説明

ゲルマニウム単結晶の製造方法

【課題】成長結晶表面に酸化ゲルマニウムが付着するのを防ぎ、低転位密度または無転位でゲルマニウムの単結晶を成長させることができるゲルマニウム単結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】石英るつぼ製、グラッシーカーボン製、またはグラファイトるつぼ製のるつぼ10の内部で、ゲルマニウム融液1aの表面の一部または全体を酸化ホウ素(B2O3)融液2aで覆った後、チョクラルスキー法(CZ法)によりゲルマニウム単結晶4を引き上げて結晶成長させる。炉内は、高真空またはアルゴンガス雰囲気である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法によるゲルマニウム単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ゲルマニウム(Ge)は、ガリウムヒ素(GaAs)との格子整合がよい(格子ミスマッチ:0.12%)ことから、宇宙用高効率ガリウムヒ素太陽電池の下地基板として利用されている。また、ゲルマニウムは、シリコン(Si)よりも電子および正孔の移動速度が数倍大きい(電子で2.5倍、正孔で4倍)ことから、次世代高速MOSFETのチャネル部、ソース、ドレイン部への適用が期待されている。
【0003】
ガリウムヒ素太陽電池の下地基板としての利用を考えると、ゲルマニウムとガリウムヒ素との格子不整合は非常に小さく、ガリウムヒ素をゲルマニウム上にエピタキシャル成長しても、格子のミスフィットに基づく転位を生じることは考えにくい。しかし、下地基板のゲルマニウムに、結晶成長時に導入される転位が高密度で存在する場合には、ガリウムヒ素のエピタキシャル成長後に、成長層にそれらの転位が伝播する。転位では、一般的にキャリアが捕獲されることから、拡散長を短くすることに繋がり、結果的に太陽電池変換効率に影響を及ぼす。
【0004】
図8に示すように、従来、ゲルマニウム(Ge)単結晶は、シリコン(Si)と同じく、引き上げ法(チョクラルスキー法:CZ法)によって成長させるのが一般的である(例えば、特許文献1参照)。また、種結晶を使用せずにゲルマニウム単結晶を製造する方法も提案されている(例えば、特許文献2参照)。これらの方法では、ゲルマニウム融液を保持するためのるつぼとして、内壁表面がカーボン製のるつぼが使用されている。
【0005】
なお、チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を製造する場合には、石英るつぼを用い、ネッキング法を適用することにより、転位を抑制して、無転位の結晶本体を成長させている。この場合、シリコン融液表面に異物は浮かないが、シリコン結晶中にるつぼから溶け出す酸素(O)が混入する。また、チョクラルスキー法によりガリウムヒ素(GaAs)の単結晶を製造する場合には、pBNるつぼを用い、融液からのAsの蒸発を防ぐために、液体封止剤として酸化ホウ素(B2O3)で融液表面を覆って結晶成長させる。この場合、無転位結晶成長は困難であり、結晶中にホウ素(B)が混入する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1−290583号公報
【特許文献2】特開平10−95688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のように、チョクラルスキー法によりゲルマニウム単結晶を製造する場合、ネッキング法を適用しても有転位になることが多いという課題があった。これは、ゲルマニウム原料表面の酸化膜や炉内の残留酸素により、ゲルマニウム融液の表面に酸化ゲルマニウム(GeO2)が浮き、この酸化ゲルマニウムが成長結晶に付着するためである。
