℃で5分、続いて約94℃で5分によって、または、例えば、界面活性剤、好ましくはトリトン、SDS、tween、デオキシコール酸ナトリウム(Na-desoxycholate)、もしくは、DMSO、イソプロピルアルコール、エタノール、ブタノール、クロロホルムなどの溶剤の添加によって支援することができる。
【0051】
本発明によるポリペプチドは、それぞれ、エンドリシンおよび自己溶菌酵素のポリペプチドドメイン/ポリペプチド配列、いわゆるCBDを含み、本発明によるポリペプチドは、酵素的に活性な細胞壁加水分解領域をそれ以上は提示しない。酵素活性の欠如は、担体との複合体中の細菌を機能的に分離するために必要である。結合された細菌の溶解、およびしたがって細胞内容物の放出は、好ましくは、例えば後続の検出反応のためにこれが必要である場合には、分離後にのみ故意に起こす。したがって、本発明によるポリペプチドは、特定の態様において、細胞壁結合ドメインのほかに、エンドリシンの別のドメイン、特に、エンドリシンの酵素活性ドメイン(EAD)を含まず、特定の態様において、同様に、エンドリシンの別の配列を含まない。しかしながら、特定の条件下では、使用されるポリペプチド断片の少し残った加水分解性活性は、容認され得る。しかしながら、これは、個別の適用に依存する。すなわち、十分な量の無傷の細胞が捕獲されるように、細胞加水分解酵素の速度を適用の全期間と調和させることがどの程度までできるかをチェックしなければならない。CBDの潜在的に残る活性がどれくらいであるかは、加水分解アッセイ法によって検出することができ、これは、例えば、Loessner et al.(1996, Appl. Environ.Microbiol. 62, 3057-3060)において説明されている。
【0052】
特定の態様において、本発明によるポリペプチドは、SEQ ID NO: 1の誘導体を示す。このような誘導体の例は、SEQ ID NO: 2〜18に示され、これらの例は、SEQ ID NO: 1の例示的な変種として以下のものを示す:
(i)SEQ ID NO: 1と比べて、60番目にGluの代わりにAsp、
(ii)C末端に付加的なValもしくはVal-Asp、および/または
(iii)N末端に付加的なMもしくはMVGA。
【0053】
SEQ ID NO: 1の上記の誘導体は、本発明による方法における使用に関して有利であることが判明した。
【0054】
特異的細胞結合に関与しているC末端ドメイン(CBD)および酵素活性中心を含むN末端ドメイン(EAD)におけるエンドリシンのモジュラー組織は、Garcia et al. (1990, Gene, 86, 81-88)によって1990年に既に説明された。CBDの概念は、Loessner et al., 2002, (Mol. Microbiol., 44, 335-349) およびLoessner, 2005, (Curr. Opin. Microbiol, 8, 480-487)において継続された。多数のCBDが、最新技術において既に説明されている。しばしば、酵素活性ドメイン(EAD)は、N末端に位置し、CBDはC末端に位置するが、例外はある(例えば、Garcia et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85, 914-918; Loessner, 2005, Curr. Op. Microbiol., 8, 480-487)。EADは、一般にはっきり定義されており、最新技術において公知の配列解析ソフトウェアおよび保存配列モチーフを含む各データベース(例えば、CDD (Marchler-Bauer et al., 2005; Nucleic Acids Research, 33, D192-D196); Pfam (Finn et al., 2006, Nucleic Acids Research 34, D247-D251)、またはSMART (Schultz et al., 1998, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95, 5857-5864, Letunic et al., 2006, Nucleic Acids Res 34, D257-D260))を用いて、アミダーゼ、エンドペプチダーゼ、グリコシダーゼ、トランスグリコシラーゼ、ムラミダーゼなど他の加水分解酵素と配列および相同性を比較することにより、比較的容易に発見し、位置決定することができる。エンドリシンのCBD部分を同定する間に、多くの場合では細胞結合ドメインの既知のモチーフが発見されて、本発明によるポリペプチドに対するCBD 配列を提供するための適切な指標が提供される。連鎖球菌に結合するエンドリシンの群では、CBDを発見することは比較的容易であり、これは、芳香族残基が保存された主に約20アミノ酸長のコリン結合モチーフ(CW_結合_1、pfam01473)が現れ、しばしば、これが複数回繰り返して生じるためである(Garcia et al., 1990, Gene, 86, 81-88を参照されたい)。約40アミノ酸長のLysMドメイン(pfam01476)もまた、CBD中にある程度存在し得る。これは、二次構造が保存された、広範囲に分布するペプチドグリカン結合モジュールである(BatemanおよびBycroft, 2000, J. Mol. Biol., 299, 1113-1119)。SH3bドメイン、およびSH3_3ドメイン、SH3_4ドメイン、またはSH3_5ドメイン(smart00287、pfam08239、pfam06347、pfam08460)は、それぞれ、真核生物およびウイルスのScr相同ドメイン、すなわちSH3に対する原核生物の対応物であり(Ponting et al, 1999, J. Mol. Biol., 289, 729-745)、主にブドウ球菌および腸球菌において、細胞結合モチーフおよびCBDとして同様にしばしば存在し得る。ペプチドグリカン結合ドメイン(PG_結合_1、pfam01471;PG結合2、pfam08823)は、3つのヘリックスからなり、EADのN末端にもしばしば存在し得る。しかしながら、時として、他の関連したバクテリオファージエンドリシンにも、また他の炭水化物結合タンパク質にもCBD部分の直接的な関係を見出すことができず、CBDを示す特有の配列モチーフも構造モジュールもほとんど明確にすることができない場合がある。このような場合、EADを用いてこの関係を決定することができる。本発明によるポリペプチドのベースとして、最新技術において公知のCBDのほかに、EADによって占有されていないエンドリシンの部分が、この場合役立つ。このエンドリシンの残り部分(すなわち、エンドリシンからEADを除いた部分)は、直接的に理解することができ、それが細胞結合機能を提示するならば、CBDとして使用することができる。しかしながら、本発明のいくつかの態様において、より短い断片が依然として細胞結合機能を示すならば、それらを使用することが有用であり得る(例えば、より高い安定性をそれらが示すため)。CBDの機能試験は、各細菌に対する細胞結合の検出である。この目的に適した様々な例示的なアッセイ法は、実験および図面において説明する。効率的な細胞結合のほかに、発現率、溶解度、安定性、および精製の容易さが、CBDとして機能するペプチド部分の定義に関して考慮すべきその他の特徴である。これらの特徴を試験するための方法は、当業者には最新技術から公知である。したがって、いくつかの例をまた、実験において後述する。故意に計画したCBD部分は、例えば、構造上の基準に従って向きが定められ、当業者は、二次構造予測、潜在的なドメインリンカー、および3Dモデルに基づいてこれを評価することができる。適切な例示的方法は、例えば、次の刊行物において説明されている: Garnier et al., 1996, Methods in Enzymology 266, 540-553; Miyazaki et al., 2002, J. Struct. Funct. Genomics, 15, 37-51; Altschul et al., 1997, Nucleic Acids Res. 17, 3389-3402; Schwede et al., 2003, Nucleic Acids Research 31, 3381-3385. Lund et al, CPHmodels 2.0: X3M a Computer Program to Extract 3D Models. Abstract at the CASP5 conferenceA102, 2002。
【0055】
基本的には、最新技術において公知のCBDすべておよび前述の方法によってエンドリシンから誘導したCBDすべてを、本発明によるポリペプチドのため、および本発明による方法において使用することができる。
【0056】
本発明の特定の態様において、本発明によるペプチドの細胞壁結合ドメインは、それぞれ以下からなる、下記のエンドリシンおよび他の細胞壁溶解酵素の細胞壁結合ドメインの群より選択される:Ply511(Q38653)、Ply500(Q37979)、Ply118(Q37976)、PlyPSA(1XOV_A)、EGDe(NP_466213)、PLyL(1YB0_A、B、およびC)、PlyG(YP_891193)、PlyPH(Yoong et al., J.Bac. 2006, 188, 2711-2714)、PlyB(2NW0_AおよびB)、PlyBa(CAA72266)、Ply21(CAA72267)、Ply12(CAA72264)、フェカリス菌V583プロファージエンドリシン、Ply3626(WO 03/066845)、ウェルシュ菌の株13由来のリシン(BAB81921)および株SM101由来のリシン(YP_699489)、ΦP1リシン(EP1300082)、PlyV12(NP_049942)、PlyC(NP_852017)、PlyGBS(AAR99416)、Cpl-1(P15057)、Cpl-7(P19385)、Cpl-9(P19386)、Palアミダーゼ(P19386)、Twortアミダーゼ(CAA69021)、黄色ブドウ球菌ファージPVLアミダーゼ(UniProt 080064)、P68 lys16(NP_817332)、ΦSA2usaエンドリシン(YP_494080)、Phi11エンドリシン(NP_803306)およびPhi12エンドリシン(NP_803355)、黄色ブドウ球菌ファージPhi11の細胞壁加水分解(NP_803302)、ファージB30エンドリシン(AAN28166)、ファージ168エンドリシン(M J Loessner et al., J Bacteriol. 1997 May; 179(9): 2845-2851)、LysK(O`Flaherty et al., J.Bac., 2005, 187, 7161-7164)、S.シミュランス(simulans)のリソスタフィン(AAB53783)、S.キャピティス(capitis)のALE-1エンドペプチダーゼ(BAA13069)、ファージPhiNIH1.1細胞壁加水分解酵素(NP_438163)、LytM(AAB62278)、Atl(BAA04185)、肺炎連鎖球菌由来のLytA(CAJ34420)、黄色ブドウ球菌株PS47由来のペプチドグリカン加水分解酵素(AAA26662)、フェカリス菌由来のエンテロリシンA(Q9F8B0)、L.モノサイトゲネス由来のami自己溶菌酵素(Milohanic et al.; Infection and Immunity, 2004年8月、p. 4401-4409、72巻、8号)、乳酸菌リシン、例えば、ファージA2のリシン(AJ251788.2またはQ9MCC8)、ファージPL-1アミダーゼ(Q9MCC6)(両方ともカゼイ菌(L.casei))など。
【0057】
リステリアの結合にはエンドリシンPly511の断片、バチルスの結合にはエンドリシンPlyBa、Ply21、およびPly12の断片、クロストリジウムの結合にはPly2636の断片、ブドウ球菌の結合にはΦSA2usaエンドリシンの断片、ブドウ球菌バクテリオシンであるリソスタフィンの断片、リソスタフィン様ALE-1の断片、ブドウ球菌自身から単離されるplyOpf、plyPitti20、plyPitti26、および同種のプロファージの類似タンパク質の断片、腸球菌の結合にはフェカリス菌V583由来のプロファージのエンドリシンに由来する断片、ならびにCBDEF0355およびCBDEF129が特に適している。
【0058】
本発明によるポリペプチド中に出現し得るCBD配列の例は、以下のとおりである。
【0059】
特定の態様において、本発明によるポリペプチドは、細胞壁結合ドメインのほかに、エンドリシンの別の配列を含まない。本発明によるポリペプチドは、好ましくは、ただ1つのCBDおよびSEQ ID NO: 1に記載の付加的なポリペプチド配列またはその誘導体からなり、任意で、リンカーまたはスペーサーによって結合されている。
【0060】
当業者は、ドメインリンカー配列の配列および構造ならびにそれらの予測に関する知識をそれぞれ示す(例えば、GeorgeおよびHeringa、2003, Protein Eng. 15, 871-879; Bae et al., 2005, Bioinformatics, 21, 2264-2270)。ドメインリンカー配列は、しばしば、親水性アミノ酸の割合(portion)が比較的高いことを特徴とする。これは、それらが一般に構造化の程度が低く、溶媒に曝露されるためであり、例えば、リステリアエンドリシンPlyPSAの短いリンカー配列
がある(Korndorfer et al., 2006, J.Mol. Biol., 364, 678-689)。しかしながら、ポリグリシンリンカーもまた、従来から使用され、しばしばプロテアーゼ感受性である。特別な種類の明確な構造を持たない親水性リンカーは、天然リンカーとしても存在するプロリンおよびトレオニンに富む配列、例えば、
である。プロリンおよびトレオニンに富むリンカー配列は、コンセンサスモチーフ(PT)xPまたは(PT)xT(xは1〜10の整数である)を用いて単純に記述することができる。Croux et al. (1993, Molec. Microbiol., 9, 1019-1025)は、エンドリシンのN末端ドメインおよびC末端ドメイン、すなわちEADおよびCBDの間のいわゆる連結領域を説明している。これらの主に比較的短い領域は、天然のリンカー配列であり、本発明によるポリペプチドに対する適切な切断部位の助けを借りて、CBDモジュール組換え体(recombinant)をJSタグに連結するのにも適している。具体的なリンカーの特に適切な例は、例えば、SEQ ID NO: 34〜38に示す。
【0061】
本発明によるポリペプチドの配列は、以下のように構成され得る:
(i) SEQ ID NO: 1〜18より選択されるJSタグの配列、
(ii) SEQ ID NO: 19〜33より選択されるCBDの配列、
(iii) SEQ ID NO: 34〜38より選択されるリンカー配列、
および任意で、
(iv)スペーサーとしてのGFP、GST、またはMBP配列。
【0062】
本発明によるポリペプチドのいくつかの例示的な配列は、SEQ ID NO: 39〜53に示される。
【0063】
本発明はさらに、Ply21の非酵素活性細胞壁結合ドメイン、すなわちCBDに関する。驚くべきことに、加水分解性の非活性CBD21は、細菌結合に関して宿主範囲を示さず、宿主範囲は、バチルス群のほぼすべての細菌(ポリミキサ菌(B. polymyxa)およびB.スフェリカス(sphaericus)を除く)のほかに、ブドウ球菌、腸球菌、連鎖球菌、およびさらにリステリアなどグラム陽性菌の重要な群に属するその他の代表的なものも同様に含む。CBDは、通常、比較的狭い宿主範囲を示すため(Loessner 2005, Curr. Opin. Microbiol, 8, 480-487)、CBDが広範な宿主特異性を有するこの特徴は、非常に珍しい。したがって、CBD21は、セレウス菌群の試験した細菌すべてに結合することができ、さらに、グラム陽性菌、特に、ブドウ球菌、連鎖球菌、腸球菌、小球菌、バチルス、およびリステリアなど多くの病原微生物が存在し得る群に由来するものを一般に増菌するという目的を解決することができる。したがって、別の局面において、本発明は、SEQ ID NO: 19に示す配列を含むが、この細胞壁結合ドメインのほかには、エンドリシンの別のドメインを含まないポリペプチドに関する。このポリペプチドは、好ましくは、エンドリシンの完全な酵素活性ドメインを含まない。より好ましくは、SEQ ID NO: 19に示す配列を含むポリペプチドは、エンドリシンの別の配列を含まない。
【0064】
CBD21の適用範囲は広範であるため、本発明はまた、SEQ ID NO: 19に記載の配列を含むが、この細胞壁結合ドメインのほかにはエンドリシンの別のドメインを含まない本発明によるCBD21の使用であって、ブドウ球菌、連鎖球菌、腸球菌、小球菌、バチルス、および/またはリステリアからなる群より選択される細菌を結合、増菌、試料から分離、捕獲、および/または検出するための使用にも関する(表3を参照されたい)。
【0065】
適切なCBDを定める本発明によるポリペプチドのポリペプチド部分は、スペーサーおよび任意で同時にマーカーとして役立つポリペプチド部分にさらに連結してもよい。CBDは、より大型のタンパク質であるエンドリシンに由来する領域に相当するため、一般に比較的小さくアミノ酸約100〜300個であるか、または、いくつかの細胞結合モチーフの場合、さらにより少ない。したがって、好ましい態様において、CBDドメインと担体への固定化に関与する基の間にスペーサーを導入することが有用な場合がある。これにより、固定化によってCBDが変性すること、および細胞への結合能力をそれが失うことを防止することができる。2段階方法でポリペプチド-細菌複合体を結合する場合、表面への固定化に関与している基がCBDに直接的に結合していない場合には、それらが、より上手く接近可能になることが重要な場合がある。スペーサーは、好ましくは、はっきり定義され、十分に発現可能な安定なタンパク質モジュールであり、他のタンパク質および表面との相互作用はできるだけ少ないものである(例えば、GFP(緑色蛍光タンパク質)、MBP(マルトース結合タンパク質)、GST(グルタチオンs-トランスフェラーゼ))。特に適切な例は、GFPおよびその変異体である。GFPは著しく蛍光を発するため、マーカーとしても適切である。このため、例えば、方法の実施中に本発明によるポリペプチドをモニターすることができる。機能試験、すなわち結合試験において、細菌へのCBDおよび本発明によるポリペプチドの結合、ならびに担体への結合は、容易に検出することができる。例えばEP1147419で提唱されているようなその他の改変体(modification)もまた、マーカーとして役立ち得る。
【0066】
CBDを本発明によるポリペプチドに変えるためには、CBDは、融合タンパク質内でタグ、いわゆるJSタグと共に存在しなければならない。ビオチンとその結合相手であるストレプトアビジンおよびアビジンとの間の極めて強い結合(10-15M; Gonzales et al., 1997, J. Biol. Chem., 272, 11288-11294)は、それぞれ、最新技術(例えばEP1147419)において公知である、公知の1段階方法と比べてさらに優れていることが判明している、前述の2段階方法を機能化するために有利である。官能化した表面にタンパク質を結合させるのに同様に適する他のタグは、例えば、hisタグまたはstrepタグである(Hisタグ10-6〜10-8M; Nieba et al., 1997, Anal. Biochem., 252, 217-228; Strepタグ約10-6M、VossおよびSkerra、1997, Protein Eng., 10, 975-982)。担体への細菌-ポリペプチド複合体の結合は、2段階方法においてより効率的であり、これは、結合時間に影響を及ぼし、かつ、困難な条件下、例えば、食物試料における細菌の損失の可能性を低くし、また、感度をより高くする。可能なビオチン化結合基の選択肢において、JSタグがより好ましいことが判明している。一方では、化学的ビオチン化は、特定の位置に定められたビオチン化をもたらさない。特定の位置に定められたビオチン化があれば、担体へのCBDの指向的固定化が可能であると考えられ、これは結合タンパク質の官能化のために望ましい。その一方で、その結果、タンパク質はしばしば不活性化される。これは特に、CBDの比較的小さなタンパク質ドメインに当てはまり得る。最小配列に類似したものに相当するAviタグであって、この最小配列が、依然としてインビボで融合タンパク質中にてビオチン化される必要がある、Aviタグもまた、磁性ビーズへの細菌の効率的な結合を実現するために、より多量のタンパク質を導入する必要があるため、JSタグと比べて適性が劣ることが判明した。タンパク質との融合のためにUS 5,252,466において提唱されているビオチン化ドメインは、Aviタグと比べて比較的大きい。したがって、例えば、肺炎桿菌のオキサル酢酸デカルボキシラーゼのビオチン化ドメインは、595個のアミノ酸を含み、発現率に関しても不利であり、また、大型の融合タンパク質が比較的プロテアーゼに感受性である限り、したがって、比較的不安定でもある。
【0067】
JSタグおよびその誘導体は、CBDと組み合わせて、試料中の細菌を結合、増菌、分離、捕獲、および検出するのに非常に好適なビオチン化タグであることが判明する。これらは、インビボでビオチン化するためのコンセンサスモチーフ(MKM)を含む肺炎桿菌オキサル酢酸デカルボキシラーゼのαサブユニットに由来するセグメントおよびその誘導体である。このポリペプチドは、完全なビオチン化ドメインと比べて、例えばタンパク質分解に対してより安全になった。このポリペプチドは、例えば、クローニング、発現、および精製の際にアフィニティータグとして取り扱うのがより容易である。JSタグの1つの最小配列は、肺炎桿菌オキサル酢酸デカルボキシラーゼのアミノ酸529〜594に対応する66アミノ酸長に、開始部分としてのメチオニンを加えたものである。特に適切であるのは、SEQ ID NO: 1〜18に説明する配列である。Cronan(1990, J. Biol. Chem., 265, 10327-10333)では、MKMモチーフのN末端に位置する保存されたプロリンおよびアラニンに富む領域が、ビオチンリガーゼによるリシン(lysin)のビオチン化のために重要な構造的機能を果たすはずであることが強調されている。肺炎桿菌オキサル酢酸デカルボキシラーゼのαサブユニットのこの領域は、さらに特に、PおよびAからなるアミノ酸長22の領域を特徴とする。しかしながら、前述の最小配列はこの領域を含まないにもかかわらず、非常に効率的にビオチン化されるため、この領域は、説明した系におけるビオチン化のために必要ではないことが判明した。肺炎桿菌オキサル酢酸デカルボキシラーゼのアミノ酸529〜594に加えて、非常に短いペプチド(MVGA)が非常に好適なN末端出発配列(SEQ ID NO: 8〜10および16〜18を参照されたい)を提供することが判明した。
【0068】
JSタグおよびCBD、ならびに中間に導入される付加的なスペーサーモジュールの間の融合は、それぞれ、CBDのN末端およびC末端において実施することができる。本発明によるポリペプチドの場合、N末端融合が好ましい。これは、エンドリシンのCBD部分が通常C末端に位置し、JSタグ(任意で、スペーサーモジュールを加える)が、エンドリシンの欠けているEADの代わりを構造的にし得るためである。インビボでビオチン化される、タンパク質中のビオチン化ドメインは、ほとんどC末端にのみ位置するため、N末端で使用された場合にこれらが同じようにうまく機能するかは明らかではない。こういう理由で、Cronan(1990, J. Biol. Chem., 265, 10327-10333)では、プロピオニバクテリウム・シャーマニイのトランスカルボキシラーゼの1.3Sサブユニットのビオチン化ドメインとのタンパク質のC末端融合物のみが使用された。スペーサー分子が使用されない場合、JSタグは、リンカーを介して(上記の態様を参照されたい)、または同様にリンカーを用いずに、CBDに連結させることができ、その結果、クローニング用の制限切断部位を得るには、ただ1個〜3個のアミノ酸が導入されるだけである。配列
は、例示的な適切なリンカーペプチドであることが判明した。しかしながら、構造が公知であるタンパク質の他のリンカー配列は、比較的明確な構造を持たないペプチドに対するリンカー配列(例えば、(PT)3T(PT)3T(PT)3のようなプロリンおよびトレオニンに富む配列)であり、これらもまた使用され得る。PTに富むリンカーの例は、
である。
(短い)親水性リンカーの例は、
である。本発明において使用され得るリンカーの別の例は、
である。
【0069】
本発明による方法において使用するための本発明によるポリペプチドは、ビオチン化され得、それによって、当業者に公知の条件下でビオチンリガーゼの助けを借りてインビトロでビオチン化される。驚くべきことに、US 5,252,466に記載されている発明と比べて、ビオチンリガーゼ(BirA)とのビオチン化融合タンパク質の共発現は、細菌細胞における本発明によるビオチン化ポリペプチドの調製において必要ではないことも判明した。ビオチン化は、外部のビオチンリガーゼの不在下でも同様に機能することがこの理由である。興味深いことに、LBのような完全培地では、培地へのビオチンの添加さえ必要ではない。JSタグおよびCBDの融合タンパク質は、BirAの付加的な共発現無しで、またはさらにビオチンの添加も無しで、市販されている大腸菌発現株、例えば、BL21(DE3)、HMS174(DE3)、JM83において効率的にビオチン化される。タンパク質のより容易な精製手段としてUS 5,525,466において提唱されているビオチン化タグの使用と対照的に、JSタグおよびCBDの本明細書において説明する融合物は、ビオチンに対するアフィニティーカラムを用いて精製することは必要ではないが、陽イオン交換クロマトグラフィーまたは陰イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、硫酸アンモニウム沈殿分画などによる従来の方法で精製することができる。一方では、ビオチンに対するそれぞれの親和性材料、例えば、結合されたストレプトアビジンまたはストレプトアクチンを担持するクロマトグラフィー材料は、非常に高価であり、かつ、通例、低い能力しか示さないため、これは有利であり、その一方で、ビオチンとその結合相手の結合は非常に効率的であるため、融合タンパク質を親和性材料から遊離させることは困難である。このため、説明した精製方法に問題が生じる。すなわち、標的タンパク質は、カラムからゆっくりと(delayed)溶出し(「なすりつけたように尾を引く(smear)」)、おそらく溶出中に変性する。
【0070】
本発明による構築物の安定性は、使用されるCBDの具体的な特徴にある程度依存する。JSタグ、CBD、および任意でそれぞれリンカー、スペーサー、およびマーカー、ならびに磁性ビーズのような官能化担体からなる融合構築物は、結合能力を失わずに、より長い期間保存され得る。保存は、約-20℃〜約37℃の温度範囲で可能である。約-20℃〜約10℃の温度での保存が好ましい。通例、保存はほぼ中性のpH値(pH6〜7)で実施されるべきであるが、最高pH10のpH値での保存もまた、CBD部分に許容される場合は可能である。保存のために適した緩衝液系は、例えば、100mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH6〜pH10、2mM EDTAまたは10mMイミダゾール(imidazol)、100mM NaCl、pH7である。グリセロールまたは例えば飽和度30%の硫酸アンモニウムなど一般の安定化剤を添加することは、保存能力に対して良い効果を有する。
【0071】
本発明による方法を用いて、本発明によるポリペプチド構築物を使用すると、基本的にはすべてのグラム陽性菌、例えば、クロストリジウム、バチルス、リステリア、ブドウ球菌、乳酸菌、腸球菌、アエロコッカス(aerococci)、ペジオコッカス(pediococci)、連鎖球菌、マイコプラズマ(mycoplasma)、ロイコノストック(leuconostoc)が結合し、したがって、増菌、捕獲、固定化、および任意で検出され得る。適用様式は、上記に定義したように、使用する試料の様式に依存する。この方法は、潜在的な病原細菌を食物試料から増菌および検出するために特に適している。しかしながら、この方法はまた、医学的試料または診断用試料から病原細菌を増菌および検出するのにも適している。さらに、それらが望まれない試料、例えば、薬学的調製物または化粧品調製物および処理溶液からグラム陽性菌を分離または検出するのにも適している。本発明による方法は、ISO法のような従来の増菌方法と対照的に、増菌に関する多くの時間を節約する。捕獲用に官能化磁性粒子を用いる磁気分離と組み合わせて、複雑で自動化が困難である細菌-ポリペプチド複合体分離方法、例えば遠心分離段階を置き換えることができる。
【0072】
