説明

ゲムシタビンの調製

塩酸ゲムシタビンの調製およびその精製のためのプロセス。このプロセスは、i)ヨウ素および低級アルコール溶媒を用い、式IIIの化合物を、式IVの化合物へと変換後、共沸蒸留する工程;ii)第三級ブチルジフェニルシリルクロリドをヒドロキシ保護試薬として用いて式IVの化合物のヒドロキシ基を保護し、式Vの化合物を得る工程;iii)適切な還元試薬を用いて式Vの化合物を還元し、式VIの化合物を得る工程;iv)適切な塩基の存在下において、アルキルまたはアリールスルホニルクロリドを用いて式VIの化合物を保護し、式VIIの化合物を得る工程;v)適切な塩基の存在下において、式VIIの化合物を式VIIIのN−アセチルシトシン化合物と縮合させ、式IXの化合物を得る工程;およびvi)適切な試薬を用いて式IXの化合物を脱保護してゲムシタビンを得る工程を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の概論)
本発明は、ゲムシタビンおよびその塩の調製のためのプロセスに関する。一局面において、本発明は、プロセス関連の不純物を含まない塩酸ゲムシタビンを提供するプロセスに関する。
【0002】
塩酸ゲムシタビンは、化学的には2’−デオキシ−2’,2’−ジフルオロシチジンモノヒドロクロリド(β−アノマー)として知られ、構造式I
【0003】
【化11】

を有する薬物化合物に対して採用された名称である。
【背景技術】
【0004】
塩酸ゲムシタビンは、抗腫瘍活性を示すヌクレオシドアナログであり、注射薬の形態で商標名GEMZAR(登録商標)として市場から入手可能である。一瓶のGemzarは、200mgまたは1gのゲムシタビン遊離塩基に相当する塩酸ゲムシタビンを含む。
【0005】
ゲムシタビンを調製するための方法は、当該技術分野において公知である。例えば特許文献1は、塩酸ゲムシタビン、塩酸ゲムシタビンを含む組成物、およびヘルペスウイルス感染の処置におけるそれらの使用を開示している。また、特許文献1は、塩酸ゲムシタビンの調製のためのプロセスについても記載している。このプロセスは、本発明の式IIIの化合物の式IVの化合物への変換のための加水分解試薬(例えば、弱酸性イオン交換樹脂)の使用を開示している。
【0006】
特許文献2は、2−デオキシ−2,2−ジフルオロ−D−エリスロ−ペントフラノース−1−ウロース−3,5−ジベンゾエートの調製において加水分解試薬(例えば、強酸)を用いることによる塩酸ゲムシタビンの調製のためのプロセスを開示している。
【0007】
特許文献3は、塩酸ゲムシタビンの調製のためのプロセスを開示している。この出願は、2−デオキシ−2,2−ジフルオロ−D−エリスロ−ペントフラノース−1−ウロース−3,5−ジベンゾエートの調製およびその精製プロセスのための加水分解試薬(例えば、強酸)の使用について記載している。また、この出願は、塩酸ゲムシタビンの95%富化(enriched)β−アノマーの水への溶解および溶媒(例えば、イソプロピルアルコールまたはアセトニトリルまたはアセトン)を用いた単離による塩酸ゲムシタビンの精製のためのプロセスについて記載している。
【0008】
上記アプローチは、非保護または保護ラクトンの形成の中で、加水分解剤として弱酸性イオン交換樹脂および強酸を使用する。どちらの種類の加水分解剤も、ラクトン環、望ましくない反応生成物、不純物の形成といった不都合を生じ、多くの場合、ラクトンが、その強酸および樹脂への感受性の故に、鎖状の前駆体に戻る。
【0009】
特許文献4は、アノマー不純物に関する塩酸ゲムシタビンの精製のためのプロセスであって、熱水への1:1α/βアノマー混合物の溶解後、還流にてアセトンを添加する工程、およびこの溶液を約−10℃〜50℃の温度へ冷却する工程を包含するプロセスを開示している。沈殿した塩酸ゲムシタビンを回収し、上記プロセスを繰り返すことによりさらなる精製に供し、精製されたβアノマーの塩酸ゲムシタビンが得られた。
【0010】
特許文献5は、塩酸ゲムシタビンの調製のためのプロセスを開示している。この出願は、保護基(例えば、p−クロロまたはp−メチルまたはp−ニトロベンゾイル)を用いることによりゲムシタビンを調製するためのプロセスについて記載している。また、この出願は、水中に塩酸ゲムシタビンの95%富化βアノマーをスラリー化し、次いでアセトンを用いて固体を形成することによる、塩酸ゲムシタビンの精製のためのプロセスについても記載している。水およびアセトンまたはアセトニトリルまたはイソプロパノールを用いて塩酸ゲムシタビンを再度精製し、99.9%のβ富化塩酸ゲムシタビンが得られた。
【0011】
特許文献6は、水および酢酸による再結晶化を用いることにより塩酸ゲムシタビンを精製し、元の95%β−アノマーから99.94%のβ−アノマーを得るためのプロセスを開示している。
【0012】
本発明は、中間体の調製のためのプロセス、およびα−アノマーを実質的に含まない所望のβ−アノマーの塩酸ゲムシタビンを得るための精製技術の改善に関する。
【0013】
本発明に従って、単純で、環境にやさしく、費用効果的で、頑強で、産業規模での使用に適したより良い調製技術を用いた、所望の純度および収率を有する塩酸ゲムシタビンおよびその中間体の調製のための好都合なプロセスが提供される。
【特許文献1】米国特許第4,808,614号明細書
【特許文献2】米国特許第5,223,608号明細書
【特許文献3】国際公開第2005/095430号パンフレット
【特許文献4】米国特許第5,945,547号明細書
【特許文献5】国際公開第2006/095359号パンフレット
【特許文献6】国際公開第2006/092808号パンフレット
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0014】
(発明の要旨)
本発明は、塩酸ゲムシタビンおよびその中間体の調製のためのプロセスを提供する。
【0015】
一局面において、本発明は、ゲムシタビンまたはその塩の調製のためのプロセスを提供し、このプロセスは、
i)ヨウ素および低級アルコール溶媒を用い、式IIIの2−ジフルオロ−3−ヒドロキシ−3(2,2−ジメチルジオキサラン−4−イル)プロピオネートを、式IVの2−デオキシ−2,2−ジフルオロ−1−オキソリボースへと変換後、共沸蒸留する工程;
ii)第三級ブチルジフェニルシリルクロリドをヒドロキシ保護試薬として用いて式IVの化合物のヒドロキシ基を保護し、式Vの3,5−ビス(第三級ブチルジフェニルシリルオキシ)−2−デオキシ−2,2−ジフルオロ−1−オキソリボースを得る工程;
iii)適切な還元試薬を用いて式Vの化合物を還元し、式VIの3,5−ビス(第三級ブチルジフェニルシリルオキシ)−2−デオキシ−2,2−ジフルオロリボースを得る工程;
iv)適切な塩基の存在下において、アルキルまたはアリールスルホニルクロリドを用いて式VIの化合物を保護し、式VIIの3,5−ビス(第三級ブチルジフェニルシリルオキシ)−1 メタンスルホニルオキシ−2−デオキシ−2,2−ジフルオロリボースを得る工程;
v)適切な塩基の存在下において、式VIIの化合物を式VIIIのN−アセチルシトシン化合物と縮合させ、式IXの1−[2’−デオキシ−2’,2’−ジフルオロ−3'、5'−リボフラノース−3,5−ビス(第三級ブチルジフェニルシリルオキシ)シトシンを得る工程;および
vi)適切な試薬を用いて式IXの化合物を脱保護してゲムシタビンを得る工程
を包含し、その後、このゲムシタビンを酸と反応させることにより酸付加塩へと変換し得る。
【0016】
別の局面において、本発明は、塩酸ゲムシタビンを精製して、β−アノマーについて富化された塩酸ゲムシタビンを得るためのプロセスに関する。
【0017】
一実施形態において、塩酸ゲムシタビンの精製のためのプロセスは:
a)水性溶媒中の塩酸ゲムシタビンの溶液を提供する工程;
b)この溶液中の塩酸ゲムシタビンの濃度を増大させて沈殿を生じさせる工程;
c)β−アノマーを富化した化合物を単離する工程
を包含する。
【0018】
本発明の一実施形態は、ゲムシタビンまたはその塩を調製するためのプロセスを提供し、このプロセスは、式IV:
【0019】
【化12】

