説明

ケーブル制振構造

【課題】 ケーブルの制振効果に優れ、かつ構造化簡易で施工性にも優れるケーブル制振構造を提供する。
【解決手段】 支柱1の上部から下方へ向けて互いに異なる角度で傾斜する複数本のケーブル2によって被支持体3を吊持する構造体におけるケーブル2の制振構造であって、2本以上のケーブル2の中間部2aと支柱1とを、振動減衰効果を有する横繋ぎ材4によって、ケーブル2の延在方向と交差する方向に連結した。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、斜張橋等の被支持体が多数本のケーブルによって吊持された構造体における当該ケーブルの制振構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】一般に、構造物における支持構造の一種として、基盤上に支柱を立設し、この支柱の上部から下方へ向けて互いに異なる角度で傾斜する複数本のケーブルによって、下方に配設された被支持体を吊持するものが知られている。図4は、従来のこの種の構造体の一例である斜張橋を示すもので、図中符号10が所定の間隔をおいて設けられた橋脚に立設された支柱であり、符号11が橋桁(被支持体)である。そして、この橋桁11は、支柱10の頂部から互いに異なる角度で傾斜する複数本のケーブル12の下端部が連結されることにより、上記支柱10によって支承されている。
【0003】上記支承構造による斜張橋によれば、橋桁11の荷重を、ケーブル12を介して支柱10における圧縮荷重として支承することができ、よって強度的に有利であるとともに、別途橋桁11の下部に多数本の柱を必要としないために、外観にも優れ、かつ施工が容易で経済性にも優れるという利点がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところで、上記斜張橋のような、支柱10から吊設された複数本のケーブル12によって橋桁(被支持体)11を支承する構造体においては、当該橋桁11に重量の大きな車が通過した場合のように、大きな移動偏荷重が作用することにより、あるいは強風によりケーブル12の下流側にカルマン渦が発生することにより、当該ケーブル12に振動が発生し、この結果橋桁11等の被支持体の支承が不安定になる虞がある。
【0005】このため、例えば図4に示したような従来の斜張橋においては、上記ケーブル12同士を水平方向に張設したワイヤ13によって互いに連結することにより、上述したケーブル12における振動の発生を抑制するようにしている。また、他のケーブルの制振構造として、ケーブル12自体の外装材に異形物を添設し、ケーブル12の固有振動数を変化させたり、あるいは当該ケーブル12に直列的にスプリングやオイルダンパーを設けることにより、上記振動を抑制したものも知られている。
【0006】しかしながら、図4に示した従来のケーブル12の制振構造にあっては、ワイヤ13によって個々のケーブル12の振動を抑制することはできるものの、連結された複数本のケーブル12全体の面外方向への振動が励起されるという問題点があった。
【0007】また、ケーブルの外装材に異形物を添設するものにあっては、当該異形物の加工や取り付け作業に多大の手間を要するという欠点があり、さらにスプリングやオイルダンパーを設けるものによれば、各ケーブル毎に設置する必要があるために、施工費用の高騰化を招くとともに、当該スプリングやオイルダンパーによって、ケーブル12に経時的なクリープ歪が生じて耐力の低下を招く虞があるために、その調整が難しいという問題点があった。
【0008】本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、ケーブルの制振効果に優れ、かつ構造化簡易で施工性にも優れるケーブル制振構造を提供することを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】請求項1に記載の本発明に係るケーブル制振構造は、支柱の上部から下方へ向けて互いに異なる角度で傾斜する複数本のケーブルによって被支持体を吊持する構造体における上記ケーブルの制振構造であって、2本以上の上記ケーブルの中間部と支柱とを、振動減衰効果を有する横繋ぎ材によって、当該ケーブルの延在方向と交差する方向に連結したことを特徴とするものである。
【0010】ここで、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の横繋ぎ材が、高減衰ゴム、粘弾性材、アルミニウム材および鋼線の1種または2種以上の組み合わせからなることを特徴とするものであり、さらに請求項3に記載の発明は、上記横繋ぎ材が、アルミニウム材と高減衰ゴムとが長手方向と直交する方向に交互に積層されてなることを特徴とすものである。
【0011】請求項1〜3のいずれかに記載の発明によれば、被支持体を吊持する2本以上のケーブルの中間部と支柱とを、振動減衰効果を有する横繋ぎ材によって互いに連結しているので、強風や大きな偏荷重の移動等によって上記ケーブルに振動が発生しようとする際に、上記横繋ぎ材の減衰効果によって、当該ケーブル自体における振動が減衰される。加えて、上記横繋ぎ材は、支柱に固定されているので、複数のケーブルにおける延在方向と直交する面外方向の振動も抑制される。
【0012】この際に、複数本のケーブルは、支柱の上部から下方へ向けて互いに異なる角度で傾斜する結果、互いの長さが異なるために、各ケーブルの固有振動数も異なる。これにより、各ケーブル間に相対変位が生じ、よって上記横繋ぎ材による減衰効果が有効に作用する。さらに、ケーブルと直列に構造物以外のものを接続していないために、経時的にケーブルの耐力が低下する虞もなく、かつ構造が簡易であるために施工性に優れて経済的である。
【0013】ここで、上記横繋ぎ材としては、減衰効果を有する各種の素材が適用可能であるが、例えば請求項2に記載の発明のように、汎用材である高減衰ゴム、粘弾性材、アルミニウム材および鋼線の1種または2種以上の組み合わせからなるものを用いることが好適である。
