説明

グロメット及びグロメットの防水構造

【課題】グロメットのシール性の低下を防止する。
【解決手段】グロメット10は、電線90が挿入される電線挿入孔21を有し、両端面から電線90が引き出され、自身は筐体60の取付孔62内に挿入されるグロメット本体20と、グロメット本体20のうち、電線挿入孔21の一端側に配置され、電線挿入孔21の内周面に、電線90に弾性的に密着する内周リップ26が形成されているシール部28と、グロメット本体20のうち、電線挿入孔21の他端側に配置され、電線挿入孔21の内周面に、内周リップ26を有さず、その電線挿入孔21の内径寸法が、シール部28の内周リップ26の内径寸法よりも大きくされている非シール部29とを備える。グロメット本体20の他端面から引き出された電線90を屈曲させた場合に、シール部28における電線90の直線性が保たれるように、非シール部29の形成範囲が定められている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グロメット及びグロメットの防水構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のグロメットが、特許文献1に開示されている。このものは、パネルの取付孔内に挿入されるグロメット本体を備えている。グロメット本体内には、電線が挿入される電線挿入孔が貫通して形成されている。そして、グロメット本体は、電線挿入孔の内径寸法が小さい小径筒部と、電線挿入孔の内径寸法が大きい大径筒部とから構成されている。大径筒部の外周面には、環状溝が周回して形成され、環状溝に、パネルの取付孔の内周縁部が嵌着することにより、グロメット本体がパネルに取り付けられるようになっている。また、小径筒部の電線挿入孔の内周面には、複数のシール突起が形成され、各シール突起が電線の外周面に弾性的に当接することにより、グロメット本体内の簡易防水が図られている。一方、電線は、大径筒部の電線挿入孔内に遊挿されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−96840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記の場合に、大径筒部から引き出された電線がその引き出し方向と交差する方向に振られ、大径筒部内で、電線が屈曲させられることがある。そうすると、電線の振幅が内径筒部内にダイレクトに伝わることとなり、電線の屈曲方向に電線挿入孔が拡径される一方、屈曲方向とは反対側に位置するシール突起が電線の外周面から離間して、シール性が低下するおそれがある。
【0005】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、グロメットのシール性の低下を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための手段として、請求項1の発明は、電線が挿入される電線挿入孔を有し、両端面から前記電線が引き出され、自身は被取付体の取付孔内に挿入されるグロメット本体と、前記グロメット本体のうち、前記電線挿入孔の一端側に配置され、前記電線挿入孔の内周面に、前記電線に弾性的に密着する内周リップが形成されているシール部と、前記グロメット本体のうち、前記電線挿入孔の他端側に配置され、前記電線挿入孔の内周面に、内周リップを有さず、その電線挿入孔の内径寸法が、前記シール部の前記内周リップの内径寸法よりも大きくされている非シール部とを備え、前記グロメット本体の他端面から引き出された前記電線を屈曲させた場合に、前記シール部における前記電線の直線性が保たれるように、前記非シール部の形成範囲が定められているところに特徴を有する。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載のものにおいて、前記シール部の外周面に、前記取付孔の内周面に弾性的に密着する外周リップが形成されているところに特徴を有する。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載のものにおいて、前記非シール部の前記電線挿入孔の内径寸法が、前記シール部における前記内周リップを有さないと仮定した場合の前記電線挿入孔の内径寸法とほぼ同じとされているところに特徴を有する。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれか1項記載のグロメットにおいて、前記グロメット本体が前記被取付体の前記取付孔内に挿入されている防水構造であって、前記非シール部の外周面の対向位置に、平坦な一対の切欠面が形成され、前記取付孔の内周面の対向位置に、前記切欠面を面接触状態で受ける一対の受け面が形成されているところに特徴を有する。