を有する化合物をt−ブチルジフェニルシリルクロリドと反応させて、式V:
【0020】
【化13】

を有する化合物を形成する工程を包含する。
【0021】
本発明の別の実施形態は、式:
【0022】
【化14】

を有する化合物を提供する。
【0023】
本発明のさらなる実施形態は、式:
【0024】
【化15】

を有する化合物を提供し、ここで、「OMs」はメタンスルホニル基を表す。
【0025】
本発明のさらなる実施形態は、式:
【0026】
【化16】

を有する化合物を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
(発明の詳細な説明)
本発明は、一般に、塩酸ゲムシタビンおよびその中間体の調製のためのプロセスに関する。
【0028】
一局面において、本発明は、ゲムシタビンまたはその塩の調製のためのプロセスを提供し、このプロセスは、
i)ヨウ素および低級アルコール溶媒を用い、式III
【0029】
【化17−1】

の2,2−ジフルオロ−3−ヒドロキシ−3(2,2−ジメチルジオキサラン−4−イル)プロピオネートを式IV
【0030】
【化17−2】

の2−デオキシ−2,2−ジフルオロ−1−オキソリボースへと変換後、共沸蒸留する工程;
ii)第三級ブチルジフェニルシリルクロリドをヒドロキシ保護試薬として用いて式IVの化合物のヒドロキシ基を保護し、式V
【0031】
【化18】

の3,5−ビス(第三級ブチルジフェニルシリルオキシ)−2−デオキシ−2,2−ジフルオロ−1−オキソリボースを得る工程;
iii)適切な還元試薬を用いて式Vの化合物を還元し、式VI
【0032】
【化19】

の3,5−ビス(第三級ブチルジフェニルシリルオキシ)−2−デオキシ−2,2−ジフルオロリボースを得る工程;
iv)適切な塩基の存在下において、アルキルまたはアリールスルホニルクロリドを用いて式VIの化合物を保護し、式VII
【0033】
【化20】

(ここで、「OMs」は、メタンスルホニル基を表す)の3,5−ビス(第三級ブチルジフェニルシリルオキシ)−1 メタンスルホニルオキシ−2−デオキシ−2,2−ジフルオロリボースを得る工程;
v)適切な塩基の存在下において、式VIIの化合物を、式VIII
【0034】
【化21−1】