【0008】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、成長結晶表面に酸化ゲルマニウムが付着するのを防ぎ、低転位密度または無転位でゲルマニウムの単結晶を成長させることができるゲルマニウム単結晶の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係るゲルマニウム単結晶の製造方法は、チョクラルスキー法(CZ法)によるゲルマニウム(Ge)単結晶の製造方法であって、内壁表面がグラッシーカーボン製、グラファイト製または石英ガラス製のるつぼの内部で、ゲルマニウム融液の表面の一部または全体を酸化ホウ素(B2O3)融液で覆った後、ゲルマニウム単結晶を引き上げて結晶成長させることを、特徴とする。
【0010】
本発明に係るゲルマニウム単結晶の製造方法では、るつぼの内部で、ゲルマニウム融液の表面の一部または全体を酸化ホウ素の融液で覆うことにより、ゲルマニウム融液の表面に浮いた酸化ゲルマニウムを酸化ホウ素で捕捉することができる。これにより、チョクラルスキー法でゲルマニウム単結晶を引き上げるとき、成長結晶表面に酸化ゲルマニウムが付着するのを防ぐことができる。このため、ネッキング法を適用して種子と成長結晶との界面に発生する転位を消滅させた後、ゲルマニウム単結晶を引き上げることにより、そのまま低転位密度または無転位でゲルマニウムの単結晶を成長させることができる。
【0011】
なお、酸化ホウ素融液の密度はゲルマニウム融液の密度よりも小さいため、酸化ホウ素融液はゲルマニウム融液に浮き、ゲルマニウム融液の表面の一部または全体を覆うことができる。また、本発明に係るゲルマニウム単結晶の製造方法により製造されたゲルマニウム単結晶には、酸化ホウ素からのホウ素(B)や酸素(O)の混入はほとんど認められない。
【0012】
また、本発明に係るゲルマニウム単結晶の製造方法では、グラッシーカーボン、グラファイトおよび石英ガラスに対するゲルマニウム融液のぬれ性が悪いため、ゲルマニウム融液を覆う酸化ホウ素融液が、るつぼの内壁に向かって移動し、るつぼの内壁近傍に厚い層を形成する。このとき、酸化ホウ素融液に捕捉された酸化ゲルマニウムも、酸化ホウ素融液とともに、るつぼの内壁に向かって移動する。これにより、酸化ゲルマニウムが浮いていないゲルマニウム融液を、るつぼの中央に形成することができる。このるつぼの中央からゲルマニウム単結晶を引き上げることにより、酸化ゲルマニウムが付着せず、より低転位密度または無転位のゲルマニウム単結晶を成長させることができる。
【0013】
また、酸化ホウ素融液の添加量を調節することにより、ゲルマニウム単結晶に酸化ゲルマニウムが全く付着しないようにすることができる。酸化ホウ素融液は、るつぼの中央でゲルマニウム融液が露出し、その周囲でゲルマニウム融液を覆うよう、るつぼの内部に添加されていることが好ましい。また、グラッシーカーボン、グラファイトおよび石英ガラスは、ゲルマニウムおよび酸化ホウ素と反応しにくいため、高純度で安定してゲルマニウム単結晶を製造することができる。
【0014】
るつぼの内壁表面がグラッシーカーボン製のとき、酸化ホウ素融液もグラッシーカーボンに対するぬれ性が悪いため、結晶成長後のるつぼから、るつぼを破損させることなく、ゲルマニウムや酸化ホウ素の残留物を容易に除去することができる。このため、るつぼを再利用することができ、製造コストの低減を図ることもできる。また、るつぼの内壁表面がグラファイト製のとき、グラファイトに対する酸化ホウ素融液のぬれ性は比較的強く、結晶成長後の酸化ホウ素の残留物を完全に除去することはできないが、その残留物を再利用するのであれば、るつぼを再利用することができる。なお、るつぼは、内壁表面がグラッシーカーボン、グラファイトまたは石英ガラス製であればよく、外面がカーボン製やpBN製などであってもよい。
【0015】
前記るつぼは、内壁表面が石英ガラス製のとき、フッ化水素酸水溶液または王水で洗浄して乾燥させた後、使用されることが好ましい。また、るつぼは、内壁表面がグラッシーカーボン製またはグラファイト製のとき、真空中にて約1000℃で数時間加熱後、使用されることが好ましい。これらの場合、るつぼに付着した不純物成分を除去して、汚染を防ぐことができる。
【0016】
本発明に係るゲルマニウム単結晶の製造方法で、前記ゲルマニウム融液は、ゲルマニウム原料の表面の酸化ゲルマニウム(GeO2)を剥離するよう、前記ゲルマニウム原料をフッ化水素酸と硝酸とを含む混合液中で洗浄、エッチングした後、水洗、乾燥させ、溶解して製造されることが好ましい。