本発明はさらに、本発明によるポリペプチドをコードする核酸およびベクター、ならびにそれらの核酸およびベクターをそれぞれ発現する細胞にも関する。当業者は、最新技術において公知の手順を用いて、本発明によるポリペプチドをコードする適切な核酸およびベクターを調製することができる。本発明によるポリペプチドのアミノ酸配列は、例えば、遺伝コードに基づく適切な核酸配列に由来してよい。その際、選択した発現系に応じて、コドンの最適化使用を任意で検討することができる。当業者はまた、例えば、前述の核酸を介した本発明によるポリペプチドの発現を確実にするために、適切なベクターを選択することができる。
【0073】
驚くべきことに、翻訳されるポリペプチド配列のJSタグのN末端部分の核酸配列が、効果的な発現のために重要であることが判明した。ATに富む配列は、アミノ酸配列を維持した状態で、GCに富む配列と比べて、有意により効率的な発現を示した。転写されたRNAの始端の二次構造要素の発達が、翻訳の効率に影響することが想定される。これらのATに富む配列の3種の変異体(SEQ ID NO: 54〜56)が、JSタグとそれに続くCBDの融合物に対して特に適していることが判明した(表1を参照されたい)。したがって、好ましい態様において、本発明によるポリペプチド中のJSタグをコードする核酸配列の部分は、SEQ ID NO: 54〜56より選択される配列で始まる。
【0074】
本発明による方法および本発明によるポリペプチド断片は、それぞれ、以下の利点を特徴とする:
・JSタグとエンドリシンのCBDを組み合わせた融合物は、一般に、グラム陽性菌に迅速かつ効率的に結合するのに適している。
・結合基としてのビオチンにより、CBD細菌複合体の非常に良好な固定化が可能になるため、CBDとJSタグの融合物は、効率的な2段階方法で細菌を増菌するのに非常に適している。
・CBDおよびJSタグの融合物と組み合わせた2段階方法により、担体材料および主に特異的結合タンパク質の投入量をより少量にすることが可能になり、これは、経済的に有利である。この方法におけるビオチン化は非常に効率的であり、正確に定められ、その結果、他の方法と比較して、極めて比率(portion)の高い機能的結合タンパク質が入手可能である。遊離の結合タンパク質への細菌の結合はまた、しばしば立体構造の問題、すなわち副反応としての非特異的結合および非機能的固定化が生じる、あらかじめ表面に固定化されていた結合タンパク質と比べてはるかに効率的である。
・本発明による方法はまた、全く同一の担体を用いて様々なCBD細菌複合体を固定化するのにも適している。
・CBDおよびJSタグの融合物は、結果的に、最高約30℃の温度での長期の安定性およびプロテアーゼ安定性を特に特徴とする、安定性の高い構築物になる。
・JSタグは、一方では長すぎないが、その一方で、スペーサーを必要としなくてすむ程度に長いため、取り扱うのに好適である長さを有する。
・本発明によるポリペプチドを調製するための本発明による方法は、BirAの共発現無しでさえ、機能する。
【0075】
本発明はさらに、官能基としてのストレプトアビジンまたはアビジンなどのビオチン結合物質と共に供給される担体を含み、CBDをJSタグと融合された本発明によるポリペプチド断片の少なくとも1種の変異体、ならびにグラム陽性菌の増菌および任意で検出のために必要な緩衝溶液、例えば、洗浄緩衝液、溶出緩衝液、および/または溶解緩衝液をさらに含むキットに関する。
【実施例】
【0076】
以下の実施例は、本発明を例示し、限定的であるとみなされるべきではない。別段の定めが無い限り、例えば、Sambrook et al., 1989, Molecular cloning: A Laboratory Manual 第2版 Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New Yorkにおいて説明されているような分子生物学の標準的方法を使用した。
【0077】
実験1:ビオチン化タグを有するファージ尾部タンパク質の発現、溶解度、および機能的アセンブリ
この実験の結果を図1に示す。図1に示す、サルモネラファージまたはカンピロバクターファージに由来するファージ尾部タンパク質を、標準的な方法によってpET21aまたはpET21dにクローニングし、かつ、IPTG誘導後(アプローチ当たり1ml)、所与の発現株において30℃で発現させた。3〜4時間後、細胞を遠心分離し(卓上遠心分離、5分、13.000rpm)、沈殿物を緩衝液(例えば、20mM tris、5mM EDTA、pH8)中に溶解した。超音波を用いて細胞を溶解し、再び遠心分離した(20分、13.000rpm、4℃)。可溶性タンパク質を含む上清を採取し、5分間煮沸するか、または煮沸しなかった。煮沸しなかった試料内で、SDS耐性の天然の三量体が形成するはずであり、これは、より大きな分子量で見出され得る。不溶性タンパク質を含む沈殿物を、同じ体積の緩衝液(例えば、20mM Tris、pH9、50mM NaCl、5 mM EDTA)中に再懸濁した。Lammliの試料用緩衝液をすべての試料に添加し、これらの試料をそれぞれ12%および9%のSDSポリアクリルアミドゲル上に載せ、クーマシーで染色した。
【0078】
特異的なビオチン化タグを有するファージ尾部タンパク質を用いて、効率的な量の機能的タンパク質を得ることはできないことが3つの下位実験すべてにおいて示された。一部は、発現比率は非常に低く、一部は、大部分のタンパク質が不溶性であり、SDS耐性、オリゴマー形成を特徴とする天然タンパク質を高い比率で得ることは可能ではない。P22様ファージ尾部タンパク質に関してのみ、単量体および天然三量体のバンドがSDSゲル上で検出され得る。他の2つのタンパク質に関しては、非常に弱い単量体のバンドだけが、ウェスタンブロットにおいて検出され得、その結果、位置を決定することができ、誘導および発現の基本的機能を確認することができた。
【0079】
実験2:CBDの化学的ビオチン化
それぞれ1mg/mlのCBD511(PBS:20mMリン酸ナトリウムpH7.4、120mM塩化ナトリウム中)およびNHS-ビオチン(DMSO中)のストック溶液を調製した。120μlのNHS-ビオチン溶液を1200μlのタンパク質溶液に添加し、完全に混合した。各試料300μlを直ちに(0分の値)、または20分後、60分後、もしくは120分後に採取し、かつ氷上で1M tris(pH8)30μlに添加して、反応を停止させた。試料はすべて、PBS緩衝液に対して透析した。吸光度を測定することによって全試料のタンパク質濃度を決定し、HABA試験を用いてビオチン化の程度を決定した。ビオチン化の程度は、CBD分子1つ当たり1.5〜2.5個のビオチン分子であった。リステリア・モノサイトゲネスScottA株を、濃度104CFU/mlで試験試料(緩衝液PBST;20mMリン酸ナトリウムpH7,4、120mM塩化ナトリウム、0.1%tween20)500μl中に導入して、細胞結合試験を実施した。続いて、ビオチン化CBD511を濃度0.5μg/ml、1μg/ml、2μg/ml、および5μg/mlでそれぞれ添加し、1分間インキュベートした。JSタグCBD511は、対照としての機能を果たした。MagPrep-ストレプトアビジン粒子(Merck)を50μg/mlまで添加し、これらの試料をオーバーヘッドローレイター(rolator)中、室温で20分間インキュベートした。5分間磁気分離した後、上清を採取し、PBST緩衝液500μlで磁性粒子を1回洗浄した(10分)。2回目の磁気分離後、磁性粒子を1倍体積量の緩衝液中に添加し、オックスフォード(oxford)プレート上にプレーティングした(未希釈および1:10希釈)。対照として、1回目および2回目の磁気分離後に集めた上清をプレーティングし、一晩後に計数した。この実験を図2に示す。化学的ビオチン化によってCBDはすべて不活性になるのに対し、JSタグによって特異的にビオチン化したCBDを用いた細胞結合試験は、通例、機能することが認められ得る。
【0080】
実験3a:1段階方法、2段階方法、およびISO方法による、カマンベール中のリステリアの検出
スーパーマーケットから入手したカマンベール300gを、25gの分量単位で無菌的に分割し、ストマッカーバッグに入れて-80℃で保存した。ISO規則: 11290-1:1996 FDAM 1に従って、1つの分量単位をリステリア菌の存在に関して解析した。リステリア菌汚染が検出され得ない場合、5つの分量単位を室温で解凍し、様々な量のL.モノサイトゲネスScottAに感染させた。したがって、一晩培養物を1:5希釈し、OD600が約1になるまで37℃でインキュベートした。続いて、無菌PBST(20mMリン酸ナトリウムpH7,4、120mM塩化ナトリウム、0,05%tween)中で段階希釈物を調製した。0、1〜10、11〜50、50〜100、および100〜500CFU/25gカマンベールでこれらの分量単位を汚染し、4℃で一晩保存した。細胞数を正確に決定するために、希釈物を二つ組にしてOxford寒天(Profos AG)上にプレーティングし、37℃で24時間プレートをインキュベートし、計数した。Fraser1/2培地(Profos AG)225mlを無菌的にこれらの分量単位に添加し、ストマッカー中で1分間ホモジナイズし、30℃でインキュベートした。4時間、6時間、および24時間のインキュベーション期間後、各試料1mlを採取した。
【0081】
1段階方法:Strepタグ-CBD511_f2でコーティングした磁性粒子(Dynabeads Epoxy)300μg/mlをホモジネート1mlに添加し、オーバーヘッドローレイター中、室温で20分間、試料をインキュベートした。
【0082】
2段階方法:Strepタグ-GFP-CBD511_f2融合タンパク質5μgをホモジネート1mlに添加し、短時間混合した。続いて、MagPrep-ストレプトアビジン粒子(Merck)を50μg/mlまで添加し、これらの試料をオーバーヘッドローレイター中、室温で20分間インキュベートした。
【0083】
続いて、粒子-リステリア複合体を磁場で管壁に集め、上清を除去した。粒子-リステリア複合体を、オーバーヘッドローレイター中でPBST(20mMリン酸ナトリウムpH7,4、120mM塩化ナトリウム、0,05%tween)1mlで10分間、3回洗浄し、磁場で管壁に集め、各上清を廃棄した。粒子-リステリア複合体をPBST 100μl中に再懸濁し、Oxford寒天(Profos AG)上にプレーティングした。37℃で24時間および48時間経過後、これらのプレートを計数し、磁性粒子に付着したリステリアの割合を、導入した細胞に対するパーセントで算出した。並行して、汚染した試料を、ISO規則:11290-1:1996 FDAM 1に従ってリステリアに関して解析した。したがって、所与の時点にFraser培地(Profos AG)10mlに100μlを添加し、ローレイター中で、37℃で24時間インキュベートし、続いて、Oxford寒天(Profos AG)上にプレーティングした。試料はすべて4つ1組で実施した。
【0084】
1段階方法ならびに2段階方法を用いた場合、カマンベール中の微量のリステリア汚染を検出するのに必要な濃縮時間は、ISO:11290-1:1996に従う方法と比べて有意に短いことが示された。より短い増菌期間という点では、2段階方法の結果の方が1段階方法と比べて優れている。
【0085】
実験3b:モツァレラからのリステリアの検出
FDA培地225mlを各25gのモツァレラに添加し、これらの一定分量(portion)をストマッカーバッグ中で無菌的にホモジナイズした。試料を30℃で一晩インキュベートした。リステリアのEGDe株(血清型1/2a)およびScottA株(血清型4b)を500CFU/mlの濃度で添加した。リステリア検出の前に、1/10体積量のPBSTで試料をそれぞれ緩衝化した。
【0086】
1段階方法:JSタグ-GFP-CBD511_f3でコーティングした磁性粒子(Dynabeads M270 Epoxy)300μg/mlをホモジネート1mlに添加し、オーバーヘッドローレイター中、室温で20分間、試料をインキュベートした。
【0087】
2段階方法:0.5μg、2μg、5μg、または10μgのJSタグ-GFP-CBD511_f3融合タンパク質をホモジネート1mlに添加し、短時間混合した。続いて、MagPrep-ストレプトアビジン粒子(Merck)を50μg/mlまで添加し、これらの試料をオーバーヘッドローレイター中、室温で20分間インキュベートした。
【0088】
続いて、粒子-リステリア複合体を磁場で管壁に集め、上清を除去した。粒子-リステリア複合体を、オーバーヘッドローレイター中でPBST 1mlにて10分間、1回洗浄し、磁場で管壁に集め、各上清を廃棄した。粒子-リステリア複合体をPBST 100μl中に再懸濁し、Oxford寒天(Profos AG)上にプレーティングした。37℃で24時間経過後、これらのプレートを計数し、磁性粒子に付着したリステリアの割合を、導入した細胞に対するパーセントで算出した。アプローチはすべて2回実施した。
【0089】
JSタグ-GFP-CBD511_f3融合タンパク質の助けを借りて、リステリアを食物から単離できることが示された。モツァレラに関しては、これは、ScottA株の場合よりもEGDe株の場合の方が有意に上手く機能する。高い結合効率を実現するには、若干高い濃度のタンパク質を食物中で使用すべきである。
【0090】
実験4:JSタグ-CBDの細胞結合能力
実験4a:JSタグ構築物およびAviタグ構築物の細胞結合能力の比較
様々な構築物の細胞結合能力を、2段階方法に従い、リステリア株ScottAを用いて試験した。次の構築物を使用した:JS-GFP_CBD511_f3、JS-CBD511_f3、およびAviタグ-GFP_CBD511_f3。構築物の長さは様々であるため、等モル量の結合タンパク質を使用した。所与の量の融合タンパク質を試験試料(濃度104CFU/mlの新鮮な前培養物に由来するリステリア、PBST緩衝液)1mlに添加し、短時間混合した。続いて、MagPrep-ストレプトアビジン粒子(Merck)を50μg/mlまで添加し、これらの混合物をオーバーヘッドローレイター中、室温で20分間インキュベートした。続いて、粒子-リステリア複合体を磁場で管壁に集め、上清を除去した。粒子-リステリア複合体を、オーバーヘッドローレイター中でPBST 1mlで10分間、1回洗浄し、磁場で管壁に集め、各上清を廃棄した。粒子-リステリア複合体をPBST 100μl中に再懸濁し、Oxford寒天(Profos AG)上にプレーティングした。37℃で24時間経過後、これらのプレートを計数し、磁性粒子に付着したリステリアの割合を、導入した細胞に対するパーセントで算出した。アプローチはすべて2回実施し、平均値を算出した。この実験を図4Aに示す。JSタグ構築物の方がAviタグ構築物よりもうまく結合することが確認され得る。この場合、最大の細胞結合を実現するには、かなり多量のタンパク質を導入しなければならない。
【0091】
実験4b:Avi-GFP-CBD511_f2およびJS-CBD511_f2の精製
大腸菌HMS174中での発現、細胞回収、溶解、および硫酸アンモニウム沈殿の後に、陽イオン交換クロマトグラフィーによって両方のタンパク質を精製した。Avi-GFP-CBD511_f2は、BirAと共発現された。
【0092】
実験4c:磁性粒子への細胞結合の濃度依存性
これは、特異的結合タンパク質のどの濃度において最大の細胞結合が実現されるかということから解析された。濃度0μg/ml、0.02μg/ml、0.1μg/ml、0.5μg/ml、1μg/ml、2μg/ml、および3μg/mlのJS-CBD511_f3を結合タンパク質として使用した。この実験は、実験4aと同様に実施した。結果を図4Bに示す。導入された細胞すべての本質的に100%である最大細胞結合は、0.5μg/mlの非常に低いタンパク質濃度ですでに実現されていることが示された。
【0093】
実験5:JSタグのN末端領域中のヌクレオチド配列の最適化
肺炎桿菌オキサル酢酸デカルボキシラーゼのC末端部分のヌクレオチド配列を含むJSタグCBD構築物はインビボでビオチン化されることが示されているものの、それらが示すタンパク質の発現収率は非常に低かった(表2も参照されたい)。結果として、クレブシエラ配列の第1のアミノ酸および本発明者らの細胞によって付加的に導入された開始ペプチド(MVGA)をコードするヌクレオチド配列を、アミノ酸配列を変更することなく、発現収率に関して最適化した。様々な配列提案のセット全体のうち、5種の変異体をコードする3つの異なるヌクレオチド配列が特に適切であることが判明した。各アミノ酸に対するコドン選択が許容する場合は、変異体はすべて、元の配列と比べてATに富むことが共通している。これらの変異体(変異は灰色に色を変えている)を表1に要約する。
【0094】
(表1)JSタグのN末端配列領域のヌクレオチド変異体
【0095】
変異体JS4a、JS5b、JS5d、JS10a、およびJS10cは、JSタグおよびCBDの融合構築物の発現のために特に適していることが判明した。使用されるCBD部分によって、個々の変異体の発現にはわずかな差があった。しかしながら、基本的にはすべて使用することができる。
【0096】
実験6:JSタグ-CBD構築物とBirAの共発現
JSタグ構築物をインビボで効率的にビオチン化するにはBirA(Biotin ligase)の共発現が必要であるかを試験した。
【0097】
構築物JS5b-CBD511_f2を、発現株大腸菌BL21(DE3)においてベクターpet21a中で発現させた。BirAが共発現された場合、プラスミドpACYC184-BirAがさらに存在した。新鮮なLB培地(2lフラスコ中、全量4l〜10l)に、発現株の一晩培養物を播種し、これらの細胞を1mM IPTGを用いてOD600が約0.4〜0.6になるように誘導し、4時間後に回収した。誘導中に、一定分量の試料に50μMビオチンをさらに添加した。各構築物を2回試験した。回収後、細胞を遠心分離し、かつ溶解させた。精製は、硫酸アンモニウム沈殿分画およびそれに続く陽イオン交換クロマトグラフィーによって実施した。タンパク質純度は、SDSゲルによって記録した。
【0098】
(表2)様々なJSタグ-CBD構築物の発現収率および精製収率
【0099】
発現収率は、肺炎桿菌に由来する元の配列と比べて、ヌクレオチド配列が最適化された構築物JS-5b(実験5を参照されたい)の方が、有意に優れている。BirAの共発現は、細菌細胞の導入量に基づくタンパク質収量を基本的には増加させない。
【0100】
BirAの共発現を伴う場合および伴わない場合の、JSタグ構築物を用いた細胞結合試験
JS5b_CBD511_f2を、リステリア株ScottAを用いた細胞結合試験に導入した。リステリア濃度103CFU/mlの試料1mlを使用した。磁性粒子として、ストレプトアビジン-磁性粒子(Roche)を0.05mg/mlの濃度で使用した。他の点は、実験3bで説明した2段階方法に従って、実験の遂行を実施した。BirAを伴う場合および伴わない場合、ならびに付加的なビオチン(50μM)の添加を伴う場合および伴わない場合の発現から得られる構築物を解析した。結果を図5に示す。
【0101】
実験7:hisタグ-CBDおよびJSタグ-CBDを用いた場合の細菌結合の比較
セレウス菌(DSM345)を前培養物から新しく播種し、TS培地中でOD600が約1になるまで30℃で増殖させた。これらの細菌を、濃度3×103CFU/mlで試験試料(1ml)中に導入した。hisタグ構築物の場合、緩衝液はニッケル緩衝液A(20mMリン酸Na、500mM NaCl、20mMイミダゾール、0.1%tween20、pH7.4)であった。JSタグ構築物の場合、緩衝液はPBSTであった。Hisタグ-CBDBaおよびJSタグ-CBDBaを濃度1μg/mlで添加し、hisタグ-CBD21およびJSタグ-CBD21を濃度0.12μg/mlで添加し、室温で5分間インキュベートした。続いて、Ni-NTAアガロースビーズ(Qiagen)およびMagPrepストレプトアビジンビーズをそれぞれ、粒子約8×106個/mlの濃度で添加し、回転させながら20分間インキュベートし、磁選機を用いて5分間分離した。試料の1倍体積量の緩衝液で磁性粒子を洗浄した。結合された細菌を含む取り出した磁性粒子と同様に、未結合細菌を含む洗浄溶液および上清も、CASO完全培地プレートにプレーティングした。27℃で18時間経過した後、コロニーを計数した。それぞれ2回の実験を実施した。タンパク質を添加しないアプローチが、対照としての機能を果たした。この実験を図6に示す。
【0102】
細菌は、所与の条件下でJSタグ構築物と極めて特異的に結合したが、結合された細胞の収率は、hisタグ構築物の場合は全く不十分であった。基本的には、両方の種類の磁性粒子に関して非特異的な細菌結合はなかった。
【0103】
実験8:異なる培地および緩衝液それぞれからのリステリアの増菌
リステリア・モノサイトゲネスEGDを、Avi-CBD511_f2およびJS-CBD511_f2(各5μg/ml)をそれぞれ用いて、異なる培地およびPBST緩衝液それぞれから増菌した。リステリアをTB培地中でOD600が約1になるまでインキュベートし、所与の培地または緩衝液中で、その前希釈物を調製した。リステリアは、濃度104CFU/mlで試験において使用した。細胞結合試験は、2段階方法に従って実施し、50μg/mlのMagPrepストレプトアビジン粒子(Merck)と共に、回転させながら20分間インキュベーションし、PBSTで1回洗浄した。結合した細胞および未結合の細胞をOxford寒天上にプレーティングし、一晩経過後、計数した。2回の実験の各平均値が与えられる。この実験の結果を図7に示す。
【0104】
実験9:Strepタグ-CBDおよびJSタグ-CBDを用いた場合のビオチンを含む試料における細菌結合の比較
ビオチンは、しばしば食物試料中に含まれる。JSタグならびにstrepタグのストレプトアビジンへの結合は、ビオチンと競合するため、細菌を特異的に増菌するために、どちらの系がビオチンを含む試料においてより適切であるかを解析した。セレウス菌(DSM345)を前培養物から新しく播種し、TS培地中でOD600が約1になるまで30℃で増殖させた。細菌を、濃度1×103CFU/mlで試験アプローチ(1ml)中に導入した。試験溶液として、所与の濃度のビオチン(0.01μM、0.1μM、1μM)と共にPBSTを使用した。JSタグCBDBaおよびstrepタグCBDBaをそれぞれ濃度20μg/mlで添加し、室温で約2分間、細菌とインキュベートした。ストレプトアビジン-PA-ビーズを濃度50μg/mlで添加し、回転させながら20分間インキュベートし、磁選機で5分間分離した。試料の1倍体積量の緩衝液で磁性粒子を洗浄した。結合された細菌を含む取り出した磁性粒子と同様に、未結合細菌を含む洗浄溶液および上清も、CASO完全培地プレートにプレーティングし、室温で一晩インキュベートした。30℃でさらに4時間経過後、コロニーを計数した。それぞれ2回の実験を実施した。タンパク質を添加しない試料が、対照としての機能を果たした。結果を図8に示す。ビオチンを含む試料における細胞結合が、strepタグ系のより劣る結合と比べて、JSタグ系を用いた方が有意にうまく機能することが示された。ビオチン濃度1μMで依然として特異的結合を検出することができるのに対し、同じ条件下でstrepタグを用いた場合、これは可能ではない。
【0105】
実験10:様々な条件下でのJSタグ-CBD構築物の長期に渡る安定性
JS-CBD-511_f3のストック溶液(約1mg/ml)およびストレプトアビジン磁性粒子(約1mg/ml)を、所与の条件下でインキュベートし、リステリアを用いた細胞結合試験に導入した。1ml試験(PBST緩衝液)中の磁性粒子の濃度は50μg/mlであり、タンパク質濃度は与えたとおりであり、使用した細菌数は104CFU/mlであった。
【0106】
実験10a:結合タンパク質および磁性ビーズを、100mMリン酸ナトリウム、pH6〜7、2mM EDTA中で、-20℃、4℃、室温(約23℃)、および37℃で最長126日間保存し、リステリア結合試験において所与の濃度で使用した。126日後のみ、かつ、この場合、主に37℃のインキュベーションで、結合効率が有意に低下していることを確認することができる。
【0107】
実験10b:結合タンパク質および磁性粒子を、30%硫酸アンモニウムを加えた10mMイミダゾール、pH7、100mM NaCl中で、-20℃、4℃、室温(約23℃)、および37℃で最長74日間保存し、リステリア結合試験において所与の濃度で使用した。74日間のインキュベーション後の結合効率が、全温度で有意に低下しているが、依然として50%を超えていることを確認することができる。
【0108】
両方の緩衝液系が、JS-CBD-構築物および適切なストレプトアビジン磁性粒子の長期に渡るインキュベーションに適しているように思われる。これらの結果を図9に示す。
【0109】
実験11:様々な食物からのリステリアの増菌
この実験を図10に示す。
【0110】
実験11a:リステリア・モノサイトゲネスScottAの一晩培養物をFDA-Oxoid培地中で1:5希釈し、OD600が約1になるまで37℃で増殖させた。牛乳およびホモジナイズしたチーズをそれぞれPBST中で1:10希釈し、リステリアを濃度104CFU/mlで播種した。所与の濃度のJS4a-CBD511_f2をエッペンドルフカップに添加し、各試料溶液1mlと混合した。磁性粒子として、ストレプトアビジン磁性粒子(Roche)を濃度50μg/mlで使用し、オーバーヘッドローレイター中で10分間、試料をインキュベートした。磁性粒子を磁選機中で5分間分離し、続いて、PBST緩衝液1mlで1回洗浄し、緩衝液1ml中に溶かした。ビーズ画分および集めた上清(1回目の磁気分離および洗浄段階後)の100μlの未希釈物および1:10希釈物をOxford寒天上にプレーティングし、37℃で一晩インキュベートした。翌日、リステリアを計数し、発見された細菌の何パーセントがJS4a-CBD511_f2を介して磁性ビーズに結合されたかをそれぞれ算出した。牛乳ならびにチーズから、導入されたリステリア細胞が、基本的には、0.2μg/ml JS4b-CBD511_f2の特異的結合タンパク質濃度で既に完全に分離されることが示された。細菌の50%は、0.02μg/mlという非常に低いタンパク質濃度で既に分離することができる。
【0111】
実験11b:各25gのスモークサーモンおよびサラミをホモジナイズし、LEB-FDA培地で1:10希釈し、リステリア・イノキュアを104CFU/mlの濃度で播種し、室温で1時間、ストマッカーバッグ中でインキュベートした。使用した細菌希釈物を対照としてプレーティングした。ストマッカーバッグの濾液から各試料1mlを採取し、JS5b-CBD511_f3(1μg/ml)と混合した。対照にはタンパク質を添加しなかった。すぐ後に続いて、400μg/mlのPA-ストレプトアビジンビーズを添加し、オーバーヘッドローレイター中で20分間、インキュベートした。磁性粒子を磁選機中で5分間分離し、続いて、PBST緩衝液で1回洗浄し、緩衝液1ml中に再び溶かした。
【0112】
ビーズ画分および集めた上清(1回目の磁気分離および洗浄段階後)の100μlの未希釈物および1:10希釈物をOxford寒天上にプレーティングし、37℃で一晩インキュベートした。翌日、リステリアを計数し、発見された細菌の何パーセントがJS5b-CBD511_f3を介して磁性ビーズにそれぞれ結合されたかを算出した。スモークサーモンならびにサラミから、90%超の細菌が結合され得ることが示された。
【0113】
実験12:NASBA技術を用いた、食物からのリステリアの検出
リステリア・モノサイトゲネスScottAの一晩培養物をLEB-FDA培地中で1:5希釈し、OD600が約1になるまで37℃で増殖させた。102CFU/mlまでのその段階希釈物を調製した。2×60gのサラミを計量し、5CFU/食物25gの濃度のリステリアで汚染した。試料各60gに、LX培地(BioMerieux)540mlを添加し、試料をホモジナイズし、ストマッカーバッグ中でそれぞれ17時間および12時間、37℃でインキュベートした。続いて、ストマッカーバッグの上清から得た試料1ml中の細菌を、JS5b-CBD511_f2を用いて捕獲した。上清をさらにプレーティングし、対照として計数した。結合タンパク質を濃度1μg/mlで添加し、1分間、試料とインキュベートした。続いて、PA-ストレプトアビジン磁性粒子を濃度400μg/mlで添加し、一晩ローレイター中で20分間、インキュベートした。磁性粒子を磁選機中で5分間分離し、続いて、TT緩衝液(50mM tris、pH8.0、0.1%tween20)各1mlで3回洗浄した。結合した細菌を含む磁性粒子の一定分量をOxford寒天上にプレーティングし、15〜20時間のインキュベーション後に計数して、結合効率を求めた。この結果を図のAの部分に示す。JSタグ-CBDを介して結合されたリステリアを含む磁性粒子の一定分量を、検出のためにNASBAに導入した。ビーズ上の細胞を、溶解緩衝液A(21%DMSO、57mM Tris、0.4%Triton X100)100μlに溶かした5μg/mlのリステリア特異的エンドリシンを用いて、室温で15分間、溶解した。続いて、磁性ビーズを磁選機中で5分間分離し、各NASBA反応に溶解物14μlを使用した。あらかじめ成形されたリステリア特異的プライマービーズをもとから担持する試験紙をそれぞれ試料8個に対して使用した。NASBA用の酵素溶液5μlを各試料に添加し、製造業者のプロトコールに従って反応を実施した。NASBA系として、Nuclisens EasyQアナライザー(BioMerieux)を各サーモブロックと共に使用した。時間依存的な蛍光シグナルに基づいて、データを評価する。成功裡な検出反応後、蛍光シグナルは、約30分の検出時間の後に、より高いレベルまで増加し、そこで留まる。実験アプローチ当たり7回のNASBA反応を実施した。(17時間のインキュベーション後の)NASBA検出を図11bに示す。7回の反応すべてにおいて、陽性の蛍光シグナルが検出され、したがって、特異的RNAプライマーを用いたリステリア検出がうまくいったことを確認することができる。