のN−アセチルシトシンと縮合し、式IX
【0035】
【化21−2】

の1−[2’−デオキシ−2’,2’−ジフルオロ−3',5'−リボフラノース−3,5−ビス(第三級ブチルジフェニルシリルオキシ)シトシンを得る工程;
vi)適切な試薬を用いて式IXの化合物を脱保護してゲムシタビンを得る工程
を包含し、このゲムシタビンは、その後、酸と反応させることにより酸付加塩へと変換され得る。
【0036】
工程i)は、ヨウ素および低級アルコール溶媒を用いた、式IIIの2,2−ジフルオロ−3−ヒドロキシ−3(2,2−ジメチルジオキサラン−4−イル)プロピオネート化合物の、式IVの2−デオキシ(desoxy)−2,2−ジフルオロ−1−オキソリボースへの変換、それに続く共沸蒸留を含む。
【0037】
工程i)のプロセスにおいて使用し得る低級アルコール溶媒は、1個〜約6個の炭素原子を有し、直鎖または分枝鎖であり、これとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノールなどが挙げられる。
【0038】
反応媒体に使用し得る適切な溶媒としては、低級アルコール(C〜C)溶媒、炭化水素(例えば、トルエンなど)が挙げられる。
【0039】
この反応を行うのに適した温度は、約20℃〜約70℃の範囲である。
【0040】
完了後、反応混合物を、水およびチオ硫酸ナトリウムでクエンチする。水不混和性溶媒をこの反応混合物に添加し、共沸蒸留に供して、水およびメタノールを除去する。この蒸留を、約50℃〜約150℃の温度にて行い得る。
【0041】
使用し得る水不混和性溶媒としては、炭化水素およびハロゲン化炭化水素(例えば、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、トルエン、クロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン、キシレンなど)が挙げられる。
【0042】
生成物を含む反応混合物を、後の反応工程にてそのまま使用し得るか、適宜、濃縮して残留物を得ることができる。
【0043】
工程ii)は、適切な塩基の存在下において第三級ブチルジフェニルシリルクロリドをヒドロキシ保護試薬として用いた式IVの化合物のヒドロキシ基の保護に関し、式Vの3,5−ビス(第三級ブチルジフェニルシリルオキシ)−2−デオキシ−2,2−ジフルオロ−1−オキソリボースが得られる。
【0044】
上記反応においても使用し得る適切な代替ヒドロキシ保護基としては、シリルヒドロキシ保護基(例えば、第三級ブチルジフェニルシリル、トリメチルシリルクロリド、イソプロピルジメチルシリル、メチルジイソプロピルシリル、トリイソプロピルシリルなど)、ホルミル、2−クロロアセチル、ベンジル、ジフェニルメチル、トリフェニルメチル、4−ニトロベニル、フェノキシカルボニル、t−ブチル、メトキシメチル、フェニルオキシアセチル(phenyoxyacetyl)、イソブチリル、エトキシカルボニル、ベンジルオキシカルボニルなど)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0045】
使用し得る適切な塩基としては、有機塩基(例えば、ピリジン、トリエチルアミン、イミダゾール、2,6−ルチジン、2,3−ルチジン、3,5−ルチジンなど)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
工程ii)のプロセスにおいて使用し得る適切な溶媒としては、エーテル(例えば、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタンなど);炭化水素(例えば、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、トルエン、キシレンなど);ハロゲン化炭化水素(例えば、クロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼンなど);非プロトン性極性溶媒(例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリルなど);ケトン(例えば、アセトン、メチルイソブチルケトン、メチル第三級ブチルケトンなど);およびそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
この反応を行うのに適した温度は、約5℃〜約50℃の範囲である。
【0048】
工程iii)は、適切な還元試薬を用いた式Vの化合物の還元に関し、式VIの3,5−ビス(第三級ブチルジフェニルシリルオキシ)−2−デオキシ−2,2−ジフルオロリボースが得られる。
【0049】
使用し得る適切な還元試薬としては、水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム(Vitride)、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)、水素化アルミニウムリチウム(LiAlH)、水素化ジイソブチルアルミニウム(DIBAL−H)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
使用し得る適切な溶媒としては、エーテル(例えば、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタンなど);炭化水素(例えば、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、トルエン、キシレンなど);ハロゲン化炭化水素(例えば、クロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼンなど);およびそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0051】
この反応を行うのに適した温度は、約−60℃〜約100℃の範囲である。
【0052】