【0010】
請求項5の発明は、請求項4に記載のものにおいて、前記グロメット本体の全体が前記取付孔内に収容されているところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0011】
<請求項1の発明>
グロメット本体の他端面から引き出された電線を屈曲させると、非シール部によってグロメット本体の振幅が抑えられ、シール部における電線の直線性が保たれるから、グロメット本体のシール性がシール部で維持される。その結果、グロメットのシール性の低下が防止される。
【0012】
<請求項2の発明>
外周リップが取付孔の内周面に弾性的に密着することにより、グロメット本体と被取付体との間のシールがとられる。
【0013】
<請求項3の発明>
非シール部の電線挿入孔の内径寸法が、シール部における内周リップを有さないと仮定した場合の電線挿入孔の内径寸法とほぼ同じとされているから、非シール部が格別に大きくなることもない。
【0014】
<請求項4の発明>
非シール部の切欠面が取付孔の受け面に面接触状態で受けられるため、グロメット本体の他端面から引き出された電線を屈曲させたときに、電線の屈曲方向に非シール部が変形されるのが回避される。したがって、電線の振幅の影響がシール部に及ぶのがより確実に抑えられる。
【0015】
<請求項5の発明>
グロメット本体の全体が取付孔内に収容されているから、取付孔内からグロメット本体が抜け出るのが防止されるとともに、グロメット本体と被取付体との間のシール代を大きくとることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態1に係るグロメットの防水構造を含む全体構成図である。
【図2】グロメットの防水構造の断面図である。
【図3】グロメットの断面図である。
【図4】グロメットの背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<実施形態1>
本発明の実施形態1を図1ないし図4によって説明する。
グロメット10はゴム製であって、ほぼ円柱ブロック状のグロメット本体20を備えて構成されている。本実施形態の場合、グロメット本体20は被取付体としての筐体60に取り付けられるようになっている。筐体60はアルミニウム又はアルミニウム合金からなり、図1に示すように、その側壁61に、グロメット本体20の全体が挿入される取付孔62が軸方向(前後方向)に貫通して形成されている。側壁61の厚み範囲となる取付孔62の軸方向途中には、図2に示すように、段付部63が形成されており、段付部63を境とする後方の部分に、受け面64が形成されている。受け面64は、平坦な形状であって高さ方向で対をなし、互いにほぼ平行に配置されている。また、筐体60内には、各種電子部品等の部品66が収容されている。
【0018】
グロメット本体20には、複数の電線挿入孔21が軸方向に貫通して形成されている。各電線挿入孔21は、図3及び図4に示すように、グロメット本体20の中央部においてやや横長に集合して配置されている。そして、各電線挿入孔21には、それぞれ電線90が個別に挿入されるようになっている。
【0019】
また、グロメット本体20の前端部はシールゾーン22とされ、グロメット本体20におけるシールゾーン22よりも後方の部分は非シールゾーン23とされている。非シールゾーン23の軸方向の長さは、シールゾーン22の軸方向の長さよりも長くされている。シールゾーン22の外周面と非シールゾーン23の外周面との間には、径方向の段差24が形成され、段差24を介して、シールゾーン22のほうが非シールゾーン23よりも径方向に大きくされている。
【0020】
シールゾーン22の外周面には複数条の外周リップ25が周回して形成されている。筐体60への取り付けにより、各外周リップ25が、取付孔62の内周面に、全周に亘って弾性的に密着するようになっている。また、シールゾーン22の電線挿入孔21の内周面には複数条の内周リップ26が周回して形成されている。各電線挿入孔21への電線90の挿入により、各内周リップ26が、電線90の外周面に、全周に亘って弾性的に密着するようになっている。
【0021】