【0114】
前述の系において、5CFU/25gのリステリア濃度で食物を17時間インキュベーションした後にはすでに、99%超の細菌が結合および検出され得ることが示された。検出は、通常、選択的プレート(図11aを参照されたい)ならびに細菌の捕獲後、約2.5時間しかかからない(図11bを参照されたい)NASBAのような核酸に基づいた方法によって機能する。
【0115】
比較可能な実験は、スモークサーモン、エビ、ブリーチーズ、シチメンチョウソーセージおよびポークソーセージ、ならびにヤギ製クリームチーズでも成功裡に実施された。
【0116】
実験13:JSタグ-CBD(バチルスエンドリシンに由来)の特異的細胞結合
すべての細菌株の一晩培養物を完全培地中で増殖させた。一晩培養物を完全培地(例えば、CASO、LB、TS、TY)中に1:20〜1:5で播種し、OD600が約1になるまでさらに増殖させた。すべてのバチルス細菌に対する増殖温度は30℃であり、他のすべての株に対しては37℃であった。前培養物から希釈系列を調製した。試験アプローチ(体積500μl)において、細菌を濃度103〜104CFUで使用した。使用した各希釈物の正確な細胞数を決定するために、それぞれの対照をプレーティングし、計数した。JSタグ-CBDBaおよびJSタグ-CBD21をそれぞれ、試験アプローチ(緩衝液PBST)に濃度10μg/mlおよび1μg/mlでそれぞれ添加し、約1分、細胞とインキュベートした。続いて、CASO-tween(0.1%)-溶液で前もってブロッキングしておいたMagPrepストレプトアビジン粒子(Merck)を濃度50μg/mlで添加した。試料を細菌結合タンパク質および磁性粒子と共に、オーバーヘッドローレイター中、室温で20分間インキュベートした。磁性粒子を磁選機中で5分間分離し、続いて、PBST 1mlで1回洗浄し、続いて緩衝液中に再懸濁した。結合した細胞を含む再懸濁したビーズ画分ならびに磁気分離後の上清および洗浄溶液を集めた画分をそれぞれ100μlプレーティングした。乾燥後、これらのプレートを各増殖温度で一晩インキュベートし、翌朝計数し、各希釈率に基づいて補正した。結合された細菌全体の何パーセントが、JSタグ-CBDを介して磁性粒子に特異的に結合され、何パーセントが試料から分離されるかがそれぞれ与えられる。特異的結合タンパク質を添加しない試料は、磁性粒子への細菌の潜在的な非特異的結合に関する対照としての機能を果たした。同様にプレーティングし計数した細菌前希釈物が、予想される細胞数に関する別の対照としての機能を果たした。回収された細胞の総数が、導入した全細胞の80%〜120%の範囲で示された実験のみを評価した。1つの試験当たり2〜4回の実験を実施した。様々なバチルス株および他のグラム陽性菌ならびにグラム陰性菌との各結合データの概要を表3に示す。
【0117】
(表3)細胞結合アッセイ法における、様々な細菌株に対するJS-CBDBaおよびJS-CBD21の結合能力
【0118】
予想されたとおり、どちらのCBDも、グラム陰性菌への結合を示さない。しかしながら、セレウス菌ファージから単離した両方のCBDの結合特異性は、予想外に完全に異なっている。CBDBAが、セレウス菌群に由来するバチルスに対して極めて特異的であることが示された。この群のほかは、2種の連鎖球菌株しか認識されない。しかしながら、CBD21は、グラム陽性菌に対して例外的に広範な結合特異性を示す。セレウス菌群の代表的なものはすべて結合され、さらに、B.スフェリカスおよびポリミキサ菌を除く、試験した別のバチルスすべても結合される。珍しいのは、他のファミリーに由来するグラム陽性菌もまた結合されたことである。高い病原菌能力を示すことを特徴とする試験した6ファミリーは、すべて認識された。したがって、CBD21は、病原細菌が問題を招く様々な領域において病原細菌を増菌、分離、および検出するのに特に適している。同じくエンドリシンplyB21に由来する、試験した別の断片と対照的に、本明細書において示す断片(SEQ ID NO: 19)は、高い安定性および低い凝集性を特徴とした。
【0119】
実験14:細菌混合物からのセレウス菌の特異的結合
次の細菌の一晩培養物を完全培地中で増殖させた:セレウス菌(DSM345)、サルモネラ・テネシー、リステリア・モノサイトゲネス(ScottA)、黄色ブドウ球菌、大腸菌HMS174(DE3)。一晩培養物を新鮮な培地に播種し、それぞれ37℃および30℃(バチルス)で、OD600が約1になるまで約3時間増殖させた。これらの株を、約103CFU/mlの希釈率で試験において使用した。各希釈物をプレーティングし、対照として計数した。試験混合物は1mlであり、PBST(20mMリン酸Na、120mM NaCl、pH7.4、0.1%Tween 20)中で実施した。特異的結合タンパク質として、JSタグ-CBDBaを濃度20μg/mlで供給した。対照実験の場合、タンパク質の代わりにPBSTのみを添加した。細菌の前希釈物各10μlを、各試料中の細菌濃度が約103CFU/mlになるように添加した。細菌をこれらの細胞と共に1分間インキュベートした。続いて、100μg/mlのPA-ストレプトアビジン磁性ビーズ(Microcoat)を添加し、これらの試料を回転させながら室温で20分間インキュベートした。磁性粒子を磁選機中で5分間回収し、上清を採取した。分離した磁性粒子をPBST 1mlで5分間、1回洗浄した。洗浄溶液は、上清と共に集めた。磁性ビーズにPBSTを加えて、再び1mlにした。様々な希釈物の各100μlを、一方でCASOプレート(カゼイン、ダイズエキス抽出物;完全培地、Merck)、およびその一方でPEMBAプレート(セレウス菌用の選択培地、ポリミキシンB、卵黄、マンニトールを含む)にプレーティングし、27℃で約18時間インキュベートし、続いて計数した。それぞれ2つの平均値を2回の実験から決定した。回収した細胞の総数は、磁性粒子に結合された細胞と上清および洗浄溶液中にそれぞれ残存している細胞との合計から得た。プレーティングした細胞希釈物を対照として使用した。結果を図12に示す。特異的CBDの添加後のみ、セレウス菌が試料から増菌されるのに対し、タンパク質添加無しの場合、細菌は磁性粒子に結合しないことが示された。また、セレウス菌のみがビーズを介して結合されるのに対し、他の細菌は、上清がプレーティングされたCASOプレート上で増殖するだけであることも示された。
【0120】
実験15:炭水化物を含む食物からのセレウス菌の増菌
食物試料として、調理済みのエクスプレスライス(先端の長い粒のエクスプレスライス、Uncle Ben's製)を使用した。調理済みのエクスプレスライス5gを、TSPB培地(0.01mg/mlポリミキシンBを含むTS完全培地)50mlと共に、無菌的にストマッカーバッグに移し、1分間ホモジナイズした。セレウス菌(DSMZ345)の一晩培養物を30℃でTS培地に播種した。一晩培養物2mlを新鮮なTSPB培地10ml中に移し、OD600=0.8に達するまでインキュベートした。ストマッカーバッグ濾液から得た食物試料990μlにバチルス前培養物の様々な希釈物各10μlを添加し、食物試料中のバチルス濃度が102CFU/ml、103CFU/ml、または104CFU/mlになるようにした。TSPB培地を対照として添加した。室温で5分間のインキュベーション後、試料1つ当たりJSタグ-CBDBa 10μgを添加し、完全に混合した。対照試料には、タンパク質を添加しなかった。約1分後、ストレプトアビジンPA-磁性ビーズ(Microcoat)400μgを添加し、これらの試料を回転させながら室温で20分間インキュベートした。磁性ビーズを磁選機中で5分間回収し、上清を採取した。分離した磁性粒子をPBST 1mlで5分間、2回洗浄した。洗浄溶液は、上清と共に集めた。磁性ビーズにPBSTを加えて、再び1mlにした。磁性粒子および上清をそれぞれ含む試料の様々な希釈物の各100μlを、選択的PEMBAプレートにプレーティングし、続いて30℃で一晩インキュベートし、次いで計数した。それぞれ2プレートに並行してプレーティングした。結果を図13に示す。基本的には、食物試料ならびにTSPB培地に由来するすべてのセレウス菌細胞が、JSタグ-CBDBaに、続いて磁性粒子に選択的に結合されるのに対し、上清および洗浄溶液中にはほとんどセレウス菌細胞は残存していないことが示される。タンパク質を含まない対照試料では、バチルスは磁性粒子に非特異的に結合されなかった。
【0121】
実験16:血液からのセレウス菌の増菌
セレウス菌(DSMZ345)をTB培地中にて30℃で一晩増殖させた。新鮮なTB培地に1:10で播種し、OD600が約1になるまで細菌を増殖させた。クエン酸-血液、EDTA-血液、またはヘパリン-血液各0.5mlをそれぞれPBST 0.5mlと混合した。血液中の添加物はすべて、抗凝血薬として働いた。クエン酸-血液:0.106Mクエン酸を血液で1:10希釈した。EDTA-血液:1.2〜2mg EDTA/ml血液。ヘパリン-血液:10〜30I.U.ヘパリン/ml血液。緩衝化した血液試料1mlにセレウス菌前培養物各10μlを添加し、細菌濃度が約103CFU/mlとなるようにした。さらに、JSタグ-CBD21タンパク質溶液(2mg/ml)5μlを添加し、短時間ボルテックスした。対照には、タンパク質を添加しなかった。続いて、磁性粒子(ストレプトアビジン-PA-ビーズ、Microcoat、10mg/ml)40μlを添加し、これらの試料を回転させながら室温で20分間インキュベートした。磁性粒子を磁選機中で5分間分離した。結合されていない細菌を含む上清を取り出し、PBST 1mlで1回、ビーズを洗浄した(5分)。洗浄溶液は、磁気分離後の上清と共に集めた。JSタグ-CBDおよび細菌の複合体が結合された磁性ビーズにPBST 1mlを添加した。集めた上清および磁性粒子を含む溶液の1:10希釈物各100μlを選択的PEMBAプレートにプレーティングし、約18時間インキュベートし、計数した。それぞれ2回の実験の平均値を求めた。この実験の結果を図14に示す。JSタグ-CBD21の助けにより、血液に由来するほぼすべてのバチルスが分離され得ることが示された。タンパク質を含まない対照において、ヘパリンを含む血液試料に関してのみ、磁性粒子への一定のパーセンテージ(約25%)の非特異的結合が生じることが示された。クエン酸-血液およびEDTA-血液に関しては、非特異的結合の比率(portion)は非常に低かった。
【0122】
実験17:CBD3626のJSタグ構築物を用いたクロストリジウムの結合
文献(Zimmer et al., 2002, Appl. Environm. Microbiol., 68, 5311-5317)に記載されているウェルシュ菌ファージΦ3626のエンドリシンPly3626をベースとして、分子生物学的技術を用いて、JSタグを有する潜在的に適切なCBD3626の様々な変異体を調製した。すべての構築物の発現が最初は非常に乏しいため、クロストリジウムおよび大腸菌において異なるコドン使用に基づいて最適化した合成遺伝子を調製した。hisタグをクローニングした従来の変異体は、非常に低い溶解性しかないが、JSタグを有する変異体は溶解性がより優れていることが判明した。安定に発現させるのに適し、かつ可溶性であり、その結果、続いて精製し、ウェルシュ菌細胞を用いた機能的な結合試験において使用できることが判明した変異体を表4に要約する。それぞれベクターPet21dにおいてクローニングを実施した。発現は、別のプラスミド上でbirAを共発現させ、アンピシリンおよびクロラムフェニコールを含むLB培地において、30℃、大腸菌株HMS174中で実施した。
【0123】
(表4)
【0124】
結合試験のために、ウェルシュ菌の前培養物を、嫌気箱にてTYG培地(トリプトン、酵母抽出物、グルコース(Trypton, yeast extract, glucose))中、45℃で一晩増殖させた。PBST緩衝液1ml中、室温で結合試験を実施した。クロストリジウム細胞を濃度約104CFU/mlで提供し、様々なJSタグ-CBD3626構築物を濃度25μg/mlで添加し、混合し、約2分間インキュベートした。続いて、PA-ストレプトアビジンビーズ(Microcoat)を濃度100μg/mlで添加し、回転させながら10分間インキュベートした。GFPをマーカーとして含む各CBD構築物から試料を採取し、蛍光顕微鏡下で結合に関して解析した。結果を図15に示す。
【0125】
実験18:特異的JSタグ-CBD構築物を用いたブドウ球菌の結合
ブドウ球菌株の一晩培養物をBHI培地中で1:10希釈し、OD600が約1になるまで30℃でインキュベートした。細胞を培地中で希釈し、濃度104CFU/mlで試験において使用した(試験アプローチ500μl、PBST緩衝液)。特異的結合タンパク質JS5b_CBDUSAを濃度10μg/mlで添加し、室温で20分間、細胞とインキュベートした。続いて、PA-ストレプトアビジンビーズ(Microcoat)を濃度200μg/mlで添加し、オーバーヘッドローレイター中で45分間インキュベートした。細胞が結合された磁性粒子を磁選機中で5分間インキュベートし、緩衝液1mlで1回洗浄し、再び緩衝液500μl中に再懸濁した。磁性粒子および集めた上清をCASOプレートにプレーティングし、37℃で一晩インキュベートした。黄色ブドウ球菌およびS.ヘモリチカスを含むプレートは、16時間後に計数することができたが、表皮ブドウ球菌を含むプレートは24時間後まで計数できなかった。結合されたブドウ球菌の比率を、存在する細菌全体と比較して解析した。
【0126】
(表5)
【0127】
JS5b-CBDUSA構築物を用いると、様々な株のブドウ球菌が結合され得るが、黄色ブドウ球菌が最も良く結合する。
【0128】
実験19:CBDおよびJSタグを含む本発明によるポリペプチド構築物は、StrepタグおよびHisタグ(NS-HIS)と組み合わせたCBDよりも、ビーズ-sb結合試験においてブドウ球菌細胞に有意に良く結合する
実験の遂行は、実験18に類似した細胞結合試験において実施した。CBDPitti26(SEQ ID NO: 28)の細胞結合ドメインの本発明によるJSタグポリペプチド構築物を、ビオチン結合用のstrepタグならびにhisタグ(NS-his組合せ)を含む構築物と比較して使用した。CBD構築物はN末端にそれぞれNS-hisおよびJSタグ(変異体5b)を有し、続いて、リンカー配列(AGAGAGAGSEL)およびCBDPitti26配列を有する。Pitti26は、ブドウ球菌ファージの自己単離物である。これらのポリペプチド構築物を試験前に新たに透析し、UV吸収測定値を用いてタンパク質濃度を決定し、これらのタンパク質を濃度10μg/mlで試験に導入した。3種の異なるブドウ球菌株に対する結合挙動を表6に示す。
【0129】
(表6)
【0130】
本発明によるJSタグ-CBD構築物を用いると、3種のブドウ球菌株すべてで細胞結合が検出され得るのに対し、表皮ブドウ球菌細胞が有意に優先されるものの、strepタグおよびhisタグを有する構築物に関しては、同じ条件下で表皮ブドウ球菌細胞に対して非常に弱い結合しか実現され得ない。このことから、本発明による構築物が、他のタグに結合されたCBDよりも、細菌細胞の結合に有意に好適であることが示される。
【0131】
実験20:細胞結合試験における、ブドウ球菌に特異的なJSタグ-CBD構築物によるブドウ球菌結合の検出
実験18で説明した実験設計と同様に、ブドウ球菌に特異的な3種の異なるJSタグ-CBD構築物を使用して、多数の様々なブドウ球菌株を試験した。異なる構築物のCBD部分は、それぞれ、ファージΦSA2usaに由来(JS-CBDUSA)、ファージ自己単離物PlyOpf由来のエンドリシンに由来(JS-CBDOpf)、およびPlyPitti20に由来(JS-CBDPitti20)する。ポリペプチド配列は、それぞれ、SEQ ID NO: 21、31、および、27において確認することができる。これらの実験の結果を図16に示す。
【0132】
本発明によるポリペプチド構築物、JS-CBDUSA、JS-CBDOpf、およびJS-CBDPitti20は、ビーズ結合試験において多数のブドウ球菌株に特異的に結合する。その結果、黄色ブドウ球菌MRSA株は、非MRSA株と同様に良く結合される(図16A)。しかしながら、傾向として(tendentially)、JS-CBDOpfはMRSA株により良く結合するのに対し、JS-CBDUSAは非MRSA株により良く結合することに注目することができる。図16Bは、黄色ブドウ球菌種に属さない別の一連のブドウ球菌株に対する本発明による3種のブドウ球菌JS-CBD-構築物の結合を要約する。その結果、スタフィロコッカス・カルノーサス種、スタフィロコッカス・シウリ種、およびスタフィロコッカス・エクオルム種(1つの例外あり)の株は特異的に結合されないが、表皮ブドウ球菌種、スタフィロコッカス・ヘモリチカス種、腐性ブドウ球菌種、スタフィロコッカス・シミュランス種、スタフィロコッカス・ワーネリ種、およびスタフィロコッカス・キシローサス種の株は、対照的に特異的に結合される。これにより、使用した本発明によるJSタグ-CBD構築物が、多量のヒト病原菌ブドウ球菌株に特異的かつ効率的に結合するのに適していることが示される。
【0133】
実験21:ペルオキシダーゼ試験の助けを借りた、JSタグ-CBD構築物への細胞結合の検出
ペルオキシダーゼ試験は、使用されるStrepTactin-HRP(Horse Radish peroxidase)結合体(IBA,Gottingen)がStrepTacin部分を介してビオチンに結合できる場合にのみ測定シグナルが検出され得るという原理に基づいている。このビオチンは、本発明によるポリペプチド構築物のビオチン化JSタグに共有結合され、その結果として、実験アプローチにおいて細菌細胞に特異的に結合し、したがって、沈殿物画分に存在し、遠心分離段階において保持される。結合されていないJSタグ-CBD構築物は、各遠心分離上清と共に廃棄されるはずであり、したがって、シグナルを生じないはずである。ペルオキシダーゼ試験において使用する前に、本発明によるJSタグ-ポリペプチド構築物をTE緩衝液(20mM Tris、50mM NaCl、5mM EDTA;pH7.0)に対して一晩透析し、続いて、UV吸光度から比吸収係数を用いてタンパク質濃度を決定した。マイクロタイタープレート(Deepwell)を、37℃で1時間、PBST各600μlとインキュベーションすることにより、ブロッキングした。続いて、細菌前培養物および(対照としての)BHI培地各200μlを、ウェル中にそれぞれピペットで分注し、各量のタンパク質溶液(タンパク質濃度10μg/ml)および(対照としての)緩衝液をそれぞれ添加し、室温で15分間インキュベートした。3回の測定をそれぞれ実施した。インキュベーション後、卓上遠心分離機にて(3,600rpm)4℃で10分間、プレートを遠心分離し、上清を採取および廃棄し、沈殿物をPBST 200μlで再び洗浄した。続いて、沈殿物をStrepTactin-HRP-結合体溶液(PBST中で1:5000希釈)200μl中に再懸濁し、室温で30分間インキュベートする。試料を再び遠心分離し、PBST各200μlで2回洗浄し、その際、それぞれ上清を廃棄する。2回目の洗浄段階の後、沈殿物をABTS反応溶液各200μl中に溶かし、405nmでの吸光度(600nmでのバックグラウンド吸光に基づいて補正)を用いて、最長30分間に渡って色反応を測定する。ABTS反応溶液は、以下のように構成される:Mc-Ilvains緩衝液(0.1Mクエン酸、0.2M Na2HPO4、pH5.0)18 mlおよび1% ABTS(2,2 アジノ-ビス(3-エチル)ベンズチアゾリン 6-スルホン酸)(2,2 azino-bis(3-ethyl)benzthiazolin 6-sulfon acid))水溶液2mlおよびH2O2(1%溶液)100μl。
【0134】
本発明による様々なCBD構築物を用いたペルオキシダーゼ試験の結果を図17に示す。JS-CBDOpfおよびJS-CBDPitti20は、ブドウ球菌ファージの自己単離物に由来するCBD構築物である。JS-CBDUSAは、ファージΦSA2usaに由来する。構築物JS-CBDALE-1およびJS-CBDLS中のブドウ球菌溶解酵素ALE-1およびリソスタフィンのCBD部分は、細菌株スタフィロコッカス・キャピティスEPK1およびスタフィロコッカス・シミュランスにそれぞれ由来する。しかしながら、各遺伝子を合成によって調製し、タンパク質をよりうまく発現させるために大腸菌コドン使用に適合させた。
【0135】
図17Aに示すように、
は、様々な凝固酵素陽性の黄色ブドウ球菌株(MRSAおよび非MRSA)ならびに凝固酵素陰性の表皮ブドウ球菌およびS.ヘモリチカスに特異的に、かつ高い効率で結合する。両方のJSタグ構築物が、ほぼ同様の効率でブドウ球菌に結合する。
【0136】
図17Bは、本発明によるポリペプチド
が、ペルオキシダーゼ試験において、黄色ブドウ球菌株(MRSAおよび非MRSA)ならびにS.ヘモリチカス株などの様々なブドウ球菌株に特異的に結合するのに対し、グラム陰性大腸菌株だけでなくグラム陽性病原菌株ミュータンス菌も結合されないことを示す。特に重要視すべきは、ポリペプチド構築物JS-CBDPitti20による強力な細胞結合である。
【0137】
実験22:ペルオキシダーゼ試験の助けを借りた、腸球菌特異的なJSタグ-CBD構築物への細胞結合の検出
ペルオキシダーゼ試験の遂行を、実験21で説明したようにして実施した。本発明による様々なCBD構築物を用いたペルオキシダーゼ試験の結果を図18に示す。JS-CBDEF0355およびJS-CBDEF293は、本発明による2つのJSタグ-CBD構築物であり、CBDは、2つの推定上のプロファージエンドリシンに由来し、これらはそれぞれ、フェカリス菌V583株(アクセッション番号:NC_004668)の完全に公開されているゲノム中の座位タグEF_0355およびEF_1293において見出すことができる。しかしながら、各遺伝子を合成によって調製し、タンパク質をよりうまく発現させるために大腸菌コドン使用に適合させた。完全なエンドリシン配列から、EADの保存されたドメインが欠失されるようにCBDを獲得し、続いて、配列解析ソフトウェアを用いて、タンパク質内部の潜在的なドメインリンカーを探索した。JSタグとCBDの間の新しいリンカーとして、配列
を続いてそれぞれ導入した。10μg/mlのJSタグ-CBD構築物を試験においてそれぞれ使用した。これらの実験の結果を図18に示す。
【0138】
図18Aは、JSタグ-CBD構築物を添加しない対照が、有意に低い測定シグナルを生じることから、ペルオキシダーゼ試験で試験したフェカリス菌株すべてが特異的に結合されることを示す。両方の構築物JS-CBDEF0355およびJS-CBDEF1293が、大半の株に関して極めて類似した結果を生じる。
【0139】
図18Bは、試験したフェシウム菌株が特異的に結合されるが、それらが、若干低い吸収シグナルを部分的に生じることを示す。また、黄色ブドウ球菌株も、良い効率で結合されたたため、腸球菌種に対する結合はあまり特異的ではない。しかしながら、この挙動は、腸球菌のほかに、連鎖球菌およびブドウ球菌もまた結合されることを示したYoong et al. (J.Bact., 2004, 186, 4808-4812)の文献から既知であった。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンドリシンまたは別の細胞壁溶解酵素の酵素的に非活性な細胞壁結合ドメイン、およびSEQ ID NO: 1に記載の配列またはその誘導体を含むポリペプチドであって、細胞壁結合ドメインのほかに、エンドリシンまたは別の細胞壁溶解酵素の別のドメインを含まないポリペプチド、ならびにそれらの調製のための手段に関する。本発明はさらに、細菌、特にグラム陽性菌を結合、増菌、試料から分離、捕獲、および/または検出するための方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
グラム陽性菌は、自然環境で野生で分布している。これらは、土壌、水、植物材料、糞便のような試料中に存在し得るが、ヒトおよび動物中にも存在し得る。例えば、リステリア(listeria)、バチルス(bacillus)、クロストリジウム(clostridium)、ブドウ球菌(staphylococcus)、連鎖球菌(streptococcus)、腸球菌(enterococcus)、ミクロコッカス(micrococcus)、またはマイコバクテリア(mycobacteria)の種の病原微生物の系列全体が、食物分野、ならびにヒトおよび動物における感染症の予防、診断学、および療法に特に関連する。
【0003】
セレウス菌(Bacillus cereus)群の細菌は、経済的かつ医学的に目立って重要であり、バイオテロリズム分野に顕著な関連がある微生物である。これらの細菌は、群内で互いに密接に関連しており、それらの多くの量が配列決定されている(Rasko et al, FEMS Microbiol. Reviews, 2005, 29, 303-329(非特許文献1))。これらは自然界で野生で分布しており、主に植物起源の様々な種類の食物中に存在している。これらは好気性で活発な移動性の桿状グラム陽性菌である。抵抗性の内生胞子の寄与により、これらは、例えば乾燥または加熱のような、食物を保存処理するために使用される様々な方法に耐えて生き残ることができる。しばしば汚染される食物は、主に、デンプンを含む食物、穀類、コメ、香辛料、野菜、およびインスタント製品である。肉は、汚染された香辛料を用いることによって汚染される場合がある。胞子は低温殺菌に耐えて生き残り、続いて非制限的な増殖が起こり得るため、乳製品はしばしば汚染される。セレウス菌の群は、6つの密接に関連した種からなり、食物微生物セレウス菌のほかに、バイオテロリズム分野に大いに関連している極めて危険なヒト病原微生物炭疽菌(Bacillus anthracis)、昆虫病原菌バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)(B.チューリンゲンシス(thuringiensis)に基づいた微生物学的殺虫剤によって広範囲に分布する)、根様のバチルス・ミコイデス(Bacillus mycoides)、ならびにバチルス・シュードミコイデス(Bacillus pseudomycoides)およびバチルス・ウェイヘンステファネンシス(Bacillus weihenstephanensis)が含まれる。
【0004】
リステリアは、ヒトおよび動物の病原細菌であり、食物、特に魚、肉、および乳製品中にしばしば存在する。リステリア属は、6つの異なる種を含み、16種の異なる血清型を有する。食物関連の疾患のごく一部しかリステリアによって引き起こされないが(米国で約1%)、食物病原菌に起因する毎年の致死的疾患のほぼ30%は、この微生物が原因である。主に免疫が抑制された人々、例えば、高齢者、糖尿病患者、癌患者、および/またはエイズ患者が影響を受ける。妊婦およびその胎児は、リステリア症患者の全症例の25%に相当する。
【0005】
ブドウ球菌および腸球菌は、多耐性微生物(例えば、MRSA -多耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)およびVRE-バンコマイシン耐性腸球菌)を次第に発達させて、劇的な発達、すなわち、不良な疾患予後、ならびに主に定常的な健康管理における費用の急激な増加をもたらすため、現在、感染症に関連した最も問題のある病原菌である。
【0006】
潜在的な病原菌は、感染状態では食物領域にごく少数の細胞数でしばしば存在し、干渉的なバックグラウンドの細菌叢をさらに伴う。一方では、グラム陽性微生物を効率的に分離するための方法が必要とされており、その一方で、例えば、感度の高い検出を実現するために、これらの微生物を選択的に増菌するための方法が必要とされている。
【0007】
優れた検出方法の判定基準は、感度、迅速性、信頼性、ならびに単純かつ費用効率の高い適用である。
【0008】
まず、基本的には常に、検出すべき生物を富化する。一般に、これは、従来の方法によって多段階プロセスで実行される。第1の富化は、主に、非選択的または低選択的な液状栄養培地を用いて行う。続いて、選択的な第2の富化を行い、それに続いて、選択的寒天上でしばしば実施される第1の単離を行う。単一コロニーを継代培養で再び富化し、続いて、種々の検出方法を用いて検出する。これらの従来の方法では、微生物が陽性と検出されるまで非常に長い時間がかかる。リステリアの標準的な検出時間は、ISO 11290-1:1996/FDAM 1:2004(E)によれば4〜7日を超え、FDAおよびUSDA/FSISによれば4〜7日である。セレウス菌群の細菌の増菌は、標準的な方法(USFDA-方法、第14章; ISO_7932:2004)によれば1.5〜2.5日かかり、その後の検出に2日間、かつセレウス菌群内のより詳細な区別にさらに2〜3日かかる。