工程iv)は、適切な塩基の存在下において、アルキルまたはアリールスルホニルクロリドを用いた式VIの化合物の保護に関し、式VIIの3,5−ビス(第三級ブチルジフェニルシリルオキシ)−1 メタンスルホニルオキシ−2−デオキシ−2,2−ジフルオロリボースが得られる。
【0053】
ヒドロキシル基を保護するために使用し得る適切な保護基としては、アルキルおよびアリールスルホニルクロリド(例えば、メタンスルホニルクロリド、ベンゼンスルホニルクロリドなど)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0054】
本発明の一実施形態において、式VIの化合物のヒドロキシル基を保護するために使用される保護基は、式VIIの化合物が得るための、塩基の存在下におけるメタンスルホニルクロリドである。
【0055】
使用し得る適切な塩基としては、有機塩基(例えば、ピリジン、トリエチルアミン、ジエチルアミンなど)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
上記反応のために使用し得る適切な溶媒としては、エーテル(例えば、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタンなど);炭化水素(例えば、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、トルエン、キシレンなど);ハロゲン化炭化水素(例えば、クロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼンなど);非プロトン性極性溶媒(例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリルなど);エステル(例えば、酢酸エチル、酢酸イソプロピルなど);ケトン(例えば、アセトン、メチルイソブチルケトン、メチル第三級ブチルケトンなど);ケトン(例えば、アセトン、メチルイソブチルケトン、メチル第三級ブチルケトンなど);およびそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0057】
この反応を行うのに適した温度は、約0℃〜約50℃の範囲である。
【0058】
工程v)は、適切な塩基の存在下における、式VIIの化合物の式VIIIのN−アセチルシトシン化合物との縮合に関し、式IXの1−[2’−デオキシ−2’,2’−ジフルオロ−3',5'−リボフラノース−3,5−ビス(第三級ブチルジフェニルシリルオキシ)シトシンが得られる。
【0059】
上記の反応に使用し得る適切な溶媒としては、エーテル(例えば、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタンなど);炭化水素(例えば、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、トルエン、キシレンなど);ハロゲン化炭化水素(例えば、クロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼンなど);エステル(例えば、酢酸エチル、酢酸イソプロピルなど);エステル(例えば、酢酸エチル、酢酸イソプロピルなど);ケトン(例えば、アセトン、メチルイソブチルケトン、メチル第三級−ブチルケトンなど);およびそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0060】
使用し得る適切な塩基としては、有機塩基(例えば、ピリジン、トリエチルアミン、ヘキサメチルジシラザン、トリメチルシリルトリフレートなど)、およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0061】
この反応を行うのに適した温度は、約20℃〜約120℃の範囲である。
【0062】
中間体として形成する1−[2’−デオキシ−2’,2’−ジフルオロ−3’,5’−リボフラノース−3,5−ビス(第三級ブチルジフェニルシリルオキシ)N−アセチルシトシン(図6中の式VIIIa)を、必要に応じ、単離しない。単離しない場合、この化合物を含む反応混合物はそのまま次の工程に進められる。
【0063】
工程vi)は、適切な試薬を用いた式IXの化合物の脱保護に関し、ゲムシタビンが得られ、このゲムシタビンは、その後、酸との反応により酸付加塩へと変換され得る。
【0064】
使用し得る適切な保護試薬としては、フッ化アンモニウム、フッ化tert−ブチルアンモニウム、アンモニア、塩化アセチル、希塩酸などが挙げられる。
【0065】
上記の反応に使用される溶媒としては、水;アルコール(例えば、メタノール、エタノール、エタノール塩酸塩、n−プロパノール、イソプロパノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノールなど);ハロゲン化溶媒(例えば、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、クロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼンなど);エーテル(例えば、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタンなど);炭化水素(例えば、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、トルエン、キシレンなど);非プロトン性極性溶媒(例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリルなど);エステル(例えば、酢酸エチル、酢酸イソプロピルなど);ケトン(例えば、アセトン、メチルイソブチルケトン、メチル第三級ブチルケトンなど);およびそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0066】
この反応を行うのに適した温度は、約−10℃〜約70℃の範囲である。
【0067】
得られたゲムシタビン塩基を適切な酸と反応させることにより、所望の薬学的に受容可能な酸付加塩へと変換し得る。