【0017】
この場合、硝酸によりゲルマニウム原料の表面を酸化させ、フッ化水素酸でその酸化膜を溶解して、ゲルマニウム原料の表面に自然形成されている酸化ゲルマニウムを除去することができる。また、ゲルマニウム原料の表面に付着している不純物成分も除去することができ、汚染を防ぐことができる。混合液は、フッ化水素酸と硝酸の体積比が1:5であることが好ましい。硝酸の比がこれより小さいと、エッチング直後にゲルマニウム原料の表面に形成される酸化ゲルマニウム膜が厚くなり、ゲルマニウム原料自身が黄色に変色する。また、硝酸の比がこれより大きいとエッチング速度が遅くなる。適度なエッチング速度を得るために、混合液は80℃まで加熱されていることが好ましい。
【0018】
本発明に係るゲルマニウム単結晶の製造方法は、10-3 Torr以下の圧力に減圧した後、高純度アルゴンガスで置換して1気圧とした雰囲気中で、結晶成長させることが好ましい。特に、酸素濃度が0.1 ppm以下のアルゴンガス雰囲気中で結晶成長させることが好ましい。
【0019】
これらの場合、酸素の混入をできる限り抑制することにより、酸化ゲルマニウムが形成されるのを防ぐことができる。10-3 Torrより高い炉内圧力でアルゴンガスを置換した場合、残留酸素や水分とゲルマニウム融液とが反応して酸化ゲルマニウムが形成されるため、低転位密度または無転位での結晶成長が阻害される。また、アルゴンガスの純度が低い場合や炉にリークがある場合も、炉内の酸素とゲルマニウム融液とが反応して酸化ゲルマニウムが形成される。なお、炉内の酸素とゲルマニウム融液とが反応して酸化ゲルマニウムが形成されるのを防ぐため、炉内はアルゴンガス雰囲気ではなく、高真空雰囲気であってもよい。
【0020】
本発明に係るゲルマニウム単結晶の製造方法で、前記酸化ホウ素融液は、前記るつぼの外周部から前記ゲルマニウム融液の表面の20〜80%を覆うことが好ましい。この場合、ゲルマニウム融液が露出したるつぼの中央からゲルマニウム単結晶を引き上げることにより、ゲルマニウム単結晶に酸化ゲルマニウムが全く付着しないようにすることができる。
【0021】
本発明に係るゲルマニウム単結晶の製造方法では、ゲルマニウム原料および酸化ホウ素原料をるつぼの内部に入れた後、溶解させてゲルマニウム融液および酸化ホウ素融液を製造することが好ましい。また、ゲルマニウム原料を溶解した後、酸化ホウ素原料をゲルマニウム融液に添加し、溶解して酸化ホウ素融液としてもよく、酸化ホウ素原料を溶解した後、その酸化ホウ素融液を、ゲルマニウム原料を溶解したゲルマニウム融液に添加してもよい。特に、酸化ホウ素原料は、残留水分量が100 ppm以下であることが好ましい。この場合、酸化ホウ素が、酸化ホウ素原料の残留水分とゲルマニウム融液とで反応して酸化ゲルマニウムを形成するのを抑制することができる。
【0022】
本発明に係るゲルマニウム単結晶の製造方法は、前記ゲルマニウム融液にホウ素(B)、ガリウム(Ga)、またはインジウム(In)のうち少なくとも一つの不純物を添加してもよい。この場合、p型のゲルマニウム単結晶を製造することができる。ホウ素、ガリウムおよびインジウムは、酸化ホウ素に含まれるホウ素と反応しないため、高純度のp型のゲルマニウム単結晶を製造することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、成長結晶表面に酸化ゲルマニウムが付着するのを防ぎ、低転位密度または無転位でゲルマニウムの単結晶を成長させることができるゲルマニウム単結晶の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態のゲルマニウム単結晶の製造方法を示す、石英るつぼを使用した場合の模式断面図である。
【図2】本発明の実施の形態のゲルマニウム単結晶の製造方法の製造工程を示す(a)ゲルマニウム原料および酸化ホウ素原料を石英るつぼの内部に入れた状態の断面図、(b)酸化ホウ素原料が溶解し、酸化ホウ素融液となった状態の断面図、(c)ゲルマニウム原料が溶解し、ゲルマニウム融液となった状態の断面図、(d)(c)の状態の平面図、(e)酸化ホウ素融液がるつぼの内壁に向かって移動した状態の断面図、(f)(e)の状態の平面図である。