【0009】
食品産業において、検出時間は、いくつかの種類の食物の短い貯蔵寿命、および試料が汚染されていないことが確認されるまで必要である多くの費用を要する貯蔵を考慮すると、重要な分野である。さらに、汚染された商品が、管理(control)結果の受領に先んじてスケジュールより前に配達される場合、多くの費用を要する製品回収を常に目にすることになり得る。また、健康管理上、長い検出時間は問題がある。これは、病原微生物が同定されて初めて、安全な基本原理に基づいた適切な特定の治療方法も実施することができるためである。
【0010】
従来の増菌方法および検出方法と比べて速い代替手段として、抗体に基づいた方法がしばしば使用された(例えば、US 6,699,679(特許文献1)、US 2004/0197833(特許文献2)、UA 2006/0211061(特許文献3)、Fluit et al., 1993, Appl Environ Microbiol., 59, 1289-1293(非特許文献2)、Jung et al., 2003, J Food Prot., 66, 1283-1287(非特許文献3)、Hawkes et al., 2004, Biosens. Bioelectron., 19, 1021-1028(非特許文献4))。また、細菌表面の炭水化物部分に対する受容体として糖結合レクチンを応用することも検討された。しかしながら、これらは、大部分は非特異的すぎるため混合培養物から特定の細菌を選択することができず、しばしば、多量体結合特性に基づいて凝集における問題を示す。また、抗体に基づいた方法を用いた場合、細菌の回収率も比較的低く、この比率は5%〜25%の範囲であった。低い回収率に加えて、免疫磁気分離方法(IMS)のその他の不都合な点は、低汚染率での不十分な感度、他の細胞との交差反応、およびしばしば、抗体でコーティングしたビーズに伴う凝集における問題である。さらに、完全な細菌に対する抗体を得ることは比較的難しい。これらの方法は、純粋培養物の場合は非常に有望であるが、混合培養物または食物のような複雑なマトリックスの場合は、顕著な問題を示す。
【0011】
抗体の代替物として、グラム陽性菌結合のためにバクテリオファージペプチドグリカン加水分解酵素に由来する細胞壁結合ドメイン(CBD)を使用することが、最新技術において公知である(Loessner et al., 2002, Mol. Microbiol., 44, 335-349(非特許文献5))。EP 1147419(特許文献4)およびWO2004/088321(特許文献5)では、細胞の検出のためにCBDを使用し、その際、CBDは固相に結合され、一般にマーカーを有する。
【0012】
EP 1399551(特許文献6)では、バクテリオファージカプシドタンパク質またはバクテリオファージ尾部タンパク質を用いた、グラム陰性菌細胞または細胞断片の選択的精製のための方法を説明している。この場合、細菌は2段階方法で結合され、最初に、標的細胞への結合分子の結合が行われ、続いて、その複合体が固形担体に固定化される。固定化は、hisタグ、ビオチン、またはstrepタグの助けを借りて、バクテリオファージ尾部タンパク質を固形担体の官能化表面に結合させることによって行う。特にこの2段階方法の場合、特に標的細胞を固形担体と共に試料から分離する場合には、官能化担体への結合タンパク質-標的細胞複合体の効率的で迅速な非共有結合が、非常に重要な関連性を有する。
【0013】
US 5,252,466(特許文献7)では、インビボでのビオチン化用のタグを含み、したがって精製が容易である融合タンパク質を調製するための方法を開示している。この場合、ビオチン化ドメインは、例えば、プロピオニバクテリウム・シャーマニイ(Propionibacterium shermanii)のトランスカルボキシラーゼの1.3Sサブユニット、トマト-ビオチン-タンパク質、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)オキサル酢酸デカルボキシラーゼのα-サブユニット、または大腸菌(Escherichia coli)ビオチンカルボキシルキャリアータンパク質であり、プラスミドのビオチンリガーゼと共に同じリーディングフレーム中で発現され、したがって、インビボでビオチン化される。ファージディスプレイ系の助けを借りて、各融合タンパク質を精製および検出するのに適した、クレブシエラのオキサル酢酸デカルボキシラーゼのビオチン化ドメインのタンパク質分解に対してより安定な最小型が開発された(Stolz et al., 1998, FEBS-Lett. 440, 213-217(非特許文献6))。また、US 5,874,239(特許文献8)は、融合タンパク質のビオチン化のための方法を主張し、長さがアミノ酸13〜50個、好ましくはアミノ酸約20個であり、クレブシエラのオキサル酢酸デカルボキシラーゼのビオチン化ドメインより短い、いくつかのタグ、いわゆる「Aviタグ」を提案する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】US 6,699,679
【特許文献2】US 2004/0197833
【特許文献3】UA 2006/0211061
【特許文献4】EP 1147419
【特許文献5】WO2004/088321
【特許文献6】EP 1399551
【特許文献7】US 5,252,466
【特許文献8】US 5,874,239
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Rasko et al, FEMS Microbiol. Reviews, 2005, 29, 303-329
【非特許文献2】Fluit et al., 1993, Appl Environ Microbiol., 59, 1289-1293
【非特許文献3】Jung et al., 2003, J Food Prot., 66, 1283-1287
【非特許文献4】Hawkes et al., 2004, Biosens. Bioelectron., 19, 1021-1028
【非特許文献5】Loessner et al., 2002, Mol. Microbiol., 44, 335-349
【非特許文献6】Stolz et al., 1998, FEBS-Lett. 440, 213-217
【発明の概要】
【0016】
したがって、本発明の根底にある課題は、迅速、単純、かつ効率的にグラム陽性菌を結合、増菌、分離、捕獲、および検出するための、より効率的で生産力の高い方法および該方法を実施するための手段を提供することである。
【0017】
この課題は、特許請求の範囲に定義する主題によって解決される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
以下の図面は本発明を例示する。
【0019】
【図1】JSタグを有するバクテリオファージ尾部タンパク質。図1A:様々なタグを有するP22様ファージ尾部タンパク質の発現および機能的アセンブリの比較。サルモネラ(Salmonella)由来のP22様ファージ尾部タンパク質のN末端にStrepタグ、Aviタグ、およびJSタグをクローニングし、大腸菌(E. coli) HMS174(DE3)および大腸菌JM83においてそれぞれ発現させた。試料を12%SDSゲルに載せ、クーマシーで染色した。この実験は、実験1で説明する。M:マーカー、P:沈殿物、S:上清、+:誘導有り、-:誘導無し、nb:煮沸無し。矢印は、ファージ尾部タンパク質の単量体および三量体の位置をそれぞれ示す。図1B:JSタグを用いた、サルモネラファージ由来の3種のバクテリオファージ尾部タンパク質のクローニングおよび発現。サルモネラファージ由来の3種の異なるバクテリオファージ尾部タンパク質(Tsp)をJSタグとの融合タンパク質としてクローニングし、大腸菌HMS174(DE3)中で発現させた。細胞溶解物から得た試料を12%SDSゲルに載せ、クーマシーで染色した。レーン1:マーカー(分子量は上から118kDa、85kDa、47kDa、36kDa、26kDa、20kDa)、レーン2:沈殿物(P)、誘導無し、レーン3:上清(S)、誘導無し、レーン4〜12(すべて誘導後)、レーン4:Felix様尾部タンパク質(Felix-Tsp、48kDa)、P、レーン5:Felix-Tsp、S、煮沸、レーン6:Felix-Tsp、煮沸無し、レーン7:P22様尾部タンパク質(P22-Tsp、67kDa)、P、レーン8:P22-Tsp、S、煮沸、レーン9:P22-Tsp、S、煮沸無し、レーン10:ε15様尾部タンパク質(ε15-Tsp、93kDa)、P、レーン11:ε15-Tsp、S、煮沸、レーン12:ε15-Tsp、S、煮沸無し。矢印は、(煮沸無し試料中の)ファージ尾部タンパク質単量体およびSDS耐性三量体の予想される位置を示す。図1C:それぞれAviタグおよびJSタグを用いた、カンピロバクター(campylobacter)ファージ由来尾部タンパク質の比較的なクローニングおよび発現。カンピロバクターファージ尾部タンパク質(カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)の推定上の尾繊維タンパク質H、アクセッション番号ZP01067412)を、それぞれN末端AviタグおよびJSタグ(変異体5b)と共に、プラスミドpET21dにクローニングし、大腸菌HMS174(DE3)および大腸菌BL21(DE3)においてそれぞれ発現させた。この実験は、実験1で説明する。発現および溶解性の試験から得た、様々な試料の9%クーマシーで染色したSDSゲルを示す。P:沈殿物、S:上清、(i):誘導有り、-:煮沸無し、M:マーカー。矢印は、誘導後のファージ尾部タンパク質の(煮沸無しの試料中の)単量体および三量体の位置をそれぞれ示す。
【図2】リステリアCBDは、化学的ビオチン化後に完全に不活性になる。導入されたリステリアのどの部分が、化学的ビオチン化後に結合アッセイ法において引き続き結合されるかを示す。0.5μg/ml、1μg/ml、2μg/ml、および5μg/mlのタンパク質濃度を試験で使用した。NHS-ビオチンとのインキュベーションは、0分、20分、60分、および120分間実施した。Avi-CBDは対照としての機能を果たした。
【図3】1段階方法および2段階方法の比較。図3Aは、1段階方法および2段階方法ならびにISO方法による、カマンベールからのリステリア検出の比較を示す。これらの異なる方法を用いて、非常に低濃度のどのL.モノサイトゲネス(monocytogenes)がカマンベール中で検出され得るかに基づいて、時間依存性を比較的に解析する。5つの一定分量のカマンベール(各25g)を0CFU、2CFU、4CFU、15CFU、および46CFU(colony forming unit)で汚染し、4時間後、6時間後、および24時間後に1段階方法、2段階方法、またはISO(ISO: 11290-1:1996 FDAM1)方法によって濃度を試験した。1段階方法および2段階方法の場合、Strepタグ-GFP-CBD511_f2を特異的リガンドとして使用した。それぞれ4回の実験から値を決定する。(0:プレート上にコロニー無し、X:コロニーが10個未満、XX:コロニーが10〜30個、XXX:コロニーが30個を上回る)。図3Bは、融合タンパク質JS-GFP-CBD511_f2を用いた、モツァレラ中のL.モノサイトゲネス(EGDe株:黒色の棒、およびScottA:網掛けの棒)の検出の1段階方法および2段階方法の濃度依存性を示す。この実験の遂行は、実験3bで説明する。各例において、モツァレラ試料1mlに由来する各株の導入されたリステリア細胞全体の何パーセントが分離されたかを示す。それぞれ2回の実験から値を決定した。
【図4】Aviタグと比較したJSタグ。図4A:JSタグ構築物およびAviタグ構築物の細胞結合能力の比較。様々な構築物の細胞結合能力を、2段階方法に従い、リステリア株ScottAを用いて試験した。次の構築物を使用した:JS-GFP_CBD511_f3(丸)、JS-CBD511_f3(四角)、およびAvi-GFP_CBD511_f3(三角形)。磁性ビーズに結合されたリステリアの比率を、導入した細胞に対するパーセントで与える。実験はすべて2回実施し、平均値を決定した。図4B:Avi-GFP-CBD511_f2およびJS-CBD511_f2の比較的精製。左の写真は、Avi-GFP-CBD511_f2の精製のクーマシー染色ゲルを示し、右は、JS-CBD511_f2の精製の最終産物を示す。この実験は、実験4bで説明する。M:マーカー、L:カラムに添加、F:通過、W:洗浄画分、3〜8:Avi-GFP-CBD511_f2を含む画分。10μg/ml、1μg/ml、0.1μg/ml:添加したJS-CBD511_f2タンパク質濃度。Avi-GFP-CBD511_f2およびJS-CBD511_f2ならびにBirAのバンドの位置を示す。図4C:リステリアの結合の濃度依存性。特異的結合タンパク質のどの濃度において最大の細胞結合が実現されるかを解析した。結合タンパク質として、濃度0μg/ml、0.02μg/ml、0.1μg/ml、0.5μg/ml、1μg/ml、2μg/ml、および3μg/mlのJS-CBD511_f3を導入した。この実験は、実験4bで説明する。
【図5】BirAの共発現がJSタグ-CBDの結合効率に与える影響。特異的結合タンパク質JS5b-CBD511_f2の導入量に依存する、結合される細菌細胞(リステリアScottA)の比率を例示する。一部のタンパク質に関しては、付加的なプラスミド中でBirAを共発現させ(三角)、他の一部に関しては、BirAとの共発現は行わなかった(菱形)。さらに、2つの実験においてビオチンを付加的に添加したが(塗りつぶした記号)、2つの実験ではこれを実施しないままであった(白抜きの記号)。
【図6】ストレプトアビジンビーズへのJSタグ-CBDの特異的結合とニッケル-NTA-ビーズへのhisタグ-CBDの結合との比較。2段階方法を用い、ニッケル-NTA-磁性ビーズに対するhexa-hisタグまたはストレプトアビジン磁性ビーズに対するJSタグのいずれかを介して、セレウス菌細菌を2つの異なるCBD(CBDBaおよびCBD21)と結合させた。特異的に結合された細菌の比率を、導入された細菌全体(濃度3×103 CFU/ml)と比較して示す。
【図7】様々な培地におけるstrepタグ-CBDおよびJSタグ-CBDそれぞれとの細菌結合。本発明による方法を用いて、様々な培地およびPBST緩衝液から、それぞれリステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)EGDe細胞を濃縮した。この実験は、実験8で説明する。図7A:Avi-CBD511_f2(5μg/ml)を用いてリステリアを濃縮した。図7B:JS-CBD511_f2(5μg/ml)を用いてリステリアを濃縮した。
【図8】ビオチンを含む試料における細菌結合。構築物strepタグ-CBDBaおよびJSタグ-CBDBaを用いたセレウス菌の特異的濃縮を、ビオチン濃度0.01μM、0.1μM、および1μMで比較して解析した。
【図9】様々な条件下でのJSタグ-CBDの長期に渡る安定性。JS-CBD511_f3ならびにストレプトアビジン磁性ビーズを、-20℃〜37℃の温度範囲でインキュベートし、続いて、リステリア・モノサイトゲネスScottAを用いた細胞結合試験に導入した。図9A:リン酸ナトリウム、pH7、2mM EDTA中でのインキュベーション。1日後(黒塗りの(full)丸)、14日後(白抜きの長方形)、60日後(黒塗りの三角形)および126日後(十字形)に、所与のJS-CBD511_f3濃度で結合されたリステリアの比率を与える。図9B:イミダゾール、100mM NaCl、pH7、+30%AS中でのインキュベーション。0日後(丸)、33日後(長方形)、および74日後(三角形)に、指定のJS-CBD511_f3濃度で結合されたリステリアの比率を与える。
【図10】様々な食物からのJS-CBD511構築物を用いたリステリア捕獲。図10A:牛乳およびチーズからのリステリア・モノサイトゲネスScottAの濃度依存性分離。様々な濃度のJS4b-CBD511_f2を結合のために使用した。導入された細菌の何パーセントが各タンパク質濃度で磁性ビーズに結合されたかを示す。図10B:サラミおよびスモークサーモンからのリステリア・イノキュア(Listeria innocua)の分離。
【図11】食物からのリステリア濃縮およびそれに続くNASBA技術による検出。少量のリステリア・モノサイトゲネスScottA(5CFU/25g)で汚染し、LEB-FDA培地中でそれぞれ17時間および20時間プレインキュベーションした後のサラミから、JS5b-CBD511_f2を用いてリステリアを濃縮した。図11Aでは、リステリア特異的プライマーとの酵素反応後に出現する蛍光シグナルを示す。図11Bは、試料に由来する導入された細菌の何パーセントがJS5b-CBD511_f2と結合し得るかを示す。
【図12】細菌混合物からのセレウス菌の特異的結合。特異的JSタグ-CBDBaを用いて、細菌混合物(セレウス菌(DSMZ345)、サルモネラ・テネシー(Salmonella tennessee)、リステリア・モノサイトゲネス(ScottA)、黄色ブドウ球菌、大腸菌HMS174(DE3))からセレウス菌を濃縮する。結合されたセレウス菌細胞の数を、それぞれ、磁性ビーズに結合されるか(黒い棒)、または上清および洗浄画分(網掛けの棒)中の分離された細胞全体と比較したパーセントで与える。一方では、混合培養物由来の他の細胞も維持するために完全培地(CASO、Merck)上にこれらの細胞をプレーティングし、他方では、セレウス菌用の選択プレート(PEMBA)上に細胞をプレーティングした。対照として、磁性ビーズは添加するが結合タンパク質は添加しない実験を実施した。
【図13】食物からのセレウス菌の濃縮。セレウス菌群に由来する病原微生物の出現は、特にインスタント製品または温め直されたコメのような調理済みで炭水化物を多く含む食物に関する問題である。そのため、調理を終えるのに電子レンジで2分間の加熱しか必要としない調理済みのコメを、食物試料として使用した。食物試料を培地で希釈し、ホモジナイズし、セレウス菌細胞を濃度102CFU/ml、103CFU/ml、または104CFU/mlで添加した。TSPB培地を対照として使用した。図13Aは、結合された細胞の数を、ビーズ画分(黒い棒)および上清(網掛けの棒)中の回収された細胞に対するパーセントで示す。図13Bは、結合された細胞を含むビーズ画分がプレーティングされたPEMBAプレートを例示的に示す。セレウス菌コロニーは、それらの花形で広がる増殖によって認識することができる。比較して、図13Cは、細胞を含む上清画分がプレーティングされたPEMBAプレートを示す。
【図14】CBD21および磁性ビーズの助けを借りた、血液からのセレウス菌の濃縮。ヒト血液にセレウス菌(DSMZ345)を濃度103CFU/mlで添加した。クエン酸、EDTA、またはヘパリンを血液試料に前もって添加して、血液凝固を阻害し、PBST緩衝液で1:1希釈した。JSタグ-CBD21(10μg/ml)(黒色の棒)、タンパク質無しの対照(網掛けの棒)。
【図15】JSタグ-CBD3626を用いた、ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)の特異的結合。スペーサーGFPの緑色蛍光を本明細書においてマーカーとして使用して、クロストリジウム細菌および磁性ビーズに対するJSタグ-GFP-CBD3626の結合をそれぞれ可視化した。図15Aは、ウェルシュ菌細胞へのJSタグ-GFP-CBD3626の結合を例示的に示す。15Bは、磁性粒子へのJSタグ-GFP-CBD3626の結合を例示的に示す。
【図16】細胞結合試験において測定した、本発明によるJSタグ-CBD構築物による様々なブドウ球菌株の特異的細胞結合。本発明によるJSタグ-CBD構築物であるJS-CBDPitti20(灰色の棒)、JS-CBDOpf(白色の棒)およびJS-CBDUSA(黒色の棒)を使用した。導入された細胞の何パーセントが細胞結合試験において特異的に結合されたかを示す。実験20において、この実験の遂行を説明する。与えられた番号は、PROFOS株コレクションに由来する番号である。ブドウ球菌株は、それぞれ、患者からの単離物、ならびにDSMZ株およびATCC株である。図16A:MRSA株および非MRSA株に分けて示した、様々な黄色ブドウ球菌株への細胞結合。図16B:黄色ブドウ球菌ではない様々なブドウ球菌細菌への細胞結合。株:C=スタフィロコッカス・カルノーサス(Staphylococcus carnosus)、D=表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)、E=スタフィロコッカス・エクオルム(Staphylococcus equorum)、F=スタフィロコッカス・ヘモリチカス(Staphylococcus haemolyticus)、G=腐性ブドウ球菌(Staphylococcus saprophyticus)、H=スタフィロコッカス・シウリ(Staphylococcus sciuri)、I=スタフィロコッカス・シミュランス(Staphylococcus simulans)、J=スタフィロコッカス・ワーネリ(Staphylococcus warneri)、K=スタフィロコッカス・キシローサス(Staphylococcus xylosus)。
【図17】ペルオキシダーゼ試験における、本発明によるJSタグ-CBD構築物による様々なブドウ球菌株の特異的細胞結合。ペルオキシダーゼ試験の遂行および原理は、実験21で説明する。図17Aは、2つの異なるブドウ球菌株に対するJSタグ構築物JS-CBDALE-1(網掛けの棒)およびJS-CBDLS(リソスタフィン)(白色の棒)の特異的結合を示す。タンパク質を添加しない緩衝液対照のバックグラウンド吸光度(黒色の棒)もまた示す。次のブドウ球菌株を試験で使用した:S459-黄色ブドウ球菌(S.aureus)(患者試料)、S1546-表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)(DSMZ20044)、S1548-S.ヘモリチカス(S.haemolyticus)(DSMZ20228)、S464-黄色ブドウ球菌(患者試料)、S1501-黄色ブドウ球菌MRSA(患者試料)、S1502-黄色ブドウ球菌MRSA(患者試料)、S27-S.ヘモリチカス。図17Bは、一連のブドウ球菌種ならびに非特異的対照としての大腸菌株に対する、別のブドウ球菌特異的JSタグ構築物の特異的結合を示す。緩衝液対照(黒色の棒)、JS-CBDALE-1(網掛け)、JS-CBDLS(白色)、JS-CBDPitti20(横線)、JS-CBDOpf(灰色)、JS-CBDUSA(縦線)。次の細菌株を試験に導入した:S683-大腸菌(ECOR01)、S1603-ミュータンス菌(Streptococcus mutans)(DSMZ 20523)、S464-黄色ブドウ球菌(患者単離物)、S1513-黄色ブドウ球菌(患者単離物)、S1502-黄色ブドウ球菌MRSA(患者試料)、S1501-黄色ブドウ球菌MRSA(患者試料)、S27-S.ヘモリチカス。
【図18】ペルオキシダーゼ試験における、腸球菌エンドリシン由来の本発明によるポリペプチド構築物による特異的細胞結合。この試験の遂行は、実験22で説明する。本発明による2つのJSタグ-CBD構築物を導入した:JS-CBDEF0355(灰色の棒)およびJS-CBDEF1293(白色の棒)。タンパク質を添加しない緩衝液対照(黒色の棒)もまた示す。与えられた番号は、PROFOS株コレクション由来の株番号である。患者単離物ならびに腸球菌種およびブドウ球菌種のDSMZ株およびATCC株を問題として扱う。図18Aは、様々なフェカリス菌(Enterococcus faecalis)株に対する特異的結合を示す。図18Bは、様々なフェシウム菌(Enterococcus faecium)株ならびに黄色ブドウ球菌株に対する特異的結合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明を以下に説明する。
【0021】
本明細書において使用される「細菌分離」という用語は、試料材料からの細菌の完全または部分的な分離を意味する。
【0022】
本明細書において使用される「細菌の増菌」という用語は、試料中に存在する初期濃度に基づいた細菌の濃縮を意味する。増菌は、一般に、各検出段階が明らかに陽性の結論または明らかに陰性の結論を与えるように実施しなければならない。
【0023】
細菌の「捕獲」という用語は、試料に由来する細菌に「CBD」が特異的に結合する能力の助けを借りて、試料から細菌を抽出および結合する手順を意味する。
【0024】
本明細書において使用される「試料材料」または「試料」という用語は、細菌がその中で検出されるべき溶液または細菌がそれから分離されるべき溶液すべてを含む。適切な試料の例は、次のとおりである:水溶液ならびに水および有機溶媒の混合物、食物、培地、血液、血液製剤、血漿、血清、尿、他の体液、診断用試料、タンパク質溶液、水エタノール混合物、医療器具の汚染を解析するため、または食品加工における洗浄溶液のような処理溶液。さらに、解析または単離されるべき非水性固形物質、例えば、タンパク質、DNA、RNA、糖、塩類、食物、食物-培地ホモジネート、医薬、ワクチン、環境試料、大便、有機化学物質および無機化学物質、例えば、NaCl、MgCl2、プリン、ピリミジンが溶解された溶液もまた、含まれる。
【0025】
本明細書において使用される「エンドリシン」という用語は、本来の機能として、各ファージ増殖サイクルの最後に新しいファージを放出するために働く酵素を意味する。このようなエンドリシンは、例えば、天然にはファージゲノムにコードされてよい。これらのエンドリシンは、少なくとも1つの各酵素活性ドメインおよび各宿主細胞の細胞壁に結合する酵素非活性ドメインからなる。さらに、エンドリシンは、同様な構成を有する自己溶菌酵素も含むと理解されなければならない。これらは、天然には細菌にコードされており、同様に、少なくとも1つの酵素的に活性な細胞壁加水分解ドメインおよび標的細菌の細胞壁に結合する酵素非活性ドメインからなる。ファージにコードされたエンドリシンおよび細菌にコードされた自己溶菌酵素は、しばしば互いに相同であり(Garcia et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85, 914-918)、これらのモジュール(module)は交換可能であり、さらには細菌にコードされた配列およびファージにコードされた配列に由来するキメラ中で互いに組み合わされてもよい(Diaz et al.,1990, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87巻, 8125-8129)。したがって、ファージエンドリシン由来の細胞壁結合ドメインのほかに、他の細胞壁溶解酵素、例えば、自己溶菌酵素、バクテリオシン、またはファージ尾部タンパク質に由来する各非酵素活性細胞壁結合ドメインもまた、本発明によって使用することができる。
【0026】
本明細書において使用される「CBD」という用語は、それぞれ、エンドリシンまたは他の細胞壁溶解酵素に由来し、かつ細菌細胞壁へのエンドリシンまたは他の細胞壁溶解酵素の特異的結合に関与している、ポリペプチドドメインおよびポリペプチド配列を意味する。これらは酵素的に非活性である。
【0027】
本明細書において使用される「本発明によるポリペプチド」という用語は、エンドリシンまたは別の細胞壁溶解酵素の酵素的に非活性な細胞壁結合ドメイン(CBD)、およびSEQ ID NO: 1に記載の配列またはその誘導体を含むポリペプチドであって、細胞壁結合ドメインのほかに、エンドリシンまたは別の細胞壁溶解酵素の別のドメインを含まない、特にエンドリシンの完全な酵素活性ドメイン(EAD)を含まない、ポリペプチドを意味する。
【0028】
本明細書において使用される「JSタグ」という用語は、SEQ ID NO: 1に記載の配列またはその誘導体を含むポリペプチド配列を意味する。JSタグは、肺炎桿菌オキサル酢酸デカルボキシラーゼのαサブユニットのビオチンアクセプタードメインに由来し、コンセンサス配列MKM(Kがビオチン化される)を含み、その結果、ポリペプチドは、タンパク質ビオチンリガーゼによってインビボでビオチン化され得る。肺炎桿菌オキサル酢酸デカルボキシラーゼの完全なαサブユニットと比べて、JSタグは切り詰められている。JSタグの1つの考え得る最小限の配列は、肺炎桿菌オキサル酢酸デカルボキシラーゼのアミノ酸529〜594に対応する66個のアミノ酸を含む(SEQ ID NO: 2)。「JSタグ」という用語はまた、SEQ ID NO: 1に記載の配列の誘導体も含む。本明細書において使用される誘導体には、SEQ ID NO: 1に依然として少なくとも80%相同であるこのような配列が含まれる。このような誘導体の例は、SEQ ID NO: 2〜18に示す。
【0029】