【0068】
使用し得る適切な薬学的に受容可能な酸としては、無機酸(例えば、塩酸、臭化水素酸およびヨウ化水素酸);および有機酸(例えば、酢酸、酒石酸、シュウ酸など)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0069】
一連の工程i)〜iv)を、必要に応じて一回以上、中間化合物を単離せずに実施する。本発明の一実施形態において、中間体を単離せずに工程i)を実施後、式Vの化合物を単離する。
【0070】
本プロセスの種々の段階で得られる湿潤ケークを、必要に応じ、さらに乾燥させ得る。乾燥は、適宜、箱形乾燥器、減圧オーブン、空気オーブン、流動層乾燥器、旋回気流乾燥器、気流乾燥器などにおいて実施され得る。乾燥は、約35℃〜約70℃の温度で実施され得る。乾燥は、所望の純度を達成するような任意の望ましい時間(例えば、約1時間〜20時間以上)の間、実施され得る。
【0071】
プロセス全体を、概略的に図6に示す。
【0072】
別の局面において、本発明は、塩酸ゲムシタビンを精製して、そのβ−アノマーについて富化された塩酸ゲムシタビンを得るためのプロセスに関する。
【0073】
塩酸ゲムシタビンの精製のためのプロセスの一実施形態は、
a)水性溶媒中の塩酸ゲムシタビンの溶液を提供する工程;
b)この溶液中の塩酸ゲムシタビンの濃度を上昇させて沈澱を生じさせる工程;および
c)β−アノマーを富化した化合物を単離する工程
を包含する。
【0074】
工程a)は、水性溶媒中の塩酸ゲムシタビンの溶液を提供することに関する。
【0075】
塩酸ゲムシタビンの溶液は、水に溶解することによって得ることも、または先の、塩酸ゲムシタビンを形成する加工工程から得ることも可能である。塩酸ゲムシタビンのあらゆる形態(例えば、塩酸ゲムシタビンのあらゆる結晶質形態または非結晶質形態)が、この溶液を形成するために許容され得る。
【0076】
溶解のための塩酸ゲムシタビンを、当該技術分野において公知の方法によるか、または上述のプロセスによって調製し得る。
【0077】
全溶解を確実にするのに十分な水が使用される限り、溶液中のアノマー塩混合物の濃度は重要ではない。結晶化中および単離中の過度の生成物の損失を避けるために、使用する水の量は、通常、少量に保たれる。βアノマーの単離に使用する水の分量は、多くの場合、塩酸ゲムシタビンの重量の約1倍〜約12倍である。
【0078】
この溶液は、約0℃〜約100℃の範囲の温度で調製され得る。用いる溶媒の分量に応じ、25℃〜100℃で溶解することも、約50℃〜100℃の高温に溶液を加熱することが必要とされることもあり得る。
【0079】
この溶液を、必要に応じ、活性炭で処理して化合物の色を増大させ得、続いて溶液を媒体に通して(例えば、フラックス焼成珪藻土(Hyflow)ベッドに通して)濾過し、炭素を除去し得る。
【0080】
色を改善させたβアノマーの単離の際に使用する木炭炭素の好ましい分量は、α/βアノマー混合物の約0.1倍〜約10倍の重量である。
【0081】
炭素処理は、溶解温度で実施するか、またはそれよりも低い温度に溶液を冷却した後に実施され得る。
【0082】
工程b)は、溶液中の塩酸ゲムシタビンの濃度を上昇させて沈澱を生じさせることに関する。
【0083】
濃縮は、エバポレーション、常圧蒸留、または減圧下での蒸留を、適宜用いて実施され得る。
【0084】
溶媒の蒸留は、約100mmHg〜約720mmHgの減圧下で、約40℃〜約70℃の温度で行われ得る。不純物レベルを上昇させることなく濃縮が起こる限り、任意の温度および減圧条件を用い得る。
【0085】
溶液の濃縮は、溶液からの塩酸ゲムシタビンの沈澱が始まり、溶液をスラリーに変える程度まで実施され得る。通常、溶媒と塩酸ゲムシタビンとの比率が約1:1〜約1:5になると、濃縮を終了させる。
【0086】
生成物のより完全な単離に必要とされる時間の間、濃縮温度よりも低い温度(例えば、約40℃未満〜約45℃)にて、反応混合物をさらに維持し得る。完全な結晶化に必要とされる正確な冷却温度および時間は、当業者により容易に決定され得、パラメーター(例えば、溶液またはスラリーの濃度および温度)にも左右される。
【0087】
工程c)は、上記βアノマーを富化した化合物を単離することに関する。
【0088】
固体単離は、濾過、傾瀉、遠心分離などの技術によるか、またはガス(例えば、窒素など)を用いた不活性雰囲気下における濾過により行われ得る。
【0089】
工程c)で得られた湿潤ケークは、必要に応じ、さらに乾燥し得る。乾燥は、適宜、箱形乾燥器、減圧オーブン、空気オーブン、流動層乾燥器、旋回気流乾燥器、気流乾燥器などにおいて実施され得る。乾燥は、約35℃〜約70℃の温度で実施され得る。乾燥は、所望の純度を得るのに必要な任意の時間(例えば、約1時間〜20時間以上)の間、実施され得る。
【0090】
本発明の特定の実施形態において、本発明の上記プロセスを、連続的な結晶化プロセスの基礎を成すように適合させ得る。αアノマー不純物の割合を確かめるために、工程c)で得られた生成物の純度が調べられる。不純物が所望のレベル(例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により決定される0.1%未満)まで減少しなかった場合は、a)〜c)の工程が、工程c)で得られた湿潤物質を用いて繰り返される。所望の純度が工程c)にて達成されると、このサイクルを終える。
【0091】
このように、無制限に繰り返し得る作業の一つのサイクルが確立され、これにより、本発明のプロセスを、商業規模での明白な付随的利点を有する連続的なプロセスへと適合させ得る。
【0092】
上記で得られた精製塩酸ゲムシタビンは、0.1%未満または0.01%未満の、シトシン不純物またはα−アノマーのいずれかを含む。
【0093】
上記のプロセスにより得られた塩酸ゲムシタビンを、表1に記載されるように、United States Pharmacopeia 29;NF 24,2005(USP),pp.990−991に記載されているプロセスに従い、HPLCを用いて分析した。
【0094】
【表1】