なお、自然状態では、各内周リップ26の高さ寸法は各外周リップ25の高さ寸法よりも小さくされ、各内周リップ26の幅寸法は各外周リップ25の幅寸法よりも大きくされている。また、各内周リップ26のうちの一部は、非シールゾーン23の電線挿入孔21内に配置されている。
【0022】
非シールゾーン23の各電線挿入孔21の内周面は、その前端部を除いて、内周リップ26が形成されておらず、凹凸の無い平坦な円周面27とされている。本発明の場合、グロメット本体20のうち、内周リップ26が形成されている前端側の領域はシール部28とされ、内周リップ26がされずに平坦な円周面27が形成されている後端側の領域は非シール部29とされている。よって、シール部28のうちの一部は、非シールゾーン23に入り込んでいる。
【0023】
非シール部29の各電線挿入孔21の内径寸法は、シール部28の各内周リップ26の内径寸法よりも大きくされている。非シール部29の各電線挿入孔21内には、電線90が遊嵌状態で挿入されている。具体的には、非シール部29の各電線挿入孔21の内径寸法は、シール部28の各電線挿入孔21において内周リップ26を有さないと仮定した場合における内径寸法とほぼ同じとされている。言い換えれば、各電線挿入孔21は、内周リップ26を有さないとした場合に、グロメット本体20の全長に亘ってほぼ同径で連なっている。
【0024】
非シールゾーン23の外周面における高さ方向の対向位置には、一対の切欠面31が形成されている。両切欠面31は、幅方向に沿った平坦面とされ、互いにほぼ平行に配置されている。また、非シールゾーン23の外周面における幅方向の対向位置には、両切欠面31の間に、一対の円弧面32が形成されている。両円弧面32は、外周リップ25と同心に配置されている。
【0025】
次に、グロメット10の防水構造について説明する。
グロメット本体20の各電線挿入孔21にはそれぞれ電線90が挿入される。シール部28の各内周リップ26は、それぞれ電線90の外周面に弾縮状態で密着し、これによって、各電線90とグロメット本体20との間が液密にシールされる。各電線90はグロメット本体20の前後両端面から引き出され、引き出された各電線90の両端末はコネクタ70内に挿入保持される(図1を参照)。
【0026】
筐体60の取付孔62内にはその表面側となる前方からグロメット本体20が挿入される。グロメット本体20が正規挿入されると、グロメット本体20の段差24が取付孔62の段付部63に当て止めされ、グロメット本体20のほぼ全体が取付孔62内に位置決め状態で収容される(図2を参照)。また、このとき、各外周リップ25が取付孔62の内周面に弾縮状態で密着し、これによって、グロメット本体20と筐体60との間が液密にシールされる。さらに、グロメット本体20の非シールゾーン23の切欠面31が取付孔62の受け面64に面接触状態で当接可能に配置され、これによって、取付孔62内におけるグロメット本体20の軸周りの遊動が規制される。なお、グロメット本体20の後端面から引き出された各電線90は、筐体60内の部品66との干渉を回避するべく、ほぼ軸直交方向に屈曲させられた後、筐体60の内壁面に沿って配索される。このとき、筐体60の内壁面に付設されたクリップ50によって各電線90が筐体60の内壁面に固定される。
【0027】
側壁61の表面には、取付孔62の周りを包囲するようにして押さえ板40がボルト45を介して固定されている。グロメット本体20の前端面の周囲部には、押さえ板40が当接しており、これによってグロメット本体20の前方への抜け出しが規制されるようになっている。
【0028】
さて、各電線90は、図2に示すように、グロメット本体20の各電線挿入孔21の後端開口縁を支点として、軸交差方向に屈曲させられる。このとき、各電線90は、非シール部29の電線挿入孔21内では傾斜して配置されるものの、その傾斜角は小さく抑えられ、かつ、シール部28の電線挿入孔21内ではその直線性が保たれるようになっている。言い換えれば、非シール部29の形成範囲は、シール部28において各電線90の直線性が保たれる範囲に規定されている。このため、各電線90の屈曲動作の前後で、各電線90と内周リップ26との間のシール代が大きく変わることがなく、所定のシール性が維持される。
【0029】
以上説明したように、本実施形態によれば、グロメット本体20の後端面から引き出された各電線90を屈曲させると、非シール部29によってグロメット本体20の振幅が抑えられ、シール部28における各電線90の直線性が保たれるから、グロメット本体20のシール性がシール部28で維持される。その結果、グロメット10のシール性の低下が防止される。
