説明

グリッドパッチアンテナ

【課題】 透明導電膜を用いず細線状導体の配列により従来より性能が劣らず、且つ従来よりも視界を遮らないグリッドパッチアンテナの提供。
【解決手段】 透明誘電体基板1の一方の面に、細線状導体を複数本平行に配列し、それらの各両端それぞれを交差方向の細線状導体で短絡接続して地板3とし、前記誘電体基板の他方の面に、地板よりは小なる範囲で地板の平行細線状導体と平行に複数の細線状導体を配列し、それらの各両端それぞれを交差方向の細線状導体で短絡接続してパッチ2とし、パッチ2の範囲内に給電点4を設けるか、地板3の短絡導体上パッチ2の幅の範囲内の位置に給電点を設け、マイクロストリップ線路でパッチ2の短絡導体へ接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物或いは車両の窓に設けられても、外部視界の透視ができるだけ遮られないようにするマイクロ波帯のマイクロストリップアンテナの技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
建物や車両の窓に設けられるアンテナであるから、できるだけ視界を遮らないような構成のアンテナが求められる。
そのため電極を設けるための誘電体基板としては、ガラスのような透明誘電体を用い(例えば、特許文献1)、また、電極として透明導電膜を用いたものもあり(例えば、特許文献2)、透明電極ではない例としては細線状導体を網目が形成されるように交差させて配置したものがある(例えば、特許文献3)。
【0003】
図9は、透明誘電体基板の一方の面(図では裏面側)に多数の非透明な細線状の導体を四角い網目ができるように交差させて配置したものを地板9とし、他方の面(図では表面側)に同様の網目状の細線状導体を設けてこれをパッチ10とした従来のグリッドパッチアンテナの斜視図である。
【0004】
図10は、図9のアンテナの指向性計算結果をグラフ化した指向性図である。
【特許文献1】特開2001−189616号公報([0007]、図1)
【特許文献2】特開2003−17931号公報([0010]、図1)
【特許文献3】特表2002−511691号公報([0025]、図6、[0033]、図7)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術において、透明導電膜は、面抵抗値が高くマイクロ波帯ではアンテナとしての効率が悪いという問題があり、また、細線状導体を網目のように交差させて地板やパッチを形成した場合には、建物や車両の窓に設けるには視界が遮られる程度がやはり目障りになるという問題がある。
【0006】
そこで、本発明の課題は、透明導電膜を用いず細線状導体の配置を網目状にしない工夫により、従来のグリッドパッチアンテナの性能に劣らないグリッドパッチアンテナを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のグリッドパッチアンテナは以下の各構成を有する。
本発明の第1の構成は、透明誘電体基板の一方の面に、細線状導体が複数本平行に並んで配列され、それらの各両端それぞれが、前記平行方向と交差する方向で設けられた細線状短絡導体で短絡接続されて地板が形成され、前記誘電体基板の他方の面に、細線状導体が複数本前記平行方向と同じく並んで配列されそれらの各両端それぞれが前記交差方向で設けられた細線状短絡導体で短絡接続されてパッチが形成され、地板側にもパッチの前記短絡導体に対応する範囲に平行細線状導体を短絡する短絡導体を有し、前記パッチ上に給電点を有しその給電点を通り前記交差方向でパッチの複数平行細線状導体間を接続する細線状導体と、該細線状導体と対向する地板上の部分に該部分の複数平行細線状導体間を接続する細線状導体を有することを特徴とするグリッドパッチアンテナである。
【0008】
本発明の第2の構成は、透明誘電体基板の一方の面に、細線状導体が複数本平行に並んで配列され、それらの各両端それぞれが、前記平行方向と交差する方向で設けられた細線状短絡導体で短絡接続されて地板が形成され、前記誘電体基板の他方の面に、細線状導体が複数本前記平行方向と同じく並んで配列されそれらの各両端それぞれが前記交差方向で設けられた細線状短絡導体で短絡接続されてパッチが形成され、地板側にもパッチの前記短絡導体に対応する範囲に平行細線状導体を短絡する短絡導体を有し、地板の交差方向細線状短絡導体のいずれか一方の途中位置に給電点を有し、該給電点と、パッチの、給電点側交差方向細線状短絡導体とが、地板の平行方向細線状導体と平行な前記誘電体基板の他方の面上のマイクロストリップ線路で接続されていることを特徴とするグリッドパッチアンテナである。