本明細書において使用される「指向的(directed)固定化」という用語は、CBDが、例えば、ストレプトアビジンもしくはアビジンと共に供給される磁性粒子または他の担体を用いて、特異的結合物質としてのビオチンを介して適切な表面に固定化されることを意味する。
【0030】
本明細書において使用される「表面」または「担体」という用語は、CBD分子および本発明によるポリペプチドの結合または付着がそれぞれ直接的または間接的に可能である材料すべて、例えば、ガラス表面、クロマトグラフィー材料(アガロース、セファロース、アクリラートなど)、プラスチック表面(ポリスチレン、ポリエチレン、ポリカルボナート、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリメチルメタクリラートなど)、フィルター材料またはフィルターメンブレン(セルロース、酢酸セルロース、ニトロセルロース、PVDFなど)、ガラス、ラテックス、プラスチック、金属、金属酸化物製の磁性粒子または非磁性粒子を含む。
【0031】
本明細書において使用される「1段階方法」という用語は、特異的結合タンパク質、例えば、本発明によるポリペプチドを、指向的または非指向的に適切な担体または表面に先に固定化した後に、試料を添加する方法を意味する。固定化した結合タンパク質を試料と共にインキュベーションした後、細菌-結合タンパク質-担体複合体を試料から分離し、次いで任意で洗浄する。
【0032】
本明細書において使用される「2段階方法」という用語は、固定化していない特異的結合タンパク質、例えば、本発明によるポリペプチドを試料と接触させ、インキュベートする方法を意味する。続いて、形成された細菌-結合タンパク質複合体を適切な担体または表面と接触させ、その結果、細菌-結合タンパク質複合体を、ビオチン化アフィニティータグの助けを借りて、結合タンパク質を介して担体または表面に結合させる。続いて、細菌-結合タンパク質-担体複合体を試料から分離し、任意で洗浄する。結合タンパク質は、ポリペプチドまたは化学基のそれぞれの結合相手と共に供給される担体または表面に特異的に結合するように、ポリペプチドまたは化学基で修飾される。
【0033】
本明細書において使用される「ポリペプチド」という用語は、少なくとも5個のアミノ酸からなるポリペプチド鎖を意味する。
【0034】
本明細書において使用される「細菌-ポリペプチド複合体」または「ポリペプチド-細菌複合体」という用語は、細菌および本発明によるポリペプチド(複数の本発明によるポリペプチド)が存在する複合体を意味する。
【0035】
本明細書において使用される「担体-ポリペプチド-細菌複合体」という用語は、細菌、本発明によるポリペプチド(複数の本発明によるポリペプチド)、ならびに担体(担体材料)が存在する複合体を意味する。
【0036】
本発明は、
(i)エンドリシンまたは別の細胞壁溶解酵素の酵素非活性な細胞壁結合ドメイン(CBD)、および
(ii)SEQ ID NO: 1に記載の配列またはその誘導体
を含むポリペプチドであって、
細胞壁結合ドメインのほかに、エンドリシンまたは細胞壁溶解酵素の別のドメインを含まないポリペプチドに関する。
【0037】
本発明は、特に、ビオチン化された本発明によるポリペプチドに関する。特定の態様において、本発明によるポリペプチド内部のエンドリシンまたは別の細胞壁溶解酵素の細胞壁結合ドメイン(CBD)は、グラム陽性菌に特異的に結合する能力を示す。本発明によるポリペプチドは、細菌を結合、増菌、試料から分離、捕獲、および/または検出するのに適している。
【0038】
したがって、本発明は、細菌を結合、増菌、試料から分離、捕獲、および/または検出するための本発明によるポリペプチドの使用に関する。
【0039】
したがって、本発明はさらに、以下の段階を含む、試料から細菌を結合、増菌、分離、捕獲、および/または検出するための方法に関する:
(a)試料を、ビオチン化した本発明によるポリペプチドと接触させる、および/またはインキュベートする段階、
(b)段階(a)で得られたポリペプチド-細菌複合体を、ビオチン結合物質と共に供給される担体と接触させる、および/またはインキュベートする段階、
(c)段階(b)で得られた担体-ポリペプチド-細菌複合体を前記試料から分離する段階、
(d)任意で、前記担体-ポリペプチド-細菌複合体から、非特異的に付着した試料成分を洗浄する段階、
(e)任意で、前記ポリペプチド-細菌複合体から前記担体を分離する段階、および
(f)任意で、前記細菌を検出する段階。
【0040】
本発明による方法において、本発明による各ポリペプチドとの試料のインキュベーション(段階a)および担体材料との細菌-ポリペプチド複合体のインキュベーション(段階b)の継続期間はそれぞれ、各試料に対して調整されなければならず、ある態様では数秒〜約24時間の間で変動してよい。官能化した、すなわちビオチン化した本発明によるポリペプチドが細菌に結合する、本発明による方法の段階(a)は、一般に、ビオチン化したポリペプチド-細菌複合体がビオチン結合担体上で固定化される段階(b)より速い。本発明による方法の段階(a)のために適したインキュベーション時間は、特に、約0.1分〜約10分であり、段階(b)の場合は、特に約10分〜約60分、または必要な場合には、同様に一晩である。本発明による方法の段階(a)では、一般に、添加した本発明によるポリペプチドおよび試料を完全に混合することで十分であるが、担体材料とのインキュベーション(段階(b))の間、例えば、担体材料の添加後、試料容器を横にして回転させて、担体への出来るだけ効率的な結合を実現することが必要な場合がある。
【0041】
出発材料中の細菌濃度が非常に低い場合、効率的な増菌を実現し、それにより、本発明による方法に適した試料を得るためには、適切な栄養培地中でのプレインキュベーション段階がおそらく必要である。食物試料のような固形成分を含む試料は、ホモジナイズした後、本発明による方法において使用することができ、かつ、適切な溶液中に溶解した後、本発明による方法において使用される。
【0042】
本発明による方法において、ビオチン結合物質と共に提供される担体が使用される。すなわち、担体は官能化された。ビオチン結合物質は、高い親和力でビオチンに結合できなくてはならない。担体表面の特に適切な結合相手、すなわちビオチン結合物質は、例えば、ストレプトアビジン、アビジン、およびそれらのビオチン結合変異体、例えば、単量体アビジン、そのアミノ基が部分的にアセチル化されたアビジンまたはそのカルボキシル基が部分的にエステル化されたアビジンである。親水性表面は、一般に、タンパク質を結合するのにより適切であり、かつ凝集する傾向がより低いため、疎水性表面と比べて好ましい。
【0043】
細菌は、試料の他の部分から細菌を分離することによって増菌される。細菌は、クロマトグラフィー法により、またはバッチ法において、例えば磁性に基づいて、説明した方法で増菌され得る。磁性増菌が好ましく、これは、この方法が他の方法と比べて非常に迅速であり、小型化でき、また、自動化もできるためである。しかし、クロマトグラフィー法またはバッチ法もまた、特に、この方法が、その後の細菌検出のために主として使用されるのではなく、例えば、より多量の細菌の単離を目標とし、これらの単離した細菌を用いて作業を継続することを目標としている場合には、使用され得る。
【0044】
磁性に基づいた増菌の実施中、ポリペプチド-細菌複合体は、本発明による方法の段階(b)における担体としての適切な磁性粒子と共にインキュベートされる。特定の態様において、磁性粒子は、約0.1μm〜約100μmの範囲の直径を示してよい。しかしながら、直径が約0.5μm〜約5μmの間であるより小型の粒子が好ましく、直径が約0.8μm〜約2μmである粒子が特に好ましい。これは、より小型の粒子の方が沈降する程度が低く、したがって、より優れた混合物を提供し、かつ大型粒子と比べて比較的大きな表面を提示し、高い回収率を示すためである。適切な磁性粒子の例は、MagPrep-ストレプトアビジン粒子(Merck)、ストレプトアビジン-磁性粒子(Roche)、ストレプトアビジン-ビーズ(Dynal)、ストレプトアビジンを結合させたシリカビーズ(MicroCoat)、ストレプトアビジンを結合させたポリビニルアルコール-ビーズ(PA-ストレプトアビジンビーズ、Microcoat)である。本発明による方法の段階b)の後に、磁界を印加することによって、担体-ポリペプチド-細菌複合体を試料から分離する。適切な磁選機が、例えば、Ambion社、Ademtech社、Bilatec社、BioLabs社、Dynal社、Polysciences社、およびPromega社から入手可能である。
【0045】
バッチ法の助けを借りた増菌の間、細菌を含む試料は、本発明によるポリペプチドと最初にインキュベートされ、続いて、高親和性ビオチンに結合するのに適した担体材料が添加され、混合され、再び一緒にインキュベートされる。続いて、担体-ポリペプチド-細菌複合体を試料から遠心分離するか、沈降させるか、またはろ過することができる。特に細菌濃度が非常に低い場合は、バッチ法による濃縮が好ましい。
【0046】
あるいは、ポリペプチド-細菌複合体は、試料から分離し、かつ、ビオチン結合カラム材料を含むクロマトグラフィーカラムにそれらを適用することによって富化することもできる。
【0047】
ポリペプチド-細菌複合体は、それぞれ、例えば、適切な量のビオチンを添加することによる置換により、または、約8Mの塩化グアニジウムもしくはpH約1.5などタンパク質を著しく変性させる条件を調整することにより、およびペプチドからビオチンを切断するビオチニダーゼを添加することにより、官能化した担体から分離することができる。また、本発明によるポリペプチドが細菌表面の受容体にもはや結合しない条件を選択することによって、ビオチン化した本発明によるポリペプチドから細菌のみを分離することも可能である。様々な本発明によるポリペプチドが本発明のために使用されるため、したがって、厳密な条件は個々の場合において試験されなければならない。これは、例えば、蛍光を発するマーカーを導入し、先に結合していた細菌が依然として蛍光を発するか(それらの表面が本発明によるポリペプチドで覆われるため)を蛍光顕微鏡下でモニタリングすることによって実施することができる。しかしながら、一般に、非常に高いイオン強度もしくは非常に低いイオン強度へのイオン強度変化、強酸もしくは強塩基へのpH変化、例えば、50mMリン酸ナトリウムおよびpH11で5分間、界面活性剤または化学変性剤、例えば、尿素もしくは塩化グアニジウムの添加、または言及した実行可能な手段の組合せが、CBDと細菌の結合を妨げるのに適しており、これは、この結合が特異的なタンパク質-タンパク質相互作用であるためである。しかしながら、多くの用途、例えば、結合した細菌に由来するコロニーのその後のプレーティングおよび計数のために、細菌から磁性粒子を分離することは全く必要ではない。
【0048】
本発明はさらに、試料中の細菌を検出するための方法に関する。細菌の検出は、前述した方法の増菌のための段階に続いて、さらなる段階を含む。検出すべき細菌の種類に応じて、望まれる結果をもたらす技術一式は当業者には公知である。適切な検出方法の選択は、後述する。例えば、細菌は、担体およびビオチン化した本発明によるポリペプチドと一緒になった複合体中で、または選択的増殖条件、例えば、選択培地プレートにおけるプレーティングおよびインキュベートによって担体材料から遊離させた後に、検出することができる。さらに、細菌の検出は、核酸に基づいた方法、すなわち、細菌の核酸の検出、例えば、PCR、RT-PCR、PCR-RFLP、rep-PCR-フィンガープリント法、NASBA、例えば、特定の毒素または他の病原性因子に関するDNAハイブリダイゼーション法、多座配列分類(MLST)、rRNA比較によって可能である。それぞれ、例えば、エンドリシンの細胞結合ドメインもしくは抗体を用いるか、またはFTIRを用いた、細菌細胞壁およびそれらの成分の検出、ならびに、細菌成分の検出、それぞれ、例えば、ELISAによるタンパク質の検出または活性もしくは多座酵素電気泳動(MEE)を用いた酵素の検出もさらに可能である。また、細菌検出は、例えば、細菌に特異的なバクテリオファージ、例えば、リステリアの場合はA511-luxAを用いた検出による生物発光アッセイ法において、細菌中に含まれるATPを用いても可能である(US 5,824,468を参照されたい)。さらに、細菌は、担体-ポリペプチド-細菌複合体中で、またはマーカーと結合させた別の特異的CBDを用いて担体材料から分離した後に検出することもできる。したがって、一組の例が、EP1147419に示されている。微生物学的検出方法、形態学的検出方法、および/または生化学的検出方法の組合せである従来の検出もまた、可能である。
【0049】
細菌成分、例えば、タンパク質の検出は、好ましくは、ELISAまたは同様の技術(例えばVIDAS)によって実施される。これらの方法を実施するためには、実際の検出の前に細菌を破壊することが必要である。これは、例えば、リゾチームのような溶解タンパク質または細菌特異的エンドリシンを用いて実施することができる。溶解タンパク質は、例えば、以下の群から選択することができる(括弧中の参照番号は、NCBIデータベース用のアクセッション番号(数字と文字の組合せ)または刊行物出典のいずれかである):
-リステリアに対する、Ply511(Q38653)、Ply500(Q37979)、Ply118(Q37976)、PlyPSA(1XOV_A)、EGDe株の自己溶菌酵素(NP_466213)、
-炭疽菌に対する、PlyL(1YB0_A、B、およびC)、PlyG(YP_891193)、PlyPH(Yoong et al., J.Bac. 2006, 188, 2711-2714)、PlyB(2NW0_AおよびB)、
-セレウス菌に対する、PlyBa(CAA72266)、Ply21(CAA72267)、Ply12(CAA72264)、
-ウェルシュ菌に対する、Ply3626(WO 03/066845)およびウェルシュ菌(Cl. perfringens)株13由来のリシン(lysine)(BAB81921)および株SM101由来のリシン(YP_699489)、
-クロストリジウム・チロブチリカム(Clostridium tyrobutyricum)に対する、ΦP1リシン(EP1300082)、
-腸球菌に対するPlyV12(NP_049942)、
-連鎖球菌に対する、PlyC(NP_852017)、PlyGBS(AAR99416)、Cpl-1(P15057)、Cpl-7(P19385)、Cpl-9(P19386)、ファージDp1由来のPalアミダーゼ(P19386)、B30エンドリシン(AAN28166)およびLytA(CAJ34420)、
-ブドウ球菌に対する、Twortアミダーゼ(CAA69021)、ブドウ球菌ファージP68アミダーゼ(NP_817332)、LysK (O`Flaherty et al., J. Bac.,2005, 187,7161-7164)、ΦSA2usaリシン(YP_494080)、Phi11アミダーゼ(NP_803306)および細胞壁加水分解酵素(NP_803302)またはPhi12エンドリシン(NP_803355)、ならびに黄色ブドウ球菌由来の自己溶菌酵素Atl(BAA04185)、表皮ブドウ球菌由来のAtlE(CAI59555)、スタフィロコッカス・キャピティス(Staphylococcus capitis)由来のALE-1(BAA13069)、ならびに黄色ブドウ球菌PS47株由来のペプチドグリカン加水分解酵素(AAA26662)またはスタフィロコッカス・シミュランス由来のリソスタフィン(AAB53783)。
【0050】
細胞溶解は、さらなる様々な添加物、例えば、プロテアーゼ、例えばプロテイナーゼKの添加、および熱の使用、好ましくは約56℃で5分、続いて約94℃で5分によって、または、例えば、界面活性剤、好ましくはトリトン、SDS、tween、デオキシコール酸ナトリウム(Na-desoxycholate)、もしくは、DMSO、イソプロピルアルコール、エタノール、ブタノール、クロロホルムなどの溶剤の添加によって支援することができる。
【0051】
本発明によるポリペプチドは、それぞれ、エンドリシンおよび自己溶菌酵素のポリペプチドドメイン/ポリペプチド配列、いわゆるCBDを含み、本発明によるポリペプチドは、酵素的に活性な細胞壁加水分解領域をそれ以上は提示しない。酵素活性の欠如は、担体との複合体中の細菌を機能的に分離するために必要である。結合された細菌の溶解、およびしたがって細胞内容物の放出は、好ましくは、例えば後続の検出反応のためにこれが必要である場合には、分離後にのみ故意に起こす。したがって、本発明によるポリペプチドは、特定の態様において、細胞壁結合ドメインのほかに、エンドリシンの別のドメイン、特に、エンドリシンの酵素活性ドメイン(EAD)を含まず、特定の態様において、同様に、エンドリシンの別の配列を含まない。しかしながら、特定の条件下では、使用されるポリペプチド断片の少し残った加水分解性活性は、容認され得る。しかしながら、これは、個別の適用に依存する。すなわち、十分な量の無傷の細胞が捕獲されるように、細胞加水分解酵素の速度を適用の全期間と調和させることがどの程度までできるかをチェックしなければならない。CBDの潜在的に残る活性がどれくらいであるかは、加水分解アッセイ法によって検出することができ、これは、例えば、Loessner et al.(1996, Appl. Environ.Microbiol. 62, 3057-3060)において説明されている。
【0052】
特定の態様において、本発明によるポリペプチドは、SEQ ID NO: 1の誘導体を示す。このような誘導体の例は、SEQ ID NO: 2〜18に示され、これらの例は、SEQ ID NO: 1の例示的な変種として以下のものを示す:
(i)SEQ ID NO: 1と比べて、60番目にGluの代わりにAsp、
(ii)C末端に付加的なValもしくはVal-Asp、および/または
(iii)N末端に付加的なMもしくはMVGA。
【0053】
SEQ ID NO: 1の上記の誘導体は、本発明による方法における使用に関して有利であることが判明した。
【0054】
特異的細胞結合に関与しているC末端ドメイン(CBD)および酵素活性中心を含むN末端ドメイン(EAD)におけるエンドリシンのモジュラー組織は、Garcia et al. (1990, Gene, 86, 81-88)によって1990年に既に説明された。CBDの概念は、Loessner et al., 2002, (Mol. Microbiol., 44, 335-349) およびLoessner, 2005, (Curr. Opin. Microbiol, 8, 480-487)において継続された。多数のCBDが、最新技術において既に説明されている。しばしば、酵素活性ドメイン(EAD)は、N末端に位置し、CBDはC末端に位置するが、例外はある(例えば、Garcia et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85, 914-918; Loessner, 2005, Curr. Op. Microbiol., 8, 480-487)。EADは、一般にはっきり定義されており、最新技術において公知の配列解析ソフトウェアおよび保存配列モチーフを含む各データベース(例えば、CDD (Marchler-Bauer et al., 2005; Nucleic Acids Research, 33, D192-D196); Pfam (Finn et al., 2006, Nucleic Acids Research 34, D247-D251)、またはSMART (Schultz et al., 1998, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95, 5857-5864, Letunic et al., 2006, Nucleic Acids Res 34, D257-D260))を用いて、アミダーゼ、エンドペプチダーゼ、グリコシダーゼ、トランスグリコシラーゼ、ムラミダーゼなど他の加水分解酵素と配列および相同性を比較することにより、比較的容易に発見し、位置決定することができる。エンドリシンのCBD部分を同定する間に、多くの場合では細胞結合ドメインの既知のモチーフが発見されて、本発明によるポリペプチドに対するCBD 配列を提供するための適切な指標が提供される。連鎖球菌に結合するエンドリシンの群では、CBDを発見することは比較的容易であり、これは、芳香族残基が保存された主に約20アミノ酸長のコリン結合モチーフ(CW_結合_1、pfam01473)が現れ、しばしば、これが複数回繰り返して生じるためである(Garcia et al., 1990, Gene, 86, 81-88を参照されたい)。約40アミノ酸長のLysMドメイン(pfam01476)もまた、CBD中にある程度存在し得る。これは、二次構造が保存された、広範囲に分布するペプチドグリカン結合モジュールである(BatemanおよびBycroft, 2000, J. Mol. Biol., 299, 1113-1119)。SH3bドメイン、およびSH3_3ドメイン、SH3_4ドメイン、またはSH3_5ドメイン(smart00287、pfam08239、pfam06347、pfam08460)は、それぞれ、真核生物およびウイルスのScr相同ドメイン、すなわちSH3に対する原核生物の対応物であり(Ponting et al, 1999, J. Mol. Biol., 289, 729-745)、主にブドウ球菌および腸球菌において、細胞結合モチーフおよびCBDとして同様にしばしば存在し得る。ペプチドグリカン結合ドメイン(PG_結合_1、pfam01471;PG結合2、pfam08823)は、3つのヘリックスからなり、EADのN末端にもしばしば存在し得る。しかしながら、時として、他の関連したバクテリオファージエンドリシンにも、また他の炭水化物結合タンパク質にもCBD部分の直接的な関係を見出すことができず、CBDを示す特有の配列モチーフも構造モジュールもほとんど明確にすることができない場合がある。このような場合、EADを用いてこの関係を決定することができる。本発明によるポリペプチドのベースとして、最新技術において公知のCBDのほかに、EADによって占有されていないエンドリシンの部分が、この場合役立つ。このエンドリシンの残り部分(すなわち、エンドリシンからEADを除いた部分)は、直接的に理解することができ、それが細胞結合機能を提示するならば、CBDとして使用することができる。しかしながら、本発明のいくつかの態様において、より短い断片が依然として細胞結合機能を示すならば、それらを使用することが有用であり得る(例えば、より高い安定性をそれらが示すため)。CBDの機能試験は、各細菌に対する細胞結合の検出である。この目的に適した様々な例示的なアッセイ法は、実験および図面において説明する。効率的な細胞結合のほかに、発現率、溶解度、安定性、および精製の容易さが、CBDとして機能するペプチド部分の定義に関して考慮すべきその他の特徴である。これらの特徴を試験するための方法は、当業者には最新技術から公知である。したがって、いくつかの例をまた、実験において後述する。故意に計画したCBD部分は、例えば、構造上の基準に従って向きが定められ、当業者は、二次構造予測、潜在的なドメインリンカー、および3Dモデルに基づいてこれを評価することができる。適切な例示的方法は、例えば、次の刊行物において説明されている: Garnier et al., 1996, Methods in Enzymology 266, 540-553; Miyazaki et al., 2002, J. Struct. Funct. Genomics, 15, 37-51; Altschul et al., 1997, Nucleic Acids Res. 17, 3389-3402; Schwede et al., 2003, Nucleic Acids Research 31, 3381-3385. Lund et al, CPHmodels 2.0: X3M a Computer Program to Extract 3D Models. Abstract at the CASP5 conferenceA102, 2002。
【0055】
基本的には、最新技術において公知のCBDすべておよび前述の方法によってエンドリシンから誘導したCBDすべてを、本発明によるポリペプチドのため、および本発明による方法において使用することができる。
【0056】
本発明の特定の態様において、本発明によるペプチドの細胞壁結合ドメインは、それぞれ以下からなる、下記のエンドリシンおよび他の細胞壁溶解酵素の細胞壁結合ドメインの群より選択される:Ply511(Q38653)、Ply500(Q37979)、Ply118(Q37976)、PlyPSA(1XOV_A)、EGDe(NP_466213)、PLyL(1YB0_A、B、およびC)、PlyG(YP_891193)、PlyPH(Yoong et al., J.Bac. 2006, 188, 2711-2714)、PlyB(2NW0_AおよびB)、PlyBa(CAA72266)、Ply21(CAA72267)、Ply12(CAA72264)、フェカリス菌V583プロファージエンドリシン、Ply3626(WO 03/066845)、ウェルシュ菌の株13由来のリシン(BAB81921)および株SM101由来のリシン(YP_699489)、ΦP1リシン(EP1300082)、PlyV12(NP_049942)、PlyC(NP_852017)、PlyGBS(AAR99416)、Cpl-1(P15057)、Cpl-7(P19385)、Cpl-9(P19386)、Palアミダーゼ(P19386)、Twortアミダーゼ(CAA69021)、黄色ブドウ球菌ファージPVLアミダーゼ(UniProt 080064)、P68 lys16(NP_817332)、ΦSA2usaエンドリシン(YP_494080)、Phi11エンドリシン(NP_803306)およびPhi12エンドリシン(NP_803355)、黄色ブドウ球菌ファージPhi11の細胞壁加水分解(NP_803302)、ファージB30エンドリシン(AAN28166)、ファージ168エンドリシン(M J Loessner et al., J Bacteriol. 1997 May; 179(9): 2845-2851)、LysK(O`Flaherty et al., J.Bac., 2005, 187, 7161-7164)、S.シミュランス(simulans)のリソスタフィン(AAB53783)、S.キャピティス(capitis)のALE-1エンドペプチダーゼ(BAA13069)、ファージPhiNIH1.1細胞壁加水分解酵素(NP_438163)、LytM(AAB62278)、Atl(BAA04185)、肺炎連鎖球菌由来のLytA(CAJ34420)、黄色ブドウ球菌株PS47由来のペプチドグリカン加水分解酵素(AAA26662)、フェカリス菌由来のエンテロリシンA(Q9F8B0)、L.モノサイトゲネス由来のami自己溶菌酵素(Milohanic et al.; Infection and Immunity, 2004年8月、p. 4401-4409、72巻、8号)、乳酸菌リシン、例えば、ファージA2のリシン(AJ251788.2またはQ9MCC8)、ファージPL-1アミダーゼ(Q9MCC6)(両方ともカゼイ菌(L.casei))など。
【0057】
リステリアの結合にはエンドリシンPly511の断片、バチルスの結合にはエンドリシンPlyBa、Ply21、およびPly12の断片、クロストリジウムの結合にはPly2636の断片、ブドウ球菌の結合にはΦSA2usaエンドリシンの断片、ブドウ球菌バクテリオシンであるリソスタフィンの断片、リソスタフィン様ALE-1の断片、ブドウ球菌自身から単離されるplyOpf、plyPitti20、plyPitti26、および同種のプロファージの類似タンパク質の断片、腸球菌の結合にはフェカリス菌V583由来のプロファージのエンドリシンに由来する断片、ならびにCBDEF0355およびCBDEF129が特に適している。
【0058】
本発明によるポリペプチド中に出現し得るCBD配列の例は、以下のとおりである。
【0059】
特定の態様において、本発明によるポリペプチドは、細胞壁結合ドメインのほかに、エンドリシンの別の配列を含まない。本発明によるポリペプチドは、好ましくは、ただ1つのCBDおよびSEQ ID NO: 1に記載の付加的なポリペプチド配列またはその誘導体からなり、任意で、リンカーまたはスペーサーによって結合されている。
【0060】
当業者は、ドメインリンカー配列の配列および構造ならびにそれらの予測に関する知識をそれぞれ示す(例えば、GeorgeおよびHeringa、2003, Protein Eng. 15, 871-879; Bae et al., 2005, Bioinformatics, 21, 2264-2270)。ドメインリンカー配列は、しばしば、親水性アミノ酸の割合(portion)が比較的高いことを特徴とする。これは、それらが一般に構造化の程度が低く、溶媒に曝露されるためであり、例えば、リステリアエンドリシンPlyPSAの短いリンカー配列