【0030】
また、非シール部29の各電線挿入孔21の内径寸法が、シール部28における内周リップ26を有さないと仮定した場合の各電線挿入孔21の内径寸法とほぼ同じとされているから、非シール部29が格物に大きくなることもない。
【0031】
また、非シールゾーン23の切欠面31が筐体60の取付孔62の受け面64に面接触状態で受けられるため、グロメット本体20の後端面から引き出された各電線90を屈曲させたときに、各電線90の屈曲方向に非シールゾーン23ひいては非シール部29が変形されるのが回避される。したがって、各電線90の振幅の影響がシール部28に及ぶのがより確実に抑えられる。
【0032】
さらに、グロメット本体20の全体が筐体60の取付孔62内に収容されているから、取付孔62内からグロメット本体20が抜け出るのが効果的に防止されるとともに、グロメット本体20と筐体60との間のシール代を大きくとることができる。
【0033】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)実施形態1では、グロメットがグロメット本体からなる構成であったが、本発明によれば、グロメットには、グロメット本体以外の部分が含まれていてもよい。
(2)実施形態1では、非シールゾーンの形成範囲がシールゾーンの形成範囲よりも大きくされていたが、本発明によれば、シールゾーンの形成範囲が非シールゾーンの形成範囲よりも大きくされるようにしてもよい。
(3)実施形態1では、グロメット本体の前端側にシール部が形成され、グロメット本体の後端側に非シール部が形成されていたが、本発明によれば、グロメット本体の後端側にシール部が形成され、グロメット本体の前端側に非シール部が形成されるようにしてもよい。この場合、筐体の表面側にシール部が配置されることとなる。
【符号の説明】
【0034】
10…グロメット
20…グロメット本体
21…電線挿入孔
25…外周リップ
26…内周リップ
28…シール部
29…非シール部
31…切欠面
60…筐体(被取付体)
62…取付孔
64…受け面
90…電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線が挿入される電線挿入孔を有し、両端面から前記電線が引き出され、自身は被取付体の取付孔内に挿入されるグロメット本体と、
前記グロメット本体のうち、前記電線挿入孔の一端側に配置され、前記電線挿入孔の内周面に、前記電線に弾性的に密着する内周リップが形成されているシール部と、
前記グロメット本体のうち、前記電線挿入孔の他端側に配置され、前記電線挿入孔の内周面に、内周リップを有さず、その電線挿入孔の内径寸法が、前記シール部の前記内周リップの内径寸法よりも大きくされている非シール部とを備え、
前記グロメット本体の他端面から引き出された前記電線を屈曲させた場合に、前記シール部における前記電線の直線性が保たれるように、前記非シール部の形成範囲が定められていることを特徴とするグロメット。
【請求項2】
前記シール部の外周面に、前記取付孔の内周面に弾性的に密着する外周リップが形成されている請求項1記載のグロメット。
【請求項3】
前記非シール部の前記電線挿入孔の内径寸法が、前記シール部における前記内周リップを有さないと仮定した場合の前記電線挿入孔の内径寸法とほぼ同じとされている請求項1又は2記載のグロメット。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項記載のグロメットにおいて、前記グロメット本体が前記被取付体の前記取付孔内に挿入されている防水構造であって、
前記非シール部の外周面の対向位置に、平坦な一対の切欠面が形成され、前記取付孔の内周面の対向位置に、前記切欠面を面接触状態で受ける一対の受け面が形成されているグロメットの防水構造。
【請求項5】
前記グロメット本体の全体が前記取付孔内に収容されている請求項4記載のグロメットの防水構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−211843(P2011−211843A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77771(P2010−77771)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】