【0009】
本発明の第3の構成は、透明誘電体基板の一方の面に、細線状導体が複数本平行に並んで配列されて地板が形成され、前記誘電体基板の他方の面に、細線状導体が複数本前記平行方向に並んで配列されそれらの一方側の各端それぞれが前記平行方向と交差する方向で設けられた細線状短絡導体で短絡接続されてパッチが形成され、地板の前記細線状短絡導体側端部のうちパッチの短絡接続範囲に対応する範囲を短絡する細線状導体を有し、該短絡細線状導体上に給電点を有し、該給電点とパッチの交差方向細線状短絡導体とが、地板の平行方向細線状導体と平行な前記誘電体基板の他方の面上のマイクロストリップ線路で接続されていることを特徴とするグリッドパッチアンテナである。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、平面上に、複数の線状導体が網目を形成するように交差して配列されている場合、交差しているうちの1つの方向が励振電界の方位となるように励振すると、その方向の導体は励振周波数で共振しているので、強い電流が流れる。一方、交差している線状導体に流れる電流は小さいが、これは、交差偏波を発生させ、不要なものである。しかしながら、励振方向と平行している隣の線状導体に励振電流を供給するために必要最小限の励振方向と交差する線状導体が少なくとも一本は必要である。そこで、この励振方向と交差する線状導体からの放射が打ち消し合うように給電点を通るY方向軸に関して対称になるように配置している。
以上の構成とすることで、所望の放射に必要な励振電界方向の線状導体を確保しつつ、不要な放射に寄与する交差方向の線状導体を極力排除することが可能となり、アンテナとしての指向特性は、ある場合に較べて、実用上殆ど劣らないということである。
【0011】
本発明は、この特性に基づいて、地板もパッチも基本的には励振電界の方向に平行に複数の細線状導体を配列したものである。
このことは両端部を除いて、交差方向の細線状導体は存在しないということになり、従来のような網目が形成される交差配列の場合に較べて、視界を遮る目障りの程度は非常に小さくなるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
第1の構成においては、パッチの中央位置から導体の平行方向で概ね6分の1の位置が50Ωに整合する位置であるので、給電点はこの位置に設けるのが最良である。
【0013】
第2の構成においては、パッチ端部のインピーダンスが高いので50Ωに整合させるために、給電用マイクロストリップ線の途中に4分の1波長変成器を設けるのが最良である。
【実施例1】
【0014】
以下、本発明の実施例を図面を参照して説明する。
図1は、本発明中第1の構成の実施例の斜視図である。透明誘電体基板1の下面側に、等間隔で横方向(これをY方向とする)に平行に並んだ細線状導体と、その両端部に、各細線状導体の端部同士を短絡接続するように交差方向(縦方向、これをX方向とする)の細線状導体とからなる地板3が形成されている。
透明誘電体基板1の上面には、縦横の寸法が地板3よりは小さいパッチ2が形成されている。パッチ2も、横方向の細線状導体が等間隔で複数平行に配置され、その両側端はそれぞれの端部を短絡する交差方向(X方向)の細線状導体で短絡接続されている。
【0015】
そして、このパッチの短絡接続導体に対応する地板上にも部分的な交差方向の接続導体が設けられている。給電点4は、パッチ2の中央の位置からパッチの横方向長さの概ね6分の1の位置に設けられている。図では、横方向の7本の細線状導体の真中の導体に給電されるようになっている。
そして、この給電点4を通り交差方向(X方向)に、7本の横方向導体間を接続する細線状導体が設けられており、透明誘電体基板1を挟んで地板3側にも7本の横方向導体間を接続する細線状導体が設けられている。
【0016】
図2は、図1のアンテナの計算による指向性図である。
従来の細線状導体を網目状に配置したアンテナ(図9)の指向性図(図10)に較べて遜色のない特性を示しており、背面方向(180度方向)のレベルはむしろ小さくなっているぐらいである。
【実施例2】
【0017】
図3は、本発明中第2の構成の実施例の斜視図である。
図1の構成と異なる点は、まず給電点の位置が異なる点である。図1ではパッチ2内に設けられていたが図3では地板6の左側のX方向の短絡導体上の中央位置にあり、図示されていない給電線(例えば同軸ケーブル)の外部導体側は地板6のX方向導体に接続され、中心導体側は透明誘電体基板1に設けられた孔を通ってパッチ面側に現れ、その位置からY方向に走るマイクロストリップ線路と50Ωに整合させるための4分の1波長変成器を経てパッチ5の左側X方向導体に接続されている。