【0095】
【表2】

不純物についての相対保持時間(「RRT」)値は、ゲムシタビンの保持時間に1の値を割り当て、これを参照する。
【0096】
本発明のプロセスにより得られた結晶質の塩酸ゲムシタビンは、そのX線粉末回析(「XRPD」)パターン、示差走査熱分析(「DSC」)曲線、および/または赤外(「IR」)吸収スペクトルにより特徴づけられる。
【0097】
本発明において得られた結晶質の塩酸ゲムシタビンを、そのXRPDパターンにより特徴づける。本明細書において報告される全てのXRPDデータは、1.541Åの波長を有するCu Kα放射線を用いて得られ、Bruker Axe D8 Advance Powder X−ray Diffractometerを用いて得られた。
【0098】
結晶質の塩酸ゲムシタビンは、図1と実質的に一致するXRPD回析パターンにより特徴付けられ、約9.6、11.4、13.7、19.1、22.9、24.0、26.6、および30.7±0.2度の2θにて特性ピークを有する。
【0099】
示差走査熱分析を、TA InstrumentsのDSC Q1000モデルにおいて、5℃/分の傾斜、変調時間60秒、変調温度±1℃で実施した。開始温度は0℃であり、終了温度は200℃であった。
【0100】
結晶質の塩酸ゲムシタビンは、図2と実質的に一致する特徴的な示差走査熱分析曲線を有し、259℃〜274℃にて吸熱ピークを有する。
【0101】
塩酸ゲムシタビンの赤外(IR)スペクトルを、1質量%の濃度の試験化合物について、臭化カリウムペレットで4cm−1の分解能を有する450cm−1〜4000cm−1のPerkin Elmer System Spectrum 1モデルの分光光度計に記録した。
【0102】
結晶質の塩酸ゲムシタビンは、図2と実質的に一致するIRスペクトルにより特徴付けられる。結晶質の塩酸ゲムシタビンは、約3392、3259、3117、3078、1679、1535、1283、1199、1065、856および814±5cm−1にて特性ピークを有するIRスペクトルにより特徴づけられる。
【0103】
さらに別の局面において、本発明は、実質的に残留溶媒を含まない塩酸ゲムシタビンを提供する。
【0104】
本発明のプロセスを用いて得られる塩酸ゲムシタビンは、International Conference on Harmonization of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use(「ICH」)ガイドラインにより与えられる限度内である残留溶媒含有量を有する。このガイドラインの溶媒レベルは溶媒の種類に依存するが、約5000ppm以下、または約4000ppm以下、または約3000ppm以下である。
【0105】
本発明において得られる塩酸ゲムシタビンは、約100ppm未満、または約500ppm未満のアセトン;約100ppm未満、または約500ppm未満のイソプロパノール;および約100ppm未満、または約500ppm未満のジクロロメタンを含む。
【0106】
乾燥させた生成物を必要に応じて粉砕し、必要とされる粒径にし得る。粉砕または微粉化は、生成物の乾燥前、または生成物の乾燥の完了後に実施され得る。高速で粒子を互いに衝突させることによる粉砕作業により、粒径が減少し、粒子の表面積が増大する。
【0107】
一実施形態において、本発明のプロセスにより得られる塩酸ゲムシタビンは、約600μm未満、または約400μm未満、または約300μm未満のD90;約400μm未満、または約300μm未満、または約300μm未満のD50;および200μm未満、または約100μm未満、または約50μm未満のD10の粒径分布を有する。
【0108】
10、D50およびD90の値は、粒径分布を示すのに有用な方法である。D90は、粒径についての値であり、少なくとも90体積パーセントの粒子が所与の値よりも小さい粒径を有する。同様に、D50およびD10は、粒径についての値であり、それぞれ粒子の50体積パーセントおよび10体積パーセントの粒子が、所与の値よりも小さい粒径を有する。D10、D50、D90を決定するための方法としては、レーザー光回析(例えば、Malvern Instruments Ltd.(Malvern,Worcestershire, United Kingdom)の装置を用いる)が挙げられる。いずれのD値にも具体的な下限はない。
【0109】
本発明のある特定の局面および実施形態を、以下の実施例に関してより詳細に説明する。以下の実施例は、例示のために与えられており、決して本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例】
【0110】
(実施例1:3,5−ビス(第三級ブチルジフェニルシリルオキシ)−2−デオキシ−2,2−ジフルオロ−1−オキソリボース(式V)の調製)
100gの式IIIの2,2−ジフルオロ−3−ヒドロキシ−3(2,2−ジメチルジオキサラン−4−イル)プロピオン酸エチル、1000mlのメタノールおよび10gのヨウ素を、清潔な、乾燥した丸底フラスコに加え、一晩中、27℃で攪拌した。チオ硫酸ナトリウムの10%水溶液(225mlの水に溶解させた22.5gのチオ硫酸ナトリウム)を、約27℃で約30分かけて上記の反応混合物に加え、続いて約80℃でこの反応混合物から溶媒を蒸留した。その後、500mlのトルエンを得られた反応混合物に加え、次いで大気圧下において95℃で蒸留して除いた。上記工程を、反応混合物の沸点が110度になるまで5回繰り返した。次いでこの反応混合物を、650mmHgの減圧下において50℃で蒸留し、残留物として式IVの2−デオキシ(desoxy)−2,2−ジフルオロ−1−オキソリボース化合物を得た。
【0111】
上記反応から得られた残留物を、1320mlのN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に約27℃にて窒素雰囲気下で溶解した。80.3gのイミダゾールおよび300mlの第三級ブチルジフェニルシリルクロリド(TBDPSi−Cl)を、27℃で上記で得られた反応混合物に加え、一晩中、27℃で攪拌した。薄層クロマトグラフィ(TLC)を用いて反応の完了を確認し、この反応混合物を15℃に冷却した。27℃にて同時に攪拌しながら2600mlの水を加え、続いて2×1000mlの石油エーテルで抽出した。有機層と水層とを分離後、3×1000mlの水で有機層を洗浄し、次いで有機層を減圧下において48℃で完全に蒸留した。得られた残留物を、石油エーテルおよび酢酸エチル溶媒系を用いてカラムクロマトグラフィにより精製し、HPLCによる純度93.49%を有する212.7gの表題の化合物を得た。
【0112】
【化22】

(実施例2:3,5−ビス(第三級ブチルジフェニルシリルオキシ)−2−デオキシ−2,2−ジフルオロリボース(式VI)の調製)
243gの式Vの3,5−ビス(第三級ブチルジフェニルシリルオキシ)−2−デオキシ−2,2−ジフルオロ−1−オキソリボースおよび2400mlのテトラヒドロフラン(THF)を、窒素大気下において約27℃で同時に攪拌しながら丸底フラスコに加えた。反応混合物を−45℃に冷却し、192mlのナトリウムビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムハイドライド(Vitride)を上記反応混合物に加えた。得られた反応混合物を約1時間45分間攪拌し、反応の完了を確かめるために薄層クロマトグラフィで確認した。この反応の完了後、486mlの飽和塩化アンモニウム溶液を、約−45℃で上記で得られた反応溶液に加え、温度を27℃に上げた。得られた懸濁液を濾過し、濾液からの水層を1215mlの酢酸エチルおよび486mlのブライン溶液で抽出後、有機層と水層とを分離した。1215mlの酢酸エチルをこの水層に加え、有機層と水層とを分離した。最後に全ての有機層を減圧下で完全に蒸留して、245gの表題の化合物を得た。
【0113】
【化23】

(実施例3:3,5−ビス(第三級ブチルジフェニルシリルオキシ)−1メタンスルホニルオキシ−2−デオキシ−2,2−ジフルオロリボース(式VII)の調製)
245gの式VIの3,5−ビス(第三級ブチルジフェニルシリルオキシ)−2−デオキシ−2,2−ジフルオロリボースおよび2450mlのジクロロメタンを、窒素雰囲気下で同時に攪拌しながら丸底フラスコに加えた。この反応混合物を0℃に冷却し、55.5mlのトリエチルアミンおよび18.6mlのメタンスルホニルクロリドを上記反応混合物に加えた。この反応混合物の温度を27℃まで上げさせ、約2.5時間攪拌した。薄層クロマトグラフィを用いて反応の完了を確認した。1225mlの水を上記で得られた反応混合物に加え、二層を分離した。得られた有機層を減圧下において45℃で完全に蒸留し、ゴム状固体(gummy solid)を得た。石油エーテルを上記で得られたゴム状固体に加え、2℃に冷却した。得られた懸濁液を3時間攪拌し、固体を濾過後、吸引乾燥して、191gの表題の化合物を得た。
【0114】
【化24】