【0014】さらに、上記横繋ぎ材の好ましい態様としては、請求項3に記載の発明のように、アルミニウム材と高減衰ゴムとを長手方向と直交する方向に交互に積層して一体化したものが挙げられる。かかる構成の横繋ぎ材を用いた場合には、ケーブルの振動によって当該横繋ぎ材の曲げ変形を受ける際に、アルミニウム材間に挟持された高減衰ゴムが両アルミニウム材の相対変位を緩衝することにより、上記振動を減衰させることができる。
【0015】
【発明の実施の形態】図1は、本発明のケーブル制振構造を斜張橋のケーブルに適用した一実施形態を示すもので、図中符号1が図示されない橋脚上に立設された支柱である。そして、この支柱1の上端部に、複数本(図では両方向のそれぞれ3本ずつ、合計6本)のケーブル2の上端が連結され、互いに異なる角度で傾斜するように配設されたこれらケーブル2の下端部が橋桁(被支持体)3に連結されることにより、当該橋桁3はケーブル2を介して支柱1により支承されている。
【0016】そして、全てのケーブル2の中間部2aと支柱1とは、水平方向に配設された振動減衰効果を有する横繋ぎ材4によって、ケーブル2の延在方向と交差する方向に連結されている。ここで、横繋ぎ材4としては、高減衰ゴム、高分子化合物を用いた粘弾性材、アルミニウム材および細い鋼線の1種または2種以上の組み合わせからなるものが用いられている。
【0017】また、図2は、本発明の他の実施形態を示すもので、このケーブル制振構造においては、高さ方向の2箇所において、全てのケーブル2の中間部2b、2cと支柱1とが、それぞれ水平方向に配設された振動減衰効果を有する横繋ぎ材4によって、ケーブル2の延在方向と交差する方向に連結されている。
【0018】さらに、図3は、上記横繋ぎ材の他の実施形態を示すもので、この横繋ぎ材5は、長手方向に対向配置されたアルミニウム材6の板面間に高減衰ゴム7を挟むことにより、これらアルミニウム材6と高減衰ゴム7とを長手方向と直交する交互に積層・一体化したもので、同様に支柱1とケーブル2の中間部2a、2b、2cとを連結するものである。
【0019】以上の構成からなるケーブルの制振構造によれば、橋桁3を吊持するケーブル2の中間部2aまたは中間部2b、2cと支柱1とを、振動減衰効果を有する横繋ぎ材4または横繋ぎ材5によって互いに連結しているので、強風や大きな偏荷重の移動等によってケーブル2に振動が発生しようとする際に、横繋ぎ材4、5の減衰効果によって、ケーブル2自体における振動を減衰することができる。特に、図3に示した横繋ぎ材5によれば、アルミニウム材6間に挟持された高減衰ゴム7によって、ケーブル2における振動を横繋ぎ材5の曲げ変形による減衰効果によって効果的に抑制することができる。
【0020】しかも、横繋ぎ材4、5は、支柱1に固定されているので、複数のケーブル2における延在方向と直交する面外方向の振動も抑制することができる。この際に、ケーブル2は、支柱1の上部から下方へ向けて互いに異なる角度で傾斜しているので、互いの長さが異なる。この結果、各ケーブル2の固有振動数も異なることになり、よって各ケーブル2間に相対変位が生じて、横繋ぎ材4、5による減衰効果をより一層有効に発揮させることができる。さらに、ケーブルと直列に構造物以外のものを接続していないために、経時的にケーブルの耐力が低下する虞もなく、かつ構造が簡易であるために施工性に優れて経済的である。
【0021】なお、上記実施形態においては、本発明を斜張橋におけるケーブル2の制振構造に適用した場合についてのみ説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、同様の支柱の上部から下方へ傾斜して吊設された複数本のケーブルで支持体を支承する各種の構造体における当該ケーブルの制振に適用することができ、かつ同様の作用効果を得ることができる。
【0022】
【発明の効果】以上説明したように、請求項1〜3のいずれかに記載のケーブル制振構造によれば、強風等によってケーブルに振動が発生しようとする際に、横繋ぎ材の減衰効果によって、当該ケーブル自体における振動を減衰することができるとともに、上記横繋ぎ材を支柱に固定している結果、複数のケーブルにおける延在方向と直交する面外方向の振動も効果的に抑制することができる。しかも、ケーブルと直列に構造物以外のものを接続していないために、ケーブルの耐力が低下する虞もなく、かつ構造が簡易であるために施工性が容易でかつ経済性にも優れるといった効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態を示す正面図である。
【図2】本発明の他の実施形態を示す正面図である。
【図3】上記実施形態で使用される他の振動減衰材の構成を示す要部の正面図である。
【図4】従来の斜張橋のケーブル制振構造を示す正面図である。
【符号の説明】
1 支柱
2 ケーブル
2a、2b、2c ケーブルの中間部
3 橋桁(被支持体)
4、5 横繋ぎ材
6 アルミニウム材
7 高減衰ゴム

【特許請求の範囲】
【請求項1】 支柱の上部から下方へ向けて互いに異なる角度で傾斜する複数本のケーブルによって被支持体を吊持する構造体における上記ケーブルの制振構造であって、2本以上の上記ケーブルの中間部と上記支柱とを、振動減衰効果を有する横繋ぎ材によって、当該ケーブルの延在方向と交差する方向に連結したことを特徴とするケーブル制振構造。
【請求項2】 上記横繋ぎ材は、高減衰ゴム、粘弾性材、アルミニウム材および鋼線の1種または2種以上の組み合わせからなることを特徴とする請求項1に記載のケーブル制振構造。
【請求項3】 上記横繋ぎ材は、アルミニウム材と高減衰ゴムとが長手方向と直交する方向に交互に積層されてなることを特徴とする請求項1または2に記載のケーブル制振構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2001−254313(P2001−254313A)
【公開日】平成13年9月21日(2001.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−69742(P2000−69742)
【出願日】平成12年3月14日(2000.3.14)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】