【図3】本発明の実施の形態のゲルマニウム単結晶の製造方法を示す、グラッシーカーボンるつぼを使用した場合の模式断面図である。
【図4】本発明の実施の形態のゲルマニウム単結晶の製造方法により、石英るつぼを使用して製造されたゲルマニウム単結晶を示す側面図である。
【図5】(a)、(b)図4に示すゲルマニウム単結晶の断面の顕微鏡写真、(c)、(d)従来の方法で製造されたゲルマニウム単結晶の断面の顕微鏡写真である。
【図6】本発明の実施の形態のゲルマニウム単結晶の製造方法により、グラッシーカーボンるつぼを使用して製造されたゲルマニウム単結晶を示す側面図である。
【図7】(a)、(b)図6に示すゲルマニウム単結晶の断面の顕微鏡写真である。
【図8】従来のゲルマニウム単結晶の製造方法を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面に基づき本発明の実施の形態について説明する。
図1乃至図5は、本発明の実施の形態のゲルマニウム単結晶の製造方法を示している。
図1および図3に示すように、本発明の実施の形態のゲルマニウム単結晶の製造方法は、石英るつぼ10、グラッシーカーボンるつぼ20またはグラファイトるつぼ(図示せず)を使用して、チョクラルスキー法(CZ法)により実施される。
【0026】
図1および図3に示すように、石英るつぼ10、グラッシーカーボンるつぼ20またはグラファイトるつぼは、炉内に設置され、外面がカーボンるつぼサセプタ11で覆われている。カーボンるつぼサセプタ11の外側には、カーボンるつぼサセプタ11と所定の間隔をあけてカーボンヒータ12が設けられ、石英るつぼ10またはグラッシーカーボンるつぼ20、およびるつぼの内部を加熱可能になっている。また、炉は、内壁がカーボン製の保温材13で覆われている。
【0027】
石英るつぼ10を使用する場合、図2(a)に示すように、本発明の実施の形態のゲルマニウム単結晶の製造方法は、まず、ゲルマニウム原料1および酸化ホウ素原料2を石英るつぼ10の内部に入れる。このとき、石英るつぼ10は、内面が石英ガラス製で、フッ化水素酸水溶液または王水で洗浄して乾燥させたものである。また、ゲルマニウム原料1は、フッ化水素酸と硝酸とを1:5の体積比で含む80℃の混合液中で洗浄、エッチングした後、水洗、乾燥して、表面の酸化ゲルマニウムを剥離したものである。酸化ホウ素原料2は、残留水分量が100 ppm以下の、市販の工業用高純度品である。
【0028】
次に、炉内の酸素濃度が0.1 ppm以下になるよう、炉内を、10-3 Torr以下の圧力に減圧した後、高純度アルゴンガスで置換して1気圧にする。カーボンヒータ12で、石英るつぼ10およびその内部を加熱する。図2(b)に示すように、480℃まで加熱すると、酸化ホウ素原料2が溶解し、酸化ホウ素融液2aとなる。さらに、図2(c)に示すように、938℃まで加熱すると、ゲルマニウム原料1が溶解し、ゲルマニウム融液1aとなる。
【0029】
このとき、図2(c)および(d)に示すように、酸化ホウ素融液2aの密度はゲルマニウム融液1aの密度よりも小さいため、酸化ホウ素融液2aがゲルマニウム融液1aに浮き、ゲルマニウム融液1aの表面を覆う。これにより、ゲルマニウム融液1aの表面に浮いた酸化ゲルマニウムを酸化ホウ素融液2aで捕捉することができる。また、酸化ホウ素融液2aの方がゲルマニウム融液1aより石英ガラスに対するぬれ性が強く、石英ガラスに対するゲルマニウム融液1aのぬれ性が悪いため、図2(e)および(f)に示すように、ゲルマニウム融液1aを覆う酸化ホウ素融液2aが、石英るつぼ10の内壁に向かって移動し、石英るつぼ10の内壁近傍に厚い層を形成する。これにより、酸化ホウ素融液2aに捕捉された酸化ゲルマニウムも、酸化ホウ素融液2aとともに、石英るつぼ10の内壁に向かって移動する。こうして、酸化ゲルマニウムが浮いていないゲルマニウム融液1aを、石英るつぼ10の中央に形成することができる。
【0030】