がある(Korndorfer et al., 2006, J.Mol. Biol., 364, 678-689)。しかしながら、ポリグリシンリンカーもまた、従来から使用され、しばしばプロテアーゼ感受性である。特別な種類の明確な構造を持たない親水性リンカーは、天然リンカーとしても存在するプロリンおよびトレオニンに富む配列、例えば、
である。プロリンおよびトレオニンに富むリンカー配列は、コンセンサスモチーフ(PT)xPまたは(PT)xT(xは1〜10の整数である)を用いて単純に記述することができる。Croux et al. (1993, Molec. Microbiol., 9, 1019-1025)は、エンドリシンのN末端ドメインおよびC末端ドメイン、すなわちEADおよびCBDの間のいわゆる連結領域を説明している。これらの主に比較的短い領域は、天然のリンカー配列であり、本発明によるポリペプチドに対する適切な切断部位の助けを借りて、CBDモジュール組換え体(recombinant)をJSタグに連結するのにも適している。具体的なリンカーの特に適切な例は、例えば、SEQ ID NO: 34〜38に示す。
【0061】
本発明によるポリペプチドの配列は、以下のように構成され得る:
(i) SEQ ID NO: 1〜18より選択されるJSタグの配列、
(ii) SEQ ID NO: 19〜33より選択されるCBDの配列、
(iii) SEQ ID NO: 34〜38より選択されるリンカー配列、
および任意で、
(iv)スペーサーとしてのGFP、GST、またはMBP配列。
【0062】
本発明によるポリペプチドのいくつかの例示的な配列は、SEQ ID NO: 39〜53に示される。
【0063】
本発明はさらに、Ply21の非酵素活性細胞壁結合ドメイン、すなわちCBDに関する。驚くべきことに、加水分解性の非活性CBD21は、細菌結合に関して宿主範囲を示さず、宿主範囲は、バチルス群のほぼすべての細菌(ポリミキサ菌(B. polymyxa)およびB.スフェリカス(sphaericus)を除く)のほかに、ブドウ球菌、腸球菌、連鎖球菌、およびさらにリステリアなどグラム陽性菌の重要な群に属するその他の代表的なものも同様に含む。CBDは、通常、比較的狭い宿主範囲を示すため(Loessner 2005, Curr. Opin. Microbiol, 8, 480-487)、CBDが広範な宿主特異性を有するこの特徴は、非常に珍しい。したがって、CBD21は、セレウス菌群の試験した細菌すべてに結合することができ、さらに、グラム陽性菌、特に、ブドウ球菌、連鎖球菌、腸球菌、小球菌、バチルス、およびリステリアなど多くの病原微生物が存在し得る群に由来するものを一般に増菌するという目的を解決することができる。したがって、別の局面において、本発明は、SEQ ID NO: 19に示す配列を含むが、この細胞壁結合ドメインのほかには、エンドリシンの別のドメインを含まないポリペプチドに関する。このポリペプチドは、好ましくは、エンドリシンの完全な酵素活性ドメインを含まない。より好ましくは、SEQ ID NO: 19に示す配列を含むポリペプチドは、エンドリシンの別の配列を含まない。
【0064】
CBD21の適用範囲は広範であるため、本発明はまた、SEQ ID NO: 19に記載の配列を含むが、この細胞壁結合ドメインのほかにはエンドリシンの別のドメインを含まない本発明によるCBD21の使用であって、ブドウ球菌、連鎖球菌、腸球菌、小球菌、バチルス、および/またはリステリアからなる群より選択される細菌を結合、増菌、試料から分離、捕獲、および/または検出するための使用にも関する(表3を参照されたい)。
【0065】
適切なCBDを定める本発明によるポリペプチドのポリペプチド部分は、スペーサーおよび任意で同時にマーカーとして役立つポリペプチド部分にさらに連結してもよい。CBDは、より大型のタンパク質であるエンドリシンに由来する領域に相当するため、一般に比較的小さくアミノ酸約100〜300個であるか、または、いくつかの細胞結合モチーフの場合、さらにより少ない。したがって、好ましい態様において、CBDドメインと担体への固定化に関与する基の間にスペーサーを導入することが有用な場合がある。これにより、固定化によってCBDが変性すること、および細胞への結合能力をそれが失うことを防止することができる。2段階方法でポリペプチド-細菌複合体を結合する場合、表面への固定化に関与している基がCBDに直接的に結合していない場合には、それらが、より上手く接近可能になることが重要な場合がある。スペーサーは、好ましくは、はっきり定義され、十分に発現可能な安定なタンパク質モジュールであり、他のタンパク質および表面との相互作用はできるだけ少ないものである(例えば、GFP(緑色蛍光タンパク質)、MBP(マルトース結合タンパク質)、GST(グルタチオンs-トランスフェラーゼ))。特に適切な例は、GFPおよびその変異体である。GFPは著しく蛍光を発するため、マーカーとしても適切である。このため、例えば、方法の実施中に本発明によるポリペプチドをモニターすることができる。機能試験、すなわち結合試験において、細菌へのCBDおよび本発明によるポリペプチドの結合、ならびに担体への結合は、容易に検出することができる。例えばEP1147419で提唱されているようなその他の改変体(modification)もまた、マーカーとして役立ち得る。
【0066】
CBDを本発明によるポリペプチドに変えるためには、CBDは、融合タンパク質内でタグ、いわゆるJSタグと共に存在しなければならない。ビオチンとその結合相手であるストレプトアビジンおよびアビジンとの間の極めて強い結合(10-15M; Gonzales et al., 1997, J. Biol. Chem., 272, 11288-11294)は、それぞれ、最新技術(例えばEP1147419)において公知である、公知の1段階方法と比べてさらに優れていることが判明している、前述の2段階方法を機能化するために有利である。官能化した表面にタンパク質を結合させるのに同様に適する他のタグは、例えば、hisタグまたはstrepタグである(Hisタグ10-6〜10-8M; Nieba et al., 1997, Anal. Biochem., 252, 217-228; Strepタグ約10-6M、VossおよびSkerra、1997, Protein Eng., 10, 975-982)。担体への細菌-ポリペプチド複合体の結合は、2段階方法においてより効率的であり、これは、結合時間に影響を及ぼし、かつ、困難な条件下、例えば、食物試料における細菌の損失の可能性を低くし、また、感度をより高くする。可能なビオチン化結合基の選択肢において、JSタグがより好ましいことが判明している。一方では、化学的ビオチン化は、特定の位置に定められたビオチン化をもたらさない。特定の位置に定められたビオチン化があれば、担体へのCBDの指向的固定化が可能であると考えられ、これは結合タンパク質の官能化のために望ましい。その一方で、その結果、タンパク質はしばしば不活性化される。これは特に、CBDの比較的小さなタンパク質ドメインに当てはまり得る。最小配列に類似したものに相当するAviタグであって、この最小配列が、依然としてインビボで融合タンパク質中にてビオチン化される必要がある、Aviタグもまた、磁性ビーズへの細菌の効率的な結合を実現するために、より多量のタンパク質を導入する必要があるため、JSタグと比べて適性が劣ることが判明した。タンパク質との融合のためにUS 5,252,466において提唱されているビオチン化ドメインは、Aviタグと比べて比較的大きい。したがって、例えば、肺炎桿菌のオキサル酢酸デカルボキシラーゼのビオチン化ドメインは、595個のアミノ酸を含み、発現率に関しても不利であり、また、大型の融合タンパク質が比較的プロテアーゼに感受性である限り、したがって、比較的不安定でもある。
【0067】
JSタグおよびその誘導体は、CBDと組み合わせて、試料中の細菌を結合、増菌、分離、捕獲、および検出するのに非常に好適なビオチン化タグであることが判明する。これらは、インビボでビオチン化するためのコンセンサスモチーフ(MKM)を含む肺炎桿菌オキサル酢酸デカルボキシラーゼのαサブユニットに由来するセグメントおよびその誘導体である。このポリペプチドは、完全なビオチン化ドメインと比べて、例えばタンパク質分解に対してより安全になった。このポリペプチドは、例えば、クローニング、発現、および精製の際にアフィニティータグとして取り扱うのがより容易である。JSタグの1つの最小配列は、肺炎桿菌オキサル酢酸デカルボキシラーゼのアミノ酸529〜594に対応する66アミノ酸長に、開始部分としてのメチオニンを加えたものである。特に適切であるのは、SEQ ID NO: 1〜18に説明する配列である。Cronan(1990, J. Biol. Chem., 265, 10327-10333)では、MKMモチーフのN末端に位置する保存されたプロリンおよびアラニンに富む領域が、ビオチンリガーゼによるリシン(lysin)のビオチン化のために重要な構造的機能を果たすはずであることが強調されている。肺炎桿菌オキサル酢酸デカルボキシラーゼのαサブユニットのこの領域は、さらに特に、PおよびAからなるアミノ酸長22の領域を特徴とする。しかしながら、前述の最小配列はこの領域を含まないにもかかわらず、非常に効率的にビオチン化されるため、この領域は、説明した系におけるビオチン化のために必要ではないことが判明した。肺炎桿菌オキサル酢酸デカルボキシラーゼのアミノ酸529〜594に加えて、非常に短いペプチド(MVGA)が非常に好適なN末端出発配列(SEQ ID NO: 8〜10および16〜18を参照されたい)を提供することが判明した。
【0068】
JSタグおよびCBD、ならびに中間に導入される付加的なスペーサーモジュールの間の融合は、それぞれ、CBDのN末端およびC末端において実施することができる。本発明によるポリペプチドの場合、N末端融合が好ましい。これは、エンドリシンのCBD部分が通常C末端に位置し、JSタグ(任意で、スペーサーモジュールを加える)が、エンドリシンの欠けているEADの代わりを構造的にし得るためである。インビボでビオチン化される、タンパク質中のビオチン化ドメインは、ほとんどC末端にのみ位置するため、N末端で使用された場合にこれらが同じようにうまく機能するかは明らかではない。こういう理由で、Cronan(1990, J. Biol. Chem., 265, 10327-10333)では、プロピオニバクテリウム・シャーマニイのトランスカルボキシラーゼの1.3Sサブユニットのビオチン化ドメインとのタンパク質のC末端融合物のみが使用された。スペーサー分子が使用されない場合、JSタグは、リンカーを介して(上記の態様を参照されたい)、または同様にリンカーを用いずに、CBDに連結させることができ、その結果、クローニング用の制限切断部位を得るには、ただ1個〜3個のアミノ酸が導入されるだけである。配列
は、例示的な適切なリンカーペプチドであることが判明した。しかしながら、構造が公知であるタンパク質の他のリンカー配列は、比較的明確な構造を持たないペプチドに対するリンカー配列(例えば、(PT)3T(PT)3T(PT)3のようなプロリンおよびトレオニンに富む配列)であり、これらもまた使用され得る。PTに富むリンカーの例は、
である。
(短い)親水性リンカーの例は、
である。本発明において使用され得るリンカーの別の例は、
である。
【0069】
本発明による方法において使用するための本発明によるポリペプチドは、ビオチン化され得、それによって、当業者に公知の条件下でビオチンリガーゼの助けを借りてインビトロでビオチン化される。驚くべきことに、US 5,252,466に記載されている発明と比べて、ビオチンリガーゼ(BirA)とのビオチン化融合タンパク質の共発現は、細菌細胞における本発明によるビオチン化ポリペプチドの調製において必要ではないことも判明した。ビオチン化は、外部のビオチンリガーゼの不在下でも同様に機能することがこの理由である。興味深いことに、LBのような完全培地では、培地へのビオチンの添加さえ必要ではない。JSタグおよびCBDの融合タンパク質は、BirAの付加的な共発現無しで、またはさらにビオチンの添加も無しで、市販されている大腸菌発現株、例えば、BL21(DE3)、HMS174(DE3)、JM83において効率的にビオチン化される。タンパク質のより容易な精製手段としてUS 5,525,466において提唱されているビオチン化タグの使用と対照的に、JSタグおよびCBDの本明細書において説明する融合物は、ビオチンに対するアフィニティーカラムを用いて精製することは必要ではないが、陽イオン交換クロマトグラフィーまたは陰イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、硫酸アンモニウム沈殿分画などによる従来の方法で精製することができる。一方では、ビオチンに対するそれぞれの親和性材料、例えば、結合されたストレプトアビジンまたはストレプトアクチンを担持するクロマトグラフィー材料は、非常に高価であり、かつ、通例、低い能力しか示さないため、これは有利であり、その一方で、ビオチンとその結合相手の結合は非常に効率的であるため、融合タンパク質を親和性材料から遊離させることは困難である。このため、説明した精製方法に問題が生じる。すなわち、標的タンパク質は、カラムからゆっくりと(delayed)溶出し(「なすりつけたように尾を引く(smear)」)、おそらく溶出中に変性する。
【0070】
本発明による構築物の安定性は、使用されるCBDの具体的な特徴にある程度依存する。JSタグ、CBD、および任意でそれぞれリンカー、スペーサー、およびマーカー、ならびに磁性ビーズのような官能化担体からなる融合構築物は、結合能力を失わずに、より長い期間保存され得る。保存は、約-20℃〜約37℃の温度範囲で可能である。約-20℃〜約10℃の温度での保存が好ましい。通例、保存はほぼ中性のpH値(pH6〜7)で実施されるべきであるが、最高pH10のpH値での保存もまた、CBD部分に許容される場合は可能である。保存のために適した緩衝液系は、例えば、100mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH6〜pH10、2mM EDTAまたは10mMイミダゾール(imidazol)、100mM NaCl、pH7である。グリセロールまたは例えば飽和度30%の硫酸アンモニウムなど一般の安定化剤を添加することは、保存能力に対して良い効果を有する。
【0071】
本発明による方法を用いて、本発明によるポリペプチド構築物を使用すると、基本的にはすべてのグラム陽性菌、例えば、クロストリジウム、バチルス、リステリア、ブドウ球菌、乳酸菌、腸球菌、アエロコッカス(aerococci)、ペジオコッカス(pediococci)、連鎖球菌、マイコプラズマ(mycoplasma)、ロイコノストック(leuconostoc)が結合し、したがって、増菌、捕獲、固定化、および任意で検出され得る。適用様式は、上記に定義したように、使用する試料の様式に依存する。この方法は、潜在的な病原細菌を食物試料から増菌および検出するために特に適している。しかしながら、この方法はまた、医学的試料または診断用試料から病原細菌を増菌および検出するのにも適している。さらに、それらが望まれない試料、例えば、薬学的調製物または化粧品調製物および処理溶液からグラム陽性菌を分離または検出するのにも適している。本発明による方法は、ISO法のような従来の増菌方法と対照的に、増菌に関する多くの時間を節約する。捕獲用に官能化磁性粒子を用いる磁気分離と組み合わせて、複雑で自動化が困難である細菌-ポリペプチド複合体分離方法、例えば遠心分離段階を置き換えることができる。
【0072】
本発明はさらに、本発明によるポリペプチドをコードする核酸およびベクター、ならびにそれらの核酸およびベクターをそれぞれ発現する細胞にも関する。当業者は、最新技術において公知の手順を用いて、本発明によるポリペプチドをコードする適切な核酸およびベクターを調製することができる。本発明によるポリペプチドのアミノ酸配列は、例えば、遺伝コードに基づく適切な核酸配列に由来してよい。その際、選択した発現系に応じて、コドンの最適化使用を任意で検討することができる。当業者はまた、例えば、前述の核酸を介した本発明によるポリペプチドの発現を確実にするために、適切なベクターを選択することができる。
【0073】
驚くべきことに、翻訳されるポリペプチド配列のJSタグのN末端部分の核酸配列が、効果的な発現のために重要であることが判明した。ATに富む配列は、アミノ酸配列を維持した状態で、GCに富む配列と比べて、有意により効率的な発現を示した。転写されたRNAの始端の二次構造要素の発達が、翻訳の効率に影響することが想定される。これらのATに富む配列の3種の変異体(SEQ ID NO: 54〜56)が、JSタグとそれに続くCBDの融合物に対して特に適していることが判明した(表1を参照されたい)。したがって、好ましい態様において、本発明によるポリペプチド中のJSタグをコードする核酸配列の部分は、SEQ ID NO: 54〜56より選択される配列で始まる。
【0074】
本発明による方法および本発明によるポリペプチド断片は、それぞれ、以下の利点を特徴とする:
・JSタグとエンドリシンのCBDを組み合わせた融合物は、一般に、グラム陽性菌に迅速かつ効率的に結合するのに適している。
・結合基としてのビオチンにより、CBD細菌複合体の非常に良好な固定化が可能になるため、CBDとJSタグの融合物は、効率的な2段階方法で細菌を増菌するのに非常に適している。
・CBDおよびJSタグの融合物と組み合わせた2段階方法により、担体材料および主に特異的結合タンパク質の投入量をより少量にすることが可能になり、これは、経済的に有利である。この方法におけるビオチン化は非常に効率的であり、正確に定められ、その結果、他の方法と比較して、極めて比率(portion)の高い機能的結合タンパク質が入手可能である。遊離の結合タンパク質への細菌の結合はまた、しばしば立体構造の問題、すなわち副反応としての非特異的結合および非機能的固定化が生じる、あらかじめ表面に固定化されていた結合タンパク質と比べてはるかに効率的である。
・本発明による方法はまた、全く同一の担体を用いて様々なCBD細菌複合体を固定化するのにも適している。
・CBDおよびJSタグの融合物は、結果的に、最高約30℃の温度での長期の安定性およびプロテアーゼ安定性を特に特徴とする、安定性の高い構築物になる。
・JSタグは、一方では長すぎないが、その一方で、スペーサーを必要としなくてすむ程度に長いため、取り扱うのに好適である長さを有する。
・本発明によるポリペプチドを調製するための本発明による方法は、BirAの共発現無しでさえ、機能する。
【0075】
本発明はさらに、官能基としてのストレプトアビジンまたはアビジンなどのビオチン結合物質と共に供給される担体を含み、CBDをJSタグと融合された本発明によるポリペプチド断片の少なくとも1種の変異体、ならびにグラム陽性菌の増菌および任意で検出のために必要な緩衝溶液、例えば、洗浄緩衝液、溶出緩衝液、および/または溶解緩衝液をさらに含むキットに関する。
【実施例】
【0076】
以下の実施例は、本発明を例示し、限定的であるとみなされるべきではない。別段の定めが無い限り、例えば、Sambrook et al., 1989, Molecular cloning: A Laboratory Manual 第2版 Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New Yorkにおいて説明されているような分子生物学の標準的方法を使用した。
【0077】
実験1:ビオチン化タグを有するファージ尾部タンパク質の発現、溶解度、および機能的アセンブリ
この実験の結果を図1に示す。図1に示す、サルモネラファージまたはカンピロバクターファージに由来するファージ尾部タンパク質を、標準的な方法によってpET21aまたはpET21dにクローニングし、かつ、IPTG誘導後(アプローチ当たり1ml)、所与の発現株において30℃で発現させた。3〜4時間後、細胞を遠心分離し(卓上遠心分離、5分、13.000rpm)、沈殿物を緩衝液(例えば、20mM tris、5mM EDTA、pH8)中に溶解した。超音波を用いて細胞を溶解し、再び遠心分離した(20分、13.000rpm、4℃)。可溶性タンパク質を含む上清を採取し、5分間煮沸するか、または煮沸しなかった。煮沸しなかった試料内で、SDS耐性の天然の三量体が形成するはずであり、これは、より大きな分子量で見出され得る。不溶性タンパク質を含む沈殿物を、同じ体積の緩衝液(例えば、20mM Tris、pH9、50mM NaCl、5 mM EDTA)中に再懸濁した。Lammliの試料用緩衝液をすべての試料に添加し、これらの試料をそれぞれ12%および9%のSDSポリアクリルアミドゲル上に載せ、クーマシーで染色した。
【0078】
特異的なビオチン化タグを有するファージ尾部タンパク質を用いて、効率的な量の機能的タンパク質を得ることはできないことが3つの下位実験すべてにおいて示された。一部は、発現比率は非常に低く、一部は、大部分のタンパク質が不溶性であり、SDS耐性、オリゴマー形成を特徴とする天然タンパク質を高い比率で得ることは可能ではない。P22様ファージ尾部タンパク質に関してのみ、単量体および天然三量体のバンドがSDSゲル上で検出され得る。他の2つのタンパク質に関しては、非常に弱い単量体のバンドだけが、ウェスタンブロットにおいて検出され得、その結果、位置を決定することができ、誘導および発現の基本的機能を確認することができた。
【0079】
実験2:CBDの化学的ビオチン化
それぞれ1mg/mlのCBD511(PBS:20mMリン酸ナトリウムpH7.4、120mM塩化ナトリウム中)およびNHS-ビオチン(DMSO中)のストック溶液を調製した。120μlのNHS-ビオチン溶液を1200μlのタンパク質溶液に添加し、完全に混合した。各試料300μlを直ちに(0分の値)、または20分後、60分後、もしくは120分後に採取し、かつ氷上で1M tris(pH8)30μlに添加して、反応を停止させた。試料はすべて、PBS緩衝液に対して透析した。吸光度を測定することによって全試料のタンパク質濃度を決定し、HABA試験を用いてビオチン化の程度を決定した。ビオチン化の程度は、CBD分子1つ当たり1.5〜2.5個のビオチン分子であった。リステリア・モノサイトゲネスScottA株を、濃度104CFU/mlで試験試料(緩衝液PBST;20mMリン酸ナトリウムpH7,4、120mM塩化ナトリウム、0.1%tween20)500μl中に導入して、細胞結合試験を実施した。続いて、ビオチン化CBD511を濃度0.5μg/ml、1μg/ml、2μg/ml、および5μg/mlでそれぞれ添加し、1分間インキュベートした。JSタグCBD511は、対照としての機能を果たした。MagPrep-ストレプトアビジン粒子(Merck)を50μg/mlまで添加し、これらの試料をオーバーヘッドローレイター(rolator)中、室温で20分間インキュベートした。5分間磁気分離した後、上清を採取し、PBST緩衝液500μlで磁性粒子を1回洗浄した(10分)。2回目の磁気分離後、磁性粒子を1倍体積量の緩衝液中に添加し、オックスフォード(oxford)プレート上にプレーティングした(未希釈および1:10希釈)。対照として、1回目および2回目の磁気分離後に集めた上清をプレーティングし、一晩後に計数した。この実験を図2に示す。化学的ビオチン化によってCBDはすべて不活性になるのに対し、JSタグによって特異的にビオチン化したCBDを用いた細胞結合試験は、通例、機能することが認められ得る。
【0080】
実験3a:1段階方法、2段階方法、およびISO方法による、カマンベール中のリステリアの検出
スーパーマーケットから入手したカマンベール300gを、25gの分量単位で無菌的に分割し、ストマッカーバッグに入れて-80℃で保存した。ISO規則: 11290-1:1996 FDAM 1に従って、1つの分量単位をリステリア菌の存在に関して解析した。リステリア菌汚染が検出され得ない場合、5つの分量単位を室温で解凍し、様々な量のL.モノサイトゲネスScottAに感染させた。したがって、一晩培養物を1:5希釈し、OD600が約1になるまで37℃でインキュベートした。続いて、無菌PBST(20mMリン酸ナトリウムpH7,4、120mM塩化ナトリウム、0,05%tween)中で段階希釈物を調製した。0、1〜10、11〜50、50〜100、および100〜500CFU/25gカマンベールでこれらの分量単位を汚染し、4℃で一晩保存した。細胞数を正確に決定するために、希釈物を二つ組にしてOxford寒天(Profos AG)上にプレーティングし、37℃で24時間プレートをインキュベートし、計数した。Fraser1/2培地(Profos AG)225mlを無菌的にこれらの分量単位に添加し、ストマッカー中で1分間ホモジナイズし、30℃でインキュベートした。4時間、6時間、および24時間のインキュベーション期間後、各試料1mlを採取した。
【0081】
1段階方法:Strepタグ-CBD511_f2でコーティングした磁性粒子(Dynabeads Epoxy)300μg/mlをホモジネート1mlに添加し、オーバーヘッドローレイター中、室温で20分間、試料をインキュベートした。
【0082】
2段階方法:Strepタグ-GFP-CBD511_f2融合タンパク質5μgをホモジネート1mlに添加し、短時間混合した。続いて、MagPrep-ストレプトアビジン粒子(Merck)を50μg/mlまで添加し、これらの試料をオーバーヘッドローレイター中、室温で20分間インキュベートした。
【0083】
続いて、粒子-リステリア複合体を磁場で管壁に集め、上清を除去した。粒子-リステリア複合体を、オーバーヘッドローレイター中でPBST(20mMリン酸ナトリウムpH7,4、120mM塩化ナトリウム、0,05%tween)1mlで10分間、3回洗浄し、磁場で管壁に集め、各上清を廃棄した。粒子-リステリア複合体をPBST 100μl中に再懸濁し、Oxford寒天(Profos AG)上にプレーティングした。37℃で24時間および48時間経過後、これらのプレートを計数し、磁性粒子に付着したリステリアの割合を、導入した細胞に対するパーセントで算出した。並行して、汚染した試料を、ISO規則:11290-1:1996 FDAM 1に従ってリステリアに関して解析した。したがって、所与の時点にFraser培地(Profos AG)10mlに100μlを添加し、ローレイター中で、37℃で24時間インキュベートし、続いて、Oxford寒天(Profos AG)上にプレーティングした。試料はすべて4つ1組で実施した。
【0084】
1段階方法ならびに2段階方法を用いた場合、カマンベール中の微量のリステリア汚染を検出するのに必要な濃縮時間は、ISO:11290-1:1996に従う方法と比べて有意に短いことが示された。より短い増菌期間という点では、2段階方法の結果の方が1段階方法と比べて優れている。
【0085】
実験3b:モツァレラからのリステリアの検出
FDA培地225mlを各25gのモツァレラに添加し、これらの一定分量(portion)をストマッカーバッグ中で無菌的にホモジナイズした。試料を30℃で一晩インキュベートした。リステリアのEGDe株(血清型1/2a)およびScottA株(血清型4b)を500CFU/mlの濃度で添加した。リステリア検出の前に、1/10体積量のPBSTで試料をそれぞれ緩衝化した。
【0086】
1段階方法:JSタグ-GFP-CBD511_f3でコーティングした磁性粒子(Dynabeads M270 Epoxy)300μg/mlをホモジネート1mlに添加し、オーバーヘッドローレイター中、室温で20分間、試料をインキュベートした。
【0087】
2段階方法:0.5μg、2μg、5μg、または10μgのJSタグ-GFP-CBD511_f3融合タンパク質をホモジネート1mlに添加し、短時間混合した。続いて、MagPrep-ストレプトアビジン粒子(Merck)を50μg/mlまで添加し、これらの試料をオーバーヘッドローレイター中、室温で20分間インキュベートした。
【0088】
続いて、粒子-リステリア複合体を磁場で管壁に集め、上清を除去した。粒子-リステリア複合体を、オーバーヘッドローレイター中でPBST 1mlにて10分間、1回洗浄し、磁場で管壁に集め、各上清を廃棄した。粒子-リステリア複合体をPBST 100μl中に再懸濁し、Oxford寒天(Profos AG)上にプレーティングした。37℃で24時間経過後、これらのプレートを計数し、磁性粒子に付着したリステリアの割合を、導入した細胞に対するパーセントで算出した。アプローチはすべて2回実施した。
【0089】
JSタグ-GFP-CBD511_f3融合タンパク質の助けを借りて、リステリアを食物から単離できることが示された。モツァレラに関しては、これは、ScottA株の場合よりもEGDe株の場合の方が有意に上手く機能する。高い結合効率を実現するには、若干高い濃度のタンパク質を食物中で使用すべきである。
【0090】
実験4:JSタグ-CBDの細胞結合能力
実験4a:JSタグ構築物およびAviタグ構築物の細胞結合能力の比較