(実施例4:1−[2’−デオキシ−2’,2’−ジフルオロ−3’,5’−リボフラノース−3,5−ビス(第三級ブチルジフェニルシリルオキシ)シトシン(式IX)の調製)
89gのN−アセチルシトシンを窒素雰囲気下で丸底フラスコに加えた。525mlのヘキサメチルジシラザン(HMDS)を27℃で上記のフラスコに加えた。18.5mlのトリメチルシリルクロリドを上記の反応混合物に加え、132mlのトリメチルシリルトリフレート(TMSトリフレート)を加えた。105gの式VIIのメシレート化した(mesylated)化合物を上記反応混合物に加え、この反応混合物を93℃に加熱し、93℃で3時間攪拌した。この反応混合物を約35℃に冷却し、500mlのジクロロメタンを加えた。得られた反応溶液を40分間かけて9℃の冷却水に加えた。得られた懸濁液を濾過し、210mlのジクロロメタンで湿潤ケークを洗浄した。得られた濾液から有機層と水層とを分離し、500mlのジクロロメタンで水層を抽出した。最後に有機層を合わせ、2×500mlの水で有機層を洗浄した。全ての有機層を、600mmHgの減圧下において44℃で完全に蒸留し、105gの表題の化合物を得た。
【0115】
(実施例5:ゲムシタビンの調製)
実施例4で調製した式IXの105gの1−[2’−デオキシ−2’,2’−ジフルオロ−3’,5’−リボフラノース−3,5−ビス(第三級ブチルジフェニルシリルオキシ)−シトシン]を、1500mlのメタノールに溶解した。72gのフッ化アンモニウムをこの反応溶液に加え、次いで65℃(還流)に加熱した。この反応混合物を約3時間還流で維持して反応を完了し、次いでこの溶媒を、600mmHgの減圧下において48℃で蒸留した。500mlのイソプロピルアルコールを残留物に加え、5℃に冷却し、次いで10分間5℃で維持した。得られた反応混合物を濾過し、固体を200mlのイソプロピルアルコールで洗浄した。得られた濾液を完全に蒸留し、次いで500mlの水および500mlのジクロロメタンを残留物に加え、有機層と水層とを分離した。得られた水層を、2×500mlのジクロロメタンで洗浄した。得られた水溶液に4gの木炭を加え、20分間攪拌し、次いでHyflowベッドに通して濾過し、このベッドを50mlの水で洗浄した。得られた濾液を減圧下において47℃で完全に濃縮し、96.16%(α:62.05%、β:34.11%)の純度を有する27gの表題の化合物を得た。
【0116】
(実施例6:式Iの塩酸ゲムシタビンの調製)
75mlのイソプロピルアルコールおよび実施例5から得られた25gのゲムシタビン塩基を丸底フラスコに加え、次いでイソプロピルアルコール溶媒を600mmHgの減圧下において47℃で蒸留して除いた。上記の工程をさらに2回繰り返した。再度、75mlのイソプロピルアルコールを上記で得られた残留物に加え、60℃に加熱した。10mlの36%塩酸水を上記の反応溶液に加え、次いで27℃に冷却した。再度、この反応懸濁液を−4℃に冷却し、−4℃で6.5時間攪拌した。得られた固体懸濁物を濾過し、湿潤固体を75mlのアセトンで洗浄した。この固体を、減圧下において3時間、39℃で乾燥させ、9.4gの表題の化合物を得た。
HPLCによる純度:98.5%(α:11.19%、β:87.31%)
【0117】
(実施例7:塩酸ゲムシタビンの再結晶化)
0.5gの塩酸ゲムシタビンおよび1.5mlの水を丸底フラスコに加え、27℃で6時間、この反応混合物を攪拌した。次いでこの反応懸濁液を濾過し、2mlのアセトンで固体を洗浄し、次いで40℃で3時間乾燥させて、0.37gの表題の化合物を得た。
HPLCによる純度:99.81%のβ−アノマー。
αアノマーの%:0.05%。
【0118】
(実施例8:塩酸ゲムシタビンの精製)
26.4L(3体積)の脱塩水を反応器にとり、約82℃の温度に加熱した。HPLCで約1:1のα:β比を有する6.6Kgの塩酸ゲムシタビン粗アノマー塩混合物を上記反応器に加えると同時に、透明溶液の形成まで攪拌した。この反応溶液を約23℃に冷却後、分離した固体を窒素雰囲気下で濾過し、固体を5Lのアセトンで洗浄した。得られた固体を約1時間、窒素圧下で吸引乾燥し、2.7Kgの塩酸ゲムシタビンを得た。
HPLCによる純度:98.1%;α−アノマー:1.7%。
【0119】
(実施例9:塩酸ゲムシタビンの精製)
860ml(10体積)の精製水を、約1:1のα:β比を有する86gの塩酸ゲムシタビン粗アノマー混合物と共に反応器に加えた。この混合物を同時に攪拌しながら約38℃の温度に加熱し、透明溶液を形成した。38℃でこの反応混合物に0.1体積の木炭炭素を加え、約30分間攪拌した。この反応混合物をHyflowに通して濾過後、3×30mlの脱塩水を用いて室温で洗浄した。得られた濾液を600mmHgの減圧下において46℃で3体積の反応混合物まで濃縮し、次いで17℃に冷却すると同時に約30分間18℃で攪拌した。この反応混合物を濾過後、16℃にて50mlのアセトンで洗浄し、30分間吸引乾燥した。得られた固体を600mmHgの減圧下において、約40℃の温度で約4時間乾燥し、31gの塩酸ゲムシタビンを得た。
HPLCによる純度:95.6%;α−アノマー:6.8%。
【0120】
(実施例10:塩酸ゲムシタビンの精製)
342ml(12体積)の精製水を、95.6%の純度を有する28.5gの塩酸ゲムシタビンと共に反応器に加え、同時に攪拌しながら約37℃の温度に加熱し、透明溶液を形成した。0.1体積の木炭を37℃でこの反応混合物に加え、約30分間攪拌した。この反応混合物をHyflowベッドに通して濾過後、室温にて3×25mlの脱塩水で洗浄した。得られた濾液を、600mmHgの減圧下において、47℃で2体積の反応混合物まで濃縮し、次いで30℃に冷却した。この反応懸濁液を濾過後、27℃にて31mlのアセトンで洗浄した。上記のプロセスを1回繰り返し、最後に、得られた固体を600mmHgの減圧下において約4時間、40℃の温度で乾燥し、24gの塩酸ゲムシタビンを得た。
HPLCによる純度:99.96%;α−アノマー:0.01%。
旋光度:[α]20(10mg/ml水溶液):+47.1°。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】図1は、実施例10に従って調製された塩酸ゲムシタビンの、X線粉末回析(XRPD)パターンである。
【図2】図2は、実施例10に従って調製された塩酸ゲムシタビンの、示差走査熱分析(DSC)曲線である。
【図3】図3は、実施例10に従って調製された塩酸ゲムシタビンの、赤外吸収(IR)スペクトルである。
【図4】図4は、実施例10に従って調製された塩酸ゲムシタビンの、熱重量(TGA)曲線である。
【図5】図5は、実施例10に従って調製された塩酸ゲムシタビンの、HPLCクロマトグラムである。
【図6】図6は、塩酸ゲムシタビンを調製するためのプロセスの略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲムシタビンまたはその塩を調製するためのプロセスであって、式IV:
【化1】