ネッキング法を適用して種子と成長結晶との界面に発生する転位を消滅させるよう、石英るつぼ10の中央で、ゲルマニウム融液1aにゲルマニウム種結晶3で種子づけを行う。種子づけの後、種結晶3を引き上げることにより、ゲルマニウム単結晶4を引き上げて結晶成長させる。このとき、ゲルマニウム融液1aの表面に酸化ゲルマニウムが浮いていないため、成長結晶表面に酸化ゲルマニウムが付着するのを防ぐことができる。こうして、本発明の実施の形態のゲルマニウム単結晶の製造方法は、低転位密度または無転位でゲルマニウム単結晶4を成長させることができる。
【0031】
本発明の実施の形態のゲルマニウム単結晶の製造方法では、ゲルマニウム原料1をフッ化水素酸と硝酸と含む混合液中で洗浄、エッチングすることにより、硝酸によりゲルマニウム原料1の表面を酸化させ、フッ化水素酸でその酸化膜を溶解することができる。これにより、ゲルマニウム原料1の表面に自然形成されている酸化ゲルマニウムを除去することができる。また、ゲルマニウム原料1の表面に付着している不純物成分も除去することができ、汚染を防ぐことができる。混合液の、フッ化水素酸と硝酸の体積比が1:5であることにより、エッチング直後にゲルマニウム原料1の表面に形成される酸化ゲルマニウム膜を最も薄くできるとともに、エッチング速度を速くすることができる。また、混合液が80℃に加熱されているため、適度なエッチング速度を得ることができる。
【0032】
酸化ホウ素原料2の残留水分量が100 ppm以下と少ないため、酸化ホウ素が酸化ホウ素原料2の残留水分とゲルマニウム融液1aとで反応して酸化ゲルマニウムを形成するのを抑制することができる。使用前に、石英るつぼ10を、フッ化水素酸水溶液または王水で洗浄することにより、石英るつぼ10に付着した不純物成分を除去して、汚染を防ぐことができる。また、石英るつぼ10は酸化ホウ素と反応しにくいため、高純度で安定してゲルマニウム単結晶4を製造することができる。
【0033】
炉内を、10-3 Torr以下の圧力に減圧した後、高純度アルゴンガスで置換して1気圧にすることにより、酸素の混入をできる限り抑制し、酸化ゲルマニウムが形成されるのを防ぐことができる。なお、炉内の酸素とゲルマニウム融液1aとが反応して酸化ゲルマニウムが形成されるのを防ぐため、炉内はアルゴンガス雰囲気ではなく、10-5 Torr以下の高真空雰囲気であってもよい。
【0034】
本発明の実施の形態のゲルマニウム単結晶の製造方法では、例えば、石英るつぼ10の外周部からゲルマニウム融液1aの表面の20〜80%、より好ましくは40〜80%を覆い、石英るつぼ10の中央でゲルマニウム融液1aが露出するよう、酸化ホウ素融液2aの添加量を調節することにより、ゲルマニウム単結晶4に酸化ゲルマニウムが全く付着しないようにすることができる。
【0035】
なお、本発明の実施の形態のゲルマニウム単結晶の製造方法では、ゲルマニウム原料1を溶解した後、酸化ホウ素原料2をゲルマニウム融液1aの表面に添加し、酸化ホウ素原料2を溶解して酸化ホウ素融液2aとしてもよい。この場合、ゲルマニウム融液1aの中心付近に酸化ホウ素原料2を添加することにより、酸化ゲルマニウムを確実に捕捉して、石英るつぼ10の内壁近傍まで移動させることができる。また、酸化ホウ素原料2を溶解した後、その酸化ホウ素融液2aを、ゲルマニウム原料1を溶解したゲルマニウム融液1aの表面に添加してもよい。
【0036】
本発明の実施の形態のゲルマニウム単結晶の製造方法は、ゲルマニウム融液1aにホウ素(B)、ガリウム(Ga)、またはインジウム(In)のうち少なくとも一つの不純物を添加してもよい。この場合、p型のゲルマニウム単結晶4を製造することができる。ホウ素、ガリウムおよびインジウムは、酸化ホウ素に含まれるホウ素と反応しないため、高純度のp型のゲルマニウム単結晶4を製造することができる。
【0037】
なお、図3に示すように、グラッシーカーボンるつぼ20を使用する場合も、石英るつぼ10を使用する場合と同様に、低転位密度または無転位でゲルマニウム単結晶4を成長させることができる。また、この場合、ゲルマニウム融液1aだけでなく、酸化ホウ素融液2aもグラッシーカーボンに対するぬれ性が悪いため、結晶成長後のグラッシーカーボンるつぼ20から、るつぼを破損させることなく、ゲルマニウム融液1aや酸化ホウ素融液2aの残留物を容易に除去することができる。このため、グラッシーカーボンるつぼ20の再利用が可能であり、製造コストの低減を図ることもできる。