【0018】
図4は、図3のアンテナの計算による指向性図である。
パッチ5への給電用のマイクロストリップ線路および4分の1波長変成器からの放射により、E面主偏波指向性が背面側での落ち込みが小さくなって非対称になっているが、概ね図10の指向特性に近い指向特性を示している。
【実施例3】
【0019】
図5は、本発明中第3の構成の実施例の斜視図である。
図3の構成と異なる点は、まず地板8が図3の地板6と異なることである。地板8では右側のX方向導体が設けられておらず、左側においても、全平行導体に渡って設けられているのではなく、パッチ12のX方向幅に対応する範囲にしか設けられておらず、更に、パッチ12の左右両端のX方向に対応するX方向導体も設けられていない。
また、パッチ12も右側のX方向短絡導体を有していない。パッチ12への給電の仕方は図3の構成と同様である。
【0020】
図6は、図5のアンテナの計算による指向性図である。
図4におけると同様に、E面主偏波指向性において、背面側での落ち込みが図10の場合よりも小さくなっているが、前面側においては図10の場合とあまり変わらない。
以上のように、本発明のグリッドパッチアンテナは、地板およびパッチともに、細線状導体を多数平行に配置しその左右各端側で交差方向(X方向)の短絡接続導体を設けたり、設けなかったり、或いは一部範囲に設けるという構成で、従来の図9のように網目状の構成ではないが、このような構成は、反射損失特性および透過損失特性においても、以下に説明する通り、網目構造のものに劣るものではない。
【0021】
図7は、細線状導体を多数縦横に交差させて網目を形成するように配置された場合の、入射電波に対する反射損失特性および透過損失特性を示す図である。
(a)は、網目配置構成を示す図であり、(b)は(a)の構成が無限に続く平面に電波(2.45GHz)が入射した場合に反射する割合と、透過しない割合を損失として計算し結果をグラフにしたものである。
計算は(a)の細線状導体の線幅と、メッシュ間隔の関係を光の透過率が95%で一定に維持されるようにしつつ、メッシュ間隔を広げて行くという条件のもとで行われ各メッシュ間隔に対する反射損失と透過損失を算出した。
(b)はメッシュ間隔を横軸にして両損失をグラフ化したものである。
【0022】
アンテナとしては、入射電波に対して反射量が少なく、透過する量が少ない(換言すれば透過損失が大きい)方がよいことになる。これは入射電波ができるだけ多く受信機へ入力されるものがよいということである。
これを図7の(b)に即して言えば、反射損失は小さく(下方)、透過損失は大きい(上方)程よいということである。
【0023】
メッシュ間隔が1mmでは、反射損失は−15.6dB、透過損失は−0.11dBであるが、メッシュ間隔が広くなるにつれて反射損失は大きくなって(上昇して)行き、透過損失は小さくなって(下降して)行き、メッシュ間隔は10mmでは反射損失は−10dB、透過損失は−0.51dBとなっている。
【0024】
他方、図8は、細線状導体が平行に無限に配置された場合の、入射電波に対する反射損失特性と透過損失特性を示す図である。
(a)は細線状導体の平行配置を示す図であり、(b)は(a)に示す配置が無限に続く平面に電波が入射した場合を図7の場合と同様に算出してグラフ化したものである。即ち、線幅と間隔の関係は光の透過率が95%一定を維持するようにして線幅を変えて行き、設定周波数は2.45GHzである。
【0025】
図8の(b)を見ると、間隔1mmでは、反射損失は−16.4dB、透過損失は−0.1dBであり、図7の(b)と較べると反射損失は小さく、透過損失は大きくなっており、より好ましい数値となっている。
更に、間隔が10mmの場合について見れば、網目配列の図7の(b)では、前述のように、反射損失は−10dB、透過損失は−0.51dBであるのに対して、平行配列の図8の(b)では間隔1mmの場合と変わらず、反射損失は−16.4dB、透過損失は−0.1dBであるから平行配列の方が遥かに好ましいということになる。図7の(b)と図8の(b)を見較べて見れば、図7の(b)の方はメッシュ間隔が10mmまでの場合しか示されていないが、10mmを越える範囲においても、図8の平行配列の方が図7の網目(交差)配列の場合よりもアンテナとしては好ましいものであることが明らかである。
【0026】