を有する化合物をt−ブチルジフェニルシリルクロリドと反応させて、式V:
【化2】

を有する化合物を形成する工程を包含する、プロセス。
【請求項2】
請求項1に記載のプロセスであって、式IVを有する化合物が、アルコール溶媒中で、式III:
【化3】

を有する化合物をヨウ素と反応させることによって調製される、プロセス。
【請求項3】
請求項1に記載のプロセスであって、式Vを有する化合物を還元試薬と反応させて式VI:
【化4】

を有する化合物を形成する工程をさらに包含する、プロセス。
【請求項4】
請求項3に記載のプロセスであって、式VIを有する化合物をメタンスルホニルクロリドと反応させて式VII:
【化5】

を有する化合物を形成する工程をさらに包含し、ここで、「OMs」はメタンスルホニル基を表す、プロセス。
【請求項5】
請求項4に記載のプロセスであって、式VIIを有する化合物のN−アセチルシトシンとの縮合により、式IX:
【化6】

を有する化合物を形成する工程をさらに包含する、プロセス。
【請求項6】
請求項5に記載のプロセスであって、式VIIIa:
【化7】

を有する化合物が、縮合中に形成されるが単離されない、プロセス。
【請求項7】
請求項5に記載のプロセスであって、式IXを有する化合物を脱保護してゲムシタビンを形成する工程をさらに包含する、プロセス。
【請求項8】
式:
【化8】

を有する、化合物。
【請求項9】
式:
【化9】

を有する化合物であって、ここで、「OMs」はメタンスルホニル基を表す、化合物。
【請求項10】
式:
【化10】

を有する、化合物。
【請求項11】
塩酸ゲムシタビンのβ−アノマーの富化のためのプロセスであって、
a)水性溶媒中の塩酸ゲムシタビンの溶液を提供する工程;
b)該溶液中の溶質の濃度を増大させて沈殿を生じさせる工程;
c)該β−アノマーを富化した塩酸ゲムシタビンを単離する工程
を包含する、プロセス。
【請求項12】
請求項11に記載のプロセスであって、a)の溶液中の水と塩酸ゲムシタビンとの重量比が、約3:1〜約12:1である、プロセス。
【請求項13】
請求項11に記載のプロセスであって、a)の溶液が、活性炭で処理される、プロセス。
【請求項14】
請求項11に記載のプロセスであって、濃度を増大させる工程が、一部の水を除去することを包含する、プロセス。
【請求項15】
請求項11に記載のプロセスであって、水と塩酸ゲムシタビンとの重量比が約3:1未満になるまで濃度増大が続けられる、プロセス。
【請求項16】
請求項11に記載のプロセスであって、前記β−アノマーが富化された塩酸ゲムシタビンの単離が、約0℃〜約10℃の温度で実施される、プロセス。
【請求項17】
請求項11に記載のプロセスであって、β−アノマーが富化された塩酸ゲムシタビンが、該β−アノマーを約99.7%以上含む、プロセス。
【請求項18】
請求項11に記載のプロセスであって、β−アノマーが富化された塩酸ゲムシタビンが、該β−アノマーを約99.9%以上含む、プロセス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−531284(P2009−531284A)
【公表日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−553544(P2008−553544)
【出願日】平成19年2月6日(2007.2.6)
【国際出願番号】PCT/US2007/061687
【国際公開番号】WO2007/117760
【国際公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(506159459)ドクター レディズ ラボラトリーズ リミテッド (9)
【出願人】(506017137)ドクター レディズ ラボラトリーズ, インコーポレイテッド (24)
【Fターム(参考)】