【0038】
また、図示していないが、グラファイトるつぼを使用する場合も、石英るつぼ10やグラッシーカーボンるつぼ20を使用する場合と同様に、低転位密度または無転位でゲルマニウム単結晶4を成長させることができる。グラファイトに対する酸化ホウ素融液2aのぬれ性は比較的強く、結晶成長後の酸化ホウ素融液2aの残留物を完全に除去することはできないが、その残留物を再利用するのであれば、グラファイトるつぼを再利用することができる。なお、グラッシーカーボンるつぼ20またはグラファイトるつぼを使用する場合、使用前に、るつぼを真空中にて約1000℃で数時間加熱することにより、るつぼに付着した不純物成分を除去して、汚染を防ぐことができる。
【0039】
石英ガラス製、グラッシーカーボン製およびグラファイト製のるつぼを使用した場合の、ぬれ性と再利用の可否とをまとめ、表1に示す。なお、石英るつぼ10を使用する場合、結晶成長後の石英るつぼ10から、酸化ホウ素融液2aを完全に除去することはできない。このため、冷却過程で、石英るつぼ10が酸化ホウ素融液2aの残留物との熱膨張係数の差異によって割れてしまい、石英るつぼ10を再利用することはできない。
【0040】
【表1】

【実施例1】
【0041】
本発明の実施の形態のゲルマニウム単結晶の製造方法により、図1に示す石英るつぼ10を使用して、長さが約6cm、径が2〜3cm程度のゲルマニウム単結晶4を製造した。製造したゲルマニウム単結晶4の側面図を図4に、図4に示すゲルマニウム単結晶4の断面の顕微鏡写真を図5(a)および(b)に示す。また、比較のため、酸化ホウ素を使用しない、図8に示す従来の方法で製造したゲルマニウム単結晶の断面の顕微鏡写真を図5(c)および(d)に示す。なお、図5(a)〜(d)中のエッチピット(図中の黒い点)が転位である。
【0042】
図5(a)および(b)に示すゲルマニウム単結晶4の転位は、図5(c)および(d)に示すゲルマニウム単結晶の転位よりも少ないことが確認できる。具体的には、図5(a)および(b)に示すゲルマニウム単結晶4の転位密度は、0.2〜1.2×10/cmであり、図5(c)および(d)に示すゲルマニウム単結晶の転位密度は、17〜19×10/cmである。このように、本発明の実施の形態のゲルマニウム単結晶の製造方法により製造されたゲルマニウム単結晶4は、従来の方法で製造されたゲルマニウム単結晶よりも、転位密度が低いことが確認された。図5に示す具体例では、ゲルマニウム単結晶の転位密度を10分の1以下にまで低減することができた。
【0043】
また、図4に示すゲルマニウム単結晶4の表面に対して、二次イオン質量分析(SIMS)を行った結果、ホウ素(B)および酸素(O)は、SIMSの検出下限(2×1015/cm)以下であった。このように、本発明に係るゲルマニウム単結晶の製造方法により製造されたゲルマニウム単結晶4には、酸化ホウ素からのホウ素(B)や酸素(O)の混入はほとんど認められないことが確認された。このため、ゲルマニウム融液1aの表面を酸化ホウ素融液2aで覆っても、製造されるゲルマニウム単結晶4の品質や電気特性にはほとんど影響がなく、高品質のゲルマニウム単結晶4を製造することができる。
【実施例2】
【0044】
本発明の実施の形態のゲルマニウム単結晶の製造方法により、図3に示すグラッシーカーボンるつぼ20を使用して、長さが約8cm、径が2〜3cm程度のp型のゲルマニウム単結晶4を製造した。製造したゲルマニウム単結晶4の側面図を図6に、図6に示すゲルマニウム単結晶4の断面の顕微鏡写真を図7(a)および(b)に示す。なお、図6に示すゲルマニウム単結晶4のキャリア濃度は、2×1014/cmである。また、図7(a)および(b)中のエッチピット(図中の黒い点)が転位である。
【0045】
図7(a)および(b)に示すゲルマニウム単結晶4の転位は、1×10/cm以下であり、図5(c)および(d)に示すゲルマニウム単結晶の転位よりも少ないことが確認できる。このように、本発明の実施の形態のゲルマニウム単結晶の製造方法により製造されたゲルマニウム単結晶4は、従来の方法で製造されたゲルマニウム単結晶よりも、転位密度が低いことが確認された。図7に示す具体例では、ゲルマニウム単結晶の転位密度を100分の1以下にまで低減することができた。