様々な構築物の細胞結合能力を、2段階方法に従い、リステリア株ScottAを用いて試験した。次の構築物を使用した:JS-GFP_CBD511_f3、JS-CBD511_f3、およびAviタグ-GFP_CBD511_f3。構築物の長さは様々であるため、等モル量の結合タンパク質を使用した。所与の量の融合タンパク質を試験試料(濃度104CFU/mlの新鮮な前培養物に由来するリステリア、PBST緩衝液)1mlに添加し、短時間混合した。続いて、MagPrep-ストレプトアビジン粒子(Merck)を50μg/mlまで添加し、これらの混合物をオーバーヘッドローレイター中、室温で20分間インキュベートした。続いて、粒子-リステリア複合体を磁場で管壁に集め、上清を除去した。粒子-リステリア複合体を、オーバーヘッドローレイター中でPBST 1mlで10分間、1回洗浄し、磁場で管壁に集め、各上清を廃棄した。粒子-リステリア複合体をPBST 100μl中に再懸濁し、Oxford寒天(Profos AG)上にプレーティングした。37℃で24時間経過後、これらのプレートを計数し、磁性粒子に付着したリステリアの割合を、導入した細胞に対するパーセントで算出した。アプローチはすべて2回実施し、平均値を算出した。この実験を図4Aに示す。JSタグ構築物の方がAviタグ構築物よりもうまく結合することが確認され得る。この場合、最大の細胞結合を実現するには、かなり多量のタンパク質を導入しなければならない。
【0091】
実験4b:Avi-GFP-CBD511_f2およびJS-CBD511_f2の精製
大腸菌HMS174中での発現、細胞回収、溶解、および硫酸アンモニウム沈殿の後に、陽イオン交換クロマトグラフィーによって両方のタンパク質を精製した。Avi-GFP-CBD511_f2は、BirAと共発現された。
【0092】
実験4c:磁性粒子への細胞結合の濃度依存性
これは、特異的結合タンパク質のどの濃度において最大の細胞結合が実現されるかということから解析された。濃度0μg/ml、0.02μg/ml、0.1μg/ml、0.5μg/ml、1μg/ml、2μg/ml、および3μg/mlのJS-CBD511_f3を結合タンパク質として使用した。この実験は、実験4aと同様に実施した。結果を図4Bに示す。導入された細胞すべての本質的に100%である最大細胞結合は、0.5μg/mlの非常に低いタンパク質濃度ですでに実現されていることが示された。
【0093】
実験5:JSタグのN末端領域中のヌクレオチド配列の最適化
肺炎桿菌オキサル酢酸デカルボキシラーゼのC末端部分のヌクレオチド配列を含むJSタグCBD構築物はインビボでビオチン化されることが示されているものの、それらが示すタンパク質の発現収率は非常に低かった(表2も参照されたい)。結果として、クレブシエラ配列の第1のアミノ酸および本発明者らの細胞によって付加的に導入された開始ペプチド(MVGA)をコードするヌクレオチド配列を、アミノ酸配列を変更することなく、発現収率に関して最適化した。様々な配列提案のセット全体のうち、5種の変異体をコードする3つの異なるヌクレオチド配列が特に適切であることが判明した。各アミノ酸に対するコドン選択が許容する場合は、変異体はすべて、元の配列と比べてATに富むことが共通している。これらの変異体(変異は灰色に色を変えている)を表1に要約する。
【0094】
(表1)JSタグのN末端配列領域のヌクレオチド変異体
【0095】
変異体JS4a、JS5b、JS5d、JS10a、およびJS10cは、JSタグおよびCBDの融合構築物の発現のために特に適していることが判明した。使用されるCBD部分によって、個々の変異体の発現にはわずかな差があった。しかしながら、基本的にはすべて使用することができる。
【0096】
実験6:JSタグ-CBD構築物とBirAの共発現
JSタグ構築物をインビボで効率的にビオチン化するにはBirA(Biotin ligase)の共発現が必要であるかを試験した。
【0097】
構築物JS5b-CBD511_f2を、発現株大腸菌BL21(DE3)においてベクターpet21a中で発現させた。BirAが共発現された場合、プラスミドpACYC184-BirAがさらに存在した。新鮮なLB培地(2lフラスコ中、全量4l〜10l)に、発現株の一晩培養物を播種し、これらの細胞を1mM IPTGを用いてOD600が約0.4〜0.6になるように誘導し、4時間後に回収した。誘導中に、一定分量の試料に50μMビオチンをさらに添加した。各構築物を2回試験した。回収後、細胞を遠心分離し、かつ溶解させた。精製は、硫酸アンモニウム沈殿分画およびそれに続く陽イオン交換クロマトグラフィーによって実施した。タンパク質純度は、SDSゲルによって記録した。
【0098】
(表2)様々なJSタグ-CBD構築物の発現収率および精製収率
【0099】
発現収率は、肺炎桿菌に由来する元の配列と比べて、ヌクレオチド配列が最適化された構築物JS-5b(実験5を参照されたい)の方が、有意に優れている。BirAの共発現は、細菌細胞の導入量に基づくタンパク質収量を基本的には増加させない。
【0100】
BirAの共発現を伴う場合および伴わない場合の、JSタグ構築物を用いた細胞結合試験
JS5b_CBD511_f2を、リステリア株ScottAを用いた細胞結合試験に導入した。リステリア濃度103CFU/mlの試料1mlを使用した。磁性粒子として、ストレプトアビジン-磁性粒子(Roche)を0.05mg/mlの濃度で使用した。他の点は、実験3bで説明した2段階方法に従って、実験の遂行を実施した。BirAを伴う場合および伴わない場合、ならびに付加的なビオチン(50μM)の添加を伴う場合および伴わない場合の発現から得られる構築物を解析した。結果を図5に示す。
【0101】
実験7:hisタグ-CBDおよびJSタグ-CBDを用いた場合の細菌結合の比較
セレウス菌(DSM345)を前培養物から新しく播種し、TS培地中でOD600が約1になるまで30℃で増殖させた。これらの細菌を、濃度3×103CFU/mlで試験試料(1ml)中に導入した。hisタグ構築物の場合、緩衝液はニッケル緩衝液A(20mMリン酸Na、500mM NaCl、20mMイミダゾール、0.1%tween20、pH7.4)であった。JSタグ構築物の場合、緩衝液はPBSTであった。Hisタグ-CBDBaおよびJSタグ-CBDBaを濃度1μg/mlで添加し、hisタグ-CBD21およびJSタグ-CBD21を濃度0.12μg/mlで添加し、室温で5分間インキュベートした。続いて、Ni-NTAアガロースビーズ(Qiagen)およびMagPrepストレプトアビジンビーズをそれぞれ、粒子約8×106個/mlの濃度で添加し、回転させながら20分間インキュベートし、磁選機を用いて5分間分離した。試料の1倍体積量の緩衝液で磁性粒子を洗浄した。結合された細菌を含む取り出した磁性粒子と同様に、未結合細菌を含む洗浄溶液および上清も、CASO完全培地プレートにプレーティングした。27℃で18時間経過した後、コロニーを計数した。それぞれ2回の実験を実施した。タンパク質を添加しないアプローチが、対照としての機能を果たした。この実験を図6に示す。
【0102】
細菌は、所与の条件下でJSタグ構築物と極めて特異的に結合したが、結合された細胞の収率は、hisタグ構築物の場合は全く不十分であった。基本的には、両方の種類の磁性粒子に関して非特異的な細菌結合はなかった。
【0103】
実験8:異なる培地および緩衝液それぞれからのリステリアの増菌
リステリア・モノサイトゲネスEGDを、Avi-CBD511_f2およびJS-CBD511_f2(各5μg/ml)をそれぞれ用いて、異なる培地およびPBST緩衝液それぞれから増菌した。リステリアをTB培地中でOD600が約1になるまでインキュベートし、所与の培地または緩衝液中で、その前希釈物を調製した。リステリアは、濃度104CFU/mlで試験において使用した。細胞結合試験は、2段階方法に従って実施し、50μg/mlのMagPrepストレプトアビジン粒子(Merck)と共に、回転させながら20分間インキュベーションし、PBSTで1回洗浄した。結合した細胞および未結合の細胞をOxford寒天上にプレーティングし、一晩経過後、計数した。2回の実験の各平均値が与えられる。この実験の結果を図7に示す。
【0104】
実験9:Strepタグ-CBDおよびJSタグ-CBDを用いた場合のビオチンを含む試料における細菌結合の比較
ビオチンは、しばしば食物試料中に含まれる。JSタグならびにstrepタグのストレプトアビジンへの結合は、ビオチンと競合するため、細菌を特異的に増菌するために、どちらの系がビオチンを含む試料においてより適切であるかを解析した。セレウス菌(DSM345)を前培養物から新しく播種し、TS培地中でOD600が約1になるまで30℃で増殖させた。細菌を、濃度1×103CFU/mlで試験アプローチ(1ml)中に導入した。試験溶液として、所与の濃度のビオチン(0.01μM、0.1μM、1μM)と共にPBSTを使用した。JSタグCBDBaおよびstrepタグCBDBaをそれぞれ濃度20μg/mlで添加し、室温で約2分間、細菌とインキュベートした。ストレプトアビジン-PA-ビーズを濃度50μg/mlで添加し、回転させながら20分間インキュベートし、磁選機で5分間分離した。試料の1倍体積量の緩衝液で磁性粒子を洗浄した。結合された細菌を含む取り出した磁性粒子と同様に、未結合細菌を含む洗浄溶液および上清も、CASO完全培地プレートにプレーティングし、室温で一晩インキュベートした。30℃でさらに4時間経過後、コロニーを計数した。それぞれ2回の実験を実施した。タンパク質を添加しない試料が、対照としての機能を果たした。結果を図8に示す。ビオチンを含む試料における細胞結合が、strepタグ系のより劣る結合と比べて、JSタグ系を用いた方が有意にうまく機能することが示された。ビオチン濃度1μMで依然として特異的結合を検出することができるのに対し、同じ条件下でstrepタグを用いた場合、これは可能ではない。
【0105】
実験10:様々な条件下でのJSタグ-CBD構築物の長期に渡る安定性
JS-CBD-511_f3のストック溶液(約1mg/ml)およびストレプトアビジン磁性粒子(約1mg/ml)を、所与の条件下でインキュベートし、リステリアを用いた細胞結合試験に導入した。1ml試験(PBST緩衝液)中の磁性粒子の濃度は50μg/mlであり、タンパク質濃度は与えたとおりであり、使用した細菌数は104CFU/mlであった。
【0106】
実験10a:結合タンパク質および磁性ビーズを、100mMリン酸ナトリウム、pH6〜7、2mM EDTA中で、-20℃、4℃、室温(約23℃)、および37℃で最長126日間保存し、リステリア結合試験において所与の濃度で使用した。126日後のみ、かつ、この場合、主に37℃のインキュベーションで、結合効率が有意に低下していることを確認することができる。
【0107】
実験10b:結合タンパク質および磁性粒子を、30%硫酸アンモニウムを加えた10mMイミダゾール、pH7、100mM NaCl中で、-20℃、4℃、室温(約23℃)、および37℃で最長74日間保存し、リステリア結合試験において所与の濃度で使用した。74日間のインキュベーション後の結合効率が、全温度で有意に低下しているが、依然として50%を超えていることを確認することができる。
【0108】
両方の緩衝液系が、JS-CBD-構築物および適切なストレプトアビジン磁性粒子の長期に渡るインキュベーションに適しているように思われる。これらの結果を図9に示す。
【0109】
実験11:様々な食物からのリステリアの増菌
この実験を図10に示す。
【0110】
実験11a:リステリア・モノサイトゲネスScottAの一晩培養物をFDA-Oxoid培地中で1:5希釈し、OD600が約1になるまで37℃で増殖させた。牛乳およびホモジナイズしたチーズをそれぞれPBST中で1:10希釈し、リステリアを濃度104CFU/mlで播種した。所与の濃度のJS4a-CBD511_f2をエッペンドルフカップに添加し、各試料溶液1mlと混合した。磁性粒子として、ストレプトアビジン磁性粒子(Roche)を濃度50μg/mlで使用し、オーバーヘッドローレイター中で10分間、試料をインキュベートした。磁性粒子を磁選機中で5分間分離し、続いて、PBST緩衝液1mlで1回洗浄し、緩衝液1ml中に溶かした。ビーズ画分および集めた上清(1回目の磁気分離および洗浄段階後)の100μlの未希釈物および1:10希釈物をOxford寒天上にプレーティングし、37℃で一晩インキュベートした。翌日、リステリアを計数し、発見された細菌の何パーセントがJS4a-CBD511_f2を介して磁性ビーズに結合されたかをそれぞれ算出した。牛乳ならびにチーズから、導入されたリステリア細胞が、基本的には、0.2μg/ml JS4b-CBD511_f2の特異的結合タンパク質濃度で既に完全に分離されることが示された。細菌の50%は、0.02μg/mlという非常に低いタンパク質濃度で既に分離することができる。
【0111】
実験11b:各25gのスモークサーモンおよびサラミをホモジナイズし、LEB-FDA培地で1:10希釈し、リステリア・イノキュアを104CFU/mlの濃度で播種し、室温で1時間、ストマッカーバッグ中でインキュベートした。使用した細菌希釈物を対照としてプレーティングした。ストマッカーバッグの濾液から各試料1mlを採取し、JS5b-CBD511_f3(1μg/ml)と混合した。対照にはタンパク質を添加しなかった。すぐ後に続いて、400μg/mlのPA-ストレプトアビジンビーズを添加し、オーバーヘッドローレイター中で20分間、インキュベートした。磁性粒子を磁選機中で5分間分離し、続いて、PBST緩衝液で1回洗浄し、緩衝液1ml中に再び溶かした。
【0112】
ビーズ画分および集めた上清(1回目の磁気分離および洗浄段階後)の100μlの未希釈物および1:10希釈物をOxford寒天上にプレーティングし、37℃で一晩インキュベートした。翌日、リステリアを計数し、発見された細菌の何パーセントがJS5b-CBD511_f3を介して磁性ビーズにそれぞれ結合されたかを算出した。スモークサーモンならびにサラミから、90%超の細菌が結合され得ることが示された。
【0113】
実験12:NASBA技術を用いた、食物からのリステリアの検出
リステリア・モノサイトゲネスScottAの一晩培養物をLEB-FDA培地中で1:5希釈し、OD600が約1になるまで37℃で増殖させた。102CFU/mlまでのその段階希釈物を調製した。2×60gのサラミを計量し、5CFU/食物25gの濃度のリステリアで汚染した。試料各60gに、LX培地(BioMerieux)540mlを添加し、試料をホモジナイズし、ストマッカーバッグ中でそれぞれ17時間および12時間、37℃でインキュベートした。続いて、ストマッカーバッグの上清から得た試料1ml中の細菌を、JS5b-CBD511_f2を用いて捕獲した。上清をさらにプレーティングし、対照として計数した。結合タンパク質を濃度1μg/mlで添加し、1分間、試料とインキュベートした。続いて、PA-ストレプトアビジン磁性粒子を濃度400μg/mlで添加し、一晩ローレイター中で20分間、インキュベートした。磁性粒子を磁選機中で5分間分離し、続いて、TT緩衝液(50mM tris、pH8.0、0.1%tween20)各1mlで3回洗浄した。結合した細菌を含む磁性粒子の一定分量をOxford寒天上にプレーティングし、15〜20時間のインキュベーション後に計数して、結合効率を求めた。この結果を図のAの部分に示す。JSタグ-CBDを介して結合されたリステリアを含む磁性粒子の一定分量を、検出のためにNASBAに導入した。ビーズ上の細胞を、溶解緩衝液A(21%DMSO、57mM Tris、0.4%Triton X100)100μlに溶かした5μg/mlのリステリア特異的エンドリシンを用いて、室温で15分間、溶解した。続いて、磁性ビーズを磁選機中で5分間分離し、各NASBA反応に溶解物14μlを使用した。あらかじめ成形されたリステリア特異的プライマービーズをもとから担持する試験紙をそれぞれ試料8個に対して使用した。NASBA用の酵素溶液5μlを各試料に添加し、製造業者のプロトコールに従って反応を実施した。NASBA系として、Nuclisens EasyQアナライザー(BioMerieux)を各サーモブロックと共に使用した。時間依存的な蛍光シグナルに基づいて、データを評価する。成功裡な検出反応後、蛍光シグナルは、約30分の検出時間の後に、より高いレベルまで増加し、そこで留まる。実験アプローチ当たり7回のNASBA反応を実施した。(17時間のインキュベーション後の)NASBA検出を図11bに示す。7回の反応すべてにおいて、陽性の蛍光シグナルが検出され、したがって、特異的RNAプライマーを用いたリステリア検出がうまくいったことを確認することができる。
【0114】
前述の系において、5CFU/25gのリステリア濃度で食物を17時間インキュベーションした後にはすでに、99%超の細菌が結合および検出され得ることが示された。検出は、通常、選択的プレート(図11aを参照されたい)ならびに細菌の捕獲後、約2.5時間しかかからない(図11bを参照されたい)NASBAのような核酸に基づいた方法によって機能する。
【0115】
比較可能な実験は、スモークサーモン、エビ、ブリーチーズ、シチメンチョウソーセージおよびポークソーセージ、ならびにヤギ製クリームチーズでも成功裡に実施された。
【0116】
実験13:JSタグ-CBD(バチルスエンドリシンに由来)の特異的細胞結合
すべての細菌株の一晩培養物を完全培地中で増殖させた。一晩培養物を完全培地(例えば、CASO、LB、TS、TY)中に1:20〜1:5で播種し、OD600が約1になるまでさらに増殖させた。すべてのバチルス細菌に対する増殖温度は30℃であり、他のすべての株に対しては37℃であった。前培養物から希釈系列を調製した。試験アプローチ(体積500μl)において、細菌を濃度103〜104CFUで使用した。使用した各希釈物の正確な細胞数を決定するために、それぞれの対照をプレーティングし、計数した。JSタグ-CBDBaおよびJSタグ-CBD21をそれぞれ、試験アプローチ(緩衝液PBST)に濃度10μg/mlおよび1μg/mlでそれぞれ添加し、約1分、細胞とインキュベートした。続いて、CASO-tween(0.1%)-溶液で前もってブロッキングしておいたMagPrepストレプトアビジン粒子(Merck)を濃度50μg/mlで添加した。試料を細菌結合タンパク質および磁性粒子と共に、オーバーヘッドローレイター中、室温で20分間インキュベートした。磁性粒子を磁選機中で5分間分離し、続いて、PBST 1mlで1回洗浄し、続いて緩衝液中に再懸濁した。結合した細胞を含む再懸濁したビーズ画分ならびに磁気分離後の上清および洗浄溶液を集めた画分をそれぞれ100μlプレーティングした。乾燥後、これらのプレートを各増殖温度で一晩インキュベートし、翌朝計数し、各希釈率に基づいて補正した。結合された細菌全体の何パーセントが、JSタグ-CBDを介して磁性粒子に特異的に結合され、何パーセントが試料から分離されるかがそれぞれ与えられる。特異的結合タンパク質を添加しない試料は、磁性粒子への細菌の潜在的な非特異的結合に関する対照としての機能を果たした。同様にプレーティングし計数した細菌前希釈物が、予想される細胞数に関する別の対照としての機能を果たした。回収された細胞の総数が、導入した全細胞の80%〜120%の範囲で示された実験のみを評価した。1つの試験当たり2〜4回の実験を実施した。様々なバチルス株および他のグラム陽性菌ならびにグラム陰性菌との各結合データの概要を表3に示す。
【0117】
(表3)細胞結合アッセイ法における、様々な細菌株に対するJS-CBDBaおよびJS-CBD21の結合能力
【0118】
予想されたとおり、どちらのCBDも、グラム陰性菌への結合を示さない。しかしながら、セレウス菌ファージから単離した両方のCBDの結合特異性は、予想外に完全に異なっている。CBDBAが、セレウス菌群に由来するバチルスに対して極めて特異的であることが示された。この群のほかは、2種の連鎖球菌株しか認識されない。しかしながら、CBD21は、グラム陽性菌に対して例外的に広範な結合特異性を示す。セレウス菌群の代表的なものはすべて結合され、さらに、B.スフェリカスおよびポリミキサ菌を除く、試験した別のバチルスすべても結合される。珍しいのは、他のファミリーに由来するグラム陽性菌もまた結合されたことである。高い病原菌能力を示すことを特徴とする試験した6ファミリーは、すべて認識された。したがって、CBD21は、病原細菌が問題を招く様々な領域において病原細菌を増菌、分離、および検出するのに特に適している。同じくエンドリシンplyB21に由来する、試験した別の断片と対照的に、本明細書において示す断片(SEQ ID NO: 19)は、高い安定性および低い凝集性を特徴とした。
【0119】
実験14:細菌混合物からのセレウス菌の特異的結合
次の細菌の一晩培養物を完全培地中で増殖させた:セレウス菌(DSM345)、サルモネラ・テネシー、リステリア・モノサイトゲネス(ScottA)、黄色ブドウ球菌、大腸菌HMS174(DE3)。一晩培養物を新鮮な培地に播種し、それぞれ37℃および30℃(バチルス)で、OD600が約1になるまで約3時間増殖させた。これらの株を、約103CFU/mlの希釈率で試験において使用した。各希釈物をプレーティングし、対照として計数した。試験混合物は1mlであり、PBST(20mMリン酸Na、120mM NaCl、pH7.4、0.1%Tween 20)中で実施した。特異的結合タンパク質として、JSタグ-CBDBaを濃度20μg/mlで供給した。対照実験の場合、タンパク質の代わりにPBSTのみを添加した。細菌の前希釈物各10μlを、各試料中の細菌濃度が約103CFU/mlになるように添加した。細菌をこれらの細胞と共に1分間インキュベートした。続いて、100μg/mlのPA-ストレプトアビジン磁性ビーズ(Microcoat)を添加し、これらの試料を回転させながら室温で20分間インキュベートした。磁性粒子を磁選機中で5分間回収し、上清を採取した。分離した磁性粒子をPBST 1mlで5分間、1回洗浄した。洗浄溶液は、上清と共に集めた。磁性ビーズにPBSTを加えて、再び1mlにした。様々な希釈物の各100μlを、一方でCASOプレート(カゼイン、ダイズエキス抽出物;完全培地、Merck)、およびその一方でPEMBAプレート(セレウス菌用の選択培地、ポリミキシンB、卵黄、マンニトールを含む)にプレーティングし、27℃で約18時間インキュベートし、続いて計数した。それぞれ2つの平均値を2回の実験から決定した。回収した細胞の総数は、磁性粒子に結合された細胞と上清および洗浄溶液中にそれぞれ残存している細胞との合計から得た。プレーティングした細胞希釈物を対照として使用した。結果を図12に示す。特異的CBDの添加後のみ、セレウス菌が試料から増菌されるのに対し、タンパク質添加無しの場合、細菌は磁性粒子に結合しないことが示された。また、セレウス菌のみがビーズを介して結合されるのに対し、他の細菌は、上清がプレーティングされたCASOプレート上で増殖するだけであることも示された。
【0120】
実験15:炭水化物を含む食物からのセレウス菌の増菌
食物試料として、調理済みのエクスプレスライス(先端の長い粒のエクスプレスライス、Uncle Ben's製)を使用した。調理済みのエクスプレスライス5gを、TSPB培地(0.01mg/mlポリミキシンBを含むTS完全培地)50mlと共に、無菌的にストマッカーバッグに移し、1分間ホモジナイズした。セレウス菌(DSMZ345)の一晩培養物を30℃でTS培地に播種した。一晩培養物2mlを新鮮なTSPB培地10ml中に移し、OD600=0.8に達するまでインキュベートした。ストマッカーバッグ濾液から得た食物試料990μlにバチルス前培養物の様々な希釈物各10μlを添加し、食物試料中のバチルス濃度が102CFU/ml、103CFU/ml、または104CFU/mlになるようにした。TSPB培地を対照として添加した。室温で5分間のインキュベーション後、試料1つ当たりJSタグ-CBDBa 10μgを添加し、完全に混合した。対照試料には、タンパク質を添加しなかった。約1分後、ストレプトアビジンPA-磁性ビーズ(Microcoat)400μgを添加し、これらの試料を回転させながら室温で20分間インキュベートした。磁性ビーズを磁選機中で5分間回収し、上清を採取した。分離した磁性粒子をPBST 1mlで5分間、2回洗浄した。洗浄溶液は、上清と共に集めた。磁性ビーズにPBSTを加えて、再び1mlにした。磁性粒子および上清をそれぞれ含む試料の様々な希釈物の各100μlを、選択的PEMBAプレートにプレーティングし、続いて30℃で一晩インキュベートし、次いで計数した。それぞれ2プレートに並行してプレーティングした。結果を図13に示す。基本的には、食物試料ならびにTSPB培地に由来するすべてのセレウス菌細胞が、JSタグ-CBDBaに、続いて磁性粒子に選択的に結合されるのに対し、上清および洗浄溶液中にはほとんどセレウス菌細胞は残存していないことが示される。タンパク質を含まない対照試料では、バチルスは磁性粒子に非特異的に結合されなかった。
【0121】
実験16:血液からのセレウス菌の増菌
セレウス菌(DSMZ345)をTB培地中にて30℃で一晩増殖させた。新鮮なTB培地に1:10で播種し、OD600が約1になるまで細菌を増殖させた。クエン酸-血液、EDTA-血液、またはヘパリン-血液各0.5mlをそれぞれPBST 0.5mlと混合した。血液中の添加物はすべて、抗凝血薬として働いた。クエン酸-血液:0.106Mクエン酸を血液で1:10希釈した。EDTA-血液:1.2〜2mg EDTA/ml血液。ヘパリン-血液:10〜30I.U.ヘパリン/ml血液。緩衝化した血液試料1mlにセレウス菌前培養物各10μlを添加し、細菌濃度が約103CFU/mlとなるようにした。さらに、JSタグ-CBD21タンパク質溶液(2mg/ml)5μlを添加し、短時間ボルテックスした。対照には、タンパク質を添加しなかった。続いて、磁性粒子(ストレプトアビジン-PA-ビーズ、Microcoat、10mg/ml)40μlを添加し、これらの試料を回転させながら室温で20分間インキュベートした。磁性粒子を磁選機中で5分間分離した。結合されていない細菌を含む上清を取り出し、PBST 1mlで1回、ビーズを洗浄した(5分)。洗浄溶液は、磁気分離後の上清と共に集めた。JSタグ-CBDおよび細菌の複合体が結合された磁性ビーズにPBST 1mlを添加した。集めた上清および磁性粒子を含む溶液の1:10希釈物各100μlを選択的PEMBAプレートにプレーティングし、約18時間インキュベートし、計数した。それぞれ2回の実験の平均値を求めた。この実験の結果を図14に示す。JSタグ-CBD21の助けにより、血液に由来するほぼすべてのバチルスが分離され得ることが示された。タンパク質を含まない対照において、ヘパリンを含む血液試料に関してのみ、磁性粒子への一定のパーセンテージ(約25%)の非特異的結合が生じることが示された。クエン酸-血液およびEDTA-血液に関しては、非特異的結合の比率(portion)は非常に低かった。
【0122】
実験17:CBD3626のJSタグ構築物を用いたクロストリジウムの結合
文献(Zimmer et al., 2002, Appl. Environm. Microbiol., 68, 5311-5317)に記載されているウェルシュ菌ファージΦ3626のエンドリシンPly3626をベースとして、分子生物学的技術を用いて、JSタグを有する潜在的に適切なCBD3626の様々な変異体を調製した。すべての構築物の発現が最初は非常に乏しいため、クロストリジウムおよび大腸菌において異なるコドン使用に基づいて最適化した合成遺伝子を調製した。hisタグをクローニングした従来の変異体は、非常に低い溶解性しかないが、JSタグを有する変異体は溶解性がより優れていることが判明した。安定に発現させるのに適し、かつ可溶性であり、その結果、続いて精製し、ウェルシュ菌細胞を用いた機能的な結合試験において使用できることが判明した変異体を表4に要約する。それぞれベクターPet21dにおいてクローニングを実施した。発現は、別のプラスミド上でbirAを共発現させ、アンピシリンおよびクロラムフェニコールを含むLB培地において、30℃、大腸菌株HMS174中で実施した。
【0123】
(表4)
【0124】
結合試験のために、ウェルシュ菌の前培養物を、嫌気箱にてTYG培地(トリプトン、酵母抽出物、グルコース(Trypton, yeast extract, glucose))中、45℃で一晩増殖させた。PBST緩衝液1ml中、室温で結合試験を実施した。クロストリジウム細胞を濃度約104CFU/mlで提供し、様々なJSタグ-CBD3626構築物を濃度25μg/mlで添加し、混合し、約2分間インキュベートした。続いて、PA-ストレプトアビジンビーズ(Microcoat)を濃度100μg/mlで添加し、回転させながら10分間インキュベートした。GFPをマーカーとして含む各CBD構築物から試料を採取し、蛍光顕微鏡下で結合に関して解析した。結果を図15に示す。
【0125】
実験18:特異的JSタグ-CBD構築物を用いたブドウ球菌の結合