以上のように、本発明のアンテナは従来の網目配列形のアンテナと殆ど同等の指向特性を維持しつつ、また入射損失特性および透過損失特性においては優った特性を得つつ、交差方向の導体を用いない構成としたので、建物や車両の窓に配置した場合に、従来の網目型のものよりも目障りにならないという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1の構成の実施例の斜視図である。
【図2】図1のアンテナの、計算による指向性図である。
【図3】本発明の第2の構成の実施例の斜視図である。
【図4】図3のアンテナの、計算による指向性図である。
【図5】本発明の第3の構成の実施例の斜視図である。
【図6】図5のアンテナの、計算による指向性図である。
【図7】細線状導体を多数縦横に交差させて網目を無限に形成するように配置された場合の、入射電波に対する反射損失特性と透過損失特性を示す図である。
【図8】細線状導体が平行に無限に配置された場合の、入射電波に対する反射損失特性と透過損失特性を示す図である。
【図9】透明誘電体基板の一方の面に、多数の非透明な細線状導体を四角い網目ができるように交差させて配置したものを地板とし、他方の面に同様の網目状の細線状導体を設けてこれをパッチとした従来のグリッドパッチアンテナの斜視図である。
【図10】図9のアンテナの指向性計算結果をグラフ化した指向性図である。
【符号の説明】
【0028】
1 透明誘電体基板
2 パッチ
3 地板
4 給電点
5 パッチ
6 地板
7 給電点
8 地板
9 地板
10 パッチ
11 マイクロストリップ線路
12 パッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明誘電体基板の一方の面に、細線状導体が複数本平行に並んで配列され、それらの各両端それぞれが、前記平行方向と交差する方向で設けられた細線状短絡導体で短絡接続されて地板が形成され、前記誘電体基板の他方の面に、細線状導体が複数本前記平行方向と同じく並んで配列されそれらの各両端それぞれが前記交差方向で設けられた細線状短絡導体で短絡接続されてパッチが形成され、地板側にもパッチの前記短絡導体に対応する範囲に平行細線状導体を短絡する短絡導体を有し、前記パッチ上に給電点を有しその給電点を通り前記交差方向でパッチの複数平行細線状導体間を接続する細線状導体と、該細線状導体と対向する地板上の部分に該部分の複数平行細線状導体間を接続する細線状導体を有することを特徴とするグリッドパッチアンテナ。
【請求項2】
透明誘電体基板の一方の面に、細線状導体が複数本平行に並んで配列され、それらの各両端それぞれが、前記平行方向と交差する方向で設けられた細線状短絡導体で短絡接続されて地板が形成され、前記誘電体基板の他方の面に、細線状導体が複数本前記平行方向と同じく並んで配列されそれらの各両端それぞれが前記交差方向で設けられた細線状短絡導体で短絡接続されてパッチが形成され、地板側にもパッチの前記短絡導体に対応する範囲に平行細線状導体を短絡する短絡導体を有し、地板の交差方向細線状短絡導体のいずれか一方の途中位置に給電点を有し、該給電点と、パッチの、給電点側交差方向細線状短絡導体とが、地板の平行方向細線状導体と平行な前記誘電体基板の他方の面上のマイクロストリップ線路で接続されていることを特徴とするグリッドパッチアンテナ。
【請求項3】
透明誘電体基板の一方の面に、細線状導体が複数本平行に並んで配列されて地板が形成され、前記誘電体基板の他方の面に、細線状導体が複数本前記平行方向に並んで配列されそれらの一方側の各端それぞれが前記平行方向と交差する方向で設けられた細線状短絡導体で短絡接続されてパッチが形成され、地板の前記細線状短絡導体側端部のうちパッチの短絡接続範囲に対応する範囲を短絡する細線状導体を有し、該短絡細線状導体上に給電点を有し、該給電点とパッチの交差方向細線状短絡導体とが、地板の平行方向細線状導体と平行な前記誘電体基板の他方の面上のマイクロストリップ線路で接続されていることを特徴とするグリッドパッチアンテナ。




















【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−303846(P2006−303846A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−121850(P2005−121850)
【出願日】平成17年4月20日(2005.4.20)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】