【0046】
また、図6に示すゲルマニウム単結晶4の表面に対して、酸素(O)の測定を行った結果、酸素(O)は検出下限(1×1015/cm)以下であった。このように、本発明に係るゲルマニウム単結晶の製造方法により製造されたゲルマニウム単結晶4には、酸化ホウ素からの酸素(O)の混入はほとんど認められないことが確認された。このため、ゲルマニウム融液1aの表面を酸化ホウ素融液2aで覆っても、製造されるゲルマニウム単結晶4の品質や電気特性にはほとんど影響がなく、高品質のゲルマニウム単結晶4を製造することができる。
【0047】
本発明に係るゲルマニウム単結晶の製造方法によれば、低転位密度または無転位のゲルマニウム単結晶を製造することができ、ガリウムヒ素を表層とする高効率太陽電池(主に宇宙用)の下地基板、次世代高速MOSFETデバイスの下地基板、赤外線窓材料としての利用が期待できる。また、そのゲルマニウム単結晶を利用した太陽電池、次世代高速MOSFETデバイス、赤外線窓材料の高品質化も期待できる。
【符号の説明】
【0048】
1 ゲルマニウム原料
1a ゲルマニウム融液
2 酸化ホウ素原料
2a 酸化ホウ素融液
3 種結晶
4 ゲルマニウム単結晶
10 石英るつぼ
11 カーボンるつぼサセプタ
12 カーボンヒータ
13 保温材
20 グラッシーカーボンるつぼ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョクラルスキー法(CZ法)によるゲルマニウム(Ge)単結晶の製造方法であって、内壁表面がグラッシーカーボン製、グラファイト製または石英ガラス製のるつぼの内部で、ゲルマニウム融液の表面の一部または全体を酸化ホウ素(B2O3)融液で覆った後、ゲルマニウム単結晶を引き上げて結晶成長させることを、特徴とするゲルマニウム単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記るつぼは、内壁表面が石英ガラス製のとき、フッ化水素酸水溶液または王水で洗浄して乾燥させた後、使用されることを、特徴とする請求項1記載のゲルマニウム単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記ゲルマニウム融液は、ゲルマニウム原料の表面の酸化ゲルマニウム(GeO2)を剥離するよう、前記ゲルマニウム原料をフッ化水素酸と硝酸とを含む混合液中で洗浄、エッチングした後、水洗、乾燥させ、溶解して製造されることを、特徴とする請求項1または2記載のゲルマニウム単結晶の製造方法。
【請求項4】
10-3 Torr以下の圧力に減圧した後、高純度アルゴンガスで置換して1気圧とした雰囲気中で、結晶成長させることを、特徴とする請求項1、2または3記載のゲルマニウム単結晶の製造方法。
【請求項5】
酸素濃度が0.1 ppm以下のアルゴンガス雰囲気中で結晶成長させることを、特徴とする請求項1、2、3または4記載のゲルマニウム単結晶の製造方法。
【請求項6】
前記酸化ホウ素融液は、前記るつぼの外周部から前記ゲルマニウム融液の表面の20〜80%を覆うことを、特徴とする請求項1、2、3、4または5記載のゲルマニウム単結晶の製造方法。
【請求項7】
前記酸化ホウ素原料は、残留水分量が100 ppm以下であることを、特徴とする請求項6記載のゲルマニウム単結晶の製造方法。
【請求項8】
前記ゲルマニウム融液にホウ素(B)、ガリウム(Ga)、またはインジウム(In)のうち少なくとも一つの不純物を添加することを、特徴とする請求項1、2、3、4、5、6または7記載のゲルマニウム単結晶の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−275181(P2010−275181A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99317(P2010−99317)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】