ブドウ球菌株の一晩培養物をBHI培地中で1:10希釈し、OD600が約1になるまで30℃でインキュベートした。細胞を培地中で希釈し、濃度104CFU/mlで試験において使用した(試験アプローチ500μl、PBST緩衝液)。特異的結合タンパク質JS5b_CBDUSAを濃度10μg/mlで添加し、室温で20分間、細胞とインキュベートした。続いて、PA-ストレプトアビジンビーズ(Microcoat)を濃度200μg/mlで添加し、オーバーヘッドローレイター中で45分間インキュベートした。細胞が結合された磁性粒子を磁選機中で5分間インキュベートし、緩衝液1mlで1回洗浄し、再び緩衝液500μl中に再懸濁した。磁性粒子および集めた上清をCASOプレートにプレーティングし、37℃で一晩インキュベートした。黄色ブドウ球菌およびS.ヘモリチカスを含むプレートは、16時間後に計数することができたが、表皮ブドウ球菌を含むプレートは24時間後まで計数できなかった。結合されたブドウ球菌の比率を、存在する細菌全体と比較して解析した。
【0126】
(表5)
【0127】
JS5b-CBDUSA構築物を用いると、様々な株のブドウ球菌が結合され得るが、黄色ブドウ球菌が最も良く結合する。
【0128】
実験19:CBDおよびJSタグを含む本発明によるポリペプチド構築物は、StrepタグおよびHisタグ(NS-HIS)と組み合わせたCBDよりも、ビーズ-sb結合試験においてブドウ球菌細胞に有意に良く結合する
実験の遂行は、実験18に類似した細胞結合試験において実施した。CBDPitti26(SEQ ID NO: 28)の細胞結合ドメインの本発明によるJSタグポリペプチド構築物を、ビオチン結合用のstrepタグならびにhisタグ(NS-his組合せ)を含む構築物と比較して使用した。CBD構築物はN末端にそれぞれNS-hisおよびJSタグ(変異体5b)を有し、続いて、リンカー配列(AGAGAGAGSEL)およびCBDPitti26配列を有する。Pitti26は、ブドウ球菌ファージの自己単離物である。これらのポリペプチド構築物を試験前に新たに透析し、UV吸収測定値を用いてタンパク質濃度を決定し、これらのタンパク質を濃度10μg/mlで試験に導入した。3種の異なるブドウ球菌株に対する結合挙動を表6に示す。
【0129】
(表6)
【0130】
本発明によるJSタグ-CBD構築物を用いると、3種のブドウ球菌株すべてで細胞結合が検出され得るのに対し、表皮ブドウ球菌細胞が有意に優先されるものの、strepタグおよびhisタグを有する構築物に関しては、同じ条件下で表皮ブドウ球菌細胞に対して非常に弱い結合しか実現され得ない。このことから、本発明による構築物が、他のタグに結合されたCBDよりも、細菌細胞の結合に有意に好適であることが示される。
【0131】
実験20:細胞結合試験における、ブドウ球菌に特異的なJSタグ-CBD構築物によるブドウ球菌結合の検出
実験18で説明した実験設計と同様に、ブドウ球菌に特異的な3種の異なるJSタグ-CBD構築物を使用して、多数の様々なブドウ球菌株を試験した。異なる構築物のCBD部分は、それぞれ、ファージΦSA2usaに由来(JS-CBDUSA)、ファージ自己単離物PlyOpf由来のエンドリシンに由来(JS-CBDOpf)、およびPlyPitti20に由来(JS-CBDPitti20)する。ポリペプチド配列は、それぞれ、SEQ ID NO: 21、31、および、27において確認することができる。これらの実験の結果を図16に示す。
【0132】
本発明によるポリペプチド構築物、JS-CBDUSA、JS-CBDOpf、およびJS-CBDPitti20は、ビーズ結合試験において多数のブドウ球菌株に特異的に結合する。その結果、黄色ブドウ球菌MRSA株は、非MRSA株と同様に良く結合される(図16A)。しかしながら、傾向として(tendentially)、JS-CBDOpfはMRSA株により良く結合するのに対し、JS-CBDUSAは非MRSA株により良く結合することに注目することができる。図16Bは、黄色ブドウ球菌種に属さない別の一連のブドウ球菌株に対する本発明による3種のブドウ球菌JS-CBD-構築物の結合を要約する。その結果、スタフィロコッカス・カルノーサス種、スタフィロコッカス・シウリ種、およびスタフィロコッカス・エクオルム種(1つの例外あり)の株は特異的に結合されないが、表皮ブドウ球菌種、スタフィロコッカス・ヘモリチカス種、腐性ブドウ球菌種、スタフィロコッカス・シミュランス種、スタフィロコッカス・ワーネリ種、およびスタフィロコッカス・キシローサス種の株は、対照的に特異的に結合される。これにより、使用した本発明によるJSタグ-CBD構築物が、多量のヒト病原菌ブドウ球菌株に特異的かつ効率的に結合するのに適していることが示される。
【0133】
実験21:ペルオキシダーゼ試験の助けを借りた、JSタグ-CBD構築物への細胞結合の検出
ペルオキシダーゼ試験は、使用されるStrepTactin-HRP(Horse Radish peroxidase)結合体(IBA,Gottingen)がStrepTacin部分を介してビオチンに結合できる場合にのみ測定シグナルが検出され得るという原理に基づいている。このビオチンは、本発明によるポリペプチド構築物のビオチン化JSタグに共有結合され、その結果として、実験アプローチにおいて細菌細胞に特異的に結合し、したがって、沈殿物画分に存在し、遠心分離段階において保持される。結合されていないJSタグ-CBD構築物は、各遠心分離上清と共に廃棄されるはずであり、したがって、シグナルを生じないはずである。ペルオキシダーゼ試験において使用する前に、本発明によるJSタグ-ポリペプチド構築物をTE緩衝液(20mM Tris、50mM NaCl、5mM EDTA;pH7.0)に対して一晩透析し、続いて、UV吸光度から比吸収係数を用いてタンパク質濃度を決定した。マイクロタイタープレート(Deepwell)を、37℃で1時間、PBST各600μlとインキュベーションすることにより、ブロッキングした。続いて、細菌前培養物および(対照としての)BHI培地各200μlを、ウェル中にそれぞれピペットで分注し、各量のタンパク質溶液(タンパク質濃度10μg/ml)および(対照としての)緩衝液をそれぞれ添加し、室温で15分間インキュベートした。3回の測定をそれぞれ実施した。インキュベーション後、卓上遠心分離機にて(3,600rpm)4℃で10分間、プレートを遠心分離し、上清を採取および廃棄し、沈殿物をPBST 200μlで再び洗浄した。続いて、沈殿物をStrepTactin-HRP-結合体溶液(PBST中で1:5000希釈)200μl中に再懸濁し、室温で30分間インキュベートする。試料を再び遠心分離し、PBST各200μlで2回洗浄し、その際、それぞれ上清を廃棄する。2回目の洗浄段階の後、沈殿物をABTS反応溶液各200μl中に溶かし、405nmでの吸光度(600nmでのバックグラウンド吸光に基づいて補正)を用いて、最長30分間に渡って色反応を測定する。ABTS反応溶液は、以下のように構成される:Mc-Ilvains緩衝液(0.1Mクエン酸、0.2M Na2HPO4、pH5.0)18 mlおよび1% ABTS(2,2 アジノ-ビス(3-エチル)ベンズチアゾリン 6-スルホン酸)(2,2 azino-bis(3-ethyl)benzthiazolin 6-sulfon acid))水溶液2mlおよびH2O2(1%溶液)100μl。
【0134】
本発明による様々なCBD構築物を用いたペルオキシダーゼ試験の結果を図17に示す。JS-CBDOpfおよびJS-CBDPitti20は、ブドウ球菌ファージの自己単離物に由来するCBD構築物である。JS-CBDUSAは、ファージΦSA2usaに由来する。構築物JS-CBDALE-1およびJS-CBDLS中のブドウ球菌溶解酵素ALE-1およびリソスタフィンのCBD部分は、細菌株スタフィロコッカス・キャピティスEPK1およびスタフィロコッカス・シミュランスにそれぞれ由来する。しかしながら、各遺伝子を合成によって調製し、タンパク質をよりうまく発現させるために大腸菌コドン使用に適合させた。
【0135】
図17Aに示すように、
は、様々な凝固酵素陽性の黄色ブドウ球菌株(MRSAおよび非MRSA)ならびに凝固酵素陰性の表皮ブドウ球菌およびS.ヘモリチカスに特異的に、かつ高い効率で結合する。両方のJSタグ構築物が、ほぼ同様の効率でブドウ球菌に結合する。
【0136】
図17Bは、本発明によるポリペプチド
が、ペルオキシダーゼ試験において、黄色ブドウ球菌株(MRSAおよび非MRSA)ならびにS.ヘモリチカス株などの様々なブドウ球菌株に特異的に結合するのに対し、グラム陰性大腸菌株だけでなくグラム陽性病原菌株ミュータンス菌も結合されないことを示す。特に重要視すべきは、ポリペプチド構築物JS-CBDPitti20による強力な細胞結合である。
【0137】
実験22:ペルオキシダーゼ試験の助けを借りた、腸球菌特異的なJSタグ-CBD構築物への細胞結合の検出
ペルオキシダーゼ試験の遂行を、実験21で説明したようにして実施した。本発明による様々なCBD構築物を用いたペルオキシダーゼ試験の結果を図18に示す。JS-CBDEF0355およびJS-CBDEF293は、本発明による2つのJSタグ-CBD構築物であり、CBDは、2つの推定上のプロファージエンドリシンに由来し、これらはそれぞれ、フェカリス菌V583株(アクセッション番号:NC_004668)の完全に公開されているゲノム中の座位タグEF_0355およびEF_1293において見出すことができる。しかしながら、各遺伝子を合成によって調製し、タンパク質をよりうまく発現させるために大腸菌コドン使用に適合させた。完全なエンドリシン配列から、EADの保存されたドメインが欠失されるようにCBDを獲得し、続いて、配列解析ソフトウェアを用いて、タンパク質内部の潜在的なドメインリンカーを探索した。JSタグとCBDの間の新しいリンカーとして、配列
を続いてそれぞれ導入した。10μg/mlのJSタグ-CBD構築物を試験においてそれぞれ使用した。これらの実験の結果を図18に示す。
【0138】
図18Aは、JSタグ-CBD構築物を添加しない対照が、有意に低い測定シグナルを生じることから、ペルオキシダーゼ試験で試験したフェカリス菌株すべてが特異的に結合されることを示す。両方の構築物JS-CBDEF0355およびJS-CBDEF1293が、大半の株に関して極めて類似した結果を生じる。
【0139】
図18Bは、試験したフェシウム菌株が特異的に結合されるが、それらが、若干低い吸収シグナルを部分的に生じることを示す。また、黄色ブドウ球菌株も、良い効率で結合されたたため、腸球菌種に対する結合はあまり特異的ではない。しかしながら、この挙動は、腸球菌のほかに、連鎖球菌およびブドウ球菌もまた結合されることを示したYoong et al. (J.Bact., 2004, 186, 4808-4812)の文献から既知であった。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)エンドリシンまたは別の細胞壁溶解酵素の酵素非活性な細胞壁結合ドメイン、および
(ii)SEQ ID NO:1に記載の配列またはその誘導体
を含むポリペプチドであって、
該細胞壁結合ドメインのほかに、エンドリシンまたは細胞壁溶解酵素の別のドメインを含まない、ポリペプチド。
【請求項2】
他の細胞壁溶解酵素が、自己溶菌酵素、バクテリオシン、およびファージ尾部タンパク質からなる群より選択される、請求項1記載のポリペプチド。
【請求項3】
SEQ ID NO: 1の誘導体が、SEQ ID NO: 2〜18に記載の配列の1つである、請求項1または2記載のポリペプチド。
【請求項4】
ビオチン化されている、前記請求項のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項5】
ポリペプチドまたは他の細胞壁溶解酵素の細胞壁結合ドメインが、グラム陽性菌に結合する能力を示す、前記請求項のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項6】
グラム陽性菌が、クロストリジウム(clostridii)、バチルス(bacilli)、リステリア(listeria)、ブドウ球菌(staphylococci)、乳酸菌(lactobacilli)、腸球菌(enterococci)、アエロコッカス(aerococci)、ペジオコッカス(pediococci)、連鎖球菌(streptococci)、マイコプラズマ(mycoplasma)、および/またはロイコノストック(leuconostoc)からなる群より選択される、請求項5記載のポリペプチド。
【請求項7】
細胞壁結合ドメインが、Ply511、Ply500、Ply118、PlyPSA、EGDe、PLyL、PlyG、PlyPH、PlyB、PlyBa、Ply21、Ply12、フェカリス菌(Enterococcus faecalis)V583プロファージエンドリシン、Ply3626、ウェルシュ菌(Cl. perfringens)の株13および株SM101由来のリシン、ΦP1リシン、PlyV12、PlyC、PlyGBS、Cpl-1、Cpl-7、Cpl-9、Palアミダーゼ、Twortアミダーゼ、黄色ブドウ球菌(S. aureus)ファージPVLアミダーゼ、P68 lys16、ΦSA2usaエンドリシン、Phi11エンドリシンおよびPhi12エンドリシン、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)ファージPhi11の細胞壁加水分解、ファージB30エンドリシン、ファージ168エンドリシン、LysK、S.シミュランス(simulans)のリソスタフィン、S.キャピティス(capitis)のALE-1エンドペプチダーゼ、ファージPhiNIH1.1細胞壁加水分解酵素、LytM、Atl、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)由来のLytA、黄色ブドウ球菌株PS47由来のペプチドグリカン加水分解酵素、フェカリス菌由来のエンテロリシンA、L.モノサイトゲネス(monocytogenes)由来のami自己溶菌酵素、ファージA2のリシンのような乳酸菌リシン、またはファージPL-1アミダーゼであるエンドリシンまたは他の細胞壁溶解酵素の、細胞壁結合ドメインの群より選択される、前記請求項のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項8】
エンドリシンの酵素非活性な細胞壁結合ドメインが、SEQ ID NO: 19〜33記載の配列を示す、前記請求項のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項9】
エンドリシンの酵素非活性な細胞壁結合ドメインとSEQ ID NO: 1記載の配列またはその誘導体との間にスペーサーを提示する、前記請求項のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項10】
以下から構成される配列を提示する、前記請求項のいずれか一項記載のポリペプチド:
(i)SEQ ID NO: 1〜18より選択される配列、
(ii)SEQ ID NO: 19〜33より選択される配列、
(iii)SEQ ID NO: 34〜38より選択される配列、および任意で、
(iv)スペーサーとしてのGFP、GST、またはMBP。
【請求項11】
SEQ ID NO: 39〜53の配列の1つを提示する、請求項10記載のポリペプチド。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項記載のポリペプチドをコードする核酸。
【請求項13】
SEQ ID NO: 1またはその誘導体をコードする部分配列が、SEQ ID NO: 54〜56より選択される配列で始まる、請求項12記載の核酸。
【請求項14】
請求項1〜11のいずれか一項記載のポリペプチドをコードするベクター。
【請求項15】
請求項12または13記載の核酸または請求項14記載のベクターを発現する細胞。
【請求項16】
細菌を結合、増菌、試料から分離、捕獲、および/または検出するための、請求項1〜11のいずれか一項記載のポリペプチドの1つの使用。
【請求項17】
以下の段階を含む、試料から細菌を増菌、分離、捕獲、および/または検出するための方法:
(a)試料を、ビオチン化した請求項1〜11のいずれか一項記載のポリペプチドと接触させる、および/またはインキュベートする段階、
(b)段階(a)で得られたポリペプチド-細菌複合体を、ビオチン結合物質と共に供給される担体と接触させる、および/またはインキュベートする段階、
(c)段階(b)で得られた担体-ポリペプチド-細菌複合体を前記試料から分離する段階、
(d)任意で、前記担体-ポリペプチド-細菌複合体から、非特異的に付着した試料成分を洗浄する段階、
(e)任意で、前記ポリペプチド-細菌複合体から前記担体を分離する段階、ならびに
(f)任意で、前記細菌を検出する段階。
【請求項18】
ビオチン結合物質が、アビジンまたはストレプトアビジンを含む、請求項17記載の方法。
【請求項19】
磁性による方法、クロマトグラフィー法、またはバッチ法によって実施される、請求項18記載の方法。
【請求項20】
段階(f)における検出が、選択的増殖条件、核酸に基づいた方法、細菌細胞壁およびその成分それぞれの検出、マーカーに結合した別の特異的細胞壁結合ドメインを介した細菌成分の検出、ならびに/または微生物学的検出方法、形態学的検出方法、および/もしくは生化学的検出方法の組合せを用いて実施される、請求項17〜19のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
核酸に基づいた方法が、PCR、RT-PCR、PCR-RFLP、rep-PCR-フィンガープリント法、NASBA、DNAハイブリダイゼーション法、多座配列分類(MLST)、およびrRNA比較より選択される、請求項20記載の方法。
【請求項22】
細菌細胞壁およびその成分の検出が、それぞれ、エンドリシンの細胞結合ドメイン、抗体を用いるか、またはFTIRを用いて実施される、請求項20記載の方法。
【請求項23】
細菌成分の検出が、ELISA、酵素活性、多座酵素電気泳動(MEE)、または生物発光アッセイ法を用いて実施される、請求項20記載の方法。
【請求項24】
SEQ ID NO: 19 またはSEQ ID NO: 31に示される配列を含むが、この細胞壁結合ドメインのほかに、エンドリシンの別のドメイン、特に、エンドリシンの完全に酵素活性なドメインを含まない、ポリペプチド。
【請求項25】
細菌を結合、増菌、試料から分離、捕獲、および/または検出するための、SEQ ID NO: 19に示すCBD21のポリペプチド配列、またはSEQ ID NO: 31に示すCBDOpfのポリペプチド配列を含む酵素不活性ポリペプチドの使用であって、該細菌が、ブドウ球菌(Staphylococcus)、連鎖球菌(streptococcus)、腸球菌(enterococcus)、ミクロコッカス(micrococcus)、バチルス(bacillus)、およびリステリアを含む群より選択される、使用。
【請求項26】
ポリペプチドをビオチン化するための方法であって、SEQ ID NO: 1に記載のポリペプチド配列またはその誘導体を含む関心対象のポリペプチドが、細菌細胞で発現され、外因性のビオチンリガーゼが共発現されない、方法。
【請求項27】
ビオチンが添加されない、請求項26記載の方法。
【請求項1】
(i)エンドリシンまたは別の細胞壁溶解酵素の酵素非活性な細胞壁結合ドメイン、および
(ii)SEQ ID NO:1に記載の配列またはその誘導体
を含むポリペプチドであって、
該細胞壁結合ドメインのほかに、エンドリシンまたは細胞壁溶解酵素の別のドメインを含まない、ポリペプチド。
【請求項2】
他の細胞壁溶解酵素が、自己溶菌酵素、バクテリオシン、およびファージ尾部タンパク質からなる群より選択される、請求項1記載のポリペプチド。
【請求項3】
SEQ ID NO: 1の誘導体が、SEQ ID NO: 2〜18に記載の配列の1つである、請求項1または2記載のポリペプチド。
【請求項4】
ビオチン化されている、前記請求項のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項5】
ポリペプチドまたは他の細胞壁溶解酵素の細胞壁結合ドメインが、グラム陽性菌に結合する能力を示す、前記請求項のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項6】
グラム陽性菌が、クロストリジウム(clostridii)、バチルス(bacilli)、リステリア(listeria)、ブドウ球菌(staphylococci)、乳酸菌(lactobacilli)、腸球菌(enterococci)、アエロコッカス(aerococci)、ペジオコッカス(pediococci)、連鎖球菌(streptococci)、マイコプラズマ(mycoplasma)、および/またはロイコノストック(leuconostoc)からなる群より選択される、請求項5記載のポリペプチド。
【請求項7】
細胞壁結合ドメインが、Ply511、Ply500、Ply118、PlyPSA、EGDe、PLyL、PlyG、PlyPH、PlyB、PlyBa、Ply21、Ply12、フェカリス菌(Enterococcus faecalis)V583プロファージエンドリシン、Ply3626、ウェルシュ菌(Cl. perfringens)の株13および株SM101由来のリシン、ΦP1リシン、PlyV12、PlyC、PlyGBS、Cpl-1、Cpl-7、Cpl-9、Palアミダーゼ、Twortアミダーゼ、黄色ブドウ球菌(S. aureus)ファージPVLアミダーゼ、P68 lys16、ΦSA2usaエンドリシン、Phi11エンドリシンおよびPhi12エンドリシン、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)ファージPhi11の細胞壁加水分解、ファージB30エンドリシン、ファージ168エンドリシン、LysK、S.シミュランス(simulans)のリソスタフィン、S.キャピティス(capitis)のALE-1エンドペプチダーゼ、ファージPhiNIH1.1細胞壁加水分解酵素、LytM、Atl、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)由来のLytA、黄色ブドウ球菌株PS47由来のペプチドグリカン加水分解酵素、フェカリス菌由来のエンテロリシンA、L.モノサイトゲネス(monocytogenes)由来のami自己溶菌酵素、ファージA2のリシンのような乳酸菌リシン、またはファージPL-1アミダーゼであるエンドリシンまたは他の細胞壁溶解酵素の、細胞壁結合ドメインの群より選択される、前記請求項のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項8】
エンドリシンの酵素非活性な細胞壁結合ドメインが、SEQ ID NO: 19〜33記載の配列を示す、前記請求項のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項9】
エンドリシンの酵素非活性な細胞壁結合ドメインとSEQ ID NO: 1記載の配列またはその誘導体との間にスペーサーを提示する、前記請求項のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項10】
以下から構成される配列を提示する、前記請求項のいずれか一項記載のポリペプチド:
(i)SEQ ID NO: 1〜18より選択される配列、
(ii)SEQ ID NO: 19〜33より選択される配列、
(iii)SEQ ID NO: 34〜38より選択される配列、および任意で、
(iv)スペーサーとしてのGFP、GST、またはMBP。
【請求項11】
SEQ ID NO: 39〜53の配列の1つを提示する、請求項10記載のポリペプチド。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項記載のポリペプチドをコードする核酸。
【請求項13】
SEQ ID NO: 1またはその誘導体をコードする部分配列が、SEQ ID NO: 54〜56より選択される配列で始まる、請求項12記載の核酸。
【請求項14】
請求項1〜11のいずれか一項記載のポリペプチドをコードするベクター。
【請求項15】
請求項12または13記載の核酸または請求項14記載のベクターを発現する細胞。
【請求項16】
細菌を結合、増菌、試料から分離、捕獲、および/または検出するための、請求項1〜11のいずれか一項記載のポリペプチドの1つの使用。
【請求項17】
以下の段階を含む、試料から細菌を増菌、分離、捕獲、および/または検出するための方法:
(a)試料を、ビオチン化した請求項1〜11のいずれか一項記載のポリペプチドと接触させる、および/またはインキュベートする段階、
(b)段階(a)で得られたポリペプチド-細菌複合体を、ビオチン結合物質と共に供給される担体と接触させる、および/またはインキュベートする段階、
(c)段階(b)で得られた担体-ポリペプチド-細菌複合体を前記試料から分離する段階、
(d)任意で、前記担体-ポリペプチド-細菌複合体から、非特異的に付着した試料成分を洗浄する段階、
(e)任意で、前記ポリペプチド-細菌複合体から前記担体を分離する段階、ならびに
(f)任意で、前記細菌を検出する段階。
【請求項18】
ビオチン結合物質が、アビジンまたはストレプトアビジンを含む、請求項17記載の方法。
【請求項19】
磁性による方法、クロマトグラフィー法、またはバッチ法によって実施される、請求項18記載の方法。
【請求項20】
段階(f)における検出が、選択的増殖条件、核酸に基づいた方法、細菌細胞壁およびその成分それぞれの検出、マーカーに結合した別の特異的細胞壁結合ドメインを介した細菌成分の検出、ならびに/または微生物学的検出方法、形態学的検出方法、および/もしくは生化学的検出方法の組合せを用いて実施される、請求項17〜19のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
核酸に基づいた方法が、PCR、RT-PCR、PCR-RFLP、rep-PCR-フィンガープリント法、NASBA、DNAハイブリダイゼーション法、多座配列分類(MLST)、およびrRNA比較より選択される、請求項20記載の方法。
【請求項22】
細菌細胞壁およびその成分の検出が、それぞれ、エンドリシンの細胞結合ドメイン、抗体を用いるか、またはFTIRを用いて実施される、請求項20記載の方法。
【請求項23】
細菌成分の検出が、ELISA、酵素活性、多座酵素電気泳動(MEE)、または生物発光アッセイ法を用いて実施される、請求項20記載の方法。
【請求項24】
SEQ ID NO: 19 またはSEQ ID NO: 31に示される配列を含むが、この細胞壁結合ドメインのほかに、エンドリシンの別のドメイン、特に、エンドリシンの完全に酵素活性なドメインを含まない、ポリペプチド。
【請求項25】
細菌を結合、増菌、試料から分離、捕獲、および/または検出するための、SEQ ID NO: 19に示すCBD21のポリペプチド配列、またはSEQ ID NO: 31に示すCBDOpfのポリペプチド配列を含む酵素不活性ポリペプチドの使用であって、該細菌が、ブドウ球菌(Staphylococcus)、連鎖球菌(streptococcus)、腸球菌(enterococcus)、ミクロコッカス(micrococcus)、バチルス(bacillus)、およびリステリアを含む群より選択される、使用。
【請求項26】
ポリペプチドをビオチン化するための方法であって、SEQ ID NO: 1に記載のポリペプチド配列またはその誘導体を含む関心対象のポリペプチドが、細菌細胞で発現され、外因性のビオチンリガーゼが共発現されない、方法。
【請求項27】
ビオチンが添加されない、請求項26記載の方法。
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図13C】
【図14】
【図15】
【図16A】
【図16B】
【図17A】
【図17B】
【図18A】
【図18B】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図13C】
【図14】
【図15】
【図16A】
【図16B】
【図17A】
【図17B】
【図18A】
【図18B】
【公表番号】特表2010−512761(P2010−512761A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−541764(P2009−541764)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【国際出願番号】PCT/DE2007/002320
【国際公開番号】WO2008/077397
【国際公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(309037974)バイオメリュー エス.エー. (4)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【国際出願番号】PCT/DE2007/002320
【国際公開番号】WO2008/077397
【国際公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(309037974)バイオメリュー エス.エー. (4)
【Fターム(参考)】
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